臨床外科 54巻11号 (1999年10月)

特集 薬物療法マニュアル

Ⅰ.救急患者の薬物療法 1.蘇生術とショック

心肺蘇生 稲葉 英夫
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基本的な事項

 心肺蘇生は心停止に対して実施される.心肺蘇生(法)は一次救命処置(basic CPR)と二次救命処置(advanced CPR)に分類される.一次救命処置とは胸骨圧迫心マッサージおよび呼気吹き込み人工呼吸で心拍を再開させようとする行為である.すなわち,特殊な器具や医薬品を用いることなく,医師以外の者でも行いうる気道確保,人工呼吸,胸骨圧迫心マッサージからなる心肺蘇生である.二次救命処置(advanced CPR or advanced cardiac life support)とは一次救命処置に加え,さらに高度な気道確保と換気の技術,除細動,経静脈的あるいは経気道的薬剤投与を用いて,心拍を再開させようとする行為である.

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アナフィラキシーとは

 すでに感作されている物質に再び曝露した場合,IgE抗体を介する免疫学的抗原抗体反応が起きる.その結果,肥満細胞や好塩基球からヒスタミンやロイコトリエン,プロスタグランディンなどの化学伝達物質が放出され,急激な全身反応を発症する.これをアナフィラキシーという.免疫学的反応ではなく,補体の活性化や起因物質による肥満細胞や好塩基球の直接刺激などで同様の症状を発症するものをアナフィラキシー様反応といい,初回曝露でも起こりうる.両者は臨床的に区別できないことが多く,治療や検査も同様に扱う.

 原因物質は食物や虫刺症によるものを除くと薬剤が大部分であるが,あらゆる物質の摂取・接触により発症する可能性がある.

心原性ショック 上嶋 権兵衛
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はじめに

 心臓の一次性原因によるポンプ機能障害で末梢組織の代謝要求に対応できない循環不全が心原性ショックと定義され,急性心筋梗塞に起因するものが大部分である.臨床的には心拍出量の低下,循環不全に起因する末梢組織のhypoxiaに伴う症状や所見が認められる.心原性ショックの原因が非可逆性の病変や,たとえ回復可能な原因であっても速やかに効果的な治療が行われないとその死亡率は85%以上となる1).したがって,心原性ショックの治療の原則は病態を迅速に把握し,是正できる原因疾患の速やかな除外診断とともに原因疾患に対する根治的な治療を含めた循環不全に対する治療により,臨床症状および血行動態の安定化をはかることである.

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はじめに

 臨床医が最も経験するショックである出血性ショックについて,薬物療法を中心に概説する.

細菌性ショック 中 敏夫 , 篠崎 正博
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はじめに

 細菌性ショックはその病態の飛躍的な解明にもかかわらず現在でも予後不良の病態である.今回は細菌性ショックに対して現在行われている治療について概説する.

Ⅰ.救急患者の薬物療法 2.精神・神経系

意識障害 池田 幸穂 , 松本 清
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意識障害患者への対応のポイント(図1)1)

 1.状況の把握,病歴聴取

 ①意識消失時の状況:どのような発症であったのか(突然なのか,徐々になのか,外傷の有無など).

 ②既往歴,飲酒歴

痙攣 町井 克行 , 葛原 茂樹
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基本的な事項1〜3)

 救急医療の痙攣発作の中で迅速な対応が必要なのは「てんかん重積」および発作が頻回に繰り返される「重積前状態」の2つである.全身痙攣が長時間持続すると咽頭・喉頭筋群の痙攣による呼吸筋の運動制限,分泌物による気道閉塞,骨格筋の酸素消費量の増加によって,脳が二次的に低酸素状態に陥ることにより非可逆的な脳障害を起こしたり,生命を脅かす場合がある.そのため,診断はもちろんであるが早期治療を速やかに,確実に行わなければならない.薬物療法に際しては,呼吸・循環抑制を生じる薬物を使用するので,十分な監視下で治療を行う.

脳出血 安井 信之
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はじめに

 脳動脈瘤,脳動静脈奇形,もやもや病などの血管の病気や脳腫瘍が脳出血の原因となることがあるが,最も頻度が高いのはいわゆる高血圧性脳出血で,脳内の細い動脈壁が病的に変化した部(高血圧に伴う脳内小動脈の血漿性動脈壊死やそれに基づく脳内小動脈瘤,動脈硬化,アミロイド変性など)の破綻により起こる.脳出血はCTにより病名診断,出血部位,広がり,さらに脳出血に伴う再出血,水頭症,脳浮腫などの二次的な病態が容易に診断できる.これらの病態を診断し,病態に見合った治療を行うことが重要である.

脳梗塞 大坪 亮一 , 峰松 一夫
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基本的な事項

 脳梗塞とは,「脳の血管病変のために脳実質内に生じた,虚血による突発性の局所的脳機能障害」と定義される.脳梗塞は臨床カテゴリーから4型に,機序から3型に分類されている(表1).これは同じ脳梗塞でも病型によって病態が異なることを示しており,治療法とも密接に関係することになる.

 脳梗塞の急性期治療は脳病巣自体に対する治療だけでなく,呼吸管理,消化管出血の予防・管理,排泄管理,静脈血栓の予防・治療,水・電解質バランスの管理,血圧管理など,二次的合併症の管理が必要である.このため,虚血性心疾患におけるcoronary care unit(CCU)のように,脳卒中の専門的医療チーム(stroke care unit:SCU)による管理が望ましい.

めまい 足立 智英 , 高木 誠
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めまいの患者をみたら

 めまいを呈する疾患には様々なものがあり(表1)1),患者が訴えるめまいもまた一様ではなく,回転性,動揺性など様々である.しかし,原因疾患によって治療の緊急性,治療方法が大きく異なり,生命の危険がある場合もあるため,めまいの鑑別診断は重要である.鑑別診断のためにはまず詳細な問診と診察が必要となる.

興奮,錯乱 長谷川 朝穂
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救急医療の場における興奮,錯乱

 救急医療の場において興奮あるいは錯乱といった症状をもった患者に遭遇するケースは,以下の3つに分類される.

 ①症状が精神分裂病,躁うつ病など狭義の精神疾患による場合

Ⅰ.救急患者の薬物療法 3.代謝・内分泌系

脱水症 山中 英治 , 日置 紘士郎
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基本的な事項

 1.体液の基礎

 成人男性の体内水分量は体重の約60%で,その3分の2が細胞内液,3分の1が細胞外液である.さらに細胞外液の4分の1が血管内すなわち血漿で,4分の3が血管外すなわち間質液である.血管壁は半透膜で電解質は通過するが蛋白分子は通過しない.ゆえに血管内外で膠質浸透圧が生じる.正常時は毛細血管の静水圧と均衡しているが,高度低蛋白血症では膠質浸透圧が低下して間質に水分が移動するので,血管内水分量(循環血液量)の減少や浮腫の原因となる.

 細胞外液と細胞内液の電解質組成は全く違うが,浸透圧(正常値290±5mOsm/kgH2O)は常に等しく保たれている.ゆえに浸透圧に差が生じると低いほうから高いほうへ水分が移動する.生体内で浸透圧に関与している主な物質はNa,ブドウ糖,BUNである.

アシドーシス 塚本 雄介
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定義

 アシドーシス(acidosis)とアルカローシス(alkalosis)の用語は往々にして間違って使われている.動脈血液ガス分析で実際にpHが正常範囲(7.5〜8.0)より低下している状態は酸血症(acidemia),増加している状態はアルカリ血症(alkalemia)と呼ばれ,アシドーシスおよびアルカローシスとは厳密には異なる.アシドーシスおよびアルカローシスとはそれぞれ血液中にHまたはOHが増加するような病態が存在することを指し,それぞれ呼吸性または代謝性の代償が追いつかなくなると実際に血液pHが正常域を逸脱し,酸血症またはアルカリ血症を呈するようになる.このことを理解していないと,血液pHだけに目を奪われて酸—塩基平衡異常を見落とすことになる.特に代謝性アシドーシスに代謝性アルカローシスが合併するような複雑な病態を理解できなくなる.これが奇異に聞こえるとすれば前述の意味を理解していない.例えば尿毒症で代謝性アシドーシスを呈し,かつ嘔吐が起きるとクロール喪失による代謝性アルカローシスが合併することになるのである.アシドーシスとはあくまで病態を指しているのであって,必ずしも酸血症でなくても良い.

アルカローシス 藤井 正満
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はじめに

 代謝性アルカローシスの治療に際してはまずその病態生理を理解しておくことが必須である.そして代謝性アルカローシスが発生する原因と腎で過剰なHCO3が排泄できない要因を検討し,それぞれを除去する必要がある.

 呼吸性アルカローシスではその原疾患への治療が必要で,アルカローシスに対する特異的な薬物治療はないため,本稿では省略する.

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高血糖の原因

 救急患者において高血糖が問題になるのは,①ケトン性昏睡(diabetic ketoacidotic coma)および,②高浸透圧非ケトン性昏睡(hyperosmolar non-ketotic diabetic coma)を発症した患者である.その他に,③乳酸アシドーシス,④清涼飲料水ケトーシスが高血糖性昏睡の原因として重要である(表1).ケトン性昏睡は若年者(多くは30歳以下)のインスリン依存型糖尿病(IDDM)の発症時や,IDDM患者が何らかの理由でインスリン注射を中断したときやインスリン治療が不十分であったとき,あるいはIDDM患者が感染症,手術,外傷などの強いストレスにさらされた場合などに起こる.一方,高浸透圧非ケトン性昏睡は高齢者(多くは50歳以上)のインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)に起こることが多く,感染症,ステロイド,サイアザイド系利尿剤,脱水,熱傷,膵炎,肝機能障害が誘因となる.乳酸アシドーシスは敗血症や心不全に伴う末梢循環不全による二次的組織アノキシアによりピルビン酸や乳酸の産生が亢進して起こるが,循環呼吸不全と糖尿病が併存すると発症しやすい.糖尿病患者において経口血糖降下剤であるビグアナイド剤が誘因となる.清涼飲料水ケトーシスは肥満者のNIDDMに発症する病態で,高血糖による口渇を癒すために清涼飲料水(糖液)を多飲することにより血糖がさらに上昇し,ケトーシスをきたす1)

高熱 野村 哲彦 , 長谷川 均
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基本的な事項

 発熱は主訴として最もよく見られる症状のひとつであり,多くの疾患で出現し,診断に苦慮する場合も多い.通常成人の体温は口腔内温で36.8±0.4℃であり,発熱の程度により37℃台を微熱,38℃以上を高熱と分ける.表に示すように発熱をきたす疾患は数多くあるが,感染症,悪性腫瘍,膠原病が3大疾患である。発熱患者を診察するときはまず迅速な全身状態の評価を行い,これらに対する処置を行い,次に発熱原因の追求をする.その結果に基づいて原因疾患の治療をするのが最終目標である1)

Ⅰ.救急患者の薬物療法 4.循環器系

胸痛 斎藤 徹
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はじめに

 胸痛をきたす疾患は狭心症,急性心筋梗塞,急性心膜炎,急性心筋炎などの心疾患が多いが,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症などの血管疾患,自然気胸,肋膜炎などの肺疾患,肋間神経痛,帯状包疹などのその他の疾患に分けられる1).これらのうちの主な疾患の薬物療法について述べる.

不整脈 松居 喜郎 , 安田 慶秀
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主要症状,所見と診断

 救急患者の不整脈出現時の訴えはその重症度にかかわらず個人差が大きく注意が必要である.一般に120回/分以上の頻脈性不整脈では動悸,胸部圧迫感,呼吸困難感などがみられ,50回/分以下の徐脈性不整脈ではめまい,目の前が暗くなり意識が遠のく感じ,全身倦怠感などの訴えが出てくる.約200回/分以上の高度の頻脈や,逆に30回/分以下の徐脈が急激に発症すると,心拍出量の減少とともに血圧低下,さらに脳組織への血流低下を起こし,一過性の意識消失や痙攣を起こすことがある(アダムス・ストークス〔Adams-Stokes〕発作).

 救急の現場で心電図モニターで鑑別診断しなければならない最低限の不整脈として,アメリカ心臓病学会では,①洞性不整脈,②洞性徐脈,③心房性期外収縮,④発作性上室性頻拍,⑥心房粗動,⑥心房細動,⑦房室接合部調律,⑧心室性期外収縮(頻発性,多源性,R on T現象を含む),⑨心室性頻拍(トルサド・ドゥ・ポアントを含む),⑩心室細動,⑪心停止,⑫I度,II度(モビッツI型,II型),III度房室ブロックを挙げており,心電図上の特徴は覚えておく必要がある1)(図).不整脈の種類により治療戦略は異なり,薬剤治療,電気ショック,心臓ペースメーカーなどを組み合わせて治療する必要がある.

Ⅰ.救急患者の薬物療法 5.呼吸器系

呼吸困難 相馬 一亥
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基本的な事項

 呼吸困難は一般的に呼吸仕事量の負荷に伴って感じられ,その受容体は化学受容器(中枢性,末梢性),肺内受容器(伸展受容器,刺激受容器,C線維),呼吸筋受容器が知られている.最も関連性が高いのは呼吸筋受容器と考えられている.換気の機械的障害は拘束性障害と閉塞性障害の2つに分類され,拘束性障害の特徴は吸気・呼気が最大に行えない状態で,肺のコンプライアンスの低下,正常肺組織の非換気病変による占拠,呼吸筋力低下あるいは呼吸筋麻痺,胸郭の運動障害によって生じ,臨床的には浅い速い呼吸となる.一方,閉塞性障害は気道閉塞・狭窄による障害であり,上気道あるいは下気道狭窄に分類される.原因は異物,炎症,腫瘍,気道攣縮,弾性力低下などである.

喘息発作 高木 健三
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基本的な事項

 喘息は病因の不明な体質的な疾患であり,病因の除去によって疾患の治癒を目指すことは困難な現状である.現在,到達しうると考えられる管理・治療は,気道炎症の原因の回避・除去,気流制限を惹起する因子の回避・除去,そして薬物療法による炎症の抑制と気道拡張とにより,気道過敏性と気流制限を軽減ないし寛解することである.その結果,日常生活,できれば呼吸機能を正常化し,患者のQOLを改善することである.

喀血 益子 邦洋 , 工廣 紀斗司
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基本的な事項

 喀血は肺結核,気管支拡張症,肺動静脈奇形,肺動脈瘤,肺塞栓,肺炎,気管支炎,肺化膿症,肺癌などの肺疾患のほか,肺損傷,喉頭癌,うっ血性心不全,血液疾患などに伴って見られる1)

 喀血が少量であれば生命の危険を伴うことはないが,大量の場合には急激な経過で窒息から死に至ることがあり,診断や治療では緊急度や重症度を常に念頭に置いておかなければならない.

過換気症候群 清水 孝一 , 大井 元晴
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はじめに

 換気量の増加と呼吸性アルカローシスによる種々の不安感や身体症状を呈する過換気症候群は遭遇することの多い病態である.本稿では過換気の病態を踏まえて過換気症候群の治療を概説する.

Ⅰ.救急患者の薬物療法 6.消化器系

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はじめに

 腹痛は日常診療の場でよく遭遇する訴えのひとつである.腹痛の原因のほとんどが消化器の器質的あるいは機能的疾患によるものであるが,冠動脈疾患,肺・胸膜疾患,子宮とその付属器疾患や代謝性疾患なども原因になることを常に念頭に置く必要がある.また,腹痛の診察で最も大切なことは外科的な緊急処隅を必要とするか否かを的確に判断することである.これらを鑑別したうえで薬物療法による鎮痛がなされるべきである.

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病態,原因

 嘔気,嘔吐は日常診療の中でしばしばみかけるが,多くの場合原因として大きな疾患が存在する.

吐血 外村 修一 , 小西 敏郎
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吐血の概論

 吐血患者を救急で診察する場合,まず患者の全身状態を把握することが肝要となる,バイタル・サインをチェックし,出血性ショックに陥っている場合はその対策を優先する.全身状態の改善をはかりながら,同時に出血部位と原因疾患の検索を行う.その際,吐血の性状,疾患の既往などが出血部位と原因疾患を推測するうえで重要である(表1).

 全身状態が落ち着いたら直ちに緊急内視鏡を行い,出血部位と原因疾患を検索する.出血部位としては食道,胃,十二指腸が考えられ,原因疾患としては静脈瘤,潰瘍,急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:以下,AGML),癌,Mallory-Weiss症候群などが考えられる(表2).出血部位と原因疾患,ならびにその程度に応じて治療計画を立てる.

下血 寺嶋 吉保 , 田代 征記
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 下血をきたす疾患病態は多岐にわたり,治療方法も異なる.各々の疾患病態に対する治療については別に詳しく説明されるので,この項では診断時の注意点を中心に述べる.

Ⅰ.救急患者の薬物療法 7.腎・尿路系

乏尿,無尿 戸澤 啓一 , 郡 健二郎
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基本的な事項

 乏尿(oliguria)または無尿(anuria)は糸球体濾過量(GFR)の減少,尿細管再吸収の増加,尿路の通過障害などによって起こる.

尿閉 橋本 良博 , 郡 健二郎
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基本的な事項

 尿閉とは排尿が不可能となり,膀胱内に尿が充満した状態であり,溢流性尿失禁を伴うことが多い.全く尿を排出できない完全尿閉と,残尿は多いが少しは排尿できる不完全尿閉がある.急性あるいは慢性尿閉という分け方もあり,急激に尿閉になった場合には激しい尿意と膀胱部の疼痛を訴える(急性尿閉)が,尿閉状態を徐々に生じた場合には疼痛,尿意をほとんど訴えない(慢性尿閉).無尿との鑑別が大切であるが,徐々に膀胱拡張をきたし,慢性の経過をとって尿閉となった場合には強い尿意を訴えないことがあり,無尿と誤診されるので注意を要する.脊髄損傷や腫瘍に起因した神経因性膀胱以外は泌尿器系の疾患がほとんどである.男性に多く,原因は前立腺肥大症,前立腺炎,前立腺癌,膀胱結石,高度の尿道狭窄,尿道断裂,尿道損傷などがあり,処置の上からも男性が重要である.多くはカテーテル挿入が可能であって,尿の排出がみられるが,尿道狭窄,尿道損傷のときには挿入できないときもある.そのような場合には膀胱が拡張していることを確認の上,下腹部正中線で恥骨直上を長針で穿刺して排尿を試みなければならない.女性でも直腸癌などの骨盤内手術後や糖尿病による神経因性膀胱で尿閉をきたすことがある.前立腺肥大症の患者がアルコール多飲後(前立腺がさらに腫脹),感冒薬,胃薬の内服後(抗コリン作用など)に急性の完全尿閉をきたして来院する例が多い.

血尿 山田 泰之 , 郡 健二郎
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基本的な事項

 血尿とは尿中に赤血球が混じる状態をいい,その程度で顕微鏡的血尿と肉眼的血尿に区別される.救急患者の場合は主に後者の場合なのでそれについて述べる.

 血尿の治療は当然その原因疾患(表)を確定することから始まるが,対症療法としても十分な知識が欲しいものである.診断確定においては十分な問診が必要であり,特に血尿に関してはその状態(間欠的か持続的か,症候性か無症候性か,全血尿か排尿終末時血尿か,など)や既往歴が診断の大きな助けとなる.

Ⅰ.救急患者の薬物療法 8.外因による障害

熱傷 安瀬 正紀 , 千島 康稔 , 奥村 仁
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基本的な事項

 熱傷,特に受傷面積30%,熱傷指数(burn index)15を越えるような重症例では治療期間は長期にわたる.病期も受傷直後から1週間前後の循環動態の不安定なショック期,ショック後期,多少の重複はあるものの,その後数週間にわたり壊死創が切除され,自らの皮膚で被覆されるまでの数回に及ぶ焼痂切除,植皮手術が行われ,局所の感染から全身性の敗血症に拡大する感染症対策に治療の全力が注がれる感染期,その後のリハビリテーション期,広範な瘢痕拘縮に対する再建手術期と多彩を極める.したがってその治療の目的,内容は各々の病期によって大きく異なり,系統的なマニュアルを提示することは困難となる.本稿では受傷直後から48時間前後の初療,ショック期の治療について述べることとする.

熱射病 宮城 良充
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はじめに

 高温の環境下に生体に生じる障害は日射病(heat syncope),熱痙攣(heat clump),熱疲労(heat exhaustion),最も重篤な熱射病(heat stroke)がある.熱射病は紀元前24年の古代ローマ時代にすでに軍隊の行軍中に発症する死亡率の高い疾患として記載されたものの,19世紀半ばまで高い外気温と体温,臨床症状との関連がわかっていなかった.1946年Malamudらによって熱射病から多臓器不全に陥る症例を呈示されてから病態解明は大きく進んだ.その後50年たっても病因は完全には解明されておらず,近年エンドトキシンやサイトカインの関与も取りざたされており,興味のある疾患である1)

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基本的な事項

 低体温症とは直腸温などの深部体温が35℃以下に低下した状態をいう.脳保護目的や心臓麻酔などにおける人為的低体温と区別して,寒冷曝露で非人為的に生じたものを偶発性低体温症と呼ぶ1,2).本症では深部体温の低下とともに標的臓器の薬物に対する反応性が低下する.また肝臓の代謝機能が低下し,薬物の血中半減期は延長する。したがって初期治療における薬物使用は必要最小限にとどめ,復温後過量にならないように注意する.

中毒 西岡 憲吾 , 石原 晋
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はじめに

 中毒を引き起こす原因物質は医薬品,家庭用品,化学薬品,農薬など多彩に存在し,中症が起こる形態の様式も事故,自殺,誤飲,テロ行為など多岐にわたっている.急性中毒の治療において最も重要なことは全身管理と原因物質の同定,中毒原因物質の体内からの除去である.原因物質が同定でき,その解毒拮抗剤が存在すれば,その拮抗剤を投与することでその中毒作用を減弱させたり,症状を改善することができる.ただ,原因物質を早期に同定することは必ずしも容易ではなく,解毒拮抗剤が存在しないこともある.その場合は呼吸管理,循環管理,体液管理,感染防止,栄養管理など非特異的な治療,対症療法を駆使して治療にあたらなくてはならない.

 非特異的な中毒原因物質の体内からの除去手段としては水洗,催吐,胃洗浄,下剤・活性炭投与,腸洗浄などによる未吸収毒物の除去,強制利尿,血液浄化法などの排泄促進がある.

創傷 田中 一郎 , 萩原 優
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基本的な事項

 創傷は物理的外力による体表組織の損傷を意味する.創部の状態による分類では挫傷,擦過症は非開放性の機械的損傷である.一般的にこれらの疾患で重篤になることは少ないが,創傷治癒の管理の失敗は単に治癒を遅らせるだけでなく,後障害の誘因にもなりうる.

 挫傷は一般的に打撲症と同義語として用いられるが,厳密には挫傷の中には打撲症のほかに内臓の挫傷が含まれる.

Ⅱ.検査・処置・内視鏡的治療に伴う薬物療法

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はじめに

 Dudrickらにより始められた中心静脈にカテーテルを留置して高濃度グルコース,アミノ酸液を投与する静脈栄養法は中心静脈栄養法と呼ばれ,アメリカで発展してきた.これに対してスウェーデンのWretlindらが脂肪乳剤を開発した経緯もあり,ヨーロッパでは末梢静脈栄養法が広く普及した.

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はじめに

 インターベンショナルラジオロジー(以下,IVR)とは画像診断学的知識に基づいて非手術的療法を行う治療の総称であり,通常はインターベンションとかIVRと言われることが多い.

 IVRは単一の手技を指すのではなく,動注化学療法,経動脈的塞栓術(transarterial emboli-zation:以下,TAE)などからステント留置などまで広範な手技の集合であり,よってそれに伴う薬物療法も多様である.

Ⅱ.検査・処置・内視鏡的治療に伴う薬物療法 3.上部消化管

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はじめに

 食道静脈瘤に対する治療法の第1選択として,内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(endoscopic inje-cion sclerotherapy:EIS)や内視鏡的食道静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation:EVL)が広く普及している,

 これらの治療法を成功させるためには手技そのものに必要な薬物と合併症を予防するための薬物があるが,いずれにも細かな配慮が必要である.

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基本的な事項

 診断技術の進歩と早期癌の病態の解明が進み,minimally invasive surgeryとして内視鏡的粘膜切除術(EMR)が広く行われるようになってきた.消化管の粘膜癌に対する第1選択の治療法となっている.

 上部消化管のEMR,ポリペクトミーに伴う薬物療法は食道,胃,十二指腸で異なる.

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はじめに

 経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endo-scopic gastrostomy:PEG)は1980年にGaudererら1)によりはじめて報告されたが,その低侵襲性と経済性から瞬く間に普及し,現在では胃瘻造設術の標準的術式となっている.一方,本邦においては医療保険制度やわずかな傷をも忌み嫌う国民性などが影響して欧米ほどの普及をみなかったが,未曾有の超高齢化社会を迎える社会状況から,ここ数年急激に増加傾向を示している.

 PEGは間腔内臓器と体表との間に瘻孔を作るいわゆる外科手術であることから,通常の内視鏡治療と外科治療の側面を持った管理法が要求される.そこで本稿ではPEGの術前・術中・術後の薬物療法を中心にした管理について述べる.

Ⅱ.検査・処置・内視鏡的治療に伴う薬物療法 4.下部消化管

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大腸内視鏡検査に伴う薬物療法

 1.前処置

 以前は注腸X線検査に準じてBrown変法が用いられていたが,近年は経口洗腸液としてポリエチレングリコール(以下,PEG)(ニフレック®)2lを用いる方法が一般的である1,2).この方法は,①便秘のない患者では前日の食事制限を必要としない,②腸管内の固形残渣が従来の方法に比べ非常に少なく精度の高い検査が行える,③腸管とスコープの滑りがよく内視鏡挿入がやりやすい,などの利点がある.一方,習慣性便秘のある患者では検査前日就寝前にラキソベロン®5〜10mlまたはプルセニド®2〜4錠の投与を行うべきである.それでも前処置が不良の場合はPEG 1l程度を追加飲用させる.また微温湯による洗腸を必要とする場合もある.PEGによる前処置の副作用として嘔気,腹痛,冷感などがみられるがいずれも軽微な場合が多く,飲用時間を調節するだけで問題ない場合が多い.しかし注意すべき副作用としてマロリーワイス症候群や虚血性腸炎を惹起する場合が報告されている.また最近では,前日を検査食とすることでPEGの飲用量を減らす試みもなされている3).PEG飲用の絶対的禁忌は腸閉塞,相対的禁忌は虚血性腸炎である.

Ⅱ.検査・処置・内視鏡的治療に伴う薬物療法 5.肝胆膵

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はじめに

 経皮経肝胆道ドレナージ(percutaneous trans-hepatic biliary drainage:PTBD)は胆道疾患の診断,治療法のひとつとして定着している1〜4).適応は肝内結石や総胆管結石,そして良性胆道狭窄といった良性疾患から膵,胆道癌などの悪性疾患まで多岐にわたる.特に肝門部胆管癌においては減黄や精密診断を行うためだけでなく,肝内区域性胆管炎を治療するために不可欠な診断・治療手段となっている2〜4)

 PTBDの前後における薬物療法としてはPTBD施行時の鎮痛剤,胆汁ドレナージ中の補液管理などが中心となる.

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はじめに

 PTCS(percutaneous transhepatic chol-angioscopy)は,拡張したPTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage)瘻孔を介して行う内視鏡検査であり,胆道ファイバースコープ1)の開発とその進歩により,胆道疾患の診断と治療になくてはならないものとなっている.PTCSの目的と臨床的意義は表1に示すごとく,主として結石の有無の確認とその摘出,あるいは良,悪性の胆管狭窄の診断と治療にある2〜5)

 PTCSは瘻孔さえ確保されていれば比較的容易に,繰り返し検査が行えることが利点であり,手技に熟達した術者が行うならば苦痛の少ない検査法である.

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はじめに

 経動脈的塞栓術(transarterial embolization:以下,TAE)は,出血に対する緊急止血1),肝細胞癌2),門脈圧亢進症3〜5)などの治療として手術より低侵襲なinterventional radiology(以下,IVR)として広く普及している.

 以下,TAE前後および術中薬物療法の実際を適応別に述べる.

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はじめに

 肝細胞癌に対する治療としては外科的切除,経皮的エタノール局注療法(PEI),経カテーテル的肝動脈塞栓療法(TAE)などが代表的である.

 経皮的エタノール局注療法(PEI)は毒性が少なく,かつ迅速な組織凝固作用を持つ99.5%無水エタノールを超音波ガイド下に腫瘍に注人し,その周囲肝実質を含めて壊死させようとする局所治療法であり,1982年にEbaraらによって開発された1,2).その適応基準は腫瘍径3cm以下,腫瘍数3個以内とされ,以来この適応基準が広く用いられ現在に至っている.PEIの特徴は局所麻酔下に超音波ガイド下穿刺術を応用した手技を用いることにより,簡便かつ低侵襲で繰り返し施行できる点にある.しかし,当然のことではあるが超音波検査で描出の不良な腫瘍や,難治性腹水や高度の黄疸,出血傾向などの重篤な肝不全例はその適応外となる.

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基本的な事項

 各種画像検査法の中で,内視鏡的逆行性膵胆管造影法(endoscopic retrograde cholangiopancre-atography:ERCP)は膵管,胆管の管腔描出に優れているため,膵胆道疾患の病態の精査に不可欠な検査法である.また,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)は総胆管結石の標準的治療法として確立されている.一方,ERCPやESTは内視鏡を用いるX線画像診断および処置であることから,ある程度の経験と熟練が必要とされる.そのため,未熟な手技に関連する種々の重篤な偶発症も報告されている.

 本稿ではERCPやESTをより安全に施行するために,ルーチン検査のあり方から偶発症の予防と対策について述べる.

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基本的な事項

 1.検査方法

 経口的膵管鏡検査法(peroral pancreatoscopy:POPS)はERCPのカテーテルの代わりに細径の子ファイバーを主膵管内に挿入し,病変部を観察する方法である.現在使用されている子ファイバーには,3〜5mmの太径でアングル機構,洗浄口および鉗子口を有するものと,1mm以下の極細径でアングル機構および鉗子孔をもたず,ERCPカテーテルをガイドに主膵管内に挿入して観察するものに二大別される(表1)1).前者は観察能に優れ,直視下生検やバスケットカテーテル,レーザーを用いた膵石の破砕・除去などの治療にも応用できるが,太径であるため特殊な疾患(いわゆる粘液産生膵腫瘍)を除き,乳頭切開やバルーン拡張などの前処置が必要である.一方,超細径ファイバーは元来血管内視鏡として開発されたもので,挿入に際しては乳頭切開は不要で,ERCPに引き続いて実施できる利点がある.ただし,アングル機構がないため観察不十分な箇所が生じる可能性がある.

Ⅲ.周術期の薬物療法 1.予定手術

麻酔の前投薬 鈴木 利保 , 滝口 守
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前投薬の目的

 前投薬の目的は手術を受ける患者の精神状態を少しでも快適にすること,とりわけ患者の不安を取り除くこと,麻酔の導入をスムーズに行うこと,麻酔の副作用を少なくすることにある.そのためには術前に麻酔科医が患者を診察し,検査結果を把握した上で患者と必要に応じて家族に面接を行い,麻酔の手順,麻酔計画および起こりうることを説明して納得を得ることが大切である.なによりも大切なことは患者を心理的,生理的に把握することである.前投薬の主な目的を表に示す.

 術前の患者心理をよく理解し,患者の不安の程度をよく観察することが大切である.不安の強い患者や良い信頼関係が得られなかった患者は,とかくheavy premedicationになる傾向が強い.不安の強い患者には鎮静薬の投与より麻酔科医による術前の説明のほうが不安を鎮める効果が大きいと言われている.患者の年齢,全身状態,手術内容,手術時間,麻酔法などを考慮した上で薬物の種類,投与時間,投与経路,投与量を決定する.

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はじめに

 HIV,ウイルス肝炎,性行為関連疾患(sexual-ly transmitted diseases:STD)などの感染症を有する患者の手術に際しては,手術のリスク・適応の判定,術式の決定,術前処置など患者の安全性に関する対策と,医療従事者側への感染防止対策の両面について検討しなければならない.

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はじめに

 下肢深部静脈血栓症(DVT)は本邦でも増加しつつあると考えられるが1),周術期に好発することも知られており,肺塞栓(PE)の合併とともに各種手術の合併症として注目を集めている.DVTの確実な診断と急性期治療指針の確立は重要な課題であるが,一方でいかにDVT・PE発症を予防するかも重要な課題であると考えられる.最近のDVT・PE予防指針の概要と新しい動向について解説する.

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はじめに

 周術期の管理の要点としては,①感染の防止,②併存疾患の管理,③水分管理に帰結される.呼吸器系手術の周術期の管理は薬物療法が主となるものではないが,上記の考え方と実際の薬剤の使用ついて述べる.

心血管系手術 今村 洋二
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はじめに

 開心術の目的は心拍出量の増加と考える.体外循環や心筋の虚血再灌流の影響が強く残存し,低拍出量症候群(LOS)の状態にあり,全身の組織の酸素需要を満たす血液量を拍出できない状態と考える.この状態をいかに短時間で軽減させるかが,周術期管理の最大のポイントである.薬物療法は収縮機能のみでなく,拡張機能への考慮も大切である.

胸腔鏡下手術 南谷 佳弘 , 小川 純一
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はじめに

 当初,胸腔鏡下手術は気胸などに対する手術に始まった.そして光学システムの進歩,手術器具の開発,手術手技の向上により胸腔鏡下手術の対象領域は瞬く間に広がった.今まで通常開胸下に行われていた呼吸器外科領域の手術は,現在ではかなりの部分が胸腔鏡下手術で行われるようになってきている.そのため通常開胸下手術と胸腔鏡下手術の相違点はアプローチ法の相違であり,手術法自体の相違ではない.したがって,胸腔鏡下手術やその周術期管理を行うにあたっては,従来の通常開胸下手術と同様に十分な注意が必要であり,また胸腔鏡下手術の特殊性を理解しておく必要がある.

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はじめに

 現在行われている上部消化管手術はほとんどが悪性腫瘍に対する手術である.そのため,それぞれの悪性腫瘍の進行度に応じて術前・術中・術後に化学療法が行われ,化学療法の副作用に対する薬物療法も行われる.誌面の都合上これらについては省略するので,悪性腫瘍の薬物療法の項を参照されたい.本稿では上部消化管の手術に際して行う薬物療法を術前・術中・術後に分けて概説する.

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 下部消化管手術の特徴は,1g当たり1010〜11個のBacteroidesを主とする嫌気性菌と106〜8個の好気性菌を含んでいる糞便1)を内容物とする大腸を切離することである.したがって,少量の腸管内容による汚染であっても,組織は多数の細菌にさらされることになり,予防的な抗生剤を投与しなければ,創感染率は30〜40%に上ると報告されている2,3).このように下部消化管手術では他の消化器手術に比し,術後の創感染および創以外の感染症の発生率が高いという特徴を踏まえ,本稿では術前の腸管前処置と周術期の抗生剤の使用方法について記述する.

腹腔鏡下手術 松本 純夫
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はじめに

 腹腔鏡下手術は腹腔内へ挿入した内視鏡観察下に鉗子を操作して行うもので,手術に必要なスペースを作るのに炭酸ガスを腹腔内へ注人する気腹法と腹壁吊り上げ法がある.気腹法では気腹圧にもよるが,腹腔内圧上昇により肝臓や消化管の血流が減少する.さらに下大静脈経由の静脈還流も減少するため下肢深部静脈血栓症が生じる可能性がある.歩行開始時に血栓が遊離し,致命的な肺梗塞を突然発症することがある.このような事態を回避するために凝固・線溶系をチェック,凝固系の過度の亢進がないようにコントロールすることが肝要で,腹腔鏡下手術の薬物療法のポイントはここにある.

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はじめに

 臓器移植患者は移植の必要な臓器の機能不全は言うに及ばず,他臓器の機能不全を合併していることも多い.したがって,移植周術期の全身管理を含めた薬物療法は重要である.本稿では肝移植術を中心に周術期において頻用される各種薬剤の使用法についてまとめてみた.

Ⅲ.周術期の薬物療法 2.緊急手術

大動脈解離 吉津 博
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はじめに

 大動脈解離は突然発生し,その自然歴は予後不良であり,Hirstら1)の1958年の報告によれば発症24時間後21%,1週後62%,4週後80%が死亡する非常に予後不良の疾患である.その予後不良に対する治療として1965年のWheatら2)の降圧療法の導入により予後が改善したと報告しているが,さらに近年の薬物療法の改善および急性期の外科療法の向上により治療成績は向上してきている.本稿では,大動脈解離に対する薬物療法を中心として解説する.

特発性食道破裂 島田 英雄
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基本的な事項

 特発性食道破裂の典型的な初発症状は飲酒後の繰り返す嘔吐に続発する激烈な胸背部痛,心窩部痛であることが多い.そのため,急性腹症や呼吸,循環器系疾患が疑われ検査が進められることもある.また,比較的稀な疾患であるため,本疾患を念頭に入れて検査が施行されないと診断に難渋する.早期診断は治療方針の決定,さらには予後にも関与してくる.このような経過で発症し,胸部X線検査,胸部CT検査で縦隔気腫,気胸,胸水が確認されれば食道破裂を疑い,水溶性造影剤(ガストログラフィン®)で食道造影を行い,造影剤漏出の有無を確認することが必要である.

胃十二指腸潰瘍穿孔 近藤 泰理
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薬物療法の意義

 H2受容体拮抗剤(H2RA)やproton pump inhibitor(PPI)などの薬物療法が進歩し,胃十二指腸潰瘍全体の手術件数は激減しているが,穿孔症例数は減少していない.十二指腸潰瘍穿孔についてみると,わが国においては広範囲胃切除術が広く行われてきた.筆者らは十二指腸潰瘍穿孔例に対して,緊急手術時に穿孔部大網充填術ならびに減酸処置として幽門形成術を付加しない選択的近位迷走神経切離術(SPV)を86例に施行し,術後累積再発率を検討した結果,術後10年累積再発率が26.6%と少なからず認められ,SPV術後1年時に高酸分泌能を示す症例は潰瘍再発をきたしやすいことを報告した1).また,緊急手術時に減酸処置を行わずに穿孔部大網充填術単独とした43例の術後5年累積再発率を検討した結果,術後にH2RAを継続投与した17例は22.2%であるのに対し,H2RAを継続投与しなかった26例は55.3%と高率であることから,穿孔部閉鎖単独症例に対する薬物療法の重要性が示唆された2)

 胃潰瘍穿孔例は症例数が少ないが,一般に穿孔部が大きく,high risk症例であることが多い.胃癌の穿孔との鑑別を常に考慮し,救命を目的に穿孔部の一時的な閉鎖を行った場合でも術後に内視鏡による胃癌との鑑別診断が重要であると考えられる3)

イレウス 山本 康久
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緊急手術の適応判断

 腹痛,嘔吐を主訴とするイレウスの診断は比較的容易であり,本症と判断したならば経鼻胃管(Levin管),イレウス管(Miller-Abbott管)の挿入により減圧をはかることが原則である.ただちに開腹手術を行うべきか否かは主病巣となる腸管の血行障害の有無による.すなわち疼痛が強く,腹膜刺激症状を伴い,炎症所見がみられれば緊急手術を前提に準備する(表1).

汎発性腹膜炎 飯野 佑一 , 横江 隆夫
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はじめに

 腹部救急疾患である汎発性腹膜炎はその発生原因により感染の起因菌(内因性)が異なるが,これに二次性感染(外因性)が加わることも多く,病態を複雑にしている.さらに,治療の開始時期の遅れが原因で全身性反応としてのSIRS(sys-temic inflammatory response syndrome)からMOF(multiple organ failure)に至る症例も少なくない.基本的には発生原因を外科的に治療する場合がほとんどで,薬物療法のみでは回復困難である.本稿では,発生原因別の術後薬物療法を中心に解説する.

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定義と名称

 虫垂炎とは一言で言えば虫垂に原発する化膿性炎症である.本邦では歴史的に右下腹部痛の原因が盲腸炎(typhilitis)から次第に虫垂炎(appen-dicitis)になっていった経過から,虫垂炎を俗に社会一般で“盲腸”といっているが,これは正しくない.これを是正していくには医師自らが患者あるいは一般の人に対して虫垂炎と正しく言う必要がある.

ヘルニア嵌頓 清水 忠夫
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はじめに

 ヘルニア内容がヘルニア嚢の狭小部(多くはヘルニア門)で絞扼されて非還納性となり,その脱出臓器の血行障害を伴うものをヘルニア嵌頓または嵌頓性ヘルニアという.臨床上非還納性のものをすべてヘルニア嵌頓と呼ぶことが多いが,区別されるべきである.日常診療でよくみられ,嵌頓をきたすことのあるヘルニアは鼠径ヘルニア,大腿ヘルニア,腹壁瘢痕ヘルニア,臍ヘルニアなどである.また,閉鎖孔ヘルニアは稀な疾患であるが嵌頓を起こしやすく,術前診断が困難なことが多いので注意を要する.

 ヘルニア嵌頓はヘルニアの合併症中最もしばしばみられ,かつ重篤である.この状態が解除されないと脱出臓器は短時間のうちに壊死に陥ることとなる.したがって診断の遅れが致命傷となることもあり,急性腹症をみたら必ず念頭に置かなければならい.特に,高齢者に多く,嵌頓をきたしやすい大腿ヘルニアの診察にあたっては,身体所見をとる際に診察の範囲が腹部にとどまると見逃すことになるので十分注意を要する.

肛門周囲膿瘍 梅村 博也 , 安富 正幸
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基本的な事項

 肛門周囲膿瘍は癤(せつ),癰(よう)に代表される皮下膿瘍として外来処置で安易に切開されることが多い.膿瘍が肛門周囲の皮膚感染から生じたものではなく,直腸肛門移行部の歯状線付近にある肛門小窩や肛門腺(一次口)の腸内細菌による感染の場合には膿瘍の切開排膿後,痔瘻となって皮膚の二次口から膿を排出することが多い.

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基本的な事項

 1.原因

 急性上腸間膜動脈閉塞症は上腸間膜動脈(SMA)に血栓や塞栓による急性閉塞をきたし,血流の低下または途絶のため広範に虚血による腸管壊死をきたす疾患である.

 40〜50%が塞栓による1).塞栓物質は心房細動などによる左心系の壁在血栓である.一方,血栓症はSMAの基部の粥状硬化部に発生する.非閉塞性腸管虚血も本症の20〜30%を占めるが,これは血管収縮性薬剤の投与,心不全,末梢循環血液量減少,腸間膜動脈血管の攣縮などによる血流低下と血流回復後の再灌流障害によって引き起こされる.

腹部大動脈瘤破裂 近藤 治郎
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腹部大動脈瘤の病態

 腹部大動脈瘤はその病因の多くが動脈硬化によることから,本邦においても高齢化社会と食生活をはじめ生活環境の欧米化に伴い患者の数は増加している.大動脈瘤自体からの症状は,表に示すような合併症が発生しない限りほとんどない.時に拍動性腫瘤として自覚する場合と,いわゆる炎症性動脈瘤として疼痛を伴って発見されること以外は,健康診断や他疾患の検査の際に超音波検査やCT検査で偶然に指摘されることが多い.このようにして発見された腹部大動脈瘤は全身状態が許す限り瘤の大きさや瘤形態などから破裂予防を目的として待期的に手術治療が勧められる.

 腹部大動脈瘤破裂は腹部あるいは腰背部の激痛を伴って発症し,ショック症状を呈することが多い.典型的な破裂は後腹膜腔あるいは腹腔内への出血で急性循環不全をきたす.破裂により大動脈外に出た血液量が多いほど手術によっても救命しがたい1).通常,待期的手術では3%位の死亡率であるのに対し,破裂例では50%位の死亡率である.種々な手術成績の報告はあるが,いったん破裂すると手術に至らず破裂するものも含めると全破裂例の20〜25%の救命率と思われる2).破裂から救命する手段は,なるべく早く少しでも良い状態のもとに緊急手術を行うべきで,一刻も早い破裂中枢部の大動脈遮断が要求される.

下肢動脈血栓症 折井 正博
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基本的な事項

 下肢の急性動脈閉塞症は原則的に緊急手術を必要とする疾患であり,治療の遅れは肢の切断に直結するのみならず,死を招くことも稀ではない.閉塞の主たる病因は塞栓症と血栓症である.塞栓症は心房細動に伴い左房内に生じた血栓に起因する例が最も多く,この場合診断は比較的容易で,早期の塞栓摘除術が良好な結果をもたらす.

 下肢動脈血栓症の原因は様々であるが,緊急手術の適応となるのは動脈硬化性の狭窄部に血栓を生じて急性閉塞をきたした場合,およびバイパス術後のグラフト閉塞が多い.膝窩動脈に関しては粥状硬化性動脈瘤の血栓性閉塞,膝窩動脈捕捉症候群あるいは外膜嚢腫による狭窄部の血栓性閉塞など特殊な例もあり,鑑別診断を要する.その他,膠原病やBehçet病における血管炎や多血症も血栓症の原因となるが,これらでは血行再建術の適応困難な末梢の動脈が閉塞することが多い.

Ⅲ.周術期の薬物療法 3.機能性病変手術

甲状腺機能亢進症 清水 一雄
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はじめに

 甲状腺機能亢進症とは血中に甲状腺ホルモンが増加し,標的臓器に代謝亢進をきたす結果,多彩な甲状腺中毒症状を惹起する病態である.その約90%はバセドウ病(Graves病)であることから,まず本疾患について述べ,他の原因による甲状腺機能亢進症については最後に一括して述べる.

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はじめに

 原発性上皮小体(副甲状腺)機能亢進症(hyperparathyroidism:HPT)を改善させる薬剤で現在使用可能なものはない.したがって本疾患が診断されれば外科的治療(上皮小体摘出術:PTx)に委ねなければ根治は不可能である.腎不全に合併する二次性上皮小体機能亢進症で程度が軽い状態(びまん性過形成)ではCaの補充,高リン血症の補正,活性型ビタミンD製剤の投与により改善可能である.最近上皮小体細胞に存在するCa-sensing receptor(CaR)がクローニングされ,calcimimeticsと総称されるCaRに対するagonistが原発性,続発性HPTで有効であったとの報告が見られる1,2).今後薬物療法が特に軽度な原発性HPTでPTxに取って代わる時期が来るかもしれない.本稿では,HPTに対する実際的な薬物療法について述べる.つまり原発性HPTでは高Ca血症(hypercalcemic crisis,上皮小体癌)に対する治療,PTx後のCa補充療法,二次性HPTに対する薬物療法,PTx後のCa補充療法についてである.

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基本的な事項

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombo-cytopenic purpura:ITP)は,明らかな原因や基礎疾患がないにもかかわらず血小板破壊が亢進し,出血症状を呈する原因不明の疾患である.最近では抗血小板抗体(PAIgGあるいは抗GP Ⅱ b/Ⅲ a抗体,抗GP Ⅰ抗体)が産生されるために起こる自己免疫疾患と考えられている.臨床経過から急性型と慢性型に分けられる.小児に多くみられる急性型は6か月以内に自然寛解することが多いのに対して,慢性型は成人女性に好発し,自然寛解はほとんどない.急性期は副腎皮質ステロイドの投与が行われる.ステロイドに抵抗性のある場合は脾摘が行われ,50〜60%の症例に完全寛解が得られる1)

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基本的な事項

 インスリノーマは膵ラ島β細胞に由来する腫瘍であり,インスリンを過剰に分泌する.ほとんどは膵に発生し,約10%に多発例,約10%に悪性例を認める1).好発年齢は40〜60歳で,男女差はない.典型例ではいわゆるWhippleの三徴(①空腹時血糖が50mg/dl以下,②精神神経症状を伴う低血糖発作,③ブドウ糖投与による劇的な回復)をもって発症する.診断は存在診断と局在診断に分けられる.

機能性副腎腫瘍 原 尚人
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はじめに

 機能性副腎腫瘍において診断,治療,術後管理に対し常に問題となるのは,厳密に片側性病変の腫瘍であるのか,両側性病変(主に過形成)であるのかの鑑別である.副腎病変によるCushing症候群では腺腫,癌とPPAND(primary pigmented adrenocortical nodular disease(dysplasia))やAIMAH(ACTH independent macronodular adreno-cortical hyperplasia)との鑑別,原発性アルドステロン症では単発の腺腫と結節性過形成との鑑別,褐色細胞腫の場合,単発の腫瘍(良性,悪性)かMEN type 2かを鑑別しなくてはならない.ここではまず,各々大多数を占める単発性の腫瘍について述べ,最後に両側性病変についてまとめて述べることにする.

Ⅲ.周術期の薬物療法 4.要注意状態の患者

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基本的な事項

 小児,新生児における薬剤投与は年齢,体の大きさ,内臓,諸器官の機能的発達や行動の発達を勘案して,薬剤の種類,投与量,剤形,投与経路などを選択し,薬剤が有効かつ安全に吸収・作用するようにする必要がある.本稿では総論および小児外科領域の薬物療法の代表的疾患である腹膜炎,敗血症および横隔膜ヘルニアにつき述べる.

高齢者 佐々木 公一 , 濱名 俊泰
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はじめに

 近年の治療学に占める薬物療法の役割は大きく,固有の薬理作用と体内動態に基づく薬剤の選択や至適投与法が求められてきている.本稿では加齢に伴う複合病態をもつ高齢者の薬物治療上の留意点を述べ,日常臨床上のpitfallに言及したい.

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はじめに

 月経は一般的には一定周期をもって反復する子宮内膜からの出血を示す.性周期おける卵胞期にはエストロゲンが,また黄体期にはエストロゲンとプロゲステロンが増加するが,これらのホルモンは直接的あるいは間接的に全身的変化を誘導する.一般にprostaglandins(PGs)の産生はエストロゲンにより刺激され,プロゲステロンで抑制される.特に黄体期末から月経時にかけてのエストロゲンあるいはプロゲステロンの分泌異常により,PGs産生も大きく変化する.月経中子宮内膜はPGsの産生能が高く,全身状態の変化として血管の攣縮,毛細血管脆弱性の亢進,皮膚・粘膜の水分貯留・浮腫,糖代謝異常,およびpro-thrombin低下をはじめとする血液成分の変化などを認める.これらの多くはPGs系作用ばかりでなく,自律神経系の作用の関連が深い1).このように,全身性変化に随伴し臨床的問題が起こりうるので,外科治療にあたり,月経前・月経中の患者に対し十分な注意が必要である.

女性患者 妊娠中の患者 内田 賢
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基本的な事項

 産婦人科医に限らず,妊娠可能な年齢(17,18〜45歳)の女性を診察し,投薬するときは先ず妊娠を念頭におくことが必要である.とくに,最終月経から28日以上経った女性の投薬については注意が必要であり,妊娠の可能性を問診し,診療録にその旨を記載すべきである.

 あらかじめ妊娠がわかっているときは医師も投薬に慎重になるが,問題は最終月経初日から28〜50日目までの絶対過敏期である.この時期は胎児に一番危険な時期であるが,未だ患者自身が妊娠していることに気づいていないことが多いので注意が必要である.一方,28日より以前の投薬については催奇形性が問題になることは少ない(図).

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はじめに

 母乳哺育は単に栄養面や免疫面での利点のみならず,母子間の精神的なつながりを深めるのに重要な役割を果たし,授乳行為は母子相互作用の原点とみなされる1).新生児室設置に伴う母子異室制導入により一時は減退した母乳哺育も近年その実施率が回復しており,可能な限り母乳栄養で児を育てる努力がなされるようになってきている.

 授乳中の母親が手術を受ける機会も稀ならず存在し,大きな手術の場合には周術期の授乳は一般に困難である.しかし,day surgeryあるいは外来の小手術など比較的小さな手術の場合には周術期に授乳が可能な場合も多い.

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基本的な事項

 手術に際して遭遇する出血はそのほとんどが血管の機械的破綻によるもので,その止血には結紮,縫合,圧迫などの外科的処置のみが奏効する.これに対して出血傾向による出血は血管系や血小板,凝固線溶系因子に異常を有しているため通常の外科的処置では止血し難く,必ず止血障害に対する適切な治療が必要となる.このような出血傾向による術中止血困難や術後出血はしばしば致死的でさえある.したがって,出血傾向を有する患者では術前に止血障害の病態を熟知したうえでの周術期管理が要求される.

Ⅲ.周術期の薬物療法 4.要注意状態の患者 特定薬物使用(療法)中の患者

アルコール依存者 櫻井 武雄
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はじめに

 慢性アルコール中毒者はわが国では240万人1),アメリカでは1,000万人と概算され,男性成人入院患者の50%近くがこれらの患者で占められており2),大きな社会問題とともに医療問題でもある.また,アルコール依存者は交通事故やその他の外傷などで緊急手術を受ける頻度が高く,さらにアルコール関連身体障害のために,周術期には特に高度な管理と治療が必要である.

薬物中毒患者 麻賀 太郎 , 春木 繁一
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はじめに

 薬物中毒(依存)患者とは麻薬,睡眠剤,抗不安剤,鎮痛剤,覚醒剤などの依存症患者を指すものと思われる.これらの患者の周術期の薬物療法と注意点について述べる.

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基本的な事項

 侵襲に対する生体反応としてはホルモンを介する神経内分泌反応と,サイトカインなどの炎症性メディエーターを介する反応がある.そのうちグルコ(糖質)コルチコイドを主体とした神経内分泌反応は基本的かつ重要な生体反応である.

 一般に侵襲が加わると生体のコルチゾール需要が高まる.加わったストレスが視床下部からのCRH(corticotropin releasing hormone)分泌を刺激し,このCRHが下垂体前葉を刺激し,ACTHが分泌される.ACTHは副腎皮質を刺激し,内因性コルチゾール供給が増加する.副腎皮質からのコルチゾールの増加は視床下部や下垂体に直接作用して,そこから分泌されるCRHやACTHの分泌を抑制している(negative feedback).このfeedback機構により長期にステロイドを服用している場合二次性に副腎機能の低下をきたす.さらに手術など過度の侵襲が加わると,コルチゾール需要増加に対応できずに副腎不全となり,死に至ることもある.したがって,ステロイド服用中の患者の周術期管理には侵襲を想定したステロイドの補充療法が必要になる.臨床の場面でのステロイドとは合成糖質ステロイドのことを指す慣習があり,本稿でもそれに従った.ステロイドは作用時間,力価,糖質・鉱質作用から表1のように分類される.

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はじめに

 周術期における血糖管理の良否が創傷治癒や術後合併症の発生率にどの程度影響を及ぼすかについては異論のあるところであるが,血糖管理を疎かにすることにより,水・電解質異常を生じて術後回復の遷延化を招いたり,時には糖尿病性昏唾などの重篤な合併症を惹起することもあることから,やはり厳密な管理が必要不可欠である.本稿では糖尿病患者に対する周術期血糖管理のポイントと,迅速かつ適切な対処を要する糖尿病性昏睡の鑑別診断およびその治療法について述べる.

降圧剤服用中の患者 清水 哲
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基本的な事項

 外科手術可能年齢の上昇に伴い,心血管系の合併症を持つ手術患者の数も増加している.中でも高血圧は程度の差はあれ,かなり多くの患者が持っている合併症の1つである.とかくわれわれ外科医は高血圧を狭心症や心筋梗塞といった合併症に比べ軽く考えがちであるが,その病態,薬歴をきちんと把握していないと思わぬ合併症に遭遇することになる.本稿では,降圧剤内服中の患者の術前,術中,術後の管理,薬物療法について述べる.

 高血圧の患者に対して外科医が自ら降圧剤を処方することはあまりなく,通常はかかりつけの内科医や紹介医によって処方されていることが多い.そのような内科医は年配の開業医から大学病院の若い医師まで様々で,降圧剤の使い方もそれぞれの医師が自分の使い慣れた薬を処方しているのが現状である.したがって,手術を行う外科医には古い薬から新しい薬までの幅広い降圧剤の基礎知識が要求される.そこでまず降圧剤の種類について概略をまとめておく.

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はじめに

 現在では人工弁が臨床応用されて約30年を経ており,心臓血管外科手術後の抗凝固療法中の患者が一般消化器外科その他の手術治療を必要とする機会が増えている.この場合に問題となるのが抗凝固療法に伴う術中,術後の出血や血栓塞栓症の予防であり,その周術期管理のポイントを述べる.

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基本的な事項

 免疫抑制剤は臓器移植後の拒絶反応抑制や膠原病,ネフローゼ症候群などにおける疾患の活動性のコントロールに用いられる.臨床的に用いられることの多い免疫抑制剤を表1に示す.臓器移植後維持期においては副腎皮質ホルモン,T細胞機能抑制剤および代謝拮抗剤の3剤,自己免疫疾患などでは副腎皮質ホルモンおよびT細胞機能抑制剤の2剤が用いられることが多い.免疫抑制剤服用中の患者に外科的治療が必要となった場合,下記の病態が存在することを認識しておく.

 ①免疫抑制剤を必要とする原疾患が存在する:臓器不全に対する臓器移植後か,膠原病(SLE,RA, PN,ウェジナー肉芽腫症,ベーチェット病など),腎疾患(ネフローゼ症候群,各種腎炎),炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病)や皮膚疾患(乾癬)などで活動期の状態が存在する.手術に当たり,上記疾患群による他臓器合併症の存在や拒絶反応の出現,原疾患の増悪の可能性を考慮する.

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はじめに

 進行消化器癌患者に対しては,その外科的治癒切除の限界から再発の防止および生存期間の延長のために,術前,術後に化学療法あるいは放射線治療の併用が行われている.抗癌剤および放射線による抗腫瘍効果は,腫瘍のみならず正常組織に対しても影響を及ぼすことから,時に重篤な合併症を引き起こしたり,QOLの低下を余儀なくされることも稀ではない.したがって,治療中の癌患者に対しては抗癌剤および放射線による副作用を十分に熟知し,治療を安全かつスムーズに遂行するためにその起こりうる副作用に対する対策を早期に行わなければならない.本稿では,消化器癌患者に対する化学療法あるいは放射線治療中に発生しうる主な副作用についての予防・対策を概説する.

透析患者 平賀 聖悟 , 山田 敏生
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はじめに

 透析患者の手術においては,救急患者のように一刻を争うようなriskyな状態は少ないにしても,腎機能の廃絶という通常と全く異なる病態が存在する.したがって,末期腎不全(end-stage renalfailure:ESRF),すなわち透析患者の周術期に際しては,病態を十分に理解した上で薬物療法を継続する必要がある.

 本稿では慢性腎不全(chronic renal failure:CRF)における薬物動態,透析患者における薬物投与法,周術期の透析療法と薬物療法などについてその要点を述べる.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法

1.DIC 岡本 好司 , 大里 敬一
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はじめに

 播種性血管内凝固症候群(disseminated intra-vascular coagulation:DIC)は様々な基礎疾患により凝固反応を起こし,微小循環系に血栓が多発する一方で,消費性の凝固障害と呼ばれる血液凝固因子や血小板の著しい減少,二次線溶の過剰亢進により出血傾向が現れる重篤な病態である.

 しかし,その病態は基礎疾患により発症形式が異なっており,凝固異常が主であったり線溶異常が主であったりしてバランスが均等ではない.例えば腹部重症感染症を基礎疾患としたDICでは凝固亢進に加えて線溶が抑制された状態で,サイトカインや顆粒球エラスターゼ,PAFなどといったケミカルメディエーターの関与が強く全面に出ており,臓器障害の発症頻度も高い1).一方,悪性腫瘍を基礎疾患としたDICは凝固亢進状態に呼応した二次線溶の亢進した状態で,消費性凝固障害と相まって出血症状の発現頻度が高い.

2.術後疼痛 吉野 茂文 , 岡 正朗
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術後疼痛の発生機序

 術後疼痛は手術による組織損傷とそれに伴う炎症反応によって生じる強い痛みであり,次のような機序で発生する1).すなわち,損傷組織や遊走白血球からプロスタグランディン,ブラディキニンやセロトニンなどの発痛物質が遊離され,この発痛物質が痛覚神経終末(Aδ,C線維)を興奮させ,疼痛を自覚するようになる.また,発痛物質は末梢性感作を生じさせ,軽度の刺激でも疼痛を感じるようになり(アロディニア),さらに痛み刺激が持続的に脊髄後角に入力されると,後角ニューロンの機能的・構造的変化が生じてその興奮性が高まり(中枢性感作),これも術後疼痛の発生に関与するようになる.

3.ICU症候群 佐藤 一範
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基本的な事項

 ICUに収容中の患者にある種の精神症状が発現した場合,中枢神経系に機能異常や器質的な合併症が認められないときにICU症候群と診断される.ICUという特殊環境によって引き起こされた精神症状との認識からこの用語が使用されてきた.事実,ICUにおいては重要臓器の機能不全に対処するため,多くの医療機器が配備,使用され,ベッド上の安静を余儀なくされ,近親者との面会が著しく制限される.また,医療機器から発生する機械的騒音や室内の照明などによって昼夜のリズムに狂いが生じやすい環境である.こうした種々の要因がストレスとなって重なり,患者の精神障害を誘発すると考える立場からは,ICU症候群という用語はそれなりに意味のあるものかもしれない.しかしながら,ICU症候群の定義は曖昧で,不眠,不安,抑うつ,幻覚妄想,せん妄など多彩な症状が含まれ,施設間でその意味するものに相違があることが報告されている1).近年,ICU症候群という屑籠的な用語を避け,専門領域である精神科的にそれぞれを診断するほうが妥当と考える施設も増えている.

 ICUせん妄はしばしばICU症候群と同義に使用されるが,その発現は特に重要で,患者の予後にも影響する.外科系のICU患者における発生頻度は11〜28%であり,高齢の術後患者では37%にも及ぶと報告されている2)

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法 4.精神・神経系

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はじめに

 手術患者では身体的ならびに精神的ストレスは大きい.そのため,周術期には精神不安定に陥り,せん妄(錯乱),興奮,不眠などが生じやすい.また,神経症や分裂病などの患者では手術を契機に病状悪化をみる症例も少なくない1).さらに,高齢者の術後せん妄は周術期管理のうえでも大きな問題である2)

 せん妄は急性可逆性の精神障害である.これは錯乱状態と意識障害を特徴とするもので,情動が変わりやすく,幻覚や錯覚によって衝動的,非合理的,暴力的行動をきたすものと定義される3).せん妄発症の機序は未だ不分明であるが,高齢者手術の増加をみる今日,避けて通れない問題である.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法 5.循環器系

術後低血圧 羽野 卓三 , 西尾 一郎
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はじめに

 術後低血圧は様々な循環動態の異常により生じる.単に血圧値のみならず血圧の下降度が重要となる.これらの幾つかは重篤な病態を示しており,緊急な対応が必要であり,速やかに原因の検索を行う.

術後高血圧 羽野 卓三 , 西尾 一郎
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はじめに

 術後の高血圧を考える際には,元来高血圧を呈していたか正常血圧者かによって対応が異なる.また,手術に至る基礎疾患においても治療方針が異なる可能性がある.例えば,脳出血の際には通常血圧の上昇がみられ,これは術後も持続する.一方,消化管出血,心機能障害などにより従来高血圧を示す例でも正常血圧を示すこともある.また,降圧薬を服薬している場合もある.したがって,術前の血圧値が本来の血圧と異なる可能性があり,高血圧の既往,治療経過,服薬状況,期間に関する情報をできるだけ正確に得るとともに,網膜所見,心電図所見,蛋白(アルブミン)尿などから,緊急時においても高血圧の重症度,臓器障害,罹病期間を客観的に評価することが必要である.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法 6.呼吸器系

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はじめに

 術後の呼吸器系の合併症は周術期の死亡率,疾病率と大きな関係があり,その予防および治療は重大な問題である.これまで文献で報告されている術後の呼吸器合併症の発症率は2〜70%と大きなばらつきが認められる.これは呼吸器合併症の定義が異なることや,対象となる患者の差によるもので,各研究間の結果の比較を難しくしている.

 現在では術後の呼吸器合併症とは,呼吸器系に明らかな異常を認め,その異常が臨床上意味があるもので,また臨床経過に悪影響を与える疾病ないし病態であると考えられている.その定義に基づく重要な合併症としては無気肺,感染症(気管支炎,肺炎),遷延化した人工呼吸管理および呼吸不全,基礎にある慢性肺疾患の悪化,気管支収縮などが挙げられる.

無気肺 小倉 滋明 , 川上 義和
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基本的な事項

 無気肺は肺の含気が減少したためにその容積が減少した状態をいう1).そのため無気肺は病名ではなく病態であり,胸部画像診断における所見の1つであるといえる.一般には肺・肺葉あるいは肺区域の容積が減少した状態を指しているが,通常は葉気管支より末梢の気管支が閉塞されても胸膜で境されていない肺では,Korn孔やLambert管などによる側副路が存在するため無気肺は生じない.しかし,炎症性病変の合併などで側副路が閉ざされていると区域性や亜区域性に無気肺が生じることになる.無気肺はその発生機序から閉塞性無気肺,圧排性無気肺,癒着性無気肺,瘢痕性無気肺に分類される2).このうち臨床上遭遇する最も重要な無気肺は肺癌によるものとICUや術後患者に合併するものがあり,両者とも閉塞性無気肺に分類される.

 肺癌による無気肺は太い気管支に好発する扁平上皮癌の早期発見に重要な兆候である.一方,ICUで最も多い呼吸器の合併症は無気肺といわれ,術後患者の48時間以内の合併症は無気肺を考えるのが原則である.このような患者の場合,多くはポータブル胸部X線写真しか撮影できないことが多く,写真の条件が悪くて無気肺の読影が困難であることも多い.しかし,無気肺の発生は患者の病状の悪化や回復を遅延し,続発性に肺炎を惹起させる危険が高く,予後を左右しかねない.

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はじめに

 術後呼吸器合併症としては肺炎と無気肺が重要である.両者を厳密に区別することは困難であるが,本稿では肺炎を中心に概説する.

肺水腫 諏訪 邦夫 , 中西 英世
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基本的な事項

 1.原因

 肺水腫の原因は肺血管内圧の上昇による.そのメカニズムとしては次のようなものがある.

 1)末梢静脈圧の上昇で静脈還流が増大して肺血管系の血液量が増加するもの:①末梢静脈の収縮:例えば極端な興奮や血管収縮作用のある薬の使用.②循環血漿量の増加:輸液や輸血の過量や極端な乏尿.

ARDS 諏訪 邦夫 , 中西 英世
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基本的な事項

 各種の傷害が肺に及んで,肺の広範で重篤な非特異的炎症の発生した状態を呼ぶ.最初の損傷は肺自体の場合と他の部位の障害が肺に及ぶ場合とがある.損傷された肺が修復の過程で線維症を起こすのもARDS(acute respiratory distress syn-drome)の病像の1つである.

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はじめに

 胸腔には生理的にも数mlの漿液があり,両胸膜の間で生成,吸収が行われている.しかしこの正常の液量ではX線やCTでそれを証明することはできない.胸水の出納は静力学的,膠質浸透圧,胸腔内圧によって規定される.臨床的に胸水として認められるのはそのバランスが崩れたとき,すなわち生成の増加または吸収の減少するときである.

 本稿は術後の薬物療法が主題なので,胸水を「胸部の手術後の胸水」と「癌の場合」に分けて解説する.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法 7.消化器系

悪心,嘔吐 谷口 繁
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病態

 術後患者の愁訴として,悪心,嘔吐は少なくない.術後の嘔吐は一律ではなく,種々の病態によって起こる.嘔吐の原因を正しく把握するには注意深い観察が必要であり,安易に対症療法にとどまってはならない.輸液による体液調整,胃,腸管の減圧,適切な食事療法などがより重要であり,制吐剤にのみに頼ってはならない.嘔吐中枢は網様体外背側部にあり,chemoreceptor triggerzone(CTZ)や求心性神経を介して嘔吐刺激が伝わる1).中毒物質,体内代謝産物などはCTZを介して,内臓からの刺激は求心性神経を介して嘔吐中枢に伝えられる.

吃逆 谷口 繁
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発生機序

 吃逆(しゃっくり)とは,横隔膜や吸気肋間筋が間代性に攣縮することによって起こる不随意的呼吸運動である.同時に連動して声帯も攣縮するので特異的な音を発する.

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はじめに

 “術後”愁訴と合併症の項目で“ストレス潰瘍,出血性胃炎”の“薬物療法”の担当を命ぜられた.薬物療法について記述することになるが,他の療法との兼ね合いが非常に重要なので,内視鏡的治療などとの関連にも簡単に触れてみたほうがよいと考える.また,術後とあるが,どのような病態や疾患時にストレス潰瘍や出血性胃炎がみられるかについても触れることにする.

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はじめに

 縫合不全,吻合部狭窄の多くは外科医の手技的エラーで生じ,吻合に細心の注意を払うことによって防止できる合併症である.したがって,薬物療法に頼ることの少ない術後合併症である.これらの多くは保存的治療によって軽快することが多いが,時に治癒が遷延し,薬物の助けを借りることが効を奏する場合もある.薬物療法は初期の保存的治療が奏効せず,治癒が遷延化し,再手術の決断を行う前に試みる方法として位置づけられる.

ダンピング症候群 田宮 洋一
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はじめに

 ダンピング症候群は早期と晩期の症候群に分けられてきたが,両者の成因が異なるので,最近はダンピング症候群(症状)といえば早期ダンピング症候群(症状)を意味し,晩期ダンピング症候群は後発性低血糖症候群(late hypoglycemic syn-drome)と呼称されている.

術後膵炎 野本 周嗣 , 中尾 昭公
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成因

 術後膵炎は成因によって3つに分類することができる.第1は,膵およびその周辺臓器の機械的損傷によるものであり,膵臓,胆道手術や胃切除などの上腹部手術後がこの分類に含まれる.膵損傷,とくに膵組織の挫滅,膵管の損傷や十二指腸乳頭部およびその周辺の損傷が膵炎の発症に関与するものである.

 第2には,周術期の循環障害や薬剤の使用による急性膵炎の発症であり,心,血管系のバイパス手術後や腎移植手術後の膵炎がこの分類に含まれる.循環障害は術中,術後の低血圧,薬剤ではステロイド製剤,フロセマイド,プロカインアマイドなど周術期に使用する機会の多い薬剤も含まれている.

術後肝機能障害 緑川 泰 , 幕内 雅敏
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基本的な事項

 術後肝機能障害は多くの場合が術後の一過性で可逆的な合成能・代謝能の低下であるが,時には意識障害,消化管出血を伴う致死的な術後肝不全に至る場合もある.主な原因としては慢性肝疾患患者に対する手術侵襲,過剰肝切除,麻酔薬,抗生剤,中枢神経薬,抗癌剤などの薬剤投与,輸血,感染,高カロリー輸液,潜在する体質性黄疸など多岐にわたる.術後に生じた肝機能障害に対処するには周術期の厳密な輸液量,カロリー,電解質の管理が重要である.

腹水 緑川 泰 , 幕内 雅敏
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基本的な事項

 腹水は腹腔内に生理的限界を越えて液体が貯留した浮腫の特殊型であり,原因は多岐にわたる.腹水の性状,比重,蛋白濃度,Rivelta反応から漏出液と滲出液に大別される.治療は原疾患の治療に加えて,対症療法として安静臥床,経口摂取の制限,利尿剤,血漿蛋白製剤,新鮮凍結血漿の投与を原則とする.これらの保存的治療に反応しない難治性腹水に対しては腹腔穿刺,腹水の濃縮還元,腹膜頸静脈シャント(Le Veen shunt)などの治療を行う.

鼓腸 西村 元一 , 三輪 晃一
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基本的な事項

 鼓腸とは腹腔内に異常に多量のガスが貯留したための腹部膨隆であり,胃腸管系にガスが貯留する腸性鼓腸(meteorismus intestinalis)と遊離腹腔内に貯留する腹膜性鼓腸(meteorismus pri-tonealis)とに分けられる.一般に術後問題となるのは前者である.

麻痺性イレウス 西村 元一 , 三輪 晃一
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基本的事項

 手術とくに開腹術後には程度の差はあるが一時的に腸管運動麻痺状態(生理的イレウス)が起こり,通常は48〜72時間後には回復する.しかしながら麻痺の状態が遷延し,腹部膨満が続くと全身状態に影響を及ぼすことがあり,この状態が麻痺性イレウスである.

Ⅳ.術後愁訴と合併症の薬物療法 8.腎・泌尿器系

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基本的な事項

 急性腎不全とは急速に腎機能が低下し,乏尿(尿量400ml/日以下)または無尿(100ml/日以下)となって高窒素血症が出現する症候群である1).尿量が保たれている非乏尿性腎不全もあるので注意を要する.発症機序から腎前性,腎実質性,腎後性に分けられ,治療方針も三者で異なる.腎前性は主に腎虚血が,腎実質性は尿細管上皮細胞に対する虚性が病因とされてきたが,最近,いずれの場合も様々なサイトカインや活性酸素がmediatorとなって腎微小循環や腎細胞障害を起こすと考えられるようになった2)

 急性腎不全は早期に診断し,適切に治療すれば1週間から3か月の薬物治療や透析で回復し,透析から離脱しうる.当院での最近5年間の術後急性腎不全の透析症例の予後は,透析から離脱できたもの,救命されたが維持透析になったもの,死亡が3割ずつであった.

排尿困難 大東 貴志
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基本的な事項

 排尿困難,特に尿閉は比較的多く認められる術後の合併症である.発生率は3.8〜52%とされ,肛門直腸疾患,婦人科疾患に対する手術やヘルニア根治術の術後に多い1).尿閉あるいは排尿困難は患者に苦痛を与えるばかりでなく,難治性尿路感染症の原因となり,腎後性腎不全を引き起こすこともある.またカテーテル留置自体が感染や膀胱尿道損傷の原因となることがある.

 排尿困難の成因,および薬物治療を考える場合,排尿のメカニズムを理解する必要がある.下部尿路機能は交感,副交感,体性神経による三重支配を受けている.仙髄(S3〜S4)から分岐する副交感神経系の骨盤神経は骨盤神経叢を経て主に排尿筋に作用し,これを収縮させる.一方,交感神経系の節前線維はTh11〜L2から始まり,主要経路は大動脈前面の上下腹神経叢で節後線維となり,下腹神経を構成後,α1受容体を介して膀胱底部や尿道平滑筋の収縮をもたらし,またβ2受容体を介して排尿筋を弛緩させる.体性神経の遠心路はS3〜S4前角から出て陰部神経となり,外尿道括約筋と骨盤底筋群に分布する.

Ⅴ.悪性腫瘍の薬物療法

甲状腺癌 田中 礼子 , 小原 孝男
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はじめに

 甲状腺癌は病理組織型によって臨床像が異なり,それぞれ治療法も異なってくる(表1).分化癌は手術が中心で薬物療法としては甲状腺全摘術後のTSH抑制療法,また進行・再発症例に対する化学療法が行われる.一方,未分化癌,悪性リンパ腫は化学療法が治療の中心である.

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病態

 乳癌の病態に関する考え方は歴史的にみて転換期にあると思われる.すなわち,古典的にはハルステッド流の考え方として癌は局所にできて,そこからリンパ流に乗り,リンパ管,リンパ節を経て全身に散らばっていくという考え方が主流であった.ところが1980年代になり,FisherらがNSABP trialの結果を元に,癌は血流に乗ってatrandomに全身に散らばるために,臨床的に触知するような癌はすでに全身病であるとの考えを提示し,広く受け入れられていた1).ごく最近になり,癌からのリンパ流を最初に受け入れるリンパ節(sentinel lymph node)を生検することにより,腋窩リンパ節転移を高率に予測しうることが報告されるようになったことや2),術後照射を所属リンパ節にかけることにより予後が改善されたことなどが報告されるようになり3,4),臨床的な癌の中にも局所にとどまる癌,すなわち局所療法により治癒する癌の存在が広く認められつつある.ただ,これらは原発癌に対する考え方であり,再発乳癌の場合には当然全身病であり,かつpalliativeな治療とならざるをえない.乳癌を局所病と考えた場合には全身治療である薬物療法の適応は予後との関係で決まり,全身病と考えた場合には最初から薬物療法が主体となる.

肺癌 小川 純一
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肺癌に対する化学療法

 肺癌はわが国の癌死亡数の第1位を占めるものの,その治療成績はきわめて不良である.原因として発見時にすでに切除不能の進行癌が多いこともさることながら,血行性転移の頻度が高く,外科治療のみでは対処できない全身性疾患であることも大きい.そのため全身療法としての抗癌剤投与は欠かせない.

 肺癌はその病態から扁平上皮癌,腺癌,大細胞癌を含めた非小細胞癌と小細胞癌とに大別され,それぞれで化学療法が異なる.

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はじめに

 食道癌に対して本邦では頸胸腹部3領域リンパ節郭清が1980年代初めから積極的に導入され,従来きわめて不良であった食道癌の治療成績が5年生存率で50%前後にまで向上した1).しかし,いかに郭清範囲を拡大しても外科手術は局所療法であり,切除後に生ずる遠隔臓器再発には無力である.したがって食道癌の治療成績をさらに向上させるには全身療法である化学療法の併用は必須と考えられる.

 このような補助化学療法の適応となるのは,不顕性の遠隔転移が生じている確率が高い食道癌である.リンパ節転移(N1)は食道癌切除例の最も強い予後不良因子であり,補助化学療法の適応と考えられる.特に転移リンパ節個数5個以上,3領域同時転移例,頸部リンパ節転移陽性の下部食道癌,そして壁内転移陽性例などは3領域郭清を行っても予後はきわめて不良で1,2),化学療法の併用が必要と考えられる.また隣接臓器浸潤のため切除不能となる食道癌(T4)も少なくなく,このような症例にresectabilityを得るためにも化学療法や放射線治療の適応がある.さらに初診時あるいは術後に遠隔臓器転移(M1)が明らかになった症例にも化学療法が行われる.

胃癌 山口 浩和 , 上西 紀夫
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薬物療法の位置づけ

 胃癌は化学療法の効果の少ない癌であり,治療の第1は外科療法と考えられてきた.現在でも化学療法が外科療法を凌駕するものではないが,多剤併用療法の開発によって胃癌はchemosensitiveな腫瘍と認識されるようになってきた.切除不能な進行胃癌に対する化学療法の生存への寄与に関しては,1993年にMuradらがFAMTX療法で,1995年にPyrhonenらがFAMTX療法のmodifiedarmで無治療群と比較試験を施行し,化学療法が生存へ寄与することを明らかにしている1,2).進行胃癌の治療は外科療法でも限界があり,外科治療と化学療法との複合療法が期待されている.

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はじめに

 大腸癌の治療法の基本は早期癌,局所進行癌ともに手術療法であり,また,肝・肺転移巣,局所再発巣に対しても治癒的切除が行われれば,比較的良好な成績が得られている1).したがって,大腸癌に対して薬物療法,すなわち,癌化学療法が行われるのは,(1)治癒的切除時の再発防止を目的とした手術補助化学療法,(2)切除不能な進行・再発癌に対する化学療法ということになる.

 大腸癌化学療法に用いられる抗癌薬は5-fluo-rouracil(5-FU)が中心であり,本邦では5—FU誘導体(tegafur(FT),UFT, carmofur(HCFU),doxifluridine(5'DFUR))の経口薬も多く用いられており,その他,mitomycin C (MMC),Me-CCNU, CDDPなども用いられる.そして,近年は5-FUとleucovorin (LV),levamisole (LEV)などの併用も盛んに行われている.

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基本的事項と治療戦略

 肝臓癌を原発性肝癌と転移性肝癌に分類すると,前者では肝細胞癌,後者では大腸癌の肝転移が主なものである.肝臓癌の診断,治療は最近急速な進歩を遂げたが,なかでも治療法では手術療法の安全性の向上はことにめざましい.更にPEIT(percutaneous-transhepatic ethanol injectiontherapy),TAE(transarterial embolization),PMCT(percutaneous microwave coagulation ther-apy)などの局所療法が確立されつつある.化学療法はこれら局所療法のadjuvant therapyとして用いられるほか,他の治療法の対象とならない高度進行例の治療法として選択される.ときには肝予備能不良例において化学療法が唯一検討されることもある.

 肝臓癌への化学療法における投与経路としては,経口ならびに経静脈的投与による全身投与の他に,肝動脈内投与(動注)が挙げられる.特に,肝細胞癌では正常肝組織と腫瘍とでの肝動脈からの血流依存度の差異が顕著であることから,肝動脈からの化学療法が有効と考えられている.動注は薬剤輸送システムdrug delivery system(DDS)を含め様々な工夫のもとに広く行われている.

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胆道癌に対する薬物療法の位置づけ

 胆道癌(胆嚢・胆管癌)に対しては化学療法や放射線療法はほとんど効果なく,外科的治療が唯一の治療法と言っても過言ではない.しかし,早期発見例は少なく,大半は閉塞性黄疸を伴った進行癌であることや,発生部位が肝・膵あるいは門脈・肝動脈などの主要血管に近接するといった解剖学的特性から,その切除は必ずしも容易なことではない.したがって,切除のみならず切除不能例への対応も重要であり,この場合には適切な減黄とともに,良好なQOLを得るための薬物療法が大きな柱となる.一方,切除例といえども胆道癌は悪性度が高く,容易に再発をきたすことから,再発予防のための集学的治療の一環として薬物療法が行われている.なお,進行胆道癌の多くは閉塞性黄疸という特有の病態を呈するが,その管理の面でも薬物療法の果たす役割は大きい.

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はじめに

 膵癌は消化器癌の中でも最も予後の悪い癌の1つであり,拡大郭清手術1)の導入によって切除率は向上しているものの,長期生存は未だに得難いのが現状である.特に切除不能症例に対しては確立された治療法はなく,全国集計2)では1年生存率がわずかに10%を超える程度である.膵癌の予後改善のためには治癒切除を得ることが必要条件であり,外科的治療の役割は大きい.しかし,化学療法や放射線療法など他の治療法を組み合わせた集学的治療なくして長期生存例を得ることはできない.“膵癌の薬物療法”としては化学療法の他に放射線療法に併用する放射線増感剤や,免疫療法としてのLAK療法で用いるinterleukin−2(IL−2)なども含まれるが,本稿では化学療法に的を絞り,現在膵癌に対して施行されている化学療法の実際について概説する.

消化管悪性リンパ腫 小野 裕之
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基本的な事項

 悪性リンパ腫はリンパ組織から発生する腫瘍であり,リンパ組織の構成細胞であるTおよびBリンパ球,さらに単球,マクロファージ系など網内系細胞起源の腫瘍の多くがリンパ腫のカテゴリーに入る.組織学的には大きくホジキン病(Hodgkin's disease)と非ホジキン病(non-Hodgkin's disease)に分類され,また発生部位別にリンパ節から発生する節性リンパ腫とその他の臓器から発生する節外性リンパ腫に分けられる.消化管原発の悪性リンパ腫は節外性リンパ腫に分類され,その大半は非ホジキン病かつBリンパ球性である.頻度としては消化管悪性リンパ腫は全リンパ腫の約10%を占め,そのうち胃原発のものが約60〜80%と最も多く,次いで小腸(15〜30%),大腸(10〜20%)の順となり,食道原発はきわめて稀である.また,消化管腫瘍に占める悪性リンパ腫の割合は全体で1〜2%,胃では1〜4%,小腸で20〜40%,大腸で0.1〜0.7%とされている.

 また,Isaacsonらが提唱した胃MALTリンパ腫は,本邦で従来RLHとされていたものの一部とdiffuse medium cell悪性リンパ腫とされていたものの一部を含む疾患概念であり,H. pyloriとの関連が強く示唆されている1)

小児癌 水田 祥代 , 田尻 達郎
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はじめに

 小児固形腫瘍では全摘不可能な症例に対して化学療法を施行して腫瘍縮小後に再手術(secondlook operation)を行うことが多い.本稿では小児三大固形腫瘍である神経芽腫,ウィルムス腫瘍,肝芽腫における化学療法について述べる.

Ⅵ.感染症の薬物療法

1.抗菌薬の使い方 内山 和久 , 谷村 弘
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はじめに

 抗菌薬の選択基準はまず,①感染部位別に起炎菌を推定し,empiricに抗菌薬を選択する.同時に,②薬剤感受性試験を行って,抗菌活性のある薬剤を選択する.その際,③宿主側の重症度を考慮しつつ,④使用する薬剤の体内動態や抗菌活性の作用機序を把握しておく.抗菌薬投与時には,⑤その抗菌薬の副作用を十分把握しておく.また,⑥その薬剤単独使用では問題なくても,他剤との併用によって思わぬ相互作用が出現することがあるため,使用薬剤の併用効果を確認して投与する.