medicina 20巻13号 (1983年12月)

今月の主題 胃・十二指腸潰瘍—その基礎と臨床のすべて

胃・十二指腸潰瘍の研究動向 並木 正義
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胃・十二指腸潰瘍の研究に進歩はあったか

 胃・十二指腸潰瘍に関する最近の研究の進歩という題で書こうと思ったが,正直のところ進歩という言葉を使うのにためらいを感じ,動向とした.

 消化性潰瘍の研究の歴史は古い.今世紀をふり返ってみても,いくつかの研究上のトピックスがある.実際に潰瘍の病態生理学,診断,治療などの面において,それぞれ研究への努力がなされてきたし,それなりの成果もあがっている.しかし,現在依然として潰瘍患者は減りそうにもないし,むしろ近年増加の傾向さえある.また再発防止の問題についてはいまだに手こずっている.こうした現状をみつめるとき,消化性潰瘍学の時代的歩みは感じられるが,明らかに進歩のあとがみられるとはちょっといえない.

胃・十二指腸潰瘍の発生

疫学 川井 啓市 , 渡辺 能行
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 胃・十二指腸潰瘍の発生に関する疫学は,集団における時間的,空間的分布と頻度を明らかにする記述疫学と,その発生要因を解明する分析疫学,さらには発生要因の検証を目的として動物実験または介入研究を行う実験疫学から成り立つが,ここでは前二者について述べてみたい.

自然経過 小越 和栄
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胃・十二指腸潰瘍の発生率

 胃や十二指腸に発生する消化性潰瘍は最近の薬剤治療に比較的良く反応し,重症な合併症の発生もかなりコントロールされている.

 しかし,消化性潰瘍の再発防止はかなり困難で,一所懸命に潰瘍の治療を行っても,再発を起こす患者や,新たに潰瘍が発生する患者で外来における潰瘍患者は減少せず,毎年ほぼ一定の患者を治療していることに気付く.これは治癒してゆく患者と新しく潰瘍が発生する患者との間に平衡関係があることを意味する.

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 消化性潰瘍の成因の1つとして,従来より遺伝的素因の関与が考えられていた.しかし,潰瘍の素因を裏付ける亜臨床的符号subclinical markerとなりうるものが発見できなかったため,この分野の研究は立ち遅れざるをえなかった.しかし,近年,潰瘍の遺伝的素因の指標genetic markerとして血清ペプシノーゲン1(serum pepsinogen 1;PG 1)の測定が有用であるとの見解が発表され1,2),さらに現在では,消化性潰瘍の遺伝的素因を示唆する有力な仮説として「遺伝的異質性genetic heterogeneity」という概念が提唱され1),本症の遺伝的素因についての関心が高まっている.

 本稿では,潰瘍の遺伝的素因を体質的素因と気質的素因の大きく2つに分け,とくに体質的素因については,①高PG 1血症,②HLA抗原,③血液型について述べてみたい.

環境要因 川上 澄 , 石岡 昭
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 胃・十二指腸潰瘍はその発生や経過の増悪に,心理・社会的因子あるいは性格的因子が関与している症例が多く,消化器系の心身症(psychosomatic disease;PSD)として重要視される1)

 すなわち,胃・十二指腸潰瘍は終極的には胃粘膜に対する塩酸,ペプシンなどの攻撃因子と,粘液の分泌量,胃壁の血流量などの防御因子との間にアンバランスが生じたときに発生すると考えられるが,そのようなアンバランスが生じるまでの過程や条件として,心理・社会的因子あるいは性格的因子が重要視される症例が多いということである.

病因と病態生理

胃液の役割 矢花 剛 , 畑 英司
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 胃および十二指腸潰瘍の病因については,これまでSun1)の攻撃・防御因子バランス説をはじめ,全身性因子を含む多くの影響因子が研究対象にとり上げられてきたが,必ずしも核心をつくまでには至っていない.その多くは胃底腺から分泌される胃液(主として胃酸,ペプシン)による強力な自家消化作用が基本をなしているとみてよいし,胃液が接触する部位に潰瘍形成がみられるという事実から,両潰瘍はQuinke(1882)以来,消化性潰瘍と一括されて呼ぼれることが多い.しかし胃と十二指腸では形態学的,生理学的機能面にかなり相違がみられる上に,胃分泌面からみた疾病像も大きく異なる点から,両潰瘍の発生過程には胃液の関わりを含め何らかの差異があるものと推測されているので,最近の研究動向を含め概説してみたい.

胃酸分泌と壁細胞受容体 大江 慶治
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 胃・十二指腸潰瘍の病態を粘膜損傷としてとらえるのでなく,潰瘍を成立させる条件が慢性疾患として存在すると考える場合,その治療は,胃酸分泌異常と萎縮性胃炎の治療という困難な問題に集約されることになる.このことは,胃・十二指腸潰瘍を活動期,治癒期のみならず,瘢痕期も含めたサイクルとしてとらえる考え方1)に基づくものであり,潰瘍を瘢痕化させることにおいて有効性の高い現在の潰瘍治療剤も,再発性慢性疾患としての潰瘍症の治療には無力であると言わざるをえない.この意味において,胃酸分泌機構に対する理解は個々の患者の病態の把握と,最近抗潰瘍剤として登場した受容体拮抗剤の使用に関連して,臨床上重要であると考えられる.

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 胃粘膜防御機構を構成する要素である上皮細胞の粘膜障壁mucosal barrier,粘液産生・分泌,重炭酸分泌,細胞回転などの維持には好気性代謝が不可欠であり,これらすべてを司る粘膜血流は防御機構のうちで最も重要なものであろう.本稿では胃粘膜微小循環系の構造,調節機序および胃粘膜障害との関係につき略述する.

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 消化管とprostaglandin(PG)との関係は,古くPGのbioassayに消化管筋層が用いられたことに始まるが,PGの構造が明らかにされ,合成が可能となるとともにPGの抗潰瘍作用がクローズアップされ,PGと胃病変についての興味ある知見が報告されてきた.

消化管ホルモン 石森 章
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 消化性潰瘍の発生病理ないし病因ならびに病態生理において,胃液はいわゆる攻撃因子として重要な役割を担っているが,消化管ホルモンは生理的に胃液分泌を調節しているだけでなく,胃液分泌の障害あるいは胃液の消化管内移動を規制する消化管運動の障害を介して,消化性潰瘍の病因と病態生理に深く関与している.その関与の仕方によって消化性潰瘍は通常潰瘍,術後潰瘍および特殊潰瘍に三大別することができる.

潰瘍と胃運動 伊藤 漸
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 胃・十二指腸潰瘍の病因や病態生理を胃運動の面から科学的,総合的に研究した報告は少ない.とくに胃運動は食物の消化を行っている食後の時期と胃内が空虚になっている空腹期とではそれぞれの収縮運動の機能とその調節機構が異なることはごく最近になってわかってきたので,こうした概念に基づく潰瘍の研究が少ないのも当然である.本稿においては,まず胃運動の記録法や収縮パターンについて説明し,その上で潰瘍に関する最近の知見を紹介する.

潰瘍と脳 松尾 裕
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潰瘍は脳のやまいである

 消化性潰瘍の成因は簡単に1つの因子によって決められるものではないが,病理学者ロキタンスキーは,脳病変のあった患者の剖検所見に胃の出血ないし潰瘍が多いということを最初に記録し,"胃潰瘍は脳のやまいである"と述べている.

 その後1931年,脳外科の大家であるクッシングは脳腫瘍の手術例について,その手術は非常にうまくいったのに吐血および下血で亡くなった患者について報告し,その場合に,視床下部の迷走神経中枢の刺激が潰瘍の発生に非常に重要であると述べ,これがいわゆる"クッシングの潰瘍"と呼ばれたのである(図1)

胃・十二指腸潰瘍の臨床

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胃・十二指腸潰瘍の頻度

 昭和57年度の大阪医科大学第2内科における内視鏡検査施行数1,957例についてみると,胃潰瘍331例(17%),十二指腸潰瘍222例(11%),胃十二指腸併存潰瘍47例(2%)であった.一方,昭和53年度の胃集検全国集計では3,640,123名中,胃潰瘍1.05%,十二指腸潰瘍0.56%,胃十二指腸併存潰瘍0.08%と報告されている1)

 胃潰瘍/十二指腸潰瘍比は,胃集検では1.88であり,筆者らの集計では1.5といずれも胃潰瘍のほうが多い.しかし,表のように男女別および年代別にみると,男性では20歳台までは十二指腸潰瘍が多く,30歳台で両者は均衡し,40歳台から60歳台までは加齢とともに胃潰瘍が多くなっていく.女性では,20歳台からすでに胃潰瘍のほうが多いが,その比率の増加は男性に比べ緩慢である.とくに20歳台から40歳台まででは,胃潰瘍/十二指腸潰瘍比に変化はみられない.

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 われわれが,ありふれて診る慢性胃潰瘍は,最初は,急性胃粘膜病変としてのびらんや急性胃潰瘍が進展し慢性化するのか,あるいは慢性胃潰瘍と急性胃潰瘍は発生そのものから異なるのかという難問題は,たいへん古くから議論されている.

 ところが近年になって,内視鏡検査の進歩したこと,とくに緊急内視鏡検査が普及した結果,急性胃潰瘍などの急性胃粘膜病変の初期像が明らかになり,さらにその経過が詳細に追跡されだした.また,最近では急性胃潰瘍の手術は減ったが,手術標本のくわしい検討によっても,急性胃潰瘍の病理学的特徴がかなり明らかになってきた.一方,最近になって粘膜血流を中心とする粘膜防御因子の研究という視点からも,急性胃潰瘍および慢性胃潰瘍の成因や治癒経過が検討しなおされている.

難治性潰瘍の定義と再発の要因 三輪 剛
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難治性潰瘍

 しかるべき治療が行われているにもかかわらず,なかなか癒らない潰瘍のことを漠然と難治性の名を冠して呼んでいる.3カ月以上の治療に抵抗する潰瘍のことを難治性潰瘍と呼ぼうという意見もある.

 なかなか癒らないということには,それなりの理由があると考えられるが,次のような要因が関与しているとしてよいであろう.

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 老人の消化性潰瘍は種々の点で若年者のそれと異なり,その特殊性が古くから論じられている.日常の臨床において,最近,老人の胃潰瘍に遭遇する機会が増えている1,2)

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 小児科で取り扱う0〜14歳の年齢層にも最近胃および十二指腸潰瘍(以下両者を含めて単に小児潰瘍という)の増加が目立つ.この頃では小児の腹痛患者をみたなら,まず潰瘍を念頭におかなくてはならないほど比較的頻度の高い疾患になってしまった.それだけに日常診療において小児潰瘍についての知識と関心は持っていなければならない.

 以下,小児潰瘍の特徴と診療上の注意点,知っておくべき参考事項などを大まかに述べてみたい.

胃・十二指腸潰瘍の診断

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 胃潰瘍をX線診断する立場に2つある.1つは個々の潰瘍を的確に発見し,質的診断(性状診断)をしようとする立場である.これはReiche(1909)やHaudek(1910)以来,胃潰瘍のX線診断の主流をなすものである.もう1つは,ニッシェが認められにくいのに変形が著明な線状潰瘍や多発性潰瘍にあてはまることであるが,胃の変形によって潰瘍の存在および存在部位を推定しようとする立場である.変形が強いものほど潰瘍の既往歴が長い.この2つの立場から胃潰瘍を検討することによって,X線診断は一層確実になる.十二指腸潰瘍でも同じことがいえる.

内視鏡診断 小黒 八七郎
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 内視鏡診断は観察または写真読影による肉眼レベルからの形態学的診断と,生検による組織学的レベルからの形態学的診断からなる.次に,診断を行う際の思考過程として,以下の順序で行うと理論的である.すなわち,①存在診断,②質的診断,③量的診断の順であるが,実際には必ずしもこの順序によらず,一挙に可能であることが多いが,常にこのような思考過程を行うと誤診を防ぐのに役立つ.

 胃潰瘍と十二指腸潰瘍は諸々において異なる点もあるが,消化性潰瘍としてまとめられている.消化性潰瘍は治癒傾向があり,一方,治癒後においては再発傾向も強い.したがって,消化性潰瘍の診断とくに質的診断を行う際には,その時相の立場を念頭において行わなければならない.

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 "No acid, no ulcer"という格言に示されるように,胃潰瘍と酸分泌機能との間には密接な関連が認められ,酸およびペプシンの分泌は,胃潰瘍の発生のみならず胃潰瘍の治癒や再発に大きな影響をもっていることが推測されている.筆者らはCongo red色素を用いた内視鏡的機能検査法を用い,酸分泌領域をガストリン刺激によりCongored色素が黒青色に変色する領域(変色帯)として把える方法を考案し,胃潰瘍の病態生理の解明に応用してきた1).本稿では,主としてendoscopic Congo red testを用い,酸分泌機能の面よりみた胃潰瘍の特徴と潰瘍の難治化について述べてみたい.

胃・十二指腸潰瘍の治療

内科的療法の基本方針 市岡 四象
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 胃・十二指腸潰瘍の治療目的は,①自覚症状の消失,②潰瘍治癒の促進,③再発防止による潰瘍歴の離脱,すなわち永久治癒をねらっている1)

 この目的に向かって永年にわたって治療法が検討されているが,近年ヒスタミンH2受容体拮抗剤をはじめとして選択的ムスカリン拮抗剤などの,従来の抗コリン剤とはまったく作用機序の異なる新しい抗潰瘍剤が登場し,その結果,自覚症状は短期間に消失するものが多く,一般に治療日数も従来の薬剤よりも短縮しているという報告が多い.

薬物療法の実際 西元寺 克礼 , 岡部 治弥
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 消化性潰瘍の薬物療法の基本となるのは,攻撃因子抑制剤と防御因子増強剤である.攻撃因子を抑制する薬剤では長い間基本薬とされてきた制酸剤,抗コリン剤に代わりH2-ブロッカー,選択的抗ムスカリン製剤が主流となりつつある.これらは,従来の抗潰瘍剤に比し強力な酸分泌抑制効果,潰瘍治癒促進効果が証明されているが,一方では投与中止後の高い再発率が報告されており,これら新しい薬剤の適応,投与期間などが検討されつつある.

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潰瘍の局所注射療法のねらいと要点

 目的 治りにくい潰瘍(いわゆる難治性潰瘍)というものは,局所的にみて,その治癒過程に歪みが生じ,潰瘍の辺縁や底部が強い線維化fibrosisをきたして硬くなり,弾力性を失っている場合が多い.このような潰瘍にいくら潰瘍治療剤を投与したところで,潰瘍は縮小しようにも縮小できない.そこでこの局所に何か薬を作用させ,fibrosisをとり除き柔らかくしてやり,そこへさらに肉芽形成を促進する薬を作用させれば良好な治癒経過をとるであろうと考えた.そこで,ファイバースコープの鉗子通路を通して局注用針(現在市販されている)で潰瘍の局所に薬を注射(注入)する方法を考案した.種々の実験的裏づけのあと臨床応用を試み,今日の局注法の要領を確立した.

 方法 すなわち潰瘍の硬さ(fibrosis)をとり除く目的にステロイドホルモン(ベタメサゾン注射液)を,また肉芽の形成促進をねらって試作した0.5%のアラントイン溶液を用いるといった,ステロイド-アラントインの併用療法がその基本的方法である.もちろん,症例によってはステロイドを必要としない例もある.とくに十二指腸潰瘍はアラントインの単独療法で十分な効果が期待できるので,ステロイドは使用するまでもない.

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 胃・十二指腸潰瘍は消化器疾患のうちでは重要な疾患の一つに数えられている.これは胃癌との鑑別がむずかしいということだけでなく,これを放置しておくと重大な結果に陥りかねないからである.普通潰瘍は強い上腹部痛を起こすが,潰瘍だけでは全身的な影響はもたらさない.全身的に強い影響を及ぼすのは潰瘍に発生する合併症である.すなわち,臨床的に胃・十二指腸潰瘍が重要視されるのは出血,穿孔および狭窄などの合併症と直結しているからである.これらの合併症は潰瘍に併発するというよりは,むしろ潰瘍症として一括してしまったほうが妥当であろう.また胃・十二指腸潰瘍には胃切除術や迷走神経切離術などが行われるが,これらの手術に合併する疾患のうち,他臓器損傷や縫合不全などの手術一般に共通したものを除いた,潰瘍手術に特有なものも,広い意味で胃・十二指腸潰瘍の合併症として考えておいたほうがいいと思われる.

手術適応 武藤 輝一
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 最近はストレス潰瘍や薬物潰瘍などの急性潰瘍に遭遇することも少なくないが,本特集では慢性胃・十二指腸潰瘍を中心にとりあげられているので,ここでは慢性胃・十二指腸潰瘍の手術適応について述べる.

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消化性潰瘍の最近の動向/内科的治療の進歩/治療の基本方針/薬物治療の実際/再発の要因と対策/生活指導の実際/手術適応とその新しい考え方/難治性潰瘍の考え方と対策/潰瘍治療の将来

理解のための10題

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 医学・医療技術の目覚ましい進歩によって,いままで不治の病とされてきた多くの疾患が治療可能となってきた.しかし,その一方で,技術の進歩が,『生』と『死』に関する従来からの価値体系を揺るがすようにもなっている.臓器移植,脳死,試験管ベビー,遺伝子操作,生命維持装置,ターミナル・ケア等々,次々に進んでゆく技術が,はたして,人類に福音をもたらすものなのか,広い視点からの検討の必要性が指摘されている.

 アメリカでは,1978年に,連邦議会の承認の下に,『アメリカ合衆国大統領医学および生物医学・行動科学研究における倫理問題検討委員会(以下「大統領委員会」と言う』が設けられ,1979年半ばより1983年3月に総括報告書(Summing-Up)を発表するまで3年半にわたる精力的な活動を行った.

カラーグラフ 臨床医のための甲状腺生検

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 これまで甲状腺の生検として穿刺吸引細胞診の実施方法,ならびに診断の要点について述べてきた.もう一つ甲状腺疾患の診断にあたって習熟しておきたい生検方法に,太い針で行う穿刺針生検がある.穿刺針生検はVim-Silverman針(図1),またはTru-Cut針(図2)により組織片を採取して(図3)組織診断を行うもので,この点で穿刺吸引細胞診との基本的違いがある.

 針生検の適応として筆者らが考えているものは,①慢性甲状腺炎の確定診断,とくに甲状腺機能検査や免疫学的検査(MCHA,TGHA)で診断がつかないとき,慢性甲状腺炎の患者で甲状腺の一部が結節状に腫大し,それが炎症自体によるものか,それとも腺腫や癌を合併しているのか鑑別の難しいとき,または慢性甲状腺炎の組織変化がびまん性か散在性か確定したいとき,②慢性甲状腺炎と甲状腺原発の悪性リンパ腫の鑑別診断,③手術適応のない未分化癌の確定診断,とくに臨床的に未分化癌が疑われるが細胞診で確定診断のつかないとき,などである.

グラフ NMR-CT

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 前回までに,頭部から腹部の主要臓器へのNMR-CTの応用と,放医研とアバディーン大学の装置でこれまでに撮影された画像を紹介してきたが,最後にあまり報告されていないNMR-CTの四肢と前立腺への応用例を紹介し,現段階でのNMR-CTの有用性とこれからの期待について述べる.

グラフ 臨床医のための電顕写真

肝臓・4

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 近年,本邦でもアルコール消費の増加にともなって,アルコール性肝障害が増加している.

 アルコール多飲にもとづく肝障害は,一般にアルコール性脂肪肝,肝線維症,アルコール性肝炎,アルコール性肝硬変などに分けられるが,アルコール性肝障害に特有な光顕所見としては,肝細胞のballoon化,eosinで赤く円形に染まってみられる肝細胞内の巨大ミトコンドリア,アルコール性肝炎にみられるアルコール硝子体の出現,肝細胞周辺のpericellular fibrosis,中心静脈を中心とした線維化であるcentral sclerosisなどであり,肝硬変は一般にmicronodularcirrhosisとしてみられるのが普通である.これらの特徴を電顕的に観察してみると次のごとくなる.

グラフ 肺癌を疑うX線像

症例編・10

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 本シリーズの最後は胸水貯溜形態を示す肺癌で癌性胸膜炎として遭遇する胸水型肺癌例である.胸水型肺癌はX線上原発巣を指摘することが難かしく,癌性胸膜炎の病態生理を理解しないと臨床診断が困難である.

グラフ 画像からみた鑑別診断(鼎談)

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症例

 患者 58歳,男性.

 主訴 黄疸.

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 岩崎(司会) これまで医学全般の話から,卒前教育の問題,国家試験の問題まで討論してきたわけですけれども,これからは,どちらかといえば私どもの範疇に入る卒後研修の問題,そして生涯教育の問題を討論したいと思います.

講座 臨床薬理学 薬物療法の考え方・19

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 妊娠中には,その時期によって特徴的な種々の生理学的な変化が生ずるために,薬物の体内動態もその影響を受けることが容易に予測される.また,母体における薬物動態の変化のみならず,胎児に対する薬物の影響も考えなければならない.胎児に対する薬物の影響を考えるにあたっては,薬物の胎盤通過の特性の理解が必要になる.さらに,出産後は,母親に投与された薬物が母乳を通じて乳児の体内に入るので,薬物の乳汁中への移行についての知識を整理しておく必要がある.

 しかし,妊婦の多くは薬物の服用を敬遠しがちであり,また,服用するとしても短期間にしかすぎないことが多く,さらに,健常人volunteerに薬物を投与して検討するといった種類の試験は倫理的に困難であること,などの種々の理由から,妊産婦における薬物投与法の根拠となりうる科学的データーの報告は比較的少ない.

講座 図解病態のしくみ 神経・筋疾患・12

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脱髄とは

 神経系(中枢,末梢いずれでも)はニューロンとその支持細胞から構成されている.ニューロンは神経系機能の基本である電気活動の発生と伝導を行う最も重要な神経系の構成要素である.

 ニューロンの細胞体は外に向かって多くの突起を出す(図1).この突起は樹状突起(dendrite)と軸索突起(axon)に分類される.軸索突起は1つのニューロンに1本のみ存在し,数mmから1m以上の長さにわたり,その機能は細胞内から筋や腺などの効果器官,シナプスを形成する他のニューロンに電気活動を伝導することである.

講座 小児診療のコツ・6

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 嘔吐はあらゆる年齢の小児にしばしばみられる症状である.まったく心配のない嘔吐もあるが緊急手術を要することもある.出生直後の新生児が分娩時に飲みこんでいた羊水などを1〜2度吐く生理的嘔吐(初期嘔吐)や乳児期の溢乳とか咳こんで嘔吐するのは生理的なものであり,とくに治療を要しない.反面腸重積症や食道,腸管の閉塞は見逃すことができない.

 嘔吐を訴えてきた場合,早急に原因疾患をはっきりさせることが必要で,その場合年齢,食事との関係,吐物の性状,随伴症状が参考になる.

境界領域 転科のタイミング

消化管出血 青木 照明
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 消化管出血(吐血hematemesis,下血melenaor hematochezia)で内科的・保存的治療と外科的・手術的治療との接点,あるいは転科のタイミングが問題となるのは,主として急性出血かあるいは大量出血であろう.しかし近年,少なくともわが国においては,診断的あるいは治療的内視鏡技術(endoscopic surgery)の飛躍的進歩により,従来からの保存的治療対手術的治療という,内科対外科といった診療科間の問題構図は少なくなってきているものと想像される.

 しかしその前提としては,内科医であると外科医であるとを問わず,消化管出血という病態を全身的視野に立って判断できる内視鏡医の介在が必須条件であろう.そのうえで,内科的・保存的処置の限界と外科的処置の必要性の位置づけを明確にしていくことが望ましいと考えられる.本稿では,そうした意味で,内科医へというよりは,現在消化管出血患者の初期治療に最も深い関わりあいを持つと思われる内視鏡医を含めて,外科的・手術的治療への接点について提言してみたい.

連載 演習

目でみるトレーニング 77

連載 ベッドサイド First Contact(鼎談)

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 西崎(司会)一般外来では,寒くなると咳,喀痰を主訴として来る患者が非常に多く,咳が出るということは,それほど重篤感はありませんが,患者にとっては非常につらいものです.そこでまず咳を訴えて来た患者の場合,米倉先生はどういうことに注意して問診をとられていますか.

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 アレルギー性疾患の治療の原則は,原因抗原をみつけそれから回避することであり,原因抗原の確定は診断および治療上きわめて大切である.当科では主として気管支喘息を中心にアレルゲンの検索を皮膚テストで行っているので,これについて述べる.

Via Air Mail ウィスコンシン大学放財線科における研修生活・3

日本では経験できないこと 菊池 陽一
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 高い医療費 アメリカの医療費が高いということは日本にいたときから聞いてはいましたが,実際にこれほど高いとは思っていませんでした.たとえば,胸部単純撮影35ドル,超音波80ドル,全身CT400ドル,血管造影1,000ドル,上部消化管検査92ドル,上部消化管内視鏡検査250ドルというぐあいです.日本ではCTは造影剤を使用して18,000円ですから,ざっと5倍以上ということになります.したがって保険に加入していないと大変なことになります.上に紹介した金額は,ウィスコンシン大学病院のもので,同じマジソン市内の他の病院では,同じ検査や手術でも多少値段が違います.*大学病院は医師やその他の職員の数も多く,しかも教育を兼ねた診療を行うので,市中病院よりも多少高くなります.病院間の競争が激しくなってくると,相対的に大学病院の競争力が落ちてくるわけで,将来大学病院に来る患者数が減ってきて,医学教育に支障が出てくるのではないかと心配する人もいます.*昨年のこの病院の統計によれば,患者1人あたり1日の医療費は510ドルでした.一方平均入院期間は9日間で,日本に比べると短かいと思います.

 pharmacistの役割 患者が入院して,最初に病室を訪れるのはインターンやレジデントとは限りません.多くの場合,pharmacistがカルテの一番最初のページに,pharmacy admission noteを記載しています.

天地人

含羞の虫 病める猫
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 仕事の関係ではじめてアメリカ国内学会に参加する機会を得た.言語障害をもつ"日本人"という身の上では,極めて明瞭なデータをもっていくしかない.1年間余の夜なべ暮しの汗の結晶を,一言も発さずとも判るようにしてもって出かけた.ときは5月,ところはアメリカの中西部.ホテルと市内のconventional centerでの3日間.ポスターシンポジウムという半日をかけての討議に参加できて,わがポスターの前に緊張の面持ちで立ち,10名位の人の質問を何とかこなしたと感じた.総合討論は印象的であった.老いも若きもマイクをうばいあって列をなし,次々と質問または追加発言をするのである.幸い,私の狭き専門分野の英語なので何とか聴き取れたが,イギリスの学会長である女史から,私からみてもほんの若者まで,取るに足らぬと看過しそうなことまでしゃべりまくっていた.残念ながら,私は高見の見物気分,実は引込み思案というところで,"強い印象をうけた"と文をものする位が関の山である.

 件のイギリスの学会長である女史(over sixty)には,この1年間に3回も御会いできる機会を与えられた.寒さにふるえるローザンヌの晩秋の学会では,オーバーコートなしに"with high quality"と端正な顔を向け,アメリカのシンポジウムでは30代の若者と討論する壇上の風情ときたら,遠目とひいき目にみて,チャーミングさ,イキイキ度は,若い女性も顔色なしである.

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「medicina」第20巻 総目次

基本情報

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medicina
20巻13号 (1983年12月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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