臨床雑誌内科 127巻3号 (2021年3月)

特集 糖尿病診療2021:日常的に包括的診療を行うために

特集のねらい 能登 洋
  • 文献概要を表示

 ライフスタイルの変容や社会の高齢化に伴い,わが国の糖尿病患者数は急増の一途をたどっている.同時に,新しい糖尿病治療薬・検査機器やそのエビデンスも増加してきている.血糖コントロールの目標値についても,古色蒼然とした “the lower, the better” という方針は過去のものとなり,個別化設定を目指すことが主体となっている.治療薬では,SGLT2阻害薬は血糖降下だけでなく心不全や慢性腎臓病の増悪抑制効果が糖尿病の有無にかかわらず示され,糖尿病以外の治療領域でも使用が浸透していくであろう.また,持続グルコースモニタリング機器や持続皮下インスリンポンプの普及により,診療スタイルも大きく変貌を遂げた.さらに,古典的合併症以外に糖尿病ではがん,歯周病,骨粗鬆症,認知症,うつ,感染症などの併発が増加することも脚光を浴びてきている.

Overview

  • 文献概要を表示

Summary

▪血糖コントロール目標と糖尿病治療は,患者それぞれに合わせて設定・選択される.

▪治療方法を選択する際は,患者の嗜好・ニーズ・価値観を尊重し,患者とともに選択していく.

▪糖尿病治療により合併症の発症・進展を阻止し,健康な人と変わらない人生を送るためには,糖尿病が原因となるスティグマをアドボガシー活動により取り除くことも重要である.

▪血糖コントロールの指標としてHbA1c値を用いるが,糖尿病の治療目標はライフステージごとに設定が必要であり,罹病期間,合併症,低血糖のリスク,サポート体制を考慮し,個別に設定する.

▪患者中心医療を実践するためにも,生活状況の詳細な問診は糖尿病治療・指導に有効である.

最新の治療薬総論 田中 隆久
  • 文献概要を表示

Summary

▪食事療法および運動療法でコントロールが不十分,あるいは不十分そうな場合に薬物療法を開始する.

▪糖尿病治療薬は,作用機序によってインスリン分泌非促進系,インスリン分泌促進系およびインスリン製剤に分類される.

▪糖尿病治療薬は,患者の病態,合併症の有無などの状況に応じて,薬剤の特徴などを考慮して選択する.「糖尿病標準診療マニュアル」も参考になる.

▪糖尿病治療薬の投与は単剤を少量から開始し,血糖値やHbA1cの推移,副作用の出現に注意しながら,必要に応じて増量,他剤を併用していく.

▪妊婦や授乳中の場合には経口薬は用いず,インスリンを使用する.

糖尿病の診断と検査

糖尿病の成因の多様化 山本 かをり
  • 文献概要を表示

Summary

▪HbA1cは,糖尿病の診断基準にも用いられる代表的な糖化蛋白であるが,平均血糖値との乖離を示す場合があることに留意する.確定診断には血糖検査が必須である.

▪近年,さまざまな疾患に対する薬物治療が多様化するにつれ,糖尿病を引き起こす原因も多様化しつつある.新たに免疫チェックポイント阻害薬による劇症1型糖尿病の発症が報告されており,注意が必要である.

▪加齢により糖尿病リスクは増加する.高齢者糖尿病の特徴を押さえ,柔軟に対応することが求められている.

  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病の診察では,糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態といった急性合併症の有無をまず確認する.

▪口渇,多飲,多尿,体重減少といった高血糖に特有の症状のほか,悪心・嘔吐などの消化器症状や感冒症状に注意し,糖尿病急性合併症を見落とさないことが重要である.

▪糖尿病罹病期間の特定のため,過去の治療歴や受診歴,健康診断の受診歴,女性では出産歴(妊娠糖尿病)を確認する.過去の体重変化や神経障害の存在からも罹病期間を推定できる.

▪高血糖の原因となり得るステロイド,抗精神病薬,免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤使用歴を確認する.

▪家族歴の聴取は,若年発症成人型糖尿病(MODY)など特定の遺伝子異常による糖尿病の同定につながる.がんの有無も確認する.

▪喫煙や飲酒の状況のみならず,職業や家族構成などの情報,食事内容や身体活動量など生活習慣を丁寧に聴取し,多職種と連携し療養指導につなげていく.

▪身体所見では,肥満(二次性肥満を含む),甲状腺腫大,神経障害,足病変の存在にとくに注意する.

最新鋭の検査機器 髙橋 紘 , 西村 理明
  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病治療における血糖管理指標の代表は外来で測定するHbA1cであり,同時に測定した血糖値も用いられる.しかし,これらから日々の細かな血糖値の推移や症状のない低血糖を把握することは困難であるため,24時間の血糖変動の可視化を可能とした持続血糖モニター(CGM)の使用が広がりつつある.

▪real-time CGMおよびintermittently viewed/scanned CGMは,とくに患者の自己管理に有用なデバイスである.これらは,HbA1cと血糖値のみを用いて調整していた糖尿病治療に,パラダイムシフトをもたらそうとしている.

▪2015年2月からreal-time CGM機能を併用したインスリンポンプ(SAP)療法がわが国でも使用可能となった.SAP療法を選択することにより,低血糖を予防し血糖変動幅を小さくする血糖コントロールが行えるようになる.

糖尿病の治療

  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病治療の98%以上は,患者のセルフマネジメントによる.

▪治療成功の鍵は,「糖尿病セルフマネジメント教育/支援」という視点から患者自身の当事者能力を高めることである.

▪医療者チームのメンバーの一人ひとりがまず患者とチームになることが最も基本であり,かつ最も重要である.

改訂版食事療法 三井 理瑛
  • 文献概要を表示

Summary

▪2型糖尿病の発症・進展の抑制に対する生活習慣への介入は有効性が示されており,食事療法はその中心である.

▪日本糖尿病学会による糖尿病診療ガイドラインが2019年に改訂され,今までのような一律な食事指導ではなく,食生活や生活様式の多様化を踏まえ,個々の患者に応じた柔軟な対応の必要性が示された.

▪身長と体重,活動量による一律な総エネルギー摂取量の設定が削除され,年齢,病態,身体活動量などによって個別化した「目標体重」と「身体活動レベルと病態によるエネルギー係数」によって総エネルギー摂取量の目安を設定し,患者のアドヒアランスや代謝状態の変化を踏まえて適宜変更することが推奨された.

どこでもできる運動療法 日吉 徹
  • 文献概要を表示

Summary

▪運動療法の必要性を説明する際の理論的背景を知っておく.

▪運動以外の身体活動を増加させることも血糖値コントロールには有意義である.

▪身体活動を現状より少しでも増やすこと(10分多く歩くなど),30分以上の運動を週2日以上行う運動習慣をもつことが推奨される.

▪有酸素運動,レジスタンス運動を組み合わせて3 METs以上の運動を,週に150分以上実施できるようにする.

▪運動療法の弊害として心血管イベント発生を避けなければならないため,必要に応じてメディカルチェックを実施する.

  • 文献概要を表示

Summary

▪欧米ではmetforminは2型糖尿病の不動の第一選択薬である.

▪単独では低血糖や体重増加をきたしにくく,わが国でも第一選択薬になり得る.

▪肥満の2型糖尿病患者において,大血管症予防効果のエビデンスがある.

▪乳酸アシドーシスを起こしやすい状況の患者には投与しない.

  • 文献概要を表示

Summary

▪DPP-4阻害薬は,インクレチン作用の増強によって血糖依存的に高血糖を是正する.

▪単剤では副作用は比較的少なく低血糖や体重増加リスクも低いため,高齢者や腎機能障害患者にも用量調整を行えば使用しやすい.

▪心血管系に対する安全性は担保されているが,優越性は示されていない.

▪水疱性類天疱瘡など一部の自己免疫疾患の発症との関連が示唆されており,本剤投与が原因と考えられた場合は中止を検討する.

  • 文献概要を表示

Summary

▪スルホニル尿素(SU)薬とグリニド薬は血糖非依存性インスリン分泌促進薬である.適応はインスリン分泌不全を主体とする非肥満2型糖尿病で,インスリン分泌能が残存している場合である.

▪SU薬は細小血管症予防のエビデンスがあり,発症早期からの投与で心血管疾患リスクの低下が示唆されている.

▪グリニド薬であるrepaglinideはmetforminと同程度の大血管症の1次・2次予防効果をもつことが示唆されている.

▪高齢者では低血糖リスクが高まるので,HbA1c値を下げすぎないようにする.

  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病治療薬としてのSGLT2阻害薬は,単に血糖値を低下させるだけでなく,体重減少,降圧,脂質改善といった効果がある.

▪大規模臨床試験によって心血管イベントリスク低下や腎保護効果も認められ,その多面的効果から糖尿病治療薬としての優先度が高まってきている.

▪SGLT2阻害薬は,糖尿病の有無にかかわらず,心不全に対する新たな標準治療としても期待されている.

▪性器感染症,正常血糖糖尿病ケトアシドーシスなどの副作用には注意が必要である.

  • 文献概要を表示

Summary

▪α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)はインスリン分泌非促進系の食後過血糖改善剤であり,炭水化物の消化・吸収に関与するα-グルコシダーゼ活性を阻害し,小腸でのブドウ糖の吸収を遅延させる.

▪小腸上部K細胞からのGIPの分泌減少,小腸下部L細胞からのGLP-1の分泌増加が期待される.

▪糖尿病の発症予防,心血管合併症発症予防,体重減少などの効果が報告されている.

▪ダンピング症候群などの特殊な病態,1型糖尿病,腎不全患者など,幅広い患者層にも有用である.

▪インスリンを含む他のすべての糖尿病治療薬と併用可能である.

▪病態に応じてacarbose,miglitol,vogliboseの3種類それぞれの特性を活かした処方が望まれる.

▪単独では低血糖を起こしにくいが,低血糖時対策のためブドウ糖は必携である.

▪消化器系副作用への配慮が必要である.

  • 文献概要を表示

Summary

▪チアゾリジン薬は,PPARγを活性化しインスリン抵抗性を改善させる.

▪インスリン抵抗性を有する2型糖尿病患者によい適応である.

▪大血管症や動脈硬化,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対する有効性が報告されている.

▪特徴的な副作用として浮腫,体重増加,心不全,骨折が報告されている.

▪膀胱がんのリスクの上昇について,現時点では明確な結論が出ていない.

  • 文献概要を表示

Summary

▪2021年はインスリンの発見からちょうど100年目に当たる.

▪インスリンの種類は効果の持続時間によって,超速効型,速効型,中間型,持効型に分けられる.週1回注射タイプの基礎インスリン製剤(insulin icodec)が開発され,今後の臨床導入が期待される.

▪インスリン療法の基本は,加齢,自己免疫,膵疾患などによりインスリン分泌量が低下(消失)した場合に不足分を補充し血糖値推移を正常化させることであり,患者の病態や合併症などを考慮し治療法を選択する.

▪治療適応はインスリン分泌能のみでなく総合的に判断する.内因性インスリン分泌が十分にあり,生活習慣の乱れやインスリン抵抗性が原因の場合は,食事運動療法や他の薬剤により改善する場合もある.

  • 文献概要を表示

Summary

▪「糖尿病の注射治療といえば専門医によるインスリン」という時代は終わった.

▪2型糖尿病の注射治療薬のGLP-1受容体作動薬は血糖降下作用・体重増加抑制作用に加えて,心血管イベントのハイリスク群においては心血管イベント発症抑制作用も期待できる薬であることが示された.

▪インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤はインスリンの強力な血糖降下作用を残しつつ,インスリン単独の場合より低血糖や体重増加のリスクを軽減した.

▪「GLP-1受容体作動薬といえば注射」ではなくなりつつあり,週1回製剤,さらには経口薬も製造承認されるにいたった.

▪糖尿病専門医に留まらず,一般内科医にもますます広く使われる薬剤となっていくであろう.

  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病患者がCOVID-19に罹患するリスクは非糖尿病患者と比較して高くない.

▪糖尿病患者がCOVID-19に罹患した場合,ICU入室率や死亡リスクは非糖尿病患者に比較して有意に高い.

▪糖尿病の血糖管理がCOVID-19の重症化と関連している可能性があり,入院中の血糖管理が重要である.

▪COVID-19を含めた感染症によりシックデイを起こすことがあるため,日常診療から各患者に合わせたシックデイルールを説明しておくことが必要である.

合併症

網膜症アップデート 濱田 真史
  • 文献概要を表示

Summary

▪2016年の視覚障害における障害者手帳の交付原因疾患別の統計で,糖尿病網膜症は第3位であった.

▪糖尿病網膜症における最新の検査に,従来のものよりもより効率的・低侵襲である超広角走査型レーザー検眼鏡や光干渉断層計血管造影が用いられている.

▪糖尿病網膜症における治療は従来からのレーザー治療が基本となるが,視力障害の原因となる糖尿病黄斑浮腫や血管新生緑内障の治療に抗VEGF抗体の硝子体内注射が行われている.

▪血糖コントロール不良例における増殖糖尿病網膜症や血管新生緑内障は依然として治療に難渋することから,糖尿病網膜症の早期発見・早期治療を必要とし,内科と眼科の密な病診連携が重要である.

腎症アップデート 陣内 秀昭
  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病性腎症(DN)から糖尿病性腎臓病(DKD)へと概念が変わることで,治療介入すべき患者の対象が拡大した.

▪DKDの診断,早期治療介入のためにも定期的な腎症スクリーニングが重要な鍵となる.

▪DKDと診断された後でも,まずは生活習慣の改善指導,そして薬物療法の選択となる.

  • 文献概要を表示

Summary

▪全身性神経障害は糖尿病性多発神経障害(DPN)であり,自律神経障害を合併する.これは糖尿病に特有であり,糖尿病細小血管障害のなかで最も高頻度にみられる.

▪糖尿病性神経障害は,糖尿病以外に原因疾患がない末梢性および自律神経障害と定義されており,発症機序が異なる複数の末梢神経障害の集合体と捉える.

▪糖尿病性神経障害のうちDPNの発症と進展の危険因子には,血糖コントロール不良,糖尿病罹病期間,高血圧,脂質異常症,喫煙,飲酒,肥満が存在するため,病初期からこれらの積極的な管理が重要である.

▪DPNの治療には,ポリオール代謝を抑制する薬剤がある.

  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病診療において包括的診療の有用性を示したSteno-2試験の介入期間から20年が過ぎ,21世紀に入ってから次々と新規薬物治療薬による心血管アウトカム試験結果が報告されている.

▪とくに脂質治療・糖尿病治療に関してそれらのエビデンスを考慮した薬物治療選択を行うことにより,患者はSteno-2試験の厳格治療群以上の心血管イベント抑制効果の恩恵を受けることができる可能性がある.

▪日常診療においてはランダム化比較試験(RCT)と異なり,薬物治療選択以外にスクリーニング検査を行うことで発症予防を目指すことも可能である.

▪ガイドラインを参考にすると,詳細な病歴聴取による検査前確率の推定に基づいた検査計画法の決定が重要で,そのなかでも運動負荷心電図は費用対効果が高いことが知られている.

足病変アップデート 中西 修平
  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病足病変は神経障害,血流障害,易感染性が関与する病態であり,足切断などの転帰は患者の生活の質を著しく悪化させるだけでなく,生命予後にも深く関わる.

▪2019年に糖尿病足病変国際ワーキンググループ(IWGDF)から足病変の新たなリスク分類,重篤化を予防するための簡便なスクリーニング指標のAAAスコアが発表された.

▪医療従事者側のみならず患者自身にケアのポイントを指導し,「起こす前に予防するフットケア」を行うことが大切である.

  • 文献概要を表示

Summary

▪高度肥満症患者に外科的治療(肥満手術)は有用であり,主に四つの術式が行われているが,本邦で保険適用となっているのは,腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)のみである.

▪2型糖尿病などの肥満関連合併症の改善を目的としたメタボリックサージェリー(代謝改善手術)が近年注目され,先進医療として腹腔鏡下スリーブバイパス術(LSG-DJB)も行われている.

▪現在の一般的な手術適応年齢は18~65歳であるが,世界的には手術年齢は早まってきており(10歳以上),今後の動向が注目される.

糖尿病とがんの関連性 高尾 淑子
  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病は全がん,大腸がん,肝臓がん,膵臓がんなどのリスク増加と関連している.

▪メンデリアン・ランダマイゼーション解析では,数種のがんに対するBMI,空腹時インスリン値,2時間血糖値などの因果的役割が示唆された.

▪食後高血糖がHbA1c値と独立したがん死亡リスクである可能性がある.糖尿病網膜症や糖尿病性腎臓病はがん死亡に関連しなかった.

▪科学的根拠に基づき,糖尿病患者はがんスクリーニング検査を受けるよう推奨される.

糖尿病と骨粗鬆症の関連性 會田 梓
  • 文献概要を表示

Summary

▪糖尿病が骨折リスクを高める基礎疾患として認識されてきており,積極的な骨粗鬆症の評価が推奨される.

▪血糖コントロールの状況は骨折リスクに影響する.

▪経口糖尿病薬のうち,他剤と比べてチアゾリジン誘導体は骨折危険度が上昇する.この傾向はとくに女性で顕著である.インスリン,DPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬,metformin,SGLT2阻害薬に関しては,一定の見解が得られていない.

▪骨粗鬆症に対する治療では,糖尿病を有する場合でもビスホスホネート製剤の使用が推奨される.

  • 文献概要を表示

 能登 本日,司会を務めさせていただきます聖路加国際病院の能登です.できれば直接お会いしてお話ししたかったですが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが早く終息することを祈っております.それでは,簡単な自己紹介から始めたいと思います.

Book Review

  • 文献概要を表示

 日常診療で皮膚疾患に悩まされている,皮膚科を専門としていない先生方にとって待望の本が出た.タイトルは「イラストでみる皮膚病のトリセツ」で,名前からして取っつきやすそうである.著者は瀧川雅浩先生.ここで言うまでもなく,皮膚科の臨床経験が非常に豊富な先生である.早速,本書を開いてみよう.紅斑,紫斑,白斑…が出てきた.成書を読み始めると,大体この辺りで嫌になる.用語が複雑なのと,解説が細かすぎて頭に入らないからである.ところがこの本はどうであろう,見開き2ページにあっさりと必要事項だけが書いてある.わかりやすいイラストが併記してあり,頭に入りやすい.さらにめくると,外用薬(軟膏とクリーム)から本文が始まっている.軟膏とクリームというのは皮膚科を専門としていない先生が悩みやすいところであるが,軟膏とクリームの使い分けを簡単な理屈とともに非常に実践的に解説してあり,わかりやすい.皮膚科では抗アレルギー薬,抗ヒスタミン薬,外用ステロイド薬をよく使う.これらも多くの種類が市販されているが,どういう場合にどれを使えばよいのかがわかりやすく解説されている.

  • 文献概要を表示

 英国のチャールズ・ディケンズの小説『The Pickwick Papers』の主人公の名前を冠したPickwick症候群などを嚆矢として,1983年の米国報告書 “Wake up America”,2003年の山陽新幹線居眠り運転事故のニュースなどを経て,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)はわが国においても一大疾患概念として注目されるようになっている.厚生労働省の統計によると,わが国の患者数は約50万人に達している.実際には,さらに多くの潜在患者がいるであろう.SASには,多彩な背景疾患,あるいは合併症や併存症の存在,疾患の社会的影響が知られる.多くの診療科や職種を巻き込む学際的なチーム医療としての患者管理が求められる.SASの管理は交通機関運転手の労働衛生などにも不可欠となっており,社会的にも行政や企業等との接点を生む.さらに,SASの研究や検査診療機器は日進月歩の進化があり,常に知識や情報をupdateしておかなければならない.

  • 文献概要を表示

 冠動脈疾患におけるステント治療が登場して30年が経ち,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)手技は初学者でも経験者に近い結果を出せるようになり臨床現場を大きく進歩させた.しかしながら,複雑病変のなかで最もハードルが高い慢性完全閉塞病変(CTO)の治療はいまだ簡単にはいかない.1980年台には,CTO治療の成功率は60%であり治療適応ではなかった.1990年台になるとCTO治療が行われるようになり,先人たちは「偽腔に入るとワイヤーがざらざらした動きになる」などと表現していた.当時初学者であった筆者には想像しかできず,実際に治療する機会もなく未知のことであった.加藤修先生(現 草津ハートセンター顧問)がCART法(Controlled Aantegrade and Retrograde Tracking)を発明したことで治療成績が約90%へと上昇し,広く行われるようになったが,本邦のレジストリーデータの解析では,順行性の成功率は上がっていないことが指摘された.CTO血管の中をどのようにワイヤーが進むのかという研究がされ,偽腔を拡大してしまうとワイヤーを支持する組織がなくなり,ワイヤーの軸がぶれることで先端を的確に誘導できなくなることがわかった.ワイヤーの操作は押す,引く,時計方向に回す,反時計方向に回すの4つの操作で行う.多くの術者は経験と感覚で操作を行ってきたが,これでは進めたいポイントにワイヤー先端を時計方向に90度回したほうが近いのに,反時計方向から270度回して組織の挫滅腔を広げてしまうといったことが生じ得る.そこで,このような無用の操作をなくすために本書の著者である桜橋渡辺病院の岡村篤徳先生が体系的に確立した方法が3Dワイヤリング法である.

  • 文献概要を表示

 筋強直性ジストロフィーは成人で最も多い筋ジストロフィーであり,脳神経内科医が診断することが多い.たしかに筋ジストロフィーの一つに分類されてはいるが,この疾患は多臓器障害を呈する全身性疾患である.その病態はトリプレットリピート病であり,かつリボ核酸(ribonucleic acid:RNA)病でもある.異常伸長したトリプレットリピートが転写されたメッセンジャーリボ核酸(messenger ribonucleic acid:mRNA)が毒性をもち,多様な遺伝子の発現過程でスプライシング異常が惹起されるため,多臓器にわたる多彩な症状を呈する.心伝導障害を合併することから,適切な時期にペースメーカーを植え込まなくては突然死の危険性がある.拘束性換気障害が進行するのに,呼吸困難感を感じにくいため本人も気づかないうちにⅡ型呼吸不全に陥ることもある.平滑筋障害のため便秘や腸閉塞などを合併しやすい.耐糖能障害の頻度も高い.若年性白内障をきっかけに診断される場合もある.悪性腫瘍を合併しやすく,外科手術時の麻酔でトラブルが生じることもまれではない.女性罹患者の場合,自然流産,切迫早産,遷延分娩,弛緩出血など周産期合併症が多い.また,重症の先天性筋強直性ジストロフィー児を出産するリスクもある.したがって,脳神経内科医だけではなく,小児神経科医,リハビリテーション科医,循環器,呼吸器,内分泌・糖尿病,消化器など多分野の内科医,眼科医,麻酔科医,歯科医,女性患者の場合は産婦人科医,時には精神科医もこの疾患の患者さんに関わる可能性がある.さらに,遺伝子異常を背景に発症することから,遺伝カウンセリングなど遺伝診療も必要であるため,集学的な診療を最も必要とする疾患といえる.しかし残念ながら,このことは医療者の間でもいまだ十分認識されているとは言いがたいのが現状ではないだろうか.

連載 ~知っているようで,実は十分に理解していない~ 医療に関する制度のあれこれ

  • 文献概要を表示

 身体障害者手帳制度とは,身体障害者福祉法に定める身体上の障害がある者に対して,都道府県知事,指定都市市長または中核市市長が身体障害者手帳を交付するもので,下記の障害が一定以上で永続する場合に対象となります.

連載 こんなとき,漢方薬が味方になります! ~漢方医が伝授する実践的な処方のノウハウ~

  • 文献概要を表示

総合内科からのコンサルト(X年3月受診)

 ほてり,のぼせといった血管運動神経症状や不眠,気分の変調などの精神症状,動悸などの症状がみられ,更年期症状と考えられますが,本人は産婦人科でのホルモン補充療法を希望されていないようです.東洋医学的に何か選択肢はありますでしょうか.

連載 悩むケースに立ち向かう! 臨床推論のススメ方 ~全国GIMカンファレンスより~

  • 文献概要を表示

連載のねらい

 GIMカンファレンスは,臨床推論の技術を向上させることを目的とした内科全般の症例を扱う検討会であり,全国各地で組織され開催されています.本連載では,全国のGIMカンファレンスにおいて検討された症例をご紹介いただき,診断過程を時系列に沿って解説いただきます.

  • 文献概要を表示

 抗線維化薬は特発性肺線維症(IPF)の治療に飛躍的な進歩をもたらした.早期介入と適切な薬物有害反応の管理ができれば患者のQOLの維持,急性増悪の発症低減と予後の改善が期待できる.慢性線維化性間質性肺炎という多疾患を包括する概念のもと,そのなかで進行性線維化性phenotype(PF-ILD)という一定条件を満たす症例にも抗線維化薬を使用できるようになった.その効果的な使用法について臨床的に模索され始めており,本稿ではその現状と,間質性肺疾患(ILDs)の診断から治療決定にいたる一連のプロセスに与える影響を考察する.

  • 文献概要を表示

 は じ め に 手術後に発症する脳梗塞の一般的な原因として,術後発症の発作性心房細動や空気塞栓,奇異性塞栓,腫瘍塞栓などがあげられる.近年,左肺上葉切除術後の左上肺静脈(left superior pulmonary vein:LSPV)の断端内血栓に起因する脳梗塞の報告が注目されている.脳梗塞発症時の胸部造影CTでLSPV断端内血栓を確認できない例も存在することから,今まで肺手術後に発症した原因不明の脳塞栓症と考えられてきた症例のなかに,LSPV断端内血栓によると考えられる症例が存在する可能性がある.今回,われわれは肺がんに対する左肺上葉切除術後2日目にLSPV断端内血栓によると思われる脳塞栓症を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

24329452.127.3.cover.jpg
臨床雑誌内科
127巻3号 (2021年3月)
電子版ISSN:2432-9452 印刷版ISSN:0022-1961 南江堂

文献閲覧数ランキング(
4月12日~4月18日
)