増刊号 診断基準とその使い方
III.消化管
11.吸収不良症候群
朝倉 均
1
,
田中 伸
1
1慶應義塾大学医学部・内科
pp.1806-1809
発行日 1988年9月30日
Published Date 1988/9/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402221902
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■診断基準(案)(表1)
■疾患概念と疫学
吸収不良症候群とは,糖質,蛋白質,脂質,ビタミン,電解質,水などの単一または複数の栄養素の腸管における消化,または吸収障害によって引き起こされる欠乏症状を含む,種々な臨床症状を呈する疾患の総称である.本症によってもたらされる症状を大別すると,
1)下痢,脂肪便,蛋白便,腹部膨満感,腹鳴,腎結石などの消化吸収障害によるもの
2)体重減少,やせ,成長障害,浮腫,腹部膨満,腹水,貧血,皮下出血,骨軟化症,口内炎,末梢神経炎,無月経,テタニー,眼症状などの各種栄養素の欠乏症状によるもの
がある.これらの症状をきたす病態の機序は単一のものではなく複雑な因子の絡みあったものによる.
本邦における本態性吸収不良症候群のうち,セリアック・スプルーは5例,β-リポタンパク欠損症はごくわずかの症例報告があるにすぎない.本邦の大部分の吸収不良症候群は,腸管術後障害やクローン病などの小腸広範な病変による症候性吸収不良症候群や消化吸収障害性吸収不良症候群である.著明な消化吸収障害でtotal parenteral nutrition(TPN)のhome alimentationを行わなければならない疾患として,腸間膜動静脈閉塞症による手術後の短腸症候群と小腸型クローン病がある.刷子縁膜病としては,乳製品の消費量がまだ欧米に比べて少ない本邦では,乳糖不耐症が55〜73%の成人にみられる.
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