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最近の抗生物質の進歩はめざましいもので,まず第3世代のセフェム系の出現,アズトレオナム・イミペナムの出現があげられる.また,抗菌力の広く強くなったキノロンカルボン酸の出現も特記すべきである.それぞれの抗生物質の詳細については各項でとり上げられるが,本稿では,抗生物質の最近の進歩について総括的に述べてゆきたい.
化膿性髄膜炎は,①急性化膿性疾患であり,内科的緊急状態である.②血中の抗生物質が容易に髄液中に移行しない.さらに,③髄液中における生体の防御機能は,他の臓器に比べて著しく劣っている.このような特徴を十分に念頭において,治療を行わなければならない.
結核症の減少にともない,結核性髄膜炎(本症)の発生率も減少してきているが,総結核症例数に占める本症の割合はけっして少なくなっていない.化学療法が未発達の時代にはすべて致死的であったものが,薬剤の開発に伴い,漸次改善されてはいるものの,現在でも死亡率は25〜35%とされている1).生存例においても,片麻痺や痙攣などの神経学的後遺症の残ることがあり,この点からも早期の治療開始が望まれる.
本症の発病は緩徐であり,小児ではだるさ,食欲不振,なんとなく調子が悪い,などの不定症状で発症し,成人でも熱感,だるさ,傾眠傾向などで発症することが多く,このような状態が2〜3週間続き,その後,頭重感さらに頭痛を訴えるようになる.また時に38〜39℃台の高熱が持続することがあるが,項部硬直,Kernig徴候,Brudzinski徴候などは軽度であることが多い.このため前駆期には,感冒,気管支炎などと診断されることが多い.したがって,不定症状の持続,原因不明の持続性の高熱,ごくわずかでも髄膜刺激症状の存在が疑わしいなどの場合は,髄液検査を施行し,異常の有無の確認を行わなければ,本症の早期診断は不可能である.
広義のヘルペス脳炎には,単純ヘルペスウイルス(HSV)のI型やII型によるものの他,水痘・帯状疱疹ウイルスが原因となる脳炎が含まれる.しかし,この中で臨床的に最も重要なものは,HSVI型による脳炎で,単にヘルペス脳炎(または単純ヘルペス脳炎)といった場合は,通常この疾患を意味する.
ヘルペス脳炎は,側頭葉や前頭葉眼窩面に限局する特徴をもつ急性壊死性脳炎で,わが国における散発性ウイルス性脳炎の中では最も頻度が高い.ヘルペス脳炎は放置すれば致命率が非常に高い重篤な疾患であるが,最近になり有効な治療薬剤が開発され使用できるようになったことから,その臨床的な重要性は一段と高まりつつある.
脳膿瘍とは,脳実質内の感染性炎症が進行し,膿瘍を形成した状態である.かつては生命予後の悪い疾患であったが,CTスキャンの出現による診断技術の飛躍的進歩とともに治療成績は向上し,高齢者,多発性膿瘍,小脳膿瘍を除けば,その死亡率は数%程度にまで改善されてきている.しかし,化学療法の発達した今日においても,脳膿瘍の発生頻度は減少していない.
上気道感染症は,小児のみならず,成人もが最も頻回に罹患する疾患である.肺炎球菌,A群溶血性連鎖球菌(以後,溶連菌),黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌などの好気性菌と,ペプトストレプトコッカスなど嫌気性菌が主な原因菌である.本稿では,上気道感染症におけるペニシリンの使い方について,主に自験例に基づいて述べてみたい.
慢性気道感染症とは
慢性気道感染症とは,通常,下気道に起こる慢性感染症をいう.下気道感染症は基本的には,一次感染でそれ自体が感染症である肺実質および間質感染症と異なり,すべて既存の気道・中間領域(気管支・細気管支)疾患を基盤として生じる.
慢性気道感染症を生じやすい疾患は,①びまん性汎細気管支炎,②気管支拡張症,③慢性気管支炎,④肺気腫症,⑤肺結核後遺症,⑥嚢胞性線維症(cystic fibrosis)などである.cystic fibrosisは欧米で多いが,わが国ではきわめて稀である.
病院外で発生する,いわゆる院外肺炎(community acquired pneumonia)は,通常健康な社会生活を送っている人に発症した肺炎を指しているが,その中には中年以降の男性,喫煙家にみられやすい慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など),慢性気道感染症(慢性気管支炎など)などの基礎疾患を有するものも存在する.
急性呼吸器感染症の一次病原体はインフルエンザをはじめとする種々のウイルスが関与し,多くは感冒様症状(上気道炎)を主徴とし,対症療法のみで治癒する場合がほとんどである.
病院外で発生する,いわゆる院外肺炎(commu-nity acquired pneumonia)の起炎菌は前項で述べたように,グラム陽性球菌の頻度が高いが,いわゆる慢性気道感染症を有するもの,あるいは肺気腫など閉塞性肺疾患を有するもの,さらに高齢者,男性,喫煙者,大酒家,糖尿病などの基礎疾患を有するものや,何らかの理由で抗生剤を服用している人では,グラム陰性桿菌性肺炎がみられることがある.
これらの肺炎がまったく健康な人に発症することはまず考えられないが,上記の諸因子を複数で有するものはhigh risk groupと考えておく必要がある.発症は稀ではあるが,一旦発症すると臨床経過は速く,難治性であり,致命率が高いので,日常臨床に携わるものにとっては重要なものである1).
嚥下性肺炎は,気管支肺炎の一病型として,嚥下障害を呈する基礎疾患を有する患者が誤嚥したとき,口腔内菌叢が下気道へ落下侵入して発症する形式をとり,空洞・膿瘍を形成しやすく,悪臭のある痰の喀出が多く,嫌気性菌の関与が大で,しかも混合感染が多いことで知られる.
院内感染による肺炎すなわち院内肺炎(nosocomial pneumonia)は,重篤な基礎疾患をもっている患者に対して発生頻度の高い合併症であり,しばしば致死的疾患となっていることはよく知られている.病院内には,それぞれの病院に,それぞれの特徴のあるいわゆる"院内細菌叢"とよばれる多剤耐性菌が住みついていて,白血病,悪性リンパ腫,腎移植患者,術後,種々の担癌生体,未熟児,高齢者,制癌剤・放射線療法・免疫抑制剤をうけている患者などのcompromised hostに肺炎を起こし,起炎菌が多剤耐性であることから.治療に難渋する.
第3世代セフェム剤は,抗菌力が強いという点から,院内肺炎の治療によく用いられているが,その使い分けは慎重を要する.
1909年Chagasにより発見され,1912年Delanöeらにより命名されたPneumocystis cariniiは,ときとしてヒト肺炎の病原体となりうることが知られてきた.
一方,第2次世界大戦後半ヨーロッパで,とくに未熟児や低栄養小児に肺胞間質の形質細胞浸潤を主所見とした肺炎の発生がみられた.
レンサ球菌と一口にいっても数多くの菌種があるが,感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)の原因菌としてのレンサ球菌という点よりは,Streptococcus viridans(S. viridans),Enterococcusおよびβ-hemolytic Streptococcusに大別される1).このうちS. viridansは現在でもなおIEの主要菌種であり,EnterococcusによるIEも稀ではない1,2).したがって,これらによるIEの治療が本稿の主題となるが,β-hemolytic StreptococcusによるIEも散見され1),これらについての抗生剤療法に触れることとする.
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;S. Aureus)による感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)は以前より経過も急で難治性であることは知られていたが,最近では表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis;S. epidermidis)をはじめとするCoagulase陰性ブドウ球菌もIEの原因菌として注目されている1,2).
Penicillin G(PCG)感性S. aureusによるIEはPCGが第1選択薬剤であることには昔も今も変わらないが,最近のS. aureusはそのほとんどがPenicillinaseを産生する,すなわちPCG耐性S. aureusである1,2).したがって,Penicillinase抵抗性Penicillin剤が治療の主役となる場合がほとんどある1,2).
培養陰性心内膜炎の原因
感染性心内膜炎(infective endocarditis;IE)のうち,血液培養が陰性であるものを培養陰性心内膜炎(culture-negative IE)として今世紀の初めより認識されていた.IEのなかに占める頻度は,数々の報告によると2.5〜31%となっている.その原因としては,表1に示した状態があげられる.
人工弁心内膜炎(prosthetic valve endocarditis,以下PVE)は重篤な感染症であり,心臓外科手術の増加に伴い,内科医が扱う新しい疾患群として登場してきている.PVEは弁置換術から2カ月以内の発生をearly PVE,2カ月以降をlate PVEと区別する.ここでは内科医を対象としているので,late PVEを主体に,native(非人工弁)endocarditisとの違いを,症例に基づきながら述べる.
感染性下痢の治療は,急性症では1が輸液,2が化学療法で,純然たる対症療法としての止瀉剤は通常用いない.原虫などによる慢性症では輸液よりも化学療法が重要であるが,細菌性のものはほとんどが急性症で,病原の種類によっては化学療法不要の場合も少なからずみられる.
偽膜性腸炎(PMC)は,古くから腸管手術や腸閉塞に合併する重篤な疾患として知られていたが,今日では抗生物質の使用により生ずる嫌気性菌の一種であるClostridium difficileが産生する毒素が原因となる抗生物質関連性腸炎(AAC)の一部として知られている.原因となる抗生物質として,Ampicillin,Clindamycin,Cephalosporinsなどが有名であるが,ほとんどすべての抗生物質が関与することが知られている.
胆道感染症は,尿路感染,呼吸器感染とともに,主要感染症の1つであるが,他の感染症のように起炎菌を同定できることは少ない.このため,臨床症状や検査値などから診断し,胆道感染症に多く分離される菌を想定して抗生剤を選択しなくてはならない.
近年,胆汁移行がよく,胆道感染症の起炎菌に対して抗菌活性の強いセフェム剤が開発されてきてはいるが,治療にあたっては,化学療法とともに,輸液,鎮痙鎮痛剤などの投与も必要である.また,急性閉塞性化膿性胆管炎や,胆嚢穿孔など緊急手術を要する場合もあり,外科との連絡を保っておくことも重要である.
腹膜炎は種々の原因により生じ,感染以外によることも少なくない.感染によるものでは,細菌性のものが最も多い.これらは,菌の侵入経路が明確でない一次的腹膜炎と,経路が明確な二次的腹膜炎とに分類される(表1).それぞれの原因菌や基礎疾患は異なるため,的確な診断が治療方針決定の上で重要である.
内科領域で経験する尿路感染症は,呼吸器感染症に次いで,よくみられる疾患である.多くの感染症のうちでも比較的容易に原因菌を把握することのできる疾病であり,その治療の第1は抗生剤療法である.ここでは,内科領域で経験される尿路感染症に対する抗生剤の選択について略記する.
ピリドンカルボン酸系(キノロン系)は,DNA合成阻害作用をもつ薬剤である.ナリジクス酸(1962年,ウイントマイロン®)は,グラム陰性桿菌のみに作用して,かつ,血中アルブミンとの結合率が高く,組織内への移行が少ないため,尿路感染症に主として使用されてきた。しかし,その後,グラム陽性のブドウ球菌に有効なピロミド酸(1972年,パナシッド®),緑膿菌に有効なピペミド酸(1976年,ドルコール®),ノルフロキサシン(1984年,バクシダー®),さらに広域スペクトルで抗菌力も強いオフロキサシン(1985年,タリビッド®),エノキサシン(1985年,フルマーク®)などが開発されてから,呼吸器系,消化管感染あるいは化膿症などに広く使用されるようになった.
尿路感染症は,経過によって急性と慢性に分けられ,また治療面からみて,基礎疾患の有無により単純性と複雑性に大別される.複雑性に関しては,尿路通過障害,腫瘍,結石,異物,膀胱尿管逆流現象や全身性代謝性疾患などを合併している場合を指す.確実な診断としては,細菌の尿への混入を避けるため,正しい中間尿の取りかたを指導するか,カテーテルにて導尿することが肝要である.
一般に皮膚・軟部組織感染症とは,細菌,真菌,ウイルスの感染によって生ずる皮膚病変をさし,疥癬虫やしらみなどの寄生性小動物,寄生虫,スピロヘータなどによる皮膚疾患は,皮膚感染症とは呼ばない.この中でウイルス感染症は治療法に特効的なものがなく,対症的に行われているのが現状である.また真菌感染症については,今回のテーマが,主として抗生物質を中心とした細菌感染症の治療と思われるので省略した.
皮膚感染症の治療も,その原則は他の領域の感染症の場合と同様であって,起炎菌の検索とそれに対する適切な化学療法(多くは抗生物質)の選択である.さらに皮膚という部位の性格上,局所療法つまり軟膏療法の併用が加味されよう.病巣の広範切除・切開排膿といった手術療法を行わざるを得ない場合もあるが,かかる事例は例外的といってよい.皮膚科における化学療法剤は内用・外用ともそれほど数が多いわけではないのに治癒への過程に差が生ずるのは,疾患の性状を正確に把握せぬままに治療されているからである.
化膿性骨髄炎
化膿菌による骨の感染症で,感染経路は血行性感染が最も多く,この他,周辺組織からの炎症の波及,開放性の外傷からの直接感染がある.血行性の感染は小児,なかでも男児に多く,長管骨がよく侵される.
原因菌は新生児の骨髄炎ではブドウ球菌,B群連鎖球菌(GBS)が多く,時に腸内細菌が原因となることもある.小児ではブドウ球菌によるものが多く,次いでA群連鎖球菌,肺炎球菌によるものが認められる.白血病や悪性腫瘍で抗癌剤や副腎皮質ステロイド剤が投与されている免疫機能低下の例では,グラム陰性腸内細菌によるものがみられる(抗生剤で治療している例では緑膿菌によるものも多い).
敗血症の概念
敗血症(Sepsis,Septicaemia)の概念は,時代,研究者により異なる.今日の本症に対する一般的な理解としては,①持続的あるいは間歇的な菌血症が証明され,②発熱,血圧低下,DICなどの激しい全身症状を伴い,③化膿性髄膜炎,肺炎,胆嚢炎,腎盂腎炎など臓器症状を有する疾患や,腸チフスなど特定の細菌感染症を除外した臨床的な疾患単位であり,④抗生剤などによる治療が行われない場合は,きわめて予後不良な疾患と考えられている.
敗血症は重篤な感染症であり,特別な基礎疾患を有する宿主に発症する.すなわち,本症は,i)先天性心奇形やリウマチ性,梅毒性などによる後天性心弁膜障害を有する個体に成立して,主としてグラム陽性球菌(GPC)を原因菌とする群(感染性心内膜炎)と,ii)易感染宿主(Compromised host),とくに顆粒球減少を伴う宿主に発症し,きわめて急激な経過をたどる群とに2大別される.今日の臨床医学では,抗白血病剤,抗腫瘍剤や放射線照射などが広く応用されており,その結果,顆粒球減少宿主数は確実に増加している.このほか,副腎皮質ステロイド剤をはじめとする免疫抑制剤の使用も,宿主の細菌感染に対する感受性を高める.
菌血症の定義
流血中から細菌が検出されるような状態を,今日では一括して菌血症(Bacteremia)と定義する場合が多い.
これら症例のなかには,感染性心内膜炎や顆粒球減少症例にみられるように,持続的に流血中に細菌が証明され,菌体成分あるいはその代謝産物による発熱,ショック,DICその他の重篤な中毒症状を生じ,放置すれば通常は死に至る敗血症(Sepsis,Septicaemia)と,化膿性髄膜炎,肺炎,胆嚢炎や腸チフスなど特定の感染症で血中にも菌が証明されることのある疾患と,さらに,流血中からの菌証明が一過性で,ほとんどの場合に発熱などの臨床症状を伴わず,抗生剤などの投与を行わなくとも菌は速やかに血中から消失してしまう古典的な意味での一過性菌血症(Transient bacteremia)の3つに大別される.
好中球減少時の感染対策は,新しい抗生物質の開発とともに急速に進んできている.しかし今だに罹患率,死亡率ともに高い.その原因として,抗癌剤使用中の患者が多く,好中球数の減少ばかりでなくその機能や免疫系にも異常があること,静脈や尿道カテーテルなどの使用頻度が高く感染の機会が多いこと,広範囲の抗菌スペクトルをもつ抗生物質(広スペクトル抗生剤)の使用機会が多く,抗生物質抵抗性の菌が原因となることが多いこと,などがあげられる.これらの患者では自己の抵抗力がほとんどないため,感染初期の治療をいかに行うかが生死を決定するといえる.ちなみに緑膿菌感染で適当な治療を行わなかった場合には,24時間に36%が死亡する.
近年,種々の悪性腫瘍に対し,治癒を目的として強力な抗癌剤投与や放射線照射が行われるようになった.この結果,白血病,再生不良性貧血,無顆粒球症といった血液疾患に加えて,悪性腫瘍の治療によっても長期間の好中球減少が生ずるようになった.このような,いわゆる生体防御低下状態にある患者にとって,肺炎の併発はきわめて重篤であり,その適切な治療が予後を決定する.本稿では,その発生過程,診断,治療および予防について簡単に述べたい.
近年新しく開発されたセフェム剤をみると,抗菌スペクトルの拡大,抗菌力増強の面において著しい進歩がみられると同時に,長い血中半減期を有する特色ある体内動態を示す製剤の登場がある.従来のセフェム剤では,その半減期は経口剤,注射剤ともにペニシリン剤とほぼ同程度の30分〜2時間程度であり,アミノ配糖体剤の2〜3時間,テトラサイクリン剤の5〜25時間,ピリドンカルボン酸剤の3〜6時間などに比して短いのが一般的であった.
しかし,近年,これら従来のセフェム剤より長い半減期を有する注射用セフェム剤のCefotetan,Cefpiramide,Ceftriaxoneなどが開発され,なかでもCeftriaxoneは既存のセフェム剤のなかでは最長の半減期を有しており,セフェム剤においても,1日1回の投与での感染症治療が可能となった.以下,これら半減期の長い3剤を中心に概略を述べる.
β-lactam剤に対する細菌側の耐性機構として,細菌が産生するβ-lactamaseによるβ-lactam環の開裂,グラム陰性桿菌の場合,多量のβ-lactamase剤が強く結合することにより薬剤が作用点まで到達できなくなるいわゆるトラッピング現象1),β-lactam剤の作用部位であるムレイン架橋酵素の遺伝的変異,グラム陰性桿菌外膜による薬剤の通過障害,があげられる.この中で,β-lactamaseによる薬剤の加水分解が耐性の主役となっている.したがって,β-lactam剤の改良の主力目標の1つに,β-lactamaseに対して安定な薬剤の開発がある.今日,この目的のために,β-lactamaseに安定な薬剤の開発と,β-lactamaseを特異的に阻害する薬剤との合剤の開発が行われており,本稿で述べるスルバクタム/セフォペラゾン(SBT/CPZ,スルペラゾン®)は後者に属する.
従来,β-lactam系抗生剤として,ペニシリン剤とセフェム剤が広く使用されてきた.しかし,近年新しいβ-lactam系抗生剤として,モノバクタム系のAztreonam(AZT,アザクタム®)とカルバペネム系のImipenem(IPM)が開発された.これらの抗生剤は,図に示すように基本構造が異なっていて,抗菌力などに特徴をもつので,これらの薬剤の使用方法について述べたい.
アミノ配糖体薬は,ストレプトマイシンが発見されて以来,多くの薬剤が開発され,抗菌力の増強,抗菌域の拡大,毒性の減少化などが図られるとともに,本剤に対する不活化酵素による耐性機序が明らかにされるに及んで,半合成の技術が導入され,耐性の少ない新しいアミノ配糖体薬が開発されている.一般には,緑膿菌をはじめとしたグラム陰性桿菌やブドウ球菌に強い抗菌力を有し,重症感染症や一部の耐性菌感染症に対し本系統薬剤が有用な場合も多い.
キノロン系抗菌剤は,グラム陰性桿菌を標的とするものと,広くグラム陽・陰性菌に抗菌力を有するものとに大別され,後者すなわち新キノロン剤は,そのすぐれた抗菌力と組織内移行性によって,臨床上大きな期待がもたれている.
近年の細菌感染症に対する化学療法の著しい進歩に比較して,真菌症,ことに深在性真菌症の化学療法は著しく立ち遅れているといわざるをえないのが現状であり,深在性真菌症の化学療法剤として,副作用が強いにもかかわらず,amphote-ricin Bが最も有用な抗真菌剤として用いられている.
しかし,1970年代になり,真菌症に対する医学的関心が高まるとともに,抗真菌剤の開発研究が国内外で急速に発展し,イミダゾール系抗真菌剤のmiconazoleが本邦でも発売され,近く同系統のketoconazoleが市販される予定である.また,トリアゾール系抗真菌剤のfluconazole,itraconazoleの国内での臨床検討が開始されている.
神経内科領域における薬物治療は,各疾患や病態の機序が解明されてくるにつれ,単なる経験的な治療から,理論的根拠に裏づけられた,より科学的な薬物治療へと変わってきている.そして,その基礎となるものは,近年における神経薬理学,神経生化学の目ざましい発展であることを指摘することができるであろう.とくに数々の神経伝達物質や修飾物質の生理学的意義,およびその病態が明らかにされてくるにつれ,その治療への応用がくり返し試みられてきた.その嚆矢となったのがParkinson病におけるl-DOPAであることは,もはや古典的な出来事であるが,これと同様の発想に基づく伝達物質補充療法は,近年種々の形で試みられてきている.
頭痛は,感染症,脳の器質的疾患など,さまざまな原因で生ずる症状である.いわゆる慢性反復性頭痛とよばれる一群は,くり返し起こる頭痛で,種々の検査によっても何ら原因となる器質的異常の見出せないものを総称する.代表的なものに片頭痛と筋収縮性頭痛とがある.いずれの場合もその病因の詳細について不明な点が多いが,片頭痛は血管性の頭痛で,筋収縮性頭痛は筋性の頭痛との考えが一般的であり,それぞれ病態生理に対応した治療方針の選択が必要とされている.
頭痛は,病態生理学的要因のみならず,心理学的要因にも強く影響を受けることも知られている.患者1人1人がそれぞれに異なった頭痛の性状を訴えることになるが,頭痛の治療薬選択にあたっては,まず頭痛がいかなる機序により発生したかを原則的に見分けることが重要である.
神経痛は,短時間神経走行に沿って激しい痛みが起こるもので,発作間歇期には無症状である.このような症状を呈するものの中には,原因の明らかな場合と,そうでない場合がある.病名としての神経痛は原因の明らかでないものに限るべきで,三叉神経痛と舌咽神経痛がその代表である.
従来よく用いられた「肋間神経痛」,「坐骨神経痛」などの名称は,これらが多くの場合症候性のものにすぎないことが次第に認識されるにしたがって,病名としては用いられなくなってきている.
deafferentation pain1)とは,痛みの侵害受容器の活動によるものでなく,中枢および末梢神経系における痛み関連システムの障害により発現する特異な現象である.すなわち,これまで知覚入力を常に受けていた感覚中枢の神経活動が,入力の消失により,かえって感受性が亢進し,痛みを示すものである.視床痛,幻肢痛,帯状疱疹後痛がその代表的なものである.ここでは,視床痛を中心に,その病態と薬物療法について述べる.
しびれという言葉は医学用語ではなく一般に用いられる日常用語で,患者の訴えるしびれの内容は異常知覚や知覚鈍麻とは限らないで,ときには脱力を意味していることもある.そこで診療にあたっては,そのしびれの内容をよく確かめることがまず必要である.しびれとしての訴えの中で最も多いのは異常知覚で,これは自発的あるいはなんらかの外的刺激で誘発される異常な知覚である.その性質は,びりびり,じんじん,ちくちく,ずきずき,電気の走る感,蟻走感,灼熱感,こわばり感,などさまざまである.冷感を伴ったり,痛みを伴うこともある.口の周辺,手,足など身体の一部に限局することも,四肢全体あるいは半身,ときに全身に感じられることも,放散することもある.
しびれの訴えが異常知覚である場合には,その性質,起こり方,部位,一過性か持続性か,これまでの経過,誘発要因などについて十分に問診し,知覚検査,筋力テスト,反射の検査など,ベッドサイドでの神経学的診察と必要な補助検査を行って,異常知覚の病態と基礎疾患のめやすをつけ,それに対応した治療を行うべきである.異常知覚を生じるのは神経疾患のみならず,一般内科疾患や精神疾患の部分症状として起こることもあるので,この点にも留意する.
脳卒中研究の進歩により,急性期の病態解明は一段と進み,新知見の報告が相次いでいる.それに伴って,新しい治療法の試みも行われつつある.
脳血管拡張剤,脳代謝賦活剤は,脳血管障害に対して,わが国で最も繁用されている薬剤である.しかし,虚血性脳血管障害急性期における脳血管拡張剤の適応については,病態面より種々問題が提起されており,現在の大勢はその適応に慎重である.ここでは,主として慢性期における脳血管拡張剤,脳代謝賦活剤の使い方について述べる.
抗血小板剤とは,血小板の主な機能である凝集,粘着を抑制する薬剤の総称で,作用機序には種々なものがある.抗血小板剤が注目されてきた背景には,血栓症の成立に血小板が大きな役割を果たすことが明らかになってきたこと,血小板凝集のメカニズムがきわめてよく解明されてきて,それを抑制しうる薬剤が次々と開発されてきたこと,動物実験あるいは臨床治験である程度抗血小板剤が血栓症の進展や再発予防に効果を発揮するとのデータが得られてきた,などの理由がある.
しかし,血栓の発生病理は複雑であり,血栓発症の母地を与える血管側の要因(動脈硬化など)と直接要因である凝血のプロセスがからみ合っている.抗血小板剤は主にこのうちの後者を制御する目的で使用される.したがって,血栓症の予防や治療の有効な展開には当然総合性,多面性が要求され,高脂血症,高ヘマトクリット,高血圧などの治療にも留意すべきで,その上で抗血小板剤の有効性が発揮されるということを念頭に入れておく必要がある.
最近,種々の薬物について血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring;TDM)が行われるようになったが,これに先鞭をつけたのは抗てんかん薬(antiepileptic drug;AED)であった.その理由は,AEDの治療有効濃度がμg/mlオーダーと比較的高目であり,かつ現今の生化学的方法によって濃度測定をすることが比較的容易となったためである.またほとんどのAEDが,代謝物ではなく親薬物に生物学的活性がそなわっていることも,AEDのTDMを促す理由の1つであった.
しかし他方,AEDの血中濃度の測定値がもつ意味は万能でなく,レベルを機械的に操作することによっててんかんの薬物治療を完結することができるという考え方は誤りである.治療効果の判定にあたっては,臨床的判断が測定値に先行すべきであり,TDMは臨床的判断を助ける1つの手掛かりである.それをまず念頭におくことが必要である.
てんかん重延状態(status epilepticus)は,重篤な脳の損傷を生じ,時に死に至る.発作から治療開始までの時間がその転帰を左右することより,早期治療が必要とされる.その死亡率は10〜12%であり,実験てんかんで発作の持続時間に相関して,海馬,扁桃,視床,小脳などに神経細胞の虚血性変化が増強することが証明されている.てんかん重延状態の定義は,1つの発作が長時間持続するか,発作と発作の間に回復がほとんどみられず,発作が頻回に反復するものとされ,少なくとも30分以上持続するとされている,てんかん重延状態には,全般発作重延(強直,間代発作,ミオクロニー発作,欠神発作)と,部分発作重延(単純部分発作,複雑部分発作)がみられるが,日常診療で度々経験し,緊急を要するのは強直-間代発作重延である.
ミオクローヌスは,臨床的に,1筋または数筋が急激かつ短時間,不規則に収縮する不随意運動をいう.筋電図上は多くの場合100msec以下の持続時間の短い群化放電(grouped discharge)からなっており,ミオクローヌスに続いて長い不応期(silent period)が観察される.これは安静時にも自発性に生じる4).
これに対して,企図・動作性ミオクローヌスという一群の疾患がある.これは安静時にはミオクローヌスがみられず,運動を企図し,あるいは実際に関節を動かすと同時に激しいミオクローヌスが出現するものである.この他に,ミオクローヌスという名前で呼ばれてはいるものの,まったく病態が異なる疾患がある.その1つは口蓋ミオクローヌスに代表される一群の疾患であり,もう1つは脊髄性ミオクローヌス(spinal myoclonus)である.これらは歴史的には律動性ミオクローヌスと呼ばれていたものが,時代とともに「律動性」の名称が省略されたために,かえって混乱をみたものである.
パーキンソン病は,中脳黒質緻密層のメラニン含有神経細胞の変性のため,線条体へ至る黒質線条体ニューロンが脱落する疾患である.黒質線条体ニューロンの神経伝達物質はdopamineであり,この欠乏のため線条体での他の神経伝達物質との間で平衡関係が失われる結果,パーキンソン病の種々の症状が発現する.最近では他のmonoamineもパーキンソン病の症状発現に関与することが少しずつ判明してきたが,依然として黒質線条体ニューロンの変性により生じるdopamine欠乏こそが,パーキンソン病の主要な神経生化学的異常であることには変わりがない.
ところで本症の治療のためには,線条体dopamineの欠乏を補うことが最も望ましいのであるが,dopamineは単独では血液脳関門を通過しないので,通過することのできる前駆物質L-dopaが用いられている.脳内へ入ったL-dopaは,線条体に存在するdopadecarboxylase(黒質線条体ニューロン末端,線条体内のinterneuronなどに存在)の作用でdopamineへ変換されて線条体のdopamine receptorへ作動し,パーキンソン病の症状を軽減させる.これがパーキンソン病でL-dopaが用いられる理由である.
パーキンソン病の病態生理,発症のメカニズムに関する研究がここ10数年来著しい進歩をとげ,L-DOPAの登場とともにその治療法も飛躍的に発達した.一時はL-DOPAにより本症の治療法は解決されたかにみえたが,本剤による長期治療の経験が進むにつれ,いろいろな問題が出現してきている.たしかに純粋の振戦麻痺で合併症のない症例では,L-DOPAの治療により,日常生活動作(ADL)も改善され予後もかなりよいと考えられるが,その経過の慢性化とともに初期副作用としてみられる消化器症状のほかに,不随意運動,on and off現象,up and down現象(症状の著しい日内変動)が出現し,L-DOPA治療の大きな問題点となってきている.
治療薬の分類と種類
パーキンソン病の治療は,患者の症状に応じてきめ細かな種類や量の調節が必要で,作用機序から分類すると,表のように8種類に分けられる.治療方針の立案は長期展望に立つべきで,種々の治療薬を少量ずつ組み合わせる多剤併用が基本となる.そのための新しい治療薬は次々に開発されているが,それらは表の④以下である.以下,代表的なものについて解説する.
新しい治療薬としては,ドパミン(DA)作動薬とノルエピネフリン(NE)補充薬とがある.
筋トーヌスとは生体における筋の一定の緊張状態を示すと考えられ,その主な要因として関与しているのが伸張反射である.この伸張反射のうち,相動性反応相(相動性伸張反射)が亢進した状態が痙縮として表現されている.
一般に伸張反射は他の制御系からの調節をもうけているが,脊髄レベルでは介在ニューロンを介して,主動筋の腱器官および拮抗筋の筋紡錘よりの入力信号が,単シナプス性伸張反射に対して抑制性の制御をしている.その他,皮膚などの感覚受容器からの屈筋運動ニューロンへの多シナプス性の興奮性制御,およびレンショー細胞を介するα運動ニューロンへの反回性抑制などの制御もなされている.一方,脳からは錐体路の他,錐体外路系による多シナプス性の興奮性・抑制性の制御がα運動ニューロン自体に,あるいはα-γリンケージを介してなされている(図).
振戦は身体の一部あるいは全身のふるえであるが,その原因は多彩である.振戦の薬物治療は,原因疾患の治療と対症的な振戦の治療に分かれる.ここでは,長期間振戦が主症状としてみられる疾患に対する薬物治療を述べる.
錐体外路系の主要な神経回路は黒質-線条体路であり,黒質から線条体にのびるドパミンニューロンは線条体のアセチルコリンニューロンを抑制性に調節している.このアセチルコリンニューロンは,GABAニューロンを促進的に調節することによって,黒質のドパミンニューロンに強力な抑制をかけている(図).黒質や線条体の神経細胞の変性脱落によりドパミン,アセチルコリンおよびGABAのバランスがくずれると,いろいろな不随意運動が出現する.
ドパミンニューロンの変性,脱落により相対的にアセチルコリン系が優位になるとパーキンソン病となるが,コレア,チック,ジストニーはパーキンソン病とは反対に,黒質のドパミンニューロンを抑制しているGABAニューロンの機能が減弱し,ドパミンニューロンの機能が亢進することによって出現すると考えられており,その発現機序や障害部位,薬物反応に類似した点が多い(表1).
こむら返りとは,一般にふくらはぎ(こむら)に起こる有痛性痙攣をさすが,他の筋肉にも起こる.一方,テタニーは,カルシウム,マグネシウムの異常,アルカローシスなどにより,主に四肢末梢に起こる筋痙攣の1つの型であるが,異常知覚を伴うことはあっても強い痛みを感ずることはない.筋電図上,テタニーは特徴的な自発性反復発射(doublet, multiplet)を示す.両者とも筋痙攣であり,原因として共通した部分がある.
一般に神経筋の興奮性(E)は,Ca++,Mg++イオンの低下と,水素イオン濃度の減少すなわちアルカローシスにより増強し,Na+,K+イオンの低下とアシドーシスにより減弱する.
顔面痙攣
顔面の不随意運動は多彩であり,多くの疾患がみられる.半側顔面痙攣 hemifacial spasm,眼瞼痙攣 blepharospasm,チックtic,顔面ジスキネジー orofacial dyskinesia,メイジュ症候群 Meige's syndrome(blepharospasm-oromandibular dystonia)はその代表的疾患である.このうちでorofacial dyskinesiaは顔面痙攣の概念とはやや異なり,痙攣ではなく複雑な運動が口唇,舌,頬を主としてみられる.しかし,メイジュ症候群ではblepharospasmとともにoromandibular dystoniaをも伴うことがあり,顔面痙攣の関連性からこれらをまとめて述べることにする.
重症筋無力症は,骨格筋の神経筋接合部後シナプス膜に局在するアセチルコリン受容体に対する自己抗体を主座にすえた免疫機構によって,その病因,病態の詳細な解明がすすめられている疾患である.
治療方針もこれと相俟って近年大きな変遷があり,従来の抗コリンエステラーゼ剤中心の姑息的な薬物療法から脱却して,比較的早期から胸腺摘出手術や副腎皮質ステロイド剤などの免疫学的治療にはいる方針がすすめられ,よい結果を得ているのが現況である.
多発筋炎・皮膚筋炎は,骨格筋をびまん性に侵す非化膿性炎症性疾患であり,後者は皮膚病変(眼瞼部のヘリオトロープ疹,胸背部・肩・四肢伸側などの紅斑)を伴う.本症には,種々の細胞性および液性免疫異常が存在することが知られている1).したがって,他の自己免疫疾患と同様に副腎皮質ステロイド剤,免疫抑制剤が治療の中心となり,最近では血漿交換療法も試みられている.
一方,本症と悪性腫瘍の合併はその頻度が高く,とくに中年以後に発症した多発筋炎・皮膚筋炎の場合は,合併率の高い胃,肺,乳腺をはじめとする悪性腫瘍の検索を行うことが必須である.悪性腫瘍が発見された場合は,外科的治療を優先する.
多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)は,中枢神経の髄鞘に対する自己免疫疾患と考えられており,たくさんの治療法1,2)が試みられてきた.しかし本症の全経過を変え得る有効な治療法はまだないので,有効性の高い治療法のみを記載する.
ニューロパチーは,代謝障害,中毒などさまざまな原因によって起こり,治療もその原因を明らかにして,それに対処することが重要である.したがって,ステロイドが第1選択剤となるニューロパチーはきわめて少なく,その数も限られており,基本的には炎症に基づくニューロパチーであろう.この炎症に基づくニューロパチーの場合,末梢神経のみに障害がある場合と,全身疾患に伴う末梢神経障害の2つに大別して考えるべきである.
本稿ではこの点を考慮しながら,ステロイドの絶対的適応となるニューロパチーと相対的適応となるニューロパチー(表1)を中心に,その使用法を述べる.
神経ビタミンとは,ビタミンB1,ビタミンB6,ビタミンB12を一般には指している.これらはいずれも欠乏により末梢神経障害をきたしうるので神経ビタミンと名付けられた.もちろんこれらのビタミンの作用が神経系に限局しているわけでも,他のビタミンが神経系に作用しないわけでもない.ここでは,これらの3つのビタミン薬の使い方を中心に概説する.
本項では,個々のニューロパチーに対する特異的な治療法を中心に述べるが,炎症性ニューロパチー,アレルギー・免疫機序によるニューロパチー,膠原病に伴うニューロパチーに対する副腎皮質ホルモン治療については第57項(p1882)に,ビタミン欠乏性ニューロパチー,アルコール性ニューロパチーに対するビタミン治療については第58項(p1886)に,糖尿病性ニューロパチーについては第198項(p2243)に譲り,その他のニューロパチーについて,若干ずつ触れる.
排尿機能には,膀胱に尿を蓄える蓄尿機能と,膀胱に蓄えた尿を体外に排泄する排出機能とがある.前者は時間をかけて無意識的に行われ,後者は短時間に意識的に行われる.ともに複雑な神経支配を受けており1),その結果,蓄尿時には排尿筋が弛緩して尿道括約筋が収縮し,排出時には排尿筋は収縮して尿道括約筋が弛緩する.
神経支配が障害されて起こる排尿障害は神経因性膀胱とよばれ,それには蓄尿障害と排出障害とがある.蓄尿障害は排尿筋の弛緩不全か尿道括約筋の収縮不全により,排出障害は排尿筋の収縮不全か尿道括約筋の弛緩不全によるものである.したがって,治療を開始する前に,蓄尿障害と排出障害のどちらを治療するのか,使用する薬物は排尿筋に対するものか,外尿道括約筋に対するものか,内尿道括約筋に対するものかを決定する必要がある2).
起立性低血圧症とは,臥位から起立することによって血圧が下降し,めまい,立ちくらみや失神発作などを生ずるものをいう.この体位変換によって,循環血液が下肢静脈系に貯留し,心臓への静脈還流および心拍出量が減少するためである.その機序としては,静脈貯留の増大,血管運動反射の減弱,カテコールアミンの分泌不全およびレニン・アンギオテンシン系の機能低下などが考えられている.
起立性低血圧症の診断には,Schellong試験が有用である.ベッド上安静臥床時および起立10分後まで,それぞれ2分毎,血圧と脈拍の測定を数回ずつ行う.起立時の収縮期血圧が20mmHg以上下降するものを陽性とする.
流涎
流涎は「りゅうぜん」と読み,よだれが多くてこぼれてしまうことである.これには唾液の分泌亢進と嚥下障害の2つの要因が考えられる.前者は,病的には嘔気のある場合にみられる.後者の原因による流挺は,神経疾患においてしばしば認められる.たとえば筋萎縮性側索硬化症(ALS),重症筋無力症(MG),パーキンソン病(PD),多発性脳梗塞などにおける嚥下障害である.これらはそれぞれ嚥下に関わる筋肉,神経筋接合部,神経機構が障害されることが原因で,これらを治療することが一義的ではある.しかしALSのように回復が望めない疾患,あるいはMGやPDのようにコントロールされるまでに時間がかかり,その間流涎の症状が持続する疾患に関しては,対症的に愁訴をとることが望まれる.
薬物治療としては,硫酸アトロピン(1.5mg,分3)を服用する.これは副交感神経節後線維末端をブロックして,唾液の分泌そのものを抑制するものである.副作用としては頻脈,口渇,排尿障害,瞳孔散大,粘膜乾燥などがあり,前立腺肥大,緑内障では禁忌である.薬物が使用できない場合は,唾液を頻回に吸引する必要がある.
意識障害治療薬には,広義には脳代謝賦活剤あるいは脳庇護剤を含め脳障害に用いられる薬物すべてが含まれる1,2).重症脳障害の治療に用いられる薬物・処置は,図にまとめて示しておく.本邦で意識障害に対して厚生省から効能を認可されているのは,シチコリン(ニコリン®など),メクロフェノキサート(ルシドリール®など),酒石酸プロチレリン(ヒルトニン®)の3者であるので,これらを中心に解説を加え,その他,慣習的に意識障害に用いられる薬剤についても簡単な説明を加える.
睡眠薬は,現在広く使われているベンゾジアゼピン系製剤と非ベンゾジアゼピン系製剤とに2大別され,後者はさらに,古くからあるバルビツール酸系睡眠薬ならびに,いわゆる非バルビツール酸系睡眠薬(メタカロン,グルテチミドなど)とに大別することができる.後者の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は強力に眠気を生じさせ,睡眠に引き込む睡眠増強作用を有し,sleep-enforcing drugs(睡眠増強剤)と呼ばれるのに対し,ベンゾジアゼピン系睡眠薬は自然の睡眠機序を促進すると考えられ,sleep-inducing drugs(睡眠導入剤)とも呼ばれる.
バルビツール酸系などの睡眠増強物質はREM睡眠抑制が強く,その持続を減少させ,睡眠障害の原因となる.また身体的・情動的依存性を有し,中止時に痙攣発作をみることがある.さらに,大量服用による中毒死の危険があるため,バルビツール酸剤は現在では,てんかんの治療,麻酔の導入などに適用が限られるようになってきた.
身体疾患で治療中の患者に精神症状がみられることは稀ではない.ここでは,一般診療科で遭遇することが多い症状精神病を中心とした幻覚,妄想,せん妄の治療について解説する.病識を欠いて精神症状,身体症状の治療に拒否的な患者,興奮がとくに強い患者については本論の対象ではない.
軽度の意識障害を基盤に幻覚,妄想を呈している場合があり,この場合意識障害の存在が無視されていることが多い.診察にあたって見当識障害の有無を検討しておくことは重要である.とくに夜間に症状が悪化する場合は,意識障害の存在が疑わしい.
向知性薬の定義は明確ではなく,またpopularな言葉でもなく,最近作られたものである.
老年期痴呆の増加とともに,これに対する薬物が注目されてきたためと思われる.
精神科に限らず,臨床各科でも,マイナー・トランキライザーを用いる頻度は高くなってきているが,必ずしも適切に用いられてはいないように感じる.一般診療科を経由して当科を受診した患者のマイナー・トランキライザーの使用され方を分析すると,以下に示すような問題点を指摘することができる.
①使用目的がはっきりしない
②同じような薬が複数に処方されている
③漫然と使われている
④副作用に気づかれていない:ときどき,副作用が最大の病悩の症状となっていて,服薬を中止するだけで治るというケースに遭遇する.
⑤用量・用法が不適切:このために目的とする効果が得られなかったり,ノンコンプライアンスの原因にもなる.
⑥使用対象が不的確
⑦説明不明
1956年にImipraminが登場して以来,三環系抗うつ薬を中心に開発が進み,うつ病の薬物療法は大幅な進歩をとげてきた.ここ数年来,四環系抗うつ薬をはじめ,第2世代と称される抗うつ薬が登場し,治療薬の選択の幅が拡がり,うつ病の治療がしやすくなってきた.新薬は,在来薬に比べて,より副作用が少ないとか,即効性があるとか,効果持続時間が長いとか,効果が特徴的である,など有用性が高いものになっている.
表は,現在,市販され保険薬として収載されている抗うつ薬の一覧である.代表的な商品名と常用量を,利便のために示している.これら多数の抗うつ薬の中から,どの薬を選び,どのくらいの量を,どのように使用していったらよいか,また使用に際してどのような配慮が必要か,などが,抗うつ薬を使う場合のポイントになる.
呼吸器疾患はその範囲がきわめて広く,脳・脊髄中枢神経系,末梢神経・筋肉系,胸郭,胸膜,縦隔などの諸種疾患群に加え,上気道感染をはじめとする喘息やびまん性汎細気管支炎,慢性閉塞性肺疾患などの気道の機能的,器質的疾患群,肺胞および間質レベルの細菌学的,免疫学的その他諸々の要因に基づく病変,結核その他の特殊な感染症や悪性疾患,さらには肺塞栓症や脂肪塞栓症に代表される肺循環障害など枚挙に遑がなく,またこれらの疾患群によってひき起こされる呼吸不全など,複雑多岐である.
したがって,呼吸器系の疾患群や症候群の治療に導入される薬剤もまたきわめて多彩であり,そのすべてをreviewすることは不可能であり,ここでは薬剤一般に関する最近の考え方を紹介するとともに,呼吸器疾患治療薬のいくつかのトピックスを拾い上げてみたい.
感冒(かぜ症候群)は,おもに上気道(時には下気道にまで及ぶ)の急性カタル性炎症の総称であり,日常の診療においては最もありふれた疾患の1つである.その病原の80〜90%は呼吸器ウイルスである.したがって,感染症治療の立場からみれば,感冒薬=抗ウイルス薬であるのが理想的であるが,実際の臨床で十分な効果を期待しうる抗ウイルス剤はまだないといってよい現状である.
そこで,かぜ症候群の治療は,かぜによる諸症状や訴えに対して患者の苦痛を和らげる目的での対症療法と,二次的に合併してくる細菌感染症に対しての化学療法が主体である.
咳嗽反射
咳嗽は,気道に対する機械的刺激,化学的刺激,炎症性刺激,寒冷刺激などにより誘発される.咳嗽反射の受容体としては,喉頭,気管,気管分岐部には機械刺激受容体(mechanoreceptor)が多く,気管支,細気管支には化学受容体(chemoreceptor)が多く分布する.
咳のreceptorの興奮は,迷走神経を介して延髄の咳中枢に伝達され,咳中枢から遠心路としての脊髄側索および迷走神経を介して呼吸筋,声帯筋ならびに気管支平滑筋の統合された反射運動として咳を生じる.
痰の物理・化学的性状についての研究が進展している欧米では,去痰薬の作用機序に対して,わが国とはかなり相違する考え方がもたれている.わが国では,去痰薬は,気道の分泌増加を介しての希釈,または,薬物の化学作用に基づく溶解により,痰の粘稠度を低下させる作用を示す薬剤であるという考え方がいまだに普遍的であり,1982年に日本工業技術連盟より出版された薬学大事典においても,去痰薬は,「気道粘膜からの分泌を促進し,あるいは喀痰を溶解することにより,喀出を容易にする薬物である」と定義づけされている.そして,各種去痰薬が,それぞれの作用機序の特異性が十分に考慮されないまま画一的に使用されている.
一方,欧米においては,痰のような物質は水分を添加しても分散も希釈もされないこと,および,粘稠度があるレベル以下に低下すると線毛により輸送されにくくなることが報告されており,各種去痰薬の適切な使い分けの必要性が強調されているのである.
一般に,吸入療法は気道系疾患,とくに慢性閉塞性呼吸器疾患において,主に気管支拡張,気道クリーニング,抗炎症作用を目的として用いられている薬剤投与法である.エアゾルによる吸入療法は局所療法であるため,全身投与に比べ薬剤投与量が少なく副作用を軽減できる利点があるが,吸入装置や吸入手技の習得が難しいなどの要因により,薬剤の気道内沈着量が一定しないという欠点がある.そのため,より確実な治療効果を上げるには,患者を正しく選択し,適切な吸入方法を十分教育する必要がある.
過去30年,抗喘息薬は急速に目覚ましい進歩を遂げてきた.新しく導入された薬剤はいうに及ばず,旧来の薬剤も,その薬理,薬物血中動態の解明,投与経路や投薬のタイミング,薬剤コンプライアンス,薬剤の安全域と患者毎の個別化治療の概念の確立など,その進歩は枚挙に遑がない.さらにはTurner-Warwick1)による"Another Look at Asthma"に登場した喘息の新しい治療学的分類の試みもまた,喘息治療の概念をある意味で一新したといっても過言ではない.
個々の詳細については他項に譲り,本稿では日常診療に繁用される抗喘息薬に関する最近のトピックスを紹介し,それぞれがいかなるタイプの喘息のいかなる状態に選択されるかについて述べてみたい.
カテコラミン(CA)製剤は最も強力な気管支拡張剤で,肝内でCOMTの代謝を受けにくい長時間作用性のβ2選択性に富む製剤の開発合成が盛んである.薬剤の投与経路により薬効が異なり,気管支拡張作用はエロゾル吸入が最も有効である.すなわち,CA製剤エロゾル吸入の利点は,少量の投与量にて即効性を有し,効力は強く,効果時間は長い1).
1960年代に繁用された非選択的β刺激剤イソプロテレノールエロゾルは,使用の増加に伴って気管支喘息患者の死亡率が増加し,本邦においても10〜14歳の学童患者の死亡率が急増したため,その後の使用量は激減した.しかしながら,1970年代より用いられたβ2選択性刺激剤エロゾル(サルタノール®,ベロテック®)の使用量は近年再び増加を示し,患者の死亡率は低下傾向にあり,その安全性が認識されつつある.最近の検討で,喘息死をもたらす因子は鎮静剤の過剰投与,ステロイド剤の過少投与,喘息発作に対する不十分な認識,不適切な加療である2).したがって,気管支喘息患者へのCA製剤の投与は,吸入可能な場合エロゾル吸入が第1選択である.
すでに19世紀中頃,キサンチン誘導体は喘息治療に有用である可能性が指摘されていた.その代表的化合物の1つであるテオフィリンは,現在,気管支喘息の薬物療法上重要な役割を果たしている.この20年足らずの間に,テオフィリンの臨床薬理学的研究が精力的に行われ,投与法については徐放性製剤の開発とともに,薬物速度論的手法の導入により安全で効果的な投与設計が可能となった.一方,テオフィリンの薬理作用,作用機序についても新しい考え方が提唱され,また,構造活性相関の研究成果は,肺選択性の高いキサンチン誘導体の開発を可能とした.
本稿では,これらの概要について述べる.
気管支喘息のcorticosteroid(CS)療法は,すでに広く認められている.しかし,強力な抗炎症作用ゆえに乱用されやすく,慢性期の副作用が問題となる.加えて,今日なお適応や投与の基準が確立されておらず,使用にあたって,①各製剤・剤型の特性,②作用の発現機序,③副作用防止対策について知り,適応を慎重に選ぶ必要がある.ここでは,病態に応じたCS剤の選択と投与法を紹介し,投与時の注意点などについて概説する.
抗アレルギー剤とは
アレルギー反応は,液性抗体の関与,その種類,反応の経過,補体の関与などにより,通常,I〜IV型(Gell and Coombs)に分類される.それぞれ,外来性・内因性抗原に対し感作が成立する誘導相(induction phase)の後に,抗原抗体反応に端を発する一連の組織障害性反応がみられる効果相(effector phase)が出現する.
抗アレルギー剤とは,このうちのI型アレルギー反応において,その効果相に働いて,ことに肥満細胞からのchemical mediator(化学伝達物質)の遊離を抑制する作用を有する薬剤をさす.
妊娠と喘息
妊婦における喘息の頻度は,Turnerらによると0.4〜1.3%で,けっして稀ではない.妊娠によって喘息の症状がどう変わるかについての法則性は確立されておらず,Turnerらによる9つの報告における計1,059例の妊娠中の喘息の調査では,49%は症状に変化はなく,29%は改善,そして22%は悪化したと報告されているが,悪化した原因,機序についてはほとんど解明されていない.Jensen,Williams,Gluckらのように,個々の例における妊娠の喘息に対する影響は一定性があり,初回妊娠時に喘息の改善がみられた例は2回目以降も同様の傾向を示したとする報告もあれば,同じ例でも各々の妊娠毎に改善したり悪化したりしたという報告もある.
妊娠と喘息との関係において,プロゲステロン,エストラジオール,エストリオール,ACTH,コルチゾール,各種のプロスタグランジン,ロイコトリエンなど,呼吸器系に影響を及ぼすと思われる内分泌学的,そして代謝上の変化についての興味深い多くの研究があるが,それらの結果の臨床的な意義は必ずしも明確にはされていない.
慢性閉塞性肺疾患(以下COPD),すなわち慢性肺気腫,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎に共通する気道の閉塞性変化は,気管支喘息ほどではないにせよ,種々の因子によって変動するものであり,また対症療法によっても改善する余地がある.このことから,その治療に気管支拡張剤が通常用いられることも共通している.
気管支拡張剤のうち,β刺激剤は攣縮した気管支筋を弛緩させて2次的に去痰を可能にし,キサンチン誘導体は気管支筋の弛緩と粘膜浮腫の除去作用とを有する.これらはいずれも,組織のcyclic AMP濃度を高めることによって,気道平滑筋の弛緩を取り戻すか,あるいは攣縮に対する拮抗状態を維持することによって治療効果が得られるものである.これに対し,もう1つの気管支拡張剤である抗コリン製剤は,コリン受容体遮断作用によって組織のcyclic GMP濃度の上昇を抑制することで,気管支攣縮の寛解またはそれを防止するものである.
COPDは,本邦において慢性閉塞性肺疾患と呼称され,気管支喘息,慢性気管支炎,慢性肺気腫の3疾患を含め,呼吸機能検査で閉塞性換気障害を共通にもつ疾患群として取り扱われている.しかし,1980年代に入ってCOPDの中に気管支喘息を含めて論じるものはなく,慢性気管支炎と肺気腫を対象としている.したがって本稿では,2疾患が同一患者に存在し,喘息様発作時の鑑別が困難な背景をもつCOPDのステロイド治療を述べる.
一方,ここ数年来,細気管支領域に病変がみられる閉塞性細気管支炎の報告が多い.
COPD急性増悪(以下,急性増悪または本症)における感染症の果たす役割およびその対処法については,現在でも,専門家の間で異論の多いところとなっており,臨床家にとって,この分野のコンセンサスを十分に把握することが困難な状況にある.しかし,実際に本症患者を目の前にした場合,比較的迅速な対応が迫られてくるのは必然となる.したがって,臨床家の立場としては,異論の多い現状をあるがままに認識するように努めながら,大方の平均的臨床施設の細菌検査室がそれほど充実していない環境の下で,自分なりの対処法を身につけておくことが必要になってくる.
急性呼吸不全時(あるいは慢性呼吸不全の急性増悪時)には,十分な酸素化をはかり,感染や心不全などの増悪の原因に対する治療を精力的に行う必要がある.この際,呼吸調節の異常があるために,酸素投与後著明な高炭酸ガス血症をきたす例がある.このような症例に対して,直接ないし間接に呼吸を刺激して換気を増加させ,ガス交換の改善をはかるために呼吸刺激剤が用いられる.
急性呼吸不全は緊急事態であるので,呼吸刺激剤使用時には,患者の状況をよくみながら,必要があれば速やかに人工換気に切り替えることが大切である.
呼吸筋は心筋に匹敵するvital pumpである.近年,呼吸筋の疲労による喚起generatorとしての機能不全が呼吸不全の病態形成に重要な役割を果たすことが知られ,呼吸筋不全という新しい臨床命題のものに種々の臨床アプローチがなされてきた1).本稿においては,呼吸筋不全の薬物療法として注目されている薬剤についての現況を述べる.
肺性心は,肺および胸膜・胸郭の疾患あるいは神経筋疾患,さらには呼吸中枢の異常などの病態で発生する.このように基礎疾患は多彩で,これらの疾患のために肺血管抵抗が増大し,肺高血圧状態となる.その結果として右室肥大を招来したものが肺性心である.
この肺性心の治療においては,原因となっている基礎疾患に対する治療がまず必要となる.しかし,肺血栓塞栓症における血栓塞栓の除去のように,抗凝固・線溶療法あるいは外科療法が有効なこともあるが,基礎疾患の多くは不可逆性変化をきたしているのがほとんどである.したがって,治療の主体は,肺血管抵抗を減少させ,右心負荷を軽減させることが主体となるのが現状である.
間質性肺疾患(interstitial lung disease)は,胞隔に病変の主座があり,びまん性間質性陰影を呈する疾患の総称で,特発性間質性肺炎,膠原病肺,サルコイドーシス,職業性肺疾患,過敏性肺炎,薬剤誘起性肺炎などが含まれる1).これらの疾患では,胞隔の浮腫,炎症細胞浸潤による肥厚が起こり,さらに同部の線維化が進行し,ガス交換障害による呼吸困難を呈するようになる.このため,早期に原因を除去,あるいは早急な治療を行う必要がある.
本稿では,間質性肺疾患のうちで最も問題となる特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia:IIP)について概説し,その治療法について述べる.
肺の機能血管である肺動脈が塞栓子により閉塞する疾患が肺塞栓症である.塞栓子には血栓性,腫瘍性,脂肪性,空気性などがあり,このうち抗凝固療法の対象となるのは血栓性肺塞栓症に限られる.
肺血栓塞栓症は体静脈系にできた血栓の肺への流入によって起こり,静脈系血栓症の一環として捉え,治療・対策を立てる必要がある1).肺塞栓症では,肺高血圧の発症による右室負荷と肺ガス交換の障害による動脈血低O2血症が特徴的所見である.急性期肺塞栓症は,ほとんどの症例で抗凝固療法に加えて血栓溶解療法を併用することにより,塞栓の溶解・縮小を認め,内科的に治療管理することが可能である2).本稿では,肺血栓塞栓症の抗凝固・血栓溶解療法を中心に述べる.
1970年前後からBMRC(British Medical Research Council)によって,主として開発途上国で開始された肺結核の短期化学療法の試みは,①治療の中断防止,②経費の削減,③薬剤の副作用防止,を目的とするものであった1).1980年代になって,シンガポール,東・中央アフリカ,アルジェリアでの治療・追跡データーが示されるに及んで,肺結核に対しては,rifampicin(RFP),isoniazid(INH)とpyrazinamide(PZA),またはstreptomycin(SM)/ethambutol(EB)を初めの2カ月間投与し,その後RF,INHの投与を4カ月,計6カ月の化学療法が,菌陰性化,再燃率を指標とする限り最も効率的であるとの見解はほぼ確立したといえる2).ここでは,この見解を支点に肺結核の治療について述べる.
しかし,ここで対象とする肺結核は,健常成人が初めて肺結核の治療を受ける場合であって,再治療例,compromised hostの肺結核は含めていない.理由とするところは,このような場合,短期化学療法が適用し得るか否かの成績はなく,従来の保守的な考え方に従わざるを得ないかも知れないからである.
肺小細胞癌
肺小細胞癌治療成績の向上は近年著しいが,これは多剤併用療法の導入による奏効率と延命効果の向上によるものである.小細胞癌では,病変の広がりを(同一照射野内にとどまっている)Limited Disease(LD)と,それを越えているExtensive Disease(ED)とに病期分類するのが一般的であり,LD症例においてとくに良好な成績が得られる.
現在の小細胞癌の標準的治療成績は,Aisnerらにより示されたState of the Artがよく用いられる.すなわち,Complete Response(CR)率35%(LD50%,ED25%),50%生存期間12カ月(LD14カ月,ED7カ月),3年生存率5〜10%(LD15〜20%,ED 0)であり,この成績よりも劣る治療法は適切ではないということである.
循環器疾患治療薬開発の方向
循環器疾患治療薬の最近の進歩は目ざましい.本誌でもvol21, no7,1984に循環器薬の使い方の特集が組まれて,循環器薬最新の情報が記載されている.その後,3年経ってとくに画期的な発展があったというわけではないが,この間,数々の臨床治験が行われ,多くの薬剤が市販されるに至っている.個々の薬剤については各々の項を参照して頂きたいが,最近の薬剤開発にはいくつかの方向がある.
1つはlong acting(L)製剤の開発である.臨床薬理学の進歩は各種のpharmacokineticsの測定を可能とし,副作用なく最大の効果を挙げるための肌理細やかな投与法が日常臨床に取り入れられるようになった.それとともに,それを評価するための臨床効果の判定法が確立してきた.たとえば,抗狭心症薬効果判定において,ホルター心電図と運動負荷試験のルーチン化が果たした役割は大きい.このような背景の下に薬剤の必要かつ十分な効果を狙うためには,どうしても十分に長時間,高い血中濃度を維持し,臨床効果を持続させる薬剤開発の方向に向かうのは当然のことであろう.また,このことは,患者の薬剤服用のコンプライアンスの面から考えても有用なことである.
心不全を治療する場合,患者の状態で薬剤を選択することは論をまたない.しかし患者のどの点に注意し薬剤選択や使用量の目安にするかは,症例ごとに差があり,必ずしも容易でない.とくに初診時治療の場合と,難治性心不全の場合とは,慎重な選択を要する.前者は全身状態が悪く,急を要し,治療を先行せざるをえないからで,後者は心機能低下が著しく,しばしば薬効より先に副作用が出てしまう点にある.一般的には以下の諸点に注意し,それぞれの患者について総合的に判定し,薬剤の選択,使用量を決める.
ジギタリスが,心不全の治療薬として用いられるようになって200年以上たつが,陽性変力作用と陰性変時作用を合わせもつ心不全治療薬として,現在なお臨床で使用されている.本稿では,心不全時のジギタリスの使い方について簡単に述べる.
心不全は心臓が生体に必要とされる十分な血液量を拍出できない状態であり,代償機転として循環血漿量の増大がもたらされ,各臓器のうっ血,浮腫が認められる.すなわち,主として内分泌系の反応を介してのNa+,水の貯留による前負荷の増大が心不全の病態の主要な部分をしめている.一般に心不全の治療は,①心臓の収縮力そのものを増大させるための強心薬,②後負荷,前負荷を軽減させる血管拡張薬,③循環血液量を減少させる利尿薬,に大別される.そのなかで,うっ血性心不全の治療には利尿薬は不可欠な薬剤で,とくにフロセマイドのような強力なループ利尿薬の出現により心不全のコントロールは容易になったといっても過言ではない.
適応と禁忌
血管拡張療法(VDT)は難治性心不全に適応で,とくに逆流性弁膜症や高血圧を伴っている場合は著効する.なぜジギタリス,利尿剤の後にはじめて適応かというと,導入時にinvasive monitoringが必要であったり,耐性の発現が多いためである.禁忌としては,狭窄症,IHSSのほか,ペースメーカー植え込み例である.
VDTの原理は省略するが,使用する薬剤の拡張部位が静脈か動脈かはよく知っておく必要がある(表1).
狭心症の臨床病型分類とその判定
狭心症治療の選択はその発現機序や臨床病型によって決定されるため,これらを見きわめることは治療の選択上最も重要である.
発現機序としては,冠動脈硬化に基づく器質的狭窄と,その関与についての新知見が次々に報告されている機能的狭窄,すなわち冠攣縮(coro-nary spasm)の2つが基本病態である.
亜硝酸の抗狭心症薬としての歴史
amyl nitrateの抗狭心症作用は,1867年イギリスのBruntonにより初めて報告された.一方,nitroglycerin(NTG)は,amyl nitrateの抗狭心症作用が報告される以前から,アメリカのHeringにより製法および投与方法が研究され,抗狭心症剤としての薬理作用が判明する以前に薬剤として確立されたというエピソードをもつ.NTGの抗狭心症作用について初めて報告したのは,やはりイギリスの学者Murreellで,1879年のこととされる.さらに,NTG以外の硝酸エステルの抗狭心症作用も1800年代の終わりまでには確立され,これらの硝酸エステルはNTGに比較すると作用は弱いが,作用持続時間が長いことが判明した.
そのような研究の結果,1940年,アメリカのKrantzらにより硝酸イソソルビド(isosorbidedinitrate;ISDN)が開発され,その抗狭心症作用も確立された.また近年では,硝酸剤の作用持続時間を延長させるための経皮的外用剤(軟膏およびテープ)や,速効性と安定した血中濃度の維持のための静注剤が開発され,臨床に使用されている.
"Ca拮抗薬"の概念は,1967年,西独のFleckensteinによって提唱されたもの1)であり,現在種々の病態,とくに狭心症の治療においては欠くことのできない薬剤となっている.
狭心症におけるβブロッカー作用の基礎
βブロッカーの狭心症に対する作用は,①狭心症発生原因である心筋酸素需要と供給の不均衝において,心筋酸素需要を減少させること,および,②正常心筋血流を低下し,虚血部心筋血流を保持する心筋血流再分布である.その主作用である心筋酸素需要の減少の機序は,心臓交感神経受容体であるβ1レセプターにカテコールアミンと拮抗的に競合し,心拍数増加,心筋収縮力増加,血圧上昇などストレス,労作に伴う心仕事量の増加を抑制することであり,労作狭心症によい適応となる.現在,多くの亜硝酸塩,Ca拮抗薬が開発されているが,労作狭心症には依然としてβブロッカーを用いる頻度が高い.
現在一般に用いられているβブロッカーは,心臓選択性(Cardioselectivity),内因性交感神経刺激作用(Intrinsic Sympatho-mimetic Activity;ISA),および膜安定化作用(Membrane Stabilizing Activity;MSA)などの有無により分類1)されている(表).しかし,狭心症治療における投与量では,MSAの影響はほとんど認められず,またISAも投与量の増加によりβ遮断効果が優位となるため,その作用は打ち消されてしまう.
PTCR,PTCAに代表される急性期再灌流療法が心筋梗塞の画期的な治療法として開発され,死亡率の低下,左心機能の改善に有効である.しかし,再灌流療法はすべての施設にて可能なわけではなく,従来の保存的治療も含めて,心筋梗塞の重症度別に,急性期治療方針の決定と治療薬の選択について解説する.
急性心筋梗塞では,不整脈に関与する障害心組織は時相により異なる.本症の不整脈発生機序は,異常自動能,リエントリー,triggered activityなどが知られており,発症からの時間,自律神経系因子や,心不全,心原性ショック,心室瘤などの合併症により複雑に修飾される.
しかし,現在用いられている抗不整脈剤の薬理作用は,正常または実験虚血下で理論づけられたものが多く,人心筋梗塞における作用機序は未知の部分が多い.また本症では,程度の差はあるが基礎に心機能不全があり,血流臓器分布は正常時と異なる.その結果,薬物動態も影響を受け,副作用発現閾値は変化する.時に不整脈の増悪や重篤な副作用出現につながり,病態を悪化させる.
急性心筋梗塞の治療のすすめ方(表1)
急性心筋梗塞(AMI)の治療は,患者の年齢,病状により著しく異なり,一律に決めるのは困難である.しかし,AMIの初期治療として冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)は広く有効性が認められており,発症6時間以内の症例や,発症後6時間を過ぎても胸痛が持続している例やR波が残存している例などでは,積極的に試みてみる方法である(とりわけ左冠動脈主幹部閉塞によると思われるショック例).
一方,PTCRのタイミングを逸して入院した例については,年齢,梗塞部位と範囲(心電図,心臓超音波断層図などにより判定)およびvital signを参考に重症度決定をし,スワンガンツカテーテル(SGカテ),膀胱留置バルーンなどを使用するか否か決定する.70歳以上の高齢者はしばしば拘禁症状(CCU症候群)を呈し,むしろその後の治療を妨げる結果になりかねないので使用には注意を要する.
心筋梗塞症の急性期には酸素需要量をできるだけ少なくする必要があり,また心筋壊死部に強い張力がかかると心筋の断裂を起こすことがあるので,血圧は低めに保つことが望ましい.しかし血圧が急激に低下すると腎,脳の血流が減少あるいは途絶し,乏尿,意識障害を生じショックとなる(表1).この場合には早急に血圧を上昇させなければならないが,血管抵抗だけを増大させると心拍出量はさらに減少し,ショックを増悪させることになるので,心筋収縮力を増強し心拍出量を増大させる必要がある.
急性心筋梗塞の発症には,一次的にせよ,二次的にせよ,冠動脈内の血栓が関与している1).急性心筋梗塞症において血栓溶解剤を使う目的は,この血栓を溶解することによって心筋梗塞の進展を防止し,かつ縮小させようとするものである.
慢性期虚血性心疾患における抗凝固,抗血小板療法は,狭心症の発作,心筋梗塞への進展予防および心筋梗塞での再梗塞,梗塞後狭心症を防ぐ目的で使われる.本稿では,現在,本邦で使用されている代表的な薬剤について解説したい.
高脂血症の治療の目的—考え方と目標
冠状動脈疾患の危険因子として高コレステロール血症が注目されて以来,すでに半世紀以上が経過している.この間,コレステロールの血中での存在様式やその代謝についての研究は著しく進歩し,その代謝の異常として生じる高コレステロール血症の研究は,分子生物学的レベルにまで進んできている.
わが国においても,生活様式の変化に伴う高コレステロール血症の増加と虚血性心疾患罹患率の増加によりこの問題への関心は高まり,コレステロールなどの脂質での血中の存在様式であるリポ蛋白質についての知識も一般化した.そして低密度リポ蛋白質(LDL)としてのコレステロール濃度が虚血性心疾患の主たる危険因子であって,高密度リポ蛋白質(HDL)に含まれるコレステロール濃度は逆に危険率軽減の指標である可能性などについても周く知られるようになってきている.
慢性期虚血性心疾患には,安定狭心症,陳旧性心筋梗塞,無痛性虚血性心疾患などが分類される.病態としては安定しており,冠動脈硬化に基づく虚血下の代謝障害による心筋収縮性の低下,すなわち運動耐容能の減少,心不全,および狭心症が治療の対象となる.虚血性心疾患の治療に主として使用される硝酸薬,Ca拮抗薬,β-遮断薬などの薬剤も,結局は心筋代謝の改善効果によって病態の軽快が得られる.本稿においては,これらの薬剤の効果を補強し,心筋代謝を改善する内服薬について述べる.
不整脈の治療薬といえば,Quinidineに代表されるように,有効ではあっても危険な副作用を伴うという観念が強くある.近年,新しい抗不整脈剤も開発され,これまでの薬剤に比べて比較的安全に使える薬剤も出てきたが,やはり抗不整脈剤には他の薬剤とは異なる特質があり,この特質をよく認識して使用することが重要である.抗不整脈剤を選択するに際して留意すべき点をまず述べてみたい.
作用機序および細分類
クラスⅠ抗不整脈薬(Vaughan Williams)は,興奮膜のNa-チャンネルをブロックすることにより,心筋組織の興奮伝導および刺激生成を抑制し,その結果不整脈の発生を抑える.すなわち不整脈の発生機序は,①リエントリー,②自動能亢進,③triggered activity,の3つが中心であるが,①に対してはその成立に必須の1方向性ブロックを2方向性ブロックに変えることにより,②に対しては細胞内陽イオンの増加を妨げることにより,③に対しては細胞内Naイオンの上昇を妨げ,かつ閾膜電位をシフトさせることにより,各々を抑制するからである.
このNa-チャンネル抑制作用は,チャンネル内にあるリセプターと薬剤が結合し,チャンネルを閉塞することにより生じると考えられるが,このリセプター薬剤間の結合・解離はチャンネルの状態および薬剤の性質によって異なり,不活性〜静止状態における両者の解離度から,本群薬をA,B,Cの3群に分けることが最近流行している(表1)1).この分類は活動電位持続に対する作用に基づく以前の分類とほぼ重なり合うが,新しい薬剤の中には必ずしも一致しないものがあるようである.このような分類にしたがって新旧のI群抗不整脈薬を列挙すると表1のごとくであり,これらの用法・用量は表2に示すごとくである.
Vaughan Williamsの分類においてクラスⅡに属する抗不整脈薬である交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)は,ノルアドレナリンやアドレナリンと競合してβ受容体を占居し,これら情報伝達物質のβ受容体刺激効果を遮断する作用を有する.すでに数多くのβ遮断薬が開発され,その多くは臨床使用されている.表に,β遮新薬の種類と常用量を示した.
Vaughan Williamsらによる抗不整脈剤の分類におけるクラスIVとはCa拮抗薬であり1),verapamil(Vasolan®と,diltiazem(Herbesser®)が含まれている1).これらの薬剤はCa電流の抑制により,房室結節の不応期と伝導時間を延長させる.また,Ca電流が関与するとされているtriggered activityや一部のリエントリー路にも抑制的に働き,通常,頻脈性の上室性不整脈に対して用いられることが多い.
最近のHis束心電図,電気生理学的検索の普及と人工ペースメーカーの発展により,徐脈性不整脈の診断と治療に著しい進歩がみられた.これに対して,徐脈性不整脈に対する治療薬剤の種類と投与法にはとくに変化はないといってよい.その原因は,治療薬剤に対する徐脈性不整脈の反応が,しばしば不安定であること,さらに薬剤の副作用により,長期間の投与が困難であることにあると思われる.しかし,ペースメーカー治療までの緊急,応急処置として,あるいは治療法の選択や適応の決定に薬物治療が重要な意義を有することに変わりはない.
徐脈性不整脈の薬物治療の目的は,心臓刺激伝導系における伝導能促進と自動能亢進にある.前者は洞房ブロックや房室ブロックからの回復であり,後者は洞性徐脈や洞停止からの回復と補充収縮の促進である.
肥大型心筋症は,原因不明な心筋疾患のうち心筋の異常肥大を主病変とするものである.本症では,高度の左室肥大のために左室コンプライアンスが低下し,左室への血液の流入が障害されることが基本的病態であり,左室収縮能の低下は一般に認められない.本症はさらに左室流出路狭窄の有無によって,閉塞性と非閉塞性に大別される.
拡張型心筋症は,心拡大と心不全を伴う症候群である.主に左室収縮機能が障害され,左室は拡張終期容積,収縮終期容積ともに増加している.また,左室muscle stiffnessは増大しているが,左室chamberstiffnessはむしろ低下している.したがって,低い左室充満圧にて拡張終期容積が十分に大きくなり,Frank-Starling機序が働き,1回拍出量および心拍出量は保たれている.したがって,代償期には,心機能が低下していても,心不全症状が軽微である.しかし,拡張型心筋症ではafterload mismatchが生じており,運動,過剰の水分摂取,血圧の上昇などをきっかけにして,前負荷予備能の限界を越え,左室収縮力がさらに低下して心拍出量が低下し,また左室充満圧が上昇して肺うっ血が生じる.
拡張型心筋症は現在その原因が解明されておらず,特別な治療法は未だ確立されていない.拡張型心筋症で問題になるのは,心不全,不整脈および左室壁運動低下に伴う左室壁在血栓である.ここでは,心不全に対する治療を中心に解説し,最後に壁在血栓に対する治療にふれる.
大動脈炎症候群
本症は大動脈およびその主幹動脈,肺動脈を侵す原因不明の動脈炎であり,治療は動脈炎の活動性症候に対する治療と,動脈病変由来の臨床症候(動脈狭窄,閉塞による虚血と高血圧)に対する治療の2つに大別される.
末梢動脈・静脈病変として臨床上しばしば遭遇する疾患として,四肢末梢動脈閉塞症,Raynaud症候群および静脈血栓症が挙げられる.本項では,それゆえ,これらの疾患について記述する.
降圧治療は,降圧とともに病態悪化と副作用をきたすことなく,同時に生活を質的に低下させないように,ドラッグ・コンプライアンスに配慮する.したがって,降圧薬選択に際し,高血圧重症度のみならず,肝機能,耐糖能,脂質代謝などの異常の有無,合併症(喘息などの呼吸器疾患,抑うつ症,脳動脈硬化症,消化性潰瘍など)の有無を,既往を含めチェックする.
β遮断薬は,Prichard(1964)によって高血圧治療に有効と指摘されて以来,広く使用され,サイアザイド系利尿薬などと並んで第1に選択される降圧薬となっている.これまでに種々のβ遮断薬が開発され,それぞれの特徴を生かして使用されている.
β遮断薬が好んで用いられる理由は,①降圧効果が穏やかである ②脂質,とくに中性脂肪を増加させ,HDLを低下させることがあるものの,サイアザイド利尿薬に比べて代謝面での悪影響が少ない ③レニン分泌を抑制する ④起立性低血圧の発生が少ない ⑤性機能障害が少ない ⑥徐脈性不整脈や房室ブロックを除く不整脈合併例,虚血性心疾患の合併例に対しては,合併症の治療効果も期待できる ⑦心筋梗塞の発生予防(とくに再発予防)に有効である ⑧高血圧性心肥大を改善させることが示唆されている ⑨妊娠中あるいは授乳中の婦人にも使用しやすいなどの利点があるためである.しかし,以下に述べる副作用など欠点もあるので,実際に高血圧の治療に用いる場合には適応を十分に考慮することが重要である.
利尿剤は,高血圧症の治療に第1選択薬として,最も頻繁に使用されてきた.しかし,近年の新薬の登場により,まずβブロッカーが利尿剤と第1選択薬としての地位を折半し(1984年米国合同委員会勧告),次いでアンジオテンシン変換酵素阻害剤あるいはカルシウム拮抗剤が初回治療に用いられ始め(Zanchettiの私案),その使用頻度は低下してきた.
さらに大規模な疫学調査で,降圧剤治療により血圧依存性の心血管障害である心肥大,大動脈瘤,脳出血などは確実に減少してきたが,動脈硬化性の血管障害である冠動脈疾患などは減少しておらず,この原因として,利尿剤などによって生じ得る代謝異常の影響が大きいことが指摘されている.
末梢動脈を拡張し,総末梢抵抗を減じて降圧をもたらす薬剤には,hydralazineに代表される直接血管平滑筋を弛緩させる,いわゆる血管拡張剤のほかに,交感神経抑制剤,Ca拮抗剤,reninangiotensin system(RAS)の抑制剤の1つのアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)が含まれる.本稿では,現在国内で市販されている,交感神経抑制剤の1つのα遮断剤,血管拡張剤,Ca拮抗剤,およびACEIにつき述べることとする.
低血圧は,疾患というよりもむしろ症候としてみるべきであろう.低血圧状態が急激に生じたものか,あるいは慢性的な状態なのかにより治療はまったく異なっており,とくに急性の場合には臨床上きわめて重大な事態となることもある.慢性の状態の場合は一般的に生命に対する予後がよいとされてはいるが,自覚症状を有しているときには,いわゆるQuality of Lifeという面から考慮すると適当な治療も必要となってくる.
薬物療法の位置づけ
消化器疾患の治療において薬物療法は,今日のところ,その中心的役割を果たしている.各々の疾患の病態解明につづいて新しい薬物が開発され,新しい薬物が開発されるとまた新しい病態解明の糸口になる.さらに病態解明の進歩にしたがって,薬物の用い方も進歩する.このような過程は,ある領域はなかなかその歩速は上がらないが,またある領域では急速な前進をしている.かえって急速な進歩の裏側で期待していなかった新たな不都合な現象に遭遇し,その解決のために次の段階を求めることにもなる.
薬物療法はまた,他の治療法,たとえば放射線療法,経血管的治療法,内視鏡的治療法,温熱療法,外科的治療法,心身医学的治療法など数多の治療法と相乗して,さらに大きな効果を挙げることもある.とくに消化器疾患においては,栄養法が重要な役割を果たすこともある.
食道・胃運動機能異常を病態とする疾患には,逆流性食道炎,上腹部不定愁訴(non-ulcer dyspepsia)などが一般的に認められている.しかし,消化性潰瘍である胃潰瘍や十二指腸潰瘍なども,最近における病態生理の解明によって,病因の1つとして胃運動機能異常が注目されてきている.今回は食道・胃運動異常に焦点を合わせ,とくに食後期の胃排出運動異常における胃排出遅延状態と胃排出亢進状態に分け,それぞれの運動異常を呈する疾患と治療上における薬物の使い方について,筆者らの検討したものについて述べてみたい.
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は,慢性の腹痛を訴えて来院する患者の半数以上を占める,臨床の場では最も頻度の高い消化管疾患の1つである.
本症候群は,かつてはただ単に「腸管の機能的疾患」と定義されていたので(今でもそう誤解している医師がいる),その診断に際しては,器質的病変を除外することだけに注意が払われ,本症候群は「屑籠的な診断名である」などといわれていた.
薬物療法の前に
便秘をきたす原因は多岐にわたる.腸管運動のみに問題がある場合と,腸内容通過を機械的に妨げる因子が存在する場合とがある.また,全身性疾患に由来することも知られている.したがって,原因を明らかにしないまま安直に薬物療法が開始されてはならない.ことに器質的異常の有無に関しては検索が不可欠であり,内視鏡が第1選択される1).これと並行して,食事や排便の習慣,嗜好,運動,睡眠などの生活態度や社会的背景について把握されていることが望ましい.全身性疾患の検索は,中枢神経系,内分泌機能,代謝,膠原病,各種中毒にまで及ぶべきであろう.また,併存する疾患の治療薬剤が腸管運動に抑制的に働くものもあるので,聴取しておかなければならない.
薬物療法の比重
消化性潰瘍の治療は,その成因論とともに変遷してきたといってよい1).近年では,SunとShayのバランス説が広く受け入れられ,治療法としては攻撃因子の抑制と防御因子の増強に力が注がれた.安静,食事療法,薬物療法が3原則とされ,とくに薬物療法は攻撃・防御両因子のバランスの是正が主となり,結果として多剤併用療法が主流となった.
ところが,強力な酸分泌抑制薬であるヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の登場により,これまでの治療法の概念は崩壊した.H2ブロッカーの単独投与で,従来の治療法にはるかに勝る消化性潰瘍の治癒が得られるようになり,しかも,入院と外来で治癒率の差がなくなり,食事もゆるやかな制限でよいことになった.薬物療法の比重がきわめて高くなったことになる.
"no acid,no ulcer"というSchwarz(1910)の言葉は,今日なお名言としてしばしば引き合いに出される言葉であるが,消化性潰瘍の成因における酸(胃酸)の役割の重要性は今さら申すまでもないことであり,酸を抑えることによって粘膜の再生が行われやすい状況が作り出されると同時に,自覚症状の消失がもたらされる.このため酸を抑えることは,古くから消化性潰瘍の治療の中心となってきた.
1940年頃まではすでに出てしまった酸を抑える(中和する)制酸薬が中心であったが,その後は酸の分泌を抑制するほうが効果的であろうとの考えから,酸分泌抑制薬が開発されるようになった.
消化性潰瘍およびその類縁疾患の治療を考える上で,その発症の成因を明確に把握することは,必要であり,かつ重要である.さらに,胃潰瘍と十二指腸潰瘍,胃炎と十二指腸炎,潰瘍のstage,初発と再発,易治例と難治例,年齢,加えて初期治療と維持療法などの違いを考慮し,各々の症例に適合した治療法を選択することが望ましい.したがって,その成因や個々の症例の特徴にあった治療を行うために,種々の抗潰瘍薬の効果スペクトルを知ることが,治療のKey Pointである.
制酸薬
制酸薬は最も古くから消化性潰瘍の治療に用いられている薬剤であり,壁細胞より分泌された塩酸を中和することにより,消化性潰瘍の症状改善および治癒促進に有効な薬剤である.
昨今,消化性潰瘍の治療にはヒスタミンH2受容体拮抗剤(以下H2ブロッカー)が万能であるかのごとき風潮があるが,H2ブロッカー中止後の高率の再発の問題をはじめ,H2ブロッカーの問題点が種々議論される現在,制酸薬による治療を見直す必要があろうと思われる.
消化性潰瘍の内科的治療の目標は,今日では,再発の防止に向けられている.すなわち,新しい抗潰瘍剤の出現で,一部の難治性(H2ブロッカー抵抗性)潰瘍を除き,少なくとも一旦は治癒させることが可能となったが,潰瘍の宿命ともいうべき再発の防止が困難なことが,改めて認識されたためである.潰瘍の再発予防には,内視鏡的再発を完全に抑制しようとするものから,有症状再発がなければ(極端には潰瘍合併症を抑制できれば)よしとする立場まであるが,今日主として話題となっているのは前者についてである.
上部消化管出血は全消化管出血の約80%を占め,そのうち顕出血の80%が中等度から重症出血をきたし,緊急に診断と止血および治療の決定を迫られることが少なくない.上部消化管出血の出血源の疾患別頻度は,胃・十二指腸潰瘍が約60%を占めて最も多く,以下,胃癌,食道静脈瘤破裂,急性胃粘膜病変,Mallory-Weiss症候群などで,緊急内視鏡により出血源の診断,出血の状態を的確に把握し,適切な止血法が選択されるようになった.
とくに,胃・十二指腸出血例では,非出血例に比べ胃液pHは低く,また胃液pH6以下では内因性・外因性凝固能が低下し,さらに血小板凝集能も低下し血液の凝固機転の障害が起こることが知られ,ペプシンも同様のことが起こるといわれており,胃液と血小板凝集能と血液凝固能に対する影響からみた薬物止血法が積極的に行われるようになった.
メネトリエ病は,1888年Menetrierによって初めて記載された稀な疾患である.胃粘膜ひだは著明に肥厚し,脳回転状を呈し,胃粘膜からの蛋白の漏出およびそれに伴う低蛋白血症,浮腫,脱水などをきたす.原因は不明であるが,多発性内分泌腺腫との関連も示唆されている.蛋白漏出の原因は不明で,びらん,潰瘍,癌などが引き金になっている可能性もあり,また細胞間より漏出するともいわれている.内視鏡的には,巨大ひだと粘液分泌過剰状態が観察されることがある.
治療においては,低蛋白血症の改善を中心とした対症療法に加え,手術療法も考慮される.
Cronkhite-Canada症候群は,消化管ポリポージス,脱毛,爪甲異常,皮膚色素沈着を主症状とする,遺伝性の認められない稀な疾患である.1955年,CronkhiteとCanadaにより最初の2症例が報告された.本邦では,1958年の大北らの報告以来,約80例が報告されている.
病因に関しては現在のところ不明であるが,機能的病態は蛋白漏出性胃腸症であり,浮腫,低蛋白血症を生じ,下痢,食欲低下により低栄養状態となる.消化管内への蛋白漏出機転に関しては,何らかの原因による粘膜傷害により,粘膜上皮の細胞間隙にリンパ管内圧上昇に基づくpassivediffusionと粘膜の炎症または欠損によるactivesecretionが生じ,さらに粘膜局所の線溶亢進が消化管粘膜の透過性を亢進するためと説明されている.
腸リンパ管拡張症は,蛋白漏出性胃腸症の1つであり,稀な疾患である.主として小腸において粘膜固有層,粘膜下層のリンパ管に拡張が生じ,腸管腔内へのアルブミンをはじめとする蛋白質が生理的程度を越えて漏出することにより,低蛋白血症に基づく諸症状,続発性免疫不全などをきたす疾患である.
発生機序については不明な点も少なくないが,腸管粘膜から胸管に至るリンパ管系に器質的あるいは機能的な異常があり,中枢側へのリンパ流にうっ滞が起こり,そのため末梢側リンパ管内圧が上昇し,腸管壁内リンパ管の拡張と破綻をきたすため,蛋白が腸管内へ漏出するとされている.全身的なリンパ管系の異常を合併している例も報告されているが,一方,腸管壁のリンパ管拡張以外に何ら異常をみない例も報告されている.
潰瘍性大腸炎(以下UC)は,大腸粘膜の,びらん,潰瘍を特徴とする,非特異的炎症性腸疾患である.UCの治療の原型は,Lennard Jones(1971)1),Truelove(1982)2)にみるが,本邦症例のきめ細かいところは,厚生省特定疾患消化吸収障害調査研究班(班長白鳥常男)の治療指針(代表 井上)3)に準じて行えばよい.以下,それに準じ,筆者の考えを述べる.
クローン病の治療は,根治療法がなく,手術切除しても再発が多いため,社会復帰を目標とした対症療法,内科的治療が基本となる.
クローン病の治療については,昨年,厚生省特定疾患消化吸収障害調査研究班(班長:白鳥常男奈良医大教授)により作成された治療指針1)が具体的で最も新しく,参考になるものと考えられる(表).なお,本指針では緩解の判定を,自覚症状が消失し,赤沈値,CRPが正常化したものとしているが,治療効果の判定にはCDAI(Crohn's disease activity index)2)や,これを簡略化したsimple CDAIなども用いられる.
特発性小腸潰瘍や腸管ベーチェット病は,欧米に圧倒的に多い大腸癌,潰瘍性大腸炎,クローン病,大腸憩室などの腸疾患と対照的に,本邦に多く発生する.しかし,必ずしも日常の臨床でしばしば経験する疾患ではない.
ところで,両疾患とも手術例の報告が多く,サラゾピリン,ステロイド剤などの薬物の効果が不確実なこともあって,確立された薬物療法は現在のところみあたらない.一方,クローン病で奏効する栄養療法が両疾患に対しても最近試みられ,有効例や経過観察可能例が報告されつつある.今後,両疾患の病態の一層の解明に伴い,両疾患に対する薬物・栄養療法が確立されていくものと思われる.
化学療法の現況
日常の癌臨床において,消化器癌が取り扱われる機会ははなはだ多い.その進行癌は,内科において癌化学療法の主対象になっている.今日までほとんどすべての抗癌剤が単独にあるいは併用して試用され,奏効率が向上し,奏効期間,生存期間が延長されている.しかしながら,癌治療の成果が相対的に不十分な領域であると考えられる.癌化学療法の効果向上に寄与する腫瘍,宿主,薬剤の要因がいくつか相関して負であることによると考えられる.
すなわち,腫瘍の負の要因としては,腫瘍量が多く,治療の標的となる転移巣が肝,肺,骨,脳などの複数の実質臓器に存在すること,腫瘍細胞の抗癌剤に対する感受性の低いことなどがあり,宿主の負の要因としては,再発癌として早期に診断されることが少ないこと,転移による臓器の器質的あるいは機能的変化あるいは全身状態(PS)の変化がみられること,中高年齢層の多いことなどがあり,薬剤の負の要因としては,単独抗癌剤の奏効率の低いこと,併用療法による相乗効果が流動的であること,薬剤耐性の打破が不確実であること,副作用に対する是正が順当に行われないことなどがあり,諸要因が重なり合っていることによって,消化器癌の化学療法がなお漸進的な進歩にとどまっていると考えられる.
わが国では戦後,国民生活の向上および欧米の生活習慣の導入などに伴い,酒が容易に手に入るようになり,アルコールの消費量は著明に増加してきた.これと同時に,飲酒人口も増加し,その数は6,400万人(男性の91%,女性の61%)に達した.さらにこのうち1日あたり日本酒換算で5.4合以上を摂取する,いわゆる大量飲酒者(問題飲酒者)は少なく見積もっても220万人に及ぶと報告されている.国立療養所久里浜病院に入院したアルコール依存症者300例の検討では,80%が肝障害を合併していることより,大酒家にみられる肝障害も多いと思われ,アルコール性肝障害に対する治療の重要性が示唆される.
治療に先立ち,アルコール性肝障害の特徴を知っておくことは大切である.すなわち,アルコール性肝疾患では,発症に個人差があること,末期以外は禁酒により比較的容易に障害の改善がみられること,他の疾患と異なり,自らアルコールという疾病の原因物質を好んで摂り込むこと,などの特徴がみられる.したがって,アルコール性肝疾患の治療の基本は断酒の継続であり,本稿で述べる薬物療法はあくまで補助的療法でしかないことを念頭において治療すべきである.