特集 これだけは知っておきたい検査のポイント 第8集
腫瘍マーカー
消化器系
SLX(シアリルSSEA-1)
神奈木 玲児
1
1愛知医科大学先端医学医療研究拠点
pp.532-535
発行日 2010年10月30日
Published Date 2010/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402104834
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異常値の出るメカニズムと臨床的意義
SLXは癌細胞で産生される糖鎖を検出する腫瘍マーカー検査である.検出に用いられる抗体が末端シアル酸とLex糖鎖構造とi-抗原糖鎖構造を併せもつ糖鎖とよく反応することから,シアリルLex-iとも呼ばれる.Lex糖鎖構造とi-抗原糖鎖構造を併せもつ糖鎖は,以前にマウス初期胚に発達時期特異的に発現する胎児性抗原(stage-specific embryonic antigen-1:SSEA-1)に対して作製された抗体の認識糖鎖であり,これにシアル酸が付加した糖鎖であることからシアリルSSEA-1とも呼ばれる.SLXは本糖鎖の測定用に市販されている試薬キットの商品名である.
正常の上皮細胞には本糖鎖よりも複雑な多種多様な糖鎖が発現している.細胞が癌化する際にこうした複雑な正常糖鎖の合成を行う糖鎖関連遺伝子の一部がエピジェネティックな機構により発現抑制され,糖鎖合成不全が起こる.正常上皮細胞では硫酸化修飾を受けたシアリルLex系統の糖鎖が強く発現しており,癌化に伴って糖鎖の硫酸化に関与する一連の遺伝子のエピジェネティック・サイレンシングが起こる.そのために,癌細胞では本糖鎖のような硫酸基をもたないシアリルLex系統の糖鎖が発現・蓄積するに至る(図1)1, 2).サイレンシングを受ける遺伝子としては,硫酸基転移酵素遺伝子に加え,最近は硫酸基のトランスポーター遺伝子DTDSTのサイレンシングが注目されている.DTDSTには細胞増殖抑制作用があり,この遺伝子のサイレンシングは癌細胞の増殖能の亢進と関連するためである2).
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