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抗生物質の選択を的確におこなうには,感染症の存在を証明しなければならない.もちろん発熱がすなわち感染であるという短絡的な考え方は避けなければならない.感染症の患者を最初に診た時点でしっかりと診断をつけているか,あるいは必要な培養をおこなった後に抗生物質をはじめる習慣をつけるべきである.
Penicillin剤(PCs)はその優れた抗菌力と低毒性のゆえに今日でも最も優れた抗生剤といえるが,発疹などの薬物アレルギーと,実際には稀であるが(0.004〜0.04%),結果の重篤さから有名なショックのために必要以上に敬遠されたことがあった.しかし振り返ってみたときに,この優秀な薬は,最近開発された新しいもの(Piperacillin,Mezlocillinなど)はもちろん,以前からわれわれがなじんできたものにも依然として相当の価値があること,欠点を補う意味で新しい併用療法が考えられていることを認識しなくてはなるまい.
ひとくちにPCsといっても,Benzyl PCからPivmecillinamまで多種多様のPCsがあり,またPiperacillinについては他の筆者による記述があるので,本稿では,わが国で最も繁用されたAmpicillin,Amoxicillinを中心に私見をのべてみたい.なお題目の趣旨から,ここで取り上げたのはすでに長年使われてきた薬剤であるため,その具体的用量などについては省略した.
特徴
ピペラシリン(piperacillin sodium,Pentocillin®,以下PIPC)は新たに開発された半合成ペニシリンであり,in vitroでは抗菌作用の広い抗生物質である(図).
PIPCはcarbenicillin group(抗緑膿菌ペニシリン)に比較して抗菌範囲が広いので,extended-spectrum penicillinsとよばれるグループに属している(表).つまり,PIPCはグラム陽性球菌のうちレンサ球菌に対する効力は,肺炎球菌,腸球菌を含めてampicillinと同様である.しかしながら,PIPCはブドウ球菌の有するペニシリナーゼ(コアグラーゼ)にて分解されるので,ampicillin,carbenicillinに比べて,ブドウ球菌に対しての効力は変わりない.グラム陰性球菌である淋菌・髄膜炎菌にはampicillinと同じような効果がある.グラム陰性桿菌に対する抗菌力は今までの抗菌スペクトルの広いペニシリンに比べて,PIPCはさらに抗菌力が広くなっている.つまり,表にみられるように,carbenicillinに比較して抗菌力は優れている.たとえば,PIPCはE.coli,Salmonella,Shigellaを6.3μg/mlという低い濃度で抑制するが,これらがβ-lactamaseを有すると無効である.
近年セファロスポリン系(正しくはセフェム系)抗生物質の開発・進歩は目覚しく,比較的副作用が少ないことも加わり,広く臨床で使用されている.この中でとくに抗菌力・抗菌スペクトルに優れたいわゆる第3世代の薬剤は多くの有用性を示している.しかし反面,これらの薬剤の乱用による新たな問題(耐性菌,菌交代症など)も報告されている.ここではセファロスポリン系の各薬剤の特徴をあげ,これらの臨床使用での要点について述べてみたい.
アミノ配糖体抗生物質(Aminoglycoside Antibiotics,AG)とは
アミノ配糖体抗生物質はStreptomyces属またはMicromonospora属が産生するアミノ糖を含有するオリゴ糖である.
抗菌作用機序は細菌のリボソームに直接作用して蛋白合成を阻止することにより,その作用は殺菌的である.
S-T(Sulfamethoxazole-Trimethoprim)合剤は抗菌物質であって,sulfa剤とtrimethoprimの一定の組み合わせは,明らかにいずれかの1剤よりも抗菌力は優れている.S-T合剤は細菌の菌体内でおこなわれる葉酸合成阻害剤であり,sulfa剤はパラアミノベンゾイック酸とプテリジンの合成過程を阻止し,かつジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への過程をtrimethoprimが阻害する(図).人間の細胞ではこの葉酸合成の経路をもっていないので,S-T合剤を服用している間は葉酸欠乏状態になることはまずありえない.
S-T合剤は80mgのtrimethoprimと400mgのsulfamethoxazoleを混ぜあわせた化学療法剤であり,trimethoprimとsulfamethoxazoleの比は1対5となっており,この比がもっとも優れた相乗作用を感受性菌に対して示すといわれる.S-T合剤を経口的に投与すると,急速に腸管から吸収されて,血中最高濃度はtrimethoprimでは1.0μg/ml,sulfaは20μg/mlとなる.治療的濃度は髄液中,前眼房水中,中耳滲出液中,下気道分泌液中に十分得られる.
術後感染症は,消毒法の進歩や手術室の改善などによる無菌法の発達と,抗生物質の進歩や投与法の改善により,著しく減少している.しかし一方,この問題は,外科医にとって,最も頭の痛い術後合併症の1つであり,適切な術前の予防的抗生剤投与法の理解が,外科医のみならず,術前患者の診療にあたるすべての医師に望まれる.ここでは,主として一般外科で扱われる手術について,抗生剤投与法の原則と,各々の手術についての具体的な処方例について概説する.
症例
M. K.,37歳,女性.
主訴:左足関節痛
現病歴:7歳時,発熱,咽頭痛とともに両膝関節痛が出現し,心雑音も指摘されリウマチ熱と診断された.治療を受け,その後経過は良好であったが,昭和57年11月25日頃より肘,肩,膝に移動性の関節痛が出現した.
抗生剤を投与して感染症を治療する際,使用抗生剤の副作用を考慮に入れるが,それ以外に,使用抗生剤に耐性を示す菌の勢力にも注目する必要がある.抗生剤投与中ないし投与終了後に,臨床症状が悪化あるいは遷延化し,同一病巣ないし他の部位から投与抗生剤に耐性な他の菌が有意に分離されることがある.この現象は菌交代症と呼ばれ,1952年Brisouによって報告された.菌交代症の発生頻度は明確ではないが,Weinsteinら1)は抗生剤を投与された感染症の2.2%に発生したと報告し,Walkerら2)の報告では0.7%の発生頻度であった.強力で広範な抗菌力のある抗生剤が普及している現在では,相当な数にのぼる菌交代症があると思われる.したがって,抗生剤投与の際は,使用抗生剤の抗菌範囲を知っておくこと,臨床症状の悪化ないし遷延化がみられた場合には常に菌交代症の可能性を考慮に入れていることが必要であろう.次に症例を呈示し,その実際を述べてみる.
抗生物質の進歩に伴い,心内膜炎(Infective Endocarditis;IE)の治療は劇的な変化を遂げ,死因の第1位は,従来の抑制不能の感染症によるものから,今では心不全へと移ってきた.さらに,近年の心臓外科学の発展により,多くの心手術が感染症が活動性の時期にも安全かつ有効に行われるようになった.これにより弁置換術をはじめとする心臓外科手術は,IEの治療の中で,きわめて重要な位置を占めるようになった.
小児の髄膜炎は年齢によって原因となる菌や臨床症状が異なることから,時に発見が遅れたり,治療に手こずる症例に遭遇することがある.今回当院で経験した髄膜炎を紹介し,小児の髄膜炎の治療について述べてみたい.
日常診療において最もポピュラーな症状の1つとして下痢があげられる.その中で感染性下痢はDupontらにより臨床的に発熱,脱水,嘔気・嘔吐,腹痛などの症状の少なくとも1つを伴う1日4回以上の下痢を呈する急性疾患とされている1).以下に症例を呈示しながら,感染性下痢の病因,病態生理に基づいた正しいマネージメントについて述べる.
34歳,男.TVコマーシャル演出.
主訴:血痰.
現病歴:昭和55年春ごろ咳嗽を強く認めることがあり,56年春から盗汗を時々自覚した.57年1月には咳嗽が増強し熱感があった.
不明熱の治療は,原疾患の治療であるので,示唆に富む不明熱の患者の症例を呈示し,診断のすすめ方を論ずることにする.
FUO(fever of unknown origin)あるいはPUO(pyrexia of unknown origin)は,不明熱と日本では訳されている.その代表的定義は,以下のとおりである.
65歳,男性.主訴:悪寒戦慄を伴う発熱.
現病歴:膀胱腫瘍のため3年8カ月前に膀胱全摘および回腸導管造設術を受け,以後特記すべきことなく経過していたが,突然主訴を認め他院にて抗生剤の投与を受けたが下熱せず,39℃以上の発熱を2日間にわたって認めたため8月20日入院した.
喉頭蓋炎(Epiglottitis)は1),1〜5歳の小児に好発し,その生命を脅かす重症の感染症である.その治療はまず第一に,気道の閉塞を取り除いてやることであり,それと同時に原因菌を除去してやることである.以下に,その臨床症状および治療法について具体的に述べてみる.
53歳,女性.基礎疾患:舌癌.
臨床経過:舌癌の術後に再発した腫瘍は舌根部から下咽頭へ浸潤,口腔底より下顎部が腫脹し呼吸困難が出現したため気管切開を施行('82年10月4日).10月26日より発熱が出現,胸部X線(図1)で左肺にair bronchogramを伴う浸潤像を認めるため内科と兼科.気管内採痰にてP.Aeruginosaを検出したため抗生剤をCefmetazole(CMZ),Gentamicin(GM)をCefoperazone(CPZ),Sulbenicillin(SBPC)に変更(図2),ラ音の消失,胸部X線像の著明な改善をみた.
胃癌術後敗血症
患者:74歳,男性.主訴:吐血.現病歴:吐血を主訴に来院.胃透視,内視鏡にて噴門部の胃癌と診断された.10月13日胃全摘・Roux-Y吻合術,脾摘術を施行した.
術後経過順調であったが,低蛋白血症あり,輸血,血漿投与とともに,栄養補給の目的で17日に中心静脈カテーテルを左鎖骨下静脈より挿入,IVH(intravenous hyperalimentation)を開始した.23日突然40.7℃の発熱を認め,不穏状態となった.白血球数10,500,血小板減少,LDH上昇あり,臨床的に敗血症と診断した(図1).
近年の医学や医療の進歩は基礎疾患をもつ患者の診断や治療,ひいては予後に大きく貢献している.反面,これに伴って感染に対する抵抗力の低下した患者が増加し,皮膚や粘膜,さらに生活環境に常在している病原性の低い微生物による感染を受ける機会が多くなってきた.こうした感染を日和見感染(opportunistic infection)と呼んでいる.この言葉は,概念や定義にまだ議論の余地が残っているにもかかわらず,感染症の最近の動向を端的に示す用語として臨床の場で次第に汎用される傾向にある.
患者は9歳の男児.昭和56年11月1日急性リンパ性白血病(T-cell type)と診断され,化学療法にて昭和57年1月完全寛解となり,昭和57年7月1日姉より骨髄を移植した.感染予防のため骨髄移植施行9日前より無菌室に入室し,非吸収性抗生物質の経口投与と吸入を行い,無菌食と無菌的処置を続け,血液像は順調に回復し,昭和57年10月1日無菌室を退室した.102日の無菌室入室期間中,好中球が100/mm3以下の日数は34日であったが,ウイルス感染によると思われる発熱が4日間みられたのみで,重篤な感染症を完全に防止することができた.
幼児,学童,成人と成長するにつれて,リンパ節腫脹の意義には差があるように思われる.小児においては,扁桃炎を含めた上気道感染症,皮膚感染症は,成人よりも頻度が多く,こうしたありふれた感染症によってもリンパ節腫脹を示すことがよく知られているが,この場合,著明なリンパ節腫脹と長期にわたる症例では注意が必要である.リンパ節は,機械的に,リンパ系から,細胞破壊物,細菌,その他異物を除去する作用を有するが,ウイルスに対してはその作用は効果的ではない.頸部,鼠径部などの表在性リンパ節腫脹は発見しやすいが,縦隔,腹部のリンパ節腫脹は,リンパ節腫脹によっておこる随伴症状に留意しなければならない.
最近日本の国際交流は非常に活発で,年間入国した邦人,外国人は5百万人以上に及んでいる.海外諸地域から本来わが国に認められない種々の風土病ないし感染症が持ち込まれる機会も多く,いわゆる輸入感染症が注目されるようになった.コレラ,赤痢,チフス,マラリア,その他の原虫,寄生虫疾患などが主なものであるが,これら輸入感染症の現状および問題点を述べてみる.
各種抗パーキンソン療法の中で最も有効なものは,末梢性dopa脱炭酸酵素阻害剤(以下DCIと略)併用によるL-dopa療法であることに変わりはないが,治療期間が長くなるにつれ長期治療に伴う種々の問題点が指摘され,現在ひとつの反省期に入っている.しかし,他の抗パーキンソン剤に比較して効果の点では依然として最も優れており,いかにこれを上手に使いこなすかが,パーキンソン病治療の重要なポイントである.次に示す症例は,10年以上L-dopa治療を受け,不随意運動,L-dopaの効果減弱,up-down現象,すくみ足現象など種々のL-dopa長期治療に伴う問題点を呈した症例である.この症例を中心にパーキンソン病治療のポイントを解説したい.
脳卒中の薬物療法については,急性期,慢性期,および予防を目的とする投薬に分けて論じることが必要と思われる.ここでは,血栓溶解剤,抗凝血薬,脳血管拡張剤,脳代謝賦活剤,血小板凝集抑制剤につき,病期に応じた適応,投与法について述べる.
筋弛緩剤の種類
筋弛緩剤には大脳から筋までさまざまなレベルに作用するものがある.歴史的に古いのは神経筋接合部に働くクラーレで,現在でも合成のツボクラリン(アメリゾール®)や類似作用のスキサメトニウム(サクシン®)が麻酔科で使用されている.
痙性麻痺による尖足で歩行時にクローヌスが誘発されるような例では,プロカインやフェノールで脛骨神経ブロックを行うことがある.ブロックでは当然支配下の筋しか弛緩せず,知覚麻痺のための障害をみることもある.睡眠薬には筋弛緩作用があるが,眠気の強いものは日常生活に支障を来たして使えない.
症候性てんかんを来たした病因自体に適切な治療を加えることは非常に重要であるが,脳実質の広汎な瘢痕萎縮のように病変自体に処置を加えられない場合や,発作が重篤で管理が困難な場合など,抗けいれん剤の投与法の適否が問題となる場合が少なくない.
単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis,HSE)は,側頭葉を中心とする出血性壊死性脳炎であり,致死率50〜70%1,2)の重篤な散発性脳炎として知られてきた.米国では散発性脳炎の原因としては,最も多いものとされている.治療は,数年前まではIododeoxyuridine(IDU)3,4),Cytosine-arabinoside(Ara-C)5)が試みられてきたが,最近Adenine-arabinoside(Ara-A)およびAcyclovirによる治療が行われ,有効例や致死率の低下が報告されてきている7〜12.本稿では,HSEに対する新しい抗ウイルス剤治療を中心に述べ,診断にも適宜言及したい.
65歳男,1980年3月頃から何となく食事が円滑にのみこめないのを苦にするようになった.間もなく言葉が明瞭でなく,家人からしばしば聞き返されるようになった.耳鼻科医から内科的疾患であることを告げられ神経内科受診.舌の萎縮,構語・嚥下障害,下顎反射亢進,小手筋萎縮,四肢筋のび漫性の萎縮と線維性筋攣縮,四肢腱反射の異常な亢進があり筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された.1981年になると球麻痺症状が強くなり,流動物の摂取のみが可能であり,それもゆっくりでないと食べられない.1982年になるとしばしば痰の喀出が困難となり,呼吸ができなくなるため,急患としてたびたび来院したが,1982年5月気管切開を行った.食事は鼻腔ゾンデによっていた.同年6月からレスピレータを装着することとなった.1983年3月頃から気管支肺炎を繰り返したが,同年5月,急性心不全のため死亡.
老年痴呆は次の条件を充たすものである.第1の条件は脳内の器質的な損傷あるいは疾病を有することである.第2の条件は一旦正常に成熟した脳が後天的な外因によって破壊されたため,知能が低下したものを痴呆という.第3の条件は全般的に知能が低下するという条件である.このような概念の上から,老年痴呆の治療とケアについて述べる.
老年者にみられる最も多い不随意運動は振戦と口唇ジスキネシア(oral dyskinesia)である.振戦はParkinson病におけるものが圧倒的に多い,これについては別項で述べられているので,老年性振戦についてのみ論ずる.
その他の不随意運動としては,脳卒中とくに脳梗塞発作初期のmyoclonus,status myoclonicus,Jacob-Creutzfeldt病の経過中,とくに末期にみられるmyoclonus,status myoclonicusなどがある.またHuntington舞踏病がある.
片頭痛は1世紀のAreteusの記録以来,今日でも完全な解決をみていない疾患であるが,本稿ではその治療について実例をあげ,臨床についての意見を述べさせていただく.
頸髄症(cervical myelopathy)とは,一般には頸椎ならびに椎間板の病変による頸髄障害を指し,頸椎症,あるいは頸椎症性脊髄症とほとんど同義語として用いられている.しかし,神経学でmyelopathyという場合はそれのみならず,髄膜炎,膿瘍,肉芽腫,腫瘍,外傷,血管奇形,脊髄空洞症,さらに放射線照射,中毒,代謝障害,栄養障害,癌などに伴う脊髄症から,脱髄性疾患まで含まれてくる1).したがって,本稿での頸髄症では,頸部脊椎症,椎間板ヘルニア,後縦靱帯骨化症,黄色靱帯肥厚,不安定脊椎,脊柱管狭窄症(前後径11〜12mm以下),腫瘍,脊髄空洞症も含めて述べることにする.
頸髄症の治療とケアを考える場合は,まずそれを起こしている原疾患が何であるかが正しく診断されて,はじめてその治療が可能になるわけで,それなくして対症療法を行っても意味がないばかりか,外科的手術で完治できるものも手遅れとなるケースさえありうる.脊髄疾患の診断は,近年のspinal CT scanやMetrizamide myelographyの導入により飛躍的な進歩をとげている2).しかしながら,これらの検査は,どこでも,まただれにでも行えるまでにはなっていない.したがって,神経症状のとらえ方とその解釈,そしてX線装置さえあればどこでもとれるはずの頸椎単純写の正しい読み方のポイントを知ることが第一線の臨床医として最も大切な点といえる
失語症患者の管理は,基本的には脳卒中後遺症者のそれと全く同様である.高血圧,糖尿病,各種心疾患,肥満などの再発リスクを管理する一方,患者の脳損傷後に生ずるさまざまの精神心理的諸問題の調整を図りながら既存能力を最大限に引き出し,生きがいのある,有益な社会生活を送れるよう指導する.失語症患者は言語障害以外にも片麻痺,知覚障害,視野障害などを合併しているため,症例によってはコミュニケーションの障害だけにとどまらず,起居動作や歩行,食事,更衣などにも支障が生じている.したがって,そのような症例では言語障害と同時に運動療法(起居動作訓練と歩行訓練),作業療法(利き手交換訓練,片手による日常生活動作訓練)も行われる.
本稿では上記要項に留意した上で,実際の症例を通じ,失語症患者の言語治療の概要と日常管理上の注意点について解説する.
52歳,主婦.既往歴,家族歴に特記すべきものはない.
現病歴:4〜5年ほど前から,両手の第1〜2指のしびれを自覚するようになり,次第に手指の脱力感も加わり,ビンのふたなどがとりにくくなった.
脳卒中急性期の患者で,収縮期血圧が200mmHgを越すような例を見ることは少なくない.このような症例の診療に際し,まず必要なことは,その疾患が高血圧性脳出血(またはクモ膜下出血)であるか,脳梗塞であるかを,明確に鑑別診断することであろう.両者のいずれであるかによって血圧管理のしかたは大きく異なるからである.以下,この両者が鑑別されたうえでの血圧管理について述べる.
脳圧亢進のパターンと脳浮腫の発生機序
脳圧亢進をきたす疾患としては,まず脳出血があげられるが,脳梗塞でも,脳塞栓の重症例では脳圧亢進が出現してくる.脳出血では血腫の長径が4cm以上の場合,脳圧が亢進し,血腫周辺の組織が圧迫され,循環障害の結果,2次的な虚血により浮腫を生ずるといわれている.さらに脳室への大量の血液の穿破があれば,髄液の流通障害のために,脳圧亢進を助長する.
図1)に示すパターンAは,血腫が急激に増大し,つづけて脳圧亢進が持続的に高度に上昇し,そのまま脳ヘルニアを起こし死亡に至る.パターンBは,いったん出血が止まり,脳圧亢進が下降した後,血腫周囲の浮腫が出現し,しかも血腫が脳室へ穿破して髄液の流通障害が起こり,脳圧が再び上昇して脳ヘルニアを起こし,死に至ると考えられる.パターンCは血腫周囲の浮腫および髄液の流通障害のために脳圧亢進が起こり,第2週前後に浮腫のピークを形成して再び下降する(田沢ら1)).これが急性期脳出血の代表的な経過といえよう.
Guillain-Barré症候群は,一般に予後が良いことが特徴のひとつとされて来たが,しかし回復のおもわしくない症例も7〜20%位はあるという報告がある.かかる症例の治療法について,症例を呈示して述べる.
正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus,NPHと略)とはHakim(1964年),Adamsら(1965年)が治療可能な痴呆として報告した病態あるいは症候群である.不治の脳の変性あるいは老化として放置されていた状態が,比較的簡単な手術でほとんど治癒する場合もあるということで注目されてきた.
Adamsらの発表以来,かなり積極的に手術が行われた結果,シャントの有効率が必ずしも期待されていたほどでなく,ことに先行疾患が不明で特発性とされる症例ではシャント有効率は40〜60%という状態で,そのうえ合併症,死亡率も患者が高齢であることが多いため比較的高く,シャント手術の効果の予測が重要な問題になっている.病態生理,症状の発現機序についても多くの報告があるが,不明の点が多く,病態の複雑さを示唆している.補助検査法も種々の方法が試みられている.CT検査は気脳写に代わり,非侵襲的という意味で大きい進歩であるが,病態の理解,シャント効果の予測の目的には決定的といえない.その他の補助検査についても見解の一致をみるに至っていない2).
38歳,男.
入院までの経過:5年前より高血圧で治療をうけていた.53年1月4日午前11時30分,昼食中に机にもたれかかるようにして倒れた.内科受診時,意識レベルは傾眠,左片麻痺があった.午後1時,意識障害が進行したので脳神経外科へ入院した.
27歳の女性.昭和58年2月初旬複視.同月中旬痔瘻の手術後,眼瞼下垂始まり,下旬より発語,嚥下,咀嚼障害出現して受診.入院後,頚,上肢筋易疲労も加わる.誘発筋電図(図1上)で低頻度刺激でみられるwaning現象,神経筋接合電顕像(図1下)でシナプス間隙開大,シナプス壁の減少・単純化をみとめるなど,重症筋無力症の特徴所見あり.アンチレックス試験陽性,抗アセチルコリン受容体抗体1.8pmoles/L(正常1以下).T細胞サブセットはOKT3 58.4%,OKT4 38.6%,OKT8 18.4%とサプレッサーT細胞減少を示唆,ツ反応中等度陽性.
本例は発症より経過短く若年で,急速に全身型へと進展した上,CT検査で胸腺腫を示唆する所見を得たので(図2),通常の第1選択である抗アセチルコリンエステラーゼ剤で遷延化することを避け,早期からの免疫療法,とくに胸腺摘出術の適応と考えた.3月23日,胸腺全摘手術施行(組織診:胸腺腫),術後経過不安定のため,5月8日より副賢皮質ステロイド療法を隔日,漸増法で開始した.7月中旬現在,プレドニソロン55mg隔日,休薬日の悪化は5mgの追加で対処し,抗アセチルコリンエステラーゼ剤は使用することなく良好の経過をたどっている.
多発性硬化症の治療は未だ確立されておらず.治療法の有効性の的確な評価さえ難しい.こうした現状の背景には,未だ病因が不明であり,また,病状の程度をはかる臨床検査の指標もなく,かつ疾患自体が緩解,再燃という多相性の経過をたどるため,薬の効果が見極め難いなど,他の疾患にみられない特殊性が存在する.しかし,現実に,患者は苦痛の中にあり,これまで多くの先達によってさまざまな治療法が試みられてきた.
以下に,当科での具体例をあげ,現在ほぼ同意を得ている治療法を記したい.
TRH酒石酸塩(thyrotropin releasing hormone tartrate,TRH-T,Hirtonin®)が神経疾患に応用されるようになったのは最近であるが,機序は未だ明確でない面もあるものの,その将来性あるいはその新しい誘導体の将来性には,未知の期待がある.本稿ではすでに有効性が確認された2つの使い方について簡単にまとめるが,ほかにも脊髄損傷後の回復,筋萎縮性側索硬化症などについても効果を示唆する報告もあり,今後使途がさらにひろがるかも知れない.
酸素療法の考え方は時代とともに変遷を遂げた.現在においては酸素療法は単に呼吸不全の急性期を乗り切るための手段であるだけでなく,慢性呼吸器疾患患者の日常生活をより質の高いものとするための手段としても用いられ始めるようになった.
本稿においては呼吸不全患者の自発呼吸下における酸素療法について述べることとする.厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班(横山哲朗班長)において酸素療法を含む呼吸管理の全般に関して現在検討中であり,近い将来そのまとめが上梓される予定である.
57歳,男性.
診断:気管支喘息(慢性通年型,混合性,重症度:中等症)
強力な抗生物質の種類の増加に伴い肺炎の治療はむしろ複雑となった.本稿ではまず症例を示し,次に宿主の背景因子別に薬剤選択と使い方について述べる.
42歳主婦.昭和56年5月頃より咳痰出現し,6月息切れ,体重減少-10kg/2ヵ月に気づき,近医受診し,胸部X線像上肺結核症を疑われ,同年7月10日当病院に入院した.
入院時胸部X線像はbI3,ガフキー10号,培養3+であった.3日間連続検痰した後,SM 1g/日筋注,INH 0.3g/日経口,RFP 0.45g/日経口を開始した.1カ月後はガフキー9号まで検出,培養は2+,2カ月後,ガフキー6号まで検出し,培養は+9/2と順調に効果がみられたが,この時点で左自然気胸を併発した.しかし,安静療法にて1カ月で修復された.化療開始4カ月後には,ガフキーは4号までみられたが,培養は陰性となった.胸部X線像では浸潤影は著しく減少し,空洞壁は薄壁化し,ブラ様陰影と変化していった.
51歳女性.昭和57年9月上旬頃から咳嗽,労作時息切れが出現し,次第に増強したので,10月某病院にて胸部X線写真を撮影したところ,びまん性に異常陰影が認められ,11月17日当院へ入院した.入院時呼吸困難が強く(HJ-IV),Pao2は54torrと低下していた.胸部X線写真では,両側びまん性に微細粒状影とその隔合像,横隔膜の挙上などがみられ(図1),CRP3(+),赤沈値の亢進を認めた.バチ指はみられなかったが,両下肺野にfine crackleを聴取し,後程行った肺機能検査では%VC45.9%,FEV1.0% 81.1%,%DLco 29.0%,%TLC 42.7%,Cst 0.065l/cmH2Oと拘束性障害,拡散障害を認めた.膠原病を示唆する所見はなかった.入院後ただちにプレドニン10mgとイムラン50mgの併用療法を行い,酸素吸入を開始した.その後の経過は図2に示すごとく良好で,58年6月に退院し,軽作業が可能となり現在に及んでいる.
「すべての診察室は禁煙クリニックであるべし」と平山雄氏は言われるが,私も「恐るべきタバコ」(文泉)1)に記述したように,私の姪と兄が相次いで肺癌のため死亡したので,それ以来強力に外来患者の禁煙指導をすることにしている.
咳や痰などの呼吸器疾患症状だけでなく,その他の症状を訴える者にもタバコとの関係やタバコの有害な理由などを説明して,禁煙を勧めるというよりも命じる.説明の足りないところは1977年に作製した13頁のパンフレット「恐るべきタバコ公害」2)を渡して,よく読ませる.禁煙に同意しない患者の治療はお断りする,と言うより治癒させる自信がないから他医に行くように告げる.そう言われて禁煙すると言わない患者はない.
53歳,女性.
診断:びまん性汎細気管支炎.
50歳,女性,歯科医.
昭和54年2月,両側性の虹彩炎とともに両側上腕皮下に腫瘤が出現,腫瘤は生検により"サルコイド"と診断された.
67歳,男.
現病歴:昭和57年3月検診で左下肺野のcoinlesionを発見された.増大傾向があるため5月6日当院を受診した.肺癌を疑いX線透視下にて経気管支鏡的肺生検を行い,扁平上皮癌を認めた.同6月21日左下葉切除および縦隔リンパ節廓清を行った.腫瘍はS8ai,末梢に発生した1.8×1.6×1.5cm大の扁平上皮癌であった.リンパ節転移はなくT1N0M0であった.
63歳,女.主訴:労作時呼吸困難(Hugh-JonesIII)と血痰.
症状の経過:約8年前から体動時に息切れを感じ,ときどきその程度が増悪し近医で治療をうけていた.約6カ月前から湿性咳嗽と血痰を来たし,胸部X線写真上で異常陰影を指摘された.
58歳女,体重42kg.
現病歴:1975年6月から乾性咳を就床時に訴え始めたが放置.1976年6月9日咳増強のため胸部X線写真撮影,特に異常を認めていない.6月11日夕方より39.4℃の発熱,悪寒戦慄,頭痛,咳嗽時右胸痛あり.その後発熱持続し,咳さらに増強したため6月18日当院外来受診.図のごとき胸部X線所見のためそのまま入院した(症状出現後10日目).
内科領域の深在真菌症として肺真菌症は最も多い.原因菌はアスペルギルスの頻度が高く,次いでカンジダ,クリプトコッカス,ムコール(藻菌),放線菌,ノカルジアなどがあげられる.アスペルギルス症にはアスペルギローマ,術後気管支断端アスペルギルス症に代表される局所型,免疫不全などの全身性の要因が問題となるアスペルギルス肺炎,膿胸,敗血症などの浸潤型,およびアスペルギルス性喘息,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis;ABPA),アスペルギルス性過敏性肺臓炎などのアレルギー型が知られている.アスペルギローマは宿主の全身性要因よりはむしろ気道の局所性の感染防御機構の欠陥部位に菌球(fungusball)を形成する特異な感染様式を示す.
57歳,男性.鉄工所経営.受診の3週間ほど前より,右側胸部痛が出現.咳,痰などはなかった.受診5日前に39.6℃の高熱が出た.身体所見としては,右側全般に呼吸音の減弱があり,打診上濁音を呈した.この際,呼気の異常な悪臭に気付いた.胸部X線像は,図1,2のごとくであった.以上より膿胸,殊に嫌気性菌性膿胸を疑った.患者は身長164cm,体重64kgで,糖尿病はなく,大酒家でもなかった.しかし,多数の虫歯を認めた.受診時の白血球は14,800/mm3(核左方移動あり),血沈100mm/hour,CRP 10+であった.胸腔穿刺したところ,悪臭を放つ粘稠な膿汁が数ml採取できた.これを細胞診,結核菌および他の細菌培養などに提出したところ,嫌気性菌培養で菌の生育が認められ,後にFusobacterium nucleatumと同定された.
自然気胸の治療法としては,安静,穿刺脱気,胸腔ドレナージによる持続吸引などの保存的治療から開胸手術まであり,治療方針も各施設によって著しい差があるが,保存的療法の中で胸腔ドレナージはほぼルティーンに日常臨床で行われるようになってきた.しかし,再三再発をくり返す例や,空気洩れが止まらないような例に対して,いつ,どの時期に開胸手術にふみ切るかは症例によって大きく異なる.
本稿は保存的治療と手術のタイミングについて筆者の経験例をあげて述べる.
気管内挿管はレスピレーター使用時にのみ行われるのではない.またレスピレーター装着の時期は病態によって異なる.したがって,本稿では,まず気管内挿管の時期について,次に病態別にレスピレーター装着時期について記す.
54歳男子.診断は慢性気管支炎.36年前(18歳)より咳・痰.16年前,気管支造影で円柱状拡張症あり,肺活量は51%,残気率60%,1秒率56%,肺拡散量9.95ml/mm/mmHgで,すでに高度の混合性障害と拡散量減少を認めている.10年前より肺野に線状影,小結節影が出現,その後,呼吸不全を反復,昨年10月,呼吸困難増強のため入院した.全肺野に粒状影あり,呼気延長と乾性ラ音,小水泡音を認めた.動脈血pHは7.416,Pco2は49.1torr,Po2は57.4torrであった.12月中旬より喘息持続状態となり,いったん改善したが,本年5月2日より意識障害出現,pHは7.290,Pco2は88.3torr,Po287.2torr(O23l/min吸入中)となったため,5月4日より調節呼吸CMV(Controlled Mechanical Ventilation)を開始した.
高齢化社会と最近の肺癌症例の急増により,高年齢層の開胸例が増加している.それに伴い既存に心肺系の合併疾患を有する症例もふえており,手術前後の状態を的確に把握する努力が行われている.術後における合併症の発生はしばしば経験されるが,これを術前に予知することは至難といえる.手術は大部分が呼吸に関する臓器を減少させることである.したがって手術前後の管理の要点は,手術によっておこる低酸素血症の発生の予防とその対策につきる.
38歳の男性で12年前よりBrittle typeの糖尿病で加療されていたが,1979年8月21日にhypoglycemic comaの状態で当科へ救急入院した.直ちに十分量のブドウ糖液を静注し,その後も点摘静注を続けた.2日後より経鼻的栄養補給を開始したが,嘔吐をし,その後38℃の発熱がみられた.
8月24日の胸部X線写真(ポータブル)で右下葉に肺炎像が認められ(図1),8月23日に気管支ファイバースコピーを施行した.気管支粘膜の発赤腫脹が著明で少量の食物残渣を認めたため吸引性肺炎と診断し,直ちに約300mlの生理食塩水で右B6,B7,B8,B9,B10の各区域支を洗浄し,硫酸ゲンタマイシン(ゲンタシン®)40mgを注入した.図2は5日後の胸部X線写真で右下肺野の肺炎像は著明に改善した.本症例はその後意識状態も改善し軽快退院した.
慢性閉塞性肺疾患は気道の閉塞現象を呈して換気障害を示すもので,気管支喘息にみられる発作性の消長を除くと,他の肺気腫症,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎は気道抵抗が持続的に高値をとって,急性増悪をくり返しながら徐々に低肺機能へ向って進んでゆくものである.こうした生涯の病を診療してゆくには患者の生活指導がきわめて重要な位置を占めるが,この内容にはさらに健常者と違った生活への取り組みが必要となる.それを組織的に合目的に実践しようとするためには患者の合理的な知識の育成と同時に,その現実的体験である理学療法を忍耐強く実行してゆかせなければならない.
対象患者群は40歳以後の高年者に集団中心をもつもので,多臓器障害を特徴とする人々を一般とする.したがって理学療法の計画起案に当っては慢性閉塞性肺疾患のみならず,それ以外の条件を十分に考慮して,患者に日常生活を満足させながら利用し続けていけるものでなければ意味がない.
在宅酸素療法は,加療により病態が安定期に達しても,なお低酸素血症が持続し,日常生活の制限,あるいは入院生活を余儀なくされている慢性呼吸不全症例を対象とした治療である.本療法により,患者を入院生活から解放し,家庭生活,さらには社会復帰を可能とし,生存期間の延長,生存の質の向上を計るものである1).
患者は生来健康な19歳の女性(身長158cm,体重50kg)である.昭和57年6月10日23時頃,交通事故で乗用車のハンドルに胸部を強打し,肺挫傷による肺水腫のため急性重症呼吸不全となり,11日16時熊本大学集中治療部へ入院した.
アプロチニン(トラジロール®)100万単位i. v.,メチルプレドニゾロン(ソルメドール®)30mg/kg i. v. モルヒネ(患者が苦しがる時鎮痛鎮静をかねて)10mg i. v.,フロセミド(ラシックス®)20mg i. v. 投与を行うとともに,呼気終末に5〜20cmH2Oの陽圧PEEP(positive end-expiratorypressure)をかける持続陽圧換気CPPV(continuous positive pressure ventilation)の機械的人工呼吸で肺ガス交換を補助した.またドパミン(イノバン®)5〜25ug/kg/min i. v.,新鮮凍結血漿輸血により循環の維持をはかった.しかし,蛋白濃度5.4g/dlの泡沫状の分泌物が気道内から噴出し続け,低酸素血症は改善しなかった.11日20時頃には全身皮下気腫合併のためPEEP圧を下げざるをえなくなり,機械的人工呼吸を十分行えなくなった.12日朝8時頃に低カリウム血症(2.88mEq/l)のため心室性頻脈から心停止を生じた.
HFPPVとHFV
High Frequency Positive Pressure Ventilation(高頻度陽圧換気法)を省略してHFPPVと呼んでいる.歴史的にみると,HFPPVは,もともと60〜110回/分の換気数で気道内圧5cmH2O程度の陽圧の条件下での換気を指していた.最近では300〜1,800回/分(5〜30Hz)の高頻度の換気が用いられることが多いので,HFV(High Frequency Ventilation)と総称されるのが一般的である.本換気法は高頻度に肺の振動を生じさせ,肺内におけるガス混合を促進させるが,同時に自発呼吸運動や気道クリアランスなどにも影響を及ぼすことが知られている.本法の臨床応用を考える際には,ガス交換への関与以外の因子にも十分な目配りが重要である.
1963年Hardyが慢性肺疾患を持つ肺癌患者の左肺を別出,屍体左肺を低温・換気下に90分の阻血時間で移植し,移植肺が生体内で機能を維持し治療目的に合致し得ることを報告して以来,術後18日移植肺葉を再切除した本邦報告例を含め,1980年までに39例の臨床報告がみられる5).手技的には1肺葉,1側肺,両側肺および心肺合併移植のいずれの方法もすでに用いられていたが,これらの症例中術後2カ月を経過し得た症例はわずかに2例のみで,腎移植成績に比し拒絶反応の抑制がきわめて困難とされてきたが,新しい免疫抑制剤の開発と拒絶反応検索法の進歩により,新しい展望がひらかれるにいたった3,4).
心不全は心臓のポンプ機能の破綻によっておこり,あらゆる心疾患の末期症状として現われる.初期のうちは安静や食事中の食塩の制限,ジギタリス強心薬や利尿薬の投与によって軽快するが,原因が除かれない限り,再び心不全の再発,急性増悪を繰り返し,次第に死に至る.
以下,長期間にわたり治療に手こずったうっ血性心不全の一例を提示し,治療について解説を加える.
68歳,男.
診断名:急性心筋梗塞(再発作)
66歳男性.生来健康で,心筋梗塞,狭心症の既往なし.
1983年1月23日の13時35分,昼食後歩行中に,胸骨部に圧迫感を生じたが2分位で消失.1月28日より,歩行時,TVを見ている時,排便時,就寝時などに胸骨部に絞扼感を生ずる.2〜3分で消失するが,日に3回位ある.時間帯は一定でない.1月30日の朝3時15分,激しい胸痛で目がさめ,冷汗を伴い,20分位で軽くなった.ある病院の救急外来を訪れ,狭心症と診断されisosorbide dinitrate(Nitrol®,以下ISDN)を発作時に舌下するように指示され,帰宅する.午前10時36分に再び胸痛を生じ,ISDNの1錠舌下で5分位でおさまる.自宅安静をしていたが,16時35分に再び胸痛を生じ,ISDNの効果が不十分なので,前述の救急外来を自分で車を運動して来院.来院時には胸痛はなく,心電図は正常に復していたが,患者の不安が強く,一晩仮入院となる.18時5分に胸痛を生じ,ISDNなど用いたが有効でなく,当科のMobil CCUの出動要請がある.この間胸痛はいくぶん軽くなったが,23時に再び増強し,23時30分に当科CCUに収容される.
狭心症の薬物療法にあたっては,症状のおこり方,重症度,安定性に注目するとともに,一方では血圧,心拍数,心機能,年齢など,他方では薬剤の薬理作用,作用発現速度,効果持続などを考慮し,最も適切な薬剤を選択することが必要であるが,その出発点となるのはどのようなときに発作がおこるかの把握にあると思われる.
心室性不整脈には心室性期外収縮(VPC),心室頻拍症(VT),心室細動(Vf)などがあり,緊急に治療をしないと急死に至るものから治療の必要のないものまで幅広いものが含まれる.本稿では主としてVPCとVTについて述べる.
不整脈のうち心房に発するか,または心房が介在するものは60%に達するといわれる.その発生機序は実験および臨床における電気生理学的研究によりかなり解明されている.たしかにある一症例について,いくつかの機序のうちのどれが成因であるかを特定することはしばしば困難であるが,可能性の高い機序からそれに対応する抗不整脈薬を選び治療に成功する例が増し,理論的選択の確立が期待できる.
抗不整脈薬の分類はVaughan Williamsによる4classに分けるものが最も有名であり1,本稿でもこれに従いdigitalisを追加して記することにする(表1).なお電気的治療(ペーシング)は近年進歩した有力な治療法であるが,紙数の関係もあり,テーマからはずれるので詳しくは触れない.したがって,対象は頻脈性不整脈である.
46歳,男.
主訴:6カ月前より発症した.労作時の"めまい"と安静時胸部絞扼感.
弁膜性心疾患,先天性心疾患で自覚症がない時期に心血管系の不可逆的変化が進行して予後の悪化する症例がある.弁膜性心疾患では大動脈弁疾患がその代表である.大動脈弁狭窄症では理学的に典型的所見を認めた時点で観血的検査を行い外科的治療を考慮するとの治療方針決定法に問題は少ないが,大動脈弁閉鎖不全症(AR)は治療方針決定に多くの問題を残している疾患である.先天性心疾患では成人で発見される自覚症のない症例は心房中隔欠損症(ASD)が70%を占める.本症の手術成績はきわめて良好で,ほとんどの症例を外科的に治療して問題はないが,内科的治療でどの程度のASDなら手術を施行せずとも生命予後,生活の質を悪化させないかに関して不明な点がある.ここでは,この2疾患を例をあげて自覚症のない疾患の治療方針の考え方について述べたい.
狭心症や心不全,不整脈などを認めない陳旧性心筋梗塞例における治療法の原理を述べる.
症例1
35歳男性.1983年6月初め頃カバンをもって歩いたとき前胸部痛を感じ,5〜10分位で自然に消失したという病歴がある.6月17日の明け方,前胸部に痛みがあり目がさめ,また同時に咽頭部の乾燥感を感じている.理学所見上,血圧106/74,その他特記すべきことなし.血液生化学GOT 212,CPKピーク値1,548,白血球15,700,と壊死徴候をみとめている.
図1に安静および運動負荷心電図を示す.安静心電図ではII,III,aVFに深い異常Q波をみとめ,また同誘導に陰性T波をみとめている.運動負荷試験は上述の症状があった1か月後に行われている.図に示すようにBruce III度の途中まで行ったが,息切れ,胸痛なく,ST下降がV5にて3mmもあり,ST下降を運動中止徴候として負荷試験を中止している.トレッドミルを用いた運動負荷試験は異なった日に3回行っているが,いずれにおいても全く無症状で同じ程度のST下降を示している.運動負荷タリウムシンチグラフィーではST下降の出現に一致して下側壁に広く欠損像を示し,回復後再分布をみている.また運動負荷RIアンジオ上,Section 1,5に壁運動異常が発生した.CAGではRCA3に75%,LAD 6,7に75〜90%,LCX13に90%の狭窄をみとめたいわゆる3枝病変を示した.
不整脈によってもたらされる自覚症状の程度は,患者の年齢や感受性にもよるが,通常は,①心拍数,②心拍の規則性,③持続時間,④器質的心疾患の有無,⑤患者の状態(例えば,起立時か仰臥位,覚醒時か睡眠中)などに左右される.
自覚症状の全くない不整脈でも,治療面では,急いで対策を考慮しなければならないものから放置して差し支えないものまでいろいろあり,それらの識別が臨床上重要となる.
電気生理学的検査の進歩につれて,各種不整脈に対する外科的根治が可能となっている.なかでもWolff-Parkinson-White(WPW)症候群に対する副刺激伝導路切断術は,その術式の確立とともに次第に適応が拡大され,良好な成績が上げられつつある.
1967年Effler,Favaloro1)が大動脈-冠状動脈バイパス術を施行して以来,約15年余の歳月が経過し,今日,冠状動脈疾患に対する外科治療はその治療学上重要なる部分を占有するに到った.しかしながら,急性心筋梗塞,左冠状動脈主幹部病変,不安定狭心症,重症左心機能不全症例などのcriticalな症例では,治療方針の決定が患者の生死を左右する結果をもたらすため,内科的治療の限界とタイミングを把握することが重要であると考えられる.筆者らは現在までに443例の虚血性心疾患に対する直達手術を行ってきたが,これらの経験と諸家らの報告を基に,問題となる疾患に対する治療方針の現状を明らかにしたいと考える.
左心室瘤は心筋梗塞患者の5〜35%に発生するとされ,その死亡率も左心室瘤のない心筋梗塞患者の約3倍にもおよぶことから,本症に対する治療はきわめて重要である.左心室瘤の重篤な合併症として,1)うっ血性心不全,2)塞栓症,3)心室頻拍などがある.これら合併症は単独よりむしろ2つないし3つが合併して来ることが多い.
発症直後の診断と治療方針
本症が疑われる患者の発生に際し,次の二点が最も重要である.
わが国の人工弁置換例の遠隔成績をみると,おおよそ5年生存率は僧帽弁70〜90%,大動脈弁60〜80%とされている.また生体弁は人工弁よりも高い生存率を示している.遠隔死亡の原因としては脳塞栓,抗凝固療法による出血,細菌性心内膜炎,再弁置換後の低心拍出量症候群などがある.したがって心臓弁膜症の手術後の管理では合併症の早期発見とその治療が重要であるが,さらに原疾患に基因する病態すなわち心筋障害,不整脈,肺高血圧症,機能的三尖弁閉鎖不全などの管理が重視される.特殊な状況として,抗凝固療法と妊娠・分娩,外科的処置時の管理が問題となる.ここでは,原疾患に基づく病態の管理については他稿に譲り,それ以外の上記項目について述べる.
冠動脈バイパス術後の管理については当然のことながら,バイパスgraftのpatencyをいかに長く保つかに集約される.Graftの閉塞による狭心症の再発や,心筋梗塞への移行とそれに伴う不整脈や心機能不全などの重大な合併症の出現は術後のmortalityに大きく関与するからである.このバイパスgraftの閉塞防止策としては大別して2点が考えられる.第1には抗凝血薬と抗血小板剤による血栓形成防止法であり,第2には動脈化された静脈グラフトの硬化防止のための各冠危険因子のコントロールである.前者は血液成分の面から、後者は血管壁の面からそれぞれgraft閉塞を防ごうとの試みである.しかし,実際には,これらの治療を中心として抗狭心症薬の各種が併用されるのが通常であり、硝酸塩化合物,Ca++拮抗剤およびβ-遮断剤などの単独および併用療法が行われる.以上の観点から,現在筆者らの行っている冠動脈バイパス術後の管理のうち主として薬物療法の実際をまとめたい.
ペースメーカー植込み患者の合併症は,大きく分けてペースメーカー(パルス発振器と電極を含む)に由来するものと,生体に由来するものとがある.前者には,いわゆるpacemaker malfunction(故障)や電極の異常などからくるpacing不全やsensing不全,musclepotential interference(筋電位干渉)などがある1).後者には,創部の感染や壊死,静脈炎,塞栓症や細菌性心内膜炎などがある(表).これら合併症は手技に熟達し,手術操作に不備がなければ多くは防止しうるが,ペースメーカー・クリニックにおける患者管理による予防と早期発見も重要である.
62歳,男性.
病名:大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全兼狭窄,三尖弁閉鎖不全,心不全(NYHA Class IV).
狭心症治療薬使用の目的
1)狭心症発作時頓用
狭心症発作がある程度以上強いときは頓服薬を用いる.薬剤としてはニトログリセリンあるいはイソソルバイド(ISDN:ニトロール®)の舌下頓用が用いられる.
49歳男性.商事会社課長.
患者は昭和55年9月13日,子供と口論の後,突然,激しい前胸部痛が出現したため,本大学のCCUに入院して来た.心電図所見ならびに血清酵素値の上昇(peak値:CPK 1,400mIU,GOT 194mIU,LDH 1,175mIU)より急性前壁中隔梗塞と診断された.入院後の経過は順調で,心不全症状もなく,危険な不整脈の出現も認められなかった.しかし,CCU入院時に血圧が164/108mmHgと高値を示し,その後CCU在室期間(3日間)中ほぼ同じレベルの血圧を示したため,9月16日より,Propranolol(Inderal®)30mg/日の経口投与を開始した.Propranolol投与後の血圧はほぼ120〜140/80〜90mmHg近辺に保たれた.一般病棟転床後,リハビリテーションも順調に進み,10月22日退院となり,その後は外来にてfollow-upしている.本患者の梗塞発症前のCoronary riskfactorsとしては,肥満(+19%),高血圧,高脂血症,糖尿病(境界型),高尿酸血症,喫煙(40本/日)などが認められた.
72歳女性.19歳の頃から,①日常のちょっとした動作が引金になって突然発作性の動悸がおこり,発作は6時間以上も続くことが多かったが,便所にいくとか,何らかの動作がきっかけで突然動悸が止まることをくり返していた.②発作中は恐怖感で冷汗をかき,疲労感,脱力感,ふらふら感があり,静かに座ってじっと耐えた.静臥すると余計に苦しくなり,息切れがした.③発作は週2〜3回が多かったが,60歳以後連日となった,既往近医によりアジマリン(ギルリトマール®)の静注を受け発作が止まっていたが,だんだん無効になった.④間歇期には,ときおり,胸部にドキンとした感触があり,それも発作の契機になった.
67歳の時紹介により来院,爾後当院でfollowupしている.理学的検査で異常なく,血圧160/90mmHg,脈拍は正常で80/分,胸部X線で左室の軽度拡大と大動脈弓部の突出をみるほか異常はなかった.心電図所見は洞調律,脈拍数78/分,電気軸は+75°,PQ 0.19秒,QRSは狭小で,デルタ波はなく,非特異性のST-T異常が軽度にみられた.血算,血液生化学で異常なく,心エコー図も正常であった.
血栓溶解療法(Percutaneous Transluminal Coronary Recanalization:PTCR)は,近年急性心筋梗塞症の治療法として注目を集めている.本稿ではPTCRの適応のきめ方について筆者の経験をもとに解説していきたい.
1977年Grüntzig1)により創案されたPTCAは全米を中心に急速に普及し,わが国においても本法を行う施設が増加しつつある.粥状硬化性狭窄がカテーテルで拡大され,症状の改善があれば非常によろこばしいことであるが,反面,合併症も決して少なくなく,適応は慎重に決定する必要がある.ここでは,現状におけるPTCAの適応,なかでも最近話題となっているPTCRの残存狭窄に対する問題について概説する.
消化性潰瘍の発生病理ならびに病態生理に関する知見の増大とともに,特徴的な作用機序をもつ新薬の開発が相次いだ結果,消化性潰瘍の治療は個々の症例の発生病理学的ならびに病態生理学的特性にもとづいた個別的治療が可能となってきた1).一方,再発のくり返しを特徴とする消化性潰瘍の治療において,現存する潰瘍病巣の治療のしかたいかんが治癒後の再発動向に大きな影響を与えることが注目され始めている.すなわち消化性潰瘍の治療目標は,治癒後にできるだけ歪を残さずにきれいに治すという方向に比重を移しつつあるということができる.この目標の達成は単に使用する潰瘍治療薬の使い方の再検討によるだけでなく,その適用すなわち治療対象となる個々の症例の発生病理学的ならびに病態生理学的背景の理解が前提となることは明らかであり,ここではこのような観点からH2レセプター拮抗剤の使い方を考えることとする.
"Kein Ulkus ohne Säure"の格言が示すように,消化性潰瘍の成因には胃酸分泌がもっとも重要な役割を演じている.したがって,消化性潰瘍の治療は,この胃酸の中和あるいは分泌の抑制に主目標がおかれてきた.現在では,Shay & Sunらの提唱するbalance theoryが最も支持され,消化性潰瘍の治療のあり方はこの説にしたがって,攻撃因子の抑制,あるいは防禦因子の増強を目的としてなされるようになっている.
さて,攻撃因子抑制剤としては,ヒスタミンH2receptor antagonistのcimetidineがあらわれるまでは,抗コリン剤が薬物療法の主流をなしてきた.しかし最近,抗コリン剤としてはムスカリン受容体を選択的にブロックする薬剤であるpirenzepine(Gastrozepin®)が使用されるようになり,副作用も少なく,かなりの臨床効果をあげている.
近年,Grossmanらによって壁細胞の酸分泌機構に関する受容体が指摘され,H2受容体拮抗剤,選択的ムスカリン受容体拮抗剤およびガストリン受容体拮抗剤などが開発され,臨床的に広く用いられるようになった.これらの薬剤は攻撃因子,特に酸の分泌を強力に抑制することから,消化性潰瘍治療の一つの大きな流れが確立されるに至った.他方,胃・十二指腸粘膜の防御機構に関する研究も,近年とみに進展し,粘膜抵抗,粘液,血流,十二指腸制御などの防御因子に含まれる具体的な細項目が指標化され,これらを増強する薬剤が理論的な裏付けを以て開発され,再評価されつつある.以下,粘膜保護すなわち防御因子増強を目的とした抗潰瘍剤の種類と使い方について,その概要をのべる.
下剤
便秘の訴えに対して,下剤が利用されるが,その使い方はあくまで便秘の原因が正しく診断された上でなければならない.とくに便秘の原因として直腸癌,S状結腸癌が多いことに留意する.便秘についての精細な病歴の聴取,身体的所見とくに直腸指診,全便の観察と検査,必要に応じて注腸X線造影による大腸全域の正確なX線診断(二重造影法は欠かせない)や大腸の内視鏡検査を行い,正しく便秘の原因を診断した上で治療を行う.安易に対症的な薬物療法のみを行ってはならない.
1歳11カ月,80%熱傷.受傷13日目よりコーヒー残渣様嘔吐が出現し,次第に増強する.18病日内視鏡検査を施行し,出血性胃炎出血と診断.Cimetidine(tagamet®)使用.出血量は減少し,27病日には完全に止血される(図1).
腹満
長期臥床患者,癌末期患者にみられる腹部膨満には,①腹部全体が膨満する場合と,②限局した腹部に膨満をみることとがある.①は鼓腸や腹水によることが多く,②は胃腸管の拡張,腹部実質臓器の腫大,腹腔内の腫瘍などによって起こる.②の場合は原疾患に対する処置を優先する.
52歳男,農業.4,5年前から時折上腹部痛があった.1年半前,胃潰瘍の診断で1カ月半入院治療を受けたことがある.48年8月,胃集検で,胃変形のため精密検査の指示を受け来診した.当時自覚症状はなかった.図1,2は初診時の充盈像および二重造影像で,胃角部後壁の線状潰瘍の所見である.メサフィリンその他を投与して経過を観察(図3),約3カ月後には,線状溝を残して潰瘍は治癒している(図4).
消化管出血(吐血hematomesis・下血melenaor hematochesia)は外科的緊急性を持つ可能性のある病態であり,診断の初期より,内科医・内視鏡医・外科医の緊密な連携のもとに取り扱われることが望ましい.以下に症例を提示し,輸血・手術のタイミングについてのべる.
女性45歳.肝硬変症を原疾患とする食道静脈瘤症例.食道静脈瘤出血にて緊急入院,急速輸血などの救命処置と併行してSengstaken-Blakemoretube(S-B tube)による圧迫止血を試みた.意識障害(-),血圧98/60mmHg,脈拍数108/分,呼吸数24/分,体温38.0℃,腹囲102cm,尿量20ml/分,T-Bi1 3.4mg/dl,CHO 91mg/dl,CHE O.24△PH,血中アンモニア66μg/dlであった.よってS-Btubeより胃内吸引・洗浄,ついで胃内ヘカナマィシン2g,ラクツロース30mgおよびグルマール®2g投与,また,ラシックス®1A,ソルダクトン®1A(100mg)を静注した.48時間後,持続的出血をみとめたので,injection sclerotherapyにより止血した.
45歳男性,農業.主訴は嚥下障害.
約1年前から,食後に胸骨後部のつかえ感と重苦感を訴えるようになり,食事量が減ってきた.このため某外科を訪れ,アカラシアと診断されて手術を受けた.術前の栄養状態は中等度で,軽度の貧血傾向はあったが,血清蛋白およびコレステロール値は正常,体重減少もなかった.Fundicpatch(Thal法)術後の食道の流通は術前に比しく著しく改善されたが(図1),手術の約1年後から食道下部の瘢痕性狭窄を来たし当科に来院中である.
Polysurgeryとは
腸管癒着症は意外に多く,虫垂切除などが安易に行われ,腹痛などのため,腸管癒着症,術後困難症として何回も手術が重ねられ,結局,polysurgeryへと発展し,内科,外科,婦人科,精神科などを巡回し諸々の訴えで多くの医師を訪ねるようになる.現在治療上,匙が投げられ,鎮痛剤,下剤,精神安定剤などが主に用いられている症候群であるといえる.
筆者が20数年前,専売公社仙台工場診療所に嘱託医として勤務していた当時,虫垂切除を受けた女工がしばしば作業中突然,腹痛,嘔気・嘔吐などを訴えて来るものが多かった.これらの患者は総じて虫垂炎の程度は軽く,また手術創が小さく圧痛を認め,便秘を訴える者が多かった.筆者はいろいろな検査を行って原因を究明し,その対策を講じなければならないと考えたのが,polysurgery研究の出発点となった.
〈症例1〉73歳,女.既往歴:50歳,高血圧,70歳,胆嚢剔出術.現病歴:入院前日に発熱,下腹部痛,嘔気生じ,入院日にも上腹部痛が続いた.白血球数16,000,血清アミラーゼ557(130〜400),急性膵炎の疑いで人院した.
急性虫垂炎は早期手術,憩室炎は内科治療が原則である.しかし,虫垂炎でも,旅行中や試験などで,手術を行わずに内科的治療が望まれたり,憩室炎でも手術を必要とすることも稀ではない.以下,これら内科治療の限界と手術のタイミングについて述べていきたい.
症 例
34歳男.某医に十二指腸潰瘍で胃切除,BillrothII法.術後2年心窩部痛,胃切除後再発潰瘍にて入院,内科療法を受く.約6カ月後,多量の下血,ショック状態となり当院入院.輸血,補液により一般状態の回復をまち,内視鏡,残胃X線撮影の結果,吻合部対側腸管に潰瘍を認める.
胃液検査MAC 40mEq/l,Hollander Test negative MAO 4.5mEq/h(ガストリン).
胃切除術は消化器外科の中で今日最も安全かつ容易に行われる手術であるが,いわゆる術後困難症も少なくない.このうち,下痢と便秘についてのべてみたい.
47歳の男性.約1年前,早期胃癌で胃亜全摘兼Billroth I法を受けた.1カ月前から胸やけを自覚するようになり,その後胸骨後部痛,嚥下困難,胆汁の嘔吐などもみられ再入院となった.上部消化管透視ではヒス角の鈍化を伴う軽度の滑脱型食道裂孔ヘルニアとGER(gastroesophagealreflux)が認められた(図1).内視鏡検査ではびらん潰瘍型の食道炎と表在性胃炎が観察された.食道内圧測定でのLES(lower esophageal sphincter)圧は12mmHgと低値を示した.連続24時間食道pH測定1)では,通常の酸のGERは1時間当りの逆流回数0.3回,逆流時間2.2分であったが,アルカリの逆流(pH7以上)は,1時間当りの逆流回数と時間はそれぞれ1.5回と18.8分であった.以上の所見から主としてアルカリ逆流に起因する逆流性食道炎と診断した.
消化性潰瘍の再発と称されるものには二種類ある.一つは,もとの潰瘍瘢痕と同一部位に潰瘍が生ずる場合で,他は,もとの潰瘍瘢痕から離れて,その付近あるいは遠隔部に新たに潰瘍が生ずる場合である.前者の多くは,内視鏡的に白苔が消失しても,発赤の強い,いわゆる赤色瘢痕と称される不完全な治癒状態から再び潰瘍化するもので,厳密には再燃と称すべきかもしれない.後者は潰瘍症としての再発ともいうことができる.そこで,消化性潰瘍の再発再燃を防止する方法として,両者を分けて考えてみたい.
潰瘍性大腸炎(UC)
28歳,男性.25歳の時第1回の発作.全結腸型UC.近医にてスルファサラジンの内服治療を受け寛解.その後順調に経過していたが,28歳のとき第2回の発作.主訴は下痢,血便,発熱.全結腸型の活動性炎症.入院して治療をはじめる.
抗結核剤の出現以来,肺結核は減少し,それに伴って腸結核も臨床的にはほとんど忘れ去られようとしている.近年,腸結核に対する関心が高まり,積極的に腸X線検査が行われるようになってから,本症の報告も増えてきている.従来,腸結核は肺結核に続発する二次結核がほとんどで,腸に一次性に発生するのは稀とされていた1)が,最近では肺に明らかな結核病巣を認めない,いわゆる孤在性腸結核の報告も少なくない2).
腸結核の確診を得るためには,糞便中より結核菌を証明するか,あるいは腸管壁,腸間膜リンパ節より結核菌または乾酪性肉芽腫を証明する必要がある3).しかし,最近の腸結核は大部分が瘢痕化していて,昔とはかなり異なった様相を呈しており,実際にはこれらを証明することは難しい.確診は得られなくても,X線,内視鏡検査で本症に特徴的な所見が得られれば問題はないが,臨床的には小腸ではクローン病と,大腸では潰瘍性大腸炎との鑑別が難しく,治療に戸惑うことがある.本稿では,このような場合を含めて腸結核の一般的治療について述べる.
大腸ポリープは,従来,本邦においては少ない疾患と考えられていたが,最近は非常に増加してみられるようになっている.その原因は,単純に食生活の変化(西欧化)のみに帰するべきではなく,本疾患に対する関心の増加と,診断技術の進歩に負うところが大きいと思われる.
大腸ポリープのほとんどが腺腫であり,その癌化率(局在癌のみられる率)は,報告者により多少異なるが,おおよそ15%前後にも達している.また,腺腫が局在癌を有しているか否かの診断は,X線検査および内視鏡検査では非常に困難であり,積極的な内視鏡的ポリペクトミーの重要性が強調されている.
〈症例1〉肛門縁より約7cmの大きさ2cmの亜有茎性ポリープを経肛門的に摘除.粘膜下層に浸潤が認められ,粘膜下層のリンパ管に癌の浸潤を認めた(図2a).低位前方切除術施行したところ,摘除部位,リンパ節に癌の遺残,転移は認められなかったが,摘除部位の近傍の正常粘膜に覆われた粘膜下層に小さな癌の転移巣が認められた(図2b).
〈症例2〉上部直腸の大きさ1cmの無茎性ポリープを内視鏡的に摘除.粘膜下層に浸潤が認められ(図3),断端近傍に癌が存在するので低位前方切除術施行.摘除部位,リンパ節に癌の遺残は認められなかった.
内科領域において,IVHをいつ始めて,いつ止めるかといった問題は,従来より諸家の間で必ずしも意見の一致がみられているわけではない.しかも,次項(p2334)で述べるように,EDに代表されるEnteral Hyperalimentationが普遍化してきた現在,IVHの適用範囲が狭小化する傾向にあり,そのガイドラインを示すことは必ずしも容易ではない.
また,IVHはEnteral Hyperalimentationに比較して,危険度が高く,より高価などの問題点があり,その施行は,RiskとCost-effectivenessの問題を絶えず念頭において決定されるべきである.
Enteral Hyperalimentationは,Elemental Diet(ED)の開発以来,その適応疾患の範囲が拡大し,従来IVHの適応と考えられていた疾患の治療をも可能になり,IVHに代わる新しい栄養療法として注目されてきた.
さらに,IVHの項で述べたごとく,EDによるEnteral Hyperalimentationは,IVHに比較し,より安全で実用的,そしてより経済的といった利点があるため,現在内科領域における栄養療法のFirst Choiceとして定着しつつある.しかし,このEDによるEnteral Hyperalimentationを,いつ始めていつ中止するかといった問題は必ずしも容易ではないが,各疾患の治療目的や治療のゴールを明確にすることにより解決されることも少なくない.以下,これらの問題について具体的に考えてみたい.
B型慢性肝炎に対して抗ウイルス剤として使用されているものにはインターフェロン(IFN)とAdenine arabinoside(Ara-A)がある.IFNはすべてのウイルスの増殖抑制作用があるが,Ara-AはDNAウイルスに対してのみ増殖抑制作用が認められており,B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスの1種であるので,B型慢性肝炎に対して使用されている訳である(これらの薬剤は1983年12月末現在,わが国ではまだ市販されていない).
IFNには,IFN-α(白血球由来),IFN-β(線維芽細胞由来)およびIFN-γ(リンパ球由来,免疫IFN)の3つがあるが,わが国ではまだIFN-αとβが臨床に使用されているに過ぎない.現在は,IFN-αは白血球,IFN-βは培養線維芽細胞から精製しているため,量に制約があるが,遺伝子工学による大量生産に成功しているので,将来は容易に大量を使用できると考えられる.
慢性肝炎に対して,従来からステロイド剤は免疫抑制剤として炎症を抑えるため長期間にわたって使用されてきた.しかし,ここで紹介するB型慢性肝炎に対するステロイド剤rebound療法は,ステロイド剤を使用し,中止後に起こる強い免疫賦活作用を応用した治療法である1-3).
一般に急性肝炎の予後は比較的良好で,特に薬物治療を必要としない.その基本的な治療方針は,安静と食事療法である.
安静は,通常急性期に2〜3週間就床させるが,感染予防や劇症化予知の見地から,この間入院させる.食事療法は,消化器症状の有無によって若干異なる.食欲のある場合は急性期から高蛋白・高カロリー食を与え,回復期には常食とする.食欲のない場合や,高度の黄疸を伴う場合は,炭水化物を中心とした低脂肪食とし,非経口的にカロリーやビタミンを投与する.したがって,薬物療法は,あくまで補助的に行うのみである.
61歳男性.HB抗原(-),飲酒歴(-).昭和52年,慢性肝炎で約8カ月間某院に入院歴あり,昭和55年9月,腹水貯留を来たし当院に入院.アルブミン製剤,利尿剤の併用で腹水は消失,腹腔鏡下肝生検で乙型肝硬変と診断,約4カ月の経過で軽快退院し,以後外来通院.昭和56年2月下旬よりflapping tremor,disorientationが認められるようになり,ラクツロース,プロモクリプチンなどの投与を開始.flapping tremor,disorientation,insomnia,slurred speech,などの症状は消長を繰り返したが,会社(自営)にも出勤できていた.同年11月下旬よりdisorientation増強,11月30日よりdeliriumの状態となり再入院した.
55歳,女性.主婦.52kg,154cm,出産1回,糖尿病,肝疾患なし.昭和54年5月第1回右季肋部疝痛発作.救急車にて入院.胆嚢胆石と診断された.その後,症状はなかったが,溶解療法を希望して来院.経静脈胆道造影でよく造影される胆嚢内に,直径約6mmのX線透過性胆石を4個認めた.胆嚢収縮は良好.ursodeoxycholic acid(ursosan®)600mg,分3食後.1年2カ月後,胆嚢造影で胆石は消失.超音波エコーでも消失確認.経過中無症状.肝機能異常や血清コレステロール上昇を認めなかった.
現病歴および入院時の臨床所見:症例は63歳の男性であり,1981年5月中旬から発熱とともに心窩部の激痛が出現したので5月19日に入院した.主な既往疾患は高血圧症であり,飲酒歴は軽度であった.
入院時に皮膚の黄染,心窩部における著しい圧痛と軽度の筋性防御がみられた.また,検査所見としては,著しい白血球増加(33,200/mm3)と高アミラーゼ血症(3,582IU/dl),直接ビリルビン優位の血清ビリルビンの上昇(7.6mg/dl),高血糖(175mg/dl),血清LDHの上昇(689WU)および血清胆管系酵素の上昇がみられた.USでは膵全体の腫大と総胆管の拡張がみられたが,胆嚢は描出されず胆石の有無は不明であった.
肝は糖代謝の調節において中心的役割をはたす臓器である.したがって,肝障害とくにその終末像ともいえる肝硬変において何らかの糖代謝異常をきたすことは想像に難くない.事実,多くの臨床統計でも証明されており,長崎大学第1内科の成績もその例外ではない.
臨床上,とくに治療を行うにあたって問題となるのは,肝硬変に合併した糖尿病が一次性であるか二次性であるかという点である.
46歳女性.健診にて肝機能異常を指摘され当院紹介となった.自覚症状として軽度の全身倦怠感と皮膚掻痒感を訴えていた.身体所見では黄疸(-),皮膚はやや乾燥し,胸背部に多数の掻爬創を認めた.肝・脾触知せず,腹水・浮腫(-).検査所見ではAST>ALTのトランスアミナーゼ値上昇,アルカリフォスファターゼ,IgMおよび空腹時・負荷後の胆汁酸高値を認めた.抗ミトコンドリア抗体陽性であった.肝生検にて原発性胆汁性肝硬変症の診断を確認しえた.外来にて経過観察中であったが,皮膚掻痒感が増強したため以下の処方を考慮した.
アルコール性肝障害症例に禁酒が必要なことはいうまでもないが,これを実行させつづけることは大変に困難である.
病気をおこすほどに酒好きであることに加えて,周囲の悪意のない誘惑非協力が多いこと,禁酒は完全である必要があり,「少しはよろしい」というわけにゆかぬ点にも困難の因がある.完全禁酒を宣言せぬ限り周囲はその気にならない.また今日は1本で止めようとはじめは本気で決心しても,飲むほどに今日だけはと2本,5本となりがちである.酒の身体への影響に個体差が大きいことも,説得困難の一因となっている.
慢性肝炎の経過を追求すると,多くの例は慢性肝炎のままの病態(自覚症状はきわめて乏しいが,肝機能異常は持続)を示しながら遷延している1).1938年,Bloomfieldの模式図によれば,慢性肝炎を自他覚症状の出現状況と肝機能異常持続の有無より,臨床病型を分けているが,当時すでに臨床症状出現閾値以下の慢性肝炎の存在を推定している.
HBウイルスの母児感染
世界で2億人以上の,わが国では約300万人のHBウイルス持続保持者(キャリアー)が存在すると推定される.成人後のHBウイルス感染は一過性感染—急性肝炎—として経過し,これらキャリアーの感染は幼小児期のHBウイルス感染により成立する.そのうち感染時期が解明されているのはHBs抗原,e抗原,両者陽性の母より出産する際に感染する母児感染のみである.母がe抗原陽性のキャリアーの場合,出産してくる児の85%以上が生後3カ月目までにキャリアーに移行する.キャリアーが成立した場合,10%以上の人達が発症し,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌へと進展の可能性を有する.この感染は宿命的であり,予防対策が切実に望まれている.
コンタクトスキャナ,リニア電子スキャンなど超音波診断装置の普及に伴い,胆石症や胆嚢ポリープなど胆嚢疾患の診断率の向上が認められつつある.
とくに設問の胆嚢ポリープについては,超音波診断法の普及により,成人を対象とした場合その発見は1%前後の高率を示すことが確かめられ,その処置をめぐって大きな論議を呼んでいる.
急性胆嚢炎と抗生物質の重要性
急性胆嚢炎は,細菌感染や膵液逆流による胆嚢管の炎症性閉塞,結石による胆嚢の易感染性,結石の胆嚢管内への嵌頓,術後の急性胆嚢機能障害などで起きる.
本症の多くは鎮痛剤と抗生物質の投与により軽快し待期手術となるが,約5%は炎症が改善せず緊急手術の対象になる2).したがって抗生物質の投与ならびにその薬剤の選択は重要である.
食道離断術には経胸食道離断術と経腹食道離断術の両者がある.開胸にしろ開腹にしろ,肝障害のある肝硬変患者にとって手術侵襲は決して小さいものではない.経胸の場合には術後の肺合併症,開腹の場合には術後腹水貯留など特徴的な術後合併症に注目し,対応する必要がある.
N. W.(820348),62歳,家婦.
本症例は心窩部痛を主訴として来院した.現病歴は6カ月前より心窩部に時折激痛および圧迫感が出現し,某医で精査の結果,肝左葉に限局した原発性肝癌と判断され,当科に入院した.
62歳女性.黄疸を主訴に内科入院.超音波検査にて肝内外胆管の拡張と膵頭部腫瘤と膵管拡張がみられ(図2),膵頭部癌の疑いがもたれた.血清総ビリルビン値15mg/dl,ICG57%の時点でPTCドレナージ施行.下部胆管のV字型完全閉塞を認めた(図3).その後黄疸軽減も順調であり,4週後に血清ビリルビン値1.4mg/dl,ICGR154%となり手術となった.
この経過中にERCP(図4),CT,消化管造影,血管造影などが行われ,膵頭部癌の診断が下された.なお門脈造影で上腸間膜静脈・脾静脈・門脈の合流部付近に圧排所見がみられた.
21歳男子.5年前腹部外傷による膵損傷で内瘻手術をうけた.以後3年間は無症状で経過したが,2年前より腹痛発作が出現するようになり,ある日激痛発作のため救急入院した.
入院時血圧150/100mmHg,体温37.4℃,脈拍84/分,上腹部に自発痛,圧痛,抵抗を認めた.血中amylase 662IU/l,尿中amylase 154IU/時で共に膵型isozymeが増加,ACCRは4.3%であった.白血球数13.600/mm3,ヘマトクリット44.2%,血清総蛋白7.1g/dl,総ビリルビン0.6mg/dl,カルシウム5.2mg/dl,尿素窒素12.6mg/dl,血糖90mg/dl,中性脂肪72mg/dlであった.腹部超音波断層で膵体尾部に沿って長径約10cmの嚢胞状病変を認め,膵仮性嚢胞と診断した.
慢性肝炎では通常著明な自他覚症状をみることは少なく,自覚的に軽度の倦怠感を訴える程度で,理学的にも肝腫脹をわずかに認めるくらいのことが多い.しかし肝生検による肝組織像をみると門脈域の拡大,線維化とリンパ球をはじめとする炎症性細胞の浸潤,piecemeal necrosis,小葉内の壊死巣などがみられ,これらは程度の変動はあるが持続的に存在している.いい換えれば組織形態学的には常に再燃,再発をくり返しているわけであり,かかる病変を恒常的に静止状態におくことは不可能と考えられる.一方,慢性肝炎の経過中に強度の倦怠感,食思不振,ときには黄疸など急性ウイルス性肝炎様の症状が加重し,検査成績ではGOT,GPTが300単位以上の上昇を示し,組織学的にも肝細胞の変性壊死所見が著明にみられることがあり,かかる急性増悪後には肝病変は進行することが多い.これとは逆にB型慢性肝炎の中には急性増悪をきっかけとしてHBe抗原のHBe抗体への転換(seroconversion),ときにはHBs抗原の消失をみることもある.したがって慢性肝炎の治療に当ってはこれらの点を十分考慮する必要がある.ここでは具体例を呈示して慢性肝炎の病変の進行を抑える一般的治療法についてのべる.
57歳男性.昭和2年生.
既往歴:昭和47年糖尿病,以来食事療法継続.
45歳,男性.主訴は意識障害発作.昭和48年(37歳)全身倦怠で某病院受診,慢性B型肝炎と診断された.その後放置.同54年10月食道静脈瘤に対し,予防的に脾摘出術ならびに脾腎静脈吻合術が施行された.約1年半後より眠くてたまらないことが時々あり,自宅へ帰るまでのことをほとんど覚えていない状態も出現し,某病院に同56年9月1カ月間入院軽快したが,さらに精査治療のため金沢大学第1内科へ同年12月14日紹介入院となった.
入院時,黄疸・腹水は認められず,肝血管造影など精査の結果,HBs抗原・e抗体陽性の乙型(三宅分類)肝硬変で,明らかな脾腎静脈シャントおよび食道静脈瘤(内視鏡分類II度)の合併がみられた.脳波ではθ波がみられ,血中アンモニア値は200μg/dl(正常40〜100μg/dl)と高値を示していた.
HBs抗原キャリアの10%強が肝障害をもつが,残りの90%弱はいわゆる無症候性キャリア(ASC)である.
ASCの生活指導をするにあたっては,B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染状態の自然経過を十分理解した上で,患者の検査成績から,患者が自然経過のどの時点にあるかを的確に把握し,それに基づいたものでなければならない.そこで,まず最初にキャリアの自然経過から述べることとする.
35歳男性,板前.
主訴:左上腹部痛.
63歳女性.1カ月来の食後嘔気,嘔吐,心窩部痛から胃癌を発見され,胃全摘,脾摘,食道空腸吻合術を受けた.麻痺はGO+modified NLA+mioblock,輸血なく,順調に7時間で終了した.術前は正常であったが,翌朝,GOT 114,GPT 65と上昇,2日目GOT 48,GPT 30,4日目GOT 20,GPT 14と正常化した.抗生剤は5日目まで投与されており,自覚症状はとくに変わりはなかった.
処方 術後の一般管理以外に特殊な治療法は行わない.
71歳,女.約3年前胆嚢総胆管結石症(コレステロール系胆石)で胆嚢摘出術を受け,術後経過良好で240日後退院した.退院後愁訴なく3年経過したが,突然心窩部痛,発熱,嘔吐を訴え,近医を受診,入院した.しかし,症状軽快せず当院を訪れ,外来にて超音波検査を施行し,総胆管拡張を認めたので精査のため入院した.
入院時血液検査 血液一般:白血球 4,100,赤血球 366×104,ヘモグロビン 11.2mg/dl,ヘマトクリット 31.2%,血小板 22.4×104.肝機能:総ビリルビン 0.4mg/dl,TTT 0.7MU,ZTT 7.0KU,GOT 23KU,GPT 6KU,アルカリフォスファターゼ 10.5AU,LAP 25GU,γ-GTP 77mu/ml.
近年,麻酔や抗生物質,術前,術後の管理の進歩に伴い膵全摘術の適応は拡大されつつある.膵癌の唯一の根治法を求めた膵全摘はもちろんのこと,慢性膵炎患者においても膵の荒廃の著しいもの,膵癌の疑いのあるものに膵全摘が行われるようになり,日常診療の場において膵全摘患者の管理,殊に膵機能補充療法が必要となってきた.