特集 入門! アタッチメントと小児期逆境体験を知る
アタッチメントと小児期逆境体験を知る
アタッチメントとは何か?
山下 洋
1
YAMASHITA Hiroshi
1
1九州大学病院子どものこころの診療部
pp.852-857
発行日 2025年7月1日
Published Date 2025/7/1
DOI https://doi.org/10.24479/pm.0000002465
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はじめに
“If a community values its children, it must cherish their parents.”
(社会が子どもを重要な存在と価値づけるならば,その親を慈しまねばならない。)
上記は,第二次世界大戦後の欧州で戦災孤児や疎開児が生まれ,親子の分離や家庭での養育環境の喪失が深刻化するなか,世界保健機関(WHO)がBowlbyらに編纂を依頼した1951年のモノグラフに記された一節である1)。こうした提言の数々は,未曾有の超少子化やパンデミックに直面する現代社会においてもなお重要な意義をもつ。Bowlbyは,英国および国外の子どもから大人にいたる多様な臨床事例や調査報告を体系的に統合・分析し,発達早期における母親による養育が生涯にわたる社会・情緒的発達の基盤となることを世に問うた。アタッチメント理論(愛着理論)は,このような子どもの育ちへの社会的脅威を背景に誕生したものである。その理論は社会的影響力が大きく急速に一般化する過程で多くの誤解も生じたが,卓越した発達心理学者であるAinsworthらによる多文化的視点を備えた実証研究の積み重ねによって誤解が解消され2),理論はより普遍的な枠組みへとアップデートされていった。

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