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抗TSHレセプター抗体の発見とGraves病研究の歴史
Graves病患者血中に甲状腺刺激物質があり,それがBasedow病の病因であろうということは,1956年,AdamsらによるLATS(long-acting thyroid stimulator)の発見以来定説となっていた.1964年,KrissらはLATS活性はIgGにあることを証明し,Graves病が自己免疫疾患である可能性を示唆した.では,抗原は何なのか,その研究の途上で,1973年,女屋はヒト甲状腺スライスを用いて未治療Graves病患者血中に甲状腺切片のcAMPを増加させる物質(human thyroid stimulator:HTS)があることを証明し,RIAによるcAMPを用いた新しい測定法を確立した.この測定法は,世界最初のTSAb(thyroid-stimulating antibody)測定法であり,甲状腺学の進歩に大きな功績を残した.今日のTSAb測定が依然としてなおcAMPを指標としていることからみても,その業績の偉大さがわかる.1974年,SmithとHallはGraves病患者血中に,ヒト甲状腺濾胞上皮細胞膜に対する125I-TSHの結合を阻害する物質があることを報告し,thyroid stimulating immunogloblins(TSI)と記述した.一方,1978年,遠藤,笠木,小西らは,Graves病患者IgGは必ずしも刺激抗体ばかりでなく,抑制抗体も存在することを明らかにし,血中に存在する125I-TSH結合阻害物質をTSI(刺激抗体)とよぶのは不適当で,thyrotropin binding inhibiting immunoglobulins(TBII)と呼ぶべきであると主張し,独自のTBII測定法とTSBAb(thyroid-stimulating blocking antibody)測定法を開発した.このTSBAbの発見と測定法の開発もまた,世界の医学史に不滅の業績を残した.
彼らの正等な主張以来,TSHレセプター抗体はTRAb(TSH-receptor antibody)またはTBIIと呼ばれるようになった.
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