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ジギタリス剤は最も有用な強心剤である.その使い方には従来やや秘伝めいたところがあったが,最近の知見によって特別な薬ではないことが次第に明らかになりつつある.実際上適量の判定は必ずしも容易でないとはいえ,その使用はそれほどむずかしいものではない.
ジギタリスは1785年William Witheringが始めて臨床の場に導入してから,今日まで,①うっ血性心不全,②心房細動を主とした上室性起源の不整脈の治療には欠くことのできない薬剤の1つである.最近では強力な利尿剤使用による電解質異常,ことに低K血症がましたこと,および平均寿命の延長による老人の増加がジギタリス中毒を明らかに増しつつある.ジギタリスは元来,治療域と中毒域との範囲のせまい薬剤であり,治療量は中毒量の60%に及ぶ.老人や基礎心疾患の進行例では,治療域と中毒域との差はさらにせまくなり,中毒をおこし易くなる.中毒はジギタリス投与患者の10〜20%にみとめられると考えてよい.
ジギタリス中毒に特徴的で,それのみで診断可能な確証をうることは困難であり,したがって臨床症状,不整脈の発現に注意し,早期発見につとめることが大切である.とくに生命の危険を伴うものは不整脈であり,ただちに治療を要することが多い.
ジギタリスの効く心不全
ジギタリス(以下ジギと略す)の効かない心不全を考える前にジギの効く心不全を明らかにしておくことが必要である.
心不全は心筋の器質的障害による筋因性の場合と,機械的因子すなわち量負荷(流入負荷)または圧負荷(流出負荷)による場合とがある.左心に対する流入負荷の場合よくきく.大動脈閉鎖不全,僧帽弁閉鎖不全であり,いずれも低拍出性心不全である,それ以外の弁膜症,高血圧症,先天性心疾患の場合にも奏効するが,効果の充分でないことがある.ことに僧帽弁狭窄で頻脈性心房細動を伴わない時はジギが効かない部類に入る.筋因性心不全とは心筋硬塞,心筋症,心筋炎であるが,前者機械因性にくらべ効果が劣る.殊に心筋の障害が広く,線維化して心筋にとって代わると効かなくなる.心筋炎の場合,心外性要因によって心筋が障害される場合も効かない.筋因性の場合は複雑である.
New York Heart Associationの機能分類にもとづいて 心臓病には原因的にもリウマチ性,先天性,高血圧性,動脈硬化性,梅毒性,甲状腺性,貧血性,栄養障害性などいろいろのものがあり,なかでも高血圧症,動脈硬化症,脚気心,脂肪心などでは,予防ならびに治療の意味で,食事指導が重要なことは論をまたない.しかし,ここでは紙数の余裕もないので,うっ血性心不全の栄養指導についてのみ述べる.
うっ血性心不全はNew York Heart Associationの機能的分類にもとづいて,重症度を判定しているのが通例である(表参照).
ショックにはいろいろの原因があるが,その病態生理は大体同じようなものであり,したがって治療も共通しているところが多い.したがってここでは一括してのべる.
急性心停止とは 急性心停止acute cardiac arrestとは活動していた心機能が突然停止するもので,つぎの2種類がある.
1)心動停止cardiac standstill心臓の動きが全く停止した状態で,心電図はほとんど平坦化する.
多数の強力な利尿剤が開発されているが,それぞれ作用機序,特性が異なり,したがって適応,使い方も異なるので,実際の治療に当っては,副作用と共にそれらを熟知する必要があろう.
心筋代謝賦活剤適応の背景
心筋のエネルギー産生障害によっておこる原発性代謝性心不全は,左右両心に均等な代謝障害を発生させ,その結果,左右両心の心迫出量を同時に減少させるため,みかけのうっ血症状を現わすことなく,潜在性心不全の形をとることが多い.
原発性代謝性心不全では,心電図においてQT間隔(電気的心収縮期)の延長がHegglinによって指摘された.これと同様に,機械的にも心収縮期の延長が見られる.この場合,駆出時間の延びは少ないが,等容縮期の延びは明らかである.そして,その結果,心弛期を短縮し,心房から心室への血量の流入を減少させる.
冠硬化を基盤とする狭心症治療の基本は,①狭心症であることの正確な診断と重症度の判定,②狭心症の発生機序,病態,促進ないし助長因子および予後の理解,③狭心症治療薬作用機序の理解,④外科的療法の理解,⑤信頼にもとづく主治医と患者のよき人間関係にあり,この基本の上に個々の狭心症患者に即した生活指導,薬剤の取捨選択,外科的療法への考慮が行なわれるべきである.またそのためには発作時心電図の把握はもちろん,必要に応じて各種負荷試験,心機能検査,冠動脈造影や左室造影などの諸検査が行なわれなければならない.
一般的治療
病院への迅速な収容 心室細動などの重篤な不整脈の2/3は発症後5時間以内に発生するから,直ちにCCUを備えた病院に収容すべきである.移送には心電計,除細動装置を備えたmobile CCUが理想的であるが,医師が附添い,電池式心電計を備えていれば,これに代用できる.酸素吸入と静脈確保は必須である.移送前に50以下の徐脈があれば,硫酸アトロピン0.5mg〜1.0mg皮下注,心室性期外収縮に対してはキシロカイン50〜100mg静注を行なう.
鎮痛,鎮静 鎮痛には塩酸モルヒネ1筒10mgを皮下に注射する.10〜20分を経過しても効果がなければ更に10mgを追加する.静注するばあいには,1分間1mgの速度で緩徐に行い,効果が現われたら中止する.呼吸抑制,血圧低下,徐脈,悪心等の副作用予防のためには硫酸アトロピンをモルヒネ10mg当たり0.3〜0.5mgを皮下注するか静注する.ただし,アトロピンには頻脈作用があるので,心拍数80以上の時には併用しない方が無難である.
急性心筋硬塞発症後は6ないし8週の安静臥床が必要老考えられていたのは,そう古いことではないが,最近は早期離床,早期のリハビリテーションの必要性が広く認識されてきた.特別な合併症がない限り,Harpurらのように7日臥床,15日退院といった早い回復も可能であるが,回復期の判断と社会復帰を目標にトレーニング療法を行なう場合,個々の症例に応じての慎重かつ細心な配慮が必要である.回復期の管理に際しても,決して一律に規定されるものではなく,高血圧,糖尿病,肥満,高脂血症の有無,心予備力の程度ないし冠動脈病変の強さなどにも注意しながら個々のケースに応じた指導がなされねばならない.
急性期の安静度と運動の開始
心筋硬塞というと,発病後1月も2月も安静をとらせたままというのが,長い間の日本における内科医のやり方であった.これは今日の心臓病学からいって誤りである.
本症の急性期の安静と運動を考えるには,まず本症の急性期の死亡状況をしらなければならない.筆者の例では,発病6時間以内に入院した患者で死亡したものの90.7%は2週間以内に死亡している.この2週間内は特に厳重に監視すべきである.
弁膜症は後天性心疾患のうちで最も多いもので,僧帽弁膜症とくに僧帽弁狭窄症(MS)が最も多く,心臓外科が開始されて以来,手術の対象となることも多かった.しかし最近は開心術,人工弁の進歩に伴って他の弁膜症に対しても手術の適応が拡大されて来た.
また手術の適応を論ずる場合,非直視下(閉鎖式)に行なうか,直視下(開心術)あるいは弁置換手術を行なうべきかの手術術式の適応も論ぜられるようになってきた.
弁膜症の弁の変形は手術でもしない限り治らない.弁の変形による狭窄・逆流の血行力学的負荷は,24時間を通じて心筋等にかかっており,運動などにより更に大きな重荷となる.ある程度以上の重さの狭窄・逆流は心筋肥大→心筋障害を次第に増して,病気を重症化させ,最後には生命の危険を招来するまでになる.どの程度までの逆流や狭窄であれば,適当な節制を守ったとして,その患者のいわゆる天寿まで生命を長びかせ得るかは,今日,何も分ってはいない.言うなれば,定量的には殆んど分らないまま,いつ破綻をおこすか分らないという可能性におびえながら,何となく運動量を規制したり,生活の幅を狭めたりしているのが実情ではないかと思う.言い換えれば,じっと寝て安静にしていれば,心臓に対する負荷という点に関する限り,最も理想的であるが,それでは生きる喜びもないし,経済的にも苦しい.そこで,苦しくなければといった程度の運動量制限で,何となく我慢しているのが,今日の医療の実際ではないだろうか.
リウマチ性心臓病の予防
リウマチ熱の後遺症,あるいは欠損治癒した形であるリウマチ性弁膜症は後天性弁膜症の中では最も多いものである.本症において,とくに注目されるべきことは,本症は「予防しうる疾患である」という点である.
一般にある疾患の予防というばあい,その方法は一次予防と二次予防に分けられる.リウマチ性心臓病の一次予防法,すなわちリウマチ熱発症防止のためには,溶連菌感染の早期診断とそれに対する十分な治療,溶連菌ワクチンの開発および社会経済的要因の改善などがあげられる.
心内膜に敗血巣を有する敗血症を細菌性心内膜炎という.
診 断 本症の治療成績の向上には早期に診断し,かつ適正な治療をすることである.診断の要訣は感染症状,心臓症状,血栓塞栓症状の三大症状の具備したときは,ほぼ確実で,二つ具備したときも疑わしい.とくに心弁膜症に何か症状が加わるとき本症を疑うべきである、確診は血液培養である.動静脈培養2回以上実施する.
小児期における先天性心臓病治療法については最近著るしい進歩を来たし,内科領域でみられる本疾患もこの影響により数年前に比べて,遭遇する頻度,治療内容も変化してきた.
表は過去7年間に入院した先天性心臓病153名を疾患別,その合併症の発生頻度をみたものである.疾患別では心房中隔欠損症が約40%を占め,以下心室中隔欠損症,動脈管開存症,ファロー四徴症,肺動脈狭窄症,その他である.その合併症としては心不全症が全体の16%を占めており,次いで肺高血圧症が7%,細菌性心内膜炎が5%である.全体の約26%が成人期においてなんらかの合併症を来たすことになる.以下,先天性心臓病の取り扱い方としてこれら疾患の手術適応の問題,心不全症,肺高血圧症,細菌性心内膜炎,およびその他の合併症の治療法について述べる.
肺性心は肺あるいは肺血管床の病変に基因する心疾患であり,経過により急性,亜急性,慢性にわけられるが,たんに肺性心という場合は慢性のものを意味することが多い.肺循環障害,右室肥大,さらに右心不全へと進展していく機序の基礎には非可逆性の肺の器質的変化があるので,治療も心肺両面の対策が必要であり,治療方針をきめるためには病態異常を把握するための機能的診断が必要となる.
本稿では,慢性肺性心の基礎疾患による呼吸不全対策については基本原則を列記するにとどめ,心不全対策を中心として問題点のいくつかを述べることにする.
心嚢液貯留とは,どの程度以上についていうのか明らかにされていない.現在一般に駆使されている診断方法で,どの程度以上の心嚢液貯留があれば,これを認めることが出来るかという問いには,ある程度答えることが可能であるが,これもそれ程たしかではない.というのは,心嚢液が異常に貯留しているか否かを診断することが時に大変困難な場合があるからである.しかし,このような例外的な場合を除き,ごく一般的な診断方法について考え直しておく必要がある.
不整脈をみたら,どんなものでもすぐに治療薬を与えなければいけないと思ったら,たいへんな誤りで,頻度の一番多い期外収縮などは,その大部分が治療不要なものなのである.したがって不整脈をみたらすぐに抗不整脈剤投与という方向に走らず,次のような順序で考えていったらよい.
1)その不整脈の種類は何か.
処置を要する期外収縮
日常の診療において期外収縮が問題となるのは,これが1)何らかの自覚症状の原因となっているとき,2)血行動態上好ましくない影響があるとき,3)細動に移行する恐れがあるとき,の3つの場合である.
期外収縮が原因となる自覚症状には期外収縮が起こるたびに動悸や不安感を生じる場合と,期外収縮の存在に気づき,あるいはこれを指摘されたために患者が常に不安感をもつにいたる場合とがある.後者は患者の性格に神経症的な素因のあるときには,とくに問題となり,期外収縮そのものに対する処置というより背景にあるものへの考慮が大事となってくる,期外収縮が血行動態さらには冠循環にも悪影響をもつのは,それが頻発・連発するときである.また連結期が短いと血行動態的に無効の心収縮(pulse deficit)となりやすい.基礎に器質的心疾患をもち,また心不全状態にあるときはとくにこれらの影響は大きい.期外収縮が臨床的にもっとも大きな問題となるのは,これが細動に移行する危険のあるときである.心房細動は自覚症状・血行動態に大きな影響をもつし,心室細動が致命的であることはいうまでもない.一過性心室細動の既往があるもの・心筋硬塞急性期・ジギタリスやカテコラミン過剰のさいみられる心室期外収縮は心室細動に移行しやすい.心電図上の特徴としては,連発するもの・連結期が著しく短いもの・多形性(多源性)のもの・異様な形または幅が異常に広いもの・基礎調律にQT延長やUの異常な増大を伴うものなどは注意を要する(図1).連結期が短く心室期外収縮のRが先行収縮のT波の頂きに重なるものはR on T現象とよばれ,一過性心室細動の間歇期にはしばしばみられる.
1962年Lownの直流通電の有用性に関する報告1)以来,出力エネルギー数百ws.の放電能力を有する直流除細動装置が救急処置に必須の装置としてようやく普及し,これにつれ適応も拡大されてきた.本法は現在,直流通電,除細動,カルヂオバージョン,カウンターショックなど種々の名称で呼ばれているが,直流通電が事実そのままの記載でもっとも適していると考える.
各種抗不整脈薬の出現は不整脈治療の進歩をもたらしつつあるが,このなかにあって,さらに電気的治療が大幅に取り入れられつつある.その一つが主として頻拍や細動に対する直流除細動器によるカルディオバージョンや除細動であって,すでに述べられている.
もう一つは主として徐拍に対する人工ペースメーカーによる心臓ペーシングで,薬物などで治療あるいは予防困難な場合に,緊急的・一時的に即効的に有効なばかりでなく,近年は人工ペースメーカーの植込みによって,ほとんど患者の一生にわたってペーシングを続けることにより,徐拍性不整脈あるいは随伴する重症不整脈によって起こる突然死やAdams-Stokes発作,心不全,心身の活動・労作・運動制限などの合併症を予防ないし治療することが常識になってきている.
心疾患患者にアルコール飲料を許容すべきか否かは,従来常識的に処理され,論議されることは少なかった.しかるに最近欧米においてアルコール性心筋症alcoholic cardiomyopathyが原因不明の心肥大,すなわち特発性心筋症の大部分を占めるとされ,ここにアルコールの心臓に対する作用を改めて検討する必要が生じる.
一般的注意
心臓神経症は臓器神経症のうちでも頻度の高い神経症の一つで,心臓症状(動悸,胸痛,胸内苦悶感,胸部圧迫感など)を主症状とし,これを説明するにたる器質的疾患が見出されない機能性障害を示す場合,診断名として一般に使用されることが多いが,充分な除外診断がなされていないと,他疾患と誤る場合があり注意を要する.
しかし一方心臓に器質的病変(例えば冠硬化)があっても,それに神経症的傾向が加重される場合もあり,あくまでも心身不分離の立場で日常診療に従事することが重要である.
動脈硬化は,10歳代より始まり,次第に年齢増加に伴って,その程度と範囲を増し,多くは40歳代に至って,脳,心,腎,末梢などにおいて,脳卒中,冠硬化,大動脈瘤,腎硬化,末梢動脈閉塞などの臨床症状を呈してくる.つまり,20〜30年にわたる無症状の時期に,動脈硬化に対する予防的処置をとり,臨床症状を示すことを防ぐことが重要である.以下,この点に注目して,具体的な予防手段についてふれてみたい.
現在用いられている降圧剤はその主な作用機序の上から利尿降圧剤・交感神経抑制剤・末梢血管拡張剤に大別される.
普通行なわれている高血圧の療法はいわゆる積み重ね方式で,最初に基本になる降圧剤を1〜2種類与え,これで充分の効果が得られない場合,更に次の降圧剤を積み重ねて行く方法である.基本になる降圧剤として最も普通に用いられているのはサイアザイド剤とレセルピン剤であるので,まず基本になる薬の副作用を述べ,次いで簡単にそれに積み重ねられる降圧剤の副作用を述べる事にしよう.
厳しい規制は実用的でない
本態性高血圧症の生活指導というテーマであるが,私は本態性高血圧症に特有な生活指導というものはないと考えている.もちろん,私は国立東京第一病院において,高血圧の精密検査を受けた入院および,外来患者についてパンフレットを用いての生活指導を行なっているが,これは何も高血圧症に限られた生活指導ではなく,40歳以上の中年を過ぎた人々の健康維持に対する生活指導といった方がよいであろう.本態性高血圧症の大多数(97%以上)が良性であり,急性の脳,心臓,腎の合併症のない限り,平常の仕事を行ない,生活を楽しみながら生活することが原則であるから,あまり,患者が実行できないような厳しい生活や食事の規制は実用的ではない.私は高血圧症で良性のものに対してはあまり厳しい生活指導は行なわず,降圧剤の使用に頼っても血圧を正常またはそれ近くに維持することとしている.いいかえると高血圧症の治療の第一は降圧剤であり,生活指導,食事療法は第二義的なものと考えている.
しかし,そうはいっても高血圧症のうち軽症なもの,特に初期高血圧で不安定な血圧動揺を示すものは生活指導や食事の規制のみで降圧剤を使用しなくても,血圧が正常値に管理されるものも少なくない.この意味で,高血圧症での生活指導の役割は軽視できないものである.以下,私が高血圧患者に行なっている生活指導を具体的に述べる.
腎炎に伴う高血圧の場合も,その対策は,本態性高血圧の場合と本質的に異なった点はない.本態性高血圧も,病期の進展に伴って腎障害がおこり,悪性高血圧の状態になると,しばしば腎不全が死因となることは周知の通りである.このように進行した場合は,高血圧の一次的原因が腎炎によるものか,あるいは腎硬化性病変との関連において高血圧がおこっているのかを臨床的に区別することが困難なことが稀でない.腎臓は高血圧の病因とその運命に最も深いかかわりをもつ臓器であるので,腎炎ないし腎障害に伴う高血圧の治療は,高血圧診療の上で,重要な部分を占めている.
腎炎の際における高血圧の機序については,今日十分明らかでない点が多く残されているが,各病期における病態の相違を考えて,対策を述べることにする.
従来,本態性高血圧症として内科的に取扱われていたものの中から,外科的に根治可能な二次性高血圧症が見出される機会が多くなりつつある.しかも,これら二次性高血圧症は外科的療法の発達により,早期の適切な治療により全治しうるので,このような患者を一人でも多く見出すべく努力することこそ,われわれ臨床家の大きな責務といえる.外科的治療により根治可能な二次性高血圧は腎性高血圧(腎血管性高血圧や糸球体腎炎,慢性腎盂腎炎,嚢胞腎,腎結石および尿路閉塞をきたす疾患など)と内分泌性高血圧(主として副腎皮質および髄質の腫瘍や過形成など)に大別される.
鎮咳剤を使う前に,まず原因の除去を!!
鎮咳剤の使用は,対症療法に過ぎない.したがって,咳嗽反射の原因になっている気道の感染と炎症,化学的刺激,機械的病巣およびアレルギー,神経性,血管性などの原因を見極め,直接の原因を除いたり,基礎疾患に対する治療を行なうことが大切である.
一例として,呼吸器感染症があれば,a)結核→結核化学療法剤,b)非定型抗酸菌感染が疑われる慢性型の気管支炎→ヒドラヂドなどを試みる.c)マイコプラスマ肺炎→テトラサイクレインかエリスロマイシン2g/日,d)緑膿菌感染→カーベニシリン8〜10g/日,ゲンタマイシン40〜80mg日の併用などの特殊なものの存在にも配慮しながら,起炎菌の確定に心がける.
消炎酵素剤とは
消炎酵素剤は抗炎症剤の一種である.今日臨床的に用いられている抗炎症剤はステロイド剤と非ステロイド抗炎症剤に2大別されるが,消炎酵素剤は狭義の非ステロイド速効性抗炎症剤,遅効性抗リウマチ剤および抗ヒスタミン剤などとともに後者に属している.
消炎酵素剤には表に示すごとく,動物性・植物性・微生物由来など酵素起源を異にするいくつかのものがあり,多糖体分解酵素であるリゾチーム以外はすべて蛋白分解酵素である.現在市販中のものには動物性のものとしてトリプシン,キモトリプシンがあり,植物性としてプロメライン,微生物由来としてプロテアーゼ,プロクターゼ,プロナーゼ,セラチオペプチダーゼ,セミアルカリプロテアーゼ,ストレプトキナーゼなどがある.
びまん性間質性肺炎 ステロイド療法以外に有効な治療法がない.
原則は早期発見,早期治療.しかも十分強力に行なうこと.
「気道の病気は気道から」と,気道に十分な湿度を与え,気管支拡張剤,喀たん溶解剤などをエロゾルとして気道粘膜に作用させるのが吸入療法である.そして,吸入療法の効果をあげるにはつぎの3点がポイントとなる.
(1)ネブライザーの性能と選択
IPPB,すなわち間歇的陽圧呼吸を行なう目的は,酸素吸入,エロゾール吸入,調節呼吸あるいは補助呼吸の3つがあり,それぞれの目的に応じて広く用いられている.すなわち呼吸器疾患では,1)呼吸停止あるいは抑制(肺癌脳転移,薬物中毒,呼吸筋麻痺など),2)呼吸不全(慢性気管支炎,気管支喘息,慢性肺気腫,気管支拡張症,肺線維症,肺感染症など)がその適応となる.IPPB装置による吸入療法によって生理学的には,肺胞換気量の増大,気管支拡張作用,ガス分布障害の除去,呼吸筋仕事量の軽減などいくつかの利点がある.なお,装置を正しく理解し使用しなければ,かえって逆効果をもたらすこともあるので注意しなければならない.したがって,吸入療法の実際については次項を参照することにして,ここでは主としてIPPB装置の取り扱い方を中心に述べる.
酸素療法とは治療の目的で大気よりも高濃度のO2を吸入気に加えて生体に与えることである.
気管支喘息発作時の治療にあたっては,患者の病態生理,すなわち発作の程度,発作の重症度をまず適確に把握してかからなくてはいけない.
減感作療法の機序
気管支喘息患者の血漿ヒスタミン,セロトニン値およびブラジキニン破壊酵素活性は発作のないときは健常者と大差はないが,発作の際にはヒスタミン,セロトニン値は上昇し,ブラジキニン破壊酵素活性は低下してブラジキニンの増加を思わせる.このような変化は発作の強いものほど著しいようである.したがって喘息発作ではこれらの物質(chemical mediator)が,その薬理作用により気管支の平滑筋の攣縮や分泌亢進を起こしたものといえる.
アレルギーの立場からは,人体に抗原が侵入してこれを感作すると侵入した抗原に対応する抗体(reagin)が作られる.この抗体はIgEでマスト細胞や好塩基球の表面に付着している.マスト細胞や好塩基球のなかには上述のchemical mediatorを有する顆粒がある.抗原が再び侵入し,上記細胞表面のreaginとの間に一定の比率で抗原抗体結合物が形成されると,細胞内の酵素は活性化して顆粒を細胞外に脱出せしめ,chemical mediatorが遊離する.喘息発作の際にchemical mediatorが増加するのはこのように説明できる.
小児気管支喘息(小児喘息)は発作性に始まる呼気性呼吸困難を繰り返しておこすことを特徴とするが,その原因としては,近時アレルギーの関与がつよく示唆されており,治療もアレルギー学的診断の上に立って行なわれることが多くなってきた.しかしながら,一部の小児喘息ではアレルギー的機序がまったく関与せず,心因的因子がつよく作用していると考えられる例もみられる.さらに,ひとたび発作が始まれば,その重篤化因子として不安,恐怖感,不信感などが程度の差はあっても何らかの形でかかわりあってくることは決して稀ではない.
また,小児喘息は周知のごとく,発作を繰り返し,その経過は数年以上に及び,幼児期から少年期を経て成人期に至る例も少なくない、かかる症例においては,病気そのものによる肉体的な影響はもとより,精神的影響が患児に加わることも否定し得ない.
一般的に気管支喘息の発生は,本邦においてはO.8〜1.4%,アメリカでは枯草熱を含めて2.6%1)前後といわれている.妊娠時の合併症としての喘息の頻度はあまり高いものではない.DerbesおよびSodemann2)らによると妊娠婦人が喘息で悩まされる率は0.4%であり,またKing Countory Hospital(Brooklyn)での出産14,800のうち,喘息の合併症を有する婦人は104名で0.7%であると報告している.
気管支喘息の治療は最近の進歩により,気管支喘息患者の妊娠,分娩は充分管理しうるようになってきている.ここでは気管支喘息の妊娠に与える影響,妊娠,分娩の気管支喘息に与える影響およば妊娠分娩時の気管支喘息発作治療についてふれる.
気管支拡張症は,通常特発性と続発性にわけられる.続発性は,肺結核,肺化膿症,肺癌,慢性気管支炎,びまん性汎細気管支炎などによって二次的に発生するもので,気管支造影上,円柱状,紡錘状のものが多い.
特発性気管支拡張症の典型例の病歴をたどると,乳幼小児期に百日咳か麻疹に罹患後気管支肺炎を合併し,その回復に月余の期間を要したことが聴取できる.このように肺の発育過程における肺炎や細気管支炎が,特発性気管支拡張症の原因となっている場合が多い.また,先天的形成異常と考えられるものも含まれる.嚢状の拡張像を呈するものが多い.
Sinobronchitisという言葉は,端的にいって,Sinusitis(副鼻腔炎)とBronchitis(気管支炎)またはBronchiectasis(気管支拡張症)の合併した1つの徴候群である.
したがって,その治療も気道全般にわたる共通した治療法と,副鼻腔炎に対する治療法および気管支炎または気管支拡張症に対する治療法とに分けて考えられる.
目的と原理
気道過分泌による粘稠な痰の貯留は,気道を閉塞し,とくに閉塞性肺疾患では,ガス交換へ影響することが多大である.気道内の痰の貯留は,細菌感染をまねきやすく,気道感染が繰り返されると,気管支線毛上皮細胞の破壊など,気道防御機構が障害され,痰の喀出困難が増強する.
体位ドレナージpostural drainageは,各肺葉気管支の解剖学的区分にもとづき,種々の体位をとることにより,重力を利用し,水が低きに流れるように少ないエネルギーで効率よく痰の喀出を促す方法である.
慢性肺気腫の病像の把握
慢性肺気腫は病理学的には肺胞腔の破壊とそれに伴う肺胞の異常拡大により顕微鏡的に観察される.臨床的にはこの形態的変化により,残気量の拡大,そして肺胞腔と気道との不均衡すなわち異常に拡大した肺胞に比し気道径が拡大していないことによる不可逆性の閉塞性障害,次いで肺胞の低換気状態が招来し,肺の生理学的役割としての動脈血の生成能が低下することになるのである.この状態の患者群を臨床的に分類してみると,次の如く病期が分類される(アメリカ胸部疾患学会により分類).
①無症状期
この問題を取り上げるには少なくとも次の2つの事柄を考慮せねばならない.
通称光化学スモッグは,現代社会の大きな問題となっている.しかし,光化学反応の結果生じる大気汚染現象が,広く認識されるようになってからの月日は,比較的浅い.わが国において,その人体影響が問題になりはじめたのは,1970年の夏のことである.従来の大気汚染の問題は,かなり長い歴史をもっている.1661年に,英国政府のダイアリストのジョン・エベリンという人が,"ロンドンの空は煤煙によごれ,そのために呼吸器をおかされる人が多い"という主旨の記録をのこしており,1930年には,ベルギーのミューズ谷で,多数の住民に健康上の被害が発生したという,大気汚染の最初のエピソードがおこっている.一方,光化学スモッグの存在が認識されはじめたのは,1940年代から1950年代のはじめにかけてであった.すなわち,アメリカのロス・アンゼルス市で,白色がかったもやが発生し,植物の被害がおこり,やがて眼の刺激症状を訴える人々が多発するようになり,従来の大気汚染とは異なる現象の存在が考えられるようになったのがきっかけとなって,研究者達による検討がはじめられたのである.そしてその結果,従来の大気汚染物質が,日光の紫外線により光化学反応をおこし,さらにそれに物質相互間の作用が加わって,二次的に汚染物質を形成するという,いわゆる光化学スモッグの存在が,うかび出されてきたのであった.
自然気胸の治療は常に二面性を持っている.すなわち肺の再膨張と再発の防止であり,両者を同時に勘案して治療しなければならない.
本稿では肺結核症や肺癌に続発する続発性気胸を除き,blebまたはbullaに起因すると考えられているいわゆる特発性気胸の治療にのみ限定した.通常自然気胸の治療は,1)安静療法,2)胸腔穿刺,3)胸腔ドレイナージ,4)開胸手術,5)その他に大別することができるので,自験例の成績を参照してそれぞれについて述べる(表1,表2).
慢性呼吸不全は,非可逆性の器質的変化に起因している部分が極めて大きいので,治療に対する反応は急性呼吸不全のように劇的ではない,しかし,存在する生理学的障害をよく理解し,それにもとづいた適切な治療を根気よく続けられれば,疾患の進行を遅らすことができるばかりでなく,残存する機能がある程度改善され,患者は生きがかのある日常生活を,永年にわたって送ることが可能となろう.
〔治療方針〕1.呼吸仕事量の減少を計る.
呼吸困難とは"楽に息をすることができない",あるいは"息をするのに苦痛を感じる"という状態の自覚症状である.患者はしばしば"息苦しい","息がきれる"と訴える.呼吸困難といっても程度はいろいろあるが,Hugh-Jonesの分類によると,4〜5度のものが往診を需められる対象となろう.
この場合,単に息ぎれを訴えることもあるが,喘鳴を伴う呼吸困難の発作である場合が最も多い.そのうちでも気管支喘息が圧倒的に多く,それにつぐものは心臓喘息であろう.まずこの両者を主体に考えてみる.
胸痛を訴える疾患の頻度 内科医にとって,胸痛を主訴とする患者を診る頻度は高いものであり,青柳1)によれば昭和43年の慶大内科外来新患の8.04%を占めているという.また入院患者を対象としては,東大第2内科(小池による1))の例を示すと表の如くである.いずれも胸痛以外の,呼吸困難,発熱など,他の訴えを伴ったものと解せられる.一方,前述の外来患者では,上気道気管支炎によるものが圧倒的に多く,ついで不整脈,頻脈,肋間神経痛,高血圧,肋膜癒着などが多く,入院患者にくらべ,疾病構成を全然異にしている.私の往診の経験から考えた場合,その対象となる疾病構成はこの入院患者のそれとよく一致しているようである.この表を見ると,胸痛を訴える患者を診るにあたって注意すべき疾患は虚血性心疾患,胸膜炎などであり,重篤な疾患としては解離性大動脈瘤,肺塞栓などであろう.往診に際しては,本表の疾患に注意しておくことが必要であろう.
喀血による往診の頻度は,私の乏しい経験からはっきりは断定できないが,往診の中では比較的多い方に属すると思う.血痰という程度の出血量では,心不全か肺硬塞などのように他の苦痛を伴う場合以外は来診することが多いので,往診の対象ははっきりした喀血が主体になると考えられる.
昭和46年8月30日,厚生省告示第306号によって「結核医療の基準」の第4次改正が行なわれ,Rifampicin(以下RFPと略す)が二次抗結核薬として採用され,ひろく臨床に応用されるようになった,RFPの肺結核治療については,すでに結核療法研究協議会(以下療研と略す),日本結核化学療法研究会,国立療養所化学療法研究班,自治体病院などの協同研究の成績が発表されている.これらの研究報告はいずれもRFPが抗結核薬としてきわめてすぐれていることを示しているが,RFPによる結核治療については,なお2,3の問題が残されていると考えられるので,これらについて記すことにする.
肺結核の化学療法の進歩と,集団検診の徹底化,社会状態の好転は本症の治療法にも大きな変革をきたした.この10年来入院治療と外来治療と肺結核の治療経過に差が認められないという研究結果も数多くみられるようになり1,2),一方において集団検診の徹底化は早期発見により軽症例が多くなり,自宅外来治療例が必然的に増加してきた.しかし一方において安易に外来治療を行なって,手術適応の時期を失ったり,長く排菌が続くのを見過ごしてしだいに悪化をまねいたり,耐性菌を排出,感染源となったりする症例も絶無とはいえない.ここにおいて,われわれが肺結核の外来治療を行なうに当たり留意すべき点を今一度反省することが必要かと考える.
Rifampicin(RFP)は1957年イタリアのSensiらによってstreptomyces mediterraneiから発見されたRifampicin Bを出発点として誘導された半合成抗生物質でグラム陽性,陰性菌および結核菌に有効である.結核菌に対しては非常に有効でDubos液体培地で人型結核菌の感性菌および種々抗結核剤耐性菌に対して,感性菌と同様に有効で最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration,MIC)は0.1mcg/mlないし1mcg/mlであり,従来の抗結核剤と交叉耐性は認められなかった1)(表).この試験管内抗菌力はstreptomycin(SM)よりすぐれ,INHとほぼ匹敵するものである.マウスの実験結核症においても同様のすぐれた抗結核作用が認められた.動物試験においてもkanamycin耐性菌’viomycin耐性菌で感染されたマウス結核症に耐性と関係なく効果が認められた.耐性の上昇は比較的早く4代継代培養で100mcg/mlの耐性が認められた.したがってRifampicinによる結核の単独治療はさけねばならないと考えられた.
慢性気管支炎の治療方針を決めるにあたって,まず大切なことは慢性気管支炎かどうかを診断することと,とういうタイプのものか,そして臨床上軽症か重症かを診断することである.
慢性気管支炎の診断は,現在,"肺,気管支,上気道の限局性病巣によらないで起こる痰を伴った慢性・持続性の咳のある疾患で,慢性とは,2冬連続的に少なくとも3カ月間ほとんど毎日病状のあるものをいう"という診断基準によるもので,痰および咳という臨床症状によって診断することと,それらの症状が,肺,気管支,上気道の限局性病変によらないものであるということを確かめるために,除外診断を十分に行なうということである.それから,慢性気管支炎,慢性肺気腫,気管支喘息は,慢性閉塞性肺疾患に包含されており,お互いに合併する頻度が高いので,単なる慢性気管支炎だけか,肺気腫や喘息に合併した慢性気管支炎かを診断することも必要である.
一般的注意事項
安静・補液と栄養・酸素吸入・循環障害への配慮・合併症への配慮とくに老年者においては,一見症状が顕著でない場合にも万全の配慮が必要である.
真菌症の種類
真菌症の中で日本にあるものは,アスペルギルス症,クリプトコックス症,カンジダ症,ムコール症,放線菌症,ノカルジア症等である.地方病的な真菌症は,日本にはないが,アメリカ大陸にあるコクシジオイデス症(coccidioidomycosis),南中米にあるパラコクシジオイデス症(南アメリカブラストミジス症,paracoccidioidomysosis),北中米およびアフリカにあるブラストミジス症(北アメリカブラストミジス症,blastomycosis),北中南米およびアフリカにあるヒストプラスマ症(histoplasmosis)などが肺に感染を起こす.
肺化膿症とは何か
肺が細菌感染により壊死をおこし膿瘍を形成してくると肺膿瘍あるいは肺壊疽といわれることは周知のことであるが,1952年に篠井金吾氏によりこの両者を総括して肺化膿症と命名された.またさらにフリードレンデル肺炎桿菌性肺炎のような化膿性肺炎や肺癌または異物などによる気管支の閉塞に由来する続発性の肺膿瘍などもこれに含めることもあり,肺化膿症の定義については専門家によっても多少意見の相違がみられるようである.
急性胃炎は飲食物の不節制や過食など機械的刺激,薬物などによる外因的刺激,嗜好品や化学製剤などの化学的刺激,あるいは急性感染症や食中毒の細菌や毒素の刺激によって起こることが最も多く,胃粘膜に発赤と浮腫およびエロジオンなどを急激に発生するものである.
基本的考え方と治療方針
筆者は次のような基本的考え方に基づいて慢性胃炎の患者を取り扱っている.
1)諸検査でたとえ胃炎像がえられても,大した自覚症状のない場合は,あえて慢性胃炎という病名を患者に告げ,病気としての意識をもたせるようなことはしない.
消化性潰瘍の食事療法については従来より多くの意見が提唱されているが,これは大きく以下の2つにわけられるようである.1っはCruveilhier,Leubeらによって提唱された庇護制限食事療法であり,わが国においては南,善光寺が本邦向きに改良している.これは消化性潰瘍の特異性を考慮し,食事療法の目的は栄養補給という面よりも,病変局所に対する機械的刺激が出血その他を促し治癒を遷延させるという考えからつくられたものである.他方はLehnhartz,Meulengrachtの積極的栄養補給食事療法であり,山川,黒川,山形,松永らにより改良が加えられている.この方法はMeulengrachtより積極的ではないが,従来の庇護療法より早期に高カロリーの栄養補給を行なおうとするものであろう.最近の消化性潰瘍の治療は,抗コリン剤,抗ペプシン剤,抗ガストリン製剤など多くの種類の薬剤が開発されているが,治癒期間,治癒率などは従来の薬剤よりすぐれているとはいいきれず,入院安静療法とともに食事療法の占める割合は大きいと考えられ,とくに急性期においてはその感が強い.筆者は胃X線内視鏡検査があまり発達していなかった時代に用いられた食事療法,すなわち潰瘍の出血,あるいは胃粘膜に対する機械的刺激,胃十二指腸の運動亢進を抑制する点を考慮した庇護療法をそのまま用いてはいないが,一方Meulengrachtらが始めた大量の出血直後より多量の高カロリー食を投与することは行なっていない.一般に出血直後の患者は食欲もなく,一般状態もまた精神的にも不安な状態で,流動食でも嘔気などとともに再出血をみることがあるからであり,出血直後には絶食期間をもうけ,その後はできるだけ早期に高カロリー食を投与するようにしている.
再発性胃・十二指腸潰瘍の特徴
胃・十二指腸潰瘍は,本来病変の性質として再発・再燃を繰り返しやすく,したがって,慢性経過をたどる例が多いとされているが,教室のさきにまとめた成績1)では63%にもおよんで認あられた.その再発の予知ならびに予防についてはこれを適確にとらえる方法を見いだすことが困難であり,一応は定期的な検査によって経過を観察することが現状では最良であるとされている2).しかし,なお本症の初発時においてその経過.予後を見とおす上に何らかの手がかりが得られはせぬかと考え,教室においては潰瘍例の多面的な要因分析を行なって,いわば予後に対する予測的診断criteriaの確立を意図している.なお結論的な段階にはいたっていないが,身体上の条件の上では年齢と胃粘膜萎縮度・胃酸分泌能との間の解離的な現象,つまり若年にもかかわらず胃粘膜の萎縮性変化が強く,酸分泌能も低下が著明な例や,高年齢においても胃粘膜の萎縮性変化を伴わず,酸分泌能が高い例においては潰瘍の再発頻度が高い傾向を認めた3).目を再発局所に向けて検討すると,瘢痕治癒化を確実に見届けたさいには,その同一部位に潰瘍が生ずることはむしろ少なく,したがって,瘢痕組織周辺に潰瘍成立を容易にする要因は必ずしも考えることはできない.初発潰瘍同様に,Shay4)の酸・ペプシンを中心とした攻撃因子と,粘膜抵抗性.血流動態などの防御因子とのアンバランスによって,内分泌性あるいは精神神経性機能の異常等を背景として潰瘍がひき起こされるものと考えられる.その誘因となる精神緊張や不安,あるいは情動ストレスの影響については諸家の説くところであり,動物実験上も実証されているが,とくに胃潰瘍の慢性.再発例と初発例についてManifest Anxiety Scale(MAS・Taylor-杉山法)やMPI等の上で調査を進めると,ほぼ年齢・性等の上で等質性の吟味された対象において,初発例のMAS平均は19.5(10〜27)であるが,再発例においては22.5(10.5〜40)と高値を示した.これを酸分泌能との間に対比すると図のごとく対照域をはみ出して不安得点の高い例が多くみられるが,それらの酸分泌能は必ずしも高くない.しかし,全体としてはMASと酸度には平行関係がうかがわれ,かつメコリール反応型をみると再発例にはP型が多いと同時に,P型例にはMAS得点も高い傾向をうかがうことができる.このような相互関係は十二指腸潰瘍のさいにはさらに顕著となる5,6).
ダンピング症候群とは,胃の手術を受けた患者が摂食中から,または摂食後すぐに倦怠感・発汗・頻脈・顔面潮紅・熱感・頭重感.頭痛.胸部狭窄感・呼吸困難・めまい・失神等の血管運動経神症状を主とする全身性の症候群を示す場合をいうが,その他,悪心・嘔吐・腹鳴・下痢・腹痛等の腹部症状を伴うことがある.ダンピング症状は多くは摂食中か摂食後30分以内に現われる早期ダンピングであるが,時には摂食後2ないし4時間後に現われる後期ダンピングもある.
最近麻酔の進歩に伴って手術の危険度は極めて減少し,胃切除術も容易に行なわれるようになった、その反面,胃切除後障害の問題が出現してきた.ここでは,このうちとくに内科的治療が重要な貧血と低栄養の治療法について記す.
便秘は器質性便秘と機能性便秘に大別され,機能性便秘はさらに痙攣性便秘,弛緩性便秘,排便困難(直腸性便秘)に分類される.したがって,便秘の治療にあたっては,まず便秘の種類を診断し,その後,それぞれに応じて適切な治療方法を講ずることが必要である.
心因性慢性下痢症とは,心理的因子の関与した慢性の機能性下痢症,つまり過敏性大腸症候群のうち,下痢症状を呈するタイプと考えてよいだろう.これには,従来神経性下痢nervus diarrheaといわれた持続下痢型のものと,下痢便秘交替型の下痢症,さらに,とくに心因の関与がつよい粘液分泌型(粘液病痛colica mucosaといわれてきたもの)がある.
本症では,単に下痢という身体症状を対症的に治療するだけでは問題の解決にならず,むしろ治療の重点は,心因の処理にあるといってよい.発症の誘因になったり,病気を修飾している心理的因子,つまり身体症状の背後にある心理的不安の除去や,症状に対する過度の病感の修正が,治療の重点になる.
病態と治療方針
過敏性大腸症候群の病態は腸管の運動および分泌の失調,なかんずくその亢進状態であり,同時に全身の自律神経失調状態を伴っていることが多い.発生要因としては食事性因子や種々の身体的因子(過労,体の冷えなど)とともに,精神的因子が重要な役割を果たしていることが少なくない.
したがって,本症の治療方針としては,これら発生要因の除去ないしは軽減と,亢進した腸管機能の正常化が中心となり,治療法としては精神療法,生活指導,食事療法および薬物療法がある.
ある病気を適切に治療するためには,その病気の病因と発生病理に精通することが要求される.ところが潰瘍性大腸炎は病因も発生病理も不明な疾患であり,病状も多彩であるだけに治療がむずかしい.現段階では本症の内科治療は完全治癒が期待できないままに完全緩解を目標とする.しかし,病態が十分にコントロールされた緩解状態下では患者の社会復帰も可能であり,重大な合併症のない限り本症は内科治療が原則である.
治療の基本方針をつくっている臨床上の理論は以下に要約され,内科治療を行なう場合,これを忘れてはならない.
潰瘍性大腸炎の治療法は本症の原因がまだ解明されていないために,保存的療法には決定的なものはなぐ,外科的には病巣を含めた広範大腸切除以外に方法がないのが現状である.保存的には多くの病例において完治することなく再燃と寛解を繰り返し,そのうちあるものは外科的に病巣を切除するという結果になる.しかし,外科的に切除しても,大腸全別除以外の病巣のみの切除では,この疾病より完全に解放されるとは限らないというまことにやっかいな病気である.残存結腸や直腸に再発し,再び保存的療法を繰り返したり,再手術により大腸全別除を行なう結果となることが多い.したがって,外科的治療法もその適応や術式についていろいろな方法が行なわれており,これらについての現時点での考え方を筆者らの経験とともに若干の検討を加えて報告する.
消化管大出血は多くの場合,吐血または下血に引き続いて貧血および失血による急性循環不全症状を呈するから通常診断は容易である.かかる患者に接した時にいかなる処置をとるか.ショック状態に陥ってる時はとりあえずの緊急処置を要するが,すぐ輸血を要するかどうかの重症度の判断,現在はそれほど重症でなくても出血が進行性であるか,再発の可能性が大であるかの判断,治療に直結する出血部位の診断,出血を促進するような基礎疾患の有無の検討,以上のことが治療方針の根底となるであろう.
老人は抵抗が弱く,回復も遅く,案外もろいことを念頭におく必要があろう.例えば,急性胃腸カタルの場合には下痢と腹痛をきたすが,若い人ならば内容が充分出てしまえばちょっと抗性物質を用いる位で治ってしまうが,老人ではそのほかに心臓のことも顧慮しておく必要があり,念のために強心剤を与えるとか,水分欠乏に対し輸液でもってその平衡を保つ必要もあることがある.
老人のもろいということは動脈硬化が進んでおり,体の代謝が一般に低下しているからで,刺激に対し反応が弱く,細菌の侵襲等に対してもその防御作用である炎症反応が弱いので,浮風充血,白血球の浸潤も少なく,したがって腫脹も少ないので疼痛も軽いということになる,実際には壊死のようなひどい変化が起こっているのに腹痛が軽いというようなことが起こりうる.
制酸剤と抗コリン剤は,因習に従って漫然と画一的に処方される傾向にある.最近このことに批判的な議論が多くなったことは喜ばしいことではある.しかし胃腸疾患の病態生理は複雑で,未知の分野が多すぎるし,これらの制酸剤や抗コリン剤による変化もよくわかっていない.一方,両剤の限界も最近になってようやく理解されはじめ,これに従った薪しい処方や使い方が確立されねばならない時期に達しているが,現在あるものは混乱だけであって,一定のコンセンサスは得られていないのである.
したがって,ここでこの問題を取りあげるとすれば,私見を述べるに止どめざるを得ない.元来薬物を用いるためには,個々の患者の病態生理をつかんで,薬物のもつ薬理作用と併せ考えて適応を選び処方を工夫すべきである.しかし,消化器病ではこのことは至難のわざである.ある程度try and errorを繰り返さざるを得ない.しかしそれでも因習にとらわれた画一的な処方よりはましである.筆者はその意味もあって,両者の合剤を使用することには賛成できないし,そういう処方をここに示す気にもなれない.それよりもこれらの薬物を投与するときに考えてみなければならない幾つかの事項を示したい.
消化酵素剤の使用にあたって
消化管において,食物の栄養素は消化酵素の作用によって分解され,吸収されやすい形に変化されて吸収される.消化酵素は消化液中に含有されており,正常においては十分な機能が発揮されているから,とくに外部より補充する必要はない。消化液の分泌が減退すると,消化酵素が不足するために消化障害がおこり,したがって吸収障害を招くことになる.また消化液の分泌が正常であっても,過食などによって相対的に消化酵素の不足がおこりうる.このような場合には消化酵素剤を投与する必要がおこる.
消化酵素には,糖質,蛋白質,脂肪などを分解するものがあり,また,その分解の過程において働く酵素も異なるために,その種類と作用は多種多様である.それゆえ単一な消化酵素剤のみでは十分な効果をあげえないために,最近,総合消化酵素剤がさかんに用いられるようになった.
腸管感染症の大部分はグラム陰性桿菌の感染によって小腸を炎症の場とするもの,大腸を場にするものに大別される.その主な症候は下痢によって表現される.
小腸を場とする感染症を病原側からみると,コレラ菌,腸炎ビブリオ,サルモネラ,ブドウ球菌などがあげられ,大腸を場とする代表的なものは赤痢菌である.しかし病原大腸菌の感染は菌型によって,急性胃腸炎の病像を示すもの(026,055,0111など),赤痢に等しい大腸炎型の臨床像を現わすもの(028ac,0124など)があり,サルモネラなどの感染群と,赤痢との橋渡し的役割を果たしている.
急性肝炎のうちで最も多く遭遇する急性ウイルス性肝炎の予後は比較的可良で,大部分の症例は3ないし4カ月の間に完全に治癒するが,3,4カ月以上にわたり肝機能検査成績の異常がつづくことがあり,かかる際には慢性肝炎,持続性肝炎への移行が考えられ,その判定が困難なことも多い.ここでは筆者らの内科教室において急性ウイルス性肝炎の治癒判定規準としている種々の指標についてのべ,それに応じた社会復帰の問題についても触れる.
慢性肝炎の治療は,その病的な肝を正常な肝にまでひきもどす積極的な治療が第一の目標でなければならない.しかし,これは容易なことではない.さしあたっての配慮は肝炎慢性化の要因をとり除くことである.しかし,肝炎の慢性化にはウイルスの毒性のみならず,これに対する宿主側の反応,遺伝的素因まで複雑にからみあい,真の要因となると不明といわざるを得ない、慢性肝炎から肝硬変への移行が停止ないし遅延するならば,それでも大変な進歩である.慢性肝炎が劇症型に移行することは稀である1).それならば,肝硬変に移行しない限り致命的ではない.慢性肝炎は間葉系の反応を伴う門脈域の持続的な炎症であり,肝細胞の懐死をともなう活動型(active)と,これをともなわない非活動型(inactive)に分けられるとしても2),この区別は慢性肝炎経過中におけるステージの差を示すものである.活動型の状態が長く持続すること,あるいは急性増悪をくりかえす例は肝硬変に移行する可能性を持っていると考えられる3).肝細胞の側からみる時,この肝細胞の壊死を阻止する決定的なものは現状ではなく,阻止というよりは肝細胞自身のもつ修復力,再生力に期待することになる.そのためには,肝細胞がその再生能を十分に発揮できる状態にすることである.病的な肝細胞が十分な機能を果たしていないのは,1つには慢性肝炎にみられるようなディッセ腔への線維の増生,microvilliの乱れ4)によって栄養分が摂取できない状態を考慮に入れる必要がある.また,ミトコンドリアの減少4)は細胞内のエネルギー代謝を低下させ,同化の過程全般に影響を与える可能性がある.したがって,十分な肝血流量を維持し,十分な栄養分を補給することがまず必要になる.安静・食事療法の意味は主としてこの点にある.
肝硬変症は種々の原因による肝障害の終末像で,原因的,形態学的に種々分類されているが,共通することは,機能肝細胞の全体としての不足と,肝の循環系の障害である.
肝性昏睡の発生機序がまだ完全に解明されていない現在,治療法として確立されたものはない.単一な因子で起こるのでもなく,症状としても同じではないからでもある.少なくとも,急性肝不全に生じる肝性昏睡と,慢性肝疾患に生じる肝性脳症とにわけて,治療方針をたてるのが実際的である.後者の治療方針は前者にも用いられるが,それで予後良好となる程有効ではない.
アルコール中毒患者はアメリカでは800〜1,000万人といわれている.わが国でも,近年アルコール中毒者が著しい増加傾向をたどっているが,それに伴い内科領域でも肝障害をはじめとし膵炎,胃炎などの消化器疾患の他に,神経・筋疾患,貧血や血小板減少症,心筋障害などの諸疾患が増加しており,アルコールの全身臓器へ及ぼす影響の大きさを再認識する必要があると思われる.本稿ではアルコール性肝障害(ただし肝硬変症は紙数の制限上省略する)に焦点をしぼって筆を進めていきたい.
起因薬剤の除去
中毒性肝障害は毒物あるいは医薬品の服用によって生じた肝障害をいう.医薬品に起因する肝障害はdrug induced liver injury薬物または薬剤性肝障害と呼ばれる.
医薬品に起因する肝障害の治療においてまず第1に重要なことは,できるだけ速やかに起因薬剤の投与を中止することである.患者は基礎疾患を有し,その治療の目的で投薬を受けているのが普通なので,主治医の注意が基礎疾患にのみ向けられ,発熱,発疹,皮膚掻痒感という薬剤性肝障害の重要な症状が出現していても,なお投薬を続け黄疸の出現により漸く薬剤性肝障害を疑う場合は,決してまれでない.
肝・胆道疾患に腎障害が稀ならず認められることは古くから注目され,1939年Nonnenbruchにより提唱された肝腎症候群という概念が今日でもかなり広く一般に受け入れられている.しかしながら一方には,Martiniの指摘しているように,果たして真の意味での肝腎相関が存在するのか,また肝腎症候群という概念が妥当であるかについては疑問の余地が少なくない.肝腎の両者に障害が存在するばあいをMartiniに従って整理すると,1)胆道疾患における高窒素血症,2)肝硬変症に伴う糸球体腎炎,3)末期の肝硬変症あるいは劇症肝炎における水分および電解質代謝異常ないし腎不全,4)中毒あるいは感染などによる肝・腎の同時障害(Weil病,4塩化炭素中毒など)の4群に分類される.
胆道疾患に併発する腎障害についてはショックに起因する血流の減少によるもの,つまりショック腎に他ならず,肝障害の関与を必ずしも必要とせず,したがって肝腎症候群とするのに当たらないとする考え方もかなり有力である.近年では非代償性肝硬変症あるいは劇症肝炎に伴う腎機能障害のほうがむしろ注目され,その方面の報告が多い,筆者らの症例でも胆道疾患に伴う高窒素血症がショックを契機としておこることが多く,また種々の原因による急性循環不全により著しい肝腎障害をきたすことがあり,筆者らもやはり肝腎症候群をショック腎の範疇に属するものと考えたい.しかしながら,胆道疾患における腎障害はとくに高度の黄疸と炎症とが持続し,しかも高齢者である症例におこりやすいという特異的な面をもっている.また頻度がかなり高く,因果関係が比較的明らかであり,ある程度予知と予防とが可能であり,しかも適切な治療により救命し得ることが多いという点において実地医学的に重要である.したがって,本稿においては,このような症例を肝腎症候群とすることの妥当性はさておいて,紙数の関係もあり,胆道疾患に伴う腎障害の対策に限定したい.
妊娠は本来生理的な現象であるが,末期には肝機能検査成績に軽度の異常を示すものが多い.無黄疸性であるが,生化学的には,妊娠9カ月で,アルカリフォスファターゼ(Al-P),ロイシンアミノペプチターゼ(LAP),コレステロールの軽度上昇がみられ,分娩直前にはコリンエステラーゼの減少とγ-グロブリンの軽度上昇がみられる.膠質反応,トランスアミナーゼには異常なく,色素負荷試験は妊娠末期に軽度の異常をみることがある.これに対して肝は形態学的に正常である.妊娠中に黄疸が現われることはごく稀で,2,000〜4,000例に1例であり,その原因は表に示すように各種肝胆道系および血液疾患に基づき,その確診が治療の根本である.
肝疾患の治療にステロイド剤とくに糖質コルチコイドの使用が特異的な効果を示すことは既によく知られているが,その適応を誤ると,その効果がみられないのみか,かえって病像を悪化させたり,副作用を誘発することがある.そこで,まずその適応の選び方をのべ,使い方に触れたい.
抗生剤は微生物によって産生され,微量にて他の微生物を発育阻止,あるいは死滅させる作用を有する薬剤であり,各種の肝疾患の治療に応用される.なお,最近数多くの抗生剤が広く応用されるようになって,抗生剤による肝障害がこれまでより経験されつつあり,肝疾患と抗生剤は臨床上重要な関連を持つ問題となっている.
原発性肝癌はアフリカやアジアの特定地域に発生率が高かったが,ここ数年来汎世界的に増加の傾向にあり,病因の解明,診断法の開発とともに切除による治療成績の向上が望まれている.
原発性肝癌の治療成績を向上させるためには,病態の早期における発見,安全な手術手技と患者管理および合理的抗癌剤の併用が必要である.現在のところ管腔臓器癌にみられる早期癌は規定しがたく,あえていえば切除可能な肝癌を想定せざるを得ない程,癌治療の面ではまことにさびしい領域である.
胆石症の症状,とくに癌痛発作の発現には,食事が密接に関連するばあいが多いこと,また胆石の生成にも食事が関与しうることなどから,胆石症の診療にあたり,食事療法の意義が重視されている.一方,両者の関係を重くみるあまり,長期間にわたって食事制限を続け,栄養障害に陥っている患者もあるので,これらの点をも考慮しながら,胆石症の食事について記載してみたい.
胆石症の絶対的手術適応に関しては保存的療法の限界を越えているので問題はないが,比較的適応となると,臨床上その手術適応,時期,手術術式などに関してはいまなお諸家の間に見解の相違をみるところである.以下教室症例を中心に胆石症の手術適応と術後管理について2,3述べてみたい.
胆嚢疾患がBergmannのいうCholecystopathieと称せられる如く,Cholrcstitis,Dyskinesie,Gallensteinの3者が互いに密接に原因となり,結果となっていることは一般に考えられているところである.胆道感染症と称する場合には胆嚢,胆管の細菌性炎症の存在を意味するのであるが,純粋な型での感染炎症の存在することも確かであり,一部は急性胆嚢炎の形をとるが,大部分は慢性胆嚢炎の形であり,その原因,結果として胆石の存在あるいはジスキネジーの存在があることが多い.したがって,化学療法の目的は炎症の制圧であるから,背景として存在する胆石あるいはジスキネジーによる症状の改善のないことは当然である.
利胆剤には,胆嚢・胆管系からの胆汁排出を促す排胆剤cholagoguesと,直接肝細胞に作用して胆汁分泌を促す催胆剤cholereticsとがある.さらに排胆剤は,胆嚢を収縮させる胆嚢収縮性排胆剤cholecystokinetic cholagoguesと,Oddi筋を弛緩させるOddi括約筋弛緩性排胆剤non-cholecystokinetic cholagoguesに分けられ,催胆剤は,主として水分量を増加させる水分分泌促進剤hydrocholereticsと,主として固形成分を増加させる固形成分分泌促進剤cholanereticsに分けられている(表)。
急性膵炎の病因
膵管の開口部と総胆管の開口部とが解剖学的に共通管をつくることが多く,別に開口していてもごく近いところに存在する.正常者では膵管内圧が胆汁の流出圧よりも格段に高いため胆汁は膵内には流入しないが,乳頭部の炎症・胆道疾患などの病的状態のときに胆汁は膵内へ逆流する.
Opieがこのようにして膵炎が発症すると提唱して以来,膵炎の病因について多くの説が考えられている.
比較的短期間で完全治癒が可能な急性膵炎と全治の望みが少なく,経過の長い慢性膵炎とは生活指導,治療といった面でもはっきり区別して取り扱う必要がある.急性膵炎は徹底的に治療し,厳重な病後管理を行ない,後に障害が残らないように治癒せしめることが大切であるが,慢性膵炎の場合には増悪を防いで病状を安定させるようにする.そしていたずらに長く入院させたり,きびしい療養を指導して社会復帰をおくらせてはならない、多少の障害があってもできるだけ職場に復帰せしめ,大きい不自由なしに生活を楽しませるといった配慮が必要である,一般に急性膵炎の場合に緩に過ぎ,慢性膵炎の場合に漫然ときびしい制限をする傾向があるのは戒しむべきことである.
慢性膵炎という病名が意味する概念のなかには軽重の程度,病期,病態がいろいろなものがあるので,これらを一律に取り扱うことはできない.急性再発ないし増悪期には急性膵炎に準じた治療が必要であるが,これは本文の主題ではないので,以下主として慢性安定期ないしそれに近い状態の場合についてのべる.
下垂体前葉機能低下症としては汎下垂体機能低下症,またはその不全型のほかに下垂体ホルモン単独欠損症も含まれる.しかし本稿では,汎下垂体機能低下症およびその不全型の治療について述べる.
尿崩症は,抗利尿ホルモンADHが不足しているために口渇,多飲,多尿を呈している疾患である.したがって,その治療法はADH製剤を投与して,その不足を補充することが最も合理的な治療法と考えられる.従来,このような治療目的をもって投与されたものに油性タンニン酸ピトレッシンがある.これは1アンプル中に5単位のADH(バゾプレシン)を含んでおり,筋肉注射により24〜72時間有効である.よく振盪してからアンプルより吸引するなど使用上の注意を怠らなければ効果は確実であり,副作用も少ないのであるが,経口投与が無効なことが最大の欠点である.補充療法という性質上,患者は2〜3日おきに注射をするという苦痛に一生悩まされることになる.また,ごく稀であるが抗体が発生してこの注射が無効になる例があるといわれている.したがって,最近の治療法は注射をさけて,経口投与あるいは鼻腔噴霧など簡便な投与法により,尿崩症の症状を軽減することを目的として開発されている.以下,これらの治療法を紹介する.
甲状腺機能亢進症—バセドウ病—の診断がついた場合,治療の方針としては次の3つの基本的な方法がある.それは,1)いわゆる抗甲状腺剤による治療法,2)手術療法,3)アイソトープ(131I)による治療法である.そのいずれを選ぶかという問題については,それぞれの医師の経験,施設の状況などによって異なるであろうが,もっとも手軽にできるものは抗甲状腺剤による治療である,また手術療法にしてもアイソトープ療法にしても,最初はまず抗甲状腺剤による治療を行なって患者の甲状腺機能を正常化し,その後に,それらの治療法を行なうべきものである.ここでは抗甲状腺剤を用いて永続的な治療効果をあげようとするための抗甲状腺剤療法について述べよう.
抗甲状腺剤治療,アイソトープ治療の普及により,今日ではバセドウ病が外科医の対象となることは稀である.しかし甲状腺疾患を専門とする外科医は現在でもかなりの症例に手術を施行している.しかし本症に対して外科的治療を最優先させることには問題がある.個々の症例に当面して,これら三者の治療法の特徴を認識した上で治療法をえらぶべきであり,手術の適応はむしろ消極的であるべき時代である.しかし本症の中には,病状や経過からみて手術がもっとも適切な症例は少なくない.以下手術の適応について筆者の見解を述べるが,他の治療法の特徴と比較する必要があるので,手術の問題のみに限定せず他の治療法の適応にも言及することにする.
バセドウ病の原因は今日なお不明で,したがってその原因的療法はない.131I療法は放射線による一種の破壊的療法であり,最良の方法とはいえないが,治癒率が高く,安全に実施し得ることから広く行なわれるようになっている.しかしながら高率な晩発性甲状腺機能低下症の発生1〜3がみられることから投与131I量の再検討が行なわれているのが現状である.
以下,131I療法の適応,投与法および晩発性機能低下症の発生を中心に概説
する.
診 断
妊娠時には暑がり,神経質,動悸などの自覚症状や,頻脈,皮膚の高温・多湿などの他覚所見のほか,しばしば軽度の甲状腺腫を伴い,検査上でも基礎代謝率(BMR)は増加(最終月には+20〜30%)し,蛋白結合ヨード(PBI)および血清サイロキシン(T4)は,それぞれ7.0〜12.0μg/100m9(非妊時4.0〜8.0μg/100 ml1))および14.9〜19.2μg/100ml2)(非妊時6.2〜14.5μg/100ml3))(Tetrasorb)と比較的高値を示すため,軽症甲状腺機能亢進症とまぎらわしい場合が少なくない.しかし,Resin Triiodothyronine(T3)uptake(RT3U)は,正常妊娠時にはMitchell法(Triosorb,Triluteなど)で低値,Scholer法(Res-O-mat T3,Thyopac-3,Triakitなど)で高値を示すが,甲状腺機能亢進症を合併する場合には,低値(または高値)を示さない点で,両者の鑑別に有用である.すなわち,Triosorb値は妊娠10週には25%以下となり,14週以後はほぼ21%を続ける4)(正常域25.4〜37.3%5))が,甲状腺機能亢進症を合併する場合には,機能亢進域にあるかまたは正常域にある.したがって,RT3U値が10週以後において,機能低下症域に入らない場合には,切迫流産が除外できれば,甲状腺機能亢進症が疑われる.Free Thyroxine(F-T4)は妊娠合併の有無にかかわらず,甲状腺機能状態をよく反映するので両者の鑑別上有用であるが,その測定の技術的困難性のために実用的でない。しかし,T4濃度とRT3U値との積,すなわち,Free Thyroxine Index(FTI)がF-T4と平行するところから,最近では,このFTI(Res-O-mat ETRもその1つ)が上述の目的のために使用される.
橋本病は中年の婦人に好発し,硬いびまん性の甲状腺腫をつくる他,ほとんど症状を示さず,慢性かつ潜在性に進行する疾患である.甲状腺機能は検査により始めて明らかになる程度の軽い障害を示すものが多いが,ときに明らかな粘液水腫像を示すものもあり,甲状腺の生検では特有な組織所見を示す.
甲状腺機能低下症は甲状腺機能亢進症とは逆の病態であり,一次的または二次的(間脳,下垂体の異常の結果として)の甲状腺機能の低下した状態である.本稿では内科領域での本症の分類,臨床症状,注意すべき合併症,臨床検査および治療について述べる.
甲状腺が大きく腫大していると,病因が何であろうと美容上よくないという理由で手術をしたり,甲状腺に硬く触れる部分があるとすぐ癌の疑いをおいて手術をしたのは昔のことであり,今日では術前にいろいろな検査ができるようになったので,手術をしなくても診断がだいたいつくようになり,診断がつけば個々の疾患の病態生理を十分にわきまえて手術適応を決めるようになった.
さて手術適応があると決まった場合,手術中に新たに得られる所見や情報を加味して,生じている病変の綜合的判断を慎重に行ない,最も適切と考えられる手術術式を選ぶことが肝要である.
副甲状腺疾患には他の内分泌疾患と同様に機能亢進症と機能低下症がある(表1).
これらのそれぞれが独特の疫学と病態生理をもつ疾患であり,その治療も個別化したものでなければならないが,理解の便宜上これを総括して原理として述べることにする.
副腎不全の治療にあたっては,まず原発性(副腎結核,特発性萎縮など)か,続発性(下垂体機能低下症,副腎皮質ステロイド長期投与後など)かを区別しておく必要がある.原発性副腎不全ではアルドステロンの分泌も障害されているため,ストレスに際して副腎クリーゼを起こしやすい.原発性と続発性の鑑別のためには,ACTH刺激試験が用いられる.
治療の主眼は不足している主要な副腎皮質ステロイド,コーチゾールを補償することにある.補償の方法と量は慢性期と,急性期すなわちクリーゼの時期とでは異なる.
糖尿病食事療法の考え方
外来で初診の糖尿病患者と問答していてよく聞かされることであるが,糖尿病の疑があるといわれて米飯を半分以下にし,砂糖や菓子は一切とらぬようにした.一般の副食物は普通にとっており,ビールや日本酒は止めてウイスキーにしたというようなことがある.糖尿病治療の目標を尿糖の消失においた往年の考え方がまだそのまま残っている影響である.しかし現在は尿糖陰性化を目標とするのではなく,糖尿病病態のより本質的な所見と考えられる体内のインスリン作用の不足の解消を目ざして治療内容を工夫している.
そのためにはまず1日摂取総カロリーをきめる.患者個人が日常生活のできる最少カロリーをもってこれに当てる.一般に成人,事務職で標準体重毎kg25〜30Calである.そして総カロリーを各栄養素に配分し,さらにビタミンやミネラルも不足のないよう食品を選択する.
糖尿病治療の基本と経口剤の適用
糖尿病治療の目的は,その根底にあるインスリン作用の不足を解消し,糖尿病代謝を正常化した状態を長く維持することによって,好発する急性・慢性の合併症の発生・進行を防止するにある.この目的を達成するため,食餌制限と適度の運動を励行し,必要に応じてインスリンまたは経口剤を併用する必要がある.
今日使用されている経口剤はいずれもインスリンに代わりうるものではなく,限られた症例にのみ有効であるが,一定の適応を考慮して慎重に用いれば,十分臨床効果の期待できることがほぼ明らかになったと思われる.一面安易に使用され,誤用とみなしうる危険な事例も報じられており,薬物療法の原則を十分ふまえた上で適用すべきである.
未治療時血糖値と必要とされた治療法
糖尿病がはじめて発見されたときの空腹時血糖値(FBS)と入院後最終的に必要とした治療法との関係をみると表1のようになる.この成績からFBSが300mg/dl以上のものは全例,また250mg/dl以上のものではその大部分がインスリン治療を必要とすることが知られる。また160mg/dl以下のものは食事療法だけでもよいものが多いし,食事療法が予想以上に効果的であることもこの表からうかがうことができる.
小児糖尿病は若年型糖尿病(インスリン依存型)が大部分である.インスリンによる治療が原則であるので,発病の初期および寛解期において,食事療法だけあるいは経口糖尿病剤(多くは無効であるから使わない方がよい)との併用療法を行なっていても,いつもインスリンをいつから使用し始めるかについて考えておくことが必要である.
老年期における糖尿病の診断
老年期の患者を対象とした場合,まずどのような例を糖尿病として治療するかということが問題となる.一般に糖尿病の診断には,今日でも糖負荷試験が最も鋭敏かつ確実な診断法として広く利用されているが,糖尿病以外で糖負荷試験に異常をきたしやすい様々な状態のあることも常に念頭におかなければならない.特に老年期には,年齢そのものと関係してひき起こされる軽度の糖代謝障害が問題となってくる.
日本糖尿病学会の委員会1)によって勧告された糖負荷試験の判定基準は,全年齢層を対象として一律に定められている関係もあって,糖尿病が多く含まれるという意味の糖尿病域の判定基準は比較的高い血糖値のところにおかれている.
糖尿病性腎症は糖尿病に特有な糸球体病変を示す疾患で,末期には腎不全になるが,初期には臨床症状がなく,腎生検によりはじめて糸球体に変化をみとめるのみのもの,あるいは軽度の蛋白尿のみのものもある.このような腎症に対しては,その進展を防止することが治療のポイントとなる。ネフローゼ症候群を示すもの,腎性高血圧,心不全,あるいは腎不全を呈するものの対策は他の腎疾患の場合と原則的には同一であるが,糖尿病に合併しているということでとくに考慮しなければならない問題が生じている.
腎症の発症および進展の原因については,遺伝,インスリン以外の内分泌因子,とくに成長ホルモン,あるいは免疫機序などが考えられているが,最も一般的なものはインスリン作用不足によるとする考えであろう.このために糖尿病状態をコントロールすることが従来腎症予防の第一の方法とされてきたが,血糖値を指標とした糖尿病のコントロールが良好な症例にも腎症が合併すること,糖尿病性細小血管症が血糖値の高低よりも血中インスリンが低反応を示す群に発生頻度の高いことから,血糖コントロールの効果に疑問を抱くものもあるが,インスリン作用を正常に近づけるために血糖値を指標としたコントロールがまず必要である.
治療方針の決定
糖尿病性昏睡の治療方針の決定には(1)昏睡の原因ならびに経過,(2)昏睡の種類,(3)昏睡の深さ,(4)血糖値,(5)アチドーシスあるいは滲透圧上昇の程度,(6)虚脱(血圧低下)の程度,(7)電解質異常の種類と程度などが重要な因子となる.さらに(3)〜(6)のデータは治療開始後もくりかえし入手することが必要であり,次々に進めて行く治療法転換の根拠としなければならない.
"糖尿病妊婦だからといって特別の処置があるわけではない.妊婦においても糖尿病そのものの基本的治療方針は変わらない.よりよい結果を得るには,糖尿病妊婦にまつわる特殊な問題に精通することである".これは,Lars HagbardがPregnancy and Diabetesの治療欄冒頭にかかげた文章である.Whiteは,糖尿病妊婦のnatural courseは一口に言ってdestruction(破滅)であるとのべた。糖尿病妊婦のnatural courseとは,糖尿病患者が治療をうけず,または不完全な治療のまま妊娠を経過することで,これはインスリンのなかった時代の糖尿病妊婦の運命に等しい.すなわち,たとえ妊娠しても流産または子宮内胎児死亡が起こり,母親は糖尿病昏睡で命を失うものが多かった.
1921年Banting & Bestによって,インスリンが発見され,治療法が確立されてから,糖尿病患者の寿命は,ほぼ非糖尿病者のそれに近づいたが,同じように妊娠もまた,正しい治療と管理下にあれば,無事分娩を終了し得るようになった.
生体は血糖が正常範囲を逸脱すると,ホルモン性,あるいは代謝性の平衡が乱されて,何らかの障害が起こる.特に低血糖状態において顕著に表現されるので,成人では血糖が50mg/100ml以下,満期分娩後48時間以内の新生児では30mg/100ml以下の状態を低血糖状態として定義される.
しかし,単に低血糖のみで特有な臨床的症候が現われるとはかぎらず,個人差も特に大きいが,脳神経と自律神経障害による症候が主体である.臨床的には脳性低酸索症(hypoxia)のそれにきわめて類似した症状であり,例えば半身不随,半身不全麻痺,失語症,失音症,あくび,意識障害,冷汗,寒気,振せん,頭痛,視力障害,心悸亢進などである.発症はきわめて顕著に,かつ急速に起こり,適切な処置にて急速に低血糖が回復すれば容易に症状は寛快し,正常化するが,遷延した場合は,たとえ血糖が正常化しても意識障害は回復しない場合もあり,緊急処置を要する重要な症候といえる.またこれら低血糖をきたす原因はきわめて多岐にわたるため,治療控としてはその原因にもとづくことはいうまでもない.
高脂血症とは,血漿中にコレステロール,中性脂肪,リン脂質,遊離脂肪酸などの脂質のいずれかが増加した状態をいうが,実際にはこれら脂質がリポ蛋白の異常を伴わずに増加することは極めて稀であり,高脂血症は高リポ蛋白血症として把握することが,臨床上理解しやすい.
血漿リポ蛋白は一般にカイロマイクロン,βリポ蛋白,preβリポ蛋白,αリポ蛋白の4種類に分類されており,それぞれ異なった脂質構成を持っている.
脂質低下剤といわれるものは,従来脱コレステロール剤,脂質代謝改善剤とよばれていたものである.
動脈硬化症が脂質代謝異常によって増悪され,促進するということは,現在疑いない事実である.したがって増加している血中脂質を正常化させることによって,動脈硬化性疾患の進行を阻止させようとするところに脂質低下剤の存在意義があると考えられる.以下本剤の現状を簡単に述べる.
現代人の食生活と痛風
私の友人が最近突如痛風の発作に襲われた.年齢45歳,身長168cm,体重68kg,職業は某公団の管理職.学生時代はラグビー部で活躍し,その後も野球やゴルフで細々ながら運動とは縁を切らずに,健康管理に気をつけてきた.「牛乳は子どもや病人の飲むもの」という程度の「食事認識」の持主だが,夫人の栄養管理も比較的行き届いているし,つき合いとか宴会とかで美食する機会が多いので,栄養状態は佳良.いや,佳良にすぎて,体重が標準よりオーバーしている分ぐらいが,かえってマイナスになっている,と判断される.家系的に痛風の遺伝は認められず,その点,本人にとっては思いもよらぬ発作であった.あとから考えれば油断があったわけだが,この程度の食生活は,社会的地位などから考えればごく常識的なところだから,無知をわらうわけにはいかない.むしろ,やや太り気味で美食をする機会の多い人は,いつ痛風の発作におそわれるかわからない,とある程度覚悟していた方がよいだろう,彼の場合宴会でいささかすごしすぎたあと,発作に見舞われたという.一般にそういうケースが多いということだから,遺伝的素質のない人でも40歳代以上になったら気をっけるようにしたほうがよい,素質のある人,すなわち家系の中に発病者をもつ人は,30歳未満でも発病するというから,とくに注意が肝要である.痛風は,昔は帝王病などといわれ,美酒・美食に耽溺する上流社会人に多かったというが,最近は食糧事情がよくなったせいか,私の友人程度の生活レベルのものにも,こんな病気がふえてきたわけである.
治療の根本原則
痛風症がもはや決して珍しい症患とはいえなくなった今日でも,その治療の根本原則が充分理解されていないことは残念である.まず治療の根本原則について列挙してみると,
1)プリン体,アルコールの過剰摂取さえしなければ,肥満せぬような食事療法以外の食事療法は不要である.
予め患者に納得させること
肥満の害肥満は糖尿病,高血圧,心臓病などに罹りやすく,したがって平均寿命が短いこと,現在病気がなくても生理的にhandicappingであることなど,肥満の害については患者自身も常識的に知っている.しかし,実感として肥満の害を認識しているものは少ない.そのうえ肥りつつある時などは,自分自身で身体の調子が良いと感ずることが多いので困る.それは誤った健康感であって,肥満の害は知識として認識する以外はない.肥満を治せば平均寿命が延長するという話をしても,患者自身はあまりピンとこないものが多い.したがって,それが美容上の目的であっても,医学的適応と一致して,肥満を治療しようという気持ちに患者がなれば,大へん結構なことである.
日常遭遇する電解質代謝異常はNa+,K+,Ca++,Mg++,Cl-,HCO3)-,有機酸および不揮発性無機酸の血清中濃度の増減および血液pHの変動として捉えられるが,ここではベッドサイドで常に考慮すべきNa+,K+代謝の異常の判断およびその対策を中心として述べて見たい.
ビタミン過剰症はほとんどすべてが医原性疾患であるといってよい.ことに脂溶性ビタミンは吸収されたあと排泄がほとんどないために,異常に蓄積して過剰症を起こす.この中でビタミンDによるものが最も多く,ビタミンA過剰症がこれにつぐ.ビタミシKによる過剰症は,水溶性K4が広く使用された時代に,新生児においてK4過剰投与により赤血球の溶血が亢進し,過ビリルビン血症から核黄疸を起こす危険もあった.しかしその後天然型K1が使用されるようになって,この副作用は問題にされなくなった.
水溶性ビタミンは一般にその排泄はきわめて早く,大量を使用してもほとんど副作用は認められない.ただまれにB群ビタミンの過剰投与によって他のビタミンの欠乏症状をみることがある.
慢性めまいの症例で一般的な治療対策や生活指導を必要とするものは,次の二群に大別される.
1)原因不明のため,対症療法によらざるをえないもの(第I群).
頭痛の治療にあたって,原因が容易に想定できる場合,原因治療を行なうことはいうまでもないが,長期にわたって持続する頭痛(慢性頭痛)では,その全貌を把握できず治療に困惑することも少なくない.
慢性頭痛患者のほとんどは全身的にも神経学的にも所見に乏しく,その診断は適切な病歴聴取によるといっても過言ではない.頭痛の性質,持続時間,頻度,部位,経過,増悪および緩解因子,随伴症状などが病歴をとる上でポイントとなる.また家族のなかに同様の「頭痛もち」がいるかどうかも参考となる.
神経痛というのは,あくまで症候名であって疾患名ではない.従って,出来るだけその起因をさがし,起因の知れる二次的なものと,定型的な神経痛症候を示し起因の把握できないもの(一次的)とを明確に鑑別することが,治療のすすめ方の基本である.
頭部の痛みの訴えは,この点で明確な一次的および二次的な神経痛に分類されるもの,その何れとも分類しがたいもの,あるいは別項記載の頭痛各種と混乱しているものがあるが,それはことに脳神経(痛みを起こすのは混合神経である)と自律神経活動との関係がすっきりしていないことによる.
痛む期間を乗りきる生活指導
痛みのある病気はつらいもので,たとえ生命に危険がなく,やがて完治するとわかっていても患者には耐えがたいものである.肩から腕にかけての痛みはその代表で,ほとんどの例は予後良好であるが,痛みは耐え難く,日常の生活に多く使用する上肢が使えないことで,不便もひとしおである.
そこで,医師たるものは,単に病気だけをみないで,一個の人格を有する患者のための生活指導をし,痛む期間を多少とも楽に乗りきるように考えてあげなければならない.生活指導の具体的な項目はごくつまらぬようにみえても,患者にとってはありがたい注意である.ここでは,肩から腕にかけての痛みを起こす代表的な病気である五十肩rotater-cuff syndromeについておもに説明し,ほかの病気については足りない点を補うようにするが,このような病人のあったときに本文をそのまま患者に見せていただくことを主眼として平易に解説する.
腰痛症は肩凝りとともに人類が二本足直立,歩行する宿命のもとに起こる疼痛状態で,必ずしもすべてが病的とはいえない.発痛に関する機構も,椎体,椎間板,小関節,靱帯とともにこれを支配する神経筋系の関与が考えられ,ことに人類の姿勢を無視しては腰痛は論じられない.このうち椎間板ヘルニア,脊椎分離辷り症などは青壮年期に,変形性脊椎症は加齢の変化として老人に,骨粗鬆症,脊椎圧迫骨折,癌脊椎転移などは更年期婦人や癌年齢の入に発症しやすい.臨床的には急性に発症した腰痛症と慢性に経過するものとに便宜的に区別されるが,その治療と予防に関しては生活指導ということが重要な地位をしめることは当然である.したがって腰痛の治療は多少の痛みをもちながらもいかに社会生活に適応し,日常生活を送るかにあるといっても過言でない.
手足のしびれを主訴として来院する患者はかなり多く,この場合にその障害部位や原因はさまざまである.実際上は末梢神経障害,末梢循環障害および脊椎疾患によるものが多いが,脊髄や脳の病変によるものや神経症や抑うつ症によるものも少なくない.
患者の訴えるしびれ,またはしびれ感の内容も異常知覚や知覚鈍麻とは限らないで,時には脱力をさしていることもある.そこでしびれの内容を確かめ,その性質,起き方,部位,一過性か持続性か,どうした状況で起きるのか,来院までのしびれの経過について詳しく問診し,さらにしびれ以外の症状についても確かめておくことが必要である.最近では公害,中毒,薬剤の副作用によるものが注目され,全身性疾患の部分症として手足のしびれを生じることも少なくない.
自律神経失調症は一般に主症状が自律神経症状であって,精神症状の出現はあっても主症状の発現に直接関与が考えにくく,これらの愁訴に見合う他覚的検査で所見の欠如があると,比較的安易に診断されているが,充分な除外をしないと他の身体疾患や精神疾患と誤ることもあり,さらに積極的に自律神経失調の存在を機能検査で確かめることも大切である.
このように注意して他疾患を見落とすことのないように慎重な配慮を加えても,全て同一の要因で発生しているというよりは,いくつかの病像が混在して本症が発症していると考えるのが妥当である.
不定の身体症状を訴えて医師を転々とする患者の中には,最近問題になっているいわゆる仮面うつ病(masked depression)と思われる症例が少なくない.masked depressionとは,種々の身体症状が前景に出た,つまり身体症状の仮面をかぶったdepressionという意味である.その本態はあくまでもdepression(うつ病)なのである.もっとも,この種の患者は,内科医の前では主として身体症状を訴え,精神科医の前では主として精神症状を訴えるというように,患者側が意識的または無意識的に訴えをマスクするという点もあるかもしれない.
いずれにしろ,masked depressionという言葉は,特殊な疾患ないし診断名を意味するわけでなく,depressionという病気をよりよく理解するための啓蒙的な考え方を示唆するものとして受け止めるべきであろう.
神経症が何故,内科に来るか
神経症を治療する場合に,内科医に要求される治療のポイントについて述べる前に,簡単に,内科外来では神経症をどのように扱うべきかについて述べる必要がある.
まず考えなければならないのは,本来ならば精神科を訪れるべき神経症の患者が,何故内科外来を訪れるかという問題である.第一に挙げるべき理由は,神経症としての精神症状が目立たず,身体症状のみが前景にある場合である.この場合は患者も自分が神経症であることを自覚していないし,医師もまたそれに気づかないことが多い.第二のグループは,患者自身も神経症ではないかと思っていたり,あるいは既に専門医に神経症と診断されている,精神症状が主体であるケースであるが,患者自身あるいは家族が精神科にかかることを避けている場合である.
一般に不眠はひとつの症状であって,それ自体が原因疾患ではない.したがって,不眠を誘発するような原因疾患が,その根底にあるということになる.
不眠症状を訴えることが比較的多い症状としては,神経症,躁うつ病,精神分裂症などのほか,胃・十二指腸潰瘍から高血圧症などの身体疾患がある.これだけには限らないが,とくに精神神経科領域に属する症状の初期症状として,不眠が多く訴えられることをここに強調しておきたい.たとえば,神経症ではその約60%近くが不眠症状を訴えている.ごく平均的な公立病院の精神科外来を訪れた患者のうち,不眠症状についての統計をかかげると,表のようである.このうち,精神疾患であるための部分症状としての不眠が,約25%あるから,一般臨床においては,この統計における総数約44%から25%を引いた数,つまり約20%近くの不眠を訴える患者がいると推定できよう.アメリカでは,一般臨床における不眠症状を持つ患者は約40〜60%に及ぶといわれている.
てんかんの薬物療法と生活管理は発作の抑制と精神症状改善のための車の両輪のごとき存在である.何故なら抗てんかん剤は現在のところすべて対症療法の域を出ていないので,極めて長期間服用しなければならず,したがって,その間の生活指導や職業上の問題特有の性格変化が示す生活障害などをコントロールしてやらねばならないからである.
てんかんの薬物療法は,多くの成書に詳細に記述されているが,臨床的に繁用されているのはbarbiturate系,hydantoin系およびoxazolidine系の3種であり,これ以外の抗てんかん剤使用は専門医にまかすべきであろう.
正常に発達した知的活動が後天的病変により低下崩壊した状態が痴呆であり,老化と共に起こり社会的生活に支障をきたした状態が老年痴呆である.老年痴呆はその速度は種々であるが,絶えず進行性であり,痴呆そのものを治すことは不可能である.しかし進行をできる限り抑制する努力はなし得,また痴呆に伴ういろいろな症状,例えば興奮抑うつ状態,錯乱状態またせん妄などに対してはある程度積極的な治療を加え得る.また痴呆化に伴う種々の生活の乱れ,例えば長期臥床,失禁,褥創,感染などに対しての対策が存在する.全身のいろいろな症状に対する処置は痴呆化の進展に対してはある程度抑制的な働きをなし得るものと考えられる.老年痴呆の診断については必ずしも明確なcriteriaがなく,その統計について問題もあろうが60歳以上の約3〜6%,65歳以上の7%程とされており,外国の報告でも65歳以上で5%内外とされている.重篤な老人痴呆例は精神病院に収容されているが,老人痴呆の大部分にあたる比較的軽症例は一般家庭,老人ホームまたは老人病院にいると考えられる.本稿では内科的方面から主としてこのような症例を対象として述べる.
いわゆる"むちうち症"はwhiplash injuryの邦訳語であって,whiplashとはむちの先の軟かい部分のことであり,サーカスの動物使いなどが使う革のむちを空中で振ると,むちの先は蛇行して波状し運動する.ちょうどこのような運動が脊椎ことに頸椎におこって,頸椎ならびにその周辺のいろいろな部位にいろいろな程度の損傷がおこることからwhiplash injuryという名称が生じた.
われわれが"むちうち"という言葉を使う時には,このような受傷機転を尊重して,重い頭部にかかった慣性により頸部がゆり動かされて起きた損傷にのみ限っている.
向精神薬は「精神機能,行動,あるいは経験に作用する薬物である」とWHO(1966年)で定義されているように,精神に作用する薬であり,広くは精神安定剤tranquilizerと呼ばれている.これを分類すると表1の如くなるが,ここでは内科方面でよく使用される緩和精神安定剤,抗うつ剤,抗精神病剤について述べよう.
筋トーヌスの異常
筋の異常緊張は筋の受動的伸展に対する態度,いわゆる腱反射の程度などにより,固縮rigidityと痙縮spasticityに大別される.
固縮というのはパーキンソニスムにみられるように,安静時にも筋トーヌスが高まっており,受動的伸展に対しては鉛管を曲げたり伸したりするときの感じ(lead pipe phenomen)を受ける、固縮は錐体外路系の異常--とくにγ系の異常--として説明される.
パーキンソン病が記載されて150数年になるが,その本態の一部が神経生化学的に解明されたのは最近10数年来のことである.しかもこれにもとついて本症候群の薬物療法が理論的根拠をえ,さらに従来経験的に用いられたいわゆる抗パーキンソン剤も,その意義がはじめて解明されつつあるという時点に達した.その意味で,まず本症候群の神経生理生化学的機序が理解されなければならない.
parkinsonismに対するl-DOPAの出現は従来の抗副交感神経剤をはるかに凌駕する画期的薬剤として注目され,今や治療法の主役として定着しているが,投与法,副作用の防止,併用薬剤の選択など長期投与に関する問題点を残している16,17).
末梢性顔面神経麻痺は比較的頻度の高い神経疾患であり,臨床的にかなり遭遇するものである.この中でもっとも多く見られるものは原因のはっきりしない特発性のもので,いわゆるBellの麻痺といわれるものである.明らかな原疾患によって起こる2次的なものについては,あくまで原疾患の治療が主体となるので,ここではBell麻痺についてのべることにする.
本症はふつう一側性に顔面の筋力低下をきたし,額のしわ寄せや閉眼が不能となり,口角下垂や食物が口内に貯留するなどの運動障害のほか,味覚異常,聴覚過敏などの知覚枝の障害を伴うこともある.
ヘルペス脳炎は散発性のウイルス脳炎中頻度がたかく,注目されている.新生児では全身感染の一環としてみられるが,成人例では脳に限定し,側頭葉および眼窩脳周辺が好発部位で,この部に壊死がみられ,神経・グリア細胞にCowdry A型の核内封入体をみとめる.
臨床像は発熱,髄膜刺激症状,せん妄を含む意識障害,痙攣,異常行動,幻視,健忘症状群などが出現する1).本症の致命率は50〜70%とされており,とくに昏睡にいたる意識障害,けいれんの頻発,脳圧亢進症状をみとめる症例の予後は極めて不良である.稀に意識障害が比較的軽く,精神症状を前景とした経過良好な症例も存在する.
脊髄炎とは
脊髄炎myelitisとは,厳密にいえば脊髄の炎症性疾患をいう.しかし原因は必ずしも炎症性(例えば多発性硬化症による脱髄性脊髄炎,あるいは硬膜外膿瘍による細菌性脊髄炎など)に限らず,血管障害性,圧迫性,アレルギー性,あるいは中毒性などによることもあり,原因を確定することは困難な場合が多い.表題のごとく"いわゆる脊髄炎"と呼ばれるのは,このような理由によるものである.
脊髄炎は,通常発症様式から急性型と慢性型に大別される.
周期性四肢麻痺の治療と管理に先行して,まず本症は単一の疾患ではなく,いろいろな原因でおこり得る症候群であることを認識しておかなければならない(板原,1961)1,2.
原因疾患の判明しないものを本態性(または原発性)周期性麻痺とし,はっきりした原病をもつか,合併症と考えられる疾患を持つ場合を症候性(または二次性)周期性四肢麻痺として一群にまとめ,それらの各々に発作時の血清電解質(とくにカリウム)濃度からの分類を念頭において,それぞれに対する治療ないし発作予防の対策を講じなければならない.
一過性脳虚血発作は短時間に回復するため,発作そのものの危険性は少ないが,後に脳硬塞発作を起こす可能性が大であり,その治療が問題となる。現在の所,一過性脳虚血に対して有効なのは抗凝固剤療法と外科的治療であるとされているが,いずれも全く安全というわけではなく,いずれをえらぶかについても一定の見解はない.一過性脳虚血がその後に脳硬塞を起こすことが確実であれば,いずれかの治療を行なうことになるのであろうが,実際には一過性脳虚血発作だけで脳硬塞をみないことも少なくないのであり,一過性脳虚血の症状から,その後の経過を予測することも困難な点に問題が存すると考えられる.
今回は現段階における一過性脳虚血発作患者の取扱い,特に生活指導に重点をおいて記載する.