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異常値を示す疾患
尿量の異常をきたす疾患を表1に示す.正常人の尿量は600〜1,600ml/日であり,1日量500ml以下および3,000ml以上は異常とみなされる.尿量は腎の濃縮力,腎から排泄されるべき溶質量(電解質,尿素,その他)および血中抗利尿ホルモンADHレベルにより決定される.したがって,正常の濃縮力とADH分泌能力がある人については腎から排泄される溶質量が強く尿量に影響する.尿量の異常を考えるときには同時に尿比重または尿浸透圧を測定することにより,腎の濃縮力と排泄されている溶質量を考慮する必要がある.
表1において急性に尿量を減少される疾患のうち,腎性のもので最も重要なものは急性糸球体腎炎である.急性腎盂腎炎は両側性に侵されなければ尿量の異常はみられない.この型で一番強いものは乳頭部壊死を伴う(急性壊死性乳頭炎)もので,糖尿病あるいは衰弱した老人の腎盂腎炎にみられることがある.急性尿細管壊死はこれを中毒性と虚血性に大別することができる.腎に有害な物質としては水銀,砒素,鉛,亜鉛,四塩化炭素,塩素酸カリ,プロピレングリコール,スルフォナマイドなどが知られている.ポルフィリンおよびビリルビンも過量に血中に存在すると腎に対して有害に作用し,尿細管壊死の原因となる.虚血性のものは普通,ショックや重症の脱水などにより腎の虚血が数時間以上にわたったときに発生する.
尿比重は,尿にどれだけの溶質が含まれているか,言い換えると尿濃縮度を示すパラメーターの1つである.比重とは,"ある温度である体積を占める物質の質量と,それと同体積のある標準物質の質量との比"と定義される.尿比重の標準物質は15℃の純水である.測定は浮き秤比重計,屈折型比重計,試験紙(N-Multistix SG®)がある.
異常を示す原因物質と疾患
尿色調異常を主訴として外来を訪れる患者の数はかなり多い.健康人尿色調は淡黄色むぎわら色と表現され,水利尿,濃縮などによって水様透明〜黄褐色までの変化を示すが,それほど激しいものではない.そして,尿色の異常を訴えた場合,ほとんどが淡黄色を基調とする色彩の変化を示すもので強調された変化に限るようである.
表に尿色調の変化をきたす原因物質と対応する病名をあげた.変色は尿中物質の変化をきわめて端的に証明するものであり,診断の重要な情報源となり得る."Keine Diagnose ohne Harnuntersuchung"といわれてきたそのまた第一歩が尿色の観察であり,決して省略できない診断作法のひとつといえよう.尿色の観察は同時に透明か混濁尿かの診断もつき,ひと目でスクリーニングの網を絞ることができる.たとえば最も頻度の高いのは赤色尿であり,当然血尿,血色素尿,薬尿,ポルフィリン尿の順に考えられる疾患をあげ,鑑別を進めることになる.したがって,尿路系の疾患,出血性素因,アレルギー疾患,服用薬剤,食用色素などを鑑別の対象にあげ,最後に稀な疾患であるが,ポルフィリン尿症,血色素尿症などを考えるのが一般的であろう.もちろん,臨床症状がポルフィリン尿症,発作性寒冷(または夜間)血色素尿症を疑うほど明瞭な場合,この順序は無視されてよい.
健康人の尿pHは4.5〜8.0の間で変動し,新鮮尿ではだいたいpH5〜6の弱酸性である.このような大きな変動幅をもつ尿pHの異常値はどこかというと,他の検査所見のように健康人でみられる範囲をはずれたら異常値という考え方はできない.健康人でも睡眠中は肺換気量減少のため呼吸性アシドーシスの状態となり,尿は酸性となり,起床とともに低下していたpHは元にもどる(morning alkaline tide).また食後尿は,食物にもよるが,だいたいアルカリ性に傾き(post par-andial alkaline tide),1〜2時間後に再び酸性となる.一般に動物性蛋白摂取後は酸性に,植物性食品ではアルカリ性に傾き,はげしい運動後は血漿中乳酸が増加し,一過性のlactic acidosisとなり,尿は酸性を示すといわれている.したがって,尿pH5あるいは8という成績がかえってきても,はたしてこの値が生理的なものか,異常状態のために現れたものなのかを区別するのは困難である.もちろん尿pHが4以下,8以上であれば異常値といえるが,病的状態でもこのようなことはまず起こらない.したがって,尿pH検査のデータのみでは疾病診断としての有用性に乏しい.
尿pHが酸性(アルカリ性)を示す疾患を表に示した.
異常を示す疾患
尿混濁は,混濁を起こす原因によって,血尿,膿尿,血膿尿,塩類尿,細菌尿,乳糜尿,乳糜血尿,精液尿,糞尿,雲翳および淋糸などと区別される.
尿混濁をきたす疾患を表1に示した.
■尿蛋白陽性を示す疾患
尿蛋白の証明は,一般的に腎・尿路系の疾患の存在を示唆するものである.しかしながら腎尿路系疾患に限らず,表1に示すごとく生理的状態や,各種の病態が尿蛋白陽性を示すことは,尿蛋白のもつ臨床的意義の重要性を表している.健常者でも尿蛋白が証明されることが報告されており1),これらを総合的に考えれば,1日100mg以内の尿蛋白をみることが理解される.男女差はないと考えられる.この健常者の尿蛋白は,試験紙法や煮沸法では検出されず,一番鋭敏なスルフォサリチル酸法で疑陽性を示すか示さないかぐらいである.
尿糖が陽性を呈するのは,糖尿病である確率が高い.しかし尿糖陽性の所見からただちに糖尿病と考えて治療を開始すると,糖尿病以外の原因で尿糖陽性の場合があるので,血糖下降剤による重症低血糖などの危険がある.一方尿糖が陰性であっても糖尿病を否定する根拠とはならない.また,その尿が食前のものか食後のものかを考慮しなければ意義が少ない.
■ブドウ糖以外の尿糖を認める疾患
健康人にはガラクトース,果糖,五炭糖,尿糖,蔗糖など,ブドウ糖以外の尿糖は認められないか,認めても普通痕跡程度である.
ブドウ糖以外の尿糖を認める生理的状態および疾患を表に示した.ガラクトース,果糖,乳糖は未熟児および新生児の尿中に,正常な場合でも証明できるといわれる.健康者でも,多量の果物を食べたあと,l-アラビノースあるいはl-キシロースなどの五炭糖尿を認めるし,蔗糖を多量摂取後に蔗糖尿を認めるという.
ケトン体(アセトン体)とは,アセト酢酸,アセトン,βハイドロキシ酪酸の総称で,強酸性の物質である.アセト酢酸は組織内で脱水素酵素により還元されるとβハイドロキシ酪酸となり,非酵素的に脱炭酸されるとアセトンに変わる.アセト酢酸とβハイドロキシ酪酸を分別定量している施設もあるが,一般に両者は1:3の割合で存在し,ほぼ平行して変動するために,検出の容易なアセト酢酸の半定量が臨床的には多用されている.
アセト酢酸は脂肪酸の生体内酸化の中間代謝産物で,とくに肝において脂肪酸からアセトアセチルCoAを経て生合成され,エネルギー源の一部となっており,正常人でも少量存在する.しかし表のごとく,なんらかの機転で糖質の不足,または糖質の酸化に障害が生じ(利用障害),TCA回路が回転しなくなるとエネルギー供給源を脂肪に求めるようになり,肝でのアセト酢酸の合成が亢進する.糖尿病性ケトアシドーシスの場合は正常の数十倍から数百倍に増加する.
尿中ビリルビン陽性をきたしうる疾患の主なものを表に示した.血中直接ビリルビンの増加する疾患がほとんどである.尿ビリルビン陽性を示す疾患は原因のいかんを問わず血中ビリルビン増加をきたすと考えてよく,肝・胆道に病変のない疾患ではみられない.尿定性検査のうちでは疾患群特異性の最も高い検査である.ただ,閉塞性肝・胆道疾患のみでなく,実質障害においても程度の差はあるが陽性となり,診断的特異性は低い.
たとえば,間接ビリルビンの血中増加を主とする疾患では肝・胆道疾患が疑われ,黄疸が認められても尿ビリルビンは陰性である.溶血性黄疸,新生児黄疸,Gilbert症候群,Crigler-Najjar症候群,成人の軽症先天性非溶血性黄疸などは決して尿ビリルビン陽性とはならない.なったとすれば合併症か別の診断を考慮する必要がある.
実際に臨床でみられる疾患時の尿中クレアチン,クレアチニンの排泄量の異常は表のごとく,通常3つのタイプに分けられる(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ).これらの異常の大部分は神経・筋疾患であり,また代謝異常が筋に及んだ場合である.その反映としては,血中および尿中クレアチン上昇,尿クレアチニン減少のパターンを示す.腎障害,肝障害では主にクレアチニンが減少する.
尿沈渣の400倍1視野に3〜4個以上の白血球が存在しているときを膿尿と称している.ただし,健康人でも1視野に3〜4個程度の白血球を認めることがある.尿中白血球数が多くなると肉眼的に混濁するが,尿中白血球数と病変の重症度とは関係がない.
尿沈渣検査は,通常,尿10mlをスピッツにとり,1,500rpm,5分遠心し,上清を一気に捨て,管底に残る0.1〜0.2mlを軽く攪拌し,その一部をのせガラスにとり,400倍で鏡検し,10視野を平均して,1視野に何個という表現をする.それゆえ,定量的な印象を与えるが,定性的と考えるべきであり,再現性の困難な場合も少なくない.また,近年,顕微鏡の広角化が進められており,その面からも定量的な意味はうすめられている.
病的顕微鏡的血尿を惹起する疾患を,原因別に表に示した.
血尿とは尿に血液を種々の程度に混じた状態を指し,一見して血尿とわかる状態を肉眼的血尿という.そして尿路系疾患の重要な症候の1つである.肉眼的血尿をきたす疾患を表に示した.
肉眼的血尿をきたす疾患には,膀胱腫瘍をはじめ,腎,腎盂,尿管腫瘍など重大な疾患もあり,また,しばしばみられる特発性腎出血,尿路結石,稀にみられるものとしては,尿路外傷,尿路結核あるいは全身性の出血性素因,たとえば血友病,白血病,紫斑病,抗凝固剤などの薬物投与に起因するものなど種々雑多である.
ヘモグロビン分解とヘモグロビン尿出現機序
正常では,寿命のつきた赤血球は網内系細胞に捕捉され崩壊し,ヘモグロビンの分解も網内系細胞内で行われる.したがって,血漿中に遊離してくるヘモグロビンはきわめて微量(0.3mg/dl1))である.血漿中に遊離したヘモグロビンはヘモグロビン特異的結合蛋白であるハプトグロビンに結合し,複合体を形成する.この高分子複合体は網内系(主として肝臓)で処理され,ヘムは鉄と非抱合(間接)ビリルビンに,グロビンはアミノ酸に分解代謝される.
多くの溶血性疾患においても,通常は網内系細胞でヘモグロビンはほとんど処理されるので,血漿遊離ヘモグロビンが著明に増加することはない(血管外溶血).一方,血流中で赤血球が崩壊すると,ヘモグロビンは血漿中に遊離する(血管内溶血).遊離ヘモグロビンが少量であれば,血漿中には十分量のハプトグロビンが存在するので,ヘモグロビンの処理はほぼ完全に行えるが,長期間溶血が持続しているためハプトグロビンが消耗している場合や,正常量(成人152±83mg/dl2))のハプトグロビンが存在していても,ハプトグロビンのヘモグロビン結合能を超える量のヘモグロビンが一時に遊離した場合,ヘモグロビンを処理しきれなくなり,ヘモグロビン血症が起こる.
検査対象
マス・スクリーニングの検査の対象とされている先天性代謝異常症は,フェニールケトン尿症,メープルシロップ症,ホモシスチン尿症,ヒスチジン血症,ガラクトース血症の5疾患で,先天性内分泌異常症はクレチン症のみである.
アミノ酸尿の分類
尿中に排泄されているアミノ酸量が,正常よりも著しく増量している場合をアミノ酸尿という.一般にアミノ酸尿はその成因によって,次の4型に分類されている.すなわち,①フェニールケトン尿症のように,血中アミノ酸の増加とともに,尿中アミノ酸も増加するover-flow型,②排泄閾値の低いβ-アミノイソ酪酸のようなアミノ酸が体内で増加する場合で,血中アミノ酸は増加せず,尿中排泄のみが増加するnon-threshold型,③シスチン尿症のように特定のアミノ酸転送系に異常があるためにアミノ酸の特定のグループの排泄が増加するspecific-renal型,④腎尿細管のアミノ酸転送系が全般的に障害され,ほとんどすべてのアミノ酸の排泄が増加するnon-specific型に分類されているが,その診断には,血清アミノ酸と尿アミノ酸を同時に分析する必要がある.
なお,正常値は表1のようである.
妊娠反応は,胎盤の絨毛組織より分泌される絨毛性性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin:hCG)を,生物学的または免疫学的方法により,妊婦尿を用いて検査する方法である.現在では煩雑な生物学的妊娠反応に代わって,手技が簡単でかつ迅速に実施できる免疫学的妊娠反応が外来のルーチン検査の1つとして広く利用されている.
免疫学的妊娠反応試薬の原理は,凝集反応と凝集阻止反応とに分類され,いずれも担体にヒツジ赤血球またはラテックス粒子を使用しており,その利用は,目的によって当然選択が異なる.
■異常値を示す疾患
尿ポルフィリン体は前駆物質であるδ-アミノレブリン酸(ALA)とポルフォビリノーゲン(PBG)およびウロポルフィリン(UP)とコプロポルフィリン(CP)の4種が主なものである.ALAとPBGは無色であり,原則として増加しても着色しないが,PBGは放置すると酸化されて褐色のポルフォビリンとなるため尿の褐色調が増す.UPとCPは紫赤色であり,増加すると尿は特有のブドウ酒色を呈する.尿ポルフィリン体は健常者は微量であり,増加した場合はすべて病的と考えてよい.尿ポルフィリン体の増加する疾患を表に示したが,著増を示すものはポルフィリン症と鉛中毒に限られ,他の疾患は軽度の増加にとどまる.
尿ALAはすべてのポルフィリン症と鉄芽球性貧血,鉛中毒などで増加するが,著増を示すものは発症期の急性ポルフィリン症(急性間歇性ポルフィリン症AIP,異型ポルフィリン症VP,肝性コプロポルフィリン症HCP)と鉛中毒である.軽症鉛中毒では尿ALAが赤血球プロトポルフィリン(PP)とともに診断の手がかりとなる.尿PBGの増加は肝性ポルフィリン症の全部と溶血性貧血,鉄芽球性貧血,鉛中毒などであるが,著増を示すものは発症期の急性ポルフィリン症全部と重症鉛中毒である.中でもAIPは寛解期でも尿PBGが増加しており,その検出がスクリーニングに役立つ.
検査の必要な場合
臨床的に薬尿であるかどうか,薬物は何かを検索する必要があることは少ない.大別すると,①薬物中毒を疑うとき,②薬物の代謝異常を疑うとき,③薬尿による検査の妨害を疑うときなどである.本稿でいう薬尿とは,患者が体内にとり込んだ薬剤またはその代謝産物が患者尿中に含まれるものを指し,最初から検査目的をもって与えられ混入している薬尿,たとえばPSPなどは除外する.
①の薬物中毒は与薬する医師が対象薬剤名を明らかに承知している場合もあれば,まったく予想できないときもあろう.たとえば幼小児の薬剤誤嚥とか,状況証拠のない薬物中毒を疑われる患者が送り込まれたとか,人為的な間違い投薬などである.すなわち,尿中薬剤をしらべた結果が診断,治療のうえで大切な情報であって,成績がなければ適切な処置をとれない場合である.
潜血反応陽性を示す疾患は広範囲で多岐にわたるが,その多くは消化器,とくに消化管疾患である.表1は消化器疾患をまとめたものである.
(1)食道疾患では静脈瘤が最も多いが,ついで食道潰瘍または食道炎,Mallory-Weiss症候群,食道癌が多く,食道肉腫および良性腫瘍の頻度は低い.
異常を示す疾患(表1)
便中の脂肪は食物残渣としての脂肪,消化管細胞由来の脂肪と腸内細菌の代謝に由来する脂肪とに区別して考えられる.その大部分を占めるのは食物由来の不消化,非吸収脂肪であり,中性脂肪,グリセリド,脂肪酸が大部分である.脂肪酸の構成はパルミチン酸,オレイン酸,ステアリン酸,ミリスチン酸,リノール酸,リノレン酸の順に低くなっている.ただ糞便中の脂質成分比をみてもその由来を知ることはできず,現在のところ便脂肪の検査というと糞便中脂肪の定性,定量および脂肪負荷による吸収障害の判定に利用されるのみである.また,便脂肪の検査は表から推察できるとおり慢性疾患で,便脂肪検査が診断の決定的資料となりうる場合は少ない.
表1は脂肪便を示す頻度の高いと思われる疾患を便宜的に,①消化液(胃液,胆汁,膵液)の分泌障害または異常によるものと,②続発性および原発性の吸収不全とに分けてみた.消化液の不足による脂肪便は,消化不能なための食物残渣由来の脂肪性下痢便で,摂取した脂肪塊がそのまま便中に混在する.吸収障害による場合は,膵液,胆汁と小腸上部の滞留時間が長ければ,少なくとも食物脂肪の鹸化,乳濁が便で観察されるであろう.Zollinger-Ellison症候群では,胃液過剰分泌により上部小腸粘膜の傷害とともに膵リパーゼ活性を阻害するための消化不良性下痢である.同じような水性下痢にWDHA症候群があるが,こちらは便中脂肪量は少ない.
圧とその異常(表1)頭蓋内圧(髄液圧)測定の方法には,脳室内,大槽,硬膜下,硬膜外および腰椎穿刺などがある.一般的に補助診断に利用されるのは腰椎穿刺法であるので,それについて述べる.
頭蓋内圧とは,頭蓋および脊椎腔内の容積(脳実質,脊髄,血液および血管床,髄液そして病的な状態での腫瘍および血腫など)の変化に対する容器(頭蓋や脊椎)からの等しい強さの反作用の力を,髄液を介して測定しているのである.したがって,圧の異常ということは,単に髄液のみでなく,脳実質,脳循環などの変化をも総合した所見として捉えなくてはならない.
髄液検査は神経疾患の補助診断法として今日最も広く行われ,かつ重要な位置を占めているが,さらに近年では髄液蛋白とくに免疫グロブリンの詳細な検討がなされ,多発性硬化症などの免疫性神経疾患における免疫グロブリン異常が注目されている.
髄液蛋白の増加は表1に示すように,炎症,血管障害,腫瘍,脱髄など多くの神経疾患に認められるが,いずれも50〜150mg/dl程度にとどまる場合が多く,200mg/dlをこえるものは,化膿性,結核性および真菌性髄膜炎,脳室内出血,クモ膜下出血,Guillain-Barre症候群などに限られる.また脊髄腫瘍,クモ膜癒着などにより脊髄腔が遮断された場合には,ときに6g/dlにも及ぶ蛋白増加をみることがある(Froin徴候).
髄液の糖はほとんどがブドウ糖で,ほかに微量の多糖類,果糖,リボースなどを含む.中枢神経系が正常のときは,髄液糖は血糖値と平行しており,血糖の1/2〜2/3の値を示す.髄液糖の正常値は成人で50〜75mg/dl,乳幼児や新生児ではやや低く,採取部位によっても異なる.髄液糖の減少は診断上重要なことであり,ここでは40mg/dl以下を髄液糖減少とする.
中枢神経系が病的状態になると,血液,髄液間の関門透過性が高まり,髄液糖は上昇する.また髄液中の細菌や細胞の解糖作用によって,髄液糖は減少する.この場合,解糖の主役は細菌で,白血球は補助的役割をする.
正常な髄液には,わずかなリンパ球と稀に内皮細胞がみられる.リンパ球数は成人では1mm3に2〜3個で,5個以上の細胞が存在すれば細胞増多症という.1歳未満では10個以上を病的とする.細胞増多症では細胞の種類と細胞数が問題となる.細胞は多核白血球とリンパ球が主で,わずかな好酸球,形質球あるいは白血病細胞や腫瘍細胞を含むこともある.一般に細胞の種類を多核球(多核白血球)と単核球(リンパ球)に区分する.細胞数の算定は赤血球を除外して,それ以外の細胞を数える.
細胞増多をきたす主な疾患と細胞の概数およびその種類は表のとおりである.このほかにトキソプラズマ,日本住血吸虫症,ブルセラ症,伝染性単核症,脳血管障害,硬膜下血腫,ベーチェット,サルコイドーシス,腰椎穿刺後,造影剤や薬剤などの髄腔内注入などで,軽〜中等度の細胞増多がみられ,脳脊髄寄生虫症では髄液中に好酸球をみることも多い.なお,髄膜症では細胞の増多はない.新生児は髄液中に数個の赤血球をみるが,成人では赤血球を認めない.きわめて大量の赤血球を認めたときはクモ膜下出血か脳内出血の脳室穿破で,まれに脊髄出血などのこともある.ヘルペス脳炎に赤血球を認めるのは特徴的であるが,その程度は一定でない.
臨床検査材料として用いられている穿刺液のうち,ここで胸水,腹水,心嚢液,および関節液について簡単にまとめておく.これらの体腔液は正常ではごく微量にしか存在しないものであり,一定量以上の貯留はそれだけで病的である.
穿刺液を検査するに際して最も大切なことは肉眼的な観察をまず行うことであり,穿刺液の採取にあたって臨床医が自らその肉眼的性状を確認したのち,的確な検査の指示をすべきであることは言うまでもない.
胃液検査は胃分泌機能を知る方法として,胃疾患,とくに胃・十二指腸潰瘍の病態生理の上できわめて重要である.さらに最近,胃液検査の意義が各種の消化管ホルモンとの関連を含め胃,膵などの臓器相関においても検討されてきている.
胃液検査はすべての疾患の診断ないし鑑別の上で絶対的な意義は有さないが,とくに胃・十二指腸潰瘍において内科的観点からは胃酸分泌の推移を検討することにより,治療効果,予後の判定,さらに再発,再燃の予知,予防の上で意義がある.また,外科的観点からは酸分泌反応を知るだけでなく,分泌機序における各分泌相を体液性ないし神経性分泌相との関連において把握することにより手術術式の適応ないし選択基準が検討されている.さらに術後の潰瘍再発につながる至適酸度や迷切術における迷切の完全性を検討する上でも意義がある.
異常所見を示す疾患
胆汁の検査は通常十二指腸ゾンデ法(Meltzer-Lyon法)によって行われている.本法によって得た胆汁は,胆管から十二指腸へ流出したものであり,胆?や胆管から直接得たものではないので,消化液の混入など,他の条件が加味されたものであることを念頭におく必要がある.また胆汁排出刺激は一般に硫酸マグネシウム液の十二指腸内注入によって行われているが,オリーブ油やペプトン水を注入することもあるし,またピツイトリンやコレチストキニンやセルレインの注射によることもあるので,用いた胆汁排出促進剤もチェックしておく.
最近はPTCやERCPなどの直接胆道造影法やPTCドレナージにあたって,胆汁を採取して検査することもある.
膵液は最も高濃度に重炭酸塩を含んでおり,アルカリ性を呈し,pH7.5〜8.8になっている.Secretin刺激後,膵管から直接に採取した純粋膵液では,最高pH9.4,最高重炭酸塩濃度140mEq/lを示す(自験例).
膵は1日に約1,500mlの膵液を分泌し(Bodansky),この中に含まれる蛋白量から概算すると,1日に合成し,分泌する蛋白は10〜20gまたはそれ以上にもなると考えられる.ネズミの膵組織は約0.2gの蛋白を含んでいるが,24時間に0.4gの酵素蛋白を分泌し,膵自体のもつ蛋白量の2倍もの蛋白を合成し,分泌している.
血液を一定量とり,その中のヘモグロビン(Hb)量を比色定量し,血中濃度(g/dl)に換算する.以前はSahli-小宮法を使っていたが,現在では光電光度計によるシアンメトヘモグロビン法か多項目自動血球計数器による場合が多い.
Hbは後述のヘマトクリット値(Ht)や赤血球数(R)とほぼ平行して増減するが,病的状態ではチグハグになることがあり,後述の赤血球指数を計算してみるとそれが分かる.それゆえ,Hbが異常値になったときはHtやRも測って赤血球指数を出し,病態の種類を推定する助けにする.
ヘマトクリット値(Ht)の測定には高速遠心器によるミクロヘマトクリット法が最も広く使われている.多項目自動血球計数器では,血球による電気パルスの大きさの総和を血球数で割って算出する方式のものが多い.Wintrobe法はあまり使われなくなった.
赤血球数(R)は自動血球計数器で測っている場合が多い.視算法は再現性に乏しく大きな誤差につながる可能性がある反面,赤血球そのものを数える点が有利である.自動計数器だと再現性はよいけれども,粒子数を測っているだけのことで,正しく調整されていないと正確さにも問題がある.
赤血球に関する指数としてHayem(1878)の色素指数,Capps(1903)の容積指数,Haden(1923)の飽和指数があったが,Wintrobe(1932)が赤血球恒数を提唱してからはこれが広く用いられるようになった.しかし恒数という名称は不適当なので,Wintrobe自身も使わなくなり,赤血球指数(red cell indices)の名に変えている.赤血球数(R)・ヘモグロビン濃度(Hb)・ヘマトクリット値(Ht)を測り,次の式で算出したMCV,MCH,MCHCの3者を指している.
ただし,μlは10-6リットル,flは10-15リットル,pgは10-12グラムで,従来それぞれmm3,μ3,μμg(γγ)といわれたものに相当する.
網赤血球は図に示したように新しく産生された赤血球である.ブリリアントクレシルブルーまたはニューメチレンブルーで超生体染色を行うと同定される.正常人では赤血球の寿命が約120日であるので,その喪失に見合う赤血球の産生が行われている.正常人では網赤血球の寿命は約1日であるので,全赤血球の約1%にあたる網赤血球が末梢血中に認められる.しかし生体から赤血球の喪失(貧血)が起こると,図に示したような経路が正常に働いていれば,その喪失に見合うだけの赤血球産生の増加が起こり,網赤血球数は異常に増加する.その典型的な例が表のⅠに示した各種溶血性貧血と急性失血性貧血である.そのほか,新生児期には生理的に網赤血球数は2〜6%と増加する.また髄外造血がある場合や摘脾後にも増加が認められるが,これらは赤血球産生の増加によるというより,むしろ前者では造血部位からの網赤血球の放出の程度の変化,後者では網赤血球のクリアランスの程度の変化によるものと思われる.また,ビタミンB12,葉酸や鉄欠乏の治療期には網赤血球の急激な増加が起こり,これによって逆に診断が確認される.
図に示すような経路がよく働いていないような貧血では,貧血相応の赤血球産生の増加は起こらず,ひいては網赤血球の増加はみられない.
白血球は好中球,好酸球,好塩基球,単球,リンパ球で成り立っている.したがって各種血球の増減はそのまま白血球数全体の増減に直結しているはずであるが,ふつう好酸球,好塩基球,単球の増減,ことに減少の場合には白血球数の異常としてとらえられない.したがって白血球数の異常は主として好中球(その幼若形も含む),あるいはリンパ球数の異常によって惹起されている,しかしごく稀には好酸球,好塩基球,単球,または非血液細胞が著しい白血球増多をひき起こすこともある.表1,2にそれぞれ白血球増多と白血球減少をひき起こす可能性のある原因を列挙しておく.
血小板数は算定法により,また検者により値が変動しやすく,健康人でも日により3〜4万の差異は日常みられる.正常値は15〜35万/μlで,10万以下は明らかな減少,40万以上は増加と考えてよい.近年自動計数器による算定が普及しつつあるが,血小板の増加または減少の高度な場合や,巨大血小板(giant platelet)の多く出現している例では正しい値が得られないおそれがある.またEDTA塩を抗凝固剤として採血した場合,稀に血小板の凝集が起こり,見かけ上血小板数が少なく出る場合がある.これを偽性血小板減少症(pseudothrombocytopenia)とよんでいる.
いずれにしても明らかな異常値を得た場合,直接法のBrecher-Cronkite法や,耳朶・指頭から抗凝血剤を用いないで採取した新鮮血塗抹標本からの間接法も同時に行って判断することが望ましい.視算法による変動係数(CV)は10〜17%,Coulter Counterでは3.8〜7.2%といわれる.
異常値をきたす疾患
好酸球増多を示す患者をみたら,まずⅠ型アレルギーを起こしやすい体質,すなわちアトピー性疾患の存在を考えることが一つの常識となっている,Ⅰ型アレルギーは即時型,あるいはIgE依存性アレルギーとも言われており,好塩基球や肥胖細胞の細胞膜面に固着したIgE抗体が抗原と反応すると,これら細胞が脱顆粒現象を起こし,ヒスタミン,セロトニン,ヘパリンなどの化学伝達物質が遊離され,細胞膜よりslow reacting substance of anaphylaxisが生成遊離されアレルギー反応が惹起される.それと同時に好酸球遊走因子(ECF-A)が放出され,好酸球が局所に集まり,chemical mediatorを不活化する方向に働くと想定されている.このⅠ型アレルギーの関与する疾患として,アレルギー性鼻炎,アトピー性気管支喘息,アトピー性皮膚炎,蕁麻疹,薬物アレルギーショックなどがある.
次にⅠ型アレルギーとは関係ないが,好酸球増多をきたす疾患に,原虫を除く寄生虫感染がある.感染に際して抗原に特異的なIgE抗体が産生され,患者の血液中にレアギン型抗体が証明される.さらに寄生虫自身のもつ好酸球遊走因子(ECF-P)により好酸球が感染局所に遊走してくる.
赤血球形態の異常は多くの貧血症の患者で認められるため,その観察は貧血の鑑別診断にとって臨床的にきわめて重要である.しかしながら,楕円赤血球症のごとく明らかな形態異常があるにもかかわらず,貧血のない症例があり,また逆に再生不良性貧血のように高度の貧血症があるにもかかわらず,赤血球の形態にはほとんど異常を認めない症例もある.図および表に赤血球形態異常の種類と特徴的な変化,特有な変化を起こす主要な疾患をまとめた.
血液像検査は血球数値算定と併用して広くスクリーニングの目的で実施されている.したがって多くの正常値1)に関する報告は%で表示されてはいるが,むしろ絶対数に換算して記憶したほうが臨床上有意義であろう.表1は正常者白血球の百分比を示しているが,白血球の形態異常は表中の血球種以外の幼若血球,異常血球として出現するもののほかに核や胞体の空胞形成,顆粒の異常,貪食,封入体の存在など熟練した技師のコメントがなければ見逃されてしまうものが多いことも注意する必要がある.Pelger-Huet家族性核異常,Hegglin原形質異常,Alder顆粒異常,Chediak-Higashi顆粒異常のように比較的稀な遺伝性のものを除外しても,中毒性顆粒,Dohle小体,好中球の過分葉,巨大好中球,異型リンパ球などの重要な後天性の変化があることを銘記し,臨床医は必ず一度は担当患者の塗抹標本に目を通す習慣をつけるべきである(表2).
なお白血球の形態異常を示すものとしては白血病が代表で,これについては別項で扱う.
赤血球酵素活性の異常値を示す疾患は大別して,①遺伝性溶血性貧血,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③血液疾患以外の疾患で赤血球酵素活性測定が診断に役立つもの,④後天性疾患の診断に役立つもの,に分けられる.その大要を表に示した.ほとんどの場合,活性低値を示す場合が問題になるが,例外はアデノシンデアミナーゼ活性の著増(40〜100倍)による遺伝性溶血性貧血である.
赤血球酵素活性測定を必要とする場合は,①遺伝性溶血性貧血で遺伝性球状赤血球症・遺伝性楕円赤血球症・不安定ヘモグロビン症・サラセミアに属さない遺伝性非球状性溶血性貧血の症例,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③無カタラーゼ症,ガラクトース血症,重症複合免疫不全,infantile renal tubular acidosis,Lesch-Nyhan症候群などが疑われる場合,④発作性夜間ヘモグロビン尿症が疑われる場合,などについて,原因究明ないし診断確定のために行うものである.
毛細管抵抗試験は細血管外に赤血球が漏れやすいかどうかを検査する方法であるが,血管組織,血管透過性,血小板,凝固因子,線溶因子,キニン・カリクレイン系などの関与があり,それらの乱れによる細血管の脆弱性の検査といえる.
日常用いられる方法は陽圧法(Rumpel-Leede)と陰圧法(Borbely限界圧法と定圧法)であり,両者は必ずしも平行せず,病態により差があり,前者は皮膚面のやや深部の毛細管や細小静脈より,後者は表在細血管より出血しやすいので,通常両者を併用してテストすることが望ましい.なお陽・陰圧を併用した複合法もある.
出血時間の異常はほとんどの場合出血時間の延長である.一般にわが国で行われる出血時間の測定法とは,Duke法とIvy法である.欧米ではDuke法は再現性のよくない点などの欠点が多いため,Ivy法と変っている.さらに穿刺あるいは切り傷のつくり方を標準化する目的で考案されたテンプレイト(template;型板)法あるいは市販の器具(Simplate,Simplate Ⅱ)を用いる法などが行われているが,わが国では一般化していない.
出血時間は皮膚毛細血管を穿刺し,傷口から湧出する血液が自然に止まるまでの時間をいう.これは主として血小板の粘着・凝集能,いわゆる一次止血機能に依存し,その機能低下は延長をきたす.そのほか血小板以外の原因(血漿,血管)による機能抑制や血管異常も当然出血時間の延長をきたす.
血餅収縮現象は,血小板自身の粘着および凝集などの一連の作用とともに,止血機構における血栓形成に関与する中心的役割をなす現象である.またこの血餅収縮現象発現については,血小板に含まれるアクチン,ミオシンなどの収縮性蛋白質と,それに対するアクトミオシン調節蛋白質,微小管,Caイオン依存性プロテアーゼなどがCaイオンを中心として微妙に関与し合い,調節されていることが次第に明らかにされてきた.
血餅収縮試験はこうした血小板機能の一検査法であり,血小板の量的,質的影響が大きく反映されることは周知のとおりである.またこの血餅収縮試験検査法は,血小板の量的,質的な条件のほかに,①血液成分の影響:赤血球数,血液凝固因子(内因系凝固因子,第ⅩⅢ因子,フィブリノゲン,プラスミンなど),②物理的因子の影響:測定時の温度,試験管の性状(ガラス製,シリコン処理の有無,プラスチック製,試験管壁の汚れやキズなど),そのほか薬剤などが関与することが知られており,検査成績判定に際してはこれらの因子についても十分考慮が必要であろう.
血小板の粘着と凝集はよく似た現象で,その異常はおおむね平行するが,ときには解離することもある.出血傾向や血栓傾向の診断にはきわめて重要な意義をもつもので,ルチン検査としても次第に普及しつつある.
種々の刺激によって血小板外へ放出(分泌)される物質は,濃染顆粒(DG),α顆粒(αG),リソゾームの3顆粒中に分かれて存在することが知られている(表1).
ADP,エピネフリン,Thromboxane A2(TxA2)はDG,αGからの放出を惹起させるが,トロンビン,コラゲン,Ca-ionophore A 23187はDG,αGに加えてリソゾームに含まれる物質の放出を誘導する.
PTT(partial thromboplastin time)はLangdell(1953)によって血友病のスクリーニングテストとして考案され,軽度の凝血因子の欠乏にも鋭敏に反応し,その異常を検出するので,全血凝固時間に代わるべき方法として日常広く実施されている.これは被検血漿に血小板因子としてのリン脂質を十分に補って,内因系の凝血因子の欠乏を測定する方法である.またPTTにおいて,さらに接触因子を十分に活性化させて安定性のある成績を得るためにセライト,カオリン,およびエラジン酸などを添加して測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(activated PTT;APTT)もある.実際にはAPTTのほうが多く用いられている.
プロトロンビン時間(PT)はQuick(1935)により創案されたもので,血液凝固の外因性凝固系の異常の診断に用いられる.PTの測定はクエン酸ナトリウム溶液1容と血液9容の割合で採血し,3,000回転15分間遠心して得た血漿0.1mlを小試験管にとり,37℃に加温し,あらかじめ37℃に加温した組織トロンボプラスチン・カルシウム混液0.2mlを加えて凝固時間を測定するものであり,最近では自動化機器で測定される.
トロンボテスト(TT)1)もヘパプラスチンテスト2)(normotest-NT)も,プロトロンビン時間測定法(PT)の欠点を補い,測定目的に合わせて改良されたものである.両者ともに検体保存による測定値のバラツキを除外し,ビタミンK依存因子であるⅡ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子の変化を敏感に測定するため試薬中に硫酸バリウム吸着牛血漿を含んでいる.したがって,その測定結果にV因子の変化は反映されない.この点を除けばこれら検査に異常を示す疾患,異常値の確認,さらに次に進めるべき諸検査についてはPTとほぼ同一であるので,これらの点についてはPTの項(p.2200)を参照されたい.
本稿においては両検査法の特徴,PTとの差異,主として使用されている病態につき概説したい.
トロンビン時間(以下TT),正確にいえばトロンビン凝固時間はトロンビンによる血漿の凝固時間を測定する方法であり,血漿中のフィブリノゲンが一定量のトロンビンにより,フィブリンに転換する反応速度を観察するものである.この場合,トロンビンは外より加えるわけで,検体それ自体のトロンビン生成能はこの検査には関与しない.したがって,TTに影響を与える因子としては,フィブリノゲンの質と量,フィブリノゲン・フィブリン転換を規制する血漿内部環境因子および阻害する因子,すなわち血漿のpH,血漿蛋白の変化,ヘパリン,ヘパリン様物質,フィブリン分解産物(FDP)の存在などがある.TTの延長は必ずしもPT,PTTの延長を伴わない.
フィブリノゲンは血漿蛋白の中でも重要な成分をなし,分子量は約34万と大きい.その生理的機能には血液凝固作用をはじめ,血液粘性,炎症反応での生体防御作用に関与するなど数多くのものが考えられている.生理的にフィブリノゲンの生成が主として肝で行われていることはよく知られているが,その分解機序については明白でない.フィブリノゲン濃度は稀に先天性に減少(欠乏)している場合があるが,一般には後天性に血管内凝固症候群(DIC)などの凝固・線溶機転のほか,炎症,外傷,悪性腫瘍などの種々の病態下での産生ないしは消費の亢進に左右される.
これらの量的異常のほかに質的異常として異常フィブリノゲン血症があり,これには先天性分子構造異常に基づく場合と肝障害などに伴う場合があるが,これらは(とくに前者は)稀であるので,ここでは量的異常を中心に述べることにする.
フィブリンモノマーとは
フィブリノゲンにトロンビンが作用すると,フィブリノゲンα鎖N末端からフィブリノペプチドA(fpA),β鎖N末端からフィブリノペプチドB(fpB)が遊離される.十分量のトロンビンがフィブリノゲンに作用した場合には,fpA,fpBは時をおかずして遊離され,フィブリンモノマーはオリゴマーを経てポリマー形成に至る.しかし,トロンビン濃度が低い場合や循環血液中ではfpAが先に遊離され,fpBの遊離が遅延することがある.このfpAのみが切断されたいわゆるdes-A-フィブリンモノマーやフィブリンモノマーは,フィブリノゲンやFDPあるいはcold insoluble globulin(CIg)などと循環血中で可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrin monomer complex:SFMC)を形成することが知られている.
このSFMCは,フィブリンモノマーの結合する相手によって分子量も大きく異なり,定量性をもって測定することが困難であるが,SFMCの検出は生体内でのトロンビンの生成を強く裏付けることとなるものである.
フィブリノペプタイドA(FPA)は,フィブリノーゲン(Fbg)のAα鎖のNH2末側のArg(α16)-Gly(α17)結合がトロンビンで切断されて遊離したペプタイドであり,Bβ1-42はFbgないしフィブリノペプタイドB(FPB)の残存するフィブリンに,Bβ15-42はトロンビンによりFPBの遊離したフィブリンにプラスミンが作用し,Bβ鎖のNH2末側のArg(β42)-Ala(β43)結合が切れ遊離したペプタイドである(図1).したがってFPA,Bβ(1)15-42はトロンビンないしプラスミン作用の直接的指標であり,両者の比でどちらの系が優位かを知りうる.
アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)は活性化された凝固因子に対する生理的な阻害物質としてきわめて重要なものである.AT-Ⅲが血管内凝固,血栓形成に防御的に働いていることは,1965年Egebergにより血栓症の多発するAT-Ⅲ欠乏家系が記述されて以来1),間違いない事実と考えられている.
AT-Ⅲはトロンビンのみならず,Ⅹa,Ⅸa,ⅩⅠa,ⅩⅡa,Ⅶaさらにはプラスミンや血漿カリクレインなど各種セリンプロテアーゼを不活化し,その反応はヘパリンの存在により著しく加速されるが,AT-Ⅲの凝血学的意義はアンチトロンビンとしての作用よりも,内因系・外因系の両凝固系に関与するXaを効果的に阻害することにより血管内凝固を制御するところにあるといわれている.
線溶現象測定法
線溶現象の測定には種々の方法があるが,大別して次の4つの活性ないし因子量測定法がある.すなわち,①線溶能を活性化するプラスミノゲン・アクチベータ(Act)の活性,②線溶能の主体となるプラスミノゲン(PLg)量,③PLgの基質であるフィブリノゲンまたはフィブリン(あわせてフィブリン体)と両者の分解産物(FDP)量および④線溶能の阻害物質(活性,量)の測定であるが,これらの線溶反応系における役割を図に示し,上記測定目標を実線で囲んだ1).
一般に線溶の亢進は出血に,その低下は血栓形成につながるが,通常線溶の亢進はアクチベータの増加またはα2アンチプラスミン(α2AP)の減少が主因で,線溶の低下はアクチベータの減少,フィブリノゲンの増加,プラスミノゲンの減少が原因となる.
FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)は,プラスミンによって生じたフィブリノゲン,またはフィブリンの分解産物を指している.フィブリノゲンはプラスミンの作用により,順次分解して4種のFDP(fragmentsX,Y,D,E)を生ずる.フィブリンの分解によりFDPを生ずる場合には,2分子のD分画が交叉結合してD-dimerの形をとるため,フィブリノゲンの分解とは多少異なった過程をたどって分解が進行する.これらのFDPはフィブリノゲンとは異なり,トロンビンによる凝固性がきわめて悪いか,またはまったく凝固しないが,免疫学的にはフィブリノゲンと同様の抗原性を有するので,血清またはフィブリノゲン除去血漿を用いて免疫学的な測定が行われている.
なお,in vitroの実験からは,血中抗プラスミンの著しい低下がないかぎり,フィブリノゲンの分解はフィブリンの分解に比べきわめて困難であり1),流血中に証明されるFDPのほとんどはフィブリンがプラスミンにより分解されて生じたものと考えられる.
血液凝固・線溶系の全過程を動的・経時的に自動記録する装置であるトロンボエラストグラフは,その異常を総合的にスクリーニングすることができる6).この装置は1948年に西独のHartert1)により考案され,以来36年を経た今日でも優れた測定機器として愛用されており,筆者の止血機構検査室では5台が毎日フル回転している.従来の装置は撮影後現像しなければならないという不便さがあったが,最近のものは熱ペン直記式となり結果がただちに判読できる.さらに,最高4チャンネルまで同時測定ができ,内蔵したマイコンが算出した各値を自動記録する機器も出現している.
赤沈の異常は「促進」と「遅延」に大別される.表1は赤沈の正常値を示したものである.数値より「促進」の判定は容易であるが,「遅延」の意味する内容の理解は必ずしも容易ではない.異常値としての「遅延」は赤沈抑制的に作用する要因の介在を考慮する必要がある.従来臨床的に関心が持たれてきたのはいうまでもなく「促進」を示す赤沈であったが,今後,異常値としての「遅延」についても注目すべきであることを強調したい.
正常者で赤沈1〜2mmをみることは少なくない.しかし,問題なのは種々の症状を有し,体温・白血球数およびCRPなどが明らかに異常を示すにもかかわらず,赤沈が「遅延」ないし正常域にとどまるときである.たとえば,血管内凝固症候群を伴ってくると,血漿フィブリノゲンは低値をとり,フィブリン分解産物(FDP)は増加をみるが,赤沈抑制的に作用し「遅延」をみる.いいかえれば全体的臨床像との釣り合いで赤沈促進の予想される病態で,実際には意外に赤沈がすすまなかったり,見かけの正常値にとどまったり,「遅延」を示す場合に遭遇することが決して少なくないのである.このような一見奇異に思われる赤沈の動きは,赤沈抑制機構の発動が考えられ,広義の「遅延」のカテゴリーに属さしめてよい.この場合,数値のみで「遅延」を判断することはできず,赤沈の経過と臨床像との解離を見出すことが重要となる.
赤血球抵抗試験は溶血性貧血における赤血球膜の脆弱性を調べる検査で,低張食塩水に対する浸透圧抵抗を測定するParpart法1)(比色法)が広く行われている.そのほかに,わか国で考え出されたCoil Planet遠心法(CPC法2))は,操作が簡単でしかも短時間で測定可能なことに加えて,微量の血液(10μl)で行える特徴をもっており,血液疾患のみならず,肝疾患にも広く利用され,その有用性が認められた.また,連続MCV測定装置による低張食塩水中におけるサポニンテスト3)も行われている.比色法としてはほかにグリセロール溶血試験4)がある.
ヘモグロビンの異常は遺伝子の疾患であり,Hbに関する遺伝子は第16染色体上にα鎖遺伝子2個,一方第11染色体上にγ鎖2個とβ鎖,δ鎖遺伝子各1個が存在している.
遺伝子の過程で異常を生ずると(突然変異など)1個以上のアミノ酸の置換,欠如および増加など正常とは異なるアミノ酸の配列をもったヘモグロビンが産生される.これを異常ヘモグロビンという.また非α鎖のβ鎖とδ鎖が融合してできるヘモグロビン・レポア(Hb Lepore)も異常ヘモグロビンである.
■血液の構成と粘度
血液は,血漿中に有形成分(赤血球・白血球・血小板)およびカイロミクロンが浮遊する懸濁液とみなすことができる.血漿中には,低分子の有機・無機物質および各分画よりなる蛋白質(7.0gl/dl)が溶解している.したがって,血液の力学的性質は,構成要素,とくに有形成分の濃度・形状・硬軟・相互作用などのほか外力(ずり応力)および温度の影響をうけて変動し恒常的なものではない.また,生体内の循環系では,血流速度,血管径,血球濃度,赤血球集合および体温などによって変化を示す.血液の力学的性質とはここでは流動的性質をいうが,粘度viscosityによって表すことができる.しかしながら粘度に影響を与える要因は多く,赤血球濃度(もしくはヘマトクリット,Htと略),赤血球の変形能,赤血球集合,血漿粘度およびずり速度が主なものである.いずれにしろ,血液の流れ易さは粘度によって決まると言えるが,血管内流動では血管径および血流速度によって粘度は変動し一定していない.
粘度とは,ずり応力(τで表す,単位dyne/cm2)とずり速度(γで表す,単位sec-1)の二つのパラメータで規定されている.たとえば,図aのごとく1),表面が単位面積よりなる立方体を仮定し,表面に接線方向の外力(ずり応力または剪断応力という)を作用させると,立方体は図aのごとくずり歪み(ずり変形ともいう)を生じ,歪み率γは,γ=s/lで表される.
CRP(C-reactive protein,C反応性蛋白)は発見当初,肺炎双球菌感染症の特異的診断に有用な病的蛋白と認識されたが,現在では各種の炎症性疾患および組織崩壊性疾患で非特異的に増加する,いわゆる急性相反応性物質(acute phase reactant)に属する血漿蛋白成分の一種であると理解されている.従来,CRPは健常者には全く存在しない異常蛋白と考えられたが,近年に至り,正常者血中にも微量(68〜8,200ng/ml)存在することが確認された.
正常血漿蛋白成分であるCRPが,なぜ炎症性あるいは組織崩壊性疾患で著明に増加するかについては不明であるが,非特異的なオプソニン作用を通じて生体防衛に有用性を発揮しているものと推察するのが妥当であろう.すなわち,炎症あるいは組織崩壊によって血中に遊離する組織由来のムコ多糖体は疎水性で沈降性を示し,網内系で代謝をうけがたい.この際,増加したCRPが,多量のムコ多糖体に結合してこれを親水性とし,肝,脾に運搬して速やかに代謝をうけやすくし,ムコ多糖体を無害化しているのであろう.さらには,細菌などの病原微生物の侵入に対して,CRPはこれら異物にオプソニンのごとく効率的に結合し,しかも補体系の主として古典的経路(classical pathway)を活性化して,微生物が好中球,単球,マクロファージにたやすく貧食されるように機能している.
1940年,Waalerが慢性関節リウマチ(RA)患者血清がウサギ抗体で感作されたヒツジ赤血球を凝集することを発見したが,血清中のこの凝集因子がリウマトイド因子(RF)であり,その後1948年にRoseが同じ現象を見出し,後述するようにWaaler-Rose反応としてリウマチ性疾患の診断に応用されるようになった.RFは,IgGのFcフラグメント上に存在する抗原に対する自己抗体であると考えられている.Fcフラグメントには,アロタイプの抗原決定基(Gm)が存在し,RFの中にはGmあるいは未だ知られていないアロタイプ抗原決定基に対する特異性を有するものも含まれている可能性がある.輸血後,妊娠時などの血清中には抗アロタイプ抗体として単一の特異性を示すものが出現することが知られているが,これらは後述するRAtest,血球凝集反応が陰性で,自己のIgGとも反応しないのでRFとは区別して考えた方が妥当である.
RFは一般的に免疫グロブリン(Ig)のIgM分画に属しており,IgM-RFには,19S-IgM-RFの他に7S-IgM-RFの存在も知られている.今日では酵素抗体法ラジオイムノアッセイ法の進歩に伴い,IgMのみならずIgG,A,D,E,などすべてのIgクラスに含まれることが明らかとなってきているが,その病態における役割りは今のところ不明である.
甲状腺に対する自己抗体測定に関して,現在わが国では日常検査としてタンニン酸処理赤血球凝集反応を用いて,サイログロブリン抗体とマイクロゾーム抗体が測定されている.とくに後者はわが国で開発された方法であり,自己免疫性甲状腺疾患の診断にきわめて有用である.従来より,タンニン酸処理赤血球によって測定される抗サイログロブリン抗体は,tanned red cellの略からTRC抗体として親しまれてきたが,マイクロゾームテストもTRC法であり,筆者らは前者をTGHA,後者をMCHAと略しており1),現在,国際的略号として定着している.最近,赤血球の代わりに人工的粒子が開発されたが,測定結果は赤血球凝集法と変わらない.
ASO,ADN-B,ASK値測定の意義
ストレプトリジンO(SO),デスオキシリボヌクレアーゼ,およびストレプトキナーゼ(SK)は溶連菌の抗原物質で,その感染をうけると抗体が産生される.したがって,それらに対する抗原であるASO,ADN-B,ASKを測定することによって,溶連菌感染を間接的に証明することができる.溶連菌の抗原物質は,①ストレプトリジンO,②ストレプトリジンS,③ストレプトキナーゼ,④ヒアルロニダーゼ,⑤ディフォスフォリジンヌクレオチダーゼ,⑥デスオキシリボヌクレアーゼ,⑦プロテアーゼ,⑧アミラーゼ,⑨エラスターゼなどがある.菌体表在物質としては,①ヒアルロン酸,②M蛋白,③多糖類,④ペプチドグリカンなどがある.
溶連菌に感染し,抗原物質が出ると,平均9日目頃から抗体産生が始まり,通常14日目で最高となる.しかしM蛋白など菌体表在性成分に対する抗体産生は感染後徐々に始まり,長期間ときに年単位にわたって高い抗体価を維持する.溶連菌感染の検査に最もよく用いられるものはASO値であり,ASO値は大部分がA群溶連菌により放出される.しかしC群,G群溶連菌にもSO産生株があり,厳密にはA群溶連菌感染のみを検査しているわけでないが,C群,G群溶連菌感染は臨床的に問題となることは少ない.
クームス試験陽性を示すとき
クームス試験には直接クームス試験と間接クームス試験がある.直接クームス試験は赤血球に結合されている抗体を検出する方法であり,間接クームス試験は血清中にある赤血球抗体を検出する方法である.
異常値を示す疾患群を表1に掲げる.寒冷凝集反応は健康人の血清中にも,ある程度存在するといわれるから,ここでの異常値の意味は,ある限度を超えて高値を示す値ということになる.寒冷凝集反応陽性の疾患は多様である.つまり寒冷凝集素は非特異なものであるから,この反応が診断の決め手となる疾患は限られている.
本凝集素の発見の歴史は古く,Petersonらにより疾患との関連が報告されてから,原発性非定型(異型)肺炎との関連において,本凝集素は注目されてきた.本凝集素はABO式血液型とは無関係に,低温でヒトまたはある種の動物の赤血球を凝集する抗体であるが,自己の赤血球とも低温で反応する一群の冷式自己抗体である.従来,本凝集素は主としてIgMに属するκ型の免疫グロブリンと考えられてきたが,IgM(λ),IgG,IgAに属するものの存在もわかってきた.また,赤血球膜の種々の表面抗原に対する抗体特異性とか,単クローン性か多クローン性か,などの面より,本凝集素の研究は進められている(表2).しかし,それらの種類,発現機構,生理的意義はまだよくわかっていない.現段階では,上述の研究成果が臨床上,診断・治療にただちに結びつく状態ではない.
Donath-Landsteiner試験陽性のとき
Donath-Landsteiner抗体が検出されるときは,発作性寒冷血色素尿症(Paroxysmal cold haemoglobinuria:PCH)と診断される.PCHは,体内にできた赤血球に対する抗体が,体の一部分が寒冷にさらされることにより,赤血球に結合,さらに補体も加わり,体内の深部(37℃)に達し,血管内溶血をおこすので血色素尿症をひきおこしやすい(表1).
PCHは先天梅毒に合併した例が多く,梅毒患者の減少とともに本症の発生頻度も減少している.梅毒以外では,流行性耳下腺炎,麻疹,水痘,風疹,伝染性単核症などの罹患後におこってくることが報告されており,最近では梅毒よりも,むしろウイルス疾患罹患後におこってくるものの方が多いといわれる.
梅毒血清反応について
梅毒の血清学的反応には二つの系統があり,ひとつは古くより実施されているcardiolipin(CL)を抗原とする反応(通常STSと略記―serologic tests for syphilisの略),もうひとつはTPを抗原に使う反応である.それぞれの系統の反応には臨床的な意義の違いがあるので,両者をうまく組み合わせて利用する必要がある.現在わが国で日常検査に使われている血清反応は,次のようなものである.
伝染性単核症(Infectious mononucleosis;IM)は,EBウイルス(Epstein and Barr,1965)が成人または年長児になってから初感染したとき,生体の免疫応答によって生ずる病像の一つと考えられている.発熱,全身リンパ節腫脹,咽頭炎および扁桃炎,血液像の変化(多数の異型リンパ球を伴うリンパ球増多症),肝,脾の腫脹,肝機能障害などを呈するが,患者血清中には,特に白人(Caucasian)では一定期間,特有な異好性抗体(Heterophile antibody)が多量に出現している.この抗原抗体系の抗原はヒツジ,ウマ,ウシ,ヤギの赤血球に分布し,ヒツジまたはウマの赤血球凝集反応またはウシ血球の溶血反応によって検出される.最初の報告者の名をとりPaul-Bunnell反応と呼ばれるが,同様の異好性抗体であるForssman抗体や血清病抗体(Hanganatziu-Dei-cher抗体)との鑑別にはDavidsohn吸収試験を必要とする.これらを含めて異好性抗体試験(Heterophile antibody tests)という.
欧米では成人のEBウイルス抗体陰性者が多く成人の初感染が稀でなく,IMはきわめて一般的な疾患である(英米の大学では,学生10万人につき年間1,000〜4,000人との報告がある).白人ではこの反応の陽性率もほぼ90%と高く,定型的なIMの診断規準の一つとなっている.
ビダール反応は,腸チフス,パラチフスA,パラチフスBの3つのチフス性疾患の血清学的診断法として古い歴史を有する.かつては菌検出不能例において,診断のよりどころとして重視されたが,クロラムフェニコール(CP)療法導入とともに,菌陽性例でも,凝集素価の上昇があまり起こらなくなったことが確認されるようになった.
また,チフス性疾患患者の発生も減少し,医師の脳裏から次第にその存在が薄れてゆくにつれ,検査項目として選択されることが少なくなり,その診断法としての価値は低下しているといわざるをえない1).
基本的血液型ともいうべきABO式血液型は,Land-steinerの法則に従い,血球のもつ凝集原を調べる"おもて検査"と,血清(漿)の凝集素を調べる"うら検査"の判定は一致する筈である.
ここでは,ABO式のおもて検査とうら検査が不一致の場合と,Rh式の対照に凝集がみられる場合をとりあげた.
抗核抗体(Antinuclear Antibody,ANAと略)は細胞核の種々の成分を抗原とする自己抗体であり,その種類は多彩である(表1).今日これらのANAを検出し識別することは,各種膠原病の診断や臨床特徴を把握する上で不可欠のものとなりつつある.
ANAの検出法としては間接螢光抗体法(間接FAT),LE細胞試験,Radioimmunoassay(RIA),Enzyme immunoassay,受身血球凝集反応(PHA),二重免疫拡散法(ID)などがある.ANAは同一血清中に一種類のみ存在する場合と,多種類が同時に存在する場合とがある.間接FATはほぼあらゆる種類のANAを総合的に検出する方法であるのに対して,LE細胞試験やRIAなどの他の手技は個々のANAを検出し識別する方法論である.したがってANA検出法の手順としては,まず間接FATにて総合的にANAの存在を確認し,これが陽性の場合に個々のANAの検出を試みることが望ましい.
免疫グロブリンには現在IgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5つのクラスが知られており,それぞれのクラスはL鎖の違いからκ型とλ型からなっている.血清免疫グロブリンの異常という場合には,各免疫グロブリンの増減のほかに病的にM-蛋白(単一クローン性免疫グロブリン)が出現する場合があるので,表1に示すように異常値を示す疾患は3群に大別される.また,M-蛋白をきたす疾患のうち,本態性M-蛋白血症といわれるものは表2に示すように,原疾患に続発性に出現してくると考えられるものであり,多発性骨髄腫などにみられる,いわゆる悪性M-蛋白血症とは区別されねばならない.
免疫グロブリン(以下Igs.IgD,IgEは除く)の血清濃度に異常をきたす疾患は表1のごとくである.血清Igs値上昇の多くはpolyclonalである.polyclonalな増加は一般にIgG,IgAおよびIgMのすべてのクラスの増加として観察されるが,ときに1つのクラスのみが優先して増加する場合もある.たとえば,急性肝炎とくにA型肝炎ではIgMの増加が主で,IgGやIgAの増加は軽度のことが多い.ところが肝炎が遷延し,慢性肝炎とくに活動型,肝硬変症に移行するとIgGやIgAの幅広い増加が起こる.このIgAの増加はセ・ア膜電気泳動像でみられるβ-γbridgingの原因である.アルコール性肝障害,消化管や呼吸器の感染症ではIgAの増加,新生児の胎内感染症,trypanosomiasis,胆汁性肝硬変症などではIgMの増加,SLEなどではIgGの増加が著明である.polyclonal Igsの増加の証明は一般に疾患の診断に直接結びつかないが,病態の解明に有用な手がかりを与え,また疾患の経過情報となりうる.
一方,monoclonal Igs(M蛋白)の出現,増加の証明はかなりの診断的意味をもつ.しかし,増加しているIgsがmonoclonalであるかどうかは定量するだけでは決定し難く,後述するごとき各種の検索にまたなければならない.
〔RIST〕
表1にIgEの高値,低値を示す疾患をあげた.
β2-マイクログロブリン(以下β2-mと略す)は分子量11,800の低分子蛋白であり,正常人の血液,尿,髄液をはじめとする種々の体液中に含まれている1).β2-mはHLAの構成成分で,リンパ球をはじめとする種々の有核細胞で産生されているが,細胞の活動性が高い程β2-mの産生は増加する2,3).
補体は約20種の蛋白より構成されており,活性化されて種々の生物活性を示す補体成分(complement component)と,補体活性化の第2経路alternative pathwayの反応にあずかる蛋白および補体系の制御蛋白(control protein)より成る.補体は抗原抗体複合体などと反応するときclassical pathwayを経て活性化されるが,この経路ではC1,C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8,C9の順序で反応する.C1はC1q,C1r,C1sの3つの亜成分によって構成されている.またC1,C4,C2を介さずにC3から補体系を活性化するaltemative pathwayの反応に関与する補体系蛋白としてproperdin(P),B,Dがある.補体系の制御蛋白としてはC1-inactivator(C1-INH),C3b-inactivator(C3b-INA,Ⅰと略す),β1Hグロブリン(H),C4 binding protein(C4-bp)などが知られている.血清補体価は主として補体成分蛋白の量と活性によって左右される.
免疫複合体を検出しうる疾患
抗原・抗体結合物で形成される免疫複合体を認める疾患は,表1に示すごとく数多く含まれる.また,免疫複合体が証明される症例においては,表2に示すような多彩な臨床症状を呈する.
B型肝炎ウイルス(HBV)感染は無症候性キャリア,急性肝炎,持続性肝炎,亜急性肝炎,劇症肝炎,慢性肝炎,肝硬変,原発性肝癌などの原因となる.出現するHB抗原・抗体系にはHB surface(HBs)抗原,HBcore(HBc)抗原およびHBe抗原とそれぞれに対する抗体が知られ,測定法も確立した感がある1).その臨床的意義は表1に示す.HBV感染が一過性か持続性か,また感染既往であるかなどを上記マーカーの出現状況,力価などより区別する.表2にそれらの組み合わせとHBV感染のstageを示す.
A型肝炎ウイルス(HAV)による肝炎は伝染性肝炎(infectious hepatitis)と呼ばれ,その存在が昔から知られていたが,Krugmanらにより行われたWillowbrook state schoolでの人体接種実験や,感受性動物を用いた感染実験などの経過を経て,1973年FinestoneによりHAVがヒトA型肝炎患者糞便中から発見された.
この時からすでに10年以上の歳月が過ぎたがその後の進歩はめざましく,A型肝炎に関する臨床ならびに基礎的知見の集積が着実に行われ,ほぼその全容が明らかにされた.このことは日常臨床の場においてone point血清を用いてHAVに対するIgM型抗体(IgM抗HAV抗体)を測定することで,容易に短期間でA型肝炎の確定診断を行いうるようになったことでも明らかである.
健康成人および小児の血中α-フェトプロテイン値は,乳幼児期をのぞいてRIA法で10ng/ml以下であるが**,病的状態では10ng/ml以下から数百万ng/mlにもわたって広く分布する.便宜上一元免疫拡散法により陽性となるものを高値例,一元免疫拡散法陰性だがRIA法で陽性のものを軽度ないし中等度増加例と分けて考えてみて,異常値を示す疾患を表に示した.前者のおよその血中レベルは5,000ng/ml以上である.
著しい高値例は肝細胞癌およびヨークサック腫瘍の50〜80%の例にみられる.また稀ではあるが胃癌ないし膵癌の肝転移例にもみられ,α-フェトプロテイン値のみからでは肝細胞癌との鑑別が困難のことがある.両者の鑑別には後述するコンカナバリンA(ConA)との結合性分析が参考となる.乳幼児期には乳児肝炎,先天性胆道閉鎖症のさいにも高値例がみられるが,成人で一元免疫拡散法陽性の場合には肝細胞癌と診断してほぼ間違いがない.
CEA(Carcinoembryonic antigen)は当初考えられていたような大腸癌特異性はなく,多くの悪性腫瘍で陽性化する(表1).その陽性率は腫瘍によって異なるものの守備範囲の広い腫瘍マーカーとして癌の臨床に広く用いられている.しかし同時にCEAは種々の良性疾患でも陽性化する(表1).よってCEAの成績判定には若干の注意が必要となる.
リンパ球は骨髄にある幹細胞から分化し,一部は胸腺に達し,そこで分化成熟してTリンパ球となり,主として細胞性免疫に関与する.他の幹細胞は胸腺を経由せずにBリンパ球に分化し,体液性免疫に主役を演ずる.末梢血中のリンパ球を分類するには表1に示すような表面マーカーを利用する.最近では,リンパ球表面抗原に対するモノクローナル抗体が市販されるようになったので,免疫螢光法やflow cytometryによる分析が普及しはじめている.とくにOKT4陽性細胞にhelper/inducer T細胞が含まれ,OKT8陽性細胞にsuppressor/cytotoxic T細胞が含まれることから,OKT4/8比が免疫機能状態を推定するのに役立っている.
前項(83.Tリンパ球,Bリンパ球,p. 2290)で述べた表面マーカーによるリンパ球の分類は,必ずしも機能を反映していないので,リンパ球活性化試験とリンホカイン分泌試験が行われる.
1)リンパ球活性化試験 患者のリンパ球を培養し,いろいろな活性化物質を加えてみて,正常な活性化が認められるか否かを検査する.活性化の程度を知るのに,①リンパ球の芽球化現象を顕微鏡で観察する方法,②エチジウムブロマイド結合によるDNA合成量の定量,③3H-サイミジンとり込みによるDNA合成量の定量,④B細胞の免疫グロブリン産生量の定量,の4つの方法がある.また,活性化物質としては,HLA型の異なるリンパ球,マイトジェン(例:PHA,ConA,PWM,黄色ブドウ球菌Cowan Ⅰ株,など),特異抗原などが使われる.
臨床検査レベルから実験室レベルにわたって行われているトキソプラズマ血清反応はいくつかある(表).この中でも色素試験はその特異性,感度の点からも標準反応として重要ではあるが,手技上の危険性,反応の段階で特殊なaccessory fac-torが必要なことなどもあり一般的ではない.
通常,一般臨床検査として施行されているものは,赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,螢光抗体法などである.
自然界には多種のmycoplasmaが生息し,そのあるものはヒトに病原性を発揮する.気道,泌尿生殖器,滑液などから諸種のmycoplasmaが分離されており,これらと疾患の関係が漸次明らかになっている1).肺炎をはじめ,気道感染をおこすことが確認されているのは,現在のところM. Pneumoniaeのみである1).
M. Pneumoniaeに感染しても,肺炎にまで進行するのは3〜10%といわれる.上気道炎に留まることのほうがむしろ多く,とくに小児ではこの傾向がつよい.また肺外合併症についての研究が最近一段と進歩した(表1).
ウイルス性疾患においては,ウイルスの種類,感染様式あるいは抗体価測定方法などによっても異なるが,単一血清についての抗体価の値よりも,急性期(発病後できるだけ早期,発病2〜3日)および回復期(発病後2〜3週)血清など2回以上のペア血清についての抗体価の変動(通常4倍以上)あるいは特異性が重要である.多くの臨床検査で決められているような正常値,異常値というものは定めにくい,血清検査は,原因となる病原体の直接証明ではなく,影を追っているようなものであるから,血清検査成績の解釈は慎重に行わなければならない.
通常,ペア血清で4倍以上の変動が認められ,あるいは,単一血清についても,非常な高値を示す場合には,それに対するウイルス感染を推定することになる.
血清蛋白は血漿の構成成分中約7〜8%を占め,水に次いで量的に最も多い.しかも血清蛋白は多くの成分からなり,その数は今や100種に近いことがわかってきた.この血清蛋白分画はそれぞれが機能を有し,いろいろな病的状態で変動する.したがって,血清蛋白といった場合,まず総濃度を知り,ついで主要蛋白分画の状態を検索することが必要である.
しかし,蛋白分画に異常があっても,総蛋白濃度は正常値範囲内にあることもあるから注意が必要である.実際に日常の臨床上,総蛋白濃度の変動をみる頻度より,蛋白分画の異常をみる割合の方がはるかに多い.したがって,ルーチンの検査では血清蛋白総濃度だけを測定するのではなく,蛋白分画を同時に測定することが望ましい.
多種の成分からなる血清蛋白を,蛋白質が有する荷電という性状を利用して電気的に分画する方法が血清蛋白電気泳動で,なかでもセア膜を支持体とする電気泳動法が最も広く用いられている.本法によれば,血清蛋白は易動度の早いものから,アルブミン,α1,α2,βおよびγの5分画に分かれる.
血清蛋白異常は血清総蛋白濃度および各分画の異常から,表のような基本型に分類されている.このような型は定型的な病変が存在する場合にみられるものであって,病変が非定型的である場合,たとえば病気が未だ定型的な状態まで進行していない時期,回復期,あるいは他の疾患を合併しているときなどでは,このような異常像にあてはまらないことがしばしばある.以下におのおのの分画異常像を示す代表的な疾患を示す.
高血糖を示す場合1) 現在,糖尿病にはインスリン依存型糖尿病(IDDM)とインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)があり,それぞれの中にも種々の病因によるものが含まれると考えられているが,これらの本態性糖尿病のほかに,高血糖を示す疾患または状況は表1のようにきわめて多い.それらとはできるだけ鑑別し,また糖尿病があるにしても,随伴するそれ以外の病態による血糖上昇因子を知ることが,糖尿病治療上も重要である.何らかの精神的または肉体的ストレスは糖代謝に影響しうると考えるほうがよい.
一般に,糖尿病がなくて高血糖をきたす場合は,その程度は軽く,糖負荷試験でも境界型のことが多く,糖尿病型となることは少ない.糖尿病と紛らわしい高血糖のうち,日常最も問題になりやすいのは肥満,高脂血症,肝疾患,膵疾患などであり,甲状腺機能亢進症,胃切除後などでは糖負荷後30分〜1時間値がかなり高くても,2〜3時間値は速やかに下降して急峻型高血糖(oxyhyperglycemia)となり,既往歴,症状からも糖尿病と区別しやすいことが多い.
血糖値は摂食その他により絶えず変動しているので,家庭における血糖値を推測する手掛りとしてグリコヘモグロビン(glycosylated hemoglobin,HbAI)が注目されている.
ヘモグロビンA(HbAⅡ,またはHbA0という)のβ鎖N末端のvalineにグルコースが結合してaldimineを形成し(unstable HbAIC),さらにamadri変換して強固なketoamine結合(stable HbAIC)になると,そのグルコースは赤血球の寿命を終わるまで解離せず,したがって,その量は1〜2カ月前からの平均尿糖,平均血糖と平行する1,2).HbAIはHbAIa+HbAIb+HbAIcの総和である.
後述する採血条件で採血したときの全血正常値は,乳酸で3〜15mg/dl(0.33〜1.67mmol/l),ピルビン酸で0.3〜0.9mg/dl(0.034〜0.102mmol/l)であり,性差や年齢差はほとんどみられない(ただし新生児は高値).
全血乳酸(ならびにピルビン酸)が増加してくる疾患には,表に示したように乳酸アシドーシス(lactic acidosis)を伴うときと,そうでないときがある.
検査の目的
シアル酸は糖蛋白および糖脂質の構成成分として古くから知られた物質であり,ヒト血清中にも数十mgという多量に存在しているにもかかわらず,従来日常臨床検査法としてあまり取り上げられなかった項目である.臨床的にも悪性腫瘍との関連,炎症性疾患との関連が強く示唆されていたが,臨床検査室で利用できる簡便な検査法がなかったため従来あまり広く行われていない.最近では新しい酵素試薬の開発により日常検査としてシアル酸測定が可能となったため,改めて癌との関連において注目されるに至った.
血清シアル酸はα1酸性ムコ蛋白,α1アンチトリプシン,セルロプラスミン,フィブリノーゲンなどのいわゆる急性相反応物質Acute Phase Reactants(APR)に大量に含まれているので,血清シアル酸の測定はAPRの総合的動態を示すものと解釈される1).
血清総コレステロール値の変動は脂質代謝異常のほか,非特異的に種々の疾患において現れる(表).高コレステロール値を示す疾患のうち日常よく遭遇するものとしては,糖尿病,動脈硬化症,ネフローゼ症候群,肝胆道疾患,悪性腫瘍などがある.これらは軽度(230mg/dl以上)〜高度(400mg/dl以上)の上昇までさまざまであり,上昇可能なおよその程度を表に付記している.低コレステロールの場合,肝硬変症など肝実質障害を伴う疾患が代表的である.
血清トリグリセリド(TG)値の異常をきたす疾患を表にまとめた.日常認められる異常値のほとんどは持続性の脂質代謝異常によるものである.血清TGは,エネルギー源としての脂質の吸収,貯蔵,消費,合成のバランスを示すものであり,諸疾患によって脂質代謝に影響があった場合,異常値をとることは当然考えられる.ただし,続発性TG異常を示す糖尿病,ネフローゼ症候群,肝疾患などの診断はその臨床所見,検査データなどから総合的に行われるものであり,TG値が診断のきめ手になるとは考えられない.
鑑別診断上,食餌性高脂血症,肥満症,動脈硬化症などにおけるTG値を含む脂質検査データの臨床的意義の解釈は,他の臨床検査データが必ずしも特異的所見を示さないため困難なことが多い.忘れてならないのは薬剤の影響によるTG異常値の出現で,このような場合,原疾患による影響か否かの判断はかなり難しいものとなる.薬剤と食餌性TG異常値の場合には特定臓器疾患としての症候,所見が不明瞭なことが多い.
血漿中のFFAの濃度は非常に不安定なもので,わずかの刺激に対して敏感に変化する.とくに栄養,神経性因子および内分泌性の影響を敏感に受ける.血漿中の量はほかの脂質に比べて非常に少ないが,turn overが非常に早く,エネルギー源として重要な役割を果たしている.
ほかの脂質と異なり,ただ1回の測定のみで疾患の診断的意義を有することが少ない.むしろある刺激を加えてFFAの変化をみて,これらの刺激の生体内代謝におよぼす影響をみる場合が多い.生体がエネルギーを必要とするとき,図に見られるように,ホルモン感受性リパーゼが働き,脂肪組織のTGはFFAとグリセロールに分解され,血中に放出される.血中に放出されたFFAは心筋,骨格筋,腎臓などの主要臓器のエネルギー源として利用される.そして,余ったものは肝に行ってTGとなり,再びVLDLとして血中に放出され,脂肪組織に摂取され,貯わえられる.ホルモン感受性リパーゼはホルモンや神経系の影響を受けることが大きく,cyclic3´,5´-AMPを介して調節されている.cyclic3´,5´-AMPはATPからadenyl cyclaseによって作られる.
現在までのところ,血小板凝集,その他から生ずるプロスタグランジンを含めて,人体において一過性ながら過酸化物の生成されることは認められており,その意義について一部ではかなり明らかとなっている.しかし従来までに,血清過酸化脂質を直接測定するものでなく,チオバルビツール酸(TBA)として反応して生ずる生成物の定量結果が用いられている.つまり測定値は間接的な値であるといえよう.
現在,各種の測定方法があり,統一されてはいないが,八木螢光法が一般的であり,ほぼ標準値も平均化されつつあると考える.それはTBAに反応する物質として,糖類,アルデヒド,シアル酸,ビリルビンなどが挙げられているが,比較的影響が少ないからである.
リポ蛋白の種類と役割
リポ蛋白には表1にあげたような種類のものがあり,各種の臨床状態でそれぞれのリポ蛋白の増減が起こる.分析手段によってやや名称を異にしているが,だいたい相互に関連を示すものである.
検査上注意すべき点は,これら正常に存在するリポ蛋白が単に増減するだけでなく,異常とみなされるリポ蛋白の出現も起こることである.さらに正常のリポ蛋白が増減した際に,それがどのような代謝状態から発生したものか,次にどのような結果を将来もたらすものか,予後を含めて注意しなければならない.
動脈硬化促進因子として,以前より血漿Total Cholesterol(血漿TC)と血漿Triglyceride(血漿TG)が取りざたされてきた.とくに虚血性心臓病では,血漿TCが高いほど発病率も高くなると考えられてきたが,それが低いにもかかわらず虚血性心臓病の発症が見られたり,また血漿TCが正常値にあるにもかかわらず,その75%に脳血管障害や心筋梗塞が起こりうるといわれている.
一方,リポ蛋白が技術的に分画されるようになり,TC,TGはリポ蛋白の形で血中に存在することにより,以来動脈硬化症は個々のリポ蛋白との関連において考えられるようになった.
リポ蛋白を構成する蛋白部分を,一般にアポリポ蛋白(Apolipoprotein),あるいはアポ蛋白(Apoprotein)と呼んでおり,現在,各種のものが判明している.
現在,臨床的に問題となっているものについて挙げてみると,次のごとくである.
LCAT,すなわちレシチン-コレステロール-アシルトランスフェラーゼ(lecithin:cholesterol acyltransferase)は,肝臓から分泌される細胞外酵素で血漿中に存在しており,主として血漿高比重リボ蛋白(HDL)に作用する.その作用機構は図1のように,レシチンのβ位の脂肪酸をコレステロールの3位のOHの所に転位して,コレステロールをエステル化する酵素である.なお,レシチンは最近ではphosphatidylcholineと呼ばれており,したがってこの酵素もphosphatidylcholine:cholesterol acyltransferaseと呼ばれることもあるが,LCATという略号はそのまま使用されている.
血清尿素窒素の上昇(低下)する疾患を表に示した.高齢者の腎動脈硬化症による高窒素血症は正常値上限(20mg/dl)をわずかに越える程度(20〜35mg/dl)のまま変動していることが多い.逆に乳幼児,ことに10歳以下の腎炎では尿素窒素の上昇は頻度が低い.小児科領域での急性腎炎は,尿素窒素より尿所見の推移が経過観察の目的には適しているといえる.この年齢により尿素窒素の上昇頻度が同じ腎障害であっても異なる点は注意する.尿素窒素の上昇は基本的に機能するネフロンの数と,体内合成尿素量とのバランスであり,ネフロンの機能が低下しても生成尿素量が比較的少なければ血中停滞は起こらない.この状態が小児であり,成人の場合はこの逆であると考えることができよう.したがって,成人,ことに高齢者ではわずかな腎障害でも上昇する頻度は高い.
また,大手術後はしばしば尿素窒素の上昇をきたすが,上腹部臓器の手術後にみられる高窒素血症は単なる腎機能低下のみでなく,蛋白異化の亢進もかなり大きな原因となっている.膵壊死,消化管の大出血後や上腹部膿瘍,縫合不全などにみられる高窒素血症は,腎機能不全と考えられる他の所見がなくとも40〜100mg/dl前後の値を示し得るのである.逆に蛋白同化の亢進は異常低値を示すことになる.
クレアチン,クレアチニンの生合成は,まずアルギニンのグアニジル基がトランスアミナーゼによりグリシンに転移され,グリコシアミンが作られる.次に主に肝臓でメチル・トランスフェラーゼによりクレアチンが合成される.肝臓で合成され血中に分泌されたクレアチンは筋細胞に取り込まれ,クレアチン・フォスフォキナーぜ(CPK)の関与で可逆的に反応し,クレアチン・リン酸として存在している(60〜80%).この反応は,Lohmann反応で主に糖質を好気的に分解することにより生ずるATPの化学的エネルギーを,クレアチン・リン酸の形で保存し,筋活動に際し必要なATPを生ずるために,速やかに利用できるエネルギーの貯蔵を行っている.一方,20〜40%のクレアチン・リン酸は非酵素的に一定の割合で脱リン酸されクレアチニンとなる.
クレアチン,クレアチニンはいずれも腎臓より排泄される.クレアチンは前述のように,生体にとって重要な物質であるので,腎糸球体より濾過されても近位尿細管で再吸収される.したがって,正常男子では尿中にクレアチンは通常認められない.
第一に,尿素サイクルの酵素が先天性に欠損ないし異常である遺伝病がある.第二に,尿素サイクルの酵素活性の低下する高度の肝機能障害がある.その内には門脈血が大循環に短絡して流入する場合が含まれ,肝硬変や特発性門脈高圧症などがある.そのほか呼吸不全,慢性骨髄性白血病,熱傷,過激な運動,長期高度の右心不全などがある(表).
黄疸とは
黄疸とは血清ビリルビン値が過剰(1mg/dl以上)になった状態である.したがって,黄疸の程度は血清総ビリルビン値の定量により決定されるのであるが,簡便法として血清の黄色調を比色定量する黄疸指数(Meulengracht法)が用いられてきた.ビリルビン1mg/dlが黄疸指数10にほぼ対応する.健康人血清の黄疸指数は4〜6単位,血清総ビリルビン値は0.2〜0.8mg/dlである.血清総ビリルビン値が2mg/dl以上になると皮膚,粘膜の黄染が明らかとなるので顕性黄疸,それ以下の場合には潜在性黄疸と呼ぶ.健康人血清はわずかの黄色調を帯び,その75%がビリルビンに,残りの25%がlipochromeによるとされる.過ビリルビン血症以外に皮膚の黄味をきたす状態として,①柑皮症(カロチンあるいはカロチノイド色素が血中に増加する場合で,ニンジン,南瓜,蜜柑などの過食による.眼の鞏膜は黄染しない),②下垂体機能不全,③ある種の薬剤の摂取(塩酸キナクリン,ピクリン酸)などがあげられる.
胆汁酸は肝細胞において特異的にコレステロールより生成され,閉鎖的な腸肝循環を行っている.腸管から再吸収された胆汁酸は門脈血に入り肝に戻るが,肝による摂取率は70〜90%で,残りは大循環系に漏出し,末梢血における濃度は10μM以下である.したがって,もし肝障害があれば,肝細胞による摂取率が低下し,末梢血中胆汁酸濃度は増加する.この現象は肝機能検査として利用できる.近年,血清胆汁酸の微量測定法が確立されたので,日常臨床において広く利用されるようになってきた1).
血清胆汁酸は正常では15種類あるが,すべて3αの位置にOH基を持っている.このことを利用して,3α-OH胆汁酸総量を計り込む測定法(酵素法)と,個々の胆汁酸を計る測定法〔ラジオイムノアッセイ法(RIA),高速液クロ法〕などがある.酵素法では個々の胆汁酸が増加しても包括的に測定できる利点があり,RIA法は単一の胆汁酸の動きを見るのに便利である.
血漿(清)鉄濃度は,鉄の吸収,網内系,骨髄への移行,組織血漿間の移動などのバランスの上に立ち,ほぼ一定の値を維持している.吸収は食餌中の鉄含量,摂取量(1日1mg),小腸から同時に吸収される物質による促進(グルタミン酸,アスパラギン酸,VC),競合(メチオニン,プロリン,セリン,リン酸化合物)作用を受ける.体内総血清鉄量は3,500mgであるが,諸臓器間の移行量は大きく,総量21mg分が1日で体内を移動する.十二指腸,空腸上部から吸収されたFe⧺は酸化され,Fe⧻(第二鉄イオン)として血中に移行するか,腸上皮細胞のアポフェリチンと結合し,フェリチンとなり,細胞内にとどまる.Fe⧻となって血漿中に入ると,トランスフェリン(β1グロブリン分画)と結合し主に骨髄の赤芽球に供され,ヘモグロビン合成に用いられる.それ以外のFeは,非特異的に諸臓器内に入ってしまう.血清鉄は諸臓器の機能,吸収・排泄のバランス,人間の成長,日内変動,トランスフェリン量,思春期にはじまる性差,疾病などに影響される.
生体内の鉄代謝の1メルクマールとして鉄結合能を測定する.血漿鉄はβ1グロブリン分画のトランスフェリン(分子量90,000のムコ蛋白.鉄結合蛋白質,ジデロフィリンなどと呼ばれる)とキレート結合して血中を担送される.正常血漿トランスフェリンは平均260mg/dlといわれるが,その1mgは1.3μgのFeと結合する.それゆえ,正常人血清1dlは260×1.3μg=338μgのFeと結合する力をもつ.これを総鉄結合能(TIBC)と呼び,この中で実際に血清鉄と結合している割合を飽和度,フリーの部分を不飽和結合能(UIBC)と呼ぶ.鉄結合能はTIBC,UIBCを一応区別し,かつ血清鉄値と関連づえて考えるべきである.
血清フェリチン値の異常を示す疾患を図に示した.
異常低値を示す場合 血清フェリチンの低値はすなわち組織フェリチンの低値,言い換えると鉄欠乏症を意味する.したがって血清フェリチンが異常低値を示す貧血は,すべて鉄欠乏性貧血と診断してさしつかえない.また潜在性鉄欠乏状態は,思春期の女性,妊娠・授乳時などで不定愁訴の原因となりながらも,これまでその正確な把握が困難であったが,血清フェリチンはHb値,血清鉄値が低下する以前に減少する2)ので,潜在性鉄欠乏状態をとらえることができる.
血清銅の測定をスクリーニングとして用いることは比較的少ないが,病態生理を理解するうえで重要な意義を有する.異常値を示す疾患は多いが,その変動の意義は疾患により異なる.重症度とも関係がある.
セルロプラスミン(ceruloplasmin)は,1944年スウェーデンのHolmberg & Laurellによって初めて単離精製された,主要な血清蛋白の1つである.本物質は1分子中に6〜7個の銅イオンを含有し(最新の報告では5個との説もある),同時に8〜9%の糖を含む糖蛋白で,電気泳動上はα2グロブリン分画に属し,分子量約134,000でPフェニレンジアミンや,カテコールアミンなどの酸化能を有する.
通常,血清Na濃度は135〜150mEq/lの間にあり,134mEq/l以下を低Na血症,151mEq/l以上を高Na血症と呼んでいる.血清Na濃度の変化は細胞外液におけるNaと水のバランスによって決定され,低Na血症とはNaに比して水が多い状態,すなわち低浸透圧血症hypotonicityの状態であり,逆に高Na血症はNaに比して水が少ない状態,高浸透圧血症hypertonicityの状態である.臨床上,低Na血症は頻繁にみられるが,高Na血症はそれ程多くみられるわけではない.これは尿濃縮・希釈力障害に対する防御反応の差であり,希釈障害が強い場合には1〜2lの水分摂取量でも容易に低Na血症を引き起こす.この際血漿浸透圧の低下により口渇中枢が抑制されるが,この程度の水分摂取は日常行っている量であり,低Na血症の進展を防ぐためには強制的な水分制限が必要となってくる.一方,尿濃縮力障害の場合には,血漿浸透圧の上昇により口渇機序が有効に働いて高Na血症の進展が阻止される.このため高Na血症が高頻度にみられるのは,水分摂取が自由に行えない乳幼児や高齢者,意識障害などの症例である.例えば,完全な中枢性尿崩症例では1日に10l以上の尿量がみられるが,口渇中枢の刺激により水分摂取が促されるため,著明な高Na血症に至ることは少ない.
身体の総K量は成人でだいたい3,000mEqで,主として細胞内に分布し,細胞外には約2%,60mEqが含まれているにすぎない.その濃度についても血清K値が3.6〜5.5mEq/lであるのに対し,細胞内Kは110〜150mEqとはるかに高値である.したがって,血清Kのいかんが必ずしも体内のKバランスを示しているのでなく,表に示すごとく,血清K値と体内総K量とが必ずしも平行していない.それゆえ,血清Kが異常を示す場合には,常にKバランスを考え,病態を正しく判断して対処することが大切である.
正常では摂取されたKの85〜90%が腎から排泄される.それゆえ,腎に異常があると血清K値の異常をきたしやすい.とくに慢性腎不全末期や急性腎不全乏尿期などでは腎のK排泄が著しく低下し高K血症を生じる.異化作用や代謝性アシドーシスがあると,これが一層著しくなる.一方,急性腎不全の利尿期,慢性腎盂腎炎や尿細管性アシドーシスなどでは腎のK保持能が失われて低K血症をきたしやすい.また,Na負荷時やアルカローシスでKの排泄が増加し,副腎皮質ステロイドの使用,アルドステロン症あるいはサイアザイド剤など利尿剤を長期使用した場合にもKが失われ,低K血症をきたす.これに反し,抗アルドステロン剤であるスピロノラクトンの使用ではKの排泄が減少して高K血症をきたしやすい.
Clは血漿の陰イオンの中でHCO3-とともに主要な部分を占め,神経,筋機能,酵素活性,その他に重要な役割を果たしている.また,腸管や腎尿細管などにおいてC1自体の調節機構が見出され,これらの異常による血清C1値の変動も報告されている.
しかし,一般に血清C1値の異常は,NaやHCO3-濃度の変化をきたす病態により二次的に惹起されることが多い.この意味でC1は陰イオンの総和を調節する,いわゆる“balancing ion”と考えるのが便利である.とくにC1とHCO3-は互いに補い合う関係にあり,HCO3-が増加するとC1が減少し,HCO3-が減少するとC1が増加し,クロール・重炭酸塩移動(chloride-bicarbonate shift)と呼ばれている.
日常検査では血清(あるいは血漿)の総Caを測定するわけであるが,それが正常値以下,あるいは以上をきたす疾患を列挙すると表1,2のごとくなる.血清CaはCa++(カルシウム・イオン),蛋白結合Ca,蛋白以外の陰イオンと結合したCaよりなり,それぞれ血清総Caの48%,46%,6%をなす.血清Caの中でもCa++がCaとしての生物学的活性の主体であり,その濃度は非常に狭い範囲でホメオスターシスが保たれている.これが副甲状腺ホルモン,ビタミンDおよびカルシトニンの作用によることはいうまでもない.蛋白結合Caの濃度はCaが結合する血清蛋白,それも主としてアルブミンの濃度によって変動する.血清総Ca濃度測定の際に見出された異常がCa++濃度の変化を伴うものか,ただ単に血清蛋白濃度の変動を反映するにすぎないものかを区別することは,その後の鑑別診断にとって重要である.血清蛋白濃度変動による血清総Caの変化は次の式による補正により除去できる.
血清あるいは血漿無機リン酸濃度の異常をきたす疾患を表に示す.血清あるいは血漿中のリン酸は,無機リン酸のほか,エステル型リン酸,リン脂質などの形で存在し,血漿中の総リンは12mg/100mlに達する.しかし,通常は無機リン酸の元素リンの量を血清リン(P)として表現している.高P血症をきたすもっとも多い疾患は腎不全である.甲状腺中毒症,先端肥大症の活動期にも高P血症となる.ビタミンD中毒症でも高P血症となることがある.ビタミンDそれ自体は血清Pを上昇させるように作用するが,同時にみられる高Ca血症は血清Pを低下の,一方高Ca血症に由来する腎障害は上昇の影響を示すので,これら病態のバランスにより,血清P値はいろいろの値をとる.抗腫瘍剤などにより白血病,とくに慢性白血病を治療する際に大量の白血病細胞の崩壊が起こると,細胞内から大量のPが遊離し,高P血症となり,その二次的結果として低Ca血症が起こってくる.副甲状腺ホルモンの作用の低下によっては低Ca血症とともに高P血症が起こってくる.
血清Ca濃度に上昇がみられず,しかも低P血症が長期間つづくと,くる病あるいは骨軟化症が起こる.逆にくる病あるいは骨軟化症においては,一部の病態(hypophosphatasiaなど)を除いて,いずれも著しい低P血症がみられる.
Mgは,動・植物の細胞内に多く存在するイオンの一つで,各種の生物学的反応に重要な役割をしており,発育や生命の維持に関与する基本的イオンである.嫌気的解糖のようなもっとも原始的エネルギー産生反応ですら,いくつかの酵素反応の段階で必須のactivatorとしてMgを必要としている.
血液ガス分析は,酸素,炭酸ガス,窒素などの血中成分を分析することであるが,現在では「動脈血でpH,Po2,Pco2を電極で分析すること」を指す.ときには混合静脈血(肺動脈血)や中心静脈血,各臓器の流出静脈血(内頸静脈血や冠静脈血)を分析して当該臓器の代謝状態の解析を試みる場合もある.
pHは「血液ガス」ではないが,必ず同時に分析する.Van Slyke法による酸素と炭酸ガスの分析,窒素の分析などは特殊な研究目的でしか行われなくなった.分光光度計による酸素飽和度の測定はときに行われる.直接分析値のほかに,計算によって[HCO3-],Base Excess,酸素飽和度,酸素含量などを求めることもある.
異常値を示す疾患および病態
血漿重炭酸濃度〔HCO3-〕pおよびPaco2が異常値を示す疾患あるいは病態を表に示す.
異常値を示す病態と疾患
pH=6.1+log〔HCO3-〕p/0.03Paco2という式で示されるように,pHの値は血漿HCO3-濃度〔HCO3-〕pとPaco2の2因子によって左右される.pHの正常値は7.35〜7.45で,〔HCO3-〕pは腎臓,Paco2は肺によって調節される.両臓器は機能を代償し合い,〔HCO3-〕p/0.03Paco2を20/1に維持してpHを正常化しようとする.しかし,病気が急性期あるいは重篤なときには,代償作用が完全であるためにpHの値が異常になる.pHが異常値を示す病態は次の4群に分類され,その原因は表に示す通りである.
臨床的にPaco2を考えるときには,ここに示す2つの式をそのまま記憶しておくと便利である.
1)炭酸ガスは非常に拡散しやすく,肺胞毛細血管膜を介するガス交換はほほ完全に行われ,肺胞気炭酸ガス分圧(PACO2)と動脈血炭酸ガス分圧(Paco2)はほぼ等しいと仮定してさしつかえない.
Pao2(動脈血酸素分圧)は,肺でのガス交換の状態を表す重要な指標であり,酸素療法の適応やその効果判定のために必須な検査である.Pao2の判読にあたっては,次式を使ってPAO2(肺胞気酸素分圧)を算出し,A-aDo2(肺胞気動脈血酸素分圧較差:PAo2-Pao2)の開大の有無を検討する習慣をつけていただくと良い.
PIo2は吸入気酸素分圧,Rは呼吸商であるが,空気呼吸時には右辺に示すように計算して大きな誤りはない.上記の式が得られる経過は省略するが,この式をそのまま記憶しておくと便利である.
So2は酸素飽和度を表し,Sao2は動脈血の酸素飽和度を意味している.
血液中での酸素は,1)溶解した状態(遊離酸素) 2)ヘモグロビン(Hb)に化学的に結合した状態(結合酸素)で存在している.この遊離酸素と結合酸素の和が酸素含量(Co2,vol%)である.
血清アミラーゼの意義
血清アミラーゼ値の上昇する場合は,表1のように多種にわたっているが,主なものは膵疾患,耳下腺疾患,アミラーゼ産生腫瘍と腎よりのアミラーゼ排出障害などである.正常人においてアミラーゼは血液中に放出されており,個人ではほぼ一定であって日常変動,加齢変動は少ない.正常人では血清アミラーゼの起原臓器は膵臓と耳下腺(唾液腺)であり,膵臓では消化管ホルモンであるパンクレオザイミンにより膵外分泌部が刺激され,他の膵酵素とともに膵管に分泌され,膵管よりリンパ系,毛細血管系を経て血中に逸脱してくる.耳下腺では迷走神経の刺激により分泌が起こり,口腔内に分泌されるが,一部は耳下腺内よりリンパ系を経て血中に出現し,両者が血清アミラーゼとして測定されてくる.その大部分は腎より排泄されるが,膵性アミラーゼのほうが腎より濾過される率が多い.正常血清アミラーゼの作用および代謝は不明である.
アミラーゼアイソザイムの異常を示す場合を表1にまとめた.以下,筆者らの経験1)を中心に略述する.
膵疾患 血清の膵アミラーゼ分画(P-A)の増加が表中の各膵疾患でみられる.とくに急性膵炎では尿のP-A増加が著明である.慢性膵炎では再燃時にP-Aの増加がみられるが,広範に侵され膵石を伴うと逆に減弱消失する.ERCP(逆行性胆膵管造影)施行時も一過性にP-Aの増加を認める.
異常値を示す疾患(表1)
血清リパーゼ(Lp)は従来測定値の再現性の悪いことが災いして,日常検査に採用しているところは少ない.また,血清Lpは基質によっては肝エステラーゼの作用をみていたと考えられる場合もあり,臨床的利用価値が低く評価されてきた.最近これらの方法論的な問題が解決されはじめ,血清中の膵Lp値はアミラーゼよりも特異性が高く,膵疾患に鋭敏なことから採用されるようになった.
異常値を示す疾患は表1のとおりで,膵管から十二指腸までの流出障害を生ずる疾患すべてを含んでいる.次が胆嚢胆道および周辺臓器疾患であるが,イレウス,消化管穿孔などは膵への影響の多寡によって上昇頻度が変わる.また,急性膵炎や膵結石ほど高値は示さない.セクレチン注射後,モルヒネ注射後,ERCP後は一過性の上昇を示し,とくにERCP後は3〜4倍程度の上昇を示す.また上昇は約30時間続いたのち低下する.
血清アルカリフォスファターゼ(ALP)の異常を示す疾患を表1に示した.血清ALPの上昇は他の多くの血中遊出酵素(GOT,GPT,LDHなど)と異なり,臓器でのALPの生成亢進を反映したものである.肝・胆道疾患では胆汁より腸管への排泄障害とともに肝細胞での生成亢進が関与している.また,骨疾患では骨性ALPの生成亢進を反映しており,癌患者の一部の症例では癌組織における胎盤性ALPの生成を反映して血中に増加する.
黄疸がある場合には肝細胞性黄疸であるか,胆汁うっ滞性黄疸であるかの鑑別が問題となる.肝細胞性黄疸では30K.A.単位以下であることが多く,胆汁うっ滞性黄疸では30K.A.単位以上のことが多い.
血清アルカリフォスファターゼ(ALP)のアイソザイムは寒天ゲル,セルロゲルを支持体とした場合と,殿粉ゲルおよびポリアクリルアマイドゲルのDisc電気泳動法の場合とで泳動像が異なる(図).相違点は寒天ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALP1が,殿粉ゲルでは原点にとどまりALPVⅦとなり,殿粉ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALPⅠは,寒天ゲルではALP1と重なるため検出できない.その他のALPアイソザイムの移動度はほぼ同じである.なお寒天ゲルではPVPを加えるとその量によりALP1の移動度が低下し,ALP2の陰極寄りに泳動されることがある.
血清ALPアイソザイムのなかには臓器ALPと同じ性質を有するものがある.肝ALP2(ALPⅡ),骨ALPはALP3(ALPⅢ),胎盤ALPはALP4(ALPⅣ),小腸ALPはALP5(ALPⅤ)に一致する.なお,ALP1(ALPVⅦ)はALP2が高分子化したもので,n-ブタノール処理を行うとALP2(ALP11)と一致する.
γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP,GGTP)は,γ-グルタミルペプチドを加水分解するとともに,γ-グルタミル基を他のペプチドやL-アミノ酸に転移する酵素(2.3.2.1)であり,健常成人では腎に活性分布が最も高く,膵がこれにつぎ,肝の活性はきわめて低く,これら臓器の活性化比は100:8:4である.
この酵素の生理的意義については未だ定説はないが,膜系酵素として細胞内グルタチオンの分解と再合成に共範しながら,アミノ酸の転入と利用にあずかると考えられている1).肝組織では肝細胞のミクロゾーム分画で生成され,胆道系を経て排泄され,組織化学的には胆毛細管から門脈域の胆管上皮内に活性が分布する.腎では細尿管上皮細胞に活性分布が高く,膵組織ではacinusと膵管系に分布し,成人心筋にはほとんど活性を認めないが,胎児の心筋,心外膜の毛細血管内皮には活性を認める.
いわゆる酸性フォスファターゼは酸性領域に至適pHをもつ,有機モノリン酸エステルを水解する酵素群である.この酵素は,ヒトではまず赤血球に存在が証明され,そのほか前立腺組織,肝臓,腎臓,脾臓,腸,副甲状腺,骨髄などに広く分布していることが証明されている.とくに前立腺には他臓器に比し多量の酸フォスファターゼが存在している.1936年Gutmanらによっで転移を有する前立腺癌患者では血中酸性フォスファターぜ値が高値を示すことが報告され,また,前立腺の酸性フォスファターゼ産生が性ホルモンによりコントロールされていることが報告されて以来,血中酸性フォスファターゼ値の測定が前立腺癌の診断,治療効果判定に広く用いられるようになった.しかし,酸性フォスファターゼは前述のごとく多くの組織に存在しており,前立腺癌に特異的なマーカーとはいえない.そのため多くの研究者により特異性の高い基質や阻害剤を使い,前立腺性酸フォスファターゼ(Prostatic Acid Phosphatase;PAP)のみを測定する試みがなされてきた.
現在PAPの測定に使用されている方法としては,従来広く行われてきた酵素法としての,Bessy-Lowly法(PAP正常値:0.01〜0.15BLU),King-Armstrong法(PAP正常値:0.10KAU以下),Kind-King法(PAP正常値:0.8KAU以下)などがある.
生体内に存在するコリンエステラーゼはコリンエステルをコリンと有機酸に加水分解する酵素で,赤血球中に高濃度に分布するアセチルコリンエステラーゼ(true-cholinesterase)と血清中に高濃度に分布するコリンエステラーゼ(pseudo-cholinesterase;ChE)が存在する.通常臨床検査で測定されるのは後者の血清コリンエステラーゼ(ChE)である.
トランスアミナーゼ(一般名:aminotransferase)はアミノ酸の代謝に関与する酵素であり,ほとんどすべての細胞に存在しているが,量的には肝,心筋,骨格筋,脂肪組織,脳,腎などに多い.GOT(一般名:aspartate aminotransferase,AST)は心筋,肝のほか,骨格筋,腎,膵などに存在し,GPT(一般名:alanine aminotransferase,ALT)は肝に最も多く,次いで腎,心筋,骨格筋,膵,脾などにも存在する.
GOT,GPTはピリドキサル燐酸を補酵素とし,細胞内では糸粒体(m)と上清(s)に分布している.血清GOT,GPTの正常値はそれぞれ8〜32,5〜29国際単位(SI)である.血清トランスアミナーゼはピリドキサル燐酸で飽和されていないため,その約20%はアポ酵素であるが,GPT活性はとくにピリドキサル燐酸濃度に影響をうける(図1).血清GOT,GPTは陰イオン交換樹脂や抗血清でmおよびsの異性酵素にわけることができる2).細胞内のGOT,GPT濃度は血清濃度の103〜4程度であるので,細胞膜の障害で血清中に逸脱する.
乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase,LDH)は補酵素NAD+(あるいはNADH)の共軛下に(1)の式を触媒する.Α-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(a-hydroxybutyric acid dehydrogenase,HBD)も同様にNAD+の共軛下に(2)の式を触媒する.
(1)乳酸+NAD+⇔ピルビン酸+NADH+H+(2)α-ヒドロキシ酪酸+NAD+⇔α-ケト酪酸+NADH+H+
LDHは一般的にL-α-ヒドロキシモノカルボキシル酸の酸化を触媒するため,(2)の式をも触媒する.HBD活性はLDH1+LDH2アイソザイム活性にほぼ該当する.
LDHアイソザイムパターンは各組織により異なっており,病変時にこのパターンがある程度血中に反映されてくる.そのため血清LDHアイソザイムパターンの分析により,病変組織や病変の程度・種類を診断ないし鑑別する上で総LDH値測定よりはるかに多くの情報が得られる.
ヒトの血漿中には数多くのアミノペプチダーゼ(AP)が存在する.この中で我々が日常検査で測定しているAPは,少なくとも2種,測定条件,または病態によっては3種のものを指すことになり1).臨床的にはこれを区別して測定すべきであり,また自分の用いている測定法はどれかによって評価を若干変える必要があると思われるので,ここで整理することとしたい.
表に血漿中に存在し,日常分析で測定されるAPを示した.可溶性AP(C-LAP,EC 3,4,11,1)は細胞可溶性分画に多量に含まれ,基質としてロイシンアミドを用いる方法で測定可能となる酵素である.ミクロゾームAP(m-LAP,EC 3,4,11,2)は膜結合酵素であり,何らかの機序で血中に存在する酵素で,日常分析では合成基質を用いるとC-LAPがごくわずかしか測りこめないので,比較的選択的に測定されている酵素である.古くから臨床的にはLAPと呼ばれていたが,慣用名であり厳密には問題がある.胎盤由来の酵素は,LAPとは区別するものであるが,合成基質,ロイシンアミドいずれを用いても測定されるので,LAPの上昇として観察されるが,妊娠時のこの酵素の上昇は別に評価すべきである.したがって,以下にはC-LAPとm-LAPについての臨床的評価を中心にまとめることとする.
CAPは元来は胎盤から産生されるoxytocinaseとして注目されてきたが,Tuppyら(1961)によって一種のアミノペプチダーゼであることが明らかにされた.その後,BabunaとYenen(1966)および筆者ら(1967)によって,本酵素活性が胎盤機能の指標となることが明らかにされてから,世界的にも同様な見解が普及しつつある.しかしながら,本酵素の生理的意義,産生ならびに血中逸出の機序など不明の点が多いので,検査法としての意義には問題も少なくない.
また,本酵素はLAPときわめて近縁関係にあり,胎盤から産生されるLAPは同時にCAP活性を有することが明らかにされている.そこで,S-benzyl-p-nitroanilideを基質として測定した場合に,男子および非妊婦にもわずかながら活性が認められ,また,肝障害の一部では活性の微小な上昇も認められている(及川ら,1978).
CPK(creatine phosphokinase)は筋の小胞体に多量に含まれている酵素で,しばしばCK(creatine kinase)とも呼ばれている.CPKはATPおよびADPを補酵素としてLohman反応を触媒し,エネルギー産生に重要な働きをしている.CPKは骨格筋に大部分が存在し,血球中には存在しないため,初期には,血清CPKの測定は筋疾患,ことに筋ジストロフィー症の早期診断にきわめて有効と考えられていたが,その後心筋,脳に存在することが明らかにされた.血清CPKの上昇は筋,心筋および脳の破壊によって組織より血中に流入したもので,破壊された臓器によってそれぞれのアイソザイム(異種型)を示すので,アイソザイム測定によって障害部位ないし臓器を推定し,その対策を立てるのに役立っている.
正常骨格筋のCPKはすべて筋型(MM型)であるが,胎児では3カ月までは脳型(BB型)をとり,それ以後はMM型が現れる.心筋ではMM型のほかに中間型(MB型)が約30%含まれている.血清中にMB型が生ずればほとんど心筋由来と考えてよい.脳や神経では大部分BB型(脳型)であるが,少量のMB型やMM型を含むことも知られている.ことに大脳灰白質はすべてBB型であるが,白質にはMM型とMB型が数%含まれている.