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診断の考え方のフレーム(診断推論)
臨床検査は,臨床医が診断にたどりつくための道具の1つである.診断は検査結果のみによって決まるのではない.診断の考え方のフレームは以下の2つの段階からなる.
(1)仮説を立てる
(2)仮説について検証する
POCTとは
心電図検査や超音波検査のような生体検査は検査室で行うこともあれば,検査担当者が病棟や外来へ出向いて行うこともある.これに対して,血液,尿などの検体検査は,ほとんどが検査室で行われ,検査室で検査できない項目は検査センターに依頼される.診療所では,ほとんどが検査センターへ依頼される(図1).
しかし,最近,簡便な小型の検査機器やキットが登場し,病棟,外来,手術室,救急外来,ICU,災害医療の現場など患者の傍らで簡単に検査できるようになってきた.POCT(point of care testing)とは,この診察室,ベッドサイド,手術室などのpointで,診療,看護というcareの目的で行う検査であり(図1),bed side test, near-patient testing, rapid response test, stat lab testなどの総称である.日本語名は「臨床現場即時検査」が提唱されている1).
検体検査は可能な限り短時間で結果が得られることが望ましいが,とりわけ外来診療では目の前の患者の病態を把握し治療方針を決定するために迅速検査は重要である.近年は外来迅速検査を行う施設が増えたが,その対象・内容はさまざまである.
本稿では,外来迅速検査の有用性と運用について考えたい.
尿定性検査は,試験紙を尿に浸して読み取るという「ディップ・アンド・リード」の形で簡便に実施できることで広く普及してきた.したがって,本稿では尿定性検査を試験紙での検査に限って述べていく.
一方,試験紙で実施できる尿検査といってもかなり多くの項目があり,現在よく行われていると考えられる9項目について記す.項目数が多く,その意義もさまざまであるために,ほかの項目のフォーマットに対応させてまとめられる部分を表1とし,本文では総論的な事項あるいは補足的な事項について記載することにする.
なお,表1に測定原理を加えたのは,試験紙検査の結果に関連することが多く,結果の解釈の際に原理を理解しておくとよいものが多いためである.
異常値の出るメカニズムと臨床的意義
尿沈渣中にみられる有形成分は,腎に由来する各種円柱,腎・尿路系の各部に由来する赤血球・白血球・上皮細胞・異型細胞・細菌,そのほか尿中に析出する各種結晶,投与薬剤の結晶など,多種多様である.沈渣の種類とその量を鏡検することは,腎・尿路系疾患の鑑別とその程度を知るうえできわめて重要である.
尿1lあたり1mlの血液が混入すると,肉眼的血尿として認識されるが,それ以下の場合は潜血反応または沈渣の鏡検で証明される(顕微鏡的血尿).腎実質,尿路いずれにおける病変でも,出血源となりうる.赤血球は,原因疾患によってその形態が異なる.すなわち,腎外性(尿路系から)の出血では,通常,円形かつ均一で赤血球円柱を認めないが,糸球体疾患による血尿(糸球体性血尿)では多彩に変形し,大きさは小さくなることが多い.
便潜血検査には,ヘモグロビン(Hb)のペル・オキシダーゼ様(POD)作用を利用した化学法(グアヤック法など)と,抗ヒトHb抗体との抗原抗体反応を利用した免疫法(ラテックス凝集反応など)の2種類がある.化学法は肉類や黄緑色野菜,POD活性を含む一部の薬剤の摂取による偽陽性が問題視されており,現在,わが国ではこれらの影響がない免疫法が主に用いられている.そこで本稿では免疫法を主体に述べる.
寄生虫検査における便検査の異常とは,便中に寄生虫の虫体,虫卵,幼虫,シスト(囊子),オーシストなどが検出されることである.シストあるいはオーシストとは原虫の感染型で,宿主外に排出されて次の宿主への感染源となる.検出されないのが正常であり,検出されればそれだけで寄生虫感染の証明になる.
便検査で感染が証明される寄生虫は,基本的に消化管およびその付属器(肺や胆管など)に寄生するもので,赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫(ジアルジア),クリプトスポリジウム,イソスポラ,横川吸虫,広節(日本海)裂頭条虫,糞線虫,鞭虫,回虫などである.肺吸虫や住血吸虫も便中に虫卵を検出できることがある.
腹水・胸水は,その成因から漏出液(trans-date)と滲出液(exudate)に大別される.漏出液は血漿膠質浸透圧の低下や静脈圧の亢進,血管壁透過性の亢進など非炎症性の成因によって貯留する.一方,滲出液は漿膜腔の感染症や悪性腫瘍の浸潤など局所の炎症に起因する.
基礎疾患によることが明らかな場合を除き,胸水・腹水の貯留原因の確定は困難な場合も多く,漏出液と滲出液の鑑別,さらに臨床的に重要度が高い滲出性胸水・腹水では,その成因の鑑別のために穿刺が必要となる.検査項目としては細胞数算定および分画,pH,総蛋白,アルブミン,グルコース,乳酸脱水素酵素[LD(LDH)]活性,グラム染色,細菌培養などが標準的な検査であり,肉眼所見と疑われる病態により,生化学,微生物,遺伝子の各検査と細胞診を選択して追加する.なお,古典的なRivalta反応は滲出液に対する感度が50%程度であり,実施意義はない.
脳脊髄液(髄液)はくも膜下腔および脳室を満たす液体で,主に脳室の脈絡叢より産生され,脳表のくも膜顆粒より静脈系に回収される.髄液は基本的には血液成分に由来し,その産生には能動的かつ選択的な物質の輸送が関与する.髄液は中枢神経系の保護,中枢神経系組織への栄養物質の輸送,代謝産物などの除去などの役割を担うと考えられている.
日常診療において,髄液検査は中枢神経系疾患の診断,なかでも各種頭蓋内感染症の診断に不可欠な検査である.このほか,くも膜下出血の診断の決め手になる場合がある.頭蓋内悪性腫瘍,脱髄疾患などの診断にも用いられる.
インフルエンザウイルスはA, B, Cの3つの型があり,本邦で冬季に流行するインフルエンザはA型およびB型インフルエンザウイルス感染症である.A型とB型のウイルス粒子表面にはヘマグルチニン(hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(neuraminidase:NA)の糖蛋白抗原があるが,人畜共通感染症であるA型には16種のHAと9種のNAがあり,その組み合わせが異なった亜型に分類される.
インフルエンザウイルス遺伝子は毎年小変異(連続変異)を繰り返す一方で,A型インフルエンザウイルスは数十年に一度,トリやブタなど動物のウイルスとの遺伝的再集合(不連続変異)によって誕生した新しいウイルスが新型インフルエンザとして世界的大流行を起こしている.近年は季節性インフルエンザとしてAソ連型(H1N1),A香港型(H3N2),およびB型が流行を繰り返していたが,2003年頃からアジアを中心に高病原性鳥インフルエンザH5N1の拡大とともにヒトへの感染例が続いており,さらに2009年には,ブタ由来の新型インフルエンザ「パンデミックインフルエンザA(H1N1)2009」がメキシコから全世界に広がった.
溶連菌とは,血液寒天培地でベータ(β)溶血を示すレンサ球菌の総称であり,Streptococcus pyogenes,S. agalactiae,S. dysgalactiae subsp. equisimilis,anginosus group(S. anginosus,S. constellatus,S. intermedius)などが含まれる.また,細胞壁に存在する多糖体の抗原性の違いにより群別されるが,必ずしも1つの群が分類上の1菌種であるとは限らない.
S. pyogenesはA群抗原,S. agalactiaeはB群抗原,S. dysgalactiae subsp. equisimilisは菌株によりC群,G群,A群抗原を,anginosus groupは菌株によりF群,A群,C群,G群抗原を有する1).
妊娠反応とは,尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン:human chorionic gonadotropin)の定性検査のことである.hCGは分子量38,000の糖タンパクホルモンであり,α,βの2種類のサブユニットより2量体を形成する.絨毛で産生されるため,男性や非妊娠女性では測定されないのが正常である.尿中においてhCGが検出されるときは,体内に絨毛が存在することを想定して,妊娠または妊娠性の疾患を鑑別する必要がある.また,一部の悪性腫瘍でhCGを産生する場合もあるので注意が必要である.
急性冠症候群と血液生化学検査
急性冠症候群(ACS:acute coronary syndrome)の病態は,粥状動脈硬化病変のなかでもゲル状のコレステロールエステルに富んだ核を有し,薄い線維性被膜に包まれた脆弱で不安定なプラークが,血管内皮障害や血管壁のストレス,炎症機転などにより破裂して,これが引き金となり周囲に血栓が形成され,急激に冠動脈の閉塞をきたすことにより致死的な心筋虚血・壊死(急性心筋梗塞,心臓突然死,不安定狭心症など)を発症する.また,このような不安定プラークは冠動脈数カ所に分布していることが多く,発症早期の治療のみならず一次・二次予防が重要である.
一連の冠動脈イベントのなかで,ST上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)では完全閉塞型赤色血栓(血小板・フィブリノーゲン・赤血球よりなる)を形成し,貫壁性の梗塞(Q波梗塞)に進展するのに対して,非ST上昇型心筋梗塞/不安定狭心症(non-STEMI/unstable angina:NSTEMI/UA)の場合には,不完全閉塞型白色血栓(主に血小板よりなる)を形成することが冠動脈血管内視鏡や血管内超音波で観察されている.非ST上昇型の場合には,破砕したプラークや血栓が末梢心筋に微小塞栓し,微小心筋傷害(minor myocardial damage:MMD)を合併した高リスクUAを発症する.
異常値が出るメカニズムと臨床的意義
赤血球は骨髄において造血幹細胞から分化・成熟して産生され,末梢血液に放出される.赤血球はヘモグロビンを含み,これが酸素運搬という生体にとってきわめて重要な機能を司る.赤血球は約120日間の寿命の後に主として脾臓で破壊される.
造血幹細胞の異常,赤血球の分化・成熟障害,赤血球寿命の短縮,出血による体外への赤血球喪失,脾腫による赤血球の体内分布異常などが起これば,赤血球数は減少し,貧血になる.逆に赤血球の産生が亢進すれば,赤血球数は増加し,多血症(赤血球増加症)の病態になる.
発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,後天性突然変異に伴う異常造血幹細胞によるクローン性疾患で,PNH赤血球上の補体制御蛋白やGPI(glycosyl phosphatidylinositol)アンカー型膜蛋白を血球膜上に繋留するためのGPIアンカーが生合成されないため,補体感受性が亢進した異常赤血球が産生され,発作的または慢性的に血管内溶血がみられる疾患である1).PNH赤血球の補体感受性を検出するために,酸性化血清内で補体が活性化することを利用したHam試験と,低イオン強度下では赤血球膜への抗体結合に引き続いて補体系が活性化することを利用した砂糖水(ショ糖水)試験を行うことはきわめて重要である.
白血球は骨髄で造られ,身体に侵入した細菌や異物を取り込み,消化,分解する.したがって,白血球の増減は骨髄での産生および生体の防御反応の程度に応じる.
白血球は5種類存在し,それぞれ役目が異なるため,それらの増減は異なった臨床的意義を有する.好中球は細菌感染症や組織壊死の際の貪食,殺菌に働き,好酸球・好塩基球はアレルギーに関与する.リンパ球は免疫グロブリン産生にかかわるBリンパ球,細胞性免疫にかかわるTリンパ球,細胞傷害作用をもつNK細胞などを含み,ウイルス感染症,アレルギーで増加する.単球は貪食作用,抗原提示,サイトカイン産生などに働く.
末梢血液像とは,末梢血塗抹標本を顕微鏡にて観察して末梢血中の血液細胞(白血球・赤血球および血小板)の数および形態を評価するものである.日常の検査としては,血球計数および白血球百分率を依頼した際に異常細胞の出現が疑われた場合や,異常細胞の有無を積極的に評価するために顕微鏡による目視検査を依頼した場合に実施される.白血球百分率の検査を依頼しても,自動分析機による測定で異常がない場合には,目視検査は実施されないため,顕微鏡観察による形態的評価が必要である場合には,検査室にその旨を伝えて目視検査を実施してもらう必要がある.
現在では,検査室から報告される結果を参照するのみであることが多いと考えられるが,病態を反映するさまざまな所見が得られる検査であり,みずから顕微鏡で標本を観察することも大切である.
血小板は骨髄中で巨核球から造られる.骨髄中の造血幹細胞から,トロンボポエチン(thrombopoietin:TPO)を中心とする種々のサイトカインや造血因子によって分化成熟させられた巨核球から,pro-plateletを経て成熟血小板として放出される.通常の生体内では,血小板は血管の中を循環しているが,凝集はしない.しかし,怪我や手術などで,血管が損傷を受けると,露出した血管内皮下組織のコラーゲン線維にvon Willebrand因子(vWF)を糊として,血小板は粘着・凝集し,傷口を塞ぐ血栓として機能する.すなわち,血小板は止血機構の第一歩を司る重要な細胞なのである.
健常成人の末梢血には,1μl中に15~35×104の血小板が循環している.血小板数の異常値としては,減少する場合が多いが,増加する場合もある.血小板数が減少すると,止血機構がうまく作動せず,出血傾向を呈する.血小板は人間の生命維持に重要な細胞であるので,人類の進化の過程で過剰に存在していると思われる.一般的には,8~10×104/μl程度の少しの減少では出血傾向を呈さず,通常は5×104/μl以下で止血困難を,1×104以下で出血傾向を呈するといわれている.
骨髄は血液細胞の産生の場であることから,ほとんどの血液疾患で造血臓器である骨髄に変化をきたす.一方,血液細胞はそれぞれが機能を有し,血管内・外で多彩な役割を果たしている.そのため,骨髄像に異常を示すメカニズムとしては,造血過程そのものに異常をきたす場合と,血液疾患以外の病態に伴って血液細胞に数的・質的な変化をきたす場合とがある.
血液一般検査で血液疾患が推定される場合は,ほとんどが骨髄像検査の適応になる.急性白血病をはじめとする血液の悪性疾患では,確定診断を下すことが可能で,臨床的意義は大きい.従来,骨髄像は血液疾患で認められる血球形態の変化や分布の変化のみをとらえるものであった.しかし,現在では血球の形態変化のみならず,染色体あるいは核酸増幅法を用いた遺伝子の検索や,腫瘍性増殖を示す血球同定のための細胞表面マーカーの検索など,幅広い検査のための検体採取法でもある.
血液細胞に対する特殊染色とは,末梢血,あるいは骨髄塗抹標本上の細胞質内,あるいは細胞表面に存在するそれぞれの細胞に特異的な酵素,脂質,多糖類や微量金属などの物質を染色法によって染め分け,検出する方法である.これらの特定の物質を検出することで,細胞の同定,鑑別,細胞の機能,あるいは特定の物質の産生,不足などを推定することが可能である.多数の特殊染色があるが,本稿では主に臨床的有用性が高く,保険適応になっている染色法と臨床的意義について述べる.
FAB(French-American-British)分類は血液造血器腫瘍の国際分類で,名称は仏,米,英の血液学者による共同作業として提唱されたことに由来する.最初に急性白血病の分類が発表1)され,その後に骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の規定など,数回の追加・改訂が行われた2~6).
一方,悪性リンパ腫についてはHodgkin病のJackson-Parker分類(1944年),非Hodgkinリンパ腫のRappaport分類(1966年)に始まり,種々の分類が提唱されてきた.1994年,それまでの成果を踏まえた新しい国際分類であるREAL(revised European-American classification of lymphoid neoplasms)分類が提唱された7).このREAL分類の改訂版として,FAB分類も包括した新WHO分類が1999年に発表され8),2001年には冊子「造血器・リンパ系腫瘍のWHO分類」として発行された9).さらに2008年にはその改訂版が発行されている10).
プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)はQuick(1935)により考案され,外因系血液凝固因子と共通系血液凝固因子にまたがるスクリーニングテストとして用いられている.原理はクエン酸ナトリウム加被検血漿に組織トロンボプラスチンとカルシウム(Ca)イオンを加え,凝固するまでの時間を測定するものである.第II因子(プロトロンビン),第V因子,第VII因子,第X因子やフィブリノゲンの活性が単一または複合して低下すると延長する(図1).先天性の欠乏症・異常症や後天性の病態〔肝の蛋白合成能低下による産生障害,ビタミンKの欠乏による修飾障害,当該因子への中和抗体の産生,異常蛋白産生による凝固反応の抑制,大量出血や播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)による凝固因子の消費亢進など〕が原因である.また,経口抗凝固薬(ワルファリン)投与やヘパリンなどの抗凝固薬の投与で延長する.
異常値の出るメカニズム
凝固反応は,古くから内因系と外因系反応の2つの機構に分けて理解されている(図1).外因系反応は,通常血管外の組織中に存在する組織因子(tissue factor:TF)が,血中の凝固第Ⅶ因子と複合体を形成することから始まり,その結果,第Ⅶ因子が活性化(Ⅶa)され,そのⅦaは第Ⅹ因子に働いて活性化第Ⅹ因子(Ⅹa)を生成する.Ⅹaは第Ⅴ因子を補助因子として,プロトロンビン(prothrombin)に働いて活性型のトロンビンを生成し,トロンビンはフィブリノゲン(fibrinogen)に働いて,フィブリンを生成し,フィブリンは互いに重合する.この反応系を測定するのがプロトロンビン時間(prothrombin time:PT)である.
一方,血液は,組織因子を混入させないように注意深く採血しても,血管外に取り出してガラス管などに入れて静置しているだけで,自然に凝固する.この反応は,血液のなかにある成分だけで行われることから内因系凝固反応と呼ばれている.この反応を測定するのが,部分トロンボプラスチン時間(partial thromboplastin time:PTT)である.この反応では,ガラスなどの陰性荷電物質に血液が触れると,接触因子と呼ばれる一群の凝固因子[第Ⅶ,Ⅵ,プレカリクレイン(prekallikrein),高分子キニノゲン(kininogen)]が活性化されて,活性化第Ⅵ因子(Ⅵa)が形成される.Ⅵaは第Ⅸ因子を活性化(Ⅸaを生成)し,Ⅸaは第Ⅷ因子を補助因子として,第Ⅹ因子を活性化する.こうして生成されたⅩaは,上記の外因系の場合と同じように,第Ⅴ因子を補助因子としてプロトロンビンをトロンビンに変換し,フィブリンを生成する.
トロンボテスト(TT)
トロンボテスト(thrombo test:TT)は凝固因子活性を総合的に測定する検査の1つである.肝臓でビタミンK依存性に合成される凝固因子(Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ)のうちⅡ,Ⅶ,Ⅹの消長を反映する.これらの因子が低下した場合に異常(延長)となる.内因性凝固阻害物質であるPIVKA(proteins induced by vitamin K absence)-Ⅱ(ビタミンK欠乏またはビタミンK拮抗薬で誘発される蛋白)の影響を受け延長するため,後述のヘパプラスチンテスト(hepaplastin test:HPT)が肝機能(合成能)評価に用いられるのと対照的に,TTは主に血液凝固能の評価に使用される.
TT試薬中にはウシ大脳由来組織因子(tissue factor:TF),Ⅰ(フィブリノゲン),Ⅴ,Ⅷ,XI,XII因子を含むウシ血漿,カルシウムなどを含む.患者検体中のⅡ,Ⅶ,X因子がTT試薬に添加されると凝固が起こる.本検査は検体中のⅤ因子とフィブリノゲン濃度に依存せず,検体中のプロトロンビン(Ⅱ因子)に最も高い感受性を有する特性をもっている.Ⅶ,X因子の低下も反映させた複合因子活性測定検査である.
出血時間とは,皮膚に一定の切創を加えて出血させ,自然止血に要する時間を測定する検査である.一次止血機能の過程をin vivoで検査できる唯一の検査として,古典的な検査ながら現在でも広く行われている.一次止血に関与する血小板数・血小板機能・毛細血管とその周囲組織の性状が主に影響するため,これらの異常が出血時間延長につながる.とりわけ,血小板数・血小板機能のスクリーニング検査として行われる場合が多い.
検査法としてはランセットを用いて耳朶を穿刺するDuke法が簡便なため広く行われている.ただ,検査ごとに均一の切創を加えることが難しく,特異性・再現性の点では問題も多い.この点で血圧計で加圧しながら前腕部に切創を加える方法(Ivy法,Template Ivy法)がより再現性が高いといわれる.
血管組織が傷害を受けると,血小板による一次止血とともに凝固系が発動される.フィブリノゲンは凝固系の最終段階に関与する凝固因子で,トロンビンの作用を受けてフィブリンとなり,最終的に強固なフィブリン血栓を形成する中心となる(図1).フィブリノゲンは肝臓で産生されるため,さまざまな肝障害による産生低下により低値をとる.また,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)など凝固促進・凝固因子消費亢進をきたす病態があれば低値となる.また,一次線溶亢進状態ではプラスミンの作用を受けてフィブリノゲンの分解亢進が進み,低値を示してくる.稀に先天性無フィブリノゲン血症・異常フィブリノゲン血症による低値がある.
一方,フィブリノゲンは,感染・炎症など,さまざまな病態に反応して高値を示す.
凝固経路が活性化されると,フィブリノゲン分解作用や強力な血小板凝集惹起作用を有するトロンビンが産生され,確固たる凝集塊が形成される.しかし,凝固による過度の血流障害が持続することは生体にとり好ましいものではないため,凝固を調節する機構も備わっている.その代表的なものが,多くの凝固因子活性を阻害するアンチトロンビンであり,従来はアンチトロンビンⅢと呼ばれていたが,最近では単にアンチトロンビン(antithrombin:AT)と呼ばれることが多い.
ATは肝臓で産生される蛋白質で,トロンビンの阻害が重要な作用であるが,生理的には活性化第X因子や第IX因子など,ほかのビタミンK依存性凝固因子も阻害する.そのため,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)のように何らかの原因で体内の凝固状態が亢進し,ATの消量が増加した場合や,先天性AT欠損症のようにATの産生が低下している場合に低下する.活性値として測定されることが多く,またATの増加には臨床的意義が少ない.
フィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation product:FDP)は,フィブリノゲンあるいは血管内で生じた血栓(フィブリン)が線溶酵素であるプラスミンにより酵素学的に断片化され,可溶化したペプチドの総称である.よって,FDP/Dダイマーは線溶活性化の指標となる.線溶現象には,フィブリノゲンやフィブリンモノマーが分解する一次線溶と,フィブリン形成,すなわち血栓が生じたあとに分解する二次線溶がある.
FDPは,一次線溶と二次線溶の両者を反映する.血漿フィブリノゲンとは,交差反応しないモノクローナル抗体が開発され,クエン酸血漿から測定可能である.
生理作用と臨床的意義
血管傷害部位では血液の漏出(出血)を阻止するため止血血栓が形成される.しかし,正常な血管内では血液の流動性が維持されており,血栓の形成は阻止されている.この理由は,血管内皮上に強力な血液凝固阻止機構が存在するためである.血管内皮上の主な血液凝固阻止機構には,アンチトロンビン(antithrombin:AT)制御系とプロテインC(PC)制御系がある.AT制御系については別稿(p. 98)で述べられるため,本稿ではPC制御系について記述する.
PC制御系の主な生理作用は抗凝固作用と抗炎症作用(細胞保護作用)である.この制御系には図1に示す血漿蛋白質のPC,プロテインS(PS),PCインヒビター(PCI),補体系制御因子のC4b結合蛋白質(C4b-binding protein:C4BP)および血管内皮細胞膜蛋白質のトロンボモジュリン(TM),PC受容体(endothelial protein C receptor:EPCR),プロテアーゼ活性化受容体-1(protease-activated receptor-1:PAR-1)などが関与する.
血液凝固因子の活性化は,活性化された凝固因子が,特定の凝固因子を引き続き活性化させる逐次反応によって連続的に進行する.したがって,生体内で過剰な凝固反応が進んだときには,多くの凝固因子が連鎖的に活性化され,やがてアンチトロンビンなどにより失活を受ける.すなわち,過凝固状態の初期には,血漿中の各凝固因子の活性が見かけ上増加し,引き続き消費性に低下する.各凝固因子は,主に肝臓で産生され,特定の血中半減期に従って代謝される.この際,凝固因子の血漿濃度は,産生や貯蔵部位からの放出が増えるときには上昇する.各種の誘因によるビタミンK欠乏症では,ビタミンK依存性凝固因子群のγカルボキシル化が抑制され,おのおのの活性は低下する.また,ある凝固因子に対する特異抗体が産生されたときには血中半減期が短縮し,血漿濃度は低下する.
点状出血など一次止血の異常を認めた場合には,まず血小板の異常を考え,血小板数を確認するが,これに異常を認めない場合は血小板機能異常症を疑う.この際,血小板機能の評価が必要になるが,この目的で最も重要で,広く施行されているのが血小板凝集能検査である.
多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)に種々の血小板活性化物質を添加することにより血小板凝集反応が進行するが,これにより,PRPの濁度が低下して光が透過しやすくなる.このPRPの光学的変化を経時的に検出する透過光法が一般的である.
血清中にはおびただしい種類の蛋白が存在する.この総量が総蛋白(total protein:TP)である.今日,何百種という蛋白質の発現を一気に解析する技術は存在するが,迅速さや費用対効果の面で,TPの意義は失われていない.
血清蛋白の最大の供給源は肝臓である.量的に血清蛋白の約6割を占めるアルブミンはじめ,さまざまな蛋白が肝臓で合成される.このため蛋白合成能が低下する肝硬変や,栄養失調でTPは低下する.血清蛋白が尿中に失われるネフローゼ症候群や,消化管から失われる蛋白漏出性胃腸症では,TPは低下する.
免疫電気泳動の臨床的意義
免疫電気泳動を施行する目的は以下の2つである.
[M蛋白の同定]多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症,本態性M蛋白血症が疑われる症例において,M蛋白(monoclonal,すなわち単一クローンに由来する免疫グロブリン)やBence Jones蛋白の有無,種類とおおまかな量を把握する.
[血清蛋白増減の概要を知る]沈降線という形で個々の血清蛋白が可視化されるため,コントロールと比較すれば増減を把握できる.
分子量が約50,000以下(アルブミン60,000未満と定義することもある)の蛋白質を低分子蛋白と呼ぶ.共通しているのは,臓器,組織の由来を問わず産生,血中に分泌されると,その分子サイズ,荷電,分子形に応じてきわめて短時間に腎糸球体から濾過され,さらに腎近位尿細管において95%以上が再吸収され,残りのごくわずかが尿中に排泄される一連の動態異化代謝過程をたどる.α1-ミクログロブリン(α1-m)は分子量30,000,β2-ミクログロブリン(β2-m)は11,000の代表的な低分子蛋白であり,共通の異化組織である腎機能の低下(糸球体濾過能の低下)により,ほぼ並行して血清濃度は増加してくる.
α1-mは主に肝臓で産生されて,肝機能の高度の低下により血中濃度は低下してくる.きわめて稀に肝臓癌で産生増加を示すこともある.肝臓から産生分泌されたα1-mの一部は単量体IgAと1:1モル比で共有結合する.したがって,IgAが顕著に増加を示す多発性骨髄腫や多クローン性に増加する種々の疾患でも増加を示す.ただし,多量体IgAが増加する肝硬変症での増加はみられない.乳幼児において,α1-mが低値であるのは生理的なIgA低下状態を反映している.
急性期蛋白の一種であるα1-アンチトリプシン(α1-antitrypsin:α1AT)およびα1-アンチキモトリプシン(α1-antichymotrypsin:α1ACT)は,蛋白分解酵素を阻害する蛋白(protease inhibitor)に属する.α1ATはエラスターゼ,トリプシン,キモトリプシン,コラゲナーゼなど各種のプロテアーゼの作用を中和ないし阻害する.α1ACTはキモトリプシンやカテプシンGを中和し,PSA(prostate-specific antigen:前立腺特異抗原)と結合する特徴がある.
血清蛋白分画のα1分画の主成分を占めるα1ATはマクロファージから産生されるインターロイキン-1,インターロイキン-6や腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインの作用で主に肝臓で生成され,炎症時には2~3日で基準値の約2倍に達し,炎症の指標となる.α1ACTもα1分画に属し,血液中に存在するのは主にα1ATと同じ機序で肝臓で生成されたものであるが,老人斑と脳血管アミロイドにα1ACTの存在することが明らかにされており1),脳のアミロイド生成にもα1ACTは関与している.このため,Alzheimer型認知症では血清および髄液中のα1ACTが増加する.
α2-マクログロブリン(α2-M)は分子量が800,000,糖含量6~7%の蛋白質で,補体C3,C4,C5などと構造的に相同性を有する.肝細胞の単球マクロファージ系細胞,星状グリア細胞など全身の細胞から産生される.α2-Mの機能はトリプシン,アンチトリプシン,エステラーゼなどの蛋白分解酵素と結合し,血中から短時間に酵素活性を阻害する.血液凝固についても同様に制御作用を示し,トリプシン,トロンビンを抑制しフィブリノゲン分解,線溶を促進する.また,ホルモン,インターロイキン6(IL-6)とも結合し,その機能を調整する(図1).
血清濃度は産生とクリアランスのバランスの上に立つ.腎糸球体基底膜の選択的透過性が維持されている限り,尿中にはほとんど漏出しない.しかし,ネフローゼ症候群ではα2-M,リポ蛋白など高分子蛋白も含め,すべての蛋白が尿として体外に漏出する.この結果,体内での代償的産生が高まり,また中・低分子蛋白成分と比較して相対的に漏出しにくいため,血中濃度は増加する.妊娠では血中エストロゲンが増加すると,単球マクロファージ系の細胞からの産生も増加する.
ハプトグロビン(haptoglobin:Hp)は,電気泳動上α2領域に検出される糖蛋白で,主に肝で産生され,血中半減期は2~4日である.肝以外では肺,腎,脾,胸腺,心,好中球などでの発現が知られている.炎症刺激〔インターロイキン(IL)-1β, IL-6,腫瘍壊死因子-α〕で産生が高まる急性相反応蛋白の1つでもある.
Hpをコードする遺伝子は16q22.3に存在し,2つのアレル(遺伝子座)Hp1とHp2が知られている(と表記される).Hp遺伝子はa鎖(軽鎖)とβ鎖(重鎖)をコードしており,Hp2ではα鎖の遺伝子内重複が生じている.このためHp1とHp2ではβ鎖は共通だが,Hp2のα鎖はHp1より長くなっている.以上より,遺伝子型としてはHp1/Hp1,Hp1/Hp2,Hp2/Hp2の3種類が存在する.これらに対応した3種類の蛋白Hp1-1,Hp1-2,Hp2-2が産生され,血中に検出される.それぞれαβの二量体(αβ)2を形成し,β鎖39kD,Hp1α鎖10kD,Hp2α鎖18kDであるため,分子量は計算上98~114kDとなるが,Hp2α鎖が鎖内ジスルフィド結合を2つ保有するため,Hp1-2,Hp2-2では三量体や四量体も生ずる.
免疫グロブリンの異常はいくつかの検査で示唆される.まず,総蛋白とアルブミン値からグロブリンの値が想定される.あるいはA/G比の異常によって免疫グロブリンの異常が察知されることもある.より感度が高く免疫グロブリンの異常が検知されるのが電気泳動で測定される蛋白分画である.単に分画のみならず,泳動パターンで免疫グロブリンの増加が多クローンか単クローンかが判定されることも多い.これらの検査はいずれも他稿で述べられているので参照されたい.本稿では,免疫グロブリンの直接的な手医療について述べるが,重要なことは定量検査はスクリーニング検査ではないことであり,A/G比や蛋白分画で異常を認めた後に行う検査であることである.
免疫グロブリンはIgG,IgM, IgA, IgD, IgEの5種類があるが,IgDとIgEは血清中には微量しか存在しないため測定しない.
補体とは,主に肝臓で生成され正常血清に存在する蛋白であり,さまざまな免疫反応や感染防御などに関与している1).
補体は図1のようにC1から始まり,C4,C2,C3と順次反応が進む古典的経路(classical pathway)と途中のC3から反応が開始される副経路(alternative pathway)が存在している.古典的経路は主に免疫複合体などにより補体の活性化が始まるため,補体成分のC1,C2,C4が消費されて低下するのに対して,副経路は細菌菌体成分のエンドトキシンなどによりC3以降の補体が活性化され低下する.
クリオグロブリン(cryoglobulin)は,正常な血漿蛋白では通常変化が生じない37℃前後以下から沈殿・凝固が生じ,37℃以上に加温すると再び溶解する(可逆性)異常蛋白である.クリオグロブリンが出現する病態をクリオグロブリン血症(cryoglobulinemia)と呼ぶ.
このような,通常の温度変化によって特異な形状変化をきたす病的蛋白を温度依存性蛋白(thermoprotein)と呼ぶ.この病的蛋白には,Bence Jones蛋白(Bence Jones protein;56℃に加温すると凝固し,さらに100℃に加熱すると溶解),パイログロブリン(pyroglobulin;56℃前後の温度領域で凝固,非可逆性)が知られる.温度依存性蛋白のほとんどは,何らかの疾患に伴って出現する病的異常蛋白である.
■異常値の出るメカニズム
Bence Jones蛋白(Bence Jones protein:BJP)は単一クローンの形質細胞から産生された免疫グロブリンのL鎖からなる蛋白である.形質細胞で過剰に産生されたL鎖蛋白は血中に放出された後,免疫グロブリンに比較して分子量が小さいため(25,000~45,000が中心)尿中に排泄される.したがって,BJPの有無を知るために,血中はもちろん,尿中でのBJPの有無を調べると頻度が高いことが多い.
異常値の出るメカニズムと臨床的意義1)
IgEは,B細胞から産生され,肥満細胞・好塩基球と結合してアレルギー反応(GellとCoombsの分類によるⅠ型アレルギー)に携わる抗体である.IgEはかつて寄生虫に関与する免疫反応にかかわっていたが,寄生虫が稀になった先進国では,気管支喘息,アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患に関与する.IgEは肥満細胞や好塩基球上の高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し,抗原(アレルゲン)が侵入するとFcεRIと抗原が結合後,架橋し,活性化される.その後,数分~数十分でヒスタミンなどのメディエータを放出する.IgEの血中半減期は短く(約1~5日),持続的に血清総IgE値が高い理由には諸説はあるものの,一定の見解は見いだされていない.
IgGはGellとCoombsの分類によるⅡ型,Ⅲ型アレルギーに関与する.Ⅲ型アレルギーでは,特定の抗原を認識するアレルギー特異的IgGと免疫複合体を形成し,補体を活性化し,オプソニン化することにより貪食作用能を強める.
栄養管理はすべての治療法の基盤であり,栄養状態が不良であればいかなる治療も無効である.そして,適切な代謝・栄養管理により予後を改善でき,不適切な栄養管理は予後を増悪させる.このように,栄養管理,栄養療法は疾患を有するすべての患者において基本的な根幹となる医療行為であり,患者の栄養状態を的確に評価する栄養アセスメントが必要となる.
この栄養状態の評価のための血液・生化学的指標としては,アルブミンやヘモグロビンが測定されていたが,半減期が長いことや造血状態による変動が大きいなどのためにおおまかな指標でしかなかった.このため,近年,血中の半減期の短いRTP(rapid turnover protein)が栄養状態評価の動的指標として利用されるようになった.その代表がトランスサイレチン(transthyretin:TTR,従来はプレアルブミンと呼称),レチノール結合蛋白(retinol-binding protein:RBP)とトランスフェリン(transferrin:Tf)であり,特に前2者は半減期が特に短いため栄養評価蛋白として評価されている.
C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)の産生は,分子レベルでは,炎症性サイトカインと称されるインターロイキン(IL)-1,IL-6,IL-14,TNFαなどが肝臓に作用して促進される.これらのサイトカインの産生は,ステロイドホルモン,トロンビン,補体のC5a,ブラジキニン,紫外線,細菌の構成成分であるリポポリサッカライド(LPS)などにより促される.特に,LPSなどによる刺激は強烈なもので,それにより大量のサイトカインとCRPが産生され,これが細菌感染症の際にみられる炎症反応で,CRPが急性反応性蛋白と称せられるゆえんである.同様のことは,体内での組織破壊が起きた際に生じる不要物を除去する反応としても起きるもので,組織の梗塞や火傷などでみられる現象である.
他方,近年,注目を集めている低濃度域でのCRPの増加は,疫学的な研究から年齢,性,出生体重,民族性,社会経済学的状態,肥満指数(BMI),食物繊維・アルコールや脂肪酸の摂取量などと関係することが明らかになってきた.また,CRPが心血管系合併症と密接な関連があることが大規模臨床研究の解析から明らかになった.つまり,動脈硬化は炎症であり,その炎症に反応してCRPが全身の血管でも産生され,そのCRPが動脈硬化の進展に関与するとされている.つまり,CRPの変動のかなりの部分が生活習慣の違いで説明でき,動脈硬化の指標となるわけである.このような事実を受けて,米国心臓協会(AHA)と疾病予防センター(CDC)は,低濃度域でのCRP増加要因として,①高血圧,②肥満,③喫煙,④糖尿病,⑤メタボリックシンドローム,⑥女性ホルモン補充療法が,減少要因として,①適度の飲酒,②定期的な運動,③減量,④HMG還元酵素阻害薬(スタチン)などの薬剤,などが示されている1).
間質性肺炎では原因不明のものがあり,これは特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)と呼ばれる.そのなかで,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は診断から5年生存率が約30%と予後不良な疾患であり,現在もなお有用な治療法がない.肺胞上皮の傷害が発端となり,線維芽細胞の異常修復,それによる過剰な線維化を基本病態として世界的にも理解されている疾患である.炎症と線維化をきたす舞台には2種類あり,間質内と肺胞内が主な病変部位である.
河野らは,肺癌への特異度の高いモノクローナル抗体を作製し,この循環抗原がIIP患者に高率に異常高値となることを確認した.これをKL-6(シアル化糖鎖抗原KL-6;Krebs von den lungen-6)と命名した.1993年にKL-6はムチンのMUC1に分類される巨大糖鎖蛋白であることが解明された.主な産生細胞はⅡ型肺胞上皮とClara細胞である.線維化病変では,これに加えて再生Ⅱ型上皮細胞と線毛上皮細胞がある.KL-6は1999年に間質性肺疾患の診断および活動性マーカーとして厚生省より診断薬として認可された.2000年には健康保険認可され,臓器特異性に乏しい乳酸脱水素酵素(lactic dehydrogenase : LDH)に代わり,わが国が世界に先駆けて多くの検体測定体制を進めている.現在までに北海道大学のグループが遺伝子レベルの解析を行った.
赤血球沈降速度(赤沈または血沈)は,国際標準法であるWestergren法では,抗凝固薬(クエン酸ナトリウム液)0.4mlと血液1.6mlを混合したものを,垂直に立てた内径2.5mmのガラス管に入れ,1時間後に赤血球が沈降してできた上清の血漿部分の長さをmm単位で計測した数値で示される.近年は,抗凝固薬としてEDTAを用いたり,専用採血管のまま挿入できる測定装置や,沈降の初期を光学的に検出して5~30分程度で1時間値を演算予測する装置もあるため,各施設の状況に応じた検体を提出する必要がある.
血液を静置すると,赤血球は重力によって積み重なるように凝集塊を形成して沈降する.早く大きな凝集塊が形成されるほど,赤沈は亢進する.血液中で赤血球は陰性に帯電しており,赤血球同士は反発しているが,陽性荷電をもつγグロブリンやフィブリノゲンが増加すると,この反発が減少して凝集形成が促進される.一方,陰性に荷電しているアルブミンは凝集を抑制する.赤血球密度が低いと沈降は亢進し,球状赤血球などの形態異常のある赤血球は凝集が起こりにくいため沈降は遅延する(表1).
尿素は,いわゆる「尿素サイクル」における蛋白の終末産物で,主として尿中に排泄される.食事などで摂取した蛋白や体蛋白は体内で分解されアミノ酸となるが,腸管内などで代謝(脱アミノ反応)されてアンモニアとなり,肝細胞内での「尿素サイクル」において毒性の少ない尿素となる.こうして生じた尿素は,一部腸肝循環するが,再びアンモニアとなり,再吸収されるため,健常人において糞便中に排泄されることは少なく,主に腎臓(糸球体)で濾過されて尿中に排泄されるため,血清尿素窒素(serum urea nitrogen:S-UN)は腎機能を評価するうえで重要な指標となりうる.
一方で,脱水,消化管出血や組織崩壊,異化亢進,蛋白摂取量の評価などにも有用である.また,透析患者における蛋白摂取量や透析効率を評価するにも有用である.
尿酸はヒトにおけるプリン代謝の最終産物である.プリン代謝ではde novo経路とサルベージ経路という2つの経路によりプリンヌクレオチドが合成される.de novo合成経路では11段階の酵素反応によりイノシン酸が合成され,これからアデニル酸(AMP),グアシル酸(GMP)が作られる.一方,サルベージ経路ではプリン塩基から直接ヌクレオチドが合成される.体内のプリン体が分解して生じるプリン塩基や食事中のプリン塩基はこの経路でヌクレオチドとして再利用されるか,異化されてキサンチンオキシダーゼ(キサンチンオキシドリダクターゼ)により尿酸に変換される.キサンチンオキシダーゼは尿酸生成阻害薬であるアロプリノールの作用点である.
血液中の尿酸は糸球体でほぼ100%濾過されたのち,近位尿細管で再吸収あるいは分泌され,最終的に糸球体で濾過された尿酸の10%程度が尿中に排泄される.近位尿細管には尿酸の再吸収や分泌を担うトランスポーターが管腔側,血管側に存在する.特に管腔側に存在するトランスポーターであるURAT1は尿酸再吸収の主要なメカニズムであるとともに,尿酸排泄促進薬であるプロベネシドやベンズブロマロンの作用点である1).
アンモニアは,①腸管内での食物由来の蛋白などの窒素化合物の腸内細菌による分解,②腸内細菌のウレアーゼの作用による尿素の分解,③腸管,肝臓,腎臓でのグルタミナーゼによるグルタミンの脱アミノ反応,により生成される.一方,アンモニアの代謝は,①肝臓でのウレアサイクルによる尿素への変換,②筋肉,脳組織,肝臓でのα-ケトグルタール酸,グルタミン酸それぞれへのアンモニアの取り込み(グルタミンの産生),③腎臓での水素イオンとの結合によるアンモニア塩としての尿中への排泄,④クエン酸→アラニンの変換により解毒される.このなかでも最も強大な代謝機能をもつ肝臓に存在するウレアサイクルが代謝の要である.グルタミンやアラニンの生成系はアンモニアの代謝の容量が小さく,かつ反応が可逆的で再びアンモニアを放出するので,一時的なリザーバーの役目を果たしているだけで最終的には肝臓のウレアサイクルが解毒反応の最終ステップである.
血中アンモニア上昇は,ウレアサイクル機能が強大であるために,アンモニアの産生亢進のみでは起こりえず,ウレアサイクルの代謝が阻害される以下の病態で上昇する.
クレアチンは健常成人の体内に100~120g存在し,その95%は骨格筋に分布し,1日に2~3gが代謝されている.1日の代謝量の約半分が体内で合成され,残り半分は食事から摂取される.クレアチンはアデノシン三リン酸とクレアチニンキナーゼ(creatine kinase:CK)により,可逆的にクレアチンリン酸となり,必要に応じて筋肉におけるエネルギー源となる.
クレアチニン(Cr)は分子量が113.12の小分子量物質である.クレアチンの最終代謝産物で,筋において産生される.糸球体で濾過され,その後,尿細管ではほとんど再吸収されずに尿中に排泄される.クレアチニン値は糸球体濾過値(glomerular filtration rate:GFR)と筋肉量の影響を受け,GFRの低下や筋肉量の増加が起こると血清クレアチニン濃度は上昇する.また,尿中クレアチニン排泄量は体重,運動量,腎機能に著変がない限り,1日生産量とほぼ同等で一定と考えられており,尿中クレアチニン値は蓄尿検査の正確さの指標となる.
健常成人では,糸球体濾過で1分間あたり100mlの原尿が生成され,尿細管での再吸収・分泌を経て最終尿が作られる.体内の細胞外液総量は10~30lであり,細胞外液は1日5~15回程度糸球体で濾過されることで老廃物の排泄や水電解質代謝が調節されている.
糸球体で濾過された原尿には,大部分がそのまま尿中に排泄されるクレアチニン(creatinine:Cr)のような物質から,ほぼ100%尿細管で再吸収され,尿中に排泄されないグルコースなど,さまざまな物質が含まれる.このため,ある物質が単位時間内に体外に排泄された量と同じ量を含有する血漿量をその物質のクリアランスと定め,腎臓の物質排泄効率の尺度として用いられている.1回糸球体を通過すると全量濾過され,尿細管の再吸収や分泌を受けない物質(イヌリン)のクリアランスは,単位時間あたりに糸球体で濾過される血漿量を意味し,これは糸球体濾過値(glomerular filtration rate:GFR)として腎機能の代表的指標となり,表1に準じ次式で算出される.
正常人においては1日250~350mgのビリルビンが主として肝と脾の網内系で生成されるが,そのうち80~85%は老化赤血球のヘモグロビンに由来し,残りは骨髄の無効造血,肝のヘム蛋白に由来する.生成された非抱合ビリルビンはアルブミンと結合して肝に運ばれ,OATP(organic anion transporting polypeptide)を介して肝細胞に取り込まれる.その後,輸送担体glutathione-S-transferaseにより小胞体に運ばれ,そこでbilirubin UDP glucuronosyl transferase(UGT)によりグルクロン酸抱合を受け,抱合ビリルビンとなり,毛細胆管側膜に存在するMRP2(multidrug resistance protein 2)を介して胆汁中に排泄される(類洞側膜にはMRP3が存在する).したがって,血中ビリルビンの上昇はビリルビンの生成増加,肝細胞でのビリルビンの摂取,輸送,抱合,排泄の障害,胆道系での排泄流出障害で認められる.血中の総ビリルビンが3~4mg/dlになると黄疸が明らかとなる.臨床的にはビリルビン測定は肝・胆道系疾患,溶血性疾患,体質性黄疸などの診断,鑑別,経過観察,予後判定などに利用される.
クレアチンキナーゼ(CK)は,クレアチンとクレアチンリン酸との反応を触媒する酵素で,共役するADP→←ATPの変化を介して,エネルギー代謝上きわめて重要な役割を果たしている.特に筋肉では瞬発的な運動を行うための即時的なエネルギー供給が必要で,この反応系を利用している.CKは筋肉や脳に多量に存在しているため,これらの臓器が損傷された場合にはCKが血中に遊出・逸脱するため,血中CK活性が上昇する.したがって,心筋梗塞,筋ジストロフィ症などの骨格筋疾患,中枢神経疾患での臨床的意義が高い.
CKにはCK-MM,CK-MB,CK-BBの3つのアイソザイムがある.CK-MMは骨格筋に多量に存在し,CK-MBは他の臓器と比較して心筋に多量に存在している.CK-BBは脳,平滑筋に存在している.
循環器診療において,胸痛や呼吸困難をきたす疾患の鑑別は容易なものではなく,急性心筋梗塞,肺血栓塞栓症,急性心不全などの循環器疾患なのか,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患,あるいは逆流性食道炎などの消化器疾患,整形外科的疾患なのか,初診時に難渋することをしばしば経験する.現在,急性心筋梗塞を診断するために活用されている生化学マーカーにはさまざまなものがあるが,心筋傷害・壊死を早期より反映するマーカーとして心筋型脂肪酸結合蛋白,ミオグロビン,トロポニンT,ミオシン軽鎖などがある.
急性冠症候群などの虚血性心筋細胞傷害が生じると,まず細胞膜が傷害され,細胞質マーカー(ミオグロビン,心筋型脂肪酸結合蛋白)が血中に遊出する.虚血が軽度で短時間のうちに解除されれば,細胞質マーカーの上昇は軽微かつ短時間であり,心筋細胞傷害は可逆性である可能性が考えられるが,壊死に陥った場合には急峻かつ高値を示す.そして,虚血が高度かつ長時間に及んだ場合には,筋原線維が分解され,筋原線維マーカー(トロポニンT,ミオシン軽鎖)が血中に遊出する.この過程で,心筋細胞はすでに壊死に陥ったと判断される.なお,トロポニンTの6%は細胞質に存在しており,傷害の過程を反映して二峰性の遊出動態を示す1).
乳酸デヒドロゲナーゼ(lactate dehydrogenase:LD)は解糖系最終段階の酵素で,すべての細胞に存在する.H(B)とM(A)の2種のサブユニットからなる四量体で,5種のアイソザイムを形成する.これらアイソザイムの割合は,各細胞・組織における2種のサブユニット遺伝子の発現量に規定され,特徴的なパターンを示す.細胞の可溶性分画に存在するため,細胞の傷害時に直接もしくはリンパを通って間接的に血管内に流入する,いわゆる逸脱酵素である.したがって,大多数の細胞傷害で血清LD活性が上昇するため,非常に感度のよい,体内での異常の発信シグナルであり,初診時のスクリーニング検査として重要な役割を示す.すなわち,何か異常が生じていないかどうかを判定するのに有用である.特に大きな組織の傷害や血球細胞の破壊では血清LD活性が上昇しやすい.血中の活性レベルが傷害の程度を示すため,重篤度を判定できる.また,ほかの酵素との関係,アイソザイム分析により,損傷臓器の推定を行うことができる.さらに,酵素活性の推移をみることにより,治療の効果判定にも用いられる.
LDアイソザイム分析は,LD総活性が高値で由来臓器を推定するとき,理屈に合わない高値の検索や,LD総活性が基準値内であるがアイソザイムパターンの異常が疑われるときに依頼され,その原因解明のために行われる.各アイソザイムの生体内半減期は異なるため(LD-1からLD-5の順番にそれぞれおよそ79時間,75時間,31時間,15時間,9時間),病期によってLDアイソザイムパターンは変化しうる.
AST(aspartate aminotransferase),ALT(alanine transaminase)の血清値は,いずれも本来は細胞内に分布し機能している酵素が,組織障害による細胞破壊,もしくは細胞膜透過性亢進で血中に流出した逸脱酵素である.逸脱酵素を測定することで,臓器の障害を推測することが可能となる.
●ASTはGOT(glutamic oxaloacetic trans-aminase)とも呼ばれる.グルタミン酸とアスパラギン酸をオキサロ酢酸とα-ケトグルタル酸に変換する酵素である.ASTは肝細胞に多いが,心筋,骨格筋,腎臓,赤血球にも含有され,肝臓以外の組織障害でも上昇する.ASTには細胞質に存在する細胞質AST(C-AST)とミトコンドリアに存在するミトコンドリアAST(m-AST)のアイソザイムがある.m-ASTはミトコンドリア膜で保護されているため,肝細胞が壊死に至るような強い障害の際に血中に出現するため,肝細胞障害の重症度の指標となりうる.
ALP(alkaline phosphatase)はアルカリ条件下でリン酸モノエステルを加水分解し,無機リン酸を生じる生体膜結合酵素であり,活性中心に亜鉛を含む.ALPはエネルギー代謝にかかわる酵素であり,種々の組織に存在するが,血中に検出されるものは肝,胆道,骨,胎盤,小腸に由来する.時に悪性腫瘍がALPを多量に産生することもある.
ALPはセルロースアセテート膜またはアガロースゲルの電気泳動により,6分画のアイソザイムに分けられ,病態により1~4分画が出現する.ALP1は肝胆管細胞膜と結合した高分子ALPであり,通常は胆汁中に排泄されているが胆管内圧の上昇時に類洞へ逆流して血中に出現する.ALP2は肝細胞膜のALPが可溶化したものであり,さまざまな肝胆道疾患で合成が亢進して血中濃度が上昇する.ALP3は骨性ALPであり,小児の骨成長期,代謝性疾患や骨破壊性病変に対する反応性の骨増殖が起こっているときにリン酸カルシウム沈着のために合成が亢進する.ALP4は胎盤性ALPであるが,稀に悪性腫瘍由来で出現することもある.ALP5は小腸性ALPであり,リン酸の消化吸収に関与しており,apolipoprotein B-48の代謝と深い関係があるといわれている.消化管での脂肪吸収時に,脂肪とともにリンパ管に入り,胸管を経て大循環に入る.ALP6は免疫グロブリンと結合したALPであり,潰瘍性大腸炎の活動性に伴い血中に出現することがあるが,総ALPへの影響は軽度である.
γ-GTP(γ-glutamyl transpeptidase,γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)は,ペプチドのN末端のグルタミン酸をほかのペプチドまたはアミノ酸に転移する酵素であり,グルタチオンの分解が生理的役割と考えられており,正式にはγ-glutamyltransferaseと呼ばれる.グルタチオンはγ-グルタミル基をもつペプチドの1つであり,肝ミクロゾームにおける薬物代謝に重要な役割をもち,多くの物質の抱合,解毒,排泄にかかわっている.ほかのペプチダーゼ同様,brush border membraneに局在し,腎尿細管,腸絨毛,膵などにも分布する.肝細胞ではミクロゾームと毛細胆管膜に局在する.血清中のγ-GTPは肝胆道系疾患に特異性が高い.
γ-GTPの特徴の1つはアルコールやある種の薬物によりミクロゾーム酵素としての誘導を受け,肝細胞障害によるトランスアミナーゼ値の上昇程度にそぐわない上昇を示す点である.ただし,酵素誘導によって血中にγ-GTPが上昇する機序は不明である.また,胆道系酵素として肝内および肝外胆汁うっ滞では上昇する.
LAP(leucine aminopeptidase:ロイシンアミノペプチダーゼ)は,ペプチドのN末端のアミノ酸を遊離する酵素である.ほかのペプチダーゼ同様,brush border membraneに局在し,毛細胆管,腎尿細管,腸絨毛,膵などにも分布する.肝細胞ではγ-GTPと同様にミクロゾームと毛細胆管膜に局在する.血清中のLAPはγ-GTPと同様に肝胆道系疾患に特異的である.アルコール性肝障害や薬物性肝障害では常用によって誘導され肝に増加し,障害が加われば血中に増加する.また,胆汁うっ滞やそのほかの胆道系疾患で幅広く上昇する.そのため,LAPはALP,γ-GTPとともに胆道系酵素と呼ばれ,黄疸の鑑別,肝胆道系疾患の診断および経過観察に用いられている.
アデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)は,細胞内で核酸の代謝にかかわり,プリン体の分解と再利用に関する酵素の1つで,アデノシンを加水分解してイノシンとアンモニアを生成する反応を触媒する.ADA1とADA2の2種のアイソザイムがあり,ADA1は各種組織由来,ADA2はTリンパ球由来で,ADA1の大半は結合蛋白と結合している.
ADAは生体各組織に広く分布し,その活性は胸腺,脾臓,口蓋扁桃,リンパ節で高く,次いで肝,肺,膵となっている.
コリンエステラーゼ(ChE)は,その基質特異性がブロードなため,神経伝達物質であるアセチルコリンだけでなく,その類似物質の代謝にもかかわっている.ChEの遺伝性変異は,筋弛緩薬投薬時の遷延性の無呼吸が問題となり,薬理遺伝病と位置づけられている.したがって,欧米ではChE活性測定は術前検査として位置づけられており,活性の低下だけでなく阻害薬であるフッ化ナトリウム(NaF)あるいはディブカイン耐性の酵素が問題とされてきた.また,活性がほとんど認められない変異はサイレント型変異といわれている.
一方,日本では,ChEが肝臓で作られ,その血中半減期がアルブミンなどより短く(約10日),また活性で測定できるため,鋭敏な蛋白合成能の指標として肝機能検査に応用されている.ほかに有機リン中毒やスクリーニング検査として,全般的な栄養状態の指標としても使用される.
アルドラーゼ(aldolase:ALD)は分子量150kDaの四量体蛋白である.嫌気性解糖系酵素の1つであり,六炭糖のフルクトース-1,6-二リン酸(fructose-1,6-diphosphate:FDP)を2分子の三炭糖,ジヒドロキシアセトンリン酸(dihydroxyacetone phosphate:DHAP)とD-グリセルアルデヒド-3-リン酸に,六炭糖のフルクトース-1-リン酸(fructose-1-phosphate:FIP)をDHAPとD-グリセルアルデヒドに分解する1,2).
ALDにはA(筋)型,B(肝)型およびC(脳)型の3種類のアイソザイムが存在する.これらの遺伝子は別々の染色体上にあり,A型は第16(q22-24),B型は第9(q21.3-22.3),C型は第17(cen-q21)染色体上に存在する1).また,発生分化の過程で各遺伝子の発現量が異なるため,アイソザイムの発現パターンは変化する1).
合成色素であるインドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)が静脈内に投与された後に,肝細胞に取り込まれ,胆汁排泄を介して除去される速度を数値化する負荷試験である.色素投与15分後の血中濃度をみる15分停滞率(R15),経時的採血により得られる血漿消失率ICG(KICG)に加え,負荷量を変化させて得られる最大除去率(RMAX)が指標として用いられる.実施が簡便なR15単独で評価されることが多い.ICGには肝臓を介する以外の排泄経路がなく,腸肝循環も知られていないので,本試験は肝臓の異物排泄能を評価するのに適している.
慢性肝障害の進展に伴い,ICGの除去能が低下するが,その機序としては,肝血流量の低下および肝細胞の色素摂取能の低下が挙げられる.肝硬変におけるICG除去能の低下では肝類洞のcapillarizationと肝内シャント形成による色素摂取能の低下が重要である.臨床的には慢性肝疾患の進展度診断や肝腫瘍の手術適応や切除範囲の決定に際して用いられる.
アミラーゼを産生する臓器は主に唾液腺,膵臓であるが,アミラーゼは膵臓,唾液腺以外にも,肺・肝・腎・小腸・卵管・筋肉などに存在する.
異常値の出るメカニズムとしては,①唾液腺や膵組織の障害および膵液のうっ滞(膵管狭窄あるいは閉塞)による血中への逸脱,②腎からのアミラーゼ排泄低下,③アミラーゼ産生腫瘍からの異所性産生などによる血中アミラーゼの上昇が挙げられる.なお,膵疾患で,進行した(非代償期)場合には,アミラーゼが異常低値をとることを念頭におく必要がある.
リパーゼ(lipase)
リパーゼは脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素群であり,単にリパーゼと称する場合には,グリセロールの脂肪酸エステルを分解して脂肪酸を遊離するトリアシルグリセリドリパーゼを指す.ヒトリパーゼは,肝臓,胆囊,胃,腸にも存在するが,ほとんどは膵に存在する.
膵リパーゼは膵腺房細胞で合成され,膵液中に分泌される分子量約48,000の糖蛋白で,食事中に存在する中性脂肪(トリグリセリド)の消化・吸収に必須の酵素である.膵リパーゼにより,中性脂肪のα位脂肪酸エステルが加水分解されると脂肪酸となり,小腸で吸収される.リパーゼは生理的には尿中には検出されないが,血中リパーゼ活性は生理的にも認められる.膵管の狭窄・閉塞による膵液のうっ滞または膵の組織破壊が存在すれば,血中へのリパーゼの逸脱が増加することより,臨床的には膵液うっ滞や膵組織の破壊を知ることができる.
リン酸モノエステルを加水分解する酵素で,至適pHが4.5~6.0の範囲である酵素群はアシドホスファターゼ(acid phosphatase:ACP)と称され,非特異性ホスホモノエステラーゼに属する.
前立腺組織では他臓器と比較して1,000倍以上のACP〔前立腺アシドホスファターゼ(prostatic acid phosphatase:PAP)〕が産生されるため,ACPの酵素活性は特に前立腺組織で高い.それゆえ,前立腺疾患,特に進行期前立腺癌ではACP活性の上昇がしばしば観察される1).前立腺組織以外では,膵臓,肝臓,腎臓,リンパ球,血小板などでも比較的高いACP活性が認められ,これら臓器あるいは細胞の損傷時には細胞外へ逸脱したACPが血中に遊離し,血液中のACP活性が上昇することになる.
ADH(alcohol dehydrogenase;アルコール脱水素酵素)は20種類以上のアイソザイムがあり,α,β,γサブユニット蛋白の任意の組み合わせによる二量体,およびπ,χ,μ,δサブユニット蛋白それぞれの二量体の形で構成されている.エタノールを基質としてその活性を測定した場合,本酵素の生体内分布は95%が肝で,他臓器では胃粘膜,腎,睾丸,脳,網膜などでわずかに活性を認めるのみであり,肝細胞内では細胞質に局在する.したがって,ALTやLDHなどと同様に肝の逸脱酵素としての性格を有することから,本酵素の血清中の活性を測定することは,肝細胞障害の程度を把握するのに有用な検査である.組織所見のなかで,肝細胞壊死の程度と血清ADH活性とが相関することが明らかにされている.ADH活性は4℃保存で24時間後には20%失活するため,採血後は速やかに測定するか,-80℃で保存し,2カ月以内に測定することが望ましい.
グルコース(ブドウ糖)は分子量180の単糖で,血液中の糖質の主成分である.生体にとって重要なエネルギー源であり,血中のグルコースの濃度を一般的に血糖値という.生体内のグルコースは腸管からの糖の吸収,肝における糖新生と糖放出,腎からの排泄,骨格筋や脳での糖利用,自律神経およびさまざまなホルモン(インスリン,グルカゴン,カテコラミン,ステロイドホルモン,成長ホルモン)などにより規定され,恒常的に維持される.これらの恒常性が破綻したときに高血糖あるいは低血糖をきたす.
高血糖は主に一過性と持続性に分けられる.例えば,胃切除後症候群は一過性高血糖をきたすが,これは糖質が胃でとどまらずに一気に体内へ吸収され,一過性に高血糖となるためである.また,肝硬変では肝でのインスリン作用が障害されるため食後高血糖を起こす.一方,持続性高血糖状態はいわゆる糖尿病に多くみられ,インスリンの分泌低下や欠乏が主たる原因である.膵β細胞が免疫学的機序により破壊され,絶対的インスリン分泌低下に至るのが1型糖尿病であり,糖尿病の約5%を占める.一方,相対的インスリン分泌低下やインスリン作用障害による慢性的高血糖を特徴とするのが2型糖尿病であり,本邦の糖尿病の大部分を占める.また,インスリン拮抗ホルモン(成長ホルモン,カテコラミン,ステロイドホルモンなど)が過剰な状態でも高血糖を招く.
ヘモグロビンにグルコースが非酵素的に結合(糖化:glycation)したものがHbA1cである.一般的にヘモグロビンβ鎖N末端のバリン残基が最も糖化されやすい部位(60%以上)である.この検査は,グルコースは自由に赤血球膜を通過できること,赤血球内にはグルコースが結合する相手であるヘモグロビンが十分量存在することより,ヘモグロビンの糖化はグルコース濃度に依存するということを利用したものである.赤血球の寿命を考慮すると,HbA1cの血中(赤血球内)濃度は過去1~2カ月間の血糖コントロール状態を反映すると考えられており,世界中で糖尿病患者の血糖コントロールの指標として用いられている.
現在までに米国で行われた1型糖尿病患者を用いたDCCT(Diabetes Control and Complications Trail)や本邦で行われたインスリン治療2型糖尿病患者を用いたKumamoto Studyなどにより,HbA1cを低下させると糖尿病の慢性合併症の発症や進展に対して好影響を与えるというエビデンスが報告されており,それぞれHbA1c〔NGSP:National Glycohemoglobin Standardization Program(米国のHbA1c標準化委員会)〕値<7.0%,HbA1c〔JDS:Japan Diabetes Society(日本糖尿病学会)〕値<6.5%が治療目標値として勧告されている.また,糖尿病とは「持続する高血糖状態」であることより,血糖値と同時測定することでHbA1cが糖尿病の診断にも用いられるようになっている.
異常値の出るメカニズムと臨床意義
グリコアルブミン(glycoalbumin:GA)はアルブミン分子中のリジンが非酵素的に糖化された糖化蛋白である.アルブミンが肝臓で生成されて代謝される間,血糖値に応じて,すなわち血糖値が高ければ多量のGAが,血糖値が低ければ少量のGAが生成される.そのため,GAの多寡により約17日間(アルブミン半減期)の血糖状態を把握することができる.詳細な検討によればGAは過去約2カ月間の血糖状態を反映するが,主として1カ月間,特に直近2週間の血糖状態によりその多寡が決定される.
同じ糖化蛋白としてHbA1cが日常臨床で用いられているが,HbA1cは過去4カ月,主として2カ月,特に直近の1カ月の血糖状態によりその多寡が決まり,GAよりも長期間の血糖状態を反映する.
■尿中微量アルブミン尿の出るメカニズム
腎糸球体毛細血管壁は,内皮細胞,糸球体基底膜,そして,上皮細胞の3層構造である.特に内皮細胞は約200~400nmのプロテオグリカンなど細胞表面を覆う糖と結合した化合物〔グリコカリックス(glycocalyx)〕に覆われている.したがって,水は自由に濾過されるが,分子量の大きいアルブミン(約67,000)などは濾過されない,つまり,尿中に漏れない仕組みとなっている.
実際に,マウスにプロテオグリカン分解酵素を投与するとチャージバリアが障害され,アルブミンが尿中に漏れ出てくることが示されている1).糖尿病状態でみられる腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)-αや酸化ストレスの亢進によってグリコカリックスが障害され,さらに血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)がアルブミン透過性を亢進させる.
1,5-AG(1,5-anhydroglucitol)は生体内に豊富に含まれるポリオールであるが,ほとんど代謝を受けず,正常人の血中濃度は一定で推移する.食物中より毎日微量の供給を受けるが,これと見合った分が尿中へ排泄され,出入りのバランスが保たれている.減少して,1,5-AGの腎排泄閾値以下になると,尿糖がなければ尿細管より100%再吸収される.
高血糖に伴う尿糖排泄により腎尿細管での再吸収が競合阻害を受けて尿中に排出され,血中濃度が低下する.血糖上昇が軽度で短時間であっても尿糖は速やかに排泄されるため,1,5-AGは各種指標のなかで,血糖変化を最も早くとらえて変化する先行指標となる1).
インスリンとC-ペプチドは等モルで膵β細胞より分泌される.血中インスリンレベルの測定は,内因性分泌動態の追跡に必須となる.一方,血中インスリンを測定できない場合に限って血中C-ペプチドを測らざるを得ない.例えば,現在多用されているインスリンアナログ製剤注射中患者で,内因性インスリン分泌能がどの程度保持されているかを検索する際に,血中C-ペプチド測定が意義を有する.
肥満がない(インスリン抵抗性がないと考えて),血糖日内変動が正常域にある例のインスリン分泌率,分泌量はどうであろうか.
インスリン抗体は,インスリン注射歴のない方において突然産生されたり,ヒトインスリン製剤を使用しているインスリン治療中患者においても産生されるという特徴をもつ.
インスリン抗体には2種類ある.通常はインスリン治療患者の血中に存在する,つまり外来性インスリンに対して産生された抗体(insulin antibody:IA)のことをいう.それに対して,インスリン治療歴がないにもかかわらず,血中ヒトインスリンに対して抗体を産生してしまう疾患がある.このインスリン抗体のことをインスリン自己抗体(insulin auto-antibody:IAA)と呼ぶ.
1型糖尿病は,膵臓のβ細胞が破壊され,インスリン産生能が低下・枯渇することにより発症する疾患である.その原因は自己免疫的機序により発症するタイプ(1A型)と特発性(1B型)の2つに分類されている.1A型では,患者血清中には膵島細胞に対する各種自己抗体が検出され,診断の重要な指標となっている.
グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase:GAD)は,グルタミン酸から神経伝達物質のγアミノ酪酸(γ-aminobutyric acid:GABA)を生成する反応を触媒する酵素で,GAD65とGAD67のアイソフォームが存在する.膵β細胞には主にGAD65が存在し,GAD67は主に中枢神経系に発現する.GAD65に対する自己抗体(抗GAD抗体)が自己免疫機序による膵β細胞破壊に深く関係していることが示されており,1型糖尿病の診断・予知マーカーとして使用されている.また,抗GAD抗体は,各種自己免疫疾患でも陽性になることがあり,特に自己免疫性甲状腺疾患の頻度が高い.
インスリン受容体異常症という概念がKahnによってされた.これはインスリン受容体後のシグナル伝達に障害が起こるために,インスリン抵抗性を引き起こす疾患である.インスリンの血糖降下作用が不十分な状態になるため,血糖は上昇する.
インスリン受容体異常症は,インスリン受容体そのものの異常によるインスリン受容体異常症をA型と,インスリン受容体の自己抗体が存在するためにインスリンのインスリン受容体への結合が阻害されるものをインスリン受容体異常症B型と,インスリン受容体結合以降のステップに異常が存在するインスリン受容体異常症C型がある.
血中ケトン体はアセト酢酸(acetoacetate:AcAc),β-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyrate:3-OHBA)およびアセトンの総称である.ケトン体は主として肝において脂肪酸より生成される.絶食,インスリン作用不足,カテコールアミン上昇時などで,糖質からのエネルギー供給が不足すると,生体は脂肪からエネルギー産生を行うことになり,脂肪分解が亢進し,血中遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)が増加する.FFAは肝ミトコンドリア内でβ酸化され,アセチルCoAとなる.このアセチルCoAからAcAcが生成され,さらに3-OHBA,アセトンへと代謝される.AcAcや3-OHBAは糖質の代わりに骨格筋,心筋,腎などで代謝され,エネルギー源となるが,糖質の不足状態が著しいと,脳細胞もこれらを利用する.
ケトン体の産生は生理的には理にかなった生体反応であるが,体内でのケトン体処理能力を超えて,肝よりケトン体が供給された場合に血中蓄積が起こり,ケトン体血症(ケトーシス)となり,さまざまな病態に関与してくることになる.
ピルビン酸(pyruvic acid)は解糖で生じ,糖,アミノ酸,脂肪酸代謝のすべてに関与する代謝経路の交差点に位置する重要な物質である.好気的条件下ではミトコンドリアに取り込まれてアセチルCoAとなり,TCA(tricarboxylic acid:クエン酸)回路で酸化され,ATP合成に用いられる.乳酸(lactic acid)はピルビン酸を基質とし,嫌気的に乳酸脱水素酵素(lactic dehydrogenase:LD)とNADH(dihydronicotinamide adenine dinucleotide:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の存在下に産生される.乳酸は全身の組織,細胞,特に運動時の筋肉で大量に産生されて血中に放出される.ミトコンドリアが存在しない赤血球では乳酸は常に解糖の最終産物である.通常,乳酸の大半は肝臓に取り込まれ,ピルビン酸を経てグルコースとなる糖新生に利用される.
血清コレステロールには脂肪酸が結合していない遊離型コレステロール(25%)と脂肪酸とエステル結合したエステル型コレステロール(75%)があり,これを合わせたものを総コレステロール(total cholesterol:TC)と呼ぶ.コレステロールは血中では主として高比重リポ蛋白(high density lipoprotein:HDL),低比重リポ蛋白(low density lipoprotein:LDL)として,一部は超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein:VLDL),中間比重リポ蛋白(intermediate density lipoprotein:IDL),カイロミクロン(chylomicoron:CM)といったリポ蛋白の一部として存在し運搬されている.
体内のコレステロールは,主として肝臓での合成,小腸からの吸収,胆汁へ排出(腸肝循環),そしてリポ蛋白受容体を介した異化機構のバランスで決定されている.ヒトの場合,肝臓でのコレステロールの合成量(1日約1.5~2.0g)は食事由来のコレステロール(1日約0.3g)より数倍多いため,主として血清コレステロール濃度を規定しているのは肝臓におけるコレステロール合成と異化である.
コレステロールは水に溶けにくく,そのままでは血液中を流れていくことができない.そのため,中性脂肪とともに両親媒性の膜(外側が親水性,内側が疎水性)に包まれ,粒子状となって存在している.この粒子をリポ蛋白と呼ぶ.リポ蛋白の膜はリン脂質と蛋白(数種類のアポリポ蛋白)で構成されており,その組成によってサイズ,比重,生理的意義などが異なる.
食事として摂取したコレステロールや脂肪酸は,腸管の細胞でカイロミクロンと呼ばれるリポ蛋白に組み込まれ,血液中に放出される.カイロミクロンは血液中でリポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase:LPL)によって代謝(中性脂肪が分解)され,少し小型のカイロミクロン・レムナント(代謝物)となり,肝臓に取り込まれる.
トリグリセリド(triglyceride:TG)はグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したもので,脂肪酸の貯蔵と運搬体として機能している.食事から摂取された脂肪は,膵リパーゼで脂肪酸とモノグリセリドに分解され,小腸で吸収される.脂肪酸は小腸でTGに再合成され,アポB48と結合し,カイロミクロン(chylomicoron:CM)として分泌される.食後の高TG血症はCMの増加による.
CMはアポCⅡの存在下でリポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase:LPL)の作用を受けてCMレムナントに変化する.CMレムナントは主に肝臓に取り込まれる.アポCⅡあるいはLPL欠損症では,CMが血中に停滞し高TG血症となる.
血清中のリポ蛋白はその比重に従って,軽いものから順にカイロミクロン,VLDL(very low density lipoprotein;超低比重リポ蛋白),IDL(intermediate density lipoprotein;中間比重リポ蛋白),LDL(low density lipoprotein;低比重リポ蛋白),HDL(high density lipoprotein;高比重リポ蛋白)とに大別される.リポ蛋白分画を分離,分析する方法に電気泳動法があり,荷電で分離するアガロースゲル電気泳動法と粒子サイズで分離するポリアクリルアミドディスクゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis:PAGE)法がある.
測定意義は脂質代謝過程で障害されている機構を認識することにある.リポ蛋白分子は相互に関連をもちながら変動しており,疾病時にはリポ蛋白分画の量的変化,組成変化が現れる.
アポ蛋白は各リポ蛋白の構成蛋白で,その機能は①疎水性である脂質リポ蛋白として血中で安定な構造を保持する作用,②リポ蛋白代謝に関与する酵素の活性修飾因子としての作用,③細胞表面のリポ蛋白受容体に対するリガンドとしての作用がある(表1,図1).各アポ蛋白の増減は,そのアポ蛋白が存在するリポ蛋白の増減を反映していることが多く,血清脂質値やリポ蛋白分画の測定結果とともに評価を行う.血清脂質値やリポ蛋白分画とかけ離れたアポ蛋白値が得られた場合は,欠損症など特殊な疾患を検討する必要がある.
Lp(a)[リポプロテイン(a)]は1963年にノルウェーのBergによって発見されたリポ蛋白で,動脈硬化と関連しているとされたが,その詳細は不明であった.しかし,1987年にLp(a)の構成アポ蛋白であるアポ(a)の一次構造がプラスミノゲンと著しい相同性を有することが明らかにされ1),Lp(a)が血液凝固線溶系に関与しているものと考えられるようになった.現在,Lp(a)は動脈硬化の独立した危険因子とされており,臨床的な評価に関しては,例えば冠動脈疾患や脳血管障害など,動脈硬化性疾患において高値であるとする報告が多い.
一方,アポ(a)はアポB-100とS-S結合して存在しているが,このアポ(a)にはプラスミノゲンのクリングルIVの繰り返し構造があり,この繰り返し数が個体によって異なっているためにアポ(a)の分子量に多様性が生じ,Lp(a)に種々のフェノタイプが存在する原因となっている.すなわち,繰り返し数が少ないほどアポ(a)分子が多く合成されることになり,結果としてLp(a)濃度が高く,その意味でLp(a)濃度は遺伝的に規定されているといえる(環境因子は20~30%といわれている).
動脈血液ガス分析によって体内の酸塩基平衡〔pH,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2),重炭素イオン濃度(HCO3-),base excess(BE)〕と呼吸不全〔PaCO2,動脈血酸素分圧(PaO2),酸素飽和度(SaO2)〕の評価ができる.
血液のpHはPaCO2と水素イオン(H+)の総和であり,生体内では7.40±0.04と狭い範囲内に維持されている.pH 7.4以上をアルカレミア(alkalemia),pH 7.4以下をアシデミア(acidemia)と定義する.アルカレミアならびにアシデミアに至る生体の反応をアルカローシスならびにアシドーシスと称する.pH 7.2以下,pH 7.6以上はパニック値とされ,緊急な対処が必要である.HCO3-は体内では塩基として働く.HCO3-は,腎尿細管における再吸収量の増減により調整されている.BEは血中過剰塩基を表す.BEが0より大であれば代謝性アルカローシス,小であれば代謝性アシドーシスを意味する.
Na
Na代謝は体液量変化と浸透圧変化の相互作用により調節され,抗利尿ホルモンとレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が中心的役割を果たす1).
血清カルシウム(Ca),リン(P)の濃度はともに,主に副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)および1,25-dihydroxyvitamin D〔1,25(OH)2D〕の2つのホルモンの腎,骨,腸管などの標的臓器への作用により制御されている.
低Ca血症はテタニー,てんかん様発作などから疑う.高Ca血症の症状は,多飲・多尿,消化器症状,精神症状など多彩かつ非特異的であり,不定愁訴をもつ患者のスクリーニング検査として積極的に測定すべきである(表1).Ca代謝異常症のスクリーニング時には,常にアルブミンとともにPを同時に測定する.
正常成人は体内に70~100mgの銅を有しており,その多くは肝臓,脳,骨髄に分布している.銅は食物を介して生体に取り込まれ,胃,上部小腸粘膜から1日に0.6~1.8mg吸収される.吸収された銅は銅輸送蛋白であるATP-7Aによって漿膜側に運搬され血管に入り,アルブミン(Alb),トランスキュプレイン(transcuprein)と結合して各臓器に運搬されるが,主体は肝臓である.肝臓に運ばれたAlb結合銅は肝臓内の銅運搬蛋白であるATP-7Bによって胆汁中に排泄されるか,またはアポセルロプラスミン(apo-ceruloplasmin)に取り込まれ,セルロプラスミン(ceruloplasmin)となり,血中に放出される(図1)1).セルロプラスミンに結合した銅はcytochrome oxidase, superoxide dismutaseなどに取り込まれると報告されている.この代謝経路に異常がみられると血清銅値も変化する.長期の経口摂取障害,腸の吸収障害,大便および尿への排泄増加が認められると血清銅は低下し,ホルモンによるセルロプラスミン合成亢進,胆道疾患による銅排泄障害では血清銅は上昇する.
マグネシウム(Mg)は,環境中では炭酸塩(MgCO3),硫酸塩(MgSO4),塩化物(MgCl2)として広く存在するが,生体内では,カルシウム(Ca),ナトリウム(Na),カリウム(K)に次いで4番目に多い陽イオン金属で,細胞内ではKに次いで2番目に多い.例えば,体重70kgの成人の体内には約800~1,200mmol(20~28g)のMgが存在するが,そのうち60~65%が骨中に,27%が筋肉中に,6~7%がその他組織中に,そして残りの1%が細胞外液に存在する.したがって,臓器分布では,骨および筋肉のほか,代謝活性の高い脳・神経組織および心筋,肝臓,消化管,腎臓,外分泌および内分泌腺,リンパ組織などに多い.
Caが主として細胞外に存在するのに比べて,Mgは細胞内に存在し,細胞内:細胞外比Caでは0.0001であるのに対し,Mgは3.0~8.0に達する.Mgは種々の代謝の基本的反応の必須イオンとして重要な役割を果たしているが,それは300種類以上の酵素がその活性化にMgを必要とする点にある.特にリン酸伝達反応とATPが関与する反応系の酵素反応(ATPase,クレアチンキナーゼ,アデニル酸シクラーゼ,Na,K-ATPasseなど)や解糖系酵素(ヘキソキナーゼ,ホスホフルククトキナーゼなどの7種類)にMgがアクチベータとして必須であることより,細胞膜機能,アミノ酸の活性化,DNA合成,蛋白合成,酸化的リン酸化,筋収縮,赤血球と血小板の形態保持など細胞レベルのエネルギー代謝に不可欠である.したがって,神経伝達活性,神経・筋インパルス伝達,心臓興奮性,血管運動性,血圧などの調節にMgは重要な役割を果たしている.
亜鉛(Zn)は生体内必須微量元素で,約300種類の酵素の活性中心として,細胞分裂や核酸代謝など重要な役割を果たす.亜鉛の生理作用は,①成長,②皮膚代謝,③生殖機能,④骨格の発育,⑤味覚・嗅覚の維持,⑥精神・行動への影響,⑦免疫機能など,多彩である.主な亜鉛含有酵素には,DNAポリメラーゼ,RNAポリメラーゼ,炭酸脱水素酵素,アルカリホスファターゼ(ALP),アルコール脱水素酵素,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などがある.
生体内亜鉛総量は約1.5~2.5gで,あらゆる組織に存在し,血液中には約0.5%が存在する.血清亜鉛の約2/3がアルブミン,約1/3がα2マクログロブリン,約1~2%はヒスチジン,シスチンなどと結合している.
フェリチン
体内の鉄貯蔵量を調べるために最も信頼性の高い検査は,肝生検で得られた組織中の鉄濃度測定と考えられている.しかし,この検査は侵襲を伴い,合併症のリスクを考慮すると安易に行うべき検査ではない.また,最近MRIを用いた肝鉄濃度測定法が注目されているが,まだ一般的ではない.
一方,日常臨床では血清フェリチン値が簡便に測定できる鉄貯蔵マーカーとしてよく利用されている.フェリチンは鉄を結合して貯蔵するための蛋白で,肝・脾・骨髄・胎盤などの組織に広く分布しており,その分布量は概ね血清中濃度と相関する.
溶質量の異なる溶液が,溶質は通さないが溶媒は通す半透膜によって隔てられて接した場合,「溶媒が低濃度の溶液から高濃度の溶液側に拡散する圧力」を浸透圧と定義している.生体の体液濃度などの恒常性は,血漿浸透圧により厳密にコントロールされており,浸透圧を測定することにより,体液の濃縮・希釈の状態を知ることができる.
血漿浸透圧の変化は視床下部に存在する浸透圧受容体で感知され,渇中枢を介して水分摂取量が調節される.また,下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン(antidiuretichormone:ADH,バゾプレシン)を介した腎からの水分排泄により調節が行われる.水分摂取量が少なければ血漿浸透圧が上昇し,口渇が刺激されて飲水を促進するとともに,ADHの分泌が促進し,尿が濃縮されて尿量が減少し,血漿浸透圧は正常化する(図1).このように,浸透圧は体液の濃縮・希釈の動態と密接な関係があるため,血中Na異常,ADH分泌異常,腎における尿の希釈・濃縮能異常などの原因検査に用いられる.
ビタミンB12および葉酸の異常値の出るメカニズムを表1に示した.
ビタミンB12が低値に出る場合は,内因子欠乏以外に胃切除,吸収不良症候群,盲管症候群,Zollinger-Ellison症候群,慢性膵炎,Kostman症候群,Imerlund(選択的ビタミンB12吸収不良),先天性トランスコバラミンⅠおよびⅡ欠損症などの吸収障害が最も頻度が高い.アルコール依存患者でも起こるが,頻度は低い.ビタミンB12の競合は広節裂頭条虫,ランブル鞭毛虫で起こる.薬物はネオマイシン,コルヒチン,パラアミノサリチル酸,ビグアナイドで起こる.葉酸が低値に出る場合には,アルコールなどによる吸収障害が最も頻度が高い.
血中ビタミンが低値に出る場合は,何らかの理由でビタミン摂取量が低下するか,ビタミン需要が増加するときである.各種ビタミンの異常値の出るメカニズムについて表1に示す.
血中ビタミンが高値に出て,臨床的に問題となったのはビタミンA,D,Eである.ビタミンAが高値に出る場合はA過剰症(中毒),脂質異常症や脂肪肝をきたす過栄養,腎不全である.25(OH)D値が高値に出る場合はD過剰症(中毒)で,1α,25(OH)2Dが高値ならば原発性副甲状腺機能亢進症,慢性肉芽腫症,ビタミンD依存性くる病Ⅱ型,カルシウム欠乏症,1,25D産生悪性リンパ腫が考えられる.ビタミンEは脂質異常症で高値をきたす.
■抗てんかん薬
抗てんかん薬による有効的な治療には,血中薬物濃度測定(therapeutic drug monitoring:TDM)が不可欠である.指標となる治療有効濃度範囲は,効果発現閾値(下限値)と急性副作用発現濃度(上限値)の幅を,多数の症例についてみた統計学的数値である.そのため,抑制効果や副作用の出現について,測定値が発作の臨床的判断に先行するものではないことを留意しておくことが重要である.
肝障害,腎障害,甲状腺機能異常時,ほかの薬物などとの併用時に血中濃度が変動する可能性がある.また,新生児期,腎障害患者,妊婦では血中にジゴキシン様免疫反応物質(digoxin-like immunoreactive substance:DLIS)が認められる場合が多く,免疫測定法によるジゴキシン測定値が実際より高く評価されることがある.
治療薬物濃度モニタリング(therapeutic drug level monitoring:TDM)の対象薬剤としての性質は要約すると以下の5つである.
(1)測定結果について中毒濃度,有効濃度を評価できる.
(2)迅速な測定系を利用できる.
(3)代用薬剤がない.
(4)服薬義務違反により患者に不利益が生じる.
(5)長期投与が必要で患者の薬剤代謝(肝機能・腎機能・薬物相互作用)の変化により血中濃度が変化する.
抗菌薬の場合は,静脈投与の薬剤が対象なので,服薬義務違反が生じることはない.抗痙攣薬のような長期投与は通常,実施しないが,一部薬物相互作用が認められることがある.
免疫抑制薬血中濃度測定の臨床的意義
シクロスポリン(cyclosporine A:CyA)とタクロリムス(tacrolimus:Tac)はT細胞でのインターロイキン2(interleukin-2:IL-2)・インターフェロンγ(interferon-γ:IFN-γ)などのサイトカインの産生を抑制するカルシニューリン阻害薬に属する免疫抑制薬である.これら薬剤の投与に際しては,消化管での吸収,代謝あるいは排泄が,個体間・個体内で顕著に異なっているため,血中濃度をモニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)し,各疾患・病態ごとに設定される至適濃度を維持するように,その投与量を調節しなければならない.これら免疫抑制薬は臓器移植後の拒絶反応(拒否反応)の予防以外にも,CyAはBehçet病,再生不良性貧血,赤芽球癆,尋常性乾癬,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症,関節症性乾癬,全身性重症筋無力症,重症アトピー性皮膚炎,ネフローゼ症候群に,Tacは全身性重症筋無力症,関節リウマチ,ループス腎炎の治療薬として使用される.
成長ホルモン(growth hormone:GH)は下垂体前葉から分泌される191個のアミノ酸からなる22kDのホルモン(10%ではあるが32~46のペプチドが欠けている20kDのホルモンも含まれる)で,視床下部からの成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone-releasing hormone:GHRH)と,ソマトスタチン(somatostatin:SS)よって調節されている.そして,GHは肝臓のGHレセプターに働いてインスリン様成長因子(insulin-like growth factor-Ⅰ:IGF-I)の分泌を刺激し,成長期の骨成長を促進する.そのため,成長期にGH分泌障害を伴うことによって低身長をきたす.さらにIGF-Ⅰを介する骨成長以外のGHの直接作用として糖,脂質および蛋白代謝に対する作用や脳に対する作用が注目されている.成長期以降のGH分泌不全である成人成長ホルモン分泌不全症(adult growth hormone deficiency:AGHD)では,脂質異常症や筋力低下,動脈硬化,うつ状態などを伴うため,近年,GH治療の可能性を含めたGH分泌能の評価が重要となっている.
GH分泌低下の原因はさまざまで,特に下垂体腫瘍や頭蓋咽頭腫,胚細胞腫あるいは自己免疫による下垂体機能低下症に伴う場合や遺伝子異常による単独欠損もある.一方,GH過剰分泌の原因のほとんどは下垂体のGH産生腫瘍によるもので,GH過剰による四肢末端の肥大や特徴ある顔貌を呈する先端巨大症を引き起こす.
甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone, thyrotropin:TSH)は,下垂体前葉TSH産生細胞で合成・分泌される糖蛋白ホルモンで,α,β2つのサブユニットからなる.αサブユニットは,ゴナドトロピン〔黄体化ホルモン(luteinizing hormone:LH)および卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)〕や胎盤性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)のαサブユニットと共通の構造である.TSHの分泌調節は,血中遊離甲状腺ホルモン〔遊離サイロキシン(free thyroxine:FT4)および遊離トリヨードサイロニン(free triiodothyronine:FT3)〕との間の負の反回調節(negative feedback regulation),視床下部ホルモンの1つであるTSH分泌刺激ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)およびその他の中枢神経からの調節因子などによりなされる.
TSHは臨床検査ではイムノアッセイで測定される.現在の主流は異なる2つのエピトープをもつ抗体の一方を固相抗体,他方を標識抗体とし,試料中の抗原(TSH)をはさむような複合体を形成させ,標識物質の信号(化学発光,蛍光,放射能など)を検知するシステムとした非競合サンドイッチ法である.この方法での測定感度は,実際の診療を考慮した測定間再現性を表す変動係数(coefficient of variation:CV)が20%を示す最低濃度とする実効感度で,0.01~0.02μU/ml以下であり,健常人の最低濃度と甲状腺機能亢進症の示す濃度は明確に区別できる.一方,すべてのイムノアッセイに共通する問題として,標準物質や抗体の性状に依存する測定方法間での測定値の不一致があり,今なお完全には解消されていない.
プロラクチン(PRL)
プロラクチン(prolactin:PRL)は単一のポリペプタイドで構成される蛋白ホルモンである.構造的にはヒト成長ホルモンや胎盤性ラクトーゲンに類似している.PRLは下垂体前葉のPRL分泌細胞で産生されるほか,子宮筋層,黄体期後期の子宮内膜や妊娠中の脱落膜からも産生される.
その分泌は分泌抑制因子(proliferation-inhibiting factor:PIF)による調節がメインである.PIFにはドーパミンが知られている.PRLを分泌促進させるものとして,甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)が知られている.このため,分泌抑制因子であるドーパミンの産生不全,転送不全が高PRL血症をもたらし,TRHの過剰も高PRL血症を引き起こす.また,PRL産生腫瘍(下垂体腺腫など)も高PRL血症を引き起こす.高PRL血症は乳腺で乳汁漏出症,視床下部-下垂体-性腺系で性腺機能低下(無月経,インポテンツなど)を引き起こす.
副腎皮質刺激ホルモン(adrenocotricotropic hormone:ACTH)はアミノ酸39個からなるポリペプチドホルモンで,下垂体前葉ACTH細胞で前駆体として転写・翻訳され,酵素によりプロセシングを受けて分泌される.分泌されたACTHは副腎皮質のACTH受容体に結合し,コルチゾールの合成・分泌を促進する.メラニン色素の合成も刺激する.
血漿ACTH濃度は,ACTHの半減期が約10分と短く,下垂体前葉からの分泌を反映する.視床下部で産生されるCRH(corticotropin-releasing hormone:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)とADH(anti-diuretic hormone:抗利尿ホルモン)により分泌が刺激され,コルチゾールにより抑制される.日内変動では早朝起床時に高く,就寝時に低い(乳幼児期には日内変動不明確).ストレスにも大きく影響される.
抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)はアミノ酸9個からなるペプチドホルモンである.その前駆体は視床下部で転写・翻訳を受け,軸索輸送下にプロセシングされて下垂体後葉に貯えられ刺激を受けて分泌される.分泌されたADHは腎集合管のV2受容体に作用し,水再吸収を亢進させて抗利尿作用を発揮する.また,細動脈平滑筋のV1a受容体に作用して血管を収縮させ,下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)細胞のV1b受容体に作用してACTHの分泌を促す.
ADHの半減期は約13分であり,血漿ADH濃度は下垂体後葉からの分泌を反映する.分泌の調節は主に浸透圧受容体,容量受容体,圧受容体を介した刺激によって行われている.最も重要な分泌調節因子は血漿浸透圧である.血漿ADH濃度と血漿浸透圧との間には正の相関関係が認められる.血漿浸透圧が272mOsm/kg以下になると,健常者ではADHは検出されない(図1).
甲状腺ホルモンの合成と分泌は,下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone:TSH)により調節されており,視床下部-下垂体-甲状腺系にはネガティブフィードバック機構が存在する.甲状腺から分泌される主な甲状腺ホルモンはサイロキシン(T4)であるが,甲状腺ホルモン脱ヨード酵素の働きにより脱ヨードを受け,生物活性を有する3,5,3'-トリヨードサイロニン(T3)に変換され,甲状腺ホルモンとしての生理作用を発揮する(図1).血中の甲状腺ホルモンの大部分は甲状腺ホルモン結合蛋白(thyroid hormone-binding protein:TBP)と結合し,結合していない甲状腺ホルモンは遊離型のfree T4(FT4)ならびにfree T3(FT3)として存在する.甲状腺機能検査としては,一般にTBPの変化の影響を受けない遊離甲状腺ホルモンであるFT4,FT3 が測定される.
サイログロブリン(Tg)
サイログロブリン(thyroglobulin:Tg)は分子量約33万のモノマー2個からなる巨大な蛋白質である.甲状腺細胞でのみ合成され,Tg分子の立体構造を用いてヨードのついたチロシン(ジヨードチロシンおよびモノヨードチロシン)のカップリング反応により甲状腺ホルモン〔(サイロキシン(thyroxine:T4)およびトリヨードサイロニン(triiodothyronine:T3)〕が生成される.Tgは健常者でも血中へわずかに分泌されているが,現在のイムノアッセイでは測定下限域の濃度(<10.0ng/ml)を示す.ただし,臨床検査としての基準範囲は<30.0ng/mlとしている施設が多い.
サイログロブリン(thyroglobulin:Tg)は甲状腺濾胞細胞内で合成後,甲状腺濾胞コロイド中に分泌されて甲状腺ホルモン合成の場となっており,甲状腺内にある臓器特異蛋白の1つである.Tgでマウスを免疫すると抗サイログロブリン抗体(TgAb)が産生されると同時に甲状腺炎も惹起されることより,Tgは自己免疫性甲状腺炎の原因抗原の1つと考えられている.ヒトで甲状腺組織を調べても,TgAb陽性であれば甲状腺炎が認められる1).したがって,ヒトでの自己免疫性甲状腺疾患である慢性甲状腺炎(橋本病),Basedow病の多くでTgAbが陽性となる.ただし,TgAb陽性の妊婦において,胎盤を通過した母体の抗体が胎児の甲状腺に障害を及ぼさないことより,TgAb自体には病因的意義はほとんどないものと考えられている.
甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase:TPO)は甲状腺ホルモンの合成過程のうち,チロシン残基のヨード化およびヨードチロシンのカップリングに働く膜結合蛋白で,甲状腺内にある臓器特異蛋白の1つである.TPOでマウスを免疫すると,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が産生されると同時に甲状腺炎も惹起されることより,甲状腺ペルオキシダーゼは自己免疫性甲状腺炎の原因抗原の1つと考えられている.ヒトで甲状腺組織を調べても,TPOAb陽性であれば甲状腺炎が認められる1).したがって,ヒトでの自己免疫性甲状腺疾患である慢性甲状腺炎(橋本病),Basedow病の多くでTPOAbが陽性となる.ただし,TPOAb陽性の妊婦において,胎盤を通過した母体の抗体が胎児の甲状腺に障害を及ぼさないことより,TPOAb自体には病因的意義はほとんどないものと考えられている.
なお,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体は当初,甲状腺マイクロゾーム分画に反応する自己抗体として発見されたため,抗甲状腺マイクロゾーム抗体と呼ばれていた.
甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone:TSH)レセプター抗体は,①TSHレセプターへの自己抗体の結合を検出する方法であるレセプターアッセイと,②抗体による甲状腺細胞の刺激活性あるいは抑制活性を指標として測定する方法であるバイオアッセイの2通りの方法によって測定される.前者に属するものとしては,標識されたTSHやモノクローナル抗体のTSHレセプターへの結合阻害作用を指標として検出されるTRAb(TSH receptor antibodies)と一般に呼ばれるTSH結合阻害抗体(TSH-binding inhibitor immunoglobulins:TBII)があり(図1),後者に属するものとしては甲状腺細胞のcAMP産生能を指標として検出される甲状腺刺激抗体(thyroid stimulating antibodies:TSAb)ならびにTSH作用を阻害するブロッキングタイプの抗体を検出するTSHによる刺激の抑制効果をみる甲状腺刺激阻害抗体(thyroid stimulation blocking antibodies:TSBAb)が挙げられる(図2).
カルシトニンは甲状腺C細胞から分泌される32個のアミノ酸からなるホルモンである.C細胞由来腫瘍である甲状腺髄様癌の患者では高カルシトニン血症がみられる.また,肺小細胞癌,乳癌,カルチノイド症候群,膵癌,褐色細胞腫,副腎皮質癌,子宮頸癌などの腫瘍が異所性にカルシトニンを産生している場合も異常高値になりうる.一方,血清カルシトニンが低値(甲状腺全摘術後など)の場合には,臨床的意義はないと考えてよい.
臨床現場では高・低カルシウム血症の原因究明のためと称してカルシトニンが測定されていることがあるが,ほとんど役には立たない.また,かつては骨粗鬆症にエルカトニン注射が汎用されていたことから,骨粗鬆症患者におけるカルシトニン不足が疑われたが,実際には患者で血清カルシトニンが低い傾向は認められなかった1)ので,骨粗鬆症患者でもカルシトニンを測定する意味はほとんどない.カルシトニンは確かに骨吸収を抑制するが,そもそもヒトにおいては生理的にどれだけ重要であるのか不明であり,例えば甲状腺全摘術後に甲状腺ホルモン補充は必須であるが,カルシトニンは補充されない.
PTH
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)は,84個のアミノ酸からなる分子量9.3kDaのペプチドホルモンである.PTHは主として腎臓と骨に発現するPTH/PTHrP受容体(PTH1受容体)に作用し,血中のカルシウム(Ca)濃度を上昇させ,リン(P)濃度を低下させる.PTHの分泌調節上,最も重要なものは血中イオン化カルシウム(Ca2+)濃度である.Ca2+濃度の上昇は,副甲状腺細胞表面に存在するCa感知受容体(calcium-sensing receptor:CASR)を介してPTH分泌を抑制する.したがって,副甲状腺自体の問題に加え,血中Ca濃度に異常がある場合にも,血中PTH濃度は二次的に変動する.
コルチゾールは代表的な副腎皮質糖質コルチコイドであり,その分泌は下垂体由来の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone : ACTH)により促進的に調節されている.血中ACTH濃度は日内変動(早朝に頂値,深夜に低値)を有し,かつストレスで容易に上昇するという特徴をもつため,血中コルチゾール濃度も同様に大きく変動する.
コルチゾールが過剰分泌されるメカニズムとしては,下垂体腺腫もしくは異所性腫瘍から分泌されるACTHに刺激を受けて副腎から過剰なコルチゾールを分泌するもの(ACTH依存性)と,副腎腫瘍もしくは過形成によりコルチゾールを過剰分泌するもの(ACTH非依存性)がある.
現在,これらの測定試薬は製造中止となっている.尿中17-OHCS(17-hydroxycorticoid)はコルチゾールの直接測定ができなかった時代に,副腎糖質コルチコイド(主にコルチゾール)分泌を反映していたが,現在,コルチゾールを直接測定することができるので,臨床的意義が薄れた.また,17-KS(17-ketosteroid)はDHEA-S(dehydroepiandrosterone sulfate)やテストステロンは直接測定でき,17-KSの7分画もGC(gas chromatography)/MS(mass spectometry)法により精密に測定されるので,同じく臨床的意義が薄れた.基準値は試薬が臨床応用されていたときのものである.
アルドステロンは副腎皮質球状層で産生・分泌される強力な鉱質コルチコイドである.レニン・アンジオテンシン(RA)系活性の中心であるアンジオテンシンⅡ(AⅡ)がアルドステロンの強力な分泌刺激因子である.副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)や高カリウム(K)血症もアルドステロン分泌を刺激する.アルドステロンの主な標的器官は腎の遠位尿細管で,ナトリウム(Na)イオンの再吸収とKイオンと水素(H)イオンの排泄に働き,体液の恒常性維持に重要な役割を果たしている.アルドステロン分泌の指標としては,血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration:PAC)が用いられている.PACの単位はng/dlで表示される場合とpg/mlで表示される場合があり,後者では数値が10倍となるので注意が必要である.
原発性アルドステロン症や腎血管性高血圧などの二次性高血圧の診断に必須である.血漿レニン活性(plasma renin activity:PRA)と同時に測定し,評価することが臨床的意義をさらに高める.特に原発性アルドステロン症では両者の比率(PAC/PRA比:ARR)がスクリーニング検査としての感度を高める.さらに各種浮腫性疾患や水・電解質,酸塩基平衡異常の鑑別診断や病態の把握を目的に検査が行われる.
カテコールアミンは副腎髄質や交感神経終末から放出されるホルモンである.褐色細胞腫腫瘍組織からも過剰に産生・放出され,高血圧や動悸などの症状を呈することになる.
腫瘍組織におけるカテコールアミン産生は正常な分泌・合成調節を受けておらず,腫瘍からは持続的あるいは突発的にカテコールアミン放出が起きている.
カテコールアミンがO-メチル化されるとメタネフリンとなり,さらにアミノ基が酸化されると,最終的にVMA(vanillylmandelic acid:バニリルマンデル酸)となる.アドレナリンがO-メチル化されるとメタネフリンが,ノルアドレナリンがO-メチル化されるとノルメタネフリンがそれぞれ生じる.カテコールアミンは産生・放出後,速やかに再吸収や代謝を受けるので,カテコールアミンよりも代謝物の濃度のほうが高くなり,カテコールアミン産生亢進などにより異常高値を示す.
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)は妊娠の成立・維持に重要な働きをする糖蛋白ホルモンであり,分子量は約37,000でα,β鎖の非共有結合により構成される異分子二量体である.α鎖は下垂体前葉から分泌される黄体化ホルモン(luteinizing hormone:LH),卵胞刺激ホルモン(folliclestimulating hormone:FSH)のα鎖と免疫学的に同一のもので,構造もほぼ同様である.β鎖は145個のアミノ酸配列からなる分子量23,000の糖蛋白であり,LH, FSHなどのβ鎖とは異なっている.特にhCG-β鎖のC末端はLHのβ鎖には存在しないアミノ酸配列があり,hCG-β-CTP(carboxyl terminal peptide)と呼ばれている.
hCGは絨毛のジンチチウム細胞(栄養膜合胞細胞)から分泌され,妊娠の成立とともに急激に増加し,尿中hCGの検出が妊娠診断の決め手となる.hCGは着床周辺期における黄体機能を助け,卵巣での月経黄体から妊娠黄体への変化とその機能維持に重要な役割を果たす.また,妊娠初期での血中または尿中hCGの分泌パターンが異常を示せば,流産や絨毛性疾患などの異常妊娠を知る重要な指標となり,さらに異所性ホルモン産生腫瘍や悪性新生物の診断,ならびに管理における重要な腫瘍マーカーでもある1).
エストロゲンは女性ホルモンまたは卵胞ホルモンと呼ばれる性ステロイドホルモンである.そのなかでエストロン(E1),エストラジオール(E2),エストリオール(E3)がよく知られ,卵巣顆粒膜細胞で卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone:FSH)の刺激によりアロマターゼ活性が更新し,莢膜細胞より供給されたアンドロゲンからエストロゲンが産生される.
その臨床的意義としては,①女性における第二次性徴や妊娠・出産をはじめとする生殖機能への関与,②骨代謝や心疾患系の機能調節における役割,③乳腺や子宮内膜などのエストロゲン標的臓器の増殖や癌化への関与など非常に幅広い生理作用をもつ1).
本稿ではエストロゲンのなかで,エストラジオールと尿中エストリオールについて解説し,黄体ホルモンであるプロゲステロンについても触れる.
血中テストステロンの95%は精巣の間質にあるLeydig細胞で産生される.その産生は視床下部-下垂体により調節されている.視床下部から分泌される黄体ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-releasing hormone:LH-RH)が下垂体からの黄体ホルモン(luteinizing hormone:LH)の産生を刺激し,LHが精巣Leydig細胞に作用しテストステロンが産生される.テストステロンは視床下部-下垂体にフィードバック作用し,LH-RHとLHの分泌を調節する視床下部-下垂体-精巣系を形成している.すなわち,この系のどこかに異常があるとテストステロン産生が低下する.視床下部-下垂体の異常による場合は,LHが低下するため低ゴナドトロピン性精巣機能不全という.ゴナドトロピンとはLHとFSH(follicule stimulating hormone:卵胞刺激ホルモン)の総称である.精巣自体に異常がある場合は,視床下部-下垂体系にフィードバックがかからないためにLHが上昇することから高ゴナドトロピン性精巣機能不全という.同じテストステロン低下でも障害部位により全く違う病態であり,治療方針も変わってくるため,鑑別診断は重要である.
一方,血中テストステロンの約5%は副腎で産生されている.女性における男性ホルモン産生副腎腫瘍や先天性副腎皮質過形成ではテストステロン高値となるために男性化兆候が出現する.
レニンは腎傍糸球体細胞で産生・分泌される酵素である.腎灌流圧(圧受容体)の変化やマクラ・デンサ(密集斑)へのナトリウム(Na)負荷,交感神経β受容体活性,循環血中アンジオテンシンⅡ(AⅡ)濃度などを介する刺激により,血中に分泌される.レニン基質(アンジオテンシノゲン)に作用し,アンジオテンシンⅠ(AⅠ)を産生する.AⅠはアンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme:ACE)によりAⅡに変換される.AⅡは血管平滑筋の収縮による昇圧と副腎からのアルドステロン分泌を促し,血圧・体液調節に重要な役割を果たしている.レニンの産生,そして分泌から,AⅡに至る経路はレニン・アンジオテンシン(RA)系と呼称されており,レニンがこの系の律速酵素である.したがって,病態や疾患におけるRA系の活性を評価する指標として血漿レニン活性(plasma renin activity:PRA)および血漿レニン濃度(plasma renin concentration:PRC)が用いられている.PRAは,レニンがアンジオテンシノゲンに作用し,産生されるAⅠを放射免疫測定法(radioimmunoassay:RIA)法により測定するものである.PRAはアンジオテンシノゲン濃度とレニン濃度の影響を受けるが,PRCの直接定量法はアンジオテンシノゲン濃度の影響を受けない利点がある.妊娠や肝硬変を除きアンジオテンシノゲン濃度はほぼ一定に保たれているので,PRAはPRCと相関する.日常の検査ではRA活性の指標として,PRAが用いられている.
心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)と脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)は心臓から分泌されるホルモンである.グアニル酸シクラーゼ活性を有する機能的受容体(NPR-A受容体)に結合し,ナトリウム利尿作用,血管拡張作用,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系抑性作用や交感神経系抑制作用などの生理作用を発揮する
N末端プロBNP(NT-proBNP)は76個のアミノ酸より構成されるペプチドである.プロBNPは心筋内で蛋白分解酵素corinによって,生理作用のあるBNPと生理作用のないNT-proBNPに分裂し,1:1の等モル比で血中に逸脱する.
A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV)関連検査には,IgM-HA抗体,HA抗体,IgG-HA抗体,HAV-RNAなどがある.
A型肝炎とは,HAV感染によって生じる急性の肝障害で,一過性感染で経過し慢性化することはない.感染経路は経口感染であり,汚染された水,食品を介して伝播する.潜伏期は2~6週間である.小児感染例の多くは無症状で経過するが,成人例では顕性化し,50歳以上の高齢者では重症化することがある.慢性化することはなく,感染後はHAVに対する終生免疫が成立する.ワクチンによる感染防御が可能で,HAワクチンの防除能は十分に証明されている.
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は,ヘパドナウイルス科オルソヘパドナウイルス属に属する不完全二本鎖DNAウイルスで,B型肝炎の原因ウイルスである(図1).ウイルス保有者から血液を介して感染し,母子感染は,検査体制と母子感染予防法の確立により,現在ではほぼなくなった.水平感染は,血液を介する感染もしくは性行為感染が多い.
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)は,1989年に米国Chiron社のChooらによりHCV遺伝子断片のクローニングが行われ1),C100-3抗体の測定により非A非B肝炎の病原ウイルスとして同定された.HCVに感染すると,肝細胞内で複製したHCVがHCV粒子として血中に放出される.HCVは全長9,600塩基の一本鎖RNAウイルスであり,感染早期からHCV RNAが検出される.
HCVはほかのウイルスと比較してウイルス量が少なく,ウイルス核酸を検出するためにRT-PCR(reverse-transcription polymerase chain reaction)法が行われている.これはHCV RNAを逆転写酵素を用いてcDNA合成し,これを鋳型(template)としてPCR増幅し検出している.HCV RNA陽性は現時点でのHCVの感染(HCV血症)を意味する.また,リアルタイムPCR法を用いたHCV RNAの定量検査が行われている.
D型(デルタ)肝炎
D型肝炎ウイルス(hepatitis D virus:HDV)はHBs抗原をウイルス外被とするため,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)存在下でのみ感染可能となる.D型肝炎はA型,E型以外のウイルス性肝炎として感染症法により5類感染症に指定されており,診断より7日以内に保健所長を介して都道府県知事に届出の義務がある.欧米に比べ本邦ではD型肝炎の頻度は低く,HBs抗原陽性者の0.6%と報告されている.しかし,B型急性肝炎患者における欧米型遺伝子株の増加が近年顕著となっており,HBs抗原陽性者の重症肝炎ではHDV感染の可能性についても考慮する必要がある.HBVとの同時感染(coinfection)とHBVキャリアへの重複感染(superinfection)では肝障害および関連マーカーの経過が異なるものの,診断にはELISA法を用いたIgMクラス抗体およびRT-PCR法を用いたHDV-RNAの検出が最も正確である.特に同時感染ではIgM HDV抗体はIgM HBc抗体と同様に肝障害の改善とともに減少傾向を認める.慢性化する場合ではIgM抗体も遷延化し,total HDV抗体の力価は上昇していく(図1).
ウイルス,アルコール,薬剤,過栄養,自己免疫機序などの原因のいかんにかかわらず,肝臓への障害が継続(慢性化)すると,これに対する創傷治癒機転が持続するため,肝臓には線維成分が沈着し線維化をきたす.線維化が高度に及ぶと肝硬変症となり,肝機能の低下,門脈圧亢進症などにより予後不良の病態となる.すなわち,線維化の程度の把握は診療上,重要である.また,わが国で慢性肝臓病の原因として最も頻度の高いC型肝炎においては,治療法の進歩によりウイルスを排除し,完治を目指すことが可能となってきたが,一般に線維化が進んだ症例では治療効果が低いことが明らかとなっている.したがって,C型肝炎の治療効果を推定するためにも,線維化の診断は重要となっている.
この肝線維化の程度を判断するための血液中マーカーとして頻用されているのが,Ⅳ型コラーゲン,ヒアルロン酸である.これらの物質が肝線維化において血液中で上昇する理由として重要であるのが,肝線維化に伴う肝類洞内皮細胞およびその周囲組織の変化である.肝線維化が進行すると,類洞内皮細胞の細胞膜上のporeが消失し,同細胞と肝細胞との間(Disse腔)に基底膜成分が沈着することにより,類洞内皮細胞における物質の取り込みと肝細胞への受け渡しが障害される.その結果,類洞内皮細胞を窓口とする物質の代謝が減少し,血液中濃度が上昇することとなる.
風疹ウイルス
抗体検査では赤血球凝集抑制法(hemagglutination inhibition:HI)と酵素抗体法(enzyme immunoassay:EIA)がよく用いられる.
HI法は赤血球凝集能をもつウイルスの凝集を抑制する抗体を証明する方法で,ウイルスの感染防御に働く抗体も含んでいる.発症後1週間以内で上昇が始まり,7~15日でピーク,発疹出現後5カ月頃まで持続し,以後下降が始まるが,長期にわたり陽性が持続し,既感染の確認ができる.急性期(発疹出現後3日以内)と回復期(2~3週後)のペア血清で,抗体価の陽転または4倍以上の上昇で風疹と診断される.
陽性値の出るメカニズムと臨床的意義
抗体は宿主の生体防御反応の一つであり,間接的ではあるが,その測定は確定診断や免疫の有無を判断するのに利用されている.抗体測定方法は,EIA(enzyme immunoassay:酵素免疫測定)法やNT(neutralization test:中和試験)法,HI(hemagglutination inhibition test:赤血球凝集阻止試験)法,CF(complement fixation:補体結合反応)法などがある.
EIA〔ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay:酵素免疫抗体測定)〕法ではIgMとIgG抗体に分けて測定することができる.IgM抗体は急性期に上昇し,約半年以内に陰性化するため,IgM抗体が陽性であるとワンポイントで診断することができる.しかし,急性期の早期ではIgM抗体がまだ陽性化していないことがあるので,陰性の判断には注意が必要である.
ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-cell leukemia virus:HTLV)-1とヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)はともに持続感染するレトロウイルスであり,いずれも経過中に日和見感染症・腫瘍を併発するが,HTLV-1は数十年を要してCD4陽性Tリンパ球(CD4細胞)の腫瘍性増殖性疾患を発症するのに対し,HIVはCD4細胞破壊による免疫不全症を感染後数年で発症する例も少なくない.ウイルス粒子構造は類似しており,感染の有無を検査するスクリーニング抗体検査は,構造蛋白に対する抗体を酵素免疫測定法〔enzyme immunoassay(EIA),chemiluminescence enzyme immunoassay(CLEIA),chemiluminescence immunoassay(CLIA)〕や粒子凝集法(particle agglutination:PA)で検出し,確認検査にWestern blot(WB)法が用いられる.HTLV-1では血漿中のフリーのウイルスは検出できないが,HIV-1では遺伝子増幅によって血漿中のウイルスを検査可能である.