胃と腸 47巻5号 (2012年5月)

特集 図説 胃と腸用語集2012

序文 松井 敏幸
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 1996年に「形態用語の使い方・使われ方」という用語集が増刊号として出版され1),その後の補訂を経て2002年に「胃と腸用語事典」(医学書院)が出版された2).その序文に同書の趣旨をみることができる.すなわち,早期胃癌研究会での討論で問題になる用語を挙げ,用語の使われ方に統一をもたせることを目的としたとされている.基本的姿勢として,言語や用語の当初の用いられ方を重要視し,用語の基本的な意味を振り返ることも同書の意義とされている.具体的な用語集の作成過程は,以下のとおり説明されている.「胃と腸」誌27巻(1992年)から29巻(1994年)の2年3か月間にかけて「用語の使い方」欄を設けて用語解説を連載した.同書はそれを充実させ,基本用語を図説し,系統的に解説することをねらった.

 現在では当初の用語解説の連載開始からみて約20年が,用語事典出版からみて約10年が経過したことになる.その後の消化器診断学の推移をみると,大きな変化があることは間違いない.本特集号では,前回と同様の姿勢で企画に臨むが,近年多用される用語を取り上げることになる.もちろん,最近の「胃と腸」誌に使われた基本的な用語はもれなく取り上げるつもりである.あえて,多くの用語から厳選した213項目を取り上げて,用語の基本と意見とを組み合わせた内容としたい.この項目数は,1996年の増刊号の項目数147と比較して,かなり増加している.しかも,項目内容を比べると,前回採用され,今回採用とならなかった項目数は94であり,今回採用された新規項目数は165に及ぶ(48項目が共通した項目数).この理由は,基本的に前回の内容で記述に変化がないものや,歴史的な経緯が判明し前回に詳述されているものは,今回は割愛した.その中にはX線検査に関する用語が多かった.振り返ると,その用語は現在あまり使用頻度が高くないものがあるが,ある程度診断学の現状を反映している.

解剖

咽頭・喉頭の解剖用語 田中 雅樹
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 咽頭(pharynx)・喉頭(larynx)は鼻腔・口腔と食道の間に存在し,消化器(消化管)と呼吸器(気道)が分かれる部位であり,咀嚼・嚥下・構音・発声など重要な機能を司っている.消化器内視鏡分野の書籍では咽喉頭領域として一緒に扱われることが多いが,用語の解説を行うため本稿では分けて記載する.また,臓器の形態が消化管と比べて複雑であるため,消化器内視鏡(経口内視鏡)で観察される部位を中心に解説する.

食道の解剖用語 高木 靖寛
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 食道の解剖学的区分(Fig. 1) 食道とは食道入口部から食道胃接合部までをいい,食道入口部は輪状軟骨の下縁レベルに一致する.食道の区分はまず3つに大別される.すなわち入口部より胸骨上縁までを頸部食道(cervical esophagus ; Ce),胸骨上縁から食道裂孔上縁までを胸部食道(thoracic esophagus ; Te),食道裂孔上縁から食道胃接合部までを腹部食道(abdominal esophagus ; Ae)と呼ぶ.胸部食道はさらに3つに亜分類され,気管分岐部下縁までを胸部上部食道(upper thoracic esophagus ; Ut),気管分岐部下縁から食道胃接合部までを2等分した上半分を胸部中部食道(middle thoracic esophagus ; Mt),2等分した下半分を胸部下部食道(lower thoracic esophagus ; Lt)と区分されている.

 食道の走行と周囲の構造(Fig. 2) 食道は咽頭に続く約25cmの管状,筋性の臓器で,食物の通路であり咽頭から胃に連絡する.輪状軟骨の下縁,第6胸椎レベル(切歯より約15cm)の高さからはじまり,横隔膜の食道裂孔を通って,第11もしくは第12胸椎のレベルで胃噴門(切歯より約40cm)に連なる.食道の両端は括約筋また括約機構によって周囲組織に固定され,食塊が通過するときのみ開口するが,通常は閉鎖している.食道の大部分は周囲臓器との間を粗な結合織で取り囲まれているのみであり,呼吸や嚥下,腹圧,体動で長軸方向に約1椎体程度の移動が生じる.食道はほぼ正中を走行するが,正確には蛇行している.頸部では正中かやや左側にあるが,大動脈弓(第4胸椎)までは次第に左側に偏位し,それから右側に向かい第7胸椎の高さでは,脊柱のやや右側に存在する.その後再び左側に向かい,食道裂孔を通過して第10胸椎のレベルで正中より左側に偏位し,食道胃接合部で最も偏位が著しくなる.

胃の解剖用語 細川 治 , 柳本 邦雄
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 胃は食道に続き,十二指腸に連なる管腔面積が最も大きな消化管臓器である.食道との粘膜境界は内視鏡画像上,食道下部柵状血管の下端,または胃大彎の縦走ひだの口側終末部とされ,X線検査上は後者の区分を用いる以外にHIS角を水平に延長した線ともされる.さらに筋層段階での境界としては,胃の入口部,食道の左側にまたがるように位置する最も内側の筋束,sling fiberがあてられる.粘膜段階と筋層段階の境界がずれることはもちろん,内視鏡とX線で境界が一致しないこともしばしば経験される.十二指腸球部との境界は幽門輪である.

 胃の上部は肋骨弓下にあり,食道胃接合は第11胸椎左辺,幽門輪は第1腰椎右辺,両部位前後で後腹膜に固定されるが,中間部は固着しておらず,横行結腸と肝左葉に覆われない範囲では前腹壁に接している.長軸方向の長さは小彎で15cm,大彎で45cm程度であり,最も管腔の広い個所の径は12cmとされる.屍体胃を用いた計測では1l以上の容量が報告されるが,有管法検査で胃透視を行っている立場からすると,バリウム100mlと空気300mlの注入で大半の胃が緊満することから生体内にある状態では500ml程度の容量と推定される.

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 小腸は,胃の幽門に始まり,回盲口によって盲腸に開くまでの全長約6mの中空性器官である.胃で糜汁化した食物を下部消化管へと輸送しつつ,小腸自身や付随する腺(肝や膵臓)から分泌された消化酵素によってそれを完全に消化し,栄養分を吸収するという第一義的機能のほかに,人体最大の免疫器官としての機能も有する.

 小腸は,十二指腸,空腸および回腸の3つの部位に区分される.十二指腸は小腸の初部を成し,胃の幽門から十二指腸提筋(Treitz靱帯)で固定された十二指腸空腸曲までの20~30cmの部位をいう.十二指腸は腸間膜を欠き,前面をおおう腹膜の続きによって後腹壁に固定されており,膵頭部の縁を取り囲むように左上方に開いたC字状の走行を示す.下行部ほぼ中央の後内側壁に十二指腸乳頭が隆起し,ここに総胆管と膵管が合一して,あるいは別々に開口する.

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大腸の解剖

 大腸は長さが約120~170cmの管腔臓器で,腹腔内を一周するように走行する.Fig. 1のように,口側から盲腸,結腸,直腸S状部,直腸に区分され,結腸はさらに上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸に,直腸は上部直腸と下部直腸に分けられる.上行結腸と横行結腸の移行部は右結腸曲(肝彎曲),横行結腸と下行結腸の移行部は左結腸曲(脾彎曲)と呼ばれる.回腸末端部,回盲弁(Bauhin弁),盲腸および上行結腸の一部から形成される小腸と大腸の境界部は,一般的に回盲部と呼称される.横行結腸とS状結腸は腸間膜を有し可動性に富むが,盲腸,上行結腸,下行結腸,直腸は後腹膜に固定されている.

 大腸壁の構造は,他の消化管と同様に粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜あるいは外膜の4層から成っている(Fig. 2).粘膜は0.2~0.4mmの厚さであり,大腸壁全層では3~5mmで,胃壁の約1/2の厚さである.粘膜は一層の円柱上皮に覆われ,吸収上皮細胞とその中に粘液を産生する多数の杯細胞が存在し,Lieberkühn陰窩を形成する.陰窩の粘膜開口部は,内視鏡では色素(インジゴカルミン,クリスタルバイオレット)撒布により類円形の小さな穴(pit)として観察される.このpitの形態は大腸病変を診断する際に有用で,鑑別診断のみならず大腸癌の深達度診断に役立てられている.

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肛門・肛門管の構造

 肛門を視診すると肛門の外口(anal orifice)が確認でき,その縁が肛門縁(anal verge)である(Fig. 1).肛門縁より1.5~2.0cmほど奥に歯状線(dentate line)が存在する.これは発生学的に外胚葉と内胚葉の接合部である.歯状線は隆起を形成する肛門乳頭(anal papilla)と,陥凹を形成する肛門陰窩(anal crypt)から形成される.

 肛門陰窩には肛門導管(anal duct)が開口しており,肛門腺(anal gland)へ続く.肛門周囲膿瘍,痔瘻の発生に関与している1)

検査法・手技

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 胃X線造影は,硫酸バリウムを用いて胃の病変をX線画像で描出する検査法である.消化器臨床の場では上部消化管の検査は内視鏡診断が主流となってきたが,胃のがん検診や術前精密検査の分野では,現在でもX線造影検査の有用性が認められている.

 前処置と検査後の処置 検査当日は,検査開始まで飲食を控える(ただし被験者に不可欠な内服薬は,起床時に水50ml程度で服用しても可).検査終了後は下剤を服用し,バリウムの排出を促す.

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 低緊張性十二指腸造影法は十二指腸の二重造影像を主体として,十分に伸展した蠕動がみられない状態で撮影し,十二指腸の辺縁の変形,粘膜面のみだれを描出する.腹臥位と仰臥位の両者で,十二指腸の粘膜面を鮮明に描出するため,胃の造影剤と重ならないように撮影する.Vater乳頭部の描出は病変の位置を表す指標となり,腹臥位第二斜位で正面像として表れることが多い(Fig. 1).

 撮影方法には有管法と無管法がある.有管法は十二指腸のVater乳頭部付近までゾンデを挿入し,造影剤,空気を注入し鎮痙剤により蠕動を停止させて撮影する.有管法は造影剤の量,空気量を加減することができるが,ゾンデの挿入が必要なことやゾンデが病変と重なり読影しにくいことがある.鎮痙剤の注入は蠕動を明確に停止するために静脈投与が主として行われるが,その効果は長くないため迅速に撮影を行う必要がある.

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 小腸の順行性X線造影検査は,本邦では1960年代より開始され,主に経口法と十二指腸ゾンデを用いた経管法が行われてきた.

 経口法は,胃X線検査に引き続いてあるいは小腸造影のみを目的として経口的に硫酸バリウムを投与し,小腸の充盈像と圧迫像を得る(Fig. 1).検査開始後,造影剤が盲腸に到達するまで15~30分間隔で観察と撮影を行うが,丹念な圧迫と体位変換を繰り返しながら小腸索を分離し病変を検出する.

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 1985年に川村ら1)が内視鏡下に挿入したガイドワイヤーに沿いイレウスチューブを回腸末端まで挿入し,バリウムと空気で二重造影を行う選択的逆行性回腸造影法を考案した.さらに1992年,竹中ら2)は,同法がゾンデ式小腸二重造影に比べ,下部小腸や回腸末端におけるバリウムの付着や伸展性がよいこと,腸管の重なりが少ないなどのことから描出能が優れていることを証明した.しかし,先端バルーン逸脱のため良好な二重造影が得られないなどの問題点を有したため,1995年に竹中ら3)はチューブ先端の逸脱を防ぐために改良を加え,逆行性回腸造影用チューブを考案し,その手技を確立させた.

 大腸内視鏡検査と同様の前処置で,用いる造影剤は,以前は50~70w/v%の低濃度のバリウムを使用していたが,回腸に残った前処置液でバリウムが付着不良となるために,現在では100w/v%のバリウムに5~10mlの消泡剤を混ぜ,100~250ml使用している.

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 注腸X線造影検査の歴史 1904年,Schuleにより,それまでの経口投与による大腸造影法から注腸法が開始されたが,当時は充満像やレリーフ像が主体であった.1923年にFischerが二重造影法を報告しているが,当時は二重造影像の得られる範囲は限られていた.1955年にスウェーデンのWelinは高濃度バリウムを脾彎曲部まで注入し,一度バリウムを排泄させ,次にS状結腸中部までバリウムを再注入後空気を注入,体位変換で盲腸までバリウムを移動させ広範囲の二重造影に成功した.1961年,Brownはそれまでの洗腸による前処置から,塩類下剤を使用した洗腸を行わない前処置法を開発し,二重造影に必要な最小限の造影剤を注入後に空気を注入する現在の方法が確立された.

 本邦では白壁らにより開発された上部消化管の二重造影法が,1969年頃から注腸X線検査へと導入され,刈谷,西澤,吉川らの業績により二重造影法が広く普及した.また,その後の造影剤の改良,適正濃度の研究の結果,それまで20%程度であったfine network patternの描出率は約70%へと向上した.これら先人達の努力により,微細・微小病変の描出・鑑別診断が可能となり,潰瘍性大腸炎,腸結核,Crohn病,虚血性腸炎など炎症性腸疾患における病変の推移や治療効果の判定が可能となった.

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 近年,X線装置のデジタル化に伴って,各種の検出器が製品化されてきた.1980年前後のCR(computed radiography)に始まり,80年代後半にはimage intensifier/TV系を用いたII-DR(digital radiography),90年代後半には新しい装置として平面検出器(flat panel detector ; FPD)が出現した(Fig. 1)1)

 FPDの構造は,電気信号を処理する薄膜トランジスタ(thin film transistor ; TFT)の前面にX線を電気信号に変換するX線変換部を貼り付けたものである(Fig. 2).FPDではX線を電気信号へ変換する方法が2通りあり(Fig. 3),1つはセレン(Se)を用いてX線エネルギーを直接電気信号に変える直接変換方式,もう1つはX線エネルギーをヨウ化セシウム(CsI)によって光エネルギーに変換し,その光エネルギーをTFTとCsI層の間にあるフォトダイオードで電気信号に変換する間接変換方式である.

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 内視鏡をはじめとした大腸の検査や治療を安全に正確に快適に行うためには,大腸内容物を除去する腸管前処置が必須である.かつては食事制限,緩下剤,水負荷,浣腸を組み合わせた方法(Brown変法)に依存していた時代もあったが,現在は経口的に水溶液で腸管全体を洗う腸管洗浄法が主流である(Table 1).

 当初用いられた大量の生理食塩液による腸管洗浄法では,過剰な塩分・水分吸収が問題となった.マニトールを加え浸透圧を調整することによりこの問題は解決されたが,腸内細菌の作用によりマニトールから発生した爆発性ガスにより高周波治療中の爆発事故が報告され,二度と用いられることはなくなった.

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 内視鏡検査では,管腔を拡張させなければ病変を発見,観察,あるいは治療を行うことができない.拡張には通常は空気(room air)を用いているが,近年,room airに変わって炭酸ガス(CO2)を用いることの有用性が報告されてきた.炭酸ガスとは常温で気体であり,無色,無臭,水溶性に優れた特性をもっているが,この特性により消化管内で炭酸ガスは吸収され,呼気中に排出されると考えられ,結果的に15分程度で消化管内から消失するとされている.そのため消化管の膨満が解消され,被験者の苦痛軽減をもたらしている1)~4)

 筆者ら5)が行った大腸内視鏡検査における空気と炭酸ガスによる前向き二重盲検試験の検討では,検査終了時に既に8割の被験者が疼痛,腹部膨満感を自覚しておらず,検査直後から3時間まで統計学的に有意差をもって炭酸ガス群のほうが疼痛,腹部膨満感の軽減を認めた(Fig. 1).さらに盲腸到達時間に関しても炭酸ガス群のほうが有意差をもって早かった.これらはいずれも炭酸ガスが消化管内から消失したことにより導かれていると考える.

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 経鼻内視鏡検査とは,経鼻ルートで挿入して,上部消化管を観察する内視鏡検査法である.2002年以降CCD(charge coupled device)センサーの小型化が進み,スコープ径を6mm未満の太さにまで細径化でき,さらに経鼻ルート通過のために先端硬性部を短くし,軟らかくしなやかなシャフトが作成可能になったことから普及が進んでいる.特に無症状者を対象とする住民検診や人間ドックで使用される機会が増した.

 咽頭,食道入口部への刺激が少ないことから,分泌物を少なくさせる目的に経口内視鏡で投与する抗コリン剤が不要で,鎮静剤を使用するような苦痛がなく,心血管系や呼吸器系への負担が少ない.頸部食道通過の際の不快感を除いて,苦痛が少なく安全性が高い上部消化管内視鏡検査が実施できる.

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 ダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy ; DBE)とシングルバルーン内視鏡(single-balloon endoscopy ; SBE)は,約2mの内視鏡と先端にバルーンの付いたオーバーチューブを用いる小腸内視鏡である.バルーンを拡張して腸管を把持し小腸の短縮を行い,内視鏡を進めるという操作を繰り返すことで,小腸深部への挿入と可能としている.この2つの内視鏡をバルーン内視鏡と呼んでいる.英語の訳語は,“balloon assisted endoscopy”となっている.

 DBEは,1998年に自治医科大学の山本博徳により開発され,2003年に富士写真光機(フジノン)から市販された.DBEシステムは,先端にバルーンの装着が可能なエアールート付きの細径内視鏡,先端にバルーンの付いたオーバーチューブ,両方のバルーンの拡張・脱気をコントロールするバルーンコントローラーから成る(Fig. 1).一方SBEは,2007年にオリンパスより販売が開始された.SBEシステムは,細径内視鏡,先端にバルーンの付いたスライディングチューブ,バルーンコントローラーから成る(Fig. 2).

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 カプセル内視鏡は,被検者がみずから飲み込むだけで消化管の検査ができ,ビデオ画像で診断する.2011年12月時点で食道用,小腸用,大腸用の画像撮影専用モデルが実用化され,可動式モデルも開発されている.日本では小腸用のPillCam® SB2(ギブン・イメージング社)とEndoCapsule®(オリンパスメディカルシステムズ社)が,上部および下部消化管の検査(内視鏡検査を含む)を行っても原因不明の消化管出血に対して保険適用になっている1).大腸用のPillCam® COLON2(ギブン・イメージング社)2)は治験進行中である.

 滞留(retention,消化管内の狭窄部の口側に,2週間以上カプセルがとどまること)は,カプセル内視鏡のほぼ唯一の偶発症である(Fig. 1)3).小腸二重造影を含む他の検査では滞留が起こるか否かを予知することができないため,腸管の狭窄の有無を調べる目的でAgile Patency Capsule(Agile-J)4)が開発され,近々認可される見込みである.

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 色素内視鏡検査 内視鏡観察法のうち,色素内視鏡検査は画像強調観察に分類され,内視鏡検査において何らかの色素を用いて消化管粘膜,または消化管表面を観察する方法を色素内視鏡検査と総称される.

 現在行われている色素内視鏡検査をTable 1に示す.色素法には,色素を撒布して周囲との境界を明瞭にしてコントラストを強調するコントラスト法と,色素を撒布して直接組織を染色する染色法,生体との反応を利用した反応法,蛍光法がある.

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 消化器内視鏡における酢酸撒布法は主にBarrett食道の診断に有用性が報告されてきた.胃癌に関しても拡大内視鏡を併用することで,境界診断に応用できることや,色調変化の反応時間などによって腫瘍の質的診断に応用できることなどが報告されてきた.筆者は,従来の色素内視鏡による形態のコントラストの強調効果に加えて,酢酸を加えることで色調変化の上乗せ効果が得られるのではないかと考え,酢酸インジゴカルミン混合液(acetic acid-indigo carmine mixture ; AIM)を考案した1)~3)

 酢酸を胃に撒布すると,酸に対する胃粘膜の防御反応によると思われる粘液が増加する.酸による粘液の産生性が腫瘍部,非腫瘍部で異なるため,腫瘍部ではインジゴカルミンの色素がwash outされることが多い反面,非腫瘍部では色素がしっかりと残存する.このメカニズムにより,従来の色素でははっきりしなかった病変の境界部が明瞭に描出され,境界診断に非常に有用である.特に従来のインジゴカルミンによる範囲診断では描出の難しかった隆起病変の周辺に拡がるIIb(Fig. 1),陥凹病変の周囲に拡がるIIbなどが明瞭に観察可能であり,ESD(endoscopic submucosal dissection)時に使用することで断端陽性例を減少させることが可能である.

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 消化管領域における酢酸撒布の報告は1998年Guelrudら1)によるBarrett食道焼灼後の遺残円柱上皮島の識別に関するものが最初である.その後,拡大観察併用2),胃癌での側方範囲診断3),NBI(narrow band imaging)併用拡大観察4),酢酸インジゴカルミン併用5),十二指腸や大腸への応用など様々な進展をみせている.

 酢酸撒布法の原理は,pHの低下により粘膜細胞内のサイトケラチン重合化が促進され,粘膜表面が白色化することによる.円柱上皮では1.5%酢酸を撒布後,数秒で粘膜表面は白色化し表面構造が鮮明になる.その効果は可逆的であり,持続は数分程度と言われている.また,癌部は非癌部より白色変化が早期に消失するため,酢酸撒布後の経時的変化も胃癌の範囲診断に有用である3)

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 電子内視鏡で得られた画像を様々な手法で強調することを画像強調内視鏡という.画像強調内視鏡には白色光にて得られた画像をコンピュータ処理することによって強調するデジタル法と,色素や白色光以外の光を用いる光学デジタル法に分類される1)

 デジタル法 白色光で得られた情報をコンピュータ処理することで,病変をより強調する方法である.富士フイルム社のFICE(flexible spectral imaging color enhancement)やHOYAペンタックス社のi-scan,オリンパス社の画像強調や色彩強調がこれに相当し,表面構造や血管構造をより詳細に観察することができる.Fig. 1は高分化型胃癌の通常観察およびFICE観察像である.FICEを用いると表面構造をより明瞭に観察することができる.

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 狭帯域内視鏡(narrow band imaging ; NBI)システムとは,国立がんセンター東病院の佐野・武藤ら1)とオリンパス社の後野氏2)とで2006年に産学共同開発された内視鏡システムである.

 その特徴は,内視鏡の観察光の分光特性を狭帯域特性へ変更し(短波長側にシフト),病変の視認性や表面微細構造,微小血管観察の向上を可能にしたことにある.

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 FICE(flexible spectral imaging color enhancement)は,コンピュータの演算処理で通常画像から任意の波長のシミュレーション画像に切り換えることができる“分光推定技術(spectral estimation processing)”を応用したデジタル法画像強調イメージングである.被写体の各画素の反射スペクトルを推定し,任意の3波長の分光画像を抽出,擬似カラー化して内視鏡像を再構築するもので,2005年にMiyakeらとフジノン社によって開発された(Fig. 1)1)2).画像の再構成に用いる波長は5nmごとに設定可能で,3波長をRGBチャンネルに割り当てて,自由に設定することができる.

 FICEはオリンパス社製のNBI(narrow band imaging)と同様,粘膜表層の微細血管構造や腺管構造の視認性を強調させる効能をもつ(Fig. 2)3).コンピュータ処理画像であることから,NBIに比べるとやや画像が粗い印象があるが,画像強調モードへの切り替えに全くタイムラグがないのが特徴である.また,複数の波長の組み合わせを設定し,内視鏡プロセッサのキーボード操作で切替えることができる.

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 X線や紫外線,可視光線を蛍光物質に照射することで電子が励起され,それが基底状態に戻る際に放出される光を蛍光と呼ぶ.生体組織に励起光を照射すると各種分子(コラーゲン,エラスチン,NADH,フラビン,ポルフィリンなど)から蛍光が生じ,このような生体組織中の蛍光物質からの蛍光を自家蛍光(autofluorescence)と呼ぶ.蛍光の内視鏡観察への応用には外因性に投与した蛍光物質の病変部への集積を観察する方法と,内因性の生体組織中の蛍光物質からの自家蛍光を観察する方法があり,後者を自家蛍光内視鏡という.

 AFI(autofluorescence imaging)はオリンパスメディカルシステムズ社が2006年から製品化した電子式の自家蛍光内視鏡システムで,電子内視鏡の先端に高感度撮像素子を内蔵し,外観・操作性は通常の電子内視鏡と全く同様で,高解像度の白色光観察に切換えて,ボタンひとつで蛍光観察を行なうことができるシステムである.

endocytoscopy 井上 晴洋 , 工藤 進英
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 生体内で直接,細胞観察を行いたいとの観点から,超・拡大内視鏡の開発が進んでいる.超・拡大内視鏡には主に2系統あり1),1つは「共焦点レーザー顕微鏡」2)3),もう1つが「接触型内視鏡系」である.endocytoscopyは,接触型内視鏡系に属する.

 接触型内視鏡系での細胞観察は1980年のHamou4)の婦人科領域での試みに始まる.1982年にTadaら5)は光学レンズ系の倍率をおよそ170倍まで上げ,大腸粘膜の観察を試みた.近年,大植が,Karl-Storz社製の硬性鏡を用いて,大腸癌の観察を行い,再び「接触型内視鏡」を再評価させた(大植,第37回日本癌治療学会総会,1999).さらに熊谷も,外科切除標本における食道扁平上皮細胞の観察を報告している(熊谷,第57回日本食道学会学術集会,2003).しかし消化管上皮の生体内での観察を行うためには,軟性鏡としての超・拡大内視鏡が必要であった.そこで大植,熊谷,筆者らの共同提案とオリンパスとの産学共同研究で開発されたのがプローブ型endocytoscopyである6)~8).その後,スコープとの一体型endocytoscopyが開発された9).現在は,一眼レフの一体型が作製されている.

IRI(infrared imaging) 永尾 重昭
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 消化器内視鏡分野での非可視光の照明光として用いる検討の歴史は古く,胃カメラ開発当初より行われていたが,多くの技術的困難により実用化し得なかった.電子内視鏡の時代に入り,CCD(charge coupled device)が赤外線に感受性があることから赤外線内視鏡が開発され,種々の検討から現在の2波長赤外線内視鏡が登場した.IRI(infrared imaging)とは,通常の内視鏡検査に用いられている可視光より長波長側の近赤外光を内視鏡の照明光とした検査法である.2波長とは805nm付近(805±15nm)および940nm付近(905~970nm)の光であり,これらが観察時に,赤外線透過フィルターとR,G,Bフィルターとの組み合わせにより順次照射され,805nm付近は黄色に表示され,また940nm付近は青色に表示される.単なる赤外線観察では,比較的モノトーンな黄色から青色へのコントラストのない画像になる.肝機能検査で用いられるICG(indocyanin green)を用いることにより視認能,識別能が向上する.ICGは血中で805nm付近に最大吸収ピークをもち,940nm付近では低い.805nm付近の光はICGに吸収されるのに対し,940nm付近の光は吸収されることはなくCCDで検出されモニター上で青色に描出される.また青色の視認能を向上させるために,IHb強調システムを応用して2段階の強調が可能である.

 可視光では得られ難い粘膜深部の情報,特に血管情報を得られることから,その発色パターンから胃腺腫,胃癌の鑑別診断,また分化型の早期胃癌の深達度診断(M,SMの鑑別)の一助として期待されている(Fig. 1).また,通常内視鏡では不可視である粘膜下層の比較的太い静脈がIRI観察で明らかとなりESD(endoscopic submucosal dissection)などの術前の出血余地,術後出血の予知に役立つ.さらには,通常無色透明な硬化剤がICG付加でIRI観察での食道静脈瘤硬化療法時には静的,動的にリアルタイムに硬化剤注入の状況が食道内,胃内分布(特に左胃静脈の胃壁枝)が明らかとなる(Fig. 2).硬化療法中には刺入している静脈瘤本体以外の隣接し,交通している分枝した可視光では視認できない細小静脈瘤への硬化剤の流入状況が観察できるので追加治療の適否などの効果判定の早期予測の一助としている.

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 三次元超音波内視鏡検査では外筒内を細径超音波プローブが移動しながら多数の超音波像(ラジアル像)を撮影し,その画像のコンピュータ処理により三次元的な画像を作成する.超音波内視鏡専用機を手動で移動して三次元表示を作成する方法が1991年に初めて試みられている.その後,細径超音波プローブが開発され,プローブを外筒内で移動させる方法が考案されると,外筒の位置を変えることによりあらゆる部位での描出が可能になった.はじめは手動でプローブを移動させたが,一定の速度で動かすシステムが製作されたことにより正確な三次元表示が可能になった.ラジアル像とそれにより作成されたリニア像,両者から成るDPR(dual plane reconstruction)表示像(Fig. 1),斜視表示像(Fig. 2),内視鏡像に類似した表面構築表示像(Fig. 3)が得られる.深達度診断,周囲臓器・脈管との関係の立体的な把握や体積測定に用いられる.深達度診断ではラジアル像とリニア像の両者により判定するため診断能が向上したとの報告が多い.心拍や呼吸による移動がリニア画像に影響することがある.

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 超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)は解像度が高く,他の画像診断では得られない消化管癌の深達度診断,粘膜下腫瘍の診断,消化管周囲のリンパ節腫大や吻合部周囲の病変の描出に優れた検査法である.しかし,上記疾患の良悪性の鑑別診断や質的診断にはEUS単独では困難なことが多い.超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration ; EUS-FNA)は消化管壁内・壁外の腫瘤性病変(膵腫瘍・リンパ節・粘膜下腫瘍など)を対象にしてEUSガイド下に専用の穿刺針で病変から組織を採取する方法である1)2).1992年にVilmannら3)により膵癌に対して初めて臨床応用されて以降,本邦においても2010年に保険収載されたこともあり,急速に普及してきている.

 EUS-FNAの主な適応は,EUSで描出される腫瘤性病変の良悪性の鑑別診断(Fig. 1a),化学・放射線療法前のhistological evidenceの取得,癌の進展度診断のための腫大した縦隔・腹腔リンパ節や少量の胸・腹水の採取などによる転移の有無の診断,などである.EUS-FNAの禁忌は,EUSで病変が明瞭に抽出できない場合,出血傾向がある場合,穿刺経路に腫瘍や血管が介在している場合,播種が危惧される場合,などである.消化管病変への適応としては,消化管粘膜下腫瘍の質的診断,特にGIST(gastrointestinal stromal tumor)か否かの診断に有用であるが,そのほかにリンパ節転移の有無,通常の内視鏡下生検では採取困難な粘膜下の要素の強い上皮性腫瘍,術後の吻合部やその周囲の再発の診断などに有用である.

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 ボーリング生検とは 通常の鉗子生検では粘膜および粘膜下層の一部しか採取できないため,病変の主座が粘膜下層以下の深部に存在する場合には目的とする組織標本を採取することが困難である.ボーリング生検とは,粘膜表面から深部に向かって同一の部位より鉗子生検を繰り返し,深部に存在する病変の組織を採取する方法である.

 ボーリング生検の適応 ボーリング生検の適応は,GIST(gastrointestinal stromal tumor)をはじめとする粘膜下腫瘍,通常の鉗子生検では癌陰性のスキルス胃癌1),粘膜下腫瘍様形態を呈する胃癌などが疑われる症例である.一方,悪性リンパ腫やカルチノイド腫瘍は粘膜下腫瘍様にみえても,腫瘍組織が比較的表層にも存在するため通常の鉗子生検でも腫瘍細胞の採取が可能な場合が多い.

CT colonography/enterography 平田 一郎
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 Helical CTの発達により腸管の三次元表示が可能となり,Vining1)はこの方法を応用したCTC(CT colonography)の報告を行った.その後,多列検出器型CT(multi detector-row CT ; MDCT)が開発され空間画像分解能は飛躍的に向上した.近年,MDCTを用いた消化管の新しい検査法はCTCやCTE(CT enterography)と呼ばれ,大腸や小腸に対する低侵襲検査として注目されている.しかし,現時点ではX線被曝や病変描出精度など改良すべき点がまだ多く残されている.

 CT colonography/enterographyの手順 CTCの前処置として,注腸の前処置であるBrown変法が用いられる.また,大腸内視鏡検査後にCTCを施行する場合はPEG(polyethylene glycol)などの腸管洗浄液が使用される.前処置法によっては残渣や残液が問題となるが,その場合は硫酸バリウムやガストログラフィンなどの陽性造影剤を検査前日などに経口投与し,残渣・残液を標識するfecal tagging法が用いられる.標識された残渣・残液はelectronic cleansingによる画像処理にて消去される.本検査の精度を高めるには腸管を十分拡張させた状態でMDCTを行うことが必要である.CTCでは,空気あるいは炭酸ガスを経肛門的あるいは内視鏡検査時に注入し,大腸を拡張させる.CTEでは,経口造影剤(PEGや0.1% w/v硫酸バリウム含有ソルビトール溶液)を検査前に多量に服用させ小腸を拡張させる.

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 小腸大腸病変の診断法の1つとして近年MRI(magnetic resonance imaging)が注目されている.MRIは肛門病変や瘻孔など腸管外病変の評価に特に有用であるが,デバイスの進歩による撮影時間の短縮で蠕動の影響が最小限となり,撮影法・前処置の改良から腸管内・壁内病変の存在診断・活動性の評価が可能となった.なにより,他の消化管の検査では多くなりがちな放射線被曝を回避できるのが最大のメリットであり,欧州をはじめとして腸管病変の診断においてMRIを第1選択のひとつとする動きがある.若年者の多い炎症性腸疾患ではよい適応となる.

 MREC(MR entero-colonography)はこれまでのMR enterographyの前処置の改良により小腸と大腸を同時に評価することができるようになった(Fig. 1, 2)1).ゾンデ挿入や注腸の必要がなく非侵襲的で簡便である.また,MRECに引き続き内視鏡検査を行うことで,小腸病変のスクリーニングと大腸の微細病変および組織学的な評価が同日で可能となり,実臨床上簡便かつ有用である.ただしニフレック®の小腸通過時間に個人差があり,上部小腸の評価が困難なことがある.

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 大腸癌発生のハイリスク群に対し,定期的に大腸内視鏡検査を施行して癌発生を監視することをいう.広義には大腸癌手術後症例,大腸癌・腺腫の内視鏡摘除後症例,家族性腺腫症などが対象になるが,一般にSC(surveillance colonoscopy)という用語を使用する場合には狭義の対象として炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)に定期的に施行する大腸内視鏡をいうことが多い.

 UCの大腸癌合併の危険因子として罹患年数の長さ,罹患範囲の広さ,大腸癌の家族歴,原発性硬化性胆管炎の合併,若年発症などが報告されている1)

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 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の大腸癌累積発生率はUC罹病期間10年で2%,20年で8%,30年で18%と報告されている.サーベイランスは,年1回大腸内視鏡検査を行って,UC合併腫瘍を早期発見し,早期治療を行うという戦略である.

 サーベイランス法として,step biopsyとtarget biopsy(狙撃生検)がある.

画像所見〔食道〕

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 食道狭窄の原因には,先天性奇形のほかに器質的な悪性疾患によるものと良性疾患によるものがある.頻度の高いものは,癌をはじめとする悪性腫瘍によるもので,造影検査では全周もしくは一部が境界明瞭な狭窄で,不整な潰瘍や狭窄部の辺縁不整を認める.狭窄の両端には周堤を伴うこともあり,潰瘍限局型(2型)や潰瘍浸潤型(3型)の進行癌の所見である(Fig. 1).良性疾患に伴う狭窄の多くは,造影検査で狭窄中心へ緩やかに移行する境界不明瞭な先細り様変化で,滑らかな粘膜面を呈し,辺縁の不整に乏しい.逆流性食道炎に伴うものでは,肛側に裂孔ヘルニアを伴い,狭窄部にはまれに瘢痕による小囊形成がみられる.Barrett食道では中・下部食道に狭窄を形成し,肛側には裂孔ヘルニアとともに特徴的とされる溝状,地割れ状の軽微な陰影斑(reticular pattern)が認められる1).まれに高位狭窄もみられる.非対称性に偏位した狭窄では悪性腫瘍の存在に注意を要する.そのほか,酸やアルカリなどの腐食性化学物質の嚥下による腐食性食道炎では高率に狭窄形成がみられ,重度のカンジダ食道炎などの感染症(Fig. 2),放射線治療後の晩期障害,長期の胃管挿入,まれなものでは食道粘膜剝離,皮膚疾患の水疱性食道病変(pemphigus,pemphigoid)などの報告がある2).幅の狭い輪状の狭窄には食道webとSchatzki輪がある.前者は上部~下部食道の扁平上皮領域にみられる膜様狭窄3)で,後者はヘルニアを伴う下部食道の扁平上皮と円柱上皮の接合部に認められ,ほぼ対称的な切れ込み状の狭小化を呈する(Fig. 3)4)

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 De Carvalho1)は胃噴門部粘膜下層の血管が食道胃接合部で粘膜固有層に入り込み,下部食道の粘膜固有層を2~3cm(平均2.5cm)口側へ走行し,再び粘膜下層に移行することを報告した.内視鏡では下部食道に見られる柵状血管がこれに相当する.

 食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)は常に収縮しているため,内視鏡観察が難しく,柵状血管の観察にはコツを要する.被験者に大きく息を吸ってもらうと縦隔が陰圧になり,食道が拡張すると同時にEGJが口側へ移動するため,EGJの観察が容易となる.また,食道拡張に伴って上皮が薄くなるため,柵状血管も観察しやすくなる.

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 食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)は,食道と胃の接合部を意味し,粘膜接合部と筋層構造上の接合部(移行部)から成り立っている.横隔膜の高さとほぼ一致するが,内視鏡による粘膜面からの観察,X線像や解剖学的な周囲臓器の位置関係からの観察により,それぞれ異なった部位を意味している可能性がある.臨床的には,内視鏡検査で観察される食道粘膜と胃粘膜の接合部,X線検査で観察される管状の食道が胃に入る解剖学的な接合部,外科手術時に観察される食道の内輪筋と胃の深部の厚い筋層との接合点の三者がEGJとしてが経験される.通常は内視鏡検査で粘膜面から食道胃接合部を観察することが多く,逆流性食道炎やBarrett食道の診断に重要な指標となる.EGJは組織学的にはSCJ(squamocolumnar junction)と呼ばれ,重層扁平上皮である食道粘膜と胃噴門部の腺上皮が一線を画して接しているが,逆流性食道炎や胃炎の食道への波及により,波形,時に火焔状を呈することがある.Barrett食道が生じると,本来のEGJと,食道側へ進展したBarrett粘膜と食道扁平上皮との接合部(SCJ)の2か所に接合部が生じる.

 「食道癌取扱い規約」(2008年10版補訂版)1)では,EGJの同定は,内視鏡検査では食道下部柵状血管の下端,あるいは胃大彎の縦ひだの口側終末部,上部消化管造影検査ではHis角を水平に延長した線,あるいは胃のひだの口側終末部で行うと記述されている.欧米では,胃縦ひだの口側終末部がEGJとされているが,日本では2つの基準があり,症例によっては両者がずれることもある.萎縮性胃炎が進行すると胃体部の縦ひだは消失するので,この場合は,柵状血管の下端をEGJとすることが多い.柵状血管を正確に観察するには,胃内の空気を少なくし,被検者に十分に深吸気を行わせることが必要で,深鎮静により意思疎通が図れないときは困難である.大彎のひだ口側終末を基準とするときは,胃内を過伸展させるとひだは縮小あるいは消失するので,できるだけ胃内にスコープを挿入する前に観察する.

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 食道皮脂腺は,異所性の皮脂腺である.通常,異所性皮脂腺は外胚葉系由来のため,口腔,口唇に黄色の顆粒として認められるが,内胚葉由来の食道粘膜に認められることはまれとされてきた.しかし,内視鏡機器や診断技術の向上により,必ずしも,まれな疾患ではなくなりつつある1)

 De La Pavaら2)が,1962年に初めて食道皮脂腺に関して,剖検例で200例中4例に病理組織による皮脂腺を確認している.

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 glycogenic acanthosisは,グリコーゲンを含む扁平上皮の過形成である.通常内視鏡像では,白色調,半透明の類円形,平板状隆起として観察され,大きさは2~10mmで多発することが多い(Fig. 1).近接すると内部に白色調の微細顆粒を認める(Fig. 2).NBI(narrow band imaging)拡大内視鏡像では,正常粘膜よりも密度が低く細い線状の乳頭血管が規則正しく分布している様子が観察できる(Fig. 3).ヨード染色像では,境界明瞭な褐色調に濃染され,内部に点状の不染が規則正しく配列してみえる(Fig. 4).

 病理組織像では,明るく豊富な細胞質をもつ有棘細胞の増生する粘膜上皮の肥厚性変化を認める(Fig. 5).ヨードで染色されるのは,粘膜上皮の表層および有棘細胞層内に蓄えられているグリコーゲンがヨウ素に対して化学反応を起こすためであり,有棘細胞が増生するglycogenic acanthosisでは濃染される.

畳目模様(tatamime sign) 平澤 大
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 畳目模様(tatamime sign)1)は食道の内視鏡観察時にみられる細かい輪状のひだを指し,畳の模様に類似した所見である.別名,“輪状ひだ(食道)”や“畳の目サイン”と呼称されるニックネームであり,消化器内視鏡用語集2)にも記載されていない.

 畳目模様は食道表在癌の深達度診断に有用な所見として,神津3)により「胃と腸」で報告された.通常観察時にも出現するが,ヨード染色後に出現することが多い(Fig. 1).また,意識的に出現させることは難しく,空気量を調節し,弱伸展で待っていると,出現しやすい.正常粘膜では,均一な細い輪状かつ波様のひだとしてとらえられる.pT1a-EP癌では畳目模様は崩れることはなく(Fig. 2),pT1a-LPMの癌病巣では1/2の症例で模様が崩れ,pT1a-MM以深の癌病巣では途絶すると言われている(Fig. 3, 4)4)~6).つまり,癌病巣内の畳目模様が崩れた,もしくは消失した場合はpT1a-LPMより深い浸潤を示唆する所見である.

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 brownish areaとmetallic silver signはともに咽頭・食道領域におけるNBI(narrow band imaging)観察における病巣を表現する用語である.上部消化管内視鏡においてNBI観察では,“brownish area(褐色の領域)”としての病巣を拾い上げることができる(Fig. 1)1).brownish areaとして関心領域を拾い上げると,同部をNBIのまま拡大観察を行う.このときbrownish areaの中に異常血管(IPCL-IV,V)を確認できれば,癌を強く疑う.褐色調の色調は,「異常血管(IPCL-IV,V)」と「血管間に介在するbackground coloration sign(BC sign)陽性」の2つのファクターより構成される.NBI拡大内視鏡診断に当たっては,brownish area内の「異常血管(IPCL-IV,V)の増生」が最も重要であり,その所見に加えて,さらにBC sign陽性を認めると癌の可能性が高まる.

 metallic silver signは,ヨード染色におけるピンクカラーサイン(Shimizuら)2)のNBI観察における所見である.ピンクカラーサインは扁平上皮癌に特異的な所見であるが,NBIで観察するとよりコントラスト高く観察することができる.metallic silver signが最も役立つのは,まだら食道における癌病巣の拾い上げにおいてである3).アルコール多飲の患者では,粘膜癌の拾い上げに際してNBI観察を行っても,明瞭なbrownish areaが観察されないこと,あるいは不規則,あいまいに広範囲に出現することも多い.そのような病変では,まずは従来から行われているヨード染色を行うと多数の不染帯(このような不明瞭な不染帯を淡染と呼ぶことも多い)が描出される4)5).それらは,ほとんどが低度,高度の上皮内腫瘍に一致する.このヨード不染帯のなかにピンクカラーサインを認めると,粘膜癌を疑う.このピンクカラーサインを高コントラストで強調させる方法が,metallic silver signである(Fig. 2).臨床上の意義はピンクカラーサインと全く同様であるが,その視認性が著しく向上する.metallic silver signは,扁平上皮癌が上皮表面に露出した場合に観察される.血管外(組織内)のヘモグロビンの色調であろうとの研究が進んでいる.

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 胃・大腸の腺上皮では,内視鏡の拡大観察において,表面模様(いわゆるpit pattern)が組織の構造異型を観察する指標となる1).しかし咽頭食道の扁平上皮では,表在血管網が観察できるところに特徴がある.この表在血管網の最表層に位置するものがループ状の毛細血管である.このループ状血管を上皮乳頭内血管(intraepithelial papillary capillary loop ; IPCL)と呼ぶ.咽頭および食道の表在血管網は,拡大内視鏡観察所見からFig. 1のように推定される2).NBI(narrow band imaging)では樹枝状血管網は緑色に観察され,IPCLは褐色のループ状の線(brown dots)として,最も浅層に観察される(Fig. 2).IPCLは粘膜固有層の結合織を伴いながら,上皮層に乳頭状にほぼ垂直にせり上がってゆく.IPCLは上皮基底層に近接するがゆえに,基底層の構造異型を間接的ではあるが,如実に反映する.このIPCLの変化は,扁平上皮の性状診断,深達度診断に役立つ.

 扁平上皮の内視鏡的異型度診断 上皮内癌では,brownish area(あるいはヨード不染部)の中にIPCLの変化として,“拡張”,“蛇行”,“口径不同”,“形状不均一”の4つの要素が認められることが多い(Fig. 3)3).このIPCLの変化は,健常粘膜から癌まで連続的に観察される4),これがIPCLパターン分類である(Fig. 4).この分類では,IPCL type I(健常粘膜)から,IPCL type V(上皮内癌)までに分類される(Fig. 4の赤枠).

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 食道裂孔ヘルニアは,生理的に存在する食道裂孔をヘルニア門とし,腹膜,食道横隔膜靭帯,胸膜をヘルニア囊とし,胃の一部をヘルニア内容物とする内ヘルニアの一種である.食道裂孔ヘルニアは横隔膜ヘルニアの中で最も頻度が高く,本邦では平嶋1)がX線造影にて滑脱型(sliding type),傍食道型(paraesophageal type),混合型(mixed type)に分類し,現在この分類が広く用いられている(Fig. 1).

 診断はX線造影のほか,内視鏡,食道内圧測定により決定されるが,可逆性の症例もあり,またどの程度から食道裂孔ヘルニアとするかの基準がないことが問題である.最近は内視鏡検査で食道裂孔ヘルニアを診断する場合が多いが,その分類には幕内2)の分類が有用である(Fig. 2).同分類法は,上記の問題点を踏まえたうえで,確診(definite)と疑診(minor)と大まかな分類を行っている.また,Hillら3)が提唱している内視鏡反転観察時のflap valveの評価も下部食道括約部機能の判定に有用であり,逆流性食道炎の内視鏡的重症度との間に相関が認められると報告されているが,食道裂孔ヘルニアの直接的な分類法ではない点に注意が必要である.

画像所見〔胃〕

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 内視鏡検査時,胃粘膜に,あたかも鶏の毛をむしり取った後の皮膚のように,胃粘膜に均一な小顆粒状隆起が密集して認められるものを鳥肌状胃粘膜と呼び,その所見は胃角部から前庭部に認められることが多い.1962年に竹本ら1)は,20歳女性の胃カメラ所見で初めて“とりはだ”なる表現を用い,その後,“内視鏡的鳥肌現象”として報告した2).硬性鏡検査時によく観察され,若い女性に多く,検査に対して精神的緊張が強いために起こるのではないかと当初は考えられた.そのため,鳥肌状の胃粘膜を認めても,若い女性に多い生理的現象であると理解され,病的意義は少ないと理解されていた.

 竹本の報告後,小西ら3)は“鳥肌状胃炎”と呼び,若年者に認められる化生性胃炎の初期像として,さらに,1985年に宮川ら4)は21例の鳥肌状胃粘膜症例を検討した.組織学的に腺窩上皮の過形成がほとんどの症例にあり,リンパ濾胞形成が多く認められたことを報告している.この論文ではHelicobacter pylori(H. pylori)感染との関連は論議されていないが,リンパ濾胞形成が目立つことから,胃粘膜局所の過剰反応の可能性があること,また,組織学的にfollicular gastritisであることなどが指摘されている.しかしながら,一般的には病的意義が明らかでなく,生理的変化と理解されていたためか,胃粘膜に関する内視鏡診断のテキストは数多く出版されているが,ほとんど取り上げられることはなかった.

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 古くは1920年代のSchindlerらによる内視鏡的胃炎の研究から,本邦では1969年に木村・竹本らにより内視鏡的萎縮移行帯の概念が提唱され,近年ではSydney systemによる胃炎の分類が国際的に広く普及し,萎縮性胃炎は組織学的,内視鏡的所見から他の胃炎と区別されている.

 その病態は,H. pylori菌の感染をはじめとする様々な化学的・物理的刺激によって,粘膜固有層への炎症細胞浸潤が慢性的に起こり,固有腺が減少・消失することである.通常は幽門腺領域より始まり,年齢とともに小彎を中心として胃底腺領域まで拡大し,多くの萎縮性胃炎では腸上皮化生を伴う.

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 蚕食像 陥凹型胃癌の表面に露出した陥凹部と非露出部の境界に認められる微細な不整所見で,悪性診断の最も重要な指標である.ひだ集中の有無にかかわらず,癌の辺縁に認められる.癌が粘膜表面に露出すると,同部はびらん性変化を受けて組織の欠損が認められる.この組織欠損部と非癌粘膜上皮の境界が蚕食像であり,未分化型癌(por,sig)でより明瞭に認められる(Fig. 1, 2)1)

 ひだの集中 UL-II以上の潰瘍および潰瘍瘢痕に向かって周囲から粘膜ひだが集中する所見である.良性潰瘍では集中する粘膜ひだはなだらかに収束する.陥凹型胃癌でも早期癌を中心にしばしば消化性潰瘍および潰瘍瘢痕を伴い,同部に向かって粘膜ひだが集中する.集中点を認めれば,粘膜ひだ集中といってよく,その先端形状は癌浸潤の深さと量により,以下に述べるように様々に変化する.既存の粘膜ひだの豊富な胃体部大彎側で認めることが多い1)2)

びらん(erosion) 佐藤 俊 , 長南 明道
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 組織学的には,粘膜筋板を越えない浅い粘膜の組織欠損をびらんと称するが,臨床的には様々な疾患でびらんを生じるため,その鑑別が重要である.

 良性びらんには,ストレスや薬剤,H. pylori感染を原因としたものや(Fig. 1, 2),Crohn病などの全身疾患,ウィルスや細菌,梅毒などの感染に伴うものまで多様であるが,びらんが多発することがほとんどである1)

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 巨大皺襞には明確な定義はないが,腫大と屈曲蛇行を呈するひだのことをいい,ひだ間の溝は狭く,屈曲蛇行が強まれば大脳回転様所見を呈する.X線的には適度に胃壁が伸展した二重造影像において幅が10mm以上のひだを,内視鏡的には十分な送気によっても腫大して観察されるひだを巨大皺襞と診断しているが,その概観をとらえるにはX線像が適している.

 巨大皺襞は種々の疾患で認められる1)が,それ自体は良性あるいは悪性を意味するものではない.巨大皺襞を裏打ちする病理組織学的変化2)は疾患によって異なり,(1) 胃腺の肥大または過形成によるびまん性の肥厚(肥厚性胃炎,Ménétrier病,Cronkhite-Canada症候群),(2) 粘膜間質の浮腫(急性胃炎)や種々の細胞浸潤による粘膜・粘膜下層の肥厚(悪性リンパ腫),(3) 粘膜下層や筋層の線維性組織増生に伴う収縮(スキルス型胃癌),(4) 漿膜側からの炎症の波及(急性膵炎)などが認められるが,いくつかの機序が重なり単純でないこともある.臨床的に巨大皺襞を認めた場合,胃壁の硬化を伴っているか,否かを鑑別3)することが重要である.

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 ドイツ語のKammrötungである.表層性胃炎の胃鏡所見として,1956年刊行のHenning Nの書に記されている1).胃の皺襞の頂上を,幅をもった発赤が帯状に続いている所見である.

 わが国では胃鏡が普及しなかったこと,胃カメラでは診断困難であったことから,ファイバースコープの時代になった1970年代の後半からこの所見が記載されるようになった.欧米では体部を中心に皺襞頂上部にみられているが,日本では前庭部大彎を中心に,数条の縦走する帯状発赤として認められた.

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 RAC(regular arrangement of collecting venules)とは内視鏡的に“胃体部に集合細静脈が規則的に配列する像”を指す1)2).遠景では“無数の点”として視認され(Fig. 1),近接では“ヒトデ状の血管模様が整然と配列する像”として視認される(Fig. 2)1).このようなRAC像が胃体部全体に観察される場合をRAC陽性としてH. pylori非感染の正常胃と判定する1)2)

 RAC陽性の場合は95%の正診率でH. pylori非感染の正常胃である1)2).十二指腸潰瘍など萎縮領域が遠位側のみのH. pylori感染胃では体上部にはRAC類似内視鏡像(ニセRAC)が観察されることがある.これは前庭部優位胃炎で体上部まで炎症がほとんど及んでいないためである.このような症例でも体下部ではRAC像が消失していることが多い.RAC陽性か否かの判定は体下部で行うことを筆者は推奨している(Fig. 3).典型的なH. pylori非感染の正常胃では胃角から前庭部小彎の近位側にもRAC像が観察される(Fig. 4)1)

light blue crest 上堂 文也
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 H. pylori(Helicobacter pylori)の持続感染は,胃粘膜の萎縮を惹起し腸上皮化生を生じさせる.胃の腸上皮化生は,分化型胃癌発生のリスクと密接に関連することが示されている.通常内視鏡で胃の腸上皮化生は軽度の隆起,もしくは平坦な褪色調の領域,または陥凹した同色または軽度発赤調の領域として認められるが,正確な診断は困難とされていた.胃の腸上皮化生をNBI(narrow band imaging)で拡大観察すると,上皮の辺縁部(表面)に青白色調の光の線を認める(Fig. 1).これが,LBC(light blue crest)であり,“上皮の表層を縁取る青白い細い線”と定義されている1).同部を生検すると高率に腸上皮化生を認め,H. pylori陽性胃炎例において腸上皮化生を診断するうえで有用な内視鏡所見である.

 NBIでは400~430nmと515~555nmの狭帯域光を照射し,前者の反射画像を緑と青色に,後者を赤の疑似カラーに割り当てている.LBCは主に400~430nmの光が強く反射することによって生じているため,緑と青の疑似カラーの合わさった明るいシアン色(light blue)に見える.腸上皮化生表面の刷子縁の繊毛様構造による光の反射特性の違いがこのような現象を生じさせているのではないかと推測されている.LBCを認める腸上皮化生粘膜は多くが畝状~乳頭状の表面構造で,これがcrest(隆起状のものの頂部)の名前の由来にもなっている.しかし,陥凹型の腸上皮化生などで星芒状~線状の腺窩開口部にLBCを認めることもあり(Fig. 2),0-IIc型早期胃癌との鑑別のうえで重要である.

surface pattern 八尾 建史
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 本用語は内視鏡で観察される表面構造を指す.標準的な白色光内視鏡観察にインジゴカルミン色素撒布法を併用すると,表面構造が高いコントラストで描出される(Fig. 1).色素撒布法により視覚化される正常粘膜における表面構造は胃小区構造,胃小溝である.

 局在病変の診断に用いる表面構造は,大まかな凹凸・類小区構造や境界線の性状,周囲の粘膜や集中するひだの所見などから成り,局在病変の質的診断や早期胃癌の境界診断・深達度診断などに有用である1)

vascular pattern 八尾 建史
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 vascular patternとは,内視鏡で観察される血管の形態学的所見を指す1).標準的な白色光を用いた内視鏡観察で視覚化される血管は,正常胃粘膜では,集合細静脈CV(collecting venule)である.萎縮性胃炎では,集合細静脈に加えて粘膜下層の静脈(vein)が視覚化される(Fig. 1).

 標準的な白色光で視覚化されるvascular patternは,Helicobacter陽性胃炎(RACの項を参照)・萎縮性胃炎(Fig. 1)・癌の存在診断・境界診断(Fig. 1)2)に有用である.

demarcation line 八尾 建史
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 demarcation lineとは,一般的には,境界線,分画線,分界線を指し示す用語である.局在した粘膜病変の拡大内視鏡診断を行う際の指標に用いる場合,局在病変の背景粘膜と病変に存在する明瞭な境界線をdemarcation lineと称する(Fig. 1)1).demarcation lineの有無を判定するには,背景粘膜と病変の間に微小血管構築像〔MV(microvascular)pattern〕または表面微細構造〔MS(microsurface)pattern〕の急峻な変化(abrupt change)を認める場合を,demarcation lineありと判定する.

 demarcation lineは,VS classification systemによる癌・非癌の診断に有用な指標である2).それによると,demarcation lineの内側にirregular MV patternやirregular MS patternが存在する場合を癌と診断する(Fig. 2).demarcation lineは,臨床的には胃炎と胃癌の鑑別診断3)4)や早期胃癌の境界診断5)に有用な所見であり,発赤した病変については,demarcation lineが存在しない場合は,非癌と診断することができ,陰性的中率(negative predictive value)が高い指標である.

white zone 八木 一芳
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 white zone1)2)とはNBI(narrow band imaging)拡大内視鏡観察で観察される粘膜模様を形成する白っぽい縁を指す(Fig. 1,矢印).血管を内包する粘膜模様の縁取りをするwhite zone(Fig. 1)と網目様血管の内側に輪状に観察されるwhite zone(Fig. 2)に大きく分かれるが,上皮の状態によってwhite zoneは多彩な像を示す.前者(Fig. 1)は血管を骨組みとした間質の周りに乳頭・顆粒様に上皮が配列した構造であり,後者(Fig. 2)は網目状に走行した血管を骨組みとした間質の中に円筒状の腺管が組み込まれた構造である.

 NBI拡大観察で真上から観察した場合,腺窩辺縁上皮に入るNBI光は血管には当たらず,散乱により白縁,すなわちwhite zoneとして観察される(Fig. 3)2).しかし斜めからNBI拡大観察した場合は窩間部から腺窩上皮に抜けるNBI光が血管に当たらず,散乱によりwhite zoneとして観察される(Fig. 4)2).すなわちNBI光の方向によってwhite zoneを表す粘膜の解剖学的部位は異なる.

画像所見〔腸〕

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 1965年,Williams1)はX線二重造影像上,大腸粘膜表面にみられる最も微細な模様を「innominate grooves」と命名し,ルーチン検査では約1/4に描出され,小範囲に認められるに過ぎない,と報告した.1971年,刈谷,西澤ら2)は「innominate grooves」から形成される大腸粘膜の微細な模様をFNP(fine network pattern)と名付け,大腸粘膜の微細所見の基本像と位置づけた.彼らの努力によりこのnetwork patternの描出率は約70%へと向上した.

 FNPの1区域は20~100の腺開口(pit)から形成されている.また,FNPは上行,横行,下行結腸においては平均3×1mm,S状結腸では四辺形に近くなり,大きさは2×1mm程度であるとされている(Fig. 1).FNP描出率の向上により,微細・微小病変の描出・鑑別診断が可能となり,潰瘍性大腸炎,腸結核,Crohn病,虚血性腸炎など炎症性腸疾患における病変の推移や治療効果の判定が可能となり,本邦のX線診断学の発展に大きく寄与した.

白色絨毛(white villi) 青柳 邦彦
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 内視鏡観察時,十二指腸あるいは小腸にびまん性あるいは皺襞主体の淡い白色調粘膜を示すものを白色絨毛(white villi,Fig. 1),撒布性に小さく明瞭な白点を示すもの撒布性白点(scattered white spots,Fig. 2)と呼んでいる1)2).いずれの白色調変化も,腸に吸収された食事性脂肪の転送障害を反映している2).白色絨毛では,吸収された脂肪の絨毛粘膜におけるリンパ管(中心乳糜管)への吸収転送障害が原因となっている.撒布性白点では,絨毛の中心乳糜管から中枢側への転送障害あるいは遅延が原因となり,中心乳糜管が拡張し白点を示す.腸の中心乳糜管には弁がないため,腸リンパ管拡張症では中枢側リンパ管の狭窄により末梢側リンパ流障害とリンパ管拡張が生じ,白色絨毛や撒布性白点を認める.

 白色絨毛と撒布性白点は必ずしも病的所見ではなく,健常者でも観察されることがある(Fig. 3)3).食事性脂肪摂取量が多い場合や胃運動能が低下している場合には,脂肪の吸収・転送が遅延する結果みられる.また,脂肪摂取から内視鏡検査までの時間が短い場合にも観察される4).一方,腸リンパ管拡張症では食事内容や時間とは関係なく認められる所見である.

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 パイエル板は,小腸に存在する孤立リンパ小節の集合体で,JC Peyer(1677, 1681)により初めて記載された1).Peyer板はそのほとんどが回腸にみられ,回腸終末部に向かってその数や大きさを増し,腸間膜付着部の反対側に分布する.一般的にPeyer板は長さ4~5cm,幅1cmの小判型で,形状は雑多であり,肉眼的に認識が困難なものも多いとされるが,腸管の長軸に沿った網目像や顆粒物(リンパ小節)の集合する長楕円形のわずかな隆起として認められ,同部でKerckring皺襞は消失している.個数は年齢により異なるが,12歳頃に最多となり,その数は100を超える.一般には,1個のPeyer板は20~400個のリンパ小節から構成されており,組織学的には,粘膜固有層および粘膜下層に腫大したリンパ濾胞が集簇して認められる2)

 X線検査では,Peyer板は腸間膜付着対側にKerckring皺襞の消失を伴った周囲の絨毛像とは異なる顆粒像や粗な網目像として描出され,側面像では腸管壁の辺縁不整所見として認められる(Fig. 1).内視鏡検査では,腸間膜付着対側に長軸方向に伸びる島状の顆粒状または平坦な蒼白調粘膜として認められる.色素撒布やNBI(narrow band imaging)を併用すると,周囲粘膜とは絨毛構造,密度が明らかに異なる顆粒の集簇した領域として,明瞭に観察される(Fig. 2).

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 大腸癌の治療方針を決定するうえで重要な,SM高度浸潤癌を疑う通常内視鏡所見の指標として,「大腸癌治療ガイドライン医師用,2010年版」には“緊満感,びらん,潰瘍,ひだ集中,変形・硬化像”が記載されている1).本稿ではその中で,緊満感を呈する病変の病理学的所見,内視鏡診断におけるその所見の意義,実用性について述べる.

 緊満感とは 緊満感とは通常内視鏡観察において病変全体またはその一部において,表面が平滑で光沢を有し,膨張性に発育している印象を受ける肉眼所見のことである.この所見はインジゴカルミン撒布を行うと,病変表面の模様が詳細に観察され(Fig. 1),光沢も感じなくなるため,通常観察で評価することが望ましい.また,腸管の伸展具合が不十分な状態では粘膜厚が厚くなり,癌がSM高度に浸潤していてもその存在が隠れてしまう可能性がある.そのため,緊満感は腸管を十分に伸展したうえで判定する必要がある.

non-lifting sign 田中 信治
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 non-lifting signとは,Unoら1)によって提唱された用語であり,大腸腫瘍の粘膜下層に生理食塩水を局注しても病変周囲の粘膜は膨隆するにもかかわらず,病変自体は沈んだような状態を呈し挙上しないことを示すものである.その主たる原因は癌浸潤に伴う間質反応や病変直下の粘膜下層の線維化である.non-lifting sign陽性の病変は,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)が不能であることを意味しており,特に浸潤癌の場合は癌深部断端陽性となり確実に不完全摘除となり癌の壁内遺残を起こすため,EMRは禁忌である.

 大腸の粘膜は薄く,その厚さは約500μm程度であり,大腸腫瘍,特に表面型腫瘍をしっかりと鉗子生検すると粘膜筋板が破壊され粘膜下層にnon-lifting sign陽性の原因となる線維化が生じる(Fig. 1).したがって,拡大観察によるpit pattern診断や画像強調観察(narrow band imaging ; NBI/flexible spectral-imaging color enhancement ; FICE)などでoptical biopsyを行い,完全摘除生検としての内視鏡治療の適応があるかどうかを判定することが推奨されている.なぜならば,不用意な鉗子生検のために,EMRで瞬時に摘除できる病変に対して,近年普及してきた内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)を導入しなくてはならなくなるからである.生検がどうしても必要な場合は,粘膜下層に影響が及ばないような工夫が必要であろう.

白斑(white spots) 山野 泰穂
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 白斑は白点輪とも言われ,大腸腫瘍の周囲正常粘膜に認められる白色点状の所見である(Fig. 1, 2).その部分の病理所見としてはfoamy cellの集合とされ,SM癌の指標であると報告された経緯があった1)2)

 しかしその後の検討で,SM癌以外にも認められるとの報告もあり,実臨床的には腺腫性病変においてもしばしば経験する所見である.工藤3)は大腸上皮性腫瘍4,363病変における白斑の出現に関する検討で,腺腫2.5%,早期癌13.2%,進行癌61.8%としており,癌の進行度により頻度が高くなるとしている.また井上ら4)も同様な報告をしており,腺腫であっても高異型度腺腫のほうが,出現頻度が高い傾向があることを指摘している.加えて,肉眼形態別では隆起型により高く,腫瘍径が大きいほどより高い傾向を示すとした.一方,工藤らはLST(laterally spreading tumor)では腺腫,早期癌とも同等の白斑の出現率であったと報告しているが,LSTではある程度腫瘍径が大きい病変も含まれており,LST顆粒型と非顆粒型でも異なることが示唆される.以上のように白斑の出現に関してある程度の傾向があることが示されているが,決して癌に特異的な所見ではないことも理解する必要がある.

陥凹局面 山野 泰穂
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 1977年に狩谷ら1)が大腸における平坦・陥凹型早期癌“IIc”を発見して以来,当初は“幻の癌”とされたが徐々に症例報告が増え“実在する癌”として認識され,大腸IIc研究会を通じてその臨床病理学的検討が成されてきた.その結果,IIc病変の多くは高分化あるいは中分化腺癌であり,悪性度や転移率の高さ,adenoma carcinoma sequenceとは異なる癌の発育進展をとること(de novo)などの素性が明らかになった2)

 その一方で,IIa様の病変で色素撒布によりその頂部に色素の溜まりを呈する,なだらかな凹部を伴う腺腫性病変(いわゆるIIa+dep)3)が見い出されるようになったことで,前述の真のIIcとの区別のために陥凹の定義が必要となった.

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 縦走潰瘍とは,腸管の長軸方向(縦)に沿った潰瘍を意味する.内視鏡的には,細くて長い白苔を有する潰瘍である.典型的な縦走潰瘍を呈する疾患として,Crohn病,虚血性大腸炎がよく知られるが,そのほかの腸炎でもみられる.

 Crohn病の診断基準改訂案(渡辺班,2011年)では,縦走潰瘍とは『4~5cm以上の長さを有する腸管の長軸に沿った潰瘍』と定義している(Fig. 1)1).小腸病変は,典型的には縦走潰瘍を腸間膜の付着側に形成する.Crohn病の大腸病変は,幅の広い縦走潰瘍(Fig. 2)を形成し,治癒とともに片側性変形を呈する.

cobblestone appearance 平井 郁仁
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 cobblestone appearanceは,敷石像,敷石様外観とも呼ばれ,Crohn病(Crohn's disease ; CD)に特徴的な形態所見である.本邦におけるCDの診断基準では,縦走潰瘍とともに主要項目の1つとして挙げられている1).他の疾患が除外できればcobblestone appearanceの存在のみでCDと確定診断することが可能である.したがって,画像所見でCDのcobblestone appearanceか否かを読み取ることが鑑別診断のうえで非常に重要である.その成因は,網目状に縦横に走行する潰瘍によって囲まれた残存粘膜が,島状に膨隆したものが集合することによる.通常は活動性の縦走潰瘍部に認め,名称は西欧の石を敷きつめた歩道に由来する.局所の炎症が高度な時期にみられ,治療により,所見は軽快ないし消褪する.炎症性ポリープの密在との判別は難しい場合があり,通常はこの場合もcobblestone appearanceと呼ぶが,縦走潰瘍の並存がない点が異なる.小腸では典型的なcobblestone appearanceを呈する頻度は低いが,CDでしかみられない極めて特異性の高い所見と言える(Fig. 1).

 大腸では小腸より頻度が高い所見で,上行結腸や下行結腸(Fig. 2)で典型像を認めることが多い.高度のcobblestone appearanceは,難治化の要因でもあり,治療に抵抗して,狭窄や瘻孔を来すことが多い.したがって,大腸に高度のもしくは広範囲にcobblestone appearanceを認める症例では,抗TNF-α抗体など有効な治療を早期に行う必要がある.

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 輪状潰瘍(annular ulcer,circular ulcer)は腸管短軸方向に走行する潰瘍で,典型的な場合には全周性の病変である.幅が広くなると帯状潰瘍(girdle ulcer)と呼ばれる.潰瘍または瘢痕によって対称性の狭窄を来した場合は輪状狭窄と表現される.小腸・大腸でみられることが多く,この所見がみられる疾患としては腸結核,NSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drug)起因性腸炎,非特異性多発性小腸潰瘍症(慢性出血性小腸潰瘍症),急性出血性直腸潰瘍が代表的であるが,Crohn病,虚血性大腸炎,虚血性小腸炎,放射線性腸炎,アメーバ性大腸炎などでもみられることがある1)

 腸結核は右側結腸,回盲部,回腸に好発する.連続性のある輪状潰瘍よりは不整形小潰瘍が非連続的に輪状配列する場合が多く(Fig. 1),連続した潰瘍を形成する場合は幅が広い帯状潰瘍であることが多い(Fig. 2).未治療の段階でも周囲に小型の炎症性ポリープや萎縮瘢痕帯が併存することが多い.NSAID起因性腸炎でも輪状潰瘍がみられることがあり,大腸においては半月ひだ上(Fig. 3),小腸では輪状ひだ上に浅い潰瘍が形成される(Fig. 4).非特異性多発性小腸潰瘍症は慢性出血による貧血と低蛋白血症を来す疾患で回腸に浅い輪走,ないし斜走する潰瘍が多発する.虚血性大腸炎では縦走性の病変が有名であるが,半月ひだ上に紅暈を伴うびらんがみられることがある(Fig. 5).急性出血性直腸潰瘍は長期臥床中の患者で突然に無痛性の大量出血を来す疾患であり,歯状線近傍の下部直腸に限局して輪状,帯状潰瘍や輪状配列する類円形ないし不整形潰瘍が特徴的である.

skip lesion 別府 孝浩 , 松井 敏幸
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 Crohn病の診断基準改訂案(渡辺班,2011年)1)によると,臨床所見における消化管腸病変の特徴に“非連続性または区域性病変(skip lesion)”がある.この概念は,潰瘍性大腸炎が連続性病変を特徴とし,両者を鑑別する際に重要な所見と考えられてきた.しかし実際には鑑別能がそれほど高くないことが判明し,今日ではCrohn病診断基準からは外れることになった.Crohn病においては,縦走潰瘍,敷石像,狭窄が正常粘膜を介し,非連続性に認められれば診断の参考所見となる.

 通常,病変と病変が正常粘膜像(X線,内視鏡所見あるいは肉眼的に)を有する腸管を介して離れて存在する際にskip lesionと呼ばれる(Fig. 1).この用語で問題になるのは,X線像または内視鏡像で病変間に介在している正常粘膜と判断した部位からgranulomaが検出されたとき,切除標本で正常粘膜と思われる領域を詳細に検索した際にgranulomaの他に微小びらんや浅い瘢痕などが証明された場合である.これらの部位を正常粘膜としてよいか,skip lesionの概念に当てはまるかについては明確な答えはない.

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 萎縮瘢痕帯という用語は,「胃と腸」誌12巻12号「大腸結核のX線診断」の論文に白壁ら1)により「潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯」として初めて記載された.潰瘍瘢痕に伴う萎縮帯は一般的に使用するには長いので“萎縮瘢痕帯”という表現が慣用的に用いられ,現在は一般的に使用されている.

 腸結核の診断は切除標本で組織学的に乾酪壊死を病変部またはリンパ節に認めることによる.乾酪壊死を有する病変の肉眼所見と非乾酪壊死のみを有する病変の肉眼所見が非潰瘍部で極めて類似していた.また,肉芽腫を認めない病変でも乾酪壊死を認めた病変とも肉眼所見が類似していた.白壁ら1)はこれらにより,乾酪壊死を認めなくても,萎縮瘢痕帯を認めた場合に腸結核が治癒した病変と診断が可能であると述べた.このような肉眼所見を有する病変は腸結核以外にないことも腸結核の診断を広げた大きな要因となった.

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 偽膜とは黄白色の扁平あるいは半球状の低い隆起であり,組織学的にはフィブリン,粘液,好中球,上皮残渣,壊死物質などから成る炎症性物質が粘膜表面に付着した隆起である.形態的に偽膜を形成した腸炎を偽膜性腸炎と総称する.そのほとんどがClostridium difficile(Cd)による腸炎であるが,他の病原微生物(ブドウ球菌,腸管出血性大腸菌,赤痢アメーバ,サイトメガロウイルス)による感染性腸炎や虚血性腸炎でも偽膜や偽膜様所見を呈することがある(Fig. 1)1).しかし,通常偽膜性腸炎と言えば偽膜を形成するCd腸炎を指す.

 偽膜性腸炎は基礎疾患をもつ患者が広域抗菌薬を服用後に発症することが多い.菌交代現象によりCdが増殖して毒素を産生し,偽膜性腸炎を発症する.診断は嫌気培養でCdを検出,あるいは便中Cd毒素の検出による.大腸に主に認められるが,炎症性腸疾患の手術後では小腸に病変を認めることがある.

画像所見〔全消化管〕

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 側面変形とは,癌のX線二重造影側面像における消化管壁の内腔側への変形であり,深達度診断の客観的な指標とされ,治療方針の選択に重要な所見である.管腔が十分拡がった二重造影像で判定され,その成因は,癌細胞量とそれに伴うfibrosis,反応性のリンパ濾胞増生などによる病変部の硬さと周囲の非癌部の消化管短軸方向への伸展性の差で現れると考えられている.

 側面変形の形態と癌の浸潤量,深さとは密接な相関があり,牛尾ら1)は消化管癌の側面像における一側変形の型を4つのパターンに分類している(Fig. 1).すなわち,無変形,角状変形,弧状変形,台形状変形であり,台形状変形は固有筋層またはそれ以深に浸潤した進行癌の所見である.弧状変形では癌巣が粘膜下層にmassiveに浸潤しているかまたは固有筋層に少量浸潤している所見,角状変形では粘膜下層への中等量の浸潤,無変形では癌巣は粘膜固有層にとどまっているか,粘膜下層に極少量浸潤したものと報告している.牛尾らの分類は主に大腸癌の深達度診断で検討されてきたが,食道癌,胃癌でもその有用性が報告されている.

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 消化管の血管性病変(血管奇形・腫瘍)は,発生部位により (1) 動脈性,(2) 動静脈吻合または毛細血管性,(3) 静脈性に分けられる1).(1) にはDieulafoy病変や動脈瘤,(2) にはangiodysplasia/angi(o)ectasia,遺伝性出血性末梢血管拡張症〔hereditary hemorrhagic telangiectasia(Rendu-Osler-Weber病)〕,胃前庭部毛細血管拡張症〔GAVE(gastric antral vascular ectasia)〕,動静脈奇形〔AVM(arteriovenous malformation)〕,(3) には血管腫,青色ゴムまり様母斑症候群(blue rubber bleb nevus syndrome),phlebectasiaがある.

 angiodysplasia/angi(o)ectasia(Moore分類2)type 1 AVM,Fig. 1) 粘膜固有層,粘膜下層の毛細血管(動静脈吻合)が拡張した数mmから1cm大の血管性病変である.用語については,国際疾病・傷害・死因統計分類ICD-10に採用されているangiodysplasiaが国際的に最も頻用されているが,世界消化器内視鏡学会のMST(minimal standard terminology)3.0にはangioectasiaの用語が採用されている.

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 アフタ(aphtha)とは「日本消化器内視鏡学会用語集第3版」1)によれば「黄ないし白色斑でしばしば紅暈を伴う炎症性変化,粘膜表層の欠損を肉眼的に確認困難な場合がある」と定義されている.この表現によれば,紅暈を伴わないものもアフタと呼ぶことが可能になる.また「胃と腸用語事典」2)によれば「円形ないし卵円形の白苔を有する潰瘍で,その周囲を紅暈が取り囲む病変を指すが,消化器科領域のみならず,皮膚科,耳鼻科,婦人科など,様々な領域で用いられている用語である」と定義されており,また,アフタ様潰瘍(aphthoid ulcer)は「アフタと同義語」とされている.この定義によれば,紅暈を伴わないものはアフタとは言えなくなる.さらに他の論文などで,潰瘍まではいかない紅暈を伴う小さなびらんをアフタ様びらんと表現していることもしばしば見受けられる2)~4).このようにアフタの定義はいまだ明確ではなく,その指し示しているものが各人で異なる曖昧な表現である.明確な定義のために意見集約が必要であると考える2)4)が,本項ではアフタ,アフタ様潰瘍,アフタ様びらんはほぼ同じ病変を指し示すものとし,単なるびらんと区別するために紅暈を伴う小さな潰瘍もしくはびらんを“アフタ様病変”と定義して解説する.

 アフタ様病変はほとんどすべての腸炎の初期病変として,もしくは単純に病勢が弱い段階で出現しうる2)~5).大腸ではCrohn病(Fig. 1a),潰瘍性大腸炎(Fig. 1b),感染性腸炎(Fig. 1c),薬剤性腸炎(Fig. 1d),腸管Behçet(Fig. 1e)・単純性潰瘍などの炎症性腸疾患のみならず血管炎や悪性リンパ腫,成人T細胞白血病などでも観察され,原因が判然としない場合はアフタ様大腸炎と診断する場合もある.よってアフタ様病変の形態観察のみで診断を下すことは困難である.

疾患〔咽頭・食道〕

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 「頭頸部癌取扱い規約」1)によれば,中咽頭は硬口蓋,軟口蓋の移行部から舌骨上縁(または喉頭蓋谷底部)の高さまでの範囲を指し,4つの亜部位(前壁,側壁,後壁,上壁)に分類される.下咽頭は,舌骨上縁から輪状軟骨下縁までの範囲を指し,3つの亜部位〔咽頭食道接合部(輪状後部),梨状陥凹,咽頭後壁〕に亜分類される.

 咽頭領域の発癌には,ALDH2(aldehyde dehydrogenase-2)ヘテロ欠損型の非常に強い影響とADH1B(alcohol dehydrogenase-1B)ホモ低活性型,フラッシャー,赤血球MCV(mean corpuscular volume)の増大,高度の喫煙の影響が指摘されており2),食道癌に類似している.さらに,食道癌多発例や食道内ヨード不染多発例も,高危険群である3)

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 「食道癌取扱い規約」1)によれば,“表在型”とは,病型分類の0型を言い,癌腫の壁深達度が粘膜下層までの癌であり,リンパ節転移の有無は問わないとされている.表在型(0型)は,表在隆起型(0-I型),表面型(0-II型),表在陥凹型(0-III型)の3型に亜分類できる.さらに,0-I型は0-Ipと0-Is(Fig. 1)の2つ,0-II型は,表面隆起型(0-IIa,Fig. 2),表面平坦型(0-IIb,Fig. 3),表面陥凹型(0-IIc,Fig. 4)の3つの亜型から成る.粘膜癌の大半が0-II型を呈するのに対し,粘膜下層癌の多くは,0-I型と0-III型あるいは0-IIc型(主に混合型)を呈する.表在型食道癌は,全食道癌症例の約32%を占め,その約84%は0-II型であり,0-II型の中では,0-IIcが68%を占める2)

 表在型食道癌の壁深達度と脈管侵襲・リンパ節転移頻度は,密接に相関しているため,治療法の選択は,主として壁深達度を参考に決定する.このため,治療前の正確な深達度診断3)が必要である.表在型食道癌に用いる深達度亜分類1)では,基本的に粘膜癌(M癌)と粘膜下層癌(SM癌)の2つに分けられる.さらに,M癌は,上皮内癌(T1a-EP),粘膜固有層癌(T1a-LPM),粘膜筋板癌(T1a-MM)の3つに分けられる.SM癌は,粘膜下層の上1/3までの浸潤(SM1),中1/3までの浸潤(SM2),下1/3までの浸潤(SM3)の3つに分類されている.リンパ節転移がほとんどないT1a-EP・LPM癌には,内視鏡治療〔EMR/ESD(endoscopic mucosal resection/endoscopic submucosal dissection)〕を含めた局所的治療が適応である.リンパ節の転移頻度が10%程度のT1a-MM・SM1癌には,標準的治療としては,リンパ節郭清を含めた外科治療を原則とするが,EMR/ESD治療後の病理所見を参考に何らかの追加治療を行う症例が増加している.リンパ節転移を高頻度に伴うSM 2~3癌には,リンパ節郭清を含めた食道癌根治手術が標準治療である.

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 特殊型食道癌とは,上皮性悪性腫瘍(carcinoma)のうちで重層扁平上皮癌1)2)以外の組織型を示すことが多い(狭義).非上皮性悪性腫瘍も含めて特殊型食道癌と提示すること(広義)もあるが,通常は非上皮性については,悪性リンパ腫などと個々に称す.特殊型食道癌(狭義)は,扁平上皮癌と関連の深い組織型が多く,類基底細胞癌・癌肉腫・腺扁平上皮癌・粘表皮癌が挙げられ,Barret carcinomaは別項で記載する.また,神経内分泌腫瘍も特殊型食道癌に含まれる.

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 食道胃接合部から連続性に食道へと伸びる円柱上皮をBarrett粘膜と呼び,Barrett粘膜の存在する食道をBarrett食道と呼ぶ1).欧米では生検による腸上皮化生の存在がBarrett食道診断の条件であるが,本邦では腸上皮化生の有無は問わない.Barrett粘膜が全周性に3cm以上あるものをLSBE(long segment Barrett's esophagus,Fig. 1),それ以外をSSBE(short segment Barrett's esophagus,Fig. 2)と定義され,欧米ではLSBEが,本邦ではSSBEが多くみられる.Barrett食道の内視鏡像は,光沢を失ったビロード状の発赤面を呈することが多い.

 Barrett食道の診断には,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)を同定する必要がある.EGJは内視鏡的に食道下部の柵状血管の下端2),ないしは胃大彎の縦走襞の口側終末部と定義されている3).本邦では萎縮性胃炎の合併頻度が高く,胃粘膜襞が観察されないことがある.また,胃粘膜襞の口側端は空気量により容易に変化することから,柵状血管下端をもってEGJと診断する機会が多い.しかし,柵状血管も炎症などで不明瞭となる場合があり,両者を併用して診断することが大切である.

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 頻度 Barrett食道は食道腺癌の危険因子とされ,米国や欧州のデータでは1,000人年あたり5.3から7.0例とされてきた.しかし,その発生頻度は研究の規模が大きくなるにつれ,低くなる傾向があり,11,028名のBarrett食道患者を中央値5.2年経過観察したデンマークのコホート研究の結果では,Barrett腺癌の発生頻度は1,000人年あたり1.2例と従来より低い結果であった1).日本食道学会の全国登録データベースによる解析では日本の食道癌の3%がBarrett腺癌であり,その頻度は欧米に比較するとごくわずかだが,近年徐々に増加傾向にある2)

 診断法 欧米では2cmごとに4方向から生検を採取するランダム生検によるサーベイランスが第一選択とされる.早期Barrett腺癌の内視鏡診断は困難であり,生検に頼らざるを得ないという論法である.しかし,ランダム生検では手間,費用,安全性で問題があり,本邦では受け入れられていない.本邦の内視鏡医は早期胃癌の診断に関する高度な知識と技術を有しているため,通常は内視鏡で診断し,ターゲット生検で確定診断する.

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 定義(Fig. 1) 世界で議論が多くなされ,日本と欧米とでは異なった定義がされている.なお,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)の定義は「食道胃接合部の分類」の項を参照(855頁).

 1)Siewert分類1) Type 1 : 腫瘍中心の位置がEGJから1cm以上離れた食道側の腺癌,Type 2 : 腫瘍の中心がEGJの食道側1cm,胃側2cm以内に癌の中心がある腺癌,Type 3 : 腫瘍の中心が胃側に2cm以上5cm以内の腺癌に分類されている.このうちType 2を狭義のEGJ腺癌と定義している.Type 1の多くはLSBE(long segment Barrett's esophagus)に発生した癌で,Type 3は胃体上部の癌(subcardiac cancer)に相当する.

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 消化管原発性リンパ腫のうち,食道原発リンパ腫は1%未満である1).医学中央雑誌による文献検索では,1999年から現在まで本邦で7例のみ(会議録を含めて13例)であった2)3)

 食道悪性リンパ腫のうち食道MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫に関しては当院での「胃と腸」の報告例2)を含めて以下の特徴がある.

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 食道に生ずる良性腫瘍には様々なものがあるが,大部分は平滑筋腫(Fig. 1a)で70~90%を占める.他には乳頭腫(Fig. 1b, c),顆粒細胞腫(Fig. 1d),脂肪腫,リンパ管腫,海綿状血管腫,pyogenic granuloma(lobular capillary hemangioma,Fig. 1e),線維腫,fibrovascular polypなどが挙げられる.乳頭腫以外は食道扁平上皮で覆われているため粘膜下腫瘍の形態を呈する.

 ほとんどが無症状であり,多くは内視鏡検査あるいは食道X線造影検査の際に偶然発見される.fibrovascular polypなど4~5cmを超える巨大な腫瘤になると嚥下障害圧迫感を訴えたり,口腔内への腫瘤逸脱などを来すことがある.

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 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease ; GERD)の概念は時代とともに変遷してきているが,今日の概念は,「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」1)によると,“胃内容物の逆流により臨床症状や合併症を生じた病態の総称”と定義されている.

 したがって,GERDには上部消化管内視鏡検査で下部食道を中心に粘膜傷害を認める逆流性食道炎と,逆流症状を有するものの粘膜傷害のみられない非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease : NERD)が含まれることになる.

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 発症前の嘔吐により噴門部近傍の消化管壁が粘膜下層までの深さで縦走に裂けることであり,吐血や下血を愁訴とする.1929年にGeorge MalloryとSoma Weissが“飲酒者に嘔吐を繰り返し大量吐血にて死亡した4例”として初めて報告した1).内視鏡検査の普及に伴い軽症例も含めて多数の報告例があり,裂傷の確認も容易となった.近年では“症候群”ではなく“裂創(tear,laceration)”と表記されることが多い.上部消化管出血例の2~6%を占め,90%が男性である.

 病因 嘔吐により腹腔内圧や胃・食道内圧が急激に上昇した結果として胃噴門部周辺が過剰に伸展され,食道胃接合部付近の粘膜に裂創を生じて出血する.食道裂孔ヘルニアとの関連については明確なものはない.

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 食道炎症性疾患で最も頻度が高く,日常診療で遭遇することが多い疾患として逆流性食道炎が挙げられる.ほかには,低頻度で時に診断に難渋する疾患として自己免疫性疾患に伴う食道炎〔Crohn病(Crohn's disease ; CD),Behçet病(Behçet's disease ; BD)など〕,薬剤性や腐食性食道炎,感染性食道炎(カンジダ,ヘルペス,サイトメガロウイルスなど),アレルギー性食道炎(好酸球性食道炎)などが挙げられる.本稿では,CDやBDなど自己免疫性疾患に伴う食道炎を中心に概説する.

 CDにおける食道病変の合併頻度は1.8~13%であり,上部消化管病変がCD進展のリスク因子とも言われている.内視鏡所見はアフタ~小びらんが多く,多発性で,びまん性あるいは縦列傾向の配列を示すことが多い.重症例では気管や気管支,肺への瘻孔形成,狭窄などを合併することもある1).また,大型びらんや潰瘍などの高度病変とCDの病勢との相関も示唆されている.食道病変の頻度は高くはないが,食道病変からの生検におけるgranulomaの検出率は30%程度である.したがって,診断的な意義は決して低くはない2)

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 ヘルペス食道炎は,三叉神経節に潜伏感染しているHSV(herpes simplex virus)が再活性化し唾液中に排出され,食道重層扁平上皮に感染することにより発症すると考えられている.まれな疾患であり,多くは免疫抑制状態で発症するが,健常人での報告例もある.内視鏡所見は,初期には小型で辺縁がやや隆起し中央に浅い潰瘍(Fig. 1a)を形成する,いわゆるvolcano ulcerとして観察され1),進行に伴い潰瘍は癒合する(Fig. 1b).これらの所見は,病初期に形成された小水疱が破裂し癒合した像と推測されるが,実際に水疱が観察できるのはまれである.病理所見では,感染細胞にCowdry A型核内封入体やすりガラス様変化を来した核内封入体が多数出現するなどの特徴がある.免疫染色によるHSV抗原の検出やPCR法によるウイルスDNAの検出なども有用である.

 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)食道病変は,主にHIV(human immunodeficiency virus)感染者において発症し,非HIV感染者での発症は極めてまれである.CD4値が100cell/μl以下で好発する.CMV antigenemiaは陽性となることが多い2).症状は,嚥下痛,嚥下困難,心窩部痛などを主訴とすることが多い.病変は多発する傾向があり,大きさは数mm~数cmまで様々である.内視鏡的には,潰瘍底に白苔を伴わない打ち抜き潰瘍(Fig. 2a)が典型的とされるが,不整形や地図状のびらんや浅い潰瘍(Fig. 2b)を形成することも少なくない.病理組織学的には核内封入体を認め,CMVの免疫染色で陽性となるが,生検での陽性率は低いため潰瘍底より複数個の生検を行う.治療は,ガンシクロビル,ホスカルネットなどの抗CMV薬で行う.

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 腐食性食道炎は,酸やアルカリ農薬,重金属,などの組織傷害性の強い薬剤の飲用により発生する食道炎である.小児例での洗剤の誤飲や成人例では自殺目的の飲用が大半を占める.酸はトイレ用洗剤などに含まれる塩酸,硫酸などである.アルカリは漂白剤や配水管洗浄剤などに含まれる水酸化ナトリウム(苛性ソーダ),次亜塩素酸ナトリウムなどである.誤飲・飲用に当たっては,これら腐食性物質による粘膜,組織傷害のため強い疼痛を生じ,多量飲用には至らない.しかし,少量の飲用でも重篤な組織傷害を来す.

 一般に酸性物質では,組織表面に凝固壊死が起きるため深部組織への浸透が少ない.一方,アルカリ物質では強い,吸湿性,鹸化作用のため組織作用が強く傷害が深部にまで及ぶとされている1).その病態は,薬剤の飲用により接触する広範囲な領域の粘膜傷害となり,口腔から咽頭喉頭,食道,胃に及び,多発かつ連続性の粘膜傷害を特徴とする.傷害の好発領域に関して,酸では中部,食道から下部食道,特に食道胃接合部の傷害が強いとされる(Fig. 1).アルカリでは口腔内,上部食道に傷害が目立ち,胃は比較的軽微とされる(Fig. 2).腐食性物質の飲用が疑われれば,X線検査,CT検査で食道穿孔の有無などを評価する.全身状態が安定していれば,内視鏡検査は可及的に早期に行い,粘膜傷害の領域と程度を把握しておくことは,その後の治療方針の決定に必要である.

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 好酸球性食道炎は,食物や空気中の抗原により食道上皮への好酸球浸潤を主とするまれなアレルギー疾患である.病因は明らかでないが,飛沫抗原により刺激された食道上皮のヘルパーT細胞(Th2)が活性化され,IL-5やeotaxin-3により好酸球の増加が誘導され,慢性的な好酸球による炎症が起こることが病因と考えられている1)

 本疾患は1978年Landresら2)により初めて報告され,本邦では2006年Furutaら3)が最初に報告した.患者は比較的若年の男性に多く,主訴には嚥下困難,食物のつかえ,胸やけなどがある.内視鏡所見として白斑,縦走溝,輪状溝,輪状狭窄,敷石様変化,浮腫,血管透見消失などが認められる(Fig. 1).白斑は好酸球が4個以上集簇したeosinophilic microabscessである.一方で,内視鏡検査で異常が発見されない例も存在する.

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 食道憩室とは,食道壁の一部が外側へ囊状に突出する状態である.頻度は0.5~1.3%と日常的に経験する1).組織学的分類(真性憩室,仮性憩室)や発生原因別分類(圧出性,牽引性),発生部位別分類などいくつかの分類がある.一般的には発生部位別の分類が広く用いられている.すなわち,(1) 咽頭食道憩室(Zenker憩室),(2) 中部食道憩室(Rokitansky憩室),(3) 横隔膜上憩室である.

 (1) は咽頭と食道境界の筋層間隙から嚥下時の内圧上昇に伴い圧出性に生ずる“仮性憩室”である(Fig. 1).高齢男性に多く,主に左側に多くみられる.憩室入口部は細く囊状を呈する.その頻度は約10%とされる2)

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 食道webは食道の狭窄であり,食道入口部付近に発生する膜様の構造物を指す.下咽頭の無症候性webも健常人の10%程度認められる.狭窄部は食道粘膜と粘膜下層から構成されており,境界は明瞭である.webは食道中部の発症はまれである.膜様狭窄の口側,肛門側ともに扁平上皮で覆われている.組織学的には炎症所見を伴うことは少ないとされる.嚥下困難を伴い食道下部に生じるリング状の狭窄はSchatzki ring(lower esophageal ring)1)と呼ばれている.lower esophageal ringの肛門側上皮は円柱上皮である.上部食道webによる嚥下障害と鉄欠乏性貧血を合併するものは,Plummer-Vinson症候群(別名Patterson-Kelly症候群)2)~5)と呼ばれている(Fig. 1a).

 成因としては,先天性のものや,逆流性食道炎・そのほかの食道炎などの炎症によるもののほか,外傷などが考えられている.web保有者では食道癌の罹患率が高いとの報告もあり,注意を要する.比較的まれであるが類似の所見として鑑別すべき疾患として,平滑筋腫,神経腫,過誤腫,血管異常,悪性腫瘍などが挙げられる.webの存在は食道X線造影検査や上部内視鏡検査で容易に診断される.X線造影では食道内腔の膜様の突出にて認識される.膜様狭窄は必ずしも全周性ではなく,偏側性であったり複数の狭窄が連続することもある.食道webの治療は内視鏡的なwebに対するバルーン拡張やブジー,web切除が有効である.Plummer-Vinson症候群の場合は鉄剤の補給,栄養状態の総合的な改善などの治療により消失することも多いとされている(Fig. 1b).

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 食道アカラシアは食道運動機能不全の1つである.A-chalasiaはギリシア語に語源を有し,“弛緩することがない”の意味である.この病態の本質は,“嚥下時の下部食道昇圧帯(lower esophageal sphincter ; LES)の弛緩不全”である.Auerbach神経叢の変性によると言われている.また食道運動機能不全として,1次蠕動波が消失して,同期性収縮がみられることが多い.大きく分けて,(1) classic achalasia(噴門の弛緩不全と食道体部の蠕動の消失と拡張),(2) vigorous achalasia(噴門の弛緩不全と食道体部の異常収縮),(3) そのほか,に分けて考えることができる.特にvigorous achalasiaでは,嚥下困難のみならず,強い胸痛を伴うことも多い.胸痛が強い場合は,長い筋層切開が望まれる.また診断においては,high resolution manometryの有用性が報告されており,Chicago分類として広く用いられている.Type Iがlow pressure contraction,Type IIがhigh pressure contraction,Type IIIがspasticである.

 治療として,薬物療法,ボツリヌス毒素注入法,バルーン拡張法1),腹腔鏡下筋層切開術2)~4)などがあったが,近年,内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy ; POEM,Fig. 1)5)が開発され,minimal accessの根治術として注目を浴びている.POEMはこれまで202例(2012年3月14日現在,昭和大学横浜市北部病院)に施行されており,良好な治療成績である.POEMでは経口内視鏡で食道の内腔から筋層にアプローチするが,基本的にはHeller筋層切開を行っており,その長期成績はHeller筋層切開に準ずるものと考えられる.

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 隆起型胃腺腫は幽門腺,または偽幽門腺化生を生じた胃底腺萎縮領域に生ずる白色調で,平坦または軽度隆起した良性上皮性病変である(Fig. 1).びらんや潰瘍を伴うことはなく,腫瘍径はせいぜい20mm未満である.組織学的には管状構造が主体であり(Fig. 2),腸型(主に小腸型)の細胞形質が大部分である.そして高円柱細胞から成る大きさの揃った管状腺管の密な増殖がみられ,核は細長く,基底膜側に配列しており,増殖細胞帯は腫瘍腺管の上層部に局在している.粘膜深層には非腫瘍性腺管(幽門腺)が残存し,二層構造を呈することがほとんどである.腺腫は低異型度の高分化型腺癌との鑑別が以前から問題になっている.病理医によりその診断基準が異なることもあるが,その鑑別が極めて困難な病変もある.絨毛状や乳頭状の構造を伴う病変は,細胞異型が軽度であっても構造異型の点から癌と診断するのが消化管を専門とする病理医の傾向のようである.

 NBI(narrow band imaging)拡大内視鏡観察ではメッシュ様血管網が比較的規則的に配列し,その中に円形からスリット状の開口部を伴った腺管が配列し,開口部にはlight blue crestが散在的に観察されるのが腺腫の典型像である(Fig. 3).絨毛様構造や乳頭様構造が観察された場合は腺腫より癌を強く疑うか,むしろ炎症性の再生異型との鑑別を考えるべきである.

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 現在,胃生検組織診断分類でGroup 3と診断される病変は腺腫と称され1),その肉眼型のほとんどは隆起型である.そして,胃腺腫内の5~15%程度1)2)の頻度で,病理組織学的に隆起型胃腺腫と全く同様の異型を呈しながら,肉眼的に陥凹の形態を呈するものがあり,陥凹型胃腺腫と称されている.しかし,病理学者によっては,このような陥凹型病変自体,異型を伴う再生であるのか,あるいは0-IIc型の高分化腺癌そのものなのかなどが明確でなく,胃dysplasiaとして通常の胃腺腫とは独立した疾患単位とすべき立場もあり,いまだその病態は不明な点も多い.

 陥凹型胃腺腫の癌化の頻度は5~68.4%1)~3)と,隆起型胃腺腫(2.5~6.9%1)~3))と比較してmalignant potentialが高いとする報告が多いが,両者間で癌化の危険性に差はないとする報告4)も認められる.

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 早期胃癌は癌が粘膜下層までにとどまるものと定義され,肉眼型はほとんど表在型をとる.0-IIc型は最も多く,癌の組織型によって内視鏡所見も異なった特徴を示す(Table 1,Fig. 1, 2).隆起を示す0-I型,0-IIa型は分化型癌が多い.純粋な0-III型は少なく,通常0-IIc+III型などの複合型としてみられる.分化型癌は,萎縮・腸上皮化生の強い進行した胃炎に,未分化型胃癌は萎縮の軽度で炎症の強い胃粘膜を背景に発生する傾向がある.

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 早期胃癌の肉眼型分類は1962年,日本内視鏡学会で田坂1)によって提唱され,現行の「胃癌取扱い規約第14版」〔日本胃癌学会(編),2010〕においても,これが改変引用され記載されている.そのなかで0-IIb型(表面平坦型)は,“正常粘膜にみられる凹凸を超えるほどの隆起・陥凹が認められないもの”と定義され,臨床所見,手術所見,病理所見の3者をそれぞれの時期に判定して,総合所見により記載するものとされている.しかし,平坦という肉眼判定には大きな幅があり,主観的要素が入りやすいため,0-IIbの使われ方は臨床重視の立場や病理重視の立場,総合的な立場など様々であった.1971年,第13回日本内視鏡学会総会のシンポジウム“IIbをめぐって”(司会 : 白壁彦夫,福地創太郎)において,便宜的な0-IIbの分類について以下の様に提唱された.諸家の記載では,ホルマリン固定標本,新鮮標本で割面を含めた肉眼所見より全く平坦な,厳密な意味での0-IIbを“典型IIb”とし2)~4),部分的に0-IIcまたは0-IIaの要素があるが全体としてはほとんど平坦なもの2),もしくは臨床的に平坦に近いと思われる極めて浅いIIcまたは弱い高まりの0-IIaを“類似IIb”3)4)と表現されている.また,IIbのみから構成されるものを“単独IIb”とし,他の肉眼型を呈する癌(0-IIc型,0-IIa型など)の辺縁に連続して存在するものを“随伴IIb”と分類した2)~4).そのほかの報告では“典型IIb”の同義語として“純粋IIb”と表現された報告も少なくない.また,“単独・典型IIb”や“随伴・類似IIb”といった言葉を重ねる表現も認められる.

 従来,典型IIbは微小癌がほとんどで頻度も低く,早期胃癌の1%以下の頻度と考えられてきた.しかし,近年の報告によると微小癌を除いた早期胃癌の検討においても単独IIbは1.5%,随伴IIbは6.3%5)と,その増加が示唆されている.

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 スキルスという語源は,ギリシア時代にHippocratesが硬い物という意味でスキロスという語を用いている.19世紀初めに癌腫を整理したLaennecはsquirrhe(硬癌)を癌腫の一型としている.また,Müllerはscirrhus(硬質)をcarcinoma simplex(単純癌)とcarcinoma fibrosum(線維性癌)と同じ型に含めている.この頃からスキルスは硬性癌を意味するようになっている1)

 スキルス胃癌は線維増生を高度に伴い,肉眼的に硬さを感じさせるものであり,癌が深く浸潤する進行癌に多く,3型,4型を示すものが多い(Fig. 1).線維増生を伴いやすい組織型としては,低分化腺癌,印環細胞癌,中分化型管状腺癌がある.中村ら2)は,スキルスという言葉が肉眼的水準および組織学的水準での両方の意味を含むため混乱を与えるとし,癌の形態ではなく,質的なことを意味するものであると述べている.つまり,スキルス胃癌とは癌の肉眼形態や組織型を示すものではなく組織学的に高度の線維増生を示す胃癌の総称である.

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 MALTリンパ腫(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)は1983年にIsaacsonら1)によって提唱された低悪性度B細胞性リンパ腫である.好発部位は消化管,眼・付属器,甲状腺,唾液腺,肺などであるが,最も発生が多いのは胃である.胃MALTリンパ腫の多くはHelicobacter pylori(H. pylori)感染による慢性胃炎を背景に発生し,除菌治療によって寛解に至る.胃MALTリンパ腫の発育は緩徐であり一般に致命的となることは少ないが,他臓器へ浸潤したり,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に形質転化した症例も存在する2)

 原発性胃悪性リンパ腫の肉眼分類は佐野分類3)により,表層型,潰瘍型,隆起型,決壊型,巨大皺襞型の5型に分類されるが,胃MALTリンパ腫では表層型が最も多い.表層型をさらに,早期胃癌(0-IIc型)類似型,胃炎類似型,隆起型の3つに分類すると,前2者がその大半を占める4).早期胃癌類似型胃MALTリンパ腫(Fig. 1a)では早期胃癌に比べて病変範囲が不明瞭であることが多く,蚕食像や表面模様の無構造化が観察されない4).また,多発病変であることも特徴である.胃炎類似型(Fig. 1b)では内視鏡診断の正診率は低く,内視鏡所見や臨床経過が非典型的でない胃炎に関しては積極的にMALTリンパ腫を疑って生検を行う必要がある4)

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 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)は全悪性リンパ腫のなかで最も頻度の高い組織型である.胃原発悪性リンパ腫の30~40%を占め,MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫(40~50%)に次いで頻度が高い.組織学的には大型の異型B細胞のびまん性浸潤を呈する.HE標本のみでは未分化癌と誤診されることがあり,免疫染色でB細胞マーカー(CD20またはCD79a)陽性を確認する必要がある.同一病巣内にDLBCLとMALTリンパ腫が存在する場合,一致したクローンとは限らないため,high-grade MALTリンパ腫の名称は使用しない(WHO分類第4版,2008年).

 胃DLBCLは内視鏡上,限局した腫瘤を形成することが多い.胃リンパ腫の肉眼分類の佐野分類(表層・潰瘍・隆起・決潰・巨大皺襞)と八尾分類(表層拡大・腫瘤形成・巨大皺襞)に従うと,大半は隆起・決潰型(Fig. 1, 2),または腫瘤形成型に相当する.病変の立ち上がりは健常粘膜に覆われSMT様であり,潰瘍辺縁に癌でみられる不整所見はなく,いわゆる耳介様の周堤を呈することが多い.比較的軟らかく伸展性良好であるが,リンパ球浸潤癌を含む充実型低分化腺癌や粘液癌などの粘膜下腫瘍様胃癌との鑑別は容易ではない.

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 HIP(hamartomatous inverted polyp)は粘膜下に異所性に腺管の増生を認め,胃内腔に膨張性に発育してポリープ状の形態を示す病変である.hamartoma(過誤腫)とはその構成成分が存在する臓器や組織の成分として元来存在するもので,その組織成分の量的組み合わせの不均衡により,特定の成分が過剰形成されて腫瘍の形態をとるものと定義されている1).1966年にAllen2)が直腸において,異所性腺管が粘膜下へ逆行性,囊胞状に発育し,腸管内へ突出する形態をとる病変をHIPと報告し,胃でも同様の表現が用いられている.

 HIPは胃体上部や穹窿部などの胃底腺領域に好発し,病変は粘膜下異所性胃腺の増生,貯留,囊胞化により,比較的大きな孤立性腫瘤を形成する.本症には様々な呼称があり,医学中央雑誌にて1995年以降で検索した範囲ではhamartomatous inverted polypのほかに過誤腫,胃粘膜下異所腺,submucosal heterotopia of gastric glands,submucosal heterotopic gastric glands,gastric gland heterotopia,gastric submucosal heterotopiaなどの名称で報告されている.

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 HIV(human immunodeficiency virus)感染者の消化管病変として問題となるのは,感染症と腫瘍性病変である.HIV関連性胃病変のうち,感染症としてはサイトメガロウイルス(cytomegalovirus ; CMV)感染症が,腫瘍性病変としては悪性リンパ腫およびKaposi肉腫がCD4値の低下とともに発症する可能性が高くなる.ただし,HIV感染者におけるCMV感染症の消化管病変は,食道および大腸での発症頻度が高く,胃のみに粗大病変を形成することは少ない.また,HIV関連悪性リンパ腫は,DLBCL(diffuse large B-cell lymphoma),Burkitt's lymphomaの頻度が高い1)とされるが,その形態は,非HIV感染者の悪性リンパと比べ,差異はない.

 Kaposi肉腫は,1872年にハンガリーの皮膚科医Motitz Kaposiによって最初に報告された,HHV-8(human herpesvirus-8)の感染によって生じる非上皮性悪性腫瘍である.HIV感染者における悪性腫瘍で最も多く,CD4値の低下とともに好発するが,CD4値が500cell/μlと比較的高値から発症することもある.Kaposi肉腫の発症は,HHV-8の生体内でのリザーバーであるB細胞から血管内皮細胞への感染によるとされており,発生部位としては皮膚が最も多いが,全消化管,肺,リンパ節などにも生じる.消化管Kaposi肉腫は無症状のことが多いが,時に消化管出血や狭窄の原因となる.

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 急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion ; AGML)という概念を初めて提唱したのはKatzら1)であり,1965年にacute erosive gastritis,acute gastric ulcer,hemorrhagic gastritisの3つの病態に分類し報告した.日本においては,1973年に川井ら2)が“急性に発症し,内視鏡あるいはX線で所見がみられる”病態の包括的な概念,すなわち一種の症候群として急性胃病変(acute gastric lesion,AGL)を提唱した.しばらくはこの両者が使われ,また,いずれの用語を用いるかの議論がなされた時代もあったが,“急性胃粘膜病変”という用語が,病変の存在する深さを表すものではなく“粘膜面に存在する病変”という意味で用いられる場合には,両者に違いはないことを川井らのグループも指摘している.並木ら3)は,急性胃粘膜病変の診断基準を“突発する上腹部痛,吐き気,嘔吐,時に吐血・下血の症状を伴って発症し,この際早期に内視鏡で観察すると,多くの場合,胃粘膜面に急性の異常所見,すなわち明らかな炎症性変化,出血,潰瘍性変化(びらん,潰瘍)が観察されるもの”と定義している.

 これらの疾患概念が生まれた時代背景には,診断技術の目覚ましい進歩があったことが挙げられる.急性期に積極的に緊急内視鏡検査が行われるようになり,様々な内視鏡所見が確認されるようになった.得られた所見を病因論的にではなく,症候論的,あるいは治療論的立場からまとめられた臨床的概念といえる.

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 この用語について,正式な定義はない.一般的には,非ステロイド抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drug ; NSAID)の投与が原因で発生した胃潰瘍とされている.NSAIDs起因性の胃腸傷害は1970年頃から欧米を中心に報告がなされ,1980年代からは本邦でも注目を集めるようになった.H. pylori感染率の低下と高齢化により,NSAIDs潰瘍がクローズアップされており,近年は抗血小板薬として用いられている,低用量アスピリン(low-dose aspirin ; LDA)による潰瘍が増加している.

 非アスピリンNSAIDとLDAによる傷害は,区別して論じられることが多い.非アスピリンNSAIDとLDAを総称し“NSAIDs”,非アスピリンNSAIDのみを“NSAID”と称することもある.

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 1937年,Gottliebら1)がCrohn病に伴う胃・十二指腸病変を報告して以来,Crohn病の胃・十二指腸病変が高頻度に存在することが明らかになった.1983年,八尾ら2)は胃で89.7%,十二指腸で86.2%と高率に胃・十二指腸病変が存在したと報告している.横田ら3)~5)は1994年にCrohn病患者の胃体部小彎の“竹の節状びらん”,“竹の節状外観”に着目しCrohn病に特徴的な病変と提唱した.

 現在Crohn病の胃・十二指腸病変に特徴的な所見は胃病変である“竹の節状外観”と十二指腸病変の“notch様陥凹”である.いずれもインジゴカルミン色素撒布によりわずかに認識できる程度の軽度なもの(Fig. 1)から,通常内視鏡所見でも明らかに認識できる高度なもの(Fig. 2)まで様々である.“竹の節状外観”は,通常は噴門部~胃体上部の皺襞に対して垂直に認める3~10本程度の切れ込み様の所見である.切れ込みの存在する皺襞は1~数本と様々で,高度なものでは発赤を伴う結節状の所見を呈する(Fig. 3).また,十二指腸の“notch様陥凹”は十二指腸球部~下行脚のKerckring皺襞(輪状ひだ)に数本の“切れ込み”を呈する(Fig. 4).この場合は竹の節状外観に比して内視鏡の通常観察でも比較的容易に判別できることが多い.

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 collagenous gastritisは,粘膜固有層内の炎症細胞浸潤と粘膜上皮下の10μm以上に肥厚したcollagen bandの存在により組織学的に定義される(Fig. 1).臨床的には,無症状あるいは心窩部痛,貧血を有し,胃のみに病変が限局するグループと,慢性下痢を有し,collagenous colitisの合併を認めるグループに分けられる.前者は小児・若年成人に多く,後者は中高年に多いが,本邦報告例(7例)1)~3)は,いずれも20~43歳の比較的若年者で,炎症細胞浸潤による粘膜萎縮がまだらに起こるために取り残された顆粒状~島状粘膜変化が特徴的である(Fig. 2, 3).

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 胃前庭部毛細血管拡張症(gastric antral vascular ectasia ; GAVE)は胃前庭部を中心に血管拡張を認める病態であり,消化管出血の原因の1つとして近年注目されている.GAVEは1953年Riderら1)によって著明な毛細血管拡張(veno-capillary ectasia)を伴う胃切除例として報告されたのが最初である.その後,1984年にJabbariら2)が前庭部に放射状に縦走する血管拡張をwatermelon stomachと報告して以来,広く認知されるようになった.また,前庭部にびまん性に毛細血管が拡張する病態をLeeら3)はびまん性胃前庭部毛細血管拡張症(diffuse antral vascular ectasia ; DAVE)として提唱した.

 GAVE,DAVEとも毛細血管からの出血が原因で起こる貧血を呈する消化管の出血性疾患である.両者の内視鏡所見は異なるが,病理学的には同様な所見を呈し同じ範疇の疾患と考えられ,GAVEとDAVEの両者を含めて広義のGAVEとして取り扱う場合が多い.GAVE・DAVE患者では慢性肝疾患,慢性腎不全などの合併が多く,貧血を主訴に発見される.

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 特殊型胃炎という明確な定義はないが,Crohn病に代表される肉芽腫を生じるような胃炎を指して用いられることが多い.胃に肉芽腫性病変を認めた場合,Crohn病を含めた胃梅毒,胃結核,サルコイドーシスなどのまれな疾患を考慮して鑑別診断を行うことが必要である.これらの疾患では胃に不整な潰瘍・びらんを主体とする粘膜病変を生じることが多い.

 胃梅毒ではしばしば心窩部痛を伴い,病変は幽門前庭部に好発し,X線像では同部の全周性漏斗状狭窄,内視鏡では易出血性の浅い不整形の多発潰瘍やびらんを呈し,時に副病変として胃体部に梅毒性皮疹類似の粘膜病変を伴うなど,X線・内視鏡の特徴的所見から診断可能なことが多い(Fig. 1, 2).ただし,これらの病変は肉芽腫を伴わない早期(第2期)梅毒の胃病変であり,今日本邦では肉芽腫を形成するほど進行した梅毒(第3期)の胃病変に遭遇する機会はほとんどない.

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 Behçet病(Behçet's disease ; BD)は反復性ないし遷延性炎症性病変を特徴とする原因不明の全身性の疾患であり,口腔粘膜の有痛性再発性アフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍を主症状とする.副症状として関節炎,副睾丸炎,消化器症状,血管病変,中枢神経病変などがみられ,これらの有無によって診断基準から,完全型BD,不全型BD,BD疑いに大別される.国際的には口腔内潰瘍を必須とし,陰部潰瘍,眼症状,皮膚病変,針反応を判定項目とする診断基準1)が用いられる.BDでは回盲部を中心に腸管潰瘍が生じることがあり,診断基準の完全型,不全型を満たすものを腸管型BDと呼ぶ.症状として腹痛,下痢,血便が出現し,出血,穿孔のため緊急手術を要することもある.しばしば再燃し,再手術を要する症例も多い.

 BDにおける消化管病変は食道から直腸のいずれの部位にも発生しうるが,回盲部(既手術例では回腸─結腸吻合部)が最たる好発部位で,画像的には,周堤を有する境界明瞭な類円形ないし不整形の大きな下掘れ潰瘍が特徴的で,これらは定型的病変とされる(Fig. 1).重症化すれば隣接する腸索や腹壁との癒着や瘻孔を形成することもある.病理学的肉眼像は境界鮮鋭な円形ないし卵円形で,下掘れ傾向があり,潰瘍口は広く,潰瘍縁は盛り上がり組織学的には非特異的炎症によるUL-IVの開放性潰瘍が主体である.潰瘍底は管腔側より壊死層,肉芽組織,漿膜側には線維症を認める2).回盲部以外の大腸,小腸にもしばしば同時性または異時性に大小の潰瘍を認める.これらは腸管膜付着対側に発生し,介在粘膜に炎症はなく,小さくても定型的病変に類似した打ち抜き様を呈することが特徴的である(Fig. 2)3).さらに最近では小腸内視鏡の進歩もあり,回腸のアフタ様潰瘍や区域性病変など多彩な病変も報告されている4)

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 大腸の主たる上皮性腫瘍は腺腫と癌であるが,本稿では腺腫について欧米との認識の違いも含めて概説する.本邦では「大腸癌取扱い規約 第7版補訂版」1)に,腺腫は良性上皮性腫瘍の中に分類され,(1) 管状腺腫,(2) 管状絨毛腺腫,(3) 絨毛腺腫,(4) 鋸歯状腺腫の4つに分類されている.一方で,2010年に発刊されたWHO Classification of Tumours of the Digestive System2)の中には,腺腫および関連病変はTable 1のように分類記述されている.

 周知のとおり,欧米では明らかに浸潤した病変を癌と診断するが,本邦の粘膜内癌を癌とは診断しないし,微小浸潤は偽浸潤(pseudoinvasion)と評価する傾向がある.若い先生方は,欧米でいうadenomaという用語が,基本的には本邦でいう粘膜内癌(carcinoma in situ)を含んでいることに留意いただきたい.大腸癌は大腸粘膜から発生し,欧米の考え方は全く科学的ではないが,社会的あるいは政治的背景の違いから歴史的に粘膜内癌を癌と診断しない.この矛盾を本邦が中心となって是正していく必要がある.

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 大腸鋸歯状病変はSP(serrated polyp)やserrated lesionと呼ばれ,腺管が鋸歯状の管腔構造を呈する病変である.現在のところ病理組織学的にHP(hyperplastic polyp),SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp),TSA(traditional serrated adenoma)と3つのカテゴリーに分類することが提唱されている1)(Table 1,Fig. 1).

 従来,大腸の鋸歯状腺管構造を有するポリープは病理組織学的に過形成性ポリープと診断され,非腫瘍性病変であり癌化の危険性はない病変と考えられていた.しかし近年,HPやSSA/Pを介した新しい大腸癌の発癌経路である“serrated pathway”2)3)が提唱されるようになり,特にSSA/Pとされる病変は右側結腸に発生する遺伝子不安定性(microsatellite instability ; MSI)陽性大腸癌の前駆病変とされ注目されている.しかしわが国におけるSSA/Pの診断基準はいまだコンセンサスが得られておらず,現在,大腸癌研究会プロジェクト研究において検証中である.またその内視鏡診断についても学会・研究会にて種々報告されている最中である.

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 Nakamuraら1)により報告された大腸の非腫瘍性有茎性ポリープである.高齢者の男性に多く発生する.主訴は血便あるいは便潜血で,発生部位はS状結腸を中心とした左半結腸で,30mmまでの大きさで単発性である.球状ポリープで,90%が長い茎を有する.ポリープ表面は平滑で白苔を伴ったびらんがみられる.内視鏡では傷んだイチゴ状のポリープとして観察される(Fig. 1).原因は不明であるが,微小な過形成性病変に慢性の刺激が加わり病変が形成されるものと思われる.

 組織像は炎症性肉芽組織様の粘膜固有層内に囊胞状拡張を伴う過形成腺管と,粘膜筋板由来の平滑筋の放射状増生がみられる(Fig. 2).腺管の囊胞状拡張が著明な症例は過去には若年性ポリープと誤診されていたが,放射状の平滑筋の関与がある点で鑑別が可能である.粘膜脱症候群や憩室症に合併するポリープ,‘cap polyp'などと同様なポリープとの記載もあるが2),肉眼像や組織像からそれらとは全く独立した疾患である.悪性化はない.

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 1992年に眞武らは組織学的に分類困難な長い茎を有した大腸ポリープの4例を報告した.1994年眞武ら1)はその特徴と病理組織学的所見を呈するこれらのポリープをCMSEP(colonic muco-submucosal elongated polyp)と呼称することを提唱し,今日一つの確立した概念として定着している.

 X線,内視鏡的特徴としては,肉眼的に表面は正常粘膜で覆われる長い有茎性のポリープで,表面には脳回転様ひだや発赤を伴うことが多い(Fig. 1, 2).組織学的には異型や炎症のない正常粘膜に覆われ,粘膜下層は静脈とリンパ管の拡張を伴い,浮腫状の疎性結合織から成り,正常の筋層は認めないものとされている(Fig. 3).

cap polyposis 中村 直
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 CP(cap polyposis)は1985年にWilliamsら1)によってinflammatory‘cap polyp'of the large intestineとして報告された炎症性腸疾患で,1993年にCampbellら2)が‘cap polyposis'として報告した疾患である.大腸のポリープ状隆起の頂部に白苔を載せているその内視鏡的特徴から命名された疾患である.本邦でも分類不能型大腸炎などとして症例報告3)されていたが,内視鏡所見,組織所見などから現在では同一の疾患と考えられている.2002年に「胃と腸」第37巻第5号「cap polyposisと粘膜脱症候群」でCPと粘膜脱症候群の特集が組まれており,CPの多症例での臨床,画像,病理の検討が行われているが,原因や治療については明らかに示されなかった.同年にHelicobacter pylori除菌療法後に改善したCP症例をOiyaら4)が報告して以来,H. pylori除菌療法が奏効した症例報告が相次いでいる.

 病変は直腸を含んだ左側結腸に多く,内視鏡所見はポリープ状の隆起の頂部がびらんを呈し,粘液や壊死物質が付着している典型的な所見(Fig. 1)以外に,地図状の発赤粘膜を呈することもある(Fig. 2).地図状発赤粘膜から典型的なCP像に変化した症例5)もあることから,地図状発赤粘膜はCPの初期像と考えられる.介在粘膜は基本的に正常であるが,隆起周辺ではやや浮腫状で白斑を伴うこともある.隆起部の病理組織所見は,腺管長が蛇行・延長し,過形成の所見を呈し,隆起部以外の地図状発赤粘膜病変からの生検でも同様の所見が得られる.いわゆる‘cap'部からの生検では炎症性肉芽組織がみられる.

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 大腸の低分化腺癌は比較的まれな組織型で,その頻度に関しては多数の報告をまとめると全大腸癌の1.9~7.7%とされ1),「大腸癌取扱い規約」では充実型(por 1)と非充実型(por 2)に分類している2).その特徴として,局在は右側結腸に多い傾向があり,進行癌で見つかることが多く,早期癌の報告はまれである.また低分化腺癌では腫瘍径が小さいうちから粘膜下層以深に浸潤し,高率にリンパ管侵襲,静脈侵襲,リンパ節転移を来すと考えられている.

 進行癌の肉眼型は,菅井ら3)の報告では2型が45.3%と最も多いが,高分化腺癌と比べて3型(21.4%),4型(9.5%)の頻度が高いとしている.

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 大腸腺腫症を伴わない遺伝性大腸癌であり,家系内に大腸癌のみならず,全身諸臓器の悪性腫瘍が発生する疾患である.Lynchら1)の2家系の報告が最初の記載で,以降家系の集積と遺伝子解析が進み,ミスマッチ修復遺伝子(mismatch repair ; MMR)の変異に起因する常染色体優性の遺伝性疾患であることが判明した.本症の原因MMRとして第3番染色体のMLH1,第2番染色体のMSH2とMSH6,および第7番染色体のPMS2がある.

 本症の歴史は約50年にすぎないが,その間に疾患概念や名称に変遷がみられている.Lynchら1)の報告以降,家系内に大腸癌のみ集積するLynch症候群Iと大腸癌以外の悪性腫瘍も集積するLynch症候群IIに大別され,これらを区別しない場合は遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary nonpolyposis colorectal cancer ; HNPCC)と呼ばれていた.1990年にはHNPCCとして確からしい家系を集積するための基準が提唱されたものの,1993年以降原因遺伝子が次々に同定されるに至り,同基準と遺伝子診断に乖離があることが判明した.そこで,1998年に改訂基準(アムステルダム基準II)が提唱された(Table 1)2).大腸以外の多彩な悪性腫瘍が本症の特徴のひとつであることから,現時点ではHNPCCを避け,Lynch症候群の名称を用いることが多い.

colitic cancer 岩男 泰 , 松岡 克善
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 炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の長期経過例に癌・dysplasiaの発生頻度が高く,累積発癌率が10年で1.6%,20年で8.3%,30年で18.4%とメタアナリシスで報告されている1).これら炎症性腸疾患に合併する癌をcolitic cancerという.用語としてはcolitis-associated colorectal cancer(UCの場合はUC-associated colorectal cancerもしくはcolorectal cancer associated with UCなど)が適切と思われるが,慢性炎症に伴う発癌というニュアンスがよく伝わるため,特に本邦ではcolitic cancerの呼称が好んで用いられている.欧米においても論文タイトルには使用されることがある.

 通常のadenoma-carcinoma sequenceと呼ばれる腺腫を介した発癌過程に対し,炎症によって遺伝子の変異・異常が蓄積し,dysplasiaと呼ばれる粘膜内腫瘍を介して大腸癌に至るinflammation-dysplasia-carcinoma sequenceという考え方が提唱されている2).若年発症し多発する傾向がある.

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 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)の慢性炎症粘膜を母地として発生する腫瘍性の異型腺管群をdysplasiaと呼ぶ.dysplasiaは前癌病変と考えられており,大腸内視鏡サーベイランスにおいてUC関連性大腸癌(ulcerative colitis-associated cancer)の合併を検知するためのマーカーとしても重要である.

 dysplasiaは隆起型,表面隆起型,平坦型,表面陥凹型など様々な肉眼形態を呈すると考えられる.Blackstoneら1)は,隆起型のdysplasiaに対しDALM(dysplasia-associated lesion or mass)という名称を提唱し,その肉眼形状をpolypoid mass, plaquelike lesion, sessile polypに分類している.また,Buttら2)は,dysplasiaをflat lesion(平坦病変),warty lesion(粗大顆粒状病変,Fig. 1),plaque-like lesion(扁平隆起様病変,Fig. 2),papillary lesion(乳頭状病変),polypoid lesion(ポリープ様病変,Fig. 3)に肉眼分類しているが,これらのうちflat lesionを除く後4者がDALMに相当するものと考えられる.

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 腸管に発生する粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue ; MALT)リンパ腫とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)は,いずれも成熟B細胞性腫瘍に属し,世界保健機関(WHO)分類,第4版1)では以下のごとく定義されている.すなわち,MALTリンパ腫は形態的に多彩なB細胞(胚中心細胞類似細胞,単球様B細胞および少数の芽球様大型細胞)が,主に濾胞辺縁帯(marginal zone)から濾胞間領域にかけて増殖する腫瘍である(Fig. 1).他方,DLBCLは正常の組織球の核と同じか,それ以上の大きさの核,あるいは小型リンパ球の2倍以上の大きさの核を有する大型B細胞のびまん性増殖から成る腫瘍である(Fig. 2).なお,いずれの病型も現時点では特異的な免疫組織化学的マーカーは存在しない.

 DLBCLは前述の細胞形態のほか,臨床像や細胞増殖能(Ki-67標識率)を勘案すれば比較的容易に診断される.他方,MALTリンパ腫の病理診断は容易でない.なぜなら,濾胞辺縁帯から濾胞間領域が拡大するリンパ増殖性病変はすべてMALTリンパ腫の鑑別対象となり,しかも反応性増殖巣と腫瘍性増殖巣の境界の見極めは極めて難しいからである2).反応性リンパ増殖性病変とMALTリンパ腫の鑑別に有用な免疫組織化学的マーカーは存在しないため,診断確定に至らないこともある.しかし,腸管MALTリンパ腫の臨床経過は緩慢であり,早急に侵襲的治療を開始する必要性は低く,実臨床ではマントル細胞リンパ腫と濾胞性リンパ腫を確実に鑑別・除外することが最優先される.また,大腸,特に直腸MALTリンパ腫に対する抗菌薬投与の有効性が証明された以上,今後は抗菌薬投与が非侵襲的な治療法として第一選択となりうると考えられる3)

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 側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)とは,肉眼的に側方への腫瘍進展を特徴とする10mm以上の病変である.発育進展さらには生物学的悪性度を加味した発育形態分類においては,LSTは平坦型に分類される.「大腸癌取扱い規約」で定義された肉眼形態分類ではないが,肉眼形態を容易に想起でき,さらには質的・量的診断また内視鏡治療や外科的治療の判断においても非常に有用であり広く定着している.

 元来,大腸上皮性腫瘍には上方向発育を示す隆起型腫瘍や下方向(垂直方向)発育が特徴な陥凹型腫瘍とは違い,側方への腫瘍進展を主とする腫瘍群が指摘されており,様々な名称で表現されていたが,1992年「胃と腸」誌に特集され1)結節集簇様病変として呼称されるようになった.しかし,側方発育傾向を示す腫瘍群の中には,顆粒や結節を有さない病変が存在することが明らかになり,筆者ら2)はそのような病変を含めて大きさ10mm以上のものをLSTと定義した.さらに,LSTを顆粒型(granular type ; LST-G,Fig. 1)と非顆粒型(non-granular type ; LST-NG,Fig. 2)に大別し,前者は顆粒均一型〔homogeneous type ; LST-G(Homo)〕と結節混在型〔nodular mixed type ; LST-G(Mix)〕に,後者は平坦隆起型〔flat-elevated type ; LST-NG(F)〕と偽陥凹型〔pseudo-depressed type ; LST-NG(PD)〕に亜分類した3)4).それぞれの病変群は異なった臨床病理学的特徴を有し,特に治療法の選択上重要である.

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 肛門部の悪性腫瘍は,「大腸癌取扱い規約」1)でTable 1のように分類されている.第59回大腸癌研究会において施行されたアンケート集計報告(1,540例)によれば,肛門管悪性腫瘍の組織別発生頻度は,腺癌・粘液癌の直腸型が802例(52.1%),次いで肛門腺由来が227例(14.7%),扁平上皮癌226例(14.7%),痔瘻合併癌106例(6.9%),悪性黒色腫60例(3.9%),類基底細胞癌24例(1.6%)と続く.文献の集計では,アンケートに比べると悪性黒色腫や類基底細胞癌の割合が高かった2)

 本稿では特殊な直腸肛門部腫瘍として,扁平上皮癌,悪性黒色腫,類基底細胞癌について述べる.

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 瘻孔癌については明確な定義が存在するわけではない.極めてまれな病態であるため,痔瘻癌の定義に準じて,(1) 瘻孔の両側臓器に癌がないこと,(2) 癌が瘻孔形成以前に存在していたという可能性を否定できるほど十分に長い瘻孔歴があること,の2つの条件が一般的に用いられている.Skir1)はゆっくりと発育する癌が瘻孔形成以前に存在したことを否定できるだけの期間,具体的には瘻孔形成より約10年以上経過していれば癌は続発性であり,慢性炎症により引き起こされたと考えてよいとしている.

 1990年以降本邦の報告例を,痔瘻癌を除いて医中誌で検索した.21例の報告例があり,最も多い要因は慢性化膿性骨髄炎に起因する瘻孔からの発癌で8例,続いてCrohn病(CD)の内瘻または外瘻に起因する報告が6例あった.最近の欧米の報告では,17年間にCD症例6,058例のうち4例に瘻孔癌の合併があり,CD以外の病態からの瘻孔癌の発生はなかったと報告されている2).本邦においてもCDの長期経過例は増加しており,瘻孔癌合併症例の報告は今後増加することが予想される.CDに合併した瘻孔癌の2症例を以下に示した.

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 虚血性大腸炎は,大腸栄養血管の可逆性閉塞に基づく一過性の大腸粘膜虚血によって生じる疾患である.病態は不明であるが,心原性や微小血管の攣縮,細動脈硬化などの血管側因子と腸管内圧亢進および腸蠕動異常などの腸管側因子が絡み合い,腸粘膜あるいは腸管壁の血流低下を引き起こして虚血状態を作ると推定されている.飯田らの診断基準をTable 1に示す1).突然強い腹痛が起こり,続いて下痢が起こり徐々に血性下痢となってくるという特徴的な臨床症状にて本症を疑い,緊急内視鏡にて診断するのが一般的な診断の流れである.

 下行結腸,S状結腸に好発し区域性病変を示し,中心部が最も強い所見を呈する.典型的な急性期の内視鏡像は縦走する白苔と周囲の発赤である(Fig. 1)2).白苔は盛り上がり,偽膜様であるが,多くはびらんであり短期間に軽快することがほとんどである.組織では粘膜上皮の変性,脱落,壊死がみられ,腺管の立ち枯れ像は虚血性大腸炎の特徴的な像である.発赤は白い線で区画され,うろこ模様と呼ばれるが,本症に特徴的な所見である.組織では間質の浮腫と粘膜内出血であり腺管の変化はみられない.暗赤色の粘膜が認められる場合は(Fig. 2),組織学的には出血壊死であり,虚血の程度は重篤で狭窄型や壊死型の可能性があり,慎重な対応が必要である.慢性期では狭窄型の場合は管状狭窄や縦走潰瘍瘢痕を呈する.

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 潰瘍性大腸炎は“主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性非特異性炎症である”と定義されている.潰瘍性大腸炎の診断で特異的なものはなく,臨床症状,画像診断(主に内視鏡),生検組織学的検査などを総合して診断する.また,感染性腸炎や他の炎症性疾患を除外しなければならない.厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(渡辺班)の診断基準をTable 1に示す1)

 内視鏡による重症度分類の軽度は血管透見消失,粘膜細顆粒状,発赤,小黄色点などである.中等度は粘膜粗糙,びらん,小潰瘍,易出血性(接触出血),粘血膿性分泌物付着など(Fig. 1),強度は広範な潰瘍,著明な自然出血などである(Fig. 2).これらの内視鏡所見が,直腸からびまん性,連続性に拡がることが潰瘍性大腸炎の特徴である.一方,非連続性病変もしばしば認められることも認知されている.

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 貯留囊として回腸囊を作製し,大腸(亜)全摘術を受けた患者の回腸囊に発生する非特異性の炎症性疾患である.ほとんどが潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)患者に発生するので,UCの病態に関連した病態と考えられている.当初,UCに対する大腸全摘・永久回腸人工肛門造設術時に貯留囊として作製されたKock回腸囊にみられる非特異性炎症(mucosal enteritis)として報告された1).回腸囊肛門(管)吻合術後では,1981年Nichollsらが生検で表層性潰瘍,陰窩膿瘍を伴う急性炎症と粘膜固有層に慢性炎症性細胞浸潤がみられ,糞便中の好気性菌増加所見と関連があると報告している.1986年にMoskowitzら2)が術後における回腸囊の組織学的な経時的変化について報告し,そのときに用いられた炎症の組織学的scoreは,現在広く用いられているPDAI(Pouchitis Disease Activity Index)3)に踏襲されている.

 内視鏡所見は,UCに類似したびまん性の発赤,顆粒状粘膜,膿性粘液付着,びらんがみられる(Fig. 1)ほか,アフタや小潰瘍,不整形潰瘍が多発する例(Fig. 2)がある4).重症例では広範な地図状潰瘍がみられ,回腸囊口側の回腸にまで炎症が波及する(pre-pouch ileitis)こともある.

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 直腸の粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome of the rectum ; MPS)は1983年にdu Boulayら1)により提唱され,それまでの孤立性直腸潰瘍(solitary ulcer syndrome of the rectum ; SUS),や深在囊胞性大腸炎(localized colitis cystica profunda ; CCP)を総称した概念である.問診上排便習慣の異常〔排便時間が長い(15分以上)や排便時のいきみ(strainer)〕を聞き出すことが重要である.排便習慣の異常は様々な肛門機能異常,排便機能異常に起因しており,本症の基礎的異常として排便時に粘膜脱が存在することがdefecographyを用いた排便機能検査によって明らかとなっている.

 肉眼分類として (1) 平坦型,(2) 隆起型,(3) 潰瘍型(Fig. 1),深在囊胞性大腸炎型,が一般的である2).隆起型は直腸下部~肛門管に近い部位に発生し,腫瘍性ポリープとの鑑別が重要である.潰瘍型は隆起型に比べて,より口側の直腸で中Houston弁の前壁側に好発する.主体の病変は潰瘍であるが,その辺縁には周堤様の隆起や粘膜下腫瘍様の所見を伴うことが多く,進行癌や悪性の粘膜下腫瘍との鑑別が重要である.生検組織では粘膜脱による慢性刺激の結果として生じたと考えられる線維筋症(fibromuscular obliteration)が特徴的所見として認められる.

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 急性出血性直腸潰瘍は,河野ら1)により初めて報告され,広岡ら2)によって疾患概念が提唱された.その後,症例の蓄積と検討が重ねられ,臨床的特徴は以下の内容に要約される.(1) 重篤な基礎疾患を有する高齢者に多い.(2) 発症は突然で,無痛性大量の血便あるいは肛門出血で始まる.(3) 潰瘍は歯状線に接するかその近傍あるいは下部直腸に限局し,不整形,地図状,輪状あるいは全周性の場合もあり,多発性ないし単発性で,露出血管を伴うことがある(Fig. 1).(4) 経過は,一般に良好であるが,基礎疾患の重症度に依拠する傾向がある.

 発症の原因はストレス,血流障害などが挙げられ,さらにNSAID(nonsteroidal anti-inflammatory drug)坐剤使用例やサイトメガロウイルス感染例も報告されている3).本疾患は複数の誘因で発症する症候群とする見解もみられる4)

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 宿便性潰瘍は,高度の便秘で腸管内に停滞した糞便塊が粘膜を圧迫し,血流障害を来すことにより発生する褥瘡潰瘍である1).本症の最初の報告例は1984年にBerry2)によってなされた宿便性S状結腸穿孔である.急性出血性直腸潰瘍症(acute hemorrhagic rectal ulcer ; AHRU)と同様,心不全,慢性腎不全,脳血管障害,整形外科手術後,癌末期など,重篤な基礎疾患により長期臥床中の高齢者に好発する.海外では精神疾患患者,麻薬常用者,鎮静剤・抗うつ剤などの薬剤服用者,大腸癌による腸管狭窄,Hirschsprung病,全身性硬化症などにおける発症も報告されている.Selyeら3)は動物実験によって,粘膜血流の低下が宿便性潰瘍発生の危険因子であり,糞便塊という攻撃因子と血流を主体とした防御因子の均衡破綻により生じることを示唆している.病理組織学的には非特異的潰瘍であり,上皮脱落のみの軽度の変化から壁を貫通する潰瘍まで程度は様々である.

 好発部位は直腸,S状結腸であり,骨盤腔内に存在するため腸壁の伸展が制限され,また硬便が形成されやすいためとされている.しかし盲腸や回腸終末部の病変も報告されており,便塊が形成されればどこにでも発生しうる.腸管穿孔の発生部位はS状結腸が約半数を占める.

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 腸管子宮内膜症の病型について,泉ら1)は腫瘤形成主体のendometrioma型と狭窄主体のdiffuse endometriosis型に分類し,endometrioma型は粘膜下腫瘤の結節内の子宮内膜腺が性周期に同期して出血し,diffuse endometriosis型は子宮内膜腺が壁内出血を繰り返したために線維化が進み腸管の伸展性がなくなり狭窄を来した状態としている.

 X線所見では,粘膜下層・固有筋層の線維化を反映し,粘膜下腫瘍様隆起の周囲から腸管の長軸方向に垂直に走行するひだ(transverse ridging)2)の収束像が特徴的な所見である(Fig. 1a).また,充盈像でみられる長い片側性の陰影欠損像(long filling defect)や鋸歯状の辺縁を伴う病変もあり,全周性に近い変化である場合は蛇の抜け殻様狭窄(Fig. 2)と形容される形態を示す.子宮内膜組織が粘膜内にまで達したときは,粘膜面の変化として網目状構造やcobblestone様の顆粒状隆起の所見がみられる.

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 Crohn病は1932年Crohnら1)によって原因不明の回腸末端炎として報告された.本邦において近年この疾患は増加の一途を辿り,厚生労働省の難治性特定疾患に指定されている.その報告書2)の中で疾患概念として「本疾患は原因不明であるが,免疫異常などの関与が考えられる肉芽腫性炎症性疾患である.主として若年者に発症し,小腸・大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め,腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態が生じる.原著1)では回腸末端炎と記載されているが,現在では口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位におこりうることが判明している.消化管以外にも種々の合併症を伴うため,全身性疾患としての対応が必要である.臨床像は病変の部位や範囲によるが,下痢や腹痛などの消化管症状と発熱や体重減少・栄養障害などの全身症状を認め,貧血,関節炎,虹彩炎,皮膚病変などの合併症に由来する症状も呈する.病状・病変は再発・再燃を繰り返しながら進行し,治療に抵抗して社会生活が損なわれることも少なくない」と記されている.Crohn病の診断は診断基準〔クローン病診断基準(案 : 2010年2月9日改訂),Table 1〕2)に則り画像所見や病理組織所見によって判定される.

 Crohn病の画像所見の特徴はその自然史の中で初期の病変であるアフタ様潰瘍・病変3)4)や不整形潰瘍が進展して縦列傾向を示し,それらが癒合して典型像である縦走潰瘍,敷石様外観へと進展すると考えられており5)6),再燃・寛解を繰り返してやがて狭窄,瘻孔,膿瘍などの合併症を惹起して外科的治療が必要となる症例も多い7)~11).Crohn病の治療は寛解導入治療に成功してもその後の継続した積極的維持治療の介入がなければほとんどの症例で再燃・寛解を繰り返して悪化する12)という点で,類似する炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎とは病態が大きく異なると考えられている.

indeterminate colitis 松井 敏幸
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 indeterminate colitisとは,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)とCrohn病(Crohn's disease ; CD)の鑑別困難例である.CDとUC両疾患は,特異的な診断項目がなく,主に形態学的所見(びまん性罹患vs. skip lesion,縦走潰瘍,敷石像,広範なアフタ,小腸病変,肛門病変,上部消化管病変,狭窄,膿瘍など)や組織学的所見(粘膜主体の炎症,transmural inflammation,不釣合い炎症,patchy inflammation,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫,など)によって診断される.しかも,両者の鑑別点は従来からあいまいな点が存在することが知られていた.

 indeterminate colitisは,当初は手術例の切除標本の組織学的検索によっても鑑別できない場合を指した1).その多くは,激しい潰瘍の存在によりUCあるいはCD特徴的な所見が得られないものが多かった.現在では,その概念が徐々に変化し,切除例のみならず,内視鏡所見や生検組織所見などの臨床的項目で鑑別できない場合も含まれるようになった2).すなわち,後にCDと確定するものでも当初はびまん性大腸炎を呈することがある(Fig. 1, 2).逆に,限局性大腸炎であってもUCの病態を呈することがある(直腸罹患を欠く例の存在,区域性大腸炎,右側大腸炎の存在).内視鏡診断のみでは確定できないことがある点,治療選択に際し臨床医が留意すべきである.さらに生検組織診断を加えても正診できないこともある(CDにおける生検での肉芽腫検出率は30~40%程度).小児のIBD(inflammatory bowel disease)ではIBDが発症早期であるため特徴的な像が乏しく確定診断ができないことが多いとされている.しかし,慎重に経過追跡することにより多くは確定診断に至るとも考えられている.わが国のCDの診断基準にも「indeterminate colitisはCrohn病と潰瘍性大腸炎の両疾患の臨床的,病理学的特徴を合わせもつ,鑑別困難例」と付記されている3)

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 虚血性小腸炎は,小腸の血流障害に起因する小腸病変である.虚血性大腸炎よりも発生頻度が低いのは,小腸の側副血行路が豊富であるためと考えられている1).発症には血管側因子と腸管側因子が複雑に絡み合っており,前者として腸間膜動静脈の微小な塞栓や動脈炎,血圧低下による血流不足,薬剤などが,後者として腸管内圧上昇などが挙げられる2)

 腹痛,嘔吐で発症することが多く下血や血便はまれである.ただし,症状は罹患範囲や虚血の程度,側副血行路とも関連する1)3).発症直後には腸管浮腫による拇指圧痕像と皺襞肥大を認める.一方,治癒期の病態は虚血性大腸炎と同様に一過性型と狭窄型に大別されるが,小腸では狭窄型が圧倒的に多く通過障害を来す.狭窄型の病理学的特徴としては求心性の狭窄,境界明瞭な全周性区域性潰瘍,腸管の壁肥厚などが挙げられ4),X線・内視鏡検査では,全周性潰瘍による管状狭窄,口側腸管の拡張,凹凸不整な顆粒状粘膜などがみられる(Fig. 1, 2).

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 非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drug ; NSAID)起因性腸病変は,NSAIDによって正常な小腸ないし大腸に惹起される粘膜病変と定義され,その存在部位から同小腸病変と大腸病変に分類される1)2)

 NSAID起因性腸病変の肉眼像や病理組織像は非特異的な所見にとどまるため,診断には,他の薬剤性腸炎と同様に,(1) 腸病変(潰瘍,腸炎)の確認,(2) NSAIDの使用歴の確認,(3) 他疾患の除外(病理組織学的,細菌学的除外診断を含む),(4) NSAIDの使用中止による病変の治癒軽快の確認,をすべて満たす必要がある1)~3)