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血液凝固反応はカスケード反応で,最終的には生成されたトロンビンがフィブリン形成と血小板活性化を惹起し,止血血栓をつくることで凝固相反応を終結する.さらにトロンビンは各種細胞に発現したトロンビン受容体(protease activated receptor-1) を介して,各種細胞を活性化し,炎症・免疫,創傷治癒などに反応を連結させる.このように,トロンビンは止血と創傷治癒のキーエンザイムである.このトロンビンの反応を制御するのがアンチトロンビンⅢ(anti-thrombin Ⅲ:ATⅢ,正式にはⅢを取って,アンチトロンビンと変更されたが,本稿では従来どおりATⅢと記載する)である.しかし,ATⅢは単にトロンビンのみを阻害するのではなく,図1に示したように,活性化第X因子(FXa), FXIa, FIXa, FXIIa などをも阻害し,凝固カスケード全体にネガティブフィードバックをかけるセリンプロテアーゼインヒビター(SERPINS)である.このATⅢのユニークな点は,ヘパリンによりその立体構造が変化し,上記活性化凝固因子を即時的に阻害しうるようになるという点である.生体内では,内皮細胞上のヘパリン様分子にアンチトロンビンⅢは結合して,即時的にトロンビンを阻害しうる形になっており,内皮細胞の抗血栓活性の一翼を担っている.ヘパリン・ATⅢ複合体とトロンビンが反応すると,トロンビン・ATⅢ複合体はヘパリンからはずれ,トロンビン・ATⅢ複合体(thrombin-antithrombin III complex:TAT) として流血中を循環し,肝臓でクリアされる.
何を調べる検査か
ATⅢは分子量約65,000Daで,肝臓で合成され,一部は血管内皮細胞のヘパリン様分子に結合して内皮細胞上に,残りは血中を循環し,凝固カスケードの活性化を制御している.したがって,ATⅢの低下は凝固カスケードの制御不全,すなわち血栓傾向を示すことになる.ゆえにATⅢ測定の目的は,凝固カスケードの制御能をみる検査ということになる.
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