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1 薬物投与戦略を考えるための基本
薬物投与を行う際には,その目的,期待する効果,留意すべき副作用などを事前に把握し,またどの時点で中止すべきかなどの方針もある程度決めたうえで,開始するべきであろう。薬には多かれ少なかれ副作用がある。そのため,効果と副作用のリスクベネフィットを考えて投与の可否を決定せねばならない。ただ漫然と治療を続けることは好ましくなく,また効果がないからといって,いたずらに併用薬の数を増やしていくことも避けねばならない。
1 はじめに
個体発生(ontogeny)とは,精子と卵子が接合した接合体から成体に達するまでの個体の発達を意味し,薬物動態・薬力学に影響を与える。本章では,早産児から思春期の子どもたちを対象とする小児の薬物治療において,5つの局面(薬物の吸収,分布,代謝,排泄,薬力学)における個体発生学的影響を考慮すべき点について説明し,最後に遺伝的要因と薬剤反応との関連に関するファーマコゲノミクスについて小児医療における重要性を述べる。
抗菌化学療法における薬物動態学/薬力学(pharmacokinetics/pharmacodynamics:PK/PD)とは,抗菌薬の曝露量と効果(抗菌作用)の関係性を表し,有効性と安全性の観点から最適な用法用量を設定し,効果的かつ安全に使用するための考え方である。小児においてPKは,発達による体液組成や臓器機能の変化,敗血症の重症度,腎機能,肝機能など,さまざまな因子の影響を受ける。また目標とするPK/PDパラメータの指標は,抗菌薬の種類,菌種,感染巣,重症度によっても異なり,症例ごとに適切な投与設計が望まれている。有効性のみならず,耐性菌抑制のためにも,PK/PD理論に基づいた適切な投与設計が求められている。また成人と同様のPK/PDパラメータが小児に外挿可能かどうかは不明である場合もあり,今後の研究が期待されている。
1 TDMの基本
薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)は,薬物治療に伴い変化するさまざまな因子を指標として,患者に個別化した薬物投与を行うことである。一般に,治療効果を最大限に高めつつ,副作用の発現を最小限とするために,薬物血中濃度が指標として用いられる。TDMは,治療効果や副作用と薬物血中濃度の間に関連性があり,治療濃度域が狭い薬物や治療濃度域と副作用濃度域が接近し,投与量・投与間隔の調整が難しい薬物が対象となる。代表的なTDM対象薬剤を表1に示す。TDMの実施には,初期投与設計・採血・投与設計の見直しのプロセスがあるが,小児・成人にかかわらず,薬物の投与量や投与間隔を決定するために必要な薬物動態パラメータを理解し,生理学的変化や病態の変化が各パラメータに及ぼす影響を考えることが重要である。代表的な薬物動態パラメータであるクリアランス(clearance)は腎臓や肝臓における薬物の排泄能を示し,1日投与量を規定する。また,分布容積(volume of distribution:Vd)は1回の投与によって薬物血中濃度が上昇する振れ幅を規定している。小児では,薬物の初期投与設計における投与量・投与間隔は成人と異なる場合があり,発達に伴うクリアランスやVdの変化に大きく依存する。小児患者の年齢区分について,医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use:ICH)の「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス:E11」では出生後日数で区分され,新生児(0~28日未満),乳幼児(28日以降~2歳未満),児童(2~11歳),青少年(12~16または18歳)に分類している1)。さらに新生児は,一般に,在胎数に応じて正期産新生児(在胎37~42週未満)と早産児(在胎37週未満)に分類される。各年齢区分の薬物動態は類似した特徴を示すと考えられるが,発達における体内動態変化の基準が明確化されているわけではない点に注意する。
医療技術の進歩による疾患をもつ女性の妊娠機会の増加,妊娠年齢の高齢化など,さまざまな要因で,妊娠・授乳中の薬物治療の必要性は高まっている。しかし,母体への薬剤投与で,胎盤や母乳を介して胎児や乳児が本来は不要な薬物に曝露されることを懸念し,疾患治療自体が躊躇される場面は多い。しかし,慢性疾患をもつ母親では,治療の中止による病状悪化は,妊娠継続自体が困難になるなど,胎児にとっても大きなデメリットになる可能性がある。
薬物相互作用は,薬剤を併用した場合に生じる薬の作用の増減,副作用の出現などをいう。発現機序によって大きく薬動態学的相互作用(吸収,分布,代謝,排泄)と薬力学的相互作用の2つに分けられるが,そのうち代謝の過程での変化や薬力学的相互作用によるものの頻度が高い。
内服薬には空腹時,食前,食中(食事と一緒),食後,食間(食後2時間後注1),就寝前(眠前)などのさまざまな用法が存在するが,多くの内服薬では食後内服が採用されている。これは食後内服がもっとも飲み忘れにくいという人間の生活パターンに基づいた理由からであり,必ずしも食後内服が薬の効果をもっとも発揮させるからではない。各内服薬の用法については医療品医薬品添付文書(添付文書)に必ず記載されている。また,より詳細な情報を入手したい場合には医薬品インタビューフォーム(IF)を参照するとよい。
薬剤代謝の主座は肝臓であり排泄は腎臓である。それらは,年齢,遺伝,病態,併用薬剤などさまざまな要因から影響を受けている。「Children are not miniature adults(小児は成人の縮小図ではない)」といわれるように,子ども,とくに新生児や乳児期と成人期では同一薬剤であっても代謝経路が異なるものもあり,画一的に体重で小児の投与量が成人量に比例すると考えることは危険である。さらに代謝や排泄異常を認めた際は,より注意が必要であり,その原因と使用薬剤の特性にあった投与方法や投与量の調節が必要となる。
新生児の薬物療法は,ヒトの一生を決める重要性をもちながら,対象とした治療薬の大多数が適応外で使用されており,安全性・有効性に関する十分なデータが不足している。新生児は,成人と比較し大きく異なり,胎外生活に適応するために薬物の吸収・分布・代謝・排泄等の体内動態が生後経時的に変化する。また,在胎22週以上の早産児も含まれ,治療薬を安全かつ効果的に使用するためには,これらの相違やその発達的変化を十分に考慮することが重要である。本稿では,これら新生児の薬物の吸収・分布・代謝・排泄における発達生理的学的特徴について説明し,診療上において注意が必要な薬剤例を示す1~5)。
小児の薬物誤飲は,臨床現場においてたびたび遭遇する傷害の一つである。日本中毒情報センターによると,2021年の1年間で19歳以下の中毒受診件数は20,244件,そのうち乳幼児である5歳以下は18,251件であり,全年齢の68.0%を占めている1)。さらに,5歳以下の小児の中毒受診のうち,医薬品が起因物質であった件数は6,527件と35.8%となっている。かつては小児の誤飲事故はタバコが起因物質の1位だったが,近年はタバコの誤飲が減少し,医薬品の誤飲が増加した。両者の頻度は拮抗しており,医薬品の誤飲は小児の誤飲事故のなかでも重要な位置を占める。
薬はうまく飲めないと効かないのだろうか?飯山らは急性上気道炎または喘息様の気管支炎で受診した子どもの服薬状況とその治療効果を検討し,服薬できなかった子とできた子を比較すると前者の方が後者より症状悪化/無効の割合が有意に多いことを報告した(図1)1)。このことは,どんなに優れた薬剤でも飲めなくては期待した効果が得られないことを示しており,今回のテーマである服薬指導や吸入指導でもっとも大事なことは,「薬を飲ませる」と「きちんと吸入させる」ことを証明している。本章では「薬を飲ませる」と「きちんと吸入させる」ために行っている指導を紹介する。
従来,薬事に関する内容は薬事法により扱われてきたが,医療環境の急速かつ著しい進歩に伴い,平成26(2014)年に「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法または薬機法)と名称変更されている。
TVなどで総合感冒薬のCMを目にすることがあるが,われわれ臨床医は医療用医薬品,すなわち医師または歯科医師によって使用されること,あるいは,医師または歯科医師によって処方せんまたは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品を扱っているため,普段はあまりOTC総合感冒薬について調べたり,考えたりする機会は少ないであろう。
薬物アレルギーは,薬物によってひき起こされる過敏反応で,薬物が持っている本来の作用とは関係なく,免疫学的機序を介して生じる有害反応である(図)。日々の診療の中で,薬物アレルギーの対応を迫られる機会は少なくない。薬物によるアナフィラキシーの頻度も増加傾向にあるとされている1)。一方で,自己申告される薬物アレルギーのうち,実際に薬物アレルギーであると確定診断される症例はわずかである。適切な評価をせず,薬物アレルギーの疑いのみで被疑薬が避けられ,本来はその被疑薬が診療上最適な薬剤の場合としても,代替薬を使用することで疾患の転帰の悪化につながることも報告されている2)。薬物アレルギー疑いの中から,真の薬物アレルギーをいかに診断し管理するかが重要である。本稿では薬物アレルギーについて概説する。
小児領域では,適応外使用が漫然と行われているのが現実である。この要因はさまざまであるが,この状況を打開するためにも,医療現場が主体となって小児での医薬品・医療機器の開発,安全対策を推進していく必要がある。欧米ではすでに小児での適応外使用を解消すべく法制化も整っているが,日本では小児医薬品開発に対する法的根拠ならびに企業へのインセンティブ付与が必ずしも十分ではない。そのなかでも医療機関,学会などが連携して小児医薬品開発を推進するため,さまざまな活動をしている。本稿では日本での小児医薬品開発の推進に向けた活動,体制整備ならびに医療情報等を集積して利活用を可能とするデータベースの構築などについて紹介する。
どのような薬か
抗菌薬とは,感染症の原因となっている細菌に作用する薬剤の総称である。そのため,投与にあたっては他の薬にもみられる,投与されたヒトへの副作用やアレルギー反応に加えて,「耐性化」という病原微生物特有の問題も考慮する必要がある。
はじめに
抗ウイルス薬には,インターフェロンに代表される非特異的(宿主側に作用して非特異的にさまざまなウイルス感染を抑制するもの)な薬剤と,ウイルス特異的(個々のウイルスの生活環に特異的に作用するもの)な薬剤とに大別される。本稿では冒頭に抗ウイルス薬に関する一般的な内容を概説したうえで,後者について小児で抗ウイルス薬が汎用されるヘルペスウイルスとインフルエンザウイルス感染について解説する。
その名のとおり,真菌感染症に対して用いられる薬剤である。細菌感染症と比べると,真菌感染症にはあまり馴染みがない読者も多いかもしれない。しかし抗真菌薬は抗菌薬と比べると種類は少なく,使用頻度の高い薬剤も限られるので学ぶべき抗真菌薬は実は多くはない。本稿ではよく臨床で用いられる4薬剤について主に解説する。
総論
「薬が効く」という表現には3つの意味がある。
鎮痛とは痛みを緩和することであり,頭痛,歯痛,抜歯後の痛み,咽頭痛,耳痛,関節痛,神経痛,腰痛,筋肉痛,肩こり痛,打撲痛,骨折痛,ねんざに伴う痛み,生理痛(月経痛),外傷痛を軽減することが目的となる。
Ⅰ.急性増悪(発作)治療薬
急性増悪に際し,気管支平滑筋収縮や気道分泌物増加による気道狭窄症状の改善,ならびに気道炎症の改善を目的として使用される。
Ⅰ.アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎の治療は,これまでステロイド外用薬がその中心に担っており,それは今も変わらない。ステロイドの抗炎症力の違いにもとづき外用薬を使い分け,finger tip unit(FTU)にもとづき塗布面積あたりの適切な塗布量を用い,亜急性期の塗布方法としてプロアクティブ療法を用いることで,湿疹の管理はとても良好になった。また乳児期からの保湿の重要性が保護者らに普及し,かつステロイドフォビア(忌避)の傾向も一息つくなかで,かつてのような重症アトピー性皮膚炎は激減した。現に,いくつかの疫学調査では経年的にアトピー性皮膚炎の有病率の低下が報告されてきている。
てんかん患者の70~80%は標準的な抗てんかん薬(anti-seizure medication : ASM)治療で発作の寛解が期待できるが,従来のASMでは20~30%の患者の発作は抑えることができないといわれている。一般に1990年以降に欧米で発売されたASMを新規抗てんかん薬とよぶ。これらのASMは,①従来のASMと作用機序が異なる,②薬物相互作用が少ない,③重篤な副作用が少ないなどの特徴をもち,これらのASMを導入することでこれまで薬剤抵抗性てんかん患者においても発作が改善することが期待される。わが国でてんかん治療に用いられる薬剤は23種類をこえるが,2006年以降に承認された新規ASMが10剤以上を占めている1~7)。多くのASMは複数の作用機序を有しているが,ASMの選択は,てんかん発作型,てんかん症候群,作用機序,併存症を考慮して行うことが重要である。
Ⅰ.止痢・整腸薬
下痢とは便中の水分量が通常よりも増し,排便回数が増加した状態を指す。止痢薬は下痢症状を緩和する目的で使用される。整腸薬はビフィズス菌や乳酸菌,酪酸菌などにデンプンや乳糖などの賦形剤を混合した製剤である。それらの菌が腸管内で乳酸や酪酸などを産生することで腸内環境を弱酸性に保ち,病原性細菌の発育と腸内異常発酵を抑制し,腸内環境を整える。
嘔吐とは,胃・食道および腹筋の強調運動によって,胃腸内容物が口・鼻から吐出する一連の運動である。また嘔気とは,胃の内容物を口から吐出したいという切迫した不快な感覚を咽頭部や心窩部に感じる状態である。嘔吐は本来,摂取した毒素を体外に排出するための防御機構として発達したと考えられているが,感染症,化学療法,外科的処置後,髄膜炎・脳腫瘍・頭蓋内出血などの中枢性疾患,代謝性疾患,乗り物酔いなど,有害物質の摂取とは無関係に起こることも多い(表1)1, 2)。また,嘔吐は脱水症,電解質異常,Mallory-Weiss症候群などの合併症を引き起こすことがあり,嘔吐・嘔気を適切に治療することにより,患者の快適性を向上させるとともにこれらの合併症を回避することができる。
まず心機能とは,収縮性(収縮能,拡張能),前負荷,後負荷,心拍数という4つの要素からなる。そこで強心薬(inotropic agents)とは,主に収縮性を増強させる薬剤である。本稿では,心不全のなかでも左室駆出率の低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)に用いられる強心薬について解説する1, 2)。
「不整脈」とは一般に「心臓の拍動が不規則のもの,速くなるもの,遅くなるものを指し,治療を必要とする場合と必要としない場合がある状態」と定義されている1)。抗不整脈薬とは,この「不整脈」の停止や発症予防のために使用される薬剤であり,治療により患者の予後やquality of lifeの改善を目指すために使用される薬剤である。抗不整脈のほとんどは頻脈性不整脈に対する治療で用いられるため,本稿では薬理学的視点から総論を述べるものとし,個別の頻拍についてはⅢ.疾患別C.循環器疾患「頻脈性不整脈」を参照されたい。徐脈性不整脈に対する薬物治療については本稿で簡単に述べておく。
高血圧を認めた際に降圧薬が投与されるが,血圧上昇の病態により薬剤選択は異なる。高血圧は,心拍出量(循環血漿量)の増加と末梢血管抵抗の上昇によって引き起こされ,前者には前負荷と心機能,後者には血管の収縮が関与する。降圧薬における薬理作用の標的器官は心臓,腎臓,血管,交感神経などであるが,それらは調節機構によってお互いに密接に関与しあっていることを念頭に,降圧薬を使用することが大切である。血圧の調節機構と主な降圧薬の作用機序を図に示した。本稿ではこれらの降圧薬について,高血圧治療ガイドライン20191)に準拠して述べる。なお,利尿薬は他稿を参照されたい。
起立性調節障害(orthostatic dysregulation:OD),起立性低血圧の治療に使用される経口内服薬について述べる。起立性低血圧症に対しての薬物治療薬となりうるものとしては,その病態から大別すると末梢血管抵抗や心拍数を上昇させるアドレナリン作動薬もしくは循環血管量を増加させる合成鉱質コルチコイド薬となる。しかしわが国では,合成鉱質コルチコイド薬は起立性低血圧症の保険適用はなく,わが国での診療においてOD,起立性低血圧症に対しての使用可能な薬物は,アドレナリン作動薬であるミドドリン塩酸塩およびメチル硫酸アメジニウムとなる。本稿ではこのミドドリン塩酸塩,アメジニウムメチル硫酸の概説を行い,また米国でも神経原性の起立性低血圧症に適応承認されているドロキシドパにも言及した。なお,わが国のODの起立直後性低血圧症と海外の起立性低血圧症では,診断基準などの差異があることには留意が必要である。
頭蓋内圧(intracranial pressure:ICP)(脳圧)を規定する要素は,頭蓋骨,脳,脳脊髄液,脳血管内の血液の4つである(表1)。ICPは,一般に外科的に挿入したカテーテルやセンサーで測定され,その正常値は,成人10mmHg未満,小児3~7mmHg,乳児6mmHgとされている。ICPが20mmHgをこえるとICP亢進と判断する。ICP亢進の外科的な治療としては,ICP亢進の直接的な原因となっている占拠性病変(血腫や腫瘍など)の除去や,脳脊髄液のドレナージ,頭蓋骨の一部を取り除く開頭減圧などがある。
利尿薬は腎尿細管に作用し,ナトリウム(Na)と水を尿中に排泄させる薬剤である。ただし,バソプレシン受容体拮抗薬は集合管での水の再吸収のみを阻害する「水利尿薬」である。利尿薬は主として心不全,腎不全,ネフローゼ症候群,肝硬変などの浮腫性疾患に対して使用される。
造血幹細胞は分化能と自己複製能を有す多能性幹細胞であり,サイトカインなどさまざまな環境因子の影響を受けながら造血系を維持している。DNA合成に必要なビタミンB12や葉酸,さらにはヘモグロビン合成に必須の鉄は,造形系の恒常性にとって不可欠な因子となる。こうしたサイトカインやビタミン,微量元素を造血促進のために製剤化したものが造血薬である。
どのような薬か,どのような種類があるのか
止血栓形成は,3つのプロセスにより成立する。
救急蘇生薬についての明確な定義はない。ここでは,心肺蘇生中に使用する薬剤,または,心肺停止に陥る危険性のある病態で使用する薬剤について解説する。
新生児・小児における輸血療法に対する考え方
平成15年の薬事法改正により制定された「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」ならびに平成17年に整備された「血液製剤などに関する遡及調査ガイドライン」により,血液製剤の適正使用と安全な輸血医療の実施が医療者の責務として明記された。血液製剤の使用にあたっては,厚生労働省から「輸血療法の実施に関する指針」(平成17年発行,令和2年一部改正)1)および「血液製剤の使用指針」(平成31年)が示されており,指針の遵守が必要である2)。しかしながら,最新の指針でも「小児一般に対する血液製剤の投与基準については,いまだ十分なコンセンサスが得られているとは言い難い状況であり,新生児・小児は多様な病態を示すため,個々の症例に応じた配慮が必要である」と記載されており,症例ごとに輸血の必要性を検討する必要がある。わが国の指針の対象は出生後4か月までの児に限定されていることから,生後4か月以後の小児に対する輸血のガイドラインは米国血液銀行協会(American Association of Blood Banks:AABB)の監査基準を参考として示した3~5)。
骨は土台となるコラーゲンを主成分とする骨基質にカルシウム(Ca),リン(P)などのミネラルが付加された構造をもつ。骨代謝とは “骨は常に作り変えられている” ということである。すなわち,古い骨は破骨細胞によって壊され(骨吸収),その壊された部位に骨芽細胞によって新しい骨が形成される(骨形成)。骨代謝により,成人ではおよそ3年で全身の骨が作り変えられる。
日本国内において,向精神薬は成人を対象とした臨床試験で有効性や安全性のエビデンスが蓄積されているものが多いが,児童精神科領域における薬物療法のエビデンスは十分とはいえないのが現状である。また,海外において小児を対象とした臨床試験で有効性や安全性が確認されている向精神薬もあるが,日本では保険適用外であることも多い。以上を踏まえて,小児に向精神薬を処方する際には,リスクとベネフィットを慎重に勘案し,添付文書も確認したうえで患児,家族に丁寧な説明をし,同意を得たうえで処方する必要がある。
麻酔という用語は,意識や疼痛を鈍磨あるいは消失させる医療行為全般を含み,明確な区別がないまま使用されることが多い。ここではそれらのなかで,全身麻酔,処置などでの鎮静・鎮痛,局所麻酔において用いられる代表的な薬剤について解説する。
ビタミンとは,体内の代謝に必須であり,生体内では合成することができない微量で作用する低分子物質の総称である1)。ビタミンは脂溶性ビタミン(A,D,E,K)および水溶性ビタミン(B群:B1・B2・B6・B12,C,ビオチン,葉酸,ナイアシン,パントテン酸)に大別される。わが国では,ビタミンの摂取基準が「日本人の食事摂取基準(2020年)」として策定されている。脂溶性ビタミンは,大量摂取により蓄積されるので過剰症となる。脂質吸収障害の病態では,脂溶性ビタミン欠乏症を伴うことがある。水溶性ビタミンは,尿中に排泄されやすいため過剰症を認めにくいが,欠乏症をきたしやすい。
ホルモンは,生体の恒常性の維持,成長・発達,生殖,エネルギー代謝にかかわる。ホルモンが不足する(ホルモン分泌低下症)と,上記のことに支障がおき,時に生命にかかわる。ホルモン薬とは不足しているホルモンを補う薬である。
Ⅰ.副腎皮質ステロイド薬
1)副腎皮質ステロイド薬の誕生の歴史
1948年,Henchらは合成されたコルチゾンを初めて関節リウマチ患者に用い,劇的な効果があることを発表した。副腎皮質ステロイド薬の効果が劇的であったため,Henchらは翌年にノーベル賞を受賞した。しかし,その後間もなく重篤な副作用も明らかになった。臨床医は,副腎皮質ステロイド薬の効果をどのように最大限生かし,副作用を最小限にするかということを考えるようになった。とくに新生児・小児に対して,副腎皮質ステロイド薬を投与する際の注意点は,成人と異なる特有の副作用があることを長期的な視点から考えていく必要がある。
近年の分子生物学の飛躍的な進歩によって,さまざまな疾患において分子学的な発症機序が明らかにされている。分子標的薬とは,疾患に関連する特定の生体分子が同定かつ検証されており,その分子に対し特異的に作用するように設計あるいは選択され開発されてきた医薬品の総称である。
1)漢方薬の特徴
西洋薬は,基本的に化学合成されたもので,単一成分で構成されている。その薬効は通常強いとされており,ステロイド薬のように作用機序が明らかでなく複数の効果を示すものもあるが,一般的には対象となる症状・疾患は限定的である。
ここでは,局所療法に使用する各種剤形の使用方法と使い分けの基本知識について説明をする。疾患別の使用方法については,Ⅲ.疾患別の各項目を参照されたい。
1 疾患概念
かぜ症候群は,①発熱(軽微なことが多い),②くしゃみ,鼻汁,鼻閉などの鼻症状,③咽頭不快,咽頭痛,④咳嗽,などの症状を伴うが,ほとんどが自然治癒する急性のウイルス性上気道感染症である1)。わが国では嘔吐や下痢などの消化器症状などを含む場合もかぜ症候群とすることも少なくないが,本稿では狭義としての上気道感染症のみを取り扱う。
1 疾患概念1~3)
クループ症候群とは,急性に上気道(主に喉頭周囲や声門下)の閉塞もしくは狭窄をきたす疾患の総称である。予防接種の普及により細菌感染によるものは減少しており,感染性クループといえば通常,ウイルス感染に伴う急性喉頭気管気管支炎のことを指す。その他の鑑別として,細菌感染による急性喉頭蓋炎,細菌性気管炎,痙性クループ,そしてジフテリアが含まれており(表1),さらに深頸部膿瘍,喉頭・気道異物,アナフィラキシー,血管性浮腫などが挙げられる。
1)急性気管支炎
気管支炎の定義や疾患概念について明確な記述はほとんどない。たとえば小児科学の成書1)には,ウイルス感染を主な原因とし,咳嗽を主症状とする症候群と記載されているだけである。小児呼吸器科学の成書2)には,気管支に炎症が生じる疾患を(非特異的に)気管支炎とよび,急性気管支炎は咳嗽を主症状とする主にウイルス感染を原因とする症候群と説明している。わが国の「小児の咳嗽ガイドライン」3)には,急性気管支炎とは発熱,咳嗽,喀痰などの気道感染症状があり,聴診で種々の副雑音を聴取されるが,胸部X線検査で異常を認めない場合の臨床的診断名とある。曖昧ではあるが,私はこれが臨床家の考えにもっとも近いと思う。
肺炎の疾患概念として重要な点は3つである。子どもの死亡が多いこと,予防可能・治療可能なこと,そして明確な診断基準がないことである。それぞれについて概説する。
肺間質とは,肺胞上皮と血管内皮の基底膜の間に存在する支持組織であり,狭義には肺胞隔壁をさし,広義にはそこに加えて気管支血管周囲や小葉間隔壁,胸膜下の間質も含む。この肺間質に病変をび漫性に認め,慢性的な呼吸障害を起こす疾患群を総称して「間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)」とよぶ。ILDの原因は肺の発生異常,遺伝子異常,感染症,膠原病,吸入抗原,医原性など多岐にわたる。確立された分類法はなく,ILDに含まれる疾患も分類提唱者によって異なる。一例として,2歳未満に好発するか否かで大きく2群に分けた分類を表1に提示する1)。
肺ヘモジデローシスは,び漫性の肺胞出血をくり返す,主に小児にみられるまれな肺疾患であり,発症頻度はわが国の報告では100万人あたり1.23人で性差はない1)。肺胞出血をくり返すことにより肺組織へヘモジデリンの沈着を生じ,鉄の沈着はフリーラジカル(Fenton反応)を誘導し肺障害,肺線維化をきたす2, 3)。肺胞出血をくり返す原因には,肺うっ血を呈する心疾患,血管炎,血液凝固異常などの基礎疾患や牛乳へのアレルギーであるHeiner症候群などがあるが,病理学的に肺の毛細血管炎や感染などの炎症を伴わず原因が特定できないものを「特発性肺ヘモジデローシス」とよぶ。肺ヘモジデローシスの基本病態は,肺胞出血による急性呼吸障害および鉄欠乏性貧血と,肺線維化による慢性呼吸障害と右心不全である。
小児急性呼吸窮迫症候群(pediatric acute respiratory distress syndrome:PARDS)は,心不全や輸液負荷で説明できないび漫性の肺水腫と急性の低酸素血症を特徴とする臨床症候群である。病態生理の特徴は,肺内外の炎症により惹起される肺胞上皮と血管内皮の損傷に伴って起こる,肺胞毛細血管透過性亢進と肺胞内の蛋白質に富む浮腫液の蓄積である。さらに,線溶の抑制とサーファクタントの減少に伴い,凝固が無制限に活性化される。これらの変化が,機能的残気量の低下,生理的死腔の増加および肺コンプライアンスの低下を引き起こす。近年では年齢による肺・胸壁・免疫系の変化,併存疾患,病態生理学,誘引の違いなどの観点から不均一な疾患群であることが指摘されており,サブタイプの違いにより治療反応性や予後が異なる可能性が示唆されている1)。
突発性発疹(突発疹)はhuman herpes virus 6(HHV-6)の初感染によりひき起こされる乳幼児期のcommon diseaseである。HHV-6はウイルスゲノムの制限酵素切断パターンの相違により2種類のvariantすなわち,HHV-6AおよびHHV-6Bのspeciesに分類されている。HHB-6Bが突発疹の病原体であるが,HHV-6Aの初感染像は未だ不明である。HHV-7の初感染像にも一部が突発疹の臨床経過をとる。HHV-7の初感染時期はHHV-6Bより遅れ2~4歳ごろであり,一般に2度目の突発疹が本ウイルス初感染によることが多い。突発疹の主要な合併症には脳炎および脳症などの中枢神経合併症がある。われわれの全国調査により,HHV-6脳炎および脳症の年間発生率は日本では年間60例と推定され,半数近くが四肢麻痺や精神遅滞などの重篤な神経学的後遺症を呈することがわかった1)。HHV-6脳炎は急性壊死性脳症(ANE),出血性ショックおよび脳症症候群(HSES),けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)など,さまざまな種類の臨床経過を有することが報告されている2)。ほかの致死的な合併症には劇症肝炎,血球貪食症候群,心筋炎が挙げられる。
1)臨床経過の概要
インフルエンザの典型的な臨床経過は,突然の高熱に加えて咽頭痛や咳などの呼吸器症状が出現する。潜伏期間は通常1~4日間で,2日間前後のことが多い。初発症状として発熱の頻度は高く,悪寒を伴う高熱が急に出現する。また,低年齢児ほど高熱を認める頻度が高いとされる。
1 疾患概念(疫学・有病率・罹患率)
麻疹は,パラミクソウイルス科モルビリウイルス属の麻疹ウイルス(measles morbillivirus)の感染により生じる感染症である。麻疹ウイルスの伝染力は非常に強く,麻疹患者の咳・くしゃみなどで発生する飛沫(飛沫感染)や空気中を漂うウイルス(空気感染)を介した経気道的感染,また手などを介して自身の目や気道粘膜に麻疹患者の気道分泌物を付着させること(接触感染)により感染する。感染した場合,免疫のない者は,ほぼ全員が発症すると考えられている。現在(2023年1月)日本では,国内で継続的に伝播している流行株はなく,世界保健機関(WHO)の基準における麻疹排除状態にある。すなわち,日本における麻疹感染は,海外で感染した人や,それらの麻疹患者からの伝播症例と考えられている。
風疹をひき起こす風疹ウイルス(rubella virus)は,Togavirus科Rubivirus属に属する直径60~70nmのエンベロープを有する単一血清型の一本鎖RNAウイルスである。
水痘は,ヘルペスウイルス科のα亜科に属する水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染である。空気感染,飛沫感染,接触感染により気道粘膜や結膜からVZVが侵入し,ウイルス血症を経て全身の皮膚に到達する。好発年齢は乳幼児であり,14~16日の潜伏期を経て,発熱とともに紅斑,丘疹,水疱,痂皮などのさまざまな段階の発疹を認めることが特徴である。感染力が強く,発疹出現の1~2日前から,すべての発疹が痂皮化するまで感染源となりえる。感染後は終生免疫を獲得するが,VZVは初感染で水痘を発症した後,脊髄後根神経節に潜伏感染する。そして,宿主が免疫抑制状態に陥った際に再活性化し,知覚神経支配領域(デルマトーム)に発疹を形成して,帯状疱疹を発症する。
ムンプス(流行性耳下腺炎)は,パラミクソウイルス科ルブラウイルス属のムンプスウイルスによる全身性感染症であり,耳下腺のび漫性腫脹と疼痛を特徴とする疾患である。ムンプスウイルスはヒトのみを宿主とし,飛沫感染または唾液の接触感染により感染する。潜伏期間は12~24日(通常16~18日),罹患の中心は幼児期が中心で(図1)1),30%が不顕性感染の経過をとる。耳下腺炎は突然の耳下腺腫脹と疼痛で発症し,約25%は片側性である。腫脹のピークは1~3日であり,通常1週間程度で軽快する2)。ムンプスは多彩な合併症を示す(表1)3)。ムンプスウイルスは神経親和性の強いウイルスであり,無菌性髄膜炎の合併頻度が高い(1~10%)。脳炎の頻度は0.02~0.3%と低いが,死亡または後遺症を残す可能性がある。ムンプス難聴(0.01~0.5%)の多くが片側性だが時に両側性となり,高度な感音性難聴をきたし永続的な障害となる。思春期以降では精巣炎(25%),卵巣炎(5%)や乳腺炎(15~30%)の合併頻度が高くなる。妊婦が第1三半期に罹患すると,約25%に自然流産が認められるが,先天奇形との関連は認めていない2)。
エンテロウイルスは,ポリオウイルス群(1~3型),コクサッキーウイルスA群(1~22,24型),コクサッキーウイルスB群(1~6型),エコーウイルス群(1~9,11~21,24~27,29~33型),エンテロウイルス群(68~71型)の血清型に分類される。ウイルスは呼吸器あるいは経口的に体内に侵入し,咽頭や下部消化管に感染し扁桃,深部頸部リンパ節,パイエル板,腸間膜リンパ節などで増殖する。増殖したウイルスの一部が血液中に入り(ウイルス血症),血液を介して種々の臓器に運ばれ,ウイルスの親和性のある臓器で再び増殖し,組織傷害をひき起こし,急性灰白髄炎,手足口病,ヘルパンギーナ,無菌性髄膜炎,脳炎などさまざまな臨床症状をきたす1)。
サイトメガロウイルス(cytomegalovirus infection:CMV)は普遍的に存在するウイルスであり,多くは2~3歳までに初感染した後,生涯潜伏感染する。乳幼児期に初感染した場合は,不顕性感染であることがほとんどである。しかし,以下のようなCMV感染症に対しては,抗ウイルス薬による治療が考慮される。
1 疾患の概要
1)伝染性単核症(infectious mononucleosis:IM)
IMはEBウイルス初感染によるもので,発熱,頸部リンパ節腫脹,肝脾腫を主症状とする疾患である。ありふれた疾患であり,通常,数日~2週間以内に自然治癒し予後良好である。
1 疾患の概念
感染性胃腸炎(infectious gastroenteritis)は,さまざまな病原微生物を原因によるものを含む症候群であり,感染症サーベイランスではウイルスまたは細菌による感染性胃腸炎を一括したものであるが,主にウイルスを原因とする胃腸炎の総称と考えてよい。
①アデノウイルス(adenovirus:AdV)はエンベロープをもたない二本鎖DNAウイルスであり,生化学的,血清学的基準によりA~Gの7種に分類され,さらに現在100以上の型が存在している。AdV51型までは血清型として,AdV52型以降は全塩基配列の決定による遺伝型として報告されている1)。
百日咳(Pertussis,Whooping cough)は,グラム陰性球桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)によってひき起こされる急性の呼吸器感染症である。百日咳菌の感染性はきわめて高く,感染経路は飛沫感染でヒトにのみ感染する。潜伏期間は標準的には7~10日,最長21日とされている1,2)。
1)原因ウイルス
伝染性軟属腫は「水いぼ」と俗称される,小児に好発するウイルス性皮膚疾患である。原因ウイルスはポックスウイルス科モルシポックスウイルス属伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus:MCV)である。ウイルスDNAの制限酵素切断パターンからMCVは4型に分類されており,MCV-1は小児,MCV-2はHIV感染者,MCV-3,4はアジア・オーストラリアで主に報告されている1~3)。
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)感染症は,日常診療で経験することの多い疾患である。HSVはヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスであり,主な感染経路は接触感染である。初感染後に神経節に潜伏感染し,宿主側の要因により再活性化するという特徴を有している。
髄膜炎のうち,髄液の一般的な塗抹染色・細菌培養および遺伝子検査にて細菌が検出されないものを無菌性髄膜炎という。無菌性髄膜炎という用語は1925年にWallgrenによって最初に記述され,急性の発熱と髄膜刺激症状を呈し,髄液検査で単核球優位の細胞増多を示し,無菌であることを特徴とするself-limitedな中枢神経系の症候群と表された1)。現在ではその原因としてウイルス,真菌,結核菌などによる感染症のほかに,非感染性の原因として薬剤,生物学的製剤,膠原病,腫瘍性疾患も挙げられており(表1)2),必ずしもself-limitedではない。無菌性髄膜炎のうちウイルス感染を原因とするものがウイルス性髄膜炎であり,原因のほとんどをウイルス感染が占めているため,本稿ではウイルス性髄膜炎について解説する。
Ⅰ.細菌性髄膜炎
1)定 義
細菌性髄膜炎は,医療の発展した現代においても死亡5%,後遺症15%を認めるもっとも重篤な細菌感染症の一つである。2013年にインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)ワクチン,肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine:PCV)が定期接種化されて以降,肺炎球菌性髄膜炎は70%,インフルエンザ菌性髄膜炎は98%罹患率が低下したことが報告1)されており,現在では10万人に1人と白血病よりも少ない罹患頻度となっている。しかし,その重篤さや迅速な治療開始が必要であることから疾患の重要性は変化していない。
1)微生物学的な分類
血液寒天培地に生えたコロニー周囲に強いβ溶血を起こすレンサ球菌を指して溶血性レンサ球菌(溶連菌)と呼び,病原性が高いことが多い。Lancefieldの分類では,A群,B群,C群,G群などがある。A群溶連菌(group A streptococci:GAS)であるStreptococcus pyogenes,B群溶連菌(group B streptococci:GBS)であるStreptococcus agalactiaeが小児科で遭遇する代表的な病原菌である。Streptococcus anginosus group(SAG)の中には,多様な溶血パターンを呈するレンサ球菌があって,一部,β溶血性である(表1)。
わが国の細菌性食中毒の原因で薬物治療の対象となるのは,カンピロバクター,サルモネラ(非チフス性)が多い。本稿ではこれら2菌種に加え,頻度は少ないが臨床的に重要なエルシニア,腸管出血性大腸菌と赤痢,院内発症の腸炎としてクロストリディオイデス・ディフィシルを中心に述べる。細菌性腸炎のなかで,腸管毒素が原因となる黄色ブドウ球菌やウェルシュ菌については抗菌薬治療の対象とはならず本稿では扱わない。
伝染性膿痂疹は表在性の皮膚細菌感染症であり,主に2~5歳の小児に発症する。毎年夏に流行し,罹患率は約1~2%である。臨床像として黄色ブドウ球菌およびA群β溶血性連鎖球菌(group A streptococcus:GAS)によって発症する痂皮性(非水疱)膿痂疹(約70%)と,表皮剝離毒素(exfoliative toxin)を産生する黄色ブドウ球菌のみが原因となる水疱性膿痂疹(約30%)の2つに大きく分けることができる1)。通常,黄色ブドウ球菌やGASは鼻腔や腋窩,咽頭,会陰部などに保菌されており,皮膚の傷(汗疹,虫刺症,湿疹など)などバリア機能が低下した部位に二次感染し発症することが多い(二次性膿痂疹)が,傷のない皮膚に直接細菌が感染し発症(一次性膿痂疹)することもある。また高温多湿,不衛生な環境,栄養不良や糖尿病などがリスク因子2)として挙げられる。感染性が強く,「とびひ(飛び火)」の俗称のごとく,隣接する部位に手指や衣類などを介して容易に病変が拡大する。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は,薬剤耐性菌の代表ともいえる菌である。mecA遺伝子を獲得したことにより,βラクタム系抗菌薬が標的とする細胞壁合成にかかわる結合蛋白(PBP-2)の代わりに薬剤との親和性が低い結合蛋白(PBP-2’)を産生することができ,細胞壁の合成が阻害されない。これが耐性の機序である。MRSAとMSSA(Methicillin-susceptible S.aureus)の間では病原性に差はない。
結核は感染性を有する結核患者から空気中に喀出された,結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む感染性飛沫核を経気道的に吸引し,肺内に到達することにより感染が成立する(初感染)。結核菌を含む飛沫核が口から吸引されても,気道線毛系に捕捉されたり,消化管に嚥下されれば感染にはいたらない。同居家族内に喀痰塗抹陽性肺結核患者が発生するなど,感染性飛沫核の濃厚な曝露を受けても感染にいたるのは25~50%程度とされている1)。肺内に吸入された結核菌は肺胞マクロファージに貪食され,貪食された結核菌は一部がマクロファージ内で増殖をくり返し,自ら侵入したマクロファージを殺して滲出性病巣を作る(初感染原発巣)。また,結核菌を細胞内に含む一部のマクロファージはリンパ行性に肺門部リンパ節に運ばれ,ここにも病変を作る。初感染原発巣と肺門リンパ節病変は結核初感染に伴う病理学的な変化であり,対になった2つの病巣を併せて「初期変化群」とよぶ。初感染後に獲得された結核菌に対して特異的な免疫により,マクロファージの殺菌能が高まり,多くのケースでは結核菌は初期変化群のなかで分裂を停止した状態にいたる(潜在性結核感染)。しかし,一部の例では初感染に引き続き,結核菌の増殖が続いて結核発病にいたる(一次型結核症)*。小児,とくに乳幼児では初感染後,引き続き発病にいたる例の頻度が高いことが知られており2),初期変化群からの病巣進展により肺門(縦隔)リンパ節結核,肺結核,粟粒結核,結核性髄膜炎,結核性胸膜炎などのかたちで発病する。潜在性結核感染の状態にいたった例は約90%が生涯にわたって発病することなく経過するが,加齢や疾病などにより宿主の免疫状態が減弱すると,初感染から長い時間を経て発病にいたる。このような発病経過を「内因性再燃」とよび,病型を「二次結核症」とよぶ。結核菌に感染し,特異的な免疫が成立した例で,新たな感染機会により再度結核菌に感染すること(外来性再感染)はまれとされていたが,菌の曝露量が多い場合や宿主の免疫能低下が著しい場合には再感染による発病がありうる。
Mycoplasma pneumoniae(MP)は,飛沫感染,接触感染で感染し,上気道炎~肺炎,胸膜炎といったすべての呼吸器感染症の病型をひき起こす。5歳以上の小児と成人で市中肺炎の主要な原因である。ときに呼吸器以外に合併症を伴うことがある(表1)。ヒトは一生に一度はMPに感染するとされているが,終生免疫は獲得しない。感染には家族内や集団生活をともにするなど比較的濃厚な接触が必要とされる。MPは,細胞壁が存在せず,リポポリサッカライドやペプチドグリカンなどの細胞壁成分が欠如している。また,最小の細菌でゲノムサイズも小さく,増殖時に発生する過酸化水素や活性酸素による細胞障害以外に目立った毒素や病原因子は産生しない。したがって,MPの発病メカニズムは主に宿主のMPに対する免疫機序が想定される。つまり宿主が免疫不全状態では重症化しにくいと考えられる。また,5歳以降にMP肺炎が多いのは,その頃に免疫が成熟するからだと考えられる。
クラミジア(Chlamydia)科は,Chlamydia属とChlamydophila属に分類1)されているが,この中でヒトに病原性を惹起するものは,トラコーマ・クラミジア(Chlamydia trachomatis:C. trachomatis),肺炎クラミジア〔Chlamydophila(Chlamydia)pneumoniae:C. pneumoniae〕,およびオウム病クラミジア〔Chlamydophila(Chlamydia)psittaci:C. psittaci〕の3種2)である(表1)。
真菌症は表在性真菌症と深在性真菌症に大別される。
1)外麦粒腫
睫毛の毛包に開口する脂腺(Zeis腺)や,その付近に開口する汗腺(Moll腺)の細菌感染による炎症である。圧痛,自発痛があり,数日で皮膚に膿点が現れて自潰,縮小する。近年では外来で外麦粒腫を見ることは滅多にない。
感染性結膜炎は種々の病原体により発症するものであり,細菌,クラミジアおよびウイルスなどによって生じる。細菌性結膜炎は多くの細菌が原因となるが,グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,コリネバクテリウム,グラム陰性菌ではインフルエンザ菌,プロピオニバクテリウム,淋菌などが多くを占めている。小児ではインフルエンザ菌,肺炎球菌,成人では黄色ブドウ球菌,淋菌,連鎖球菌が多い。クラミジア結膜炎の原因は通常Chlamydia trachomatisであり,小児では新生児にみられる。ウイルス性結膜炎の原因となるウイルスはアデノウイルス(adenovirus:AdV),エンテロウイルスおよび単純ヘルペスウイルスである。AdV結膜炎は流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)と咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever:PCF)とがある。PCFは小児が夏季にプールで流行するプール熱として知られており,小児感染症としてとくに重要である。EKCは厚生労働省の眼感染症サーベイランスによると,わが国では年間約90~130万人が罹患すると考えられている1)。
急性中耳炎は小児期によく罹患し,耳鼻咽喉科に限らず小児科などでもよく遭遇する幼少期に発熱をひき起こす重要な疾患である。持続期間が3週間以内で急性に発症する中耳の感染症で,耳痛,鼓膜の発赤・膨隆,水疱形成,膿の貯留,耳漏などさまざまな所見を呈する。細菌感染が主であり,肺炎球菌(Streptcoccus pneumoniae),インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae),モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)が3大起炎菌である。感染は一部血行性に起こす症例や外耳道から鼓膜穿孔などをとおして感染が起きる症例もあるが,副鼻腔炎などの鼻腔内の炎症が経耳管的に波及して中耳まで及ぶ症例が多い。そのため通常鼻腔奥から検出される細菌が起炎菌となっている。世間で耳に液体が入って中耳炎になるということがよくいわれるが,外耳道は上皮のため,水をはじく。そのため穿孔がある場合を除いて外耳道側からの感染によりおこる耳痛は通常中耳炎ではなく外耳道炎によるものが主である。
急性中耳炎とともに耳痛をきたす代表的疾患であり,鼓膜より外側に炎症を起こす疾患である。炎症を起こす範囲・原因病原体により限局性外耳道炎(耳癤),び漫性外耳道炎,外耳道真菌症,帯状疱疹などに分けられる。
Ⅰ.口内炎
口内炎とは口腔内に生じた炎症によるさまざまな病変を併せた呼称であり,口腔内潰瘍のほか発赤,びらん,腫脹,水疱,白苔などさまざまな形態をとる。アフタ性口内炎,カタル性口内炎,ウィルス性口内炎などに分けられる。
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)は主にCD4陽性Tリンパ球とマクロファージ系の細胞に感染するヒト病原性レトロウイルスである。HIVに感染すると進行性に免疫系が破壊され,適切な治療がなされなければ,最終的には後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)となる。AIDSはHIV感染による免疫機能の低下に伴い,指標疾患を発症した場合と定義されている1)。
寄生虫の線虫類に分類される蟯虫(Enterobius vermicularis)が腸管に寄生し,その雌成虫が腸管から出て肛門周囲に産卵することに起因する疾患である。
新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)は,2019年末,中国・武漢に端を発する新興感染症で,原因ウイルスはSARSコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)である。重症肺炎をはじめ,全身性の過度の炎症にもとづく多臓器病変をきたす。ただし,集団免疫効果とウイルスの変異の影響か,次第にそのような特徴的な病態は少なくなり,昨今では季節性インフルエンザのように基礎疾患の増悪や寝たきりになってからの誤嚥性肺炎が死因となるようになった。またlong COVIDとも称される後遺症が問題となっているが,あまりにも多彩で非特異的な病態であるため,その実態はよくわかっていない。
心不全とは,「なんらかの心臓機能障害,すなわち心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義される1)。従来,「急速に」心臓のポンプ機能失調が進行して代償機構が破綻し,主要臓器の灌流障害が顕在化することで症状や徴候につながる病態の「急性心不全」と,比較的「慢性に」臓器灌流不全が進行し,それに伴う日常生活への支障が出現する病態の「慢性心不全」とを明確に分けて考えることも多かったが,現在では明らかな症状や徴候が出現する前から心不全に介入することが推奨されているため,「急性」と「慢性」の明確な線引きはその意義が乏しいと考えられている1)。2017年改訂の日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン」および「2021年フォーカスアップデート版」では,左室駆出率(left ventricle ejection fraction:LVEF)によって心不全を分類することが基本となっている1, 2)。
・頻拍とは脈が速くなる不整脈の総称だが,一般に洞性頻脈以外の,病的な電気的興奮により起こるものを指す。
QT延長症候群(long QT syndrome:LQTS)は,心電図上のQT間隔延長を特徴とする心室心筋の再分極障害である。torsades de pointes(TdP)と呼ばれる特徴的な多形性心室頻拍を発症し,失神や心室細動から心臓突然死をきたすリスクを有する。LQTSには先天性と二次性のものがある。
1 生後に動脈管の開存が必要な疾患
胎児期の動脈管は,大動脈と肺動脈をつないで胎児循環を維持している(図1A)。出生後の動脈管では肺呼吸の開始とともに血管収縮(機能的閉鎖)が起こり,続いて解剖学的閉鎖にいたるが(図1B,C),肺血流や体血流を動脈管に依存する先天性心疾患においては,生命維持のために出生後も動脈管が開存している必要がある(図2)1)。
先天性心疾患におけるチアノーゼ発作は,無酸素発作(anoxic spell)または低酸素発作(hypoxic spell)とも呼ばれ,急激な肺血流減少により突然に高度のチアノーゼ(低酸素血症)をきたし,意識状態や全身状態の悪化にいたる病態である。ファロー四徴症がチアノーゼ発作をきたす代表的な疾患であるが,そのほか,肺動脈狭窄を伴うさまざまな先天性心疾患でも認める。平時は肺動脈狭窄が強くなくチアノーゼがない児にも起きることがあり,注意が必要である。
心筋症は「心臓機能障害を伴う心筋疾患」と定義される小児ではまれな疾患である。日本のガイドラインでは一次性心筋症を,①拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM),②肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM),③拘束型心筋症,④不整脈原性右室心筋症の4つを基本病態とし,この4つの基本病態に分類できないものを分類不能心筋症としている(図1)1)。このうちDCMが50%,HCMが35~50%で残りがその他となる2)。代謝性疾患や炎症性疾患などの全身疾患や薬剤や金属などの化学性物質による二次的な要因で心筋症を生じることがあり,これらは一次性との鑑別に重要である。
肺動脈性肺高血圧症は,末梢肺動脈における中膜肥厚と内膜細胞の増殖によって,肺血管抵抗および肺動脈圧の上昇が生じる。この肺動脈圧の上昇に対し右心負荷が増大し,右室が適応できずに破綻すると右心不全が進行する疾患群である。肺高血圧の定義は,原因となる疾患を問わず右心カテーテルにて「安静時の平均肺動脈圧が25mmHg以上かつ肺血管抵抗係数が3Wood Units·m2以上」と定義されている。2018年,フランスで開催された第6回の肺高血圧ワールドシンポジウムで提言された肺動脈性肺高血圧症の定義は,「平均肺動脈圧が20mmHgをこえる場合で,肺動脈楔入圧が15mmHg以下かつ肺血管抵抗係数が3Wood Units·m2以上のもの」とされている1)。肺動脈性肺高血圧症は,肺高血圧ワールドシンポジウムにおける肺高血圧症の臨床分類の第1群に分類され,病態の首座は肺動脈自体であり前毛細血管性肺高血圧症ともよばれる。これに対し,左心系疾患などによる肺高血圧では肺動脈楔入圧が15mmHg以上を示し,後毛細血管性肺高血圧症として区別されるが,しばしばこの2つの病態は混在する。小児における肺動脈性肺高血圧の原因疾患としては,特発性,遺伝性に加え,とくに先天性心疾患に関連するものや(Eisenmenger症候群を含む),新生児遷延性肺高血圧症などが重要である2)。
川崎病は,1967年に川崎富作博士が報告した小児の急性血管炎である1)。発熱と全身の血管拡張による皮膚粘膜の発疹・発赤を主症状とする。原因は未だ十分に解明されていない。全身の動脈から静脈にいたるまでの血管炎であるが,中小動脈にその中心があり,無治療でも3~4週間で自然解熱するものの25%の患者において心臓冠動脈に拡張や瘤を残し,虚血性心疾患のハイリスクとなる。これが川崎病のもっとも重要な合併症である。頻度には人種差があり,アジア人とくに日本人にもっとも頻度が高く,少子化にもかかわらず患者数は増加し,2019年には17,348人,0~4歳の罹患率は10万対370.1であり,小児のcommon diseaseといえる2)。男子の罹患率は女子より高い。COVID-19パンデミックによる社会隔離や感染対策によって2020年に患者が減少し,感染症との関連が改めて示された3)。治療は進歩しているが,20%がファーストラインの治療に不応であり,8%に冠動脈病変を合併し,慢性期にも2%に冠動脈病変を残す2)。SARS-CoV-2感染症罹患後2~6週間で川崎病と類似した症状を呈する小児多系統炎症性症候群(MIS-C)が学童を中心に経験されるようになり,この疾患と川崎病の鑑別,治療が新たな課題となっている4)。
感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は心内膜や弁内膜・大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫(vegetation)を形成し,多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患である。弁膜症や先天性心疾患(congenital heart disease:CHD)に伴う異常血流や人工弁置換術後など異物の影響で生じる非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis:NBTE)を基盤とし,歯科処置を代表とする医療処置などにより一過性の菌血症が生じるとNBTE 部に菌が付着,増殖し,疣腫が形成され発症すると考えられている1)。
小児の高血圧は,3回以上の異なる機会に正しく測定した血圧が「小児の高血圧基準値」以上の場合に診断する1)。高血圧の有病率は高血圧の基準によって変化するが,およそ0.1~3%である1)。血圧は体内のさまざまな調節機構によって調節されており,高血圧は調節機構の障害や心血管系の器質的異常によって生じる。成人では高血圧は脳心血管病(脳卒中および心臓病)の最大の危険因子とされ1),適正な血圧は生涯の健康維持に重要と考えられる。血圧は,圧受容器反射による瞬時の神経調節と,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系などのホルモンを介したゆっくりとした調節の,大きく分けて2つのシステムにより調節されている。
便秘は排便の回数が少ない,または便が出にくい状態をいう1~3)。発症から1~2か月以内のものは急性,それ以上続いているものは慢性とみなす。便秘症は便秘が治療を要する場合とされている。便秘症は器質的な原因が特定できる器質性の便秘症と原因が不明な機能性(特発性)の便秘症に分けられる1~3)。本稿では,臨床的にもっとも頻度の高い慢性機能性の便秘症について述べる。なお,本稿の内容は2013年に発刊された診療ガイドライン1, 2)の内容に若干最新の知見を加えたものであり,詳細はガイドラインや他書を参照されたい1~7)。また,本特集の目的に則して,エビデンスが乏しく筆者の個人的経験のみにもとづいた判断も,妥当と思われるものは「私見」として記載した。
虫垂炎は,虫垂内腔に生じた非特異的閉塞により虫垂に限局した炎症が生じることで発症する。つまり,虫垂に限局して生じた腸閉塞と考えられ,閉塞した虫垂内腔における二次的な細菌増殖により炎症が生じる。また,虫垂の内腔閉塞による内圧亢進により生じた粘膜の炎症性浮腫と腫脹は,時に虫垂壁の強度阻血を惹起し,壊死や穿孔にいたる場合がある。
H. pylori(Helicobacter pylori)は主として乳幼児期に感染成立するが,感染時は症状を自覚することがなく(症状を訴えることなく),持続感染する。ほぼ全員で慢性胃炎を生じるが,無症状で経過し,学童後期~青年期では,胃・十二指腸潰瘍,機能性ディスペプシア,胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫,鉄欠乏性貧血,特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病などで発症することがある。若年者では胃潰瘍より十二指腸潰瘍の頻度が高い。さらに感染が持続すると萎縮性胃炎へと進展し,分化型胃癌が発生する。感染者の生涯(85歳まで)胃癌罹患率は男性17%,女性7.7%と報告されている1)。
胃炎,胃・十二指腸潰瘍は胃および十二指腸における酸関連性疾患である。胃炎は炎症細胞浸潤を伴う胃粘膜の損傷や異常と定義される。
胃内容物の胃から食道への逆流を胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)とよぶ。哺乳後の溢乳や嘔吐として乳児では健常児にも多くみられる生理的現象であり,多くは成長とともに改善していく。おくび(げっぷ)の際にみられる下部食道括約筋の一過性弛緩運動(transient lower esophageal sphincter relaxation:TLESR,嚥下を伴わない下部食道括約筋の弛緩)の関与が考えられている。
1)はじめに
肝炎の発症初期に特異的な症候はない。肝炎は腹痛や倦怠感,食思不振,嘔気・嘔吐などの非特異的な腹部症状を呈することがあるほか,発熱や気道症状で受診した際に実施される血液検査で発見されることが多い。概ね6か月以内に肝機能異常が治まる急性肝炎と,6か月以上の活動性肝炎が持続する慢性肝炎に大別される。眼球結膜や皮膚の黄染,右季肋部痛,肝腫大が急性に出現している場合はその時点で急性肝炎が疑われる1)。
1)急性膵炎
過剰な膵外分泌刺激,エンテロキナーゼを含む膵液の逆流,膵管閉塞および炎症などが誘因となり,生理条件下における膵酵素の活性化抑制機構が破綻し,防御能以上のトリプシン活性化や攻撃因子の増加が起こると膵炎が発症する1)。小児期の膵炎の原因は成人とは異なり膵胆管合流異常症によるものが多く,感染,薬剤性,および腹部外傷が続く。わが国の小児期における急性膵炎の発生頻度は明らかではないが,海外では12.3/10万人/年との報告がある2)。
クローン病は原因不明の肉芽腫性炎症性疾患で,消化管のあらゆる部位に炎症を生じさせ,浮腫や潰瘍,狭窄や瘻孔などの病変をきたし得る。好発年齢は10代後半~20代であるが,乳幼児期を含む小児期に発症する症例も少なくなく,近年,成人期発症例の増加とともに,小児期発症例も世界的に増加傾向となっている。
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の一つで,主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のび漫性非特異性炎症である。原因は不明で,免疫病理学的機序や心理学的要因の関与が考えられている1)。小児では世界的に増加傾向にあり,わが国の有病率は20歳未満で2004年は10万人あたり11.0人,2013年は10万人あたり15.0人と報告されている2)。発症年齢のピークは20代で,発症人数に性差はない。一般的な症状としては,血便,下痢,腹痛,体重減少である。病型に関しては成人よりも全大腸炎型が多く,病態もより重症なことが多い。長期にわたり,かつ大腸全体を侵す場合には悪性化の傾向がある1)。
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)は,検査では消化器症状の原因となる器質的な疾患を認めない機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders:FGIDs)の代表的な疾患の一つである。国際的診断基準であるRome Ⅳにおいて,カテゴリーHのなかの機能性腹痛疾患の一つとして位置づけられている(表1)1)。主な症状は腹痛,下痢,便秘である。
好酸球性消化管疾患〔eosinophilic gastrointestinal disorders(EGIDs)〕は消化管局所で好酸球性炎症により組織が傷害され,機能不全を起こす疾患の総称である。消化管の好酸球性炎症はさまざまな疾患によって引き起こされることもあり,広義にはこのような続発性EGIDsも含まれる。一次性EGIDsの主たる病態は気管支喘息やアレルギー性鼻炎などと同様に2型炎症性(アレルギー性炎症性)疾患である。消化管の罹患部位によって分類される。ごく最近,国際的な疾患分類がなされ,好酸球性食道炎〔eosinophilic esophagitis(EoE)〕とそれ以外のEGIDsであるnon-EoE EGIDsに大別されるようになった1)。non-EoE EGIDsにあたる包括病名として,わが国では長年,好酸球性胃腸炎〔eosinophilic gastroenteritis(EGE)〕が用いられてきた2)。また各部位のEGIDsの略称も決まり,EoEに準じて好酸球性を意味する「Eo」との組み合わせとなり,好酸球性胃炎〔eosinophilic gastritis(EoG)〕,好酸球性腸炎〔eosinophilic enteritis(EoN)〕,および好酸球性大腸炎〔eosinophilic colitis(EoC)〕と表現されるようになった。EGEという用語は積極的には用いないことになった。小児では学童期以降が多いが,どの年齢でも発症し,診断には組織病理所見での好酸球性炎症の確認が必須である。non-EoE EGIDsはわが国では比較的認知されている疾患であるが,国際的にはまれな疾患である。それに対してEoEは欧米では,もはやまれな疾患ではなくなった。食物アレルギーの一種としても分類され,消化管アレルギーとしてはIgE依存性と非IgE依存性アレルギーの両方の性質をもつ混合性アレルギーに分類される3)。アレルギーとの関連がはっきりしないこともあるが,基本的にはアレルギー性炎症性疾患であり,気管支喘息やアレルギー性鼻炎などと同様に好酸球を標的として治療には局所および全身性ステロイドが用いられる。アレルギー性疾患として原因抗原の除去も選択される。EoEは特徴的な内視鏡所見を認め,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)に反応して改善する例が多いという特徴がある4)。
肛門周囲膿瘍は乳幼児期に好発する疾患であるが,その名のとおり肛門周囲に形成された膿瘍で感染経路は2通り存在する。つまり,おむつ皮膚炎など皮膚の炎症から毛囊炎となり膿瘍を形成する経路と,肛門陰窩から細菌が侵入し炎症をきたし,肛門周囲の皮膚まで膿瘍を形成する経路である1)。乳児期特有の緩い便性,腸管免疫の未熟性,肛門陰窩の易感染性などが関与しているといわれている。乳児期の男児に好発し(男:女=1:9),再発例もあるが概ね1歳ころには自然軽快することが多い2)。重症・難治例や2歳以降での発症例では慢性肉芽腫症を代表とする好中球機能異常症などの原発性免疫不全症やクローン病などの基礎疾患を考慮する必要がある。
急性脳症は病理学的には非炎症性脳浮腫であり,多くは頭部画像検査で脳浮腫が描出される。ほとんどは感染症の経過中に発症するが,脳炎や髄膜炎など他の疾患が否定される必要がある。
脳梗塞は,種々の原因による脳血管の血流障害により,その支配領域の脳組織が虚血性壊死に陥り,さまざまな神経脱落症状を呈する疾患である。脳梗塞は動脈性虚血性脳梗塞と大脳静脈洞血栓症に分類される。本稿では主に生後1か月以降の動脈性虚血性脳梗塞について述べる。脳梗塞は成人に多く,小児での発症頻度は小児人口10万人あたり1~2人と少ないが,新生児期からみられる疾患である1)。5歳未満の小児で多く,女児よりも男児,また,白人よりも黒人やアジア人での頻度が高い1)。黒人では原因として鎌状赤血球症が多くみられるが,わが国ではもやもや病が多い2)。
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)および視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は中枢神経系炎症性脱髄疾患に分類される代表的な疾患である。
急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)は,脳・脊髄・視神経などの主な白質を病変の主座とする免疫介在性の脱髄性中枢神経系疾患である。症状としては脳症症状を含む多症候性を示す。どの年齢にも起こり得るが,免疫感作がされやすい小児に多い。
発達期の脳の非進行性病変にもとづく,永続的な運動および姿勢の異常を呈する疾患群であり,さまざまな病態が含まれる。「発達期」は,日本では受胎~新生児期までと定義されているが,国際的には乳児期(またはそれ以降)が含まれる1)。日本での発症率は出生1,000人当たり1.6人と推定されている2)。
1 疾患概念1)
われわれが支障なく運動するためには,中枢・末梢神経,筋からなる運動系が十分な力と速さをもって協調して働く必要がある。この構成要素として,運動野から脊髄にいたる錐体路,錐体路の信号を修飾・調整して精密な運動指令を可能にする大脳基底核と小脳,末梢神経と筋といった末梢効果器に加え,体性感覚路が重要である。不随意運動は,こうした要素のなかで主に大脳基底核の障害により生じる運動異常を指す。
熱性けいれんは主に生後6~60か月に起こる。通常は38°C以上の発熱に伴う発作性疾患(けいれん性,非けいれん性を含む)と定義され,髄膜炎などの中枢神経感染症,先天代謝異常,その他明らかな発作の原因がみられるものは除外される1)。また,すでにてんかんと診断されている場合は,有熱時発作でも熱性けいれんとはよばないほうがよい。
本稿を始めるにあたり,用語を整理する。てんかん重積状態(status epilepticus:SE)は,けいれん性(convulsive)と非けいれん性(nonconvulsive)の両方の現象を含んでいる。頻用されているけいれん重積状態は,厳密にはけいれん性SEと同義である。また,SEはてんかん患者におけるてんかん発作が遷延した場合のみならず,熱性けいれん,急性脳炎脳症,脳血管障害,中枢神経感染症などによる急性症候性発作が遷延した場合も含まれる。
①症状として「てんかん発作」をくり返す脳の慢性的な疾患が「てんかん」である。「てんかん発作」と「てんかん」には,それぞれ分類が定められている。
新生児発作(neonatal seizures)は,新生児の中枢神経障害を示唆する重要な徴候で,速やかで正確な診断・病因特定・治療介入が必要となる。新生児発作を生じさせた原疾患の脳への影響に加え,新生児発作自体が児へ悪影響を及ぼし,さらなる脳障害を助長する可能性もある。新生児発作の診断には脳波検査が必須であり,そのうえで①臨床症状を認めるもの(electro-clinical)(with clinical sign)と,②臨床症状を認めないもの(electrographic-only)(without clinical signs)とに大きく分けられる1)。
片頭痛および緊張型頭痛(tension-type headache:TTH)は一次性頭痛の代表的疾患である。片頭痛の有病率は小学生で3.5%,中学生で4.8~5.0%,高校生で15.6%との報告がある1)。小学生では男女差はみられないが思春期以降では女児の比率が高くなる。片頭痛は時間経過として予兆期,前兆期,頭痛期,回復期と進行していくが,小児では予兆期・前兆期は不明瞭なことが多い。片頭痛の病態は明らかではないが,予兆には視床下部機能異常,前兆には皮質拡延性抑制(CSD),頭痛発作は頭蓋内・硬膜血管に分布している三叉神経の神経原性炎症の関与が示唆されている。近年,神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin generelated peptide:CGRP)の関与が証明され,CGRPを標的とした新規片頭痛治療薬の臨床応用が注目されている。
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は,神経筋接合部における信号伝達に携わる蛋白に対して産生された自己抗体により,神経筋接合部の破壊または,神経筋の刺激伝達が障害される自己免疫性疾患である。代表的な標的抗原はシナプス後膜のニコチン性アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor:AChR)であり,胸腺形成異常などをきっかけとして,制御性T細胞が機能不全をきたした結果の自己免疫応答が原因と推察されている。抗体がAChRに結合して補体系が活性化し,結果的にAChRや神経筋接合部が破壊される1)。もう一つの代表的な標的抗原は,筋特異的チロシンキナーゼ(muscle-specific tyrosine kinase:MuSK)抗体であるが,小児ではまれである。AChR抗体とは異なって,運動終板破壊ではなく,シグナルを阻害する神経終末機能障害が原因とされている。小児期発症例は若年性ともいわれ,一般的に18歳未満の発症を指すが,成人発症例とは異なる特徴を有する。日本など東アジアに多く,特異的HLAに規定されると考えられている。小児期発症MGの疫学情報は,1973年,1987年,2006年,2018年の全国調査から得られ2~4),小児期発症例では,5歳未満発症が多い傾向があるが,14.1%(1973年),10.1%(1987年),7.0%(2006年)から2.3%(2018年)と減少傾向にある。発症は女児に多く(女児/男児 1.5~1.6),ほかの年齢層と比較して,家族内発症が多いのも特徴的である2, 3)。
1)概 念
1916年Guillain,Barré,Strohlの3人の医師によって報告された自己免疫性末梢神経疾患であり,2肢以上の進行性筋力低下と腱反射消失ないし低下を特徴とする1)。急性上気道炎ないし急性胃腸炎の罹患後の発症が70%以上の患者で認め,筋力低下が4週以内に進行する。急速に呼吸筋麻痺をきたすことがあるため,疑った時点で入院治療も考慮する。日本では小児人口10万人あたり0.19人の発症率が報告されている2)。
わが国において柳原らが15歳以下302例を分類した報告1)によると,Bell麻痺48%,Ramsay Hunt症候群(以下Hunt症候群)14%,耳炎性11%,外傷性11%,先天性8%であった。その他の報告でもBell麻痺がもっとも多く(48~71%),ついでHunt症候群(4~17%),先天性,外傷性,耳炎性が10%前後であった(図1)。
筋ジストロフィーは,筋線維の壊死と再生をくり返しながら筋萎縮と筋力低下が進行する遺伝性疾患の総称で,さまざまな型に分類され,発症年齢や臨床症状は病型により異なる。本稿では,小児期に発症する代表的な筋ジストロフィーとして,Duchenne型筋ジストロフィー(duchenne muscular dystrophy:DMD)を中心に述べる。
ミトコンドリア病は,ミトコンドリアにおけるエネルギー産生低下により起きる疾患群の総称である。ミトコンドリア内の呼吸鎖複合体の障害によるものが代表的だが,そのほかにもβ酸化やTCA回路などミトコンドリアにかかわるさまざまな機能の異常がミトコンドリア病の原因となる。
結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)は常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群で,全身の臓器に過誤組織(hamartia)とよばれる局所性形成異常と,過誤腫(hamartoma)とよばれる良性腫瘍がしばしば生じる。過誤組織としては皮膚の白斑,大脳の皮質結節,腎臓の囊胞が,過誤腫としては顔面血管線維腫,上衣下巨細胞性星細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma:SEGA),心横紋筋腫,肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM),腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)が代表的である。またTSCでは脳の機能障害,すなわちてんかんと知的障害,TSC関連神経精神障害(TSC-associated neuropsychiatric disorders:TAND)(自閉症,注意欠如多動性障害などさまざまな状態を含む)が高率に生じる1, 2)。
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は脊髄前角細胞の変性・消失による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。発症年齢と最高到達運動機能により病型分類される。90%以上は小児期発症であり,Ⅰ型が半数を占める。Ⅰ型は新生児,乳児におけるフロッピーインファントの代表格である。多くは頸定を獲得しないが,いったん頸定を獲得してから発症する例もいる。自然歴では,気管切開・人工呼吸管理なしにおいては2歳までに9割が死亡する。Ⅱ型は生涯,起立・歩行が不可能,次第に関節拘縮をきたし,思春期に脊柱変形が進行する。Ⅲ型は一旦獲得した歩行機能を次第に喪失,Ⅳ型は成人発症で徐々に運動機能を喪失する。日本人の有病率は人口10万人に1.17,発生率は出生1万人に0.51,Ⅰ型の発生率は出生1万人に0.27である1)。治療法のなかった時代には,とくにⅠ型は救命のために乳児期における気管切開・人工呼吸管理・経管栄養・胃瘻造設を必要とする疾患であり,保護者への診断告知はbreaking bad newsとして小児科医にとって困難な任務の一つであり,長い間その根本治療が望まれてきた。
レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome:RLS)は1945年にEkbomによって確立された疾患1)であるが,それ以前にも1672年にはWillisが報告している2)。小児では決して認知度が高いとはいえない。発症頻度は欧米では5~10%と高いが,アジアでは2%程度と欧米に比べて低く,遺伝的な素因が関連している。病態は,主にドパミン作動性神経系を中心としグルタミン酸系やヒスタミン,アデノシンを含む中枢神経系機能異常,鉄欠乏や鉄利用障害,遺伝的素因が考えられている3, 4)。ドパミンを合成する際にはtyrosine hydroxylase(TH)が必要であり,THの補酵素として鉄が必須であることから,ドパミン神経系と鉄利用障害は密接に関連している。
好中球減少症は末梢血好中球絶対数(absolute neutrophil count:ANC)が1,500/μL未満と定義されているが,臨床上で易感染性を呈することで問題となるのはANCが500/μL以下の場合である。
(1)鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は,日常診療のなかで遭遇する機会がもっとも多い貧血である。WHOは貧困地域を含めた全世界で小児貧血の42%は鉄補充の適応があると推算している1)。鉄欠乏性貧血は小球性貧血を呈し,造血能に異常はないため鉄補充により貧血は改善する。小児では成長に伴い鉄の需要が供給よりも大きくなる乳児期,思春期に頻度が高い。乳児期において鉄欠乏症と鉄欠乏性貧血の両方が乳児期の神経認知機能障害と関連しており,不可逆的な認知障害を引き起こすこともある。メタアナリシスでは,鉄分が5~12歳の子供の認知能力を改善することが示されている2)。
自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は,赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され,赤血球が傷害を受け(溶血),赤血球寿命が短縮する自己免疫疾患である。自己抗体が赤血球と反応する温度により,体温付近を至適温度作動域とする温式AIHAと4°Cを至適温度とする冷式AIHAに分類される。年間発症率は100万対1~5人とされ,平10(1998)年度の調査では国内の患者はおよそ1,500人で男女比は1:1.6で女性に多い。病型別では温式AIHAが47.1%,寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)4.0%,発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)1.0%であった1)。
再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)は,末梢血における汎血球減少と骨髄低形成を特徴とする症候群である。国内小児における年間発症数は70~100人であり,成因によって先天性と後天性に分けられる。小児では先天性がおよそ10%を占め,Fanconi貧血,先天性角化不全症,Shwachman-Diamond症候群などの遺伝性骨髄不全症候群(inherited bone marrow failure syndrome:IBMFS)がその代表であり,生殖細胞系列の遺伝子変異により造血不全を発症する。後天性の大部分は特発性(一次性)であるが,薬剤・放射線被曝などによる二次性もある。特発性の多くは,造血幹細胞を標的とする自己免疫機序による造血抑制が病因と考えられている。特殊なものとして肝炎に関連して発症する肝炎関連AAや発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)に伴うものがあり,同様に免疫機序の関与が考えられる。
免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP)は,B細胞から産生される抗血小板抗体による血小板の「破壊亢進」と「産生低下」によって血小板減少を生じる自己免疫性疾患で,小児の血小板減少症のなかでもっとも頻度が高い。基礎疾患のない一次性ITPと基礎疾患に続発する二次性ITPに分類される。本稿では「一次性ITP」を「ITP」として論じる。
播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)とは,その原因となる基礎疾患の存在下に持続する凝固活性化状態をきたし,細小血管で微小血栓が形成され赤血球破砕が起こる,いわゆる微小血管障害性溶血性貧血が生ずる病態であり,独立した疾患単位ではない。症状が進行すると凝固/線溶関連因子の著しい消費性低下をきたし,さらには血小板低下を生じる。基礎疾患も含めて適切な治療介入を速やかに行わなければ致死的となりうる。DICは凝固能と線溶能のバランスによって,出血症状ないしは臓器障害を呈する。基礎疾患により線溶能の程度が異なることがポイントで,たとえば急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)のように線溶能の亢進が凝固能の活性化を凌駕すれば著明な出血症状を呈し,一方で敗血症のように線溶能が逆に抑制され凝固能が相対的に優位になれば微小血栓が多発し,それによる臓器障害が主体となる1)。
血友病はⅩ連鎖潜性遺伝の出血性疾患であり,幼少期より重度の出血症状を反復する。凝固第Ⅷ因子(FⅧ)の量的・質的異常である血友病Aと第Ⅸ因子(FⅨ)異常症の血友病Bに分類される。令和4年度血液凝固異常症全国調査(厚生労働省委託事業)によると,わが国の患者数は血友病Aが5,776人,血友病Bが1,294人と報告されている1)。血友病Aのもっとも特徴的な遺伝子異常はイントロン22の逆位で,重症型の約40%に検出される。血友病Bの遺伝子異常は90%以上が点変異である。臨床症状は関節出血や筋肉出血などの深部出血が特徴であり,同じ関節に出血をくり返すと標的関節となり,慢性滑膜炎,関節軟骨破壊,関節変形・拘縮を生じ,血友病性関節症となる。新生児では分娩時の吸引分娩に起因する頭蓋内出血が認められ,ハイハイや1人歩きなど活動性が高まる1歳前後で皮下出血や口腔内などの粘膜出血を生じるようになり,幼児期以降は体重負荷のかかる足関節や膝関節および肘関節,また,それらを支持する筋肉に出血をきたすようになる。出血症状はFⅧ活性が1%未満の重症型では出血症状が顕著であるが,FⅧ活性が1~5%未満の中等症では出血頻度は減少し,FⅧ活性が5~49%の軽症では出血頻度は少ない。
血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)は,以前は血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)とよばれていた症候群である。HLHは,発熱や肝脾腫などの臨床症状と,汎血球減少,高トリグリセリド血症,低フィブリノーゲン血症,NK細胞活性低下,高フェリチン血症,可溶性インターロイキン2受容体高値などの異常検査所見によって特徴づけられ,骨髄やリンパ節では血球貪食像を伴う組織球の浸潤が認められる。HLHは発症の原因によって,単一遺伝子異常による「一次性HLH」と,他疾患に続発する「二次性HLH」に分類される。「一次性HLH」として,細動障害性顆粒放出にかかわるパーフォリン遺伝子の異常をはじめとした家族性HLH(Familial HLH)が含まれている。また,「二次性HLH」には,感染症,悪性腫瘍,自己免疫性疾患,薬剤,造血幹細胞移植など多岐にわたる疾患に続発する1)。日本におけるHLHの疫学調査2)によると,発症率は年間80万人に1人であり,0~30歳までの小児および若年成人で全体の約7割を占め,残り3割は60歳以上の高齢者を含む成人での発症であった。HLHの原因別にみると,感染症関連HLHが全体の53.1%ともっとも多く,そのなかの約半数(全体の28.7%)をEB(Epstein-Barr virus)ウイルス関連HLH(EBV-HLH)が占めており,ヒト単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルス(CMV),ヒトヘルペスウイルス6,エンテロウイルス,アデノウイルス,ヒトパルボウイルスB19などさまざまなウイルスが原因として同定されていた。その他,リンパ腫関連HLHが19.0%,自己免疫疾患関連HLHが9.3%,原発性(一次性)HLHが3.5%,造血幹細胞移植後HLHが1.9%,その他のHLHが8.8%となっていた。年齢別にHLHの原因をみてみると,1歳未満では一次性と感染症(とくに単純ヘルペスウイルス),小児~若年成人まではEBウイルス,60歳以上の高齢者ではリンパ腫がもっとも多い原因であった(表1)。
肉眼的血尿に乏尿,血圧上昇,ネフローゼ症候群レベルではない軽度蛋白尿や浮腫を伴う急性に発症する糸球体疾患を総称したWHOの定義する臨床分類の一つである1)。病名ではないことに留意する必要がある。感染後糸球体腎炎(post-infectious glomerulonephritis:PIGN),紫斑病性腎炎,膜性増殖性糸球体腎炎,IgA腎症,ループス腎炎など多様な原因があるが,尿細管間質性腎炎は含まれない。進行性の急性腎障害を伴う場合には,急速進行性腎炎と表現される。
紫斑病性腎炎は,IgA血管炎に合併する腎症(顕微鏡的血尿,肉眼的血尿,蛋白尿,腎機能障害)として1899年に報告され,2019年に発表されたThe European initiative SHARE(Single Hub and Access point for paediatric Rheumatology in Europe)のrecommendation1)においても腎症の診断として,①血尿,②蛋白尿(早朝尿蛋白/クレアチニン比>50mg/mmol),③腎機能障害(推算糸球体濾過量<80mL/min/1.73m2)が記載されている。現在では,小児期発症の代表的な血管炎でself-limitingな疾患であるIgA血管炎の予後を決定する重要な合併症と認識されている。
IgA腎症はIgAを主体とする免疫グロブリンの糸球体メサンギウム領域への特異的沈着に加え,メサンギウム細胞増多や基質増生を認める,慢性糸球体腎炎である。
ネフローゼ症候群は糸球体毛細血管障害により,高度蛋白尿と低アルブミン血症,全身性浮腫をきたす病態の総称である。欧米では,年間で小児10万人あたり2人が発症すると報告されている1)。わが国では2013年に全国疫学調査が行われ,1年間に小児10万人あたり6.5人が発症することが明らかとなり,欧米と比較して発症率は3倍となっている2)。男女比はいずれの国・地域においても男児が多く,わが国の全国疫学調査では男児が女児の約2倍の発症頻度であった。
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は,血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)の代表疾患である。TMAは,種々の要因によって血管内皮細胞が障害されることで発症する。最初に血小板が凝集して血栓が形成され,消費性の血小板減少が起こる。次に,血小板血栓により血管内腔が狭くなった部分に赤血球が物理的に衝突して破砕され,溶血性貧血が起こる。さらに,血小板血栓により血管内腔が閉塞すると臓器障害が起こる。HUSは主な標的臓器が腎臓であるため,溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害(acute kidney injury:AKI)が3主徴である。HUSは,志賀毒素産生性(腸管出血性)大腸菌によるHUS(Shiga toxin producing Escherichia coli-HUS:STEC-HUS)と先天性・後天性の補体制御異常による非典型HUS(atypical HUS:aHUS)に大別される。小児期に発症するHUS(小児HUS)は,約90%がSTEC-HUSであり1),aHUSは希少疾患のため小児慢性特定疾病に指定されている。
Alport症候群は,腎糸球体基底膜に発現するⅣ型コラーゲンα3,4,5鎖の異常により発症する進行性の遺伝性腎症である。Ⅳ型コラーゲンα3,4,5鎖による三量体は腎糸球体基底膜で非常に重要な役割を担っている。このⅣ型コラーゲンα3,4,5鎖は腎糸球体基底膜のほかに,内耳に存在する蝸牛基底膜や眼球に存在する角膜基底膜,網膜基底膜,水晶体囊にも発現しているため,その異常により感音性難聴や眼病変を伴うこともある。