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はじめに
わが国においては,とくに救急車で搬入されてくる患者は必ずしも重症患者を意味しない.しかし,比較的重症患者の多く瀬含まれているのは確かである.
患者をひきうける側からみれば,救急車による搬入の仕方や,救急車内における患者の処置の方法など種々の問題があり,ほとんど解決されずにあるのが現状である.
死亡と判定される患者,もしくは来院時死亡している患者が救急車で搬入されてくることがある,筆者らのセンターでも年間13〜14件がこのような状態の患者であって,一般にDOA(Dead on Arrival)として分類される.DOAでももちろん,救急車に乗せられるまで,または搬送の途中までは呼吸があり,循環系も作動していると考えられ,したがって,処置の方法によっては蘇生されうる可能性の残されているものも多い.
以前は呼吸が止まり,心停止があれば一応死亡しているとして片づけられたが,現在は死亡の判定は必ずしも容易ではない.したがって,一見DOAであっても,蘇生に万全をつくすべきであろう.
意識障害,とくに昏睡状態で救急室に搬入されてくる患者は生命の危機に瀕しており,初期に適切な処置が施されない場合,死に直結する可能性が大きい.昏睡患者が入室した場合,まず速やかに救急処置を行い,併行して緊急検査,病歴あるいは事故の経過を聴取し,昏睡の原因を究明し,それに対処しなければならない.一般の医療は詳細な病歴をとり検査を行うが,救急,ことに昏睡あるいはショックの場合その手順が逆になる.
ショックの病態生理については,今なお十分解明れていないのが実状であるが,実際臨床面では,いかなるタイプに属するものかを正確に把握し,迅速な治療を開始することが,その予後を左右する上で最も重要なことは当然であろう.たとえば,hypovolemic shockやcardiogenic shockでは,一般的に血圧下降,頻脈,CVP低下,乏尿,心拍出量減少,皮膚冷感などの徴候を呈するが,敗血症の初期や急性心筋梗塞の一部では,これらの徴候が認められないこともあり,臨床的にショックを評価するのは,なかなか困難なこともある.
近年,ショツクの定義は,その病態像より「末梢循環不全に伴う細胞の代謝異常」という考え方が定説となっている.1972年,M. H. Weilら1)は,循環性ショックの分類訂正を行って,4つのhemodynamic defectsのうちの1つ,もしくはいくつかの組み合わせによる末梢循環不全とした考え方を唱えており,われわれ臨床家にとってきわめて理解しやすい分類と思われる.そこで,これらを基に,末梢循環不全の把握,診断,治療の概要などについて述べてみたい.
失神syncopeとは,脳代謝の急激な低下によって起こる一過性の意識消失発作である.通常は血圧下降による脳血流量減少が原因であるが,Noble1)は失神の生ずる機序を表1のごとくに分類した.
医師がこのような患者に接する場合,すでに失神から回復しているものが大部分を占め,意識消失の続いている患者をみる機会は少ない.したがって失神患者の救急治療といっても,治療を要する原因の有無を決定することが第1であって,治療を要さない場合も多い.診断を確定するためには病歴の詳細な聴取,理学的所見の把握,臨床検査が重要であって,医師が失神の病態生理に精通していれば,病歴,理学的所見,心電図所見のみから症例の99%が診断可能であると報告されている1).
けいれんとは発作性にあらわれる筋肉の急激で不随意な収縮をいい,原因疾患により大脳に由来の全身けいれん,ミオクロヌス,筋肉自身に由来するspasm,crampなどに分けられる.本稿では主として大脳起源の全身けいれんを中心に取り上げる.この発生機序としては脳のneuronの一部または全体が何らかの原因で突然異常に興奮し,周辺または離れた部位に伝播する現象であることは解明されてきたが,この原因がどのようにしてneuronに作用するかは未だ明らかでない1).また,けいれんをその性質により分けると,強直性けいれんと間代性けいれんになり,強直性けいれんとは持続的な筋の収縮で躯幹,四肢の固定するもので,間代性けいれんとは筋肉の収縮と弛緩が反復するものである.
ガス中毒は昭和51年度の消防庁統計によれば,救急車によって搬送された患者の0.18%と比較的少ない割合を占めている.
しかし,その内容は自殺を目的とした都市ガス使用と,火災現場での不完全燃焼ガスの吸入などが最も多く,ことにCO中毒症状をきたす例が大部分であることから,CO中毒を中心に述べていきたい.なお都市ガス(6B型)の組成は表1のごときものである.
産業の発達とともに作業従事中,化学薬品の吸入,摂取などによる中毒,一方では社会機構の複雑化に伴って,自殺を企図しての薬物中毒が多くなってきており,これらの患者に接する機会も多い.
胸痛の性質,部位などは原因疾患によりかなり特徴的であるため,胸痛を主訴とずる救急患者の治療にあたっては十分な問診を行い,まず痛みの発生起源をさぐることが大切である.しかし,疼痛の性質は患者により表現されるのであるから,当然これのみですべて診断しうるわけではないし,また患者の状態が悪く問診が困難であれば,生命の危険性,発生頻度を考慮しながら聴打診,胸部X線写真,心電図,心エコー図,心音図,血液検査などの各種検査とともに,必要に応じて治療を始めることになる.
意識のあるものでは,自覚症状として呼吸困難を訴えるが,意識のないものや乳幼児などでは,呼吸数,呼吸様式,チアノーゼ,動脈血ガス分析など他覚的所見から呼吸困難の状況を把えざるを得ない.すなわち,呼吸困難とはそれが自覚的,他覚的のいかんを問わず,なんらかの呼吸管理を要する異常な呼吸状態といえよう.
吐血はTreitz靱帯より口側の上部消化管からの出血により起こる.出血によるショック状態の発現は,年齢,基礎疾患,合併疾患,循環系の状態,また出血の量,速度などにより異なり一概にいえないが,通常,循環血液量の25%以上,すなわち1200〜1700ml以上の出血があると中等度のショック状態を呈し,速やかな循環血液量の回復が行われないと不可逆性ショックに陥り,致命的ともなりかねない.
したがって,吐血に対する第1の処置は失われた循環血液量を回復し,ショックの予防,治療を行うことである.ついで原因疾患を究明,内科的あるいは外科的に原疾患に対する治療を行う.
腹部に激痛を伴い,短時間のうちに手術を必要とするか否かを決定しなければならないような腹腔内の急性疾患を総称して,一般には急性腹症と呼んでいる.したがって,急性腹症の患者に遭遇したならば,できるだけ迅速に,かつ正確に診断するように努力しなければならないが,ときには救命の目的で急性腹症の診断のまま手術に踏み切らざるをえない場合もある.このような症例では,診察や検査のために,不必要な時間を費すことなく,緊急手術の可否を決定することが極めて重要となってくる.しかし,実地臨床において,急性腹症に含まれる疾患は極めて多岐にわたっており,それぞれが同じような急性症状を呈することが多いので,診断や鑑別は必ずしも容易ではない.
筆者らの施設では本年3月までの過去3年間に114例の広範囲熱傷(平均熱傷面積44.3%SD±15.2%)が入院した.その死亡率は30.3%ときわめて高く,死亡例のほとんどが50%以上の熱傷例に限られた.輸液の公式を厳密に適応した初期のミスを除いては,hypovolemic shockによる死亡はなく,そのほとんどがショック離脱後の感染に原因した.熱傷の病態は単に局所的だけでなく全身的な変化が著しい.治療に先立ち病態の理解が必要である.
救急車で来院する患者の中で,乏尿または無尿を唯一の主訴とすることは尿閉を除いては稀である.しかし,外傷,熱傷,イレウス,呼吸不全,心疾患,感染症,術後合併症などで搬送されてくる症例の一症状として乏尿をきたすことはきわめて多い.
終末代謝産物を排泄し,生体のhomeostasisを維持するためには,腎の濃縮力の限界から400ml/dayの尿量が必要とされている.それゆえ400ml/day以下を乏尿,100ml/day以下を無尿と定義されているが,濃縮力の低下した症例では2〜3l/dayの尿量がありながら窒素血症の進行するいわゆるhigh output renal failureも良く知られた事実であることから,尿量の減少だけが急性腎不全の必須条件ではない.
急性心筋梗塞,重症狭心症および重症不整脈は発作時の死亡率が高く,救急処置が必要であるばかりでなく,できるだけ早く適切な治療を行いうる専門施設へ収容することが望まれる.また,これらの疾患では心電図から重要な情報が得られるにもかかわらず,その判読には専門的知識が要求され,一般医が診断に苦しむこともしばしばある.こんな場合,心電図を一般電話回線を利用して心臓病の専門医のいる施設へ送り,診断・治療について指示を得ることができれば,最も適切な処置を行うとともに,最も適切な施設へ収容することも可能である.このような利点から,数年前よりわが国でも心電図の電話伝送が普及してきた.
うっ血性心不全治療でのジギタリス剤使用にあたっては,投与量や併用薬剤について微妙な"サジ加減"ともいうべき,きめ細かな配慮が要求され,臨床家としての力量が問われる領域でもある.本稿では,ジギタリス剤使用の実際と注意点の概要を述べる.
ジギタリスは元来,治療域と中毒域との範囲の非常にせまい薬剤の一つであり,個体による反応差が大きく,また他の薬剤との併用により効果の差のある薬物である.たとえば十分な治療効果を得るためには中毒量の50%が投与されるし,中毒時には致死量の60%が投与されていることもある.老人や基礎心疾患の重篤な例では治療域と中毒域との差はさらにせまくなり,中毒を起こしやすくなる.また最近では強力な利尿剤の併用による電解質異常,ことに低K血症,低Mg血症,低Na血症が増したこと,さらに平均寿命の延長による老人の増加によりジギタリス中毒は明らかにふえつつあり,投与例の10〜20%に発生し6),しかもジギタリス中毒の患者の40%は死亡するとの報告もある1).
ジギタリスを処方する医師は,その適応を知るのみでなく,ジギタリス中毒の早期徴候を熟知することが大切である.ジギタリス中毒に特徴的で,それのみで診断可能な,いわゆるpathognomonicな徴候はないので,患者の臨床症状,ジギタリス不整脈などの発現に注意し,血中濃度を参考にして早期発見につとめ,ジギタリス中毒をきたすことなく有効な治療を行うべきである.
ジギタリス不応性心不全の定義
字義通り解すれば,ジギタリス剤に反応しない心不全である.しかし,ジギタリスのみで心不全の治療を行うものではないから,ジギタリスだけで心不全が軽快しないからといって,その心不全に特別な意味づけをする必要があるとは考えられない.
通常の心不全の治療法,すなわち①原疾患の治療,②機械的負荷の減少,③心筋収縮性の増加,を正しく行ったにもかかわらず,軽快しない心不全に対してintractable or reftactory heart failureの名を与えるが,これをジギタリス不応性心不全と同義にとるべきであろう,考えうる,あらゆる治療法を行っても反応しない心不全をrefractory heart failureと呼ぶ場合もあるが,このような心不全にはもはや治療法はない.
うっ血性心不全(CHFと略)とは原因のいかんを問わず,心筋の収縮力が減弱して,生体組織が要求するだけの血液を拍出できないほどのポンプ機能不全(代償不全)を意味するものである.この場合,左心からの心拍出量は減少するが,右心への静脈還流が正常に保たれるならば,当然肺にうっ血が生ずることになる.そしてしだいに静脈還流も悪くなると,心臓性うっ血が各臓器にみられることになる.また,この状態を体液量という見地からみると,心拍出量の減少は腎血流量の減少からGFRを低下させ,生体にNaと水の貯留が生じて循環血液量はいっそう増加する.その結果,代償不全に陥った心筋への負荷はますます大きくなり,悪徳環が生ずることになる.
そこで,この病態の治療としては,現在3つの方法が考えられている.第1は,不全心筋の収縮力を直接増大させるためにpositive inotropic作用をもつ薬物,たとえばジギタリス剤を用いること,第2は過剰な体液を尿として排出させ,心のpreloadを減少させようとする利尿剤の使用,第3は末梢血管抵抗を減少させて,心のafterloadを減少させようとする試みからの,末梢血管拡張剤の使用である1,2).
β-刺激剤を歴史的にみると,図のようなカテコラミン誘導体の順になる.isoproterenolを除き,従用量的にα-作用も出てくる.
循環系の抑制に対するβ-刺激剤の使用には3つの制約がある.
心疾患(主に心筋梗塞)でショックに陥ると梗塞部位の収縮力が低下し,dyskinesiaも加わり,心拍出量が低下してくる.さらに臨床症状で四肢冷感,蒼白,チアノーゼ,大理石様斑がきて冷汗もみられる.これらは,交感神経系刺激が過剰になっている所見である.末梢血管が収縮して後負荷が増してきて心仕事量が増し,このために心不全が増悪する.カテコールアミンの増加により血管が収縮するが,この度合が臓器で均一でなく,心拍出量の不均等な体内分布が起こっている.このために重要臓器への血流も減少気味になることがある.
かかる状態でも血圧が下降し,脈が触れず意識も混濁したときに,早急になんらかの手段で血圧を上昇させないと死亡してしまうときにはα刺激剤で血圧上昇をはからざるをえないときもある.最近はdopamineなどのα,β作用のある薬剤も開発され,さらに長期の対策として,intra-aortic balloon pumpingがあるので,ここまでもっていく初療としての意義が考えられる.
汎発性血管内凝固症候群disseminated intravascular coagulation(DIC)の原因となる基礎疾患は多岐にわたり,一概には論ぜられないが,基礎疾患が重篤であり,preshock状態,さらにshock状態を示した場合は,常にこのDICを念頭におき,早期発見,早期治療を開始しなければならない.心原性ショック,とくに心停止をきたしたものは心蘇生後には高率にDICが発生することが報告されている1,2).
また筆者らの経験では,心原性ショックと代謝性アシドーシスの関係は,心原性ショック以前にはまったく代謝性アシドーシスを示していなかったものと,また代謝性アシドーシスを示していたものとがあり,これも結果としては招来するが,原因とは一概にいえないようである,また心原性ショックのあとの急性腎不全,ショック肺,ARDSや肝障害などはショックによる虚血または低酸素症によるものか,DICによるものかの鑑別は困難な場合が多いので,この両方を考慮しながら常に治療する必要がある.
発作的に起こる心拍の不整にはいろいろの種類があるが,本稿では頻脈を基調とする発作性心房細(粗)動,発作性頻拍Paroxysmal tachycardiaの場合を扱う.ただしこれらは必ずしも頻脈,脈の不整を伴うとは限らない.
房室ブロックは心房から心室への興奮伝導の低下ないしは途絶した状態であり,心房から房室結節までの間,房室結節内,His束内,His束から両脚にいたる間,あるいは両脚・脚枝のすべて,のいずれに障害があっても起こりうる.ブロックの程度は完全と不完全とに分けられ,これによって生じる症状は無症状のものから,動悸めまい,失神発作(Adams-Stokes症状)やうっ血性心不全にまで及ぶ.原因としては薬物・電解質などの機能的異常,先天性障害,心筋梗塞などの虚血性障害,リウマチ熱などの心筋炎,原発性心筋疾患などがあり,伝導系に原発性に変性・線維化・硬化の進行する例の少なくないことも注目されている.
房室ブロックの治療に当たっては,症状,ブロックの程度,原因・基礎疾患,ブロックの部位の4点を勘案し,当面の,そしてまた今後進展しうる病態を推測して対処するわけである.対処の仕方は,①経過観察,②薬物療法,③一時的ペースメーカー挿入,④恒久的ペースメーカー植え込み,に大別される.薬物療法は効果の上では限界があるものの,あらゆる場合において,まず緊急に行われる治療であり,この意味では第1選択の治療法である.
期外収縮は型premature contractionで表現されるように,正常に期待される時点より前で収縮が起こることをいうので,その収縮の起源の場所から,心房期外収縮,房室接合部期外収縮,心室期外収縮の3つに大別される.
また洞期外収縮も存在するはずであるが,実地臨床上はあまり問題にならない.心房期外収縮は,心房頻拍,房室接合部頻拍,心房細動,心房粗動を誘発し,心室期外収縮は心室頻拍,心室細動を誘発するので臨床上重要視され,また治療の対象となる.しかし,同じ心室期外収縮でも発生状況,基礎疾患の状態では治療の対象にならないこともあり,また状態により使用薬剤の選択も異なってくる.以下,臨床上重要と思われる心房期外収縮と心室期外収縮について,その治療に関する私見をまとめてみたい.したがって,いくつかの重要な薬剤が記載されていないが,これは筆者自身経験がないためと御了解いただきたいと思う.
病態・重症度の診断
狭心症の治療には,まずそれぞれの症例の病態ないし重症度を十分に把握し,臨床経過,予後の見通しを立てることが必要である.それらにもとづいて治療方針を決め,各例に最適の方法を選ばねばならない.
狭心症の病態・重症度は病型としてとらえられる.すなわち,主として発作の誘因,症状の強さとその安定性,心電図所見(運動負荷試験を含む),血清酵素活性,白血球数などから次の病型に分けられている.
CCUなどにおいて不整脈の治療はほぼ確立され,一次性不整脈死は減少した.しかしながらショック,重症心不全など循環不全による死亡が減少せず,これに対する治療法の改善が問題となっている.また発症直後入院前に死亡するものがかなり多いことが知られており,入院前の適切な処置が望まれる.本稿においては確立された治療法について簡単に述べる.
一般的方針
心筋梗塞では一般に突然に発作に襲われ,運動能力を失ったものが,一定の安静期間ののち,経過が順調ならば徐々に回復するという特徴を有するので,心疾患のなかでも心筋梗塞はリハビリテーションの最もよい対象といえる.
心筋梗塞の経過は便宜上,急性期,回復期,社会生活への復帰の3段階に分けて考えることができる.急性期とは急性発作後,床上にて治療し,歩行開始までの期間,回復期とは歩行開始より社会復帰までの期間である.急性期においては従来の治療医学がそのまま適用されるが,従来のリハビリテーションを考慮して患者に希望と意欲を促し,精神の安定をはかるとともに,リハビリテーションの目的と意義を十分に理解させることが必要である.昔は心臓病患者の治療には安静のみを長くして心臓に負担をかけないように指導しがちであったが,絶対安静は必要最小限にとどめ,時期をみて,安全な方法で運動量を上げ,再訓練していく.この際には運動能力の評価がとくに重要である.社会復帰後も許容運動量を最大にするよう,ひきつづき訓練する.この時期には第二次予防が問題となる.また医学的リハビリテーションと並行して社会的,職業的リハビリテーションが問題となる.
無痛性冠硬化症とは
まず無痛性冠硬化症とは一体何をさすかということから論じる必要があろう.この無痛性は,狭心症や心筋梗塞のような症状がないという意味であるが,狭心症の症状は,痛みといった単純なものでなく,痛みを訴えなければ狭心症としないというのは,あまりにも単純な考え方である.したがって,無痛性という表現はむしろ誤解を与える用語であり,無症状性冠硬化症ないしは無症状性虚血性心疾患とよぶほうがよい.
ところが,無症状性というと,まったく患者が症状を感じないということになり,ここにまた問題が生じる.というのは,無症状というと,まったく症状がないということであり,本人が自覚しないことも含まれている.しかし,こうした患者は集団検診とかドック検査で心電図で発見されるか,心疾患以外の疾患で医師を訪れた場合に限られてくる.
高血圧の治療に当たって,二次性高血圧症を鑑別・除外することが大切である.二次性高血圧症は治療方針が違う.本稿では本態性高血圧症の治療についてのみ述べる.もっとも,慢性腎炎などに伴う高血圧は,二次性高血圧症ではあるが,本態性高血圧症に準じて治療される.
次に降圧剤の選択を考えることになるが,ここでは外来治療の場合を考えよう.悪性高血圧や心不全を伴う高血圧など,極めて重症なものは入院加療が必要である.また,使う薬剤も特殊なものが多い.限られた誌面ですべてを述べつくすことはできないので,外来治療で繁用される薬剤について述べたいと思う.外来治療で用いる薬剤といっても,現在市販されているものだけでも100種を越えるほど多い.これらを適切に選択し,最大の治療効果をあげることは簡単ではない.
腎機能低下や高血圧の程度によって治療法が異なるので,次の4期に分けて述べる.①腎不全を伴わない時期,②腎不全期,③透析期,④悪性高血圧.①は血清クレアチニン(Cr)20mg/dl未満,③はCrが持続的に2.0mg/dl以上,GFR40ml/分を示す場合とする.
咳の生理と病理
咳は吸入期(約0.06秒),緊張期(約0.2秒)および呼出期からなる.いきおいが最も強いのは呼出期で,声門が開放されてから約0.03秒後である(中村ら).ヒト気管の断面積は安静呼気時に約1.5cm2あるが,咳のときには膜様部の筋肉が著しく陥入して断面積は0.25cm2(16%)まで狭まる.このときに呼出される気流速度は音速の約85%にまで達する(Berte, J. B.).
単発する咳よりも連続する咳のほうが,気道の浄化には有効に思われるが,実際には咳にひき続く深吸気時に,異物や気道液を逆に吸引し,肺の末端部に引き込むことがある.
消炎酵素剤とその種類
現在臨床的に広く用いられている抗炎症剤はステロイド剤と非ステロイド系抗炎症剤に2大別されるが,消炎酵素剤は後者に属する抗炎症剤の一種であって,抗炎症作用は他の抗炎症剤に比べるとそれほど強くはない.
消炎酵素剤として現在使用されているものを列挙すると表のごとくである.蛋白分解酵素のほかに多糖体分解酵素があるが,前者には動物性,植物性,微生物由来など酵素起源を異にするいくつかの酵素がある.すなわち,動物性のものとしては,古くから知られているトリプシン,キモトリプシンがある.キモトリプシンはトリプシンに比べると副作用が少ない.植物性としてはプロメラインがある.パイナップルの茎から取れる蛋白分解酵素である.微生物由来としてはプロテアーゼ,プロクターゼ,プロナーゼ,セラチオペプチダーゼ,セミアルカリプロテアーゼ,ストレプトキナーゼなどがある.これらのほとんどは経口投与である.
気管支喘息
適応 死の転帰をとりうるような重症の喘息発作には大量のステロイド剤を躊躇なく使う.中等度の発作では状況の許すかぎり使用しないようにする.発作がステロイドなしでコントロールできるか否かは,その患者の以前の発作の状態でだいたい見当がつくし,感染の有無,チアノーゼ,気管支拡張剤に対する反応性,心循環系の状態などを考慮して判断する.以前ステロイド剤を使用したことがない患者では,発作がかなり重篤でもなるべくステロイドなしできりぬけるよう努力してみる.逆にステロイド使用量が長く,副腎皮質機能不全が認められたり,推測されるような場合は,ステロイドの使用を控えたり,その増量を制限するのは危険である,ステロイド離脱後6ないし9カ月以上副腎皮質機能が回復していない場合が少なくない.このような場合には発作がなくても手術などの時には術前から投与しておく.軽症発作ではステロイド剤を投与しない.しかしそれほど重病でなくても気管支拡張剤などの内服だけでは十分コントロールできず,頻回の注射,吸入を行わざるを得ないような場合とか,比較的少量のステロイドの連日あるいは間歇的使用で十分社会生活に耐えられるような状態が得られる場合,季節性で少量短期間の使用で卓効が期待できる場合,心・循環系の合併症の存在や気管支拡張剤に対する副作用が強くて十分量を使用できない場合などにはステロイド剤の使用を考慮してよい.
吸入療法が呼吸器疾患の治療法の中でも重要な位置を占めるようになっていることは周知の事実である.とくに最近は,取り扱いが簡便で多目的に使用できるIPPB装置の開発改良が進み,薬剤の吸入ばかりでなく,慢性呼吸不全の管理も容易に行えるようになっている.吸入療法は主としてエロゾル吸入療法と酸素吸入療法であり,その目的は,①気道クリーニング,②気管支攣縮の除去,③低酸素血症の改善,④換気効率の改善などである.
吸入療法の適応となる疾患は,慢性気管支炎,気管支喘息,慢性肺気腫,気管支拡張症,肺線維症そのほか種々の原因による気道・肺感染症などの呼吸器疾患のほか,外科手術前後の気道クリーニングのためにもエロゾル吸入が行われている.
酸素療法とは,治療を目的として大気より高濃度のO2を吸入気に加えて生体に与えることである.
従来より呼吸不全の治療法として用いられてきた酸素療法や調節呼吸,とくに間歌的陽圧調節呼吸(IPPB)は高濃度の酸素による酸素中毒や,長時間同じ圧,同じ換気量でIPPBを行うと,肺胞虚脱によって肺内シャントが増加することが指摘され,濃度の低い酸素で肺胞虚脱を防ぐという考え方から,一時期かえりみられなかった陽圧調節呼吸法が,再びAshbaughらにより終末呼気にのみ陽圧をかける終末呼気陽圧呼吸法(positive end-expiratory pressure,PEEP)として重症呼吸不全に応用され,本邦においてもルーチンに日常臨床に使用されるようになってきた.
喘息発作は種々の誘因で起こり,多くの増強因子によって修飾される.すなわち,抗原への曝露,呼吸器感染,物理的・化学的刺激物質の吸入,アスピリンなどの薬剤,さらには運動あるいは心因と多くの因子が発作を誘発し,増強する.発作の治療は,誘因,増強因子の排除は当然として,すでに起こっている気管支筋攣縮,粘膜浮腫,喀痰排出困難に対する対策となり,なかでも,気管支筋攣縮の対策が中心となる.また,カテコールアミン系の治療に抗して発作が継続する喘息発作重積状態に患者が陥らないようにしなければならない.
最近,種々の対症療法薬がとくにインタールなどの化学伝達物質遊離抑制剤を中心として開発が進み,いわゆる予防薬として使用されるようになってから,一般変調療法に対する考え方もかなり違ってきた.しかし,なお本療法が種々の問題点をかかえながらも必要とされるのは,より本質的な治療,患者の言を借りれば,原因的治療の要求にある.
重症喘息は大発作(重症発作)や頻回の発作を起こす症例であり,ステロイド剤依存・連用,アミノフィリン,アドレナリン耐性などが問題になっている.
気管支喘息治療の一環としてのサマーキャンプは学童を対象に,近年,さかんに行われるようになり好評である.このキャンプの目的としては次のようなことが考えられる.
1)喘息児に,喘息で苦しんでいるのは自分一人ではなく,こんなに多くの友達が同じように苦しんでいる,しかし一生懸命にがんばって喘息を克服しようとしているのだということを見させ,いっしょにそれに打ち克とうという気持ちを持たせること.
一般的事項
気管支拡張症は気管支内腔の不可逆性拡張を示すものとして定義されるが,このうちまったく無症状のものに対しては拡張症として取り扱わない場合もあり,またこれらに対しては治療の対象としないのが原則である.
また本症は次のように分類される.
どんなとき体位ドレナージをするか
体位ドレナージとは以下に述べるようないろいろな体位をとることによって,気管支内に貯留した痰を流出させ,喀出させる治療法で,その対象となる病態は,気道内分泌物が多く,咳による袪痰がうまくできない場合であり,その代表としては気管支拡張症,肺化膿症などがあげられるが,慢性気管支炎,汎細気管支炎,感染を伴う肺気腫などの痰の多い呼吸器疾患のすべてが体位ドレナージの適応となる.
呼吸器感染症における抗生物質選択の条件として,つぎの5項目があげられる.
1)原因菌の決定
慢性気管支炎は気管支における過剰な分泌を特徴とし,臨床的には慢性,持続性の咳嗽,喀痰を伴う疾患である.これらの症状が,厳密には1年間に3カ月以上でそれが2年以上にわたって反復持続する場合をいうが,咳嗽,喀痰の持続が3カ月以上という点はこだわらず,本邦では2年以上にわたって反復する点を重視する傾向にある.しかも,これらの症状が肺・気管支,上気道の限局性病変,たとえば肺結核症,肺腫瘍,気管支拡張症や,循環器疾患によらないで起こるものである.つまり,本症の診断は疫学的立場に立っての除外診断によりなされる.
肺の真菌感染症の臨床診断は困難な場合が多いが,化学療法などを施行するに際しては正確な診断と病態の把握溝要求されることはいうまでもないことである.治療の大要は下記のとおりである1,2).
1)一般療法:安静,栄養,皮膚・口腔・義歯などの清潔を保ち,全身や局所の抵抗力の増進をはかる.
かぜ症候群の診断
治療開始に先立って,正確な診断が要求されることは,すべての疾患を通じていえることであるが,かぜ症候群(かぜと略)では特徴的な症状,所見に乏しいため,他の疾患を除外してのち初めてかぜの診断を下す態度で臨むべきである.かぜが日常診療上あまりにも普遍的であるため,"かぜ症状"があればとかく安易にかぜとする傾向がみられる.しかし,実際には"かぜ症状"を呈してくるかぜ以外の疾患,しかもそれぞれに的確な早期治療を要求される疾患は数多い.
したがって,高熱を呈する症例では主として急性熱性疾患との鑑別が,呼吸器症状,とくに咳,痰などの下気道症状が強い症例では,肺結核,胸膜炎,肺化膿症その他の呼吸器疾患との鑑別が問題となる.
肺炎は,現在なお,すべての感染症,呼吸器疾患の中で中心的地位を占めており,したがってこれを早期に,かつ正しく診断し,治療するごとの重要性は今さら強調の必要もないであろう.
肺炎治療の中心をなすのは抗生剤療法であるが,これを実施するにあたり,いくつかの考慮すべき点がある.
すぐれた抗結核薬が数多く登場して以来,肺結核症の治療は比較的容易になり,初回治療患者であれば病状が超重症であるか,副作用のため有力な抗結核薬が使用し得ないか,初回耐性などの症例を除けば治療6カ月似内に100%喀痰中結核菌は陰性化し,1カ月以内に約30%以上の症例が培養陰性化することが知られている.
したがって,現在肺結核治療の主流は化学療法であり,抗結核薬出現までに結核に対する重要な治療法であった大気,安静,栄養などの一般療法の価値は減少している.
重症再治療患者とは
重症肺結核とは,一般に病巣を両側広範に有する有症状者で,多くの場合排菌がある.このような重症例ではあっても,今日の進歩した抗結核剤を用いると,初回治療例ではかなりの効果が期待しうるので,重症肺結核は必ずしも難治肺結核とはいえない.この点,重症肺結核と難治肺結核とは区別しておく必要がある.
再治療患者とは,化学療法の後,ある期間の無治療を経た後に再び化学療法を行う患者の場合をいうが,過去の化学療法期間や無治療の期間などについての一定の基準があるわけではない.しかし,常識的には,それぞれ1カ月以上の期間と考えてよいであろう.さて,初回治療と再治療とでは,その治療効果にかなりの差が生じうることは,病巣の陳旧化と再燃,既使用薬剤の感受性の低下などから当然理解しうることである.そこで,重症再治療例は,重症初回治療例に比較して,難治肺結核である可能性が大きいことも容易に推測しうる.とくに,RFP,EBなどの強力な二次抗結核剤の開発される以前では重症再治療例におけるこの傾向は強かったといえる.この点で,RFP,EB未使用の再治療患者と既使用のそれとでは,その治療効果にはかなりの差が生じうることとなる.
急性呼吸不全の定義は今日なお完全とはいえない.しかもその背景となる疾患は多様で,本病態の治療と管理を十分に概念の確立したentityにおけるごとく一義的に解説するには,いささかためらいを感じる.しかし,臨床の場面でしばしば出あう「数時間から数日間の経過中に,広義の呼吸器系を中心とする種々の病的過程に由来する血液ガス組成の異常により,生活機能が著しく障害された病態」と仮に定義してみると,基本的な治療と管理の原則を記述することは不可能ではない.すなわち,本稿では,「ガス交換障害の結果としての血液ガス組成の悪化(Pao2,Sao2の低下,Paco2の上昇)による急性危険症」としての急性呼吸不全に対する原則的対応について述べる.
慢性呼吸不全患者は,最近は肺結核に代わり,慢性閉塞性肺疾患,肺線維症,肺癌末期患者,慢性神経筋肉疾患などにみられるようになってきた.慢性呼吸不全は徐々に進行する.慢性の右心不全や多血症が存在するときは,慢性の低酸素血症や炭酸ガス蓄積を伴うようになる.このようなことから慢性呼吸不全の出現が疑われる.慢性呼吸不全は,肺機能障害の結果,動脈血中O2やCO2レベルを長期間正常に保つことができない状態(O2分圧75mmHg以下,CO2分圧47mmHg以上)をいう1).呼吸不全の確診には,動脈血ガス分析を行い,O2分圧,CO2分圧およびpHを測定することである.慢性呼吸不全の治療方針は,①呼吸仕事量の減少,②肺胞換気量の増大,③運動耐容量の改善,④急性増悪の予防,などである2).
肺洗浄療法の適応
慢性の閉塞性病変の存在,胸郭・腹部の手術,また筋萎縮性側索硬化症などで代表される筋・神経疾患の存在により,経気道性の加湿,抗生物質の投与,ステロイド剤を含めた気道拡張剤の投与,喀痰融解剤の十分な使用,postual drainageなどの理学療法の内科的治療を十分に行っても,気道内に増加した喀痰を十分に排除しえない状態,さらに肺胞蛋白症の場合のようにもともと気道系を介して除去しにくい物質が,びまん性に肺胞内に充填している場合に遭遇したとき,積極的にこれらを排除しなければPaO2の低下,ときにはPaCO2の上昇を伴った患者の呼吸不全状態を治療・管理することは困難となる.
この場合,まず第1に行われる対策は気管カテーテルを挿入し,これを介してカニューレで分泌物を非直視下に吸引するか,ファイバー気管支鏡を挿入しての直視下での気道内分泌物の吸引であろう.いずれが優先されるかはその施設の設備のいかんに左右されるが,近年ファイバー気管支鏡の呼吸管理への導入が一般化している.いずれの場合も気道内に付加される機械的刺激が咳嗽反射を誘発し,末梢気管支領域を充填する分泌物がcough upされ,気管支鏡の非可視領域の末梢気道系内の分泌物の排除にも有効である.
呼吸に対するリハビリテーションというと,肺理学療法の代わりに用いられるきらいがあるが,そうではなく,もっと総合的なものである.すなわち呼吸不全という状態にある患者の一方では機能の改善を試み,一方では残された機能で最大の生活が可能なようにする一連の医療行為である.
慢性肺気腫はWHOの定義では「呼吸気管支梢壁または肺胞壁の破壊を伴うことによって特徴づけられる細気管支より末梢の含気空間の異常な増加」とされている.破壊された肺胞を修復することはできないので,肺気腫の治療の重点は,第1に合併する気管支炎,細気管支炎の治療と気道の清浄化によって,肺気腫の他の部位への進展を防止することであり,第2に肺理学療法などによって,残存する健常肺の機能を十分に活かすことにある.
自然気胸は近年増加の傾向にあり,大都市およびその周辺部にとくに著しいことから,大気汚染と本症との因果関係を指摘する報告もあるが,それよりも若年者に多いことから,気管支肺胞系の発育障害を考えねばならない.従来,特発性といわれていた自然気胸のほとんどが肺胞性嚢胞(気腫性嚢胞)の胸膜腔への破裂によって生ずることが明らかになってきた.治療法は安静を主体とする保存的療法から,気胸器あるいは注射器による穿刺脱気,胸腔ドレナージによる持続吸引,胸腔鏡下接着剤噴霧,開胸手術があるが,これらの各段階の治療法に対する適応についての考え方も各施設によって差異がみられる.本稿では筆者らの教室で行っている自然気胸治療のポイントを中心に,その概要について述べる.
肺癌に対する化学療法は多剤併用,間歇投与を中心として行われている.薬剤の併用に際しての考え方としては,組み入れられる薬剤それぞれが対象とする腫瘍に対し有効であること,それぞれの副作用が異なることにより副作用の分散が行われること,また併用による相乗効果が期待されることが望ましい条件となっている.また肺癌は組織型によって薬剤に対する感受性も異なるから,組織型に従って併用方法を選択する必要がある.現在,細胞診の進歩により容易にその組織型が推定できるから,これはどこででも可能である.
以下,筆者らが日常用いている方法を中心に,肺癌に対する化学療法の方法およびその適用について述べる.
医療は古くから"痛みに始まり痛みに終わる"といわれている.
臭化メタンテリン(Robinson,Cusie 1950)に始まる一連の合成抗コリン剤(抗コリン作動剤)の出現は,疼痛を主訴とする腹部疾患の診療に画期的な進歩をもたらした,とくに近年開発された抗コリン剤は,本剤特有の副作用,視力障害,排尿困難,心悸亢進などがかなり軽減され,疼痛,蠕動運動,胃液分泌抑制作用が強力であるという利点をもっている.
制酸剤は,胃液の酸を中和し,また,その結果としてペプシンを不活性化することはよく知られている.Sippy療法以来,制酸剤は消化性潰瘍の代表的な治療薬として教科書にも常にトップにあげられている.ところが,現実には,消化性潰瘍の治療には,抗コリン剤を中心とした合剤が用いられることが多く,制酸剤は配合剤としてのみ用いられる傾向がある.ここで,もう一度,制酸剤の特徴とその効果的な使用法について考えてみよう.
消化管の機能は情動の影響を受けやすく,消化器病患者には心身相関の病態を示すものや精神的な愁訴をもつものが少なくない.
管理職にみられる胃十二指腸潰瘍はマネージャー病と,過敏性大腸症候群は文明病ともいわれ,ともに消化器系のストレス病の典型とみなされている.この他の消化管疾患にも精神安定剤を必要とする病態を示す症例は多くみられる.むしろ現代のストレス社会における消化管疾患にはすべてなんらかのトランキライザーが必要とすら考えられる.
消化管疾患における消化酵素剤の適応
消化酵素剤が治療として必要なのは,胃液,膵液,および腸液などの消化液分泌低下ないし欠如に基づく相対的絶対的消化不全に対してであり,したがって代償療法である.厳密にいえば,消化液分泌低下に基づく二次性のmalabsorption syndrome(吸収不良症候群)が絶対的適応といえる.しかし,実際には明らかな消化吸収障害はなくても,各種の消化器疾患に伴う消化器系愁訴を消化液の相対的分泌不全と考えて,一種の対症療法として用いることが多い(表).
代償療法 わが国で多くみられる消化液分泌低下と関係のある二次性malabsorption syndromeをあげると,つぎのごとくである.
適応症
感染性腸炎 内科的消化管疾患で抗生剤による化学療法を行うものの大部分を占める.病原によって病像が異なり,また抗生剤の選択も多少違うが,考慮に入れるべき病原菌としては,①赤痢菌,②コレラ菌,③サルモネラ,④腸炎ビブリオ,⑤病原大腸菌⑥Yersinia,⑦Welch菌,ブドウ球菌その他,などがある.Virus性の下痢症は抗生剤療法の適応とならないので省略する.
腸結核 腸結核も腸管の感染症であるが,結核症という全身疾患の部分現象であり,一般に感染性腸炎という場合は急性の腸管の感染症を意味することが多い.
抗炎症剤のうち,副腎皮質ステロイドについては別項に記載があるので,ここでは非ステロイド抗炎症剤(以下単に抗炎症剤と記す)について述べる.抗炎症剤には鎮痛,解熱作用があり,広く用いられているが,ことにアスピリンは家庭常備薬ともなるほどに普及している.また,慢性関節リウマチに対しても抗炎症剤は多用されており,この場合その投与期間は長期に及ぶのが通常である.抗炎症剤は,一般に安全な副作用の少ない薬剤として安易に用いられているむきがあるが,実際にはその副作用は多岐にわたり,消化管,皮膚,肝,腎,骨髄,中枢神経などの障害が認められている.ことに長期使用の場合はその頻度も多くなる.これら副作用のうち最も一般的なものは消化管障害であり,各薬剤とも不定の胃症状をきたし,また,既存の消化性潰瘍の悪化をみるなどしばしば問題となっている.抗炎症剤による胃障害は,主として胃壁に直接作用して粘膜障害を起こすものであるが,坐薬のような剤型のものでも,吸収されたのち血行性に胃を障害する場合もある.
抗炎症剤による胃腸障害は動物実験でも明らかにされており,ラットではアスピリンによって慢性潰瘍の悪化をみ,また,インドメサシン,フェニルブタゾンの常用量で胃および小腸に急性潰瘍の発生と,同時に出血や穿孔をきたしたという報告もある.
ステロイドの適応
消化管疾患でステロイドを使用するものは,①潰瘍性大腸炎,②クローン病,③アレルギー性胃腸炎,④腸リンパ管拡張症などであるが,また⑤ウィップル病,⑥無γグロブリン血症でも抗生剤と併用して用いられる.
薬物療法を考える前に
消化性潰瘍は,"no acid,no ulcer"といわれるように,胃液が存在するどこの粘膜にでも発生する潰瘍であり発生機序については粘膜に対する攻撃因子と粘膜側の防禦因子の双方の均衡の破綻によるというShay(1961)の考え方が基本になっている.攻撃因子の増大とは,ガストリンまたは迷走神経を介しての胃液分泌の亢進や胆汁の胃内逆流などであり,防禦因子の減弱としては,粘膜の抵抗性(gastric mucosal barrier)や粘膜血流の低下あるいはセクレチン,CCK-PZ,GIPなどの十二指腸粘膜産生ホルモンによる腸性の胃液分泌抑制機能の低下などがあげられている.十二指腸潰瘍の場合は,過酸が特徴的であり,粘膜抵抗性の低下よりも攻撃因子の増加した状態が考えられるので,治療は胃液分泌の抑制と分泌された胃酸の中和に重点がおかれる.これに対し胃潰瘍の場合は過酸は必ずしも多くなく,正酸や低酸の患者も少なくないので,攻撃因子の増加よりも防禦因子の低下した状態が考えられ,治療も胃液中の酸の中和と粘膜の保護に重点がおかれる.
消化性潰瘍のなかには,投薬治療を受けないでも,安静だけで自然治癒する例があることはしばしば経験することであるが,患者を精神的肉体的なストレスから解放して安静を得させることと適正な食事計画の下におくことは,薬物治療の効果を上げるためにも極めて大切なことである.
下痢患者は一般に頻回の排便を訴えるが,下痢とはこのような排便回数の増加とは別に,糞便の性状から水分の含有量が75%以上に増加して,糞便が形を失った状態と定義される.そして,その程度によって,軟便,泥状便,水様便などに分類される.
ところで下痢は,腸疾患の際に最も多くあらわれるが,その他の消化器疾患,内分泌疾患,代謝疾患あるいは循環器疾患など,多くの原因疾患によってもあらわれる1).
便通異常,ことに便秘を訴える患者はきわめて多いが,消化器疾患の患者に限られることなく,循環器系,呼吸器系,神経系,泌尿器系ならびに内分泌系の患者あるいは感染症,血液疾患などの内科系患者に広くみられるばかりでなく,外科,産婦人科,精神科,皮膚科,耳鼻咽喉科,眼科などの各科領域の患者にみられる.このため便秘の原因はきわめて多岐にわたり,その治療法も複雑である.
したがって,便秘患者を対象として,患者に応じた投薬のコツを考えるには,便秘の根本問題,定義,排便機構,発生機序,下剤などについて考察を加え,さらに便秘を臨床的に分類し,それぞれについて治療法を検討することにしたい.
妊婦における消化器症状は,しばしばみられるが,その原因を2大別することができる.
妊娠に直接的に関係するものとしては,妊娠悪阻にもとづく食欲不振,嘔気,嘔吐が代表的なものである.また妊娠後半期においては妊娠子宮の圧迫によって,腹部膨満感,便秘などが起こる.
胃潰瘍の治療
胃・十二指腸潰瘍の病因については未だ十分に解明されていない現状であり,現在行われている治療は原因療法よりもむしろ対症療法に近いものである.治療方針は心身の安静と生活指導,薬物および食事療法が中心であり,この目的のためには,できるだけ入院治療がのぞましい.消化性潰瘍の薬物療法は抗コリン剤,抗ペプシン剤,抗ガストリン剤など多くの種類が開発され利用されているが,その治癒率,治癒期間などは従来の薬剤に比べてすぐれているとはいえず,食事療法の占める位置は依然として大きい.とくに再発再燃の頻度が高い本症では再発防止のはっきりした方法のない今日,薬物療法とともに生活指導の一環として食事療法の指導を十分に行う必要があると考えられる.
消化性潰瘍の食事療法の基本
胃・十二指腸潰瘍は,胃液中の酸およびペプシンによる胃壁の自己消化により発生するものと信じられているが,とくに十二指腸潰瘍では迷走神経緊張亢進により,胃液基礎分泌が亢進するばかりでなく,食事性刺激によるガストリンを介する体液性の胃液分泌が亢進している.したがって,消化性潰瘍の食事療法の基本としては,古くから攻撃因子としての胃液の分泌を促進せず,防御因手としての粘膜を庇護し,潰瘍の治癒を促進するような食事が必要と考えられ,牛乳やクリームと制酸剤を1時間ごとに頻回投与するSippy療法や,器械的ないし化学的刺激により,胃液分泌を促進する食品を避ける厳格な食事療法が唱道されてきた.
実際に種々の食品成分を摂取した際の胃内pHの変動をpHテレメーターを使用したラジオカプセルで測定すると,図1のように炭水化物食品であるくず湯や脂肪食品であるバターでは,服用後,十数分から30分にかけて胃酸が稀釈されて,わずかにpHの上昇がみられたのち,旧値に復するが,動物性蛋白質として,肉汁エキスを投与すると,図2のように服用後約30分間は胃酸は蛋白質により中和緩衝されて,胃内pHは明らかに上昇し,その後,ガストリンを介する酸分泌の影響を受けて,胃内pHは食前値以下に低下する.
近年,小児の消化性潰瘍は増加の傾向があるといわれ,その報告数も増えていて,子どもの現代病の一つとしても注目されている1〜4).これは診断技術の向上によることもあろうが,近代社会における変貌,とくにストレスの増加(学習塾通いなど)のほか,副腎ステロイド剤,サルチル酸療法などの医原病としての増加も考慮する必要があるといわれている.
小児期の消化性潰瘍の特徴としては,十二指腸に多く発生し,年長児になると成人のような慢性型もみられるが,しばしば発症が急激で頻回の嘔吐,大量吐血,穿孔,ショックなどで発病することが稀ではないことなどである.しかし,自然治癒傾向も強く,ふつう3〜4週間の治療で治癒することが多い,さらに治療面では,本症発生に諸々の因子が複雑に関与していることから全体医学的な加療が望まれる.緊急時を除き内科的治療でよいが,その重要なウエイトを占める食餌療法も小児期の食事の特性をよく理解しての適切な指示が必要となる.
老人の十二指腸潰瘍は,従来より若年者に比べ頻度の少ないものとされていたが,最近高齢化しつつある人口とともに,老人福祉がゆきわたり,老人の病院受診率が高まり,また老人に対して内視鏡検査も安全に行えるようになったため,われわれの日常診療で老人の消化性潰瘍を診る機会は増加している.老人の消化性潰瘍の主体をなすものは胃潰瘍であるが,ときどき十二指腸潰蕩にも遭遇するので,注意が必要である.このように十二指腸潰瘍を診る機会が増加した理由として,核家族化しつつある社会の中で老人の生活環境が昔と変わり,常に社会的ストレスにさらされる機会が増えたこともその一因としてあげられると思われる.
老人における十二指腸潰瘍の病態は臨床症状のあらわれ方,頻度など若年者と若干趣を異にし,診断や食事療法,薬物療法の治療においても老年者として特別な配慮が必要であると思われる.以下,筆者らが都立養育院付属病院で経験した老人の十二指腸潰瘍の病態と治療,とくに食事療法を行う際の注意点を中心に述べてみたい.
急性下痢の食事
比較的短時日で回復するから栄養補給を急ぐ必要はない.初期には厳重な食事制限を行い,症状の激しい最初の1日ぐらいは絶食とする.この際,下痢で水分が失われるので,湯ざまし,薄い番茶や麦茶,薄い紅茶などを十分に与えて脱水を防ぐ.悪心・嘔吐があって経口的に水分の補給ができないときは,ブドウ糖液,生理食塩水を静注する.翌日頃からおも湯,くず湯,砂糖湯,ブドウ糖液などの流動食および野菜スープを与える.ついで便通の状態を考えあわせながら次第に制限をゆるめ,5分粥から全粥,うどん,ウェファース,ビスケット,プリン,バターをごく薄く塗ったトーストなどに移っていく.副食としては半熟卵や茶碗蒸しの卵,豆腐,脂肪の少ない白身の魚(ひらめ,かれい,さわら),鶏のささ身,焼麩,はんぺん,よく煮たにんじん,裏ごししたじゃがいもやほうれんそうを与える.原則として線維・脂肪の少ないもので,薄味に煮たものを用いる.症状が悪化しなければ早めに普通食に戻してよいが,はじめは少量ずつ頻回に与えたほうがよい.
一般に生野菜,生の果物は線維が多いので避けるようにする.しかし,果物でもよく熟して酸味がなく線維に乏しいバナナやりんごはよく,とくにりんごをすりおろして与えると下痢が止まることが多い.脂肪の多い牛肉や豚肉,うなぎ,天ぷら,中華料理などは避けるようにする.牛乳は与えてもよいが,牛乳不耐症のあるものでは下痢を助長するので注意が必要である.
われわれが日常経験する疾患のうちには,摂取された食物が病巣を刺激し,病状のいっそうの悪化をきたしているものがある.このような疾患に対して一定期間絶食とし,食餌による病巣刺激を断つことは極めて合理的な治療法といえる.従来このような「絶食療法」は種々の消化器疾患に対して用いられ,その効果は広く認められている.しかしながら,この療法も治療期間の点では著しい制限があり,この間の栄養補給がなんらかの方法でなされないと患者は次第にるいそうをきたし,治癒を期待しうるどころか逆に症状のいっそうの悪化さえきたすことも稀ならず経験されてきたのである.このようないわば「絶食療法の限界」に対して新しいアプローチとして挑戦しつつあるのが高カロリー輸液療法である.
高カロリー輸液法は衆知のごとく,上大静脈内に留置したカテーテルを通じて高張グルコース・アミノ酸混合液に主なる電解質類ビタミン類などを混合し,これを持続投与する方法である.本輸液法は米国のDudrickら1)の努力により最近10年間に長足の進歩を遂げ,次第に安全確実な治療手段として認められるに至った.当初は経口摂取の不能な患者に対する唯一の栄養維持手段として試みられてきた本輸液法も適応の幅が広げられ,種種のバラエティーに富んだ病態に対して応用がなされている.
吐血および下血を主訴とする消化管出血に対して,より早期に緊急内視鏡検査を施行することの重要性についてはいうまでもない.緊急内視鏡検査の定義については各施設により異なり,一定の見解を持たないが,時間的要素のみからいうと出血後24時間以内とする施設が多いようである.
第11回日本消化器内視鏡学会秋季大会においてのシンポジウム「内視鏡下における治療の試み」の中で,内視鏡的緊急止血法についての討論がなされて以来,吐下血中の患者に対して緊急内視鏡検査を行う場合には,出血源の確認はもとより,内視鏡的止血を多くの症例で試みるようになってきており,かなりの効果をあげている.
ファイバースコープの発達により,内視鏡は診断を目的としたいわゆる「検査」のみならず,内視鏡による処置へと大きく発展し,その一つとして,ファイバースコープによる異物摘出が行われるようになった.食道および胃などの上部消化管異物は,気管や気管支の異物のように気道閉塞を起こすケースは少ない.しかし,嚥下障害,異物感,疼痛などの症状があらわれ,ときには出血,呼吸困難が生じ緊急内視鏡の必要に迫まられる場合もある.
口からの異物は多くが誤って飲み込んでしまったケースがほとんであるが,中には自殺目的や精神異常者が常識では考えられない物(爪切り,ボールペン,ピンセット,ゴムチューブなど)を飲み込んだケースも経験している.魚の骨,ピンなどが食道に刺さった場合は別として,消化管異物はほとんどが胃に落ちているが,食道に引っかかった場合はそれより下部の食道に狭窄(食道癌)などがあるものと考えねばならない.
上部消化管における内視鏡的ポリペクトミーは,近年各医療機関でさかんに行われるようになった.
第20回日本消化器内視鏡学会総会においても,ラウンドテーブルディスカッション-治療内視鏡学の中で,その研究成果が討論され注目を集めた.しかし,その討論でも明らかなように,ポリペクトミーの適応や切断機序の解明などについては若干の問題を残しており,レーザー光線の実用化などとともに,今後の研究が待たれる.
大腸ポリープの内視鏡的ポリペクトミーの意義については,改めて論ずるまでもなかろう.本法は,大腸早期癌の診断のみならず治療にも大きく貢献している.しかし,その適応はあくまでも有茎性ないしは亜有茎性ポリープにとどまり,広基性ないしは大きな無茎性ポリープ,粘膜下腫瘤などには本法は禁忌である.また,内視鏡的に明らかに癌と診断されるものは,原則として適応でない.
内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphinctero-papillotomy)は,遺残胆道結石に対する内視鏡的治療法として1973年,川井1,2),Classen3),相馬4〜6)の三者によって各々独自に開発された方法である.遺残胆道結石の治療法として従来確立されてきた内視鏡の応用法は外胆汁瘻が存在することが前提となっており,外胆汁瘻のすでに閉鎖している症例では,観血的方法によらざるを得なかった.しかし,ここで述べる方法は外胆汁瘻のない症例にも非観血的に行える方法であるため,多くの関心を集めており,世界中から症例報告が相次いでいる.ちなみに1977年までの欧州における症例数(表1)と,1978年4月までの日本における症例数(表2)とを示す.
胃潰瘍の局所注射療法(局注法)
局注法のねらい 治りにくい潰瘍というものは,局所的にみて,その治癒過程に歪みが生じている場合が多い,何度も再発をくり返している潰瘍など,肉芽層の深部の胼胝組織は硬化し,弾力性を失い収縮する余裕さえなくなっている.このように潰瘍の辺縁や潰瘍底が線維化fibrosisをきたし,硬くなれば,いくら潰瘍治療剤を飲んだところで,潰瘍は縮小しようにも縮小できないであろう.それならば局所に何か薬を注射(注入)して,このfibrosisをとり除き,柔らかくしてやれば縮小への方向に向かうのではないか,つまり旧い潰瘍をいったん新しい潰瘍にし,そこへさらに肉芽形式を促進するような薬を注射すれば良好な治癒経過をとるのではなかろうかと考えたわけである.
神経性胃炎とは
神経的な胃症候群の病態である神経性胃炎という用語は,日常の診療における消化器症状のアプローチに際して,過敏性大腸症候群とならんでしばしば用いられている.しかし,過敏性大腸症候群はすでに一つの確固たる疾患単位であるけれども,神経性胃炎についてはまだ一般に通ずる疾病概念が確立されておらず,これを使う人によってその意味はかなり異なってくる.
現今,諸家によって用いられている神経性胃炎は包括的な表現であって,その基調となる考え方には,機能的胃症状を主徴とする各種の病態を心身症として取り扱おうとする志向があることは事実である.
胃・十二指腸潰瘍は古くから心身症の代表的疾患とされているが,これは潰瘍の成因や再発再然の因子が単純なものでなく,いろいろ複雑な因子がからみ合っていると考えられるために,胃・十二指腸潰瘍を単に局所疾患としてのみとらえるのではなく,むしろ全身的疾患として心身両面から扱うべきであるという心身医学的な見地よりの解釈であり,このことは今日すでに常識となりつつある.一方,従来より潰瘍の再発や再然に関して精神的ストレスが関与している例が多いということはいうまでもないが,最近精神的ストレスが原因となって発生したと考えられる急性潰瘍性病変が注目されてきており,多方面からの検討が行われている.そこでまず一般的なストレス潰瘍の概念について少し述べてみる.
心因性疾患は最近多くの人に注目されるようになってきたが,なかでも過敏性大腸症候群は消化器系における心因性疾患として重要であり,また手術と関連のあるものが多く,外科の側からみても無視できない大切な疾患である.また,筆者らは純粋に内科的な過敏性大腸症候群の患者の経験は少ないので,外科としての立場から本症候群について述べることにしたい.
過敏性大腸症候群のうち,下痢症状を主体とするものが神経性下痢(nervous diarrhea)である.神経性下痢では,腸管の運動機能亢進にもとづいて,持続的または間歇的に下痢を呈する.一般に青壮年者の男子に多く,しばしば精神的な不安緊張によって病状が,誘発されやすい.
概念と症状
神経性食欲不振症は思春期女子に多い疾患で,食欲不振,やせ,無月経を主症状とする.1968年にLasegueはapepsia hystericaと名づけ,1874年には,Guli, W. W. がAnorexia nervosaと名づけ,今日では,後者が一般に使われるようになった1).本疾患はこのほか,やせが著しいにもかかわらず病識がなく,活動性が高いなど特異な性状を呈している.
この病因については,食欲中枢の存在する間脳の機能異常,あるいは脳下垂体を中心とした全身の内分泌機能の異常など,身体機能失調を主張する立場と,心因の意義を強調し,精神的・心理的な要因を病因と考える立場とにわかれているが,現在では,心理面での要因がまずあって,身体面での変化は二次的なものであろうとする考えが支配的である2).
ダンピング症候群は胃切除患者の10〜20%に生ずると考えられているが,その病態は複雑であって完全に理解されていない.1922年Mixは初めてdumping stomachと命名し,胃切除後に食物が吻合部から急速に墜落様に排出するために起こる愁訴と考えられていた.しかし胃切除以外でも,胃腸吻合術あるいは空腸中に濃厚液をゾンデで注入しただけでも起こるため,急速排出のみによるものでないことが明らかとなった.その後AdlersbergおよびHammershlag(1947)はダンピング症候群には食後早期に起こってくる早期食後症状early postprandial dumping syndromeと,食後数時間してから起こる後期食後症状late postprandial dumping syndromeとがあり,前者は食物の急速排出が原因であり,後者は食後急速に上昇した血糖がインスリン過剰分泌により反動的に下降する低血糖が原因であると述べている.現在一般には,ダンピング症候群というと早期症状を意味し,後期症状late postprandial hypoglycemiaはダンピング症候群から除外されている.
術後の対策,管理のポイントは,手術のみでなく患者の術前の全身的ならびに局所的条件によって比重が異なってくる.したがって,術前に原疾患およびそれによってもたらされた病態をよく把握しておくべきことはもちろん,その他の主要臓器の機能異常の有無について十分な検査がなされていなければならない.しかし救急手術例では,局所ならびに全身状態に関する情報不足のまま手術に着手せざるをえないので,術中から術後に精力的な対応が要求されることになる.胃切除後の対策と管理ははなはだしく多岐にわたっており,誌面に限りのある本稿ではそのすべてを記述することは到底不可能であるので,主として胃切除後早期から中期(手術直後から約1カ月ぐらい)にかけての局所的な合併症に対する対策と管理を列記する.
近年,診断学の進歩により潰瘍性大腸炎,大腸ポリポージス,大腸クローン病などを経験することが多くなり,それに伴って結腸全摘例あるいは亜全摘例が増加しつつある.大腸切除術後の対策と管理で問題となるのはこれらの術式であり,結腸部分切除は術後苦慮することは少ない.したがって,本稿では結腸全摘あるいは亜全摘術後の対策と管理について述べるが,その前に大腸の生理機能について触れておく.
本邦においては,急性肝炎は肝炎ウイルスに起因するものが約70%を占めている.肝炎ウイルス以外にEpstein barr(EB)ウイルス,サイトメガロウイルス,アデノウイルスなども,いわゆる急性肝炎を惹起することがある.しかし,これらは極めて稀であり,むしろ薬剤性の肝障害に遭遇する場合が多い.しかし,本稿では最も頻度の多い肝炎ウイルスによる急性肝炎について述べる.
劇症肝炎とは発病後8週間以内に肝性昏睡をきたす重症型の急性肝炎で,病型としては電撃性肝炎および一部の亜急性肝炎がこの範疇に入り,病因としてはウイルス性,薬剤性のものがある1).
本症の治療方法としては補液,ステロイドホルモンを主とした保存的療法が長らく行われてきたが,Trey2,3)らが多数例の劇症肝炎について交換輸血療法を行い,一定の成果を報告して以来,本邦でも試みられるようになり,さらに最近では活性炭4),polyacrylonitrile膜(PAN膜)5,6)を用いる人工肝補助装置による治療方法も試みられている.しかし,これらの方法による治療方法も劇症肝炎に対する画期的な治療方法とみなされるには到っていないのが現状である.
適応
慢性肝炎に対して,副腎皮質ホルモンをどのような症例に対して使用するかという問題は,なかなかむずかしい点が多い.それは症例によって情報量が異なるからであって,大学病院のように肝生検はもとより,自己抗体の検査まで十分行って診断をつけておいて,それに本剤を使用する場合と,肝機能検査程度で半分は臨床的目安で使わねばならぬ場合とあるが,ここでは前者として書く.次に外国でいう本剤の適応であるchronic active hepatitisは,本邦でいういわゆるルポイド肝炎であって,日本の分類(犬山分類)での慢性肝炎活動型とイコールではないことに注意しなければならない.
副腎皮質ホルモン剤の慢性肝炎の第1の適応は,いわゆるルポイド肝炎(別名自己免疫性慢性肝炎とか,Plasma cell hepatitisとか)であり,これについては効果も確認されている.ときにすでに肝硬変に移行していることもあるが絶対適応であって,よく効く.
慢性肝炎患者の治療を行うに当たっては,肝硬変,脂肪肝などを除外して,確実な診断をくだすばかりでなく,肝障害の強さ,病変の活動性,進行性および予後を判断することが必要である.そのためには短期間における肝機能検査の成績や,ある一時点における肝生検所見だけでなく,2〜3カ月以上,できれば6カ月にわたり全身的観察を行いつつ諸検査をくり返し,良性か悪性かといった疾病の動向をよく見きわめることが望まれる.
肝硬変症の腹水の成因としては,低アルブミン血症,門脈圧亢進症,肝類洞の透過性亢進,肝リンパの濾出,アルドステロン・ADHなど体液因子の異常,腎機能の低下などが考えられている.このように多くの因子が複雑に関与しており,まだ十分明らかでないにしても,肝硬変の腹水発生のメカニズムをよく理解し,適切な治療を行うことが大切である.
食道静脈瘤の証明された患者は症例によっては即刻手術をしたほうがよい場合,また肝機能障害の改善を待ちながら手術時期を選択する余裕のある症例,また食道静脈瘤を観察しながら外科的治療を加えないですませうる症例もときには存在しうる.食道静脈瘤に対する治療にしても現在の食道離断術1,2)を中心とする直達手術のほかに,食道内腔からの硬化剤注入法3),あるいは経皮経肝門脈カテーテル法による血栓形成を促進する薬剤の門脈内注入法4)など比較的侵襲の少ない治療法も試みられている現状である.予防的手術,待期的手術,緊急処置および緊急手術,術式の選択などについて記述をすすめてみる.
当科入院患者の統計で肝硬変症・糖尿病合併例は,近年増加傾向にあり,肝硬変患者330名の13.6%に糖尿病が,また糖尿病患者528名の8.5%に肝硬変が合併している.このうち大部分は空腹時血糖値が正常,ブドウ糖負荷で糖尿病型を示す軽症例であるが,なかには空腹時血糖値が150mg/dlをこえる症例もみられる.前者の場合には肥満者が多く,後者はアルコール常飲者に高率にみられる.
肝硬変症,糖尿病ともに食事療法が治療の基礎となるので,両疾患が合併したときの治療も当然食事療法が中心となる.以下,治療前の検査,食事療法,インスリンの使用法,経口血糖降下剤の選び方,肝不全時の治療などについても述べる.
肝硬変の合併症としての肝性昏睡は死因の頻度も食道静脈瘤破裂とともに高く,臨床的に最も重要なものである.肝硬変による昏睡の発生機序はなお不明の点が多いが,高アンモニア血症が重要な役割をもつことはこれまでの研究で明らかであり1,2),これには門脈副血行路が主役をなし,それに肝細胞障害が加味して生ずる.
したがって,肝硬変による昏睡の治療は高アンモニア血症に対する対策が中心となるが,アンモニアおよび腸管由来の有毒物質の作用を増長する諸因子の除去も大切である.なお最近,血漿遊離アミノ酸のアンバランスが偽性伝達物質との関連において肝性昏睡の発生因子として注目され,これに対する対策も望ましい3).
肝硬変症では血小板数,血液凝固因子などの減少による潜在性の出血傾向が認められる上に,血中線溶活性の異常亢進を伴う症例も少なくない.
原発肝癌は肝細胞癌,胆管細胞癌および混合型に分類されるが,成人の肝癌の大部分は,肝細胞癌Hepatomaであって,本邦例4)では肝癌の77.6%を占めている.
肝切除法の進歩に伴って,最近では本症に対する肝切除は積極的に行われる傾向にあり,切除不能例に対しては肝動脈結紮と経肝動脈または経門脈内持続的化学療法,制癌剤肝灌流法(Fortner)2)などが試みられている.また,欧米では本症に対し肝全摘と同所性肝移植も積極的に行われる傾向にある1).
肝癌の制癌剤療法は,多くの場合,肝切除不能な症例を対象に行われる.
現在,肝癌に対する確立された制癌剤療法はなく,その有効率は必ずしも高くはない.しかし,対象となった症例の腫瘍に感受性のある薬剤が十分投与された場合の効果は顕著で,腫瘍が縮小するばかりではなく,全身状態の改善も著しい.
肝臓病のうち,具体的にその治療が問題になるのは,腹水,意識障害,消化管出血など,非代償性肝疾患にみられる肝不全の対策である。したがって,われわれが日常遭遇する代償性肝疾患に対しては特殊な治療薬を必要としないという考え方が,欧米,とくに米国では有力である.しかし,古くから病的状態にある肝細胞の機能を改善する試みがなされており,このような薬物は肝臓治療薬,強肝薬,肝疵護薬などの名で医師および患者側から広く親しまれてきている.
肝臓治療薬は,主として代謝性医薬品に属しており,動物実験で肝障害の予防や治癒促進に有用であるものが多いが,その作用が一般に緩徐であるため,はたして臨床的に有効か否かについては疑問点が多い.ただ治療に有効でなくとも,患者の診療上は有用であるといわれている.事実,これらの薬物のうちには二重盲検試験で,患者の自覚,他覚所見を改善する成績が得られているものもある.
胆汁分泌について
肝細胞より分泌される胆汁は1日量で1,000mlにも達し,胆汁酸,ビリルビン,コレステロール,レシチン,糖質,無機質などを含んでいる.このうち重要な生理的機能をもっているのは胆汁酸で,あとは排泄物と考えられている.
腸に達した胆汁酸は脂肪の乳化と膵液の脂肪分解を助け,脂肪類の消化と吸収に関与し,同時に脂溶性ビタミンA,D,E,Kなどの吸収にあずかっている.胆汁酸自体はきわめて閉鎖的な循環系(enterohepatic circulation)を形成していることは周知のとおりである.
胆石症の治療計画にあたっては,まず診断を確実にすることが重要である.診断は単に胆石があるということにとどまらず,胆石の大きさ・所在・種類,胆嚢の病態,炎症や胆汁うっ滞の合併と程度,全身状態,とくに肝・消化管・腎・心肺・代謝性疾患の有無,社会的活動や生活態度にまでわたり,総合的に検討すべきである.このような事項は治療方針の決定に必要な資料である.
診断に基づいて治療方針を決める場合,まず手術すべきか否か,すなわち手術適応を決定せねばならない.さらに手術するとすれば,どのような術前の治療が必要か,手術しないとすれば,どのような治療をすべきかを決定する(図).
感染症における抗生剤療法は原則として起炎菌の確認,感受性試験,適応と用量を考慮して行われ,そのためには抗生剤の作用機序とともに,吸収,血中濃度,組織内移行,代謝および排泄などについての理解がなければならない.胆道感染症の抗生剤療法にもこのような原則が通ずることはいうまでもない.
急性膵炎の治療の原則は,従来からいわれているように,①ショックおよび電解質異常に対する処置②鎮痛,③膵外分泌の抑制,④抗酵素療法,⑤二次感染の予防,⑥開腹術などで,最近これに高カロリー輸液療法を加えるものもある.一方,本症のように全身状態など病状の変化が急速な疾病に対しては,病状を正確に把握してそれぞれの時期に的確に対応しなければならない.そのためには,脈拍数,呼吸数,血圧,尿量,意識などのいわゆるvital signのほか,血液中ガス分圧,pH,浸透圧,電解質,糖,尿素窒素,ヘマトクリットや中心静脈圧などの情報を入手することが必要である.その意味からも,重症例はICUで管理されることが望ましい.その上で,次のような基本的姿勢で本症の治療に臨むことが大切である.
1)発症時の重症度のいかんを問わず,発症2〜3日間は飢餓,輸液を実施して極力膵の安静をはかること.
慢性膵炎の成因は,胆石症やアルコールが最も多く,ついで外傷,原因不明のものに分けられる.一方,その病型は,石灰化膵炎,非石灰化膵炎,あるいはその経過や軽重によって,慢性反復性膵炎(chronic relapsing pancreatitis),非反復性膵炎(nonrelapsing pancreatitis)に分けて考えられている.また日膵研診断基準に基づいて,確診例,疑診例などと呼ばれるが,疑診例の中に,いわゆる軽症型膵炎が含まれる.このような成因および病型の相互関連性について,そのすべてが明らかにされているとはいいがたい,しかし可能なかぎり,そのタイプ,および成因などの観点から検討される必要があり,本稿ではその基本方針について述べることにする.
ホルモン過剰を示す下垂体病変がmicroadenomaによることが多いという知見や,これに対するmicrosurgeryの進歩,さらにヒト成長ホルモンやCB-154の臨床応用によって下垂体疾患の治療は最近めざましく進歩した.以下に主要疾患別にその要点を述べる.
下垂体後葉のアルギニンバゾプレシン(AVP)の欠乏に起因する尿崩症の治療としては,持続性AVP製剤であるタンニン酸ピトレッシンによる補充療法が長くもちいられてきたが,近年各種の経口尿崩症治療剤の使用が可能となり,本症治療は新たな局面をむかえた.さらに最近,Desamino-8-d-arginine vasopressin(DDAVP)が,点鼻剤として尿崩症治療にきわめて有効であることが示され,近い将来に,本症治療の第一選択となるものと考えられる.これらの現状をふまえて,諸種治療法の選択と組み合わせての方法が今後の重要な課題となっている.
バセドウ病は糖尿病についで多い内分泌疾患で,かつては80%前後が心不全のため死に至ったとされている.しかし,抗甲状腺剤の導入により,もはやバセドウ病は死に至る病ではなくなったばかりでなく,永久緩解も期待される状態となった.本稿では抗甲状腺剤による治療成績をどのように向上させるかについて,筆者の経験を中心としながら述べることにしたい.
手術の適応
バセドウ病の治療法の選択には絶対的な適応はなく,個々の症例についてどの治療が有利であるかを考えて選択する.手術が有利な場合は,一言でいえば早く治したほうがいい場合である.すなわち,青壮年の患者の場合,遠隔地または僻地に居住していて外来通院治療が容易でない場合,さらには抗甲状腺剤に副作用がある場合などであり,手術が不利な場合は,10歳未満の小児や60歳以上の高齢者,すでに一度手術を受けて再発したものなどである.
抗甲状腺剤療法や放射性ヨード療法が,はじめに期待されたほどの効果がなく,手術療法の優秀性が近年再評価されてきた1,2).しかし,手術成績の良し悪しは外科医の伎倆と深く関係しているので,甲状腺の手術に熟練している外科医がいない場合には,手術成績はかなり劣悪となる.そのような場合には他の治療法を選択したほうが有利である.図は年齢階級別にみた抗甲状腺剤療法,手術,放射性ヨード療法の割合を示している.10代,20代,30代では手術が最も多く,40代以後になると放射性ヨード療法が多くなっている.この図は筆者らが1968〜1975年の9年間に大分県の患者に対して行った治療法の選択の例であるが,おおむね一般性のある選択になっていると思われる.40代以後になると手術が少ないのは,患者が手術以外の治療を希望する場合にはこの年齢層では積極的に放射性ヨード療法を行っているからである.
甲状腺機能亢進症の治療法として,抗甲状腺剤療法,放射性ヨード療法および外科的切除術が行われているが,このうち,放射性ヨード療法は甲状腺の選択的なヨード摂取能を利用したもので,甲状腺に集積した放射性ヨードの放出する放射線によって濾胞上皮を破壊することを目的としている.現在,主に131Ⅰ(半減期8日)が用いられ,簡便で治療効果のすぐれていることから,広く利用されてきたが,最近,治療後の長期にわたる観察から,甲状腺機能低下症の多発が知られるようになり,131Ⅰ減量療法1〜4)など,131Ⅰ療法の再検討が行われている.筆者ら5)も数年前より初回投与131Ⅰ量を一律に4mCiとし,しかも極力再投与を行わない治療法を実施してきた.以下,131Ⅰ減量療法の成績を述べ,さらに筆者らの現在の131Ⅰ療法の治療方針について述べる.
バセドウ・クリーゼの定義
バセドウ・クリーゼの適正な治療を行うためには,まず,正確な診断を行うことが不可欠である.しかし,現在,バセドウ・クリーゼの定義については必ずしも統一見解が得られておらず,その判定基準も研究者によりまちまちである.それは,本クリーゼに特異的な検査所見はなく,その診断はもっぱら臨床的であって,絶対的なものではないからである.
多くの学者の意見を総合すれば,『バセドウ・クリーゼとは,甲状腺中毒症状が急速かつ高度に増悪した状態で,しばしば致命的であり,発熱,高度頻脈,意識障害,心不全,肝機能障害などを随伴するものをいう』.しかし,より現実的には,バセドウ病患者において,甲状腺中毒症状の増悪のほかに,38℃以上の発熱と高度の頻脈が随伴する場合には,本状態の存在を疑うべきであろう.
甲状腺機能亢進症は女性に多く,女性では半数以上が10歳台の後半から30歳台の前半までのいわゆるreproductive ageに発症していることを考えると,本症と妊娠との関係はきわめて重要である.reproductive ageの本症患者を取り扱っているときには妊娠の可能性を常に考えていなければならないし,また妊娠したらその予後を適切に推定しなければならない.
そこで,この点について,筆者らの経験を中心として簡単に述べる.
近年甲状腺に関する各種検査法の進歩により,それぞれの疾患の診断が正確につくようになった.バセドウ病の手術適応は別に詳しく記されるので省略する.橋本病や亜急性甲状腺炎は原則として手術をする必要はない.
比較的珍しい疾患として,先天性甲状腺ホルモン合成障害dyshormonogenesisがあり,この疾患では甲状腺が全体として腫大しているほかに,その中に大小さまざまの結節が合併して触れることがある,しばしば巨大な甲状腺腫を形成してくるので,外科医がみると直ちに切除をすすめる傾向があるが,基本にあるのは甲状腺ホルモン合成障害であるから,甲状腺機能検査を行い病態を正しく把握し,甲状腺ホルモンの投与を行うのが根本にある治療である.しかし,すでに結節状増殖を生じたもの,あるいはさらに腺腫を思わせる結節の生じているものでは,甲状腺ホルモン剤投与によっても十分縮小することはなく,悪性腫瘍あるいは増殖傾向の著しい腺腫の合併を疑って手術することがある.
橋本病は中年婦人に好発し,硬いびまん性の甲状腺腫をつくるほか,ほとんど症状を示さず,慢性かつ潜在性に進行する疾患である.甲状腺機能は検査により初めて明らかになる程度の軽い障害を示すものが多いが,ときに明らかな粘液水腫像を示すものもあり,甲状腺の生検では特有な組織所見を示す.
甲状腺機能低下症の発見
甲状腺機能低下症は,先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と成人における粘液水腫で代表され,その原因は表1に示すようなものがある.軽症のものでは甲状腺機能検査によらないと発見は困難であり,とくに先天性甲状腺機能低下症の診断はしばしば困難であり,臨床所見のみでは見逃されることがある.本症は発育障害,知能発達障害をきたし,とくに知能低下は通常不可逆性であり,放置または治療の遅れによって精神薄弱児となるため早期診断ならびに早期治療は極めて重要である.成人の場合においても心疾患,精神神経疾患,老人のぼけなどと間違われたり,徐々に発症して気付かれずに放置されていることもある.
また慢性甲状腺炎あるいはHashitoxicosisといわれるものでは,その経過中に亢進症になったり,低下症になったりすることがある.
副甲状腺機能亢進症
副甲状腺機能亢進症の分類の方法として,①原疾患別による方法,②血清Caのレベルによる方法などがある.
①原発性副甲状腺機能亢進症
副腎クリーゼは緊急を要することが多いので,内分泌学的検査の結果を待たずに,ただちに治療を開始しなければならない.副腎クリーゼの原因としては次のようなものを考える.
1)慢性副腎皮質不全(原発性または続発性)
経口血糖降下剤の適応
経口血糖降下剤を使うに当たって最も大切なことは,適応例を選ぶことであるといえる.適応の条件をあげると次のようになる.
1)成人型糖尿病であること
インスリン療法の適応
糖尿病の薬物療法については,使用の簡便さから経口血糖降下剤が適応の範囲をこえて乱用されすぎているきらいがあるが,現在でもインスリン注射は薬物療法の基本であり,インスリンをどうしても使わなければならないという絶対適応の患者が少なくない.
まず糖尿病性昏睡やケトアシドーシスのような急性代謝失調の状態にあるもの,および有熱性感染症,外傷,外科手術などによりケトアシドーシスをきたすおそれのある場合はインスリン療法の絶対適応である.また不安定型糖尿病のように,血糖の動揺の激しい患者にはインスリン製剤の種類をうまく選択して使用しなければならない.
糖尿病の食事療法は各人にみあった適正な1日総カロリーと,その範囲内での栄養素のバランスをとることにより,インスリン作用不足に基づく代謝異常の正常化と血管合併症の予防と進展阻止を目標にしている.糖尿病治療のための食事療法は,他の疾病における治療食と異なり,健康食・保健食として誰にでもすすめられる内容をもっているといってよい.
食事療法の基本とその実際については,日本糖尿病学会編「糖尿病治療のための食品交換表」(南江堂)に,わかりやすく解説されている.しかし,それはあくまでも一般の糖尿病を対象にしたものであり,特別な合併症や余病の併発がみられる場合には,食事療法の指導に際して,またその実際において,特別な工夫と配慮が必要となる.なかでも肝障害や腎障害は,それぞれ独特の治療食が用意されているため,糖尿病にこれらの異常が併存した際の食事療法については,日常臨床上いかに対処すべきか,ときにとまどいと混乱がみられている.
糖尿病治療の基本的手段として運動療法は食事療法とならんで重視されている.糖尿病治療の上での運動の効果については,多くの研究で認められているが1〜4),その指導方法については,未だ確立されたものはないといってよい.一般に運動は適応さえ誤らなければ有効であるが,糖尿病者の病態は複雑であり,性,年齢,治療法,肥満度,合併症,生活環境などまちまちであり,一律に運動処方を決めることは困難である.
しかし,運動療法の重要性を食事療法と同じように患者自身に認識させるためには,運動を定量的に指示することが必要のように思われる.以下糖尿病運動療法の外来指導における実際面についての筆者の方法を,順序に従って説明する.
治療方針
治療の進歩による糖尿病患者の寿命延長や高齢人口の増加に伴う老年発症糖尿病患者の増加によって,高齢者糖尿病患者は増加している.筆者らの病院の経験でも,最近5年間の初診糖尿病患者3477例のうち932例は60歳以上であり,日常の診療で扱う糖尿病患者の1/4が高齢者で占められている実情である.糖尿病の治療は糖尿病を治癒させることではなく,患者が体質に基づく糖尿病という病気をもちながら,健康的な社会生活をできるだけ長く続けることができるように管理していくことであるが,高齢者糖尿病患者の場合においても,このような糖尿病治療の基本的なあり方に変わりはない.また,治療方法においても,食事療法,運動療法を基礎とし,効果不十分のときにインスリン注射や経口血糖降下剤をつけ加えるという一般の糖尿病治療方法と同じである.
ただ,高齢者糖尿病患者には臨床像にいくつかの特徴1)がある,その主なものをあげれば,①高齢者には耐糖能異常者が多い,②自覚症状に乏しい,③尿糖が出にくい,④合併症,とくに血管障害を伴うことが多い,⑤感染などを契機として急に高滲透圧性非ケトン性昏睡に陥ることがある,⑥新しい事態に対応しにくく,食事療法や運動療法に協力しにくい,⑦血糖降下剤使用時に低血糖を起こしやすい,などである.したがって,このような高齢者糖尿病患者の特徴をよく理解した上で実際の治療に当たらなければならない.
糖尿病性神経障害は全身に多彩な症状をもたらす.直接生命の予後に関係なさそうにみえるが,症状によっては代謝調整に悪影響を及ぼし,病気の予後に重大な影響を与える.図1は神経障害の自覚症状を無作為に抽出した男子336例,女子138例について調査したものである.
これらの症状の中から,日常遭遇する最も困難な問題—疼痛,起立性失調,下痢,無力性膀胱について,とくに治療面について論述する.これらはいずれも糖尿病患者の全身管理をきわめて困難にするばかりか,心理的にも好ましくない状態である.
糖尿病性網膜症は,増殖型と単純型(非増殖型)とに大別され,前者は内科的治療のみではその進行を阻止できず,外科的療法(網膜光凝固療法と脳下垂体手術療法)の併用が必要となる.したがって,糖尿病性網膜症の増悪をみたときは,それが増殖型化する危険があるか,すでに増殖型化したものと判定すべきかなどに細心の注意を払う必要があり,眼科専門医の判定・協力がぜひとも必要である.本誌は内科医または一般医を対象とするものと判断されるから,眼科的な専門事項には極力触れないようにしたいが,検眼鏡的には明らかな新生血管とはいえぬ程度の細小血管の変型,拡張,網膜浮腫,軟性白斑の多発,表在性網膜内出血の出現などが網膜症の増殖型化を示唆する重要所見であり,螢光眼底造影検査の実施も必要となることが多い.この検査上,螢光色素漏出血管の多発,毛細血管床閉塞野の拡大などの所見も増殖型化を知る重要な決め手となる.
糖尿病性腎症(以下腎症と略)の進行速度は末期腎不全に至るまでは,一般に比較的ゆるやかである.しかし,その経過中に急性腎不全を起こしたり,慢性腎不全に急性増悪因子が加味されると,腎機能は急速に低下する.
したがって本文では,腎不全を示す腎症を急性腎不全,慢性腎不全,末期腎不全に分けて,それぞれ治療上の要点を記述する.
糖尿病患者に観察される意識障害は,表1に示すものが考えられる1).糖尿病に特異的なものとして,①ケト・アシドーシス性昏睡,②非ケトン性高浸透圧昏睡とがあげられ,また比較的特異的なものとして③乳酸アシドーシスがある.これら,3者の臨床的所見は各々特異的であるが,ここでは生化学的検査成績を表2にあげてみた.
糖尿病患者が意識障害をきたしている場合は,低血糖発作,糖尿病性昏睡,脳血管障害などによることが多い.このうち低血糖発作は最も頻度が高く,しかも治療が遅れると脳神経系の機能障害を後遺症として残したり,あるいは死に至らしめるので,最も注意を払う必要がある.本稿では,低血糖症状が数時間以上持続している,いわゆる遷延性低血糖症をとりあげ,診療上気をつける点を簡単に述べる1〜3).
本態性高脂血症の診断や治療に欠かすことのできない検査は血清総コレステロールおよび血清トリグリセリドの測定と血清リポ蛋白の分析である.これらの測定や分析は治療に先立って反復実施すべきで,夏期(7〜9月)および冬期(12〜2月)の両季をふくめることが望ましい.このようにして患者各個の脂質レベルやリポ蛋白の異常(パターン)が正しく判定されなければならない.
血清コレステロール値およびトリグリセリド値は年齢,性,居住地域などによって多少の差があるので,その患者に適した正常値と比べて判定する必要がある.
高脂血剤使用にあたって
高脂血症の薬物療法は,これを是正することにより患者に与える薬物による副作用よりもbenefitが多いときにのみ適応される.血清中の中性脂肪(以下TGと略す)を降下せしめると膵炎とかそれに伴う腹痛がとれるということが臨床的にはプライマリケアまたは救急治療と関係づけられるのみで,不可欠の治療法としての意義をあまり他に多く求めることはできない,Xanthomaも美容上,心理的な面でこれを縮小ないし除去することは,たしかに臨床的に意義はあるが積極性は欠く.結局のところ動脈硬化におけるcomplicationの予防が,これら薬剤により可能であるか否か,また必要であるかということのみが抗脂血剤の適応に対する根拠となっているにすぎない.
高脂血症の治療にはまず食餌療法が優先されるべきであり,食餌療法を行う前にいきなり薬物療法を行うことはつつしむべきである.しかし,一度薬物療法を行うことを決定したときにはかなり長期間,おそらくは一生続けることを覚悟すべきである.また二次性高脂血症の場合はもちろん原疾患の治療が優先されるべきで,それでもなお高脂血症が存在し,患者の予後をそれが大きく左右すると考えられるときにのみ薬物療法を試みるべきである.しかし,原疾患の治療がまったく困難であることがわかっている場合は,対症療法として食餌療法を経て抗脂血剤が初期から投与されることはあり得る.
高脂血症は,その成因から外因性と内因性に大別でき,外因性の場合は環境因子,主として食事療法が治療の基本となる.内因性の場合は原疾患に続発する二次性の高脂血症や,遺伝性の家族性高脂血症があり,これらの症例でも摂取エネルギー,栄養素の配分,質の変化によって,血中脂質レベルが変動する.以下,食事療法の際のポイントについて述べることにする.
リポ蛋白とその濃度
血清中において正常者で認められるリポ蛋白は,カイロマイクロン(chy),超低比重リポ蛋白(VLDL,pre-βリポ蛋白),中間型リポ蛋白(IDL),低比重リポ蛋白(LDL,βリポ蛋白),高比重リポ蛋白(HDL,αリポ蛋白)である.そのほか,異常の状態の一現象として認められるリポ蛋白は,Lp-X,Floating-β(Broad-β),Lp(a)(Extra-pre-β,Midband,Double-pre-β)などがあり,一部では正常者にも認められる.
しかも,最近,これらのリポ蛋白の役割が次第に明らかとなるにつれ,治療目標とすべきリポ蛋白が区別されるようになってきた.つまり,表に示すごとく,chyは,主として食事に由来した長鎖脂酸よりなる外因性トリグリセライド(TG)の転送を役目としている.これは,末梢の脂肪組織,筋肉などでリポ蛋白リパーゼの働きによりTGの分解を行い,エネルギー供給の役を果たしながら,chy遺残型(remnant)として肝で処理を受ける.一方,糖および脂酸を素材として,肝および腸管で内因性に合成されたTGをVLDLが運搬するが,これも同様に分解され,IDLに変化する.VLDLの分解は,必ずしも次第に小型化する経路を通るものばかりでなく,最も軽いVLDL1よりIDLへ変換するものもある.
痛風ではある日突然,多くは足の親指の趾骨関節に激しい疼痛と発赤,腫脹を伴って急性関節炎が発現する.この関節炎は放置しても数日で自然に緩解することが特徴で,単に痛風発作ともいわれる.痛風発作は外見上では細菌感染による炎症と同様で,検査所見でも血沈亢進,CRP陽性,白血球数増加がみられる.しかし痛風は中年以後の男性に多く,血清尿酸値も7mg/100ml以上の高値を示す.また以前にも同様の関節炎発作の既往があれば診断は容易である.発作時に関節液を採取して尿酸塩の針状結晶を証明すれば診断は確実である。痛風発作の特効薬であるcolchicineを試用して効果をみることも診断に役立つ.
痛風ではプリン代謝の終末産物である尿酸が体内に増加している.尿酸は生理的機能を持たないが難溶性の物質で,高尿酸血症ではわずかの誘因で尿酸塩の針状結晶として析出する.この尿酸塩の針状結晶は負に荷電しており,関節液中のHageman因子を活性化,ついでkallikrein,kinin systemよりkininの生成をきたす.また結晶は生体にとって異物であるため多核白血球に貪喰され,白血球内のlysosomal enzymesを放出させる.このlysosomal enzymesが急性炎症を惹起させると考えられている.
近年,痛風の治療体系は,種々の尿酸コントロール剤による薬物療法を中心として,飛躍的な進歩を遂げてきている.痛風治療の薬物療法は,大別すると急性発作に対するコルヒチンやフェニールブタゾンなどを中心とする抗炎症剤による治療と,その基礎疾患である高尿酸血症を是正するための尿酸コントロール剤による治療の2つがあげられる.本稿では高尿酸血症の薬物療法を中心に述べてみたい.
かつては単なる関節疾患であると考えられがちであった痛風は,現在では,多様な成因からなる原発性高尿酸血症に基づき,独得な関節炎症状を主とし,腎障害,腎結石をはじめとして,心・脳血管系障害,高血圧症,脂質・糖質代謝異常,肥満症などを高率に合併する全身性代謝異常疾患であると解釈されるに至っている.すなわち,痛風は尿酸代謝異常に基づく全身性疾患であり,関節炎はその症状の一つにすぎないといっても過言ではない.
食糧が豊富になるにつれて,わが国でも肥満のものが増加し,ことに中年以後の女性の肥満傾向が問題になっている.肥満は症候性肥満と単純性(体質性)肥満,調節性肥満と代謝性肥満,cellularityからhypertropic,hyperplasticおよびcombined typeといった分類がなされ,さらに最近,その病態生理の研究が進歩して興味をよんでいる.
肥満の治療は摂取熱量(利用熱量)が消費熱量を下まわるようにすることである.そのためには,減食,運動ということになる.とくにこれといって目新しいことはない.薬物療法や手術療法(小腸の一部を短絡する)などはわが国ではほとんど行われていないといってよい.
ビタミンの欠乏症は未・低開発地には多発する病態であるが,また本邦では,戦前では白米食の習慣にも起因してB1)などの欠乏症が多かったが,戦後は欠乏症は著明に減少した.反面,ビタミンの量産,その大衆薬化などによって不必要なビタミンの大量使用が行われるようになり,過剰の問題が起こってきた.ごく最近は厚生省の指導で過剰の問題も減ってきているが,欠乏症,過剰症の問題も的確に把握しておく必要があるであろう.
診断のすすめかた
頭痛は種々な原因で起こりうる.したがって,頭痛の治療計画はその原因を診断し,これに対処することである.頭痛というありふれた訴えの蔭に,ときには脳腫瘍のような重大な疾患が潜んでいることもある.しかし,日常遭遇する頭痛患者の多くは,器質的な異常を伴わないものであり,これらを診わけるには一定の診断の原則を身につけておく必要がある.
Sherrillは頭痛患者の診断のすすめかたを4段階に分けているので1),これを臨床医の実情に合わせて一部改訂して表に示した.すなわち,第1段階は病歴をとり,一般的な身体所見を診察し,さらに神経学的検査をすることである.第2段階は一般的な臨床検査である.頭痛を主訴とする患者では必ずこの第1,2段階は行うべきである.
腰痛には脊柱に関連したものと,内科,外科,婦人科,泌尿器科,精神科などの領域の疾患の一症状として見られるものがあり,後者では原因疾患の究明と治療が問題となる.腰痛のうちとくに神経症状と関連あるものは成人に見る椎間板ヘルニアと50歳以後に見られる脊柱管狭窄症である.
脊柱管狭窄症は近年注目されてきた疾患で,50歳以後の男子で変性性変化強く間歇的跛行症を特徴とし,一定距離歩行後,両下肢の重だるい感じで歩行が困難となり,しゃがむような姿勢で2〜3分休息すると再び歩行が可能となるという特有の病歴を示す.腰椎前彎の強いものが多い.