特集 図説 胃と腸用語集2012
疾患〔腸〕
宿便性潰瘍(stercoral ulcer)
清水 誠治
1
1大阪鉄道病院消化器内科
pp.781
発行日 2012年5月24日
Published Date 2012/5/24
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403113359
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宿便性潰瘍は,高度の便秘で腸管内に停滞した糞便塊が粘膜を圧迫し,血流障害を来すことにより発生する褥瘡潰瘍である1).本症の最初の報告例は1984年にBerry2)によってなされた宿便性S状結腸穿孔である.急性出血性直腸潰瘍症(acute hemorrhagic rectal ulcer;AHRU)と同様,心不全,慢性腎不全,脳血管障害,整形外科手術後,癌末期など,重篤な基礎疾患により長期臥床中の高齢者に好発する.海外では精神疾患患者,麻薬常用者,鎮静剤・抗うつ剤などの薬剤服用者,大腸癌による腸管狭窄,Hirschsprung病,全身性硬化症などにおける発症も報告されている.Selyeら3)は動物実験によって,粘膜血流の低下が宿便性潰瘍発生の危険因子であり,糞便塊という攻撃因子と血流を主体とした防御因子の均衡破綻により生じることを示唆している.病理組織学的には非特異的潰瘍であり,上皮脱落のみの軽度の変化から壁を貫通する潰瘍まで程度は様々である.
好発部位は直腸,S状結腸であり,骨盤腔内に存在するため腸壁の伸展が制限され,また硬便が形成されやすいためとされている.しかし盲腸や回腸終末部の病変も報告されており,便塊が形成されればどこにでも発生しうる.腸管穿孔の発生部位はS状結腸が約半数を占める.
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