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疾患概念と病態
期外収縮は早期収縮(premature contraction)とも呼ばれるように,予期されるタイミングより早めに生じた心収縮の総称であり,その生じる部位によって心室性(VPC),上室性(SVPC)に2分される.両者ともその発生機序はリエントリー,自動能亢進(正常・異常),後脱分極(早期・後期)のいずれかであるが,昔から臨床不整脈上,発生頻度の最高位を占めてきた(VPCとSVPCのいずれが多いかは報告によってまちまちである).さらに最近はホルター心電図の普及につれ観測時間が増すとともに,期外収縮を生じやすい高齢者の人口が相対的に増えていることもあって,その発生率は100%近いとされている.したがって,その治療をどうするかは臨床上大問題である.
上室頻拍は心房または房室接合部が起源か臨界旋回路に入る頻拍であり,洞性頻拍のほかに異所性心房頻拍,WPW症候群にみられる房室回帰性頻拍,房室結節リエントリー性頻拍,心房内リエントリー性頻拍,洞結節リエントリー性頻拍,心房細動・粗動,非発作性房室接合部頻拍が含まれる.その発生機序は頻拍によって異なり,自動能亢進,リエントリー,triggered activity(誘発活動)が考えられている.いずれもHis束分岐部より上部から心室へ電気的興奮が伝播するために,基本的にQRS波は洞性心拍と同一となる.ただ,心拍数が多いために,His-Purkinje系へ興奮が伝導するときに脚枝以下の伝導系の一部が相対的不応期に入り,心室内変行伝導を生じてQRS波が幅広く変化することはある.血圧はある程度保たれるが,症例によっては心拍数が200/分以上になると血圧が著しく低下して虚脱状態になることがある.
治療目的は正常の血行動態を維持するために,可及的に洞調律へ戻すことである.
心室頻拍(VT),特に持続性VTは血行動態の増悪をもたらし,Adams-Stokes発作や心不全を惹起し,突然死をきたしうる重症不整脈である.米国では心臓突然死の80〜90%がVT/心室細動(VF)によると考えられており,その治療は今日的な重要課題となっている.VTに対する薬物療法1)のみならず,非薬物療法(カテーテルアブレーション2),手術療法および植込み型除細動器3))は著しい進歩をとげている.
本稿では,持続性VTに対する治療戦略について概説を加える.
心房細動は心房の興奮が高頻度かつ不規則になった状態で,心房の補助ポンプとしての有効な収縮が消失している.心房粗動は心房の興奮が300/分前後の規則的なもので,心房の補助ポンプの機能は低下している.その結果,心房粗動・細動では臨床上4つの事柄が問題となる(表1).したがって,治療の戦略は表1に掲げられた事項を目標に立てることになる.
洞機能不全症候群(sick sinus syndrome:SSS)は,永久ペースメーカー植込みの最も頻度の高い対象である.
心房興奮が心室に伝わる際に遅延を生じたり,伝導しないことを房室ブロックという.ブロック部位は心房と心室の間のすべて,つまり心房内,房室結節内,His束内,His-Purkinje系などであるが,下位になるほど重症で,治療が必要となる.
原因となる基礎疾患は,虚血性心疾患,心筋症,心筋炎,先天性心疾患,心臓術後などの器質的なもの,迷走神経緊張,薬剤による機能的なものなどがある.
狭心症とは,心筋の一過性虚血により特有の胸部症状(狭心痛)を呈する疾患である.狭心症の発生要因としては,冠動脈硬化による器質的狭窄と,冠攣縮による機能的狭窄が挙げられる.
一般的に,労作狭心症は冠動脈の器質的狭窄を背景に発生し,安静狭心症は冠攣縮を背景に発生する.また,安定狭心症は発作の頻度・強度・持続時間・発生状況などが一定しているのに対し,不安定狭心症は発作様式が一定でなく,急性心筋梗塞への移行も多いため,治療面や予後の面からも分けて考える必要がある.本稿では,安定狭心症の治療戦略に関して述べる.
不安定狭心症(UAP)は,①1~2ヵ月以内の新規発症で軽労作で誘発される,②安定狭心症の増悪(頻度の増加,より軽労作で誘発される),③安静時にも発作がある(血管攣縮性狭心症は除く),という3条件の一つ以上有するもので,急性心筋梗塞(AMI)に移行する可能性が高く,適切な治療が望まれる.
UAPに含まれる範囲は広く,病態は複雑であるが,基本的には既存のアテロームに何らかの傷害が生じ,①血小板凝集による血小板血栓の形成,②フィブリン血栓の形成,③冠動脈スパスム,などが種々の程度に関与して発症するものと考えられる.
急性心筋梗塞症(AMDは,冠状動脈の閉塞により生じるacute coronary syndromeの一つである.冠状動脈内の粥腫が破綻すると,血栓が形成され,成長し冠状動脈の閉塞に至る.この血栓に線溶が起こり短時間(20〜30分以内)に血流が再開した場合は,心筋の壊死が起こらない.この状態が不安定狭心症である.再開通に時間がかかると,心内膜側の壊死が起こり心内膜下梗塞となる.さらに再開通に時間がかかった場合や,再開通が得られなかった場合,貫壁性梗塞となる.これらの病態および冠動脈の閉塞による突然死がacutecoronary syndromeである(図1).
AMIは死亡率の高い疾患であり,その死亡の大半は発症1時間以内に起こるとされる.したがって,初期治療が最も重要である.
うっ血性心不全または慢性うっ血性心不全という言葉が使われるが,うっ血と心不全は必ずしも同時に成立するわけではない,つまり,心不全自体が独立した単一の疾患でなく,様々な原因疾患による一つの症候群としてとらえられており,あえて定義してみれば,心臓の機能不全による心拍出量の低下ということになる.
一方,うっ血状態とは,左室収縮機能の低下をFrank-Starling機序によって代償した結果,肺静脈圧が上昇する場合もあるし,左室拡張障害により左室拡張期圧が上昇した結果,左房圧,肺静脈圧が上昇する場合,あるいは僧帽弁狭窄症のように,左室機能には何ら異常がないにもかかわらず出現する場合もある.したがって,うっ血性心不全を起こす病態は単一ではないが,一般的には左室収縮機能障害に伴い,その代償機序の結果として肺うっ血が生じた状態ととらえられており,この状態が内科的な薬物療法の対象となる.
感染性心内膜炎(infective endocarditis:IEと略)の発症病理には基礎疾患,起炎菌,誘因などが大きく関与し,臨床像は時代とともに変貌しつつあるともいわれている.しかしながら,自己弁では緑色連鎖球菌が多く,人工弁患者ではブドウ球菌やグラム陰性桿菌が多くみられる.また,覚醒剤中毒患者では,静脈主射による黄色ブドウ球菌の多いのが特徴である.さらに,菌血症をきたす侵襲的処置もしくは検査部位に応じて,大腸菌やグラム陰性桿菌が多いのが通例である,起炎菌の培養されないものは菌培養陰性心内膜炎(culturenegative endocarditis:CNEと略)と呼ばれている.HACEK心内膜炎*のように培養技術の改良により判明した起炎菌もあるが,CNEの大部分は血液培養施行前になされた抗生剤の投与によるものが多いといわれている.
また,本症は何らかの基礎心疾患を有する例に発症することが多いが,基礎疾患の認められない例も増えつつあり,50%近くに及ぶとの報告もある.IEを起こしやすい先天性心疾患としては短絡疾患がよく知られているが,大動脈二尖弁,大動脈弁下狭窄症,肺動脈弁狭窄症などの狭窄病変も基礎疾患として重要である.そして,さらに重要なことは,これら各々の基礎疾患と心内膜炎病変ならびに発症部位との間には密接な関係がみられることである.
弁膜症の疾患体系は近年変化し,従来,大多数を占めたリウマチ性弁膜症は著しく減少し,代わって非リウマチ性のものが増加してきた.その中でも僧帽弁逸脱症は現在の成人の弁膜症で最も頻度の高いもので,全成人のおおむね4%であるといわれる.
病理学的には弁尖部への粘液様変化が主体をなし,弁肥厚,膨隆,腱索の延長,細痩化がみられる.このような組織変化に基づき,弁接合面の狭小化や,さらには腱索断裂による僧帽弁逆流,脆弱組織に対する病原体侵入による感染性心内膜炎などを合併する.
僧帽弁狭窄症
僧帽弁狭窄症は大部分がリウマチ熱の後遺症による.すなわち,リウマチ性心内膜炎による弁,腱索の肥厚・変形・癒着のため,弁口の狭小化ひいては左室流入障害をきたす.僧帽弁口は正常では4〜6cm2で,2cm2以上は血行動態上,問題はない.1.5cm2以下で症状が出現し,1.0cm2以下は重症とされる.発症様式は労作時動悸,息切れ,易疲労感などの心不全症状で初発し,それらが徐々に増悪する場合と,心房細動,塞栓症を契機に発症する場合とがある.
1.病因
肥大型心筋症の約半数には家族性がみられ常染色体優性遺伝様式を示すが,その約20%は心筋βミオシン重鎖遺伝子の点変異が存在することが明らかにされ,その後裂トロポミオシン,トロポニンT遺伝子異常が発見されている1).肥大型心筋症はこのような収縮蛋白に異常を有するサルコメア病であることが推測されているが,残りの過半数の原因遺伝子はいまだ不明である.心尖部肥大型心筋症に代表される明らかな家族性のみられない孤発例では,中年以降の発症が多く,異常肥大の発現には高血圧,スポーツ,肉体労働などの後天的因子や環境要因の関与が考えられている.
拡張型心筋症の基本概念は,図1に示したとおり3つの基本病像からなる.収縮力低下や拡張障害に基づく心筋不全と,左室や左房拡大を主徴とする心拡大,その結果生じた心筋重量の増大,すなわち心肥大の3つである.本症がうっ血型心筋症と呼ばれていた頃とは異なり,今日では早期発見が常識化した.したがって,心症状が乏しく,心筋不全を端的に示す壁運動低下(駆出率低下)と収縮末期容量の増加(左室拡大)を主徴とする患者が多くなってきている.その分,拡張型心筋症の診断と治療には心エコー検査が重要である.
本症の成因はいまだ特定されていない.病因としては,遺伝子や代謝異常,心毒素,微小循環不全,活性化酸素,カルシウム過負荷,心筋炎,自己免疫,除神経などが候補としてあげられている.病因が何であるにせよ,①心筋病変の進行度,②慢性心不全の重症度,③致死性不整脈の合併,④血栓塞栓の発症,が生命予後を左右する.患者の治療においては,これらの病態の正確な診断を先行させなければならない.
1.疾患概念
心筋炎は心(室)筋を主な障害部位とする炎症で,本来,顕微鏡所見に基づいた疾患概念であり,少なくとも1899年以来の長い歴史がある.しかし,一般的に心筋炎とは臨床的には心臓の炎症に基づく“徴候”と“症状”を有するものを指す.病理学総論で,炎症は「局所的な防御反応(組織における循環障害,滲出,細胞増殖,浸潤)」と理解される.微生物による感染以外に代謝,免疫学的機序,中毒性物質,結合組織病,肉芽腫性病変,物理的諸因子などが心筋炎を惹起する.炎症の原因が不明なものは特発性に分類され,実際,本邦の剖検例のほとんどは原因不明の非特異的心筋炎と診断されている.その大部分は,ウイルス性心筋炎と想定されている.
急性心膜炎は表1に示す種々の原因によって起こる.したがって,治療方針の決定には原因疾患の特定が必要で,原因疾患への特異的な治療が根本的な治療となる,急性心膜炎の主症状は炎症による胸痛であり,急性期の治療はこの胸痛への対策が主となる.
また,急性心膜炎の約15%に心タンポナーデが合併するとされ,この場合は心タンポナーデへの対策が優先される.図1に急性心膜炎の治療方針をフローチャートとして示した.急性心膜炎は表1に示すような種々の疾患に伴って起こるが,原因疾患が診断できた場合は原因疾患に対する治療を行わなければならない.以下に,個々の場合についての診断に重要な検査,および治療方針を簡潔に述べる.
収縮性心膜炎は,心膜の線維性肥厚や癒着による心腔の拡張障害を主な病態とする疾患である.硬く肥厚・癒着した心膜による,①心室拡張期血流充満の障害とそれに伴う心拍出量の低下と,②右室拡張障害による静脈うっ血,静脈圧上昇とそれに伴う各種臓器障害,が主な病態である.
急性心膜炎を起こすすべての疾患が本症の原因となり得るが,約半数は原因不明であり,急性期は無症状で経過するものも少なくない.原因の明らかな例では結核性が最も多く,特に小児の収縮性心膜炎は結核性の可能性が高いが,いずれも近年は減少傾向にある.
高血圧は脳卒中や心筋梗塞などの心血管合併症のリスクとして病的意義があるが,このリスクは血圧上昇とともに漸増するので,正常血圧と高血圧との間に明確な境界はない.疫学試験などでリスクが増加するポイントで恣意的に両者を分けることになる.現時点では,WHO/ISH(世界保健機構/国際高血圧学会)分類とJNCにV(全米合同委員会第5次報告)分類があるが,いずれも140/90mmHg以上を高血圧と定義している.さらに,高血圧治療においては標的臓器障害の有無と程度も重要であり,これについてもWHO/ISHならびにJNC-Vの分類に定義されているが,誌面の関係で割愛させていただく.文献を参照されたい.
高血圧治療において認識しておくべきことは,対象となる高血圧症患者(本態性)は異なった特徴を有するheterogenousな集団であり,患者の特徴に合わせて非薬物療法や降圧薬療法を使い分けることが重要であるということである.なお,本稿では本態性高血圧症のみについて述べる.二次性高血圧症については他を参照されたい.
低血圧症は高血圧症と異なりWHOなどによる一定の診断基準は存在しない.
一般的には収縮期血圧100〜110mmHg,拡張期血圧60〜70mmHg以下を低血圧症とすることが多い.しかし,拡張期血圧のみの低下は意味をもたないとされている.
心臓神経症とは,動悸・息切れ・胸痛・胸部不快感などの循環器症状を主とする神経症と定義される.臨床の場では明らかな器質的心臓・脈管疾患を認めないが,心臓・脈管症状を主訴とし,心理的要素の関与しているものと考えられている.しかし,器質的障害は存在するが,症状は当該疾患に伴うものでないと判断される場合も心臓神経症と診断しうる.心理的には不安症状を主とするものが大部分であるが,恐怖・強迫・心気・ヒステリー症状を主とするものもある.歴史的にはirritable heart,effort syndrome,Da Costa syndrome,神経循環無力症など種々の呼称があるが,心臓神経症とほぼ同様な病態を持つ概念と考えられる.精神医学では不安神経症で包括できる病態であるとされている.臨床的推移から分類すると,急性型(パニック障害)と慢性型(全般性不安障害や身体化障害など)に分けられる.
心臓神経症の病態については,中枢のメカニズムでは,脳幹にある青斑核の興奮によって不安が惹起され,動悸などの急性発作としての不安症状が生じるとする考え方が有力である.一方,末梢では,β遮断薬が奏効することなどから,β受容体の過敏性を介して動悸などの交感神経刺激症状が出現するとする考え方があり,現在では両者が影響し合って発症すると考えられている.
解離性大動脈瘤は,大動脈内膜の破綻により壁内に侵入した血液が大動脈中膜を剥離して壁内に血腫を作った状態をいう.本症は必ずしも瘤状拡大を伴わないので,単に大動脈解離ともいう.
本症の分類としてDeBakey分類(I〜III型)とStanford大分類(A,B型)があるが,最近は後者の分類が多く使われる.
大動脈炎症候群は,大動脈およびその主要分枝,肺動脈に起こる原因不明の非特異的動脈炎である.1908年,眼科医の高安による報告以来,脈なし病とも呼ばれたが,近年,上田らにより大動脈炎症候群という単一病名により総括されることとなった.しかし,現在でも国際的にはTakayasu'sarteritisが最も一般的な病名として用いられている.
本症は慢性疾患であり,動脈病変が長期かつ広範囲に起こるため,多種多様の臓器障害が発症し,個々の臨床症候は極めて多彩である(表1).本症の病態は,①全身症状を主体とするprepulselessphase,②動脈炎による血管病変を主体とするpulselessあるいはvessel inflammatory phase,③主要動脈の非活動型狭窄閉塞病変および高血圧を呈するchronic occlusive phase,に分けられるが1),治療戦略上は①②を急性期,③を慢性安定期と分類している.
大・中動脈における粥腫と血栓形成における動脈内腔の狭窄ないし閉塞により,末梢組織の阻血症状を呈する疾患で,腹部大動脈以下の比較的大型の血管に好発する.大動脈末端部から腸骨動脈,浅大腿動脈から近位膝窩動脈に多い.中高年の男性に多い.糖尿病合併例では,下腿動脈に多発性病変を合併する頻度が高いとされる.血管外科適応例が多い.患肢の局所的虚血は存在するが,大部分の症例で長期にわたって安定した血行動態を維持する.しかし,約10%は急性血栓症を起こし,急性増悪する.
1.病態
1986年にパリのMaurice Raynaudが発作性の皮膚の血行障害を報告して以来130年以上経過したが,この病態に関していまだ本質的な病態の解明はなされていない.
一般にレイノー現象(Raynaud's phenomenon)は,寒冷などの刺激で皮膚細動脈の発作性収縮により四肢,特に手指の蒼白化を生ずる現象である.さらに,乳頭化細小静脈相のうっ血でチアノーゼをきたし,さらに乳頭化細小動脈相の拡張により潮紅を呈する.このような寒冷時の皮膚の血管の収縮は本来生理的反応であるが,これが過度に現れ,日常生活に支障をきたした場合は病的と考えられる.この現象は各種の全身疾患の部分症状としてみられることが多く,特に全身性エリテマトーデス(SLE)や全身性強皮症(PSS),混合型結合織病(MCTD)の初発症状として重要である.表1に記載したような全身疾患に併発するものはレイノー症候群(Raynaud's syndrome)と定義され,基礎疾患のないレイノー病(Raynaud's disease)とは区別される.
血栓性静脈炎は,臨床上,静脈壁を場とする炎症と,それに併発する静脈血栓症のすべてを含む概念であり,表在性血栓性静脈炎と深部静脈血栓症に分類される.前者は主に静脈や隣接組織に炎症変化を伴い,血小板が主体の白色血栓で,静脈壁との癒着が強く,局所的な炎症過程として経過することが多い.後者では,血液凝固性の亢進や血流のうっ滞により,炎症性成分を含まない赤色血栓が形成されることが多く,血栓の遊離により肺塞栓を起こし,また重篤な末梢循環障害をきたす例もある.近年,深部静脈血栓症は増加傾向にあるといわれている,日常診療上でも本症の可能性を念頭において診療する必要がある.
リンパ管炎
組織の炎症がリンパ管に波及し,領域リンパ節に向かう疼痛を伴った線状発赤(赤線)をきたした状態をいう.溶血性連鎖球菌,ブドウ球菌などによる急性リンパ管炎と,結核,梅毒,フィラリアなどによる慢性リンパ管炎がある.通常,外傷部,水虫感染部,動脈虚血または静脈性うっ血による潰瘍部などから細菌の侵入が起こる.
急性リンパ管炎では,悪寒・戦慄を伴う高熱,全身倦怠,食欲不振で発症し,四肢の感染部から中枢部へ長軸方向に走る赤線を認め,疼痛,圧痛を伴う.進行すると,所属リンパ節の腫脹・圧痛を認める.慢性リンパ管炎では硬い索状物を触れるが,圧痛は少なく,皮膚発赤や発熱はみられない.リンパ浮腫への進展が問題となることがある.
逆流性食道炎は,胃液あるいは/および小腸液の逆流により食道炎膜が障害された状態である.病理学的には,組織学的に好中球浸潤や乳頭の延長などを認めるだけのものから,明らかなびらんや潰瘍を形成するものまでみられる.
逆流性食道炎は,いくつかの因子が組み合わさって発症すると考えられている(図1).ほとんどの逆流性食道炎に合併する食道裂孔ヘルニアは逆流防止機構を減弱すると考えられている.胃液の逆流を防いでいる下部食道括約筋(LES)は,通常の嚥下による弛緩とは異なった,一過性の,持続の長い,強い弛緩(一過性LES弛緩,transient LES relaxation)を時々起こす.LES圧からみると逆流は3つのタイプに分けられる.それらは,①一過性LES弛緩に伴う逆流,②腹圧上昇時のLES圧の昇圧不全に伴う逆流,③著明なLES静止圧の低下による逆流(free reflux),であり1),①は健常者にもみられるが,逆流性食道炎では頻度が増加しているとされている.②,③は病的な逆流である.攻撃(胃側)因子の側からみると,胃排出遅延は逆流を起こしやすくするため重要な因子であると考えられている.
アカラシアは,嚥下時の下部食道括約筋(loweresophageal sphincter:LES)の弛緩障害に基づく食物の通過障害を主徴とする疾患である.LESは嚥下運動とともに弛緩して食物の胃内流入を促し,嚥下運動の終了により一定圧で収縮して胃から食道への逆流を防止する.
アカラシア患者ではLES部壁内神経叢のVIP(vasoactive intestinal peptide)含有神経の障害,NO合成酵素の欠損などの原因により,LESの弛緩障害が起こる.上位の神経系,ことに迷走神経系の異常については異論が多く,またその原因の詳細は確立されていない.
急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)は,突発する消化管出血や腹痛などをもって急激に発症する胃病変と一般的に理解されている.この疾患概念は1968年にKatzらが提唱1)し,内視鏡検査によって,①びらん性胃炎,②出血性胃炎,③急性胃潰瘍が確認されるものである.病変が必ずしも粘膜にとどまらないことも多いため,急性胃病変(acute gastric lesion:AGL)と呼ぶこともある.
急性胃粘膜病変の原因の主なものを表1に示す.特に近年,Helicobacter prloriの関与や,内視鏡検査後に生ずるものが注目されている.
急性胃炎は,本来病理組織学的疾患名である.他臓器の急性炎症と同様に,浮腫,充血,出血,滲出液,壊死などの表層性・びらん性変化がみられ,病理組織学的に好中球を主体とした炎症性細胞浸潤を特徴とする,胃粘膜の局所性あるいはびまん性炎症性変化を指している.急性胃粘膜病変(AGML)や慢性胃炎のいわゆる急性増悪などとともに,診断基準,病型分類,重症度ならびにその臨床的意義などについてはいまだ曖昧な点が多く残されている.しかし,この急性胃炎という病名は日常診療の場において,臨床症状,内視鏡所見などより汎用され,しかも治療の対象とされることが少なくない.
本稿では,急性胃炎の病態,診断および薬物療法のあり方について概説し,実際的な処方例についても言及してみたい.
慢性胃炎のうちで,最も重要なものが慢性萎縮性胃炎である.慢性胃炎の概念については種々の論議があり,時には否定され,あるいは再認識されながら今日に至っており,最近話題のHelicobacter Pylori(HP)をはじめとする最新の胃炎研究の成果を組み入れた新しい胃炎分類(シドニー分類)まで,種々の観点から様々な分類が行われている.
慢性萎縮性胃炎は,病理組織学的には胃粘膜上皮の欠損に対する粘膜の特異な再生により,改築現象がびまん性に生じた状態であるといえる.その本態が,固有胃腺の減少・消失という非可逆性の粘膜の萎縮性変化である.この変化は加齢とともに増加する.
消化性潰瘍は疾風怒濤の時代に遭遇している.Helicobacter pyroliの出現により消化性潰瘍学は混乱と期待のなかで,“コペ転”的要素をふまえて一定の方向性を模索しているのが現状である.治療に限ってみると,Helicobacter pyloriの除菌の欧米における積極的なアプローチを,現時点の日本における保険制度でのもとでの治療に投影することには種々の問題がある.Helicobacter pyroliの除菌に関して,日常診療の治療法として扱うには時期尚早であり,日本消化器病学会のガイドラインなどを参照されたい.
本稿では現状におけるconservativeな胃潰瘍の診療面に言及したい.
十二指腸潰瘍は,胃潰瘍や逆流性食道炎とともに酸関連疾患という疾患概念でとらえられることもある.酸関連という言葉からもわかるように,これらの疾患はいずれも胃液酸度との関わりが強い疾患である.事実,強力な酸分泌抑制剤であるH2ブロッカー(H2-RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)により,これらの疾患のいずれに対しても極めて優れた治療効果が得られていることからこの疾患概念は容易に理解できよう.このなかで,十二指腸潰瘍は胃潰瘍や逆流性食道炎患者よりも好発年齢が若く,酸分泌能が高い患者のことが多く,病態から考えると最も酸分泌と関連がある疾患といえる.
治療に関しては1920年のSchwartzの格言,すなわち“no acid, no ulcer”にもあるように,古くから胃液酸度の抑制が治療の原則であった.
1.早期ダンピング症候群
胃切除後の患者に食後30分以内に起こる発汗,動悸,眩暈,顔面紅潮などの全身症状と,腹痛,下痢などの腹部症状である.高張の食餌(特に糖質の多い流動物)が急に小腸内に移動し,拡張や蠕動亢進が起こり,小腸内は高浸透圧となり,血流分布の異常や高血糖をきたす.セロトニン,ヒスタミンなどの血管作動物質の遊離や,VIP(vasoactive intestinal peptide)などの消化管ホルモンの作用の関与が指摘されており,神経質な人に多い傾向がみられる.ビルロートⅠ法よりⅡ法に多く,胃全摘でさらに頻度が高いとされるが,実際に薬物療法を要するほどのダンピング症候群はむしろ少ないと考えられる.症状による診断の指標としては,日本消化器外科学会の診断基準がある1).
治療を必要とするポリープとはどのようなものか,また,胃ポリープの治療法の中で,外科手術と比較して侵襲の少ない内視鏡的治療の選択法とまた内視鏡治療で起こり得る偶発症とその防止対策について述べる.
吸収不良症候群とは,吸収不良のみならず消化不良も含めた概念であり,消化・吸収の過程(消化管腔内での消化,消化管粘膜での吸収,門脈/リンパ系での輸送)の何らかの障害により,摂取された食物中の栄養素が十分に利用されない状態を総称する.栄養素の吸収部位は,蛋白質・脂肪・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)は小腸全域であるが,糖・鉄,ビタミン類の多くは主として上部小腸であり,胆汁酸・ビタミンB12は回腸下部である.外科的切除や広範な粘膜障害などでは,障害部位の違いにより特定の栄養素が欠乏することになる.栄養素の点からは,脂肪・蛋白質.糖質・胆汁酸・葉酸・ビタミンB12・脂溶性ビタミン・鉄・亜鉛・Ca・Mgの吸収不良があるが,臨床的に頻度の多いものは脂肪吸収障害,乳糖不耐症,胃切除後の鉄・ビタミンB12吸収障害である.
中性脂肪の吸収には,膵液・胆汁が正常に分泌され,腸管内でのリパーゼによる中性脂肪の脂肪酸とβ-monoglycerideへの分解,および胆汁酸によるミセル形成,さらにリンパ系が正常なことが必要である.
潰瘍性大腸炎は腹痛,発熱,粘血便を主症状とする原因不明の特発性炎症性腸疾患であり,大腸粘膜が直腸よりびまん性,連続性に侵され,その病態に免疫学的機序の関与が考えられている.患者血清中に高率に自己抗体が出現すること,全身的な合併症が高率に合併することより,炎症は大腸を病変の主座とするが,その背景にはTリンパ球細胞成熟過程障害に基づく全身性の自己免疫異常が存在すると考えられている1).
Crohnらが,腸結核が猖獗を極めていた時代の1932年に報告して以来,クローン病が若年者の新たなる慢性疾患として注目されるようになった.本邦では1976年以降,患者数は年15%という驚異的増加率を示し,1994年度末には11,337人にも達している.クローン病は難治性疾患であるが,その生命予後が比較的良いことや,患者数の驚異的増加率に鑑みて,長期間にわたる医学的管理の体制確立は急務である.
さらには,その疾患の特性から,本疾患は常に内科系,外科系の双方の関わりと全人的アプローチが必要とされ,臨床家にとって各人の臨床能力を試される疾患ともいえる.
antibiotics-associated enterocolitis(抗生物質起因性腸炎)とは抗生物質投与中または投与後に発症する下痢症状を主とする腸炎で,菌交代現象に伴うClostridum difficileの異常増殖とその毒素(enterotoxin)による偽膜性腸炎(pseudomembranous enterocolitis)と,発症機序が解明されていない急性出血性大腸炎(acute hemorrhagiccolitis)とに分かれる.
1963年,Boleyらは腹痛,顕下血により発症し,注腸造影上栂指圧痕(thumb printing)像を呈し,その後痕跡を残さずに自然治癒した症例において,主幹動脈には明らかな閉塞が認められないこと,さらに大腸の血流遮断実験においても同様の像が再現されることから,これらの大腸病変は大腸の可逆性閉塞に基づくとする考えから“reversible vascular occulusion of the colon”というdisease entityを打ち出した1).
1966年,Marstonらはischemic colitis(IC)なる病名を提唱し,重症度に準じて,①一過性型(transient type),②狭窄症(stricture type),③壊死型(gangrenous type),に分類した2).その後,1977年,臨床経過を加味して,③を除いた可逆性である①および②をICとして報告した3).
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は消化管の機能性疾患としてとらえられる.腹痛と便通異常の患者に,原因となる器質的疾患がない場合に用いられる疾患である.その様々な診断基準は,病歴を重視し臨床的になされている.IBSの病態生理は,自律神経失調による副交感神経緊張状態および腸管局所の壁在神経叢の過剰反応が合わさった全消化管の運動・分泌機能亢進状態と理解されている.病型は便通状態により,下痢型,便秘型,交替型に分類される.
大腸憩室症は高齢者になるほど増加するため,今後大きな臨床的問題となる疾患である.周知のごとく,その発生はほとんどが大腸内圧の増加による仮性憩室であり,憩室症自体では治療の対象とならないが,その合併症が問題となる.本邦では右側結腸に頻度が多いが,近年,左側結腸憩室の増加によりその差は縮小してきている.合併症は左右憩室で頻度に差があるとされているが,穿孔,炎症,出血であり,素早い診断と治療方針の決定が必要である.穿孔,炎症の症状である腹痛と出血に分けて戦略をたてる.
大腸の隆起性病変(ポリープ)のうち,臨床的に最も高頻度に遭遇する腫瘍性ポリープについて,その取り扱いを中心に述べる.大腸腫瘍には最近,平坦・陥凹型の病変も発見されるようになったが,悪性化の頻度や発育速度などの生物学的態度についてまだ不明な点が多く,一律に取り扱うことはできないので,本稿では論じない,また,遺伝性疾患である大腸腺腫症やHNPCC(hereditarynonpolyposis colorectal cancer)には特別な対応が必要であり,これも本稿では扱わないことをあらかじめお断りしておく.
腫瘍性ポリープの所見記載には,部位,大きさ,肉眼型などが必要である.肉眼型は早期胃癌の内視鏡分類を準用しており,頻度の多い隆起型を有茎性(Ip),亜有茎性(Isp),無茎性(Is)の3型に細分し,さらに偏平な表面隆起型(IIa)に分類される.腫瘍性ポリープが癌または腺腫内癌である比率(癌並存率,“癌化率”)は病変の大きさにより異なる.大きさ5mm以下では約1%であるが,6〜10mmで10%前後,10mm台で30%前後,20mm以上では50%程度である.
様々な原因による消化管の閉塞に基づく病態で,「消化管閉塞症」ともいわれる.消化管の閉塞による腸管内容(食餌,ガス,消化液,糞便など)の停滞・逆流による症状のほかに,腸管内細菌の腹腔への透壁性逸脱による腹膜炎,腸管などの絞扼性壊死,脱水,電解質異常など,多彩かつ重篤な症状を呈し,迅速で正確な治療が要求される疾患である.閉塞部位により,小腸イレウス,大腸イレウスと呼ばれることもある.
消化管の機械的な閉塞(機械的イレウス)によることが多く,その原因としては,既往開腹術に起因する腸管の不整癒着がほとんどで,ほかに消化管,特に大腸の悪性腫瘍,内・外ヘルニア,なかでも大腿ヘルニアの嵌頓,腸重積,糞塊,胆石,回虫などの寄生虫などがあげられる.
1.発症頻度
Thomsonは粘膜下の血管周囲の結合織をクッションといい,これが崩壊・断裂し,痔核血管が拡張し,肛門外下方に下垂して症状が出てくるという1).これには遺伝的素因が関与し,管壁が薄く,静脈弁がなく,周囲組織の圧迫で容易に還流が阻害され,静脈系のうっ血を起こす.男性に多く,小児にはなく,30歳以上では約70%に認めるが,治療対象となるのは少ない.歯状線より口側のものを内痔核,以下のものを外痔核という.
急性腹膜炎とは,腹腔内に漏出した細菌や毒素(bacterial peritonitis),あるいは無菌的な消化酵素や尿(chemical peritonitis)によって生じた腹膜の炎症で,「腹膜が広範なやけどをおった」状態である.腹膜の表面積は皮膚の表面積とほぼ同じ1.5〜1.8m2であり,炎症で1mmの浮腫が生ずれば,1,500〜1,800mlの水分が貯留する.急性腹膜炎はその原因によって,食道,胃,小腸,大腸,胆嚢,膀胱などの腹腔内臓器が,外傷,腫瘍,潰瘍,血行障害などで穿孔・破裂を起こし,内容物が腹腔内に漏れ出して腹膜の急性炎症を起す続発性汎発性腹膜炎(最も頻度が高い)と,腹水著明な非代償性肝硬変を有する大人や,ネフローゼの子供に好発する,消化管穿孔を伴わない,したがって細菌の侵入経路が不明な,特発性細菌性腹膜炎(spontaneous(primary)bacterial peritonitis:SBP)に大別される.
急性肝炎は肝親和性ウイルス感染に基づく肝細胞破壊によるもので,多くは一過性であり,原因ウイルスの排除とともにself limitedな良好な経過を示す.しかしながら一部に,初期の肝細胞破壊が高度で劇症化する例,ウイルス排除が不完全で慢性肝炎に移行する例がみられ,時に腎障害,造血障害など肝外合併症も認められ,治療的戦略として注目すべきはこの点にある.これら病型,予後は起因ウイルスにより違いがあり,病因診断を確実にするとともに,特に急性期の重症度判定を念頭におき治療にあたるべきである.
肝は巨大な予備力と強力な再生力に恵まれた臓器である.肝はウイルス感染,アルコール,薬剤,虚血,変性など様々な侵襲を受けるが,大半の症例ではこの天賦の予備力と再生力により,黄疸や倦怠感など一定の症状は呈するものの破綻なく治癒する.しかし,肝細胞の破壊や変性がこの肝の持つ能力を越える範囲と速度で進行すると,肝再生力が追いつかなくなり,肝機能の不全状態に陥る.一般には発症後8週以内にこの状態に至ったものを急性肝不全,欧米ではfulminant hepaticfailure(FHF)と呼んでいる.わが国では劇症肝炎という病名が多用されているが,この用語を使用する場合,本来は基礎病変は肝炎に限られるべきだろう.
欧米ではFHFはあくまでも急性肝障害の範疇でとらえているが,わが国の劇症肝炎の診断基準では,意図的にこの点を除いて単に肝炎としている.これは,東南アジアに多いHBVキャリア劇症化もこの診断基準に包摂する意図があったためであるが,それではC型を含め慢性肝炎の劇症化もこの診断に包摂するのかとなると,専門家の間でもはっきりしない.最近acute on chronicという名称が流布しており,この呼称は慢性肝炎の劇症化を包摂するが,先述の点の明確化がないうちに新しい病名を導入するのは好ましくないと思われる.
B型肝炎ウイルス(HBV)により肝機能異常が6カ月以上持続し,肝生検で肝細胞に種々の程度の変性壊死が認められるほか,門脈域に円形細胞の浸潤や線維化がみられるものがB型慢性肝炎であり,門脈域の削り取り壊死の有無により活動性と持続性に分けられる.
本邦ではHBV感染のほとんどが母児感染により成立しており,感染後の自然経過はほぼ次のように考えられている1).感染早期の若年齢では感染ウイルス量が多いにもかかわらず,免疫力が弱いために肝炎のない時期(1期)がみられるが,ウイルス抗原に対する免疫反応の出現とともに肝炎が発症し,ウイルス量が減少していく(2期).これ以降の過程で慢性肝炎や肝硬変,さらには肝癌の発生がみられる.ウイルスがほぼ排除されたのちも多くの場合宿主遺伝子に組み込まれたウイルスDNAからS抗原などが発現する(3期).
今から遡ること約6年,それまで非A非B型肝炎と称されていたものの起因ウイルス(C型肝炎ウイルス:HCV)が発見され,わが国の肝臓病の研究ないし治療局面は大きく展開した.すなわち,アルコールないし自己免疫に起因すると考えられていた肝臓病のなかにも,HCV感染を伴う例が多く含まれ,わが国の肝細胞癌の90%以上がHCVないしHBV感染に起因することが明らかとなった.
さらに,自然治癒の可能性の極めて低いC型慢性肝炎のなかで,インターフェロン(IFN)治療により根治する例もみられることがわかり,この数年に150万人以上の多数にIFN投与が行われている.その結果,30〜40%の症例に著効が得られる反面,IFN難治例の実態も明らかとなり,IFN治療の適応,投与法などに関しては第二段階に入りつつある.また難治例に対しては強力ネオミノファーゲンC®(SNMC)静注,経口剤としてウルソデオキシコール酸(UDCA)投与も見直されている.
自己免疫性肝炎は女性に好発し,自己免疫性機序が病因として関与していると考えられる原因不明の慢性肝炎であり,ウイルス,アルコール,薬物などによるものは原則として除外される.現在,自己抗体の種類により表1のような分類が提唱されているが,IIb型はむしろC型慢性肝炎として扱うという意見もある.厚生省「難治性の肝炎」調査研究班の診断基準はこれらのうち,主として抗核抗体陽性の古典的な1型の自己免疫性肝炎の病像をもとにして考えられた基準であり,今後改訂される必要がある1).
最近ではInternational Autoimmune Hepatitis Groupによる診断基準も用いられている2).診断に当たっては,肝炎ウイルスマーカー陽性であっても自己免疫性肝炎は否定できない.また,抗核抗体陰性の自己免疫性肝炎があることに注意すべきであり,あくまでも検査所見を含む臨床像より診断すべきである.
肝硬変における腹水の病態
肝硬変による腹水の発生には数多くの因子が関与している1,2).すなわち,肝での線維増生と再生結節による圧迫のため門脈圧が亢進し(アルコール性肝硬変では,これらの病的変化に肝細胞の膨化と中心静脈周囲線維化の影響が加わる),一方,肝におけるアルブミンの合成能低下に伴い,血清アルブミンが減少して血漿浸透圧が低下する.その結果,腹腔内の毛細血管レベルでの血管内と腹腔内の物質平衡は大幅に腹水生成の方向に傾く.さらに,再生結節による肝静脈枝の圧迫と,アルコール性肝硬変における中心静脈周囲線維化は,ともに類洞内圧亢進の原因となり,肝で生成されるリンパ液の量が増加し,一部は腹腔内に漏出して腹水増加の一因となる.その結果,有効循環血漿量が減少し,本症における末梢での動静脈シャントと血中に増加する血管拡張因子による末梢での血管抵抗減少も加わって有効循環血漿量はさらに減少する.
肝硬変において末梢血管を拡張させる因子としてはグルカゴン,サブスタンスP,エンドトキシンによって合成が増加するNOなどが考えられている.有効循環血漿量の減少に伴って生じるのは,交感神経の緊張増加による尿細管でのNa再吸収の亢進である.レニン・アンギオテンシン系の活性化に伴うアルドステロンの分泌亢進も生じ,肝での代謝能低下も相まって,血中濃度が増加し,Na・水の貯留傾向が増強する(図1).
肝性脳症とは,高度な肝機能障害に基づいて,意識障害をはじめとする多彩な精神神経症状をきたす症候群である.肝性脳症は成因の面から,壊死型とシャント型に大別して理解されてきた.前者は広汎な肝細胞の壊死脱落により,アンモニアをはじめとする脳症惹起因子の解毒能が著減して肝性脳症をきたすものであり,劇症肝炎が代表的である.一方,後者は肝細胞量は保たれているものの,シャントのため肝血流量が低下しており,脳症惹起因子を処理する能率が低下して肝性脳症をきたすもので,Eck瘻症候群が代表的である.しかし日常臨床上,最も遭遇することの多い肝硬変脳症は,両者の要素が混り合った中間型として位置付けられている1).特に治療対策や予後の観点から,当教室では肝性脳症にかかわる各種パラメーターを多変量解析を用いて分析した結果,肝性脳症を①急性型,②末期昏睡型,③慢性再発型,の3型に分類することが最も有用であった2).このうち急性型は劇症肝炎が典型的であり,肝硬変にみられるのが慢性再発型と末期昏睡型である.
このように肝性脳症の病態は多岐にわたるが,黄疸や腹水とともに肝不全の最も中心的な徴候の一つであり,病態を速やかに診断して早期に治療を開始することが重要である.劇症肝炎の治療については別項にゆずり,本稿では肝硬変脳症に対する治療を中心に概説する.
門脈圧亢進症は流入血液が門脈から肝臓を経て全身静脈系にいたる経過中に,血管の狭窄ないし閉塞により門脈循環抵抗が増大する結果,門脈圧が上昇する病態である.臨床的には,門脈圧亢進に伴う食道静脈瘤,腹壁静脈怒張,腹水,脾腫,貧血,消化管出血などの疾患群の総称である.
閉塞の部位により肝前性,肝内性,肝後性の門脈圧亢進症に分類されるが,わが国では肝硬変に伴う肝内肝静脈閉塞症によるものが最も多く,次いで原因不明の肝内門脈閉塞症による特発性門脈圧亢進症がある.
原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)は1950年にAhrensらにより提唱された,自己免疫異常に基づく進行性の慢性肝内胆汁うっ滞性疾患である.中年以降の女性に好発し,胆道系酵素やIgMの上昇を認め,約85%に抗ミトコンドリア抗体(AMA)が出現する.無症候性PBCは癌痒感や黄疸を認めず,症候性PBCはこれらのいずれかの症状を伴った病態である.近年,血清ビリルビン,GOT,GPTおよびALPは正常だが,AMA陽性で肝生検でPBCと診断される“早期PBC”という病態があることが判明した1).早期PBCは発病初期のPBCなのか,あるいはPBCの不全型なのかは不明である.肝病変の進行度に関わりなく角膜口腔乾燥症(Sjögren症候群),Raynaud症状,慢性関節リウマチ,強皮症,甲状腺疾患などの自己免疫性疾患を高率に合併する.組織学的には小葉間胆管およびその周囲に慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)などの胆管障害像を認める.
1.原因
アルコール(A1)飲料の過剰摂取によって引き起こされる肝障害で,一気飲みなどによって起こる急性アルコール中毒は本稿では取り上げない.多くは日本酒に換算して毎日3合以上,5年間以上の常習飲酒家に認められるものをいう.その発現はA1の直接障害作用によるものであり,栄養障害の影響はあってもそれは二次的なものと考えられている.
全身衰弱,発熱,悪寒などの非特異的症状が潜行性に進行する.
画像診断学ならびに微生物学的診断学の進歩と,抗生物質とドレナージ術の治療学の進歩により,治療成績が向上している.この4点について「戦略1」の項で述べる.反面,これらの戦略が遅延すれば,ruptureなどを合併し,致命的となる.
胆石とは胆道系に発生した固形物であり,症状の有無にかかわらず,石があれば胆石症と称する.食生活の欧米化に伴い,レステロール胆石を中心としてその頻度は増加している.胆石成分分析からコレステロール胆石と色素胆石に分類される.また,石の存在部位によって胆嚢胆石,肝内結石,総胆管結石に分類される.
無症状胆石と有症状胆石の場合で対応が異なる.疼痛などの症状を取り除くことは勿論であるが,外科的処置が必要であるか否かを的確に判断することが肝要である.
胆嚢炎・胆管炎は胆嚢と胆管の炎症性疾患で,他の臓器の炎症性疾患と同様の概念である.胆石症とは密接な関係にある.胆石は胆嚢炎・胆管炎の最大の原因であり,胆嚢炎・胆管炎は胆石症の重大な合併症であり,同じ病態で異なった表現形であるともいえる.その病態は,胆汁の流出障害とうっ滞,細菌感染である.
急性膵炎は,様々な原因によって膵酵素が膵内で活性化されることによる,いわゆる“自己消化”が本態である.膵にはこの自己消化を防ぐための種々の防御機構があるが,表1に示すような膵炎の成因と考えられる膵障害因子がこの防御機構を破綻させ,種々の機転で膵障害を引き起こすとされている.
厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班(1990年)による急性膵炎臨床診断基準によると,急性膵炎は,
慢性膵炎は膵のびまん性または限局性の炎症の持続ならびにその後遺的変化で,その本態は線維化であり,膵の形態的な異常と機能異常を示す.
原因の約60%はアルコールである.飲酒による膵液の過分泌および膵液中蛋白濃度の上昇に伴う膵液粘稠性の亢進,さらに十二指腸乳頭の浮腫などが加わり,膵液の流出低下に伴う膵管内圧上昇が膵炎を発症するといわれている1).病状が進行すると膵管内膵液中に蛋白栓が形成され,カルシウム沈着による膵石形成へと発展する.
最近の画像診断法の進歩により,膵仮性嚢胞の診断や病態観察が容易になり,治療の必要性と治療時期の的確な判断が可能となってきた.また,治療法も保存的治療や外科的治療ばかりではなく,映像下の経皮的減圧術や内視鏡的減圧術(以下,インターベンション治療)も導入されており,治療手段の選択肢も広がってきている.
本稿では,膵仮性嚢胞に対する最近の治療戦略について述べることとする.
便秘は,排便回数が少ない,1回の排便量が少ない,便が硬い,便が出にくいなどと訴える症状群である.女性と老年者に多い.便秘の訴えがあっても,本人に苦痛がなく,肛門疾患などの合併症もないならば特に治療の必要はない,分類であるが,便秘の経過から急性と慢性に分ける.原因疾患および病態から器質的と機能的に分ける.器質的便秘は原因疾患の治療を第一とする.本稿では慢性機能的便秘について述べる.
慢性機能的便秘には,腸管の運動機能が亢進している痙攣性便秘と低下している弛緩性便秘がある.痙攣性便秘は内臓知覚の過敏,弛緩性便秘は鈍麻を伴うことがある.痙攣性便秘の大部分は過敏性腸症候群である.弛緩性便秘の中で,直腸知覚の鈍麻の著しいものが直腸性便秘である.痙攣性便秘と弛緩性便秘の臨床的鑑別点は,前者は若年〜中年の女性に多い,便が兎糞状で腹痛,腹部不快感などの腹部症状に富む,後者は老年者に多く,便が太く硬く,腹部症状が少ない,などである.なお,薬剤による便秘もある.常用薬の有無は必ず聞く(表1).
かつては感染性腸炎といえば腸チフス,細菌性赤痢,コレラなど法定伝染病がほとんどであったが,近年,衛生環境の向上により激減し,これらに代わってCampylobacter,腸炎ビブリオ,Salmonella,Aeromonas,病原性大腸菌,黄色ブドウ球菌などによる腸炎が増加している.従来恐れられていた法定伝染病も,典型的な激しい症状は稀になり,細菌培養ではじめて診断されることもあるので,安易な抗生剤投与で済ますことのないようにしたい.その他に,ロタウイルスやサイトメガロウイルスによる腸炎,あるいはアメーバ赤痢などがあるが,本稿では省略する.
単純ヘルペス脳炎は,三叉神経節などに潜伏していたウイルスが何らかの原因で脳内に侵入して発症すると考えられている.ウイルス性脳炎の中では比較的頻度が高く,季節や流行と関係なく起こる散発性脳炎としては最も頻度が高い.また,特に目立った好発年齢もない.急性の髄膜脳炎としてみられることが多いが,亜急性の例や髄膜徴候に乏しい例もある.発熱,頭痛,意識障害,けいれんなどの髄膜脳炎で一般的にみられる症候に加えて,単純ヘルペス脳炎の特徴である側頭葉や前頭葉下部の病変を反映し,精神症状や失語などがみられることも多い.特徴的な局在性の主病変は各種神経画像検査でとらえることが可能で,脳波では左右差のある周期性同期性放電として認められることが多い.現在,有効で比較的副作用の少ない抗ヘルペスウイルス薬が利用できるが,単純ヘルペス脳炎では発症早期に治療を開始しないと予後改善につながらない.
頭痛は,外来診療で遭遇する最も多い主訴の一つで,病型については1988年,国際頭痛協会による新分類が発表された(表1)1),ここでは,頭痛の中で頻度の高い片頭痛と緊張型頭痛の治療について述べる.
1.疾患概念1)
一過性脳虚血発作(transient ischemic at-tack;TIA)の概念は,脳血管障害の分類上の位置づけにおける考え方,発症機序に関する検討,治療法の開発や画像診断技術の進歩とともに変化してきている1).現在,われわれが日常臨床的にTIAを診断名として用いているときは,脳虚血は全脳虚血ではなく局所的であり,それによる巣症状が一過性(24時間以内,多くは数分以内)にみられる一過性局所性脳虚血発作を指す.
TIAは脳血管障害の主要病型の一つとして,1958年のNIH委員会の分類に初めて記載された.そこでは脳梗塞を伴わない脳虚血“transientcerebral ischemia without infarction”として,反復性局所脳虚血発作(recurrent focal cerebralischemic attack),全身血圧低下に伴う一過性脳虚血発作および片頭痛が含まれていた.これらのうち,われわれがTIAとして臨床的に問題にするのは前2者の病型であり,本稿でもTIAはこの両者を指すものとする.
脳梗塞とは,脳動脈の血流の途絶により,その灌流領域の脳組織に虚血性変化が生じた状態である.一般に発生機序は脳血栓,脳塞栓の2つに分類される.脳血栓はさらに主幹動脈の粥状動脈硬化と穿通動脈の閉塞によるラクネ(lacunae)の2つに分けられる.脳塞栓症では心臓弁膜疾患,壁在血栓を伴う急性心筋梗塞,心内膜炎,不整脈(特に弁膜疾患を伴わない心房細動)などの心原性塞栓症が重要である.
脳出血は脳実質内の血管が破綻し,神経の脱落症状や脳圧亢進による様々な症状が出現する.これは一方で何らかの原因による血管の脆弱性が存在することに加えて,血圧の上昇や時には外的要因などが加わって出血を誘発することが多い,外傷を除く脳出血の80%は高血圧に起因し,その他の原因としてAVM(動静脈奇形),もやもや病,動脈瘤などの血管の奇形,アミロイドアンギオパチー,脳腫瘍,血液の凝固異常などがある.
脳出血はわが国では脳卒中の17%を占め,重症例が多く,病初期に内科的・外科的治療法の選択をせまられることから,確実な早期診断が要求される.
血管性痴呆(vascular dementia)とは,虚血か出血であるかを問わず,その原因が脳血管性病変であるものを指す.痴呆脳では,病理学的に血管性病変か老年性病変のいずれかが高度であることが知られており1),①一定量以上の血管性病変が主体の群,②アルツハイマー(Alzheimer)病でみられる老人性変化が主体の群,③両者が混合する群の3群に分類される.Hachinski2)は自らが作成した脳虚血スコアを用いて,これら3群の生前診断が可能であるとし,血管性病変による痴呆を“multi-infarct dementia”(多発梗塞性痴呆)と命名した.この名称は,白質の小梗塞多発状態だけでなく,皮質・白質の大小梗塞の多発状態も意味している.
一方,Binswanger病(進行性血管性白質脳症)は,脳の慢性虚血が白質のびまん性髄鞘喪失をきたす病態であり,痴呆を特徴とする.他にも,多発性の脳出血や特定の脳部位(視床内側核,内包膝部,海馬など)の単発梗塞も痴呆の原因になることが知られている.以上のように,血管性痴呆とは多発梗塞性痴呆だけではなく,進行性血管性白質脳症,多発性脳出血,特定部位の単発性脳梗塞による痴呆などがすべて含まれた概念である.
高血圧性脳症とは高血圧性緊急症の代表的疾患で,急激かつ著明な全身血圧(特に拡張期血圧)の上昇により,激しい頭痛,悪心,嘔吐,一過性視力障害,痙攣,意識障害などの脳症状を呈し,迅速かつ適切な降圧療法が行われないと致死的な転帰をとる疾患である.基礎疾患の有無は病態には関与しない.本疾患は血圧管理の普及した今日では極めて稀であり,一過性脳虚血発作,頭蓋内出血や脳幹部梗塞などの脳血管障害や尿毒症などとの鑑別が重要である.
脳血流には脳循環自動調節能(autoregulation)が働くことはよく知られている.調節可能範囲内での全身血圧変動は脳血流量に影響を与えない,しかし,この範囲を越える全身血圧上昇では,図1に示すとおり脳細動脈が拡張し,脳血流は必要以上に増加する(breakthrough of autoregulation1)).この結果,血液脳関門は破綻し,その結果,血管透過性が亢進し,ひいては脳浮腫を引き起こす.現在ではこの現象が高血圧性脳症の原因と考えられている.
一般に高齢者,特に60歳以上の患者にみられ,軽度の発熱,全身倦怠感,食欲不振,体重減少などの全身症状に加え,頭痛,貧血,赤沈亢進とともに,側頭動脈およびその周囲の頭皮に発赤,圧痛,自発痛を認める症候群をいう.最近では巨細胞動脈炎と呼ばれることが多い.ステロイド治療の遅れが治療不可能な眼動脈分枝閉塞による視力消失をきたすため,内科的救急治療を要する重要疾患として把握する必要がある.その病態の本質は中等大以上の動脈の巨細胞を伴う炎症性変化であり,その臨床症状は局所性と全身性の2つに分けられる.
1.発症機序
ギラン・バレー(Guillain-Barré)症候群は,上気道炎,胃腸炎症状などの1〜3週後に,四肢の筋力低下が急速に発症,進行し,4週以内にピークに達する末梢神経障害である.先行感染の主要な病原体Campylobacter jejuniのリポ多糖がGM1ガングリオシド様構造を有することが筆者らにより明らかにされ,先行感染の病原体が神経の構成成分ガングリオシドと共通する抗原を有し,病原体の交叉抗原に対する抗体が自己抗体(抗ガングリオシド抗体)として神経を障害する「交叉抗原説」が立証されつつある1).ウシ脳ガングリオシド注射後に多数のギラン・バレー症候群患者が発生した事実や,in vitroでの抗ガングリオシド抗体による神経障害作用も,その仮説を強く支持する.
本症は1817年,英国の神経科医J.Parkinsonが「An Essay on the Shaking Palsy(振戦麻痺)』という小冊子を出版したことが疇矢である.しかし,長い間顧みられず,70年後の1888年,フランスのJ.M.Charcotがこの書物を激賞し,maladiede Parkinson(パーキンソン病)と呼んだ.本態を探る病理知見は,1913年Lewyによる細胞内封入体(Lewy小体)の発見,1919年Tretiakoffが本症の病理学的特徴は黒質の変性であることを明らかにし,1953年にGreenfieldらにより,黒質のメラニン含有細胞の変性・消失とLewy小体の出現が本症の病理所見として確立された.さらに1960年,EhringerとHornykiewiczにより本症患者の黒質-線条体ニューロンのdopamineが減少していることが発見され,本症の病理・病態プロセスが明らかとなった.直ちにdopamineの前駆物質であるL-Dopaの治療開発が始まった.
本症の発症年齢は55歳ないし65歳で,男女差はない.稀に10〜30歳台の若い発症もあり,若年性パーキンソニズムといわれている.有病率は欧米より下回るとされてきたが,人口構成の高齢化とともに,欧米に近い100以上であることが中島らの米子市の疫学調査で明らかにされた.神経難病の中では圧倒的に多い疾患である.
ベル麻痺は特発性の末梢性顔面神経麻痺であり,一側性の麻痺がほとんどである.発症は亜急性で,寝て起きたら気がつくようなときから,鏡を見ておかしい,あるいは家人から「顔の動きがいつもと違う」といわれてから数日のうちに麻痺が明らかとなることまである.発症すると,麻痺は急速に完成し,1週以上麻痺が進行することは少ない.半数近くの症例で感冒様の症状が先行する.表情筋の一側の麻痺に加えて,早期に約半数で耳介後部乳突突起の部分に痛みを認める.これより少ないが,舌先の味覚の低下,聴覚過敏,涙の分泌の異常(低下あるいは亢進)を認めることがある.
病態は顔面神経管内での顔面神経内の浮腫と,それに伴う虚血,さらに虚血による浮腫の増悪が悪循環を形成し,神経の脱髄と,さらに進行すれば軸索変性が生じる結果,顔面神経の伝導が障害され,顔面表情筋の麻痺が生じるものと考えられる.初めに浮腫が生じる原因としては,先行感染に伴うアレルギー性機序や寒冷曝露が挙げられているが定説はない.
三叉神経痛
本態性と症候性とがある.
本態性三叉神経痛は三叉神経が脳幹に入る部位で血管に圧迫されることにより生じ,多くはtrigger pointを認める.
多発筋炎(polymyositis:PM)とは,急性または亜急性の骨格筋筋力低下を主徴とする炎症性筋疾患のうち,ウイルス・細菌・寄生虫など原因の明らかなものを除いたいわゆる特発性筋炎の一つであり,発症には自己免疫的機序が考えられている.PMでは筋病理学的にリンパ球を中心とする炎症性細胞浸潤がendomysium(筋線維と筋線維の間)に多いこと,非壊死筋線維にリンパ球が浸潤するところが観察され(図1),その多くがCD8陽性の細胞障害性T細胞(CTL)であることなどより,CTLの筋線維への直接の攻撃がその病態機序であろうと考えられている.
最近,筆者らは,CTL内の細胞崩壊蛋白パーフォリンがPMにおける筋線維の障害に関与していることを報告した1).
「てんかん」または「てんかん症候群」とは,特定のてんかん発作が反復して起こる慢性の状態で,疾患単位ではなく症候群である(表1のII参照).
てんかん発作は脳内ニューロン群の突発性過剰発射により引き起こされ,大脳皮質のどの領野からも起こるため,発作型も様々である(表1のII参照).
かぜ症候群は,種々の病原によって起こる上気道の非特異性急性カタル性炎症の総称であり,鼻閉,鼻汁,咽頭発赤,発熱などを主徴とする最も頻度の高い急性呼吸器感染症である.かぜ症候群の臨床症状は病型間(普通感冒,非細菌性咽頭炎,インフルエンザ,急性気管支炎など)でも互いにオーバーラップするために多彩である.発症の誘因として,宿主の状態(疲労,飲酒,脱水,免疫不全など)や環境の変化(乾燥,寒冷など)などが知られている.
かぜ症候群の病原体の80〜90%はウイルスであり,細菌性,マイコプラズマ,クラミジアなどがその他を占める.ウイルスではライノウイルス,インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,アデノウイルスなどがあげられる.これらの病原ウイルスの伝播は,患者の咳嗽・会話などにより空気伝染し,鼻粘膜や眼球結膜から体内へ侵入する.吸入ウイルス粒子は鼻咽頭を中心とした上気道から下気道に沈着する.こうしてウイルス感染による気道粘膜の急性炎症が惹起される.また,かぜ症候群に引き続いて二次性細菌感染を併発しやすくなる.この二次感染成立過程は以下のように説明される.ウイルスは気道上皮に親和性をもつが,感染により気道上皮を変性・脱落させ,気道クリアランスを著しく低下させる.この結果,気道親和性の病原性菌が容易に付着し,二次感染が成立する.
細菌性肺炎は高齢者に多くみられる細菌によって起こる肺炎である.
原因菌として最も多い細菌は肺炎球菌(60〜80%)であり,次いでインフルエンザ菌,クレブシエラ,大腸菌,ブドウ球菌があげられる.
異型肺炎(atypical pneumonias)は,肺炎球菌などの一般細菌を病原とする細菌性肺炎(bacterialpneumonia)に比べて,その臨床像が異なることから名づけられた診断名である.現在では異型肺炎はウイルス,マイコプラズマやクラミジアなどの非細菌性病原によってひき起こされることが明らかになり,その結果,異型肺炎という総称は使用されなくなってきており,例えば“マイコプラズマ肺炎”のように,起炎病原体の名称を先につけて呼ばれる傾向にある.いわゆる異型肺炎の病原として頻度が高く重要なものは,マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)とクラミジア(Chlamydia psittaciとChlamydia pneumoniae)であり,本稿ではこれを中心に述べる.
マイコプラズマ肺炎は小児や若年成人においては市中肺炎(community acquired pneumonia)の起炎病原として最も頻度が高い.発熱と激しい乾咳(non productive cough)が特徴であり,胸部X線像ではスリガラス状の淡い間質性陰影を呈することが多いとされているが,均等な浸潤影を呈することもある.
結核は,ナイアシン陽性の抗酸菌である結核菌の吸入によって感染する感染症である.初感染は肺末梢に微細な病巣を形成した後,肺門のリンパ節にも病巣を形成する.感染後2〜8週にて細胞性免疫が成立すると,多くは瘢痕治癒する.しかし,菌量が多かったり,免疫力が低下した場合は,引き続き炎症は進行し,胸膜炎や粟粒結核として発症する.
一見治癒したかにみえる結核初期病巣も,免疫抑制剤投与や高齢などにて個体の免疫力が低下すると再燃しやすくなる.多くの肺結核はこの内因性再燃による慢性型結核である.病巣は肺葉の上部後方(S1,S2,S6)に好発し,空洞を有する結節性病変および周囲の散布性娘病巣をみることが多い.胸水貯留や粟粒結核をきたすものもある.
気管支喘息は,好酸球を中心とする炎症細胞による慢性の炎症性気管支炎と定義づけられ,その病態は種々の刺激に対する気道過敏性の増大に伴う広範囲の,可逆的かつ種々の程度の気道閉塞性障害と考えられる.
患者の既往歴・家族歴におけるアレルギー性素因の有無,および過去における発作性の咳や喘鳴,呼吸困難の反復,さらには喘息治療を受けた経験があれば,その際の反応態度などを参考に本疾患を疑う.
肺気腫と慢性気管支炎は,慢性閉塞性肺疾患を構成する2大疾患である.いずれも喫煙によってもたらされる炎症性疾患で,肺機能上,臨床上,不可逆性の閉塞性換気障害を呈することより慢性閉塞性肺疾患(COPD)として一括されることが多い.しかし,肺気腫の定義は1987年の米国胸部疾患学会の定義によると,“終末細気管支より末梢の気腔,すなわち呼吸細気管支,導管,肺胞が破壊されて,そのため拡張した状態”と,純粋な病理学的診断である.すなわち,必ずしも肺気腫の進展と閉塞性換気障害は並行しない.Hoggらは,切除標本をもとに肺気腫の病理学的重症度との関連について調査した(Thorax,1994年).その結果,肺気腫の病理学的重症度と閉塞性換気障害とは相関しないことを示した.またBelbらは,CTの画像診断上の肺気腫重症度と閉塞性換気障害との関連を調査し,同様の結果を得ている(Am RevRespir Dis,1933年).
一方,慢性気管支炎は米国胸部疾患学会の定義では“気管支における慢性,反復性(3カ月間ほとんど毎日,少なくとも2年連続)の過剰な粘液分泌状態で,気管支拡張症や結核などによるものは除外される”.
びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)は,1969年に本間,山中らによって臨床病理学的に独立した疾患として提案され,1983年に初めて欧米誌(Chest)にその疾患概念が紹介された.現在まで,日本人(モンゴリアン)に多いとされる慢性気道炎症性疾患である.
その臨床像は,咳嗽,喀痰および息切れを主徴とし,胸部聴診上,80%以上に水泡音を聴取する.胸部X線像では両肺野のびまん性散布性粒状影(初診時約70%,最終診断時約90%に認められる),あるいは胸部CT像において小葉中心性の粒状影が認められ,しばしば過膨張所見を伴う.血液ガス所見では低酸素血症(80torr以下)を呈し,呼吸機能検査では1秒率低下(70%以下)が特徴的で,進行すると肺活量の減少,残気率(量)の増加を伴う.しかし,通常は拡散能の低下はみられない.さらに血清学的検査では寒冷凝集素価が64倍以上の高値を呈する.その持続的高値はDPBに特有とされ,単なる診断基準の一つにとどまらず,病因・病態の解明に重要な所見と考えられている.
気管支拡張症は“気道壁の破壊に伴う気管支の不可逆性拡張”と形態学的に規定された概念で,その成因,臨床像は多様である.これまで診断には気管支造影が必須であったが,昨今では高分解能CTにより非侵襲的に行えるようになった.ただし,一般に気管支拡張症という場合,肺癌,肺結核,肺化膿症,無気肺,肺線維症,アレルギー性気管支肺アスペルギールス症などに続発してできたものは除かれる.
臨床的には,普段無症状で突発的な血痰を繰り返すdry typeと,大量の喀痰を主症状とするwettypeとに大別される.dry typeには中葉症候群や幼少時期の一過性の感染症が原因と推定されるものが多く1),通常いずれかの肺葉や区域に限局した分布(図1)をとり,肺機能の低下はあまり認めない.一方,wet typeの多くは慢性副鼻腔炎を伴い,いわゆる副鼻腔気管支症候群(SBS)に含まれ,中にはびまん性汎細気管支炎(DPB)が併存ないし進展した2)と考えられる重症例(びまん性気管支拡張症)(図2)もあり,総じて閉塞性換気障害を呈し,呼吸不全を併発する場合もある.
特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)は原因不明の炎症性疾患である.急性型と慢性型に分類されるが,大多数は慢性型である.国により疾患概念の違いがあり,用語の混乱がみられるが,慢性型のIIPは米国のidiopathic pulmonary fibrosis(IPF)や英国のcryptogenic fibrosing alveolitis(CFA)と同義語である1,2).また,病理学的にはLiebowによる間質性肺炎の分類のうちのusual interstitial pneumonia(UIP)に相当して,一部がdesquamativeinterstitial pneumonia(DIP)に相当する1,3).
IIPの病態は肺胞マクロファージ,リンパ球,顆粒球の炎症細胞が肺胞内と間質へ浸潤して,肺胞上皮や血管内皮細胞の変性をきたした胞隔炎を起こす.それが進行すると,細葉構造を形成する終末細気管支より末梢の気道・肺胞・毛細血管・間質の構造が破壊されて,線維芽細胞が遊走してきて線維組織に置き換わっていく3).
好酸球性肺炎は1969年,Libbow & Carrington1)によって末梢血中好酸球増多の有無にかかわらず,肺組織内に好酸球浸潤を認める肺疾患の総称として定義された疾患である.1952年,Redder & Goodrich2)の提唱したPIE症候群(pulmonary infiltration with eosinophilia)が末梢血好酸球増多を伴う肺浸潤影を呈する一群の症候群であるのに対して,より広義の意味で呼ばれている.
過敏性肺臓炎は「有機あるいは無機塵埃を反復吸入しているうちにこれに感作されて,III型およびIV型アレルギー反応が細気管支から肺胞にかけて起こる結果発症するびまん性肉芽腫性間質性肺炎」の総称である.
本症は,原因抗原の種類や発症環境の違いによって,夏型過敏性肺臓炎,農夫肺,鳥飼病,換気装置肺炎(空調病,加湿器肺),イソシアネートによる過敏性肺臓炎などに分けられる.また,これらの疾患は吸入する抗原の量と時間的推移によって,急性型,亜急性型,慢性型に分けられる.いずれの疾患あるいは病型にしても,その病態にはIII型アレルギー(免疫複合体)およびIV型アレルギー(細胞性免疫)が関与している.したがって,本症の治療の3原則は,①患者を抗原から隔離し,②発症環境から抗原を除去し,③薬物療法としてステロイドの投与を行う,ことにある.
過換気症候群とは,生理的にCO2排出を増す必要がないにもかかわらず,不髄意的に発作性過換気状態となり,それに伴って呼吸・筋・心血管・消化器・神経系および精神症状を起こす症候群である.過換気発作の発症誘因としては,心理的因子が強く関与している.
成人呼吸促迫症候群(adult respiratory distress syndrome:ARDS)は,Petty & Ashbaugh1)により1967年に提唱された疾患概念で,新生児のIRDSに相対する意味で,成人の重篤な急性呼吸不全例に対し命名されたものである.その基本的病態生理は非心原性の透過型肺水腫であり,種々の生体に対する侵襲の結果惹起される,しかし,その後の膨大な基礎的,臨床的研究にもかかわらず,本症の原因,病態,治療に関して絶対的なコンセンサスが得られていないのが実状である.そのため,1994年に米国と欧州の呼吸器病学会が合同でカンファランスレポート2)を発表しており,現時点での最良のコンセンサスと思われるので,本稿ではそれを中心に述べる.
ARDSは必ずしも成人に限らないため,従来の“adult”を“acute”に変更する.ARDSの原因となる生体への侵襲(リスクファクター)は,表1に示すように,直接的な侵襲と間接的な侵襲があり,これらはいずれもARDSの原因となり得るが,なかでも頻度が高く,かつ治療が困難なのはsepsis syndromeによるものである.
肺塞栓症は再発を繰り返して発症することが特徴であり,臨床症状を現さない軽微なものから,急性死に至る重篤なものまでがある.近年,わが国でも増加傾向にあり,致死性急性肺塞栓症も稀ではなくなった1).一方,肺塞栓症には器質化血栓が肺動脈を閉塞して肺高血圧をきたす疾患があり,血栓塞栓性肺高血圧症といわれるが,わが国では急性例に比べて相対的にこの慢性肺血栓塞栓症の頻度が高い2),肺塞栓症はこのように多彩であり,また肺梗塞を合併することもある.本症の治療戦略について述べる.
胸膜炎は,肺や胸膜に生じた炎症や悪性腫瘍の胸膜への波及により,胸水が貯留した状態と定義され,主なものとして,肺炎随伴性胸膜炎や結核性胸膜炎,膿胸,膠原病に伴う胸膜炎,癌性胸膜炎などがあげられる.
膿胸は,他の部位の炎症が胸膜に及び,胸膜腔に膿性の胸水の貯留したものと定義されている.この場合の胸水は,浸出性で多核白血球と線維素に富む.原因としては肺炎に伴う場合が最も多いが,その他,肺,口腔,咽頭・喉頭,椎体周囲,縦隔リンパ節,皮膚膿瘍などの炎症が二次的に波及したり,外傷や手術後の合併症として発症する場合などがある.急性期には,悪寒・戦慄を伴う高熱,咳,胸痛,発汗を訴える.このような膿胸に至る肺炎のうちで最も頻度の高いものは誤嚥性肺炎である.誤嚥性肺炎は3型に分類され,①pH2.5以下の胃内容物の逆流,②食物,飲水などの誤嚥,③口腔・咽頭粘膜に繁殖(colonization)した主としてグラム陰性桿菌の少量吸引(microaspiration),により発症する肺炎の総称である.誤嚥しやすい背景および基礎疾患(表1)と宿主の栄養状態,免疫能,および局所の防御因子の低下などが発症に関与する.
膿胸は,症状のない誤嚥性肺炎や,症状があっても治療が不適切であれば,壊死性肺炎(necrotizing pneumonia)あるいは肺膿瘍に進展する場合がある2).
自然気胸とは,肺胸膜に何らかの原因で破綻が生じ,肺胞気が胸腔内に漏出し,肺が虚脱した状態である.原因の有無により,種々の肺疾患に続発して生じる続発性気胸と特発性気胸に分類される.後者は近年,胸膜直下の気腫性嚢胞(ブラ,ブレブ)の破綻によって生じることが病理学的に確認されている.
肺性心とは「一次的に肺・肺血管または肺のガス交換を障害し肺高血圧を惹起する疾患によって生じた右室拡大(右室拡張および右室肥大)あるいは右室不全」とNYHA(New York Heart Association)により定義されている.病理学的所見に基づいた基準であるため,臨床的には肺高血圧症に右室の拡大をもって肺性心と診断する.肺性心は臨床経過より,①急性肺性心:急性肺血栓塞栓症などに伴うもの,②亜急性肺性心:悪性腫瘍の血行性肺転移など数カ月の経過で症状を呈するもの,③慢性肺性心:慢性肺疾患に伴うもの,と3型に分類されるが,通常は③の慢性肺性心をさすことが多い.
肺性心の成立に関わる肺高血圧は,器質的な要因と機能的な要因の両者によって招来される.前者は肺気腫や肺塞栓症でみられる肺血管床の破壊・減少であり,後者は低酸素性肺血管攣縮が主体である.心拍出量の増加,多血症による血液粘性の上昇,高炭酸ガス血症はいずれも肺高血圧をさらに強めるように働く.
覚醒時の呼吸は,主に代謝性呼吸調節,それに行動性呼吸調節が一時的に働いて,動脈血中の酸素と炭酸ガス分圧値(PaO2とPaCO2)を一定に保つよう,換気量が調節されている.一方,睡眠時,特にnon-REM睡眠に移行すると,行動性調節は消失し,換気は代謝性調節のみに依存するようになり,規則正しい換気が観察できるようになる(図1参照1)).この代謝性呼吸調節機構に何らかの機能的異常が生じると,睡眠時無呼吸症候群(sleepapnea syndrome:SAS)を代表とする,様々な睡眠呼吸障害が発症するようになる.本稿の目的はSASなので,SASに限って言及する.
閉塞型SAS(obstructive SAS:OSA)は,上気道の相対的狭窄に基づく睡眠時の上気道閉塞がいったん起こると,呼吸調節機構の変調(周期性)を引き起こすため,結果として繰り返す無呼吸が出現した病態をいう2).一方,中枢型SAS(centralSAS:CSA)は多種多様な病態,すなわち入眠直後の覚醒と浅睡眠の繰り返し,左心不全にみられる血液循環時間の遅延,中枢神経障害患者の換気化学調節の反応性増大などが代謝性調節の安定性低下を惹起する結果,発症するものと思われる2).
鉄欠乏性貧血(IDA)は,ヘモグロビン(Hb)合成に必要な鉄が欠乏することによって生ずる貧血である.すべての貧血性疾患の50%を占め,日常臨床の場で最もよく遭遇する疾患の一つである.大量出血による急激な貧血は,一般にはIDAの範疇に入れない.
DNA合成障害に基づく貧血を巨赤芽球性貧血といい,ビタミンB12(VB12)または葉酸の欠乏が主な原因となる.VB12の吸収には胃粘膜の壁細胞より分泌される内因子が必要で,その分泌不全のためVB12が欠乏し発症する巨赤芽球性貧血を悪性貧血という1).悪性貧血は遺伝的あるいは自己免疫的機序による胃粘膜の高度萎縮が成因となっており,抗内因子抗体や抗壁細胞抗体が証明されることが多い.胃粘膜の萎縮は胃底部から胃体上部において高度にみられ,組織学的に壁細胞の減少または消失,リンパ球および形質細胞の浸潤を認める.北欧に多く,本邦での症例は少ない.
巨赤芽球性貧血を呈するVB12および葉酸欠乏の比較を表1に示す.主要病因として,前者では悪性貧血以外に胃全摘の既往のある患者や盲管症候群などVB12の吸収障害による欠乏症があり,後者では摂取不足,吸収障害,葉酸代謝拮抗剤投与などが考えられる.悪性貧血に特徴的な臨床所見として,舌乳頭萎縮,舌の発赤(Hunter舌炎),亜急性連合性脊髄変性症と呼ばれる神経障害がある.また,胃癌,橋本病の合併頻度が高く注意が必要である.
再生不良性貧血は末梢血の汎血球減少症と骨髄の低形成を特徴とする難治性の造血障害で,多くは特発性であるが,薬剤(クロラムフェニコール,抗痙攣剤,金製剤など),化学物質(ベンゼンなど)や放射線などによるもの,ウイルス性肝炎や感染症(Epstein-Barrウイルス,HIV)に続発するもの,さらに体質性(Fanconi貧血,家族性再生不良性貧血など)造血障害も知られる.
発生病態として,造血幹細胞異常,造血微小環境障害,免疫異常などが想定されている.
自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は,何らかの原因により自己赤血球膜上の抗原に対して自己抗体が産生され,抗原抗体反応の結果赤血球が傷害を受け,赤血球寿命が短縮する疾患群である.本症における自己抗体は,その至適温度によって温式抗体と冷式抗体に大別されてきた.温式抗体によるものを慣習上,単にあるいは狭義の自己免疫性溶血性貧血と呼び,冷式抗体によるものには寒冷凝集素症(coldagglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある.
温式自己抗体は37℃,すなわち体温付近で最大活性を有し,原則としてIgG抗体である.実際,温式AIHA患者赤血球膜上にはIgGの結合,さらには結合IgG量やサブクラスによっては補体の結合を認める.IgG1とIgG3は補体活性化能を有しているが,IgG2は弱く,IgG4はその能力を欠いている.この結合IgGを証明するのに用いられるのが直接Coombs試験であり,陽性化には1個の赤血球に200〜250個のIgG分子結合が必要と考えられている.近年,IgG結合量の少ない,すなわち直接Coombs試験陰性のAIHAの存在も確認されており,疑わしき場合には患者赤血球膜のIgG量の確認が必要である.
多血症とは,末梢血液単位体積あたりの赤血球数,ヘマトクリット(Ht)値,ヘモグロビン(Hb)が正常範囲を超えた状態を指し,貧血と対照的な疾患である.一般に赤血球数600×104/mm3,Ht値が53〜55%(女子では50%),Hb 18.0g/dl(女子では17.0g/dl)をいずれか超えた場合,本症を疑う.
多血症の分類を表1に,診断のフローチャートを図1に示す.
顆粒球減少症(granulocytopenia)は末梢血中の顆粒球(好中球,好酸球,好塩基球)の絶対値が正常値(中央値±2SD)以下に減少した状態で,小児(10歳以下)では1.5×109/l以下,成人では1.8×109/l以下と定義されている1).顆粒球は大部分が好中球で占められており,顆粒球減少症は好中球減少症(neutropenia)とほぼ同義語として使用されている.無顆粒球症は文字上は顆粒球が全くなくなった状態を意味するが,実際は好中球が激減(0.5×109/l以下)した状態を示す1).
特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)は血小板減少,正常骨髄像,そして他の血小板減少を起こす疾患の除外によって定義される.その病態は急性と慢性に分けられる.急性ITPはウイルス感染などにより生成された免疫複合体が血小板に結合して血小板減少が起こる.一方,慢性ITPは血小板に対する自己抗体がなんらかの原因により生成され,これが血小板に結合して血小板減少が起こる.前者は小児に多くself-limitingであり,後者は成人に多く慢性の経過をとる.
本稿ではITPの治療を慢性ITPを中心に述べることにする.急性ITPにおいても慢性ITPとの鑑別が困難な場合,重篤な出血が疑われるときには慢性ITPの治療に準ずる.
播種性血管内凝固症候群(DIC)とは以下の4項目を満たすことが必要である.①基礎疾患を有するものが何らかの原因で,②凝固系の亢進をきたし,全身に血栓を生じ閉塞症状を起こすとともに,③血栓形成に血小板,凝固線溶因子の消耗をきたし,④著明な出血症状をきたす病態である.したがって,病態把握のためには①基礎疾患の有無,②凝固系の亢進および血小板・線溶系の亢進の有無,③血小板・凝固線溶系因子の消耗の有無,④臨床症状の有無を検討することが重要である.
インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)は,何らかの遺伝的素因に,運動不足,過食,肥満,感染,ストレスなどの後天的要因が加わり発症すると考えられている.病態としては,インスリン依存型糖尿病(IDDM)が膵ラ島の破壊によるインスリン分泌不全であるのに対し,NIDDMはインスリン分泌不全(特にブドウ糖に対して)に加え,末梢組織におけるインスリン作用の低下,すなわちインスリン抵抗性が関与していると考えられている.
したがって,NIDDMの治療はインスリン分泌不全を補う(例えばSU〔スルホニル尿素〕剤やインスリン)ばかりでなく,インスリン抵抗性を改善する(例えば肥満の解消)ことに十分な配慮が必要である.
糖尿病はインスリンの絶対的あるいは相対的作用不足による慢性の高血糖とWHOにより定義されていることより,一つの疾患というよりも高血糖症候群と考えられてきている.糖尿病は通常インスリン依存型糖尿病(IDDM)とインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)とに分類され,両者ともにいくつかの遺伝因子と多くの環境因子の双方により発症することはよく知られている.糖尿病患者の著しい増加に伴ってIDDMとNIDDMとの鑑別が困難な症例が最近増加していることは,糖尿病をIDDMとNIDDMの2つに分けること自体に無理があり,両者は連続した疾患であり,両者に共通したいくつかの遺伝因子と環境因子が存在している可能性が推察されている.
さて,IDDMの遺伝的疾患感受性としてhuman leukocyte antigen(HLA)がよく知られているが,HLA DRよりもHLA DQがより強く関与している.最近,罹患同胞対法によりHLA領域が関与しているものをIDDM1と呼び,これが一番強く関与していることが明らかにされたが,さらにインスリン遺伝子領域が関与しているものをIDDM2とし,それ以外にもIDDM3やIDDM4の存在が指摘されている.
壊疽は主として下肢末梢にみられる皮膚および皮下組織,骨の壊死性病変で,本邦では比較的稀な糖尿病の合併症であるが,最近増加傾向にあり,おおむね2〜4%の頻度と考えられる.滋賀医科大学第3内科の統計では糖尿病の4.8%と高頻度であったが,地域差もあるようである1).
閉塞性動脈硬化症(ASO)または自律神経障害(動静脈シャント)による虚血が主たる原因で,末梢神経障害による知覚低下,高血糖,免疫能低下も修飾因子として働く.詳細は他の文献を参照していただきたい2,3).足の火傷,しもやけ,深爪,足白癬,靴づれ,水泡などが引き金となることが多く,稀に手指に壊疽を認める場合もある.高血糖状態では感染の抵抗力が減弱しており,皮下組織から骨,骨髄へと感染,壊死が広がっていく.
1.糖尿病性昏睡の病型分類
高血糖状態下の糖尿病性昏睡は下記のように分けることができる1).
1)糖尿病に比較的特異なもの:①ケトアシドーシス,②非ケトン性高浸透圧昏睡
2)糖尿病に非特異的なもの:①乳酸アシドーシス,②合併症に起因するもの(肝不全,腎不全,脳血管障害など)
コレステロール,トリグリセライドはいずれも血中ではリボ蛋白という複合体で存在している.リボ蛋白のうち,コレステロールエステルを多く含有するLDL(low density lipoprotein)はマクロファージなどを介して動脈壁に沈着し,粥状硬化巣の強い進展因子となる.血中コレステロールの増加が冠動脈疾患の発症率を高め,逆に,コレステロールを下げることにより,その発症率を減少させ得ることが疫学的に証明されている.高トリグリセライド血症も低HDL(high density lipoprotein)コレステロール血症とともに動脈硬化の危険因子であることが示され,特に肥満,耐糖能異常,高血圧などの危険因子と重複することにより,冠動脈疾患の発症を助長することが明らかにされている.すなわち,高脂血症の主なる治療目的は,動脈硬化性疾患の発症・再発を予防することにある.また,著しい高トリグリセライド血症,特に高カイロミクロン血症では膵炎を引き起こすため治療の対象となる.
「肥満」とは体脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されるが,現在のところ正確かつ簡便な体脂肪量の定量法がなく,一般臨床においては身長と体重によって肥満を判定している.日本肥満学会ではその基準となるべき標準体重として,最も有病率が少ない体重(kg)である「身長(m)2×22」を推奨しており,体重がこの標準体重の+20%以上である場合を「肥満」と定めている.
それに対して「肥満症」という概念は,表1に示すように,一言でいえば「治療すべき肥満」である.ただし,ここでいう「将来合併症を発症すると予測される肥満」とは,国際的にその重要性が認められている「内臓脂肪型肥満」を指し,(腹腔内)内臓脂肪の蓄積に伴い,糖尿病・高脂血症・高血圧症・虚血性心疾患などの成人病を合併しやすい肥満のことである.この内臓脂肪型肥満は臍のレベルのCTスキャン像において,腹腔内内臓脂肪(V)と皮下脂肪(S)の面積比(V/S比)が0.4以上である場合,内臓脂肪型肥満と診断する.
痛風は高尿酸血症を背景とし,尿酸の異常蓄積によって生じる疾患で,急性関節炎,痛風結節,痛風腎,尿路結石を中心とした病態を呈する.
疾患概念と病態(表1)
高カリウム(K)血症,低K血症はいずれも血清中のKの濃度であり,絶対量を表してはいないので,体内の総K量を考えた鑑別が必要である.
高K血症は採血時の赤血球溶血による偽性高K血症が多く,100×104/mm3以上の血小板増加症や白血球増加症の場合にも細胞破壊による高K血症が起こりうる.
正常者の自由飲水状態における血清の浸透圧は,抗利尿ホルモン(ADH)分泌による水分排泄の調節と口渇による水分摂取の調節により,287±5mOsm/kgH2Oという極めて狭い範囲に保たれている.
血清(細胞外液)を構成する溶質の90%以上がナトリウム(Na)塩であることから,
血清浸透圧(mOsm/kgH2O)≒2×血清Na濃度(mEq/l)
なる関係がある.すなわち,血清浸透圧(細胞内・外液とも体液の浸透圧は同じ)の調節によって,血清Na濃度が規定されるのである.
下垂体前葉機能低下症(hypopituitarism)は,単独または複数の下垂体前葉ホルモン〔ACTH(副腎皮質刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン),LH(黄体ホルモン),FSH(卵胞刺激ホルモン),GH(成長ホルモン),PRL(プロラクチン)〕の分泌低下により生じる.原因は下垂体前葉障害と視床下部障害によるものがあり,下垂体腺腫,女性の分娩後下垂体壊死(Sheehan症候群),下垂体近傍の腫瘍(頭蓋咽頭腫,胚芽腫,髄膜腫など)の順に多く1),手術・放射線照射後,外傷,結核性髄膜炎,サルコイドーシス,自己免疫性下垂体炎,Hand-Schüller-Christian病などもある.
診断には厚生省特定疾患間脳下垂体機能障害調査研究班が作成した「下垂体前葉機能低下症診断の手引き」2)が参考になる.手引きには主症候と検査所見がホルモン別に列挙されており,欠乏しているホルモンの組み合わせにより,①汎下垂体前葉機能低下症,②部分的下垂体前葉機能低下症,③下垂体前葉ホルモン単独欠損症と診断する.さらに,画像検査と病因検査により病因を明らかにし,治療法の選択や予後予測する.
甲状腺機能亢進症の用語の使い方には,若干の混乱が見られる.それは,甲状腺ホルモンの合成,分泌が亢進し,ホルモン作用が過剰となった病態を甲状腺機能亢進症と呼ぶ立場と,これより広義に,甲状腺ホルモンの合成が亢進していなくても,血中ホルモンレベルが高まった状態をすべて甲状腺機能亢進症と呼ぶ場合があるからである.さらに,甲状腺ホルモンの作用が亢進する疾患としてはBasedow病が圧倒的に多いため,甲状腺機能亢進症がBasedow病の同意語として用いられることもある.表1に示すように,甲状腺機能亢進症状(甲状腺中毒症)をきたす疾患には種々のものがある.このうち甲状腺でのホルモン合成が亢進しているグループと,していないグループの区別は治療上大切である.前者が治療を行わない限り基本的にホルモン合成が亢進し続けるのに対し,後者の血中甲状腺ホルモン濃度の上昇は,多くの場合一過性であるからである.
本稿では以下Basedow病の治療を述べる.
確定診断は,甲状腺組織へのリンパ球浸潤などの病理組織所見によりなされる.診療の場では,びまん性の硬い甲状腺腫のある抗甲状腺抗体陽性症例,または甲状腺腫がなくとも甲状腺機能低下と抗甲状腺抗体を認める症例を“確からしい橋本病”として診断している.橋本病と診断されても,正常な甲状腺機能を有し,甲状腺ホルモン補充の必要がない症例は多い.
亜急性甲状腺炎
本症は甲状腺の一部分に起きる非化膿性の炎症で,同部の自発痛と圧痛を訴え,触診で石様硬に触れる.甲状腺は一部,または全体として腫脹する.痛みの部位は一側から他側へと経過中に移動することがある,しかし,数週または数カ月後には完全に回復する疾患である.ウイルスが病因と考えられており,しばしば感冒様症状(発熱,四肢の筋肉痛,全身倦怠感,上気道炎)が前駆する.成人の女性に多く,小児には稀である.
組織像は,急性期には濾胞の破壊,上皮細胞の変性,コロイドの消失と多核白血球やリンパ球の浸潤,さらにはコロイドを貪食した巨細胞がみられ,回復期には線維化とともに濾胞細胞の再生による小濾胞をみる.これらの組織像と正常の甲状腺組織像が不規則に境界をつくっている特徴ある病理所見を呈する.
高カルシウム(Ca)血症は様々な病態によりもたらされるが,原因疾患の大部分は悪性腫瘍に伴うものと,原発性副甲状腺機能亢進症である(表1).血清Ca濃度は副甲状腺ホルモン(PTH),活性型ビタミンDといったCa調節ホルモンにより,腸管からの吸収,骨での出入り,腎尿細管での再吸収の各段階で厳密に調節されている.そのなかで,悪性腫瘍に伴う高Ca血症や原発性副甲状腺機能亢進症では,骨吸収の亢進による骨からのCa動員が高Ca血症の主な発現機序となっている.一方,ビタミンD作用過剰症では,腸管からのCa吸収亢進が病態の中心である.
一般に,高Ca血症では,尿濃縮力が低下することで高度の脱水状態にある.その結果,さらに高Ca血症が増悪してクリーゼに至ることもある.
副甲状腺機能亢進症は,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)が過剰に分泌される病態で,原発性と続発性に大別される.原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:1°HP)は副甲状腺の腺腫(稀に癌)または過形成によりPTHが過剰に分泌される結果生じる.一方,続発性副甲状腺機能亢進症は低カルシウム(Ca)血症によりPTHの分泌が刺激されている病態で,慢性腎不全やビタミンD欠乏症の患者などにみられる.本来,副甲状腺自体の病気ではなく,慢性腎不全の項で述べられると思うので,本稿では1°HPについてのみ述べる.
最近のわが国の手術例における集計成績によると,患者の男女比は1:2で女性に多く,年齢分布は男女とも50歳台にピークがみられる1).特に女性では50歳以降の中高年層に患者数が多い.副甲状腺の病変としては,腺腫が約80%で一番多く,過形成15%,癌5%と続く.
副甲状腺機能低下症(HP)は副甲状腺ホルモン(PTH)の作用不全のため低カルシウム(Ca)血をきたす疾患であるが,PTHの欠乏による本来のHPと,標的臓器である腎のPTH不応による偽性副甲状腺機能低下症(PHP)とに大別される,両者の治療は,低Ca血の是正を目的に活性型ビタミンDを用いる点で変わりはないが,活性型ビタミンDの治療効果や治療上の問題点などにおいてかなりの違いがある.したがって,治療前に両者を正しく診断しておくことが必要である.
PTHは骨細胞に働き,骨吸収を促進して血中にCaとリン酸を動員する.他方,PTHは腎組織に作用し,遠位尿細管においてCaの再吸収を高め,近位尿細管においてはリン酸と水酸イオンの再吸収を抑制する.この際,骨と遠位尿細管におけるCa作用は,活性型ビタミンDなしでは十分に発揮されない.
ADH(抗利尿ホルモン)分泌異常症(syndromeof inappropriate secretion of ADH:SIADH)は抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの絶対的,相対的過機能状態を背景に生じる希釈性低Na血症である.急速に低Na血症を発生した場合を除き,SIADHの症候学的な特徴は乏しく,偶然行った血清電解質検査で発見する場合が多い.その診断は,①低浸透圧血症を伴う低Na血症の存在(高脂血症,高蛋白血症などによる見かけ上の低Na血症を除外),②尿中Na排泄が20mEq/日以上あり,尿が最大希釈されていないこと(尿浸透圧が100mOsm/kg以上を示す),③除外項目の確認(腹水を伴う肝硬変,心不全,低張性脱水,甲状腺機能低下症,副腎皮質機能低下症,利尿剤の過剰使用などを除外)に基づく.病因は異所性バゾプレシン産生腫瘍による自律的分泌によるもの,あるいは中枢神経系および肺に生じる多くの疾患を背景とするバゾプレシン分泌調節系の異常によるもの,さらに薬剤誘発群の3群に大別される.バゾプレシンの水貯留作用の不適切な亢進により,希釈性の低Na血症が発生することがSIADHの病態の第一ステップであり,その後,循環血漿量の増加による腎血行動態の変化,レニン・アルドステロン系の抑制,心房性Na利尿ペプチドの分泌増加などの要因により,低Na血症にもかかわらず尿中へのNa排泄が続き,低Na血症が固定化する.
アジソン(Addison)病は副腎に病変が原発する慢性副腎皮質機能低下症であり,その臨床像は副腎皮質ステロイドホルモン,すなわちアルドステロン,コルチゾール,副腎C19アンドロゲンの総合的な脱落により,両側副腎を合わせ少なくとも90%以上の破壊によって発症する.その原因として副腎結核と自己免疫機序の関与による特発性副腎萎縮が大部分を占める.
本邦では,従来,副腎結核が過半数を占めていたが,結核化学療法の画期的進歩によってアジソン病は激減し,最近では特発性アジソン病の相対的増加がみられ,本邦でも欧米同様,特発性アジソン病が優位となった.
副腎でのアルドステロンが何らかの原因で過剰産生されるようになり,アルドステロンが遠位尿細管に作用し,低K血症と高血圧を引き起こす病態をいう.
1.分類と病因
クッシング(Cushing)症候群は副腎皮質ステロイドであるコルチゾールの過分泌により生ずる疾患である.本症候群はadrenocorticotropic hormone(ACTH)分泌により2つに分類される.ACTHが過剰に分泌され,副腎皮質よりコルチゾールを過剰に分泌するcorticotropin依存性Cushing症候群と,副腎皮質腺腫などによりコルチゾールが過剰に分泌され,corticotropin分泌は抑制されているcorticotropin非依存性Cushing症候群である.前者には視床下部下垂体系に異常があり,ACTHの過分泌されるものと,下垂体以外の腫瘍よりACTHまたはcorticotropin-releasing hormone(CRF)が過剰分泌される異所性ACTH症候群が含まれる.後者には副腎皮質腺腫あるいは癌,原発性副腎皮質結節性過形成によるものがある.Cushing症候群の病因としてはCushing病が最も多く,本邦では40〜60%,諸外国では60〜70%を占める.
Cushing病の80%以上に下垂体腺腫が認められ,そのほとんどが微小腺腫(1cm以下)である.
褐色細胞腫は副腎髄質から生じる腫瘍で,大量のカテコールアミンを産生・放出するため,種々の臨床症状を呈する疾患である.高血圧,頭痛,発汗,動悸,顔面潮紅あるいは蒼白,狭心症様症状,糖尿病,体重減少など多彩な臨床症状を呈する.臨床症状は発作型と持続型に分けられ,前者ではカテコールアミン大量放出時のみに高血圧などの症状を示す.この発作は1日に何回も起こす例から数カ月に1回の例とさまざまで,持続時間も一定しない.後者では高血圧が持続する.その比は2:1と発作型が多い.発作の誘因は,腹部圧迫,排尿,排便,腹部のマッサージなどがある.
本症は全高血圧患者の0.1〜0.5%を占める.本腫瘍の約90%は左右いずれかの副腎から,残りの約10%は両側副腎から生じる.また副腎外発生が10%,悪性型が10%,家族性発生が10%を占めることより,本症は10%病ともいわれる.
花粉症は花粉をアレルゲンとし,いくつもの反応段階を経て形成されたアレルギー性疾患の一つで,その病態は即時型炎症像と遅発型炎症像に大別される(図1).
1.アナフィラキシーショックの病態
ある抗原物質(アレルゲン)にさらされたとき,これに対するIgE抗体を作りやすい体質をアトピーという.産生されたIgEは肥満細胞,好塩基球に受容体を介して結合している.このようなときに抗原に曝露されると,細胞表面で抗原抗体反応が起こり,細胞からヒスタミンなどのケミカルメディエーターが放出され,血管の拡張,血管透過性の亢進,気管支・腸管の攣縮,神経末端の刺激などが惹起される,この反応は数秒から30分以内に起きるので即時型反応といわれるが,それが尋麻疹,鼻炎,下痢などの局所症状にとどまらず,全身違和感,呼吸困難,血圧低下など重篤な全身反応を伴うものをアナフィラキシーといい,こうした反応により引き起こされるショックをアナフィラキシーショックという.
これに対して,IgE抗体を介さずに,アナフィラキシーと同様な症状を呈する反応をアナフィラキシー様反応という.例えば,X線造影剤によるショックは造影剤が補体やカリクレインにブラジキニン系を直接活性化させたり,肥満細胞,好塩基球からのメディエーター遊離を直接刺激したために起こると考えられている.アナフィラキシー様反応も,以上のようにアナフィラキシーにみられるケミカルメディエーターがその発症に関与しており,臨床的にはアナフィラキシーと同様に扱われる.
全身性エリテマトーデス(SLE)は慢性に経過する全身性の炎症性疾患で,経過中,寛解と再燃を繰り返し多臓器病変を伴う.臨床的にはリウマチ性疾患,病理学的には結合組織疾患,病因論的には自己免疫疾患に属する.本邦におけるSLEの推定患者数は約2万5,000人とされ,約90%は女性で,20〜30歳台に好発するが,若年・高齢発症も存在する.SLEの臨床病態は画一的ではなく,軽症のものから重篤なものまで幅広く分布し,それらの病態により治療に対する反応性や予後が異なる.したがって,SLEの診断がなされれば,次の段階で詳細な病態の把握を行う.
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)は横斑筋を主な炎症性病変の場とし,筋力低下を主症状とする疾患である.しかし,皮膚症状を主とし,筋症状の軽微な症例もあり,このような症例も含めて,合併する間質性肺炎,悪性腫瘍が予後を決定することが多いので,注意が必要である.
進行性全身性硬化症(progressive systemic sclerosis:PSS)は,最近では進行性という言葉がはずされ,全身性硬化症(systemic sclerosis:SScと略)というように表現されることが多くなってきた.
SScはびまん性結合組織疾患に属し,全身にびまん性に皮膚硬化がみられる全身型と,四肢末端や顔面にのみ皮膚硬化がみられる限局型に分けられる(CREST〔Calcinosis Cutis,RaynaUd's phenomenon,scleroderma,telangiectasia〕という名称は,石灰化,レイノー現象(Raynaud's phenomenon),食道蠕動運動低下,手指硬化,皮膚毛細血管拡張を兼ね備えた典型例が少ないためか,最近はあまり用いられなくなってきている),また,全身性エリテマトーデス(SLE)や皮膚筋炎/多発筋炎(DM/PM)などの他の結合組織疾患との合併もしばしばみられる.