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■難病とのかかわりあい
「診断基準」という言葉は,そんなに古くから用いられたものではない.いろいろの単行本や,雑誌の特集号などで取り上げられるようになったのは,わが国で「難病」が取り上げられ,「一体難病とは何か」,「難病奇病」と呼ばれたことからも分かるように,奇妙な病気とか,今までの概念ではどういう病気かを中々表現しにくかったことに由来するといってよかろう.
今日,「難病」として取り上げられるきっかけを作ったのは,いわゆるスモンが問題になってからである.したがって,難病を取り上げるきっかけはスモンから,といってよかろう.
■狭心症の診断基準
New York Heart Associationの「心臓血管疾患の分類命名法および診断基準」に,生理学的診断項目の1つとして記載されている狭心症候群の内容を表1に示す.これを基にして病歴のみから狭心症であるか否かの診断を行った後,その起こり方,時間的経過を考慮に入れて,労作,安静,不安定狭心症のいずれのタイプに相当するかを考える.この場合,国際心臓学会/WHO専門委員会による虚血性心疾患の分類(表2),アメリカ心臓学会の不安定狭心症の分類(表3)を参考にする.
急性心筋梗塞の治療はCCUと冠動脈内血栓溶解療法の普及により著しく進歩した.とくに後者は本症の根本的治療法である梗塞巣救出にあり,時間の制約を受けるので,発症後できるだけ早期にこれを行う必要がある.したがって,より早い正確な診断が要求される.また本症では持続性胸痛の発症は臨床的に冠動脈閉塞の指標となるが,胸痛の発症と心電図変化との間には時間差がある.これには急激な冠動脈閉塞による心筋反応や側副血行路の発達の違いと,かかる状態に対応する血行動態が大いに関係しているという.近年,わが国でも心筋梗塞を含む虚血性心疾患による死亡率は増加傾向にあるが,すでに米国では1940年代より本症発症の危険因子についての疫学的解明が開始され,Framingham StudyやWHOでは虚血性心疾患患者の背景となるものは高血圧,高脂血症,喫煙,耐糖能異常,肥満,家族歴であると指摘した.
■疾患概念と疫学1〜3)
本症候群は僧帽弁閉鎖不全の主たる原因として,また,狭心症と鑑別すべき疾患の1つとして,さらには自律神経障害との関連の上で神経循環無力症(NCA)とオーバーラップする疾患概念として注目を集めている.僧帽弁,ないしその一部が収縮期に左房に向かって「正常域」を越えて逸脱する(prolapse)形態学的異常を有する症候群に対して用いられる.
1963年〜68年にかけてBarlow,Crileyらにより心音,左室造影所見から観察されたものである.1970年ShahらによるMモード法,1974年坂本らによる断層法の報告を踏まえ,今日では超音波検査にて診断される疾患単位として確立されている.
特発性心筋症は原因不明の心筋疾患と定義され,肥大型,拡張型,拘束型に分類される.本症は原因ないし本体が不明であるため,その概念は時代とともに変遷してきたが,最近では1980年に開かれたWHOとISFCの連合委員会の提案が世界的に用いられるようになり,前述の定義・分類も同提案に基づくものである.本邦でも1977年特発性心筋症調査研究班により「特発性心筋症診断の手引き」が作製され,その後数回の改訂を経て現在に至っているが,ここでもWHO/ISFCの提案が基本的に採用されている.そこで本稿では,1986年に改訂された特発性心筋症診断の手引きに準じて,肥大型心筋症の診断基準およびその問題点について概説する.
■疾患概念と疫学
拡張型心筋症は特発性心筋症の一病型である.特発性心筋症は原因または関連の不明な心筋の疾患と定義される.これを言い換えれば,高血圧,冠状動脈疾患,その他のためでなく,原発性に心筋自体に発生した疾患であって,かつ特定の病因を同定・推定できないもの,ということになる.したがって,診断基準は表1のごとく他疾患を除外することによる.特発性心筋症はさらに肥大型・拡張型の2型に分類され,左室心筋の異常な肥大とそれに伴う左室拡張期コンプライアンス低下を特徴とする肥大型に対して,拡張型心筋症は心筋収縮不全とこれに伴う諸所見,ことに左室拡張と駆出分画の低下を特徴とする.このような疾患概念・診断基準から明らかなごとく,その内容は必ずしも単一疾患ではなく,発症時点では診断できない種々の心筋疾患の末期例を含む可能性がある.
正確な発生頻度は不明であるが,1980年以降の本邦剖検輯報では,全剖検例中0.3%弱が拡張型心筋症と診断されている.ただし,病型の明記されていない特発性心筋症がほかにかなりあり,実数は0.3%を上回ると思われる.
■診断基準1,2)(表1)
低血圧の基準は高血圧と異なり,WHOで定められた一定の基準はない.
一般に用いられている低血圧の診断基準は収縮期圧100~110mmHg,拡張期圧60~70mmHg以下とされている.
心臓に種々の負荷がかかったり,心機能が低下すると一時的に心拍出量は低下するが,やがて代償機転が働き,心拍出量は全身の必要量に復帰する.この代償機転が破綻すると,全身への送血量は減少し,心臓の上流である肺または全身にうっ血をきたすことになる.この状態をうっ血性心不全と一般に定義している.これまでの成書にはこのようなうっ血性心不全の定義については記載されてはいるが,診断基準についての記載はあまりみられない.ただ,NYHAのCriteriaCommitteeが心不全の診断基準について提唱しているのみである.この診断基準は左心不全と右心不全に分けて述べられており,それを表1,2に示す.しかし,この診断基準とても日常の臨床の場では必ずしも使われてはいないのが現状である.
このように心不全の診断基準についてあまりとりあげられることがないことの理由の最大のものは,心不全をどの時点からそう呼ぶかということについて必ずしも統一されていないということにある.正常の心機能のもとで,全身が必要とする量の血液を送ることができる状態が正常心と定義でき,この状態からはずれた状態は広い意味で心不全といえる.左室機能が低下するとStarlingの法則が働き,左室拡張期圧が上昇するかまたは拡張期容量が増加して心拍出量を正常に保とうとする.この状態は心拍出量からみると,正常といえるが,左室拡張期圧の上昇や拡張期容量の増加という異常状態を伴っている.
■病態生理
循環系は,ほぼclosedである.この循環系は,収縮を繰り返す心臓,各臓器へ行き渡っている脈管系,そしてその中にある血液から成り立っている.心臓の収縮性が低下し,血液が十分に駆出できないと,末梢動脈の収縮で血圧を維持しようとするが,限界があり,ショックに陥って行く.これが心原性ショックで次の項で説明する.
心臓が拍出した血液を,一定の緊張で収縮している末梢動脈が受け止めるので血圧を生ずる.これが,精神的ショックで急に拡張すると,血圧が低下しショック状態となる.胸水,腹水が血管系を外から圧迫して小さくしていたのを,突然取り除くと,同じくショックとなる.
■心臓に起因する色々なショック
心原性ショックに含める病態は立場によって異なって来る.ある立場は,心臓が原因となって生ずるショック全部,更には肺循環系に起因するものも含めている.筆者としては,診断する目的の中に,同時に治療方法を決めて行くことも含めて考えたく,以下のものは分けて取り扱うことにしている.
■疾患概念
NYHA(New York Heart Association)におけるThe Criteria Committee(1973)によれば,高血圧による心疾患(heart disease due to hypertension)は"持続性の拡張期高血圧があり,左室肥大または左室不全を伴うもの"とされている1).
本態性または二次性の拡張期高血圧が長期にわたって存在すると,左室圧負荷の代償機構として左室肥大(求心性肥大)が生じ,さらに圧負荷が持続すると左室拡大(遠心性肥大)が起こる.そして左室心筋障害を伴うと左室不全が惹起される.また,冠動脈粥状硬化が合併しやすい.虚血性心疾患を伴うと,左室不全または重症不整脈がしばしば認められるようになる.このような,高血圧に伴う心障害の発現はきわめて多様であり,これらは総称して高血圧性心疾患と呼ばれている.
■僧帽弁逆流の重症度の診断基準
僧帽弁逆流の重症度の評価には,表1に示すような左室造影法によるSellersらの診断基準が広く用いられている.この診断基準ば,左室内で注入した造影剤の左房内への移行で僧帽弁逆流との診断を行い,その濃度の程度により逆流の重症度を4段階に半定量化しようとするものである.現在まで血管造影法以外に信頼すべき重症度の診断法がなく,僧帽弁逆流のみならず大動脈弁逆流の重症度診断のgolden standardとして,血管造影法が用いられている.
しかし,本法には
1)左心機能や血圧
2)造影剤の量や注入速度
3)カテーテルの種類・位置
4)心臓カテーテル時に発生した不整脈
などによって,逆流の重症度が影響を受けるという問題点が存在する.また本法は,観血的であり,合併症を引き起こす可能性があるため,気軽に繰り返して行えない.
先天性心疾患(表1)として大動脈-肺動脈,左右心室あるいは心房いずれかに短絡があり肺血管抵抗が上昇して体血圧レベルの肺高血圧症をきたし,左右短絡が右左短絡に逆転した症例および両方向性短絡となっている症例をEisenmenger症候群と定義する.
近年,臨床電気生理学的検査の普及に伴い,心臓ペーシングで誘発,停止される頻拍性不整脈の機序として,reentryおよびtriggered activityが注目されている.一方,自動能亢進による不整脈(自動能亢進性不整脈automatic arrhythmia)についての報告は少ない.したがって,その臨床不整脈における診断基準は必ずしも確立されていない.本稿では自動能に関する基礎電気生理学をもとにした診断基準をあげ,自動能亢進による心房性頻拍,接合部性頻拍,および心室性頻拍の診断の考え方について概説を加える.
正常の洞調律により興奮している心臓では,洞結節から発したimpulseは心房から心室へと順次伝播された後に消滅する.心室まで達して心臓全体を興奮させたimpulseが消滅せずにどこかに残存し,不応期の終了後に心臓を再興奮させる現象がリエントリーである.心臓の有効不応期は長く,心房筋での150msecから心室プルキンエ線維での500msecまで幅があるが,少なくともこの間はimpulseは周囲の組織から機能的に隔離された伝導路の中へ迂回することにより生き残らなくてはならない(①伝導路の機能的縦解離によるリエントリー路の形成).機能的縦解離は解剖学的に分離しうる伝導路(例:正常の房室伝導路と副伝導路)においてのみならず,同一組織においても不応期の不均一性を有する場合に生じうる(例:心房,房室結節,プルキンエ線維-心室筋接合部,心室筋).この際,伝導速度が0.02m/secと著明に低下する心筋梗塞心では,わずか6mmの距離を迂回すれば300msecの不応期を有する心筋を再興奮させることができる(②遅い伝導速度).一方,再興奮される心筋の不応期が短縮すると伝導速度の低下が少ない,短い伝導路においても再興奮が生じやすくなる(③不応期の短縮).
臨床的不整脈の大部分がリエントリーに起因すると考えられており,その診断基準はこれらの基本条件の成立を証明することではあるが,すべての不整脈で可能とは限らない.
■Triggered automaticity(TA)の概念
TAは活動電位再分極終了直後にみられる膜電位の動揺(oscillatory afterpotential(OAP),あるいはdelayed afterdepolarization(DAD)と呼ばれる)により新たな活動電位が誘発される状態のことで,頻拍性不整脈の原因になるだけでなく,膜電位減少による伝導抑制を招くこともある.このような膜電位の動揺は,ジギタリス剤,カテコラミン,高Ca++,低Na+,低K+などの存在下で細胞内Ca++濃度が高まったときに生じる現象で,その発生に先行する活動電位を必要とするものの,脱分極自体は自然に生じるので自動能の範疇に属する.しかしreentry(Re)と同様,単発〜連続刺激により誘発ないし停止が可能(表1 I,II,III,IV)という点できわめて特異である.
臨床上,TA性不整脈がジギタリス中毒時以外にもみられるか否か定かではないが,その原因となる細胞内Ca-overloadは虚血時をはじめ,病的状態ではよくみられる現象であるので,頻回にみられても不思議ではない.
■診断基準(表)
左室内に分布する左脚は1本の枝ではなく,2本の分枝,すなわち左脚前枝と左脚後枝に分かれている.解剖学的には,そのようなはっきりとした2本の分枝に分かれている例は比較的少ないとする立場から,二分枝説に反対する学者もいるが,心電図学的見地からは解かり易い概念であり,また有用でもあるので,広く一般に受け入れられている.
左脚の2本の分枝のうち,左脚前枝の伝導が完全に途絶したものが左脚前枝ブロックで,左室の興奮は左脚後枝のみから始まる.前枝ブロックでは,後枝支配領域である左室の後壁下壁より興奮が始まり,前枝支配領域である前壁側壁は,前枝後枝間の末梢プルキンエ線維網の連絡を通じて遅れて逆行性に興奮させられる.このために,心電図上,QRS軸は著しい左軸偏位(-45°〜-90°)をとり,また,QRS幅は0.02秒以内の延長を示す.
左室内に分布する左脚は2本の分枝,すなわち左脚前枝と左脚後枝に分かれているが,そのうち左脚後枝の伝導が完全に途絶したものが左脚後枝ブロックで,この場合,左室の興奮は左脚前枝のみから始まる.後枝ブロックでは,前枝支配領域である前壁側壁より興奮が始まり,後枝支配領域である後壁下壁は,前枝後枝間の末梢プルキンエ線維網を通じて遅れて逆行性に興奮させられる.このために,心電図上,QRS軸は右軸偏位(+90°〜+120°)をとり,また,QRS幅は0.02秒以内の延長を示す.
左脚後枝は比較的短くて厚い分枝であるということ,左右両冠動脈より二重の血流支配を受けていることなどのために,右脚を含む3本の心室内刺激伝導系のうち,最もブロックを起こしにくい分枝となっている.このために,単独の左脚後枝ブロックが他の分枝ブロックを合併せずに起こることはほとんどありえないとも考えられている.
洞機能不全症候群とは,洞結節の自動能の低下,あるいは洞結節から心房への伝導能の低下の結果生じる不整脈に起因する徴候,症状を有する場合をいう.虚血,炎症,変性など各種の疾患に伴ってみられるが,現実には特発性と言わざるをえない場合がほとんどである.本邦における頻度は不明であるが,ペースメーカー患者では,その頻度は房室伝導障害とほぼ等しいと思われる.とくに男女差はなく年齢的には房室ブロックよりやや若く,50〜60歳代に多い.
■肺癌の概念と疫学
肺癌の病理組織像は多彩であるが,発生頻度の高い組織型として扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌,小細胞癌が挙げられる.各組織型の差は肺癌の病態とも深く関連し,多彩な臨床像として現れる.
扁平上皮癌は太い気管支とくに亜区域支より中枢に発生する例が多い.まず粘膜上皮の癌化が起こり,気管支内腔に進展する.そのため咳,痰,血痰などの自覚症状で発見されることが多く,X線像は肺炎などの二次性変化としてみられる.
肺気腫は「終末細気管支より末梢の気腔が非可逆的に拡大している状態であって,それらの壁の破壊を伴い,明らかな線維化を伴わないもの」という病理解剖学的定義が1987年Amer ThoracicSocietyによって採用されている.それによるとさらに肺気腫は,①細葉の近位部位である呼吸細気管支に主として病変が存在する細葉中心性肺気腫(centriacinar),②細葉を構成するいずれの部位にも病変がほぼ均等に存在する汎細葉性肺気腫(panacinar),③細葉の遠位部位である肺胞道・肺胞?に主として病変が存在する遠位細葉性肺気腫(distal acinar)に分類されている.これらが同一症例に混在することも少なくない.臨床の場においては,これらの終末細気管支・肺胞系の病理形態学的異常によってもたらされる病態をいかに検出するかが問題となる.
一般に本症は比較的高齢になって労作時呼吸困難を自覚し,次第に呼吸機能が低下しそれによる労作制限が進行する.必ずしも全例ではないがその多くは呼吸不全の急性増悪を繰り返しながら経過する.しかしながら,生命予後は比較的に良い.なかには肺気腫でありながら健常人の平均余命を越えて生存する例も見られる.
■びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis;DPB)の概念と診断基準
DPBは本来,病理形態学的に規定された疾患で,診断は病理形態学的になされるべきである.しかし,その形態学的所見は非特異的で,経気管支肺生検では十分な組織,特に病変の主座である呼吸細気管支の採取が困難であり,開胸肺生検では侵襲が大きすぎるため,いきおい臨床診断にならざるをえない.幸い大量の膿性痰,強い労作時の息切れ,特徴的なX線所見などの臨床所見から臨床的にDPBの診断をすることは,それほど難しいことではない.表は昭和57年12月,厚生省特定疾患間質性肺疾患調査研究班がまとめたDPB診断の手引きである.この表にDPBの疾患概念と診断基準がまとめられている.
気管支拡張症は,器質的な病変に基づき気管支の異常な拡張が不可逆性にみられる状態と定義される.したがって,気管支拡張症は独立した単一疾患ではなく,一つの症候であり,その成因には種々の要因が関与をしている.
気管支に不可逆性の拡張をもたらす機序としては,以下に挙げた3点に要約される.
気管支喘息とは,発作性の呼吸困難,喘鳴,咳嗽を主症状とし,種々の刺激に対する気道反応性亢進を特徴とする疾患と考えられている.現在,万人に認められている定義は存在しないが,American ThoracicSociety(1962)の定義が最も広く用いられている.以下,全文を引用する.
喘息とは,種々の刺激に対する気管および気管支の反応性亢進を特徴とし,広範な気道狭窄を示す疾患である.この気道狭窄の程度は,自然に,あるいは,治療の結果により変化する."喘息"という言葉は,急性ないし慢性気管支炎のような広範な気道の感染,肺気腫のような肺の破壊的疾患,あるいは,心血管系疾患のみから生ずる気管支の狭窄に用いるのは適当ではない.ここに定義した喘息は,他の心肺疾患患者でも起こりうるが,これらの患者に生ずる気道閉塞は,原因となる疾患より二次的に生じたものである.
PIE(Pulmonary infiltration with eosinophilia)症候群とは,臨床症状として,咳,痰,発熱,重症例では呼吸困難を呈する疾患で,胸部X線上,様々な肺浸潤影を有し,末梢血中好酸球増多(400/mm3以上)を特徴とする症候群である.
歴史的には,1932年Löfflerが,無症状あるいは軽い呼吸器症状を呈し,胸部X線上,一過性の浸潤影を有し,末梢血好酸球増多(blood eosinophilia)を伴う,予後良好の症例を報告したのが最初であり,後に,Löffler症候群と呼ばれるようになった.1952年Reeder,Goodrichが,少しずつ病像,予後の異なっている症例をまとめて,PIE症候群と総称することを提唱し,また,Croftonらが,pulmonary eosinophiliaとして,各群間に互いに移行があるとしながらも,
①simple pulmonary eosinophilia(Löffler syndrome)
②prolonged pulmonary eosinophilia
③pulmonary eosinophilia with asthma
④tropical eosinophilia
⑤polyarteritis nodosa(PN)
の5群に分類した.
空咳と労作時息切れで発症し,胸部X線写真でびまん性に粒状,網状陰影が認められ,呼吸機能上肺活量が減少し,低酸素血症を示し,組織学的に主にusual interstitial pneumonia(UIP)の所見を有する原因不明の間質性肺炎を,厚生省特定疾患調査研究班(1980年)では,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumomia;IIP)と呼んでいる.ここでいう間質とは狭義の間質を指し,主に胞隔の炎症,つまり胞隔炎(alveolitis)が本症の主病変であり,進展すれば細気管支および細気管支周囲などにも病変が及ぶことになる.
英国では,原因不明の間質性肺炎をlonecryptogenic fibrosing alveolitis(CFA)と呼んでいるが,米国においては,idiopathic pulmonaryfibrosis(IPF)がIIPとほぼ同義的に用いられている.しかしIPFはIIPとやや臨床像上差があり,形態学的にはUIPのみならず一部desquamative interstitial pneumonia(DIP)を混在している.
過敏性肺臓炎は,アレルギー性呼吸器疾患の代表的なものの1つである.しかし,本症は,わが国では比較的新しい疾患であるために本症に対する認識が浅いこと,さらには本症の原因抗原を決定することが日常の臨床の場では容易ではないことから,本症の診断が常に正しく行われているとは言い難いのが現状である.したがって,過敏性肺臓炎の診断基準は,本症の臨床に不可欠な指標として重視されている.本稿では,わが国で最も多い夏型過敏性肺臓炎の診断基準を中心に概説する.
じん肺症は「粉塵を吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾患」と定義される.線維化を引き起こすのは一般に無機粉じんであり,職業性に暴露されることが多い.粉じんの種類によりけい肺,けい酸塩肺(石綿,タルク肺など),炭坑夫じん肺,黒鉛肺,鉄肺,アルミニュウム肺などがある.線維増殖性変化は離職後も年余にわたる経過で進展し,それに伴い気管支炎,気管支拡張症,気胸が続発してくる.
わが国には,じん肺に関し適正な予防および健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的としたじん肺法がある.じん肺の定義は前記したように法律的に定められる.またじん肺と合併した肺結核その他(結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸)のじん肺の進展経過に応じて,じん肺と密接な関係があると認められる疾患を合併症としている.また粉じん作業の範囲は,労働省令で定められ,じん肺法施行規則に詳細に規定されている.
■非定型抗酸菌症の概念
非定型抗酸菌症は非定型抗酸菌によって起こる感染症である.非定型抗酸菌とは結核菌以外の抗酸菌の総称であり,多くの菌種が含まれており,それぞれ多少病態が異なるので菌種にまで分類同定することが望まれる.
非定型抗酸菌症の病態と治療については日本結核病学会治療専門委員会の「非定型抗酸菌症の治療にかんする見解」1)を参照されたい.
アスペルギルスは直径2〜4μmの分節菌糸の形態をとり,成長して,胞子分裂により分生胞子(conidialhead)を形成する.この特徴的な形態により,アスペルギルスと同定される.アスペルギルスは壁の厚い芽胞を産生し,乾燥には抵抗性で,感染は経気道で吸入により成立する.アスペルギルスは通常,肺の構造に異常がなく,免疫学的に正常な人に対して疾病をきたすことはない.菌種は200以上あるとされ,人に病原性を有するものは,A. fumigatus,A. flavus,A. niger,A. nidulans,A. terreusなどが知られているが,90%以上がA. fumigatusである.
肺高血圧は血行動態面で肺動脈平均圧が正常上限を越えた状態をいう.若年者における安静時の肺動脈平均圧は13±4mmHgであるが,WHOの基準1)によれば肺動脈平均圧が25mmHgを超えた場合に肺高血圧が存在するとされており,わが国でも厚生省特定疾患原発性肺高血圧症調査研究班による診断基準2)で肺動脈平均圧が25mmHg以上のものを肺高血圧症としている.ただし,日常経験する慢性呼吸器疾患では安静時肺動脈平均圧が25mmHg以上を呈することは決して多くはなく,原発性肺高血圧症を除いた呼吸器疾患では,肺動脈平均圧が20mmHgを示せば肺高血圧症が存在するものと一般的には理解されている.
肺血栓塞栓症は本邦では稀な疾患とされたが,近年,漸次臨床例の増加が報告されてきている.肺にはいわゆるフィルター作用があり,静脈系浮遊物を濾過して大循環系への移行を阻止する作用がある.このため肺は線溶系活性が高く,血栓性塞栓が起こっても単発性の小さいものは無症状か,あるいは症状があっても数日以内に溶解することが知られ,臨床で問題になることは少ない.
臨床で問題になるのはマクロのレベルの肺血栓塞栓であり,これらは明確な臨床症状を有し,その原因が肺塞栓症によることから,臨床有意(clinically sig-nificant)あるいは臨床顕性(clinically manifested)な肺血栓塞栓症といわれる.ここでは,これら臨床有意な肺血栓塞栓症の診断基準について述べる.
■診断基準
成人呼吸窮迫症候群adult respiratory distress syndrome(ARDS)の定義は必ずしも明確でなく,疾患概念も変化してきているが現時点ではPettyの診断基準が一般的に用いられている(表1).
呼吸不全の概念として,現在最も広く受け入れられているのは,動脈血ガス,とくにO2とCO2が異常な値を示し,それがために生体が正常な機能を営みえない状態が呼吸不全であるとするものである.動脈血ガス分析は測定器機の自動化と普及により一般的な検査として施行できるようになった.しかし,生体の正常機能を鋭敏に反映する組織レベルでのガス交換の良否を判定するのに役立つ中心静脈血O2分圧(PvO2)測定は,ルーチン検査とはいえず,施行は限定される.したがって,現状では,動脈血ガス測定値に基づく診断が行われるが,あわせて肺以外の他臓器の機能障害も臨床的に把握できないかどうか,を念頭におく必要がある.
睡眠時無呼吸症候群は,睡眠中の生理的機能の総合的モニタリングを意味するポリソムノグラフィーに基づき診断される.ポリソムノグラフィーから睡眠中の呼吸循環機能や睡眠相など,様々な情報を捉えることができるが,現在用いられている睡眠時無呼吸症候群の診断基準では,睡眠時の無呼吸の出現頻度と出現様式が診断の決定因子となっている.しかしその研究の結果,無呼吸以外の睡眠時呼吸異常に伴う病態を捉える必要性や,睡眠時無呼吸症候群の診断に際し,加齢の影響を考慮する必要性などが理解されるようになってきた.本稿では,睡眠時無呼吸症候群の診断基準と診断方法,それらの方法が導入された経緯と問題点などについて述べる.
食道癌の臨床ならびに病理学的取り扱いは,食道疾患研究会により定められた「食道癌取扱い規約」1)があり,この中にはX線,内視鏡分類も含まれる.粘膜下層までの食道癌の臨床経験が重なり,病型分類を改定することとなり,病理肉眼分類,次に内視鏡型分類が根本的に変更されることになった.すでにその案が提示され,試験的に用いられ,間もなく取扱い規約に採用される.以下に内視鏡分類(案)を中心に食道癌の診断基準について述べる.
食道胃接合部の嚥下性弛緩不金による食物通過障害や,食道異常拡張が認められる機能的疾患であり,その成因は未だ不明である.
■記載基準とstage分類
食道静脈瘤症例の約20〜50%は臨床的に胃静脈瘤を伴っているが,胃静脈瘤症例からみると食道静脈瘤を伴わないほうが稀である.すなわち,食道静脈瘤は単独であることが多いが,胃静脈瘤が単独で存在することは少ない.また,食道静脈瘤は胃静脈瘤に比して出血しやすく,食道静脈瘤の治療時には併存する胃静脈瘤も併せて治療される.このような事情を反映して食道静脈瘤については全国的に統一された記載基準1)(表1)が使用されているが,胃静脈瘤には特定の基準はない.そこで本稿では食道静脈瘤を中心に述べ,胃静脈瘤については適宜追加するにとどめる.
■慢性胃炎のX線診断基準(表1)
■慢性胃炎の内視鏡診断基準(表2)
■病態生理からみた分類(図)
胃炎は急性胃炎と慢性胃炎に分けられる.急性胃炎は主として胃粘膜の炎症性変化で,原因によって外因性胃炎(単純性,腐蝕性),と内因性胃炎(感染性,化膿性,アレルギー性)とに分類される.炎症が粘膜表層にとどまる軽症から,化膿性胃炎のように全層に及ぶ重篤なもの,腐蝕性胃炎などのように多発性潰瘍を伴うものまで,その病像は多彩であり,最近は急性胃粘膜病変acute gastricmucosal lesion(AGML)と呼ばれることが多いが,明確な診断基準はない.
慢性胃炎は固有胃腺の萎縮が本態で,非可逆性の病変である.
Ménétrier病は,Ménétrierの論文「Des polyadenomes gastriques et de leurs rapports avecle cancer de l'estomac(Arch Physiol NormPathol 1:32-35,236-262,1888)」,「胃のpolyadenomeと,それと胃癌との関係」に記載された7例のうち2例を,胃の腺腫性ポリープが横に連続的に広がったものと解釈して,polyadenomesen nappe(ナプキンを広げたようなpolyadenoma)と呼称した疾患である.多賀須は,Ménétrier病を胃粘膜の著しい増殖によって,胃粘膜襞が脳回転様にまで巨大になった病変と定義している.病理学的に,Ménétrier病では脳回転様,胎盤様と表現される切除胃の肉眼所見がきわめて特徴的である.病変の占拠部位は胃体部大彎がほとんどで,幽門前庭部が冒されることは稀である.幅1.5cm,高さ3〜4cmにも達する,光沢のある巨大皺襞が深い溝で隔てられているほか,皺襞の上に深い切れ込みがあり,顆粒状を示している.かつ,粘膜表面は多量の粘液で覆われている.
組織所見の特徴は,胃底腺領域を中心に固有胃腺,腺窩上皮の過形成による胃粘膜層の著明な肥厚である.
■「診断基準」について
胃潰瘍ならびに十二指腸潰瘍は消化性潰瘍とも称せられるが,一般的には胃液(塩酸,ペプシン)の強力な消化力が影響する部分に発生する境界明瞭な限局性組織欠損である(組織学的には粘膜筋板を越える).臨床的に潰瘍かびらんを区別することは出血を伴う場合には困難なことも多いが,一般的には,内視鏡的に白苔の付着を確認する限り,病変の大小に関係なく潰瘍とする場合が多いようである(表).
消化性潰瘍という名称が指摘するごとく,胃液の影響が及ぶところ,すなわち,食道下端部から十二指腸下部にわたって発生する.その成因として,塩酸ならびにペプシンの強力な消化力が関与することは確かであるが,これら攻撃因子に対して抵抗する側の粘膜防御因子の関与は無視できず,むしろ,現在では粘膜防御因子の減弱を第一義的に考慮すべきであるとする考え方もある.すなわち,十二指腸潰瘍はほとんどが著明な胃酸分泌亢進を示すが,胃潰瘍はむしろ正常より低い酸分泌能を示すこと,また,健常人においても十二指腸潰瘍のそれに匹敵する高酸を呈する例も決して稀でないことが,粘膜防御因子を重視する考え方を支持するものともいえる.
■概念と疫学
Zollinger-Ellison症候群は1954年の米国外科学会に両博士が膵島性腫瘍,難治性再発性空腸潰瘍,異常な胃酸分泌亢進のある女性の2症例を報告したのが最初1)であり,翌年にEiseman2)が症例を追加してその概念を報告している.本症候群の本体は腫瘍から分泌されるガストリンであり,本症候群を修飾する症状,病理,病態生理はすべてこのペプタイドホルモンに起因する.この腫瘍は非B島性細胞腫であり,膵に高頻度に発生し,尾部に最も多く,ついで体部である3).しかし,十二指腸,胃にも発生し,さらには思いがけない臓器にも発生する.腫瘍の50%は多発性で,2/3は悪性である.腫瘍の良悪性の判定は腫瘍の生物学的態度や病理組織像によってもなされるが,大部分の例では他臓器への転移の有無によって判定されている4).腫瘍の転移は所属リンパ節,肝臓が多い.腫瘍の産生するホルモンはガストリンのみの単一ホルモン産生腫瘍の例は少なく,複数のホルモンを産生する多ホルモン産生腫瘍の例が多い5,6).しかし,血中において証明されるホルモンはガストリンを除いて多くなく,したがって本症候群の臨床像は先述したように,ガストリンの作用に基づくものがほとんどである.
1988年4月までの筆者の集計では本邦における本症候群の報告数は185例ある.筆者は5年毎に本症候群の集計を「医学中央雑誌」を中心に行っているが,その正確な症例数は把握していない.
胃癌は胃の粘膜より発生する上皮性の悪性新生物であり,癌組織が胃壁の粘膜下層までにとどまるものを早期癌(転移の有無は問わない),粘膜下層を越えて固有筋層以下の深部に浸潤したものを進行癌という.
わが国の胃癌の訂正死亡率は男女とも世界で群を抜いて高く,最も低いアメリカ白人の約十倍である.年次別の胃癌の訂正罹患率は全癌のそれが若干の上昇ないし横ばいであるのに対し,男女とも減少傾向にあり,また訂正死亡率も順調に減少しているにもかかわらず,死亡数および死亡率はあまり大きな変化はなく,昭和60年の胃癌の死亡数は年間48,902人である1).これは人口の高齢化と高齢者ほど死亡率が高いことの反映であろう。胃癌発生率は40歳代から70歳までに高く,60歳代が32.6%と最も高い.男女比は約1.9:1で男性に多いが,40歳未満では女性のほうが多い.昭和56年以来,わが国では悪性新生物が死因の第1位となり,胃癌はその中でも約30%と最も多く,未だ国民病的な感が強い.
■診断基準とその解説
診断上の必要条件を簡明にまとめたものを診断基準とするならば,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesions;AGML)のそれは表1のようになる.あえてエックス線診断を文中に入れなかったのは,確定診断はやはり内視鏡検査によらなければならないからである.実際において,表1に示したような急性の臨床症状を呈して来院し,AGMLが疑われる場合には,まず内視鏡でみるのが一般的である.そのほうが急性の粘膜変化,特に出血などの様相は具体的にわかるし,必要に応じて内視鏡的止血も可能だからである.もちろんエックス線検査でも,粘膜浮腫の状態や,多発する潰瘍性変化の所見は診断上参考になる.
症状のところで,"多くの場合"としたのは,老年者などで,自覚症状がなくてもAGMLの所見を有する例に遭遇するからである.要は自覚症状よりも内視鏡所見が診断の決め手となる.またAGMLをみたなら,その発生要因については当然考慮しなければならない.主な発生要因を表2に示す.だが,AGMLの内視鏡所見は各要因によって様相が異なるといったことは,特別な場合を除いてはあまりない.内視鏡所見のところで,明らかな炎症性変化としたのは,ごく軽度の赤発,浮腫,点状出血斑まで含めたのではきりがないからである.
■概念
蛋白漏出性腸症protein losing enteropathyとは,血漿蛋白(とくにアルブミン)が,腸粘膜から異常に大量に漏出し,4.0g/d/以下の低蛋白血症を惹起している状態を総称する症候群である.
低蛋白血症の原因が腸からの蛋白漏出であることを証明して確診するが,しばしば血中の免疫グロブリンも低下している.
■診断基準(案)(表1)
吸収不良症候群とは,糖質,蛋白質,脂質,ビタミン,電解質,水などの単一または複数の栄養素の腸管における消化,または吸収障害によって引き起こされる欠乏症状を含む,種々な臨床症状を呈する疾患の総称である.本症によってもたらされる症状を大別すると,
1)下痢,脂肪便,蛋白便,腹部膨満感,腹鳴,腎結石などの消化吸収障害によるもの
2)体重減少,やせ,成長障害,浮腫,腹部膨満,腹水,貧血,皮下出血,骨軟化症,口内炎,末梢神経炎,無月経,テタニー,眼症状などの各種栄養素の欠乏症状によるもの
がある.これらの症状をきたす病態の機序は単一のものではなく複雑な因子の絡みあったものによる.
本邦における本態性吸収不良症候群のうち,セリアック・スプルーは5例,β-リポタンパク欠損症はごくわずかの症例報告があるにすぎない.本邦の大部分の吸収不良症候群は,腸管術後障害やクローン病などの小腸広範な病変による症候性吸収不良症候群や消化吸収障害性吸収不良症候群である.著明な消化吸収障害でtotal parenteral nutrition(TPN)のhome alimentationを行わなければならない疾患として,腸間膜動静脈閉塞症による手術後の短腸症候群と小腸型クローン病がある.刷子縁膜病としては,乳製品の消費量がまだ欧米に比べて少ない本邦では,乳糖不耐症が55〜73%の成人にみられる.
■診断基準(狭義の輸入脚症候群)
疾患概念が明確でないため,ここでは狭義の本症候群の診断法を述べる.
1)Billroth II型胃切除を受けている.
2)特有の症状―食後の右上腹部痛と胆汁性噴射性嘔吐―を呈する.(胆汁性嘔吐により輸入脚逆流と鑑別)
3)特徴的検査所見が得られる.
(a)脂肪便を認めることが多い.
(b)腹部のエコー,CT,単純X線で右上腹部にU字型の嚢状腫瘤を認める.
(c)胃透視で,残胃の拡張はない.造影剤の輸出脚への流出は良好で,輸入脚への流入は認めない.(輸入脚逆流や輸出脚閉塞との鑑別)
(d)99mTc-HIDAによる肝胆道シンチグラフィーで輸入脚内でのRI活性の停滞と,輸入脚への流出の遅延を認める.
(e)セクレチンやCCK-PZにより症状の誘発を認める.
A.非特異性多発性小腸潰瘍(症)=慢性出血性多発腸潰瘍
■同義語
同疾患は慢性出血性小腸潰瘍(症)や慢性出血性多発腸潰瘍chronic hemorrhagic multiple ulcersof the intestineと同義語である.潰瘍が大腸にも発生することがあるので,最後の病名が適切であろう1).
1)概念
腸管の虚血により生じる病変に対して様々な呼称があるが,最近ではischemic bowel disease(虚血性腸病変)が用いられている.虚血性小腸炎の報告はまれであるので症例を呈示するにとどめ(図),本稿ではischemic colitisを中心に述べる.1963年Boleyらは,主幹動脈に閉塞がないにもかかわらず大腸に虚血性病変が発症し,可逆的に治療した症例を報告し,reversible vascular occlusion of the colonという概念を提唱した.その後1966年になってMarston1)らが,血行障害に起因する病変が大腸の炎症性疾患に類似することから,これを総合的にischemic colitis(虚血性大腸炎)として報告して以来,一疾患単位として認められるようになり,最近本邦においても報告例が増加している.
ischemic colitis(虚血性大腸炎)の臨床像は「50歳以上の高齢者で,腹痛,下血,下痢を主訴として発症し,左側結腸に好発して特徴的な注腸造影や内視鏡所見を呈し,一過性に軽快することの多い症例」とされている.早期に本疾患に気づけばその診断は比較的容易である.
感染性腸炎は細菌,原虫,ウイルスなどの微生物を原因として急性に発症し,下痢を主体とした臨床像を示す腸管感染症である.腸チフスやパラチフスAは腸管感染症ではあるが,その経過中に菌血相を有し,高熱を主訴とする全身感染症の像を示すため,感染性腸炎の範疇に含めない.感染性腸炎では下痢のほか血便,腹痛,嘔気,嘔吐や発熱,全身倦怠感などを伴うことがある.
細菌としては赤痢菌やコレラ菌のように他個体への感染力がきわめて強く,わが国で法定伝染病として扱われるもののほか,食中毒の原因菌としてサルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクター,エルシニア,エロモナス,さらに,抗生物質の投与が契機となって発症する抗生剤関与性腸炎(偽膜性腸炎)の原因菌とされるクロストリデイウム・デフイシルなどが列挙される(表1).また,原虫としては赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムが,ウイルスとしてロタウイルスなどが分離される.
■潰瘍性大腸炎の診断基準(表)1,2)
TrueloveらやRothは「大腸の炎症や潰瘍は種々の原因によって起こるが,原因の明らかなものを除外してもなお一群の大腸炎が残る.これが今日,潰瘍性大腸炎という名称で呼ばれている」と述べているが,これは,歴史的背景からみて潰瘍性大腸炎の概念に関する基本的な考え方といってよい.ところが,1968年頃,潰瘍性大腸炎の一部が大腸クローン病(肉芽腫性大腸炎,限局性大腸炎)として分離されたので,現在,原因不明の大腸炎は潰瘍性大腸炎と大腸クローン病の2つに分類することとなっている.大腸クローン病はわが国の基準ではクローン病の大腸型とみなすことが決められているので3),原因不明の大腸炎は潰瘍性大腸炎かクローン病のどちらかである.
WHOのCIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences医科学国際組織委員会)では各種消化器疾患の名称と概念を規定した用語集を刊行し,潰瘍性大腸炎の概念を次のように規定している(1973).
クローン病は,口腔から肛門までの消化管を非連続性に,全層にわたって侵し,潰瘍や線維化およびリンパ球,形質細胞を主体とする細胞浸潤を伴う慢性の非特異性肉芽腫性炎症である.原因は不明で,好発部位は回盲部である.
もともと本症は1932年にCrohnらにより回腸末端炎の名で発表され,回盲部結核とは異なる病気として報告された.わが国では1939年塩田教授により非特種性局所性腸炎として紹介されたが,本邦の症例の70%は急性型で,瘻孔や再燃がなく,組織診断を欠いており,慢性型を主とする欧米のものとは異なることがKyle(1972)により指摘された.
消化管ポリポーシスは決して1つの疾患単位ではなく,その中に多数の性質の異なった疾患が含まれている.各疾患の診断基準はその病理組織学的所見に基づいており,しばしば誤解されているように,単にポリープの数,分布などによって決められるわけではない.したがって,消化管ポリポーシスの病理組織学的分類が診断の基礎として最も大切であるので,これを表にまとめておく(表).
各疾患の組織像はそれぞれ異なるので,その概念ならびに診断基準は,次項で各疾患ごとに述べることにする.
大腸癌の疾病の特性は表1に示したが,臨床的な診断基準はなく,確定には組織診断がすべてである.したがって,本稿では大腸癌の存在を疑わせる症状から,生検による組織診断に至るまでの診断手順を主に述べる.
■疾病概念と疫学
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)とは,腸管やその関連臓器,さらに全身の臓器に器質的な病変がないにもかかわらず,便通異常を訴え,大腸を主とした腸管の機能異常のある状態といえる.IBSの病態を検討してもIBSに特異的な所見は得られない.IBSは単一あるいは複数の疾病としての症候群ではなく,便通異常や腹痛を主とした症状群である.しかし,幾つかの症状があればよいというものでもない.消化管の機能の亢進が持続的または間歇的に存在している状態を指すのである.
IBSの頻度は消化器疾患の中でも高く,日常臨床において遭遇する機会が多い.当科の集計では外来患者の1.7〜2.4%を占める.性比は1:1.7と女性に多い.年代別には20歳代から40歳代に多く,60歳以上の症例は少ない.
乳糖不耐症とは通常量の乳糖の摂取によって腹痛,腹鳴,下痢などの症状を生ずるものであり,そのほとんどは小腸刷子縁の乳糖分解酵素ラクターゼの活性低下または欠損(ラクターゼ欠乏症)に起因する.また,主として牛乳や乳製品の摂取によって下痢などの腹部症状を生ずるため,牛乳不耐症という呼称がしばしが同義的に用いられる.しかしながら,これらは厳密には同じものではなく,牛乳不耐症の一部には牛乳蛋白に対するアレルギー反応によるものなどが含まれる.
乳糖不耐症の原因となるラクターゼ欠乏症はその病因と発症年齢から3群に分類される.
消化管憩室は,消化管壁の一部が外側に向かって嚢状に突出し,管腔と交通している状態である.憩室の好発部位は大腸で,大都市では最近大腸X線検査の10数%前後に発見され1),ついで十二指腸,食道の順であり,胃や空腸,回腸,虫垂ではきわめて少ない.
消化管憩室は,一般に加齢とともに発見頻度が高くなり,とくに高年者に多くみられるが,性別では食道憩室および胃憩室は男女の間に差はなく,十二指腸憩室は女性にやや多く,小腸憩室および大腸憩室は1.5〜2対1の割合で男性に多いといわれている1,2).
■急性肝不全と劇症肝炎
急性肝不全(acute hepatic (liver) failure)とは肝細胞壊死,機能低下の急速な進行により肝不全状態,すなわち肝性脳症,出血傾向,黄疸などを呈する病態であるが,その内容は内外ともにまちまちである.欧米では,基礎疾患として慢性肝疾患の有無,原因としてウイルス以外による場合の取り扱い,肝炎様症状発現から脳症発現までの期間などに関して異なった立場がある.一般的には急性肝不全は用語上fulminant hepatic failureと,とくに区別せずに用い,広範肝細胞壊死の急性発症例を指すことが多い.すなわち,進行性の黄疸,症状発現後8週以内のII〜IV度の肝性脳症の発現,剖検時に肝萎縮がみられ,肝障害の既往がないもの,病因としてウイルス以外にもハロセン,さらには薬剤,急性妊娠脂肪肝なども含めた症候群,として理解されている1).一方,劇症肝炎(fulminant hepatitis)はその由来が予後不良の流行性肝炎を指す用語として用いられたことから,急性ウイルス肝炎を意識して用いられている.本邦の劇症肝炎は欧米のacute hepatic failureの概念に基づいて定義づけられたので,欧米のものとは異なり症候群である.しかし,本邦における劇症肝炎は,80%以上がウイルス性と考えられるので,内容的には欧米のfulminant hepatitisと類似している.
■慢性肝炎の診断基準
慢性肝炎は基本的には肝における単核球を主体とした慢性,持続性の炎症性細胞浸潤を伴う病態である.わが国では1979年第11回犬山シンポジウムにおいて表1に示したごとく慢性肝炎の診断基準が発表された1).この場合,実際には慢性肝炎の定義と分類として発表されているが,疾病の診断はその定義に基づいて行われ,分類されるのは当然であり,したがって診断基準と考えてよい.この診断基準は肝生検による病理所見を重視している点が特徴であるが,臨床的には6ヵ月以上にわたり肝炎が持続しているものとして,肝生検が行われない場合でもこの基準が用いられうるようになっている.
■自己免疫性肝炎の概念
1956年Mackayは,LE細胞現象を伴い,いくつかのSLE様の臨床症状を伴う活動性の肝炎に対し,初めてルポイド肝炎(lupoid hepatitis)と名づけた.ところが,本症を特徴づけるLE細胞現象は,その検出が常時認められるものではなく,時期を失すると本来陽性であるべき症例でも陰性の結果しかえられないことが判明し,さらに自己免疫性を示す所見として,LE細胞現象のほかに,抗核抗体や抗平滑筋抗体などの自己抗体が本症で認められることが明らかとなった.そこで,1965年再びMackayは1)これら一群の活動性慢性肝炎が,たとえウイルス性肝炎として始まったとしても,肝における自己免疫反応の持続が,進行性の肝細胞破壊の原因であると考え,自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis)なる名称を与えた.ここではもはやLE細胞現象は必須とは考えられなくなった.現在,LE細胞陽性のルポイド肝炎,およびLE細胞陰性,抗核抗体陽性のルポイド肝炎類縁疾患を自己免疫性肝炎と呼んでいる.
本疾患は異常な免疫応答能の存在によって生じた肝に対する自己免疫現象が病態の主体をなし,この病態の成立機序に免疫遺伝学的背景の関与が強く示唆される活動性で進行性,破壊性の慢性肝炎の一群として把握されると考えられる.
近年,薬剤の種類とその使用頻度の増加に伴い薬剤に起因する肝障害が増加している.一般に薬剤性肝障害は起因薬剤を中止すれば予後良好な疾患であるが,起因薬剤に気づかずに投与を続けると肝障害の重症化につながる.したがって,薬剤の服用後肝障害が発生したとき,薬剤に起因した肝障害かどうかを正確に判断し,確診できれば速やかに起因薬剤の投与を中止することが大切である.しかし,薬剤性肝障害を早期に診断するには,どのような肝機能検査項目を指標とするかについて一定の指針はなく,診断に苦慮するこが多い.それ故,その臨床像の特徴を把握し,総合的に診断することが必要である.
■疾患概念と病型,および疫学
アルコール性肝障害(alcoholic liver disease)は,アルコール常習すなわち長年月にわたる常習飲酒が成因となって発生してきた肝障害の総称である.
長年月の常習飲酒は,肝に対して種々の細胞生物学的変化を惹起させるので,アルコール性肝障害の病像はきわめて多彩である.すなわち,障害像が軽微な状態から,肝硬変や肝細胞癌に至るまでの各種の幅広い程度の肝障害が認められる.しかし,アルコールの肝に対する障害像は,病理形態学的には,次の2点に要約することができる.
■診断基準の実施に当たって
1)問診
①自覚症状:倦怠感,易疲労感,勤労意欲の低下など不定愁訴の有無.
②既往歴:内分泌性疾患,代謝性疾患の有無.妊娠との関連の有無.
③嗜好品:アルコール性飲料摂取状況,偏食の有無,間食習慣の有無.
④常用薬剤あるいは医療上の薬剤摂取状況.
⑤家族歴:糖尿病,高脂血症などの有無.
肝硬変症は種々の慢性肝疾患の終末像としてとらえられており,病理形態学的には次のような特徴を有している.
①肉眼的に結節形成が存在する.(結節形成)
②Glisson鞘相互間およびGlisson鞘と中心静脈,または小葉間静脈との間に線維性隔壁が存在する.(線維性隔壁形成)
③肝の小葉構造に改築がある.(小葉改築像)
④肝臓全体にわたるびまん性の変化である.(びまん性変化)
そして,これらの形態学的な変化は,肝細胞の機能障害,絶対量の減少,肝有効血流量の減少,肝内外短絡の形成などによるさまざまな臨床症状を引き起こしてくる.
本症の診断基準は,わが国では厚生省特定疾患難治性の肝炎調査研究班により表のようにまとめられている1).
特発性門脈圧亢進症(Idiopathic Portal Hyper-tension;IPH)の概念は,厚生省特定疾患調査研究班(班長:亀田治男)の定義によると「脾腫,貧血,門脈圧亢進を示し,しかも原因となるべき肝硬変,肝外門脈・肝静脈閉塞,血液疾患,寄生虫症,肉芽腫性肝疾患,先天性肝線維症などを証明しえない疾患をいう」とされている.
従来からのBanti症候群と呼ばれてきた疾患はほぼIPHと同一疾患と考えてよい.そしてIPHはわが国では中年女性に多発することも一つの特徴となっている.成因はいまだ不明確な点があるが,1975年以来の調査研究によりほぼその全容が明らかになってきた.とくに本疾患の発生原因は脾腫および門脈圧亢進状態が存在することから肝臓に起因疾患があるとする肝源説と脾臓に感染などの主病変があり,その結果として生ずる脾源説とが対立してきた.いずれにせよ肝組織所見の詳細な検討により,現在では本疾患の門脈圧亢進症状の発生原因は肝血流量に対し,類洞前の抵抗増大が主たる原因と考えられるに至っている.この裏づけとして組織学的に太い門脈壁の硬化性変化,周囲の線維化,末梢門脈枝の閉塞性変化,つぶれ,消失,門脈域の線維化などが認められており,このことからも肝内門脈閉塞に属するものと考えられている1).しかしこの門脈末梢枝への変化をもたらす原疾患については依然として不明である.
■疾患概念と疫学(表1,2)
体質性黄疸は先天性のビリルビン代謝異常により血中ビリルビンの上昇した状態で,溶血,肝細胞障害,胆道閉塞が関与しないものである.黄疸出現の機序には,肝細胞におけるビリルビンの摂取,抱合,移送,排泄の機構になんらかの先天的な欠陥が存在するものと考えられている.血中に増量する優位ビリルビンの型により,診断基準に上げている病型に分類されている.各病型はこのほかに,遺伝形成,色素代謝,ビリルビン抱合酵素の活性,肝細胞内色素顆粒の有無,予後などにより特徴づけられている.
1974年までの全国集計で,報告例はCrigler-Najjar症候群I型(CNJ-I)は1例のみ,II型は24例,Gilbert病は238例,Dubin-Johnson症候群(DJS)は298例,Rotor症候群(Rotor)は93例である.世界ではCNJ-1が約70例報告されている.Gilbert病は欧米では人口の3〜7%にあるといわれている.遺伝形式はCNJ-Iでは血族結婚が多く,CNJ-IIも家族内発症が多い.Gilbert病は常染色体優性と考えられ,DJSおよびRotorは常染色体劣性と考えられている.
■診断基準(案)
胆嚢隆起性病変のうち,最大径15mm以下の病変を胆嚢小隆起とする.これには正常組織構成要素の良性の増生(hyperplastic cholecystoses)とされるコルステロールポリープなど,および腫瘍性病変である腺腫や癌が含まれる.
超音波検査の応用で容易に検出されるようになり,癌の早期発見や癌との鑑別などで注目されている.
■診断基準(表1,2)
疾患概念を示すものとして,慢性膵炎の定義(1983年,日本消化器病学会・慢性膵炎検討委員会)をあげる(表3).
昭和60年度厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班研究報告書によれば,慢性膵炎I群を対象とした全国集計調査によって,表4にあげたような調査結果が得られた.協力を得られた全国584施設よりの報告症例数は4,917例であったが,脱落症例を除いて4,719例となった.このうち,成因に関して記載の明らかな4,326例について成因別頻度を示したものが表4である.男女比は4:1である.
コルチゾールの慢性的過剰分泌によって生じる症候群を総称してCushing症候群と呼ぶが,病因によって次の5つに大別される.
1)下垂体性ACTH過剰分泌(Cushing病)
2)異所性ACTH産生腫瘍
3)異所性CRF産生腫瘍
4)副腎皮質腫瘍(腺腫または癌)
5)原発性副腎過形成(結節性過形成)
このうち下垂体性ACTH過剰分泌によるコルチゾールの過剰分泌によるものをとくにCushing病と呼び,Cushing症候群の中で最も多く全体の約3分の2を占める.Cushing病では副腎皮質はACTHの過剰分泌のため両側ともに過形成となる.したがって,一般に副腎皮質過形成というときはCushing病を指す.
末端肥大症(先端巨大症)は,成長ホルモン(GH)の過剰が,骨端閉鎖後に生じたときに生じる疾患であり,骨端閉鎖前に生じたときには巨人症となる.GH過剰の原因は,ほとんどの場合が下垂体腺腫であり,したがって,GH過剰による症状と下垂体腫瘍による症状とが組み合わさったものとなる.まれには異所性GHRH産生腫瘍(この場合は下垂体は過形成になるが腺腫との区別は組織学的にも困難なことが多い)や異所性GH産生腫瘍による.
わが国で昭和48年に行われた全国実態調査では,10年間に約900例が医療機関を受診したことが推定されたが,その後6年間では約800例が新たに報告され,1年間に150例ぐらいの発生があるものと推測される.英国の一地方で,年間発生率100万人当たり3人との推計もある.男女比は,上記のわが国の初めの調査では1.2:1,後の調査では1.03:1であり,性差はほとんどない.
乳汁漏出無月経症候群galactorrhea-amenorrheasyndromeは乳汁の漏出と排卵障害に基づく無月経を主徴とする症候群で,血中プロラクチンの上昇をもたらす各種の原因によって惹起されることが多い.
本症候群の診断基準を整理すると以下の4項目にまとめられる.
中枢性尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)欠乏のため著しい口渇,多飲,多尿を呈している状態である.ADHは視床下部室傍核および視索上核の神経細胞で作られ,下垂体後葉から血中に放出される.したがって視交叉から下垂体後葉にかけて存在する病変はすべて尿崩症を惹起する可能性がある.
病因は原発性(遺伝性,特発性)と続発性に大別される.病因を頻度の高い順に列挙すると,特発性,腫瘍,脳外傷となる.腫瘍としては,視交叉近傍を好発とする腫瘍,すなわち胚芽腫(異所性松果体腫),頭蓋咽頭腫,視床下部に進展した下垂体腺腫が重要である.遺伝性尿崩症の多くは0〜5歳に発症する.男女はほぼ同数である.常染色体優性遺伝型式の家系と,伴性劣性遺伝型式の家系が報告されている.特発性尿崩症の病因は不明であるが,選択的に視床下部下垂体後葉系が障害されており,自己免疫性疾患とする説がある.
■下垂体前葉ホルモン
下垂体前葉から数多くのホルモンが分泌されているが,主なものを表1に示した.下垂体前葉ホルモンは,視床下部ホルモンによる分泌調節および下位内分泌腺ホルモンによるnegative feed-back機構を介して分泌調節を受けている(図1).
下垂体前葉からは甲状腺刺激ホルモン(thyroidstimulating hormone;TSH)のほか,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),成長ホルモン(GH),乳腺刺激ホルモン(PRL),性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH),黄体形成ホルモン(LH)が分泌されている.このうち一種類のホルモン分泌のみが欠如する疾患を単一前葉ホルモン欠損症と呼び,TSHの分泌のみが欠如した場合がTSH単独欠損症(isolated TSH deficiency)である.TSH欠如のため,2次性甲状腺機能低下症(secondaryhypothyroidism)を来す.
頻度は低く,文献報告は20例余り,わが国の厚生省研究班で調査した限りでは10数例が判明したのみである.このうち6症例が先天性で,3家系中の4症例は,TSHβ鎖遺伝子の同一の点変異が原因であることが最近の著者らの研究で明らかとなった.
■Empty sella症候群の診断基準(案)(表参照)
表に述べたごとくempty sellaはprimaryとse-condaryに大きく分けられる.前者は,先天的に下垂体隔膜が欠損ないし不完全であるためくも膜下腔がトルコ鞍内に陥入し,憩室状に拡大したものである.後者は,下垂体腺腫などの治療後に視神経や視交叉が拡大し空虚化したトルコ鞍内に落ち込み症状を呈する場合である.画像診断が発達する以前,腫瘍の短期再発と考え手術を行ってみると,トルコ鞍は空洞状態であったことに因む.
Primary empty sellaは中年女性に多く,とくに経産婦に頻度が高い.典型的なものは比較的まれであるが,後述するごとくCTスキャンの普及後軽度な本症はごく日常的に診断される.
Stacpooleら1)の診断基準をもとにACTH単独欠損症の診断基準を表のようにまとめた.
広義には下垂体前葉機能低下症のうちの単独ホルモン欠損症に相当する.厚生省特定疾患下垂体機能障害調査研究班が昭和48年度に作成し,50年度に改訂した下垂体前葉機能低下症の診断の手引き1)では,欠乏ホルモンの程度により汎下垂体機能低下症,部分的下垂体機能低下症および単独欠損症に分類し,各ホルモン欠乏の症状および検査所見が示されている.2次的な病因による下垂体前葉機能低下症では病初期にまずゴナドトロピンが脱落しやすいものの,他の前葉ホルモンが全く正常な場合はまれで,このような病態は単独欠損症の概念には含めない.一般には先天性のゴナドトロピン欠損症であるKallmann症候群と同義に用いられている.Kallmann症候群の解釈も必ずしも一様ではないが,これまでの報告に基づき私案による診断基準を作成し表に示した.
表1に視床下部性肥満のBrayとGallagherの診断基準と最近のCTスキャンによる部位診断の同定を加えた診断基準(案)を示す.
副腎腺腫,副腎癌および原発性結節性異形成によるクッシング症候群の診断基準(案)を表にまとめた.
アジソン病の診断基準は,厚生省特定疾患「ステロイドホルモン産生異常症」調査研究班の手により表1のようにまとめられている.
原発性アルドステロン症は,副腎皮質に生ずるアルドステロン産生腺腫(aldosteronoma)または癌腫(まれ)によるアルドステロン分泌過剰症候群で,内分泌性高血圧症の代表的な疾患である.本症では副腎原発の腫瘍から自律的にアルドステロン分泌が持続するため,ナトリウム貯留により循環血漿量が増大し,"volume hypertension"を来す一方,低カリウム血症,代謝性アルカロージスを呈する.
正常状態では,アルドステロンの生成・分泌は副腎皮質球状層で行われ,アンジオテンシンII,ACTHのほか,未固定の刺激因子とドパミンおそらく心房性ナトリウムペプチド(ANP)などの抑制系の制御を受けていると考えられているが,アルドステロノーマからのアルドステロン分泌調節は正常と少し違った様相を呈する.アルドステロン産生腫瘍のほとんどは小さな腺腫で複数に存在することがあり,まれに両側に見いだされる例がある.
両側副腎球状層の過形成による高アルドステロン症である.病因として何らかの副腎皮質刺激因子の関与が想定されている.原発性アルドステロン症に占める特発性アルドステロン症の頻度は報告者により異なる.一般に欧米では高い頻度で報告されている.
Bravo(1983)12.5% Gross(1985)24%
Vetter(1985)18% Melby(1984)40%
Hsueh(1986)30-50% 筆者ら(1988)6.4%
■疾患の概念と疫学 グルココルチコイド(GC,糖質ステロイド)反応性アルドステロン症(GSH)は,高血圧と低カリウム(K)血症およびこれに基づく症状(四肢麻痺,テタニー,多飲多尿)を呈し,性徴異常がなく,血漿レニン活性(PRA)の抑制と血漿アルドステロン(Aldo)の過剰を示す疾患であり,比較的多量のGC[通常2mg/日のデキサメサゾン(Dex)]投与により症状の改善をみる.本症の副腎皮質には,球状帯から束状帯外層を主体とする過形成が認められる2).これは副腎原発の異常ではなく,何らかの刺激ホルモンの過剰に反応したもので,このホルモンがGCにより抑制されると考えられているが,詳細は不明である.
わが国では,厚生省により,本症の集計がなされた.これによると,副腎原発のアルドステロン症(PA)は1977年から1981年までの5年間に626例,1982年から1984年までの3年間に373例あり,このうちGSHは前者で4例,後者で6例に過ぎない.
選択的低アルドステロン症は,糖質コルチコイド分泌には異常はないが,アルドステロン分泌が低下するため,高K血症,代謝性アシドーシス,低Na血症など水・電解質代謝異常を来す疾患である.本症には,その原因がレニン分泌不全にあるもの(低レニン)と副腎自体あるいはアンジオテンシンII生成の異常にあるもの(正-高レニン)があり,Batlleらは選択的低アルドステロン症を来す病態を低レニンと正-高レニンに分け,表1にように整理,分類している.これらのうち,低レニン性および正-高レニン性低アルドステロン症は,比較的高齢者で,基礎疾患に糖尿病,腎炎,痛風,高血圧,SLEなどを有し,軽度〜中等度の腎機能低下を伴う患者に合併することが多い.
Schambelanらの報告によると,高K血症と軽度〜中等度の腎機能低下を伴う患者31例中23例に低アルドステロン症を合併しており,その内訳では,低レニン性が83%,正レニン性が17%である.CMO欠損症は,先天性または後天性にアルドステロン生成過程の後段階[コルチコステロン(B)→18-ハイドロオキシコルチコステロン(18-OHB)→アルドステロン]に関与する酵素が欠損するまれな疾患である.本症にはCMO I型とII型欠損症がある.
□副腎リピド過形成
1)新生児,乳児期から発症している鉱質コルチコイドが有効な「塩喪失症候群」
(低ナトリウム,高カリウム血症を示す体重増加不良ないしは減少,嘔吐,哺乳力微弱,脱水などを示す.)
2)外性器は男女とも女性型(潜伏睾丸を認めることもある.)
3)血尿中すべてのステロイドホルモン低値
4)全身色素沈着の増加と血漿ACTH,レニン活性の高値
5)(治療中または疑わしい症例では)Dexamethasone 2〜4mg/m2日投与下に,ACTH-Zを連日投与しても,血漿ステロイドホルモン(cortisol,aldosterone,17-hydroxyprogesterone,11-deoxycortisolなど)がすべて増加反応を示さない.尿中17-OHCS,17-KS,17-KGSも増加しない.
■診断基準(表参照)
本症は副腎と性腺の17α-水酸化酵素欠損のため,本酵素が関与する種々のステロイド合成障害を来し,高血圧,低K血症,性徴異常を呈する疾患で,本邦では1985年まで31例報告されている1).常染色体劣性遺伝性疾患で,HLAとの連関はない2).
性ホルモン産生副腎腫瘍は主要分泌ホルモン(アンドロゲンまたはエストロゲン)により,男性化副腎腫瘍(virilizing adrenal tumor)と女性化副腎腫瘍(feminizing adrenal tumor)に分類される.
褐色細胞腫は副腎髄質もしくは旁神経節などの,いわゆるクローム親和性組織を発生母地とする腫瘍で,アドレナリン・ノルアドレナリンなどのカテコールアミンを産生・放出し,高血圧をはじめ種々の症状を呈してくる疾患である.しかも,腫瘍を外科的に切除すれば,ほとんどの場合,根治可能で,実地上重要な位置を占めている.
本症はすでに前世紀の終わりごろから知られていたが,比較的まれな疾患で,全高血圧患者の0.1〜0.2%を占めるとされている.最近の集計によれば,本邦では年間約50例が手術ないし剖検されており,地域的な発生の偏りはみられない.
インスリンが標的細胞でその作用を発現するためには,細胞膜に存在するインスリン受容体との結合が最初のステップとして必要である.この受容体はαとβの二つのサブユニットがそれぞれ2個ずつdisulfide bondによって結合し細胞膜に存在していると考えられている(図).αサブユニットは分子全体が細胞外にあり,インスリン結合部位を有する.βサブユニットは細胞膜を貫通しており,その細胞内の部分にはチロシンキナーゼが存在している.チロシンキナーゼはインスリン結合のシグナルを細胞内に伝達する上で重要な役割を演じているらしい.
さて,インスリン作用障害は,インスリン受容体レベルや受容体後のインスリン作用機構での異常によって起こる.前者は先天的あるいは後天的な原因により細胞膜のインスリン受容体数が減少したり,数の減少はなくとも機能に異常があったり,あるいはインスリンの受容体への結合が阻害されたりした場合に起こる.1976年Kahnらは黒色表皮症acanthosis nigricansとインスリン抵抗症を示す6名の女性を,"syndrome of insulinresistance and acanthosis nigricans"として報告した1).
1904年Otto Wernerは低身長,老人様顔貌,若年性白髪,若年性白内障,強皮症様皮膚変化,四肢の筋ならびに結合織の萎縮,閉経早発を主徴とする4症例を"Über Katarakt in Verbindung mitSklerodermie"の題の下に報告した.1934年OppenheimerとKugelは同様の症例を追加するとともにWerner症候群の名称を提唱した.1966年Epsteinらは,それまでの報告122例に自験3例を加えて文献的考察を行い,本症の臨床的特徴として以下の各項を指摘した1).すなわち,①低身長,②皮膚の萎縮と角化症,③足部の皮膚潰瘍,④白髪,禿頭ならびに全身性の脱毛,⑤白内障,⑥四肢における筋,脂肪組織,骨などの萎縮,⑦音声の変化(high-pitched voice),⑧骨粗鬆症,⑨軟部組織の石灰化,⑩Möncheberg型の血管石灰化,⑪性機能低下,⑫耐糖能低下などである.他に各種の良性ならびに悪性腫瘍を伴いやすいことも指摘している.病理学的所見としては皮膚付属器ならびに皮下脂肪の萎縮,著しい粥状硬化症,Möncheberg型の動脈硬化症,心臓弁の石灰化,精細管の高度萎縮などを挙げている.
甲状腺ホルモン不応症は生体の各器官,組織細胞が甲状腺ホルモンに対して反応が低下している症候群である.下垂体も甲状腺ホルモンに対して反応が低下しているため,下垂体からのTSH分泌は甲状腺ホルモンによって抑制されにくい.その結果,血中TSHは増加し,甲状腺を刺激し,甲状腺肥大を起こし,甲状腺ホルモンの分泌を増加させる.血中の甲状腺ホルモンが増加しているにもかかわらず,なおTSHの分泌は抑制されにくく,血中TSHは増加ないし正常値を示している.全身型では下垂体以外の全身の各器官,組織も甲状腺ホルモンに対して反応が低下しているため,血中に甲状腺ホルモンが増加しているにもかかわらず,甲状腺機能亢進症のような代謝亢進状態とはならず,代謝状態は正常ないし低下状態を示す.
一方,下垂体のみが甲状腺ホルモンに対して反応が低下した場合,血中に増加した甲状腺ホルモンに対して,下垂体以外の全身組織が反応し,甲状腺機能亢進症と同じような代謝亢進状態を示す(下垂体型).
バセドウ病甲状腺機能亢進症例の下肢に発生する浸潤性皮膚病変で,実態はヒアルロン酸およびプロテオグリカンの組織への沈着である.原因は現在のところ不明で,バセドウ病IgGの作用,甲状腺ホルモン増加の影響などが考えられる.厚生省研究班の集計では,1次回答で51例が報告され,29例(男性例12例,女性例17例)が2次回答された.本邦での発生頻度は正確には不明だが,われわれの施設では甲状腺機能亢進症約800例中の7例で全国では0.5〜1%くらいではないかと推定される.
悪性眼球突出症とは主としてバセドウ病に伴う眼症状のうち,特に進行性で重症のものをいう.厚生省のホルモン受容機構異常調査研究班(井村裕夫班長)の調査1)ではバセドウ病患者のうち0.8%の頻度にみられ,212例の本症患者の男女比は1:1.06とほぼ男女同数であった.バセドウ病の男女比は1:4であるので,この比率は男性バセドウ病患者での悪性眼球突出症の発症率が女性に比べ4倍高いことを示している.初診時の年齢分布では40歳代にピークを示し,一般のバセドウ病患者ではそのピークが20歳代にあるのに比べ高齢であり,大多数が中年以後の発症である特徴を有する.
偽性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌は保たれているにもかかわらず,標的組織のPTHへの不応性により低カルシウム血症,高リン血症などの副甲状腺機能低下状態が惹起される疾患の総称である.本症患者の約半数に,Albright's hereditary osteodystrophyと呼ばれる中手骨・中足骨の短縮,皮下骨腫,低身長,円形顔貌などの身体的特徴の合併が認められる.本症は外因性のPTH負荷に対し,尿中サイクリックAMP(cAMP)排泄増加反応の認められないI型と,尿中cAMP排泄増加反応は保たれているものの,リン酸排泄増加反応を欠如するII型の2型に大別される.すなわち,本症I型はPTH受容体〜adenylate cyclase系に異常が存在すると考えられるのに対し,II型はcAMP産生以降の障害に基づくものと考えられている.本邦では,厚生省ホルモン受容機構異常調査研究班のアンケート調査により,200例以上の本症I型患者が確認されている.I型患者の性比は約1:2で女性に多く,特発性副甲状腺機能低下症の性比がほぼ1:1であるのと対照的である.これに対しII型患者はまれであり,また従来II型と報告されている症例の中にも,その診断に問題の残されている例が少なくない.したがって本症II型患者の診断は十分慎重に行う必要がある.
偽性偽性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺機能が正常でAlbright's osteodystrophy(以下AO)の骨格異常を呈する病態のことである.AOのうち,家族歴の認められるものはAlbright's hereditary osteodystrophyと呼ばれる.本症は偽性副甲状腺機能低下症患者の家族内に認められることが多いことから,"副甲状腺機能低下症"という病名が付けられているが,本症患者のカルシウム,リン代謝は正常である.
偽性特発性副甲状腺機能低下症とは,副甲状腺から生物活性の低下した副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されることにより,低カルシウム血症,高リン血症などの副甲状腺機能低下状態が惹起される疾患である.本症で認められる異常なPTHはradioimmunoassay(RIA)で検出され,またこのPTHは低カルシウム血症に反応して分泌が亢進することから,RIAで測定したPTH(immunoreactive PTH:iPTH)値は高値を示す.本症の報告は文献上いくつか認められるが,PTHの特異性の高いRIAがほとんど存在しなかったこと,また異常なPTHの本体が明らかにされた例のないことなどから,厳密な意味での本症は,存在しても極めてまれであると考えられる.
臨床的にも検査所見上もビタミンD欠乏症と全く区別がつかないにもかかわらず,常用量のビタミンD治療に反応しない.しかしながら,薬理量のビタミンD投与に反応しすべての異常が完治する例があり,これをビタミンD依存症I型と呼ぶ.本症は常染色体性劣性遺伝を示すまれな疾患で,生後1年以内に発症する例が多い.本症患者では,血清25(OH)D濃度が正常であるにもかかわらず血清1,25(OH)2D濃度は著明に低下しており,また生理量の1,25(OH)2D3または1αOHD3の投与により,その病態はすべて正常化する.したがって,腎での1α水酸化酵素による25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換が障害されていることが,本症の原因であると考えられている.
一方,同様の病態を呈しながら,薬理量のビタミンD治療にも反応しない症例が存在する.しかもこれらの例では,生理量の1,25(OH)2D3投与にも反応せず,血清1,25(OH)2D濃度は著明な高値を示す.更に,これらの例の中には大量の活性型ビタミンD製剤の投与にも反応しないものもある.このような例をビタミンD依存症II型と呼ぶ.本症患者の末梢細胞は,1,25(OH)2D3に対する反応性が欠如しており,したがって本症は1,25(OH)2Dに対する標的器官の受容機構障害によりもたらされるものと考えられている.
低リン血症,くる病・骨軟化症を主徴とする疾患である.腎尿細管のリン再吸収の選択的障害が本症の本態と考えられている.本症患者の多くは家族性発症を示し,X染色体性優性遺伝を示すものが多いが(X-linked hypophosphatemic rickets;XLH),わが国における集計では単発例が多く,約60%を占めている.とりわけ,成人発症の単発例の中に,主に中胚葉系の良性腫瘍を持つ例が存在し,腫瘍の摘除によりすべての病態が消失する.このような例は,腫瘍性低リン血症性骨軟化症(oncogenic hypophosphatemic osteomalacia;OHO)と呼ばれる.腫瘍自身は極めて小さいこともあり発見が困難である場合も多いことから,成人の単発例のかなりの例がこのような原因によるのではないかという可能性もある.
XLH患者では,低リン血症は生後1年以内に出現するが,歩行を始めてから骨の異常に気付かれることが多い.本症患児における主徴は,低身長,O脚などの骨変形とともにくる病の所見である.ビタミンD欠乏症や依存性と異なり,低カルシウム血症は認められず,筋力低下,テタニーも認められない.加齢によっても低リン血症,骨の変形は残存するが,骨軟化症の所見は消失し,血清アルカリフォスファターゼ値も正常化する場合が多い.
■Ellsworth-Howard試験の臨床的意義
Ellsworth-Howard試験は外因性副甲状腺ホルモン(PTH)に対する腎の反応性(尿中リン酸増加反応とサイクリックAMP(cAMP)増加反応)を指標に,副甲状腺機能低下症の鑑別診断を行う検査である.副甲状腺機能低下症は,低Ca血症,高リン血症の生化学的異常と低Ca血症に基づく精神神経症状を特徴とする症候群である.本症候群は病因から,PTHの分泌低下によるものと,標的器官のPTHに対する不応性によるものの2つに大別される.前者は副甲状腺の形成不全,さまざまな機序による副甲状腺の破壊,損傷によるものなど種々の原因からなるものが知られているが,頸部手術後の副甲状腺機能低下症を除けば大部分は,原因の明らかでない特発性副甲状腺機能低下症(idiopathic hypoparathyroidism;IHP)と呼ばれるものである.一方,PTH不応症を特徴とする副甲状腺機能低下症は,1942年,Albrightらにより初めて記載され,偽性副甲状腺機能低下症(pseudohypoparathyroidism;PHP)と総称される.PHPは現在では更に,PTH不応性の機序に基づき,レセプター・アデニレートサイクレース系に異常がある病型(type I)と,cAMP産生以後のステップに異常があると考えられる病型(typeII)の2型に分類されている.
ACTH不応症は内因性および外来性ACTHに対し副腎皮質におけるグルココルチコイド反応が欠如している状態をいう.病理学的にみると,副腎束状層と網状層の萎縮が著明で,球状層が比較的保たれているか,束状層と球状層の区別がっかず全体に萎縮性で,すべてが球状層細胞から成っているなどの副腎低形成がみられるので,ACTHレセプターの異常による疾患として注目された原発性副腎疾患である.
遺伝的要因が強く同胞発症がみられること,生下時よりの皮膚色素沈着,塩喪失症状,低血糖症がみられることから,先天性ACTH不応症congenital adrenocortical unresponsiveness to ACTH1),あるいは家族性グルココルチコイド分泌不全症familial glucocorticoid insufficiency2),アルドステロン分泌が正常に保たれていることからcongenital,familial syndrome ofadrenocortical insufficiency without hypoaldosteronismなどと報告されてきた.同胞発症例で発病前には副腎からのコルチゾール分泌が正常であることから,本症は他の副腎低形成同様に発症は進行性の変性過程が示唆されている.
血中GH濃度が高値あるいは正常値にもかかわらず,臨床症状が下垂体性小人症と同様の様相を示す小人症は,その発見者の名をとってLaron型小人症と呼ばれている.第1例は1966年に報告されているが,現在までには数十例の報告がある.このタイプの小人症はユダヤ系の人が多くを占め,遺伝形式は常染色体劣性遺伝形式をとると言われている.
血中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)が上昇しているにもかかわらず,甲状腺細胞の反応が不良のため甲状腺機能低下症を呈するものは広く原発性甲状腺機能低下症と呼ばれている.この中には種々の甲状腺障害が念まれるが,それらのうち,TSHの受容機構における異常のためにその作用が発現しない,もしくはその作用発現が抑制されているものをTSH不応症と定義する.これには,①TSH受容体そのものの異常によるもの(先天性)と②TSH受容体抗体などによる後天性不応症の2つが考えられる.このうち①については偽性副甲状腺機能低下症I型に伴うものが知られ,Gs蛋白の欠損によるものと考えられている.これに対し,②は1987年に初めて筆者らが報告した症例1)以来,世界的にその存在が知られるに至った.以下,この後天性TSH不応症について述べるが,現在明らかにされているのはTSHの甲状腺刺激作用をブロックする「阻害型TSH受容体抗体によるTSH不応症」である.
1976年オランダのVingerhoedsら1)は,高コルチゾール血症を示すにもかかわらずCushing症候群の特異的諸徴候を全く示さない父子例を最初に報告した.米国NIHのChrousos2),Lipsettらはこの症例を詳細に検討し,コルチゾール不応症の原因はグルココルチコイド受容体(GR)異常によることを明らかにし,原発性コルチゾール不応症と呼称した.原発性コルチゾール不応症は全身性のGR異常により代償性に下垂体ACTH,ついで副腎皮質ステロイドホルモンの分泌亢進を来し,末梢におけるコルチゾールの代償性維持機構が作動していると考えられる.次いで筆者らもGR異常症の若年女性を,更にIidaら,Brönnegard,Lámbertsらも相次いで原発性コルチゾール不応症の一家系を報告している(表1)3).これとは別にKontulaらによりコルチゾール産生副腎腺腫を伴ったコルチゾール不応症が報告されている(表1).これらの報告例より高コルチゾール血症を示すにもかかわらずCushing徴候を欠如する原因として証明されたことは,標的臓器である末梢血単核白血球または培養線維芽細胞GRの検索により受容体の結合親和性の低下,不安定受容体,受容体のDNA結合の低下,および受容体数の減少と受容体の質的,量的異常である.
■疾患の概念
腎臓および副腎機能が正常であり,アルドステロン分泌に障害がなく,血漿アルドステロンが正常あるいは高値にもかかわらず高K血症を呈する病態である.その原因として腎尿細管,主としてアルドステロンの作用する遠位尿細管から皮質集合管に至る部位のアルドステロンに対する反応性低下が考えられている.
最初の報告は1958年Cheek & Perry1)によるもので,Na喪失と低血圧を主徴とする小児例での報告であり,その後,同様の症例が欧米で40〜50例,本邦でも数例発表されている.いずれも小児例の報告であり,その発症には遺伝的要因の関与が示唆されている.このような一連の報告とは別に,高血圧と高K血症を呈する偽性低アルドステロン症の症例もみつかってきた2).従来の症例がアルドステロンに対する尿細管の不応性のためにNa喪失を来す一方,高K血症を来し,Na・水喪失から有効循環血液量の減少を生じて,血漿レニンが高値であることが多いのに対し,後者の症例では,アルドステロンに対する尿細管の不応性があるものの,Na喪失は生ぜず,逆にNa排泄が低下して循環血液量が増加して高血圧を来している.このようにアルドステロンの不応性があっても,両病態はかなり異なることから,Schambelanら3)は,前者を偽性アルドステロン症Type I,後者をType IIと命名している.
■疾患慨念と疫学
腎性尿崩症nephrogenic diabetes insipidusは腎集合管に対するarginine vasopressinの作用の欠如により,尿濃縮障害を呈する疾患である.腎性尿崩症なる名称は,先天性腎性尿崩症に対し初めて命名されたことより,しばしばこれに限って使用されることがある.この他にいくつかの疾患において,vasopressin不応性の尿濃縮障害が発症することがあり,後天性腎性尿崩症と分類される.
先天性腎性尿崩症はこれらの中でも重要な病型であり,多くの腎性尿崩症の特徴を含んでおり,本項もこれを中心に述べることとする.
近年の研究によって,アンドロゲンの標的細胞にはアンドロゲン・レセプター蛋白が存在し,これを介してアンドロゲンの作用が発現されることが明らかになった.このアンドロゲン・レセプター異常のためにアンドロゲン作用発現に欠損のある疾患が本症である.したがって,アンドロゲン作用発現欠損の完全なものから不完全なものへと種々の段階のアンドロゲン不応症が存在するが,理解しやすくするために欠損が完全なものについて述べる.完全型の診断基準を表に示す.
診断のプロセスは表1に示す.典型的な糖尿病の諸症状があって,任意時に採血した血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病と診断しうる.この場合,診断だけのためにブドウ糖負荷試験をあえて行う必要はない.症状を欠く場合には診断のための糖負荷試験を必要とする.その場合の判定基準は表2に示す.簡単のために静脈血漿値のみを掲げた.全血では血漿よりもやや低く,毛細管血の場合は静脈血よりもやや高い値が出る.
糖尿病患者の診断に当たっては,単に糖尿病があるかどうかだけではなく,治療を緊急に必要とするか,インスリン欠乏の程度の評価,合併症の有無とその程度などについても判定する必要がある.
低血糖症とは,血糖値がある一定値(通常40〜50mg/dl)以下になった低血糖状態に,臨床症状(主に中枢神経系の機能障害)が随伴した病態をいう.
中枢神経系は,そのエネルギー源をブドウ糖に依存しているにもかかわらず,自分自身ではブドウ糖を合成できず,貯蔵量も2〜3分間で消費される程度の量に過ぎない.しかも,細胞内へのブドウ糖の取り込みは,血中と組織中の濃度勾配によってのみ規定されているため,血中ブドウ糖濃度(血糖値)の急激な低下は,ただちに中枢神経系の機能障害として種々の症状を呈する.
高乳酸血症の統一した診断基準は定められていないが,一般には血中乳酸値が18mg/dl(2mM)以上を示した場合,高乳酸血症と診断される.また,血液ガス分析により明らかな代謝性アシドーシスが認められる場合に乳酸血症性アシドーシスと診断される.
1)疾患概念
本症は酸性ムコ多糖(MPSと略す)の,分解に関与するリソゾーム由来の酵素である各種のグリコシダーゼおよびスルファターゼ欠損症である.全身組織の細胞内リソゾームに不完全に分解されたMPS断片の蓄積を来し,その蓄積物質の種類により異なるが,臨床的に特異な顔貌,身体所見,多毛症,軟骨内化骨障害,関節の運動制限,肝脾腫,心障害,角膜の混濁,精神運動発達遅滞などの徴候が出現しMPS尿を伴うことを特徴とする.
高脂血症とは脂質(原則としてコレステロールとトリグリセライド)の血中レベルが正常以上に高値を示す病態を指し,原発性高脂血症と,原因となる諸疾患や薬剤による2次性高脂血症に分けられるが,ここでは原発性高脂血症について述べる.原発性高脂血症自体も単一の疾患ではなく,種々の病態の総称であり,しかもそれぞれの病因がすべて明らかにされているわけではないため,従来その診断基準については,一部の特異な病態に対してのみ論じられていたにすぎず,すべての病態についての疾患単位も明確にされていなかった.また脂質は血中では種々のリポ蛋白〔カイロミクロン,very low density lipoprotein(VLDL),intermediate density lipoprotein(IDL),low densitylipoprotein(LDL),high density lipoprotein(HDL)〕に分布して存在していることから,脂質の増加が,どのリポ蛋白の増加に基因するのかを考慮した分類,いわゆる表現型の分類(I型,II a型,II b型,III型,IV型,V型)が比較的広く知られ,高脂血症の診断として用いられてきたが,これはあくまで病態の分類であって,決して病因に対応した疾患単位の分類ではなかった.
肥満は多くの原因をもったひとつの症候群である.
肥満症の診断は,①肥満であることの診断,②類型の診断,ことに単純性肥満と症候性肥満の鑑別,③合併症の検索,④原因の解明の段階を経て行う1).
高アミノ酸血症を来す疾患はフェニールケトン尿症をはじめ数多くの疾患が知られている.これらの疾患の成因は主に先天的な酵素異常に基づくものである.診断に当たっては血中のアミノ酸分析が不可欠で,確定診断には,肝組織,培養皮膚線維芽細胞,末梢血液などを用いて酵素学的検索を行うことによりなされる.表に高アミノ酸血症を来す疾患を挙げた.
尿中のアミノ酸排泄量が増加する疾患は表示のごとく多数ある.表には尿中アミノ酸をキイワードとして,それぞれのアミノ酸の増量が認められる場合,考えられる疾患名を列記してある.この中にはシスチン尿症のときのシスチンのように,常に尿中排泄量の増加が認められる疾患の他,アルギニノコハク酸尿症の場合のリジンのように,排泄量の増加が常時認められるわけではない疾患についても記載してある.
尿中へのアミノ酸排泄が増加する機構としては,血中のアミノ酸の増加に伴って生ずる,いわゆるoverflow型と腎尿細管での連送(再吸収)不全に基づく再吸収不全型の二つがある.前者では特定の血中アミノ酸が上昇するが,後者では血中アミノ酸はほぼ正常である.ただし,腸管での吸収も低下する場合は,特定のアミノ酸の低下が認められることがある.
■診断基準(案)(表参照)
本症は肝硬変,進行性の錐体外路症状,Kayser-Fleischer角膜輪を3主徴とする先天性銅代謝異常症である.組織における過剰な銅の沈着,血清中のセルロプラスミン合成の減少,尿中への過剰な銅の排泄がみられる.常染色体劣性遺伝で,わが国における頻度は,遺伝子頻度0.0033〜0.0066,出生15,000〜70,000人に1人,ヘテロの保因者は80〜150人に1人ぐらいと推察されている.
ヘモクロマトーシス hemochromatosis(以下HCと略す)はヘモジデリン hemosiderinが間葉系組織のみならず肝細胞,膵外分泌腺細胞など実質細胞にも大量に蓄積し,そのために諸臓器障害を来す疾患を示し,原因不明で家族性の発症するものを特発性ヘモクロマトーシス idiopathic hemochromatosis(以下IHC)といい,原因が明らかなものを続発性ヘモクロマトーシス secondary hemochromatosis(以下SHC)と呼ぶ.IHCは鉄の先天的代謝異常で,腸管から過剰に吸収された鉄が長年にわたって徐々に全身の諸臓器に蓄積される結果発症するといわれ,発症年齢は45~55歳が最も多い.常染色体遺伝形式で,圧倒的に男子に発症し,男女比は10:1である.膵の著しい鉄沈着に伴う線維化,ランゲルハンス島の減少の結果糖尿病となり,また,副腎機能不全の結果皮膚基底層にメラニン色素が増加する.このため典型例では青銅色を呈し,bronze diabetesとも呼ばれる.糖尿病,皮膚色素沈着,肝硬変を合わせ三徴,さらに心機能障害,性機能障害のいずれかを加えて四徴という.鑑別診断において特に問題となるのはヘモジデローシス hemosiderosis(以下HS)である.一般に,HSはHCに比しヘモジデリンの沈着がKupffer細胞を中心とした網内系に著明であり,皮膚色素沈着,肝機能障害以外に組織障害を伴わないとされる.しかしアルコール過飲者に見られる肝硬変症では,しばしば糖尿病や皮膚の色素沈着を伴う.アルコールの中でもワインは鉄含有量が多いため,腸管からの鉄の吸収は増加し鉄の沈着が促される.IHCでは血清中の鉄結合性蛋白の大部分が鉄に飽和されUIBCが極端に低くなるのに対し,アルコール性肝硬変や他の肝硬変ではUIBCは特に低値をとらない1).
ポルフィリン症(ポ症)はポルフィリンの代謝障害に基づく症候を呈し,ポルフィリンまたはその前駆物質を大量に産生し,大量に排泄する疾患である.大半は遺伝性であるが,一部は症候性にも生ずる.本症はポルフィリン代謝障害のある臓器の差から表のごとく,骨髄型,肝型,骨髄肝型の3病型に大別されるが,臨床的には急性型と皮膚型に分けるほうが便利である.
有機酸尿症は酵素の遺伝的欠損に基づいて,それに関連した有機酸ないしその誘導体が血中や尿に大量に認められる疾患である.その主な疾患を表1に示した.これらの発生頻度の詳細は不明であるが,われわれが昭和60年に行った本邦における有機酸尿症の全国調査によれば,過去10年間の有機酸尿症の総数は148例で,そのうち頻度の高いものは高乳酸血症(67例),メチルマロン酸血症(47例),プロピオン酸血症(18例),イソ吉草酸血症(6例)であった.最近では毎年少なくとも20例以上の新しい症例が見いだされている.
有機酸尿症の多くはその発見が遅れ早期治療がなされないときは,精神発達の遅れや時には命取りになることも少なくない.したがって早期診断が重要であるが,現時点では診断基準はまだ作成されていない.有機酸尿症の診断基準作成の難しさは,各疾患に特異的な症状や臨床検査所見に欠けており,診断の大部分が尿や血中の有機酸分析に依存していることによると思われる.
■高アンモニア血症の診断基準とその注意点 血中アンモニアが以下の正常値を越えて高値であれば,高アンモニア血症と診断される.
なお,血中アンモニア値の評価にはいくつかの注意が必要である.まず,血中アンモニアは運動および蛋白摂取により増加するので,安静空腹時に採血しなければならない.次に,血液を常温放置するとアンモニアは増加するので,採血後直ちに測定するか,あるいは除蛋白操作後,測定まで冷所に保存する.また先天性尿素サイクル酵素異常症などでは,空腹時の血中アンモニアが正常で,食後著増する場合がある.このような症例では,5gの酢酸アンモニウムを経口負荷し,75分まで経時的に血中アンモニアを測定して(アンモニア負荷試験),負荷後の血中アンモニアの著明な上昇を確認することが重要である.なお,正常人では,負荷後のアンモニア上昇はわずかである.
高ビリルビン血症は黄疸と同意義であって病態は多岐にわたるが,ここではビリルビン代謝異常のみに基づく体質性高ビリルビン血症の診断基準とその用い方の注意について述べる.
ビタミン依存症とは,十分量のビタミンを食品から摂取しており生理的意味でのビタミン欠乏はないにもかかわらず,ビタミンの多量(生理的需要量をはるかに越えた量)の投与により臨床症状の改善がみられ,投与を中止すると再び悪化するという一連の疾患の存在が知られ,ビタミン依存症Vitamin dependencyという概念が提示された.
現在までに知られているビタミン依存症を病因論的に分類すると,
1)アポ酵素の構造異常によるもの
酵素の質的変異によって補酵素との親和性が低下し,通常の濃度では反応せず多量のビタミンの存在を必要とするもの.
例えば,ビタミンB6依存症.
一般的診断基準はない.今回,色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum,XP)をXPA群型,XPバリアント型,およびその他に分類し,A群とバリアントの診断基準を私案としてまとめた(表).
■再生不良性貧血とは
再生不良性貧血は骨髄中における血球の産生が全体的に低下した状態である.そのため骨髄の低形成と末梢血での汎血球減少を血液学的な特徴としている.骨髄の低形成が赤血球,顆粒球,巨核球-血小板の3系統の血球のいずれにおいても認められることから,再生不良性貧血はこれらの血球の母細胞,すなわち未分化な造血幹細胞の異常であると考えられている.造血幹細胞に異常をもたらす原因として,各種の薬品・薬剤が挙げられている(2次性再生不良性貧血)が,臨床的に因果関係を証明することは困難である.わが国では大部分(70〜80%)の再生不良性貧血は原因の分からない本態性の型に属しているが,その中の一部の症例で免疫学的な機序による造血幹細胞の抑制がinvitroの培養系ならびに臨床的な観察によって証明されている.
■溶血性貧血の概念
溶血性貧血は疾患群で諸種の病因による多くの疾患からなるが,その本質は,何らかの機序によって赤血球崩壊が亢進した結果生じる貧血の総称である.
一般的に貧血,脾腫,黄疸がみられるが,すべてが出そろうとは限らない.黄胆のため,臨床診断とくに身体所見からtentative diagnosisをつける場合に,黄疸を呈する疾患として頻度がずっと高い肝・胆道系の疾患と誤診されやすい点に注意を喚起したい.すなわち,黄疸のある患者を診たときに,溶血性貧血である可能性は常に考慮に入れておく必要がある.
■疾患の概念と分類
赤血球破壊の亢進が免疫学的な機序によってもたらされる溶血性貧血群で,表のように①自己免疫性,②同種免疫性,③薬剤起因性に大別される.赤血球膜上の抗原に向けられたか,あるいは元来赤血球とは無関係の薬剤に向けられた抗体が産生され,免疫反応の結果赤血球膜が傷害されて早期崩壊に至る.抗原抗体反応は赤血球膜上で直接起こることも,また薬剤起因性の一部の場合のように血中で生じた免疫複合体が赤血球膜上に沈着する形を取ることもある.これに補体の活性化が加わることが多い.傷害赤血球は多くの場合,網内系細胞に捕捉貧食されて崩壊するが,抗体の性質や反応の激しさにより血管内溶血が主なこともある.溶血の様式には抗体の免疫グロブリン種,補体結合性,反応至適温度などが関与しており,各病型に特有の臨床像とも対応している.自己免疫性の場合は,臨床経過から急性(数カ月)と慢性に,また先行ないし随伴する有意の基礎疾患の有無により続発性(2次性),特発性(1次性)に区分される.
発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)は夜間の血管内溶血により,早朝尿が濃赤褐色のヘモグロビン尿を呈する特徴的な症状があるため,古くから記述のあった疾患である.血管内溶血の機序は補体が関与し,補体溶血しやすいPNH赤血球のクローナルな出現が病因であり,赤血球膜異常の機構も明らかにされつつある.その異常は白血球,血小板,さらに骨髄にも及んでいる.臨床的には溶血発作,深部静脈血栓症,白血病などさまざまな特異な合併症が起こり,しかも慢性に経過するので,正確な診断と病態の把握が適切な診療をする上で極めて大切である1).
TTPは病因不明で急性経過をとる予後不良の疾患である.毛細血管および細動脈に血栓が多発性に形成される.これによりMoschowitz 5徴候と呼ばれる出血,溶血性貧血,神経精神症状,腎機能障害,発熱が出現する.適切な治療をしないと大部分の症例は死亡する.死亡した症例の約半数は診断後1週間以内に死亡している.この点からも早期診断,早期治療が重要である.
病因は不明であるが,治療効果などから複数の病因の存在が推測されている.特発性が大部分であるが,続発性と考えられる症例もある.特発性のなかに家族発症例があり,遺伝的素因の存在が推測される.伝染性はない.
■鉄欠乏症の概念と疫学
生体の鉄は正常人で総量3,000〜5,000mgあり,うち約65%がヘモグロビン鉄,約30%が貯蔵鉄,他に消化管上皮や爪などの組織鉄,血清中のトランスフェリン結合鉄,酵素などに存在する微量の鉄に大別される.鉄欠乏状態を来すと,まず貯蔵鉄の減少を来し(貯蔵鉄欠乏),ついで貯蔵鉄,血清鉄が減少し貧血には至らないが鉄欠乏の潜んだ状態(潜在性鉄欠乏)となり最終的には鉄欠乏性貧血となる.
不応性貧血は狭義には原発性に赤芽球過形成髄を呈し,かつ治療不応性の貧血を指す.広義には骨髄異形成症候群myelodysplastic syndrome(MDS)の中の貧血を主とする病態,すなわち狭義の不応性貧血refractory anemia(RA),環状鉄芽球を伴う不応性貧血RA with ringed sideroblasts(RARS),芽球増加を伴う不応性貧血RA with excess of blasts(RAEB)などを含めると理解される.ここでMDSとは,骨髄低形成によらない原因不明の血球減少で,しかも異形成dysplasiaと総称される一連の血球形態異常を呈する病態を指す.
不応性貧血もMDSも主として高年齢層にみられ,しばしば急性非リンパ性白血病を発症するが,感染や出血などの骨髄不全死も白血病化に劣らず多発する.血球減少のほかにも血球機能の障害が知られ,しかもこれら血球の量的質的異常がしばしば複数血球系にみられるので,その本態は多能性造血幹細胞の異常に基因すると考えられる.血球減少は骨髄低形成によるのではなく,血球産生と分化とが障害されるためである.造血の面では,幹細胞から成熟血球に至る過程での血球死滅すなわち無効造血であり,無効造血はまた血球分化からみれば分化異常として把握できる.
赤血球増加症は正確には赤血球量の増加を示す場合に限って用いられるべき用語である.ヘマトクリットなどの末梢血液の測定値の上昇はあるが赤血球量の増加はないような病態が存在し,これを偽性赤血球増加症(spurious erythrocytosis),また相対的赤血球増加症,ストレス赤血球増加症,Gaisböck症候群と呼ぶ.真の赤血球増加症は顆粒球系と血小板系の増加をも伴った骨髄増殖性疾患である真性多血症(polycythemiavera;PV)と2次性赤血球増加症(secondaryerythrocytosis)に分類することができる(表1).
末梢血の検査所見での血球数の上限値をどこにおくかについて,自動血球計数器により得られた正常値±2倍の標準偏差の数値をその目安とすると,赤血球増加症を疑って検査を進めるべき数値は,赤血球が600万/μl(男子),550万/μl(女子)以上,ヘモグロビン量18g/dl(男子),16g/dl(女子)以上,ヘマトクリット52%(男子),47%(女子)以上となる.真の赤血球増加症の診断には,循環赤血球量の測定が必要で,51Cr-クロム酸ナトリウムによる赤血球標識法により測定するのが一般的である.正常値は,女子25±5ml/kg,男子30±5ml/kgである.
■診断基準の作成された経緯
脾機能亢進症として,上記の条件に当てはまる疾患としては,いろいろ挙げられている.Primaryのものと,secondaryのものがあるというのが共通した意見である.Dameshek(1955)によれば,亜急性ないし急性感染症の脾腫,種々の門脈圧亢進症,Gaucher病などの脂肪代謝異常症の脾腫,脾原発のリンパ肉腫,チステや過誤腫など比較的良性なものを含む腫瘍,たいした障害もなしに脾腫のみの有る例などを脾機能亢進症として挙げている.彼は脾機能亢進症のcytopeniaは脾腫が造血抑制物質を過剰に産生するためと考えているようである.Crosby(1966)のころには,RI標識血球を用いた血球動態の観察から,脾機能亢進症の概念の把握がより確実になっている.すなわち,脾機能亢進症では脾に大きな血球プールが形成され,血球の貯留があることを指摘した.溶血性貧血例にRI標識自己赤血球を投与すると,放射能は脾に集まり,赤血球が濃縮されていることを指摘した.特発性血小板滅少性紫斑病では,脾において血小板の破壊の亢進があるが,患者の血漿中にある自己抗体のせいで,脾の異常によるわけでなく,骨髄の巨核芽球が未成熟のものが多いのは,造血抑制のためでなく血小板の産生亢進のためである.
CDA(congenital dyserythropoietic anemia;先天性赤芽球異常症または先天性赤血球異形成性貧血の訳語が充てられている)は赤芽球の特異な形態異常と貧血,間欠的黄疸,肝脾腫などの症状を伴い,やがて鉄過剰症やその合併症(糖尿病,肝硬変,性腺機能障害など)を来す先天性遺伝性疾患である.血球異常は赤血球系に限ってみられ,白血球系や巨核球血小板系の異常はまずみられない.赤芽球の形態異常と赤血球膜の血清学的特徴から通常3病型(CDA I,II,III型)に分類されているが,それ以外の非定型例(IV型その他変異型)もありなお病態解析が必要である.かなりまれな疾患で欧米で百数十例(1型16家系17例,II型55家系84例,III型4家系23例-1976年),わが国で15例程度(I型3家系,II型2家系,III型2家系-1985年)が報告されている.男女にみられ,常染色体性遺伝で,I,II型は劣性,III型は優性と考えられている.なお,全体を通じて遺伝歴が証明されるのが約60%,他は散発例ないし不明例である.
■顆粒球減少症
1)診断基準 現在のところ顆粒球減少症の診断基準はとくにない.顆粒球減少で臨床的に問題となるのは好中球減少であり,案としては表1のようになる.
2)疾患概念 顆粒球の回転は,骨髄→末梢血(循環プール←→壁在プール)→組織,という一方向の流れを保持しており,逆行することはない.また,血算で求められる顆粒球数は,末梢血循環プール内の量を反映している.よって,顆粒球減少は,この回転動態より考えると,①骨髄での産生の減少,②骨髄より末梢血への動員の障害,③骨髄または末梢血での破壊の亢進,④末梢血循環プールより壁在プールへの移行の亢進,⑤末梢血より組織への移行を含めた顆粒球消費の亢進,のいずれか,あるいはその組み合わせとして捉えられる.具体的な原因としては表2のような項目があげられる.
■好酸球増加症とhypereosinophilic syndrome(HES)の概念
末梢血好酸球数の正常値は100〜300/μlで,日内変動が大きい(朝が最低で,夕方に最高).通常450/μl以上が好酸球増加症(eosinophilia)とされており,その原因となる主な基礎疾患を表1にあげた.好酸球増加が1,500/μl以上と高度の場合をhypereosinophiliaと呼び1),そのうちで原因疾患を伴わず,心,肺などの臓器系の障害を伴う場合を総称してHES2),あるいは特発性HES1,3,4)と呼ぶ.
急性白血病は正常骨髄細胞の未分化な段階で腫瘍化し,増殖に伴って芽球の形態的な特徴を発現するものと考えられる.一口に急性白血病といっても,細胞形態は多彩で,染色体,臨床像,治療に対する反応,および予後などに差異がみられることから,正確な病型診断が必要とされる.
急性白血病の形態分類としては,1976年French-American-British(FAB)Co-operative groupによって提唱されたFAB分類が臨床的には最も有用である.FAB分類の意義は,普通染色が基本で,定型的な急性白血病のみを対象とし,非定型性白血病の多くをmyelodysplastic syndromes(MDS)として分け,骨髄性とリンパ性白血病の区別をペルオキシダーゼ反応の簡単な技法で行ったことにある.