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●異常値を示す疾患
正常人の尿量は,通常1日800〜1,600mlであり,尿比重は1.015〜1.024,浸透圧は500〜800mOsm/kgH2O程度である.
これらは,浸透圧や体液量などの恒常性を維持する機構によって調節されているが,尿量は飲水量や食物摂取量が増大すれば増加し,発汗,不感蒸泄,下痢,嘔吐など腎から以外の水や電解質の喪失が増大すれば減少する.1日尿量2,500ml以上を多尿,400ml以下を乏尿,100ml以下を無尿という.表に尿量異常をきたす疾患を示した.
●異常を示す疾患
正常人の尿の黄色調は,主として,urochromeによるもので,1日の排泄量はほぼ一定である.そのため,黄色調の程度は,水利尿状態や尿の濃縮の程度などの影響を受け,尿量によって変化する.表1に尿色調異常とその原因を示した.
urochromeは,腎臓で産生されるため,腎不全の尿は血尿などがない場合,ほとんど無色で,尿量が減少しても変化しない.尿崩症と糖尿病でも,ほとんど無色となるが,多尿に伴うことが多く,尿比重は尿崩症では低値,糖尿病では高値となる.
正常人の尿は,弱酸性でpH6.0程度であるが,食事の内容によってpH4.5〜8.0の間を変動する.動物性食品では酸性,植物性食品ではアルカリ性に傾きやすい.発熱,下痢,脱水では酸性となり,激しい運動後には一過性のlactic acidosisにより酸性になることが多い.尿pHには日内変動があり,睡眠時は換気量の減少のため呼吸性acidosisとなり,酸性尿になる.午前中には,夜間に蓄積したHCO3-が排泄されるために,アルカリ尿となる.また,食後には,胃酸が分泌され,血液がalkalosisに傾き,アルカリ尿となる.
腎における酸塩基平衡の調節は,①H+の排泄,HCO3-の再吸収,②リン酸,乳酸などの滴定酸の生成,③NH4+の排泄などにより行われている.ネフロンの近位部では,大量のH+が排泄されるが,糸球体濾液中のHCO3-によって中和されるため,pHの変動は少ない.しかし,ネフロンの後半では,HCO3-が少ないため,H+の分泌に伴って,pHは低下する.最終的に,尿のpHを決定するのは集合管以下である.尿のpH異常をきたす疾患を表に示した.
尿蛋白は,正常では150mg/日以下であるが,150mg/日以上持続的にみられる場合は,その原因を十分検索しなければならない.
尿糖は血糖値の上昇に伴ってみられるoverflow型と,腎尿細管機能障害に際してみられる腎型に分けて考えなければならない.前者には糖尿病,ガラクトース血症,果糖不耐症,良性果糖尿症,乳酸不耐症,Cush-ing症候群,甲状腺機能亢進症などがあり,後者には腎性糖尿病,五炭糖尿症,Fanconi症候群,Lowe症候群,シスチン血症などが含まれる.また,ネフローゼ症候群でも糖尿を認めることがあるが医原性の場合が多い.
次に異常についての確認および判定に際しての注意事項を述べる.
●ブドウ糖以外の尿糖を認める疾患
通常,成人の尿中で尿糖を認める場合は,そのほとんどがブドウ糖尿である.しかし,新生児や妊婦あるいはある種の食物を大量に摂取した成人には,時にブドウ糖以外の尿糖を生理的にも認めることがある.日常検査で,ブドウ糖尿を認めた場合は,ブドウ糖尿がそれ以外の尿糖に伴って検出されることがしばしばあるので,他の還元糖の存在をチェックすることが望ましい.
臨床的に問題となるのは,先天性代謝異常症であるが,通常の尿糖試験紙を用いた検査ではブドウ糖以外の尿糖は検出されないため,還元法による尿糖検査を行うことが重要である.表1に尿糖の鑑別法を,表2にブドウ糖以外の尿糖を呈する原因を記した.これらの疾患の早期発見には,疑わしい症状,例えば哺乳や離乳の開始と同時に発症した嘔吐,下痢,低血糖症状とか,痙攣,黄疸,肝脾腫,発育障害などを認めた場合に表2のような各種疾患を念頭に置き,鑑別診断を進める必要がある.特に問題となる疾患は,ガラクトース尿を認めるガラクトース血症,果糖尿を認める遺伝性果糖不耐症や,乳糖尿を認める乳糖不耐症などである.また,肝障害や薬物内服によって二次性のブドウ糖以外の尿糖を認める場合があることに留意する必要がある.
ケトン体はアセト酢酸(AcAc),アセトン,βヒドロキシ酪酸(OHBA)の総称である.AcAcおよびOHBAは強酸である.アセトンは常温以上では揮発性の高い物質である.ケトン体が血中で濃度を高め,それが腎排泄閾を超えると尿中にケトン体が出現する.
尿ケトン体の検出はもっぱらニトロプルシド反応が用いられている.試験管内で行う検出法があるが,今日ではニトロプルシド・アルカリ緩衝液をしみこませた試験紙を用いることが多い.市販の尿ケトン体検出用試験紙に数種あって,3種の化合物についての検出感度が異なる.AcAc5〜10mg/dl,アセトン70〜80mg/dlで反応するが,OHBAには全く反応しない.このことは尿ケトン体検査の結果を評価するときやや不利な点となっている.
赤血球が網状内皮系で破壊されると,ヘモグロビンのポルフィリン環が開環してビリルビンとして循環血液中に流出する.ビリルビン分画とその性質を表1に示す.非抱合型ビリルビン(Bu)は水に非常に溶けにくいため血中では血清アルブミンと結合して肝に運ばれ,肝細胞でグルクロン酸と抱合し,水可溶性の抱合型ビリルビン(Bc)として肝内および肝外胆管を経て十二指腸に排泄され,その一部は腸肝循環により再び血中に戻る.肝・胆系に閉塞があると,大量のBcが血中に逆流し,血中濃度は高くなるが,血清アルブミンとBcと相互作用によりアルブミンと共有結合したビリルビン(デルタビリルビン,Bδ)1)が血中に漸増する.ジアゾ法でビリルビンを測定すると間接型ビリルビンはBuに対応するが,直接型ビリルビンはBcとBδの和に近位する.これらのビリルビン分画のうち尿中に排泄されるのは主としてBcのみであり,アルブミンと強く結合しているBδやBuが尿中に排泄されることは少ない.
ポルフィリンは環状のテトラピロール化合物であり,骨髄の赤芽球系細胞と肝細胞において図に示すようにグリシンとサクシニルCoAを母体としてヘモグロビンやミオグロビンを形成して行く過程で産生される中間物質である.ポルフィリン体とは図のポルフォビリノゲン(PBG)からプロトポルフィリン(PP)までの中間物質を総称しているが,ウロポルフィリノゲンやコプロポルフィリノゲンは自動酸化され,それぞれウロポルフィリン(UP),コプロポルフィリン(CP)として測定される.δ-アミノレブリン酸(ALA)もポルフィリン体に含めて呼ぶこともある.
ポルフィリンは400nmで励起され強い赤色螢光を発するので検出にも利用される.個々のポルフィリン誘導体は水に対する溶解性が異なっており,PBG>UP>CP>PPの順で水によく溶ける.最も水溶性の低いPPは胆汁に排泄されるが,CPは尿中にも一部は排泄される.UPとPBGはほとんどが尿に排泄される.したがって,尿ではPBG,UP,CP,糞便ではCPとPP,赤血球ではUP,CP,PPが主な測定対象となる.
クレアチンは,グリシン,アルギニン,メチオニンの3種のアミノ酸から合成される.腎においてtransaminidaseにより,グリシンとアルギニンからグアニド酢酸が形成され,次に肝臓においてmethyltransferaseにより活性メチオニンからメチル基が転位されクレアチンが生成される.クレアチンの98%は筋に存在し,CPK(CreatinPhosphokinase)によりクレアチン燐酸の形で高エネルギー燐酸結合を保持することにより,筋肉運動に必要なエネルギー代謝において,重要な役割を果たしている.クレアチニンは,クレアチンからの非酵素的な脱水により生成される(図).
クレアチンおよびクレアチニンは,いずれも腎臓から排泄される.腎糸球体で濾過されたクレアチンは,通常近位尿細管においてほとんどが再吸収される.その排泄閾値は約0.6mg/dlであり,血中濃度がそれ以上になった場合に,明らかなクレアチン尿が出現する.一方,クレアチニンは腎糸球体を自由に通過するが,尿細管で再吸収も分泌もされず尿中に排泄される.このため血中クレアチニン濃度が上昇するのは,主に腎排泄機能が低下した場合である.なお,クレアチニンはクレアチンから,毎日ほぼ一定量生成されるため,尿中排泄量は筋肉量に見合った量と考えられる.
顕微鏡的血尿は腎・尿路系疾患をはじめ多岐にわたる原因(表1)により引き起こされる症候である.その検出は尿沈渣鏡検による赤血球数の算定によるが,試験紙法による尿潜血反応も尿中赤血球の簡便な検出法として集検やベッドサイドでのスクリーニングに欠かせない検査となっている.
尿試験紙による潜血反応の原理は,試験紙中の過酸化物から,ヘモグロビンやミオグロビンのヘム部分が持つペルオキシダーゼ様作用により生じた酸素を指示薬の色調変化で検出することによる.通常,潜血反応の結果は尿沈渣鏡検による血尿の有無とよく相関するが,本法は非特異的な検出反応であり,血尿以外に血管内溶血によるヘモグロビン尿や,筋組織障害によるミオグロビン尿でも陽性化するので,沈渣鏡検による赤血球検出と組み合わせて,これらの病態の検出を行うことができる(表2).
血尿とは赤血球が尿に混入した状態を示し,尿中の赤血球は糸球体から外尿道口までの尿路のいずれかの部分よりの出血である.そしてこれは尿の性状の異常の代表的症状である.眼でみて,血尿とわかる状態を肉眼的血尿といい,尿1,000ml中に血液1ml以上が混在している.肉眼上,正常にみえるが,沈渣での検鏡で赤血球が認められるものを顕微鏡血尿と称し,臨床上,区別している.
血尿をきたす疾患は種々あるが,肉眼的血尿を示すものを表にあげた.
●スクリーニング方法と異常を示す疾患
先天性代謝異常症(inborn errors of metabolism,以下IEM)のスクリーニングは,疑わしい症状を認める症例に行うスクリーニング(ハイリスク・スクリーニング)と早期診断を目的としたマス・スクリーニングに大別される.ハイリスク・スクリーニングとしては,表1に示す尿の呈色反応を利用した簡易テスト1)が広く使用されてきたが,最近では種々の器機分析が普及し,より詳細な検討が可能となったため2),簡易テストの診断的意義は薄れつつある.しかし,治療中の患者のコントロールの良否の簡易判定法として,これらのテストは有効に使用されている.また,臨床検査として日常一般的に行われている血液検査においても,表2のようなIEMのスクリーニングが可能である.
一方,有効な治療法と確実なスクリーニング法があり,しかもある程度の頻度をもつIEMに対しては,無症状のうちに一般人口集団の中から患者をすくい上げる方法―マス・スクリーニング―が行われている.わが国でも表3に示す疾患がその対象として取り上げられており,その成果が報告されている3).
産婦人科領域には妊娠に関連した重要な疾患が多く,直ちに生命の危険にさらされる救急疾患も多い.そこで妊娠を早く,正確に診断することは,これらの疾患を診断するうえできわめて重要である.今日,救急疾患のプライマリーケアの観点より,妊娠反応検査は,内科,外科など救急疾患を取り扱う医師にとり必要事項である.一方,妊娠反応検査とhCG同定検査とは同様には扱えないが,近年における免疫学の進歩により,微量のhCG同定検査が短時間に測定可能となり,妊娠反応検査の有する概念が変わりつつある.そこで本稿では最近発達の著しい妊娠反応,低単位,微量hCG測定を中心に解説する.
尿沈渣鏡検は若干の暇と手間および判定能力が要求されるため,最近では,検査の対象を尿試験紙による定性検査で何らかの異常を認めた例のみに絞る施設が多い.しかし,定性正常でも沈渣異常の例が外来患者で20%近くもあり1),この検査の診断的価値は依然として高い.
1)アルブミン(Alb)
尿中微量Alb排泄増加は糖尿病性の腎症進展への危険因子であるため,その測定は腎症の早期診断に不可欠な検査法となりつつある.糖尿病性腎症の病期分類としてMogensenらのI型糖尿病で5期に分けた病期分類(表)が広く用いられているが,尿タンパクが陰性である病期1,病期2で尿中Alb排泄率は増加しており,特に運動負荷により著明に増加する.タンパク尿が明らかとなる病期までは15〜300μg/分の例が多く,毎年24±28μg/分の割合で急増するとされている.尿中Alb排泄量は血糖のコントロールにより減少するので,微量Alb尿の検出は糖尿病性腎症の早期診断だけでなく早期治療にも重要な手段となる.
尿中の白血球由来のエステラーゼの検出と亜硝酸塩の検出は,尿路感染症のスクリーニング検査として用いられる.前者(エステラーゼ反応)は生体反応を示す膿尿を,後者(亜硝酸塩反応)は細菌尿を検出する.膿尿や細菌尿は,腎,輸尿管,膀胱,尿道および前立腺の炎症から生ずるので,両反応は尿路感染症に対する検査として用いられる.尿路感染症と膿尿や細菌尿との関係は表に示した.
便潜血テスト陽性をきたすのは,原則的には消化管にびらんや潰瘍を形成する疾患である.それらを表に示す.これらのうち誌面の都合上,重要な疾患とポイントについて述べる.
糞便検査を必要とする寄生虫性疾患には多くの種類があるが,それらの中で第二次大戦後非常に高率・高濃度の感染が見られた土壌伝播寄生虫病(回虫・鉤虫など)はその後ほとんど見られなくなった.しかし,現在諸外国で感染し日本で発見される者は少なくなく,注意を怠ってはならない.その他,未だ糞便検査で見出される寄生虫性疾患としては鞭虫,糞線虫,横川吸虫を含む異形吸虫類,肝吸虫,肝蛭,ウエステルマン肺吸虫,広節裂頭条虫などがあり,近年は新しい海洋性裂頭条虫や大複殖門条虫,Cryptosporidiumなどが見いだされ,さらに海外渡航者によってもたらされる輸入の寄生虫病としての赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫,フィリッピン毛頭虫,住血吸虫類,肺吸虫類,棘口吸虫類,有鉤・無鉤条虫などの存在も知っておかねばならない.
頭蓋内圧は,頭蓋腔内に存在するすべてのものが関係して形成されており,髄液腔,脳実質,脳血管床などが色々な原因で容積を増すと圧が上昇する.この頭蓋内圧の測定方法として最も一般的なのは,水平横臥位での腰椎穿刺による方法である.一方,脳脊髄液は,脳および脊髄を取り囲んで循環しており,その異常を反映しやすく,中枢神経系の疾患の診断や病態の把握にきわめて有用である.
正常髄液の2/3は脈絡膜叢より,1/3は脳や脊髄の実質組織より産生され,その蛋白成分はほとんどすべて血清より移入したものである.一方,各種疾患ではそれぞれの病態を反映して総蛋白量の増加ならびに蛋白組成の異常が認められる.その異常病態は,①血清蛋白の髄液への移入増加,②血液中の蛋白異常が二次的に髄液に反映する.③中枢神経組織の変性崩壊に伴う組織成分の濾出,などの場合が考えられている.
髄液糖値の異常,なかでも糖減少は髄膜炎の診断,治療経過,予後決定などに関して非常に重要なfactorである.したがって,髄液採取や保存および測定法などには十分な配慮が必要である.
成人正常者の髄液糖は脳室液50〜90mg/dl,腰椎部液45〜80mg/dl(2.5〜4.4mmol/L)であり,一般に脳室液は腰椎部液に比し6〜18mg/dl高値とされている.なお,新生児の正常値(腰椎部液)は58.2〜78.8mg/dlで,幼児期の正常値は71〜90mg/dlである.
正常髄液には15/3mm3以下の細胞が含まれ,その内訳はリンパ球と単球が主体で,それぞれ64±9%,34±8%含まれ,他には少数の組織球と好中球を認める場合がある.また,髄液中リンパ球サブセット正常値はLeu4+細胞77.3%,Leu2a+細胞22.0%,Leu3a+3b+細胞46.9%である.
髄液細胞増多を示す場合,その程度と細胞の種類により髄膜疾患(主に髄膜炎)の鑑別が可能となる.表1にその概要を示した.
臨床検査材料としての穿刺液には胸水,腹水,心のう液,関節腔液,陰のう液などがある.ここでは臨床検査として検査頻度の高い胸水と腹水についてまとめて記述する.
胸水や腹水とは非炎症性の漏出液が体腔内に生理的に存在する量を越えて貯留した状態をいうが,広義には漏出液のみならず,炎症性滲出液を含めて体腔内に貯留した場合をいう.
赤血球中には,飽和に近い状態でヘモグロビン(Hb)が含有されている.そのHbは4個のピロール核の中心に鉄を配位したヘムと,ヘムを支えるグロビン部分とで構成され,グロビンはサブユニット鎖の4個から形成される4量体である.正常成人の赤血球中に含有されるHbは同一種類ではなく,約93%の成人ヘモグロビン(HbA1:約90%,HbA2:約3%),約1%の胎児ヘモグロビン(HbF),約4%のHbA1のβ鎖のN末端にグルコースを結合しているHbA1cとを含んでいる1).
現在は多項目自動血球計数器が広く普及しており,赤血球に関する3項目,すなわちヘマトクリット値(Ht),赤血球数(RBC)およびヘモグロビン濃度(Hb)はそれぞれ単独ではなく同時に測定し,さらに赤血球指数も自動的にプリントアウトされた報告が検査室から手元に戻ってくるのが普通になっている.これらの3項目のデータは総合して意味づけを行わねばならないためである.
ここでは企画に従いHtとRBCだけを取り扱うが,前項のHbおよび次項の赤血球指数と記述内容の重複は避けられないことをご承知いただきたい.
赤血球指数は赤血球,血色素量およびヘマトクリット値の測定値から算出し,赤血球の形態的特徴を表し,貧血の診断に役立たせるものである.従来は色素指数,赤血球指数および飽和指数が用いられたが,現在ではWintrobeの赤血球恒数が用いられている.Wintrobeは従来,赤血球恒数という言葉を用いていたが,今は彼も指数を用いている.この指数を用いて,貧血を大球性正色性貧血,正球性正色性貧血,小球性正色性貧血,小球性低色性貧血に大別し,貧血の診断の大きな目安として用いられている.
●網赤血球について
骨髄中の赤芽球は成熟するにつれ胞体内でのヘモグロビン合成が盛んになり,核はクロマチンの濃縮が起こり小型化する.成熟が一定度に達したものは静脈洞へ放出され,多くはそのとき脱核して網赤血球となり末梢血中を循環する.この場合ニューメチレン青などの超生体染色をすると,内部に点状または網状の構造物が認められることから,網赤血球(reticulocyte;RET)と命名された.
網赤血球は幼若な赤血球で形態学的には成熟赤血球に比しやや大型で,多染性を示し,ヘモグロビン含量が少なく低比重であることが知られているが,末梢血中で1日を経過すると内部構造が失われ成熟赤血球と区別できなくなる.
白血球数の増加は腫瘍性に増殖する白血病と反応性に増加する白血病以外の疾患に大別される.白血球は好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球より成るが,種々のサイトカインがこれら細胞の造血に関与することが知られている.colonystimulating factor(CSF)は顆粒球マクロファージ系の造血因子の総称である.図にヒトのCSFの作用機序を示すが,GM-CSF(granulocyte-macrophage-CSF),G-CSF(granulocyte-CSF),M-CSF(macrophage-CSF)の3種が骨髄移植例をはじめとした臨床例に試みられてその有用性が認められている1,2).
白血病以外の疾患,特に感染症や組織破壊性の疾患ではこれらの造血因子が産生され,未知の因子も含めて病巣の局所,および全身性に働き反応性に好中球数を増加させると考えられる.好酸球は主にアレルギー性疾患や寄生虫疾患において特徴的に増加する.好塩基球の増加は絶対数が少ないため直接算定法で算定しないと把握し難い3)が,慢性骨髄性白血病や粘液水腫,ネフローゼ症候群などで増加する.表1(1)に白血病を除く白血球増加の主な原因を列挙する.
血小板数の異常は表1に示すような疾患あるいは状態で起こる.
血小板減少の起こる機序は大きく,①産生の低下,②破壊の亢進,③脾の貯留に分けられる.産生の低下は幹細胞の障害(再生不良性貧血,急性白血病など)と成熟障害(ビタミンB12あるいは葉酸欠乏,不応性貧血など)に分けられる.
●異常をきたす疾患
1)臓器への浸潤を伴う疾患
①Eosinophilic syndrome
1,500/μl以上の持続性の好酸球増加と,心内膜,心筋,肝(Al-pの上昇のみ),脾,中枢神経,末梢神経,肺,消化管など全身への好酸球の浸潤を伴う.増加および浸潤している好酸球はいずれも成熟型で副腎ステロイドに大部分は反応する.
②好酸球性白血病 末梢血に未熟な好酸球が出現し,貧血,血小板減少を伴う.非常にまれな白血病であり,時にPh染色体の出現を伴う.
正常赤血球は両面なかくぼみ円盤形(bicon-cave disc shape)を呈し,その直径は6〜8μmである.塗抹(ギムザまたはライト染色)標本では立体感は失われるが,エオジンに染まったヘモグロビンは円盤の周辺に多く分布し,中央部には乏しいため,中央淡明(central pallor)を形成する.このような形,大きさ,染色性から逸脱したもの,あるいは内部構造の変化(封入体の存在)が形態異常としてとらえられ,診断を確立し病態を把握するうえで,重要な情報源となる.
このような形態異常は,骨髄内での赤血球産生過程(造血亢進,異常造血,ヘモグロビン合成障害)で,あるいは末梢血に出現した後に加わる種々の要因(機械的作用,化学物質,脾臓内微小環境,血漿成分の変化)によって生じる.したがって,形態異常は貧血,溶血などを裏づける検査所見となる.表に形態異常と疾患の関係を示した.
白血球形態を観察して得られる白血球分類はCBC(Complete Blood Count)の一部であり,入院時などのルーチン検査として利用されている.超音波や胸部X線写真を自分で見て判断するように,本来,白血球,赤血球,血小板を含む塗沫標本は医師自らが観察することが望ましい.自動血液検査機器の発達と普及,他の臨床検査の進歩,医療情勢の変化に伴って血球形態に対する認識や依存度が変化したとはいえ,血球形態は高価な機器を備えなくても顕微鏡さえあれば観察でき,しかも,それから得られる情報は依然多い.塗沫,染色が一定であれば標本だけからでも血球数の推定はある程度可能であるが通常,血球計数器などのデータ,正常白血球百分比(表1)1)(図)2)を参考にし,白血球形態を観察する.
TVの食品のコマーシャルで,「私,作る人.あなた,食べる人」というのがあった.臨床検査は今,測る人と読む人が異なっている.読む側が,測る側の方法やその苦労を知ることは病態解析をより円滑にしてくれる.
多くの検査室において正常白血球分類はギムザ染色標本を観察しない方法で行われている現状は,臨床病理学の医師以外には案外知られていない.これは自動血球計数器によるAuto-diff(自動機器分類)と呼ばれるもので,酵素化学的方式(テクニコン・H-1)と電子・光学的方式に大別される.このうち,市場占有率の高いのは後者であり,さらに後者には,3-part diff方式(粒度分布によるdiff)とその発展型である5-part diff方式に分けられる.
赤血球酵素活性の異常値を示す疾患は大別して,①遺伝性溶血性貧血,②溶血以外の赤血球異常を呈するもの,③血液疾患以外の疾患で赤血球酵素活性測定が診断に役立つもの,④後天性疾患の診断に役立つもの,に分けられる(表).ほとんどの場合,酵素活性低下を示す場合が問題となる.ただし,アデノシンデアミナーゼは例外で,活性低下は重症複合免疫不全症を呈するが,活性増加の場合もあり,この場合は遺伝性溶血性貧血をきたす.
赤血球酵素活性測定を必要とする疾患は,まず,遺伝性溶血性貧血で遺伝性球状赤血球症などの赤血球膜異常や不安定ヘモグロビン症などのヘモグロビン異常が否定され,なお原因不明の遺伝性非球状性溶血性貧血の症例があげられる.赤血球酵素異常による遺伝性溶血性貧血の原因となる酵素は表に示した15種が明らかになっている.
異常ヘモグロビンは遺伝的疾患であり,ヘモグロビンを構成しているα鎖または非α鎖(β,γ,δ鎖)の,①アミノ酸配列に異常をきたしたもの,および,②産生抑制をきたしたものをいう.
正常ヒトヘモグロビンは,5種類存在しており,胎児期から出生後にかけてα鎖の構造遺伝子は染色体#16の5'側からζ,α2,α1と並んでおり,β鎖の構造遺伝子は染色体#11上にε,Gγ,Aγ,δ,βと並んでいる.そして卵黄?造血期にはζ2ε2(Gower 1),α2ε2(Gower2)のヘモグロビンを産生しており,それから後はα2γ2(HbF)が主成分となり,出生を境にα2β2(HbA)が主成分となる.その他に微量成分としてα2δ2(HbA2)と成人ではHbFが存在する.
毛細管抵抗試験は,毛細血管に圧をかけ赤血球が血管外に漏れやすいかどうかをみることにより,毛細血管の抵抗を検査するものである.方法としては,吸引カップで皮膚に陰圧をかけて毛細管の抵抗をみる陰圧法と,マンシェットを用いて圧を加え,前腕からの静脈の血流を抑えて毛細管の抵抗をみる陽圧法(Rumpel Leede試験)がある.毛細血管の構造や透過性の要因の他に,血小板や線溶因子なども関与している.血小板,凝固,線溶検査が進歩した現在では,以前に比べ臨床的価値は低くなっているが,血管性出血傾向の数少ない簡便な検査として今なお用いられている.
一方,出血時間も古くから行われてきた止血検査であるが,出血の際に血小板が内皮下組織に粘着し,凝集・放出を介して血小板血栓を形成し一次止血を完了するまでの経過を総合的に把握できる検査として,現在も臨床的意義は大きいと考えられる.わが国では従来より耳朶を穿刺するDuke法が用いられてきたが,精度,再現性ともに悪く,一次止血における血小板-血管内皮細胞の反応を詳細に検討するには不適である.最近はこれに代わる方法として,40mmHgの駆血下に前腕の皮膚に一定の切創を加えるtemplate Ivy法,およびそれに準拠しディスポーザブルの器具を用いるSimplate法が採用されてきている.
血小板は止血,血栓形成,炎症などの反応において,粘着,凝集,各種物質の分泌(放出)反応,血餅退縮,凝固線溶の促進あるいは抑制など多彩な機能を果たす.それに対応し,各種の機能検査があるが,ここでは,血小板機能低下症の解析,また機能亢進を探る粘着,凝集能検査を中心に述べる.
部分トロンボプラスチン時間partial thromboplastin time(PTT)は,内因系および共通系凝固系異常の有無を総合的に判断する検査で,被検血漿にカルシウムイオンとリン脂質を加えてフィブリンが析出するまでの時間を測定するものである.本法では被検血漿中のXII因子などの接触因子群の活性化の程度が測定値に大きく影響して精度管理がきわめて難しいので,検体にセライト,カオリンなどを添加して接触因子を十分に活性化させて測定する活性化トロンボプラスチン時間(APTT)が広く用いられている.
プロトロンビン時間(PT)測定法は血漿に組織トロンボプラスチンとカルシウムを添加し,フィブリンが析出するまでの時間を測定するものである.この反応には第VII,第X,第V,第II因子(プロトロンビン)およびフィブリノゲンが関与するので,PTは外因性および共通性の凝固過程の異常を検出するもので,プロトロンビン活性だけを測定するものではない(図).凝固因子のうち第II,第VII,第IXおよび第X因子はもっぱら肝細胞で,ビタミンKの存在下に合成され,ビタミンK依存性凝固因子と総称される.
トロンボテスト1),ヘパプラスチンテスト2)の両者はプロトロンビン時間(PT)を改良したものであり,血液凝固系において外因系で働く因子,すなわち第II因子(プロトロンビン),第VII因子(プロコンバーチン),第X因子(スチュアート因子)の消長を総合的に測定することができる.これら3つの因子は肝機能障害や経口抗凝固薬の影響を受けやすく,したがって,トロンボテストは経口抗凝固薬のモニタリングに,ヘパプラスチンテストは肝機能検査として有用である.トロンボテストは内因系凝固系を活性化する血小板第3因子(リン脂質)とウシ脳から抽出した組織トロンボプラスチン,さらに内因性凝固因子群の供給源としてウシ吸着血漿の加わった試薬に試料を加え,Quickの一段法にて凝固時間を測定する方法である.ヘパプラスチンテストは原理的には前述のトロンボテストと同様であるが,トロボテストでは組織トロンボプラスチンがウシ脳由来であったのに対し,ヘパプラスチンテストでは家兎脳から抽出されるものを用いており,PIVKA(Protein inducedvitamin K absence or antagonist)の影響を除外できる.これによりヘパプラスチンテストはトロンボテストと併用することで次式に示すPIVKA様物質の量(Inhibitor Index)を検出できる.
フィブリノゲンは,分子量約34万の肝で産生される蛋白質で,凝固第I因子として知られている.この血漿中のフィブリノゲンが不溶性のフィブリンとなって析出すると血液は凝固する.このように,フィブリノゲンは血液凝固の中心となる蛋白質であると同時に,血小板凝集にも必要で,その代表的な生理作用は止血機構におけるものである.しかし,それ以外にも,創傷の治癒機転に関与したり,感染などの外的侵襲(急性炎症)の際に増加をみたり,加齢や妊娠によっても増加することから,生体の防御反応や妊娠の成立維持にも重要な役割をもつことが推測されている.
実際にどのような時にフィブリノゲン量の測定を行うかというと,出血傾向や血栓傾向のある場合にはスクリーニング検査としても必須で,出血や血栓の予測される病態の時にも検査をしておくべきである.その他,各種疾患のAcute phasereactantとして測定されたり,創傷治癒遅延のある時や,赤血球沈降速度の促進・遅延の原因のわからない時にも測定してみることが必要と思われる.
●トロンビン形成の証明
血管内にフィブリンを生じ,血管を閉塞すると,血栓症を生ずるが,フィブリンの形成にはトロンビンの存在が必要である.何らかの原因によってトロンビンを生ずると,生じたトロンビンは,フィブリノゲン分子を分解してフィブリノペプタイドA(FPA),フィブリノペプタイドB(FPB)を分離してフィブリンモノマーとなる.生じたフィブリンモノマーは互いに重合してフィブリンポリマーとなるが,重合が進んでフィブリンポリマーの分子量が大きくなると,水に溶けにくくなり血液中から固体として析出してくる.これが血液の凝固である.
血栓傾向の存在を証明できれば,治療上便利であり,この点,血管内にトロンビンを生じていることを証明することができれば理想的である.しかし,血管内に生じたトロンビンは,生じたフィブリンに急速に吸着され,また,アンチトロンビンIIIと血管壁のヘパリノイドの作用によって活性を失うので,直接血中のトロンビンを測定するのは不可能である.
血管壁は陰性荷電を帯びて血小板や白血球などの付着による障害を防ぎ,その内皮細胞にはプロスタサイクリン,プラスミノゲン・アクチベータ,トロンボモジュリンやグリコサミノグリカンズを産生して血栓の形成を抑制し,血流のスムーズな流動を維持している.アンチトロンビンIII(AT III)はグリコサミノグリカンズ(GAG)と複合体を形成して,凝固亢進によって血中に出現する活性型凝固因子(セリン蛋白分解酵素)のうち第Xa因子やトロンビンを強力に阻害してトロンビンによるフィブリン形成を抑制している.AT IIIの他にヘパリン-コファクタII(HC II)も同様に作動するがトロンビンのみを阻害する2).AT IIIはGAG(デルマタン硫酸,ヘパリン硫酸,コンドロイチンポリ硫酸,ヘパリン)(ヘパリンは微量にしか存在しない)のうちのデルマタン硫酸とは複合体を形成せず,HC IIはすべてのGAGと結合する.AT IIIの欠乏状態ではHCIIがこれを代替している.
AT IIIはGAGがないと第Xa因子やトロンビンを緩徐に抑制し(遅効性阻害),GDGが存在すると速効性(即時性阻害)に抑制するが,AT IIIの欠乏や異常による即時性阻害作用の欠如では凝固阻害に障害が惹起されて血栓症が併発される1〜3).これらを確認するためには生物学的測定法と免疫学的手技による抗原量を測定する.
血液凝固因子の異常による凝固障害症(coagulo-pathy)として,止血血栓における出血傾向と血栓傾向とがあり,その検索が行われる.
●線維素溶解機構
血液凝固の結果,フィブリンが析出し血栓が形成されると,フィブリンを溶解して血栓を処理(溶解)しようとする生理的反応が起こる.これを線維素溶解(線溶)という.すなわち,フィブリンが析出すると,循環血中のプラスミノゲンアクチベーター(血管内皮で産生され血中に放出されている)とプラスミノゲン(肝で産生される蛋白分解酵素原)が析出フィブリンに吸着され,フィブリン分子上で,プラスミノゲンがプラスミノゲンアクチベーターで活性化されプラスミンになり,プラスミンがフィブリンを分解する.その結果,フィブリン分解産物(FDP;他章参照のこと)が出現する.フィブリンが析出しない場合は,アクチベーター(ウロキナーゼや組織プラスミノゲンアクチベーター)を静脈内投与する血栓溶解療法や,アクチベーターが過剰放出された特殊な病態など以外では,通常,プラスミノゲンの活性化は循環血中では起こらない.この線溶の反応系が制御なく進行すると,止血のために損傷血管に形成された血栓(止血栓)も,損傷血管の修復以前に崩壊することになり,出血傾向が招来される.そこで,その反応を制御する機構が存在する.
FDPとはフィブリノゲンあるいはフィブリンのプラスミン分解(線溶)による数多くの分解産物の総称である.1分子のフィブリノゲンの分解では,X分画,Y分画を経て最終的には1分子のE分画と2分子のD分画が生成されるが,おのおのの分画にもプラスミン分解程度がわずかに異なるためいくつかの亜分画が存在している.一方,凝固過程でクロスリンクを受けた安定化フィブリンのプラスミン分解では,高分子の分解中間産物やDD/EさらにはDダイマーという終末分解産物が出現する(図).このFDPの出現は,直接に生体内に線溶現象が起きていることを意味するため,その測定はDIC,血栓症ならびに血栓溶解治療などの診断や経過観察に確固たる位置を占めるようになってきた.このためFDPの検出には各種の測定法が開発され,FDPの全体を半定量的に捉える方法や,より詳細な,病態把握や治療効果の判定を目的とした定量性あるいは分画特異性を有する方法などがある.しかし反面測定法により標準値も大きく異なるため,測定値を直接比較することが困難であるという問題がある.
血液の凝固性を総合的に把握し判定する方法として,従来からトロンボエラストグラフ(TEG;Thrombelastgraphy)が用いられている.この装置は,1948年に西独のHartertによって考案され1),血液凝固過程における弾性変化をトルジオンの歪みによって検知し,その変化を自動的に記録する装置である.測定の結果出来あがった記録図(トロンボエラストグラム)より,r(Reaction-zeit),k(Koagulationsgeschwindigkeit),ma(Maximale Amplitude),me(Maximum Elasfizifät)を計測する(図1).
rは内因性トロンボプラスチンの生成速度を示し,kはプロトロンビンのトロンビンへの反応時間を示すと考えられている.したがって,r,kは血液の凝固開始(内因系)からフィブリン形成までに関係する凝固諸因子,血小板由来の凝固関連諸因子,赤血球(全血の場合)などの諸因子の活性や濃度に依存する.また,kはmaと関連して,フィブリノゲン量や血小板数・機能の影響を受ける.maは血餅の強さを示し,血小板,フィブリノゲン,第XIII因子,赤血球(全血の場合)などの量や機能が関係する.
抗凝固剤を加えた血液をガラス管に入れて垂直に立て,赤血球の沈降で出来た血漿の厚さを計る方法である.正式名称は赤血球沈降速度erythrocyte sedimentation rate(ESR)検査であるが,赤沈あるいは血沈と呼ばれている.
赤血球抵抗試験は,種々の病因による赤血球膜異常に基づく細胞膜物性の脆弱性を検索する物理・生理学的検査法の総称である.
この赤血球膜物性の異常を検討する方法論として,1)対浸透圧変化,2)対shear stress変化,3)対加熱変化などが利用されている.したがって,この3項目にそれぞれ該当する検査法の概略を述べ,その臨床的意義に触れる.
●血液粘度と血液組成
血液は液体成分である血漿中に有形成分である血球(赤血球,白血球,血小板)を含む懸濁液であり,血球の体積百分率hematocrit(Ht)は40〜50%である.
静止状態において赤血球はbiconcaveの円板状で直径7〜8μm,中心陥凹部の厚さ1μm,周囲の最厚部は約2.4μmである.流血中では速度に応じて円板状から弾丸状に変形し,内径8μm以下の毛細血管内でも通過できるが,生食液中ではコンペイト状を呈し,弾性が低下する.一方,血漿中にはタンパク質や低分子の有気・無気物質を含んでいる.
C-reactive protein(CRP)は生体内で炎症などの傷害が起きた時,早期に上昇するいわゆる急性相反応蛋白の1つで,Ca2+存在下で肺炎球菌の菌体C-多糖体と沈降反応を起こすことから発見された.従来,CRPは健常者には全く存在しない異常蛋白として認識されてきたが,正常者血中にも微量存在することが確認されている.またCRPの機能としては補体の古典的経路の活性化,リンパ球の活性化,血小板凝集作用など免疫学的に合目的に作用することが知られてきた.現在インターロイキンII,VIなどのサイトカインとの関係を含め,その産生機構や代謝についても研究が進みつつある.
他の急性相反応蛋白が異常上昇に24時間以上を要し,数倍から数十倍であるのに対し,CRPはわずか数時間で数百倍の蛋白量の変化を示し,炎症の沈静化に伴い24〜48時間を半減期とし,速やかに減少するため,血球沈降速度(ESR)とともに,炎症の早期診断,スクリーニングおよび経過観察に広く用いられている.
●ASO,ASK,ADNB測定の臨床的意義
レンサ球菌は,A,B,Cなど18群に分類され,ヒトに感染症を起こすのは主にA群であるがC,G群も稀に病因となり,またB群は新生児の重症感染症の起因菌として知られている.A群はさらに約70種の菌型があり,4,12,20型などは腎炎起因株として知られている.
A群レンサ球菌は多くの菌体抗原,菌体外抗原を保有している.
寒冷凝集試験は低温下,通常4℃で赤血球凝集を起こす血清中の寒冷凝集素(cold agglutinin,以下CA)を調べる検査である.CAは赤血球膜抗原と低温で特異的に結合する自己抗体であるが,37℃で解離するので,正常者にみられるわずかな量では症状は起こらない.CA価が異常に高価な状態や反応温度域が高温側にずれると,溶血性貧血,循環障害,Raynaud症状などの臨床所見を呈する.
CA価の上昇する疾患には一次性のものとして特発性慢性寒冷凝集素症がある.その多くはCAがIgM-κの単クローン性であり,一部がIgM-λ,稀にIgA,IgGなどで起こる.二次性ではリンパ系造血器腫瘍に合併することがあり,単クローン性CAが腫瘍性異常クローン細胞に由来する例も示されている.感染症に続発するものはマイコプラズマ肺炎が最も有名であり,CA価上昇が補助診断法として役立っている.EBウイルス感染による伝染性単核症でもCA価が異常となる.感染症によるCAは一般に多クローン性である.表1にCA価が上昇する疾患を示した1).
ヒトより分離されるMycoplasmaは,12種が知られており,ヒトに病原性を示すのはMyco-Plasma Pneumoniae(以下M.pと略)のみであるとされてきたが,近年,Mycoplasma hominis,Ureaplasma urealyticumなども尿道炎,卵管炎などの泌尿生殖器疾患および流産などとの関連について検討されている.また,M.p感染症は,表1に示す通り,多彩な病像を示すことが明らかにされてきている1).
通常,マイコプラズマ抗体といえば,M.pに対する抗体を指すものであり,ここではM.p感染症であるマイコプラズマ肺炎を中心に述べる.
現在,日本の検査室で行われているトキソプラズマ抗体の検査法には,赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,螢光抗体法などがある.しかしこれらの方法は,厚生省の認める体外診断用医薬品を用いて検査するよう指導されているので,以前に比べると検査方法が限定され,検査結果相互の比較が可能になってきた.研究室レベルでは,この他,色薬試験,ELISAなどが行われている.
トキソプラズマは不顕性感染が多く,最近は日和見感染を起こす原因の一つとして注目されているが,抗体価と現疾患を結びつけることが困難な場合が少なくない.抗体の存在は,一般的には体内に抗原性物質があることを意味するが,感染が起こっても反応が陽性になるまで時間がかかり,病態と必ずしも並行するものではない.したがってトキソプラズマ抗体の測定は補助診断にすぎず,抗体価の意義付けに苦しむところであるが,1)色素試験で高値を示す,2)ペア血清の抗体価が4倍上昇あるいは下降する,というようなことが見られると,ほぼトキソプラズマ症を疑って良い.
●Clostridium difficileと偽膜性大腸炎
抗菌薬起因性大腸炎には,偽膜性大腸炎,急性出血性大腸炎,非特異的大腸炎の3病型が分類されている.これらのうちClostridium(以下C. )difficileは,偽膜性大腸炎の主要な病原菌として注目されている.抗菌薬投与により一種の菌交代症としてC. difficileが腸管内で異常増殖し,多量の毒素を産生(ある種の抗菌薬は毒素産生を促進)し,偽膜性大腸炎が引き起こされると考えられている.ほとんどすべての抗菌薬が誘因となるが,リンコマイシン,セフェムおよびペニシリン系抗菌薬に伴う症例が多い.
急性扁桃炎,咽喉頭炎は小児,成人がしばしば罹患し,多くはウイルス感染症で約10〜20%が細菌,マイコプラズマである.細菌感染の最も主要な原因菌はA群β溶血性レンサ球菌(A群溶連菌)であって,A群溶連菌の診断,治療が最も大切である.筆者の成績では中等症,重等症ではA群溶連菌は75%の検出率であり,慢性から急性扁桃炎まで種々の症例では17%の検出率である.
A群溶連菌は急性糸球体腎炎やリウマチ性心疾患の原因となりうるので,A群溶連菌かそれ以外であるかを早く診断し,10〜14日間のペニシリン系抗生物質の投与が必要である.従来から実施されている細菌培養検査は菌の同定から薬剤感受性検査が判明するまで3〜4日が必要で,一般の診療所では設備の関係から自分で行うことは難しい.
●梅毒血清反応の種類
Wassermanが1906年に開発した歴史の古い検査で,その後改良され,新しい術式も多く生れてきたが,表1は現在わが国で常用されている検査法である.脂質(Cardiolipin)抗原を用いる通称STS(serologic test for syphilis)とTP(Treponema pallidum)抗原を用いる検査法に大別される.
また,近年,梅毒IgM抗体を検出する検査法も開発されている.
●HTLV-Iの特徴と疫学
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)によって引き起こされるATL(adult T cell leukemia,成人T細胞白血病)は高月らにより日本で発見された白血病の一種である1).ATLは日本の南西地域に多く見られ,発症すると治療薬がなく,ほとんどが1年未満で死亡する.HTLV-IはAIDSの原因ウイルスであるHIVと同様レトロウイルスに属するが,HIVが細胞破壊性であるのに対して,HTLV-Iは長期間,宿主のリンパ球に組み込まれキャリアとなり,1,000〜2,000人に1人の割合で腫瘍化するHIVとは全く別のウイルスである.
20歳代から70歳代の成人に発症し,特に45歳代で発症率が高く,性差はほとんどない.日本の南西部が多発地域で,カリブ海沿岸とアフリカの一部に見られる.
●AIDSの免疫血清学的特徴
AIDSは原因ウイルスであるHIVに感染してから発病までに数カ月から数年かかり,現在のところ残念ながら発病後治癒した報告例は見当たらない.このウイルスに感染すると,ウイルスと抗体が共存し,終生この状態を持続する.ウィルスと抗体が共存しているため,免疫学的方法で抗原を検出するのは非常に困難であり,一般的にはHIV抗体を検査して感染を推測している.HIVに感染してから抗体が検出されるまでに平均6〜8週間かかるといわれており,症例によってはウイルスが分離されてからHIV抗体が検出されるまでに約3年かかった例1)がある.
HIVの感染経路は血液,精液などからであり,B型肝炎に比べ感染力が弱いので,思い当たる行為がなければ感染は考え難い.
近年,STD中最も頻度の高い疾患として非淋菌性尿道炎・子宮頸管炎が注目されてきている.その病原体のうちChlamydia trachomatis(CT)が最も重要なものとして挙げられている.CTはまたSTDとしての鼠径リンパ肉芽腫症を引き起こす.単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus,HSV)は1型と2型があり,STDとしての陰部ヘルペスおよび口唇その他の単純ヘルペスを引き起こすほか,非淋菌性尿道炎の原因ともなり得る.
CTおよびHSV感染の診断としては,1)病巣から病原体であるクラミジア,ウイルスを分離すること,2)病巣からの細胞塗抹材料にクラミジア抗原,ウイルス抗原を検出すること,3)血清学的に有意な抗体上昇を認めること,などが挙げられる.
伝染性単核症(IM)はEBウイルス(Epstein & Barr,1965)によって引き起こされる疾患で,発熱,咽頭痛,扁桃炎,全身のリンパ節腫脹,肝・脾腫,肝機能障害,特有の異型リンパ球(Downy細胞)が出現する.このとき日本では大多数において患者血清はヒツジ赤血球を凝集し,しかもこのとき患者血清をモルモット腎抽出液で吸収しても,ヒツジ赤血球の凝集素価は変わらない.この異好抗体の一種であるPaul-Bunnel(P-B抗体)は,IMの重要な診断根拠であるが,日本人では本抗体は上昇しない.したがって,日本人のIMの診断は異型リンパ球(Downy細胞)の証明が重要となる.日本人のIMでP-B抗体価の上昇しない理由はおそらく免疫応答遺伝子の問題と考えられるが,明瞭ではない.日本人のIMの診断には,その他,EBウイルスのIgM抗体価の上昇が重要な診断根拠となる.
表1に異好抗体であるForssman,P-B,H-Dの3種類の抗体のヒツジ赤血球,ウシ赤血球,モルモット腎抽出液の反応態度を示した.モルモット腎抽出液はForssman,H-D抗体とは反応するが,P-B抗体とは反応しない.これを用いたのがP-B抗体証明のためのDavidsohnの吸収試験である.すなわち,P-B抗体はモルモット腎抽出液では吸収されない性質を持っていることで,Forssman抗体やH-D抗体と区別される.
血清中のウイルス抗体価を測定することは,採血した時点での特定のウイルスに対する自然感染,ワクチン既往歴を過去に振り返って追跡することにほかならない.したがって,多くの臨床検査項目で決められているような正常値,異常値という概念はウイルス血清抗体価の評価にはそぐわない.血清抗体測定の目的は,1)感染ウイルスを診断する,2)特定のウイルスに対する免疫状態を診断する,という2つであるが,検査に際しては,複数の血清(ペア血清)を用いる場合,単一の血清で診断する場合,の2つがある.
●風疹ウイルスについて
風疹ウイルスは,Toga virus科,Rubi virus属の非節足動物媒介ウイルスで,ヒト→ヒトの感染経過をたどると考えられている.ゲノムにsingle strand⊕ RNAをもち(図11)),capsidは正20面体構造をし,リピッドのenvelopeをもった中型のウイルス(60nm)である.ゲノムは他のpositive strand virusと同じように,mRNA構造をし,その3′末満の約1/3に,5′側からc(capsidを作る.),E2(envelopeの糖蛋白の1つを作る.E2aとE2bに切断される.),E1(同じくenvelopeを構成する糖蛋白の1種を作る.赤血球凝集能があるとされている.)の3遺伝子が存在すると考えられている.ゲノムRNAの分子量からして,他に2〜3の遺伝子の存在が考えられるが,5′末端側の解析が遅れている.RNA replicaseを合成するための遺伝子(1〜2遺伝子)を除いても末だ1〜2遺伝子の存在が予測される.
妊娠初期の婦人が感染すると先天性畸形が起こることは良く知られているが,畸形発生と関連する遺伝子(催畸遺伝子とでも言うべき)が,この中に存在するかどうか興味のあるところである.
B型肝炎ウイルス(HBV)は一過性感染(急性肝炎,劇症肝炎など)や持続感染(無症候性キャリア,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌など)において種々の病態と関係する.HBV関連マーカーとしては表に示したような免疫血清学的マーカーやウイルス学的マーカーが知られている.
A型肝炎は発症前後の時期における患者糞便中に排出されるA型肝炎ウイルス(HAV)が感染源となり,経口感染によって伝播する.いったん患者が発生すると,家族内,地域,集団などにおいて二次感染,三次感染と順次感染が拡大して,時に大規模な流行に至る場合もある.したがってA型肝炎は早期に診断し,多発を防止しなければならない.
A型肝炎の診断は,血清学的にHAVに対する抗体(HA抗体)を測定することによりなされる.定型的なA型肝炎の臨床経過とHAVに関連する抗原抗体系の推移を図に示した.
血液型は,既知および未知の血球と血清の間の凝集反応によって判定を行うのであるから,その凝集塊発生の時間的,量的な異常が,血液型検査での異常である.その典型がABO式血液型における,おもて検査とうら検査の判定の不一致であるが,そのほかにも稀な血液型の判定の過程,あるいは血清蛋白の変化に伴う凝集異常などが見られる.
免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)は抗体分子の総称で,5つのクラス(IgG,IgA,IgM,IgD,IgE)があり,それぞれに2つのタイプ(κ,λ)がある.さらにIgGとIgAについては,それぞれ4種と2種のサブクラスが区別される(表1)1).Igは抗体であるから,抗体産生系の異常(腫瘍,免疫不全症,自己免疫疾患,感染症など)に際して変動する(表2).Ig異常の正確な評価には,各Igの性状・機能についての正しい理解が大切である.
血清IgE量の異常を示す疾患を表1にまとめた.
1.異常高値を示す疾患
代表的なものがアレルギー性疾患で,アレルギー性アスペルギルス症,アトピー性喘息,アトピー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎などで高値を示す.アレルギー性アスペルギルス症はI型,III型およびIV型のアレルギーが発症に関与しているが,IgEは著明な高値を示す.アトピー性喘息やアトピー性鼻炎では減感作療法を行うと初期には一時IgEは増加するが,その後,徐々に低下する.
β2-マイクログロブリン(以下,β2-mと略)は分子量11,800の低分子蛋白であり,HLAクラスI抗原のL鎖の構成成分として全身の有核細胞に存在している.
β2-m測定の臨床的意義はひとことで言って,血清,尿中濃度の上昇を指標として,腎糸球体尿細管障害の検定,悪性腫瘍,感染症,膠原病など生体内の異常をスクリーニングし,多発性骨髄腫,慢性リンパ性白血病などでは,予後の推定,治療効果の判定に用いられる.
補体とは約20種類の酵素系蛋白の総称で,生体の免疫反応の過程で活性化され,種々の生物活性を現す反応系である.補体の活性化には,主として抗原抗体複合物によってC1(C1q,r,s),C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8,C9の順に活性化が進む古典的経路(classical pathway)と,微生物由来の多糖体などによりC1,C4,C2を介さず,直接C3が活性化される第二経路(alternative pathway)がある.補体を構成する蛋白としては,両経路に関与する成分の他に,C1 esterase inhibitor(C1 INH),Factor I,Factor H,C4 binding protein(C4 bp)などの制御蛋白がある.
抗体により感作されたヒツジ赤血球(EA)はC1を活性化し,その結果,赤血球膜上で次々と補体成分の活性化が生じる.C9まで補体成分が反応すると,細胞膜に孔があき溶血する.この原理により測定されるのが補体価(CH 50)で,1CH 50とは,7.5ml反応液中に存在するEA 5×108個の50%を37℃,60分間で溶血させるのに必要な補体量のことである.C1からC9にいたる活性を総合的に反映する補体価は,補体系異常を知るスクリーニング検査として広く用いられている.
免疫複合体は健康人では通常存在しないので,検出された場合は異常である.異常値,すなわち免疫複合体が検出されうる疾患には,それが原因であれ,結果であれ,表に示すごとく多数のものが報告されている.
しかし,これらの疾患すべてで必ず陽性であるとは限らず,その病態,病状とともに,検査法によっても成績が左右されることを認識すべきである.
以前,単一細胞と思われていたリンパ球の中に,種々の役割の異なる細胞集団(サブセット)があることが判明し,それらサブセットと各種疾患との関係が次第に明らかとなってきた.リンパ球サブセットの中には,大きく分けて,胸腺の中で分化成熟するTリンパ球と,それ以外の場所(骨髄,扁桃などが示唆されているが未確定)で分化成熟するBリンパ球とに分けられる.Tリンパ球は主として細胞性免疫を,Bリンパ球は液性免疫を司り,お互いに密接な関係を保ちながら免疫機構を制御している.
T,Bリンパ球分画を検索するのに,従来は,Tリンパ球であれば,ヒツジ赤血球がヒトのTリンパ球に特異的に付着する性質を利用したEロゼット形成試験,Bリンパ球であれば,ポリクローナルな抗免疫グロブリン抗体を用いた細胞表面免疫グロブリンの検索,もしくはBリンパ球のFcレセプターによるEAロゼット形成試験,補体レセプターによるEACロゼット形成試験が主として用いられてきた.しかし最近ではヒトのTリンパ球,Bリンパ球に対するモノクローナル抗体が数多く作製され,螢光標識したモノクローナル抗体と,それを実際に分析するフローサイトメーターとにより,以前に比べ客観的な結果が比較的手軽に得られるようになったため,現在では以前のロゼット法などの方法にとってかわってモノクローナル抗体による方法が使われるようになってきた.
リンパ球には抗体産生,リンホカイン産生,細胞傷害,免疫調節といったさまざまの機能があり,リンパ球の機能が保全されているか否かを評価するには,それらを個々に測定するのが望ましいが,一般検査としてすべてを取り上げるには難がある.リンパ球が機能を果たすには通常まず増殖反応を起こすので,それが正常かどうかを把握することが基本である.リンパ球増殖反応(芽球化反応)は古くから広く行われてきた検査である.T細胞からのリンホカイン産生能を総合的に簡便に知る方法として皮膚遅延型過敏反応惹起能をみることがすぐれている.細胞傷害活性についてはNK(K)細胞活性が比較的簡単に測定できる.以下それらについて述べる.
●白血球膜抗原(表面マーカー)に対するモノクローナル抗体(MoAb)
従来,白血球に関する臨床検査は顕微鏡で観察し,数を算定したり,あるいは形態や染色性などの所見から細胞を同定するということに限られていた.しかしこれらの臨床情報は主観的であり,またしばしば不完全でもあった.ところが1970年代後半より細胞融合技術を用いることによって,白血球などの膜抗原に対するMoAbが作られ始め,これらを利用することによって白血球を機能を異にする亜分画に分別して定量したり,細胞由来や分化段階を同定することが可能になってきた.
現在までに作製されてきたMoAbは膨大な数にのぼるが,「ヒト白血球の分化抗原に関する国際ワークショップ」で検討され,CD分類法によって表示されている.すなわち,同一特異性を有するMoAbによって認識されるエピトープをClusterof differentiation antigenの略語CDを冠した番号で示すという統一命名法が決定された1).表1に主なる膜抗原のCD番号,分布や,それを認識するMoAbを示した.
食細胞,なかでも好中球は,生体に侵入した化膿菌を補体,抗体などの液性因子との相互作用によって非特異的に排除する.食細胞の主役は好中球で,その機能は,1)血管内皮細胞への付着および血管外への遊出,2)化学走性(走化)とランダム運動,3)オプソニン化された異物の貪食,4)細胞内殺菌,に大別される.これらのどの過程に異常があっても好中球機能は全うされず,易感染や難治性感染に陥りかねない.
好中球の機能不全を疑った場合,量的,質的検索とともに,体液成分の検索も行わなければならない.
1987年に行われた第10回HLAワークショップと会議の後のWHO国際HLA命名委員会で討議合意に達したHLA抗原の名称は表1のごとくである.
いわゆるクラスI抗原(T・B細胞・血小板膜に存在・HLA-A,B,C抗原)とクラスII抗原(B細胞・単球上に存在・活性化T細胞に出現するが血小板上には認められない.HLA-D,DR,DQ,DP抗原)に最近ではHLA抗原を分けて考えている.
抗核抗体はAntinuclear Antibodiesの頭文字をとって,ANAと略されることが多い.これは真核細胞核内の抗原物質群に対する,多種類の抗体群の総称である.膠原病患者血清中には,高率にANAが検出される.その中心的疾患は全身性エリテマトーデスであるが,膠原病各疾患にも広く分布している.
核内の抗原は多彩であり,その抗原特異性に従ってANAは個々の特異抗核抗体に分類される.核内の抗原性物質には生理的溶液(PBSなど)に可溶性のものと,不溶性のものとがある.このため溶液内の免疫学的反応では,多数のANAの中のごく一部しか検出することができない.
抗DNA抗体の検査は,全身性エリテマトーデス(SLE)の診断をすすめるうえで有用性がある.アメリカリウマチ学会による1982年改訂のSLE分類基準には,抗DNA抗体の検査が新しく基準項目の中に追加された.この時の根拠となったデータでは,抗DNA抗体はSLEの113/168(67%)に検出された.同時に測定した非SLE対照例における陽性率は7/91(8%)であった.このためSLEを分類する感度(67%)と特異度(92%)にすぐれた指標として,基準に採用されたのである.
ただしこの場合の抗体は,とくに抗nativeDNA抗体と指定してある.DNAに関して抗原決定基となりうる成分には,1)一次構造の塩基部分,2)デオキシリボースと燐酸により構成される骨格構造(二次構造部分),3)ヌクレオチド鎖のつくる高次構造,の3種がある.
ENAはExtractable Nuclear Antigensの略で,可溶性核抗原と訳される.MCTD(混合性結合組織病)を提唱したG. C. Sharpらは,高い抗体価の抗ENA抗体をMCTD患者血清中に証明した.
本抗体は受身血球凝集反応によってENAを感作した羊血球を凝集する抗体として見いだされたため,抗ENA抗体と呼ばれるようになった.抗体価は数千倍から数万倍以上となることが多い.この感作血球をRNaseで処理して再検査すると,抗体価が有意に低下する血清と低下しない血清とがある.血清によっては反応が陰性となるものもある.このような抗体価の低下のみられる血清中の抗体は,RNase感受性ENA抗体と呼ばれた.これに対して抗体価の有意の低下のみられない抗体は,RNase抵抗性ENA抗体と呼ばれた.RNase処理血球との反応が完全に陰性となる抗体は,RNase感受性抗体の単独陽性例と呼ばれた.
抗血小板抗体には血小板自己抗体と血小板同種抗体の2種類がある.血小板自己抗体は自己免疫疾患の一つである特発性血小板減少性紫斑病(以下,ITP)患者にしばしば認められるもので,患者自身の血小板にも反応する抗体である.一方,血小板同種抗体は輸血や妊娠により産生されるもので,他人の血小板に対する抗体であり,抗HLA抗体や血小板特異抗原に対する抗体が含まれる.本稿では,主として血小板自己抗体につき解説する.
LE細胞とはRomanovsky染色上観察される赤紫色の無構造体(LE体)を貪食した好中球を指し,この細胞が見いだされる現象をLE細胞現象という.
本細胞は1948年,Hargravesらにより全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus;SLE)患者の骨髄塗抹標本中に最初に発見された.白血球核成分と自己抗体との間に起こった抗原抗体反応を,白血球が処理する過程として形態的にとらえられているものである.
リウマチ因子,またはリウマトイド因子(rheumatoid factor;RF)は,慢性関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)患者血清中に高頻度に出現するIgGに対する自己抗体で,ヒトIgGのみならずウサギなど他種の動物のIgGとも反応する.
IgGの抗原としての反応部位はH鎖のFc部分にあり,未変性のIgGよりも変性重合したIgGおよび抗原抗体結合物を形成するIgGと強い反応性をもつ.RFの大部分はヒトIgGおよびウサギIgGの両者と反応するが,ヒトIgGとのみ反応するRF,ウサギIgGとのみ反応するRFなど少なくとも3種のRFが存在する.RFの免疫グロブリン(Ig)クラスとしては以前はIgMとされていたが,最近ではIgG,IgA,IgE,IgDのすべてのクラスに属するものが知られている.それぞれの臨床的意義については種々論じられているが,いまだに解明されていない点が多い.
●クームス試験の原理と意義
クームス試験(抗グロブリン試験)には直接クームス試験(DAT)と間接クームス試験(IAT)がある.
DATは赤血球表面が不完全抗体(および/または補体)によってコートされているかどうかを検査するもので,検査対象は(in vivoで感作された)赤血球である.
自己免疫性甲状腺疾患,すなわちバセドウ病,橋本病においては,種々の抗甲状腺自己抗体が血中に存在する1).現在わが国では,そのうちの抗サイログロブリン抗体と抗マイクロゾーム抗体が,日常検査として受身凝集反応法で測定され,自己免疫性甲状腺疾患の診断にきわめて有用と考えられている1,2).従来よりタンニン酸処理赤血球(tanned red cell)の凝集反応によって測定される抗サイログロブリン抗体がTRC抗体と呼ばれてきたが,抗マイクロゾーム抗体の測定もTRC法であり,筆者らは,前者をTGHA,後者をMCHAと略しており,現在国際的略号として定着している2).その後,赤血球の代わりに人工的粒子が開発されたが,測定結果に変わりはない.最近,英国のスミスらにより,ラジオイムノアッセイによるこれら自己抗体の測定法がキット化されているが,今後普及していくものと考えられる.
自己免疫性甲状腺疾患患者血中には,種々のタイプの自己抗体が存在する1).これらのうちTSHレセプター抗体(TSH receptor antibody,TRAb)は,バセドウ病における甲状腺機能亢進症および一部の甲状腺機能低下症の発症原因と考えられ,その測定は疾患の診断および経過観察には不可欠である1).
TRAbの測定法については,従来さまざまな方法が開発されてきた.初期のMcKenzieのbioassayに加えて,ヒト甲状腺スライスを用いたadenylate cyclase活性やcAMPの上昇,あるいはcolloid droplet形成などを指標としたstimulation assay法と,TSHレセプターへの標識TSHの結合阻害を指標としたradioreceptorassay法などが開発されてきた1).そして後者の測定法は,英国のスミスらによりキット化され,わが国でも次第に多く用いられつつある1,2).このキットで測定された抗体が一部ではTRAbと呼ばれているが,ラジオレセプターアッセイで測定した抗体であることを明示するため,TBII(thyrotropin-binding inhibitor immunoglobulin)と呼ぶべきであると考えられる.以下,TBIIについて述べる.
健康成人および小児の血清α-fetoprotein(以下,AFP)は10ng/ml未満である.乳児の血清AFPは,出生直後がもっとも高値で数万〜10万ng/mlで,その後漸減し,生後9カ月前後で10ng/ml未満に達する.したがって,生後10カ月以降の健康人の血清AFPは10ng/ml未満であり,異常値は10ng/ml以上である.
AFPは原発性肝細胞癌と卵黄嚢腫瘍(ヨークサック腫瘍)のすぐれた腫瘍マーカーである.原発性肝細胞癌および卵黄嚢腫瘍患者の血清AFPは著しく高値のことが多い.この2疾患以外に血清AFPが異常値を示す疾患として,胃癌,膵癌などの消化器癌,特に転移性肝癌,良性疾患としては急性および慢性肝炎,肝硬変症,乳幼児期の疾病として乳児肝炎,肝芽腫,転移性神経芽細胞腫,肝間葉性過誤腫,肝血管腫,先天性疾患として先天性胆道閉塞症,チロシン血症,ataxia telangiectasia,さらに妊娠などが挙げられる.
血清AFPが異常値を示す場合,血清AFP値の程度によって疾患を考える必要があるが,高濃度異常値(2,000ng/ml以上),中濃度異常値(2,000〜200ng/ml),低濃度異常値(200〜10ng/ml)別の各疾病を表1に示した.
CEA(carcinoembryonic antigen)は糖を40〜60%含む分子量18〜20万の糖蛋白で,消化器癌を中心に広く腫瘍マーカーとして血清診断に応用されている.最近,CEAの遺伝子クローニングの成功により,その一次構造が判明し,Ig super-gene familyに属していると考えられ,複雑な糖鎖構造も解明されつつある.
近年,癌細胞の抗原の研究がモノクローナル抗体を用いた方法によって大きく前進した.その結果,いくつかの抗原が実地臨床において癌の血清診断に活発に応用されるに至っている1-3).
これらの抗原の生化学的本体は,いずれもムチン様の糖蛋白質抗原であり,用いられている抗体の認識する抗原エピトープの構造から,1型糖鎖を認識するもの(CA19-9,CA-50,SPan-1,KM01,2D3シリーズなど),2型糖鎖を認識するもの(シアリルSSEA-1,CSLEX-1など),母核糖鎖を認識するもの(CA72.4,シアリルTnなど),構造不明の糖鎖またはコア蛋白部分と考えられるもの(CA15-3,CA125など)にそれぞれ分類されている4-6).
●その他の腫瘍マーカー
表1に現在一般診療で汎用されている腫瘍マーカーを示した.これらのマーカーの中には臓器特異性が高く,特定の臓器腫瘍の診断に役立っものと,臓器特異性が低いが,癌の存在診断には役立つものがある.
臓器特異性の高いマーカーとしては,AFP,PIVKA-II,CA19-9,Du-Pan-2,SLX,NSE,SCC,CA125,CA15-3,PAP,γ-Sm(γ-seminoprotein)などがあげられる.これらのなかで,AFPとCA19-9については他の項で詳述されるのでここでは省略する.
ヒト血漿中には少なくとも100種類以上の蛋白成分が存在するが,それらの量的ないし質的異常をきたす病態を血漿蛋白異常plasma proteinabnormalitiesと呼ぶ.それらを発見するためのスクリーニング検査としては,血清総蛋白量とセルロースアセテート電気泳動による血清蛋白分画があげられ,またIgGやCRPなどの定量法もよく利用されている.
ここでは血清総蛋白量と血中濃度mg/dlレベルの比較的濃度の高い蛋白成分の主なものについて述べることとする.
蛋白の日常検査に用いられている電気泳動にはセルロースアセテート電気泳動による蛋白分画法(CAEP)と免疫電気泳動法(IEP)がある.
CAEPにより血清蛋白は陽極側よりアルブミン,α1,α2,βおよびγの5分画に分けられる.各分画の変動は病態によって比較的特徴ある異常パターンが認められ,疾患の診断ならびに病態の把握に役立っ情報が得られる.
1.高血糖を来す疾患
1)糖尿病 膵ランゲルハンス島のインスリン産生細胞(B細胞)が破壊されてインスリン分泌が不足するインスリン依存性糖尿病(IDDM),およびインスリン分泌B細胞と標的細胞にグルコースに対する感受性の低下が生じるインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)に高血糖が最も生じやすい.
2)その他の遺伝的疾患 糖尿病は遺伝性疾患であり,他の内分泌系遺伝性疾患の一環であることもありえる.膵島B細胞の破壊(膵島炎)は自己免疫機構の破綻によるとの考えが有力であるが,成長ホルモン単独欠損症,汎下垂体機能低下性小人症,多発性内分泌腺症が膵島炎を伴う.嚢胞性線維症やSchmidt症候群は膵島炎のみでなく膵変性を伴う.神経変性を伴うFriedreich失調症,染色体異常症を伴うDown,Turner,Kleinfelter症候群,視神経萎縮・糖尿病症候群などもIDDM併存に近い存在である.
●Glycation
蛋白と糖の非酵素的,非特異的結合反応であるglycationはMaillard反応とも言われ,hemoglobin(Hb),血清蛋白など生体内の種々の蛋白に生ずる反応である.最近,これらHb,血清蛋白のglycationが血糖コントロールの指標として臨床に応用されてきた.
通常のHbであるHbAOに対してHbに糖の結合したものをHbA1(グリコヘモグロビン)と名付け,これをカラムクロマトグラフィーで分離すると,HbA1a,HbA1b,HbA1cに分けることが出来る.HbA1の大部分をHbA1cが占め,血糖の変化に最も敏感に反応するため,糖尿病の臨床ではHbA1cがHbA1の代表と考えられてきた.
ピルビン酸,乳酸の正常値と異常値を表に示す.
1)循環不全
心不全の程度に応じて血中乳酸,ピルビン酸が上昇する1).ショックの際,乳酸値は予後の指標として重要とされる.しかし,乳酸の上昇が急性かつ一過性の場合は,この限りでない.したがって,予後判定には治療に対する反応性を検討することも重要である.また,ショック状態でも肝血流が保たれているとき(たとえばエンドトキシンショックのとき)は,末梢組織の酸素欠乏にもかかわらず,血中乳酸はそれほど上昇しないことがあるので注意する.
●シアル酸とは
シアル酸(sialic acid)は,1936年Blixらによって顎下腺のムチンから結晶状に単離された.単一の物質ではなく,ノイラミン酸とよばれるカルボキシル基をもつ糖の,一連のアシル誘導体の総称である.15種類以上のものが知られているが,正常なヒトの体内に認められるシアル酸はほぼ100%がN-アセチルノイラミン酸(NANA)である.
1)高コレステロール血症
高コレステロール血症は,本態性(家族性の意味も含め)と続発性に大別される.本態性高コレステロール血症が動脈硬化のリスクファクターであることは,疫学的にも実験的にも確認されている.とくに冠動脈硬化性疾患はコレステロール値が高ければ高いほど,その発症率も高くなることが疫学的調査(Framingham Study)で明らかにされている.
総コレステロールの約3/4は低比重リポ蛋白(LDL)に含まれており,LDLコレステロールが血管壁に蓄積されるメカニズムが実験的にはかなり解明されつつある.
血清中性脂肪(Triglyceride;TG)が異常値を呈する疾患を表に示す.
原発性代謝異常としては,家族性複合型高脂血症,家族性高TG血症の2つが比較的頻度が高く,0.5〜1.0%に認められる.
●異常値を示す疾患(表1,2)
遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA,またはnon-estrified fatty acid;NEFA)の血中での半減期(turnover)は1〜2分といわれており,他の脂質成分に比べて血中での含有量は微量ではあるが,その代謝活性はきわめて高く,脂質代謝のみならず糖代謝,内分泌性の影響を敏感に受け,生理的条件の変化によっても大きく変動するので,その臨床的意義の解釈には注意が必要である.
血中FFAは脂肪の水解より生成され,脂肪組織のトリアシルグリセロールの水解もしくは筋,肝組織などへの血中トリアシルグリセロールの吸収の際にリポプロテインリパーゼ(LPL)の作用により血中に存在する.この脂肪の移送時には,種々のホルモンが関与することが知られている.水解促進効果のあるホルモンとしてはACTH,MSH,GH,TSH,グルカゴン,エピネフリン,ノルエピネフリン,抑制効果のあるものとしては糖,インスリン,プロスタグランジンなどがある.FFAの代謝動態を図に示す.
生体において,組織を中心に脂質の過酸化が起こることが知られ,とくに血小板凝集,プロスタグランジン生成,動脈壁内,白血球などが臨床的に注目されている.近年,動脈硬化発生に果たす低比重リポ蛋白(LDL)の変性などは,一部は動脈壁内で酸化を受けることにより生ずると考えられている.
これら局所の変化がどの程度血中に影響するか問題であるが,従来から過酸化脂質を血中で測定しようという努力がなされていた.しかし直接それぞれの過酸化脂質を測定するのではなく,チオバルビツール酸(TBA)と反応して生じたマロンジアルデヒドを測定して,その値としていた.
脂質代謝異常症の診断を行うには,通常スクリーニング検査として血清中の総コレステロール,トリグリセリドおよびHDL-コレステロールの測定を行う.そしてスクリーニング検査で何らかの異常が認められた場合に,リポ蛋白検査が行われる.
高比重リポ蛋白(high density lipoprotein;HDL)が動脈硬化性疾患で低下することは以前から推察されていたが,リポ蛋白分析法の不完全さや動脈硬化促進因子としての低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL)の重視によって,それほど注目されていなかった.しかし,1975年にMillerらによって虚血性心疾患でHDLコレステロール(HDL-C)が低いことが示され,その後Framingham studyなどによって低HDL-Cが冠動脈疾患の独立した危険因子であることが統計的に証明されてから,HDLの増減が注目されるようになってきた.
しかし,これらはすべて疫学的な証明であり,HDLが動脈硬化進展防止において,いかなる役割を果たしているかは必ずしも完全に解明されているわけではない.ただHDLがいわゆるコレステロール逆転送系に重要な働きをしていることは確実であろう.
脂質は疎水性であるため,血漿中では遊離脂肪酸を除き特異的なアポリポ蛋白と複合体を形成し,リポ蛋白として存在している.したがって,脂質代謝異常の病因や病態を理解するためには,その蛋白部分であるアポリポ蛋白に関する情報を必要とする場合が多い.とくに虚血性心疾患の発症や進行に関しては,血漿脂質(コレステロールや中性脂肪)よりもアポ蛋白(アポAやB)との相関が強いという疫学調査結果もあり,アポ蛋白からの解析を行わなくてはならない.それは組織への脂質の沈着は,アポ蛋白の脂質転送能と密接に関係するからである.現在サブクラスを含めて20種類あまりのアポ蛋白が知られているが,そのうち主要なアポ蛋白の種類ならびに正常値,機能などを表1に示した.
Lecithin:cholesterol acyltransferase(LCAT,EC 2.3.1.43)は肝臓で合成され,血流中に分泌される分子量65,000~69,000の糖蛋白酵素である.血流中に分泌されたLCATは高比重リポ蛋白(HDL)表面に存在し,レシチン(ホスファチジルコリン)のsn-2位のアシル基(脂肪酸)をコレステロールの3β-OH基に転移させ,エステル型コレステロールとする.このエステル型コレステロールは一部VLDL,IDLに移行するが,大部分は原子型HDL(nascent HDL)内に蓄積され,HDLを成熟型とする.この成熟型HDLはアポEレセプターを介して肝臓に取り込まれる(HDL-LCATシステム,図).
このように,LCATは末梢組織から肝臓への“reverse cholesterol transport”に重要な役割を果たしている.なお,LCAT活性発現にはHDLの主要アポ蛋白であるアポA-Iがcofactorとして重要な役割を果たしている.
尿素は主に蛋白代謝の最終産物として,肝臓で生成され,腎を通して排泄される.したがって血清中の尿素(以下,尿素窒素BUNと表現)値は,摂取蛋白や異化蛋白量と,尿中へのBUN排泄能との均衡により左右される.BUN異常値を示す疾患を表にまとめた.BUN0〜10mg/dl程の異常低値を示す疾患としては,低蛋白食摂取や尿素生成の阻害,蛋白同化作用の亢進によるもの,その他があるが,実際少ないケースである.
一方,BUN上昇の疾患は,各種の腎疾患を中心に,比較的軽度の上昇を示す腎前性および腎後性の高尿素窒素血症がある.BUN異常高値の腎疾患の中でも,軽度上昇の糸球体腎炎,ネフローゼ症候群,腎結石などから,100〜400mg/dl程の異常高値の尿毒症まであり,鑑別診断や症状の推移の把握には,BUNを中心とした各種の検査成績が重要な指針となる.
クレアチニンは筋肉細胞内でクレアチンから産生されるクレアチンの代謝最終産物であり,血清クレアチニン濃度は筋肉での産生量と尿中へのクレアチニン排泄量によって決まる.クレアチニンの産生量は,食事中のクレアチンやクレアチニンの影響をほとんど受けないとされており,筋肉量に比例して増加する.また,クレアチニン産生量は,発熱や糖質ステロイド投与のような筋肉の異化の変化の影響も受けにくいとされている.
一方,血中のクレアチニンは,腎糸球体を通過した後,尿細管での再吸収,分泌をほとんど受けずに尿中に排泄されることから,尿中へのクレアチニン排泄量は糸球体濾過率(GFR)に依存する.
血液アンモニアの測定は,重症肝疾患ことに肝性昏睡,肝脳症候群,さらに新生児の高アンモニア血症などの診断の際の指標となり,生化学的検査として重要視されている.このほか先天性尿素サイクル酵素欠乏症とか,何らかの理由で尿素サイクル酵素活性の低下などでもアンモニァレベルの上昇がみられる.また,尿中アンモニア窒素(別名尿中アンモニア)も蛋白性食品多食で上昇する(表1,2).
異常値を示す疾患の以前の問題として,アミノ酸分析の必要性とそれに対応する方法が理解されなければならない.
まず,臨床症状から判断してしらべようとするターゲットアミノ酸を測定するのか,痙攣とか発育が悪く知能の発達がおくれているが,いろいろしらべても判断がつかないときにどこかに代謝障害でもあるのかと疑う場合とか,代謝経路の異常をより明確にするため分画(1つ1つのアミノ酸)の変動をしらべる場合とか,疾患により経口摂取が不十分か,あるいは不可能なため体蛋白の崩壊を招き,いわゆる負の窒素平衡がみられるだろうと予想するときなどに,生体内のアミノ酸情報をさぐるため血漿ならびに尿中アミノ酸の測定の必要が生じる.
生体内では尿酸が産生と排泄との平衡状態にあり,正常人の血清尿酸値(Sua)は一定範囲,すなわち男4〜6mg/dt,女3〜5mg/dlに保たれている.Suaの異常値としては,この範囲を超えて上昇する高尿酸血症と,低下する低尿酸血症とがある.これらの異常は尿酸の産生または排泄の増加または減少,およびそれらの組み合わせによって発生し得るので,これらの成因によって高尿酸血症および低尿酸血症を分類することができる.さらに,これらの病態をきたす原因疾患が別に存在する場合,すなわち二次性高尿酸血症または低尿酸血症と存在しない場合,すなわち一次性のそれらとを区別することができる.それぞれの群に属する疾患とその分類を表に示した.
Suaの異常値を認めた場合に尿酸クリアランス法を行い,尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランス(Cua)を測定することは,臨床診療において尿酸の産生と排泄の状態をそれぞれ推測する上に有用である1,2).
●腎疾患とグアニジノ化合物(GC)
尿毒症病態発現と血中メチルグアニジン(MG)濃度との関係は,Giovannettiらにより動物実験で証明されて以来,わが国でのGC測定法の画期的な開発,とくに中島らの酵素法の開発がなされ,慢性腎不全の病態解明の手段として使用されつつある.MGはそれ自体強力なUremic Toxinであるが,青柳らはクレアチニンから活性酸素,なかでもヒドロキシル・ラジカルの存在でMGが異常産生されるとした.すなわち,MGの測定により,慢性腎不全患者の活性酸素の動態を把握することが可能である.とくに血中MG値とクレアチニン値の比は,長期透析患者の適性透析の指標として,その重要性がクローズ・アップされてきた.
つぎに,腎機能の良好な腎疾患患者でも,尿細管障害の程度によりグアニジノ酢酸(GAA)の尿中排泄量が減少する.GAAも白兼らの酵素法による測定法が開発され,大量の検体処理が可能になった.従来の腎機能の指標として使用されてきたクレアチニン・クリアランスや尿中NAGでは,腎炎などの病態把握ができない場合があったが,尿中GAA排泄量を測定することにより,その低下で腎組織障害の存在が示唆される.
高ビリルビン血症のため皮膚や粘膜にビリルビンが沈着し,黄染した状態が黄疸である.血清ビリルビンが3mg/dl以上になると,肉眼的にも明らかな黄疸として確認される.1〜2mg/dl程度では肉眼的には不明瞭であるが,いわゆる潜在性黄疸といわれる状態になる.
ビリルビンはヘモグロビンなど,ヘム蛋白のヘム部分が異化された生産物である.図に示すように,網内系でポルフィリンが酸化的に解環したテトラピロール化合物(主にIXα型)である.
胆汁酸は肝細胞において特異的にコレステロールより生成され,胆汁中に排泄される.腸管に放出された胆汁酸は回腸末端を中心とした腸管より約95%が再吸収され,門脈を経て肝細胞に効率よく摂取される.閉鎖的腸肝循環を行うため,胆汁酸の大循環系への漏出は,末梢血中で10μM以下と微量である.したがって,もし肝障害が存在すれば,肝細胞による胆汁酸摂取率が低下し,末血中胆汁酸濃度は増加する.腸管からの吸収が正常と仮定すると,この現象は肝機能検査として利用できる.近年,血清胆汁酸微量定量法が確立され,日常臨床において広く利用されるようになってきた1).
3αの位置にOH基をもつ胆汁酸は15種類ある.この3α-OH胆汁酸総量を計り込む測定法(酵素法)と個々の胆汁酸を計る測定法(高速液クロ法,GC法,GC-MS法)などがある.酵素法では個々の胆汁酸が増加しても包括的に測定できる利点があり,分画測定は個々の胆汁酸の動きをみるときに有用である.
鉄は生体において,大別してヘモグロビンと貯蔵鉄に存在しているので,鉄および貯蔵鉄であるフェリチンは,ヘモグロビン合成障害をきたす各種の貧血,鉄貯蔵臓器である肝の障害および分布異常が示唆される二次性貧血などで異常値を示す.詳しくは表のとおりである.
血清鉄は鉄欠乏性貧血,潜在性鉄欠乏,二次性貧血で低値であるが,総鉄結合能(TIBC),フェリチンを同時に測定すると各々を鑑別できる(図1).血清鉄高値は造血障害,鉄過剰,肝細胞障害による逸脱などでみられる.
銅は体内に100〜150mg存在し,アポ蛋白と結合して重要な生理作用をになっている.血清銅の変動は,さまざまな病態を反映し,疾病の種類,重症度とも関係がある.
セルロプラスミン(ceruloplasmin,以下CPLと略す)は,1944年スウェーデンのHolmberg & Laurellによって初めて単離精製された主要な血清蛋白の1つである.本物質は1分子中に6〜8個の銅イオンを含有する1,046残基のアミノ酸よりなる1本鎖のポリペプチドであり,4カ所のN-グリコシド型結合による糖鎖(約8%)をもつ分子量約13万の糖蛋白である.電気泳動上はα2グロブリン分画に属し,ρ-フェニレンジァミンや,カテコールアミンなどの酸化能を有し,遺伝変種が存在する.
血清Naの正常値は135〜150mEq/lで,134mEq/l以下を低Na血症,151mEql以上を高Na血症と定義している.高Na,低Na血症はNa代謝異常と誤認されていることが多いが,実は水代謝異常であるということをまず銘記して頂きたい.細胞膜は水を自由に透過させ,細胞内外の浸透圧較差にしたがって水は移動し,細胞内外の浸透圧は等しく保たれている.細胞外液の主な溶質は電解質であり,Naは細胞外液の陽イオンの大部分を占める.したがって,細胞外液の浸透圧は細胞外液のNa濃度の約2倍となる.つまり血清Naの測定とは,原則として浸透圧の測定のかわりと考えられる.したがって,血清Naの異常は細胞内外液の浸透圧異常として捉えられるべきである.
低Na血症は比較的頻度が高く,入院患者の約2.5%にみられる.正常の場合,腎は最大60mOsm/kg・H2O(すなわち糸球体で濾過された原尿の5倍)まで尿を希釈できる.皮質集合管に到達する尿量は約25ml/minとなっており,ADHが働かないためそれ以上の水の再吸収は起こらず,尿量は25ml/minとなる.この25mlのうち5mlは等張尿であり20mlは自由水であると考えられるので,正常腎は最大希釈時,約1.2l/時の自由水を排出することができることになる.
カリウムは主として細胞内に存在する電解質で,体内の酵素反応,糖・蛋白代謝,神経・筋肉の興奮性などに重要な役割がある.体内の総カリウム量は45〜55mEq/l体重(体重60kgの人では約3,000mEq)とされる.このうちの約98%は細胞内に存在し,細胞外液中には約2%程度でしかない.臨床的には,このわずかな分布量である,血清カリウム濃度により体内の動態を推測するしかないという制約がある.
正常人の血清カリウム濃度は,3.5〜5.0mEq/lの範囲に保たれている.これに対して,細胞内のカリウム濃度は110〜140mEq/lであるといわれる.このような値に調節されるためには,細胞外に漏れやすいカリウムを細胞内に能動的に取り込むために,Na-Kポンプなどが作用している.全身的には,主として腎臓による調節が行われている.
クロライド(Cl)イオンは細胞外液の主要な陰イオンであるが,Clの変化はナトリウム(Na)イオンの変化に対応もしくは酸塩基平衡に関与することが多い.一般に血清中のNaとClの比は1.4:1と考えて差し支えない.脱水状態では高Na血症となり,たとえばNa濃度が140から154mEq/Lに上昇した場合は,Cl濃度は100から110mEq/Lに上昇する.逆に溢水状態では,Na濃度が140から133mEq/Lに低下すると,Cl濃度は95mEq/Lに低下すると考えて差し支えない.
もしこれらの均衡状態が保たれていない場合には,酸塩基平衡の変化に目を向ける必要がある.すなわち,Na濃度に比し,より低Cl血症がみられるときには,代謝性アルカローシスもしくは代償性の呼吸性アシドーシス(多くは慢性)を考える.逆にNa濃度に比し,より高Cl血症がみられるときには,高Cl性代謝性アシドーシスもしくは慢性呼吸性アルカローシスの存在を疑う.
血清カルシウム(Ca)値が異常高値を示す疾患を表1に,異常低値を示す疾患を表2に示した.
血清Ca濃度の調節上最も重要な役割を演じているのは,副甲状腺ホルモン(PTH)である.また,ビタミンDの活性型ホルモンである1,25水酸化ビタミンD〔1,25(OH)2D〕は,腸管Ca吸収の調節上最も重要なホルモンである.これらのホルモンはいずれも骨代謝回転および腎尿細管Ca再吸収の促進作用を示すが,その作用の発現には両者の存在が必要である.したがって,これらのうち一方が欠乏しても,低Ca血症などのCa代謝異常症がもたらされる.
1)低P血症
低P血症の成因は,①腸からのP吸収減少,②細胞内へのP移行,③腎からの排泄増加(Tmp/GFRの低下),④その組み合わせ,に大別される.それぞれの原因は図に示した.
①細胞内移行 Pは細胞内におけるP化合物の生成に用いられるから,この生成が亢進すると細胞外液のPが細胞内に動員され,血清Pが低下する.このような細胞内Pの取り込みは,急速に成長している細胞,ブドウ糖または果糖の静注,グリセロール,キシリトールの点滴で起こる.また飢餓からの回復時,高カロリー輸液でも認められる.
Mgはアルカリ土類金属に属し,非遷移金属であるため,配位・共有結合を可能にするような低エネルギーd軌道関数をもった電子をもたず,亜鉛,銅,鉄,などの遷移金属と比較すると,より静電結合の化合物を形成しやすく,窒素より酸素原子を選択する可能性が強い.このような特性をもつMgは,細胞内の酵素的反応(リン酸の受け渡し,とくにATPにかかわるパスウェイ)における活性化因子として,また,アミノ酸の活性化と蛋白の合成に関与し,リボゾームの保全,RNAとDNA反応,正常な筋神経系の働きなどに必須なものである.
吸気中のCO2濃度はごくわずかで(約0.04%),新たにCO2が加えられた場合以外は静脈血,肺胞気,動脈血PCO2は組織の代謝により決定される.血漿中のpHはHenderson-Hasselbalchの式で説明される.
血漿pH=6.10+log血漿〔HCO3-〕/0.03・Paco2
上式で〔HCO3-〕は腎における,Paco2は肺における調節を受けている.末梢組織より血液で運ばれたCO2は,換気により肺胞から放出される.CO2排泄には肺胞換気量が重要で,肺胞換気量(VA)と肺胞気CO2分圧(PAco2)は双曲線で表され,これを代謝双曲線(metabolic hyperbola)と呼ぶ(図1)1).
動脈血O2分圧(Pao2)は肺におけるガス交換の状態を示す重要な指標であり,疾患の重症度や酸素投与の適応を決める際必須な検査である.肺疾患が存在してもPao2を正常域まで戻そうとする代償機構があるため,Pao2は必ずしも低下しない.しかしこのような場合でもA-aDo2は開大することがあり,Pao2の異常値を考える際A-aDo2も同時に考慮する必要がある.
PAo2は肺胞気式から,
PAo2=P1o2-PAco2/R〔1-F1o2(1-R)〕
(R:呼吸商,F1o2:吸入気酸素濃度)
で求められるが,吸入気が1気圧の場合Rを0.8として簡略化すると,
PAo2=P1o2-Paco2/R≒150-Paco2/0.8
で算出される.A-aDo2の正常上限は10Torrといわれるが,Rを仮定した場合などは15〜20Torrといわれる.
〔HCO3-〕は,酸塩基平衡のパラメーターであって,単独で評価することは稀で,前項の炭酸ガス分圧Pco2,次項のpHなどと組み合わせて評価する.検体の対象は動脈血であることが多いが,静脈血,脳脊髄液,尿,その他の分泌液や組織液を対象とする場合も時にある.
動脈血pHも前項のHCO3-と同様に酸塩基平衡のパラメーターであって,単独で評価することは稀で,前項の炭酸ガス分圧Pco2とHCO3-を組み合わせて評価する.検体は静脈血,脳脊髄液,尿,その他の分泌液や組織液を対象とする場合もあるが,ここでは動脈血に限定する.
●Base excessとは何か
血液のpHは呼吸性因子であるCO2分圧(以下Pco2)と代謝性因子である血漿重炭酸イオン濃度(以下HCO3-)によって規定される.Pco2が肺胞換気量によって支配されるほぼ純粋な呼吸性因子の指標であるのに対し,〔HCO3-〕はPco2の影響を受け,〔HCO3-〕以外のバッファーであるHb,リン酸,蛋白などの因子が表されていない.ここでより包括的な代謝性因子の指標が求められ,base excess(BE)という概念がSiggaard-Andersonらによって導入された.
BEの定義は「血液をin vitroでPco240torr,37℃としたときにpHを7.40に戻すのに必要な強酸あるいは強アルカリの量(mmol/l)」であり,正常な状態からの偏差を示す.強アルカリが必要なときはbasedeficitとも呼ばれる.
代謝性因子の指標として使用されているbaseexcess(以下BE)はin vitro測定法による基準であり,in vivoでは呼吸性因子であるCO2分圧(以下Pco2)の影響を受ける.そこでSchwartzらが,Pco2の影響による代謝性酸塩基平衡因子の変動幅を示すものとして,significance bandを提唱した.
Significance bandとは生体を種々のPco2に保ったとき,単純な呼吸性障害のみの場合95%の信頼度でとりうる血漿重炭酸イオン濃度(以下HCO3-),BEの範囲を求め,図示したものである.横軸にPco2,縦軸に〔HCO3-〕あるいはBEをとった図でsignificance bandは帯状を呈し,その帯域からの逸脱が代謝性障害の存在を表す.急性・慢性呼吸性アシドーシス,アルカローシス患者用と各種のsignificance bandが作成されている.一方では,生体を種々の〔HCO3-〕あるいはBEに保ち,Pco2の正常範囲を求めた呼吸性酸塩基平衡の基準となるsignificance bandもある.
●血清アミラーゼの由来とアイソザイム分析の意義
アミラーゼは膵臓および唾液腺から消化管内に分泌されて消化酵素として働くが,一部は腺房から血液中へ移行している.正常の場合,血中のアミラーゼはほぼ一定のレベル(60〜160Somogyi単位または110〜300IU/l**)に保たれている.
血清アミラーゼのほとんどすべては膵臓および唾液腺に由来する.これら2臓器のアミラーゼはアイソザイム(同じ反応を触媒する酵素のうち別の遺伝子支配をうけ,物理化学的性状に相違のある酵素)である.それぞれ膵型アミラーゼ,唾液腺型アミラーゼと呼ぶ.
●異常値を示す疾患(表1)
膵リパーゼ(EC 3.1.1.3,Triacylglycerol Lipase:LP)は膵のacinar細胞で生成され,消化酵素として外分泌され,食物中のトリグリセリド(TG)を水解してジグリセリド(DG),モノグリセリド(MG)とし,腸管からの吸収を助ける.消化のためには唾液,舌腺,胃,十二指腸,小腸,大腸などのLPも働く.これらの各臓器のLPは,膵LPとは至適pH,分子量,熱安定性などが異なる.血清中のLPのほとんどは膵由来とされ,炎症などで血中に漏出してくる.臓器特異性が高く,膵疾患診断の指標として重要な検査であるが,測定方法が煩雑なため,現在まで膵疾患の検査としてはアミラーゼが主に用いられてきた.しかし,アミラーゼは膵臓,唾液線と2つの主要産生臓器をもち,特異性に欠ける.LP測定法として近年,安定した測定法が開発されつつあり,自動分析機への適用も可能で,今後一層の普及が期待されている.
異常値を認める疾患として,急性膵炎ではその70%以上にLP活性の上昇が認められ,LP活性高値はアミラーゼ活性高値よりも長く持続する.慢性膵炎,膵癌では臨床経過のどの時点で測定したかによって高値を示す場合と低値を示す場合があり,膵臓機能の荒廃が進んだ慢性膵炎や膵線維症ではむしろLP活性は低値を示す.
近年,ヒトAP遺伝子の解析が進み,臨床診断への応用としてcDNAプローブを用いた癌診断や先天性低ホスファターゼ血症の出現頻度や早期発見など話題は多いが1),ここでは利用度の高いものについて述べる.
図1は,現在知られているAPアイソザイムの種類とセ・ア膜電気泳動上の易動度,主な疾患ならびにその抗原性について略記し2),また図2は,欧米で最近よく利用されているディスク電気泳動法による易動度を示す3).
γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:EC 2.3.2.2)は,グルタチオンのγ-グルタミル基を受容体であるアミノ酸,ペプチドに転移させる酵素であり,近年γ-グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)と呼ばれている.本酵素はγ-グルタミルサイクルの中で唯一の膜結合酵素であり,グルタチオンの代謝に関与して各種のアミノ酸の細胞内への取り込みを担っているものと考えられている.実際,γ-GTPは腎,膵,肝組織の順に活性が高く,とくに腎では近位尿細管,肝では毛細胆管,膵では膵腺房や膵管系などの吸収,分泌に関連する膜系に広く分布している.肝細胞のγ-GTPは大部分ミクロソーム分画に局在し,血清中にはわずかに可溶化された形で存在する.血清のγ-GTPは肝由来であり,膵疾患,腎疾患でも膵,腎由来のγ-GTPは血中に反映しない.また尿中γ-GTPは腎由来であり,その他乳汁中,精液中にも高い活性がみられる.
生体内にはアセチルコリンを加水分解する2種類の酵素が知られている.その1つはtruecholinesterase(EC 3.1.1.7,AChE)と呼ばれ,神経線維,神経筋接合部,赤血球膜および胎盤などに多く分布している.他の酵素はpseudocholinesterase(EC 3.1.1.8,PChE,ChE)と名づけられ,この酵素は血清中に多く含まれている.通常,臨床検査で測定されるのは後者のChEである.
酸性ホスファターゼ(ACP)は,酸性領域に至適pHをもつリン酸エステル水解酵素であり,細胞内では主としてリソゾーム,ゴルジ装置に局在する.全身の臓器,組織に広く分布するが,とくに前立腺(重量あたりの含量が最も多い),肝臓,血小板,赤血球,白血球,網内系細胞,乳腺上皮などに多く含まれる.
ACPは電気泳動上少なくとも7種のアイソザイムが区別されるが,正常人血清中に検出されるACPは大部分がL酒石酸抵抗性のアイソザイム5で,ほかに血小板に由来する(血液凝固時に放出される)酒石酸感受性のアイソザイム3がごく微量存在する.前立腺癌,とくに骨転移を伴う進行前立腺癌では,酒石酸感受性のアイソザイム2および4が血中に逸脱してくるため,前立腺癌の病期診断や治療効果の判定,経過観察の指標として重要視される.ただし,アイソザイム分析が臨床的に用いられることはなく,従来は生化学的な手法で血清ACP活性を総活性と酒石酸感受性分画とに分別し,後者を前立腺ACP活性とみなしてきた.
現在臨床検査で最も日常測定されている血清酵素はトランスアミナーゼであり,アミノ酸のアミノ基をαケト酸に転移する反応を,ピリドキサルリン酸(PALP)を補酵素として触媒する.アミノ酸としてアスパラギン酸を基質とするものをアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:EC 2.6.1.1:ここでは今日国内で一般的に用いられているグルタミン酸・オキサロ酢酸トランスアミナーゼの略,GOTを用いる),アラニンを基質とするものをアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:EC 2.6.1.2:ここでは同様にグルタミン酸・ピルビン酸トランスアミナーゼの略,GPTを用いる)と呼ぶ.
GOTもGPTも種々の臓器に存在しているが,血清GOTの上昇に関与するのは主に肝,心,筋疾患であり,GPTは主に肝疾患である.GOTは細胞質画分(細胞上清分画)とミトコンドリア画分のそれぞれに存在するアイソザイムが知られ,両アイソザイムはすべての臓器細胞に存在するが,赤血球では前者のアイソザイムしか存在しない.前者のアイソザイムをsGOT(supernatantの頭文字),後者をmGOT(mitochondrialの頭文字)と呼ぶ.
乳酸脱水素酵素(EC1.1.1.27:LDH)は,生体のあらゆる臓器に広く分布する.したがって,いわゆる遊出酵素という観点でこの酵素活性の上昇を評価するときには,限定された臓器に焦点をしぼることができないという欠点ももち合わせている.しかし,それは臓器損傷の非特異的マーカーという点で逆に利用すべきことである.
この酵素活性を測定して,損傷臓器の推定を行う場合には,2つの方法が用いられている.その1つは,他の酵素活性との組み合わせ(ASTまたはCK)を利用するか,2つめはアイソザイムの分析である.アイソザイムの分析については後述するので,ここでは他の酵素活性との組み合わせによる評価について述べることとする.