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Ⅰ.肺結核
診断基準
肺結核は,肺または気管支を主要罹患臓器とする結核症である.診断基準はとくに定められてはいない.必ずしも肺から得られた検体より結核菌が証明されなくても,画像所見で合致して結核菌の感染が明らかであれば肺結核とする.
気管支喘息における病態解明は日進月歩である.気道の狭窄・気道過敏性の亢進という概念から,現在は気道の慢性炎症が主体であるという認識となり,炎症進行に伴う気道リモデリングにより,治療に難渋することは共通認識ではないだろうか.また,昨今の分子生物学的研究の発展によりTh2系炎症を中心とした病態理解も進んできており,このことが抗体療法につながっている.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」において「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生ずる肺疾患であり,呼吸機能検査で気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に関与し起こる.臨床的には徐々に生じる体動時の呼吸困難や慢性の咳,痰を示すが,これらの症状に乏しいこともある」と定義されている1).COPDにおける呼吸機能的病態の中心は,呼気気流閉塞である.気流閉塞の成因としては,① 末梢気道抵抗の増加,② 肺胞の弾性収縮力の低下,③ 末梢気道の呼気時の虚脱などが複雑に関与していると考えられている.
間質性肺炎は,両肺にびまん性に病変を認めるびまん性肺疾患のなかで肺胞壁などの間質を主体に線維化もしくは炎症をきたす疾患の総称である(表1).間質性肺炎は,膠原病のような全身性疾患の肺病変として出現するものや,過敏性肺炎,薬剤性肺炎,放射線肺炎,塵肺など原因が明らかなものが知られている.一方で,これら原因がはっきりしない間質性肺炎が,特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)である1,2).診断基準という点では,IIPsは他疾患が否定された間質性肺炎ということになるが,IIPsの病型分類に合致した画像・病理所見を呈していることを確認することが必要である.
急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は敗血症や重症肺炎,多発外傷などの種々の病態を誘因として発症し,肺胞領域の非特異的炎症に伴う肺毛細血管内皮の透過性亢進を特徴とする非心原性肺水腫である1).
睡眠障害の分類には,国際的な分類として,米国睡眠医学会が出版した睡眠障害国際分類(International Classification of Sleep Disorders:ICSD)が広く用いられており,現在は2014年に改訂された最新の第3版(ICSD-3)1)が使用されている.そのなかで睡眠時無呼吸症候群をはじめとした睡眠中の呼吸の異常は,睡眠関連呼吸障害群(sleep related breathing disorders:SRBD)に分類されている.SRBDはさらに表1に示す疾患カテゴリーに分類されている.
肺がんの確定診断は,組織あるいは細胞による病理診断である.胸部X線やCTなどの画像診断で肺がんが疑われる場合には,気管支鏡検査,CTガイド下経皮針生検,胸腔鏡検査,開胸肺生検などで病理診断を行う必要がある.非小細胞肺がん,とくに腺がんでは,がん組織で数種類のドライバー遺伝子変異/転座とPD-L1発現を検査して,薬物治療方針を決定1)するため,腫瘍量を十分に採取することが必要である.
薬剤性肺障害とは,「薬剤の投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで,薬剤と関連があるもの」と定義される.原因薬剤には,医師が処方したもののみならず,一般薬,生薬,麻薬も含まれる.病変の部位としては,肺胞・間質領域,気道,血管,胸膜に加えて,呼吸中枢まで含み,多彩な臨床病型を示す.薬剤性肺障害の被疑薬としては悪性腫瘍薬が約半数を占め,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬の出現により,より多彩な病型をとるようになっている.
過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonia:HP)は,細気管支から肺胞領域における炎症性および線維性疾患である.疾患感受性の高い個人が抗原を反復吸入する結果,Ⅲ型およびⅣ型アレルギーを惹起すると考えられている.呼吸細気管支周辺は,吸入抗原などの微小粒子が留まりやすい解剖学的構造を有し,同領域における抗原曝露後,免疫複合体が形成され,補体の活性化に引き続きマクロファージが活性化される.発症初期より好中球性炎症,さらにはTh1細胞性の免疫応答も誘導される.
好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia:EP)は,肺の実質・間質への好酸球の浸潤を特徴とする疾患の総称である.詳細なメカニズムは解明されていないが,いわゆるtype 2炎症による影響が考えられている.
肺アスペルギルス症は,肺の基礎疾患・免疫不全状態などにより,さまざまな病型を呈し得る.本稿では,最も重症度が高い侵襲性肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis:IPA)および緩徐進行型の慢性進行性肺アスペルギルス症(chronic progressive pulmonary aspergillosis:CPPA,本邦・海外のガイドラインで分類法が異なるが,本邦の分類法に従い記載)につき診断法・重症度を概説する1,2).
ウイルス肺炎の種類は多岐にわたり,それぞれ病像も異なることから,インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(高率にウイルス肺炎を合併)に焦点を絞って記載する.ウイルス肺炎のなかには,特発性間質性肺炎の画像・病理所見に類似するものがあることに留意する1).
1.定義と歴史的背景
気管支動脈蔓状血管腫の定義は,① 拡張蛇行した気管支動脈,② 肺動脈または肺静脈との異常吻合の二点であり,原発性と二次性がある.喀血で発見されるのが通例だが,たまたま造影CTで発見されることもある.
1.診断基準
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)は以前Churg-Strauss症候群(Churg-Strauss syndrome:CSS)とよばれていた疾患で,2012年の国際会議で名称変更された.
サルコイドーシスは肺,リンパ節,眼,皮膚,心臓,神経系,筋肉などの多臓器に類上皮性の非乾酪性肉芽腫を形成する原因不明の疾患であり,特定の抗原曝露で誘導されるTh1型の免疫反応と推定される.皮膚常在菌のPropionibacterium acnesの関与も提唱されている.
「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2015」では,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)の定義として,「胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患であり,食道粘膜傷害を有する「びらん性GERD」と症状のみを認める「非びらん性GERD」に分類される」と記載されている1).
食道は,のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ約25cm,太さ2~3cm,厚さ約4mmの管状の臓器である.食道は身体の中心部にあり,胸の上部では気管と背骨の間に,下部では心臓,大動脈と肺に囲まれている.食道がんは食道の内面を覆っている粘膜,あるいは粘膜下の細胞から発生する.
Ⅰ.消化性潰瘍
胃液中の胃酸やペプシンなどの攻撃因子と胃粘膜上皮層の粘液や重炭酸塩分泌,粘膜血流,プロスタグランジン,増殖因子などの防御因子とのバランスが破綻することにより消化性潰瘍は発生する.現在,消化性潰瘍発生の二大要因は,Helicobacter pylori感染およびNSAIDsであり,H. pylori感染による組織学的胃炎と胃酸を中心とした胃内環境の変化が,潰瘍形成を引き起こすと考えられている.また,最近ではNSAIDs/低用量aspirinによる消化性潰瘍が増加傾向にある.
近年本邦の上部消化管疾患において,その疾患構造が大きく変化してきている.日々の内視鏡検査を通じてもHelicobacter pylori感染胃炎の減少,H. pylori除菌後の患者の胃粘膜の改善,逆流性食道炎の増加などを肌身に感じることが多い.2013年にH. pylori感染胃炎が保険適用として追加されたこと,衛生状況の改善によって,若年世代のH. pylori感染率が激減していることが背景にある.こうした状況で,過去に多く認められた慢性胃炎,胃潰瘍,胃がんといった疾患が減少している.一方で,生活習慣の面から,欧米型の食生活が広がり,胃酸分泌量や胃液の逆流が増加することが知られている.
1.確定診断
胃がんに限らずがんの診断には組織診断が必須となる.初発症例においては内視鏡やCTなどの画像検査のみでの確定診断は不可能であり,治療適応のある症例では必ず組織診断を確認したうえで治療を開始する必要がある.
潰瘍性大腸炎およびCrohn病は慢性に炎症をきたし,再燃と寛解を繰り返す炎症性腸疾患である.両疾患ともに国の難病に指定されており,厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班により診断基準・治療指針(以下,「潰瘍性大腸炎診断基準」)が作成されている.本稿では研究班の作成した診断基準,病型,重症度を中心に,海外で頻用されている分類なども含めて概説する.
本邦における2015年の結腸・直腸・肛門がんの死亡数は男性が2万7,027人,女性2万3,083人であり,がん死亡全体のおよそ12%と15%を占める1).大腸がんの罹患率は50歳前後から高くなり,高齢ほど高い.他の危険因子として赤肉摂取,飲酒,喫煙の他,体脂肪増加,腹部肥満,高身長と大腸がんの家族歴があげられている.早期がんは自覚症状に乏しいが,左側結腸がんや直腸がんは進行すると血便,便狭小化,残便感を認める.右側結腸がんは自覚症状を認めないことがあるが,血便や貧血を伴うことがある.
慢性便秘症は,病院や診療所あるいは診療科にかかわらず,遭遇するcommon diseaseであり,著しく患者の日常生活や労働生産性を損ない,QOLを低下させることが知られているため,迅速かつ適切に治療すべき疾患である1,2).これまでの本邦での便秘診断は,排便回数の減少や排便間隔の乱れ,あるいは便の固さや排便困難感・残便感などの便秘に関連する腹部症状から,多くの医師が自身の経験則に基づいて診断をしており,明確な定義に基づいて診断されているケースは少ないと考える.実際,日本内科学会や日本消化器病学会など複数の学会が便秘に関して独自の基準を提唱している(表1).
2020年に過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の診療ガイドラインが第2版に改訂された(以下,ガイドライン2020)1).IBSの診断にRome Ⅳ基準は有用かというclinical question(CQ)に対して,ガイドライン2020では有用であると回答されている.国際的な診断基準としてRome基準は広く用いられており,わが国からもRome基準に準拠したエビデンスを積極的に発信することが推奨される.最新の基準は2016年に発表されたRome Ⅳ基準である(表1)2).
急性肝炎は,感冒様症状,食思不振,倦怠感などの非特異的症状で発病することが多く,的確な病型診断と治療がなされれば予後良好な例も多いが,一方で,重症化をきたし急性肝不全へ移行する例もある.また,肝炎以外の原因で急性肝不全を発症することもある.
慢性肝炎とは慢性的に肝臓に炎症を生じる疾患で,肝炎が6ヵ月以上持続していることが,慢性肝炎の定義とされる.放置進行すると肝硬変にいたり生命予後に関連する.原因としてはB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV),自己免疫性肝炎などがある.非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)は,いわいる慢性肝炎と定義すべきか議論があるが,慢性的に肝細胞の脂肪沈着とともに炎症が持続することから,本稿ではNASHを含めて概略を示す.
肝硬変とは,長期にわたる肝組織の壊死・炎症~再生により組織学的に偽小葉を形成したものであり,慢性肝炎あるいは慢性肝障害の終末像である.肝硬変を強く疑わせる身体所見として,くも状血管腫,女性化乳房,黄疸,下腿浮腫,腹水,腹壁静脈の怒張,肝右葉の萎縮,肝左葉の腫大,脾腫などがあげられるが,これらは初期の代償性肝硬変で認められないことが多い.
肝に原発する悪性腫瘍には,肝細胞がん,肝内胆管がん,混合型肝がんなどがあるが,肝細胞がんと肝内胆管がんがほとんどを占め,さらにわが国の肝原発悪性腫瘍の9割以上が肝細胞がんである.本稿では,肝細胞がんを中心に一部肝内胆管がんについても触れる.
膵炎の診断基準は2008年に厚生労働省研究班により定められ,特徴的な上腹部の急性腹痛発作と圧痛,膵酵素の上昇ならびに膵臓の画像所見を総合的に判断して行い,これら3項目のうち2項目以上を満たせば診断するとしている1)(表1).2012年の改訂アトランタ分類2)でも同様の評価方法を選択しており,世界的に同様の診断方法が採択されている(表2).
慢性膵炎は,膵臓の内部に不規則な線維化,細胞浸潤,実質の脱落,肉芽組織などの慢性炎症が生じ,膵臓の外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である.近年,慢性膵炎の発症から進展のメカニズムが機械論的に論じられるようになり,Whitcombら1)は「mechanistic definition」とよばれる新しい慢性膵炎の発症進展に関わる考え方を示した.これは,危険因子を有する個人が,急性膵炎を繰り返すことで膵臓の機械的障害が持続的に起こり,早期慢性膵炎を経て慢性膵炎確診例にいたるという考え方である.この考え方を基とし,このたび10年ぶりに慢性膵炎臨床診断基準が改訂された(「慢性膵炎臨床診断基準2019」)2).
膵がんは近年増加しているがんの一つである.本邦におけるがんの死因1)において,膵がんは全体で4位であり,男性で4位,女性で3位となっている.また,年別罹患者数は2010年には3万人を超え,30年前の10倍以上となっている.膵がん全体の5年生存率は7%程度と固形がんのなかでも最も予後不良の一つとされ,罹患率と死亡者数がほぼ同数であることも難治がんとされるゆえんである.したがって,膵がんの予後改善のためには早期に発見・診断し,根治・治癒を期待し得る唯一の治療法である手術を迅速に行うことが求められている.
近年,画像診断の進歩および健康増進への関心の高まりから日常臨床において膵囊胞性病変に遭遇する機会が増えている.とくに健康診断や人間ドックで行われる画像検査,あるいは他疾患の精査・経過観察で行われる画像検査などによって偶発的に診断される無症候性膵囊胞性病変は増加の一途をたどっている.「膵癌診療ガイドライン2019年版」1)においても,膵囊胞性病変は,早期診断が困難な膵がんの高危険群であるとともに膵がんの間接所見の可能性もあることから,その認知度が高まっている.
食道アカラシアは,下部食道括約筋の弛緩不全と食道体部の蠕動障害を認める原因不明の食道運動機能障害と定義される1).
自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)は中年女性に好発する原因不明の進行性の炎症性疾患である.AIHでは抗核抗体や抗平滑筋抗体,肝腎ミクロゾーム1抗体などの自己抗体や高γグロブリン血症が認められ,これらの所見が診断に有用である.
診断は厚労省調査研究班の提言「原発性硬化性胆管炎診断基準(2017年版)」1)に沿って進める(図1).IgG4関連硬化性胆管炎(診断は文献2)参照),発症の原因が明らかな二次性の硬化性胆管炎(診断は文献3)参照),胆管がん(とくにdominant stricture4,註)の鑑別が必要)などの悪性腫瘍の除外が必要である.
原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)は中高年女性に好発する胆汁うっ滞性肝疾患で,病因・病態に自己免疫学的機序が想定されている.初発症状として皮膚瘙痒感を呈することが多く,一部の症例は徐々に黄疸や門脈圧亢進症状が出現していくが,血液検査で軽度の肝機能障害を有するだけの無症状の症例も多い.
消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)は免疫学的検索によって得られる病理学的診断名であるため,多くの疾患を含む粘膜下腫瘍のなかから特定する必要がある.
大腸ポリープは「大腸内腔に向かって限局的に隆起する病変で,組織学的には良悪性は問わない」と定義される1).組織学的には,通常型腺腫,鋸歯状腺腫,腺癌,過形成性,炎症性,過誤腫性,間質性,リンパ組織性,内分泌性,その他に分類される.
膵・消化管神経内分泌腫瘍(gastroenteropancreatic neuroendocrine neoplasms:GEP-NEN)は,高分化型で比較的進行の遅い神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET),低分化型で進行の速い神経内分泌がん(neuroendocrine carcinoma:NEC)に大別される.
好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders:EGIDs)は慢性の消化管アレルギー性疾患であり,好酸球の有意な浸潤を認める部位により,食道に限局する好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE),胃に限局する好酸球性胃炎,大腸に限局する好酸球性大腸炎,複数の消化管にみられる好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis:EGE)に分類される.
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は原因を問わず腎障害や腎機能の低下が持続する疾患である.CKDが進行すると末期腎不全となり透析や腎移植などの腎代替療法が必要になる.また,死亡および心血管障害による死亡のリスクも上昇する.このため健康診断やかかりつけ医の診察によってCKDを早期に診断し,腎臓内科専門医との連携によって末期腎不全への進行を防ぐことが重要である.
ネフローゼ症候群は,腎糸球体係蹄の障害により大量の尿蛋白とこれに伴う低アルブミン血症や浮腫を特徴とする症候群である.このうち,明らかな原因疾患がないものを一次性,原因疾患があるものを二次性に分類する.本症候群では,大量の尿蛋白,低アルブミン血症・低蛋白血症に起因する浮腫,胸水,腹水,体重増加,脂質異常症,凝固線溶系異常とそれに伴う血栓症,免疫機能低下とそれに伴う感染症,腎機能低下などさまざまな病態を呈する.腎予後は蛋白尿の程度に相関するため,尿蛋白量の減少が治療の目標となる.
IgA腎症は慢性糸球体腎炎のなかでも最も頻度が高く,腎生検による診断のうち40~50%を占める.若年に好発し,緩徐ではあるが確実に進行し,未治療の場合約20年で40%前後が腎死にいたるため,その病型分類や重症度の解釈,治療法の選択は非常に重要である.
急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は,「腎炎を示す尿所見を伴い,数週から数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行する症候群」と定義される1).腎炎を示す尿所見とは,糸球体性血尿(多くは顕微鏡的血尿,時に肉眼的血尿も認められる),蛋白尿,および尿中に赤血球円柱,顆粒円柱を認める場合を指す.RPGNは無治療であれば多くが末期腎不全にいたる予後不良の疾患群である.
1.急性腎障害とは
以前使用されていた急性腎不全(acute renal failure:ARF)という呼称は統一した診断基準がなく「腎臓の機能が日または週単位で急激に低下し,腎臓での老廃物の排泄不全が生じ,尿毒素の蓄積・体液や電解質バランスが破綻した状態」,「血清クレアチニン値が2.0~2.5mg/dL以上に上昇(基礎の血清クレアチニン値に上昇がある場合には前値の50%以上の上昇),もしくは血清クレアチニン値0.5mg/dL/日以上,または尿素窒素10mg/dL/日以上の増加が数日にわたって続くもの」などを参考として診断していた.
糖尿病性腎症は,細小血管障害に分類される糖尿病性慢性合併症の一つである.腎症が進行して末期腎不全にいたると透析療法あるいは腎移植が必要となる.日本透析医学会の統計調査によると,わが国で2019年に慢性透析療法を導入された患者3万8,557名および同年末の全透析患者33万2,599名のうち,それぞれ1万6,019名(41.6%)および12万9,968名(39.1%)が糖尿病性腎症患者であり,いずれにおいても最も多い慢性腎臓病である.なお,透析導入にいたる糖尿病性腎症患者は最近まで増加の一途であったが,この数年間ほぼ横ばいで推移している.ただし,透析を受けている糖尿病性腎症患者の総数は,いまだ増加傾向にある.
ループス腎炎は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)による重要臓器障害の一つであり,臓器不全や生命予後に関連するため,早期診断から寛解および寛解維持を目標とした適切な治療戦略が求められる.SLEに伴う腎障害は多彩であり,ループス腎炎以外にも抗リン脂質抗体を背景とした血栓や血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA),高血圧性腎硬化症や糖尿病性腎症などの非ループス腎炎の合併が起こり得るため,鑑別を要する.
多発性囊胞腎には常染色体優性遺伝性多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)と常染色体劣性遺伝性多発性囊胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease:ARPKD)がある.内科領域では前者がほとんどであり,本稿ではその診断基準・病型分類・重症度を示す.ADPKDは3,000~7,000人に1人の頻度で発症する最も頻度の高い遺伝性腎疾患であり,加齢とともに囊胞が両腎に増加,進行性に腎機能が低下し,60歳までに約半数が末期腎不全にいたる.
腎硬化症(nephrosclerosis)とは,歴史的には病理学的知見に端を発するが,現代においては高血圧を背景とした臨床病名として用いられることが多い.“高血圧性腎硬化症” と,高血圧との関連性を明記する用語も頻用されており,こうした疾患概念を基に解説する.
本邦の透析導入患者の原疾患割合1)は,かつて圧倒的な第1位であった慢性糸球体腎炎を,1998年に糖尿病性腎症が上回って久しい.ところが,両疾患ともその割合が減少する一方で,腎硬化症は著しい増加を呈し,2019年には慢性糸球体腎炎を抜いて第2位(16.4%)となった.
1.腎細胞がんの臨床診断
腎細胞がんは主に尿細管に由来する上皮性悪性腫瘍であり,病理組織学的には腺がんに分類される.男女比は約2:1で男性に多い傾向にあるとされている.腎細胞がんの確定診断はCT検査にて行われ1),生検は組織型の確定診断が必要な場合に推奨されている.近年の画像診断の進歩と普及に伴い,人間ドックや健康診断,あるいは他疾患の精密検査目的で撮影された画像検査によって,無症状で偶発的に発見される腎腫瘤の頻度が増加している.
紫斑病性腎炎は従来Henoch-Schönlein紫斑病性腎炎(Henoch-Schönlein purpura nephritis:HSPN)とよばれていたが,2012年のChapel Hill Consensus ConferenceにてHenoch-Schönlein紫斑病(Henoch-Schönlein purpura:HSP)がIgA血管炎に名称変更され,全身の最小動脈~毛細血管を病変の主座とする免疫複合体型小型血管炎を本態とするIgA血管炎に伴う腎炎と定義された.
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)は,全身の細小動脈以下の血管内皮障害と広範囲にわたる血小板血栓により,さまざまな程度の臓器障害を生じる病態である.原因不明の溶血性貧血や血小板減少を認めた場合に,本疾患を鑑別にあげる必要がある1).
IgG4関連腎臓病(IgG4-related kidney disease:IgG4-RKD)は,全身疾患としてのIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)における腎病変と考えられている.IgG4-RDは全身のさまざまな臓器に病変を形成する疾患であり,過去においては自己免疫性膵炎,後腹膜線維症,間質性腎炎,涙腺・唾液腺炎(Mikulicz病)などとして臓器別に診断,治療がなされてきた.
Alport症候群(Alport syndrome:AS)は,眼球異常,聴力異常,腎機能障害を特徴とする遺伝性疾患である.遺伝性疾患としての側面が強く,COL4A5が原因遺伝子であるX染色体連鎖型が80%,COL4A3もしくはCOL4A4が原因遺伝子である常染色体型(優性と劣性いずれもある)が10%,孤発例(突然変異)が10%である.
尿細管アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)とは,尿細管構成細胞の異常によりアニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスをきたす疾患である.RTAは酸排泄障害による1型RTA,重炭酸再吸収障害による2型RTA,酸排泄障害のなかでもアルドステロン量低下もしくは反応性低下が原因である4型RTAに分類される.
腎間質に炎症性細胞浸潤と浮腫をきたし,急性腎障害を呈する疾患群であり,全身倦怠感や食思不振など非特異的な症状(時に,無症候性)を呈する.急性間質性腎炎の病因は多彩であるが,昨今の高齢化と医療の進歩により抗菌薬や消炎鎮痛薬,造影剤,抗悪性腫瘍薬などの薬剤に起因することが多い.
Fabry病は,X連鎖劣性の遺伝性疾患として古くから知られているが,遺伝子解析や治療法の進歩1)により,その臨床概念は最近変わってきている.
コレステロール結晶塞栓症(cholesterol crystal embolism:CCE)は,主に大動脈壁の動脈硬化性プラークが何らかの原因により破綻し,その内容物であるコレステロール結晶が末梢の小・中動脈に飛散し,物理的閉塞による虚血と炎症性反応により臓器障害を引き起こす疾患である.
「心不全」とは「何らかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」と定義される.
Ⅰ.狭心症
狭心症とは,古典的には心筋への血流減少を介する心筋虚血によってもたらされる胸痛などを伴う一連の症候群を指す.症状のパターン(胸痛の頻度,回数,持続時間など)により,安定あるいは不安定狭心症とよばれる.不安定狭心症は,1992年にFusterらが発症機序により,急性心筋梗塞とともに急性冠症候群とよばれる疾患概念として包括することを提唱1)し,現在にいたっている.
急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)は,急性心筋虚血に伴い心筋傷害が起きて心筋が壊死する病態を指す.本邦をはじめ欧米のガイドラインでもAMIだけでなく,不安定狭心症(unstable angina:UA),虚血による心臓突然死を包括した疾患概念である急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)として記載されている.
心筋症は,心機能障害を伴う心筋疾患と定義される.日本循環器学会の「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」では,原発性(以前からの特発性)心筋症を,肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM),拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM),拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy:RCM),不整脈原性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy:ARVC)の四つに分類されているが,これら四つの基本病態の一部は重複しており,相互に鑑別が困難なこともしばしばである1).
Ⅰ.僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)は左室から左房へ血液が逆流する疾患である.身体所見からは心尖拍動が左下方に偏位し,心尖部に最強点を有する全収縮期雑音とⅢ音を聴取することから疑う.重症MRでは拡張中期ランブルが出現する.心エコーのカラードプラ法で左室から左房への逆流を認めればMRの診断となる.
大動脈弁膜疾患には,大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)と大動脈弁閉鎖不全症(aortic regurgitation:AR)がある.大動脈弁膜疾患は高齢者で多く認められ,とくにASの場合は65歳から頻度は増加し,75歳以上の高齢者の約6%に認められると報告されている1).外科技術の向上や経皮的大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)の登場により,大動脈弁膜疾患の治療はより低侵襲で行えるようになった.
上室性不整脈は,心室より上位の部位が不整脈の機序に関与するものを指し,心電図では一般的にQRS幅が3mm(0.12秒)未満のnarrow QRS波形を呈する.ただし,上室性不整脈であっても,心室内変行伝導によりQRS幅が3mm(0.12秒)以上のwide QRSとなることもあり,そのような症例では,心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)などの心室性不整脈との鑑別が必要となる(表1).
1.心室頻拍の定義
心室頻拍(ventricular tachycardia:VT)は心室を起源とする,心拍数100/分以上の頻拍である.電気生理学的にはHis束より遠位の心室を起源とする頻拍である.心室起源を示唆する心電図所見として,QRS幅が広い(>120ms).突然死の可能性がある致死的な不整脈として,緊急治療を要することも多く,診断より治療が優先される.
刺激伝導系は房室結節から右線維三角を貫通する貫通部His束に移行し,房室弁輪を越え心室内に入り,膜性部心室中隔にいたる.His束は心室内に入った直後に左脚後枝が分かれ,その後,左脚前枝と右脚に分かれ,それぞれ乳頭筋に向かう.心室内刺激伝導系は,心内膜側に存在するPurkinjeネットワークを介するが,Purkinjeネットワーク内の興奮伝導速度は4m/秒といわれており,心室筋が1m/秒であるのに比較すると非常に速い.
高血圧の診断基準は,日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」において明確に数値化されている1).分類は,「正常血圧」から血圧上昇に応じて「正常高値血圧」「高値血圧」「Ⅰ度高血圧」「Ⅱ度高血圧」「Ⅲ度高血圧」となる.注意すべき点は,「正常血圧」と比較して「正常高値血圧」では脳心血管疾患発症リスクが上昇し,「高値血圧」ではさらに上昇することである.
末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)は冠動脈以外のさまざまな末梢血管(頸動脈,腹部内臓動脈,四肢動脈,大動脈)の血流供給低下により生じる疾患であり,その原因は動脈硬化,血管炎,外傷,解剖学的走行異常,形成異常などさまざまなものがあげられる.本稿においては,発症頻度が高い四肢動脈,とくに下肢動脈に生じる閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)について解説する.
日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドラインである「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」(以下,JCSガイドライン)が2020年に改訂された.国内と海外のガイドラインでは若干の相違があるが,本稿ではJCSガイドラインに沿って大動脈瘤,大動脈解離について解説する.
先天性心疾患(congenital heart disease:CHD)は発生の段階で心臓に何らかの構造的な異常を生じた疾患の総称であり,軽微な狭窄病変から複雑心奇形まで疾患の幅は非常に広い.また,心機能や弁逆流の有無,外科的手術介入の有無などの要素が絡み,臨床像も非常に多彩である.このため画一的な診断基準は存在しない.
心臓性急死は,心臓突然死ともいい,「急性の症状が発症した後,1時間以内に突然意識喪失をきたす心臓に起因する内因死」と定義される1).基礎疾患の有無によらず,発症の仕方も時期も予測できない突然の死亡である.
急性冠症候群は,① ST上昇型心筋梗塞,② 非ST上昇型心筋梗塞,③ 不安定狭心症,の三つのタイプに分けられる.① および ② は,心筋逸脱酵素であるトロポニン値の上昇を認める.
1.診断指針と診断手順1)
日本循環器学会の「2016年版 心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン」の診断指針に従って,診断する(表1).診断の基本は,① 乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫,② 各臓器に特徴的な臨床所見,③ サルコイドーシスに特徴的な検査所見,の三つの柱からなる.
心アミロイドーシスは,アミロイドの心臓への沈着により心機能障害を生じる病態である.その前駆蛋白質により分類され,それぞれに特徴があるが,わが国では,心内膜下生検でのアミロイドの沈着と免疫染色が必要である.
特発性心室細動は,心エコー,心臓MRI,冠動脈造影などで器質的に異常を認めない心室細動(ventricular fibrillation:VF)である.
ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)は,血小板第4因子とヘパリンの複合体を標的とする血小板活性化抗体によって媒介される副作用である.患者は血栓塞栓症のリスクが高くなるため,早期診断・早期対応が求められる.
たこつぼ型心筋症は,1990年に,佐藤らによって最初に報告された.KawaiらTakotsubo Cardiomyopathy Study Group(TCSG,2007年)による狭義の「たこつぼ型心筋症」と,広義のMayo Clinic criteria(2008年)がそれぞれ診断基準を示している(表1).
失神は「一過性の意識消失の結果,姿勢が保持できなくなり,かつ自然に,また完全に意識の回復がみられること」と定義される1,2).
急性上気道炎の診断基準は存在しない.2003年発行の日本呼吸器学会による「成人気道感染症診療の基本的考え方」では,急性上気道炎,いわゆる「風邪症候群」について,「鼻腔から喉頭までの気道を上気道というが,本症はこの部位の非カタル性炎症であり,最も頻度の高い呼吸器感染症である」と述べられている1).実臨床では,気道症状だけでなく,急性の発熱や倦怠感,種々の体調不良を「風邪」と認識して医療機関を受診する患者が少なくないことには留意を要する.
国内外の主要なガイドラインにおいてインフルエンザの明確な診断基準は提示されていない.一般に,流行期に急性の発熱,咳嗽,筋肉痛,倦怠感といった特徴的な症候や肺炎を発症している患者において,曝露歴や身体所見,ウイルス検査などの情報を総合して診断にいたる.症状は咳嗽の出現頻度が最も高く1),発症早期から咳嗽症状が目立ち,倦怠感などの全身症状が顕著であることが感冒との鑑別に有用である.また,高熱も感冒ではみられにくいため,高熱患者では安易に感冒の診断をつけず,インフルエンザなどの高病原性のウイルスや肺炎などの細菌感染症を検討する必要がある.
市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)とは,病院外で日常生活をしている人に発症する肺炎であり,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)および院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)を含まない,とされている1).肺炎が発症したタイミングや施設を明記するのは,耐性菌の要素をどの程度考慮すべきなのか,という初期診療内容に直結する.HAPは,入院後48時間以上経過した患者に新たに出現した肺炎であり,定義は明確である.
2016年に米国胸部学会(American Thoracic Society:ATS)と米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)が院内肺炎(hospital-aquired pneumonia:HAP),人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)の合同ガイドラインを発表した1).本稿では,同ガイドラインを基にHAP,VAPの診断,抗菌薬選択の考え方について述べる.
感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は,弁膜や心内膜,大血管内膜に疣贅(vegetation)を形成し,持続菌血症・血管塞栓・心不全などの多彩な臨床症状を呈する全身性敗血症性疾患であり,年間10万人当たり3~7人に発生する比較的まれな感染症である1,2).症状は,発熱が最も頻度が高く(90%以上),そのほか悪寒,食欲低下,体重減少,倦怠感,頭痛,関節痛など非特異的なものが多いため,症状のみでIEの可能性を想起することは難しい.
下痢症の定義についてはさまざまな意見があるが,一般に24時間以内に3回以上の緩い排便または水様性排便があるものを下痢症としている1).単なる固形便の複数回通過だけでは定義上,下痢症に当てはまらない.下痢症のうち,細菌やウイルスや寄生虫など微生物による下痢症を感染性下痢症とよぶ.感染症によらない下痢症は非感染性とされ,浸透圧性(下剤など腸管内に浸透圧の高いものがあることによって,水分が吸収されずに下痢となる)やぜん動運動性(食事の極端な変化や環境の極端な変化による腸管運動の亢進)や,感染性以外の分泌性(アレルギーや薬剤など)などがあげられる.
敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義される.感染症に対する生体反応が制御不十分となり臓器障害が引き起こされた状態で,生命の危険がある重症病態である1).
HIV感染症は,レトロウイルスの1種であるヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)の感染により,慢性進行性の細胞性免疫不全をきたす疾患である.抗HIV療法により良好な生命予後を期待できること,未治療の状態では他者への感染性を有することから,早期診断が非常に重要である.HIVにはHIV-1とHIV-2の2種が知られているが,HIV-2の流行は西アフリカを中心とする限局的なものであり,本邦で通常みられるのはHIV-1である.
性感染症の診断は,主に病原体を検出して診断する方法と,血液検査で診断する方法に大きく分けられる(表1).
渡航後の患者の診療
渡航後に病院を受診する患者の主訴は,発熱,下痢,発疹や呼吸器症状が多い.発熱の原因は多岐にわたるため,まずは生命を脅かす重篤な疾患と,他の人に感染するリスクが高い疾患を特定し治療することが重要である1).生命を脅かす重篤な疾患には,熱帯熱マラリア,腸チフス,パラチフス,レプトスピラ症,リケッチアなどが報告されている2).死亡の原因となる疾患は,熱帯熱マラリアが最も多く,次にメリオイドーシス,重症デング熱,ツツガムシ病,脳炎が,熱帯感染症以外ではインフルエンザ,細菌性肺炎,敗血症がある1).
多剤耐性菌(multidrug resistant organisms:MDRO)とは,厳密には少なくとも2カテゴリー以上の抗菌薬に耐性を獲得した菌(とくに細菌)と定義される.しかし,多様な耐性菌が出現し蔓延するなかで,一般的に “多剤耐性” とは臨床的に重要な抗菌薬のほとんどすべてに耐性を示すことと認識されているにもかかわらず,前述の定義に従うと,たとえばciprofloxacinとampicillinの2剤にのみ耐性を示し,その他のβラクタム系やテトラサイクリン系,ST合剤などそれ以外のすべての抗菌薬に感受性を示す大腸菌もMDROとなってしまう.
C. difficileは芽胞形成し,毒素を産生する嫌気性グラム陽性菌であり,抗菌薬曝露によって通常の腸内細菌叢が破壊された後,大腸に定着する.その後,トキシンを放出することでC. difficile感染症(Clostoridioides difficile infection:CDI)を発症する1).CDIは,院内関連下痢症の主要な原因である.
壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection:NSTI)は,緊急性および重症度が高く,見逃してはならない疾患だが,早期発見に有用なマーカーや診断基準はない.臨床症状と所見から疑う必要があり,以下の所見が参考になる1).
髄膜炎とは髄膜に炎症をきたした状態であり,原因は感染症(細菌,ウイルス,真菌,寄生虫),自己免疫性疾患,悪性腫瘍,薬剤など多岐にわたる.そのなかでも以下に詳細を取り上げる細菌性髄膜炎は比較的急性(数時間~数日)の経過をたどり,死亡率が高い1).迅速な診断と治療を要する救急疾患であり,見逃さないことが重要である.
医療関連中枢神経感染症の明確な定義はないが,院内中枢神経感染症よりも広い概念として脳室シャント,脳外科手術後などに関連した中枢神経感染症を指すことが多い.
カテーテル関連血流感染症(catheter related blood stream infection:CRBSI)は血管内に留置されたデバイス(中心静脈カテーテル,末梢静脈カテーテルなど)による血流感染症である.CRBSIを診断するためには,2セット以上の血液培養を行う.このうち感染が疑われるカテーテルから1セットと,末梢静脈などから経皮的に1セット採取する.
主にがん薬物療法によって好中球減少状態になった患者が発熱をきたした状態を,発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)とよぶ.固形がんの化学療法で10~50%,血液悪性腫瘍の化学療法では80%以上で発症するとされる.
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は,自己免疫異常を背景として多臓器障害をきたす疾患である.長期間にわたって消退と再燃を繰り返しながら多彩な臨床症候を呈するため,正しく診断するには,経過中に生じる全身の所見を見逃さないことが肝要である.また,SLEでは臓器障害の部位とその程度によって治療強度は異なる.寛解または少なくとも低疾患活動性を治療目標とし,維持するには,全般的な指標と臓器別に検証された疾患活動性指標の両方を使用して病勢を把握する必要がある.
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の分類基準(表1)は診断未確定関節炎(undifferentiated arthritis:UA)のコホートにおいて「1年以内のmethotrexate(MTX)開始」を予測する臨床所見をスコア化して作成された1).実臨床の集団を対象としており,診断の目的に使用することができる.スコアリングを適用する前に ① 関節の診察ができること,② その他の疾患の除外ができることが前提となっており,自信がない場合は専門医の判断を仰ぐべきとされている.
全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は,皮膚硬化を特徴とする原因不明の結合組織疾患である.従来,皮膚の硬化があり,そのほかに種々の内臓病変や血管障害が生じると考えられていた.しかしながら,近年,皮膚硬化が軽度あるいはない状態でも,SSc特異的自己抗体が出現し,重症の血管障害を呈する病態が存在することがわかってきた.1980年の米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)の分類基準1)(表1)では診断できない1群があり,その基準の見直しが必要であるとされてきた.
多発性筋炎(polymyositis:PM)と皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は,1975年のBohan and Peterの分類基準が長期にわたり用いられて診断が行われてきた.しかし,近年,筋症状がほとんどない無筋症性皮膚筋炎(amyopathic dermatomyositis:ADM)が報告され,炎症性筋症に特異的な自己抗体が多く発見されるにいたり,新たな分類基準が提唱されることとなった.2016年に厚生労働省指定難病としての認定基準として日本独自の分類基準が提唱され,2020年に小児も含めた基準に改定されている(表1).
好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibodies:ANCA)関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)は,血管に炎症が起こり,さまざまな臓器障害をきたす血管炎という疾患概念のなかで,ANCA陽性を特徴としてMPO-ANCAあるいはPR3-ANCAが病態に深く関与する疾患群である.2012年のChapel Hill Consensus Conference(CHCC2012)の分類ではANCAがその病態と関連する主に小型血管が障害され,免疫複合体の沈着がないか乏しい(pauci-immune型)壊死性血管炎を特徴とする血管炎と定義される1).
血管炎は血管壁の炎症と破壊によって特徴づけられる病態であり,その結果,血管が支配する臓器の障害が生じ得る.血管炎は種々の疾患によりさまざまなサイズの血管で生じ得る.主に使用されている分類は,現在,Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)2012分類である1).
本邦においてSjögren症候群(Sjögren syndrome:SS)は2015年1月1日より指定難病となり,診断基準として1999年の厚生省改訂診断基準(表1)1)が採用されている.このほか,国際的には2002年に米国・欧州改訂分類基準,2012年に米国リウマチ学会分類基準,2016年に米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会の一次性SS分類基準(表2)2)が発表されている.
Behçet病(Behçet’s disease:BD)は1937年にトルコのBehcetによって提唱された難治性疾患で,再発性の口腔アフタや陰部潰瘍,眼病変,皮膚病変,消化管病変,神経病変,血管病変や関節炎などの全身症状を特徴とする.
巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は大型から中型の動脈を首座とする巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎で,その好発部位が外頸動脈の終枝である浅側頭動脈であることから,以前は側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)とよばれていた.しかし,病変は頸動脈や椎骨動脈およびその分岐血管である眼動脈や顎動脈にもみられることや,病変部の動脈生検で巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎を呈することが高率であることなどから,現在ではGCAに統一されている.
リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)は主に65歳以上の高齢者(50歳未満の発症はほとんどない)で男女比は1:2~3と女性により多くみられる原因不明のリウマチ性疾患である.主症状は体幹近位部の上肢帯,下肢帯の筋痛とこわばりで,とくに両肩の疼痛と挙上困難が中核的な症状である.症状の程度に個人差はあるものの,典型的には数日以内に急速に悪化して日常生活が困難になるため,入院として高齢発症の関節リウマチ,偽痛風,線維筋痛症などを含めた鑑別診断を行ったうえで診断する.
成人Still病は発熱・皮疹・関節痛・リンパ節腫脹・脾腫などの症状を特徴とする全身性疾患である.1987年にStillにより報告された小児疾患であるStill病を,成人が発症した場合に成人発症Still病とよぶ.小児発症で成人まで遷延した例と合わせて成人Still病とよばれる.
多発性筋炎,皮膚筋炎に代表される特発性炎症性筋疾患では,特異的な自己抗体が出現することが知られている.とくに,他の膠原病でよく認められる抗核抗体ではなく,細胞質に存在する蛋白に対する自己抗体が認められることが30年以上前から知られていた.代表的な自己抗体が,抗Jo-1抗体であり,以前から日本においても医療保険にて測定が可能であった.
高安動脈炎は原発性全身性血管炎のなかでも,巨細胞性動脈炎とともに大血管炎を呈する代表的な疾患である.患者数は約6,000人,男女比は1:9,発症年齢のピークは女性20歳前後,男性ははっきりとしたピークはなく,ほとんどの場合10~40歳代に発症する.年間新規患者数は200~300名程度と推定されている.
IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は,全身性の慢性炎症性硬化性疾患であり,高IgG4血症と臓器への多数のIgG4陽性形質細胞(IgG4+PC)浸潤を特徴とする.高齢男性に好発し,時に気管支喘息,アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を伴う.30~40mg/日のprednisoloneが著効するが,約30%の症例で再燃する.
乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA,従来は関節症性乾癬と呼称されていた)は乾癬患者の約15%に認められ,皮疹が10年程度先行する場合が多いが,関節炎の同時発症や先行発症もある.
脊椎関節炎(spondyloarthritis:SpA)は,主に脊椎や仙腸関節,手指や足趾などの四肢末梢の関節,腱や靱帯の付着部などに慢性的な炎症をきたす疾患で,ぶどう膜炎や指趾炎,炎症性腸疾患,乾癬などの合併がみられる.
脳血管障害は出血性と虚血性に大別される.脳実質に出血するものが脳内出血,脳実質を覆う硬膜・くも膜・軟膜のうちくも膜の内側(くも膜下腔)に出血するものがくも膜下出血,そして虚血性脳血管障害は虚血により脳実質の壊死を伴うものが脳梗塞,壊死にいたらずに回復するものが一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)である.
認知症(dementia)は,一度獲得された認知機能が後天的に障害されることを意味する単語である.認知症を明確に定義した診断基準としては,2011年に提唱された米国国立加齢研究所・Alzheimer協会によるNIA-AA診断基準1)と,2013年に改訂された米国精神医学会によるDSM-52)が頻用される.NIA-AA診断基準では,認知症は二つ以上の認知機能や行動の障害を認め,仕事や日常生活の障害を伴い,以前と比して遂行機能が低下し,それらはせん妄や他の精神疾患では説明できないと定義される.
1988年に国際頭痛学会の頭痛分類と診断基準1)が刊行されたことにより,頭痛診断が標準化され,科学的な研究成果,治療経験を各国の研究者が共有して比較検討することが可能になった.新しいエビデンスに基づき,2004年には国際頭痛分類第2版2)(International Classification of Headache Disorders 2nd Edition:ICHD-2),2013年にはICHD-3β3)が発表された.2018年にはICHD-3βが改訂され,ICHD-34)が発表された.
てんかんとは,大脳神経細胞の異常興奮に伴う症状(=てんかん発作)を繰り返す慢性疾患の名称である.てんかんには診断基準とよばれるものはないが,国際抗てんかん連盟(International League Against Epilepsy:ILAE)が2005年に「概念的定義」を1),2014年に「実用的臨床定義」を定めている(表1)2).
Parkinson病(Parkinson’s disease:PD)は65歳以上の1%が罹患するAlzheimer病に次いで頻度の高い神経変性疾患である.PDに特徴的な病理学的所見は,中脳黒質におけるドパミン神経細胞脱落と残存神経細胞内におけるLewy小体(Lewy body:LB)の出現とされる.一方,LB病理は中枢神経系のみならず末梢自律神経系にも広く出現することが近年明らかとなり,PDは全身病と解釈されるようになってきている.
1.El Escorial改訂Airlie House診断基準(表1)
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は,上位(一次)運動ニューロン(upper motor neuron:UMN)および下位(二次)運動ニューロン(lower motor neuron:LMN)の選択的変性により,進行性の全身の筋力低下を呈する神経変性疾患である.
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,中枢神経内に炎症性脱髄病変が時間的および空間的に多発する疾患である.自己免疫による炎症によって脱髄が惹起されると考えられているが,詳細な病態はいまだ不明である.20~30歳代の若年成人,とくに女性に多く発症し,わが国での有病率は人口10万人当たり10.8~18.6人と推測されている1,2).近年,わが国ではMSの有病率が上昇しており,MSを早期に診断し,その病型や重症度を把握することは治療方針を決めるうえで重要である.
Ⅰ.多系統萎縮症
1988年に多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)に関するコンセンサス会議で診断基準が策定され,2007年の第2回コンセンサス会議で改訂が行われた1).診断の確からしさは,definite,probable,possibleの3段階に分類された(表1).
主な髄膜炎,脳炎の診断基準を示す.
1.細菌性髄膜炎1)
髄液一般検査での初圧上昇と多形核球優位の細胞増加,髄液糖の低下(髄液糖/血糖比≦0.4),蛋白濃度の増加は細菌性髄膜炎を強く疑わせる所見である.髄液の正常値と各種髄膜炎の髄液所見を表1に示す.
炎症性筋疾患(多発筋炎/皮膚筋炎)は自己免疫学的機序により筋組織自体に変化をきたす疾患である.本邦での2009年度厚生労働省特定疾患治療研究事業における臨床調査個人票受給者総数は1万7,000人であり,現在は2万人超と推定される.成人における発症年齢のピークは50歳代であり,男女比は約1:2.6と女性に多い.
良性発作性頭位めまい(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)は,日常臨床で最も遭遇する頻度の高い末梢性めまい疾患である.日常生活動作で強いめまいと眼振が誘発されるが,予後は一般に良好である.
「不随意運動」とは診断名ではなく症候名であり,意思によらず生じる体の動きを指す1).てんかん発作による痙攣もこの定義に当てはまるが,慣例上含めないことが多い.代表的な不随意運動には,表1のようなものがある.
2020年3月1日に出版された「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン第3版」1)の診断基準(抜粋)を紹介する.このガイドラインでは,特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)を確度に応じて4段階に分類している.
Bell麻痺は急性かつ一側性の末梢性顔面神経麻痺のうち最も頻度の高い病態(約70%)であり,1829年のスコットランドの神経解剖学者Sir Charles Bellによる3症例の報告にちなんで名づけられた.年齢,性差に関係なく生じ,年間10万人当たり11.5~53.3人の頻度で発症するとされている1).
急性の眼球運動障害では,眼筋自体の障害,重症筋無力症による神経筋接合部の障害,核・核下性あるいは核間・核上性障害の鑑別が必要であるが,ここでは脳神経麻痺による代表的な2疾患を取り上げる.
神経系を侵す自己免疫疾患のなかで,重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は最も頻度の高いものである.治療法の進歩に伴い患者の致死率は劇的に減少したが,いまだに生活の質という意味ではまだまだ問題は山積している.
脊髄小脳変性症とは,小脳と,それに関係する脳の系統が緩徐に障害される神経疾患の総称である.小脳の障害は多くの場合,体のバランスを崩すなどの小脳性体幹失調を示す.
副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)はABCD1遺伝子を原因遺伝子とするX連鎖性の神経変性疾患で,副腎不全を伴うこともある.同一家系内でも多彩な臨床病型を示す.小児大脳型,思春期大脳型,成人大脳型はそれぞれ小児期,思春期,成人期に大脳の炎症性脱髄が急速に進行し予後不良である.
Guillain-Barré症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は,上気道炎や胃腸炎などの感染やワクチン接種などの先行イベントの10~14日後に,急性に進行する運動麻痺をきたす免疫介在性の末梢神経障害であり,臨床経過と神経学的所見が診断の中核をなす1).
甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症,橋本脳症の三つに分類することができる.
1.薬理学的特徴
カフェイン(1,3,7-trimethylxanthine)は,最も社会的に許容されている中枢神経興奮薬である.カフェインを摂取すると,意欲や注意力,集中力が増し,眠気や疲労感が緩和される.こうした薬理作用は,カフェインが神経系のアデノシン受容体に拮抗的に作用することによって引き起こされる.カフェインの効果発現はかなり明瞭なものであり,たとえ30mg以下の少量であっても,気分と行動に影響を与える.
ベンゾジアゼピンは不安や不眠に対して処方されている薬剤である.常用量と致死量に乖離があるため安全性の高い薬剤として活用されている.代表的なベンゾジアゼピン系薬剤(表1)としてはdiazepam,triazolam,alprazolamなどがある.チエノジアゼピン系もベンゾジアゼピンのベンゼン環をチオフェン環に置換した構造をしており,ベンゾジアゼピン受容体結合部位に作用し,ベンゾジアゼピン系と同様の作用を有する.代表的な薬物としてはbrotizolam,etizolamがある.
Ⅰ.抗うつ薬中毒
抗うつ薬には三環系や四環系が用いられてきたが,これらの薬剤は副作用として便秘,口渇,排尿障害,眼圧上昇などを引き起こした.近年,副作用の少ない選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI),ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant:NaSSA)が使用されるようになった(表1).
aspirin,他の非ステロイド抗炎症薬,acetaminophenによる中毒に遭遇することが多い.処方薬としてだけではなく,市販のさまざまな総合感冒薬や解熱・鎮痛薬に含有されており,容易に手に入る.
一般的に急性薬物中毒とは,化学物質の毒性によって生じた生体の急性有害反応と定義される.
薬物中毒の診断過程においては,血液・胃液・尿などの生体試料を用いた薬物定量検査,とくに薬物血中濃度測定が有用である.しかし,測定対象が不明確であることも多く,対象が絞れた場合にも院内で測定できる項目は限られていることから,測定を外部委託せざるを得ないことがほとんどである.したがって,薬物定量検査を受診患者の対応の拠り所とするには限界がある.実臨床では以下の4項目に注目して診断を行っていく.
救急外来で出会う中毒で最も多く,避けられないものに急性アルコール中毒がある.意識変容や失調症状に,大量飲酒の事実や特有のケトン臭を伴う際に疑う.血中エタノール濃度が測定可能な場合はその値が診断の一助となる.
近年のアウトドアブームで,一般人が山林などでキノコを採取して摂取することで発症する中毒が増加しており,秋(9~10月頃)に中毒患者発生がピークとなり,全体の約9割を占めている.
valproateは古くより抗てんかん薬として販売されているが,気分安定効果があり双極性障害やうつ病などにも使用されている.治療安全域は広くなく,またベンゾジアゼピン系抗不安薬やsalicylic acidなどとの併用で作用が増強するため,中毒事例が散見される.
感染症状や貧血症状などの主訴を契機として血液異常を認めることが多かったが,近年では健康診断を契機として急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)が疑われることも決して少なくない.AMLの診断確定のためには骨髄検査が必須となるが,鑑別疾患の除外も重要である.造血器腫瘍については,骨髄検査をもとに鑑別がなされるが,悪性リンパ腫や固形がん,炎症性疾患,骨髄線維化などは骨髄病理組織を用いた評価が重要となる.
急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)の75%は6歳未満の小児に発症し,成人では40歳を超えてから徐々に発症例が増加する傾向にある.総じて,10万人当たり1.5~2人の発症率で若干男性での発症が多い傾向にある.患者の自覚症状は発熱,リンパ節腫脹,全身倦怠感,出血傾向,関節痛などを訴え,約半数の症例で肝・脾腫を認める.また,中枢神経への浸潤が比較的高率に認められる疾患群である.2017年に改訂されたWHO分類をもとに診断基準・病型分類・重症度を示す1).