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診療報酬制度と包括払い
わが国の保険診療における病院や医師への支払い額は,公定価格が設定されており,病院や医師ごとに独自に設定することはできない.診療行為の公定価格は「診療報酬」,薬剤の公定価格は「薬価基準」と呼ばれ,検査を実施したり薬剤を使用した場合には,原則として実施した分の公定価格を積み上げた報酬が病院や医師に支払われる仕組みとなっていた.このようなこれまでの「出来高払い」による支払いの場合には,過剰な検査・投薬や濃厚診療が生じる可能性があり,医療費の高騰につながるのではないかとの懸念が指摘されていた.
そこで,医療制度改革の重要な柱の1つとして,診療報酬の「包括払い」への移行が進められている.包括払いとは,検査や投薬をたくさん実施したとしても一定額しか報酬が支払われない方式であり,「月定額」「1日定額」「一入院定額」など,料金設定の単位はさまざまな方法が考えられる.例えば米国の高齢者・障害者保険(メディケア)では,急性期入院医療に対しては診断群ごとの一入院定額支払い(DRG/PPS)が導入されている.
教授回診,部長回診などであなたの上級医は気楽に検査をしようと口にしていませんか.
「あの検査,チェックしといた?」
「ついでだからこの検査もやっといて」
「念のために検査しとくか.別に大した害はないから」
「どの患者に,どの検査を選択するか」.この問いに答えるには,検査の性質のみ考慮しても不足である.検査は診断を確定するために行われるが,そういった行為はより広い臨床の一部であるからである.
臨床には以下の5つのステップがある.
検査前確率と検査結果の解釈
外来にて①(架空です)
54歳男性.重喫煙者.以前から会社の検診で高血圧と高脂血症を指摘されていたが,放置していた.1カ月ほど前から,階段を昇ったときに胸の締まる感じがしていたが,休むと数分で収まるため,様子を見ていた.2週間くらい前から,徐々に胸部不快感が強くなり,持続時間が長くなってきたため受診.
安静時心電図で心筋梗塞の所見がないことを確認した後,担当医自身が付き添いながら,負荷心電図を施行.胸部不快感が再現され,心電図前胸部誘導でST低下を認めた.
担当医 「当たり!」
外来にて②(架空です)
18歳女性.非喫煙者.数カ月前から時々安静時に前胸部の痛みを感じていた.昨日,TVを見ているときにかなり強い前胸部痛があり,数分で消失した.心配になって本日受診.安静時心電図で異常所見がないことを確認した後,負荷心電図を施行.心電図でST低下を認めた.
担当医 「??」
尤度比とは検査の性能を表すもう一つの方法であり,感度・特異度などの情報を一つの数値にまとめたものである.尤度比を用いることにより,恣意的なカットオフで切り分けられた正常か異常かという単純な分類を越えて,臨床の現場で検査結果を用いることができるようになる.
オッズ
尤度比はオッズを用いて表されるため,まず確率とオッズの関係について知る必要がある.オッズはある事象が起こる確率を,その事象が起こらない確率で割った“起こりやすさ”を示す比であり,
オッズ=ある事象が起こる確率/(1-ある事象が起こる確率)
逆に,
ある事象が起こる確率=オッズ/(1+オッズ)と表すことができる.
尿定性検査は試験紙を尿に浸して読み取るという「ディップ・アンド・リード」の形で簡便に実施できることで広く普及してきた.したがって,本稿では尿定性検査を試験紙での検査に限って述べていく.一方,試験紙で実施できる尿検査項目といっても,かなり多くの項目があり,以前より行われ,現在でもよく行われていると考えられる9項目について記す.項目数が多く,その意義もさまざまであるために,他の項目のフォーマットに対応させてまとめられる部分を表1とし,本文では総論的な事項,あるいは補足的な事項について記載することにする.なお,表1に測定原理を加えたのは,試験紙検査の結果に関連することが多く,結果の解釈の際に原理を理解しておくとよいものが多いためである.
異常値の出るメカニズムと臨床的意義
尿定性検査に異常値が出現するメカニズムの理解の基本は尿産生過程の確認である.すなわち,尿は血液が腎糸球体で濾過された後,尿細管での分泌・再吸収を受けて成分が調整され,腎盂,尿管,膀胱,尿道を経て体外に排泄されたものであり,尿中成分の異常はこの過程のいずれかの段階の異常によって生じるということである.ケトン体,ビリルビン,ウロビリノーゲンは,尿の材料である血液中で増加することによって尿中に出現し,白血球,亜硝酸塩は主に腎盂以降での病変(感染)によって陽性となるが,蛋白,潜血,ブドウ糖,pHは複数の段階での異常が考えられるというように,検査項目によって尿産生のどの過程での変化を反映しているかは理解しておく必要がある.
尿沈渣検査は,試験紙法による尿定性・半定量検査と並ぶ基本的な臨床検査である.日常診療や健診(検診)で幅広く行われ,腎・尿路系疾患の診断はもとより,全身状態を知るスクリーニング検査として価値がある.わが国の尿沈渣検査は,臨床検査技師会一般検査研修班と臨床検査医との長年の共同研鑽により2000年春,現NPO法人・日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee For Clinical Laboratory Standards:JCCLS)が世界に通用する「尿沈渣検査指針(Yellow Book)1)」を発刊するまでに至らしめ,これに基づき正確度・精密度の高い検査成績を,どこでも,いつでも,迅速に得られるようになった.一方で,大手分析機器メーカーの開発努力によりフローサイトメーター(flow cytometer:FCM)などによる尿中有形成分自動測定装置も1995年以降相次いで登場し,従来法の鏡検による尿沈渣検査のスクリーニング検査用装置として診療機関・健診(検診)機関で広く使用されるようになった.
尿は最低限の溶媒(水)に血液中の不要物質を溶かし込んだ成分と,腎~外尿道口で形成あるいは排泄された有形・無形の成分との集合体である.十分混和した尿を遠心管に10ml採り,500G・5分間遠心後,上清を除去し,沈渣量を0.2mlとする(必要であれば染色液を添加する).15μlをスライドグラスに載せ,カバーグラスをかけ,初め弱拡大(LPF:100倍)で,次いで強拡大(HPF:400倍)で鏡検する.一方,自動分析法は1ml弱の尿試料を遠心分離することなく(unspun urine)装置に吸引させ,2~3分で血球,上皮,円柱,細菌などを区分・定量分析する方法である.結果は従来法の定性的記載(x個/HPF) のほか,現在,世界標準となりつつある定量的記載(x個/μl) も行われる.
便潜血検査にはグアヤック法などの化学法と抗ヒトヘモグロビン(Hb)抗体による免疫法の2種類がある.現在,わが国では後者が用いられており,化学法は実際にはほとんど行われていないので,免疫法を主体に述べる.
糞便中のヒトHbを検出することで消化管の出血性病変をスクリーニングする.
グルメブームや海外旅行ブームなどを背景に,新興再興寄生虫症が増加している.なかでも,熱帯・亜熱帯地域からの帰国後下痢症者のサイクロスポーラやランブル鞭毛虫感染など糞便検査の重要性が再確認されている.実際,東京都内検診センターの糞便検査では年々寄生虫感染率が増加しており,2002年では感染率は10%を超え,その23%をランブル鞭毛虫が占めていた1).
寄生虫感染を疑い糞便検査を行うのは,下痢など腹部症状があるときや海外からの帰国者である場合が多い.
胸水・腹水貯留のメカニズムと臨床的意義
胸水は胸膜腔内に,腹水は腹腔内に組織間液が病的に異常貯留,増加した状態である.その貯留液の性状により,一般的に漏出液と滲出液に分ける.
漏出液は組織破壊を伴わない非炎症性疾患でみられることが多く,血管内から血管外の組織や体腔に漏れ出た体液で,血漿膠質浸透圧の低下,静脈圧の上昇,血管透過性の亢進などによる.滲出液は漿膜の炎症や破壊を伴う疾患でみられ,炎症により毛細血管が拡張し,血管の透過性が亢進して血液成分が血管外へ滲出した体液である.
脳脊髄液(髄液)はくも膜下腔および脳室を満たす無色透明な水様の液体で,主に脳室の脈絡叢より産生され,最終的には脳表のくも膜顆粒より静脈系に回収される.髄液は中枢神経系の保護とともに,中枢神経系組織への栄養物質の輸送,代謝産物などの除去などの役割を担うと考えられている.髄液は基本的には血液成分に由来するが,その産生の過程には,単なる透過,拡散のみではなく,能動的かつ選択的な物質の輸送が関与している.
日常診療において,髄液検査は中枢神経系疾患の診断,なかでも各種頭蓋内感染症の診断に不可欠な検査である.このほか,くも膜下出血の診断の決め手になる場合がある.頭蓋内悪性腫瘍,脱髄疾患などの診断にも用いられる.
インフルエンザウイルスはA,B,Cの3つの型があり,本邦で冬季に流行するインフルエンザはA型およびB型インフルエンザウイルス感染症である.A型とB型のウイルス粒子表面にはヘマグルチニン(HA:16種)とノイラミニダーゼ(NA:9種)の糖蛋白抗原があり,A型はその組み合わせによる亜型に分類される.A型は人畜共通感染症で,近年,ヒトではH1N1(ソ連型),H3N2(香港型)が連続変異を起こしつつ流行しているが,鳥を中心とする動物では多くの亜型が存在する.
インフルエンザウイルス抗原検出試薬キット(以下キット)の測定原理は,A型とB型インフルエンザウイルスそれぞれの核蛋白に対するモノクローナル抗体を用いた免疫法である.2005年からは国内のすべての試薬が1ディバイスでA型とB型を鑑別するタイプとなった.試薬担体の固相抗体と展開する抗体の2つの抗体がウイルス抗原と結合した免疫複合体が判定部に凝集したところを,目視によって判定する.
われわれが第31回日本臨床病理学会(1984年)でA群溶血性レンサ球菌抗体感作ラテックス凝集反応による迅速抗原検出法「10-Minute Group A Strep ID(Marion Scientific,Division of Marion Laboratories,Inc,Kansas City,MO)」を発表してから約20年が経過した.この間,EIA法,イムノクロマトグラフィー法などの迅速検出法が市販され,現在では,より簡便なイムノクロマトグラフィー法が市場の大半を占め,市販件数も年々増加の傾向がみられる.現在,市販されている主なA群溶血性レンサ球菌抗原検出キットについて紹介する.
異常値の出るメカニズム
「A群溶血性レンサ球菌抗原迅速検出キット検査における不確かさの要因の同定」を図1に示す.
「外来で行う迅速キット検査」における妊娠反応とは,尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン:human chorionic gonadotropin)の定性検査のことである.hCGは分子量38,000の糖蛋白ホルモンであり,α,βの2種類のサブユニットより二量体を形成する.絨毛で産生されるため,男性や非妊娠女性では測定されないのが正常である.尿中においてhCGが検出されるときは,体内に絨毛が存在することを想定して,妊娠または妊娠性の疾患を鑑別する必要がある.また,一部の悪性腫瘍では絨毛以外の組織でhCGを産生する場合もある.以下に鑑別すべき疾患を挙げる.
正常妊娠
子宮外妊娠
流産
絨毛疾患(胞状奇胎,絨毛癌,存続絨毛症など)
異所性hCG産生腫瘍(卵巣癌,子宮頸癌,胃癌,肺癌,膀胱癌,睾丸腫瘍など)
不妊治療などでhCGなどの投与を受けている場合
急性冠症候群の診療では,早期リスク層別化と初期治療判断が重要である.近年導入された新しい心筋生化学マーカーにより初期診断,リスク層別化,予後予測,治療評価などが可能になっている.現在,心筋壊死の生化学マーカーのうち外来でできる迅速検査はトロポニンT(TROP-T®),心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP:heart type fatty acid binding protein, ラピチェック®),ミオグロビン(Cardiac Reader®)が挙げられ,急性冠症候群の早期診断に広く活用されている.
トロポニン測定の重要性と急性心筋梗塞診断基準の改訂
ACC/AHAの急性心筋梗塞診療ガイドライン(1999年),および不安定狭心症・非ST上昇型心筋梗塞診療ガイドライン(2000年)では,初期診断と初期治療の重要性が強調され,生化学的診断法として,心筋トロポニンは,CK,CK-MBに比し感度・特異度が高いこと,簡便な全血迅速診断法が開発されていること,リスク層別化,治療方針の決定に有用であることなどから,救急外来triageへの活用が推奨されている.そして2000年9月には,急性心筋梗塞の診断基準が全面改訂(ESC/ACC)された.すなわち,生化学マーカーの第一選択はCK,CK-MBからトロポニン(TおよびI)に刷新され,トロポニン上昇により検出される微小梗塞(CK上昇2倍未満)や,微小心筋傷害を伴う高リスク不安定狭心症も,急性心筋梗塞として包括されるようになった.
異常値が出るメカニズムと臨床的意義
赤血球は骨髄において造血幹細胞から分化・成熟して産生され,末梢血液に放出される.赤血球はヘモグロビンを含み,これが酸素運搬という生体にとって極めて重要な機能を司る.赤血球は約120日間の寿命の後に,主として脾臓で破壊される.
造血幹細胞の異常,赤血球の分化成熟障害,赤血球寿命の短縮,出血による体外への赤血球喪失,脾腫による赤血球の体内分布異常などが起これば赤血球数は減少し,貧血になる(表1).
ヒトの血球(赤血球以外も含む)は,自己の細胞上における補体系の活性化の結果,自己の細胞が傷害を受けることに対して抵抗性を示す.一方で,異種由来の補体系の活性化に対しては抵抗性を示さない(補体抵抗性の種特異的補体抵抗性).このような補体抵抗性は,正常な血球上に発現する補体制御因子の働きによる.
砂糖水(ショ糖水)試験およびHam試験(酸性化血清試験)は赤血球の補体感受性を検出するための検査法である.CD55(decay-accelerating factor:DAF)とCD59は,ともに血球上に発現するGPI(glycosyl phosphatidylinositol)型膜蛋白で,それぞれC3convertase(C4b2a, C3bBb)やC5b-9の形成を抑制する機能を有する膜蛋白である.
Coombs試験(抗グロブリン試験)には,赤血球がすでに不完全抗体で感作されているか否かを検出する直接Coombs試験と,血清中に含まれる不完全抗体を検出する間接Coombs試験がある.
不完全抗体とは,生理食塩水中で凝集能力を有しない抗体で,輸血による溶血性副作用,新生児溶血性貧血(Rh不適合妊娠による),自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)において,赤血球の溶血や凝集の原因となる.不完全抗体は個々の赤血球との結合はするものの赤血球凝集は起こさない.しかし,不完全抗体に感作された赤血球は抗グロブリン血清(Coombs血清,ヒト血清免疫グロブリンに対するウサギの抗血清)を加えると凝集反応が起こる.これによって赤血球に結合した抗体や補体成分を検出する試験である.
白血球は好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球からなる.これらは感染防御,免疫応答などの中心的役割を担っており,その数量的,形態的,機能的異常はさまざまな病態と関係する.特に感染,組織破壊,腫瘍などの際は,炎症反応を引き起こすため,そのマーカーとして重要になる.また,白血病など血液・造血器疾患においては,白血球そのものの量的,質的異常が問題となる.さらに薬剤などの副反応として白血球数の変動がみられることがある.
白血球産生の場は主として骨髄であり,産生はG-CSFなどのサイトカインにより影響を受ける.内因性または外因性にG-CSFが増加している場合,白血球数は増加する.また,体内での分布は,末梢血中を循環するもの,血管壁に付着しているもの,組織へ遊走しているものがあり,病態に応じてこれらの分布が変動する.このため血液検査における白血球数が必ずしも全身の白血球数を正しく反映しない場合があり,データ判読時は注意が必要である.
末梢血液像をみるという診療行為は血液疾患診断のための基本である.しかし,実際には病院の中央検査部や外部の検査センターなどにオーダーしたあと,その結果を受け取るだけで,末梢血塗抹標本を実際にみる機会は少ない.特に血液内科を専攻しない研修医や勤務医,開業医にとっては,これをみることなしに医療行為が可能といっても過言ではない.しかし,ここでは基本に戻って,末梢血液像をみる際にどのような点に注意してみる必要があるかについて解説する.
塗抹標本の肉眼での観察
染色塗抹標本を観察する場合,まず肉眼で色調をみる.正常の末梢血液ならピンク色を呈するが,白血病で白血球数が高度に増加しているときや,多発性骨髄腫で高γ-グロブリン血症があるときなどは青みが強くなる.
血小板の産生は骨髄の多能性幹細胞に始まり,単能性幹細胞に分化後,巨核球系前駆細胞,巨核芽球,前巨核球,巨核球を経て行われる.血小板は骨髄中で巨核球の細胞質の一部が分離して形成され,血小板に細分化され遊離すると考えられており,循環血中の寿命は7~10日間で,通常,体内の血小板の約2/3は血中にあり,約1/3が脾臓にプールされている.
1. 血小板産生の調節
骨髄幹細胞から巨核球の分化・成熟を経て血小板が産生されるためには,巨核球コロニー刺激因子(megakaryocyte colony stimulating factor:Meg-CSF)と巨核球増幅因子(megakaryocyte colony potentiator:Meg-POT)の両方が必要である.
骨髄検査において異常値が認められる場合には,①骨髄造血そのものの異常(白血病,再生不良性貧血,悪性貧血など),②末梢血細胞の異常に伴う反応性の変化(溶血性貧血,特発性血小板減少性紫斑病など),③他の悪性疾患の転移,感染症,代謝性疾患に伴う蓄積病など血液疾患以外の場合があり,これらの状態では骨髄検査を積極的に考慮すべきである.
骨髄の採取には2つの方法がある.1つは骨髄穿刺法による骨髄液の吸引採取で,①塗抹標本作製,②押しつぶし標本作製,③有核細胞数および巨核球数算定,④白血球表面マーカーの検索,⑤染色体検査,⑥遺伝子検査,⑦clot section(凝固・固定後の組織切片)の作製,⑧細胞保存を行う.もう1つは骨髄生検法による骨髄組織の採取で,①細胞密度,②線維化の程度,③癌転移などの腫瘍細胞の浸潤,④感染症の診断などに有用で,特にdry tapなどで吸引困難な場合は積極的に行う.成人の場合,前者は骨髄穿刺針を用いて胸骨または後上腸骨棘より,後者は骨髄生検針(Jamshidi針またはDawns針)を用いて後上腸骨棘より行うのが通常である.
血液細胞に対する特殊染色とは,末梢血,あるいは骨髄塗抹標本上の細胞質内,あるいは細胞表面に存在する酵素,脂質,多糖類や微量金属などの物質を染色法によって染め分け,検出する方法である.これらの特定の物質を検出することで細胞の同定,鑑別,細胞の機能,あるいは特定の物質の産生,不足などを推定することが可能である.多数の特殊染色があるが,本稿では主に臨床的有用性が高く,保険適用になっている染色法と臨床的意義について述べる.
1. ペルオキシダーゼ染色
顆粒球系細胞や単球系細胞の細胞質に特異的に存在するミエロペルオキシダーゼ活性を証明することで顆粒球系細胞とリンパ球系細胞の鑑別に用いる.
FAB(French-American-British)分類は血液造血器腫瘍の国際分類で,名称は仏,米,英の血液学者による共同作業として提唱されたことに由来する.最初に急性白血病の分類が発表され1),その後に骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の規定など,数回追加・改訂された2~6).このほか慢性(成熟型)リンパ性白血病や慢性骨髄性白血病の分類も提唱されている.本稿では誌面の関係もあり,最もよく利用されている急性白血病とMDSについてのみ記す.
血液造血器腫瘍では末梢血や骨髄に多数の腫瘍性異常血液細胞,いわゆる白血病細胞が出現する.これら白血病細胞の形態学特徴から症例を分類し,治療方針の決定や予後推定に役立てようとする試みが従来から行われてきた.FAB分類はこの形態学を基礎とした分類法の一種である.それまであったさまざまな形態学的分類を国際的に統一すべく提唱されたもので,その後世界的に広く利用されるようになった.後に形態学の範疇を越えて新たな概念によるWHO分類が提唱1)されたが,FAB分類はこれにも大きな影響を与えた.
PT(prothrombin time)はQuick(1935)により考案され,外因系凝固因子と共通系凝固因子に渡るスクリーニングテストとして広く日常の臨床検査に用いられている.原理はクエン酸ナトリウム加被検血漿に組織トロンボプラスチンとCaイオンを加え,凝固するまでの時間を測定するものである.
血液凝固因子の第II因子(プロトロンビン),第V因子,第VII因子,第X因子やフィブリノゲンの活性が単一あるいは複合して低下すると延長する.先天性の欠乏症・異常症や後天性の病態(肝の蛋白合成能低下による産生障害,ビタミンKの欠乏による修飾障害,当該因子への中和抗体の産生,異常蛋白産生による凝固反応の抑制,大量出血やDIC(播種性血管内血液凝固症候群)による凝固因子消費の亢進など)が原因である.この検査は外因系凝固因子または共通系凝固因子による凝固障害の存在をスクリーニングするのに有用である(図1).また,経口抗凝固薬(ワルファリン)投与や,ヘパリンなどのその他の抗凝固薬の投与でも延長し,ワルファリンの治療コントロールの指標として重要である.
PTT(partial thromboplastin time)はLangdell(1953)によって血友病のスクリーニングとして考案され,軽度の凝固因子の欠乏にも敏感に反応し,その異常を検出するので広く実施されていた.現在では接触因子を充分活性化させて安定性のある成績を得るためにセライト,カオリンまたはエラジン酸などを添加して測定する活性化部分トロンボプラスチン時間activated PTT(APTT)が一般的である.原理としては被検血漿に血小板因子としてのリン脂質を充分に補って,内因系凝固因子と共通系凝固因子の欠乏を検出する方法である.
血液凝固因子の第XII因子,第XI因子,第IX因子,第VIII因子,第II因子(プロトロンビン),第V因子,第X因子やフィブリノゲンの活性が単一あるいは複合して低下すると延長する.先天性の欠乏症・異常症や後天性の病態(肝の蛋白合成能低下による産生障害,ビタミンKの欠乏による修飾障害,当該因子への中和抗体の産生,異常蛋白産生による凝固反応の抑制,大量出血やDIC(播種性血管内血液凝固症候群)による凝固因子消費の亢進など)が原因である.この検査は内因系凝固因子または共通系凝固因子による凝固障害の存在をスクリーニングするのに有用である(図1).ただし,この凝固機構は検査上の古典的な考え方であり,臨床的には第XII因子の欠乏が出血傾向を示さないなどの矛盾から,近年の凝固機構の考え方とは一致していない.
トロンボテスト
血液凝固反応は,いくつもの凝固因子の反応系が重なり合い,次第に反応が増幅されるカスケード反応である.このうち,さらにビタミンK依存性の凝固因子(プロトロンビン,第Ⅶ,Ⅸ,XⅩ因子)は分子のN末端に数残基のγ-カルボキシグルタミン酸(γ-Gla)を有し,これらが活性化された血小板の膜表面のホスファチジールセリンに分子会合し,爆発的に増幅される.ワーファリンはビタミンKと拮抗し,上記各分子のN末端へのγ-Gla 残基の欠損した凝固因子を産生させる(これをprotein-induced by vitamin K absence or antagonist:PIVKAと称する).結果,凝固反応は延長する.これらはプロトロンビン時間(prothrombin time:PT),部分トロンボプラスチン時間(partial thromboplastin time:PTT)にも反映されるが,それをもっと鋭敏に反映させるために開発されたのがトロンボテストである.すなわちトロンボテストとは,上記4種のビタミンK依存性凝固因子の活性を鋭敏に反映するテストで,もっぱらビタミンK拮抗剤のワーファリン治療の際のモニターとして使用される検査法である.
何を調べる検査か
上述のように,ビタミンK依存性の凝固因子(プロトロンビン,第Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子)の活性を総合的に調べる検査である.したがって,ワーファリンの効果を判定するときに用いられるが,そのほかにもビタミンK欠乏時にも延長する.
出血時間は皮膚に一定の切創を加えて出血させ,自然止血に要する時間を測定する検査である.一次止血機能の過程をin vivoで検査できる唯一の検査として,古典的な検査ながら現在でも広く行われている.
一次止血に関与する血小板数・血小板機能・毛細血管とその周囲組織の性状が主に影響するため,これらの異常が出血時間延長につながる.とりわけ血小板数・血小板機能のスクリーニング検査の意味合いが強い.
血管組織が傷害を受けると,血小板による一次止血とともに凝固系が発動される.フィブリノゲンは凝固系の最終段階に関与し,トロンビンの作用を受けてフィブリンとなり,最終的に強固なフィブリン血栓を形成する中心となる(図1).
フィブリノゲンは肝臓で産生されるため,さまざまな肝障害による産生低下により低値をとる.
血液凝固反応はカスケード反応で,最終的には生成されたトロンビンがフィブリン形成と血小板活性化を惹起し,止血血栓をつくることで凝固相反応を終結する.さらにトロンビンは各種細胞に発現したトロンビン受容体(protease activated receptor-1) を介して,各種細胞を活性化し,炎症・免疫,創傷治癒などに反応を連結させる.このように,トロンビンは止血と創傷治癒のキーエンザイムである.このトロンビンの反応を制御するのがアンチトロンビンⅢ(anti-thrombin Ⅲ:ATⅢ,正式にはⅢを取って,アンチトロンビンと変更されたが,本稿では従来どおりATⅢと記載する)である.しかし,ATⅢは単にトロンビンのみを阻害するのではなく,図1に示したように,活性化第X因子(FXa), FXIa, FIXa, FXIIa などをも阻害し,凝固カスケード全体にネガティブフィードバックをかけるセリンプロテアーゼインヒビター(SERPINS)である.このATⅢのユニークな点は,ヘパリンによりその立体構造が変化し,上記活性化凝固因子を即時的に阻害しうるようになるという点である.生体内では,内皮細胞上のヘパリン様分子にアンチトロンビンⅢは結合して,即時的にトロンビンを阻害しうる形になっており,内皮細胞の抗血栓活性の一翼を担っている.ヘパリン・ATⅢ複合体とトロンビンが反応すると,トロンビン・ATⅢ複合体はヘパリンからはずれ,トロンビン・ATⅢ複合体(thrombin-antithrombin III complex:TAT) として流血中を循環し,肝臓でクリアされる.
ATⅢは分子量約65,000Daで,肝臓で合成され,一部は血管内皮細胞のヘパリン様分子に結合して内皮細胞上に,残りは血中を循環し,凝固カスケードの活性化を制御している.したがって,ATⅢの低下は凝固カスケードの制御不全,すなわち血栓傾向を示すことになる.ゆえにATⅢ測定の目的は,凝固カスケードの制御能をみる検査ということになる.
FDPはフィブリノゲンやフィブリンのプラスミンによる分解産物の総称であり,線溶亢進の指標とされる.フィブリノゲンおよび不安定フィブリンは構造上,プラスミンによる線溶分解を受けると2つのD分画とE分画になる(FDP-DとFDP-E).一方,安定化フィブリンは架橋結合を形成していることから,線溶分解によりDDE架橋複合体が形成される.
これらのうち,抗フィブリン抗体で測定されるFDPをtotal-FDP,抗FDP-E抗体で測定されるFDPをFDP-E,抗DDモノクローナル抗体で測定されるFDPをDダイマーと呼び,ラテックス免疫比濁法,ラテックス凝集法で定量測定を行う.
正常な血管内では血液の流動性が保たれ,血栓の形成は障害部位に限局する.これは正常な血管内壁に血液凝固阻止機構が備わっているからであり,プロテインC(PC)凝固制御系と呼ばれるXa因子やトロンビンの生成を阻害する血液凝固制御機構が存在するからである.血管内で生成された微量のトロンビンは血管内皮細胞上のトロンボモジュリン(TM)に結合し,PCを特異的に活性化する.活性化プロテインC(APC)はプロテインS(PS)と第V因子を補酵素として,Va因子およびVIIIa因子を失活させ,凝固反応を阻害する.
一方,APCは内皮細胞や活性化血小板リン脂質膜上でPCインヒビター(PCI)により失活される.
本稿では血液凝固因子の第Ⅱ因子(プロトロンビン),第Ⅴ因子,第ⅤⅡ因子,第ⅤⅢ因子,第ⅠⅩ因子,第ⅩⅠ因子,第ⅩⅡ因子,第ⅩⅢ因子,von Willebrand因子(vWF)について解説する.
血液凝固因子の活性化は,活性化された凝固因子が,特定の凝固因子を引き続き活性化させる逐次反応によって連続的に進行する.したがって,生体内で過剰な凝固反応が進んだときには,多くの凝固因子が連鎖的に活性化され,やがてアンチトロンビンなどにより失活を受ける.すなわち,過凝固状態の初期には,血漿中の各凝固因子の活性が見かけ上増加し,引き続き,消費性に低下する.各凝固因子は主に肝臓で産生され,特定の血中半減期に従って代謝される.この際,凝固因子の血漿濃度は,産生や貯蔵部位からの放出が増えるときには上昇する.各種の誘因によるビタミンK欠乏症では,ビタミンK依存性凝固因子群のγ-カルボキシル化が抑制され,各々の活性は低下する.また,ある凝固因子に対する特異抗体が産生されたときには血中半減期が短縮し,血漿濃度は低下する.ループスアンチコアグラントや抗リン脂質抗体症候群の血漿では,リン脂質を用いる凝固因子の共通測定系に影響を及ぼし,見かけ上複数の凝固因子活性が低値を示すことがある.
血管が傷害されると,内皮下組織のコラーゲンが露出する.また,同時に血液凝固が活性化し,トロンビンが生成される.コラーゲンやトロンビンにより血小板は活性化され,ADP(adenosine5′-diphosphate)などが放出される.これらのコラーゲン,トロンビン,ADPは血小板の受容体に結合し,リン酸化機構やトロンボキサンA2合成などの種々の活性化機序を通じ血小板凝集を惹起する.最終的には血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaが活性化し,フィブリノゲンと結合し,血小板同士を架橋することによって凝集が生じる.これらのメカニズムの中で何らかの障害が生じると,血小板凝集異常がみられるようになる.例えば,アスピリンなどの薬剤はサイクロオキシジェネースの阻害をするため,トロンボキサンA2合成が抑制され,血小板凝集が低下する.また,膜糖蛋白GPIIb/IIIaが欠損する血小板無力症では血小板凝集が欠如する.
検体採取と取り扱い上の注意
原則は空腹時採血である.鎮痛剤,Caブロッカーなどの薬剤の服用は検査に影響する.採血時間が長くかかると血小板が活性化し,測定に影響する.採血後3~4時間で測定すれば結果に影響が少ない.採血後の保存は22℃がよい.
血清には多種多様な蛋白が存在するが,これらの総量をみる検査が総蛋白であり,蛋白の構成比から病態把握を行うのが蛋白分画とA/G比である.いずれも個々の蛋白定量に比べ疾患特異性は劣るが,簡便かつ安価に血清蛋白の増減を把握できる.このため日本臨床検査医学会も,これらを「日常診療における基本的臨床検査」として推奨している.
1. 総蛋白(TP)
血清蛋白最大の供給源は肝臓である.血清蛋白の約6割を占めるアルブミンをはじめ,さまざまな蛋白が肝臓で合成される.この合成能が低下する肝機能障害とりわけ肝硬変や栄養失調で総蛋白(total protein:TP)は低下する.さらに血清蛋白が尿中に失われる腎疾患,とりわけネフローゼ症候群でもTPは低下する.
免疫電気泳動の臨床的意義
免疫電気泳動施行の目的は以下の2つである.
1. M蛋白の同定
多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,本態性M蛋白血症が疑われる症例において,M蛋白(単クローンに由来する均一な免疫グロブリン)やBence Jones蛋白の有無,種類とおおまかな量を知る.
β2-マイクログロブリン(β2-m),α1-マイクログロブリン(α1-m)はそれぞれ分子量11,000,30,000の低分子蛋白である.前者はHLA class I抗原のL鎖として,免疫応答にかかわる.一方,後者は肝臓で産生され,免疫抑制,担送機能に関連するとされるが,詳細は不明である.両者は似て非なるもの,β2-mは血清をサンプルとして腫瘍炎症マーカー,腎機能(GFR)マーカー,尿をサンプルとして尿細管マーカーとしての意義がある.一方,α1-mは腎機能(GFR)マーカー,尿をサンプルとしてより信頼性の高い尿細管マーカーである.いずれも低分子蛋白であり,分泌されると極めて短時間に糸球体基底膜を通過し,そのほとんどが近位尿細管細胞で再吸収,異化され,尿中にはわずかしか排泄されない.
腎糸球体機能の変化あるいは障害が起こると,いわゆる“根詰まり”状態となり,その程度に応じてβ2-m,α1-m両者ともに血中濃度は上昇する.GFRでそれぞれ60l/日,70l/日が目安となる.β2-mではさらに悪性腫瘍,膠原病,ウイルス疾患(HLA class Iが関連)などでは,細胞の増殖,代謝活性の増加により産生量が腎での異化除去能を上回ると,血中濃度は上昇する.これに対してα1-mはβ2-mにみられるような増加はないが,IgAと1:1モル比で結合するため,IgA型の骨髄腫などでIgA-α1-m複合体の増加により総濃度を押し上げる.
急性期蛋白の一種であるα1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin:α1-AT)およびα1-アンチキモトリプシン(α1-antichymotrypsin:α1-ACT)は蛋白分解酵素を阻害する蛋白(protease inhibitor)に属し,前者はエラスターゼ,トリプシン,キモトリプシン,コラゲナーゼなど各種のproteaseの作用を中和ないし阻害するが,後者はキモトリプシンやカテプシンGを中和し,またPSA(prostate-specific antigen)と結合する特徴がある.
α1-ATは分子量52kDa,糖含有率12%の糖蛋白で,血清蛋白分画のα1分画の主成分を占める.主に肝細胞で生成され,炎症時には2~3日で基準値の約2倍に達し,炎症の指標となる.また,α1-ATには遺伝型あり,それぞれ血中濃度が異なる.
α2-マクログロブリン(α2-M)は分子量800,000Da,糖含有量6~7%の蛋白量で,補体第3成分(C3),C4,C5などと相同性を有する.肝細胞,単球マクロファージ系細胞,星状グリア細胞など全身の種々の細胞で産生されている.α2-Mの機能はトリプシン,アンチキモトリプシン,エラスターゼ,トロンビンなどの蛋白分解酵素と結合して複合体を形成し,血中から短時間のうちに除去し,酵素機能の不活性化に作用し,さらに血液凝固線溶の制御作用にかかわる.また,ホルモン,インターロイキン-6(IL-6)などとも結合,その機能を調節する役割も狙う(図1).α2-Mはラットなどの動物種では急性相反応物質で,組織の破壊,感染症などでは短時間に濃度の増加がみられるが,ヒトではこのような変化はほとんどみられない.
臨床評価は血中濃度(質量濃度)の動態変化による.濃度増加は産生増加,クリアランスの低下が,一方,低下は産生低下,クリアランスの増加による(表1).ネフローゼ症候群では体外にすべての蛋白成分が漏出する.この結果,代償的に産生が亢進し,分子量の大きいα2-M,IgMなどは相対的に漏出されにくいため,これらの機序により血中濃度は増加する.
フェリチンは肝,脾,骨髄などほとんどの臓器に分布する水溶性の鉄貯蔵蛋白で,生体の過剰で有害な無機鉄イオンを隔離,解毒し,また必要に応じてヘモグロビンや含鉄酵素の生成時に鉄を供給するという生理的役割がある1).血液中にも微量存在し,体内の鉄貯蔵状態をよく反映する.鉄は細胞内でフェリチンmRNAを増加させ,フェリチン合成を促進させることが知られている.体内のフェリチン量は男性で約800mg,女性で約200mgとされており,成人の血清フェリチン値1ng/mlは貯蔵鉄約8mgに相当するとされている.血清フェリチンの低下は貯蔵鉄の低下を意味し,鉄欠乏状態と判定できる.一方,高値を示す場合には,貯蔵鉄の増加(鉄過剰状態)のほかに,悪性腫瘍や炎症など臓器の障害による細胞からの逸脱が原因となる.つまり,血清フェリチン値を決めるのは貯蔵鉄と細胞からの逸脱である.
臨床上の重要性と選択
1. 貧血の診断・分類
貧血が認められる場合,特に小球性低色素性貧血(平均赤血球容積MCV低下,平均赤血球血色素濃度MCHC低下)において,鉄欠乏か否かを決定するのに必須の検査である.鉄欠乏性貧血では血清フェリチン値は低下するが,プロトポルフィリン合成障害である鉄芽球性貧血,グロビン生成障害であるサラセミアでは上昇する.慢性感染症や関節リウマチなどの膠原病による,いわゆる慢性疾患に伴う貧血はしばしば小球性貧血を呈するが,血清フェリチン値は正常ないし,むしろ上昇する.
ハプトグロビン(haptoglobin:Hp)は糖蛋白で,2個のα鎖(軽鎖,α1:8.9kDa,α2:16kDa)と,ヘモグロビン(Hb)結合部位である2個のβ鎖(重鎖,40kDa)で構成されている1).HpはHp1-1(日本人での出現頻度は5.7%),Hp2-1(同33.3%),Hp2-2(同49.3%)の3亜型に分類されるが,これはα鎖に遺伝的多型があるためである2).
Hpの主要産生臓器は肝臓であるが,Hp遺伝子はマウスの肺,皮膚,脾臓,腎臓,脂肪組織にも発現が認められている.Hpの産生は成長ホルモン,インスリン,エンドトキシン,プロスタグランディン,IL-6により亢進する3).
免疫グロブリンは,B細胞が最終的に分化した形質細胞から分泌される蛋白である.抗体としての機能をもち,抗原抗体反応で中心的役割を果たし,液性免疫に最も重要な意義をもつ.臨床的に,免疫グロブリンの測定は,①液性免疫の機能をみる目的と,②形質細胞の異常増殖をみる目的に大きく分けられる.
免疫グロブリンの異常低値には,先天的な免疫グロブリン産生機序の障害によるものと(原発性免疫不全症候群),他疾患に続発するものとがある.原発性のものの多くは幼少時より易感染性を呈する.原発性免疫不全症候群の種類によって全免疫グロブリンが低値を示すものと,特定の免疫グロブリンクラスあるいはサブクラスの産生不全を認めるものとがある.一部のウイルス感染や,薬剤や放射線照射により,後天的に免疫グロブリン産生システムが障害され,免疫グロブリンの低下をきたす.ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症では,免疫グロブリンを含めた蛋白の体外への喪失が起こる.また骨髄腫においては,M蛋白以外の免疫グロブリンはその産生が抑制されて低値を示す.Bence Jones型や非分泌型では血清免疫グロブリンの低下のみが検出される.
補体とは主に肝臓で生成され,正常血清に存在する蛋白であり,さまざまな免疫反応や感染防御などにおいて関与している1).
補体には図1のようにC1から始まり,C4,C2,C3と順次反応が進む古典的経路(classical pathway)と,途中のC3から反応が開始される副経路(alternative pathway)が存在している.古典的経路は主に免疫複合体などにより補体の活性化が始まるため,補体成分のC1,C2,C4が消費されて低下するのに対して,副経路は細菌菌体成分のエンドトキシンなどによりC3以降の補体が活性化され低下する.
クリオグロブリンとは,37℃前後から沈殿・凝固し,37℃以上に加温すると再溶解する異常蛋白である.クリオグロブリンが出現する病態をクリオグロブリン血症(cryoglobulinemia)という.クリオグロブリンの大半は,何らかの疾患に伴って出現する病的異常蛋白である.出現するクリオグロブリンのタイプにより,基礎疾患がある程度推察できる
1. I型クリオグロブリン
多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症に伴って出現する.頻度は低いが,リンパ網内系増殖性疾患や,本態性(特発性)クリオグロブリン血症でもみられる.
Bence Jones蛋白(BJP)は形質細胞・B細胞系の増殖性疾患において産生された単クローン性L鎖(κ型またはλ型)である.通常は二量体(分子量44,000)で存在するため,容易に腎糸球体から濾過され尿中に排泄される.そのため血清より尿で検出されやすい(図1).ただ,四量体以上に重合すると尿中での検出率が低下することがある.
検体採取上の注意
尿検体については,早朝尿,随時尿,24時間尿のいずれでも問題ないが,早朝尿または24時間尿が望ましいとの報告1)がある.
検査の目的・意義
近年,国民の30%がアレルギー症状を有する状況となっており,今後も増加の一途をたどると考えられている.アレルギーとは抗原抗体反応のうち病的なものを指しており,Ⅰ~Ⅴ型に分けられる.IgEが関与するのはⅠ型アレルギーで,即時型アレルギーともいわれている.その定義は好塩基球あるいはマスト細胞(肥満細胞)に固着したIgE抗体が抗原と反応することにより,それらの細胞より遊離されるchemical mediator(化学伝達物質)により惹起される生体反応とされており,生体が抗原に曝露された後,数分で発症し1時間程度で消失する.アレルギー疾患では,この抗原が特異的なアレルギー反応を引き起こすうえで重要な物質であり,抗原を特定することが診断と治療に当たる際に必要となる.抗原特定のために,in vivoでのプリックテストやパッチテストなどの皮膚テストや誘発試験,感度は落ちるが安全性の高いin vitroでのアレルゲン特異的IgE抗体の検出がある.代表的な疾患として気管支喘息アトピー型,鼻アレルギー,アトピー性皮膚炎などが挙げられる.またアレルギー疾患においては,アレルゲン特異的IgG抗体,特にサブクラスの1つであるIgG4抗体の関連性が示唆されており,減感作療法や長期間アレルゲンに曝露された際に増加するとの報告もある.
アレルギー特異的IgEの感度・特異度
感度はRAST法で71%,CAP RAST法で94.2%,AlaSTAT法で71%.
栄養評価は医療の原点であり,患者には適切な栄養管理が必要である.この栄養状態の血液・生化学的指標としては,アルブミンやヘモグロビンが測定されていたが,半減期が長いことや造血状況による変動が大きいなどのために大まかな指標でしかなかった.このため,最近半減期の短いrapid turnover protein(RTP)が動的指標として利用され始めた.トランスサイレチン(transthyretin:TTR,従来はプレアルブミン),レチノール結合蛋白(retinol-binding protein:RBP)とトランスフェリン(transferrin:Tf)であり,特に前2者が栄養評価蛋白として測定されている.これらは肝臓で合成され,しかも半減期が数日と短いため,直近の栄養状態を反映し,栄養状態が不良だと低値となる.これら2つのRTPとアルブミンの物理化学性状を比較して表1に示した.
1. 重要な病態
現在の栄養状態の把握:血中の半減期が短いため,直近・現在の栄養状態の把握の指標として優れている.栄養状態の把握により,退院決定,褥瘡の予防,(周術期)の栄養法の選択が可能となる.
細菌感染では著しい発熱を伴い,明確な炎症所見を呈することに一致して急性相反応性蛋白,なかでもCRPは著増する.典型的な例では感染した局所で細菌がリポポリサッカライド(LPS)を放出し,これが集積した炎症細胞を刺激してインターロイキン(IL)-6,IL-1β,IL-8や腫瘍壊死因子(TNF)-αの産生を促す.これらのサイトカインは肝臓に作用して,肝細胞でCRPを代表とする急性相蛋白を産生して血中に放出する.CRPの産生部位が肝細胞に限らず,その他の組織で産生される可能性も指摘されている.しかし,CRPの血中濃度を規定するのはほぼ100%が肝臓由来とされている.他方,炎症性サイトカインは中枢神経系に作用して脳内プロスタグランディンの産生を介するなどして発熱をもたらし,交感神経活動を亢進させて頻脈をきたす.このようにして,細菌感染はわれわれが知る典型的な臨床的炎症所見を呈することになる.
このように,急性相反応蛋白は主に肝臓を産生の場とするために,肝障害では凝固因子やコレステロールと同様に産生が減少することが想定されるが,実際には肝障害の程度と正相関してCRP濃度の基礎値が上昇する.その機序としては,肝でのエンドトキシン処理能が低下するためにエンドトキシン血症を呈し,その刺激によって産生能が低下していても,持続的に比較的少量ながら急性相蛋白を産生し続けるためと思われる.
赤血球沈降速度(赤沈または血沈)とは,抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)を加えた血液を垂直に立てた細いガラス管に入れ,1時間後に赤血球が沈降してできた上清の血漿部分の長さをミリメートル単位の数値で示したものである.検査手技はWestergren法(国際標準法)1,2)による.近年は赤沈自動測定装置を用いる施設もある.
静置した血液中では,円盤状の赤血球は積み重なるように凝集塊を形成して沈降する.早く大きな凝集塊が形成されるほど,赤沈は亢進する.血液中で赤血球は陰性に帯電しており,赤血球同士は反発しているが,陽性荷電をもつγ-グロブリンやフィブリノゲンが増加すると,この反発が減少して凝集形成が促進される.一方,陰性に荷電しているアルブミンは凝集を抑制する.赤血球密度が低いと沈降は亢進し,球状赤血球などの形態異常のある赤血球は凝集が起こりにくいため沈降速度は遅延する.このように,赤沈は上記の血漿蛋白や赤血球の密度・形状を反映するものである(表1).
血液生化学検査で測定される尿素窒素は,血中に存在する尿素中の窒素量であり,慣用的にBUN(blood urea nitrogen)という用語がよく用いられている.しかし,通常は血清中の尿素窒素(serum urea nitrogen:SUN)を測定している.血清で検体を保存する場合には,室温で1日,氷室保存で数日,凍結保存で6か月は安定である.
尿素は非蛋白性窒素化合物の1つであり,蛋白代謝の終末産物である.つまり,経口的に摂取された蛋白や組織蛋白の最終産物であるアンモニアから尿素は生成される.尿素の合成は肝細胞においてオルニチン-アルギニン-尿素サイクルの経路で行われ,血中に入り尿中に排泄される.尿素は分子量が小さい(60 daltons)ため,糸球体から自由に濾過されるが,その濾過指標としての利用は,尿素の再吸収が水分の再吸収と密接にリンクしているので制約を受ける.したがって,BUN値は利尿状態により変動する.尿素は近位および遠位尿細管のいずれでも再吸収されるが,近位尿細管では利尿状態にかかわらず,濾過量の大部分が再吸収される.しかし,腎髄質集合管における尿素の再吸収は,利尿状態によって左右される.抗利尿ホルモンの欠如(利尿)状態で髄質集合管は尿素に比較的非透過性を示すため,この部位からの尿素の再吸収はわずかである.逆に,抗利尿ホルモンの存在(抗利尿)状態では髄質集合管の尿素透過性が亢進し,尿素の再吸収は増加する.このような尿細管での再吸収のため,正常人の尿素クリアランス(C urea)は糸球体濾過率(GFR)を下まわる.その程度は利尿状態によって変わるため,C urea/GFR比は利尿期の0.65から抗利尿期の0.35まで変化する.
尿酸はヒトにおけるプリン代謝(図1)の最終産物であり,主として尿中に排泄される.プリンヌクレオチドはde novo経路とサルベージ経路という2つの経路により合成される.プリンのde novo合成では11段階の酵素反応によりイノシン酸(IMP)が生成される.一方, サルベージ経路はプリン塩基から直接ヌクレオチドを合成する経路である.図1に示すHPRT,APRTがこの経路を担当する酵素である.体内のプリン体が分解されて生じるプリン塩基は,この経路でヌクレオチドとして再利用されることになるが,再利用されなかったものは異化されてキサンチンデヒドロゲナーゼにより尿酸に変換される.
血液中の尿酸は糸球体でほぼ100%濾過されたのち,近位尿細管で再吸収あるいは分泌され,最終的に糸球体で濾過された尿酸の10%程度が尿中に排泄される.最近,近位尿細管に存在するトランスポーターであるURAT1が尿酸再吸収の中心的な分子であることが明らかになった1).以上の経路に何らかの要因が作用して,血清尿酸値の異常(高尿酸血症,低尿酸血症)が引き起こされる.
アンモニアは主として腸管内で食事蛋白から生成されるが,核酸などおよそNを含むあらゆる有機物からも発生する.アンモニアは中枢神経系に対し毒性を有するため,肝に存在するウレアサイクルを介して毒性の低い尿素に変換され,腎から排泄される.その他,アンモニアは肝,筋肉,脳,腎においてα-ケトグルタル酸→グルタミン酸→グルタミンへと変換する際に1分子ずつ取り込まれて解毒されるし,クエン酸→アラニンの変換にも1分子取り込まれ解毒されるが,これらの系はアンモニアの摂取容量が小さく,この反応は可逆的であり,再びアンモニアを放出するので,最終的にはウレアサイクル機能がアンモニア代謝の要となる.血中アンモニア上昇はアンモニアのウレアサイクルの代謝が阻害される以下の病態で上昇する.
先天性ウレアサイクル異常症
劇症肝炎や非代償性肝硬変などによる後天性の肝不全状態
特発性門脈圧亢進症などによる門脈-体循環シャント(表1).
異常値の出るメカニズムと臨床的意義1,2)
クレアチンは,健常成人の体内に100~120g存在し,そのうち2~3gが毎日代謝されている.1日代謝量の約半分は肉や魚などの食物から摂取され,残りの半分は体内のアルギニン,グリシン,メチオニンから合成される.クレアチンの約95%は骨格筋に存在し,残りは精巣,心筋,脳などに含まれている.最終的にクレアチンは筋において脱水され,最終代謝産物であるクレアチニンとなる.血液中クレアチンは,大部分が赤血球中に存在するため,血清濃度は1mg/dl以下と低値である.クレアチンは糸球体にて濾過された後,尿細管でほとんどが再吸収され,閾値を超えた場合に尿中に排泄される.
クレアチニンはほとんどが筋肉で産生されるため,産生量は総筋肉量に比例する.血液中のクレアチニンは糸球体で濾過された後,ほとんど再吸収されずに尿中に排泄される.それゆえ,血清クレアチニン値は糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)と筋肉量の影響を受け,GFRの低下や筋肉量の増加が起こると血清クレアチニンは上昇する.また,尿中クレアチニン排泄量は体重,運動量,腎機能に著変がない限り1日生産量とほぼ同等で一定と考えられており,尿中クレアチニン値は蓄尿検査の正確さの指標となる.
健常成人では1分間当たり100ml(24時間で140l)の血漿が糸球体で濾過され,尿細管でさまざまな修飾を受け尿がつくられる.体内の細胞外液の総量は10~20lであり,細胞外液は1日12~15回程度糸球体で濾過されることになる.これは極めて多量の細胞外液が糸球体で濾過され再吸収されることを示し,これによって老廃物の排泄や水電解質代謝が調節されている.糸球体で濾過されたものの排泄は,濾過された大部分が尿中に排泄されるクレアチニンのようなものから,ほぼ100%尿細管で再吸収され尿中に排泄されないグルコースなどまで物質によりさまざまである.
一般に腎機能は,老廃物の除去にかかわる糸球体の濾過機能,糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)で表される.GFRは「単位時間当たりに糸球体で濾過された水(血漿)の量」であり,腎機能低下とともにその量は減少する.しかし,真のGFRを求めることは難しく,いくつかの検査値で代用され,その1つがクリアランスである.尿中に排泄される物質のクリアランスは「ある物質が単位時間内に尿中に排泄された量と同じ量を含む血漿量(濾過量)」と定義される.尿細管や集合管でまったく再吸収や分泌が行われない物質であれば,尿中に排泄される量と糸球体からの濾液に含まれる量は等しいことになる.それぞれの量は尿中,血中濃度から計算でき,表1の①の式が成り立つ.
正常人においては1日250~350mg(4.4±0.7mg/kg)のビリルビンが網内系細胞で生成されるが,そのうち約70%は老化赤血球のヘモグロビンに,10~20%は骨髄の無効造血に,約10%は肝のヘム蛋白に由来する.生成された非抱合ビリルビンはアルブミンと結合して肝に運ばれ,OATP(organic anion transporting polypeptide)を介して肝細胞に取り込まれる.その後,輸送蛋白Z,Yにより小胞体に運ばれ,そこでbilirubin uridine diphosphate glucuronosyl transferase(UGT)によりグルクロン酸抱合を受け,抱合ビリルビンとなり毛細胆管側膜に存在するMRP2(multidrug resistance protein 2)を介して胆汁中に排泄される(類洞側膜にはMRP3が存在する).したがって,血中ビリルビンの上昇は,ビリルビンの生成増加,肝細胞でのビリルビンの摂取,輸送,抱合,排泄の障害,胆道系での排泄・流出障害で認められる.臨床的にはビリルビン測定は肝・胆道系疾患,溶血性疾患,体質性黄疸などの診断,鑑別,経過観察,予後判定などに利用される.
血清中の総ビリルビン,直接(抱合)ビリルビン,間接(非抱合)ビリルビン(総ビリルビン-直接ビリルビンで算出)の観察は,臨床では下記の目的で使用される.
クレアチンキナーゼ(CK)はクレアチンとクレアチンリン酸との化学反応を触媒する酵素で,共役するADP→←ATPの変化を介してエネルギー代謝上極めて重要な役割を果たしている.特に筋肉や脳での即時的なエネルギー供給はこの反応系を利用しているため,これら臓器には,多量のCKが存在している.このため,これら臓器が損傷された場合には存在するCKが血中に逸脱するために,血中CK活性が上昇する.したがって,血中CK活性の変動はCKが多量に存在する骨格筋,平滑筋,あるいは脳などの損傷を反映することから,日常的に測定されている.臨床的意義が高い疾患・病態は,心筋梗塞,筋ジストロフィー症などの筋肉疾患,中枢神経疾患であり,筋肉が変性する甲状腺疾患でも臨床的意義は高い.
1. 重要な疾患
心筋梗塞:診断上極めて重要な検査である.
筋ジストロフィー症,骨格筋疾患:骨格筋の損傷や変性を反映するため,診断や経過観察には重要である.
心筋細胞傷害を診断するための血液生化学的マーカーは,細胞質可溶性分画に存在するCK,CK-MB,ミオグロビン,心臓型脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein:H-FABP)と,筋原線維を構成するトロポニンT・I ,ミオシン軽鎖などが活用されている.
虚血性心筋細胞傷害では,まず心筋細胞膜が傷害され,細胞質可溶性分画のマーカーが循環血液中に遊出する.虚血が軽度で短時間のうちに解除されれば,マーカーの上昇は軽微かつ短時間であり,心筋細胞傷害は可逆的である可能性が考えられる.非ST上昇型急性冠症候群では,microemboliにより微小梗塞を生じ,このような場合,トロポニンの検出により高リスク群を同定することができる.さらにST上昇型梗塞の場合のように,虚血が高度(赤色血栓による完全閉塞)かつ長時間に及んだ場合には,心筋細胞蛋白分解酵素の活性化により筋原線維が分解され,トロポニン,ミオシン軽鎖などの収縮蛋白が循環血液中に遊出してくる.
乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LD)は解糖系最終段階の酵素で,ほとんどすべての細胞に存在する.H(B)とM(A)の2種のサブユニットからなる四量体であり,5種のアイソザイムを形成する.これらアイソザイムの割合は各細胞・組織で特異的なパターンを示す.細胞の可溶性分画に存在するため,細胞の傷害時に直接もしくはリンパを通って間接的に血管内に流入する,いわゆる逸脱酵素(releasing enzyme)である.したがって,大多数の細胞傷害で血清LD活性が上昇するため,非常に感度のよい,体内での異常の発信シグナルである.特に,数,大きさ,含量の多い細胞,組織の傷害の異常を優先的に反映する.血球細胞(溶血性貧血,白血球など),肝臓(急性肝炎など),骨格筋(筋ジストロフィー,多発性筋炎など),心筋(心筋梗塞など),腫瘍(悪性腫瘍)のほか,腎不全,間質性肺炎,自己免疫性疾患,ウイルス感染症などで上昇する.同じ由来ならば,傷害を受けた細胞数が多ければ多いほど,血清LD活性が高い.
赤血球中には血清中の200倍以上のLDが存在するため,溶血検体では血清LD活性が上昇するとともに,赤血球由来のアイソザイム1,2型が上昇するので注意する.過激な運動後はクレアチンキナーゼ(CK)の上昇が著しいが,骨格筋由来のLDも上昇する.検体採取後数日経過してから,LD高活性のためにアイソザイム分析を依頼することは,活性もアイソザイムパターンも本来のデータから変化している危険性が高いことから,奨励できない.
AST(aspartate aminotransferaseまたはGOT:glutamic-oxaloacetic transaminase)は心筋,肝,骨格筋,腎,赤血球などに含まれ,ALT(alanine aminotransferaseまたはGPT:glutamic-pyruvic transaminase)は肝,腎に多い.肝ではASTはALTの約3倍の含有量を示す.これらの組織細胞の傷害により血中に逸脱し,活性値は上昇する.腎組織に多量のaminotransferaseが存在するにもかかわらず,腎疾患での血中aminotransferase上昇は稀であるが,血中への逸脱より尿中への排泄が主となるためと考えられる.AST・ALTともに細胞内では細胞質の可溶性分画に存在する.さらにASTはミトコンドリアにも存在し,可溶性分画のASTはAST-s,ミトコンドリア内のASTはAST-mと呼ぶ.血清中に存在するASTのうちAST-sが主であれば,細胞の傷害は比較的軽度で,壊死に陥っている細胞は少ないが,AST-mの血中への逸脱は高度の細胞傷害・壊死あるいはミトコンドリア傷害が考えられる.肝小葉内ではASTは中心静脈周囲により多く局在している.各酵素の半減期はAST-s10~20時間,AST-m5~10時間,ALT40~50時間で,病態解析の際にはこれを考慮する必要がある.
AST・ALTともにビタミンB6の誘導体であるピリドキサル5′-リン酸(pyridoxal 5′-phosphate:PALP)を補酵素とし,細胞内ではPALPを結合した状態のホロ型酵素と,PALPを結合しない状態のアポ型酵素の両型が存在する.血清中にも両型が存在し,ホロ型酵素はそのままでも活性を示すが,アポ型は測定時にPALPを加えてホロ型に変換しないと活性を示さない.ホロ型が主であるが,総活性中に占めるアポ型活性の割合は病態により差がある.
ALP(alkaline phosphatase)はアルカリ条件下でリン酸モノエステルを加水分解し,無機リン酸を生じる亜鉛酵素である.種々の臓器組織中に存在するが,血中に検出されるものは肝,胆道,骨,胎盤,小腸に由来する.ときに悪性腫瘍がALPを多量に産生することもある.
ALPにはアイソザイムが存在する(表1).ALPはセルロースアセテート膜またはアガロースゲルの電気泳動により6分画に分けられ,病態により1~4分画が出現する.ALP1は肝・胆管細胞膜と結合した高分子ALPであり,通常は胆汁中に排泄されているが,胆管内圧の上昇時に類洞へ逆流して血中に出現する.ALP2は肝性ALPであり,さまざまな肝・胆道疾患で合成が亢進して血中濃度が上昇する.ALP3は骨性ALPであり,代謝性疾患や骨破壊性病変に対する反応性の骨増殖が起こっているときにリン酸カルシウム沈着のために合成が亢進する.ALP4は胎盤性ALPであるが,稀に悪性腫瘍由来で出現することもある.ALP5は小腸性ALPであり,消化管での脂肪吸収時に,脂肪とともにリンパ管に入り,胸管を経て大循環に入る.ALP6は免疫グロブリンと結合したALPであり,潰瘍性大腸炎の活動性に伴い血中に出現することがあるが,総ALP値への影響は軽度である.また,ポリアクリルアミドゲル電気泳動では最陽極側にもう1分画出現することがあり,これは肝細胞癌が産生する異常アイソザイム(variant ALP)である.
γ-GTP(γ-glutamyl transpeptidase)はペプチドのN末端のグルタミン酸を他のペプチドまたはアミノ酸に転移する酵素であり,グルタチオンの分解が生理的役割と考えられており,正式にはγ-glutamyltransferaseと呼ばれる.グルタチオンはγ-グルタミル基をもつペプチドの1つであり,肝ミクロゾームにおける薬物代謝に重要な役割をもち,多くの物質の抱合,解毒,排泄にかかわっている.他のペプチダーゼ同様,brush border membraneに局在し,腎尿細管,腸絨毛,膵などにも分布する.肝細胞ではミクロゾームと毛細胆管膜に局在する.血清中のγ-GTPは肝・胆道系疾患に特異性が高い.
γ-GTPの特徴の1つは,アルコールやある種の薬物によりミクロゾーム酵素としての誘導を受け,肝細胞障害によるトランスアミナーゼ値の上昇程度にそぐわない上昇を示す点である.ただし,酵素誘導によって血中にγ-GTPが上昇する機序は不明である.また,胆道系酵素として肝内および肝外胆汁うっ滞では上昇する.
LAP(leucine aminopeptidase)はペプチドのN末端のアミノ酸を遊離する酵素である.他のペプチダーゼ同様,brush border membraneに局在し,毛細胆管,腎尿細管,腸絨毛,膵などにも分布する.肝細胞ではγ-GTPと同様にミクロゾームと毛細胆管膜に局在する.血清中のLAPはγ-GTPと同様に肝・胆道系疾患に特異的である.アルコール性肝障害や薬物性肝障害ではアルコールや薬物の常用によって誘導され,肝に増加し,障害が加われば血中に増加する.また,胆汁うっ滞やその他の胆道系疾患で幅広く上昇する.そのため,LAPはALP,γ-GTPとともに胆道系酵素と呼ばれ,黄疸の鑑別,肝・胆道系疾患の診断および経過観察に用いられている.
臨床的意義
肝・腎などの細胞膜に存在する酵素m-LAP(膜結合性アミノペプチダーゼ)は,合成基質(leucyl-β-naphthylamide)を用いて測定されたLAP活性であり,肝・胆管系の炎症,胆道閉塞などで上昇する.高度の上昇は閉塞性黄疸や原発性胆汁性肝硬変を疑う.また薬物,特にミクロゾーム酵素誘導をもたらす薬物では上昇する.
ADA(adenosine deaminase)は哺乳類のすべての細胞にみつかる酵素で,その主な局在は細胞質である.作用としては核酸のアデノシンと2′-デオキシアデノシンをイノシンあるいは2′-デオキシイノシンへ変換する働きがあり,このとき同時にアンモニアが生じる.
ヒトにおいてADAの酵素活性が一番高いのは胸腺とリンパ組織で,筋肉,肝臓,腎臓,血液などでは比較的活性が低いとされる.腸管の細胞(特に十二指腸の上皮)もADA活性が高い.胸腺や末梢血T細胞の解析ではADA活性は成熟とともに低下することが知られている.中枢神経系の発達もADAの影響を受けることが知られていて,ADA欠損の小児には神経障害がみられることがあるが,これはADA補充療法で改善する.ADAは細胞表面にもみつかる(ecto-ADA)が,この細胞表面のecto-ADAの発現調節についてはよくわかっていない.Ecto-ADAはおそらくCD26などの分子に結合することにより,co-stimulatory分子として働いているものと思われる.そしてこの第2の機能に関して,酵素活性は関係していないものと考えられている.
ヒト体内には神経組織,筋,赤血球に分布し,神経伝達物質のアセチルコリンを特異的に水解するアセチルコリンエステラーゼ(acetylcholine esterase, EC3.1.1.7,以下AChE)と肝,膵,血清,皮膚,心臓などに分布し,アセチルコリンを含む他のコリンエステルも水解する偽コリンエステラーゼ1)または血清コリンエステラーゼ(acylcholine esterase, EC:3.1.1.8,以下ChE)という2つのコリンエステラーゼが存在する.
ChEは分子量約348,000で,四量体からなる糖蛋白であり,至適pHが8.3,それぞれカルバミン誘導体により拮抗阻害,除虫剤のパラチオンやサリンなどの有機リン化合物で非拮抗阻害を受ける.その結果,有機リン剤の中毒ではきわめて低値を示す.
アルドラーゼ(aldolase:ALD)は分子量150kDaの四量体蛋白である.嫌気性解糖系酵素の1つであり,六炭糖であるフルクトース-1,6-二リン酸(fructose-1,6-diphosphate:FDP)を2分子の三炭糖,ジヒドロキシアセトンリン酸(dihydoxyacetone phosphate:DHAP)とD-グリセルアルデヒド-3-リン酸に,フルクトース-1-リン酸(fructose-1-phosphate:FIP)をDHAPとD-グリセルアルデヒドに分解する1,2).
ALDにはA(筋)型,B(肝)型およびC(脳)型の3種類のアイソザイムが存在する.これらの遺伝子は別々の染色体上にあり,A型は第16(q22-24),B型は第9(q21.3-22.3),C型は第17(cen-q21)染色体上に存在する1).また,発生分化の過程で各遺伝子の発現量が異なるため,アイソザイムの発現パターンは変化する1).
ICG(indocyanine green:インドシアニングリーン)は暗緑色の合成色素で,血管内注入後,ほぼ完全に血漿蛋白と結合し(主にリポ蛋白と結合,一部はアルブミンと結合),血中を循環後,肝にのみ選択的に取り込まれる.肝細胞内に取り込まれたICGは,抱合を受けることなく,そのままの形で胆汁中に排泄され,腸管循環をせず,また肝外排泄もなく,腸管に排泄される.一定量のICG投与後,経時的に血中の残存量を測定することにより,①有効肝血流量,②肝細胞の色素摂取・排泄能がわかる.臨床的には肝疾患の診断をはじめ,その重症度判定,治癒,予後の判定などに用いられる.また,外科的にも手術適応や術式の決定,切除範囲の決定など,手術の患者管理面で肝予備能力を定量的に反映する検査法である1).
具体的にはICG排泄試験の指標として血中消失率(K値),および15分停滞率(ICG R15)が用いられる.
1. 膵・唾液腺から血中への病的逸脱
膵管・総胆管・Vater 乳頭部の閉塞による膵液うっ滞や,膵実質の炎症・破壊が生じるとアミラーゼが血中に逸脱して,血清および尿中のアミラーゼ値は上昇する.膵実質の荒廃や広範切除など膵残存機能が低下すると,膵由来のアミラーゼ(P型アミラーゼ)は減少するが,唾液腺由来のアミラーゼ(S型アミラーゼ)が存在することから,血清総アミラーゼ活性が著明に低下することはない.耳下腺炎,耳下腺膿瘍,唾石などによる唾液分泌障害があると,唾液腺由来のアミラーゼの血中逸脱が起こり,血清アミラーゼが上昇する.
2. 腎からの排泄低下と血中停滞
血清アミラーゼの約1/3は腎糸球体を通過して尿中に排泄される.腎機能が正常の場合には,血清アミラーゼと尿中へのアミラーゼ排泄量は相関するが,腎不全では尿中へのアミラーゼ排泄が低下し,血清アミラーゼが増加する.血清中のアミラーゼの一部が免疫グロブリンや多糖体と結合したマクロアミラーゼは,腎糸球体を通過できないことから尿中に排泄されないので,尿中アミラーゼは低値となり,血清アミラーゼは持続的高値を示す.
リパーゼ,トリプシンはアミラーゼと同様に膵腺房細胞で合成され,膵液中に分泌される膵消化酵素である.正常でもこれら膵酵素の一部は血中に逸脱しているが,その血中レベルは膵の炎症,膵管の閉塞,膵液のうっ滞などで上昇し,膵切除,膵組織の荒廃など残存膵機能の喪失により低下する.したがって,血中膵酵素値は逸脱酵素の増減,膵の炎症の程度,膵管閉塞や膵実質の残存量などを推測する指標となり,急性および慢性膵炎,膵癌などの膵疾患の診断や経過観察に汎用される.リパーゼとトリプシンはアミラーゼに比して膵特異性が高く,膵疾患診断における感度は優れる.リパーゼは活性型酵素として膵のほかに微量ながら胃・胆囊・舌などにも存在するが,血中リパーゼはほぼ膵由来である.膵特異的に存在するトリプシンは前酵素のトリプシノーゲンとして分泌され,十二指腸内でエンテロキナーゼによって活性化される.血中トリプシンとして測定されるのはトリプシノーゲンと,活性化してプロテアーゼインヒビターのα1-アンチトリプシンと結合したトリプシンである.α2-マクログロブリンと結合したトリプシンは測定できない.トリプシン測定はエラスターゼ1,ホスフォリパーゼA2と同様に免疫活性を測定するRIA法による.
日常診療において膵疾患診断に必須項目として用いられているアミラーゼに比べて,リパーゼ,トリプシンはともに膵特異性および感度が高い.膵疾患のスクリーニングや他疾患との鑑別にはアミラーゼ単独ではなく,通常リパーゼの組み合わせが推奨される.これら酵素活性測定法はオートアナライザーでの測定が可能で,簡便かつ迅速な結果が得られる.トリプシンはRIA法による他の膵酵素測定と同様に感度面で優れるが,高価で測定に長時間を要することから緊急検査としては有用とはいえない.
酸ホスファターゼとは1)
酸ホスファターゼ(acid phosphatase:ACP)は,酸性pH下(pH4~6)で有機モノリン酸エステルを無機リン酸イオンとアルコールに加水分解する酵素である.ACPは,全身の組織に広く存在するが,特に前立腺(腺上皮)組織での発現が強く,他の組織に比べ200倍以上の酵素活性を有している.このほかに赤血球,血小板,hairy cell,肝,破骨細胞,脾,腎などでも比較的強い活性を認める.これらのACPはそれぞれ臓器ごとに特有の阻害物質を有していることでも知られている.例えば,前立腺由来のACP(prostatic acid phosphatase:PAP)活性はl-酒石酸に強く阻害されるが,これを利用して前立腺由来の酸ホスファターゼの酵素活性を測定することが可能である.一方,酒石酸によるこの阻害は骨(破骨細胞)やhairy cell由来のACPでは認められない(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ,tartrate resistant ACP:TRACP).TRACPが破骨細胞に活性を有することから,破骨細胞の組織化学的な証明に用いられるだけでなく,最近では骨代謝マーカーとしても使用されている.このほか,赤血球由来のACP活性はホルムアルデヒドや銅イオンに強く阻害されることが知られている.
ヒトPAPは分子量約10万の糖蛋白質で前立腺特異抗原(prostate-specific antigen:PSA)と同様に前立腺上皮に特異的に発現していることが知られている.なお,PAPに関しては別項も参照されたい.
ADH(alcohol dehydrogenase)は多数のアイソザイムが存在するが,エタノールを基質としてその活性を測定した場合,本酵素の生体内分布は95%が肝で,他臓器では胃粘膜,腎,睾丸,脳,網膜などでわずかに活性を認めるのみであり,肝細胞内では細胞質に局在する.したがって,ALTやLDHなどと同様に肝の逸脱酵素としての性格を有することから,本酵素の血清中の活性を測定することは,肝細胞障害の程度を把握するのに有用な検査である.組織所見の中で,肝細胞壊死の程度と血清ADH活性とが相関することが明らかにされている.
検体取り扱い上の注意
ADH活性は4℃保存で24時間後には20%失活するため,採血後は速やかに測定するか,-80℃で保存し,2カ月以内に測定することが望ましい.
1. 異常値の出るメカニズム
グルコース(ブドウ糖)は分子量180の単糖で,血液中の糖質の主成分である.生体にとって重要なエネルギー源であり,血中のグルコースの濃度を血糖値という.生体内のグルコースは,腸管からの糖の吸収,肝における糖新生と糖放出,腎からの排泄,骨格筋や脳での糖利用,自律神経およびさまざまなホルモン(インスリン,グルカゴン,成長ホルモン,カテコラミン,ステロイドホルモン,成長ホルモン)などにより規定され,恒常的に維持される.これらの恒常性が破綻したとき,高血糖あるいは低血糖をきたす.
高血糖は主に一過性と持続性に分けられる.例えば胃切除後症候群は前者に含まれるが,これは糖質が胃でとどまらずに一気に体内へ吸収されるため一過性に高血糖となるためである.また,肝硬変では肝でのインスリン作用が障害されるため食後高血糖を起こす.後者は,いわゆる糖尿病であり,インスリン分泌低下や欠乏が主たる原因である.膵β細胞が免疫学的機序により破壊され,絶対的インスリン分泌低下に至るのが1型糖尿病であり,糖尿病の約5%を占める.一方,インスリン作用障害による慢性的高血糖,あるいはそれにより相対的インスリン分泌低下を特徴とするのが2型糖尿病であり,本邦の糖尿病の大部分を占める.また,インスリン拮抗ホルモン(成長ホルモン,カテコラミン,ステロイドホルモンなど)が過剰な状態でも高血糖を招く.
グリコヘモグロビンとは,赤血球内のヘモグロビンにグルコースが非酵素的に結合した糖化ヘモグロビンのことであり,ヘモグロビンAのβ鎖N末端のバリンにグルコースが非酵素的にシッフ塩基結合をしてアルジミンとなり,さらにアマドリ転位を受けてケトアミン化合物となる.このうち,前者は可逆性で不安定型HbA1c,後者は不可逆性で安定型HbA1cと呼ばれる.
測定法の主流は高速液体クロマトグラフィ(high performance liquid chromatography:HPLC)法であり,陽イオン交換樹脂を用いると図1のように検出され,現在は安定型HbA1cのみを測定し,算出している.
グルコースと生体内蛋白であるヘモグロビンが非酵素的に結合したケトアミンがグリコヘモグロビンであるのに対し,グルコースとアルブミンが結合したものがグリコアルブミンである.本来,これらの糖化蛋白はその蛋白の存在する期間の平均血糖に依存して生成されるため,用いる蛋白の半減期の違いによって,異なった期間の平均血糖を推測する指標となる.アルブミンの血中半減期はヘモグロビン(約120日)より短く,約20日であることから,過去2~4週間の血糖の平均を反映し,HbA1cより短期の血糖コントロール指標として用いられている.また,アルブミンとグルコースの結合はヘモグロビンの約10倍であるため,グリコアルブミンは血糖の変化に際してはHbA1cより大きく変動する.HbA1cとのこの差を利用し,糖尿病の治療開始時や不安定型糖尿病などで早期に血糖コントロール状態の変化を把握したい場合はHbA1cよりグリコアルブミンがよく用いられる.また,HbA1cが偽高値または偽低値を示し,血糖コントロールの指標として不適切な場合も用いられる.
糖尿病治療の主たる目標は,慢性合併症の発症および進展を予防することであるが,DCCTやKumamoto Studyなど多くの調査はその血糖コントロール指標としてHbA1cを採用している.したがって,エビデンスに基づけば糖尿病ではHbA1cを測定したほうが望ましい.しかし,血糖が安定した条件下では,血糖値とグリコアルブミンの関係はHbA1cの場合と基本的に同じであり,グリコアルブミンはHbA1cの約3倍の値となるといわれており,グリコアルブミンを血糖コントロール指標として用いる場合はこのことを参考にする.また,図1のように糖尿病の治療開始後の経過をみるのにも,グリコアルブミンはHbA1cよりもより早期により大きな変動を示すため優れた指標となる.さらに,透析糖尿病患者における血糖管理についても,透析による赤血球破壊や赤血球寿命短縮などによりHbA1cは偽低値を示すことが多いため,透析患者ではグリコアルブミンのほうが有用である(図2)といわれている.このように,これらも含めて,表1に示すような病態の場合はHbA1cよりグリコアルブミンを測定したほうが有用である.
微量アルブミン尿の出るメカニズム
腎糸球体基底膜には蛋白を通さないバリアー機能があり,健常人では尿中に極めて少量の蛋白しか排泄されない.このバリアーにはチャージバリアーとサイズバリアーの2種類が存在する.チャージバリアーは糸球体基底膜の陰性荷電によるものであり,その結果として陰性荷電を有する血中のアルブミンは通過しにくい.一方,サイズバリアーは糸球体基底膜のポアサイズ(穴の大きさ)がその主体であり,血中の蛋白分子量が大きいと通過しにくい.糖尿病性腎症(腎症)では最初にチャージバリアーが障害され,次いでサイズバリアーが障害される.
アルブミンは分子量が約67,000で,サイズバリアーをかろうじて通過可能であるが,陰性に荷電しているため通常では通過しない.腎症でチャージバリアーが障害されると尿中アルブミン排泄量が増加し,いわゆる微量アルブミン尿となる.
1,5-AG(1,5-anhydroglucitol)はグルコースとよく似た構造を有するため,高血糖により尿糖が排泄されると,腎尿細管での再吸収が競合阻害を受けて尿中に排出され,血中濃度が低下する.血糖上昇が軽度で短時間であっても,尿糖は速やかに排泄されるため,1,5-AGはすべての血糖指標の中で,血糖変化を最も早期にとらえる先行指標となる1).
減少後,治療により血糖が完全に正常化して尿糖がなくなると,1日あたり0.3μg/mlのほぼ一定の速度で,その個人がもつ基準値にまで回復する.1,5-AGの代謝は活発ではなく,供給量もほぼ一定であるため,この回復率には日差や個人差は少ない.回復過程で尿糖が出現すると,その量に応じて増加量が鈍るか,再度減少する.
インスリンとC-ペプチドは等モルで膵β細胞より分泌される.血中インスリンレベルの測定は,①内因性分泌動態の追跡に,あるいは②外来性投与ヒトインスリンの血中プロフィールの把握に必須となる.ただし,インスリンアナログ製剤注射による血中インスリンレベルは従来の方法では計測できない.一方,血中C-ペプチドの測定は,血中インスリンレベルを測定しても意味がない場合に必要となる.すなわち,インスリン治療時に内因性インスリン分泌状況を追跡するときである.一方,尿中C-ペプチド排泄量の測定は内因性インスリン分泌量の推定に有用となる.
糖のながれ,その結果としての血糖応答状況を規定する因子が,インスリン分泌動態と,全身臓器における糖の処理に及ぼすインスリン作用である.健常人のみならず糖尿病患者においても,インスリン分泌は血糖値に最も大きく左右されることから,血中インスリン濃度や,尿中C-ペプチド量を計測する際には,必ず血糖応答を把握したうえで結果を評価すべきである.インスリン分泌動態とインスリン作用を同時に,鋭敏に把握する手段として75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)がある.OGTTでは,単に血糖値を経時的に測定するのみではなく,血清インスリン値を測りたい.せめて負荷前,30分値,120分値,の3点は実行すべきであろう.図1に示すように,2型糖尿病の遺伝表現型として“血糖値上昇に対応して瞬時に分泌されるべき追加インスリンの欠如”を有しているにもかかわらず,インスリン感受性が亢進し耐糖能異常がみられないのか,インスリン分泌量が大であるにもかかわらず,インスリン作用の減弱による糖代謝異常の出現であるのかが,明白に解明できる.
抗インスリン抗体とは
抗インスリン抗体測定は,血液中に存在するインスリンに結合する抗体を検出する検査である.
抗インスリン抗体には2種類ある.通常はインスリン治療患者の血中に存在する.つまり,外来性インスリンに対して産生された抗インスリン抗体のことをいう.もう1種類の抗インスリン抗体はインスリン自己抗体(insulin autoantibody:IAA)のことである.これは過去にインスリン注射歴がないにもかかわらず,血中にインスリンと結合する抗体が存在するとき,この抗体を呼ぶ.
病型と合併疾患
インスリン自体に対する抗体の存在とともに,インスリン受容体に対しても自己抗体が産生されることが知られている.1975年のFlierらや1976年のKahnらの報告がこの基礎をつくった.
インスリン受容体異常症という概念がKahnによって確立されるのであるが,これはインスリン受容体後のシグナル伝達に障害が起こるために,インスリン抵抗性を引き起こす.インスリンの血糖降下作用が不十分の状態になるわけで,血糖は上昇する.インスリン受容体そのものの異常によるインスリン受容体異常症をA型,インスリン受容体の抗体が存在するためにインスリンのインスリン受容体への結合が阻害されるものをインスリン受容体異常症B型と名称された.
血中ケトン体はアセト酢酸(acetoacetate:AcAc),β-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyrate:3-OHBA)およびアセトンの総称である.ケトン体は主として肝において脂肪酸より生成される.絶食,インスリン作用不足,カテコールアミン上昇時などで,糖質からのエネルギー供給が不足すると,生体は脂肪からエネルギー産生を行うことになり,脂肪分解が亢進し,血中遊離脂肪酸(FFA)が増加する.FFAは肝ミトコンドリア内でβ酸化されアセチルCoAとなる.このアセチルCoAからAcAcが生成され,さらに3-OHBA,アセトンへと代謝される.AcAcや3-OHBAは糖質の代わりに骨格筋,心筋,腎などで代謝されエネルギー源となるが,糖質の不足状態が著しいと脳細胞もこれらを利用する.
ケトン体の産生は生理的には理にかなった生体反応であるが,体内でのケトン体処理能力を越えて肝よりケトン体が供給された場合に血中蓄積が起こり,ケトン体血症(ケトーシス)となり,さまざまな病態に関与してくることになる.
ピルビン酸(焦性ブドウ酸)はグルコースの嫌気的解糖(解糖系)で生じ,糖,アミノ酸,脂肪酸代謝のすべてに関与する代謝経路の交差点に位置する重要な物質である.好気的条件下ではピルビン酸はアセチルCoAとなり,クエン酸回路(TCA cycle)で酸化されATP合成に用いられる.乳酸はピルビン酸を基質とし,嫌気的に乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase:LD)とNADHの存在下に産生される.乳酸はほとんどの器官で産生されるが,特に運動時の筋肉で大量に産生されて血中に放出される.正常な代謝回転がたもたれている場合は,乳酸の大半は肝臓に取り込まれ,ピルビン酸を経てグルコースとなる糖新生に利用される(Cori cycle:乳酸回路).
乳酸産生に影響する因子は,ピルビン酸濃度,NADH/NAD+比,および細胞内pHである.通常,血中の乳酸とピルビン酸の比率はほぼ10:1であり,組織ではピルビン酸+NADH+H+→←乳酸+NAD+の代謝応答が成り立っている.
コレステロールは血中でトリグリセリド(TG),リン脂質などの他の脂質成分やアポ蛋白とともにリポ蛋白を形成して存在している.血中コレステロールの変動はリポ蛋白の変動と密接に関与し,リポ蛋白が増加したり,異常リポ蛋白が存在することにより血中総コレステロール(TC)値が変動する.TCはコレステロールエステル(CE)と遊離型コレステロール(FC)の総和である.リポ蛋白の数や質の変動はさまざまな病態とともに認められる.その中で最も日常診療で問題となるのは血中TC値が高い場合であり,いわゆる高コレステロール血症である.本稿では主に高脂血症におけるTCの異常値の出るメカニズムと臨床的意義について述べる.
高脂血症は増加したリポ蛋白によりWHO表現型分類Ⅰ~Ⅴ型に分類される(表1).増加したリポ蛋白の判定法として超遠心法やポリアクリルアミドゲル(PAG)電気泳動などがあるが,日常診療では容易でなく,血清静置試験または血清脂質値(TC値,TG値)から,表1に示すように増加しているリポ蛋白が推測できる.TC値の異常の出るメカニズムとして,これらのリポ蛋白が増加または減少することが挙げられる.その中で,TC値の上昇する病態をWHO分類に則して述べる.
最近,メタボリックシンドロームという概念が新たに提唱され,わが国でも日本動脈硬化学会など関連8学会が合同で,その診断基準を発表した.ところが,その基準にコレステロール値が含まれていなかったことから,「危険因子ではなくなったのか?」との誤解を生んでしまった.しかし,コレステロールが心筋梗塞の独立した危険因子であることに変わりはない.メタボリックシンドロームの根幹をなす肥満,高中性脂肪血症,糖尿病,高血圧は相互に関係が深く,これらを症候群とすることで,コレステロールとともに危険因子が二本柱としてまとめられたと考えればよいであろう.
さて,そのコレステロールは肝臓で合成され,中性脂肪とともにリポ蛋白として血液中に放出される.直後はvery low density lipoprotein (VLDL)と呼ばれる.その後,中性脂肪がlipoprotein lipase (LPL)による加水分解を受け,遊離脂肪酸としてリポ蛋白から離れていく.コレステロールはそのまま残るが,結果的にリポ蛋白のサイズは小さくなり,intermediate low density lipoprotein (IDL)を経てlow density lipoprotein (LDL)へと小型化していく.各リポ蛋白のサイズと機能は,その表面に存在するアポ蛋白と呼ばれる物質によって調節されている.LDLは血管内皮細胞に取り込まれ,その下層(内皮下)に排出される.
TG(triglyceride)はグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したもので,脂肪酸の貯蔵と運搬体として機能している.食事から摂取された脂肪酸は,小腸でTGに再合成されてアポB48と結合し,カイロミクロン(CM)として分泌される.食後の高TG血症はCMの増加による.
CMはアポCⅡの存在下でリポ蛋白リパーゼ(LPL)の作用を受けてCMレムナントに変化する.CMレムナントは主に肝に取り込まれる.アポCⅡあるいはLPL欠損症では,CMが血中に停滞し高TG血症となる.
脂肪は水に溶けないので,コレステロールは蛋白質に結合して運ばれる.この複合体がリポ蛋白である.
高脂血症はI, IIa, IIb, III, IV, V型に大きく分類される(表1).
コレステロールや中性脂肪,ビタミンAやEは水に溶けないので蛋白に結合した状態で血中に存在する.アルブミンに結合している場合もあるが,コレステロールや中性脂肪を運ぶ担体として特化したものがアポ蛋白である.脂質と複合体を形成しリポ蛋白となる(表1).
通常,検査項目に挙がるアポ蛋白は全部で6種類(アポB48,100を分けると7種類)ある.主に中性脂肪だけ上昇する高カイロミクロン血症の場合と,VLDL・IDLも上昇する高コレステロール・高中性脂肪血症のIIb,III,IV型,LDL-コレステロールだけが上昇するIIa型に分けて検討する.疾病によって”A-I,B,E”のセット(IIa,IIb,III,IV型),”C-II,C-III,E”のセット(I,V型といった高カイロミクロン血症の場合)に分ける場合が多い.
一般的にリポプロテイン(a)〔lipoprotein(a):Lp(a)〕は動脈硬化の独立した危険因子と考えられており,臨床的な評価に関しては,例えば冠動脈疾患や脳血管障害など,動脈硬化性疾患において高値であるとする報告が多い.Lp(a)のアポ蛋白にはLDLにはないアポ(a)がアポB-100とS-S結合して存在している.このアポ(a)にはプラスミノゲン(plasminogen:Plg)のクリングルIVの繰り返し構造があり1),この繰り返し数が個体によって異なっているためにアポ(a)の分子量に多様性が生じ,Lp(a)に種々のフェノタイプが存在する原因となっている.すなわち,繰り返し数が少ないほどアポ(a)分子が多く合成されることになり,結果としてLp(a)濃度が高く,その意味でLp(a)濃度は遺伝的に規定されているといえる(環境因子は20~30%といわれている).
Lp(a)の動脈硬化作用機序としてはいくつか挙げられる.まず1つは,LDLと同様にLp(a)のコレステロールが動脈壁に沈着あるいは侵入する可能性,次にLp(a)とPlgとの構造的相同性からPlgと競合的に動脈内皮細胞に結合し,Plgのプラスミンへの変換を抑制して線溶作用を低下させることである.さらに,このプラスミンの活性低下によりTGF-β(tumor growth factor-β)が活性化されず,結果的に中膜の平滑筋細胞の増殖・遊走を促進させることなどが考えられている.このようなLp(a)が動脈硬化に対して促進的に作用しているというin vitroの成績に加え,実際に虚血性心疾患,脳血管障害,末梢動脈硬化症,糖尿病,腎疾患,膠原病などで血清Lp(a)レベルが増加しているという報告が多い.特に虚血性心疾患についてはほぼ独立した危険因子として認識されている.
血液ガス分析は血中の酸素分圧(PaO2),二酸化炭素分圧(PaCO2)およびpHなどを測定する検査であり,生体の呼吸・代謝機能を把握するために欠かせない検査である.測定検体としては動脈血のみならず中心静脈血,混合静脈血などが挙げられるが,本稿では最も頻度が高い動脈血ガス分析を中心に解説する.
動脈血ガス分析で測定される検査項目のうち,呼吸機能に関する項目としてはPaO2,PaCO2,SaO2などが挙げられる.また,pH,HCO3-,Base Excess(BE)などの酸塩基平衡に関する項目は,生体内での代謝の状態を把握するうえで重要な指標である.
Na(ナトリウム)
Na代謝は,体液量変化と,浸透圧変化の相互作用により調節され,抗利尿ホルモンとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が中心的役割を果たす1).
Na濃度異常は入院中の患者によくみられ,基礎的な検査として行われるべきである.
補液を中心として栄養補給,水分補給を行っている場合,定期的な測定が必要である.
正常と異常の判断
1. 血清Caの基準値
体内のCaの0.1%が血中に存在する.約50%がイオン化Caとして存在する.血清総Ca基準値は施設によって異なる.低蛋白血症は血清Ca濃度に影響するので,アルブミン濃度で補正する.血中アルブミンは日内変動があり,早朝に採血する.
血清Ca基準値:8.5~10.5mg/dl
補正Ca値(mg/dl)
=実測Ca値(mg/dl)+4-アルブミン値(g/dl)
血清イオン化Ca基準値:4.2~5.0 mg/dl
銅(Cu)は成人の体内に約100mg存在する.身体組織中,肝臓・脳・骨髄に銅含有量が多い.銅は腸管からの吸収と胆汁中への排泄でバランスが保たれている.経口摂取された銅(2~3mg/日)は小腸上部で吸収され,主としてアルブミンと結合して肝臓に達する.肝細胞で銅輸送蛋白であるセルロプラスミンに合成されて血液中に放出される.セルロプラスミンはCuを6原子含むα糖蛋白で青色を呈し,急性相反応蛋白(acute phase protein:APP)の性格も併せもつ.血清銅の95%はセルロプラスミン結合銅として存在する.残りの5%はアルブミン,アミノ酸と結合している.セルロプラスミンは肝臓から組織への銅の再分布を担う.血清銅は必ずしも体内の貯蔵銅の量を示す指標ではない.
銅の主な排泄は胆汁中であるため,胆道系の閉塞は血清銅の増加をきたす.また,炎症性蛋白として炎症に伴い血清銅は増加する.銅摂取量の減少や種々の原因による低蛋白血症では血清銅は減少する.セルロプラスミンは鉄を酸化し(Fe2+→Fe3+,フェロキシダーゼ作用),トランスフェリンと鉄の結合を促進し,貯蔵鉄動員作用をもつ.そのため,血清銅は鉄代謝と関連して変動する.遺伝性に銅代謝に異常を有する疾患(Wilson病,Menkes病)ではセルロプラスミンへの銅の転送が障害され,血清銅は著減する.無セルロプラスミン血症ではセルロプラスミンとともに血清銅も減少する.
Mgは,生体内では,カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),カリウム(K)についで4番目に多い陽イオン金属で,細胞内ではKについで2番目に多い.体重70kgの成人の体内には約800~1,200mmol(20~28g)のMgが存在するが,そのうち60~65%が骨中に,27%が筋肉中に,6~7%がその他組織中に,そして残りの1%が細胞外液に存在する.したがって,臓器分布では,骨および筋肉のほか,代謝活性の高い脳・神経組織および心筋,肝臓,消化管,腎臓,外分泌および内分泌腺,リンパ組織などに多い.
Mgは種々の代謝の基本的反応の必須イオンとして重要な役割を果たしているが,それは300種類以上の酵素がその活性化にMgを必要とする点にある.特に,リン酸伝達反応とATPが関与する酵素反応にMgがアクチベータとして必須であることより,細胞膜機能,アミノ酸の活性化,DNA合成,蛋白質合成,酸化的リン酸化,筋収縮,赤血球と血小板の形態保持など細胞レベルのエネルギー代謝に不可欠である.
フェリチン
フェリチンは鉄を結合して貯蔵するための蛋白(蛋白部分はアポフェリチン)で,肝・脾・骨髄・胎盤などの組織に広く分布しており貯蔵鉄量を反映するが,その分布量は概ね血清中濃度と相関する.したがって,血清フェリチンは鉄欠乏時に低下し,逆に鉄過剰状態では高値を示す.また組織崩壊に際して血清フェリチンは上昇するので,肝障害や悪性腫瘍の程度とも相関する.
鉄欠乏あるいは鉄過剰状態が予想される場合は,フェリチンを測定することによって鉄貯蔵量を評価できるので有用な検査である.鉄欠乏が顕在化せず,潜在的鉄欠乏の段階でも血清フェリチン値は低下する.鉄剤投与中はフェリチン値の是正を目標に投与を継続する.鉄過剰症に対する除鉄療法時もフェリチン値の改善を効果の指標とする.前述したように,肝炎や他の炎症性疾患,悪性腫瘍でもしばしば高値を示すが,疾患特異的な意義には乏しい.
血漿浸透圧(Posm)は,その溶質であるNa,K,グルコース,尿素窒素などのモル濃度の総和により決定される.浸透圧は溶液中の溶質粒子数に比例し,総溶質濃度の上昇により浸透圧,沸点,蒸気圧の上昇と氷点の降下ももたらす.その原理を用い,臨床検査的には氷点降下法が用いられる1).原理的には溶質1Mが純水1kgに溶解しているとき,氷点温度が1.858℃低下することを利用したもので,mOsm/kg=(氷点温度/-1.858℃)×1000で求められる.一般的には血漿(血清)の浸透圧は次式で算出できる.
Posm(mOsm/l)=2×(Na+K)[mEq/l]+
(グルコース)/18[mg/dl]+
(尿素窒素)/2.8[mg/dl]………………(1)
ビタミンB12や葉酸の異常値の出るメカニズムを表1に示した.ビタミンB12が低値に出る場合は,内因子欠乏以外に胃切除,吸収不良症候群,盲管症候群,Zollinger-Ellison症候群,慢性膵炎,Kostman症候群,Imerslund病(選択的ビタミンB12吸収不良),先天性トランスコバラミンⅠおよびⅡ欠損症などの吸収障害が最も頻度が高い.アルコール依存患者でも起こるが頻度は少ない.ビタミンB12の競合は広節裂頭条虫,ランブル鞭毛虫で起こる.薬物はネオマイシン,コルヒチン,パラアミノサルチル酸,ビグアナイドで起こる.
葉酸が低値に出る場合には,アルコールなどによる吸収障害が最も頻度が高い.
血中ビタミンが高値に出て,臨床的に問題となるのはビタミンA,D,Eである.ビタミンAが高値に出る場合はA過剰症(中毒),高脂血症や脂肪肝をきたす過栄養,腎不全である.25(OH)D値が高値に出る場合はD過剰症(中毒)で,1α,25(OH)2Dが高値ならば原発性副甲状腺機能亢進症,慢性肉芽腫症,ビタミンD依存性くる病Ⅱ型,カルシウム欠乏症,1,25D産生悪性リンパ腫が考えられる.ビタミンEは高脂血症や妊婦で高値をきたす.
ビタミンA,B6,D,Eは血清または血漿で,B1,B2は全血で,-20℃下で凍結,暗所保存する.血清または血漿検体は溶血を起こすと高値に出る.ビタミンB6はイソニアジド(INAH),イプロナイアザイド,サイクロセリン,ペニシラミン投与で低下する.
向精神薬とは,中枢神経系に対する選択的な影響を通じて,精神機能や行動に特徴的な変化を起こすことを主な作用とする薬物で,抗てんかん薬,抗精神病薬などの精神科治療薬と,麻薬や幻覚剤といった精神異常発現薬を含んでいる.
向精神薬の中で,臨床的に血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)が行われている薬剤は,抗てんかん薬,抗精神病薬の中のhaloperidol(HPD),bromperidol(BPD),気分調整薬である炭酸リチウムである.
1. 血中薬物濃度測定の臨床的意義
ジギタリス製剤は有効血中濃度域が狭いため,極めて厳密な血中濃度コントロールを必要とする.しかしながら,ジギタリス製剤の体内動態は個体差が大きく,また剤形によりバイオアベイラビリティが異なることが知られている.さらに,表1に示すように多くの薬物と相互作用を起こし,血中濃度,薬剤感受性が変動することが知られている.そのため,TDM(therapeutic drug monitoring)による濃度測定・投与量調整が有効な薬剤である.
特に,小児においては成長とともに体内動態が大きく変化する.例えば,ジゴキシンの半減期は新生児期では35~70時間であるが,生後1年では15~30時間となり,また同時期の小児の体重あたりの分布容積は成人の1.5~2倍程度であることが知られている.そのため,小児期,なかでも新生児期は最もTDMが必要な時期であるといえる.
抗生物質のTDMの総論
TDM(therapeutic drug level monitoring)の対象薬剤としての性質は要約すると以下の5つである.①測定結果について中毒濃度,有効濃度を評価できる,②迅速な測定系を利用できる,③代用薬剤がない,④服薬義務違反により患者に不利益が生じる.⑤長期投与が必要で,患者の薬剤代謝(肝機能・腎機能・薬物相互作用)の変化により血中濃度が変化する.
抗生物質の場合は,静脈投与の薬剤が対象なので,服薬義務違反が生じることはない.抗けいれん薬のような長期投与は通常,実施しないが,一部薬物相互作用が認められることがある.
免疫抑制薬血中濃度測定の臨床的意義
免疫抑制薬のうち,シクロスポリン(CyA)とタクロリムス(Tac)はT細胞でのIL-2・インターフェロンγなどのサイトカインの産生を抑制する免疫抑制剤であるが,消化管での吸収,代謝あるいは排泄が個体間・個体内で顕著に異なっているため,血中濃度をモニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)し,各疾患・病態ごとに設定される至適濃度を維持するように,その投与量を調節しなければならない薬剤である.
免疫抑制薬血中濃度測定の重要性
1. 血中濃度測定の重要性
血中濃度低下による臓器移植後の拒絶反応,移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)の発症を予防する.
過剰な血中濃度上昇による腎機能障害・中枢神経症状・高K血症・高血圧など濃度依存性副作用の出現を予防する1).
検査を行う場合,すでに症状や身体所見から特定の疾患を鑑別に挙げており,検査そのものは診断仮説が正しかったかどうかを証明する手段として位置づけられるべきである.成長ホルモン(growth hormone:GH)の測定を行う場合,先端巨大症や成長ホルモン分泌不全性低身長(growth hormone deficiency:GHD),下垂体機能低下症を疑い,「おそらくGH分泌に異常があるであろう」との仮定のもとにGHを測定し,その結果が仮定と合致する場合,確定診断に近づくことになる.しかし,GHの血中濃度の判読は一般生化学検査の判読とは大きく異なる点がある.すなわち,GH分泌調節という視床下部を介したフィードバック・メカニズムの中で測定値を理解しなければならないという点である.ここではどのような場合GHを測定し,測定値をいかに評価すべきか,GHの調節機構からそのポイントを述べる.
GHは下垂体から分泌される191個のアミノ酸からなる分子量22kDaのペプチドからなっている1).GHは視床下部からの放出ホルモン(growth hormone-releasing hormone:GRHとsomatotropin release inhibiting hormone:SRIF)により調節を受けており,相互の働きによりGHの間挿的分泌や日内変動を形づくっている2).そして,GHそのものは肝臓でIGF-Ⅰ(insulin-like growth factorⅠ;somatomedine Cともいう)という成長因子の合成と分泌を促し,骨の成長を促す間接的な骨成長促進作用を担っている.さらにGHは代謝という面では直接的に働き,糖代謝,蛋白代謝に対して合成の方向に働いている.そして,GHは視床下部,さらには上位中枢から複雑な調節を受けている.GHは1日の分泌プロフィールとして入眠時に大きなピークを有する.またGHは血糖値とは逆相関するように動き,血糖値の上昇で抑制され,低血糖で分泌刺激を受ける.このようにGHの測定値を読む場合,上位中枢から視床下部,そして下垂体から肝でのIGF-Ⅰの合成と分泌といった調節系の中で読む必要がある.
甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone, thyrotropin:TSH)は,下垂体前葉TSH産生細胞で合成・分泌される糖蛋白ホルモンで,α,β2つのサブユニットからなる.αサブユニットはゴナドトロピン(LHおよびFSH)や胎盤性ゴナドトロピン(hCG)のαサブユニットと共通の構造である.TSHの分泌調節は,血中遊離甲状腺ホルモン(free T4:FT4およびfree T3:FT3)との間の負の反回調節(negative feedback regulation),視床下部ホルモンの1つであるTSH分泌刺激ホルモン(TRH)およびその他の中枢神経からの調節因子などによりなされる.
TSHは臨床検査ではイムノアッセイで測定される.現在の主流は,異なる2つのエピトープをもつ抗体の一方を固相抗体,他方を標識抗体とし,試料中の抗原(TSH)を挟むような複合体を形成させ,標識物質の信号(化学発光,蛍光,放射能など)を検知するシステムとした非競合サンドイッチ法である.この方法での測定感度は,実際の診療を考慮した測定間再現性を表す変動係数(CV)が20%を示す最低濃度とする実効感度で0.01~0.02μU/ml以下であり,健常人の最低濃度と甲状腺機能亢進症の示す濃度は明確に区別できる.一方,すべてのイムノアッセイに共通する問題として,標準物質や抗体の性状に依存する測定方法間での測定値の不一致があり,今なお完全には解消されていない.
PRL(プロラクチン)
プロラクチン(PRL)は下垂体前葉のPRL産生細胞から分泌される蛋白ホルモンであり,PRL産生細胞の増加(PRL産生腫瘍など)は高PRL血症をきたす.他の下垂体前葉ホルモンと異なり,視床下部因子による調節は,分泌抑制因子であるドーパミンによる抑制的調節が優位であるため,視床下部-下垂体茎の障害によるドーパミンの産生・転送不全は高PRL血症を引き起こす.また,ドーパミンの生成や作用を阻害する薬剤の服用よっても高PRL血症をきたす.一方,甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)やエストロゲンは,PRL分泌促進作用を有するため,これらの上昇する状態においても高PRL血症をきたす.高濃度のPRLは視床下部-下垂体-性腺系と乳腺に作用して,性腺機能低下症や乳汁漏出症をもたらす.
血中PRL値は日内変動を示し,夜間睡眠時,特に明けがたの起床前に頂値を示す.また,ストレス,運動,食事などにより一過性に上昇する.このため採血は起床後3時間以上,食後2時間以上経った安静時に行うことが望ましい.
副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)はアミノ酸39個からなるポリペプチドホルモンで,下垂体前葉ACTH細胞で合成され分泌される.分泌されたACTHは副腎皮質のACTH受容体に結合し,コルチゾールの合成・分泌を促進する.血漿ACTH濃度は,ACTHの半減期が約10分と短いため,下垂体前葉からの分泌を反映する.ACTHの分泌調節の3大因子はストレス,日内リズム,ネガティブフィードバックである.視床下部で産生されるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)により刺激され,コルチゾールにより抑制される.日内変動では早朝起床時に高く,就寝時に低い(乳幼児期には日内変動は不明確).
早朝安静空腹時にストレスを避けて血漿分離用(ヘパリン,EDTAなど)の採血を行い,直ちに氷冷する.室温では不安定で分解酵素などの影響を受けやすい.冷却遠心により分離した血漿を測定まで凍結(-20℃以下)保存する.検体量としては血漿として0.5ml以上必要で,-20℃で凍結することによりほぼ安定した保存が可能である.ただし,溶解と凍結の繰り返しは避けること.
抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)(antidiuretic hormone, vasopressin:ADH)はアミノ酸9個からなるペプチドホルモンである.その前駆体は視床下部で転写・翻訳を受け,軸索輸送下にプロセシングされて下垂体後葉に貯えられ,刺激を受けて分泌される.分泌されたADHは腎集合管のV2受容体に作用し,水再吸収を亢進させて抗利尿作用を発揮する.また,細動脈平滑筋のV1a受容体に作用して血管収縮を起こし,下垂体前葉のACTH細胞のV1b受容体に作用してACTHの分泌を促す.
ADHの半減期は約13分であり,血漿ADH濃度は下垂体後葉からの分泌を反映する.分泌調節は主に浸透圧受容体,容量受容体,圧受容体を介した刺激によって行われている.最も重要な分泌調節因子は血漿浸透圧である.血漿ADH濃度と血漿浸透圧との間には正の相関関係が認められ,健常人では血漿浸透圧が272mOsm/kg以下になるとADHは検出されない(図1).
現在,甲状腺ホルモンとしてはサイロキシン(thyroxine:T4),トリヨードサイロニン(triiodothyronine:T3)を測定する必要性はほとんどなく,FT3,FT4の測定のみで十分である.その理由は,T4,T3の総ホルモンは,甲状腺ホルモン結合蛋白(TBGなど)の増加,減少によって,甲状腺機能に異常はなくても,高値や低値を呈する[例えば,妊娠ではTBGの増加のためT4は増加する(図2)]が,一方,FT4,FT3はその影響を受けないため,よりよい甲状腺機能マーカーとなる.そして,現在では,酵素免疫測定法(EIA)や化学発光免疫測定法(CLIA)など非放射性免疫測定法を用いたキットにより,正確で迅速なFT4,FT3の測定が可能になったからである.本稿では,そのような現状を踏まえてFT4,FT3を中心に記述する.
FT4,FT3が増加する機序には主として2つある.第1は,Basedow病のように甲状腺内部でホルモン合成が増加する場合である.Basedow病は甲状腺の甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプターに対する自己抗体(抗TSHレセプター抗体:TRAb)によりホルモン合成が促進される.第2は,無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎のように,甲状腺組織が破壊されて,ホルモンが血中に漏出するためFT4,FT3が上昇する場合である.その他,稀なメカニズムとして,Plummer病(機能性甲状腺結節による甲状腺機能亢進症),TSH産生下垂体腺腫(TSH過剰分泌),下垂体性甲状腺ホルモン不応症(下垂体のT3受容体異常)などがある.
Tg(thyroglobulin)
サイログロブリン(Tg)は分子量約33万のモノマー2個からなる巨大な蛋白質である.甲状腺細胞でのみ合成され,Tg分子の立体構造を用いてヨードのついたチロシン(ジヨードチロシンおよびモノヨードチロシン)のカップリング反応により甲状腺ホルモン〔サイロキシン(T4)およびトリヨードサイロニン(T3)〕が生成する.Tgは健常者でも血中へわずか分泌されているが,現在のイムノアッセイでは測定下限域の濃度(<10.0ng/ml)を示す.ただし,臨床検査としての基準範囲は<30.0ng/mlとしている施設が多い.
1. 甲状腺刺激物質(TRAb, hCGなど)による刺激
Basedow病では甲状腺刺激性のTSH受容体抗体〔サイロトロピン受容体抗体(TRAb)あるいは甲状腺刺激抗体(TSAb)〕の刺激によりほとんどの例で高値を示す.妊娠に関連して血中hCGが著明な高値を示す場合も血中Tgが高値を示す.
カルシトニンは32個のアミノ酸から構成されるホルモンで,甲状腺のC細胞から分泌される.したがって,C細胞に由来する悪性腫瘍,すなわち甲状腺髄様癌を有する患者の血清ではカルシトニン濃度が高値となる.また,種々の腫瘍(肺小細胞癌・乳癌・カルチノイド症候群・膵癌・褐色細胞腫・副腎皮質癌・子宮頸癌など)が異所性にカルシトニンを産生している場合も,血清カルシトニンが異常高値になりうる.
血清カルシトニンが低値(甲状腺全摘術後など)の場合には,臨床的意義はないと考えてよい.
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は,副甲状腺から分泌される84個のアミノ酸より構成されているペプチドホルモンであり,通常,intact PTH として測定されている1).副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTH-related protein:PTHrP)は胎生期に全身の細胞により産生される多機能性のサイトカインである2).PTHrPは成人では胎盤などでも産生されるが,特に扁平上皮癌などの悪性腫瘍により産生されることが多い.PTHもPTHrPも大量に産生された場合には,共通のPTH/PTHrP受容体を刺激して,破骨細胞による骨吸収を促進し,高カルシウム(Ca)血症を惹起する.また,腎尿細管のPTH/PTHrP受容体を刺激し,腎尿細管からのCaの再吸収をも促進する.したがって,PTH産生過剰症(ほとんどは原発性副甲状腺機能亢進症)やPTHrP産生過剰症(ほとんどは悪性腫瘍)では,高Ca血症が必発してくる.
高Ca血症のある患者を診た場合には,まずintact PTHを測定する.一見して全身状態が不良な場合には,PTHrPをも同時に測定するとよい.
コルチゾールは副腎の束状層で作られるステロイドホルモンでACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の刺激により合成され,分泌される.コルチゾールは逆にACTHに対してネガティブフィードバック機能をもつ.生命維持活動に必須のホルモンで,過剰になるとCushing症候群を,不足すれば副腎不全を引き起こす.また,生体の危機に対して反応するストレスホルモンであり,ストレスのかかった状態では一時的に上昇する.
コルチゾールはACTHの分泌に伴い,明け方から午前中に高く,夕方に低くなる日内変動をするので,検査に当たってはこの点の注意がまず肝要である.すなわち,採血時刻の情報抜きに検体を採取したり,解釈したりしてはならない.
コルチゾールやコーチゾン,デオキシコルチゾールなどの糖質コルチコイドやその代謝産物であるテトラヒドロ化合物は17位と21位に水酸基,20位にケト基をもっており,このような構造のステロイドホルモン(17-OHCS)はphenylhydrazineと呈色反応(Porter-Silber反応)を示す.このことから,尿中17-OHCSを測定することにより,副腎での糖質コルチコイド産生の状態を観察できることになる.したがって,尿中17-OHCSが増加していれば,Cushing症候群のように,コルチゾールの産生が亢進した病態や,先天性副腎皮質過形成のような,コルチゾールの産生は低下しているが,コルチゾール合成系の中間産物が増加した状態などを疑うことができるし,尿中17-OHCSが低下していれば,Addison病のようにコルチゾール産生の低下した病態を疑うことができる.
副腎で作られ,弱いアンドロゲン作用をもつデヒドロエピアンドロステロンやアンドロステロン,およびその代謝産物では17位の炭素がCO基になっていることから17-ketosteroidと呼ばれ,m-dinitrobenzeneと呈色反応(Zimmermann反応)を示す.尿中17-KSの測定はそのため,男性では副腎性アンドロゲン,および精巣からのテストステロンの分泌の指標として使われ,女性では副腎性アンドロゲン分泌の指標として使われてきた.先天性副腎皮質過形成で副腎性アンドロゲンの著増するケースや睾丸腫瘍などでは診断的価値は大きい.
アルドステロンは副腎皮質最外層の球状層から分泌される最も強力なミネラルコルチコイドである.その分泌は主にレニン・アンジオテンシン系(RA系)により調節されるため,アルドステロンの異常を考える際にはRA系の変化も考えねばならない.アルドステロンとレニンの同時測定により,レニン分泌異常によるアルドステロンの二次的変化か(=続発性アルドステロン症),アルドステロン分泌自体の異常かが判断できる.
アルドステロンは血漿(plasma aldosterone concentration:PAC)としても血清としても測定可能で,血漿はEDTA塩を加えた採血管で速やかに冷却遠心分離後に凍結保存する.PACは時々刻々変化するが,尿中アルドステロン排泄量を測定すれば1日の分泌量を知ることもできる.
副腎髄質由来の腫瘍である褐色細胞腫,神経芽腫ではカテコールアミン合成酵素遺伝子の発現が高まっており,その結果,カテコールアミン産生が亢進している.褐色細胞腫,神経芽腫の腫瘍組織においては,カテコールアミンが種々のフィードバック調節を受けずに合成されている.その結果,カテコールアミンが腫瘍より放出されてしまい,血中カテコールアミンが高値となり,高血圧などのさまざまな症状を呈することになる.
褐色細胞腫では,アドレナリンおよびノルアドレナリンを優位に産生するものや,ノルアドレナリンを優位に産生するもの,稀にドパミンを優位に産生するものがある.カテコールアミン代謝物〔メタネフリン,バニリルマンデル酸(vanillylmandelic acid:VMA)など〕の産生が亢進しているものもある.神経芽腫ではノルアドレナリンが著増し,ドパミンも増加する.
血中カテコールアミンの70%はメトキシ化され,24%は脱アミノ化されるなどして代謝される.また,褐色細胞腫の腫瘍自体がカテコールアミンの代謝物を多く産生することもある.したがって,メタネフリン,バニリルマンデル酸(vanillylmandelic acid:VMA)などのカテコールアミン代謝物の測定が重要となる.
メタネフリン2分画には,メタネフリンとノルメタネフリンがあり,それぞれアドレナリン,ノルアドレナリンがメチル化を受けたものである.メタネフリンは酸化されて,VMAとなる.
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)は妊娠の成立,維持に重要な働きを示す糖蛋白ホルモンであり,分子量は39,000でα,β2種類のサブユニットの非共有結合により構成される異分子二量体である.そのうちαサブユニットは92個のアミノ酸残基からなり,下垂体由来の黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH),甲状腺刺激ホルモン(TSH)に共通であり,βサブユニットは各々のホルモン特異性を担っている1).
hCGは絨毛のジンチチウム細胞(栄養膜合胞細胞)から分泌されると考えられ,妊娠の成立とともに急激に増加するため,尿中hCGの検出が妊娠診断の決め手となる.また,妊娠初期での血中または尿中hCGの分泌パターンが異常を示せば,流産や絨毛性疾患などの異常妊娠を知る重要な指標となり,さらに異所性ホルモン産生腫瘍や悪性新生物の診断ならびに管理における重要な腫瘍マーカーでもある1).
エストロゲンは女性ホルモン作用を示すステロイドの総称で,約30種の天然エストロゲンが発見されている.その中でエストロン(E1),エストラジオール(E2),エストリオール(E3)がよく知られ,卵巣の顆粒膜細胞でFSHの刺激によりaromatase活性が亢進し,莢膜細胞より供給されたアンドロゲンからエストロゲンが産生される.その臨床的意義としては,①女性における第二次性徴や妊娠・出産をはじめとする生殖機能への関与,②骨代謝や心血管系の機能調節における役割,③乳腺や子宮内膜などのエストロゲン標的臓器の増殖や癌化への関与,など非常に幅広い生理作用を持つ1).
本稿ではエストロゲンの中で,エストラジオールと尿中エストリオールについて解説する.
テストステロンは精巣間質に存在するLeydig(ライディッヒ)細胞で産生される.その産生は視床下部-下垂体系の調節を受けている.視床下部から放出される黄体化ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-releasing hormone:LH-RH)が下垂体に作用し,黄体化ホルモン(luteinizing hormone:LH)の産生,分泌を促す.LHが精巣Leydig細胞に作用しテストステロン産生を促進する.副腎皮質でも少量のテストステロンが産生されている.異常値は低値が問題となる場合と高値が問題となる場合がある.
テストステロンが低値となる病態として,視床下部-下垂体の機能低下に伴い,精巣Leydig細胞からのテストステロン産生は低下する.思春期前に起こると2次性徴が発来せず,思春期後に発症すると性欲や性機能が低下し,この状態を低ゴナドトロピン性類宦官症という.一方,精巣自体の機能低下によるテストステロン産生不全の場合は視床下部-下垂体へのフィードバックがなくLHが上昇するため,高ゴナドトロピン性類宦官症という.
血中のレニンは直接測定できないので,試験管内で血漿中のレニンとレニン基質を反応させ,単位時間内に生成されたアンジオテンシンⅠをラジオイムノアッセイ(RIA)により測定し,血漿レニン活性として表している.血中レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系はフィードバック機構を形成し,生体での血圧,体液の恒常性を維持している(図1).したがって,レニン分泌に異常が起これば,アルドステロン分泌,血圧,Na-K代謝,体液の異常をきたし,逆に血圧,Na-K代謝,体液の異常はレニンおよびアルドステロン分泌に影響を与える.したがって,血漿レニン活性はアルドステロンと同時に測定する場合が多い(図1,表1).近年,心・血管系組織中にもレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が存在し,病態生理学的意義について報告されているが,臨床的な測定は行われていない.
原発性アルドステロン症の診断
腎血管性高血圧の診断
ステロイドホルモン異常による低K血症を伴う高血圧の診断
先天性副腎酵素欠損症の補助診断 Na-体液異常を伴う疾患の診断および病態把握
5つの異なる濃度のサンプルの変動係数4.3~13.9%(再現性)
ナトリウム利尿ペプチドは体内に備わるホルモンで,心臓や血管,体液量の恒常性維持に重要な役割を担っており,タイプA,タイプB,タイプCの3種類が知られている.
心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)は,アミノ酸28個からなるホルモンで,主に心房で合成,貯蔵され血中に分泌される1).また,ANPは腎臓に働き利尿を促進すると同時に,末梢血管を拡張し,血圧降下作用物質としても働く.また,心房以外に心室や中枢神経系にも存在している.ANPは生理的には心房筋内に存在し,心房の伸展によって分泌が規定されている.静脈還流に伴う心房の伸展に応じて分泌されるが,心筋肥大を伴う重症心不全では心室筋からも分泌される.心不全では循環血液量が増えたり,心収縮力が低下したりして心房圧が上昇し,ANPの分泌が増加する.また,通常はほとんど存在しない心室筋でもANPが合成され始める.ANPシステムの障害が高血圧の発症,浮腫性疾患を引き起こす可能性が高く,血中ANPの測定は浮腫を伴う疾患の診断,特に心機能,腎機能障害の診断および重症度の判定,血液透析における体液量の管理に有用である.その分泌は心房圧による心房筋の伸展により刺激されることから,ANPが高値を呈する場合,心房負荷や循環血漿量増加をきたす病態の存在が示唆される.実際,心不全患者の心内圧とANP濃度は極めてよく相関することが知られている.また,慢性腎不全患者における透析実施に伴うANP濃度の低下は除水量を反映し,至適体重(dry weight)の設定に際して一つの指標となる.
A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV)は1973年,急性肝炎患者の回復期血清を用いて,糞便中のウイルス粒子を免疫電顕で証明することによって発見された1).1970年代後半から酵素免疫測定法(EIA),ラジオイムノアッセイ(RIA)でHAV抗原およびHAV抗体の検出が可能となり,さらにIgM型抗体の検出が確立2~4)されるに至って,A型肝炎の早期診断が臨床の場で簡便にできるようになった.本稿ではA型肝炎の抗体検査を中心に述べる.
HAVは約8kbのRNAウイルスであり,ピコルナウイルスのhepatovirus属に分類され5),主な感染経路は糞便中のウイルスの経口感染である.A型急性肝炎は2~6週の潜伏期を経た後,発熱,全身倦怠感,食欲不振などで発症し,その後黄疸が出現する.A型肝炎患者血中には,その発症の初期からIgM-HA抗体が出現し,約3~6カ月後に消失する.一方,IgG型抗体はIgM型抗体にやや遅れて1~4週後に陽性化するが,その後も長期間陽性を持続する.また,消化管では分泌型IgA-HA抗体が産生され,糞便中に検出される.A型肝炎罹患時の各種マーカーの推移を図1に示す.
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)マーカーには多くのものがあるが,現在,臨床上最も重要なマーカーはHBV-DNAとなっている.
個々のHBVマーカーの検査目的と意義を述べた後,一過性感染(B型急性肝炎)時と持続感染時のマーカーの推移について述べる.
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)は,1989年に米国Chiron社のChooらによりHCV遺伝子断片のクローニングが行われ1),後述するC100-3抗体の測定により非A非B肝炎の病原ウイルスとして同定された.HCVに感染すると,肝細胞内で複製されたHCVがHCV粒子として血中に放出される.HCVは全長9,600塩基の一本鎖(+)RNAウイルスであり,感染早期からHCV-RNAが検出される.
HCVは他のウイルスと比較してウイルス量が少なく,ウイルス核酸を検出するためにRT-PCR(reverse-transcription polymerase chain reaction)法が行われている.これは,逆転写酵素を用いてHCV-RNAの一本鎖cDNAを合成し,これを鋳型(template)としてPCRで増幅して検出する方法である.HCV-RNAの陽性は現時点でのHCVの感染(HCV血症)を意味する.また,PCRを用いて後述するHCV-RNAの定量やグルーピングも行われている.
E型肝炎ウイルス(HEV)
E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)は約7,200塩基長の一本鎖(プラス鎖)RNAをゲノムとする小型球形粒子である.E型肝炎は熱帯,亜熱帯の発展途上国でみられる主要な急性肝炎の1つで,HEV常在国へ旅行し,帰国後に発症する,いわゆる輸入感染症として位置づけられてきたが,近年,本邦においても一部地域1)においては決して稀な感染症ではなく,原因不明(non-ABCD)急性肝炎の約30%にも達するとされている.
1. HEV-RNA
急性期の血清あるいは糞便あるいは肝臓から核酸を抽出し,PCR法にてHEV-RNAの特異的塩基配列を増幅し,その有無をみる.HEVは塩基配列の多様性が高いウイルスであり,増幅に用いるプライマーのデザインによっては偽陰性がありうる.核酸増幅検査にはコンタミネーションの可能性もあり,増幅が得られても,可能であれば,その増幅産物のシークエンシングをし,配列を確認すべきである.
風疹ウイルス
風疹抗体の一般的な測定法は,赤血球凝集抑制法(hemagglutination inhibition test:HI)である.罹患後早期より上昇し7~15日でピークとなり,その後発疹出現後5カ月頃まで持続し,以後下降する.酵素抗体法(enzymeimmunoassay:EIA)の風疹IgM抗体も汎用されており,不顕性感染でも,初感染であれば陽性を呈するため,臨床診断に応用されている.風疹IgG抗体はHI法とほぼ同様に推移し,抗体保有スクリーニングに使用されている.
風疹を診断することが臨床的に重要な場合を以下に挙げる.
ムンプスウイルスはパラインフルエンザウイルスと同じパラミクソウイウルス科に属する.エンベロープに覆われたRNAウイルスで,直径150nmの球状粒子である.エンベロープは細胞膜脂質二重層からなり,2種類のウイルス蛋白(HAとF)がスパイク状に突き出ている.
ウイルス感染の第1段階でHAが細胞表面のレセプター分子に吸着する.続いてFが働いてウイルスエンベロープと細胞膜との融合が起こりウイルスゲノムが細胞質内へ導入される.
ムンプスウイルス感染症の経過を図1に示す.ムンプスウイルスは飛沫感染(一部は接触感染)で上気道粘膜から頸部リンパ節に侵入し血行を介して唾液腺細胞で増殖する.潜伏期2~3週間を経て流行性耳下腺炎として発症する.引き続いて第二次ウイルス血症が起こり,全身性感染となる.主たる標的臓器を表1に示す.特に腺組織に高い親和性を示すことから膵臓炎,思春期には睾丸炎(精巣炎)や卵巣炎,また神経系に感染が広がると無菌性髄膜炎が起こる.
ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus:HTLV)-1とヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)はともに持続感染するレトロウイルスで,よく似た粒子構造を持っている.感染の有無を検査する抗体検査は,ウイルスの構造蛋白に対する抗体産生をみる検査で,どちらのウイルスもスクリーニング検査に酵素免疫測定法(EIA,CLEIA)や粒子凝集(particle agglutination:PA)法が用いられ,確認検査にWestern blot(WB)法が用いられている.HTLV-1は血漿中にフリーのウイルスが検出できないのに対して,HIV-1では血漿中のウイルスRNAを遺伝子増幅によって検査することができる.
以下,それぞれのウイルスに分けて,検査のポイントを解説する.
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)と水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)はともに向神経性を示し,αヘルペスウイルス亜科に属する.HSVは中和血清反応における抗原性の相違から1型(HSV-1)と2型(HSV-2)に分類する.
ウイルスゲノムは線状二本鎖DNAで,ウイルス構造蛋白のほかに生体防御系からの逃避に関与する蛋白など数多くの蛋白をコードする.
EBウイルス(EBV)は普遍的に存在するヘルペス科ウイルスで,健常成人はほぼ100%感染しているが,多くは不顕性感染であり,生涯,無症状にリンパ球で潜伏感染する.初感染時に伝染性単核球症(IM)を発症することがあり,多くの腫瘍との関連が示唆されている(表1).
1. ウイルス抗体
EBV抗体はカプシド抗原に対する(抗VCA-IgG,IgM,IgA)抗体,早期抗原に対する(抗EA-IgG,IgA)抗体,核内抗原に対する(抗EBNA)抗体がある.VCAとEAは細胞溶解性感染(lytic infection)で発現され,EBNAは潜伏感染(latent infection)で発現される蛋白である(図1).