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慢性肝炎の治療は,その病的な肝を正常な肝にまでひきもどす積極的な治療が第一の目標でなければならない.しかし,これは容易なことではない.さしあたっての配慮は肝炎慢性化の要因をとり除くことである.しかし,肝炎の慢性化にはウイルスの毒性のみならず,これに対する宿主側の反応,遺伝的素因まで複雑にからみあい,真の要因となると不明といわざるを得ない、慢性肝炎から肝硬変への移行が停止ないし遅延するならば,それでも大変な進歩である.慢性肝炎が劇症型に移行することは稀である1).それならば,肝硬変に移行しない限り致命的ではない.慢性肝炎は間葉系の反応を伴う門脈域の持続的な炎症であり,肝細胞の懐死をともなう活動型(active)と,これをともなわない非活動型(inactive)に分けられるとしても2),この区別は慢性肝炎経過中におけるステージの差を示すものである.活動型の状態が長く持続すること,あるいは急性増悪をくりかえす例は肝硬変に移行する可能性を持っていると考えられる3).肝細胞の側からみる時,この肝細胞の壊死を阻止する決定的なものは現状ではなく,阻止というよりは肝細胞自身のもつ修復力,再生力に期待することになる.そのためには,肝細胞がその再生能を十分に発揮できる状態にすることである.病的な肝細胞が十分な機能を果たしていないのは,1つには慢性肝炎にみられるようなディッセ腔への線維の増生,microvilliの乱れ4)によって栄養分が摂取できない状態を考慮に入れる必要がある.また,ミトコンドリアの減少4)は細胞内のエネルギー代謝を低下させ,同化の過程全般に影響を与える可能性がある.したがって,十分な肝血流量を維持し,十分な栄養分を補給することがまず必要になる.安静・食事療法の意味は主としてこの点にある.
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