medicina 25巻9号 (1988年9月)

今月の主題 カルシウム代謝と骨

Editorial

カルシウム代謝と骨 松本 俊夫
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 カルシウムおよび骨代謝異常症は,日常臨床の中でも決して稀な疾患ではなく,米国Mayo Clinicのように代謝内分泌疾患の中では糖尿病に次ぐ患者数が存在する施設もある.しかしながら,その存在を疑わないで診療したために,見落とされてしまう場合も多い.この場合,問題となるのは血清あるいは尿中のカルシウムなどを測定しなければ,例えば直接の死因となった腎不全の原因が不明のまま,カルシウム代謝異常症の存在に全く気づかれないで終わってしまうということである.カルシウム代謝異常症は,循環器疾患や呼吸器疾患患者のように,一瞬の判断が患者さんの生死に直接関わってくるような場合は少ない.しかしながら,その存在を的確に診断し,必要な治療を行うことにより,その後にもたらされる多くの障害を予防しうるとともに,前述のごとく,場合によっては致命的となる合併症を未然に防止することが可能である.そのような意味でどのような臨床に携わろうとも常に念頭に置く必要のある疾患の一つであろう.

 一方,この分野における基礎的研究に目を向けてみると,骨およびカルシウム代謝に関する研究は,ここ数年来目醒ましい進歩を遂げつつある.その結果,骨芽細胞による骨基質蛋白の生成および骨石灰化の機構,骨芽細胞による破骨細胞機能の調節,更には破骨細胞の形成過程,などの謎が急速に解き明かされつつある.

カルシウム・骨代謝の調節系

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 骨組織の維持には,骨組織の形成と吸収,すなわち骨改造やミネラルホメオステーシスなどの機構が関与し,その主役は言うまでもなくBone Cellsである.なかでも骨改造機構は重要で,破骨細胞の分化・誘導・活性化と骨吸収,引き続いて起こる骨芽細胞の分化・活性化.骨形成という一連の細胞連鎖機構によるものと考えられている.しかし,この機構における"BONE CELLS"の果たす役割,特に各細胞間の相互関係,骨基質との特異的作用などに関しては,形態学的にも未解決な点が多い.

 そこで本稿では,骨改造現象を主体とした,骨組織の維持機構に関する形態学的特徴について論じてみたい.

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 血清カルシウム(Ca)のうち,ホルモンなどにより調節を受け,細胞機能の維持・調節上必須の役割を演じているのは遊離Caイオン(Ca2+)である.血清蛋白濃度などに異常がない場合には,血清総Ca濃度の約50%近くをCa2+が占める.通常,検査室で測定されるのは総Ca濃度であり,健常者では8.5〜10.2mg/dlという狭い範囲に維持されている1)

 血清Ca濃度の調節上最も重要な役割を演じているのは副甲状腺ホルモン(PTH)であるが,正常なCa代謝平衡の維持には1,25水酸化ビタミンD[1,25(OH)2D]の存在が必須である.カルシトニン(CT)もCa代謝平衡の維持に何らかの役割を演じているものと考えられる.これらのホルモンの分泌および作用は,他のホルモンによって相互に影響を受けあっている.したがって,Ca代謝調節系の評価にあたっては,これらホルモンの相互作用を念頭に置いた上で総合的に解析する必要がある2)

骨代謝の調節因子 佐藤 幹二
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 骨組織はたえず骨吸収と骨形成を営んでおり,活発に新陳代謝を行っている臓器である.骨形成は骨原性細胞(osteoprogenitor cell)由来の骨芽細胞(osteoblast)によって行われ,骨吸収は造血細胞(hematopoietic cell)由来と考えられる破骨細胞(osteoclast)によって行われている(図1).骨代謝はこのように全く素性を異にする細胞によって行われているにもかかわらず,正常人では骨吸収量と骨形成量はほぼ等しい.このことは骨代謝がさまざまの骨代謝調節因子によって巧みにコントロールされていることを示唆している.本稿では続々と明らかにされつつある骨代謝調節因子の中から(表),臨床的に関連の深いものについて紹介したい.

診断と治療

高カルシウム血症 高槻 健介
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 高Ca血症はしばしば遭遇する電解質異常であり,患者に種々の苦痛を与えるのみならず,重篤な場合は生命を脅かす.本項では高Ca血症の原因,症状,診断および治療につき概説する.

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 血清カルシウム(Ca)は3つのCa調節ホルモンによる精妙な調節機構によって一定の狭い範囲に厳格に維持されている.血清Ca値の異常は,この恒常性維持機構が破綻をきたしたか,あるいはこの機構をもってしても代償しきれない状態になったときに生ずる.このほか,血清蛋白の低下によるみかけ上の低Ca血がある.

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 近年,画像診断法の進歩は著しく,MRIやDSAなどの新しい診断のmodalityが導入され,臨床に供されている.これは骨の分野においても例外ではなく,従来では得ることが不可能であった情報が利用できるようになった.しかし,代謝性骨疾患に関しては,MRIとCTを用いた系統的な画像診断についての報告は少ない.そこで,本稿では代謝性骨疾患の画像診断として,日常検査法である骨単純X線像と,全身の骨代謝状態がイメージングされる骨シンチグラフィについて概説する.

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 本稿では,高Ca血症,および低Ca血症の具体的治療法を記す.

カルシウム代謝異常症と骨

副甲状腺機能亢進症 永田 直一
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 副甲状腺機能亢進症では原発性,二次性(あるいは三次性),いずれもが骨病変をきたし,近年,高度の骨病変は,むしろ後者で問題とされるが,この病態はまず慢性腎不全に伴うものであり,他項で取り上げられるので,ここでは原発性副甲状腺機能亢進症(I°HPT)の骨病変について解説する.

ビタミンD欠乏症 森井 浩世
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 ビタミンD欠乏症を表のように分類することができる.すなわち栄養源としてのビタミンD,またはプロビタミンD摂取の不足,紫外線照射の低下,消化管異常による吸収不良症候群,様々な理由による1α-hydroxylaseの低下をあげることができる.1α-hydroxylaseの欠損ないし低下は,先天的に生ずるビタミンD依存症I型の他,慢性腎炎およびその結果として長期血液透析治療を受けている患者,抗痙攣剤投与,カドミウム,鉛などの重金属中毒によっても生ずる.老化によって1,25(OH)2Dの産生が抑制されると考えられており,老化に伴う様々な障害と関連している可能性がある.

ビタミンD抵抗性クル病 清野 佳紀
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 ■ビタミンD依存症I型

 1961年Praderは,低Ca血症を伴い,二次性副甲状腺機能亢進を示し,病状がビタミンD欠乏性クル病と酷似しているにもかかわらず,治療に生理量以上のビタミンD投与を必要とするクル病を,遺伝性偽性ビタミンD欠乏性クル病として報告した.患児は大量のビタミンDを投与していると正常に発育し,中断すると低Ca血症およびクル病が再発し,成長発育がビタミンDに依存しているところから,1970年Scriverにより,ビタミンD依存症と名づけられ,これが一般化している.発症は生後2ヵ月から12ヵ月以内で多く,常染色体劣性遺伝であるが,散発例も存在する.

 本症においては,血清250HDは正常または高値であるにもかかわらず,1,25(OH)2Dは低値であると考えられていた.筆者らも本症例で,血中1,25(OH)2D値を測定したところ低値であった.したがって,先天的に腎尿細管の1α位水酸化酵素が欠損し,1,25(OH)2D産生が低下または欠如していると考えられている.しかし,直接組織で酵素活性が調べられた報告はない.さらに,Bal-sanは,本症の1αOHD3の必要量が,ビタミンD欠如に比し大きかったことから,1α位水酸化酵素の障害だけではなく,他の部位のビタミンD代謝異常を合併している可能性も示唆している.

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 悪性腫瘍に伴う高カルシウム(Ca)血症はその発生機序から,腫瘍細胞の骨への浸潤により骨溶解が亢進し,高Ca血症がもたらされるlocal osteolytic hypercalcemia(LOH)と,腫瘍から産生される液性因子が全身性に作用し,高Ca血症が惹起されるhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM)の2つに大別される.多発性骨髄腫,乳癌の骨転移などによる高Ca血症がLOHの,扁平上皮癌,腎尿路系の癌に伴う高Ca血症などがHHMの代表的な例である.このうちLOHでは,骨転移巣において腫瘍細胞が直接に,あるいはparacrine factorsなどを介して間接的に,骨吸収を促進すると考えられている.一方HHMは,悪性腫瘍に伴う高Ca血症の80%以上を占める最も頻度の高いparaneoplastic syndromeであり,またこの内の大部分は共通の臨床症状を示す一つのclinical entityである.さらに近年HHMの惹起因子であるPTH様因子の構造が決定され,現在HHMの発症機序,PTH様因子の作用などが急速に解明されつつある.そこで以下本稿では,HHMの臨床的特徴について概説した後,その惹起因子としてのPTH様因子の作用につきまとめた.

腎疾患と骨

腎性骨異栄養症 小椋 陽介 , 長谷川 元
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 腎疾患に伴って起こる代謝性骨疾患を腎性骨異栄養症という.これは尿細管異常(尿細管性アシドーシス,Fanconi症候群など)に伴うものと,慢性腎不全に伴うものに大別できるが,後者が圧倒的に多く,ここでは後者について述べる.

 慢性腎不全に伴う骨異常は線維性骨炎,骨軟化症,骨減少症(骨粗霧症)からなるが,主体となるのは前二者であり,この2病変はしばしば混在する(混合型).さらに最近はアルミニウム(Al)沈着によるAl骨症,β2ミクログロブリン(β2MG)を前駆蛋白とするアミロイドが沈着して起こる,アミロイド骨関節症も腎性骨異栄養症に含められることが多い.したがって腎性骨異栄養症はhetero-geneityの内容を有している.

アルミニウム骨症 小野 利彦
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 腎性骨異栄養症(ROD)のうち,二次性副甲状腺機能亢進症は,活性型ビタミンD(V. D)やCa製剤の投与により,ほぼコントロール可能となっているが,近年アルミニウム(Al)骨症およびアミロイド骨関節症がV. D抵抗性骨病変として注目を集めている.

尿細管性アシドーシス 土屋 裕
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■疾患の概念(表)

 尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis,RTA)は,腎尿細管のH排泄障害に基づく慢性高クロール血性酸血症の総称である.

 RTAは近位尿細管のH排泄障害(重炭酸再吸収障害)による近位型RTA(II型,RTA-II)と,遠位尿細管のH排泄障害による遠位型RTAに2分される.RTA-IIには重炭酸再吸収障害のみの病型とこれに腎尿細管におけるK,リン,糖,蛋白,アミノ酸などの再吸収障害を伴う病型(Fanconi症候群)とがある.遠位型RTAは,随伴する血清K値の異常によって低K型(I型,RTA-I)と高K型(IV型,RTA-IV)に分けられる.RTA-IVにはアルドステロン分泌低下を伴う病型と,これを伴わない病型とがある.

内分泌疾患と骨

甲状腺機能亢進症 山本 逸雄
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 甲状腺機能亢進症における骨病変は,古くvon Recklinghausenによって報告されているが,"thyrotoxic osteoporosis"として骨塩減少をきたすものとして知られている.このosteoporosisは,組織学的にはいわゆるhigh turn over osteoporosisであって,骨代謝の亢進によるものであることが知られている1).多くの甲状腺機能亢進症の患者において骨型のアルカリ性フォスファターゼ(AL-PH)の上昇はしばしば認められ,治療に伴い,その減少がみられるが,このことも,骨代謝亢進の現れと考えられる.近年TSH抑制のために甲状腺ホルモンを投与されている患者におけるosteoporosisの存在も注目されている2).以下,甲状腺ホルモンの骨に対する作用,および,甲状腺機能亢進症患者の骨,カルシウム代謝について述べる.

クッシング症候群 多久和 陽
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 内因性グルココルチコイドの過剰産生を特徴とするクッシング症候群は,グルココルチコイド過剰に基づく種々の代謝異常を呈する.このうち,鉱質代謝の異常は著しい骨量の喪失や,尿路結石症として臨床的に問題となる.骨形態学的研究から本症にみられる骨量の減少(osteopenia)は骨粗霧症(osteoporosis)の一種であることが明らかにされている.同様の骨量の減少は,各種疾患の治療のために,生理量以上のグルココルチコイドを長期間投与された,いわゆる医原性クッシング症候群の患者にも認められる.

 臨床的に典型的な症状,徴候を呈する自然発症性クッシング症候群の患者では,その40%〜50%の頻度でX線学的に骨粗鬆症の所見が認められると報告されている.また医原性クッシング症候群においては,患者の性,年齢,グルココルチコイド治療の対象となる基礎疾患の種類,用いたステロイドの種類,量,投与の期間などにより骨粗霧症の頻度および程度は異なる.

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 骨粗鬆症の原因疾患の一つに末端肥大症が挙げられてきた.確かに高齢の末端肥大症患者の骨はレ線像で骨梁が粗になっており,骨粗鬆症的な像を示す例もある.しかし,日常経験する例の大部分はレ線学的にも骨量が増加しているように思われる.骨粗鬆症の診断はレ線像だけではなく,組織学的検査や骨塩量なども参考にする必要があり,末端肥大症の骨について再検討が加えられつつある.

 また,骨カルシウム代謝に関係するホルモンの測定も近年著しく進歩したので,本症における骨・カルシウム代謝についても述べる.

性腺機能低下症 田中 祐司
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 性腺機能低下症に合併する骨病変は骨粗鬆症と考えてよい.閉経後骨粗鬆症がEstrogen欠乏が主因と考えられるのと同様に,男子性腺機能低下症患者にも長期のAndrogen欠乏に基づく骨粗鬆症が高頻度で認められる1,4).閉経後骨粗鬆症は別項で述べられると思うので,ここでは男子性腺機能低下症と骨粗鬆症の関係,とりわけその治療の重要性について述べてみたい.

糖尿病 清野 裕
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■概念

 糖尿病者に骨減少症が高率に合併することは従来より知られており,糖尿病の病型や人種間などで差のあることも指摘されている.わが国における糖尿病性骨減少症の実態については,ほとんど不明であったが,MD法を用いた調査によると1),MD法重症度でI〜III度の中等症以上の骨減少症の頻度は20.1%と,諸外国と同様に糖尿病性骨減少症の存在する事実が確認された.

骨粗鬆症

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 骨粗鬆症は骨の質(成分)には変化がなく骨の量が病的に減じた状態であり,多数の原因により起こる.RiggsとMeltonは表1のように原因が不明の一次性と原疾患や投与薬剤によって生じる二次性の2つに分類した1).本稿では一次性骨粗鬆症のうち最も頻度の多いinvolutional osteoporosis(老化性骨粗鬆症)について述べる.

退行期骨粗鬆症の治療 折茂 肇
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 退行期骨粗鬆症は閉経後の女性および老人に多い疾患で,骨量の減少およびそれに基づく腰背痛,骨折などを主症状とする一つの症候群である.この疾患は骨吸収と骨形成のuncouplingにより発症するもので,その病因としては加齢および加齢と関係の深い種々の要因,遺伝的素因,内分泌因子,運動不足,Ca欠乏症などの栄養因子の関与が考えられている.本症は,最近の老年人口の急激な増加に伴い,その対策が医療のみならず社会問題としても注目されつつある.本症の対策上最も重要なことはその予防であり,次が治療である.本症の治療の目的は2つあり,その第1は骨量の減少を防止しそれによる骨折を防止することであり,第2は腰背痛の改善をはかることにある.

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 松本(司会) 最近カルシウムおよび骨代謝の分野においても細胞生物学や分子生物学を導入した基礎的な研究の進歩によって,臨床的にも大きな進展が得られています.そこで今日は,この分野の先端で研究をなさっておられる先生方にお集まりいただきまして,特に骨芽細胞,破骨細胞の機能とか,分化に関する最近のトピックについてお話しいただいた後,副甲状腺機能亢進症,悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症,副甲状腺機能低下症,ビタミンD抵抗性クル病,腎性骨異栄養症そして骨粗鬆症などの疾患の病態生理,そして診断上の最近の新しい発展とか,トピックについて議論していきたいと思います.

理解のための10題

カラーグラフ 眼と全身病

動脈硬化と眼 宇山 昌延
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 高血圧が長く持続すると,加齢による変化も加わって,網膜血管に動脈硬化が起こる,前号(25巻8号)に述べたように網膜の動脈は細動脈であるから細動脈硬化であり,主にピアリン変性を起こし,動脈壁の不透明化,管腔の狭窄をみる.眼底検査によって,動脈壁の反射が強くなり(図1),高度になると銅線のようにみえる(銅線動脈).また動脈は細くなる(狭細).動脈も静脈も網膜表層にあり,互に交叉しているが,そこでは共通の外膜で包まれているので,動脈硬化が静脈にも及ぶ.その結果,交叉部で静脈はくびれたり,動脈を弓状に迂回したり,圧迫されてうっ滞をする(図1).これらの異常所見を動静脈交叉現象と呼んでいる.網膜細動脈硬化の確実な所見であって,その程度判定から細動脈硬化の程度を知ることが出来る.細動脈硬化は高血圧の程度と持続期間の積として現れ,Keith-Wagener分類の1群,II群はこのような変化の軽度のものと高度のものにあたる.

 網膜動脈硬化が進行すると,いろいろの合併症が出現し,その結果,視力障害が発生する.動脈に血栓による閉塞症が発生する.網膜中心動脈が眼球へ入る部一すなわち強膜節状板で,血栓を生じて閉塞すると網膜中心動脈閉塞症であり,網膜は血流杜絶のため壊死に陥って全面が乳白色に強く混濁し,中心窩のみが紅色に残ってcherry red spotを示し,網膜動脈は全般にきわめて細くなる(図2).

グラフ 非観血的検査法による循環器疾患の総合診断

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■心音図.心機図所見

 1)心音図と頸動脈波曲線(図2)

 心音図は心尖部(Apex)と第3肋間胸骨左縁(3L)における平静呼吸中の同時記録を示すが,注目すべき所見は次の3点である.①II音の病的呼吸性分裂,②心尖部の拡張早期過剰心音〔Ex(1)〕,③II音肺動脈弁成分(IIP)よりわずかに遅れて出現する3Lの拡張早期過剰心音〔Ex(2)〕.

 本例におけるII音の病的呼吸性分裂には,主として吸気性の著しいIIA-IIP間隔増大(呼気時40msec,吸気時75msec)が関与するが,その主原因は吸気に伴う左室全収縮時間(Q-IIA時間)の短縮(335msec-315msec=20msec)が正常(10msec未満)よりも著しいためである.Q-IIA時間の吸気性短縮はとりもなおさず左室駆出時間の吸気性短縮(呼気時245msec,吸気時220msec)が顕著なためでもある.このような吸気に伴う左室駆出時間短縮の顕著化は,血行動態的に有意な心膜液貯留時や収縮性心膜炎,重症の閉塞性肺疾患などにみられ,この所見が著明な場合は臨床的に「奇脈」として観察される.

グラフ MRIの臨床

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 NMRスペクトロスコピー(MRS)は,1950年代に主に化合物の構造解析の一方法として発展した分光学であるが,パルスフーリエ変換法1)や,超電導磁石による高磁場の実現により,S/N比,スペクトル分解能は著明に向上し,近年は生体に対しても用いられるようになった.しかし,これらも当初は試料管が小さいため,摘出灌流臓器や,小動物の四肢などの,ごく限られた対象だけに行われていたものであった.一方,プロトン(1H)のNMRイメージング(MRI)装置が1980年代に入って臨床診断用断層装置として実用化され,画像のS/N比や空間分解能向上のため高磁場が必要となり,臨床用のMRI装置もMRSが可能な磁場強度をもつようになった.これにより,MRI装置によるMRS,すなわちin vivo ヒトのMRSが可能となったのである.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

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 西澤 消化管のX線造影検査は大きく分けて上部消化管と下部消化管の2つに分けられます.一昨年と昨年は食道,胃,十二指腸のX線造影法について対談をしてまいりましたが,今月からしばらくの間,下部消化管造影検査ということで,順天堂大学の松川先生からお話を伺っていきたいと思います.

 下部消化管造影といいますと,小腸造影と大腸造影の2つに分けられますが,まず小腸の検査法から入りたいと思います.

演習

目でみるトレーニング

演習 内科専門医による実践診療EXERCISE

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 61歳の女性.生来健康であったが2カ月前頃より労作による息切れと腰部鈍痛が出現,徐々に増悪し,1カ月前より食思不振,体重減少が著しくなり来院した.

 一般身体所見:身長154cm,体重41kg(1カ月前45kg),栄養不良,体温36.3℃,血圧110/75mmHg,脈拍90/min 整,全身表在リンパ節触知せず,眼球結膜黄疸なし,眼険結膜貧血著明に認める.呼吸音 清,心音 純,腹部では肝腎脾触知せず,四肢に異常なし,神経学的異常所見も認めなかった.眼底では静脈の怒張と蛇行を認めた.

講座 図解病態のしくみ 循環器疾患・7

異型狭心症 鯵坂 隆一
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 異型狭心症(variant form of angina)は,1959年,Printzmetalらにより安静時に心電図上ST上昇を示す狭心症として報告された1).発作時に心筋酸素需要の増加を伴わないことから,冠血流の一次的な減少が狭心発作の機序として推定された.その後,ST上昇を示す狭心発作時に冠動脈造影上,責任冠動脈に閉塞を認め,ニトログリセリン投与により正常化する(器質的冠動脈狭窄合併例では発作前の状態へ復する)ことが直接確かめられた.これにより,異型狭心症の病因は冠動脈スパスムにあることがほぼ明らかとなった.

 その後の研究により,冠動脈スパスムは異型狭心症のみならず,異型狭心症以外の安静狭心症,安静兼労作狭心症,労作狭心症,不安定狭心症,梗塞後狭心症の病態の少なくとも一部に関与することが知られ,不整脈,急性心筋梗塞,突然死の一部も冠動脈スパスムとの関連が推定されている.本稿では,異型狭心症の他,冠攣縮性狭心症(この概念については後述する)について述べる.

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 肺は多種類の細胞からなる臓器であり,そこから発生する腫瘍もまたきわめて多彩な像を呈する.現在よく用いられている日本の肺癌取り扱い規約1)とWHO2)の肺癌病理組織分類を表1に示した.この組織分類にみられる各項目の腫瘍は,単に組織形態が異なるだけでなく,発生頻度,好発年齢,性別,発生部位,進展様式,化学療法や放射線治療に対する感受性,予後などが,それぞれ異なっている.したがって,肺癌患者に接する臨床医にとっても,肺癌の病理像の基礎知識は不可欠なものと思われる.

 本稿では,実際的な病理診断の問題点に主眼を置き,代表的な肺癌について解説を試みた.

検査

検査データをどう読むか 佐守 友博
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 症例:54歳,男性.主訴:上腹部痛,家族歴:兄弟に肺結核あり,その他特記すべきことなし(後に詳述).既往歴:昭和24年,肺結核にて右肺上葉切除.昭和35年,イレウスにて開腹手術.両手術の際,輸血(+).現病歴:昭和55年より上腹部痛出現し,近医にて胆石症の診断を受けているが,その時には肝機能低下のため,手術を見合わせ内服療法を行いながら近医にて経過観察していた.昭和62年3月16日,仙痛発作を起こし,本院(濁協医大越谷病院)消化器内科を紹介され,コンピューター断層撮影,胆のう造影,超音波検査にて胆のう内胆石症と確定診断を受けている.10月下旬,右季肋部の仙痛発作出現し,10月31日,消化器内科より一般外科を紹介され,手術目的で11月20日入院となる,入院時現症:身長154cm,体重55kg,意識正常,眼球・瞼結膜正常,胸部:心音正常,右背部に手術創痕(+),右肺呼吸音減弱,腹部:肝脾触知せず,腹部に瘢痕形成した手術創痕(+),四肢異常なし,神経学的検査異常なし.入院時検査成績を表1に示す.

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 A君は卒後3年日の内科研修医です.2年間内科全般をみっちり勉強し,今年から主として消化器内科を専攻し,多くの患者を診ながらいろいろな消化器系の検査も次第にできるようになってきました.A君がとくに興味をもっているのは腹部エコー検査でした.詳細な病歴をとってもまったく分からないような胆石を,いとも簡単に,かつ無侵襲にみつけてしまうこの検査は本当に素晴らしいものだと思っていました.

 ある晩,その日の当直医である1年目の研修医B君から,救急外来の患者の腹部エコーを頼まれました.症例は上腹部痛,黄疸にて来院した70歳女性です.発熱,嘔気,嘔吐もあり,緊急検査では白血球増多の他,アルカリ・フォスファターゼなどの胆道系酵素の上昇が著明な肝機能異常を認めました.A君もB君の急性胆嚢炎/胆管炎という診断に賛成し,早速腹部エコー検査を行うことにしました.

神経疾患診療メモ

多発性(皮膚)筋炎 西平 竹夫
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 多発性筋炎は臨床医学上大事な疾患であるが,頻度は多くない.当院で年間1〜2人前後,ハリソンの内科学に記載されている5/100万/年よりは多い.また日本の統計によると年間発生率は1.18/100万となっているが,もう少し多いように思われる.内科の各科をローテートする研修医にとって,内科3年の研修中にお目にかかれないことも起こりうる.

 当院でみる神経筋疾患には,

 ①myasthenia gravis(MG)

 ②myotonic dystrophy

 ③periodic paralysis(hyperthyroidism)

 ④polymyositis

 ⑤acute rhabdomyolysis(抗精神薬,アルコール)

 ⑥hypothyroid myopathy

 ⑦motor neuron disease(ALS,SPMA)

 ⑧neuropathy(DM,アルコール,CRF)

 などがある.多発性筋炎はMGとならんで治療法もほぼ確立され,治療可能な疾患である関係上(治療が遅れると予後に関係する!)内科医として熟知しておく必要がある.

循環器疾患診療メモ

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 抗凝固療法は,すでに発症した血栓症の進展阻止および再発防止,あるいは血栓症発症の危険のある病態におけるその発症予防を目的として行われる.その中でヘパリンは主に急性期に短期間投与される薬剤である.合併症を生じ易く,投与に注意のいる薬剤であり,その投与の実際について精通しておく必要がある.

新薬情報

リメタゾン〔ミドリ十字〕 水島 裕
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■リポステロイドとは

 副腎皮質ステロイド剤は,最も強力な抗炎症・抗リウマチ剤であるが,しばしば重篤な副作用をもたらすことがあり,本剤を長期間にわたって投与することを困難にさせている.したがって,ステロイド剤の効果と副作用を分離させることが臨床医の長年の念願であり,そのための工夫が今日まで種々試みられてきた.

 たとえば,炎症性疾患の場合,選択的に炎症巣ヘステロイド剤を集中させることができれば,ステロイド剤を増量することなく効果を強力にし,副作用をより軽減せしめ,かつ,より長期間にわたって効力を持続させることが期待される.

基本情報

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medicina
25巻9号 (1988年9月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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