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基準範囲が設定される背景
正常域(または正常範囲,正常値)という概念は,基本的には健常者の95%が占める検査値として統計的手法より算出され,疾病を判別する一つの“物差し”として利用されていた.したがって,大部分の検査項目では平均値±2SDの値が利用されていたが,この概念が十分には理解されず,正常値の設定は平均値±SDと設定される項目も存在した.算出方法に一定の規準が存在していたわけでもなく,考え方に一定の縛りがあったわけでもなかった.しかし,この正常値という言葉は,医療関係者以外の一般市民の間では,病気と病気でないものを判別するものとして理解され,健診/検診などでは,短絡的な考え方から利用されると一部で混乱を招くことになった.
この用語の不適切さをはじめに指摘したのがDybkaer1)であり,この値を算出する基本を考慮して,正常範囲ではなく,基準範囲(reference interval)という言葉を利用することを提案したのである.すなわち,その値を算出する基本となった母集団の性格付けを明確にし,その母集団と同じ環境に存在する人が,自己の計測値をその母集団と比較する(referする)という考え方である.そのために重要となるのは,“20代の男性の非喫煙群”というような,基準範囲を算出する母集団の性格付けである.
なぜ医師は検査をするのか.臨床検査はベッドサイドにおける意思決定の客観的な指標—確定診断のための検査計画,治療方針の決定,合併症や予後の予測など—として重要な役割を担っている.検査をするかしないか,最初にする検査は何か,その後の順番はどうするか,検査結果が陽性のときはどう解釈するか,陰性のときはどうか,検査をしなかったときと比べて臨床情報としての価値が期待できるのだろうか等々,直観や経験に基づいた判断に定量的な意味付けを加える必要がある.
臨床検査は図1に示す手順で,患者から採取された検体が分析され,結果が臨床に返却・報告される.臨床医師は検査成績がそのまま生体での代謝の状態を反映していると考え,診断をし治療を行う.しかし,実際には検体が生体から採取され,検査室まで運ばれ,遠心操作などを経て測定検体として分析装置にセットされて分析が行われる.
したがって,検体採取,検体運搬・保存,分析の各ステップで適切な処置が行われない限り,生体中と同じ成分濃度とはならない.検査室での努力により,分析時の誤差は臨床的判断での許容誤差範囲内となっている.このため,検体採取時,あるいは保存・運搬時での変動が臨床上問題となる.
日常診療において,臨床検査を用い患者の診断をより的確に行うことはもはや避けて通れない現状にある.ただし,診断のためにむやみに検査を依頼するのでなく,医療経済面から効率のよい特異度,感度の高い検査を選択することが一方で望まれている.
この両者を可能にするには,患者に見合った最小限でかつ最適な検査を施行するほかない.そこで,日常初期診療における臨床検査の使い方の公式なガイドラインが必要になってくる.しかしながら,わが国においてはこのようなガイドラインはなく,検査の使い方は各診療科の医師によりまちまちである.
2000年の診療報酬抜本改定に向けてすでに,厚生省案,与党協案,医師会案,医療保険福祉審査議会案などが発表されている.さらに内保連,外保連をはじめとする関係団体の要望もまとまりつつある.1998年11月より始まった日本版DRG/PPSの試行,2000年の診療報酬抜本改定において,高齢者や慢性疾患への包括払いの導入も示唆されている.
1998年の診療報酬改定では,“検査の適正化”と称し,検体検査の受託料金を実勢価格に近づけるためという理由で,検査点数が平均7.4%と大幅に切り下げられた.厚生省の説明では,検査点数を切り下げて衛生検査所の実勢価格に近づけて差益をなくすとしている.このような厳しい状況のなかで,病院検査部をはじめ衛生検査所や臨床検査試薬会社の利益も激減し,競争はさらに激しくなっている.
尿一般検査は,ポイント・オブ・ケア検査(POCT),すなわち「診療・看護などの医療現場で行われる臨床検査」の代表である.尿一般検査とは通常,一般性状(量,色調,濁度,臭気),理学的所見(比重,pH),試験紙法による定性・半定量検査,顕微鏡的検査(沈渣鏡検)がある.非侵襲検査であり,得られる診断情報が多いことから,古くから医師自らが検査していた項目でもある.
ドライケミストリーは,「乾燥状態または外観上乾燥した状態で保存された試薬が,測定時に液状検体を添加されることにより,試薬が含まれるマトリックスにおいて化学反応が進行する検査法」と定義される検査法である.
ドライケミストリーは,1956年にComer,Freeらが尿糖測定用の試験紙を開発したことに始まり,その後尿中微量物質の多くが測定可能な多項目試験紙が開発された.しかし,これらは多くが定性あるいは半定量分析であり,試験紙による定量分析には限界があると考えられていた.しかし,試験紙による色調の変化を簡単な比色計を用いて測定する簡易血糖測定器が開発されて以来,定量性に優れたドライケミストリーによる分析法が続々開発された.そして,現在では血中の多くの成分が液状試薬を用いる日常的な分析法とほぼ同等な精度で,定量的に分析可能となり,医療に利用されている.
血液塗抹標本の作製,観察は医師自ら行う必要がある.その理由は,血液塗抹標本の観察は,ほとんどの血液疾患において確定診断を得ることができるし,白血球数,血小板数の概数の推定まで可能であること,また,血液疾患以外の疾患でも,赤血球,白血球,血小板の異常がしばしば認められるので,塗抹標本の注意深い観察により,血液疾患以外の診断や病態の理解に役立つ有用な情報を容易に得ることができる1)画像診断だからである.
現在,白血球分画は,ほとんどの施設で自動血球計数器で行われており,末梢血における白血球の種類の分布は数値として簡単に得ることができるが,血液塗抹標本の観察は,血球の数,種類以外の形態の変化などをはじめ,種々の情報を容易に得ることができる優れた各種病態のスクリーニング検査法である.
細菌感染によると思われる発熱患者に適切な治療を施すには,できるだけ正確な診断が先行しなければならない.病状の悪い患者を目前に,手をこまねいて培養結果を待つわけにもいかない一方,鑑別診断を絞らずに,性急に広域スペクトル抗菌薬を投与する傾向は戒められなければならない.
診断方法として,問診・診察・スクリーニング的検査が重要であることはいうまでもない.これらのデータから,まず感染病巣を特定し,その部位から検体を採取するように努め,その検体について細菌学的検査を進める.これには大別して塗抹検査と培養検査がある.培養が最も重要な検査であることはいうまでもないが,その結果を得るのに少なくとも2〜3日を要する.早期に起炎菌に対するめどをつけるために,塗抹検査を用いる理由がここにある1,2).これは発熱患者の“診察の一部”と考えたい.
髄液細胞数の算定は,中枢神経系感染症の診断,治療経過の判定,くも膜下出血の診断などに不可欠な検査である.これらの疾患は,迅速な診断に基づき適切な治療を可及的早期に開始することが予後に大きな影響を及ぼすことから,必要と考えられる場合には直ちに髄液を安全に採取し,その細胞数算定検査を自ら施行,評価できるよう,修練を重ねておくことが望まれる.髄液採取法に関しては,ここでは比較的安全に行いうる腰椎穿刺による手技について述べる.
血液ガス分析は,呼吸・循環管理や酸塩基平衡の指標として測定される.ここでは頻度の高い動脈血の採取法ならびに自動血液ガス分析装置を用いた測定手技について解説する.
内科研修医が実施すべき血液型試験は,ABO式血液型とRh0(D)血液型の2種類である.
ABO式血液型試験は,赤血球上の抗原の有無を調べるオモテ試験と,血清(血漿)中の抗体の有無を調べるウラ試験を行って判定する.Rh式血液型は,C,c,D,E,eの5つの抗原が知られているが,なかでもD抗原は抗原性が強いので,輸血前の血液型試験で確認しておく必要がある.
交差適合試験は,原則として,受血者とABO式血液型が同型の供血者血液(日本赤十字社製赤血球製剤)を用いて行う.受血者がRh0(D)陰性のときには,ABO式血液型が同型かつRh0(D)陰性の供血者血液を用いる.
交差適合試験には,受血者血清と供血者赤血球との間の反応をみる主試験(major cross-match)と,受血者赤血球と供血者血清との間の反応をみる副試験(minor cross-match)がある(本誌,免疫血液学的検査の「交差適合試験」の項参照).
一般検査の役割
医学のなかに臨床検査が独立した学問として登場したのは古いことではない.しかし歴史を振り返ると,すでにヒポクラテスの時代に,現在の一般検査項目の一つである尿や糞便検査の記述がみられる.ヒポクラテスは,病気はその予後と診断を知ることが大切であるとし,その手段として尿と糞便の詳しい観察を勧めている.
このあと,特に尿検査は盛んに行われ,尿検査の大家としてカービト2世が現れた.中国でも紀元300〜600年当時発行された医書に,尿の着色異常,混濁異常の記載がみられ,また中世のヨーロッパでは尿検査が必須の診断技術として定着していたことが,当時の宗教画にしばしば尿検査をする尼僧の姿がみられることからも知ることができる.
尿量/尿比重(尿浸透圧)/色調
異常値の出るメカニズムと臨床的意義
腎は食事摂取,飲水,不感蒸泄,発汗,嘔吐,下痢など体液組成・量の変化に応じて尿の希釈・濃縮を行っている.尿浸透圧は50〜1,200mOsm/kg,尿比重は1.002〜1.040,尿量は500〜12,000mlの広い範囲をとりうる.このため尿量,尿浸透圧,尿比重の評価では絶対値が異常かどうかではなく,どのような病態を反映しているのかが重要である.
生理的条件下では,尿量・尿浸透圧は抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)により調節されている.飲水制限などにより血清浸透圧が上昇するとADH分泌が増加し,尿細管における水の再吸収増加により尿は濃縮され,尿量は減少する.反対に飲水により血清浸透圧が低下するとADH分泌が減少し,水の再吸収を減少させ多尿となる.尿の濃縮にはこのADHによる調節と正常な腎で認められる皮質から髄質への浸透圧勾配が必要であり,両者のいずれかが障害されると尿濃縮力低下による多尿をきたす(図1).
尿蛋白の検査は,特別の侵襲がなく,比較的簡便であることから,一般の外来診療や健康診断などにおいて幅広く行われており,腎疾患の診療ではもちろんのこと,種々の病態に関連して診断的価値の高いものである.
尿蛋白の出現様式として,一過性,断続性,持続性と分類される.
尿糖とは,単糖類のブドウ糖,果糖,ガラクトース,ペントース(五炭糖)や,二糖類の蔗糖,乳糖など尿中に出現する糖類を総称していう(表1).1950年代までは糖の還元作用を応用した検査が用いられていたので乳糖尿なども検出できたが,現在ではブドウ糖に特異的な検査法を用いており,ブドウ糖尿以外は検出できない状況になっている.したがって現在の尿糖検査は,主として糖尿病のスクリーニングおよび治療の経過観察,治療効果の評価に臨床的意義がある.
血中のブドウ糖は蛋白と遊離して存在するため,糸球体基底膜で完全に濾過され(濾液/血漿濃度比=1),その後,ほぼ100%が近位尿細管のNa/glucose cotransporterで,Naとともに再吸収される.これは,細胞内外のナトリウムイオンの濃度勾配(尿細管腔と尿細管上皮細胞内のNa+の差)を利用し,これと共役した形で尿中のブドウ糖を吸収するしくみによる.この現象は血漿ブドウ糖濃度を上げていくとある一定値(TmG:尿細管再吸収極量)で頭打ちとなり,以後尿糖は直線的に上昇する.
ケトン体はアセト酢酸(acetoacetate:AcAc),β-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyrate:3-OHBA)およびアセトンの総称である.ケトン体は主として肝において脂肪酸より生成され,正常人でもごく微量は尿中に排泄されるが,試験紙法で陽性になることはない.
絶食,インスリン作用不足,カテコールアミン上昇時などで,糖質からのエネルギー供給が不足すると生体は脂肪からエネルギー産生を行うことになり,脂肪分解が亢進し血中遊離脂肪酸(FFA)が増加する.FFAは肝ミトコンドリア内でβ酸化されアセチルCoAとなる.このアセチルCoAからAcAcが生成され,さらに3-OHBA,アセトンへと代謝される.AcAcや3-OHBAは糖質の代わりに骨格筋,心筋,腎などで代謝されエネルギー源となるが,糖質の不足状態が著しいと脳細胞もこれらを利用する.
1.ビリルビン,ウロビリノーゲンの代謝経路ビリルビンの70〜80%は赤血球内ヘモグロビンのヘム,残りは筋肉内のミオグロビンやその他のヘム蛋白に由来する.ヘムは主に脾の貪食細胞で処理され,ポルフィリン環が開環し,非抱合型ビリルビンに変化する.非抱合型ビリルビンはアルブミンと強固に結合しているため腎糸球体からは濾過されず肝臓に運ばれ,肝細胞小胞体に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受け抱合型ビリルビンになり,胆管を経て十二指腸乳頭から腸管内へ排泄される.抱合型ビリルビンの一部は血液中へも移行し,大部分がアルブミンと結合するが,約1%は結合していないため容易に腎糸球体で濾過され尿中へ排泄される.一方,腸管内へ排泄された抱合型ビリルビンは大腸内常在細菌のグルクロニダーゼにより脱抱合と還元を受け,L型(ステルコビリノーゲン),I型(メゾビリルビノーゲン),D型ウロビリノーゲンになる.ウロビリノーゲンの約80%は糞便中へ排泄されるが,約20%は腸管から吸収され,門脈を経て肝細胞に取り込まれた後,再びビリルビンとなって腸管内へ排泄される(腸肝循環).一方,血液中のウロビリノーゲンの一部(主にL型,次いでI型)は腎を通り尿中へ排泄される(図1).
ポルフィリンは,ヘモグロビンなどのヘム蛋白の構成成分であるヘムの前駆物質である.図1に示すように,グリシンとサクシニルCoAが素材となり,δ-アミノレブリン酸(ALA),ポルフォビリノーゲン(PBG),ウロポルフイリン(UP),コプロポルフィリン(CP),プロトポルフィリン(PP)などの中間産物を経てヘムが合成される.この中間代謝産物を総称してポルフィリン体(P体〉と呼ぶ.
尿ではALA,PBG,UP,CPが測定可能である.UP,CPが存在すると尿は赤色を呈する.PBGは放置すると酸化され特有のブドウ酒色を呈する.
β2-マイクログロブリン(β2-m),α1-マイクログロブリン(α1-m)は,いずれも分子量5万以下の低分子蛋白である.前者は全身の有核細胞で,後者は肝細胞で産生され,きわめて短時間に糸球体基底膜を通過し,そのほとんどが近位尿細管細胞で再吸収,異化され尿中にわずかに排泄される.
腎糸球体機能の変化あるいは障害が起こると,その程度に応じて血中からアルブミン,IgGなどの中分子蛋白(分子量6.7万以上40万未満)が排泄され,これに付随して尿中排泄は増加する.
尿潜血反応は,通常試験紙による定性反応で行われる.測定原理を簡単に述べると,ヘモグロビンのペルオキシダーゼ様活性によって,試薬の過酸化物が活性酸素を遊離させ,この活性酸素によって還元型色原体が酸化型色原体となり,発色するものをみるものである.尿試験紙には溶血剤も含まれており,尿中に赤血球が認められる場合,試験紙に触れることにより溶血が起き,遊離したヘモグロビンが上記の反応を起こすことになる.ペルオキシダーゼ様反応は,ヘモグロビンのほか,ミオグロビンでも同様の反応が起きる.
本検査は非常に鋭敏であり,尿沈渣での赤血球3〜5/HF,またはヘモグロビン(もしくはミオグロビン)15μg/dlで陽性となる.健康診断にて行われる尿検査にて,尿潜血の陽性率は男性で2〜7%,女性で7〜21%と非常に高率であることが報告されている.しかし,二次検査にて明らかな原因の特定ができるものは陽性者の40%にすぎず,治療を必要とするものは,そのうちのさらに40%弱であることが示されている.すなわち,健康診断での尿潜血陽性者のうち80%以上は正常もしくは経過観察という結果になるが,陽性患者のうちで1〜2%の頻度で尿路系の悪性腫瘍が含まれていることも示されており1),決して無視できない検査項目であろう.
臨床所見から腎尿路系の疾患を疑うときや,健康診断などによる尿定性検査で何らかの異常がみられたとき,尿沈渣を観察することにより様々な情報が得られることがある.現在,尿沈渣検査の方法は,JCCLS(日本臨床検査標準協議会)により標準法が提唱されている1).その概略を述べると,新鮮尿10mlをスピッツにとり,500G,5分間の遠心後,上清を除去し,残存する沈渣のうち約15μlをスライドグラス上に滴下し鏡検するということである.鏡検の際には無染色で観察する場合と,Sternheimer染色などの生体染色を行う場合がある.
尿沈渣には様々な有形成分が観察されるが,大きく分類して,循環血液由来の血球成分,剥離した腎尿路系の上皮細胞,腎の尿細管・集合管で形成された円柱類,尿路感染に伴う微生物類,代謝産物に由来する結晶成分・塩類が含まれる.実際に検査室では,30種以上に及ぶ沈渣成分を分類している(表1,図1)が,常に病的意義をもつものではなく,量的,質的な解釈が必要である.
便潜血反応検査の意義
消化器疾患では,病状経過中に多少にかかわらず出血を伴う機会が多い.しかし,症状が発現した時期では,消化器専門医による病因検索のための諸検査が実施されるが,その際には大きな精神的ならびに経済的負担を患者に強いることになる.しかも,症状が発現した段階では,根治的治療の時期を逸していることも稀ならず経験する.もし,便に混入している微量の出血を早期に検出できれば,疾患を初期の段階で発見することとなり,患者への負担は著しく軽減する.
その簡便な方法として,便潜血反応検査法が用いられているが,それらの原理ならびに検出精度が異なっていることを念頭に置かなければ,判定を誤るおそれがある.また,すべての検査に該当することであるが,検体の採取,搬送および保存について適切な処置を講じなければ,誤った判定が下されることにもなりかねない.
近年,新興・再興感染症(emerging and reemerging infectious diseases)という言葉をよく耳にするようになった.過去20年以内にヒトにおける罹患率が上昇したか,近い将来増加が懸念される感染症としてWHOがその概念を提唱し,感染症対策に新しい対応が求められるようになったためである.わが国ではほとんど消滅したと思われていた寄生虫病が再び増加傾向にある.グルメブームや海外旅行ブームなどがその背景にあると思われる.
水道水汚染によるクリプトスポリジウムの集団感染や熱帯・亜熱帯地域からの帰国下痢症者のランブル鞭毛虫感染など,糞便検査の重要性が再確認されている.本稿では,消化管寄生原虫類,蠕虫類について糞便検査の概略とその際の注意点,検査法について述べる.
胸水,腹水について述べる.
胸腔,腹腔には正常でも少量の体液が存在し,摩擦を軽減する潤滑油の役割をしている.この体液が病的に貯留増加した状態が胸水であり,腹水である.胸水,腹水の検査の目的は,その性状と貯留原因を調べることであり,試験穿刺を行う.
臨床的意義
髄液(脳脊髄液:cerebrospinal fluid)は,くも膜下腔および脳室を満たす無色透明な水様の液体であるが,中枢神経系への物理的侵襲に対する保護の役目を果たすのみならず,脳室,くも膜下腔内の化学的ホメオスターシスの維持,栄養物質,代謝産物などの輸送,除去などの役割をも担うと考えられている.髄液は,成人では1日に約500ml程度,主として脳室の脈絡叢より産生されるが,脳室上衣,軟膜血管などからの寄与も考えられている.髄液は基本的には血液成分に由来するが,髄液の産生は単なる透過,拡散のみではなく,能動的かつ選択的な物質の輸送によるところが大きいと考えられる.実際,各成分の血漿/髄液間での濃度比には明らかな差異が認められる.産生された髄液は側脳室より第三脳室,中脳水道,第四脳室を経由し,Luschka孔やMagendie孔を通って脳,脊髄表面のくも膜下腔に拡散していくが,最終的には主としてくも膜顆粒のくも膜絨毛より静脈系に回収される.
髄液検査が日常臨床のなかで特に重要な役割を果たすのは中枢神経系疾患の診断であるが,なかでも各種頭蓋内感染症の診断には不可欠な検査である.このほか,くも膜下出血,頭蓋内悪性腫瘍,脱髄疾患などの診断にも有用な情報を提供する.
血液検査は一般的に,赤血球・白血球・血小板の数と形態を検査する血球検査,血栓止血異常を調べる凝固・線溶系検査に大別される.
これらは血液・造血器疾患を診断し,経過を観察するうえできわめて重要な意義がある.というのも,ほとんどの血液・造血器疾患では血液検査に異常所見が検出できるからである.さらに,肝疾患,腎疾患,内分泌疾患,自己免疫疾患などといった種々の全身性疾患に伴う血液所見の変化や,薬剤による副作用の有無をチェックするためにも,不可欠な検査となっている.
異常値が出るメカニズムと臨床的意義
貧血,あるいは赤血球増加症の診断,ならびにそれらの程度を知るために検査が行われる.貧血がみられる場合には,赤血球,ヘモグロビン(血色素),ヘマトクリットの測定値から赤血球指数(MCV,MCH,MCHC)を計算で求め,貧血を分類する.
赤血球の減少あるいは増加は,血液・造血器疾患により造血能そのものに障害がある場合だけでなく,種々の全身性疾患でも異常になる可能性がある.このため,初期診療では欠かすことのできない検査である.
網赤血球(reticulocyte)は,骨髄内で赤芽球が脱核した直後でミクロソームやリボソームが残っている赤血球のことである.1〜2日の寿命を経て成熟赤血球となり,末梢血液中にはごく少数しか存在しない.赤血球をメチレン青などで超生体染色してRNAが網状に染まった赤血球を視算法でカウントするか,RNA染色して自動測定装置で測定し,赤血球当たりの比率で算出する.
出血や溶血などによって赤血球系の造血が旺盛になると,網赤血球が増える.この際,骨髄から通常よりも早く末梢血液に流出し,かっ網赤血球の寿命も長くなる.したがって,貧血が起きれば代償的に網赤血球が増えることになる.もしも貧血があるのに網赤血球数が増えていないか減少していれば,再生不良性貧血や赤芽球癆など,赤血球の造血そのものに問題があると解釈できる.
正常な赤血球は,細胞膜上に補体制御因子(CD55,CD59)を発現することにより,細胞膜上における補体活性化反応による溶血を抑制している.しかし,発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)における異常赤血球は,CD55およびCD59が欠損するために,いわゆる補体感受性が亢進している.砂糖水(庶糖水)試験とHam試験は,この補体感受性の亢進した赤血球を検出するための試験である.
砂糖水試験は,イオン強度の低い蔗糖水中では補体が赤血球に結合し溶血しやすくなること(古典的経路)を,Ham試験は,新鮮血清を塩酸で酸性化(pH6.5〜7)することにより補体の副経路が活性化されることを,それぞれ利用した赤血球の補体感受性の検査法である.
異常値か出るメカニズムと臨床的意義
白血球は,骨髄の中で造血幹細胞が分化,成熟して産生される.成人では日々ほぼ1011個の白血球が作られている.末梢血液中を循環するだけでなく(循環プール:circulating pool),毛細血管壁に付着したり血管壁に沿って流れるものもあり(辺縁プール:marginal pool),感染症や外傷などの病態に応じて白血球は適宜動員される.さらに血管内から組織へと遊走しているものもある(組織プール:tissue pool).
白血球は,好中球,好酸球,好塩基球,リンパ球,単球からなる.これらは,異物貪食,殺菌,免疫応答,アレルギー反応などの役割を担っており,感染,外傷,組織崩壊,腫瘍などの際において炎症反応の主体をなす.このため,白血球数の増減により,感染症などの診断や経過観察を行うのに有用な指標となる.また,白血病など血液・造血器疾患の診断や経過観察にも重要である.さらに,薬剤などの副作用として白血球数に変動のみられることもある.
血液・造血器疾患では多くの場合,血球数に異常があり,診断される.
しかし,血球数には異常がなくても白血球百分率に異常があったり,各血球の形態に変化が起きていることも少なくない.殊に白血病や骨髄異形成症候群の診断には末梢血液像と骨髄像を観察することが不可欠である.このほか,貧血の場合でも,赤血球にみられる種々の形態的な変化から鑑別診断がつけられることがあり,末梢血液像の観察は意義深い.
異常値の出るメカニズム
血小板は,骨髄中で骨髄巨核球からその細胞質の一部が分離する形で分離・形成される,直径1〜4μmの核をもたない血球である.骨髄での産生から,肝脾などの網内系臓器で処理されるまでの末梢での血小板の寿命は,正常では,8〜10日間であり,毎日1/8〜1/10が入れ替わっていることになる.また,末梢の血小板のうち約1/3が脾臓にプールされており,循環血液中の血小板と自由に入れ替わっている.
骨髄巨核球からの血小板産生調節は,巨核球刺激因子あるいは血小板増加刺激作用をもつサイトカインであるthrombopoietin,EPO,SCF,GM-CSF,M-CSF,IL-1,IL-3,IL-6,IL-7,IL-11などの直接あるいは,間接的な作用により行われていると考えられているが,その生体内メカニズムの詳細はいまだ完全には明らかにされてはいない.
異常の出るメカニズムと臨床的意義
骨髄検査の適応となるのは,末梢血液検査(計測値,細胞形態,芽球の出現)の異常,造血臓器である骨髄細胞の異常が原因となる疾患,骨髄への腫瘍の転移,感染症のうち結核などの肉芽腫性疾患,Gaucher病などの蓄積病である.
信頼性のある結果を得るには,検査の手技,部位,方法が適切でなくてはならない.骨髄は年齢とともに脂肪化が進むため,体幹に近い脂肪化の少ない部位がよい.脊椎骨,胸骨,腸骨の順で脂肪化が多くなる.
ペルオキシダーゼ染色
ペルオキシダーゼ(顆粒球系細胞に存在するミエロペルオキシダーゼ)染色が臨床的に最も有用なのは,急性白血病の病型診断の場合である.そのほかには,慢性骨髄性白血病の急性転化時における細胞系統の判定,さらに好中球機能検査として用いられることがある.
FAB(French-American-British)分類は血液造血器腫瘍の国際分類で,名称は仏,米,英の血液学者による共同作業として提唱されたことに由来する.最初に急性白血病の分類が発表され,その後骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の規定など数回の改訂がなされた1〜6).このほか,慢性(成熟型)リンパ性白血病や慢性骨髄性白血病の分類も提唱されている.本稿では紙幅の関係もあり,最もよく利用されている急性白血病とMDSについてのみ記す.
ヘモグロビン(Hb)は,血液中の赤血球内蛋白の95%以上を占める赤色の複合蛋白質で,肺で結合した酸素を末梢組織へ運び,末梢組織の代謝によって生じた二酸化炭素を体外へ排出する生理的に重要な役目を担っている.異常Hb症は,それを構成する2種(αとβ鎖)のグロビン蛋白構造異常による異常Hb症と,グロビン構造は正常であるが,合成不均衡によるサラセミア症がある.いずれも遺伝性の疾患である.前者は構造遺伝子の塩基の置換などによるアミノ酸配列異常のグロビンで構成され,分子の不安定性や機能(酸素親和性)異常をきたし,Heinz小体形成や感染症(例えばパルボウイルスB19)により発作的な溶血性貧血を起こす不安定異常Hb,定期的瀉血を必要とする多血症となる異常Hbや紫藍症状を現わす異常Hbなど,多種多様な病態を示すものがある.後者では特徴的な小球性低色素性貧血を呈する.血球形態異常(標的,奇形など)を示し,肝脾腫が認められ定期的な輸血を必要とする重篤な症例もみられる.
正常の止血機構
外傷により出血が起こると,生理的な反応として血管損傷部位に効果的な血栓(止血栓)が形成され止血する.一方,疎通している血管が閉塞して臓器障害を起こす病的な血栓もあるが,両者の形成機序はほぼ共通している.
血液は,正常な内皮細胞でおおわれた血管内では血栓を作ることはない.しかし,外傷により血管内皮細胞が断裂し,血液が内皮下組織のコラーゲンなどに触れると,von Willebrand因子(vWF)を介して血小板が内皮下組織に粘着し,さらに活性化され凝集して一次止血栓を形成する(図1).また,内皮下組織にある組織因子(tissue factor:TF,因子番号では第III因子,組織トロンボプラスチンの蛋白成分に相当)は,血液中の活性化第VII因子と複合体を形成して第IX因子を活性化する.活性化第IX因子は第VIII因子と共同して第X因子を活性化する.活性化第X因子は第V因子と共同してプロトロンビン(第II因子)をトロンビンに換え,トロンビンはフィブリノゲン(第I因子)を分解してフィブリンを生成する.フィブリンは第XIII因子によって安定化し凝固機序が完了する.安定化フィブリンは血小板による一次止血栓を網状に包み込み,強固な二次止血栓にして止血を完全なものにする.成書にしばしば示される模式的な凝固カスケード(階段状に連続した滝の意)を,図2の太い矢印で示した.
PTは外因性および共通性凝固因子のスクリーニングテストとして広く日常の臨床検査に用いられている.原理は被検血漿に組織トロンボプラスチンとカルシウムイオンを加えて,凝固するまでの時間を測定するものである.この検査は外因性凝固因子と共通性凝固因子群の複合した反応を測定する方法であり,第II因子(プロトロンビン),第V因子,第VII因子,第X因子の活性に関する異常を検出することができる.一般的には内因性凝固因子群と共通性凝固因子群の反応を測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)と組み合わせることにより,血液凝固異常症のスクリーニング検査として使われている.この原理についてはAPTTの項において解説する.
APTTは主に出血傾向の有無を診断するための検査法で,被検血漿に血小板膜の代わりのリン脂質を十分に補い,接触因子を十分活性化させる添加物を加えて,さらにカルシウムイオンを添加して血漿が凝固するまでの時間を測定するものである.この検査は内因性凝固因子群と共通性凝固因子群の複合した反応を測定する方法であり,関連する凝固因子が単独または複合して欠乏すると,凝固するまでの時間が延長する.
一般的には外因性凝固因子と共通性凝固因子群の反応を測定するプロトロンビン時間(PT)とAPTTを組み合わせることにより(図1),血液凝固異常のスクリーニング検査とされている.凝固因子の欠乏原因が先天性疾患である場合は単独の欠乏である場合がほとんどであり,APTTが著明に延長し,PTが基準範囲内の場合は内因性凝固因子のうちのどれかの異常であり,PTが著明に延長し,APTTが基準範囲内の場合は外因性凝固因子の異常であり,両者が著明に延長した場合は共通性凝固因子のうちのどれかの異常であると考える.
トロンボテスト
ウシ由来組織トロンボプラスチン,ウシ吸着血漿(II・VII・IX・X因子を欠く)に被検血漿を加えて凝固時間を測定する方法で,ビタミンK依存性凝固因子II・VII・X因子の総合的な凝固能を判定する(IX因子は内因系のためほとんど影響しない).またビタミンK欠乏状態,ワーファリン®服用時には不完全なビタミンK依存性凝固因子(II・VII・IX・X因子)が産生されて,PIVKA(protein induced by vitamin K antagonist)と総称され凝固阻害に働く.トロンボテストはPIVKAの影響をも含めたII・VII・X因子の総合活性を反映する.このため抗凝固薬ワーファリン®治療のモニター検査としてわが国では広く用いられている.
出血時間
ランセットを用いて皮膚に小さな一定の切創を加えて出血させ,自然止血に要する時間を計測する検査.一次止血に関与する血小板数・血小板機能・毛細血管とその周囲組織の性状が主に影響する.現在は血小板数は容易に測定できるので,血小板機能のスクリーニング検査の意味合いが強い.耳朶を穿刺するDuke法が簡便で広く行われている(Ivy法では前腕部を穿刺する).
血管組織が破綻すると,血小板による一次止血とともに凝固系が発動される.凝固の最終段階においては,形成されたトロンビンの作用でフィブリノゲンからフィブリノペプチドA,フィブリノペプチドBが離れフィブリンモノマーになり,重合してフィブリンポリマーを形成する.さらにトロンビンによって活性化されたⅩⅢ因子が作用して不溶性フィブリンとなり,強固なフィブリン血栓が形成され凝固機序は終了する.一方線溶亢進状態では,プラスミンの作用でⅤ・Ⅷ・ⅩⅢ因子とともにフィブリノゲンも分解を受ける.測定は,トロンビン添加による凝固時間を応用したトロンビン時間法が広く用いられる.
血管破壊や炎症などが原因となり,生体内で血液凝固反応が開始されると,凝固カスケード反応により,最終的に大量のトロンビンが生成される.トロンビンは,フィブリンの形成,血小板の凝集,平滑筋細胞の増殖などの様々な生体反応に関与し,血液凝固反応のみならず組織障害修復機構のキーエンザイムとして機能する.過剰のトロンビンは,容易に血管内血栓を生じさせる能力をもつため,役目を終えたら速やかに消滅させる必要がある.
生体内で過剰のトロンビンを不活性化する因子の一つとして,アンチトロンビンⅢ(AT Ⅲ)がある.アンチトロンピンⅢ(AT Ⅲ)は,肝臓で合成されるセリンプロテアーゼ・インヒビター(serpin)ファミリーの一員で,トロンビンのほか,第Xa因子,第IXa因子などの強力な阻害因子である.生体内で産生されたトロンビンは,アンチトロンビンⅢ(AT Ⅲ)により,ヘパリン存在下で速やかに不活性化され,トロンビン・AT Ⅲ複合体(TAT)を形成する.したがってTATを測定することは,生体内で産生されるトロンビンを間接的に測定することである.TATの血中半減期は15分以下ときわめて短いため,TATは血管内でのトロンビン生成の適切なマーカーとなる.
FDPは,フィブリンおよびフィブリノゲンの分解産物の総称である.Dダイマーとは,トロンビンと凝固第XIII因子(F.XIII)の作用によって形成された安定化フィブリンのプラスミンによる分解産物の総称であるが,正確には,架橋されたフィブリンの分解産物であるので,Cross-linked fibrin degradation products(XDP)とも呼ばれる.多くの場合,FDPやDダイマーの血中濃度の上昇は,血栓形成を反映する.
フィブリノゲンは,ポリペプチドであるAα,Bβ,およびγ鎖の2量体,すなわち(AαBβγ)2であるが,この構造中,各ポリペプチド鎖間にss結合が多く存在し,蛋白分解酵素に対して耐性である部分がある.この構造は,フィブリノゲン1分子中に3カ所あり,N端に近い部分がE分画(1カ所),また,C端に近い部分がD分画(2ヵ所)と呼ばれる(図1).トロンビンの作用により,Aα鎖のN端からフィブリノペプチドA(FPA)が除去されると,フィブリンⅠになるが,さらにトロンビンの作用によりBβ鎖のN端からフィブリノペプチドB(FPB)が切断され,フィブリンⅡが生成する.フィブリンⅡはポリマー化しやすく,これらの結果,フィブリンポリマーが生成する(図1).
可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrin monomer complex:SFMC)は,大量のトロンピンによってフィブリノゲンから生成した過剰なフィブリンが,高分子物質であるフィブリノゲン,フィブリン分解産物,およびフィブロネクチンを結合し,複合体を形成したものである(図1).すなわち,SFMCが血中で検出されれば,過剰なフィブリン形成が引き起こされたことを意味する.
いろいろな病態で,凝固系の活性化が惹起されると,トロンビンが形成され,それに伴い,トロンビン-アンチトロンビン複合体,フィブリノペプチドA,およびプロトロンビンフラグメント1十2などが生成される.しかし,これらのマーカーは,トロンビン生成のマーカーであり,決して血栓形成のマーカーではない.これに対して,可溶性フィブリンやSFMCが血中で検出されれば,これは血栓が形成されたことを意味する(図2).血栓が形成されても,線溶活性が低下していると,FDP濃度は上昇しないことがあるが,SFMC検出は,このような場合でも,血栓形成の指標となりうる.
血液凝固反応が活性化され,フィブリン(線維素)が析出すると,フィブリンにプラスミノゲンアクチベータ(plasminogen activator:PA)が結合して,フィブリン分子上に結合したプラスミノゲンを活性化する.活性化で生じたプラスミンは即座にフィブリンを分解するように働く.この線維素溶解(線溶)機構は,(血漿)プラスミンインヒビター〔(plasma)plasmin inhibitor:PI,(従来α2-plasmin inhibitorないしα2-antiplasminと呼ばれた)〕とPA inhibitor(PAI)によって制御されている.PIは,プラスミノゲンのフィブリンへの結合を阻害し,また活性化XIII因子によってフィブリンに架橋結合し,フィブリン上で結合したプラスミンを即座に不活化する(次項の図1参照).フィブリン融解を行う二次線溶の制御において,フィブリンに結合していない遊離のPIは,フィブリンに架橋結合したPIに比較して,はるかに弱い働きしかしていないが,循環血液中に存在するプラスミンを即座に不活化し,フィブリンが析出していない状態での線溶反応を抑えている.
血栓表面上(固相)では,プラスミノゲン(plasminogen:PLG)が,フィブリン親和性の高い組織型プラスミノゲンアクチベータ(tissue-type plasminogen activator:t-PA)によって活性化され,プラスミンに変換されて線溶を起こす.T-PAは,血栓中の血小板から放出されたプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PA inhibitor-1:PAI-1)によって不活化されるが,循環血中のt-PAより阻害を受けにくい.プラスミンは,フィブリンに架橋結合したプラスミンインヒビター(plasmin inhibitor:PI)(前項p168参照)によって阻害され,線溶過剰が抑えられている.循環血液中(液相)では,二本鎖ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(urokinase-type PA:u-PA)がPLGを活性化するが,血管内皮細胞から分泌されたPAI-1によって阻害され,生じたプラスミンも速やかにPIによって不活化される(図1).
血液凝固反応活性化で産生されたトロンビンは,血管内皮細胞膜上の糖蛋白トロンボモジュリン(thrombomodulin:TM)と結合し,プロテインC(protein C:PC)を活性化する.内皮細胞上に存在するPC/活性化されたPC(activated PC:APC)受容体(endothelial protein C receptor:EPCR)は,トロンビン・TM複合体によるPCの活性化を著しく促進する.APCは,別のビタミンK(Vit K)依存性蛋白のプロテインS(protein S:PS)を補助因子として,活性化第V因子(FVa),活性化VIII因子(FVIIIa)の両方を蛋白分解して不活化し,凝固反応進行を遅滞させる.血漿中のPSは,約60%が,古典的補体活性化経路の制御蛋白であるC4b-結合蛋白(C4b-BP)に結合して存在する.C4b-BPに結合していない遊離型PSのみが,APCの補助因子として作用する.FVは,PSとともに存在すると,APCがFVIIIaを不活化する際の補助因子として働くため,APCコファクター2とも呼ばれる.欧米人において従来原因不明の先天性血栓性素因患者の多くがAPCの抗凝固作用に対する抵抗性(レジスタンス:低応答性)を示すことがわかり,APCコファクター2すなわちFVの異常であることが推測された.
血液凝固因子の活性化は,活性化された凝固因子が,特定の凝固因子を引き続き活性化させる逐次反応によって連続的に進行する.したがって,生体内で過剰な凝固反応が進んだときには,多くの凝固因子が連鎖的に活性化され,やがてアンチトロンビンなどにより失活を受ける.すなわち,過凝固状態の初期には,血漿中の各凝固因子の活生が見かけ上増加し,引き続き,消費性に低下する.各凝固因子は,主に肝臓で産生され,特定の血中半減期に従って代謝される.この際,凝固因子の血漿濃度は,産生や貯蔵部位からの放出が増えるときには上昇する.各種の誘因によるビタミンK欠乏症では,ビタミンK依存性凝固因子群のγカルボキシル化が抑制され,おのおのの活性は低下する.また,ある凝固因子に対する特異抗体が産生されたときには血中半減期が短縮し,血漿濃度は低下する.ループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体症候群の血漿では,リン脂質を用いる凝固因子の共通測定系に影響を及ぼし,見かけ上複数の凝固因子活性が低値を示すことがある.
光学的凝集計による凝集過程は,①膜表面の受容体によるアゴニストの受容,②その刺激の細胞内伝達および増幅,③膜蛋白GPIIb/IIIa(integrin αIIbβ3)の構造が活性化され初めてフィブリノゲンを結合しうるようになり,結合したフィブリノゲンがいわば細胞間の糊(paste)となり,血小板相互をくっ付ける,という3段階がこの順に進んで凝集となる.したがって凝集能の異常(圧倒的に低下が多い)をきたすメカニズムは,これらの3段階の先天性異常,稀ながら後天性の異常,あるいは薬物による阻害によって起こる.
血清蛋白の種類と分類
血清蛋白はヒト血清中に約8%の濃度で含まれ,現在,微量成分も含めて構造や性状の異なる約80種類以上のものが確認されている.これらの蛋白は種々の機能を有しており,体液の浸透圧維持,物質の結合と輸送,補体活性,血液凝固能,抗体活性など成分により機能分担があり,生体内における生命維持に大きな役割を演じている.したがって,特定の蛋白の定量,その増減の観察は病態を把握するうえできわめて重要である.表1には,pH 8.6の緩衝液の中における主な血清蛋白成分を相対易動度別に示した.これらのなかには,いまだ生物学的機能の判明していないものも少なくない.
血清蛋白の種類は100以上にのぼる.その主なものはアルブミン,免疫グロブリン,リポ蛋白などである.これらの総量をみるのが総蛋白であり,構成比から様々な病態の把握を行うのがA/G比と蛋白分画である.個々の蛋白定量に較べ疾患特異性は劣るが,いずれも迅速,簡便かつ安価に血清蛋白の概況が把握できる利点をもつ.このため日本臨床病理学会は,「日常診療における基本的臨床検査」の一つに組み入れている.
それぞれの分画に含まれる主な蛋白を表1に示す.数が多くて覚えきれないようにみえるが,実際は各分画で最も量の多い蛋白1〜2種類の増減が大きく反映される.例えばα1分画に含まれる蛋白では,急性相反応物質α1アンチトリプシンが主体で,炎症性疾患で増加する,α2分画ではハプトグロビンが主体で,炎症で増加,溶血で減少する.β分画ではリポ蛋白とトランスフェリンが主体で,前者は高脂血症で増加,後者は腎糸球体障害で減少する.γ分画ではIgGが最も多く,炎症性疾患やM蛋白血症で増加する.また「血清総蛋白」としては,量的に最も多いアルブミン,グロブリンの増減に左右される.このように各分画の代表的蛋白を一つずつ覚えれば,基本的なパターンは判定できる.
どんな時に免疫電気泳動を検査すべきか
免疫電気泳動を施行する目的は次の三つである.
1.M蛋白の同定
多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,本態性M蛋白血症などが疑われる症例において,M蛋白やBence Jones蛋白の有無,種類と大まかな量を知る.
肝での蛋白合成能および栄養状態の指標として,従来より血清アルブミン濃度が用いられている.しかし,血清アルブミンは血中半減期が2〜3週間と長いため鋭敏な指標とはいえない.
プレアルブミンはそのほとんど(99%)が肝で合成され,かつ血中半減期が1.9日ときわめて短いrapid turnover proteinであるため,その血中濃度は肝障害の程度および栄養状態の早期指標として用いられている.
異常値のメカニズムと臨床的意義
α1-マイクログロブリン(α1-m)は分子量が3万の糖蛋白で,主にAGEの担送機能を有するとされる.一方,β2-マイクログロブリン(β2-m)は1万1千でHLA抗原のL鎖を構成し,ウィルス感染他の免疫応答に関与する.前者は主に肝細胞で,後者は全身の有核細胞,殊に免疫担当細胞,肝細胞などから産生される.異化動態は共通で,低分子蛋白であるためきわめて短時間に血清から腎糸球体基底膜で濾過され,近位尿細管細胞で再吸収,異化され,ごくわずか尿中に排泄される.血清α1-mではさらに血中IgA,プロトロンビン,アルブミンなどと結合存在するものが約50%を占める.ここでの異化の機序はいまだ明らかでない.
したがって,α1-m,β2-mの血中濃度は,腎前性の産生能,腎による異化処理能,およびα1-mについては結合蛋白の濃度の動態により左右される.
α1-アンチトリプシン(α1AT)およびα1-アンチキモトリプシン(α1ACT)は,蛋白分解酵素を阻害する蛋白(protease inhibitor)に属し,前者はエラスターゼ,トリプシン,キモトリプシン,コラゲナーゼなど各種のproteaseの作用を中和ないし阻害するが,後者はキモトリプシンやカテプシンGを中和し,またPSA(prostate-specific antigen)と結合する特徴がある.また,両者は炎症や癌などで組織障害時に血中に増加する急性期蛋白の一種でもある.
α1ATは主に肝細胞で生成され,炎症時には2~3日で基準値の約2倍に達し,炎症の指標となる.また,悪性腫瘍でも増加することが多く,腫瘍マーカーの一つでもある.α1ATには遺伝型として,20数種の表現型phenotypeがあり,それぞれ血中濃度が異なる.特にα1ATの最も低値を示す先天性α1AT欠乏症(表現型ZZ型)は慢性閉塞性肺疾患(肺気腫)を発症しやすく,また小児肝硬変を伴う頻度も高い.
α2マクログロブリン(α2 macroglobulin:α2M)は,単球・マクロファージ系の細胞などで産生される分子量72,000の糖蛋白である.血中に最も多い蛋白分解酵素阻害蛋白(protease inhibitor)として,多くの蛋白分解酵素(protease)の活性を阻害することにより,血液凝固,線溶系,炎症反応などに関与している.
血中α2Mの減少する病態はあまり多くはない.DICでは,形成されたα2 M-plasmin複合体が網内系で消費され,α2Mが低下すると考えられている.急性膵炎では,trypsinと結合し消費するとされる.骨転移を伴う前立腺癌では,血清α2Mが約20mg/dl以下に著減すること(α2M欠損症)があり,本症に特異的なものと考えられ,その機序としては,前立腺組織より放出されるPSA,urokinaseなどのproteaseとα2Mのcomplexの形成による異化の亢進が考えられる.
鉄貯蔵蛋白には,水溶性のフェリチン,水に不溶性で沈着するヘモジデリンがある.フェリチンは,細胞内に貯蔵されるが水溶性であるため,組織から血中に溶解され血清フェリチンとして測定される.フェリチンは,球状で分子量44,500のアポフェリチンが,空洞状の中央部に2,500〜4,000原子の鉄イオンを含んだ鉄複合体である.アポフェリチンは,24個のサブユニットからなり,鉄イオンは,サブユニット間の隙間を通路として出入りする.サブユニットには,H型(heavy,分子量21,000)とL型(light,分子量19,700)があり,H型とL型が種々の比率に集合してイソフェリチンを形成する.各イソフェリチンは組織によって異なり,肝や脾では,L-subunitの比率が高く,心臓ではH-subunitの比率が高い.
血清フェリチンの増加する機序の一つは,組織内のフェリチンの変動である.鉄は,細胞内でフェリチンmRNAを増加させ,また鉄調節因子が,フェリチンmRNA上の鉄反応要素に結合するのを抑制するなどにより,フェリチン合成を促進する.血清フェリチンの1ng/mlは貯蔵鉄8〜10mgに相当するとされ,組織鉄の変動を反映して変化する.貯蔵鉄を反映せずに血中フェリチンが増加する機序として,肝臓その他,脾臓,骨髄,心臓,肺などにフェリチンが存在しており,これらの臓器が障害されると血中に逸脱して増加する.
異常値をきたすメカニズムと臨床的意義
セルロプラスミンは分子量132,000の青色を呈する銅蛋白であり,血清銅の95%はセルロプラスミンに含まれている.消化管から吸収された銅はアルブミンと結合して肝臓に運ばれる.肝臓で銅はアポセルロプラスミンと結合してセルロプラスミンとなり血中に放出される.排泄経路は主に胆道であり,そのほかに腎臓からも少量排泄されている.
セルロプラスミンは銅運搬としての機能は弱く,重要な生理作用は鉄酸化触媒(ferroxidase)作用である.肝臓で合成されたセルロプラスミンの銅は1価の還元型であるが,酸素存在下に2価の酸化型となる.酸化型セルロプラスミンの鉄酸化作用により2価鉄は3価鉄に酸化される(図1).3価になることによつて鉄はトランスフェリンと結合して骨髄やその他の組織に運搬されヘモグロビン合成,非ヘム蛋白合成に利用される.したがって,鉄代謝とセルロプラスミンには密接な相互関係があり,セルロプラスミンが欠乏すると貧血が発症したり,貧血があるとセルロプラスミンが変動する.前者の代表的な疾患が銅欠乏による小球性低色素性貧血であり,後者の代表的な疾患が再生不良性貧血である.再生不良性貧血の鉄代謝異常を是正するためにセルロプラスミンが高値となっていると考えることもできる.
生理的意義と異常値の出るメカニズム
ハプトグロビン(haptoglobin:Hp)は糖蛋白で,2個の軽(α)鎖と,ヘモグロビン(Hb)の結合部位である2個の重(β)鎖で構成されている.α鎖には遺伝的多型性があり,ポリアクリル電気泳動によりHp 1-1(日本人での出現頻度は6.5%),Hp 2-1(35.2%),Hp 2-2(57.6%)の3亜型に分類される.
Hpはキモトリプシンファミリーに属する急性相反応蛋白であるが,蛋白分解酵素活性はない.産生部位は肝実質細胞であるが,リンパ球培養上清にも認められる.IL-1,IL-6,ステロイドホルモン刺激で産生は亢進し,CRPよりも約1日遅れて異常高値を示すが,急性相蛋白としての生理的意義は明らかではない.しかしα鎖がPHAなどによるリンパ球の幼若化反応を抑制することから,免疫抑制作用を有するものと推察されている.
トランスフェリンは主に肝臓で産生される分子量約80,000の糖蛋白質で,鉄と結合し生体内で鉄輸送蛋白として機能している.トランスフェリンは血漿中に通常200〜350mg/dl存在し,β1グロブリン分画に属する.1分子のトランスフェリンは2原子の三価鉄イオン(Fe3+)と結合し,1mgのトランスフェリンは約1.3μgの鉄と結合する.鉄を結合しているトランスフェリンと結合していないトランスフェリンを併せて単位容積当たりの鉄を結合する能力を血清鉄結合能(total iron binding capacity:TIBC)という.TIBC値は血液中のトランスフェリン量を表すと考えてよい.
トランスフェリン合成を調節しているのは肝細胞内鉄量と考えられている.肝細胞内鉄量が減るとトランスフェリン合成は増加し,肝細胞内鉄量が増加するとトランスフェリン合成は低下する.そのため,鉄欠乏状態や赤芽球造血が盛んになる病態ではトランスフェリンは高値を示す.反対に鉄過剰や鉄利用低下および鉄利用障害のときにはトランスフェリンは低値を示す.
免疫グロブリン(Igs)は抗原刺激を受けたB細胞系細胞が分化・成熟して産生する血漿蛋白成分であり,IgG,IgA,IgM,IgDおよびIgEの5つのクラスに分類され,おのおの抗体としての活性をもつ.したがって,Igsの量的あるいは質的な異常を捉えれば,免疫機構の機能異常を知る手掛かりが得られることになる.本稿では,比較的量的に多く存在するIgG,IgAおよびIgMに限って述べる.
Igsは体液性免疫の中心をなす血漿蛋白質であり,その病的増加は抗原の刺激が持続的に加わるような病態,あるいはIgs産生細胞の腫瘍性増殖の結果生ずることが多い.前者は多クローン性の,後者は単一クローン性(M-蛋白)の増加が主としてみられる.しかし,Igs産生系細胞の先天的な異常(原発性免疫不全症)あるいは免疫抑制剤の使用などでみられる続発性の免疫不全症では,これらIgsの減少を認める場合が多い.
血清甲の補体(compliment:C)はC1〜C9の11種類の蛋白成分をはじめ,補体制御因子を含めると20種類近い成分から構成される.そして通常は活性のない前駆体(zymogen)として存在する.
補体成分は主に肝臓で生成され,細網内皮系,陽管上皮細胞などでも産生される.その機能として,抗体の防御作用を補強する重要な役割がある.生体内で抗体が存在すると細菌などの細胞膜上の抗原に結合し,抗原抗体複合物を形成する.これが補体系を活性化し,病原体に結合した補体はマクロファージや多核白血球などの食細胞による貪食能を促進させる(オプソニン作用:opsonization).また,活性化された補体は,病原体の細胞膜に穴を開け溶解させることもある.したがって,補体成分の欠損症ではしばしば易感染性を呈し,広義の体液性免疫不全症に属する.
クリオグロブリン(cryoglobulin)とは,血清を低温(4℃)に保存すると白色沈殿またはゲル化し,34℃に温めると再溶解する熱凝固性蛋白(thermo-protein)の一種である.その主な構成成分は病的免疫グロブリンであり,M蛋白(単一クローン性免疫グロブリン),あるいは免疫複合体(immune complex)の一種である.したがって,クリオグロブリンは寒冷沈降性の特性をもつM蛋白,または寒冷沈降性の免疫複合体のいずれかであるといえよう.M蛋白はB細胞系の単一クローン性細胞の増殖,特に悪性腫瘍細胞によって産生されることが多い.低温でM蛋白の立体構造が変化し,溶解性が減少して白濁ないしゲル化するものと考えられる.他方,寒冷沈降性の免疫複合体の生成機序は不明であるが,ウイルス・細菌などの侵入あるいは免疫組織の不安定状態が原因となり,自己抗体が産生され,その結果免疫複合体が形成されるものと考えられる1).自己抗体としてはリウマトイド因子がしばしば見いだされ,免疫複合体はIgM-IgG型(IgMはIgGに対する自己抗体)のことが多い.
寒冷過敏,Raynaud現象など血液循環障害に基づく諸症状がみられる場合や,膠原病などの,いわゆる免疫複合体病に属する病態,あるいは血管炎や腎障害を伴う本態性クリオグロブリン血症などでクリオグロブリンの検査が行われる.
免疫グロブリンフラグメントの一つであるベンスジョーンズ蛋白(Bence Jones protein:BJP)は,通常二量体として存在し,分子量は44,000と小さいため血中のBJPは糸球体から容易に濾過され尿中に排泄される.したがって,BJPは血清よりも尿のほうが証明しやすい.
BJPは単一のL鎖からなるので,単一クローン性L鎖(monoclonal light-chain)とも呼ばれ,免疫グロブリンと同様に2つの型に区別される.すなわち,BJP-κとBJP-λである.一方,構造上多少異なった数多くのL鎖からなる多クローン性(polyclonal)L鎖があり,BJPとは免疫電気泳動により区別しうるが,両者の鑑別には注意を要する.
オリゴクロナルバンド(oligoclonal bands:OB)は,髄液中に検出される免疫グロブリンである,含まれる成分がほとんどimmunoglobulin G(IgG)であることが多く,ポリクロナルなIgGとは区別されている.中枢神経系内に存在する2つ以上の形質細胞によって産生され,IgGの多様性に制限があることを意味している.
多発性硬化症(MS)や中枢神経系の感染症では,髄液中:脳血液関門(BBB)の免疫グロブリンが増加し,BBBでの抗体産生を反映するが疾患特異性は低いと考えられる.手技的には,髄液蛋白のアガロースゲル電気泳動法でγ分画に1から数本の不連続な異常バンドとして認められる.
気管支喘息を代表的疾患とするI型アレルギー反応は,抗原(アレルゲン)によるIgE抗体の誘導に始まる.このアレルゲン特異的IgE抗体の存在は,決してアレルギー疾患の病態すべてを説明しうるものではないが,原因となるアレルゲンを見いだすのに有用で,診断とその後の治療上きわめて重要である.この目的のため,また安全性の点から,今日ではin vivoよりもin vitroでアレルゲン特異的IgE抗体を検出する方法が一般に用いられ,行われている.
IgE RAST(radioallergosorbent test)法は,その代表的検出法である.それに対し特異的IgG抗体,なかでもIgG 4抗体はshort-term sensitizinganaphylactic antibody,あるいは遮断抗体(blocking antibody)として注目されているにもかかわらず,その臨床的意義については一定の見解は得られていない.しかし,アトピー性疾患でIgE抗体が高値であると同時に,特異的IgG抗体,IgG1抗体およびIgG4抗体も高値を示す傾向があり,特異的IgG抗体の測定は臨床的に有用な情報が得られる可能性がある.
検査の目的・意義
フィブロネクチン(fibronectin:FN)は血漿,羊水その他の体液中に存在する糖蛋白である.主な産生細胞は肝細胞,血管内皮細胞,血液単球である.血漿FN,細胞性FN,胎児型FNがある.その機能は細胞同士の接着,細胞移動,細胞の分化,損傷組織の修復,オプソニン作用などのほか,最近では癌転移の抑制,免疫,炎症反応への関与も報告されている.これら多彩なFNの機能が関与する免疫・炎症の病態を反映する一つの血清学的な指標としての意義をもつ.
炎症とは,細胞や組織の傷害に対する一連の防御的局所反応であって,形態学的には,①細胞の変性・壊死,②血管反応および③細胞の増殖により特徴づけられる.もちろん,炎症局所における生化学的変化についても詳細な研究がなされている.
炎症を誘発する組織傷害因子としては,①各種の病原微生物(感染),②物理的因子(外傷,熱,寒冷,放射線など),③化学的因子(強アルカリ,強酸,テルペン油など),④循環障害(梗塞,腫瘍など),⑤免疫反応による傷害,がある.炎症が局所的反応を超えて全身的反応に及ぶと,いろいろな臨床検査結果に影響を及ぼすようになる.
C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)は急性反応性物質の一つで,1930年にTillettとFrancisによって肺炎双球菌の細胞壁中のC多糖体と沈降反応を起こす血漿蛋白成分として初めて報告され,炎症,腫瘍および組織破壊などの病態により患者血清中に出現することが知られ,日常検査に繁用されている.
CRPは肺炎球菌などの菌体に結合し拡散を防ぎ,補体を活性化し,オプソニン効果によって非特異的生体防御機構の一つとして働くが,本来の役割は各種炎症反応などで生じた多糖類の運搬であると考えられている.
シアル酸(sialic acid)は,ノイラミン酸(neuramic asid)のアセチル誘導体化合物の総称である.生体内ではシアル酸の大部分が,糖蛋白または糖脂質で作られており,糖蛋白にシアル酸が結合したものはシアロ糖蛋白と呼ばれ,血漿,分泌液,細胞膜表面などに存在する.血漿中では急性相反応物質と呼ばれるα1-酸性糖蛋白,α1-アンチトリプシン,ハプトグロビン,CRP,SAA,セルロプラスミン,フィブリノーゲンなどがあるが,α1-酸性糖蛋白,α1-アンチトリプシン,ハプトグロビンは糖蛋白にシアル酸が結合した形で存在している.炎症や組織破壊を伴う疾患では,これらの糖蛋白が増加するため,シアル酸の量も増える.
血清シアル酸値の変動に関与する糖蛋白群はインターロイキン1,インターロイキン6,腫瘍壊死因子,インターフェロンなどである.シアル酸の合成はグルココルチコイドにより修飾される.シアル酸含有蛋白の半減期は2〜4日と短い.シアル酸は他の急性相反応物質と同様に感染症,慢性関節リウマチなどの炎症性疾患および悪性腫瘍,心筋梗塞,肺梗塞による広範な組織破壊が起こるときに高値を示す.
赤沈は一見簡単な現象であるが,赤血球と血漿蛋白成分との間に非常に複雑なメカニズムが関与しているらしく,その本態は完全に解明されていない.しかし,主として赤沈に影響するのは赤血球と血漿蛋白である.
赤血球数が増加する多血症では赤血球同士が相互に沈降を妨げるので赤沈は遅延し,赤血球数が減少する貧血ではその逆に赤沈は亢進する.
APR増加のメカニズムと臨床的意義
感染病原の侵入により局所の免疫細胞から産生されたサイトカインは,血行を介して肝細胞膜のレセプターに到達する.その情報は核内の遺伝子に伝達され,肝細胞におけるAPR(acute phasereactants)の生合成が開始される.この蛋白質の増加は病原侵入から12〜24時間後に血漿中で確認できるようになる.APRの増加は感染特有のものではないが,感染症状に乏しい新生児感染症の早期発見,スクリーニングに利用されている.
顆粒球アズール顆粒に局在する顆粒球エラスターゼ(granulocyte elastase:GEL)は非特異的中性蛋白分解酵素であり,細胞外マトリクスを構成するコラーゲン,不溶性エラスチン,プロテオグリカンや血漿蛋白,補体成分,免疫グロブリンの一部など多くの生体構成成分を標的とし,生体機能に影響を及ぼす.そのため,正常生体の血液・組織液中にはGEL作用を抑制する大量のα1-プロテアーゼィンヒビター(α1-PI)とα2-マクログロブリン(α2-MG)が存在し,活性型GELの90%がα1-PI,10%がα2-MGと結合してGELを不活化し,生体を保護している.現在は活性のないGEL-α1-PIの複合体量を免疫学的に測定し,局所侵襲により産生されたケミカルメディエータにより顆粒球が活性化され,GELが放出されたことを把握することができ,顆粒球を活性化した病態,および大量のGEL放出に伴う生体侵襲・組織傷害の程度を推測することができる(図1).
ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)は5個の免疫グロブリン様ドメインを有し,免疫グロブリンスーパーファミリーに属する分子量75〜115kDの糖蛋白である.ICAM-1は血管内皮細胞や単球に恒常的に発現されているほか,消化管・肺などの上皮細胞,リンパ球や癌細胞などの各種細胞上にも認められる細胞接着分子の一つであり,その発現は炎症性サイトカィンであるIL-1やTNF-α,IFN-γなどで著明に亢進する.リンパ球上に発現されるLFA-1(lymphocyte function-associated antigen 1)やMac-1をリガンドとして,これら炎症・免疫反応に強く関連する細胞間の接着,および単なる物理的な結合のみならず細胞内への情報伝達にも関与する分子である.
血清アミロイドA(serum amyloid A:SAA)は,炎症刺激を受けて産生されたサイトカイン(TNF-α,IL-1β,IL-6など)の作用により,主に肝細胞で産生される血漿蛋白である.血中では高比重リポ蛋白HDL中に存在する.慢性炎症性疾患ではSAAのN末端側2/3部分がアミロイド線維化し,組織に沈着することがある(二次性または続発性アミロイドーシス).
SAA濃度の変化は,急性心筋梗塞を例にすると,発作後半日程度で上昇し始め,2〜3日でピークとなり,1週〜10日で正常化する.SAAのピークはIL-6のそれに1日遅れると考えてよい.したがって,リアルタイムの観察にはIL-6が優れているが,サンプリングの時期によってはIL-6は低下していることもある.SAAはCRPと高い相関を示し,多くの炎症性疾患で同じ意義をもつと考えてよい.CRPの反応が低く,SAAの測定が勧められる病態としてはウイルス感染症,SLE,腎移植拒絶反応が挙げられる.また,後二者も含まれるが,シクロスポリン,副腎皮質ホルモンを服用している患者では,一般的にCRPが低反応,SAAが高反応となる傾向にあり,そのような状態では異常を検出する感度はSAAのほうが高い.
窒素化合物の内訳1)
血中の窒素化合物は,蛋白質と非蛋白窒素(non-protein nitrogen:NPN)よりなる.NPNは血清の除蛋白窒素成分という意味で,残余窒素(restnitrogen:rest N)とも呼ばれる.NPNは尿素,尿酸,クレアチニン,クレアチン,アミノ酸,アンモニア,インジカン,その他の微量成分よりなる.尿素窒素(blood urea nitrogen:BUN)は健常者NPNの45〜50%を占めるが,腎不全NPNの80〜90%を占める.血中NPNの増加を窒素血症(azotemia)と呼ぶ.
尿中NPNの85%は尿素窒素であり,次いでクレアチニン,アンモニア,尿酸,アミノ酸,クレアチン,その他よりなる.尿素窒素とアンモニアは蛋白代謝,クレアチニンとクレアチンは筋肉のクレアチン代謝,尿酸はプリン核酸代謝のそれぞれ終末代謝産物であり,いずれも腎を介して尿中に排泄される.これらの物質の血中濃度や尿中排泄量は,食事蛋白量,体内での同化と異化,腎からの排泄などにより影響される.
尿素は体内の窒素化合物の終末代謝産物であり,主として腎臓から排泄されるため,その血中濃度の増加は腎機能の低下を反映し,従来から腎機能の指標として広く用いられてきた.尿素は,アミノ酸の脱アミノ化によって生じるアンモニアと二酸化炭素から肝臓の尿素回路によって主として生成され,血中では血漿と血球にほぼ均等に分布している.血中尿素窒素(BUN)は腎糸球体で濾過され,一部は尿細管で再吸収されるが,残りは尿中へ排泄される.BUNは残余窒素の約半分であるが,腎機能障害ではその比率が上昇し,尿毒症のような病態では90%近くにも達する.BUN値を規定する因子として,①蛋白摂取や異化といった腎前性因子,②腎臓での排泄に絡む腎性因子,③脱水や輸液といった循環血液量による因子など,いくつかの要素に分けて考える必要がある.
1.尿酸の体内動態
尿酸は霊長類における核酸の最終代謝産物であり,通常1日700mgが産生され,このうち500mgは腎臓から尿中へ,200 mgは腎外(主として消化管)に排泄される.尿酸生合成経路と腎における尿酸転送経路を図1に示す.
体内には約1,200mgの尿酸プールが存在し,血清尿酸値の上昇が持続するとプールも大きくなると考えられる.
アンモニアは,①腸管内での食物由来の蛋白などの窒素化合物の腸内細菌による分解,②腸内細菌のウレアーゼの作用による尿素の分解,③肝臓,腎臓でのグルタミナーゼによるグルタミンの脱アミノ反応により生成される.一方,アンモニアの代謝は,①肝臓での尿素サイクルによる尿素への変換,②筋肉,脳組織,肝臓でのαケトグルタール酸,グルタミン酸への取り込み(グルタミンの産生),③腎臓での水素イオンとの結合によるアンモニア塩としての尿中への排泄により行われる.
アンモニア生成の亢進のみによって血中アンモニアの上昇を呈することは,肝臓のアンモニアを処理する能力が高いため,ほとんど認められない.代謝の低下による血中アンモニアの上昇は,肝機能障害や尿素サイクルの酵素欠損がある場合に生じうるが,実際には肝機能が相当低下しても解毒機能は保たれており,肝疾患で血中アンモニアの上昇が認められるのは通常は門脈一体循環シャントあるいは肝内シャントの存在する場合,または,非常に高度の肝機能障害が存在する場合である.
クレアチンは,腎でグリシンとアルギニンからトランスアミジナーゼにより合成されたグアニド酢酸が,肝でメチルトランスフェラーゼの作用により活性メチオニンからメチル基が転移されて合成される.その大部分は筋肉に存在し,クレアチンキナーゼ(CK)の作用により,高エネルギー化合物のクレアチンリン酸に合成され,体内エネルギーの役割を果たす.クレアチンは,腎糸球体から濾過され,大部分が尿細管で再吸収されるため,尿中にはほとんど排泄されない.クレアチニン(Cr)は,筋肉内で非酵素的にクレアチンの脱水によって生成され,ADPにリンを供給してATP生成に関与している(図1).クレアチニンは血中に出現する代謝最終産物で,腎糸球体から濾過された後,ほとんど再吸収されずに尿中へ排泄される.つまり,血清クレアチニン濃度はクレアチニンの産生とその尿中排泄のバランスによって決定される.血清クレアチニン濃度は腎排泄機能の代表的指標であるが,理論的には,代謝経路となる筋,腎,肝のいずれの異常においても,尿中,血清のクレアチン,クレアチニン値は変動する可能性がある.また,クレアチニンには,加齢による変化や性差,筋肉運動量や発育の影響が認められる1).
クレアチニンクリアランスは,糸球体濾過率(glomerular filtration rate:GFR)の指標として,腎機能や残腎機能の評価,腎不全症例における投薬量の調節などの目的で,外来,入院患者に広く測定されている.
溶質Xのクリアランス(Cx)とは,1分間の尿量(V)とその尿中の濃度(Ux),およびそのときの血中濃度(Px)から,の計算式で求められる.これは,1分間に除去された物質の量は,もとの血漿量にしてどれだけに相当するか(ml/min)を意味する値である.したがって,糸球体基底膜を自由に通過し,尿細管から再吸収も分泌もされず,さらに腎臓で合成も分解もされない,という条件を満たす物質のクリアランスが,正確にGFRを反映する.この条件を満たす物質としてイヌリンがあるが,生体には存在しない物質で,体外からの投与が必要である.一方,クレアチニンは生体内物質で,一部尿細管での分泌を受け,正確なGFRは反映し得ないが,外部からの負荷を必要としないという利点がある.このため臨床ではクレアチニンクリアランスが,便宜上腎機能(GFR)の代替的指標として用いられている.
フェノールスルホンフタレイン(phenol sulfonphthalein:PSP)排泄試験は尿細管機能検査の一つである.PSPは体内で分解されず,静注すると6%が糸球体から濾過され,94%が近位尿細管から排泄される.排泄速度が非常に速いために,実際上は腎血流が律速となっている.本検査は腎血流量,近位尿細管の機能,尿路の通過状態を総合的に評価する簡便法として,よく用いられる.
PSP 15分値が25%以上であれば,腎機能は正常と考えられるので,その後の排泄機能は省略してよい.このため,PSP 15分値がスクリーニングとして常用されている.ただし,ある程度以上腎機能が悪化すると,PSP 15分値は5%程度に固定して,残存した腎機能を正確に反映しなくなる.
アミノ酸は,同一分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)を有する化合物の総称で,蛋白質の主要構成成分である.成人血漿中には40種類のアミノ酸が存在し,アミノ酸窒素量は4〜6mg/dlである.この血漿中遊離アミノ酸は,生体の全アミノ酸の1%程度であり,摂取蛋白やアミノ酸の吸収量,体蛋白の合成と分解,アミノ酸の細胞内輸送などによって変動する.このため血漿中のアミノ酸濃度や組成の変化により,生体内の代謝異常や臓器の障害を推測することが可能となる.近年,HPLCによる生体試料中のアミノ酸分析が進歩し,先天性アミノ酸代謝異常症をはじめ,肝疾患,腎疾患,内分泌疾患,神経・筋疾患,低蛋白栄養などの診断や病態の解明に血漿や尿中のアミノ酸の測定が行われている.
体液中(特に血清)の酵素活性を測定して,その変動により臨床病態を推定するときには,体液中酵素活性の変動に影響を与える因子を理解する必要がある.血清中の酵素活性変動でのこれら因子には表1に示す項目が考えられる.
血中のビリルビンの大部分は,脾臓をはじめとする網内系で破壊される赤血球中のヘモグロビンに由来し,図1に示す経路で代謝される.すなわち,ヘモグロビンが分解されてできたヘム蛋白から鉄が遊離してビリルビンとなる.網内系から血中に放出されたビリルビンはアルブミンと結合(間接ビリルビン)し,血流中を移動して肝臓に達する.肝細胞内では主にグルクロン酸と抱合し,抱合型(直接)ビリルビンとなり,胆汁成分として十二指腸に排泄される.
このような一連のヘム・ビリルビン代謝系で,①赤血球の破壊亢進,②肝細胞傷害による肝細胞内ビリルビンの血中への遊出,および③胆汁の排泄障害による胆汁中ビリルビンの血流中への逆流,などの機序により血中ビリルビンが高値となる.ビリルビンが高値(2〜3mg/dl以上)となると皮膚や粘膜が黄染するため,これを黄疸という.
クレアチンキナーゼ(CK)はクレアチンとクレアチンリン酸との間を触媒する酵素であり,共役するADP⇔ATPの変化に伴う高エネルギーリン酸を介して,エネルギー代謝上きわめて重要な役割を果たしている.CKは筋肉や脳に多量に存在しており,これら臓器の損傷があると血中に逸脱するため,血中での活性が上昇する,したがつて,血中変動はCKが多量に存在する骨格筋や平滑筋,あるいは脳などの損傷を反映することから,日常的に測定されている.臨床的意義が高い疾患は心筋梗塞,筋ジストロフィ症などの筋肉疾患であり,甲状腺疾患,中枢神経系疾患,骨疾患でも診断に有用である.
CKには,細胞上清分画に存在するCK-MM(CK 3),CK-MB(CK 2),およびCK-BB(CK 1)と,ミトコンドリア分画に存在するミトコンドリアCK(mCK)の4つのアイソザイムが存在する.CK-MBは心筋に,CK-BBは脳に多量に存在するため,CK-MBが上昇する場合には心筋梗塞が,CK-BBが上昇する場合には中枢神経疾患が強く疑われる.また,mCKの上昇は疾患の重症度と関連して測定され,mCKが出現・増加する場合には重篤な病態と考えられる.
図1は心筋細胞内の各種心筋生化学的マーカーの局在と,循環血中への遊出動態を表したものである1).心筋生化学的マーカーとしては,主として細胞質可溶性分画に存在するクレアチンキナーゼ(CK),CK-MB,ミオグロビン,心筋型脂肪酸結合蛋白(hFABP)と,筋原線維を構成するミオシン軽鎖,トロポニンTなどが活用されている.虚血性心筋傷害が生じると,まず膜傷害により細胞質可溶性分画のマーカーが血中に遊出する(図1右上段).虚血が軽度で短時間のうちに解除されればマーカーの上昇は軽微であり(いわゆるnear normal elevation),心筋細胞傷害はまだ可逆性である可能性が考えられる.さらに虚血性傷害が進展し蛋白分解酵素が活性化されると筋原線維が分解され,トロポニンT,ミオシン軽鎖などの収縮蛋白が血中に遊出してくる(図1右下段,非可逆性傷害,心筋壊死).図2は著者らが急性心筋梗塞40例を対象に心筋生化学的マーカーの遊出動態を検討した成績である1).
心筋トロポニンTは,約94%は筋原線維構造蛋白の一部を構成し,6%は細胞質可溶性分画として存在する.循環血中で半減期は約2時間であるが,健常者では検出されない(<0.05ng/ml).急性心筋梗塞では二峰性の遊出動態を示し,上記両相の病態を反映するものと考えられる.
乳酸脱水素酵素(LD)はあらゆる組織に広く分布し,細胞の可溶性画分に存在する.LD活性が血清中に上昇するのは,組織の損傷が存在し,LDが血清へ遊出(逸脱)していることを意味している.したがって,どの組織(臓器)が損傷しているかを知るためのスクリーニング検査に位置づけられる重要な検査である1,2).そして,引き続き損傷臓器を推定するための検索(酵素プロファイル,またはアイソエンザイム分画)が要求されることになる.その他の酵素と組み合わせた酵素プロファイル(例えばLD/AST比など)は臓器推定に非常に有用であり,スクリーニングの基本検査に含まれる.また,この酵素の各臓器に含まれるLDのアイソエンザイムパターンには臓器ごとに特徴があるので,アイソエンザイム分画と酵素プロファィルとを組み合わせた損傷臓器の推定は診断的意義が高い.
アミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)は,アミノ酸とαケト酸の間でアミノ基の転移を触媒する酵素で,生体内ではTCAサイクルの代謝産物とアミノ酸との間でアミノ基の転移を調整している.病態の指標として臨床検査に利用されるのは,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)とアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)である.かつてはグルタメートオキザロアセテートトランスアミナーゼ(GOT),グルタメートピルベートトランスアミナーゼ(GPT)と呼ばれたが,国際酵素委員会はAST,ALTを推奨し,日本でも浸透しつつある.
AST,ALTのように組織・細胞の傷害により血中に逸脱する酵素の血中レベルを左右する要因は,①組織・細胞中の酵素産生量:どの臓器由来かの指標②血中への逸脱量:傷害程度の指標,高値ほど傷害強く広範③血中よりの消失速度:血中での半減期で推定である.逸脱酵素を評価するときには,上記を考慮する必要がある.
アルカリ性ホスファターゼ(ALP)は細胞膜に局在する酵素であるから,細胞からの逸脱ではなく,細胞での産生の上昇が血清中でのALPの上昇の原因となる.薬物性肝障害での肝由来ALPの上昇は,薬物誘導性の膜酵素活性の上昇による機序であり,甲状腺疾患などでの骨由来ALPの上昇は,骨芽細胞に対する甲状腺ホルモンの刺激作用によるALPの産生増加によるものである.今日では,アイソエンザイム分析が日常診療に利用されるようになり,由来臓器の判別は比較的容易となっている.
このように,この酵素活性の血清中の増加はあくまでも産生増加を背景としたものであり,アイソザイム分画による臓器診断も分画法が確実であれば比較的容易である.
γ-glutamyl transpeptidase(γ-GTP)は,グルタチオン(γ-glutamyl-L-cysteinylglycine)のようなγ-グルタミールペプチドを加水分解すると同時にγ-グルタミール基を他のアミノ酸やペプチドに転移する酵素(EC 2.3.2.2.)である.剖検時に検討したγ-GTPの臓器分布は,腎に最も高く,膵がこれに次ぎ,肝の活性は低く,これらの3臓器の活性比は100:24:7である.血清γ-GTPは主として肝由来で,尿γ-GTPは腎由来である.腎疾患では,一般に血清γ-GTPは正常域にあり,膵疾患でも膵頭部病変による胆道系の狭窄・閉塞を伴わない限り,有意な血清γ-GTPの上昇は認められない。γ-GTPは,膜酵素として細胞内のグルタチオンの分解と再合成に共役しながら,アミノ酸の転入と利用に関与している(図1).正常肝組織を組織化学的に検討すると,毛細胆管から門脈域の胆管上皮,肝細胞膜の胆汁分泌側に分布する.したがって胆汁うっ滞では,排泄障害により血中に逸脱して血清値が上昇するが,詳細な上昇機序については明らかではない.
LAP(leucine aminopeptidase)は,臨床的にはFleisher(1957)らが初めて,L-leucyl-glycineを基質として測定される酵素(EC 3.4.11.1,cystsomal LAP:C-LAP)が急性肝炎で増加すると報告して注目された.Goldbarg(1958)らは,L-leucyl-β-naphtylamideを基質とする方法で測定される酵素(EC 3.4.11.2,microsomal LAP:M-LAP)が膵頭部癌で特異的に増加すると報告し,その後この酵素は閉塞性肝障害で増加することを明らかにした.以来この酵素がLAPと呼ばれ臨床診断に利用されてきた.
一方,Tappy(1957)らが報告したシスチンアミノペプチダーゼ(EC 3.4.11.3,cystine aminopeptidase:CAP)もまたleucyl基をもつ基質を水解することから,妊婦でもLAPは増加するとされ,これは胎盤性LAPと呼ばれてきた.C-LAP,M-LAP,CAPは別の酵素であるが,強弱の差を認めるものの,いずれも“LAP”の測定に利用される基質を水解する性質をもつため,LAPとして臨床診断に使われてきた.ただし,今日LAPとして診断に利用されている酵素は主としてM-LAPである.
アデノシンデアミナーゼ(ADA)は,アデノシンからイノシンへの脱アミノ反応を触媒する酵素であり,プリン代謝のサルベージ経路に関与している.生成されたイノシン,あるいはデオキシイノシンは尿酸に合成されて排泄されるか,一部は核酸合成に再利用される.ADAはヒトの組織に広く分布し,腸管粘膜,胸腺,脾,扁桃やリンパ球に活性が高く,次いで肝,腎,肺,副腎に存在する.
血中ADAは,プリン代謝や組織破壊の亢進,あるいはADA分泌の増加により上昇するため,肝疾患や腫瘍性の血液疾患,あるいはウイルス感染症や悪性腫瘍の診断や経過観察に利用されている.
慢性肝疾患の終末像は肝硬変であり,線維の増成により硬化した組織は周囲を圧迫して,種々の症状を呈するに至る.肝線維化で増成するのは,主としてI,III,およびIV型コラーゲンである.肝線維化の過程で,その初期にはIII型コラーゲンが増加し,やがてI型コラーゲンの増成が優位になる.IV型コラーゲンはラミニンとともに基底膜の構成成分で,血管内皮細胞,胆管,細胆管周囲などに分布し,肝実質域では類洞壁細胞と肝細胞索の間に沿って存在し,線維化の過程での,いわゆるcapillarizationの現象として増加が認められる.
線維化の診断は,最終的には肝生検による組織診断によらざるを得ないが,この方法は時に重大な事故につながることもあり,安全かつ簡便で非侵襲的な検査法が模索されてきた.1969年になってIII型プロコラーゲンのN末端ペプチドの測定法が発表され,以来いくつものいわゆる線維化マーカーが開発され,臨床に応用されてきた.IV型コラーゲンは基底膜の構成成分であり,肝線維化の過程での線維増成に伴って血中にその構成成分(7SやTHなど)の増加が認められ,線維化の程度とよい相関を示すため,優れた線維化マーカーとして認知されてきた.
生体内にはアセチルコリンを加水分解する2種類の酵素がある.一つはアセチルコリンを特異的に分解するtrue cholinesterase(EC 3.1.1.7,AChE)と呼ばれる酵素で,神経線維,神経筋接台部,赤血球膜および胎盤などに多く分布している.もう一つは,アセチルコリンのほかにアシルコリンも幅広く分解するpseudocholinesterase(EC 3.1.1.8,PChE,ChE)で,血清中に多く含まれている.通常,臨床検査で測定されるのは後者のChEである.
血清のChEは肝臓で合成・分泌されて供給される.その半減期は約16日で,血清アルブミンと高い相関性を保って減少する.血清ChEは肝実質障害性の疾患において低下するが,これは肝臓での蛋白合成障害によるためと考えられている.しかし,血清ChE活性の減少は,肝障害だけに特有なものではなく,各種の消耗性疾患や悪液質に伴う低栄養時にも減少する.ChEの阻害剤である有機リンやカーバメイト系の薬剤(農薬,殺虫剤)による中毒では,血清ChEは著しく低下する.さらに遺伝性のサイレント型ChE異常症では,血清ChEの活性がほとんどゼロを示すほどまで減少する.
アルドラーゼ(aldolase:ALD)は分子量150kDの四量体蛋白であり,嫌気性解糖系酵素の一つである.ALDは六炭糖であるフルクトース-1,6-ニリン酸(FDP)を二分子の三炭糖,ジヒドロキシアセトンリン酸とD-グリセルアルデヒド-3-リン酸に,フルクトース-1-リン酸(FIP)をジヒドロキシアセトンリン酸とD-グリセルアルデヒドに分解する1,2).
ALDには免疫学的に異なるA(筋)型,B(肝)型およびC(脳)型の3種類のアイソザイムが存在する.A型はFDPに高い親和性を有し,嫌気性解糖におけるエネルギー産生に適しており,解糖の盛んな組織に多く含まれる.一方,B型はFDPおよびFIPの両者に高い親和性をもつため糖新生に適している.また,C型はA型とB型の中間の性質を有する1,2).
ICG(indocyanine green)は暗緑色の色素で,静注すると速やかに大半がリポ蛋白と結合し,その90%以上が肝細胞に摂取されて,抱合を受けることなく,そのままの形で胆汁中に排泄される.一定量のICG投与後,経時的に血中の残存量の測定を行う.色素の血中より肝臓への摂取速度が,血中における停滞もしくは消失に影響を及ぼす.すなわち,ICG排泄試験は主として肝細胞の色素摂取機能を表し,肝血流量によって大きく左右されることより,有効肝血流量,肝細胞の色素摂取能,排泄能がわかる.
臨床的には内科的診断としての肝疾患の診断をはじめ,その重症度判定,治癒,予後の判定などに用いられる.また外科的にも手術適応や術式の決定,切除範囲の決定,術後の経過予測など,手術の患者管理面で肝予備能力を定量的に反映する検査法である.
消化酵素の一つであるアミラーゼは,糖質(炭水化物)を単糖に分解する作用をもち,分解された単糖は小腸から吸収され,肝や筋肉でグリコーゲンとして貯えられ,生体のエネルギー源として利用されている.
アミラーゼは細胞の中の粗面小胞体で合成され,zymogen顆粒として消化管に,一部は間質に分泌され毛細血管から血流に入る.血液中のアミラーゼの一部は肝から胆汁中に排泄されるが,ほとんどは腎を経て尿中に排泄される.
膵分泌性トリプシンインヒビター(pancreaticsecretory trypsin inhibitor:PSTI)は,膵臓で合成されて膵液中に分泌されるトリプシンインヒビターである.PSTIは膵臓以外の種々の正常組織や悪性腫瘍組織にも存在し,単に膵臓のトリプシンインヒビターであるだけでなく,急性相反応物質として,広く生体の防御反応に関与している物質であることが明らかにされている1〜3).血中PSTIの測定は,特に急性膵炎や悪性腫瘍の診断に用いられる.病勢をよく反映して敏感に変動するので,重症度や進行度の判定に有用である.
胃粘膜内で産生されるペプシノゲンの血中に流入する機序は不明であるが,その1%は血中に流入し,99%が胃内腔に分泌される.血清ペプシノゲンIおよびII値は,主に胃粘膜内主細胞量を反映する.血中ペプシノゲンの排泄は腎からなされるが,代謝機序の詳細は不明である.健常人ではペプシノゲンのIのみ尿中に認められる.異常高値を示す場合は,胃粘膜内での産生が増加しているか,腎からの排泄が減少しているかであり,異常低値を示す場合は,胃粘膜内での産生減少か,胃切除後などの胃粘膜量そのものの減少である.
血清ペプシノゲンI/II比は,内視鏡的胃酸分泌機能検査法であるコンゴーレッド法による腺境界分類でみた胃粘膜萎縮の拡がりとその程度を反映することから,いわゆる“血清学的生検(serologic biopsy)”として,また,最大酸分泌量(MAO)と相関することから,無胃管胃分泌機能検査として使用できる.最近では,胃粘膜の炎症の指標としての臨床的使用法が注目されており,Helicobacter pylori(H. pylori)除菌判定,急性胃粘膜病変(AGML)の血清学的診断として使用できる.
膵リパーゼは,膵腺房細胞で生成され,膵液中に分泌される分子量48,000の酵素で,長鎖脂肪酸エステルを加水分解し,脂肪の消化を行う酵素である.血中に活性型として存在する数少ない膵酵素の一つであり,血清中の酵素活性が迅速,容易に測定できる.ヒトでは膵のほか,舌腺,胃などにも性質の異なるリパーゼが存在するが,現在の測定法は膵リパーゼに対する特異性が高く,その他のリパーゼの影響はないと考えてよい.
トリプシンは,膵から分泌される分子量24,000の蛋白分解酵素である.トリプシンはほかの蛋白分解酵素と同様,膵腺房細胞から前酵素(トリプシノゲン)として膵液中に分泌され,十二指腸でエンテロキナーゼにより活性化されてトリプシンとなる.膵以外には存在せず,膵特異的な酵素である.血中での存在様式は主として活性のないトリプシノゲンであり,活性化されたトリプシンはprotease inhibitorであるα1アンチトリプシン,α2マクログロブリンと複合体を形成し,酵素活性を示さない.このため測定はトリプシンに対する抗体を用いた免疫学的測定法(RIA法)が用いられる.本法では交差反応を示すトリプシノゲンとα1アンチトリプシン結合トリプシンの両者が測定され,α2マクログロブリン結合トリプシンは測定されない.
エラスターゼは,エラスチンを分解しうる唯一のプロテアーゼである.ヒトでは膵臓のほか,白血球,血小板,血管壁など種々の組織に存在する.
膵臓のエラスターゼは膵液中に分泌され消化酵素として作用している.ヒトの膵液中には,エラスターゼ1とエラスターゼ2の二つのエラスターゼが存在する.両者は酵素化学的にも蛋白化学的にも,また免疫学的にも全く異なった酵素である.
膵ホスホリパーゼA2(PLA2)は膵臓で合成され,膵液中に分泌されて消化酵素として作用する.しかし近年,膵PLA2には増殖因子としての強い活性があることが明らかにされた.すでにそのレセプターもクローニングされている.
膵液中の他の酵素と同様に,膵PLA2の一部は血中に移行している.血中には由来の異なるPLA2が存在するため,膵PLA2を酵素活性で分別定量することは困難であったが,血中膵PLA2の測定系が確立され,特異的に膵PLA2のみを測定できるようになった.血中膵PLA2は膵酵素のうちでも膵臓に特異性の高い膵マーカーである.
酸性ホスファターゼ(acid phosphatase:ACP,EC3.1.3.2)は,酸性(pH約5)条件下でリン酸モノエステルを加水分解する酵素であり,ほとんどすべての臓器に存在する.しかし,前立腺組織の活性を100%とすると,ほかの臓器における活性は1%以下に過ぎない.また,体液中のACP活性にも大きな濃度差がみられ,血清ACP活性を1とすると,赤血球中ACP活性はその約100倍,白血球中は約20倍,血小板中は約1.5倍と高値を示す.精液中にもその活性は認められ,血清中の30万〜40万倍もの活性が存在する.
細胞内ではACPは,主にマイクロソーム分画と,軽いミトコンドリア分画に存在するライソゾームに含まれる.ライソゾーム膜は細胞が虚血に陥り細胞内pHが酸性に傾くと破壊されるため,その中の蛋白分解酵素が遊離して細胞壊死が起こる.細胞壊死により血中ACP活性が上昇するので,ACPは一種の逸脱酵素である.
スーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)は,スーパーオキシド(O2・-)を下記の反応を触媒することにより消去する.
2O2・-+2H+→H2O2+O2
本酵素には3種類のアイソザイムが存在し,細胞内の分布が異なる.
アルコール脱水素酵素(ADH)には,多数のアイソザイムが存在するが,エタノールを基質としてその活性を測定した場合,本酵素の生体内分布は95%が肝であり,他臓器では胃粘膜,睾丸,脳,網膜などでわずかに活性を認めるのみである.肝細胞内では細胞質に局在する.また肝臓の小葉内分布では,中心静脈周囲の小葉中心部に局在する.したがって,GPTやLDHなどと同様に,肝の逸脱酵素としての性格を有することから,本酵素の血清中の活性を測定することは,肝細胞障害の程度,特に肝の小葉中心部の肝細胞障害を把握するのに有用である.
糖代謝異常の有無,異常の程度の推定は,臨床検査学的には血糖値の測定によってなされているのが一般的であろう.しかし,血糖応答に異常が認められなくても糖代謝異常が発症していることも多い.糖代謝異常は,インスリン分泌の障害,インスリン作用の障害あるいはその両者の結果として発現してくる.インスリンの作用が多彩であることから,糖代謝異常の存在する際には脂質代謝異常や蛋白代謝異常が併発する可能性があり,その方面の追跡も必要となる.
グルコース(ブドウ糖)は分子量180の単糖で,血液中の糖質の主成分であり,生体のすべての細胞の(中枢神経系にとっては唯一の)エネルギー源として最も重要な物質である.血中のグルコース濃度を血糖値といい,その恒常性(homeostasis)は血糖調節機構によって維持されている.生体内のグルコースは,大部分がグリコーゲンとして筋や肝に貯蔵されており,空腹時や絶食時には主にグルカゴンの作用によって,肝のグリコーゲン分解や糖新生から生成したグルコースが他の組織のために供給される.食物摂取時は,食物由来のグルコースが腸管から吸収されて血糖値が上昇すると,瞬時に膵β細胞からインスリンが分泌される.インスリンは体内に栄養を貯蔵する方向に作用し,門脈インスリンレベルの上昇は肝糖放出率を低下させ,全身の筋や脂肪組織での糖取り込みを促進して血糖値が低下する.夜間も血糖値が正常値を保っているのは,インスリンやグルカゴンがバランスを取り合い,肝糖放出率と全身の糖取り込み率が一致しているためである.この際,骨格筋や脂肪組織の糖の取り込みはインスリンに依存しているが,脳,肝,腎,胎盤,赤血球などはインスリンに依存せずに糖を消費している.
グリコヘモグロビンは,ヘモグロビンAのβ鎖のN末端アミノ酸にグルコースが非酵素的に結合したものであり,糖の結合が比較的急速に進むシップ塩基結合のアルジミンと,さらにその後,ゆっくり反応が進行し,アマドリ転移を受けて安定したケトアミンとに分類される(図1).前者のヘモグロビンと糖の結合は可逆的であり不安定型HbA1cと呼ばれ,後者の反応生成物は不可逆的である.現在の測定法のほとんどのものは,後者の安定型HbA1cのみを測定している.糖が結合する割合は,血中のグルコース濃度と時間に依存性であるために高血糖の程度とその期間に応じてその生成物は増加する.加重関数を用いた理論的な解析では,HbA1cは過去の単なる平均を反映するのではなく,加重平均血糖を反映することが証明されており,採血直前の1カ月間の血糖値が50%,その前の1カ月間の血糖値が25%,さらに前の2カ月間の血糖値が25%寄与していると考えられている.したがって,糖尿病の治療で血糖コントロールの指標の一つとして広く利用されており,実際の糖尿病患者への教育の場面では,HbA1cは採血時より遡っておよそ1〜2カ月間の血糖コントロール状態の平均を反映すると説明することが多い.
糖尿病の慢性合併症を予防するには,HbA1cをできるだけ正常に近い状態(基準値に近い値)に長期間にわたり維持することが重要である.
グリコアルブミン
グルコースと非酵素的に結合した生体内蛋白は,過去の血糖値の変動を反映する指標として利用できる.グリコアルブミンは,血清アルブミンのN末端のα-アミノ基またはリジン残基のε-アミノ基にグルコースが非酵素的に結合してケトアミンを形成したものである.アルブミンの半減期はおよそ20日前後なので,この蛋白が糖化されたグリコアルブミンは,HbA1cに比べてより短期間,すなわち過去1〜3週間の血糖の平均値(厳密には過去40〜60日の加重平均血糖を反映し,特に直前の17日間の血糖値がグリコアルブミン値の50%に寄与)を反映していると考えられている.
グリコアルブミンの測定は,異常ヘモグロビン血症やmodified Hb,溶血性疾患などで赤血球寿命が短縮し,HbA1cが血糖コントロールの指標として使用できない場合には殊に有用である.
健常人では,腎糸球体毛細血管のsize barrier,charge barrierによりアルブミンを主とした血漿蛋白の透過は規定されている.しかしながら,わずかなアルブミンは腎糸球体毛細血管を透過するが,その大部分は尿細管で再吸収されるため,通常の測定法では,尿蛋白あるいは尿中アルブミンは検出されない.したがって,尿中アルブミンの出現は糸球体障害の存在を示唆する.
1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)は,構造がグルコースに類似したポリオールの一種で,体内に豊富に含まれる.この膨大な体内プールと不活発な代謝のため,正常人ではきわめて安定した血中濃度を示す.ごく微量が食物中より恒常的に供給され,体内に分布したうえで,余剰な分は尿中に排泄される.正常では腎尿細管の1,5-AG選択的トランスポータで99.9%再吸収されるが,高血糖に伴うグルコース排泄(尿糖)によりこの再吸収が競合阻害を受け,尿中へ喪失されて体内(血中)濃度が低下する.治療により尿糖排泄が全くなくなると,通常の摂取下で,0.3μg/日の一定の率で,その個人の正常値に回復する.血糖改善度が思わしくなく,尿糖排泄が続く例ではこの回復度が鈍くなる.
1,5-AGはHbA1cや糖化アルブミンと異なり,直近の血糖コントロール状況を鋭敏に反映する高感度の血糖総合指標で,特にHbA1cが6〜9%の軽症糖尿病領域での血糖変動の把握に優れる.
インスリンとC-ペプチドは等モルで膵β細胞より分泌される.血中インスリンレベルの測定は,①内因性分泌動態の追跡に,あるいは②外来性投与インスリンの血中プロフィールの把握に必須となる.一方,血中C-ペプチドの測定は,血中インスリンレベルを測定しても意味がない際に必要となる.すなわち,インスリン治療時に内因性インスリン分泌状況を追跡するときである.しかし,尿中C-ペプチド排泄量の測定は内因性インスリン分泌量の推定に有用となる.
抗インスリン抗体測定は,血液中に存在するインスリンに結合する抗体を検出する検査である.
抗インスリン抗体には2種類ある.通常はインスリン治療患者の血中に存在する,つまり外来性インスリンに対して産生された抗インスリン抗体(insulin antibody:IA)のことをいう.もう1種類のインスリン抗体は抗インスリン自己抗体(insulin autoantibody:IAA)のことである.
インスリンは標的細胞のインスリン受容体と結合し,作用を発揮する.そのシグナル伝達に異常をきたした場合,インスリン抵抗性が生じ,糖尿病を引き起こす原因となる.伝達異常のメカニズムの一つとして,インスリン受容体遺伝子に異常があり,細胞膜上の受容体数の減少や構造異常のためインスリン結合の低下をきたすことが挙げられる.また,血中に出現した抗インスリン受容体抗体が競合的にインスリンとインスリン受容体の結合を阻害していることもある.
血中ケトン体には,アセトン,アセト酪酸(acetoacetate:AcAc),βヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyrate:3-OHBA)の3種類があるが,アセトンは代謝されにくく,利用されることなく呼気,尿中へ排泄されるため,血液中は微量であり通常は測定されていない.絶食,インスリン作用不足,カテコールアミン上昇時などで,生体が脂肪からのエネルギー産生を必要とし,脂肪分解が亢進したときに血中遊離脂肪酸(FFA)が増加する.FFAは肝ミトコンドリア内でβ酸化され,アセチルCoAが産生される.アセチルCoAはAcAcと代謝され,さらに3-OHBA,アセトンとなる.特にケトアシドーシス増悪時は,主に3-OHBAが増加し,総ケトン体の約80%を占めるまでになる.このように肝でのケトン体産生亢進のほか,末梢ケトン体利用低下,尿細管機能異常によって血中ケトン体が上昇するとされている.
以上のように,血中ケトン体は,糖代謝が阻害され脂質代謝が亢進することにより増加するため,糖尿病の病態把握,治療の指標として特に重要である.
異常値が出るメカニズム
乳酸(α-オキシプロピオン酸)は,αヒドロキシ酸の一つで,骨格筋,脳および赤血球でのグリコーゲン代謝に始まる解糖系代謝経路の最終産物として,嫌気的にピルビン酸(pyruvate)から産生される.血液中の乳酸濃度は主に肝臓や腎臓,骨格筋における乳酸合成や代謝回転の結果を示す.正常な代謝回転が保たれている場合,乳酸総産生量の約30%は肝臓の糖新生系(Coriの回路)の基質として利用される1).血液中の乳酸は一価の陰イオンとして存在し,ピルビン酸との濃度比がほぼ10:1に保たれている.この比率に乱れを生じる原因には,次の場合がある.第一にNADH:NADは変化せずピルビン酸値が急増した場合と,第二にNADH:NADは増大したがピルビン酸値は変化しない場合,さらにこの二つの現象が合わさった場合である.
ヒアルロン酸存在の臨床的意義
ヒアルロン酸(hyaluronic acid,hyaluronan)は単鎖状構造をもつグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一つで,グリコサミノグリカンのうち最大の分子量を示す(5万〜800万).他のグリコサミノグリカンと異なり硫酸基を含まない.ヒアルロン酸は保水性がきわめて大で,これが生体内組織に存在する意義となる.組織中のヒアルロン酸はコア蛋白を介してアグリゲート(会合体)として存在する.
最近このヒアルロン酸に特異的に結合する蛋白,アグリカンやネクチンを利用して,血中のヒアルロン酸測定が可能となった.
リポ蛋白の構造と特性
生体の血清脂質には,主に中性脂肪(triglycerides:TG),コレステロール(cholesterol),リン脂質(phospholipids:PL),脂肪酸が存在し,コレステロールはさらに,遊離コレステロール(free cholesterol:FC)と脂肪酸と結合したコレステロールエステル(cholesteryl ester:CE)に分けられる.脂質の特徴は疎水性であり,なかでもTGとCEは非極性脂質と呼ばれ不溶性である.生体ではTGとCEを核として,極性物質であるPL,FCが表面を取り囲み,さらにその表面に蛋白質(アポ蛋白)が存在する球状粒子(リポ蛋白)として血清中に存在する.
血中リポ蛋白は脂質組成・含有量やアポ蛋白の違いなどにより5種類に大別され,その基本的性状の違いは比重に反映される.
総コレステロール(TC)はコレステロールエステル(CE)と遊離型コレステロール(FC)の総和である.血中で,コレステロールはトリグリセライド(TG),リン脂質などの他の脂質成分やアポ蛋白とともにリポ蛋白を形成して存在している.高脂血症の本態はリポ蛋白の増加であり,リポ蛋白が増加することにより血清TC値やTG値が上昇する.各病態で増加するリポ蛋白がそれぞれ異なり,増加したリポ蛋白によりWHO表現型分類I〜V型に分類される(表1).増加したリポ蛋白の判定法として超遠心法やポリアクリルアミドゲル(PAG)電気泳動などがあるが,血清静置試験または血清脂質値(TC値とTG値)から,表1に示すように増加しているリポ蛋白が推測できる.TC値測定の臨床的意義の第一は,どのリポ蛋白が増加または減少しているかの病態の把握にある.以下に,TC値の上昇する病態をWHO分類に則して述べる.
1)IIa型高脂血症:TC値の上昇する最も代表的な病態で,低比重リポ蛋白(LDL)がうっ滞することにより発症する.TC値のみ上昇し,TG値は変動しない.
血液中のコレステロールは,一部が食事由来で,多くは肝臓で合成され分泌されたものである.コレステロールや中性脂肪は水に溶けにくいため,血液中では両親媒性(外側が親水性で内側が親油性)の膜に包まれている.種類がいくつかあり,それぞれ比重(サイズ)が異なっている.総称してリポ蛋白と呼ばれるが,大別するとカイロミクロン,超低比重リポ蛋白(VLDL),中間比重リポ蛋白(IDL),低比重リポ蛋白(LDL),高比重リポ蛋白(HDL)がある(図1).各リポ蛋白とも,固有の代謝回転を行っており,各種酵素やアポリポ蛋白が重要な働きをしている.例えばリポ蛋白リパーゼ(LPL)と呼ばれる酵素は,カイロミクロン,VLDL,IDL,LDLなどの異化を促進している.
動脈硬化症で血管壁に沈着するコレステロールはLDL由来である.一方,HDLは血管壁やLDLなどに存在する過剰なコレステロールを引き出し,肝臓に戻す役割を果たしている.コレステロールは,ステロイドホルモンや胆汁酸などの原料となるほか,細胞にとって必須の構成要素である.したがって,常に一定量のコレステロールが血液中に存在している必要があり,また多すぎると動脈硬化症を起こす.血液中のコレステロールを一定量に保つため,一方で過剰に合成し,他方で余分な量を絶えず分解するという方式の制御機構が働いている.
トリグリセリド(triglyceride:TG)はトリアシルグリセロールあるいは中性脂肪ともいい,グリセロール(G)に3分子の脂肪酸(FA)がエステル結合している.このFAはアルブミン(ALB)と結合して,肝臓や筋肉に取り込まれ,ミトコンドリア内でβ-酸化され,アセチルCoAが生成されてTCAサイクルに入り,エネルギー源として利用される.血中ではキロミクロン(Chyl),超低比重リポ蛋白(VLDL)に多く含まれている.一部は中間比重リポ蛋白(IDL),HDLなどにも存在している.一般にTGの1日の摂取量はコレステロール(Chol)の摂取量(0.2〜0.5g)の約200倍といわれ,食物のTGは膵リパーゼ(LIP)でジグリセリド(DG),モノグリセリド(MG)に水解されるが,90%以上はTGとして存在する.TGは小腸絨毛から吸収され,腸管粘膜細胞内でChylを合成し,腸管リンパ管,胸管を経て血中に入る.カプリル酸など炭素数C8〜C10の脂肪酸は,TGに再合成されてもChylにはならず肝臓に取り込まれる.Chylは血中でHDLのアポC-II,アポC-IIIやアポEにより成熟したChylとなる.このChylのTGはLPLにより毛細血管内皮細胞上で水解され,小型化してChylレムナントとなり,アポEをリガンドとして肝細胞の受容体から取り込まれ,外因性TGとなる.
リポ蛋白は脂質と蛋白の複合体を指し,その特性によりいくつかの分画に分けられる.分画する方法としては,①密度に基づく方法,②電気泳動法に基づく方法,③粒子サイズに基づく方法がある.
一般によく知られている命名法は,密度に基づく分画法によっている.リポ蛋白は,脂質と蛋白の複合体であり,脂質含量が多いとその比重は低くなり,蛋白含量が多いと比重は高くなる.低いリポ蛋白より,超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein:VLDL),低比重リポ蛋白(lowdensity lipoprotein:LDL),高比重リポ蛋白(high density lipoprotein:HDL)が正常には存在する.ある種の病的状態で,VLDLとLDLの間のリポ蛋白(intermediate density lipoprotein:IDL)が増加することがある.
血漿中の脂質は蛋白と結合してリポ蛋白という形で存在しているが,この蛋白部分をアポリポ蛋白と呼んでいる.アポリポ蛋白(アポ蛋白)は,脂質との結合,脂質の輸送などリポ蛋白代謝において重要な機能を果たしている.そして,最も重要な役割としては,水に不溶性の脂質と結合して,リポ蛋白粒子を形成することにより水溶性とすることである.種々のアポ蛋白が現在までに分離,同定されており,主たるアポ蛋白ではその遺伝子構造が明らかにされている.アポA-I,A-II,A-III,A-IV,B48,B100,C-I,C-II,C-III,D,E(A-IIIと同じ),F,G,H,Jなどが知られている.現在までによく分析されているアポ蛋白は,アポA-I,A-II,B48,B100,C-I,C-II,C-III,E,アポ(a)である.
Lp(a)はLDL粒子のapoB100にapo(a)が結合したリポ蛋白粒子の1つである.apo(a)はプラスミノゲンと相同性が高く,線溶系に関与する.例えば,フィブリンや単球・マクロファージ,血管内皮細胞へのプラスミンの結合を競合的に阻害することで血栓形成を促進する.また,プラスミンがTGF-βを活性化し,平滑筋細胞の遊走・増殖を抑制する作用を阻害する.これらの作用により動脈硬化を促進するとされている.Lp(a)血中濃度は0.5mg/dl以下〜100mg/dl以上と個体差がきわめて大きい.これはapo(a)の多型性による.apo(a)はクリングル様構造とプロテアーゼドメインからなる.クリングル様構造は10種類のクリングル4と1つのクリングル5からなる.このうち,クリングル4のうち2番目は3〜40の繰り返し構造をもつ(図1).この繰り返し数が多いほどLp(a)の血中濃度は高い.さらに,apo(a)遺伝子5'発現調節領域の塩基配列の多型性もLp(a)血中濃度に関与する.
高Lp(a)血症では心筋梗塞,虚血性心疾患の発症頻度,心筋梗塞後の冠動脈バイパスや経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再狭窄頻度が高い.さらに,脳梗塞,頸静脈硬化など動脈硬化性疾患で高Lp(a)血症の頻度が高い.
血中脂肪酸の大部分は各種脂質とエステルを構成し,約5%程度が主にアルブミンと結合した遊離脂肪酸(非エステル型脂肪酸:FFA)として存在する.FFAはturn over(代謝回転)が速く,脂肪酸転送能が高く,末梢組織のエネルギー源として重要である.FFAは主に2つの経路で生成される.第1の経路としては,食事から吸収された中性脂肪はカイロマイクロンを形成し,末梢組織のリポ蛋白リパーゼが作用しFFAが血中へ遊離される.第2は,脂肪組織に貯蔵された中性脂肪が,ホルモン感受性リパーゼによって水解されFFAが動員される.多くのホルモン(カテコラミン,ステロイドホルモン,甲状腺ホルモン,成長ホルモンなど)はこのリパーゼを活性化することにより中性脂肪の分解を促進する.一方,インスリンは分解を抑制する.よって,これらの代謝に異常をきたしたときにFFAは異常値を呈する.
レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)は,血中および組織の脂質代謝に関与し,レシチンの脂肪酸をコレステロールの水酸基に転移させて,リゾレシチンとコレステロールエステルを生成する酵素である.大部分がHDLを基質とするα-LCATであるが,VLDLやLDLを基質とするβ-LCATも知られている.
家族性LCAT欠損症は稀ではあるが,高脂血症患者の一部に存在する.LCATは肝で合成され,半減期が2〜3日と短いため,肝蛋白合成能が低下する重症肝疾患で減少する.一方,脂質合成が亢進する種々の病態で増加する.
CETPは,Zilversmitにより1975年に,リポ蛋白間でのコレステリルエステル(CE)の転送,交換を促進する蛋白としてその存在が知られるようになった.その単離はHeslerら,Jarnaginらによりなされ,1987年にDraynaらによりcDNAがクローニングされた.CETPはコレステロール(CHOL)逆転送系(reverse cholesterol transport:RCT)の重要な因子であり,CETP欠損症の病態解析を通じて,その測定が普及しつつある.HDLの脂質転送能の評価,HDLコレステロール(HDL-C)値の個体差や変動を理解するために有用な検査である.HDL関連酵素である,リポ蛋白リパーゼ(LPL),肝性リパーゼ(HTGL),レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)を同時に測定することでその検査価値は向上する.CETPとHTGLの低下はHDL-C値増加をきたし,LCATとLPLの低下はHDL-C値低値と関連している.
HDLは,①動脈硬化巣を含めた末梢細胞由来や,②食事性および内因性のトリグリセリド(TG)の多いリポ蛋白(キロミクロンとVLDL)の水解により生じた余分なCHOL,リン脂質を受け取る.LCAT活性を介してCHOLのエステル化に伴い,HDL3からHDL2への粒子サイズの増大が認められる.
胆汁酸は肝細胞においてコレステロールより生成される.一次胆汁酸であるコール酸(CA),ケノデオキシコール酸(CDCA)と,これらが腸内細菌によって脱水酸化されて生ずる二次胆汁酸であるデオキシコール酸(DCA),リトコール酸(LCA)があり,さらにウルソデオキシコール酸(UDCA)が存在する.これら5種類の胆汁酸には,おのおの遊離型,グリシン抱含型,タウリン抱合型の3型が存在するため,合計15分画の胆汁酸抱合体分画に分けられる.胆汁酸は十二指腸に分泌後,脂肪の消化吸収に重要な役割を果たし,回腸末端から再吸収され門脈を経て肝に至り,腸肝循環を繰り返している.そのため,胆汁酸は健常者の血中に微量存在するが,肝での輸送障害・胆汁うっ滞などに際し腸肝循環が破綻するとき,血中に増加する.
pH,PaCO2,PaO2,SaO2,HCO3-,baseexcess(BE)は,血液ガス検査と呼ばれ,バイタルサインをみるための基本的検査であり緊急検査として頻用される.
臨床的意義は,呼吸・循環機能,末梢でのガス交換,細胞代謝,酸塩基平衡の評価を行うことにある(図1).したがって,呼吸器,循環器,腎臓などの臓器障害のほか,血流やヘモグロビン,重炭酸緩衝系などの血液成分の変化でも異常値を呈する.このように血液ガスには種々の因子が絡み合っているが,検査データの判読には,ガス交換をみる呼吸.循環系と酸塩基平衡に分けると病態を把握しやすい(表1).前者の評価はPaCO2,PaO2,SaO2,後者の評価はpH,PaCO2,HCO3-,BEで行う.