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異常値の出るメカニズムと臨床的意義
甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)は甲状腺ホルモンの合成過程のうち,チロシン残基のヨード化およびヨードチロシンのカップリングに働く膜結合蛋白で,甲状腺内にある臓器特異抗原の1つである.TPOでマウスを免疫すると,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(anti-thyroid peroxidase antibody:TPOAb)が産生されると同時に甲状腺炎も惹起されることより,TPOは自己免疫性甲状腺炎の原因抗原の1つと考えられている.ヒトで甲状腺組織を調べても,TPOAb陽性であれば甲状腺炎が認められる1).したがって,ヒトでの自己免疫性甲状腺疾患である慢性甲状腺炎(橋本病),Basedow病の多くでTPOに対する自己抗体が陽性となる.
当初,甲状腺マイクロゾーム分画に反応する自己抗体として発見されたため,抗甲状腺マイクロゾーム抗体(anti-thyroid microsomal antibody:MCAb)と呼ばれていた.びまん性甲状腺腫を認める場合,あるいは甲状腺機能低下症の所見・症状(無気力,易疲労感,眼瞼浮腫,寒がり,体重増加,動作緩慢,嗜眠,記憶力低下,便秘,嗄声など)を認める場合に,TPOAb(またはMCAb)と抗サイログロブリン抗体(anti-thyroglobulin antibody:TgAb)を測定する.慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン(前項の表1参照)では,どちらかの(あるいは両方の)抗体が陽性で,びまん性甲状腺腫大を認める場合,甲状腺機能に関係なく慢性甲状腺炎と診断する2).どちらかの(あるいは両方の)抗体が陽性で原発性甲状腺機能低下症(free T4低値,TSH高値)の場合は,甲状腺機能低下症の原因が慢性甲状腺炎による甲状腺組織の破壊のためと判断する.どちらかの(あるいは両方の)抗体が陽性にもかかわらず,甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めない場合は慢性甲状腺炎の疑い(潜在性自己免疫性甲状腺炎ともいう)とするが,実に一般健常女性の約10%,一般健常男性の約5%がこれに相当する1).
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