臨床泌尿器科 65巻4号 (2011年4月)

特集 こんなときどうする!?―泌尿器科手術のトラブル対処法

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 「臨床泌尿器科」編集顧問の小川秋實先生は,著書である『膀胱全摘除と尿路変向・再建のテクニック』(医学書院)の諸言において,手術を執刀する外科医(泌尿器科医)の目指すべき目標像について簡潔に述べています。すなわち,「手術には知識と技術,それに決断力がいる。知識は,局所解剖・創傷治癒理論・術前術後管理・各種手技の手順と特徴などを知っていることを指し,技術は,切開・剝離・止血・縫合という基本手技を確実に実施できることを指す。どのように大きな手術でも基本手技の積み重ねにすぎない。決断力は,大量出血・偶発的他臓器損傷など異常事態や想像と異なる場面に遭遇したときに,迅速に対応を決定するために欠かせない。優秀な外科医は,知識・技術・決断力のすべてに優れている」と。泌尿器科医各人の技量の重要性が強調されています。

 泌尿器科医は,いうまでもなく,日常診療の中で優れた技量を持つとともに,それを維持しさらに向上させる姿勢が重要であり,それは臨床医として課せられた使命であると思います。この臨床医としての基本的な技量は,臨床研修の場において指導医や教科書から学ぶことができますが,特に手術中のトラブルに関しては教科書的に対処できない場合が多々あります。

Ⅰ 尿路内視鏡手術

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経尿道的内尿道切開術

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Q 経尿道的内尿道切開術を開始した尿道狭窄の症例。尿道の狭窄が高度で,先がどのようになっているかわからず,前に進めない。

[1]概 説

 尿道狭窄は,尿道炎や外傷もしくはカテーテル留置による尿道損傷など,二次的に発症するものがほとんどで,時に原因不明のものも経験する。内視鏡検査や逆行性尿道造影にて容易に診断される。治療法の第一選択は経尿道的内尿道切開術であるが,狭窄が長い症例や再発を繰り返す難治例には,内視鏡手術の適応とはならず,尿道形成術の適応となる。

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経尿道的前立腺切除術(TURP)

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Q 著明な前立腺肥大症を伴っている前立腺癌症例。抗男性ホルモン療法を施行し,PSAは基準値内に減少しているが,尿閉を繰り返している。膀胱留置バルーンには抵抗がある。PSは良好なのでTURPを行いたいと考えている。どんな点に注意して施行すればよいか。

[1]概 説

 前立腺癌の外科的治療は,恥骨後式前立腺全摘除術,鏡視下前立腺全摘除術が代表的で,精囊と一塊として前立腺を完全摘除することである。前立腺癌に対するTURPは,前立腺を切除することにより癌細胞が血中に迷入し,転移を起こす可能性が高く,行うべきではないという意見があった。しかし,血中に細胞が着床する率は0.1%以下ともいわれ,前立腺癌でもTURPに対して肯定的な意見もある1)。また,前立腺は,過去の外腺・内腺分類では,内腺から肥大症が発生し,外腺から癌が発生するという大まかな考え方であったが,McNealが提唱する区域分類2)によって,より詳細に分けられ,各区域からの癌発生率も明らかにされている3)。そして,画像診断の進歩はめざましく,特に前立腺に対するMRIでは,増感剤の併用や撮像条件の設定により,癌の診断効率が向上している。

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Q TURPを施行中に被膜穿孔を起こした症例。低ナトリウム血症になったため手術を終了したいと考えている。しかし,切除が完全でないため十分に止血できない。どのようにして手術を終了すればよいか。

[1]概 説

 TURPの合併症は,術中・術後早期および晩期の合併症がある。術中の合併症として,出血,穿孔およびTUR反応があり,これらは合わせて約10%発生するといわれている1)

 中でもTUR反応は,TURP施行中に起こる中毒症状で,灌流液が体内に吸収され,overhydrationと低ナトリウム血症となる。特に,被膜穿孔や静脈洞が開くと出現しやすいので注意が必要である。症状として,気分不快,悪心,あくび,意味不明の発言,徐脈,血圧低下などが現れる。

 発生頻度は1%未満1,2)でさほど多くはないが,重篤な合併症となるので,対処法などについて理解が必要である。

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Q 体積80gの前立腺をTURisPで切除中の症例。手術時間が1時間を超えてきたが,もう30分あればきれいに切除できそうだ。全身状態に変化はなく,脊椎麻酔はまだ効いている。手術を続行したほうがよいか。

[1]概 説

 TURPは前立腺肥大症の手術術式としては,いまだgold standardである。大きな前立腺とは,推定容積が60ml以上の前立腺を指すことが一般的である1)が,近年の内視鏡,ビデオスコープの進歩により,大きな前立腺肥大症に対しても安全に手術可能になってきている。しかし切除量が多くなればなるほど,出血などの合併症は増加し,手術難度は高くなるのも事実である。大きな前立腺の切除を予定する場合,術者の十分な経験と自己血貯血などの準備が必要である。

 近年多くの施設で電解質溶液下TUR(以下,TURis)が普及してきている。そのメリットとして,従来の非電解質溶液下TUR(以下,TUR)と比較して,術中,術後にNaの低下によるTUR反応をきたしにくく,またその構造上,漏れ電流による対極板部やシース部での熱傷がないことが挙げられる。さらにTURisBT施行時には神経反射が少ないとされる。しかし大量の生理食塩水が体内吸収された場合,肺水腫や脳浮腫,高Cl性アシドーシスなどが起こる可能性も指摘されている2)

 TURisPは,TURPと異なり電極が小さいが,切除重量あたりの手術時間はあまり差はないとされ3),2時間程度の通常の灌流によるTURisPであれば血液の希釈も問題ない。

 今後多くの施設で,従来のTURに代わりTURisが導入されるであろう。

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)

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Q セカンドTURBTを予定している膀胱癌,G3,pT1の症例。切除すべき部位など,注意点は何か。

[1]概 説

 初回のTURBTの2~6週後に同部位に再度切除術を施行するセカンドTURBTは,T1(あるいはTaを含む)high grade腫瘍に対するより正確な病理評価を行ううえでの重要なステップである。最近の報告によると,T1症例においてセカンドTURBTで残存腫瘍が確認された症例は全体の31~67%で,T2へのup-stagingが確認された症例は8~23%であった1,2)。CISを随伴していた場合や,より大きな広茎性腫瘍において初回TURBTは不完全な切除になりやすく,セカンドTURBT切除標本で残存腫瘍,あるいは筋層浸潤をより認めやすいと想像される。初回のTURBTでどの程度深部を十分に,また腫瘍周囲を完全に切除しているか,などは術者の切除技量によって影響を受けるものと思われる3)。Divrikら1)は真のセカンドTURBTは初回に正確な,かつ完全切除を行った後のTURBTを示し,不完全な初回切除後のTURBTはrepeat resection,筋層浸潤の有無を確認する目的が主な場合はrestaging TURBTと,用語を区別すべきと述べている。

 セカンドTURBTは病理組織診断の向上に寄与するのみならず,腫瘍部位を2度切除する機会を得ることから,より完全な腫瘍切除が可能となりTURBT自体,あるいはその後の膀胱注入療法の治療効果を向上させる可能性が示唆されている。セカンドTURBTで残存腫瘍を認めない,あるいはT1未満であった症例においてはその後の腫瘍進展率は低く,BCG膀胱内注入の治療効果もより高いと報告されている4)。またセカンドTURBTを施行した群と施行しなかった群では,その後の再発率,進展率に差が生じるとも報告されている1)

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Q TURBTを開始した膀胱頂部腫瘍の症例。頂部に空気が溜まり,切除の邪魔になっている。そのまま切除を続けていたところ突然“ボン”と爆発音がした。

[1]概 説

 頂部膀胱腫瘍をTURする際,膀胱頂部の空気が邪魔になることがある。切除した際に出る気泡でさらに空気が増え,時には空気に引火し“ボン”という爆発が起こることもある。これによる膀胱破裂も報告されており1),頂部に溜まる空気は邪魔なだけでなく危険でもある。手術台を傾けたり腹部を圧迫したりして,空気を避けつつ切除したり,後述する方法などで適宜空気を排出しながら手術を進めていく必要がある。

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Q 左尿管口付近に存在する膀胱腫瘍に対し,TURBTを開始した症例。切除前は,尿管口は確認できなかった。しかし,切除後に切除面から左尿管口が現れた。中に腫瘍が入っているかどうかはっきりしない。

[1]概 説

 尿管口付近の膀胱腫瘍をTURする際,切除前に尿管口が確認できないことがしばしばある。そのような場合は,切除をして初めて腫瘍の陰にある尿管口が現れたり,切除面に膀胱壁内尿管の断面が現れたり,壁内尿管に腫瘍がある場合には尿管の断面から腫瘍が顔をのぞかせているのが見えたりする。腫瘍切除後も尿管口の位置が確認できず,インジゴカルミンの静注で切除断端から噴き出す青色色素により,ようやく尿管口の位置が同定できるということも稀ではない。

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Q TURBTを開始した膀胱癌の症例。術中にやむを得ず尿管口を切除した。この場合,ステントを留置したほうがよいか。

[1]概 説

 経尿道的膀胱腫瘍切除術(以下,TURBT)には,治療としての腫瘍の完全切除という目的と病理診断のための組織採取という目的の2つがある。表在性膀胱癌(Ta,T1)に対しては両者においてその適応がある。一方,T2以上の浸潤性膀胱癌が疑われる場合は膀胱全摘除術が標準治療であるため,診断のための組織採取を目指すべきと考える。前者の表在性膀胱癌の場合,腫瘍の存在部位が尿管口付近であれば,根治を目指すために尿管口を切除しなければならない状況も起こり得る。

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Q TURBTを開始した大きな膀胱腫瘍の症例。TURBTは切除範囲が広く,深くなるため,穿孔の危険性が高くなる。穿孔率を低くし,完全切除するためにはどうすればよいか。

[1]概 説

 大きな膀胱腫瘍は腫瘍により腫瘍茎部が隠れてしまうため,基部が確認しづらいことが多い。そのため,切除する部分をうまく内視鏡視野に捉えられないままTURを施行してしまうことがある。さらに,大きな腫瘍は血流が豊富なことが多いため,切除している際の止血が思うようにできないことも多い。出血で視野が悪くなると灌流液の流速を上げて視野を確保しようとするため,容易に膀胱が緊満してしまう。さらに,大きな腫瘍は腫瘍茎部も広いことが多く,切除する範囲も広くなる。このような状況下で不用意にTURを進めていくと,穿孔する危険性が高い。

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Q TURBTを開始した膀胱癌の症例。前立腺部尿道にのみG3,pTisの膀胱癌が認められた。術後,BCG注入療法を行うべきか。

[1]概 説

 一般に,広範に存在する膀胱癌,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor:TURBT)後の再発予防,膀胱上皮内癌(carcinoma in situ:CIS)に対し,膀胱腔内注入療法は適応とされている。特に,CISや異型度の高い難治性のG3T1においてはTURBT後のBCG膀胱腔内注入療法は標準とされ,膀胱温存をはかる標準的治療法とされている。

 BCG膀胱腔内注入療法は,非再発率20~65%との報告1)もあり,高い再発予防効果を示している。しかし有効性の一方で,有害事象が多いことやニューキノロン系抗菌薬,抗結核剤,消毒剤,アスピリンやワーファリンなどとの併用により効果の減弱が起こる可能性も指摘されている。そのため,効果と安全性との比較が必要であり,他の根治的な治療を選択するタイミングを逸しないことが重要であると考える。

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経尿道的尿管砕石術(TUL)

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Q TULを予定している症例。術後の尿管ステント留置は必須なのか。また,その際の留置期間は,なにを目安に決めればよいか。

[1]概 説

 従来,経尿道的尿管砕石術(TUL)後には尿管ステント留置は必須とされてきた。

 尿管ステント留置はTUL術後の患者への身体的負担(痛み,膀胱刺激など)を伴うが,発熱や一過性の尿管閉塞対策,尿管狭窄の回避,尿管穿孔時の治療には不可欠である。一方,下部尿管のTULで尿管損傷なく結石の完全摘出ができたものはステントの留置は不要である1)との報告もあり,TUL後ルーチンに全例尿管ステント留置とするのも検討の余地が残っている。

 14Fr前後の外径であった硬性尿管鏡や軟性尿管鏡も改良を重ね,10Fr以下に細くなり操作性が大幅に改善している。砕石方法は超音波砕石に始まり,電気水圧破砕,空気圧によるピンハンマーから安全性の高いレーザー砕石へと変遷をたどり,低侵襲なものになってきた。現在は,尿管や腎盂のみならず下腎杯までカバーできる細径(10Fr以下)軟性尿管鏡と組み合わせたレーザー砕石が主流になりつつあり,尿管アクセスシースの使用機会が増えた。尿管ステントはその材質の生体親和性や感染防御面での改善を主眼に素材の改良が続いている2)

 TUL後の尿管ステント留置の必要性の有無と留置時の期間については症例ごとに吟味されるべきであるが,その適応について検討する。

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Q TULを開始した症例。レーザー砕石後に抽石する予定であるが,抽石に手術時間の大半を費やしてしまうことが予想される。時間短縮のための工夫はないか。

[1]概 説

 経尿道的尿管結石砕石術(TUL)の目的は,低侵襲に結石の摘出を完全に行うことである。TULに代表される尿路内視鏡手術は,解剖学的に存在する尿路を経由し,尿路の破綻なく安全に手術を終了することが重要である。しかし,結石そのものの大きさや結石末しょう側の結石ポリープの存在が手術操作の妨げとなり,砕石や抽石に時間がかかる症例にしばしば遭遇する。

 時間短縮のために画期的な解決策は少ない。必要な手術器械の準備と,器械それぞれの特徴に対する十分な理解こそが時間短縮につながる。

 筆者は,術中一期的に完全抽石困難と考えられた場合,重大な合併症が発生する前に尿管ステントを留置しセカンドTULという選択肢もあると留意している。

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Q TULを開始した症例。尿管が強く蛇行しており,ガイドワイヤーがうまく挿入できない。

[1]概 説

 尿管の蛇行は発生学的奇形を除くと,結石の嵌頓,介在部の浮腫による高度の水腎に伴って生じるもの,手術や放射線照射の既往による下部尿管の可動性不良により生じるものがある。尿管結石の嵌頓による尿管の蛇行は上部尿管結石に多く,結石介在部より下部の尿管の蛇行は,尿管鏡での結石介在部の観察を困難とする。

 尿管の蛇行によるガイドワイヤーの挿入困難は,結石のimpactionや介在部の浮腫,ポリープ形成,狭窄による結石介在部へのガイドワイヤーの通過困難が原因である。尿管鏡による結石の観察が困難な症例では,蛇行した尿管をいかに直線化するかがTULの成績を左右するといっても過言ではない。

 TULにおけるガイドワイヤーの挿入は,多くは尿管鏡を挿入する前に施行される。ガイドワイヤー留置は尿管を直線化し,尿管鏡操作をスムーズにするほか,セーフティーガイドワイヤーとしての役割もはたす。蛇行した尿管においても,留置されたガイドワイヤーを用いることにより尿管を直線化させることができ,有用である。しかし同時に,盲目的挿入は尿管損傷の可能性を伴う操作であることを念頭に置く必要があり,ガイドワイヤーの挿入は決して強引な操作であってはならない。

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Q TULを開始した症例。結石存在部位の手前に強い尿管狭窄がみられ,なかなか結石に到達できない。

[1]概 説

 細径尿管鏡の機能向上とホルミウムレーザの普及に伴って,TULの手術成績が向上した。わが国でも上部尿路結石,特に腎結石,上部尿管結石に対してもTULを施行する施設が増加している。

 TULでは結石への尿管鏡操作が安全に,かつ再現性をもって行われる必要がある。結石下の尿管狭窄にはさまざまな状況が考えられるが,狭窄に対する強引な内視鏡操作は尿管損傷,時に尿管断裂といった重篤な合併症をもたらすことから,尿管鏡操作時の十分な状況の把握が必要となる。

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Q TULを開始した症例。途中で誤って尿管を損傷してしまった。そのためガイドワイヤーが腎盂へ入らず,尿路外へ向かってしまう。

[1]概 説

 尿管鏡の細径化とsemi-rigid化,硬性・軟性を問わず視野の鮮明化により,TULの際の尿管損傷はかなり減少したとされる。2010年に発表された欧州泌尿器科学会による『Guideline on Urolithiasis』によると,U1,U2,U3それぞれの結石に対するTULでの尿管損傷の割合は,それぞれ6%(文献により3~9%),6%(同3~8%),3%(同3~4%)であった1)。しかしながら,高度な癒着を伴った尿管結石症例や,高度な水腎症の存在のために尿管に強い屈曲が存在する症例では,尿管損傷を起こす可能性が依然として残されている。

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Q TULを開始した症例。強い尿管狭窄のため尿管鏡が挿入困難である。バルーン拡張術を行い,すぐにTULを行ってよいか。それとも,拡張術のみ行い,TULは後日に延期したほうがよいか。

[1]概 説

 TULにおいては結石が目視できる位置まで尿管鏡が届かなければ,いかなる処置も行ってはならない。ブラインドでバスケットカテーテルを用いることはガイドラインでも禁じられている1)。したがって,結石より遠位の尿管に狭窄が存在すると判断された症例では無理をせずにTULは中止とし,尿管の拡張を行ってから,後日改めてTULを予定するのがよい。

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Q 腎結石に対し,f-TULを開始した症例。硬性尿管鏡でU2までは観察できたが,それより上はやや抵抗がある。細径尿管シースを入れ,同部に抵抗があったが少し無理をしてU1まで挿入し,尿管シースを5cmほど引き抜き軟性尿管鏡で観察したところ,尿管の断裂が確認された。

[1]概 説

 f-TULは軟性尿管鏡とHo-YAG Laserが主役と思われがちであるが,尿管シースの適切な留置こそが成功の秘訣となる。しかし外径が12~14Frほどの尿管シースを尿管に挿入するわけであるから,無理な操作による尿管の裂傷の可能性は否定できない。無理が高じれば尿管断裂するであろう。損傷とは概念が異なるが,尿管シースが挿入された尿管は圧迫のために虚血状態になるので,長時間にわたるf-TULは避けるべきであろう1,2)

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経皮的腎瘻造設術

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Q 経皮的腎瘻造設術を開始した症例。穿刺針から出血がみられたがカテーテル留置まで行った。まだ出血が続いている。洗浄しようとしたが,注入がスムーズにいかない。

[1]概 説

 経皮的腎瘻造設術は腎後性腎不全の治療を始め,術前処置や診断などの目的で,幅広く施行される手技である。水腎症の程度もさまざまで,安易なものから困難なものまであり,施行に際しては腎の血管解剖を熟知しておくことはいうまでもない(図1)。留置カテーテルからの小出血はある程度はやむを得ないものであり,筆者は幸いにも腎摘除術・動脈塞栓術などの緊急手術を要するような大出血を経験したことはないが,誰しもが経験するであろう留置後のカテーテル閉塞も,できれば避けたいものである。本項では長年一般泌尿器科に携わってきた経験から,安全に施行するために留意してきたことについて述べたい。

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Q 経皮的腎瘻造設術を開始した症例。エコーガイド下に穿刺したが,カテーテル留置に難渋し,何度も穿刺していたところ,水腎がなくなってしまった。

[1]概 説

 経皮的腎瘻造設術前の水腎症の程度が軽度であるほど手技は困難になる。水腎のほとんどないサンゴ状腎結石に対するPNL前の穿刺なども難しい。多くの泌尿器科医は,穿刺を繰り返すうちに水腎が軽減したり消失した経験があるだろう。また前項でも述べたが,確実に留置するためには穿刺前の画像診断にはゆっくり時間をかけて観察するように心がける。

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Q 婦人科癌による両側水腎症のため両側にステントを留置している。最近,原疾患の増悪を認める。現在まで4か月ごとに何度か交換をスムーズに行え,尿管ステントの糸は事前に切って交換していた。今回,内視鏡下に交換していたが,思いのほかL4付近の狭窄がきつく,透視モニターに気をとられ,気がついたら尿管ステント下端が尿管内に上がってしまった。どのように対処すればよいか。

[1]概 説

 尿管ステントの留置や交換は,泌尿器科医の日常茶飯の処置として数多く行われており,その手技も施設によってさまざまである。本症例と同様の経験をされた泌尿器科医も多いのではなかろうか。

Ⅰ 尿路内視鏡手術 ■経皮的腎砕石術(PNL)

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Q PNLを開始した症例。途中でガイドワイヤーと腎瘻が抜けてしまった。セイフティーワイヤーも置いていない。水腎もなく再穿刺できない。

[1]概 説

 PNLを安全,かつ効果的に行うためには,腎瘻の確実な確保と適正な設置位置が重要である1)。また,あらかじめ腎瘻が入っている状況からPNLを開始する場合と,針穿刺からPNLまで一期的に行うのとでは難度が異なる。Tractを失うことは手術の成否にかかわる事象である。

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Q 腎盂に3cmの水腎症を伴わない部分珊瑚状結石と,下腎杯に数個の約5mmの腎結石に対しPNLを施行している症例。腎瘻バルーン拡張としてNephroMaxTMを使用して出血もなく,結石もほぼ砕石し回収できた。24Frの腎盂バルーンカテーテルを留置し,止血目的でそのカテーテルを牽引したが,残石があったせいかバルーンが割れ,カテーテルが抜けてしまった。どのように対処したらよいか。

[1]概 説

 大きな腎結石に対してはPNLは有効な手術法である。ESWLやTUL,f-TULが本邦でも広く行われるようになってきている中,PNLの重要性が再認識されている。その手技レベルの維持のためには,年間5例以上の手術経験が必要1)との指摘もあるが,広く行われているわけではないのが現状である。

Ⅱ 体腔鏡下手術

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下副腎手術

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Q 腹腔鏡下右副腎部分切除術を開始した症例。右副腎静脈の同定に難渋している。

[1]概 説

 副腎部分切除は,両側性副腎腫瘍において,A)一側の副腎を全摘し,他方の正常副腎を残して腫瘍を摘出する場合や,B)腎癌などで過去に一側の副腎を摘出しており,残った副腎に発生した腫瘍に対する手術として行われる。A)の両側副腎腫瘍の場合には,左右いずれの副腎を部分切除すべきか,副腎静脈サンプリングを含めた内分泌学的評価により決定できる場合には,決定された側の副腎に対して部分切除を行うが,症例によっては,内分泌学的にはいずれの副腎に部分切除を行っても差がないと判断され,術者側の判断に委ねられる場合もある。しかし多くの場合には,B)のように,すでに一側の副腎がない場合が多い。右の副腎部分切除においては,腫瘍や副腎静脈の位置によって,副腎静脈が残存される場合と,切断もしくはクリッピングされる場合とが考えられる。この際に,副腎静脈の同定が困難な場合が本設問の問題点である。

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Q 腹腔鏡下右副腎摘除術を開始した症例。肝臓と副腎の癒着がうまく剝離できない。

[1]概 説

 腹腔鏡下右副腎摘除術において,副腎実質正常部の最頭側部が肝と生理的に癒着しており剝離が困難な状況や,肝下面に接するところに腫瘍があって,肝からの剝離が困難な状況に遭遇することがある1)。このような場合は,経腹膜到達法,後腹膜到達法どちらにおいても起こり得る。

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Q 腹腔鏡下右副腎摘除術を開始した症例。誤って肝被膜を損傷してしまい,出血が止まらない。

[1]概 説

 腹腔鏡下右副腎摘除術において,肝被膜を損傷するおそれがあるのは,経腹膜到達法において以下の操作を行っている場合である1)。①右腎および右副腎前面を覆っている腹膜や大網が肝と癒着している場合に,この癒着を剝離する際に必要以上の張力が及んで被膜を損傷する場合,②上記①の剝離を十分行わずにその次の操作を行ったときに,肝を圧排する鉤や鉗子により過剰な張力がかかって,被膜を損傷してしまう場合,③副腎の最頭側部を肝下面から剝離する際に,副腎と肝との癒着のために剝離困難で肝被膜を損傷してしまう場合(図1),④フック式電気メスを用いて,右腎や右副腎前面の腹膜を切開しているときに,フック式電気メスを牽引しすぎたために,フック式電極の先端が肝表面に接触して被膜を損傷してしまう場合,などである。このようなときに,肝実質からの出血をきたして,止血が困難なことに遭遇する場合がある。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下腎部分切除術

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Q 腹腔鏡下腎部分切除術を開始した症例。腫瘍が上極にあり,視野を十分に確保することができない。

[1]概 説

 腹腔鏡下腎部分切除術を行う場合,腫瘍の場所,深さ,大きさ,患者の体型や手術や癒着の原因となる炎症性疾患などの既往によって,経後腹膜的到達法か経腹膜的到達法か,ポート作成部位をどこにするか,術前に十分に評価を行ってあらかじめ選定しておく必要がある。特に腫瘍の場所は重要で,背側か腹側か,内側か外側かによって到達法や術野の確保法も異なる。本事例の場合,腫瘍があらかじめ想定された場所にあったのか,想定外の場所にあったのかが問題となる。

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Q 腹腔鏡下腎部分切除術を開始した腎癌の症例。思っていたより腫瘍が大きく,腎部分切除の際に腎盂が半分ほど欠損してしまった。

[1]概 説

 腹腔鏡下腎部分切除術は,腎阻血時間を可及的に短くする必要がある中で,腫瘍の確実な切除,尿路損傷部位の縫合閉鎖,切除面の縫合止血を確実に行うなど,極めて難易度の高い術式の1つである。本術式を行う場合,腫瘍の場所,深さ,大きさについて術前に十分評価を行い,術中のシミュレーションを行うなど,周到な準備が必要である。本件は,腫瘍底面の切除の際,不用意に腎洞側に深く切り込んだため生じる。

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Q 腹腔鏡下腎部分切除術を開始した症例。マイクロ波凝固装置を使用せず,腎茎部をクランプしたのちに腫瘍を摘出した。摘出はうまくいったが,腫瘍摘出部の縫合に難渋している。

[1]概 説

 術前に腹腔鏡下の縫合基本手技をドライボックスや大型動物などで習熟しておくことは言うまでもない。しかし,実際の腎部分切除術の際,腫瘍の場所や大きさ,深さが症例によってすべて異なるため,想像以上に縫合が困難なことも多い。腫瘍摘除後の縫合も視野に入れて運針のスペースを確保するとともに,少しでも縫合しやすい位置へ縫合面を移動できるように腫瘍および腎周囲の剝離を行い,縫合が容易になる切除を行わないと,本件のように,縫合困難が生じる。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下根治的腎摘除術

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Q 腹腔鏡下左根治的腎摘除術を開始した症例。下行結腸を剝離し,脾臓を脱転したが,腎茎がうまく同定できない。

[1]概 説

 腎動脈,腎静脈は患者によりそのバリエーションが多く,腹腔鏡下手術に際しその同定および処理に難渋することも稀でなく,脂肪の多い症例では,その難易度がさらに増強される。また,手術手技上,腎静脈よりも腎動脈を先に処理しなくてはならない。腎動脈は基本的に腎静脈の背側に存在するが,腎動脈を同定するために,腎静脈を先に処理し視野を展開することはできない。

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Q 腹腔鏡下右腎摘除術を開始した症例。上行結腸を剝離し,十二指腸のKocher授動を施行した。下大静脈,右腎静脈は同定できたが,どうしても右腎動脈が同定できない。

[1]概 説

 腹腔鏡下右腎摘除術において,腎茎部に到達する際,十二指腸,下大静脈の確認は必須である。通常,下大静脈の右縁を頭側へ剝離すると,その後面から出ている右腎動脈を確認できるが,剝離が不十分であったり,肥満症例である場合,右腎動脈の同定が困難なことがある。

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Q 腹腔鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。術中に腎茎を損傷してしまい,視野が保てなくなった。

[1]概 説

 腹腔鏡下根治的腎摘除術における血管損傷の合併症の発生頻度はアプローチ方法によらず,おおむね2%以下である。この割合は開腹手術のそれと変わらないが1),直接圧迫止血することのできない腹腔鏡下手術においては,腎茎損傷は最も重篤な合併症の1つであり,大量出血の原因となる。また,良好な視野が保てない中で手術を継続すると,予期せぬ合併症を引き起こす危険性がある。術前から,血管の走行,腎臓全体や血管同士の位置関係を十分把握したうえで,血管の剝離においては安全な鉗子操作を心掛けるのはもちろんであるが,日頃から腎茎損傷をした場合,どういった対応をすべきか想定しておき,実際の場面では焦らず冷静に対応することが肝心であると考える。

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Q 術前の3D-CTで腎動脈は1本と想定して腹腔鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。腎動脈を処理した後で腎静脈をクランプしたが,静脈が怒張して腎が腫脹してきた。

[1]概 説

 腎動脈を処理したのちに腎静脈をクランプしたところ腎静脈が怒張した場合は,腎動脈本幹の分岐や,腎動脈以外に腎臓に分布する側副動脈の存在を示している。処理されていない動脈の灌流領域やその血流量によっては,それまでに剝離した面からの血液の滲出が増え,良好な術野の確保に支障をきたす場合がある。また,予期せぬ展開により術者・助手らが動揺することで,思わぬ合併症につながる危険性もある。

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Q 腹腔鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。患者は非常に体格が大きく,腎上極に鉗子が届かない。

[1]概 説

 術者は通常,臍の位置を基準に手術対象臓器の位置を推測し,操作用ポートの位置を決定しているが,臍と臓器の相対的な位置関係は個体差が大きく,特に体格の大きい場合や極度の肥満,また腫瘍の大きい症例では,操作用ポートの挿入位置を誤ると「対象臓器が視界に入らない」,「手術器具が対象臓器に届かない」などの事態が生じる。本項では標準術式である根治的腎摘除術を想定して,問題の回避・解決の2つの観点から論じる。

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Q 上極の腎腫瘍に対して腹腔鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。横隔膜に電気メスが接触していたようで,手術の途中から換気不良となった。肺自体には損傷はないようだ(損傷の確認と修復はどのように行うか)。

[1]概 説

 横隔膜損傷は腹腔鏡下腎摘除術の合併症としては比較的稀であるが,時に重症化する可能性があり注意が必要である。腹腔鏡下手術時の横隔膜損傷では,気腹ガスが損傷部を経て胸腔内に入るために胸腔内の陰圧が失われ,肺の虚脱が起こりやすい。このため開腹手術での損傷の場合よりも換気不良を起こしやすい。特に微小な横隔膜損傷の場合,これに気づかないまま手術を続けると換気不良をきたし重症化することもあり得る。このため横隔膜損傷の早期発見と修復が重要である。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■後腹膜鏡下根治的腎摘除術

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Q 後腹膜鏡下根治的腎摘除術を開始した背の低い,小太り体形の症例。第12肋骨と腸骨との距離があまりない。ポート挿入の位置はどうしたらよいか。

[1]概 説

 通常,第1ポートは11/12肋骨弓と腸骨稜(iliac crest)との間にopen methodにより作成し,気腹下に第12肋骨と腰筋の間に第2ポートを挿入して,腹膜の腹壁付着部を鈍的に剝離し,最後に腹側の第3ポートを挿入する。11/12肋骨弓と腸骨稜の間は骨盤骨と肋骨が最も接近した部位であり,体形によってほとんど距離がないことが経験される。

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Q 後腹膜鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。腎周囲を剝離中に腹膜を損傷し,腹腔内に空気が入ってしまった。そのため視野が狭くなり,手術操作が困難となった。

[1]概 説

 後腹膜鏡下手術は,本来,腔として存在しない腎周囲を剝離・展開することによって,十分な操作腔(後腹膜腔)を作成する必要がある。気腹により操作腔を維持するが,腹膜損傷をきたすと気腹ガスが腹腔内に入り,腹膜が術野を圧排し,十分な操作腔の維持が困難となる。通常,腹膜損傷は手術開始時,腎前面の腹膜と腹壁筋膜の付着部を剝離する際に生じることが多い。

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Q 後腹膜鏡下根治的腎摘除術を開始した症例。術中,誤って胸膜を損傷してしまった。

[1]概 説

 後腹膜到達法で胸膜の損傷が起きる確率は,諸家の報告によれば1~2%である。損傷がいつ起きやすいかを考えると,第12肋骨に沿わせて2本目のトロッカーを挿入する際と,外側円錐筋膜の切離を腎上極まで進めていく際の2点が挙げられる。横隔膜は12肋骨の周囲で欠損している部分(Bochdalek's triangle)があり,この大きさや位置には個人差があるが,この存在に気づかずに行っていると,胸膜を損傷しやすいと思われる。日本人111人の剖検例でBochdalek's triangleにつき調べたKawadaらの報告によれば,日本人の13.7%(B,D)は第12肋骨の先端より末しょう側で横隔膜が欠損しており,これらでは胸膜のみ露出している部分が多いので注意が必要である(図1)。

 いずれも,起きやすいのは,横隔膜の欠損部分が大きく胸膜が露出しやすいケースであり,術前にCTで胸膜の位置を十分に確認することが,損傷を防ぐためには最も大切なことと考える。

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Q 後腹膜鏡下根治的左腎摘除術を開始した腎癌の症例。誤って脾臓を損傷してしまった。圧迫や縫合によっても止血できない。

[1]概 説

 脾臓は非常にもろく,裂けやすい臓器である。

 経腹膜的到達法では,十分に脱転せずに,腎を下方に牽引すると,脾臓にテンションがかかり,脾臓を損傷することがある。後腹膜到達法では,腹膜が介在するため,脾臓を損傷することは稀であるが,あり得ない話ではない。まず,腹膜を損傷しないことと,十分に腎の前面と腹膜の間を展開し,上極の剝離するラインを認識することが,損傷を起こさないために最も大切である。実際に脾臓を損傷した場合,その温存は困難なことが多い。これは,腹腔鏡手術におけるデータではないが,メイヨークリニックにおける13,897例の結腸切除術において,脾臓損傷は59例(0.42%)に起きている。そのうち45例,76%は脾臓摘出に至っている。また,脾臓の釘による貫通損傷において,腹腔鏡下に釘を抜き,凝固で止血し得たケースは症例報告のレベルであることより,脾臓を損傷し,凝固や,サージセルなどで止血し得ない場合は,躊躇せずに脾臓摘出を考慮すべきである。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■後腹膜鏡下腎尿管全摘除術

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Q 後腹膜鏡下腎尿管全摘術を開始した症例。術前のCTでは腎動静脈は各1本であった。腎動脈をヘモロックで切断後,腎静脈をエンドGIAで切断したところ腎がうっ血腫脹してきた。腎の前面,上極はまだ剝離していない。

[1]概 説

 腎静脈がうっ血するのは,まだ流入する腎動脈が残存している場合である。そのようなことが起きないようにするためには,術前に腎血管の評価をしっかりと行うことが重要である。現在のCTは1本のX線を多列の検出器で検出するMD-CT(multidetector CT)であり,従来のヘリカルCTに比べ分解能が高く,一度に多くの画像を得ることができるため,造影剤を使用した場合に特に有用であり,それを利用した3D-CT画像にて術前評価を行い,血管に関する情報を得ることが望ましい。Volume renderingによる3D-CTは極めて有用である。

 また,動脈をクリッピングして切離した後,静脈をクリップする前に,メリーランド型鉗子,あるいは開窓型のバイポーラ鉗子などで,静脈を圧迫,あるいはゆるく遮断し,うっ血するかしないか確認するのも1つの方法である(図1)。これでうっ血しなければ,安心してクリップを掛けることが可能である。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下根治的前立腺摘除術

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Q 腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を予定している症例。腹部手術の既往がある患者だが,どんな点に注意して手術に臨めばよいか。

[1]概 説

 腹部手術既往症例に対する腹腔鏡下根治的前立腺摘除術は,癒着などの問題から避けられることが多い。また,骨盤内手術既往の患者背景が開放手術への移行率に影響する1)との報告もあり,慎重な対応が必要と考えられる。しかし,拡大視野が可能,出血量が少ないなどのメリットにより,安全に施行できる症例もあると思われる。

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Q 腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。背側静脈叢からの出血が多くなり,何度も止血のため運針を試みたが,どうしても止血できない。

[1]概 説

 前立腺全摘除術の周術期合併症で主なものは出血である。腹腔鏡下根治的前立腺摘除術は気腹圧による影響もあり,一般に開腹恥骨後式前立腺全摘除術に比して出血量が少ないことがメリットの1つとして挙げられる。しかし,時として前立腺前面・側面および尿道周囲の処理の際にコントロール困難な出血に遭遇することがある。

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Q 腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。12時あたりの膀胱側の壁が尿道側より余ってしまい,運針の際に恥骨が邪魔になり,膀胱尿道吻合がうまくいかない。

[1]概 説

 腹腔鏡下根治的前立腺摘除術の難所はさまざまあるが,そのうちの1つは膀胱尿道吻合である。結節縫合か連続縫合かの違いはあるが,一番テンションのかかる1針目が最も難しい。また,12時方向の運針も,恥骨と膀胱の間の空間が狭くなった場合,運針に手こずることがある。日本人はもともと体型が小さいうえに,狭骨盤や肥満体型の場合,その空間は高さ1cm程度になることがある。

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Q 腹腔鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺背面の剝離中に直腸壁を損傷してしまった。術前の腸準備は行ってある。

[1]概 説

 腹腔鏡下前立腺全摘除術(laparoscopic radical prostatectomy:LRP)は,2006年に保険適応とされてから急速に普及してきている。この術式の重大な合併症の1つである直腸損傷は海外の報告で0.7~8%の頻度1,2)で生じるとされており,本邦でも日本Endourology and ESWL学会の調査で4.0%に発生している3)

 恥骨後式前立腺全摘除術(retropubic radical prostatectomy:RRP)での直腸損傷は,鉗子やハサミなどの盲目操作で生じることが多いので,2cm以上の比較的大きな直腸損傷が起こりやすいが,LRPでは2cm以下のことが多い。

 損傷が起きた場合,術中に発見できるかどうかが重要である。術中に気がつかなければ,術後に腹膜炎で致命的な状態になることもある。そうまでならなくても難治性の尿道直腸瘻を合併したり,人工肛門作成を余儀なくされ,QOLを大きく損ねることになる。術者はもちろん,助手やスコーパーも含めたチーム全体として損傷に注意を払って手術を行う必要がある。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■後腹膜鏡下根治的前立腺摘除術

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺摘除術を予定している症例。同時にintra-fascial nerve sparingを施行する予定でいる。その方法および注意点は何か。

[1]概 説

 陰茎海綿体神経を含む神経血管束を温存する手技でも,intra-fascial nerve sparing(intra-NS)は,prostatic capsule(PC)とperiprostatic fascia(PPF)の間のintrafascial planeを展開する神経温存手技を指す。PPFの内側で血管茎を処理し,PPFの外側で展開したものがinter-NS,PPFの内側で展開したものがintra-NSである(図1,2)。前面から膀胱と前立腺を切離後,Stolzenburgら1,2)も提唱している前立腺底部,背側からのこのintrafascial planeを展開するアプローチによる方法を通常行っている。ほかにも,Menonら3)の提唱する腹側よりLPF(lateral pelvic fascia)を切開し,同planeに入るapproachを併用することもある。なお,基本的には後腹膜鏡下手術,腹腔鏡下手術どちらにおいても,手技自体は相違なく行うことができる。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。カメラポートを挿入する際に,うまくレチウス腔に入ることができない。

[1]概 説

 前立腺の前面(腹側)と後面(背側),右と左を均等に観察するには,カメラポートは正中線上の臍付近に置くのがよい。経腹膜到達の場合には臍より頭側にも置くことができるが,腹膜外到達では,腹膜が臍に固着しているため臍より尾側に置く。腹膜を開けないことが絶対条件であるが,臍下3~5cmまでは腹直筋鞘後葉があることを理解し,これを利用することで腹膜損傷を避けることができる(図1,2)。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。膀胱と前立腺の境界が判別しづらく,うまく剝離できない。

[1]概 説

 鏡視下手術では,開放手術と異なり触覚から得られる情報が少ないこともあり,膀胱頸部前立腺移行部の同定が難しい。さらに,前立腺の大きさや形は個人差が大きいことが,膀胱頸部の切離操作を本術式中で難しい工程の1つにしている。施設によっては,鈍な鉗子で硬さを確認しながら境界を判断する,尿道カテーテルを数回牽引して境界部を同定する,あるいは膀胱頸部付近の前立腺前面に針糸を掛けて前立腺の輪郭を確認する,などの工夫がされている。

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Q 腹腔鏡下前立腺全摘除術を開始した症例。膀胱と前立腺の剝離をしていたところ,膀胱を大きく開いてしまった(吻合の際に尿管口などが心配である)。

[1]概 説

 前立腺全摘除術において,膀胱頸部の剝離の際に内尿道口が大きく開いてしまうことは比較的よく経験することである。特に前立腺が大きく,中葉突出が著明な際には,ある程度しかたがないと思われる。開腹の前立腺全摘除術で逆行性に摘出する際には,膀胱頸部の切断に際してposterior peel法での剝離が可能なため膀胱頸部の開大を最小限にとどめることは可能だが,腹腔鏡下手術では順行性アプローチなため,中葉に貼り付いた膀胱粘膜を剝離することが困難である。かつて筆者らは突出した中葉と膀胱粘膜を剝離するようにしていたが,仮に剝離できたとしても同部の膀胱は筋層が欠如していて非常に薄くなっているため,膀胱尿道吻合に際して脆弱であり吻合しづらかった。最近では尿管口の位置を確認し,中葉の膀胱粘膜は中葉に付けたまま膀胱頸部の切開ラインを中葉の突出が終わる6時方向に設定し直すようにしている(図1)。膀胱頸部の縫縮自体は開腹の前立腺全摘除術と同様の手技であり,内尿道口6時方向を3-0バイクリルのような吸収糸で結節縫合を行うが,尿管口の位置を確認することが重要である。尿管口が容易に確認できることもあるが,視認しづらい場合にはインジゴカルミン静注により確認を行う。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺全摘除術を開始した症例。膀胱頸部を切除しすぎて,両側尿管口を切断してしまった。

[1]概 説

 後腹膜鏡下根治的前立腺全摘除術(EERP)における膀胱頸部温存は重要なステップであり,この操作の出来が膀胱尿道吻合の容易さや吻合の質にかかわってくる。膀胱頸部を形よく温存したいが,時として頸部が大きく開放し尿管口が吻合部に近くなることがある。開放手術でも同様の状況がしばしば起こるため容易に想像はつくと思われる。特に,大きい中葉肥大の症例や経尿道的前立腺切除術(TURP)後の症例では,尿管口が近くなりやすいため注意が必要である1,2)。本設問はEERPにおいて両側の尿管口を切断してしまった場合についての対応であるが,体腔鏡下に対処するのは難しい状況であることは否めない。尿管口の損傷の程度が激しければ開放手術に移行すべきである。このため,今回は損傷の程度が軽いものに限定して述べたい。

 この状況の難しい点は,尿管口が膀胱頸部の開放部のエッジに位置するであろうことと,尿管口を切断しているため尿管下端が狭窄する可能性があることである。また,切り込んだ際に凝固操作を行っているかどうかも重要と思われる。術者や腹腔鏡下手術のチームの技量によるが,この状況では開放手術への移行も念頭に置きながら手術を進める必要がある。当施設では尿管口を切断した症例は経験していないが,吻合部に尿管口が近くなった経験は過去に数回ある。本項のテーマはさらに厳しい状況への対処であるが,文献的考察とともに当施設の経験をもとにして述べたい。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺全摘除術を開始した症例。尿管口に近い部位で,膀胱が切れてしまった。

[1]概 説

 後腹膜鏡下前立腺全摘除術(EERP)において,膀胱頸部と前立腺の剝離の際に頸部が大きく開放し,尿管口が吻合部に近くなることがある。開放手術においても,膀胱頸部温存を行わない場合はこのような状況をしばしば経験するが,膀胱頸部を逆テニスラケット型に形成した後に膀胱尿道吻合を行っているため,通常は大きな問題とはならない。遠隔操作である体腔鏡下手術という状況下においては,開放手術と同様の手技を行うのは少し難しい。このような状況を作らないことが第一であるが,術者として本手術の経験数がまだ少ない場合,中葉肥大が高度な症例やTUPP後の症例など1)は,吻合部に尿管口が近くなり困った経験を持つ術者は多いと思われる。本項ではEERPにおいて膀胱頸部が比較的大きく開放し,尿管口と吻合部が近くなった場合の対処法について述べたい。前項(048)で述べた考え方も参考になると思われるので,一読していただければ幸いである。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺摘除術を開始した症例。膀胱尿道吻合をスムーズに行うことができない。運針時のポートの位置などのコツや注意点は何か。

[1]概 説

 縫合の基本操作として,縫合線と刺入点,導出点を理解しておかねばならない(図1)。尿道断端を円に置き換えると,その接線が縫合線となる。持針器を投影した線に縫合線を合わせると,縫合線と刺入点-導出点は直交する。6時,12時の縫合線(接線)は真横になるためトロカーの位置は鼠径部か側腹部に必要となるが,いずれも骨盤骨が邪魔となって現実的ではない。これ以外であれば,左右外側のトロカーと正中のトロカーを使用すれば運針可能である。

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Q 後腹膜鏡下根治的前立腺全摘除術を施行した症例。術後,閉鎖リンパ節郭清を施行した部位にリンパ瘻ができてしまった。

[1]概 説

 前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術において,閉鎖リンパ節郭清は基本的な手術のステップである。当施設は後腹膜鏡下根治的前立腺全摘除術(EERP)を標準として行い,基本的に全例に閉鎖リンパ節郭清を行っている。開放手術と同様にEERPでもしばしばリンパ瘻を経験するが,ドレーンが留置されているか否かで状況が異なる。ドレーンが留置されている場合は,ドレーンからのリンパ液の流出がなかなか減少しないという状況となる。この場合は,ドレーンをどのようなタイミングに,どのような方法で抜去するかがポイントである。一方,ドレーン抜去後であればリンパ囊腫を形成するが,囊腫が持続的に増大して症候性となる場合に問題となる。理論的にはリンパ液の流出量が多いため閉鎖空間の圧力に勝って内腔を拡大し,症候性のリンパ囊腫となるものと考えられる。本項では,リンパ瘻が疑われたときの診断,その対処法,手術時に行い得る予防法について,われわれの経験も踏まえて解説したい。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下腎盂形成術

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Q 腹腔鏡下腎盂形成術を開始した症例。尿管ステント(Double-Jステント)を挿入したが,どうもうまく入らない。

[1]概 説

 腎盂尿管移行部通過障害に対して腹腔鏡下腎盂形成術を行う際の尿管ステントの留置は,術直前に逆行性に行う方法と術中に順行性に行う方法の2通りがある。

 逆行性で行う利点は,術直前に行えば腎盂尿管移行部の性状が把握できるため手術のデザインがしやすいこととされているが,欠点として,事前に尿管カテーテルが留置されていることにより,腎盂と尿管の縫合操作に支障をきたす可能性があることが挙げられている。一方,順行性に行う利点は,腎盂と尿管の吻合の際に,一側の縫合を行った後に尿管ステントを留置し,対側の縫合を行うため,縫合が比較的容易に行えることである。したがって,筆者らは通常,順行性に尿管ステントを留置する1,2)。しかし,その一方で,本トラブルのように,尿管ステントがうまく入らないことに,非常に稀であるが遭遇することがある。当施設において2005年から2010年までの5年間で48例(成人例21例,小児例27例)の腎盂尿管移行部通過障害に対して腹腔鏡下腎盂形成術を行い,2例(4%)で尿管ステントが挿入できなかった症例を経験した。そのいずれも小児例であった。

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Q 腹腔鏡下腎盂形成術を施行した10歳男児の症例。1か月後,再入院で留置していた内瘻ステントチューブを抜去したところ水腎症が再発し,再度,内瘻ステント留置を試みたが完全閉塞していた。すぐに開腹での再手術を行ったほうがよいか。

[1]概 説

 最近,腹腔鏡下腎盂形成術と開腹による腎盂形成術の比較検討をしている報告が認められているが,いずれの報告でも,腹腔鏡下腎盂形成術は開腹手術に劣るものではなく,短期の手術成績は良好であることが示されている。当施設における短期の経過観察例での手術成功の定義は,術後1年の時点で,①超音波検査で腎前後径の減少を認めないもの,腎盂前後径の改善を認めるもの,およびSFU分類のgradeの改善,②利尿レノグラムでのT1/2の改善と,分腎機能が保持されているもの,③症状が術前に認められたものは,症状の消失,これら3つが認められたものとしている1)。これまでの当施設の小児に対する腹腔鏡下腎盂形成術の短期の成功率は95.5%と,開放手術とほとんどかわりがない2)。しかしながら本症例のように,術後ステントを抜去後に水腎症をきたす症例は成人例であれ小児例であれ経験することになる。こういった症例に対して,適切な対処を行うことは,術後の腎機能の温存のためには非常に重要である。

Ⅱ 体腔鏡下手術 ■腹腔鏡下ドナー腎摘除術

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Q 腹腔鏡下ドナー腎摘除術を予定している症例。温阻血時間をさらに短縮したいと考えているが,なにか工夫やコツはないか。

[1]概 説

 生体腎移植術における腹腔鏡下ドナー腎摘出術は,術後疼痛の軽減,入院期間の短縮,早期社会復帰などの利点が多いことから急速に普及し,最近の報告では約70%のドナー腎摘出術が内視鏡下に行われている。一方で,ドナー腎摘出術に求められる重要な点は摘出腎の機能温存であるが,この点で最後まで腎動静脈の切断ができないことや,切断後すみやかに腎臓を体外に摘出する必要があることにより,難易度の高い手術の1つといえる。この術後早期の腎機能を決定する因子の1つに温阻血時間(warm ischemic time:WIT)が挙げられ1),術者は腎血管を遮断,切断後すみやかに腎臓を摘出し,ベンチにて摘出腎を冷却,灌流する必要がある。このWITが不用意に長くなると急性尿細管壊死のような腎障害を引き起こし,delayed graft functionに陥ることで,術後透析療法を行わざるを得なくなる。

Ⅲ 体外衝撃波砕石術(ESWL)

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Q ワーファリン服用中の症例。出血を危惧して,ESWLを行うべきかどうか悩んでいる。術前へパリン化を行えば,ESWLを施行しても問題ないか。

[1]概 説

 SWL(shock wave lithotripsy)は比較的低侵襲な手術とされているが,合併症として,血尿・皮下出血・腎被膜下血腫・発熱・尿溢流・腸管損傷などが報告されている。このうち,血尿・皮下出血・腎被膜下血腫などの出血系合併症は,出血傾向を有する症例において起こりやすいと考えられ,制御不能な出血をきたした場合,生命に危険を及ぼすおそれがあり,腎摘除術を余儀なくされた症例も報告されている1)

 心房細動・人工弁置換術後・心筋梗塞・脳梗塞・深部静脈血栓症などで,ワーファリンなどの抗凝固薬を内服中の場合,凝固機能が低下しており出血傾向を有するため,SWLに伴う出血系合併症のリスクが高まるが,過去の報告や筆者らの経験上,適切な前処置を施行すれば,比較的安全にSWLを施行することができると考える2~7)

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Q 術後の皮下出血をできるだけ避けたいと訴えている症例。ESWL施行後の皮下出血を軽減するための工夫はないか。

[1]概 説

 体外衝撃波砕石術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)は,1985年に国内第一号機が当院に導入されて以来1),非侵襲的治療として尿路結石症の治療の中心を担っている。ESWL治療による長期的および短期的合併症として種々のものが報告されているが,高齢者,小児にも長期的な安全性を認めた報告が多い2,3)。皮下血腫は,腎皮膜下血腫,治療中の疼痛とともに短期的合併症の1つである。しかしながら,皮下血腫が比較的軽微な合併症であるため,その頻度など詳しい報告は少ない。当院では,HM-3を用い2年5か月間の1,426回のESWLでの検討において,10例の明らかな皮下血腫を認めた4)。また皮膚の変色(bruising)は,小児では6割で認めるとの報告もある。

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Q 持病があり,長期臥床の8歳男児の症例。痙攣発作の精査を行ったところ,腎盂内に長径9mm大の結石があり,水腎症を生じることが原因のようだ。補液などで水腎症は一時改善しているが,今後,ESWLを行ってよいか。

[1]概 説

 長期臥床の持病を有している8歳小児例で,腎盂内に長径9mm大の保存的加療のみでは自排石困難と思われる結石が見られた。これによる水腎症を生じるときがあり,治療法として体外衝撃波砕石術(ESWL)は適切かどうかを検討する。

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Q ESWLを施行後に側腹部痛がみられる症例。腹部CT検査を行ったところ,腎周囲に血腫を認めた。

[1]概 説

 近年,尿路結石に対する内視鏡治療が発達,普及しているが,いまもなお体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)は尿路結石のgold standardな治療法といえる。尿路結石症診療ガイドラインでも,ESWLは積極的治療対象となる腎結石(長径20mm以下の腎結石)の大部分に対して第一選択の治療法として推奨されている1)。筆者らの施設では2008年から,SIEMENS社製LITHOSKOP®(以前は,Dornier社製Lithostar Plus)を導入し,外来的にESWLを年間約90セッション(そのうち腎結石は約25セッション)施行している(図1)。これまで術後に入院を必要とするような腎被膜下血腫を経験したのは1例のみであった(図2)。平井ら2)のまとめた結果ではESWL後の腎被膜下血腫の頻度は0.078~0.6%であり,術後ルーチンにCTまたはMRIを撮影することによって32%の被膜下血腫が新たに発見される3)とされている。よって無症状のまま見逃されている症例は多数存在すると考えられる。

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Q 径2cmの腎結石に対して,ステントを留置のうえESWLを施行した症例。砕石は良好であったが,下部尿管にストーンストリートを形成した。ステント留置後3か月経過したのでステントを交換しようとしたが,ステントに結石が付着しているせいか,ステントが抜けない。

[1]概 説

 尿路結石に対する体外衝撃波結石砕石術(ESWL)後の砕石片によるストーンストリートの形成が原因で,疼痛・発熱・敗血症への進展を予防するために尿管ステントを留置することは,泌尿器科的に通常行われる処置である。しかし,長期の留置によりステントに結晶成分が付着し結石を形成したことによるステント抜去不能例の報告1,2)や,尿路感染症が背景に存在する場合,比較的短期間にステントへの結晶物質の付着と結石の形成を認めたとの報告もあり3),尿路感染,内分泌・代謝異常など結石作成を促進する基礎疾患を有する症例には注意が必要である。

Ⅳ 開腹手術

Ⅳ 開腹手術 ■副甲状腺摘除術(上皮小体摘除術)

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Q エコーにて2腺の腫大が確認されている続発性副甲状腺機能亢進症に対し,副甲状腺摘除術を開始した症例。腫大している2腺については同定することができ切除したが,残りの正常大の2腺はどうしたらよいか。

[1]概 説

 続発性副甲状腺機能亢進症における副甲状腺摘除術は大きく分類して,全摘除術(自家移植なし),亜全摘除術,全摘除術後自家移植術が存在する。その中で全摘除術は,再発を防ぐためという理由で報告が散見される。しかし,全摘除術後腎移植術を施行された際に,低カルシウム血症の管理が困難なことや無形成骨が避けられないことが懸念され,本術式を積極的には推奨できないという意見が多い1)

 したがって,現在広く用いられている術式は,亜全摘除術と全摘除術後自家移植ということになる。副甲状腺亜全摘除術は,副甲状腺の4腺ともに腫瘍血管をよく見極めて,最も小さい腺の一部を残して他の3腺を全摘するものである。この場合,残される腺組織は正常副甲状腺1個分に相当するものか,それ以下の大きさにとどめるようにする。全摘除術後自家移植の術式は,副甲状腺4腺すべてを全摘除し,摘除した副甲状腺組織の切片を作製して,これを自家移植する方法である。移植部位としては,前腕筋肉内,上腕筋肉内,腹直筋内,腹部脂肪組織内などが挙げられる。その中で,透析のための内シャントが存在しない前腕,腕橈骨筋内に行うのが通常である。そのうち,前腕筋肉内移植が最もよく行われているが,その理由は,再発時に局所麻酔下で容易に,低侵襲に移植副甲状腺組織を切除可能なこと,さらに左右の肘静脈で採血しPTH値を測定して比較することで,移植副甲状腺機能を把握できる,という利点にある。

 これら両術式において,どちらが優れているかの報告はない。術後の長期間の観察において,再発率が10年で20%前後であり,再発時の残存副甲状腺切除の容易さを考えると,術後も長期間透析を要する症例では全摘除術後前腕筋肉内自家移植のほうが手術的に切除しやすいという意見2)もあれば,1腺がかなり小さい亜全摘施行症例において,10年を超える経過でもカルシウム代謝に配慮した透析を続けていると亜全摘術例での再発に対する再手術例は経験がないとの報告もある3)。ただ亜全摘除術を施行された患者が再発した場合には,反回神経損傷の危険性が高い頸部再開創が不可欠である。われわれの施設では副甲状腺全摘除術後前腕筋肉内自家移植術が基本術式である。

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Q 大きな副甲状腺に対し副甲状腺摘除術を施行した症例。術後,患者が嗄声を訴えるようになった。経過観察しているが,いまだに改善しない。

[1]概 説

 副甲状腺摘除術後の嗄声は,片側の反回神経損傷による麻痺で起こる。手術合併症としては比較的稀であり,頻度は1%以下と報告されている1)。しかし,副甲状腺摘除術における重要なポイントは,腫瘍の確実な切除と反回神経麻痺を起さないことにあると考える。

 反回神経は迷走神経が胸腔内に入ってから出る枝で,右側は鎖骨下動脈を,左側は大動脈弓を下から後ろに回り,両側とも気管枝,食道枝を分枝しながら気管と食道の間を上行する(図1)。神経の走行には左右差があり,右側では気管から離れて走行し,甲状腺下縁では気管右側縁より約3mm外側のところにある。左側では気管食道溝を気管壁に接して走行している。反回神経の同定は,総頸動脈,下甲状腺動脈,気管外側で囲まれた三角の中で行うのが最も確実である(図2)。この三角部を覆う深頸リンパ節被膜を切開し結合織や脂肪を剝離すると,白い光沢のある太さ1~2mmの反回神経を確認できる。

Ⅳ 開腹手術 ■副腎摘除術

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Q 副腎摘除術を開始した褐色細胞腫と思われる副腎腫瘍の症例。副腎腫瘍より出血が続いており,血圧低下が始まった。

[1]概 説

 褐色細胞腫は主に副腎髄質および交感神経節から発生する。臨床的に褐色細胞腫は以下のような特徴を有するので,手術および周術期管理の難易度が高い。

 ①カテコールアミン分泌異常による循環動態の異常を有すること

 ②一般的に循環血液量の低下を伴うこと

 ③腫瘍自体が血管に富み,易出血性であること

 ④周囲との癒着が強固な症例が多いこと

 ①の血中・尿中カテコールアミン高値は,褐色細胞腫の診断根拠となる。①②についてみると,褐色細胞腫は周術期管理が重要であり,術前に交感神経アルファ受容体遮断薬,およびベータ受容体遮断薬などによる降圧と,補液などによる循環血液量の補正が行われる。これにより術中腫瘍ドレナージ静脈の血流遮断によるカテコールアミン量低下によるショックは回避される。一方,手術操作で腫瘍を圧迫することにより,カテコールアミンが血中に放出されるので,このための血圧上昇は常に生じる可能性があり,麻酔科医との連携が重要である。

 ③④についてみると,剝離操作において出血により良好な視野の確保が往々にして困難であること,および癒着による手術時間の延長や周囲臓器損傷の危険を常に伴うことから,手術に際して高度な技量が要求される。

 近年,褐色細胞腫に対する腹腔鏡手術が行われるようになってきている1)。しかし上記のとおり,褐色細胞腫の手術の成否は手術技量に依存するので,術者が得意とする手法を行うべきと考える。

Ⅳ 開腹手術 ■根治的腎摘除術

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Q 第11肋骨切除による腰部斜切開で,根治的腎摘除術を開始した症例。いつの間にか胸膜を損傷していることが明らかになった。

[1]概 説

 第12肋骨切除による腰部斜切開の場合には,肋骨裏面に胸膜が存在することは少ないが,第11肋骨切除の場合には,その裏面に胸膜が存在することが多いため,これを肋骨裏面から十分に剝離してから肋骨切除にかかることが肝心である。胸膜損傷は,損傷部から呼吸に合わせて上下する肺を直視できるので,診断は容易である。大きな胸膜損傷は稀であるため一期的に閉鎖可能であり,胸腔内ドレーンの留置は不要である1,2)

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Q 根治的腎摘除術を開始した下大静脈内腫瘍塞栓のある症例。腎動脈を結紮して,腫瘍塞栓上下の下大静脈,反対側腎静脈をクランプすると,クランプされた間の下大静脈が急速に膨らんできた。

[1]概 説

 腎細胞癌には,比較的容易に腎静脈内から下大静脈に進展するという特性がある。腎腫瘍とともに腫瘍塞栓を除去することにより,生存期間の延長が見込まれる1)。腫瘍塞栓のレベルは図1に示すように4段階に分類される2)。下大静脈内に腫瘍塞栓を認める腎細胞癌の手術では,静脈内の腫瘍塞栓を除去するために患側の腎動脈を結紮した後に腫瘍塞栓上(図2a~cのいずれか)および下(図2d)の下大静脈と対側の静脈(図2e)をクランプし,腫瘍塞栓の存在する領域の血流を遮断してから静脈壁を切開して,腫瘍塞栓を摘出する。その際に下大静脈周囲の剝離を十分に行い,流入する静脈を適切に処理しておかなかった場合に設問のような状況が起こり得る。本項では,レベル3以下の腫瘍塞栓における状況を想定して対処法につき述べる。

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Q 経腹的に,左側根治的腎摘除術を開始した症例。脾臓を損傷してしまい,出血が止まらない。

[1]概 説

 開腹左腎摘出術の際,膵脾の授動や下行結腸の授動は極めて有用な手術手技である。その際に視野を確保しようとして,脾臓に付着した大網や脾結腸間膜などを無理に牽引すると,脾臓を損傷する可能性がある。脾臓の被膜は薄いため,比較的容易に脾損傷が起こりやすい。損傷が起こると,容易に出血するばかりでなく,止血に難渋することも多い。そのために脾摘を余儀なくされる場合もある。脾損傷を起こさないように慎重な操作を行い,予防策を講じることが最も重要なのはいうまでもないが,損傷が起こってしまった場合には,その状況に応じた対策を講じることが重要である1)

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Q 腰部斜切開による根治的右腎摘除術を施行した症例。退院後,患者は外来にて右下腹部の違和感を訴えている。

[1]概 説

 腰部斜切開による経後腹膜式腎摘除(経腰腎摘)は,経腹膜式腎摘除と並び,開放腎手術の標準術式である1)。第11または第12肋骨上で切開を置くことが多いと思われるが,その際,腹横筋上に第11肋間神経または第12肋間神経(肋下神経)および血管が現れることが多い(図1)。これを避けるように切開を置くのが望ましいが,認識できず誤って切断してしまったり,針糸を掛けてしまったり,手術の邪魔となり,やむを得ず切断を余儀なくされることがある。これが損傷された場合,その支配領域である下腹部の感覚障害を引き起こす。また,腹壁筋の筋緊張低下を起こして創部が膨らみ,術後のボディイメージが悪くなる。

Ⅳ 開腹手術 ■腎尿管全摘除術

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Q 腎尿管全摘除術を開始した尿管下端の尿管癌の症例。壁内尿管にも腫瘍が詰まっているような状態で,尿管下端から壁内尿管まで十分な剝離が困難である。

[1]概 説

 尿管癌に対する標準治療は,患側の腎尿管全摘除術である。腎尿管全摘除術は,腎周囲のGerota筋膜内の脂肪組織とともに腎,尿管を切離し,尿管膀胱吻合部の膀胱壁をカフ状に切除する術式で,副腎の切除の有無は問わないと定義されている1)

 術中操作で最も重要な点は,尿管外に腫瘍組織を播種させないことと,不完全切除にならないよう確実に腫瘍を切除することである。尿管口を不完全に切除すると,再発した場合に手術の影響で膀胱粘膜が埋没して再発腫瘍の発見が遅れることがあるので,確実に尿管口も切除することが肝要である。

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Q 腎尿管全摘除術を開始した症例。尿管を膀胱外からカフ状に切除しようとして剝離していたところ,尿管膀胱移行部の付近でちぎれてしまい,さらに膀胱側の断端がどこにあるかわからなくなった。

[1]概 説

 腎尿管全摘除術の尿管摘除は,膀胱外操作と膀胱内操作とがある。この症例は膀胱外から尿管口を含めて尿管を摘除するところであったが,誤って尿管が離断してしまった。膀胱外からカフ状に切除する際に,癒着が強かったり,腎尿管を強く牽引しすぎると尿管がちぎれてしまうことがある。ていねいに剝離を進め,Waldeyer's sheathと尿管の間を剝離し,膀胱粘膜が見えるようになったら,尿管摘除後のhiatusを見失わないため膀胱に支持糸を掛け,尿管口周囲の膀胱粘膜を含めて摘除する。

 誤って断裂させた場合は支持糸が掛かっていない状態のことが多い。すなわち遠位の尿管断端がみつからない場合もある。そのような場合は膀胱を開けて,尿管口から断裂した尿管を探すほうがよい。

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Q 回腸導管の尿管下端付近に尿管腫瘍ができたため,片側の腎尿管全摘除術を開始した症例。尿管回腸吻合部を癒着した右総腸骨動脈から剝離していたところ,突然,総腸骨動脈から出血が始まった。

[1]概 説

 膀胱全摘除術および回腸導管造設術を行った後の尿管再発に対して片側の腎尿管全摘を行う場合,回腸導管と尿管の吻合部は癒着していると考えておくべきであり,剝離の際には導管の背部にある右総腸骨動脈に十分注意を払うべきである。

 総腸骨動脈を結紮すると53.8%で下肢切断が必要になると報告されている1)ため,損傷した血管は必ず修復されなければならない。

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Q 右腎尿管全摘術を尿管引き抜き法で施行した右腎盂腫瘍の症例。術後,正常であった血圧が急に80mmHgに下がった。

[1]概 説

 上部尿路腫瘍に対する治療として,腎・尿管および尿管口を一塊にして摘出する腎尿管全摘除術が標準的である。しかし,low gradeかつlow stageの腎盂腫瘍や上部尿管腫瘍の場合に,腎摘除と引き抜き法(stripping technique)による尿管摘除とに分割した腎尿管全摘除術が選択されることがある1)。手術時間が短縮でき,また手術創も腎摘のための腰部斜切開のみでよく,尿管摘除のための傍腹直筋切開や下腹部正中切開は不要であり,手術侵襲が軽減できるという利点がある。

 1953年にMcDonaldらによって報告され,これまでいくつかの変法が報告されている1)。当科で行っている方法は平川・小島が解説しているものと同一で2),簡単に記述すると,①砕石位にて経尿道的に患側尿管に5Frの硬めの尿管カテーテルを挿入し,尿管口周囲を膀胱周囲脂肪織が見えるまで切開する,②側臥位(腎摘位)として腎を摘出する,この際,病変部位より遠位の尿管を結紮切断する,③尿管断端と尿管カテーテルを3-0絹糸で1~2か所穿通結紮する,④尿道から尿管カテーテルを引き抜き,創から尿管が翻転していくのを確認し,さらに尿道から尿管が尿管口まで完全に摘出されているのを確認する,というものである。(図1)

Ⅳ 開腹手術 ■腎部分切除術

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Q 腎部分切除術を開始した腎腫瘍の症例。腫瘍は,術前にCTで確認したが見当たらない(埋没型腎腫瘍に対する部分切除方法)。

[1]概 説

 腎細胞癌に対する腎部分切除術は,これまで単腎や腎機能低下症例を中心に適応とされてきたが,腎摘除術と遜色のない部分切除術の長期成績が報告されたことで,対側腎機能に問題のない症例に対しても積極的に施行されるようになり,現在ではT1a腎腫瘍の標準治療となっている1)。さらに,近年の画像診断技術の進歩や検診の普及により偶然発見される小径腎癌症例が増加しており,さらには1~2cm前後の最小径腎腫瘍の発見も増加していることが推測され,実臨床では部分切除術の適応を検討する症例が増えている。

 腎部分切除術後の局所再発率は一般に3%前後とされる。この局所再発や予後に影響する因子は病理学的切除断端陽性であり,これまで10mmのマージンを付けるべきとされてきた。しかし近年では,マージン厚は予後に影響せず,病理学的断端陽性ですら術後の予後には関係ないとの報告もある2)。腎門部あるいは埋没型の深い腫瘍に対する腎部分切除術において,最深部で十分なマージンを取ることは難しい。しかし,このことが癌制御を損ねるものではないことも示している。埋没型の深い腫瘍の場合,正常腎のマージンはわずかで十分である3)とも考えられる。

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Q 動脈を遮断して腎部分切術を開始した症例。しかし,切除予定の一部しか,腎表面の色調が変化しない。

[1]概 説

 腎部分切除術の施行にあたっては,多くの場合,腎動脈を露出し,これをクランプして血流を遮断し,この間に部分切除を行うことで動脈性の出血を抑えることができる。腎動脈をクランプすると腎の色調が変化し,腎の張りが減弱することで血流の遮断を確認できるが,症例によっては,腎動脈をクランプしても色調の変化が一部にとどまることがある。

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Q 腎部分切除術を開始した症例。腎周囲の脂肪織を剝離していたところ,知らないうちに腫瘍周囲を被膜下に剝離してしまった。

[1]概 説

 腎部分切除術の施行にあたっては,Gerota筋膜に沿って腎周囲を剝離し,切除する腎腫瘍周囲の脂肪織を剝離して切除面の決定を行うが,この際に,腫瘍のすぐ近傍の脂肪織まで剝離してしまうことがある。通常,腫瘍表面の脂肪織は付けて腫瘍周囲の脂肪織を剝離するように心掛けるが,このケースでは,さらに腫瘍周囲の被膜下に剝離してしまったものである。

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Q マイクロターゼを用いて無阻血腎部分切除術を開始した症例。切除面からの出血が多くなりコントロールできなくなった。

[1]概 説

 超音波エコー,CTを用いた検診の普及で,腎腫瘍が小さいサイズで治療されることが多くなった。それに伴い腎機能温存の術式が積極的に選択され,中でもマイクロターゼを用いた無阻血腎部分切除術が広く行われるようになり1),予後と腎機能温存に大きく貢献している。最近は腹腔鏡下手術においても頻用されている2)。しかし,切除部位からの出血と腎盂との瘻孔形成が,本術式での合併症として懸念される。本項では本術式での出血コントロール困難症例での対処について概説する。

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Q 腎部分切除術を施行した症例。術後,動脈の血流を再開したところ出血が止まらない。

[1]概 説

 腎部分切除術において,腫瘍切除の際は腎動静脈をクランプし,術野を無血野とすることで安全に腫瘍の切除を行うことができる。その後,切除床に露出する血管あるいは出血点をていねいに縫合止血し,腎実質縫合を加えてデクランプする1)。デクランプ後に出血があるのは少なからず経験することではあるが,どのようにしてこれをコントロールするかを述べた論文はほとんど目にしない。われわれの経験では,デクランプ後の出血がコントロールできないという理由で腎摘除を行った症例は,この数年で1例もない。したがって,われわれがどのように対応しているかが,そのまま有用な方法と考えてよいのかもしれない。本項では,その方法を紹介すると同時に,どうすればデクランプ後の出血を防ぐことができるのかも併せて概説する。

Ⅳ 開腹手術 ■腎盂形成術

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Q 腎盂尿管移行部狭窄による水腎症をAnderson-Hynes法で開始した症例。腎盂尿管移行部を切除しすぎて,吻合できなくなってしまった。

 閉塞の原因となっている腎盂尿管移行部を切除し,再吻合を行うAnderson-Hynes法の治療効果は90%以上と高く,腎盂尿管移行部狭窄に対する腎盂形成術の外科治療における標準術式として推奨されている。手術に際しては,狭窄部位を完全に切除することが肝要であるが,吻合部再狭窄を予防し治療効果を長期に維持するためには,①尿管の血流温存,②吻合部からの尿漏をきたさないwater-tightな縫合,③尿管の捻れの予防,④吻合部への過緊張を予防すること,が重要である。特に吻合部に過緊張が加わると,縫合不全や血流障害を生じて尿漏や組織の萎縮による二次的狭窄の原因となるので,十分留意する必要がある。

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Q 腎盂形成術を施行した症例。術後に水腎症が改善しない。

[1]腎盂形成術の目的

 腎盂尿管移行部狭窄による腎盂形成術の目的は,閉塞を解除することにより腎盂内圧を低下させ,側腹部痛などの随伴症状を改善することと,腎機能の悪化を阻止することである。水腎症の改善はあくまで腎盂内圧の低下による副次的な効果であり,その改善の程度は腎盂・腎杯のコンプライアンスに依存している。手術に際しては,水腎症の改善が腎盂形成術の主な目的ではなく,特にコンプライアンスの低下した症例では,閉塞が解除されても水腎症は残存することを患者とともに十分理解しておく必要がある。

Ⅳ 開腹手術 ■腎移植術

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Q 腎移植術を開始した症例。腎動脈と内腸骨動脈を吻合したのち,吻合部からのリークが強く,圧迫しても止血できない。

[1]概 説

 移植腎静脈はレシピエント外腸骨静脈に端側吻合し,移植腎動脈は内腸骨動脈に端々吻合するのが一般的であるが1),内腸骨動脈硬化が著しい場合や小児では,外腸骨動脈や総腸骨動脈に端側吻合する(図1)2)。質問は腎動脈と内腸骨動脈吻合部からの出血時の対応であるが,外腸骨動脈も含めた,動脈吻合部からの出血に対する対応について記載する。

Ⅳ 開腹手術 ■尿管の手術

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Q 巨大尿管症の手術を開始した症例。腎盂および尿管内に多数の結石を認める。

[1]概 説

 巨大尿管症(megaureter)という名称は,Caulk1)が1923年に症例報告で用いたのが最初であり,膀胱尿管逆流症を合併しない非逆流性巨大尿管症(non-reflux megaureter)と膀胱尿管逆流を伴う逆流性巨大尿管症(reflux megaureter)に大別される。逆流性巨大尿管症では,小児期から腎盂腎炎を繰り返して比較的早期に発見されることも多いが,非逆流性巨大尿管症では,無症状で検診により偶然発見されることもある2)。また腎尿管結石を合併することも多く,疝痛発作を主訴に見つかる成人例もある。結石は広いスペースの中で転がるため,玉砂利状の丸い結石であることが多い。(図1,2)

 巨大尿管症の手術には,腎機能の保持や改善を目的として尿管縫縮術や逆流防止式膀胱尿管新吻合術などがあるが,本設問は合併する結石の対処方法である。通常,術前検査としてCTやDIPなどを行い,結石の有無や個数は確認されているはずであるが,多発している場合は取り残しがないように細心の注意を要する。

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Q 尿管腟瘻で,尿管膀胱吻合術を開始した症例。尿管の長さが膀胱まで届かない。

[1]概 説

 尿管腟瘻は,ほとんどの場合生殖器や直腸などの骨盤内臓器の手術後に起こることが多い。周囲との癒着のため,瘻孔部位まで尿管を剝離することが困難な場合がある。また,術前検査での尿管造影の情報よりさらに中枢側の尿管でなければ血行障害による吻合不全や狭窄を起こすと判断される場合もあり,十分な尿管長を確保できないことがある。

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Q 単純膀胱摘除術および尿路変向術を予定して手術を開始した症例。放射線性膀胱炎であったため,膀胱が骨盤壁に完全にへばりついていることが判明した。

[1]概 説

 放射線性膀胱炎は,骨盤臓器に対する放射線療法後などにみられる疾患である。血尿や頻尿,排尿時痛を認め,多くは難治性である。出血が高度である場合,高圧酸素療法を行うことにより軽快することがあるが,症状が消失しない場合には尿路変向術を検討することがあるものの,手術を行うことは稀である。

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Q 膀胱癌に対する膀胱全摘除術を開始した症例。骨盤リンパ節を郭清していたところ,突如,内腸骨領域から多量の出血が始まった。

[1]概 説

 筋層浸潤膀胱癌に対するリンパ節郭清術は標準的な手術であるが,その郭清範囲を拡大することにより予後の改善に寄与する可能性が示唆されている1,2)。しかし,血管周囲を剝離する操作であるため,時に大出血を引き起こす危険性がある。動脈からの出血は,出血が拍動に同期しているため,出血点を探しだすことは比較的容易であるが,静脈系,特に骨盤内の静脈からの出血は,たとえ細い無名静脈の損傷だとしても,一気に多量の出血を認めることもあるため,出血点を見極めることが困難な場合もある。

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Q 膀胱全摘除術を施行した症例。術後,骨盤底からの出血が多く,これを圧迫しつつ回腸導管を作成した。出血量は10,000mlを超え,出血傾向も出てきているようで,骨盤底の出血が止まらない。

[1]概 説

 膀胱・前立腺へは多くの血管が流入しているため,膀胱全摘除術は,ある程度の出血を伴う。癌が周囲に浸潤している場合は,その出血量はさらに増加する。また浸潤している場所によっては止血困難な場合もあるため,注意を要する。

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Q 膀胱全摘除術後の閉鎖神経麻痺の症例。手術の際,神経には注意しており,切離はしていない。CTでは,神経周囲の血腫を認める以外に所見はない。

[1]概 説

 周術期の神経障害は,幸いなことにその発症率は低く,発生するほとんどの症状は,積極的な治療を必要としない一過性の知覚鈍麻や,神経根症状,軽度の知覚や運動障害であることが多い。しかし稀には種々の機能障害を生じ,患者のQOLを低下させることがあることをよく認識しておく必要がある1)

 閉鎖神経は,第2~第4腰神経の腹側枝のanterior devisionからなる。大腰筋内において1つになって下行し,仙腸関節の高さで大腰筋の内側縁から現れる。内腸骨動脈,尿管の外側を走行し,閉鎖溝を通ってこの中で前・後枝に分かれる。前枝は股関節に関節枝を送った後,外閉鎖筋前方を経由して大腿に入り,短内転筋前方と恥骨筋,長内転筋の後方の間を走行する。走行中に長内転筋,短内転筋,薄筋,稀に恥骨筋に枝を与え,最終的に大腿内側中央部の皮膚を支配する。後枝は外閉鎖筋を貫き,短内転筋と大内転筋の間を通り,外閉鎖筋,大内転筋,時に短内転筋および膝関節支配の関節枝を出す2)

 閉鎖神経の障害により,鼠径部,大腿内側部の疼痛,知覚異常を生じることがある。運動障害として,股関節内転に障害を生じ,歩行障害を生じる可能性がある2)。前立腺癌に対する開放骨盤内リンパ節郭清においては1,681例のレビューで11例(0.7%)の閉鎖神経障害の報告がある3~6)。また前立腺癌に対する腹腔鏡下骨盤内リンパ節郭清においても434例のレビューで2例(0.5%)の報告がある7~11)

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Q 経腟的アプローチで膀胱腟瘻の修復術を開始した症例。瘻孔部が骨盤の奥深くにあるため,修復に難渋している。

[1]概 説

 膀胱腟瘻は,婦人科手術の後に発生することが大部分である。特に子宮癌手術での腟断端の処置にあたり膀胱壁を損傷したり,縫合糸が膀胱壁に掛かり術後縫合糸膿瘍などを生じた結果,発症することが多い。そのため膀胱側の損傷部位は,膀胱三角部を中心とした膀胱底部になる。瘻孔発生部位は手術時に手をつけた部位であり,修復にあたっては術野の癒着により難渋することが多いとされる。

 経腟的または経腹的アプローチの2通りの手術法があり,術者の好みとともに瘻孔発生部位,瘻孔の大きさなどから選択される。一般に経腟的アプローチのほうが経腹的アプローチより手術侵襲が少ないと考えられている。瘻孔の修復手術は発症直後(多くは婦人科手術後数日)にも可能であるが,バルーンカテーテル留置などにより自然閉鎖を期待して時間がかかった場合は,患部の浮腫や炎症が落ち着くまで3~6か月待って実施される。

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Q 婦人科より,「膀胱損傷して膀胱内のバルーンが見える」と修復依頼された症例。膀胱三角部上の後壁がほとんど欠損しており,そのまま縫合すると尿管を巻き込みそうだ。

[1]概 説

 婦人科の手術おいて,膀胱損傷は比較的起こりやすい他臓器損傷である。経腹的および経腟的な婦人科手術,特に子宮摘除術の際に起こり得る。浸潤性子宮癌や子宮内膜症により膀胱と子宮の癒着がみられる場合には,膀胱損傷のリスクが増すと思われる。本症例のように膀胱三角部上の後壁がほとんど欠損していることから判断すると,経腹的なアプローチの際に行った可能性は高い。

 膀胱そのものの損傷に関しては,適切な運針さえ行うことができれば比較的容易に修復される。そこで問題となるのが,運針により尿管を巻き込んでいないかということである。したがって,本症例のような比較的大きな三角部上(後壁)の損傷の修復については,尿管損傷することなく修復できるか否かがキーとなる。

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Q 膀胱癌と直腸癌の二重癌の患者で,皮膚瘻造設術を開始した症例。左尿管が短くて,右腹壁に届かない。左腹壁には人工肛門を造設する予定である。どのように尿路変向すればよいか。

[1]概 説

 一般に尿管の長さは30cm前後である。両側尿管皮膚瘻造設術を行う場合,シングルストーマにするため,対側尿管を後腹膜トンネルを通して左右どちらかに持ってくる必要があるが(一般には,将来,人工肛門をつくる可能性を考えて左尿管を右側にもってくることが多い),癌の浸潤や転移,以前の手術による癒着などで下部尿管剝離が困難な場合や,肥満患者などでは,対側尿管がストーマに届くだけの十分な長さを確保できないことがある。

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Q 膀胱全摘除術・回腸導管造設術を開始した浸潤性膀胱癌の症例。尿管断端が迅速病理診断で陽性と判断された。そのため尿管の切除を追加したところ,尿管の長さが不足してしまい,導管尿管吻合ができなくなってしまった。

[1]概 説

 回腸導管は,1950年にBrickerらによって考案された尿路変向術である。60年余り経た現在でも頻用され手術成績も安定しているため,現在もなお,尿路変向術の標準術式となっている。遊離された回腸(約15~20cm)を導管としてストーマを作成し,この導管に両側の尿管を吻合する。回腸の遊離と回腸・回腸吻合などの腸管処理を必要とするが,尿管が多少短くなった場合でも導管の長さを調整することにより対処できる利点がある。

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Q 膀胱全摘術後に回腸を利用した自排尿型代用膀胱作製を開始した症例。腸間膜の伸展が悪く,尿道への吻合ができない。

[1]概 説

 筋層浸潤性膀胱癌などにより膀胱を摘除した場合,尿路変向術が必要となる。自排尿型代用膀胱(新膀胱)は,回腸などを利用して蓄尿のためのパウチを作製し,パウチの一端を尿道に吻合することにより自排尿を可能とする尿路変向法である。ボディーイメージを損なわず生活の質が維持されるため,Studer法1)やHautmann法2)などによる新膀胱を選択する症例は近年増加傾向にある。しかし,作製したパウチが骨盤底に届かず尿道との吻合が困難な症例を稀に経験する。一般的には腸管粘膜と尿道粘膜の親和性は良好であるため,両者のある程度の整合が得られれば創傷治癒に問題はない。しかし,無理に吻合を行って過度の張力がかかると,血流障害や尿漏による線維化により吻合部狭窄が起こる可能性がある。

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Q 膀胱全摘除術・回腸導管造設術を施行した症例。術後10日目に,尿管内にカテーテルが残存してしまった。

[1]概 説

 回腸導管造設術では,われわれは回腸と尿管を6~8針結節吻合し,尿管ステントなどを留置し,バイクリルラピッド®などで固定することが多い。しかし,なんらかの原因でステントが抜けたり,尿管内に一部が残存することが稀にある。特に,術直後にこのような事態が生じた場合は緊急の対処が必要になることもあるが,吻合部からの尿漏などがなければ,吻合部狭窄の心配はあるものの,緊急の処置を要さない場合も多い。

Ⅳ 開腹手術 ■尿失禁・骨盤臓器脱の手術

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Q TVTスリング手術を開始した症例。術中のストレステストが陰性である。膀胱内に水を350ml注入したが,漏れる気配はない。

[1]概 説

 腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリング手術は,以前は筋膜スリングなどが行われていたが,現在はTVT手術とTOT手術が主流である。どちらも基本的には同様のコンセプトだが,原法はTVT手術であり,その手術の成否は,一にも二にもテープのテンションにかかわっている。これを最適に調節するためにさまざまな方法があるが,最も一般的な方法として,術中のストレステストがあり,咳テストが一般的である。また術者が下腹部を瞬間的に強く圧して代用することも一部で行われる。しかし,ストレステストは必ずしもうまくいくとは限らず,陰性であることもしばしばであり,TVT研究会の報告では66/185名(36%)で術中の咳テスト陰性であったとしている1)

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Q 腹圧性尿失禁に対してTVT手術を開始した症例。テープのカバーを引き抜く際に,尿道が強く挙上されてしまった。テープは固定されてしまい,ゆるめることができない。

[1]概 説

 TVT手術は,理論的にスリングテープが常時尿道を圧迫していてはならない。このため,手術ではストレステストなどを行って,テープのテンションを調節してテープカバーを外す。このとき原法では,テープと尿道の間にメッツェンバウムなどを入れ,これを下方に押し下げたままテープカバーを引き抜く。カバーを外した後に,テープと尿道間には隙間はないか,うっすらとある程度で,メッツェンバウムが抵抗なく挿入可能な程度がベストである1)

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Q 婦人科より,「骨盤臓器脱に対してTVM手術中に膀胱損傷を起こした」と修復依頼された症例。損傷部縫合経路は腟側と開腹のどちらがよいかなど,修復方法に迷っている。

[1]概 説

 近年,骨盤臓器脱の低侵襲手術として,ポリプロピレンを使用するtension-free vaginal mesh(TVM)手術が本邦でも普及しつつある。TVM手術は前腟壁剝離に関して,恥骨頸部筋膜を腟壁側に残して行うことが多い。すなわち,恥骨頸部筋膜を膀胱側に残す従来の方法と比べて,膀胱に近い層で剝離を行う。したがって,従来法と比べてもその頻度はやや高くなる可能性がある。TVM手術における膀胱損傷は1~2%と報告されており1),他臓器損傷の中では最も多くみられ,骨盤臓器脱に対するTVM手術は,今後ますます増加することに伴い,このような膀胱損傷は増加することが予想される。したがって,泌尿器科医はこのような対策に習熟する必要がある。基本的にTVM手術の際の膀胱損傷の修復に関しては経腟的操作により行うので,経腟的な操作に習熟することが重要である。

 通常,膀胱損傷は剝離または穿刺のときに起こることが多い。剝離の際に起こる膀胱損傷に関しては,尿流出を認めて気がつくことが多い。穿刺の場合は主に前壁の第一穿刺の際に生じる。血尿により気がつくことが多いが,ほとんど血尿がなく,膀胱鏡のときに気がつくこともある。したがって,TVM手術の際は血尿がなくても膀胱鏡で膀胱内を観察することが望ましい。

Ⅳ 開腹手術 ■被膜下前立腺摘除術

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Q 恥骨上式被膜下前立腺摘除術を開始した症例。腺腫摘除後に腺床からの出血が止まらない。

[1]概 説

 恥骨上式被膜下前立腺摘除術は,比較的手技が簡単で短時間に行うことが可能であり,前立腺肥大症に対して古くから行われてきた術式である。一方,術野が非常に深く前立腺床を直視下に観察することは困難で,止血が不十分になるという欠点がある。

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Q 被膜下前立腺摘除術を開始した容量が200ml以上の巨大な前立腺肥大症の症例。出血が徐々に多くなり,輸血のことが気になってきた。

[1]概 説

 大きな前立腺肥大症に対する内視鏡治療として,ホルミウムヤグレーザー前立腺核出術(HoLEP:holmium laser enucleation of the prostate)でも十分な治療効果が上げにくいのが現状である。また,前立腺肥大症に対するグリーンライトレーザー手術(PVP)が注目されている。しかし,巨大な前立腺肥大症では手術に難渋する場合が多く,開腹による前立腺被膜下摘除術がヨーロッパやアメリカでも行われている1~6)

Ⅳ 開腹手術 ■根治的前立腺摘除術

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Q 恥骨後式で根治的前立腺摘除術を予定している症例。30度の硬性鏡下に,注意して尖部処理を行ってきたが,なかなか断端陽性率を下げることができない。

[1]概 説

 断端陽性〔ew(+),『新・取扱い規約』1)では切除断端陽性:rm(+)と表記〕は,ホスト側の因子として生物学的にpT2の場合と,すでにpT3~4の場合とに分けて考える必要がある。前立腺には真の被膜が存在しないが,密な平滑筋線維により囲まれており,前立腺外への癌の浸潤を評価する有用なメルクマールとなっている。本項では便宜上これを“被膜”と記載する(『新・取扱い規約』1))。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。背側静脈群を束ねて結紮したが,離断中にその結紮糸を切断してしまった。

[1]概 説

 背側静脈群(dorsal vein complex:DVC)を離断中に遠位側のバンチング結紮糸が外れてしまい,大量に出血している状態である。時間に比例して出血量が増加してくる状態で,電気凝固でのピンポイント止血は不可能である。解剖学的にも静脈は複雑なネットワークを形成しており,縫合結紮により確実に止血しなければならない1)

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。背側静脈群を束ねて結紮したが,離断中に結紮した部位より背側から静脈性の出血が始まった。

[1]概 説

 恥骨後式前立腺摘除術の際,背側静脈群を切断している最中に,結紮糸が残っているにもかかわらず背側静脈群から出血することがある。その多くは,陰茎背静脈の浅枝や側方枝が過度の牽引などにより損傷し,出血することに起因する。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺を骨盤底筋膜から剝離しているときに前立腺表面の静脈を損傷してしまい,以後の操作が困難になってしまった。

[1]概 説

 前立腺周辺では静脈は動脈とは伴行せずに,発達して表層で静脈叢を形成する。第1層は浅中心静脈で骨盤筋膜の外に出ている。第2層は前被膜静脈と前外側被膜静脈で,これらは合流し,左右の前立腺静脈叢を形成し,筋膜内側にある。やがて,深陰茎背静脈,内陰部静脈と合流する。第3層は前立腺被膜下からの血液を受ける小静脈である(図1)。

 筆者らは主に逆行性前立腺全摘を行っており,以下の内容はそれに順ずる。

 ツッペルや吸引管などを用いて前立腺周囲の脂肪組織を取り除き,左右の内骨盤筋膜を露出し骨盤筋膜腱弓に沿って,電気メスなどを用いて筋膜を束ねやすいようにスカートのように切開し,前立腺被膜から肛門挙筋を剝離する。この際,前立腺周囲の静脈を損傷して出血をきたし,以後の操作に支障をきたすことがしばしばある。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺を摘除した後,神経血管束遠位端からの出血が止まらない。

[1]概 説

 いわゆる神経血管束を温存するということは,前立腺被膜と肛門挙筋筋膜の間の膜様組織(periprostatic fascia,またはlateral pelvic fascia:LPF)に広範にネットワーク状に分布している陰茎海綿体神経をその付着組織とともに温存することである1,2)。LPFには陰茎海綿体神経と被膜動脈や被膜静脈叢やその外側を走行する副陰部動脈などが含まれていることから,神経血管束と呼ばれている。しかし,以前考えられていた前立腺の背外側に位置する,いわゆる神経血管束よりも広範なLPFを温存するほうが,その後の機能回復が良好であるとの報告も多くみられる。この神経は前立腺尖部ではその被膜動脈や被膜静脈とともに,背外側の尿道4時,8時の部分に収束し,一部尿道に分布する神経枝を出しながら膜様部尿道を貫通し,陰茎に分布する。

 この陰茎海綿体神経を温存するためには,前立腺腹側で,なるべく内側(正中側)で前立腺被膜を露出させ,神経が付着していると考えられるLPFを温存することが,神経温存の理にかなった術式と考えられる。LPFから前立腺に入る小血管がみられるが,電気凝固などの熱凝固装置をなるべく用いずに,小クリップ(ヘモロックMLなど)を用いて,ていねいに止血処理を進めながら,LPFを広範に温存するようにすることにより,目的の機能温存が可能になると考えられる(図1)。このLPF内を走行している被膜動脈や被膜静脈叢やその外側を走行する副陰部動脈などを損傷し,止血に難渋することがある。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺を摘除した後,恥骨の裏からの静脈性出血が止まらない。

[1]概 説

 根治的前立腺摘除術に際し,時に予期せぬ出血を認めることもあるため,術前に自己血の採取や輸血用の血液を確保できる準備をしておくことは重要である。

 前立腺摘除後,恥骨の裏側,切除したdorsal vein complex(DVC)周囲や恥骨周囲から静脈性出血を認めることがある。通常は,DVC処理時などに,適切に止血操作を行っていれば問題になることは少ないが,時に予期せぬ出血を認めることもある。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。逆行性で前立腺を摘出したが,前立腺尖部を離断して起こしてくる際に,どうも直腸を損傷したようだ。

[1]概 説

 限局性前立腺癌に対する手術療法として,恥骨後式前立腺全摘除術が広く行われてきている。手術手技の進歩により合併症が少なくなってきているものの,なくなることはないと思われる。重大な合併症の1つとして直腸損傷が挙げられるが,その頻度は1~1.5%1~3)とされており,比較的稀ではあるものの致命的な転帰をきたす場合がある。

 特に前立腺尖部を離断して起こしてくる際に,前立腺・直腸間に豊富な脂肪があるとイメージしたまま盲目的な鉗子や指の操作で損傷することが多いように思われる。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺を摘除後,膀胱尿道吻合の際に尿道が引っ込んでしまい,どうしてもうまく縫合できない。

[1]概 説

 根治的前立腺全摘術において尿道を十分に長く残したつもりでも,離断した後にみると尿道が引っ込んでしまうのは珍しいことではない。その予防のために,尿道前面を切除した時点で尿道縫合用の糸を掛けるという工夫が散見される1)。本項では尿道を離断し引っ込んだ時点での対処方法につき,筆者らの方法を述べる。

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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺全摘除後,膀胱が尾側へほとんど動かず,尿道への吻合ができない。

[1]概 説

 根治的前立腺摘除術において,前立腺摘除後,膀胱尿道吻合時に膀胱が尾側へほとんど動かず,尿道まで届かないというケースは,さほど多く遭遇するものではない。通常,膀胱壁は伸縮性に富み,膀胱頸部を広めに切除した場合でも縫縮後の内尿道口は尿道断端まで容易に伸びる。よって,内尿道口が尿道断端まで届かないというのは比較的稀なケースであり,それゆえその対処には難渋するが,誘因としては以下のことが考えられる。

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Q 根治的前立腺摘除術を施行した症例。術後から尿が出ず,利尿薬を投与したが無効であった。

[1]概 説

 根治的前立腺摘除術において,術後から尿が出ず,利尿薬を投与したが無効という場合,いくつかのシナリオが考えられる。具体的には,尿管損傷,尿管口の損傷や浮腫,膀胱尿道吻合不全,留置位置が不適切なドレーン,などがある。

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Q 根治的前立腺摘除後1年経過した症例。術後,吻合部狭窄があり,2回直視下内尿道切開を施行した。今回も排尿困難となり,経皮的内尿道切開を施行しカテーテルを留置して終了したが,術後数日で便に尿が混じるようになってきた。どのように対処すればよいか。

[1]概 説

 尿道直腸瘻は根治的前立腺摘除術後に起こる稀な合併症であるが,起こってしまった場合,重症である。

Ⅳ 開腹手術 ■陰茎の手術

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Q 包茎手術を開始した症例。包皮を切りすぎてしまった。勃起していない状態で,ぎりぎりの状態だ。

[1]概 説

 小児の包茎は自然治癒することも多い。しかし,亀頭包皮炎の症例や,排尿時バルーニング(尿が亀頭と包皮の間に一度溜まってから排出される)を認める症例,膀胱尿管逆流症があるために包皮炎から腎盂腎炎を起こす可能性がある症例は,治療の対象となることが多い。治療は,まず保存的治療(包皮翻転指導,軟膏塗布,両者の併用)が行われるが,保存的治療無効例や,包皮輪の瘢痕化症例,嵌頓包茎,大人の真性包茎などは手術の適応となることが多い1)

 包茎の手術としては,大きく分けて背面切開術,環状切開術が挙げられる。

 背面切開術は包皮を切除せず,縦に切って横に縫うだけの比較的簡単な手術である。内板を冠状溝近くまで切ることで亀頭を容易に露出することができ,手術も短時間で終わらせることができるものの,亀頭の両側面に余剰包皮が生じてしまうことより,術後の見栄えがあまりよくないというデメリットがあり,成人に対して行うことは稀である。また術後にステロイド軟膏を塗布しないと,包皮と亀頭が癒着しやすい。幼児期に手術を行えば,成長により余剰包皮が目立たなくなることもあるため,ハイリスクの患児に対して背面切開術を施行することもある。

 一方,環状切開術は広く行われている手術であり,包皮を脱転後に余剰包皮を環状に切除することで,亀頭を完全に露出する。術前のデザインが的確であれば,術後の見栄えもよく,大人に対しても子供に対しても一般的に行われている治療である。

 以下,包茎手術中に包皮を切りすぎてしまった場合の対処法について論述する。

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Q 包茎手術を施行した症例。術後,包皮が狭窄・癒着してしまった。

[1]概 説

 小児の包茎に対する治療は,いまだ明確なガイドラインはないものの,包皮翻転療法,ステロイド軟膏塗布,さらには包皮翻転,ステロイド軟膏併用療法が主流となりつつある1)。しかしながら,これらの保存的治療無効例や,包皮輪の瘢痕化症例,嵌頓包茎などは手術の適応となることが多い。

 また成人においては,真性包茎で排尿障害を認める際は,手術が積極的に行われることが多い。本項では,包茎の手術後に包皮が狭窄あるいは癒着してしまった場合の対処方法について論述する。包茎の手術としては,大きく分けて背面切開術,環状切開術が挙げられる。

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Q 陰茎全摘除術を施行した症例。出血のコントロールが困難になり,オリエンテーションがつかなくなってしまった。

[1]概 説

 陰茎全摘除術は,陰茎癌に対する根治的な治療法である。砕石位で会陰部を切開し,尿道,陰茎海綿体を切断して,尿道瘻を作成する手術である。化学療法が無効であることが多いため,手術によって根治的に摘除できたか否かは,患者の予後を大きく左右する1)。経会陰的アプローチでの手術は,泌尿器科医でも日常多く行われるとは言いがたいうえに,会陰の深い部位での出血は止血が困難となることもある。止血を中途半端にして閉創してしまうと術後血腫ができ,創離開につながったり,ドレーンがいつまでも抜けないなどの事態が生ずる。会陰は汗をかきやすく,感染しやすい場所であるので,患者のQOLは著しく低下し,入院期間も延長してしまう。本項では,陰茎全摘除術中に出血のコントロールが困難になった際の対処方法について論述する。

Ⅳ 開腹手術 ■尿道の手術

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Q 後部尿道断裂に対して端々吻合を予定して手術を開始した症例。会陰切開で球部尿道は十分剝離できたが,断裂部の瘢痕組織が厚く,前立腺尖部を十分露出できず,吻合できそうにない。

[1]概 説

 外傷による後部尿道断裂は,たいていは骨盤骨折に伴う。成人では膜様部尿道付近が多いが,小児では前立腺が発達していないので,前立腺部(後部)尿道で断裂することもある。急性期は恥骨上膀胱瘻で尿路は管理される。骨盤内の血腫や尿囊腫により断裂部位の頭側の膀胱前立腺は骨盤内で挙上されるが,血腫などが吸収されるに伴い,また元の位置付近に戻ってくる。したがって,後部尿道形成術(端々吻合術)は,血腫の吸収や炎症の消退する,少なくとも3か月以降に行われる。

 手術は簡単にいえば,球部尿道と前立腺尖部の健常部とを端々吻合する。しかし,断裂部には血腫の吸収に伴う強固な瘢痕組織が介在し,断裂部の距離もさまざまであり,これが断裂部を端々吻合する際の大きな妨げとなる。前立腺の尖部も直腸方向や正中からずれていることも多く(偏位),これも会陰から前立腺尖部への到達を困難にする原因となる。また,骨折した恥骨片が,ちょうど吻合部付近を圧排していることも多く,吻合の妨げとなることが多い。

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Q 尿道腟瘻の修復術を開始した症例。今回が3回目の修復術である。尿道粘膜は縫合したが,その縫合線を覆う組織がない。

[1]概 説

 尿道腟瘻は稀な泌尿器疾患である。発展途上国では出産に伴うことも比較的多いようだが,本邦ではまずない。原因としては婦人科の手術や処置に伴う医原性のものが多い。特に感染した尿道憩室を切開・排膿した場合に起こる可能性があるので,あらかじめそのリスクを知らせておく必要がある。また筆者は腟壁の静脈瘤を切除後の尿道腟瘻を修復した経験がある。

Ⅳ 開腹手術 ■陰囊内臓器の手術

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Q 精巣外傷の症例。出血はかなりの程度だったようだが,今は止まっている。保存的に様子をみてよいか。

[1]概 説

 精巣外傷のうち最も多いのは挫傷である。受傷原因としては,喧嘩,スポーツ外傷,交通事故,落下事故などがある。

 精索血管(精巣動脈,蔓状静脈叢など),陰囊に分布する血管が損傷することにより陰囊内出血をきたす。陰囊皮膚は薄く伸縮性があるため血腫,浮腫により大きく腫脹する。また出血が下腹部,陰茎,肛門にまで及んで変色を伴う場合もある。鈍的な精巣外傷は通常,局所の激しい疼痛,吐き気,嘔吐,下腹部痛などを伴いショック症状をきたす場合もある。

 大きな外力が働いたり,恥骨,大腿骨に強く押しつけられた場合に,精巣白膜が損傷して,精巣実質が脱出した精巣破裂に至る。精巣の鈍的外傷の約48%に破裂が起こるとされ1),破裂後3日以内が手術のゴールデンタイムとする報告は多い。受傷後3日以内に手術を行うと精巣温存率は90%であるが,3日を過ぎると45%に激減するとの報告がある2)

 精巣破裂の診断に関して,超音波検査は簡便で損傷の概要をつかむには適している。精巣の輪郭の不整像,白膜の連続性の消失,実質内の低エコー領域の存在などを観察する。超音波検査の精巣破裂に対する診断の感度は64%,特異度は75%とする報告がある3)。MRI検査はT2強調画像もしくは造影T1強調画像が白膜の描出に優れている。MRI検査は超音波検査よりも高い診断率で再現性も高いが,検査時間が長く診断までの時間を要する。

 血腫が存在すると画像的診断が難しくなり,精巣破裂は80%で血腫を伴うことから4),血腫の存在のみでも早期の手術が好ましいとの意見もある5)。血腫の大きさにより手術適応を決めるという意見もあるが,エビデンスはまだない。

 血腫を伴う精巣破裂を保存的治療で経過観察することにより,感染,壊死,精巣の萎縮,精子形成能や内分泌機能の低下などの危険性が指摘されている。保存的治療により経過観察が可能であった報告例も散見されるが,いずれもretrospectiveなものにすぎず,その適応については決まったものはない。

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Q 高位精巣摘除術を開始した症例。精索を切断した後,結紮糸が緩んでしまい,出血がみられる。

[1]概 説

 高位精巣摘除術は,悪性腫瘍の血行性転移を防ぐ目的で血管処理を先行させる手術である。血管・精管処理は注意深く行われるべきであり,通常それぞれ別々にペアンまたはモスキート鉗子で把持し,2重に結紮,切断する。

 術中に出血すれば止血をしなければならない。出血は手術の合併症であるが,止血を怠ることにより生じる病態は合併症ではないからである。

 結紮糸が緩んでしまうのは,結紮そのものが不十分であった場合,結紮部位が切除断端に近く内精筋膜表面が平滑であるために糸が逸脱してしまった場合,などが考えられる。

 精索が後腹膜腔に入ってしまった場合,引き出すことは非常に難しい。その際には内鼠径輪の切開が必要になる。

 なによりもまず精索の結紮糸の逸脱が起こらないように,基本に沿った手術をすることが最も重要である。

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Q 精巣上体摘除術を開始した症例。局所麻酔で手術を行ったため,術中に患者が疼痛を訴え始めた。

[1]概 説

 精巣上体摘除術は絶対的適応を有する手術ではないが,炎症の持続や炎症後の疼痛改善,炎症の再発予防を目的に施行される場合がある。局所麻酔で手術を行う場合,疼痛は局所にとどまらず,下腹部や腰背部に放散する場合もあり,嘔気・嘔吐をきたすなど,コントロールに難渋する場合がある。手術に際しては,最初に十分に対応を準備しておく必要がある。

Ⅴ 小児の手術

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Q 生下時より左の精巣が陰囊内に触知できず,紹介されてきた症例。MRI検査を行っても,左精巣は同定できない。何か月まで,どのように経過観察すればよいか。それでも同定できないときには,どのような手術を行うべきか。あるいは,すぐに小児泌尿器専門医に紹介すべきか。

[1]概 説

 生下時よりの非触知精巣で,MRIでも精巣が同定できない。精巣の自然下降をいつまで待つべきか,手術の適応はどのようにしたらよいか,また小児泌尿器科専門医に紹介すべきかどうかを検討する。

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Q 夜間救急で来院した精巣捻転症が疑われる症例。診察したときには,元に戻っていたと思われる。精巣固定術を強く勧めたほうがよいか。

[1]概 説

 精巣捻転症は,理論的にどの年代でも起こり得る疾患であると考えられるが,臨床的にはほとんどが思春期と新生児期である。特に思春期に発生する精巣捻転症は鞘膜内捻転で,精巣と腹膜鞘状突起の構造的付着異常に起因した,精巣と陰囊の異常固定性に基づくといわれ,実際にこのような精巣は陰囊内鞘状突起内でぶら下がるように水平に位置している(bell clapper deformity)。解剖体における研究では男性の約12%にも認められ,しかも,それはしばしば両側性であったと報告されている1)。一方,新生児期に発症する精巣捻転症は,鞘膜外捻転で全体の約10%とされ,その70%はすでに出生前に起こっていて出生時に発見されるといわれている。しかも,それらの精巣は明らかに正常の精巣に生じているといわれ2),発生原因は前者とは異なる。質問の症例は思春期に起こった鞘膜内捻転と考えられるため,以下その対応を論じてみたい。

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Q 鼠径部切開で精巣固定術を開始した症例。鼠径管内の比較的高位に精巣を認めた。陰囊内へ下降させようとしたところ,距離が足りず下降しない。

[1]概 説

 鼠径部に触知する停留精巣に対しては,オーソドックスな鼠径部切開法により精巣鞘膜に包まれた精巣を同定し,適切な処置を行うことにより,精巣を陰囊内に収納することができるはずである1)。しかし,精巣を陰囊内に余裕をもって降ろせない症例に遭遇することもある。手術書に記載されている適切な方法・手順に則って手術が行われていない場合もあろうし,定型的な鼠径部アプローチでは解剖学的要因で下降困難な場合もある。本項では,鼠径部切開を行って鼠径管を開放したところ,鼠径管内の内鼠径輪付近で鞘膜に包まれた精巣を同定し,努力したが陰囊に届かないという場面にどう対応するかについて記述するとともに,手術開始前における非定型的な方法への術式の変更,腹腔鏡手術への方針変更についても解説する。