特集 こんなときどうする!?―泌尿器科手術のトラブル対処法
Ⅳ 開腹手術
■根治的前立腺摘除術
100 神経血管束の遠位端からの出血が止まらない
西山 勉
1
Tsutomu Nishiyama
1
1新潟大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器病態学分野(泌尿器科)
pp.270-272
発行日 2011年4月5日
Published Date 2011/4/5
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413102348
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Q 根治的前立腺摘除術を開始した症例。前立腺を摘除した後,神経血管束遠位端からの出血が止まらない。
[1]概 説
いわゆる神経血管束を温存するということは,前立腺被膜と肛門挙筋筋膜の間の膜様組織(periprostatic fascia,またはlateral pelvic fascia:LPF)に広範にネットワーク状に分布している陰茎海綿体神経をその付着組織とともに温存することである1,2)。LPFには陰茎海綿体神経と被膜動脈や被膜静脈叢やその外側を走行する副陰部動脈などが含まれていることから,神経血管束と呼ばれている。しかし,以前考えられていた前立腺の背外側に位置する,いわゆる神経血管束よりも広範なLPFを温存するほうが,その後の機能回復が良好であるとの報告も多くみられる。この神経は前立腺尖部ではその被膜動脈や被膜静脈とともに,背外側の尿道4時,8時の部分に収束し,一部尿道に分布する神経枝を出しながら膜様部尿道を貫通し,陰茎に分布する。
この陰茎海綿体神経を温存するためには,前立腺腹側で,なるべく内側(正中側)で前立腺被膜を露出させ,神経が付着していると考えられるLPFを温存することが,神経温存の理にかなった術式と考えられる。LPFから前立腺に入る小血管がみられるが,電気凝固などの熱凝固装置をなるべく用いずに,小クリップ(ヘモロックMLなど)を用いて,ていねいに止血処理を進めながら,LPFを広範に温存するようにすることにより,目的の機能温存が可能になると考えられる(図1)。このLPF内を走行している被膜動脈や被膜静脈叢やその外側を走行する副陰部動脈などを損傷し,止血に難渋することがある。
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