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“用語”とは,本来“意味,解説,類語,使用されている字句や言葉”のことである.ただし,“ある特定の分野で用いられる言葉”という限定的な意味で用いられることが多く,“医学用語”などはその代表と言える.ところが,医学のみならず生物学,生命科学の進歩により,医学領域では膨大な量の医学用語が用いられるようになっている.このため,本来はあってはならないことではあるが,出典や定義を十分に理解しないまま感覚的に使用し,時として誤用に至る場合がある.さらに,この誤用がそのまま普及してしまい,混乱を招く可能性も否定できない.加えて,膨大な情報を口頭や文章上で迅速に伝達するために,本来の意味を理解しないまま略語化することで収拾のつかない状況に至ることもある.このような混乱を避けるためには,使用頻度の高い用語の定義,およびその適切な使用方法を知っておくことが重要である.
本誌「胃と腸」の専門領域である消化管形態学に関する用語は,解剖学,病理学,分子生物学,放射線医学,内視鏡医学など広い領域にわたっている.また,実際に用いられる用語は,診断,分類,治療に直結する“病変の特性”や“所見”を表現するための用語が多い.さらに,新たな消化管疾患の概念や最新の診断法が確立されるに伴い,新しい用語が生まれ,急速に拡散していく.そこで,本増刊号は消化管領域における用語のうち,画像診断に特化した最新用語の起源と定義を明確にし,読者に正しい使用法を提示することを目的として企画された.
画像強調内視鏡(image enhanced endoscopy ; IEE)とは内視鏡で得られる画像を強調し病変を認識しやすくする技術で,白色光で得られた画像をコンピュータ処理するデジタル法,白色光以外の光を用いる光デジタル法,色素を用いる色素法に分類される1)(Fig.1).
デジタル法は,画像をコンピュータ処理することで病変の視認性を向上させる.LCI(linked color imaging),TXI(texture and color enhancement imaging)などが該当する.光デジタル法では,白色光以外の光を使用して粘膜表層や深部,表面微細構造を明瞭にする.代表的なものにはNBI(narrow band imaging),BLI(blue laser imaging),RDI(red dichromatic imaging)がある.色素法には粘膜を染色する染色法(例:ヨード,ピオクタニン,メチレンブルー)と,色素が溝にたまって凹凸を強調するコントラスト法(例:インジゴカルミン)がある.
上部消化管用内視鏡の最新機種は,CMOS(complementary metal-oxide semiconductor)センサーを搭載したことによりデジタル化が可能となり,高画質化が図られている.カタログなどにはGIF-XZ1200(オリンパス社製)は4K対応32インチモニターで光学ズームの最大倍率が125倍,EG-L600ZW7(富士フイルム社製)は19インチモニターで135倍などと記載されているが,拡大倍率はモニターサイズで変わるため相対的な指標にすぎない.解像力を比較するには最大分解能を表す必要がある.USAF解像力チャートを用い,EG-L600ZW7の光学拡大を最大にし,チャートとスコープ先端の距離を約1.5mm,画像強調モードをすべて0として15インチモニター(CDL1576A-1A,Totoku Electric社製)を用いて最大分解能を計測したところ,5μmであった1).GIF-XZ1200でも類似した結果であったとされている.食道粘膜は胃の腺上皮のような特徴的な構造に乏しいため,微細血管形態を評価する診断学として成り立ってきた.赤血球径7〜8μm,健常な上皮下乳頭内血管(intra-epithelial papillary capillary loop ; IPCL)は径約10〜15μmの毛細血管であり2),赤血球もIPCLも十分解像可能であることがわかる.
食道は呼吸性移動や心拍動も激しく管腔と接線方向になりやすいため,内視鏡観察の際には先端フードの装着が必須である.例えばMAJ-1989(オリンパス社製),もしくはDH-35GZ(富士フイルム社製)などを装着する.フードはスコープ先端から1〜2mm出ていれば十分で,通常観察画面の視野にかからないところまで押し込んで装着する.
EC(Endocytoscopy)は500〜1,000倍までの拡大が可能な超拡大内視鏡である.生体染色によりリアルタイムに細胞が観察可能で,病理診断に匹敵する画像が得られる1).上部消化管用ECであるGIF-H290EC(オリンパス社製)は光学的に500倍まで連続して拡大可能であり,2018年に市販された.筆者ら2)は食道扁平上皮のEC画像を3段階に分け,Type分類として臨床応用している.以下にType 1〜3の定義を示す.
Type 1(非癌):核密度が低く観察される扁平上皮細胞はN/C比が低く核異型のないもの(Fig.1a).
超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography ; EUS)は,上皮下の情報を可視できるモダリティである.食道領域においては,主に粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)の質的診断・癌の深達度診断,リンパ節転移の診断に用いられる.EUSは主に細径プローブとEUS専用機(ラジアル,コンベックス,リニア)に大別できる.細径プローブは,内視鏡の鉗子孔を通して使用するため,病変を直視しながら検査できることが最大のメリットである.細径プローブでは周波数は12〜20MHzに限定され,超音波が減衰するため,主に20mm以下の小さなSMTの質的診断,癌の深達度診断に用いられる.EUS専用機は5〜20MHzと幅広い周波数を選択できるため,20mmを超える大きなSMTの質的診断,頸部・縦隔・腹部のリンパ節転移診断に用いられる.
EUSは超音波伝導物質を食道内腔に貯留させ検査を行う.胃・十二指腸・大腸でよく用いられる脱気水充満法,ソフトバルーン法は,食道内腔に水を充満すると誤嚥のリスクが高いため,特に頸部から胸部上部食道の観察時には,食道内腔に内視鏡ゼリーを注入し観察するゼリー充填法1)が有用である.20MHzの細径プローブを用いて観察すると,食道壁の層構造は通常9層に分離される2).
消化管内視鏡検査における酢酸撒布は,1998年にGuelrudら1)によってBarrett食道に対する内視鏡的焼灼後の残存円柱上皮粘膜の鑑別に有用であると報告された.1.5%酢酸撒布により円柱上皮の表面は蛋白変性のため白色化し,光の透過性が低下することにより表面構造が明瞭化する.胃癌においては有用性が示されてきたが,Barrett食道腺癌においても酢酸撒布による狙撃生検がHGD(high grade dysplasia)や癌の診断に高い感度・特異度を示したこと2)や,多施設ランダムコホート研究において,酢酸撒布はガイドライン遵守よりもより少ない生検個数での腫瘍診断が可能との報告もされている3).特に範囲診断が困難であるIIb病変や随伴IIb病変が多くみられるLSBE(long-segment Barrett's esophagus)由来表在型Barrett食道腺癌では酢酸撒布の有効性は高いと考える.
下咽頭輪状後部〜その対側の後壁〜食道入口部までは内視鏡的死角となっており,観察が難しい領域である.この領域の観察にはValsalva法が有用である.下咽頭喉頭観察時に,大きく息を吸った後,一気に息を吐きながら唇を結んで両頰を膨らませ続け,息を10秒程度こらえるという方法1)である.もともとは耳鼻咽喉科領域で行われていた方法で,被検者の喉仏あたりの皮膚をつまんで前方に牽引する方法や,被検者が指を咥えながらトランペットを吹くようにする方法,風船を膨らませて行う方法など,さまざまな工夫が行われている.
経鼻内視鏡は咽頭反射が起こりにくいため,時間をかけて咽喉頭領域を観察しやすく,鎮静が不要なため指示が入りやすいという利点がある.最新の経鼻内視鏡は通常径の内視鏡と同等の画質,NBI(narrow band imaging),BLI(blue laser imaging,Fig.1),LCI(linked color imaging,Fig.2)などの画像強調機能を備えており,咽喉頭観察においては最適の診断ツールとなっているValsalva法にて全貌が明らかとなった症例をFig.3に示す.
従来,早期胃癌の発見のためには,系統的に胃内を観察することが重要であると強調されてきたが,その観察法は,指導医や施設,学術団体により異なる.また,伝統的に日本人が提唱する観察法は,系統的ではあるが,内視鏡画像を撮影する枚数が40コマを超え,その提示法も複雑なため,海外の医師が習得し実際の臨床において実践されるに及ばなかった.一方,欧米で提唱されているminimal required standardでは,胃内の観察部位はわずか4か所であり,早期胃癌を発見するスクリーニング検査には不十分であった.このような背景を鑑み,筆者は,本邦の代表的な内視鏡指導医や海外の内視鏡専門医と議論を重ね,国際的に受け入れられる系統的観察法としてSSS(systematic screening protocol for the stomach)を考案し2013年に報告した1).このSSSは,海外の医師にもよく受け入れられ,世界で広く実践されている.日本消化器内視鏡学会が作成した「早期胃癌の内視鏡診断ガイドライン」に加え,英国消化器病学会のガイドライン「British Society of Gastroenterology guidelines on the diagnosis and management of patients at risk of gastric adenocarcinoma」にも採用され,ステートメントにおいて強く推奨されるに至った.
SSSの概要をFig.1に示す.SSSでは,胃粘膜を系統的に観察するために,内視鏡の操作順に胃の6部位について,時計回り,または,反時計回りに4か所(小彎,前壁,大彎,後壁)もしくは3か所(前壁,小彎,後壁)の,合計22か所を撮影する方法を一覧で示している.
倍率とmagnifying ratio分解能(resolution)
内視鏡先端に固体撮像素子を装着し,得られた電気信号の画像処理を行いモニターに表示する電子内視鏡の時代になったため,拡大内視鏡の倍率と分解能について内視鏡医も知っておく必要がある.拡大倍率については,絶対的な拡大倍率という概念は存在せず,あくまで相対的な指標である.具体的には,“10mmの対象病変が,内視鏡システムのモニター上に100mmの大きさに表示されると,拡大倍率は10倍である”と表現される(Fig.1)1).モニターのサイズが倍になると拡大倍率は20倍になる.
したがって,拡大倍率は科学的には再現性に乏しい指標であるので,拡大内視鏡によりどれくらい小さいものが観察できるかを表現するには,分解能を用いることが適切である.分解能の定義は,“一定の距離でどれだけ小さい対象が明瞭に観察できるか”である.また,最大分解能の定義は,“内視鏡の最大の光学的拡大倍率を用い,焦点が合うぎりぎりに近接したときに観察できる最小の大きさ”である.
大腸拡大内視鏡像の成り立ち
病理組織学的に,正常な大腸粘膜では規則的に配列する単一管状腺が粘膜筋板直上の陰窩から垂直に伸びて開口するが,過形成性ポリープやSSL(sessile serrated lesion)では腺管が鋸歯状構造を呈し,腺腫や癌では腺管の構造異型や破壊を伴う.pit pattern診断は,このような腺管構造の違いによって異なる腺管開口部の形状から大腸上皮性腫瘍の質的診断を行う手法で,病理組織学的診断のみならず深達度診断も可能な大腸腫瘍に対する拡大内視鏡診断のゴールドスタンダードである1).同じ円柱上皮腫瘍である早期胃癌と異なり,深達度診断まで可能な理由は,腺腫〜分化型腺癌が主体であることと,酸によるびらん性変化を表層に伴わないからである.表層から深部を貫壁性に観察する超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography ; EUS)診断と異なり,拡大内視鏡観察は粘膜表層を観察しているにすぎないが,拡大内視鏡所見と病理組織学的所見を対比し,拡大内視鏡像がどのような病理組織像を反映しているのかを理解することが重要である.
NBI(narrow band imaging)観察やBLI〔blue laser(light)imaging〕観察では,照射光はヘモグロビンに強く吸収されるため,微小血管が茶褐色に強調して観察される(vessel pattern).大腸腫瘍では血管新生の亢進,血管径の増大,血管密度の増加が生じ,癌では血管径の不均一性や走行の不整,分布の乱れが生じ,浸潤癌になると血管の断片化や無血管領域がみられるようになる.血管が存在せず照射光が散乱する部分は白色に観察される(pit様構造=surface pattern).surface patternは腺管開口部と腺窩辺縁上皮を併せた部分を反映しており,pit patternに類似するが,pit patternと比較すると不整度が少し強く見えることが多い2)3).
本用語について
超拡大内視鏡(Endocytoscopy ; EC)は,超高精度のoptical biopsyの実現を目的に開発された次世代内視鏡であり,520倍の接触拡大観察により病変の生きた細胞を直接観察できる軟性内視鏡である.2018年にオリンパス社よりCF-H290ECIが発売された(CF-H290ECI).
ECの使用法は非常にシンプルで,ターゲットの病変を見つけたら,1.0%メチレンブルーで前染色し,内視鏡先端を病変に接触させ,ハンドレバーで拡大倍率を最大にするだけである.拡大内視鏡観察時に必要な細かいピント合わせは不要であり,初学者でも容易に扱える.
ダブルバルーン内視鏡
空腸,回腸は全腸5〜8mと長く,口からも肛門からも遠く,また固定されていない自由腸管であるため,通常の内視鏡では深部挿入が困難である.以前,ゾンデ法,ロープウェイ法が開発されたが実用化されず,それゆえ小腸は“暗黒大陸”と言われていた.
2001年に,Yamamotoら1)により画期的なダブルバルーン内視鏡(富士フイルム社製,Fig.1)が開発され,小腸全域へ内視鏡の挿入が容易となり,小腸領域の詳細な診断・治療が可能となった.術後再建腸管のRoux-en-Y脚への挿入も可能になったことから,従来は経皮経肝的アプローチや外科手術が必要であった胃切除後や膵頭十二指腸切除後の膵胆管病変に対しても,短軸で鉗子口径が3.2mmのバルーン内視鏡を用いて経口的アプローチで診断,治療できる時代になった.
カプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)は,小型のカプセル型の内視鏡で,被検者が嚥下し,蠕動運動により消化管を輸送される間に撮影が行われ,内部の画像を提供する機器である.本邦で保険収載されているCEは,小腸用として,① PillCamTM SB3(Medtronic社製),② ENDOCAPSULE EC-S10(オリンパス社製),③ CapsoCam Plus®(CapsoVision社製)の3種類があり,大腸用としてPillCam® COLON2(Medtronic社製)がある.
小腸CEの保険適用はもともと,“上部および下部消化管の検査を行っても原因不明の消化管出血を伴う患者”であったが,消化管の開通性を評価するためのデバイスであるPillCamTM patency capsule(Medtronic社製)が認可されて以降,PillCamTM SB3に関しては,“小腸疾患が既知または疑われる患者”ほぼすべてに適応拡大された1).そのため現在では,対象症例は小腸出血(Fig.1)のみならず,小腸の炎症性疾患や,腫瘍・ポリープなど,多岐にわたる.大腸CEの適応は大腸内視鏡検査が必要であるが,大腸ファイバースコピーの盲腸までの挿入が困難であった場合や困難が予測される場合,また,身体的負担により大腸ファイバースコピーが実施困難な場合などである2).
CTC(CT colonography)は,多列検出器型CT(multi detector-row CT ; MDCT)にて撮影を行った後に,専用ワークステーションで画像情報を多角的に解析する方法である.CTCは1996年にVining1)により初めて報告されたが,その後MDCTの開発・進歩により今日ではその時間・空間分解能が飛躍的に向上した.欧米では大腸癌のスクリーニング法として広く用いられており,本邦でも比較的低侵襲で行える新たな大腸検査法として普及してきている.CTCの目的は,①大腸癌スクリーニング検査,②内視鏡挿入困難例の代替検査,③大腸癌の術前精密検査(Fig.1),に大別される2).
一方,CTE(CT enterography)は,腸管(主に小腸)内に造影剤を満たして造影CTを撮像する方法で,Raptopoulosら3)の報告以来,主にCrohn病の腸管病変の画像診断法として欧米で用いられているが,本邦ではいまだに炎症性腸疾患専門施設でのみ行われているのが現状である.
小腸と大腸の管腔を液体により拡張させてMRIで撮像するものがMREC(MR entero-colonography)である1).小腸を対象としたものとしてMRE(MR enterography)があるが,同時に大腸管腔も拡張させることによりMRECが可能となる(Fig.1).
方法は,検査前日の就寝前にクエン酸マグネシウム(マグコロール®P)1包を内服し,検査当日は撮像1時間前から30分かけてポリエチレングリコール水溶液を1l内服する.これにより小腸に加え大腸も管腔が拡張し,管壁の詳細な評価が可能となる.Table 1のようなシークエンスで撮像する.撮像には30分以上を要する.
咽頭
咽頭は鼻腔・口腔と食道の間に位置する管状構造であり,上咽頭,中咽頭,下咽頭に区分される.上咽頭は経鼻内視鏡検査でのみ観察可能であり,経口内視鏡検査時に観察対象となるのは中咽頭,下咽頭である.
食道における拡大内視鏡観察では,NBI(narrow band imaging)やFICE(flexible spectral imaging color enhancement)といったデジタル処理を行った画像の観察により,血管走行のパターンやbackground colorationを評価することで,病変の範囲,組織型,深達度を推定する.本稿では,拡大観察で認識される血管に関連する解剖学用語を中心に解説する.食道粘膜の構造
食道粘膜は扁平上皮層,粘膜固有層,粘膜筋板から成っている(Fig.1)1).これらの組織を栄養するために血管が存在する.
表皮化(epidermization)
食道のepidermizationは,表皮化生(epidermoid metaplasia)とも称される良性の非腫瘍性病変である.食道の重層扁平上皮は皮膚と異なり,通常は角化を示さない1)〜3).epidermizationは重層扁平上皮の表層に厚い角質層を有し,角質層の下にケラトヒアリン顆粒を有する顆粒層を伴う(Fig.1a).この組織構築は皮膚表皮に類似する.epidermizationの形成には慢性炎症の関与が示唆されているが,現在のところ一定の見解は得られていない1)2).
内視鏡観察では,白色調で丈の低い扁平隆起を呈し,血管はほとんど視認できない1)2)(Fig.1b).表面は毛羽だった鱗状,あるいはほぼ平坦な性状で,境界は明瞭である2)(Fig.1c).ヨード染色は淡染〜不染を呈する2)(Fig.1d).
正常な食道上皮内の有棘細胞層内にはグリコーゲンが含まれており,ヨード染色を行うと,グリコーゲンとヨードが反応して,茶褐色に染色される.しかし,グリコーゲンを産生する食道上皮が菲薄化したり消失したりすると,ヨードの染色性は低下し,淡染〜不染帯を呈する(Fig.1).食道癌のみでなく,炎症性変化や扁平上皮の欠損などの良性疾患でも不染を呈する.つまり,ヨード不染の原因はさまざまである.
大森ら1)は,黄色であったヨード不染帯が数分後に,本来の病変の色調であるサーモンピンクを呈するようになる現象を,PC(pink color)signと命名した(Fig.2).PC signの原理に関してはいまだ不明な点があるが,異型が高度になると上皮のバリア機構が障害され染色後早期にヨードが上皮内から消失し,本来の病巣の色調であるピンクを呈するという説2)や,病変の異型性ではなく,残存した正常上皮の厚さを反映しているという意見もある.
食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma ; ESCC)の多くは発赤調であり,NBI(narrow band imaging)にてBA(brownish area)を呈する.また,NBI併用拡大内視鏡観察(NBI-ME)では,①拡張,②蛇行,③口径不同,④形状不均一,の4徴を有する異常血管が観察される.日本食道学会拡大内視鏡(JES)分類では,これら4徴のすべてを有する病態をType B,一部を有する病態をType Aに亜分類しており1),食道上皮内腫瘍(squamous intraepithelial neoplasia ; SIN)ではType A血管がみられ,ESCCではType B血管が観察される2)3).
focal atrophyは,通常内視鏡観察(白色光)で軽度発赤,NBIで淡いBA,ヨード染色にて不染帯を呈すため,ESCCとの鑑別が問題となる.focal atrophyでは,JES分類Type A,B血管は認められず,NBI-MEにて上皮直下の毛細血管網であるSECN(subepithelial capillary network)が透見される.しかし,空気量が少ないとSECNは透見されないため,NBI-ME観察時には十分に送気し,食道上皮を伸展させて観察することが重要である.
定義
brownish areaは,扁平上皮に被覆される咽頭・食道領域において,NBI(narrow band imaging)などの画像強調内視鏡を用いて観察される茶褐色を呈する粘膜領域である1)(Fig.1a).境界明瞭なbrownish areaは主に腫瘍性病変に特徴的であり,咽頭・食道表在癌の拾い上げに有用な所見である.brownish areaは引き続き行う拡大観察により視覚化される微細血管とその血管間の色調変化(background coloration)によって構成される.
metallic silver signは,ヨード染色後においてpink color signを呈する領域を画像強調内視鏡により観察すると銀色に発色して輝いて見える所見である2).pink color signに比べて病変部がより強調される.
畳目模様は,内視鏡での白色光・中遠景観察時,食道の管腔内に1〜2mm幅の狭く細かい輪状のひだが等間隔で連続した状態を指す.和式建築における畳の表面の細かい模様と所見が似ていることから神津1)により“畳目模様”と名付けられ,英語表記では“tatamime sign”である.通称“たたみの目”とも呼ばれており,臨床的には食道表在癌の深達度診断に用いる.通常観察時でも,食道内にスコープを静止させてじっと待っていると観察されることがあるが,意図的に畳目模様を出現させるのは困難である.主には食道表在癌のヨード染色後2〜3分すると癌部がピンク色に変わるpink color signを撮影する間,スコープを静止させて吸引しながら観察していると,粘膜筋板が収縮しておおよそ長軸方向に約2cm程度の範囲で年輪状に観察される.癌の浸潤が粘膜筋板に到達していない病変では,“たたみの目”の幅が等間隔で輪状に病変内を通過し,深達度が浅いことを示している.一方,癌の浸潤が粘膜筋板に達すると,収縮に硬さが出るため,輪状のひだが等間隔にならない.粘膜下層深部に達すると腫瘍の厚みのために,ひだが病変を通過しないことから,深達度が深いことを表現する場合に“たたみの目が病変内部を通過しない”(Fig.1)と表現する.空気量を抑えながら弱伸展でタイミングよく撮影するとよい.
縦走ひだは畳目模様と同様に,白色光・中遠景観察時に見られ,食道表在癌の深達度診断に用いる所見である.食道正常部では肛門側から口側にかけて食道の長軸方向に縦のひだが直線的に入るが,病変部ではその厚みのために病変を通過しない(Fig.2)場合に,癌の浸潤が粘膜下層深部に及ぶことを示唆する所見として用いる.縦走ひだは,畳目模様の観察時よりもやや空気を抜いて,食道の管腔が潰れない程度に脱気しながら,タイミングよく撮影するとよい.脱気して管腔が潰れた後に,ほんの少し送気して撮影してもよい.
ヨード染色は,食道粘膜上皮内の有棘細胞層内に存在するグリコーゲンとヨウ素が反応する化学反応を利用したものである.食道ヨード染色で,大小多数の淡染や不染がまだら模様に見える食道を,まだら食道,または多発ヨード不染帯(multiple Lugol-voiding lesion ; M-LVL)と呼ぶ.
まだら食道は,飲酒・ALDH2ヘテロ欠損型・ADH1Bホモ低活性型に強く相関し,食道癌・頭頸部癌の再発に関連することが知られている1).
Barrett食道腺癌がSCJ(squamocolumnar junction)に接して存在している場合,Barrett食道腺癌が扁平上皮下を進展していること(Barrett's cancer under the squamous epithelium ; BCUS)がある.BCUSの頻度はBarrett食道表在癌の36〜40%,SCJに接する病変に限定すると43〜90%と高頻度であるため,その内視鏡診断は重要である.しかし,BCUS部では癌が表層に露出していないため,内視鏡検査による質的および範囲診断が困難な場合がある1).
Barrett食道腺癌を覆っている扁平上皮が薄い場合は,扁平上皮下にある腺構造や血管が認識できたり,NBIやBLIなどの狭帯域観察では淡い茶色調の変化を呈したりする場合がある(Fig.1a)2).Barrett食道腺癌を覆っている扁平上皮が厚くなると,これらの所見が捉えられず,内視鏡診断が困難になる.そこで,Barrett食道腺癌と隣接する扁平上皮領域に1.5%酢酸を撒布すると,BCUSでは白い小孔や白斑,溝様の構造(small white sign ; SWS)が観察される(Fig.1b)1)2).小孔はBCUSが産生する粘液の排出機構と考えられる.白斑は排出された粘液が酢酸により変性し視認化されたもの,溝様の構造は扁平上皮下の腺構造を反映したものと考えられている(Fig.1c,d)2).これらの所見を捉えることでBCUSの進展範囲を正確に診断することが可能となる.
食道柵状血管は食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)を長軸方向に走行する静脈であり,解剖学的構造はDe Carvalho1)により1966年に報告された.粘膜下層を走行する静脈が,粘膜筋板を貫いて粘膜固有層に移動し走行した後,再び粘膜下層に戻る特徴的な構造であり(Fig.1)1),下部食道括約筋部に位置していると考えられている.そのため,「食道癌取扱い規約 第11版」2)においては“食道下部柵状血管の下端”が内視鏡検査によるEGJの基準とされ,柵状血管が判定できない場合は,欧米と同様に胃の縦走ひだの口側終末部を基準とすると記載されている.
内視鏡検査では胃内の脱気と深吸気にて食道胃接合部を食道側に移動させ,食道粘膜を送気伸展することで柵状血管の観察が可能となる.他部位の食道表面に観察される血管よりも,径が太く密度の高い血管群として認識され,柵状血管の下端がSCJ(squamo columnar junction)に接している場合,EGJとSCJが一致していると考えられる(Fig.2).
食道melanosisは,白色光通常観察では茶褐色〜黒色の平坦な色素斑として描出され,濃淡を有し,境界は一般的に不明瞭である(Fig.1a,b).病理組織学的には基底層を主座に食道粘膜上皮への黒褐色のメラニン色素沈着が特徴である1)(Fig.1c).
食道melanosisを発症する患者は,ALDH2(aldehyde dehydrogenase 2)ヘテロ欠損者の多量飲酒など,食道扁平上皮癌と共通する背景を有する.そのため,内視鏡検査時にmelanosisを発見した場合,食道癌の高危険群であることを念頭に置いて食道を観察しなくてはならない2)(Fig.1d).
T1a-EP/LPM(EP/LPM)食道扁平上皮癌を拡大観察すると,糸屑状,潰れた赤丸状,イクラ状など上皮下乳頭内血管(intra-epithelial papillary capillary loop ; IPCL)の名残りのある不整血管が認められる.浸潤巣では腫瘍塊を包み込むストレッチした多重状・不整樹枝状の異常血管が現れ,血管に乏しい領域を形成することを発見し,筆者はこれをAVA(avascular area)と命名した1).
Arimaら1)は2005年に表在型食道扁平上皮癌に対する拡大内視鏡による微細血管パターン分類で,T1a-LPM以深癌で出現する乳頭から逸脱する不整血管をtype 4と命名し,その亜分類においてちりちりとした網状の血管パターンをtype 4R(reticular)とした.癌にはbulkyな胞巣を形成する膨張性発育のみでなく,細かな胞巣でバラバラに浸潤するINFcを示すものも存在する.このtype 4R血管は分化度が低く,INFc浸潤を呈する病変や特殊組織型癌の一部を反映するとされた.また,2011年に提唱された日本食道学会拡大内視鏡分類において,ループ形成に乏しい異常血管B2の中で不規則で細かい網状(reticular ; R)血管を認める場合にRと付記することになった(Type B2-R)2).
その後の有馬ら3)の検討では,Type R血管は血管密度が低く,極めて細いちりちりした網状の形態を示すことなどから,通常観察では褪色調の領域を作る場合が多いとされるため,観察時にはこのような色調変化にも留意するのが重要と考える.
H. pylori未感染正常胃では,胃底腺領域に規則的な集合細静脈の配列像が観察される.その内視鏡像をRAC(regular arrangement of collecting venules)と言う1)2).遠景では“規則的な無数の点”として視認され,近接では“ヒトデ状の模様が整然と配列する像”として視認される1).このRAC像が胃底腺領域全体に観察される場合,RAC陽性としてH. pylori未感染正常胃と判定する1)2).RAC陽性の場合は95%の正診率でH. pylori未感染の正常胃である1)2).
前庭部優位のH. pylori感染胃炎で胃体上部に炎症が及んでいない症例では,胃体上部にRAC類似内視鏡像(偽RAC)が観察される.このような症例の誤診を防ぐため,RAC陽性か否かの判定は胃角部小彎の観察が推奨されている.また,胃体部萎縮の乏しい胃が除菌された場合,活動性炎症の消失によりRACが観察されてくる場合もある.
胃の固有粘膜は,①噴門腺,②胃底腺,③幽門腺の3つの固有腺から構成され,それぞれの境界線が腺境界と言えるが,一般的には胃底腺/幽門腺の境界を指す.しかし,組織学的には,胃底腺と幽門腺が線を境に明確に分かれてはおらず,両固有腺が混在する,幅を有する境界領域がみられる.それぞれ,肉眼的に認識可能な胃底腺領域の最肛門側ラインをF線,組織学的に認識可能な胃底腺の存在する最肛門側ラインをf線,F/f線の間の領域を中間帯と呼ぶ1).
古くは1920年代のSchindlerらによる内視鏡的胃炎の研究から,本邦では1969年に木村・竹本らにより内視鏡的萎縮移行帯の概念が提唱され,今なお臨床では広く用いられている.国際的にはUpdated Sydney systemが普及しているが,生検組織が必要であること,東アジア型以外のH. pylori(Helicobacter pylori)では萎縮を来すリスクが少なく,同分類では詳細な萎縮の範囲は規定されていないことなどから国内ではあまり普及していない.これらの状況を踏まえ,2014年には「胃炎の京都分類」が提唱され,2018年にはその改訂版が出版された.
萎縮性胃炎では,H. pyloriの感染をはじめとする化学的・物理的刺激によって,粘膜固有層への炎症細胞浸潤が慢性的に起こり,固有腺が減少・消失する.実臨床における胃炎の大半はH. pyloriに由来する萎縮性胃炎であり,萎縮は幽門腺領域より始まり胃底腺領域の小彎から口側や大彎方向へと拡大していく.萎縮粘膜と非萎縮粘膜の境界は萎縮境界線と呼ばれ,正常の胃底腺が連続性に認められる限界線をF境界線,胃底腺粘膜が巣状に出現する領域の限界線をf境界線,その間を中間帯(萎縮移行帯)と言い,内視鏡的な萎縮は主としてF境界線で判断される.f境界線より遠位の萎縮粘膜では,血管透見像や大彎のひだ消失が認められる(Fig.1).
腸上皮化生は,H. pylori慢性胃炎により胃粘膜が吸収上皮である小腸上皮の特徴を持つ粘膜に変化した状態で,分化型胃癌のリスク因子として重要である.通常観察(白色光)による腸上皮化生の典型像は,萎縮性胃炎を背景に,主に幽門前庭部に観察される灰白色扁平隆起の石畳状配列から成る所見である(Fig.1a).いわゆる横山・竹本ら1)の特異型腸上皮化生と呼称されるものであり,このような特異型腸上皮化生は萎縮性胃炎の進展に伴い胃体部にも拡がる.しかし,通常観察(白色光)のみでは組織学的腸上皮化生の診断能に限界があり,現在では画像強調内視鏡を用いた評価が推奨されている.Uedoら2)が報告したNBI併用拡大観察によるLBC(light blue crest)は腸上皮化生の刷子縁を反映し,Yaoら3)が報告したWOS(white opaque substance)は腸上皮化生が吸収した脂肪滴を反映しており,これらの所見を用いた腸上皮化生の診断が有用である.LBC,WOSについては他項も参照されたい.
鳥肌胃炎とは内視鏡検査であたかも鶏の毛をむしり取った後の皮膚のように,胃粘膜に均一な小結節状隆起が密集して認められるものを意味し,1963年に竹本ら1)は20歳の女性の胃内視鏡所見で初めて“とりはだ”という用語を用いた.この所見は幽門前庭部〜胃角部に観察されることが多いが,噴門部2)や食道胃接合部の胃側粘膜にも認められることもある.小児や若年者のH. pylori感染例ではほぼ必発する所見であるが,この所見が確認されたら若年者であっても胃体部の未分化型胃癌の合併を念頭に置く必要がある3).また,Helicobacter suis感染により発生することがある.
びらんは粘膜までの部分的組織欠損(村上分類のUl-I)を指し,潰瘍は粘膜筋板以深の欠損(村上分類のUl-II)と定義される1).胃びらんには,びらん部が陥凹として視認される陥凹型(depressive erosion,Fig.1)と周囲に発赤調隆起を伴う隆起型(raised erosion,Fig.2)がある2).後者は“たこいぼびらん”とも呼ばれH. pylori(Helicobacter pylori)未感染や除菌後の前庭部に多発することが多い.
cushion signとは,内視鏡下で鉗子を用いて病変を圧迫した際,あたかもクッションを押した際のように軟らかく凹み,圧迫を解除すると元の形態に戻る所見のことを指す(Fig.1,2)1).なお,1975年にDe BeerとShinyaによって初めて用いられた用語で,“pillow sign”とも言う2).cushion signは,特に,粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)の鑑別において有用かつ簡便に確認できる所見の一つである.cushion sign陽性であれば脂肪腫,異所性膵,リンパ管腫,囊胞など,逆にcushion sign陰性であればGIST(gastrointestinal stromal tumor)や平滑筋腫といった間葉系腫瘍,カルチノイド,癌,悪性リンパ腫などが鑑別に挙げられる.
潰瘍形成を伴う消化管腫瘍において,潰瘍辺縁に認める不整所見のない健常粘膜に覆われた幅の狭い隆起部分を耳介様周堤と呼称する.その形状が耳介の耳輪に類似していることに由来する.
一般に,耳介様周堤は分化型癌ではみられず,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)などの高悪性度リンパ腫に特徴的な所見である(Fig.1,2)1)2).しかし,低分化腺癌やリンパ球浸潤胃癌などの未分化型癌でも耳介様周堤を呈することがあるので,留意する必要がある.また,腸管Behçet病または単純性潰瘍やサイトメガロウイルス感染腸炎などでみられる打ち抜き様潰瘍でも,同様の周堤が観察されることがあるが,本用語は通常,腫瘍性病変に限定して使用される.
敷石状胃粘膜は,胃底腺粘膜に出現する粘膜変化で,粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様の多数の隆起性変化があたかも石を敷き詰めたように見えることからその名がついた1)(Fig.1).皺襞と皺襞の間に介在する粘膜を空気でよく伸展させると,周囲粘膜と同色調の顆粒状隆起の存在が観察しやすい.プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)やカリウムイオン競合型酸阻害薬(potassium-competitive acid blocker ; P-CAB)服用者に認められる胃粘膜所見である.
近年,PPIやP-CAB投与による胃底腺の形態変化が知られるようになった.これは,病理組織学的には胃底腺粘膜での壁細胞数の増加と腫大が起こると腺腔側にキザギザに突出して,内腔が拡張した胃底腺に変化する.壁細胞の過形成や空胞化による内腔の突出した状態はparietal cell protrusion,胃底腺の囊胞状拡張はoxyntic gland dilatationと呼ばれている(Fig.2).これらの組織学的な変化が胃粘膜隆起の原因と考えられている.PPIとP-CABでは酸分泌抑制の作用機序が違うが,同じような胃底腺の形態変化が起きていることから,プロトンポンプへの直接作用が関与していると推測される2).
胃の上皮性非腫瘍性隆起性病変として,腺窩上皮過形成性ポリープと胃底腺ポリープが知られている.それらのポリープ以外に2007年に川口ら1)が胃体部に白色調の扁平隆起性病変が多発してみられることを報告した.その後,Kamadaら2)が同病変を多発性白色扁平隆起(multiple white and flat elevated lesions ; MWFL)と呼称し報告した.MWFLの通常内視鏡所見の特徴は,①白色調,②丈の低い扁平隆起,③多発性,④胃穹窿部〜胃体部に局在することである(Fig.1a).NBI(narrow band imaging)でMWFLを観察すると,背景粘膜が褐色調を呈するため,白色調を呈するMWFLと背景粘膜の色調コントラストが上昇し,病変が容易に視認できる(Fig.1b).同病変のNBI併用拡大内視鏡所見の特徴は,①病変の基部に明瞭なdemarcation lineを認めること,②病変表層の微小血管構築像を視認できないこと,③個々の腺窩辺縁上皮(marginal crypt epithelium ; MCE)の形態は楕円形であり形状が均一であること,④ MCEの幅が広いこと,⑤窩間部の幅はやや広く焦げ茶色を呈することが挙げられる3)(Fig.1c).MWFLの病理組織学的特徴としては,腺窩上皮の過形成性変化を認めることが挙げられる(Fig.2).MWFLの背景粘膜の病理組織学的特徴は,①胃壁細胞の内腔突出,②胃底腺の拡張である3).
伸展不良とは,消化管内腔に空気やバリウムを十分に入れて膨らましても,全体的,部分的,両側性,片側性に伸展が悪くなった状態を表現する用語である.胃を例にとると,内視鏡検査では空気で,X線造影検査ではバリウム充満像,あるいは二重造影像で,胃壁を十分に伸展させるも,胃壁の硬化などによって伸展が悪くなった状態を表現する.胃内腔の伸展が不良な場合,胃体部のひだ間の伸展不良(Fig.1a〜c)が認められ,正常な胃と比較して胃形のバランスが悪い(Fig.1c)場合には,胃壁のびまん性硬化があると判定する.癌であれば粘膜下層以深に浸潤したスキルス胃癌をまず疑うが,スキルス胃癌であれば,通常,原発巣となる陥凹性変化が認められることが多く,生検で未分化型癌が認められる(Fig.1d).原発巣が不明瞭で生検で癌を認めない例もあり,注意が必要である.一方,広範な線維化を来すような特殊な病態や漿膜側の炎症後の癒着や他臓器癌の漿膜浸潤,感染症など,伸展不良を来す疾患は多い1).
台状挙上所見とは,早期胃癌において“内視鏡的に胃壁を強く伸展させたときに認められる,粘膜下層(SM)深部浸潤部に向かって周囲粘膜が挙上する現象”と定義され,T1b2(SM≧500μm)に特異的な伸展不良所見であると報告されている1)〜4).
胃粘膜の拡大内視鏡所見は,微小血管構築像〔microvascular(MV)pattern〕と表面微細構造〔microsurface(MS)pattern〕から成り立っている.正常胃粘膜の拡大内視鏡所見は,部位(胃底腺粘膜と胃幽門腺粘膜)により大きく異なるので,それぞれについて解説する.なお,狭帯域光観察(narrow-band imaging ; NBI)を併用した拡大内視鏡観察では,ごく表層の解剖学的所見しか視覚化されないので,粘膜表層の腺窩までの深さの解剖学構造について言及する.
拡大内視鏡観察により,病変の周囲の規則的な微小血管構築像〔microvascular(MV)〕patternまたは表面微細構造〔microsurface(MS)〕patternが消失した明瞭な境界線をDL(demarcation line)と定義する1)〜3).もしくは,DLの内側と外側で,MV patternまたはMS patternが急峻に変化し,境界線として認識される場合のみをDLありと定義する3).
胃拡大内視鏡による微小血管構築像〔microvascular(MV)pattern〕の評価に用いる指標は,以下の通りである1).
①上皮下毛細血管(subepithelial capillary ; SEC)
②集合細静脈(collecting venule ; CV)
③微小血管(microvessel ; MV)
胃の内視鏡拡大観察による表面微細構造〔microsurface(MS)pattern〕の評価に用いる指標は,以下の通りである.
①腺窩辺縁上皮(marginal crypt epithelium ; MCE)
②腺開口部(crypt opening ; CO)
③窩間部(intervening part ; IP)
④白色不透明物質(white opaque substance ; WOS)
⑤LBC(light blue crest)
VEC patternの定義
VEC(vessels within epithelial circle)pattern(円形上皮内血管パターン)とは,NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡観察において,正円形の腺窩辺縁上皮(marginal crypt epithelium ; MCE)で囲まれた円形の窩間部上皮下に血管が存在する所見と定義される1)(Fig.1).
NBIにより視覚化される正円形の上皮は,病理組織学的に乳頭状の構造を縁取る腺窩上皮に対応し,円形上皮内の微小血管は,病理組織学的に上皮下の間質に増生した血管に対応している(Fig.2)2).
白色球状外観(white globe appearance ; WGA)の定義は,“NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡観察中に認める,上皮直下に存在する小さな(1mm以下の)白色球状外観”である1).“上皮直下”とは上皮内の微小血管下に存在することを意味し,“球状”であることは中心から辺縁に向かって白さが乏しくなることから類推できる(Fig.1).NBI併用拡大内視鏡の拡大倍率は問わないが,最大倍率のほうが判定しやすい.
胃の腸上皮化生は,H. pylori(Helicobacter pylori)の慢性感染によって胃粘膜が腸の形質を持つ粘膜に変化する現象で,胃癌の高リスク所見である.NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡で胃の腸上皮化生をみると,上皮の辺縁(表面)に青白色の光の線を認める(Fig.1a).これがLBC(light blue crest)であり,“上皮の表層を縁取る青白い線”と定義されている1).病理組織学的な腸上皮化生の診断に有用である(感度89%,特異度93%).
消化管粘膜の腺上皮や上皮性病変を拡大観察した際に,上皮下の微小血管構築像の視覚化を妨げる表層の上皮に存在する白色の物質を白色不透明物質(white opaque substance ; WOS)と呼称する.WOSの存在は,筆者ら1)により世界に先駆けて報告されたが,報告時はその正体や成り立ちは不明であった.その後の研究により,WOSが存在する上皮内に微小な脂肪滴が集積していることが明らかになった2).すなわち,WOSの成り立ちは,腸型の形質を獲得した腸上皮化生・胃上皮性腫瘍の上皮内に貯留した脂肪滴が,投射光を強く多重散乱・反射し,上皮下の血管を不透明にした結果,観察された現象である.投射光の強散乱や反射は人間の目に白色として認識され,投射光が上皮下の微小血管まで到達しないため,上皮下微小血管を不透明にする白色物質となりうることが判明した2).
白色絨毛(white villi)とは,通常内視鏡観察時に十二指腸や小腸に観察されるびまん性あるいはひだ主体の淡い白色調粘膜である.関連用語として,明瞭で微小な白点の集簇を呈する撒布状白点(scattered white spots)が知られており,これらはいずれも腸に吸収された食事性脂肪の転送障害を反映している.両者の違いとして,白色絨毛は脂肪の中心乳び管への転送障害に由来する一方,撒布状白点は中心乳び管からさらに中枢側への転送障害が要因であるとされている1).
伸展不良とは,元来,胃X線検査で胃を膨らませても胃壁の伸展が悪い状態を指す用語であったが,のちに注腸X線造影検査や内視鏡検査にも同様の所見を示す用語として応用されるようになった1)2).粘膜下層の中等度以上に浸潤した癌でよくみられるが,壁伸展の強弱はあるものの,癌以外に炎症性疾患,悪性リンパ腫,転移性腫瘍,壁外からの炎症や腫瘍の浸潤などでもみられる.
大腸腫瘍の周囲に白色調の点状所見を認めることがあり(Fig.1),白斑(white spots)と呼ばれている.白斑の正体は粘液を貪食したマクロファージであり,粘膜表層のみならず粘膜深部にまで存在することがある1).進行大腸癌やSM癌の周囲粘膜に観察されることが多いが,腺腫の周囲に認めることもある(Fig.2).
Crohn病(Crohn's disease ; CD)で認める縦走潰瘍は,基本的には4〜5cm以上の長さを有する腸管の長軸に沿った潰瘍である.cobblestone appearanceと同様にCDにおける特徴的な形態学的所見であり,本邦のCD診断基準で主要所見の一つとされている1).潰瘍辺縁の介在粘膜には炎症を認めない,いわゆるdiscrete ulcerで(Fig.1,2),小腸では腸間膜付着側に(Fig.3),大腸では結腸紐に沿って数条認める傾向がある.
CDに典型的な縦走潰瘍を認めれば,CDの確定診断が可能であるが,他の疾患の除外が必要である.虚血性腸病変では縦走潰瘍を高頻度に認めるが,発症や臨床経過が異なることや急性期における縦走潰瘍の周囲には高度の発赤と浮腫性変化を認めることが多い.潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)でも虚血やサイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染などを合併すると縦走潰瘍を認めることがあるが,その周辺粘膜はUCに特徴的な炎症像を呈する.
cobblestone appearance(敷石像,敷石様外観)は,縦走潰瘍とその周辺小潰瘍間の大小不同の密集した粘膜隆起を指し,その名称の由来は石を敷き詰めた西欧の道の表面形状に由来する.現在の敷石は,人工的に加工された長方形の石が用いられるが,従来は古い丸みを帯びた自然の石(玉石)が使用されていた.よって,玉石様外観とも呼ばれる.小腸や大腸のcobblestone appearanceは,Crohn病(Crohn's disease ; CD)に特徴的な形態学的所見である.本邦のCD診断基準では,縦走潰瘍とともに主要所見の一つとして挙げられており,他の疾患が除外できればcobblestone appearanceの存在のみでCDと確定診断することが可能な特異的な所見である1)(Fig.1).縦横に不規則に走行する潰瘍によって囲まれた残存粘膜が,不均一に島状に膨隆し集合することが成因であるため,一般に個々の敷石は不均一で大小不同である.局所の炎症が高度な時期にみられ,治療により軽快ないし消退する.小腸より大腸で頻度が高い所見で,上行結腸や下行結腸で典型像を認めることが多い(Fig.2).fissuring ulcerを伴う高度のcobblestone appearanceは難治化要因であり,内科治療に抵抗して,狭窄や瘻孔を合併することもある.高度もしくは広範囲のcobblestone appearanceを認める症例では,抗TNFα抗体など有効な治療を早期に行う必要がある.
輪状潰瘍(annular ulcer,circular ulcer)は腸管の短軸方向に走行する潰瘍を言う.周在性については,明確には定義されていないが,典型的には全周性の病変を指す.長軸方向に潰瘍の幅が広くなると帯状潰瘍(girdle ulcer)と呼ばれる.輪状潰瘍は求心性の狭窄を合併することがあり,輪状狭窄と表現される.
小腸ないし大腸に輪状潰瘍を呈する疾患として,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)起因性小腸病変/大腸病変,非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene ; CEAS),腸結核がよく知られている1).NSAIDs起因性腸病変は輪状潰瘍を呈することがあり,小腸では輪状ひだの頂部,大腸においては右側結腸の半月ひだの頂部に一致した境界明瞭で連続性のある浅い潰瘍を認める2)(Fig.1),周囲の背景粘膜にひだ集中や炎症性ポリープを認めない.
萎縮瘢痕帯は1977年に白壁ら1)が“潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯”と呼んだ表現を縮めた用語で,腸結核に特徴的かつ特異性の高い所見である.腸結核の病変が線状・帯状に配列し,慢性疾患でありながらも易治癒性を示すことを反映している.正常の大腸粘膜が区域性に荒廃し,内部に多数の瘢痕,腸結核に特徴的な潰瘍や炎症性ポリープなどの病変を有する.
X線造影所見(Fig.1)では区域性に正常の大腸構造であるfine network patternが消失した粗糙粘膜で,大腸ではhaustra,小腸ではKerckring皺襞の部分的消退,変形,消失を認め,ひだは一部が残存していることが多いとされている2).また,内部に多発する潰瘍瘢痕,炎症性ポリープや偽憩室などで構成された区域性の病変を有する.
偽膜とは,黄白色の扁平あるいは半球状の低い隆起であり,病理学的にはフィブリン,粘膜,好中球,上皮残渣,壊死物質などの炎症性物質が粘膜表面に付着し限局性隆起を来したものである.偽膜性腸炎は,もともとは偽膜形成を特徴とする腸炎に対して付けられた形態的な病名であり,1950年代には,黄色ブドウ球菌の異常増殖によるものと考えられていた.しかし,1979年にその原因のほとんどがC. difficile(Clostridioides difficile)であることが判明した1).偽膜性腸炎には,厳密にはC. difficile以外の原因も存在するが,本邦ではC. difficile感染症(C. difficile infection ; CDI)が原因のものを指す.偽膜性腸炎(偽膜型)はCDIの重症型であり,非偽膜型はCDIの軽症型である.偽膜性腸炎の偽膜の病理組織像は,陰窩間の粘膜表面から炎症性滲出物が噴出しているような所見を示す2)(Fig.1).偽膜直下の粘膜表層部は凝固壊死を示す.その下方に残存する腺管は拡張し,その中に多量の粘液,好中球,脱落上皮細胞を含有するが,病変部の潰瘍化は認めない.
アフタ(aphtha)は,Dorlandの図解医学辞典(第33版)1)によると,“a small ulcer, such as the round lesion with a grayish exudate surrounded by a red halo characteristic of recurrent aphthous stomatitis”と定義されている.つまり,アフタとは小潰瘍であることが明記されている.一方,アフタ様潰瘍(aphthoid ulcer)は消化器病学,特に診断学でよく使われる用語であるが,必ずしも定義がはっきりしていない.そもそも前述のようにアフタという用語自体が潰瘍を意味するのであれば,“アフタ様潰瘍”という用語は再考の余地があると思われる2).
腸病変においてアフタという用語が使用され始めたのは,1976年に吉川ら3)が大腸内視鏡検査で口内のアフタ(aphtha)に似た病変が大腸粘膜にびまん性に多発している症例を“アフタ様大腸炎”と報告したことを嚆矢とする.ここでは小びらんが“アフタ様”であるとされた.その後,Crohn病(Crohn's disease ; CD)の初期病変としてアフタ様病変が着目され始めたのを皮切りに,諸家により盛んに“アフタ”という用語が用いられ始めたが,紅暈の有無や粘膜欠損の有無,粘膜欠損の大きさなどに関し統一された定義はなく,さらにアフタ様びらん,アフタ様潰瘍なる所見用語も存在し,アフタという用語の定義は一定していない.いずれ学会などで用語の定義を統一する必要があるが,以下においては,便宜上,アフタ,アフタ様潰瘍,アフタ様びらんは,ほぼ同じ所見を指し示すものとして一括して“アフタ様病変”と呼称し,その定義は,単なるびらんや潰瘍と区別するために“しばしば紅暈を伴う5mm以下の小潰瘍またはびらん”とする.
表在型咽頭癌は扁平上皮癌であり,内視鏡像は表在型食道癌に類似する.表在型咽頭癌を効率よく発見するためには高リスクの症例を適切に拾い上げることが重要である.また,咽頭・喉頭領域は解剖学的に複雑であり,定点的な内視鏡観察が重要である.
筆者らの高リスク患者に対する撮影方法は以下の通りである.まずは口腔底から舌の撮影をする.この際,撮影しづらいためマウスピースは使用しない.患者に舌を丸めるように指示し,口腔底を撮影する.そして,左右の頰部に舌先端を付けるように指示し,左右の舌縁を観察する.次いで,マウスピースを噛んでもらい硬口蓋から観察する.軟口蓋,口蓋垂,左右の口蓋弓を撮影する.そして,中咽頭後壁,左右の側壁,下咽頭正中および左右の梨状陥凹を撮影し,喉頭蓋谷を観察する.咽頭観察の際は,“イー”と発声してもらうと,声帯が狭まり梨状陥凹が拡がるため観察がしやすくなる.そして,最後にValsalva法1)を行い,下咽頭後壁から輪状後部の観察をする(Fig.1).発声やValsalva法など患者の協力が必要となることが多いため鎮静薬を使用するのではなく,塩酸ペチジンのような鎮痛薬を使用して観察する.
疾患の概要
「食道癌取扱い規約 第11版」1)によると,食道における早期癌の定義は“原発巣の壁深達度が粘膜内にとどまる食道癌”とされ,表在癌は“癌腫の壁深達度が粘膜下層までにとどまるもの”とされる.いずれもリンパ節転移の有無は問わない.この分類は扁平上皮癌においても,腺癌においても用いられており,癌の組織型によらない.
“特殊型食道癌”という用語は,「食道癌取扱い規約 第11版」では言及されておらず,通称として使用されている.本用語は,扁平上皮癌を除く上皮性悪性腫瘍,非上皮性悪性腫瘍を含めて広義の特殊型として使用されることもあるが,通常は扁平上皮癌を除く上皮性悪性腫瘍に対して使用されてきた.しかし,Barrett食道癌を含む食道腺癌が約7%を占めその割合は年々増加しており1),これらの背景から扁平上皮癌,腺癌を除く食道上皮性悪性腫瘍をまとめて特殊型食道癌とするのが妥当と推測される.
概要
食道悪性黒色腫は,食道扁平上皮基底部から間質境界部に存在するメラノサイトに由来する悪性腫瘍である.悪性腫瘍の中では特殊組織型に分類され,全食道原発性悪性腫瘍の中で0.2〜0.3%の頻度であるまれな疾患である1)2).本邦報告例の集計では,占居部位は中部〜下部食道が約75%,性比は約2〜3:1で男性に多く,平均発症年齢は61〜65歳程度である2)3).診断時の深達度は表在型52%,進行型48%であり,転移状況はリンパ節転移率63%,遠隔転移率19%程度と報告されている3).また,剖検例での転移状況については,リンパ節82%,肝72%,肺69%,腹膜45%,骨髄41%と集計されている2).進行型では主病巣に伴う嚥下時の違和感など有症状で発見されることが多く,発見時には既に転移を認めることも多い.早期病変は一般的に内視鏡検査で粘膜色素沈着を有する平坦病変で発見され,多くは無症状である.
Barrett食道とは食道扁平上皮が円柱上皮に置換された状態であり,多くの欧米諸国では円柱上皮内に特殊円柱上皮(specialized columnar epithelium ; SCE)を有することを必須条件としているが,本邦では必ずしもその存在を必要としない1).その発生は繰り返す胃内容物の逆流によるとの説が有力であるが先天性説もある.近年,逆流性食道炎症例が増加傾向にある本邦でもBarrett食道症例は増加傾向にあり,食道腺癌の発生母地として注目されている.Barrett食道は長さによりSSBE(short segment Barrett's esophagus)とLSBE(long segment Barrett's esophagus)に分類される.以前は全周3cm以上の場合のみLSBEと定義されていたが,近年では最大長3cm以上をLSBEとすることが一般的である.Fig.1に提示した症例は全周部分の長さ(C)1cmであるが最大長(M)は5cm以上であり,LSBEという扱いになる.
Barrett食道の内視鏡診断は食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)の診断がポイントとなり,このEGJ線と扁平上皮境界線までの領域に円柱上皮を認める場合がBarrett食道である.本邦では食道下部柵状血管の下端をEGJとすることが多いが,国際的には胃の縦走ひだ上端がEGJと定義されている.しかしながら,EGJの内視鏡診断は容易でないことも多く,以前より内視鏡医間での診断一致性に問題が指摘されている2).Fig.2に大きな裂孔ヘルニアを有する症例を提示するが,適切な空気量で観察できないため,EGJを示す胃の縦走ひだ上端と食道下部柵状血管下端の位置が乖離している.また,症例によっては扁平上皮島の存在がBarrett食道診断の一助となることがある.
食道腺癌は本邦ではいまだ少ないものの微増傾向にある.LSBE(long-segment Barrett's esophagus)由来のBarrett食道腺癌が多くを占める欧米とは異なり,本邦ではSSBE(short-segment Barrett's esophagus)由来のBarrett食道腺癌が多い.
SSBE由来Barrett食道腺癌は,扁平上皮円柱上皮境界直下の前壁〜右壁に発生し,隆起単純型を呈し,分化型腺癌であることが多い1).範囲診断には特にNBI併用拡大内視鏡観察が有用とされ,日本食道学会拡大内視鏡分類が用いられている.通常観察,NBI観察で病変の全体像を確認し(Fig.1a,b),その後弱拡大像で粘膜パターンを観察する.形状不均一,大小不同,配列の不規則性が認められれば腫瘍と診断する(Fig.1c).粘膜パターンが視認できない場合でも強拡大像で血管パターンを確認し,形状不均一,口径不同などの所見が認められたら腫瘍と診断する(Fig.1d).また,扁平上皮円柱上皮境界に接する病変では扁平上皮下に癌が進展していることが多く,これに対する診断が重要とされている2).
SSBE(short-segment Barrett's esophagus)に由来の腺癌は0〜3時方向に好発するのに対し,LSBE(long-segment Barrett's esophagus)に発生する腺癌はどの方向にも発生し,多発することが多い.また,0-IIb型進展も多く,側方進展範囲診断が難しい.筆者らの検討では,通常観察(白色光)での側方進展範囲診断の正診率はSSBE群で56%,LSBE群で7%と有意差を認めた.この原因として,主肉眼型が0-IIb型であった症例の割合がSSBE群では15%であったのに対して,LSBE群では40%と多かったこと,および0-IIb型または0-IIb型を合併した割合がSSBE群では51%であったのに対して,LSBE群では89%と,LSBE群では0-IIb型合併率がより高いことが挙げられた.一方,拡大内視鏡による側方進展範囲診断はSSBE群で96%,LSBEで100%と差はなく,拡大内視鏡検査の有用性が示唆された1).
通常観察(白色光)ではまず発赤に,NBI(narrow band imaging)観察ではBA(brownish area)に着目して病変を拾い上げる.その後,日本食道学会拡大内視鏡(JES-BE)分類2)3)を用いてNBI拡大観察を行う.弱拡大観察にて表面構造(pit,non-pit)の整・不整を観察し,整の場合は非腫瘍と診断する.表面構造が不整およびuncertain(表面構造が確認できない)の場合はさらに拡大率を上げて血管構造(net,non-net)の整・不整の判断を行う.整の場合は非腫瘍,不整の場合は腫瘍と診断する.
食道胃接合部癌の定義は本邦と欧米で異なる.欧米ではSiewert分類を用いて,“食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)から食道側1cm,胃側2cm以内に癌の中心がある腺癌”,つまりType II(true cardia cancer)を狭義の食道胃接合部癌としている.一方,本邦では西分類に従い,“病理組織型にかかわらず,EGJの上下2cm以内に癌腫の中心があるものを食道胃接合部癌”と,食道癌取扱い規約で定義されている(Fig.1)1).すなわち,食道胃接合部癌には,Barrett食道腺癌,胃噴門部癌,非Barrett食道腺癌,食道扁平上皮癌などが含まれる.かつては本邦で比較的まれとされた食道胃接合部癌だが,近年はH. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下や食生活の欧米化に伴い,緩徐に増加傾向にある2).
食道verrucous carcinomaは扁平上皮癌の一亜型とされるまれな疾患である.発育が緩徐で特徴的な形態を示すが,病理組織学的には高分化で異型が乏しい点などから生検での確定診断が困難で,食道カンジダ症や炎症などの良性疾患と誤診され,長期間にわたり経過観察されてしまうことも少なくない.まずこの病態を認識しているか否かが正しい診断への重要なポイントとなる.
初発症状は嚥下障害が多く,既往にアカラシア,逆流性食道炎などを有する症例もある.半数以上は当初良性疾患と診断され,多くは5cm以上とかなり大きくなった段階でverrucous carcinomaと診断されている1).
食道悪性リンパ腫の発生頻度は極めてまれで1%未満である1).リンパ腫は一般的にリンパ網内系の豊富な部位に発生しやすいが,正常な食道壁は他の消化管に比較し,リンパ濾胞などのリンパ網内系組織が少ないことが知られており,このことが食道に悪性リンパ腫が少ない原因の一つと考えられる.
食道悪性リンパ腫のうち,MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫は低悪性度B細胞性リンパ腫で,粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起,巨木様隆起を呈し軟らかいことが特徴である.確定診断には生検が有用だが,粘膜下層から組織を採取する必要があり,時にボーリング生検を要する.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)である潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)とCrohn病(Crohn's disease ; CD)は上部消化管病変を合併することはあるものの,胃・十二指腸病変と比べ食道病変は頻度が低い.
CDでの食道病変の合併頻度に関しては5%前後との報告が多いが,小児例では18%との報告もある1)2).症状としては,嚥下困難,嚥下痛,胸痛を認めることが多いが,無症状のこともある.好発部位は胸部中下部食道であり,内視鏡所見は,散在性や縦列傾向のアフタや小潰瘍の報告が多い(Fig.1).重症例では,縦走潰瘍や敷石像外観,さらに狭窄や瘻孔を来した報告もあるがまれである2)3).病変部の生検により非乾酪性肉芽腫が検出される割合は,高い報告で25%程度である1).
食道の感染性炎症性疾患として,単純ヘルペス(herpes simplex virus ; HSV)食道炎,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)食道炎,食道カンジダ症などが代表的である.
HSV食道炎は,三叉神経の神経細胞に潜伏感染しているHSVが,免疫抑制状態において再活性化し,唾液中に排泄されて食道粘膜に感染し,発症すると考えられている.内視鏡像は経時的に変化する.HSVが食道上皮に感染すると,上皮細胞の結合性が消失し,水疱が形成される.水疱が破裂すると浅い小潰瘍となる(Fig.1).境界明瞭で辺縁隆起がやや目立つ特徴的な形態の潰瘍で,volcano ulcersと称される1).小潰瘍が癒合すると帯状/地図状の潰瘍を形成する.時相の異なる病変が同時に存在することもHSV食道炎の特徴である2).胸部食道に多く,口腔や咽頭に病変を併存する場合もある.
好酸球の消化管局所への異常集積によって組織が傷害されて機能不全を起こす疾患群は好酸球性消化管疾患と称され,部位により好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis ; EoE),胃炎(eosinophilic gastritis ; EG),胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis ; EGE),大腸炎(eosinophilic colitis ; EC)に大別される.
これらのうち,EoEは,病因は明らかになっていないが,アレルギー反応により食道へ好酸球が浸潤して慢性炎症を起こし,食道運動障害や食道狭窄を来す疾患と考えられており,男性に多い.本邦における健診内視鏡検査での有病率は0.4%で,上昇傾向にある可能性が指摘されている.本邦では厚生労働省研究班より診断基準が示されており,食道機能障害に起因する症状と,食道粘膜の生検で上皮内に好酸球数15以上/HPF(high-power filed)が必須所見とされている1).
転移性食道腫瘍は,その転移経路としてリンパ行性・血行性・播種性転移と直接浸潤が考えられる.食道癌や胃癌の食道壁内転移の頻度が高く,食道癌壁内転移について「食道癌取扱い規約 第11版」1)では“原発巣より明らかに離れた食道または胃の壁内に転移病巣を認める場合”と定義されている.その機序は,粘膜下層に浸潤した癌細胞がリンパ流を介し,リンパ行性壁内転移を生じると考えられる.食道癌の壁内転移については多くの報告があり,単発は約50%で複数の転移病巣を認める傾向がある2).
形態学的には,リンパ行性に進展するため,粘膜下腫瘍様隆起を形成して原発巣と同列で数珠状に縦列する傾向があることが特徴である(Fig.1).腫瘍細胞が上皮下増殖を主体に存在するため硬さを有し,一般的に隆起頂部の非腫瘍性扁平上皮は圧迫され菲薄化することがある.この場合,ヨード染色では隆起頂部の扁平上皮は淡染を示し,頂部は軽度陥凹を呈する.また,食道壁内転移巣は主病巣と類似した病理組織像を呈する.なお,壁内転移はリンパ管侵襲が強く予後不良因子と言われている.
食道黄色腫(esophageal xanthoma)は1984年にRemmeleら1)が初めて報告した疾患である.“xanthelasma”は同義であるが,“xanth-”はギリシア語由来で“黄色”を意味する.有馬ら2)は,内視鏡検査施行中の遭遇頻度は0.46%であったと報告しており,胃と比べると非常にまれである.病因は明らかとなっていないが,飲酒や喫煙,放射線治療などのさまざまな食道への刺激との関連が疑われている.
皮脂腺は毛包上部や表皮,粘膜に開口し,皮脂を産生する外分泌腺である.口腔,口唇,陰部など外胚葉系臓器に,時に異所性に存在するが,内胚葉系である食道にもまれにみられる1).発生機序として,外胚葉系組織の先天的迷入説と後天的化生性変化説が考えられているが,いまだ解明されていない.男性に多く,胸部中部食道に好発し,多発例が多い2).また,無症状であることが多い.悪性化の報告はなく,治療は不要である.
内視鏡所見では,多発する黄白色調の扁平隆起として観察される.5mm以下の花弁状・偽足状の小扁平隆起や顆粒状隆起の集簇を呈する(Fig.1).近接すると,皮脂腺導管部分が棘状の白色突起として認められる.NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡所見では,白色突起を取り囲むように横走する微小血管が観察される.微小血管には異型を認めない(Fig.2).
Zenker憩室
Zenker憩室は咽頭—食道移行部に生じる圧出性の仮性憩室であり,輪状咽頭筋と下咽頭収縮筋の間の解剖学的に脆弱なKillian's triangleに形成される(Fig.1).そのため病理組織学的には筋層を欠く.発症率が2/100,000人・年,罹患率が0.01〜0.11%の希少疾患であり,70〜80歳代の高齢者や男性に多いこと,欧米と比較しアジアでは少ないことなどが疫学的特徴である1).
上部食道括約筋の弛緩が不十分になることや憩室そのものが頸部食道を圧迫することにより嚥下困難などの症状が引き起こされる.有症状例は治療対象となるが,低侵襲な治療法が求められる疾患の特徴および近年の内視鏡機器・技術の発展から,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)のデバイスを用いた経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy ; POEM)の技術を応用したD-POEM(diverticular-POEM)が開発され,欧州ではこれらの内視鏡治療が第一選択と考えられている2).
日本食道学会の「食道アカラシア取扱い規約 第4版」1)では,アカラシアを“下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害”と定義し,症状として“嚥下困難,口腔内逆流,胸痛,体重減少,夜間咳嗽など”が挙げられている.また,食道X線造影像により直線型(straight type ; St型),シグモイド型(sigmoid type ; Sg型)に亜分類され,最大食道横径によりその拡張度をGrade I(d<3.5cm),Grade II(3.5≦d<6.0cm),Grade III(6.0cm≦d)に分類している1).
以上が本邦の分類だが,国際的には高解像度食道内圧検査(high resolution manometry ; HRM)をもとにしたChicago分類ver.4が用いられる2).詳細は成書を参照されたいが,HRMの解析において最も重要な事項は一次蠕動波の有無および下部食道括約筋(lower esophageal sphincter ; LES)の弛緩の程度を示すIRP(integrated relaxation pressure)である.一次蠕動波が消失し,IRPが高値(LES弛緩不全)を示すとアカラシアと診断される.アカラシア関連疾患として,胸部食道に強度の異常収縮を来すhypercontractile esophagus(jackhammer esophagus)が挙げられる.
薬剤起因性食道炎は,薬剤性の食道粘膜傷害であり,主に原因薬剤の食道内停滞による粘膜への直接作用によって生じる.また,患者側の要因として,服用時の体位,服薬方法,食道の狭窄,食道の運動機能異常など,薬剤が食道内に長時間停滞する状況が挙げられる.
薬剤起因性食道炎は,古くから知られており,テトラサイクリン系に代表される抗菌薬やカリウム製剤,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs),低用量アスピリン,鉄剤,抗癌薬,ビスホスホネート薬など多種薬剤による報告がなされている1).近年では直接作用型経口抗凝固薬として使用頻度が増加しているダビガトランによる報告例も散見されるようになった2).
食道には粘膜固有層にある食道噴門腺(Fig.1)と,腺終末部(腺房)が粘膜下層にあって導管を介して食道内腔とつながる固有食道腺がある1)〜3).
食道噴門腺は胃の噴門腺類似の構造であり1)3),一施設内での全食道標本や剖検検体を検討した既報では1〜16%に食道噴門腺を認めたと報告されている3).
粘膜下異所性胃腺とは本来胃粘膜固有層内に存在する胃腺組織が異所性に胃粘膜下に認められるものである.本邦における粘膜下異所性胃腺の頻度は切除胃の2.3〜10.7%と報告されている1)2).
本用語はKatzら1),Sunら2)が提唱した用語とされている.一般的には胃前庭部を中心に急性発症する粘膜障害のことを指し,粘膜に存在することから深度はびらん/潰瘍の別を問わない.また,多発することがほどんどである.緊急内視鏡検査が一般化したことで生まれた疾患概念とも言えよう.
急激な上腹部痛/心窩部痛や,吐き気/嘔吐,時には吐下血を主訴とし,急性腹症として外来を受診する場合が多い.検査のタイミングにもよるが,緊急内視鏡検査など急性期に観察することでさまざまな所見の確認から診断される臨床的概念と言えよう.
定義/概念
薬剤性消化管粘膜障害は非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)やアスピリン,近年ではプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)や漢方薬,抗癌薬,免疫チェックポイント阻害薬などで誘発される.中でも,NSAIDsのそれは古くから知られており,NSAIDs とは,ステロイド薬を除いた抗炎症作用を持つ薬物群の名称である.アスピリン(low-dose aspirin ; LDA)はカルボン酸系のNSAIDsに属するが,血管性疾患の予防治療薬として近年その使用頻度が増加している.NSAIDsはプロスタグランジン合成酵素であるCOX(cyclooxygenase)の阻害により抗炎症作用,鎮痛・解熱作用,抗血栓作用を有する.その一方で,副作用としての消化管粘膜障害には注意が必要で,消化管出血などの合併症予防は重要な課題である.
ところが,本疾患は自覚症状に乏しいのが特徴であり,約半数は痛みや食欲不振などを認めず吐下血で突然発症する.潰瘍既往歴がある患者や高齢者ほど発症頻度は顕著である.
2013年にH. pylori胃炎に対する除菌治療が保険適用となり,胃内視鏡検査においては悪性腫瘍などの早期発見に加えてH. pylori胃炎の有無を的確に診断する役割がでてきた.2014年に発表された「胃炎の京都分類」1)は特徴的な19の内視鏡所見からH. pylori感染を未感染,現感染,除菌後を含む既感染に分類し,その組織学的胃炎の診断までを可能とした胃炎分類である.
H. pylori現感染の胃粘膜では,活動性胃炎の所見であるびまん性発赤,粘膜腫脹や白濁粘液を基盤として,これに加えて慢性所見として出現頻度の高い萎縮,その他に皺襞異常(腫大・蛇行・消失),腸上皮化生,鳥肌,黄色腫,腺窩上皮過形成性ポリープなどの所見が観察されることがある2)(Fig.1〜3).病理組織学的にはリンパ球浸潤とともに好中球浸潤がみられ,慢性変化に伴う固有胃腺の萎縮や腸上皮化生を伴う,すなわち慢性活動性胃炎の状態である.
自己免疫性胃炎とは何らかの自己免疫異常に伴い壁細胞が破壊・消失し,この過程においてプロトンポンプ(H+/K+-ATPase)に対する自己抗体(抗胃壁細胞抗体)が産生される特殊型胃炎である.1973年にStricklandとMackay1)により提唱された.抗胃壁細胞抗体に加え,抗内因子抗体が産生されるため,内因子の分泌低下によりビタミンB12吸収障害を来し,晩期には悪性貧血や亜急性連合性脊髄変性症を発症することがある.また,胃癌や胃神経内分泌腫瘍の発生リスクが高いこと,甲状腺疾患などの自己免疫性多内分泌腺症候群を合併しやすいことなどが知られており,本疾患の診断後も慎重な経過観察が必要となる.
胃腺腫は,本邦の胃癌取扱い規約において“境界明瞭な良性上皮性病変で,管状構造が主体の上皮内非浸潤性腫瘍”と定義され,さらに,腸型腺腫と胃型腺腫に分類される1).ただし,WHO(World Health Organization)分類では定義が異なるため注意が必要であり,本稿では本邦の規約分類における腸型腺腫について記載する.腸型腺腫は,内視鏡診断ならびに病理組織学的診断において,高分化腺癌と厳密な鑑別が困難な症例も多く,内視鏡治療の適応病変とするかは施設により異なるのが現状である.
分類
胃癌取扱い規約では胃腺腫は腸型腺腫と胃型腺腫に分類されており,胃型腺腫は幽門腺腺腫(pyloric gland adenoma)を指す.一方,WHO分類では胃型上皮分化を示す腺腫として幽門腺腺腫に加え,foveolar-type adenoma,oxyntic gland adenomaが挙げられ,“胃型腺腫”の用語が示す病変に違いがあることに注意が必要である.幽門腺腺腫は孤発性のものに加え,しばしば家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis ; FAP)に伴う.
早期胃癌とは,癌の浸潤が粘膜下層までにとどまるものであり,リンパ節転移の有無は問わない,と胃癌取扱い規約1)にて定義されている.胃癌の組織型はTable 1のように分類され,乳頭腺癌(pap),管状腺癌(tub)が分化型胃癌,低分化腺癌(por),印環細胞癌(sig)が未分化型胃癌に大別される.粘液癌(muc)は構成癌細胞の組織形態により分化型・未分化型胃癌のいずれかに分けられる(菅野・中村分類).組織型は量的に優勢な組織像に従い,組織混在型では優勢像から列記される(例:tub2>por2>sig).
分化型,未分化型の早期胃癌では,それぞれ色調や形態などに臨床的特徴がある(Table 2)2).
慢性胃潰瘍の癌化については古くから議論があったが,消化管X線造影検査や内視鏡検査の普及と進歩に伴い,胃潰瘍の経過や早期胃癌の形態的特徴が明らかになると同時に,癌巣内の潰瘍が縮小することが判明し,現在では潰瘍の癌化はあるとしてもごく少数と推測されている1).村上ら2)は,良性の消化性潰瘍が活動期,治癒過程期,瘢痕期を経て,再発すると再び活動期へ戻ることを良性サイクルと呼ぶのに対して,陥凹型早期胃癌の病巣内に存在する潰瘍も同じような経過を示すことを,悪性サイクルと呼ぶことを提唱した.
胃型形質の胃癌
胃癌は組織分化度や異型度の他に,細胞形質によっても区別される.細胞形質は,免疫組織化学染色を用いて,①胃型形質,②腸型形質,③胃腸混合型形質,④無形質,の4型に分類することが一般的である(Table 1).病理総論的には,多くの腫瘍は発生母地を模倣する.そのため,H. pylori感染により萎縮が進み,腸上皮化生が拡がる背景粘膜からは主に腸型形質や胃腸混合型形質の癌が,萎縮の進んでいない粘膜やH. pylori未感染の正常胃粘膜からは純粋な胃型形質を示す癌が発生することが多い1).胃型形質を示す胃腫瘍は発現する形質と正常胃上皮細胞との対応によって,以下に示すカテゴリーに分類される.
元来,“スキルス”とは癌の肉眼形態や組織分類の一型を示すものではなく,病理組織学的に基質が極めて多く,癌細胞が少なく高度の線維性結合組織の増生を示す胃癌の総称である1)2).
“スキルス胃癌”は現在,臨床的には「胃癌取扱い規約」に準じて“著明な潰瘍形成も周堤もなく,胃壁の肥厚・硬化を特徴とし,病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの”と定義され,びまん浸潤型の4型に分類されるが,他にびまん浸潤型胃癌,LP(linitis plastica)型胃癌などさまざまな呼称で用いられる.スキルスの語源は約2,500年前,ヒポクラテス(紀元前460年頃〜紀元前370年頃)が“硬い物”という意味で用いており,Laennec(1812)やMuller(1838)のころからスキルスは癌の一型として記載されるようになっている.
胃神経内分泌腫瘍は低異型度・低増殖能の腫瘍性内分泌細胞から構成される低悪性度癌,すなわちカルチノイド腫瘍と,先行した管状腺癌内での内分泌細胞への分化から発生する高悪性度の内分泌細胞癌の2群に分類されている1).
カルチノイド腫瘍は,胃体部の粘膜固有層深部から粘膜下層に存在するECL細胞(enterochromaffin-like cell)を由来とした腫瘍細胞が増殖するため,白色調・黄色調・発赤調とさまざまな色調で平坦〜半球状の隆起を認め(Fig.1),増大に連れて粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様の形態を来し,頂部に陥凹・粘膜の欠損を伴う.陥凹境界と非腫瘍粘膜の境界には蚕食像を欠く.胃カルチノイドはRindiら2)によって背景疾患や高ガストリン血症の有無からType I〜IIIに分類され,生物学的悪性度や予後とよく相関するため臨床的に用いられることが多い.
粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)は健常の胃粘膜に覆われた隆起性病変で,粘膜下以深に発生の主体があるものを指す.胃の粘膜下腫瘍としては,GIST(gastrointestinal stromal tumor),平滑筋腫,神経原性腫瘍,異所性膵などが挙げられる.
内視鏡観察時(Fig.1a)の鑑別の着眼点としては,立ち上がりの形態(急峻な隆起を呈するか,平坦な病変か),病変の硬さ(鉗子での触診),可動性の有無,delleの形成の有無,bridging foldの有無が重要である1).超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)(Fig.1b)は腫瘍の主座や内部の性状の評価に有用であり,他にCT(Fig.1c)やMRIなどの画像機器などを組み合わせて評価を行うことが必要である2).
悪性リンパ腫は節性リンパ腫と節外性リンパ腫とに分けられ,免疫組織化学的にB細胞リンパ腫とNK/T細胞リンパ腫に大別される1).節外性リンパ腫の30〜40%は消化管に発生し,消化管の中では胃に最も多くみられる.胃リンパ腫の中ではMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)の頻度が高い.
H. pylori(Helicobacter pylori)は胃MALTリンパ腫や胃DLBCLの主要な病因であり,除菌治療により,一定の頻度でリンパ腫が退縮する2)3).成人T細胞性白血病/リンパ腫ではHTLV-1感染が病因となる.胃原発リンパ腫の肉眼分類として,筆者は①表層型,②隆起型,③潰瘍型,④MLP(multiple lymphomatous polyposis)型,⑤びまん型,⑥その他,の6型に分類している.MALTリンパ腫は表層型を呈することが多く,0-IIc型早期胃癌と鑑別を要することがある(Fig.1).DLBCLやNK/T細胞リンパ腫などのaggressiveリンパ腫は隆起型や潰瘍型を呈することが多い(Fig.2).
CG(collagenous gastritis)は,粘膜固有層の炎症細胞浸潤および粘膜上皮下の肥厚(≧10μm)したcollagen bandの存在により病理組織学的に定義される疾患である.発生機序は不明で,本邦では,比較的若年者にみられる胃限局型のCGが多く,アトピー性皮膚炎や気管支喘息の合併例が報告されている1).海外では,若年者〜中高年者にみられ,十二指腸,小腸,大腸にも所見を認めることがあり,セリアック病や薬剤との関連性が注目されている2).
胃限局型CG(Fig.1)3)では,病理組織学的に炎症所見が不均一で,腺管萎縮がまだらに起こるため,陥凹性変化の中に粘膜が顆粒状〜島状に取り残される(取り残し島状粘膜)ことが特徴であり,隆起部からの生検では,炎症細胞浸潤やcollagen bandの肥厚は乏しく,病理学的に診断が難しい1).X線造影検査や内視鏡検査では,胃体部大彎を中心に非びらん性陥凹を認め,顆粒状変化が目立ち,敷石状変化が観察される症例もある1).NBI(narrow band imaging)拡大観察では陥凹部に一致して,微小血管の軽度の走行不整を認める2).
胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia ; GAVE),びまん性胃前庭部毛細血管拡張症(diffuse gastric antral vascular ectasia ; DAVE)はいずれも胃前庭部を中心に血管拡張を認める病態であり,消化管出血の原因の一つとして近年注目されている.GAVE,DAVEともに肝硬変,慢性腎不全,大動脈狭窄症などの基礎疾患を合併することが多い.主に貧血を主訴として発見されることが多いが,顕性出血を呈することは少ない.確定診断には上部消化管内視鏡検査が有用である.GAVEは前庭部に放射状に縦走する血管拡張を認める病態であり(Fig.1),watermelon stomachとして報告されている1).胃炎と間違われることがあるので注意が必要である.一方,DAVEは前庭部にびまん性に拡張する毛細血管を認める病態である2)(Fig.2).両者の内視鏡所見は異なるが,病理学的には粘膜固有層,粘膜下層の毛細血管拡張,フィブリン血栓形成,周囲結合組織の線維化など同様の所見を呈し,同じ範疇の疾患と考えられている.一般的にはGAVEとDAVEを合わせて“広義のGAVE”と呼ぶことが多い.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)はCrohn病(Crohn's disease ; CD)と潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)に大別され,CDでは全消化管,UCでは大腸に限局した腸管炎症を来す.このうちCDでは,診断基準の副所見として“特徴的な胃・十二指腸病変”が取り上げられていることからもわかるように,上部消化管病変の特徴を認識しておくことは重要である.一方,UCでもまれではあるが上部消化管病変を呈する.
竹の節状外観1)は胃噴門部から胃体部小彎にかけて腫大した皺襞を横切る亀裂状の陥凹(Fig.1)として観察され,CD患者の約70%にみられる.また,CD患者では十二指腸病変を伴うことも多く,びらん・アフタ様病変,不整形潰瘍,notch様陥凹2)など多彩な所見を認める.notch様陥凹はKerckring皺襞上にできる亀裂状びらん,あるいは切れ込み状の所見であり,多発する場合は縦列傾向を示す(Fig.2).
“特殊型胃炎”という明確な定義はないが,Crohn病に代表される肉芽腫を生じるような胃炎(Table 1)1)を指して用いられることが多い.胃に肉芽腫性病変を認めた場合,結核,梅毒,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)などの感染症,Crohn病,サルコイドーシスなどの特発性疾患や,近年注目されてきた炭酸ランタン長期服用による異物反応としての肉芽腫性胃炎を考慮する必要がある.ただし,これらの疾患はHelicobacter pylori胃炎や胃癌を除けばいずれもまれな疾患であり,サルコイドーシスや特発性肉芽腫性胃炎以外の疾患では必ずしも肉芽腫を伴う(胃生検組織にて検出できる)わけではない.また,肉芽腫が検出されたとしても,結核にみられる乾酪性肉芽腫のような疾患特異的な肉芽腫はごく限られているため,これらの疾患の臨床像や画像的特徴を考慮して鑑別診断を行うことが必要である.本稿では誌面の制約もあり,梅毒性胃炎,CMV胃炎および胃サルコイドーシスについて概説する.
近年,梅毒患者の激増に伴い梅毒性胃炎の報告も散発ながら増加傾向にある.梅毒性胃炎は,しばしば心窩部痛を伴い,胃病変は幽門前庭部に好発し,X線像では同部の全周性漏斗状狭窄,内視鏡では易出血性の浅い不整形の多発潰瘍やびらんを呈する.また,時に副病変として胃体部に特徴的な梅毒性皮疹類似の粘膜病変(梅毒性胃粘膜疹)を伴う(Fig.1)ことがあり診断の一助となる.なお,これらの病変は肉芽腫を伴わない早期(第2期)梅毒の胃病変であり,今日本邦では肉芽腫を形成するほど進行した梅毒(第3期)の胃病変に遭遇する機会はほとんどない.鑑別診断としては,同様にまれながら肉芽腫を形成することがあるリンパ腫や,CMV胃炎(後述)などが挙げられる.特に第2期梅毒(梅毒トレポネーマの血行性・リンパ行性の全身播種期)における梅毒性胃炎では全身のリンパ節腫脹を伴い,胃生検組織像も高度の形質細胞浸潤を伴っているため,ここ数年,悪性リンパ腫〔特に表層型のびまん性胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫〕と誤診される症例が散見されているため注意が必要である.
プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI)内服による胃粘膜の内視鏡所見としては,胃底腺ポリープ,過形成性ポリープ,多発性白色扁平隆起,敷石状粘膜,黒点などがあり,PPIによる病理組織学的変化が内視鏡所見に反映されると考えられている1)2).ただし,成因に関して不明である所見もあり,今後の課題と考えられる.それぞれの所見について,以下に詳細を記載する.
胃底腺型胃癌はH. pylori未感染胃癌(分化型腺癌)の一つであり,病理組織学的に胃底腺型腺癌と腺窩上皮への分化も示す胃底腺粘膜型腺癌に分類され,おのおのの特徴が明らかになってきた1)2).胃底腺型腺癌は一般的には異型度,悪性度は低く,頸部粘液腺〜胃底腺への分化のみを示す分化型腺癌であり,表層は非腫瘍性粘膜に覆われる.胃底腺への分化に加え腺窩上皮への分化も示す胃底腺粘膜型腺癌は,胃底腺型腺癌に比較して悪性度が高く,腺窩上皮型の腺癌が表層に露出する.
胃底腺型腺癌の白色光観察での内視鏡的特徴として,①上皮下・粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様の隆起,②白色調・褪色調,③拡張した樹枝状の血管,④背景粘膜に萎縮性変化を認めない(Fig.1a)3),NBI併用拡大観察での内視鏡的特徴として,①明瞭なDL(demarcation line)なし,②腺開口部(crypt opening ; CO)の開大,③窩間部(intervening part ; IP)の開大,④ irregularityに乏しい微小血管(Fig.1b)3)が挙げられる4).胃底腺粘膜型腺癌は,前述の特徴を伴わないことが多く,胃底腺型腺癌に比較して腫瘍径は大きく,表層に腺窩上皮型の癌成分が存在していることから,境界が比較的明瞭であり,表面構造の凹凸や不整さが強い印象がある(Fig.2a)4).また,胃底腺粘膜型腺癌は,色調や形態に多様性があることが判明しており,今後,さらに症例を集積する必要がある.胃底腺型腺癌の表層は基本的には非腫瘍性粘膜で覆われるため,NBI併用拡大観察では癌と診断することが困難な症例が多い.胃底腺粘膜型腺癌は表層に腺窩上皮型の低異型度癌が露出していることが多いため,癌と診断することが可能であるが,症例によっては表層の癌成分の異型度が低かったり,癌成分と非腫瘍成分が混在していたりするため,注意が必要である(Fig.2b)4).
腺窩上皮型胃腫瘍は,腺窩上皮細胞への分化を示す胃型形質の胃上皮性腫瘍である.腫瘍が腺窩上皮細胞に類似した腫瘍細胞で構成され,かつ/またはMUC5AC主体の胃型形質を発現する場合,“腺窩上皮型”と診断される.上方発育主体の腫瘍であり,H. pylori(Helicobacter pylori)既感染胃では粗大な発赤調隆起を,未感染胃では主にラズベリー様の小隆起を呈することが多い1).
ラズベリー様腺窩上皮型胃腫瘍は,H. pylori未感染胃の胃体部大彎と胃穹窿部に好発し,症例の約20%が多発性である(2〜4個).平均3mmほどの発赤した小隆起で,色調に注目して観察すれば発見は難しくない(Fig.1).NBI併用拡大観察では乳頭状または脳回様構造を呈し,広い窩間部に拡張した血管が視認される場合が多い.病理組織学的には乳頭状に増生する腫瘍腺管を認め,腫瘍細胞はmucin capと概ね基底層に並ぶ核を持ち,low-grade dysplasia相当の病変が多く,high-gradeでも間質浸潤を伴うことはほぼない.免疫組織化学染色では,MUC5ACが強陽性,MUC6はほぼ陰性,MUC2/CD10は陰性で,胃型(腺窩上皮型)形質を示す2).胃型腫瘍の潜在的な悪性度から,本邦では癌と診断されることも多いが,WHO分類(2019)ではfoveolar-type adenomaである.
十二指腸の胃上皮化生が存在することは,1923年にNicholson1)によって初めて報告された.胃底腺型と腺窩上皮型があり,前者は異所性胃底腺と同様のため,本稿では腺窩上皮化生を解説する.
腺窩上皮化生は境界明瞭な平坦隆起を呈することが多く,その境界が明瞭なことから上皮性腫瘍との鑑別が必要である.腺窩上皮化生は類円形で,NBI(narrow band imaging)拡大観察にて整形な表面構造を呈する.一方,上皮性腫瘍では形は不整形で,NBI拡大観察にて不整な表面構造を呈する.
十二指腸異所性胃粘膜は胃底腺粘膜から成り,表層は胃腺窩上皮に被覆される1).同様に,十二指腸にみられる胃腺窩上皮化生とは,胃底腺細胞の有無により鑑別される.従来,胃腺窩上皮化生は後天性であるのに対して異所性胃粘膜は先天的な異所性組織とされてきたが,近年,胃腺窩上皮化生から連続する一連の化生性変化の一型である可能性が指摘されている2).また,異所性胃粘膜の一部にGNAS/KRAS変異が認められ,同様の特徴を呈する胃型腫瘍(幽門腺腺腫や胃型腺癌)の前駆病変であることが示唆されている1).
Brunner腺は十二指腸の固有腺であり,十二指腸乳頭付近よりも近位側では粘膜下層を主座に密在している.病理組織学的に異型性のないBrunner腺が領域性を持って過剰に増殖したものがBrunner腺過形成である1).
Brunner腺過形成はBrunner腺が密在する十二指腸球部〜下行部の乳頭近位側に好発する.表面が平滑な粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起の形態を呈し,表面に開口部や陥凹を伴うことがある(Fig.1a).病理組織学的にBrunner腺過形成巣(MUC6陽性)の表層には胃腺窩上皮化生(MUC5AC陽性)が形成されることが多く,NBI(narrow band imaging)併用拡大観察では病変表面に胃腺窩上皮に類似するパターンを認めることが多い(Fig.1b〜e)2)3).生検では過形成巣まで採取できないこともあるため,厳密な診断は切除標本に基づく必要がある.
腸管Behçet病は全身性炎症疾患であるBehçet病の特殊型として位置付けられるため,診断の前提条件として完全型あるいは不全型Behçet病と診断されている必要がある.腸管Behçet病の定型病変は回盲部の辺縁明瞭な類円形潰瘍を呈する.特にvolcano-shaped ulcerと呼ばれる深掘れ潰瘍(Fig.1a)は穿孔リスクが高い.同様の類円形潰瘍は小腸(Fig.1b),大腸(Fig.1c),食道(Fig.1d)にも認められることがある.Behçet病患者において非定型病変として消化管に多彩な潰瘍や炎症所見を認めることがあるが,これらは腸管Behçet病とは区別する.臨床症状としては発熱,体重減少,腹痛,腹部腫瘤などを主訴とし,時に血便や大量の下部消化管出血腸管を認め,消化管穿孔例では腹膜炎所見など急性腹症を呈する.食道病変を認める例では胸痛,食道気管瘻に伴う誤嚥性肺炎を併発する.
大腸腺腫は内視鏡検査で発見される全大腸ポリープのうち70%以上を占め,最も頻度が高い1).大腸腺腫は病理組織学的には,①管状腺腫(tubular adenoma),②管状絨毛腺腫(tubulovillous adenoma),③絨毛腺腫(villous adenoma),④鋸歯状腺腫(traditional serrated adenoma)の4つに分類されるが2),そのうち約90%が①管状腺腫である.さらに,その細胞異型,構造異型から低異型度,高異型度に分類される2).なお,“ポリープ”とは消化管内腔に突出する境界明瞭な隆起全体の総称で,病理組織学的に上皮性・非上皮性病変,腫瘍性・非腫瘍性病変が含まれる.“隆起型腫瘍”と“ポリープ”は同義語として使用されることが多いが,厳密には同じでないことに注意する.
肉眼分類としては,隆起型(Fig.1)と表面型に大別される.隆起型は有茎性(0-Ip),亜有茎性(0-Isp)と無茎性(0-Is)に,表面型は表面隆起型(0-IIa),表面平坦型(0-IIb)と表面陥凹型(0-IIc)に分類されるが,小さい病変は半球状(0-Is)を呈することが多い.
大腸鋸歯状病変とは鋸歯状構造を有する腺管で構成される病変の総称である.古くはHP(hyperplastic polyp)とされてきたが,腺腫性の細胞異型を伴う病変も指摘されるようになり,いくつかの名称に分派したものの,2010年のWHO分類1)で集約された(Table 1左).特にSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)はBRAF変異,高メチル化を特徴とし,MSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変と考えられ,第3のcancer pathwayとして近年注目されてきた.内視鏡診断においてはある程度確立されており,拡大内視鏡が有用である2).HPは直腸とS状結腸を主として同色調ないしやや白色調の平坦病変で粘液をほぼ伴わず,II型pit patternを呈する.SSA/Pは同色調ないしやや白色調の表面隆起型または無茎性隆起型で,粘液で覆われていることが多く,ほぼ均一な開II型pit patternを示すことが特徴である(Fig.1)3).このSSA/Pを基盤にIIIL型やIV型様などの異なるpitを有する病変はSSA/P with cytological dysplasiaが示唆され,特にVI型を伴う病変は癌化が示唆される(Fig.2)3).また,TSA(traditional serrated adenoma)に関しては,弱発赤調〜発赤した隆起主体の病変で枝サンゴ状や松毬様の構造をとり,拡大観察では鋸歯状構造を伴ったIV型(鋸IV型)を伴うことが特徴である(Fig.3)3).
炎症性筋腺管ポリープ(inflammatory myoglandular polyp)は,1992年にNakamuraら1)によって報告された非腫瘍性の大腸ポリープである.便潜血や血便,貧血などを契機として発見されるが,無症状のことも多い.男性に多く,好発部位はS状結腸〜直腸を中心とした遠位側大腸で,単発性である.病因は不明だが,腸管蠕動による慢性刺激が一因と考えられている.
ポリープは表面平滑な球状で,亜有茎性〜有茎性の形態を呈し,強い発赤調でびらんや薄い白苔を伴うことが多く(Fig.1a),“傷んだイチゴ状”とも称される2).近接して表面構造を観察すると,広い間質にやや大型で円形〜卵円形の腺管開口部を散在性に認める3)(Fig.1b).
1994年に,真武ら1)は粘膜と粘膜下組織から成る長い有茎性ポリープの4例を報告し,これらをCMSEP(colonic muco-submucosal elongated polyp)と呼称することを提唱した.CMSEPは今日,確立した一つの疾患概念として定着している.
内視鏡的特徴は,正常粘膜で被覆された細長い有茎性の病変で,その外観は茶さじ様,棍棒様,土筆様,太鼓ばち様などと形容される(Fig.1,2).また,表面に発赤やびらんを伴ったり,頭部に数条の溝から成る皺様の外観を認めたりすることもある.
cap polyposisは1985年にWilliamsら1)によって報告された特異な臨床所見および内視鏡所見を呈する大腸の炎症性疾患である.広基性のポリープの中央部付近に膿性の滲出物が付着した病変で,帽子(cap)を被ったような形態を呈する.大腸の慢性的な機械的刺激が原因と考えられてきたが,H. pylori(Helicobacter pylori)の除菌治療により治癒した症例の報告も散見され,H. pyloriの感染による胃外病変の一つとも考えられている2).臨床上の特徴として,性比は女性が多く,臨床症状に血便,粘液性の下痢,下腹部痛,テネスムス,肛門痛などがある.
大腸の低分化腺癌(粘液癌,印環細胞癌を含む)は,全大腸癌の4〜7%程度と報告されており,比較的まれな組織型である.一般に,右側結腸に発生頻度が高く,脈管侵襲およびリンパ節転移が高率で,小さなうちから深部浸潤する傾向が強いため発見時進行例が多く,予後不良の場合が多い.早期癌での発見はまれであるが,その予後は良好である.
早期大腸低分化腺癌の多くは胃型の形質を示す分化型腺癌からの進展移行例であり1),de novo発生した低分化腺癌はまれである.また,鋸歯状病変が発生母地となっている病変もある2).
悪性リンパ腫には節性リンパ腫と節外性リンパ腫があり,節外性リンパ腫はB細胞リンパ腫とNK/T細胞リンパ腫に大別される.節外性リンパ腫の30〜40%は消化管に発生し,胃に最も多くみられ,次いで小腸,大腸の順である.腸管リンパ腫は多発することが多く,癌と比べ伸展性が保たれる傾向がある.病変境界部はなだらかでoverhanging edgeを認めず,潰瘍周囲の耳介様周堤が特徴的である.国際的に確立された肉眼分類はないが,筆者らは①隆起型,②潰瘍型(狭窄型,非狭窄型,動脈瘤型),③ MLP(multiple lymphomatous polyposis)型,④びまん型,⑤混合型,の5型に分類している1).
確定診断には病理組織学的検査,特に免疫組織化学染色が必須であり,FISH法(fluorescence in situ hybridization)による染色体転座の検査も有用である.組織型分類は2017年のWHO分類改訂第4版2)に従う.腸管リンパ腫では,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)が最も多く,胃では頻度の低い濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma ; FL)が約1/4を占める.MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫やNK/T細胞リンパ腫も比較的多く,マントル細胞リンパ腫やBurkittリンパ腫もみられる.MALTリンパ腫の特殊型である免疫増殖性小腸病(immunoproliferative small intestinal disease ; IPSID)も存在する.腸症関連T細胞リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma)は,セリアック病に合併するもの(従来のI型)に限定され,従来のII型は単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma ; MEITL,Fig.1)と改称された.
大腸側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)とは,工藤ら1)によって提唱された最大径10mm以上の水平発育する大腸腫瘍群に対する呼称である.“LST”という用語は,病変の臨床病理学的特徴や発育形態を包括した表現型であるため病変の特徴がイメージしやすく臨床上使用しやすいが,“LST”は発育形態分類であり,肉眼形態分類とは異なる.
従来,側方に発育する大腸病変は,佐竹ら2)による花壇様を呈する隆起性病変の報告に始まり,平盤様隆起,carpet lesion,IIa集簇様病変,creeping tumorなどさまざまな呼称を経て,“結節集簇型病変”と呼称されるようになった.その後,工藤ら1)は結節のない平坦な側方発育型病変の存在を明らかにし,側方に発育するすべての大腸病変が“結節集簇型病変”では表現できないとして,側方発育する10mm以上の大腸腫瘍を“LST”と定義した.この点に関しては,2008年2月に開催された京都ワークショップ「International workshop on nonpolypoid mucosal colorectal neoplasia」において国際的なコンセンサスが得られている3).これを経て,「大腸癌取扱い規約 第8版」4)に大腸LSTの定義が典型的内視鏡画像,肉眼型との関係も含めて明記された.これまで世界的に使用されていた“LST”という用語が,コンセンサスが得られた定義で規約に掲載された意義は大きい.
肛門部腫瘍は「大腸癌取扱い規約」1)にて,①良性上皮性腫瘍,②上皮内腫瘍,③悪性上皮性腫瘍,④悪性黒色腫,⑤乳房外Paget病,⑥非上皮性腫瘍,⑦悪性リンパ腫,⑧腫瘍様病変,⑨その他に分類されている.さらに,③の中で腺癌(直腸型,痔瘻癌,肛門腺癌),扁平上皮癌,腺扁平上皮癌,カルチノイド腫瘍,内分泌細胞癌,その他に分かれる1).
本稿では特殊な直腸肛門部腫瘍として,悪性黒色腫,扁平上皮癌,痔瘻癌について述べる.
虚血性小腸炎は,小腸に虚血性病変が発生する腸間膜虚血性疾患のうち,臨床症状が軽症で可逆性の経過をたどるもののことを指し,大腸における虚血性大腸炎に相当する疾患概念である1).本症は比較的まれであるが,小腸では側副血行路は豊富であり発症数が少ないこと,軽症例において急性期の診断が難しいことに起因すると考えられる.原因の特定の有無により特発性虚血性小腸炎と続発性虚血性小腸炎に大別される.続発性虚血性小腸炎の原因としては,腸間膜動脈あるいは静脈閉塞,血流低下,血管攣縮,機械的血流障害や外傷の他,血管炎などが挙げられる.本症は急な腹痛や嘔吐で発症することが多く,臨床症状や経過,腹部造影CT検査,小腸X線造影検査や内視鏡検査を行い,総合的に診断される2)3).
腹部造影CT検査は,本症が疑われる場合にまず行うべき検査であり,急性期では区域性の壁肥厚が高頻度にみられる所見である.上腸間膜動脈など主幹動脈の閉塞所見や栄養動脈末梢側の小腸壁の造影効果低下が確認される場合もある.小腸X線造影検査では,慢性期にみられる区域性の管腔狭小化・管状狭窄が最も特徴的である(Fig.1)2)が,急性期には拇指圧痕像,皺襞の腫大,開放性潰瘍もみられる2).高度狭窄例では,口側の拡張も伴う.
虚血性大腸炎は急性の腹痛を伴う下部消化管出血の原因として最も多く遭遇する疾患である.突然に下腹部痛が出現し,以後下痢,徐々に血性下痢を呈するのが典型的な症状である.中高年女性に多いが,若年者も発症する.疾患の発症には腸管側因子(下剤や浣腸による腸管蠕動亢進,便秘や腫瘍による腸管内圧上昇)と血管側因子(高血圧,動脈硬化,攣縮)が複雑に関与するが,腸管側因子の重要性が指摘されている1).
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)は持続性または反復性の粘血便・血性下痢などを認める炎症性腸疾患である.UCが疑われるときには,理学的検査や血液検査を行い,さらに放射線照射歴,抗菌薬服用歴,海外渡航歴などを聴取し,他疾患を除外するとともに,下部消化管内視鏡検査や病理検査にて診断を行う.また診断後も,臨床症状と大腸粘膜の炎症の程度は乖離することもあるため,内視鏡による活動性評価は重要である.さらに内視鏡検査は炎症の範囲の把握や腫瘍病変の検出にも有用である.
慢性炎症に合併して発症するUC関連腫瘍は,境界不明瞭な病変も少なからず認められるのが特徴である(Fig.1).疑わしい病変については,積極的に色素内視鏡検査を併用することが重要である.
Crohn病は,原因不明で,主として若年者に発症し,小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め,繰り返す炎症の結果,腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる疾患である.炎症の多くは遠位回腸中心に認めるとされているが,実際には口腔〜肛門までの消化管のあらゆる場所に起こりうる.臨床像は病変の部位や範囲によるが,下痢や腹痛などの消化器症状と発熱や体重減少・栄養障害などの全身症状を認め,貧血・関節炎・皮膚病変などの合併症に由来する症状も呈する.病変は寛解・再燃を繰り返しながら進行し,患者が治療に抵抗して社会生活が損なわれる前にしっかりと炎症を治療することが重要である.
診断には,慢性的な症状から本疾患を疑うことに加え,大腸内視鏡検査による評価が最も重要であるが,詳細な病歴の聴取や細菌学的・寄生虫学的検査を行って他疾患を除外することも必要である.内視鏡検査にて縦走潰瘍または敷石像を認めた場合には確診例となる(Fig.1).典型的な内視鏡所見を欠く場合にも,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明で確定診断されるため積極的に粘膜生検を行う.また,消化管の広範囲に認める類円形潰瘍またはアフタ,特徴的な肛門病変,特徴的な胃・十二指腸病変も副所見として診断に有用である(Fig.2).
IBD-U(inflammatory bowel disease unclassified)は,内視鏡所見や生検所見を含めた臨床像で潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)かCrohn病(Crohn's Disease ; CD)かの確定診断できないもので1),外科的な切除標本の病理組織学的な検索を行っても確定診断が得られない場合をIC(indeterminate colitis)として,両者を区別している.
IBD-Uの頻度は3〜8%程度とされているが,小児領域では成人領域と比較して臨床的な検討が不十分となることが多いことから,メタ解析において成人例が6.0%に対して小児例では12.7%と有意に高いと報告されている2).典型的なIBD-Uは,UCとCDの所見の重複がみられ,具体的には直腸から連続するびまん性炎症に縦走潰瘍を伴う症例(Fig.1)や,連続したびまん性炎症であるが直腸には一切炎症がみられない症例(Fig.2)などが挙げられる.
回腸囊炎は,潰瘍性大腸炎や家族性大腸腺腫症に対して行われる大腸全摘,回腸囊肛門あるいは肛門管吻合術後に発生する非特異的な回腸囊内の炎症である1).
診断基準には臨床症状,内視鏡所見,病理組織学的所見によるPDAI(pouchitis disease activity index)2),PDAIから病理組織学的所見を除いたmodified PDAIなどがあり3),本邦では厚生労働省研究班の診断基準(Table 1)1)が用いられている.いずれの診断基準でも内視鏡所見が重要である.
直腸粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome of the rectum ; MPS)は,繰り返す直腸の粘膜脱により形成される疾患の総称である.排便時の出血,残便感,肛門痛などの症状を示し,背景に排便習慣異常がある.長時間にわたる排便時の過度ないきみにより,直腸粘膜や直腸壁の脱出が起き,慢性的な機械的刺激や虚血性変化,過形成性変化により,主に直腸前壁に隆起や潰瘍を形成する.病理組織学的には,線維筋症(fibromuscular obliteration)と呼ばれる粘膜固有層の線維筋組織の増生が特徴的である(Fig.1).
名称の定義や呼称には変遷と混乱があり,非腫瘍性慢性直腸潰瘍,孤立性直腸潰瘍,孤立性直腸潰瘍症候群(solitary rectal ulcer syndrome ; SRUS)などと報告されていたが,1983年にdu Boulayら1)はSRUSと直腸粘膜脱は本質的に同じであるとし,直腸粘膜脱症候群と呼称することを提唱した.
急性出血性直腸潰瘍(acute hemorrhagic rectal ulcer ; AHRU)は,重症基礎疾患を有する高齢者に無痛性および突然の新鮮血便で発症する直腸潰瘍である.内視鏡所見の特徴としては,潰瘍の局在が歯状線に接するか,その近傍の下部直腸(Rb)に限局して発生し,潰瘍の性状は,不整形の地図状や帯状で,管腔の1/3〜全周性に達することもある1)〜3).
患者背景に脳血管障害,肺炎,脱水症,糖尿病性ケトアシドーシス,化膿性胆管炎,腎不全など基礎疾患を有する高齢者で多く,男女比ではやや女性に多い傾向がある.宿便や非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs)坐剤の使用がないことで宿便性潰瘍やNSAIDs坐剤起因性直腸潰瘍と区別される.AHRUの成因は重症基礎疾患に起因するストレスや血流障害が関与しているとされる.
腸管子宮内膜症は子宮内膜組織が腸管壁に発生・増殖する疾患で,30〜40歳代の未経産婦に好発し,典型的には月経周期に一致した下腹部痛や血便を認める1).
病変は直腸からS状結腸に好発するが,虫垂や終末回腸などに病変を認めることがある1).本症はその形態から半球状の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起を呈するendometrioma型と腸管の伸展不良が主体のdiffuse endometriosis型に分類されるが2),多くは後者の形態を呈する.
消化管の血管性病変に対する用語は,医学や検査技術の進歩とともに,さまざまな用語が使われてきたが,あいまいな定義で使われている場合も多く,混乱しやすい.広義の血管性病変は,血管腫や血管肉腫などの腫瘍性病変なども含まれるが,臨床現場で多く扱う血管性病変は病理組織学的に,①静脈・毛細血管の特徴を持つ病変,②動脈の特徴を持つ病変,③動脈と静脈の特徴を持つ病変,の3種類である1).
静脈・毛細血管の特徴を持つ病変は,粘膜下層の正常静脈と,その上層の粘膜固有層の毛細血管の拡張から成る数mm大の微細な限局性血管性病変で,angioectasiaと呼ばれている.拡張した血管が多数放射状に存在し,血管の集簇度が高いと均質で境界明瞭な円形斑(Fig.1)となり,疎な場合は境界不明瞭な滲み斑(Fig.2)となる2).他に,angiodysplasiaと呼ばれることもあるが,angiodysplasiaは血管性病変の総称として用いられている場合もある.世界消化器内視鏡学会(World Endoscopy Organization ; WEO)のMinimal Standard Terminology 3.0に基づいた日本消化器内視鏡学会の「消化器内視鏡用語集 第4版」3)では,angioectasia(英国英語)とangiectasia(米国英語)が採用されている.
薬剤性大腸炎とは,治療目的で投与された薬剤によって惹起される大腸炎の総称である.代表薬剤として,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs ; NSAIDs),抗菌薬,免疫チェックポイント阻害薬(immuno-checkpoint inhibitor ; ICI),プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor ; PPI),漢方薬などが挙げられる.薬剤によって内視鏡所見が異なるため,各大腸炎の特徴を知っておくと原因薬剤を想起することができる.本稿では,NSAIDs起因性腸炎,抗菌薬関連大腸炎,薬剤関連膠原線維性大腸炎,ICI関連大腸炎の内視鏡所見について解説する.
CEAS(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene)は,小腸や上部消化管に浅い潰瘍性病変や変形が多発するまれな腸疾患で,プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の変異を原因とする1).病理学的には肉芽腫などの特異的炎症所見を認めないのが特徴である.性比(男性:女性)は1:2で女性に多く,発症年齢(中央値)は1〜69(19)歳と症例ごとに大きく異なっている2).多発潰瘍からの持続的な潜出血による慢性の貧血と低蛋白血症はほぼ必発であり,長期的には腸管狭窄を来し,しばしば外科的切除が必要となる.ばち指,皮膚肥厚や骨膜症などの腸管外徴候が診断の助けとなることもある1).確定診断には遺伝学的検査が有用である.
小腸病変の好発部位は中部〜下部回腸であり,X線造影検査では腸間膜の付着位置と関係なく存在する非対称性の変形が特徴である(Fig.1)1).多発狭窄を有する症例では囊状の拡張がみられる.内視鏡所見は輪走,斜走および縦走する浅い潰瘍が特徴的である(Fig.2a)1).潰瘍の辺縁は整であり,周囲の粘膜の浮腫性変化は軽度である.病変の瘢痕化に伴いらせん状の変形,偽憩室や求心性の狭窄を来す(Fig.2b).
顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis ; MC)はCC(collagenous colitis)1)とLC(lymphocytic colitis)の総称である.難治性下痢を主訴とし,診断は生検病理により行われ,内視鏡所見だけでは診断できない.
病理組織学的特徴として,CCでは①大腸上皮下膠原線維束(collagen band)の肥厚(10μm以上),②粘膜固有層のリンパ球・形質細胞浸潤,③陰窩の正常配列であり,④表層上皮の剝離・平坦化,⑤ IEL(intraepithelial lymphocyte)の増加もみられる.一方,LCはcollagen bandの肥厚は認めず,IELの著明な増加(≧20個/表層上皮細胞100細胞)が特徴である.これらの所見は正常粘膜からの生検でも認められることがあるため,MCを疑う場合は内視鏡的に異常がなくても各部位から生検を行い,MCを鑑別に入れていることを病理医に伝えることが望ましい.
腸管膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis ; MP)は,大腸壁内から腸間膜静脈に膠原線維の増生や石灰化などが起こり,静脈還流障害により慢性虚血性変化を来す比較的まれな疾患である.近年,山梔子含有漢方薬の長期服用例の報告が増加している.主症状は腹痛,下痢,便秘,腹部膨満だが,無症状で画像上偶然に発見されることもある.罹患部位は回腸末端〜直腸に及ぶが,右半結腸に強い.単純X線検査では右側腹部に線状石灰化像を認め,CTでは大腸壁肥厚,腸管壁や腸間膜に一致した石灰化像を認める.注腸X線造影検査では壁硬化や不整,管腔狭小,拇指圧痕像などの所見を呈す.大腸内視鏡検査では粘膜の色調変化(青銅色,赤紫色)がみられ,浮腫や狭窄,びらん・潰瘍,血管透見像の消失などを伴う(Fig.1,2).病理組織所見では粘膜固有層の著明な膠原線維の血管周囲性沈着と静脈壁の線維性肥厚が特に重要である.膠原線維沈着と静脈壁肥厚により隆起し早期大腸癌との鑑別を要した報告例もある(Fig.3)1).なお,本症における癌の合併の実態について情報量が少ないが,現在までdysplasiaを伴う癌の報告はなく,sporadicな発生と考えられている.
大腸憩室は固有筋層が消失した仮性憩室であり,腸管管腔内圧の上昇に従い,直細動脈(vasa recta)が固有筋層から管腔側へ貫いて入る脆弱部位で発生する.頻度は加齢に伴って高まり,40歳以下では10%以下,50歳代では30%,70歳代では50%,80歳代以上になると50〜66%となる1).本邦における50歳未満の大腸憩室保有者では,75%近くの憩室が右半結腸に認められるが,加齢とともに左側結腸憩室の割合が増加する.一方,米国では大腸憩室の80%が左側結腸にあり,S状結腸が70%と大半を占める2).以下に,憩室関連疾患として憩室関連性腸炎と憩室出血について詳述する.
移植片対宿主病(graft-versus-host disease ; GVHD)はドナーリンパ球がレシピエントの組織適合抗原を非自己と認識し,免疫学的に攻撃する反応である.GVHD関連腸炎の病態は主にドナー由来の組織傷害性T細胞による腸管上皮細胞への直接傷害,T細胞由来のサイトカインによる組織傷害と考えられており,近年では腸管幹細胞への傷害や腸内細菌叢の異常も病態に関与することが明らかとなっている1).GVHD関連腸炎の多くは移植後100日以内にみられ(古典的急性GVHD),100日以降に発症する非典型例は遅発性急性GVHDと定義する2).病変は全消化管に発生するとされているが,小腸が好発部位とされている.
内視鏡所見は浮腫,発赤,びらん,血管透見像の低下,潰瘍粘膜脱落など多彩である(Fig.1).中でも大腸のorange peel appearanceや亀甲状粘膜(tortoise shell-like mucosa)が特徴的とされている3)(Fig.2).しかしながら,正常粘膜にみえる症例も存在するため,病理学的評価が必須である.