“ホッ”とspot
“たいしたことのない”腹痛(その2)
高橋 将
1
1済生会宇都宮病院内科
pp.493
発行日 1995年11月30日
Published Date 1995/11/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402904173
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33歳の女性が腹痛を主訴に来院した.2〜3日前より腹が痛みだし,気分も悪いという.夫とは半年前に別れた.今は3歳になる娘と2人暮らしである.“色白”でおとなしそうな女性だ.問診をすると,この3〜4日便秘気味であるという.生理は1週間前に“ちょっと”あった.“ちょっと”とはどういうことだろう.まあ,いつか.腹部は平坦で腸雑音が減弱しているが,触診上“たいしたことはない”.「どうでしょうか」.付き添ってきた妹が不安そうに医者の顔をのぞきこむ.「便秘です」.自信をもって答える(便が出ないのだから便秘には違いない).しかし,それにしても患者はやつれてみえる.心労が重なって夜も眠れないのだろうか.
救急室から出ようと,ドアのノブに手をかけて振り返った.患者は妹に抱き起こされて起きあがったところだ.実に弱々しい風情.ちょっと不安が掠めたが,まあ,いいか.ドアを開けて廊下を歩きかけると,ドサッという鈍い音がした.あわてて戻ってみると,患者がベッドの横に倒れている!急いで脈をとった.速くて弱い.血圧は?血圧は—60mmHg!ショック?!—このときになって初めて患者の眼瞼結膜をみた.貧,貧血がある.“色白”でおとなしいのではなかった.
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