けんさ—私の経験
約10年間,精神分裂病と診断されていた慢性脳炎
水谷 江太郎
1
1榊原白鳳病院神経内科
pp.712
発行日 1999年10月30日
Published Date 1999/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402906539
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以前に精神科より相談を受けた症例であるが,27歳男性で16歳時に幻覚妄想状態で発症し,自傷行為,幻聴,独語を認め,精神分裂病と診断され,約10年間ほとんど入院生活を送っていた.頭部CTで大脳萎縮および左右側脳室周囲の石灰化が認められたことから脳器質疾患の検索が開始され,髄液検査で細胞増多と蛋白上昇を認めた.この髄液細胞増多(細胞数は23〜57/mm3)は1年以上持続した.PCR法を用いた髄液からの単純ヘルペスDNAの検出は陰性であった.髄液ウイルス抗体価はCF法では上昇を認めず,ELISA法では数種類のウイルスについて陽性であったが,起因ウイルスは確定できなかった.
精神症状や人格の変化で発症する脳炎は稀ではなく,時に分裂病様の症状を呈することも経験するが,発熱,痙攣,意識障害などの症状や病像の進行から脳炎と気づかれることが多い.本例では,臨床像からは精神分裂病との鑑別が長期間にわたって困難であった.このような慢性の脳炎例が存在し,分裂病と診断されていても,場合によっては髄液検査を施行することが必要であることを知らされた.
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