胃と腸 31巻3号 (1996年2月)

序文 多田 正大
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 われわれは自らの考えを伝えるために,様々な言語や言葉を用いる,広辞苑によれば,“言語”とは“音声または文字を手段として,人の意思・感情を表現し伝達する活動”とされている.人間社会の構造が複雑になればなるほど言語も多様化し,かつ重要なものになる.

 われわれの消化器科領域でも意識するにせよ,無意識のうちに用いるにせよ,ずいぶん多くの言語が用いられている.それらの多くは“用語”として使われることが多いが,疾患の病態や診断,治療に関する極めて多くの言語が駆使されている.

特集 図解 形態用語の使い方・使われ方

第Ⅰ部 消化器の基本的解剖用語

食道の解剖用語 吉田 操
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 1.食道の走行

 食道は咽頭から食物を受け取り,胃噴門部まで移送することを主たる役割とする管腔臓器である.食道入口部は第6頸椎の高さにあり,切歯から約15cmの位置である.椎骨のほぼ前面に沿って走り,後縦隔に入り,更に横隔膜食道裂孔を通過,腹腔に入ると同時に胃噴門(胸椎10~11:切歯から約40cm)に続く.

 食道の本体は大部分胸部にある.食道上部の筋層は横紋筋から成り,輪状咽頭筋と連続しており,食道を固定する役割を果たしている.食道には確固とした固定装置はない.縦隔内にあっては,気管の膜様部との間に結合織を介して比較的密に固定されている.栄養血管も一種の固定装置と言えるが,腸間膜の血管のように系統だったものがない.主として,鎖骨下動静脈,気管支動脈ならびに大動脈からの分枝にすぎず,強固なものとは言えない.食道の大部分は周囲臓器との間に粗な結合織で緩く結ばれており相対的な位置関係を保っている.このほかに,食道裂孔周囲には食道と横隔膜との間にphrenoesophageal ligamentがあり,食道と裂孔との位置関係を保っている.胃の支持固定装置も噴門を介して食道の固定装置として働いている.食道は呼吸,嚥下,体位や腹圧の変化に伴って,容易に他臓器との相対的位置関係を変動することが可能で,長軸方向には1椎体程度の移動が生じる.胸郭や椎骨,横隔膜の偏位,変形あるいは肺や気道の変形に伴って食道の固定は不良となり,噴門部の形状の異常を生じる.この結果,発生する食道や噴門の機能不全が,逆流性食道炎,食道潰瘍,バレット食道,食道狭窄などの病因となる.加齢に伴って発生する食道の固定不良についても同様なことが言える.食道の疾患の診断をするときには,胸郭や胸腔ならびに腹腔内の病態にも注意を払うべきである.

胃の解剖用語 大倉 康男
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 1.胃の肉眼的構造

 胃は食道に続き,十二指腸に連なる消化管の一区間である.その機能は摂取された食物をいったん貯留し,腸で消化吸収しやすいように細かく砕き,少しずつ連続的に送り出すことにある.解剖学的には,吸収を専門とする中腸の直前に当たる前腸の終末部に生じた膨らみである.

 胃の形態は山羊角形あるいは鉤状(J-shape)と言われており,その大きさは個体差があるが,男性1,400ml,女性1,300mlである.その位置は左季肋部を主体として左上後方から右下前方に斜めに軸を有し,入口に当たる食道胃接合部はほぼ11胸椎の高さで正中よりおよそ2cm左のところ,出口に当たる幽門輪は第1腰椎のほぼ右側に位置する.

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 十二指腸

 十二指腸とは幽門から十二指腸空腸曲(flexura duodeno-jejunalis;Treitz靱帯)まてを言い,その長さは約12横指,20~30cm(平均21cm)で直径1~3cmである.十二指腸は球部を越えてから後腹膜に入り,C字型を描いて走行し,胃の後方てTreitz靱帯を越えて腹腔内に戻り,小腸(空腸)に移行する.後腹膜に固定されているため,可動性に乏しい.十二指腸と周囲臓器との関係のシェーマをFig.1に示す.

大腸の解剖用語 牛尾 恭輔
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 1.大腸全体の解剖

 大腸は長さが約170cmの管腔の臓器で,腹腔内を一周するかのごとく走行する.主に解剖学的な位置関係からFig.1のように,盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状晶腸,直腸に区分される.更に上行結腸と横行結腸との移行部は,右結腸曲(肝彎曲部),横行結腸と下行結腸の移行部は,左結腸曲(脾彎曲部)と呼ばれている.なお,盲腸の先端部には,虫垂か存在する.

 一方,直腸はRs,Ra,Rbに区分され,肛門管を経て肛門周囲皮膚(E)に移行する.このように盲腸と直腸は結腸と異なって,前者は小腸に後者は肛門皮膚に移行する部位であり,これらの移行部位では回盲部,直腸肛門部と呼ばれることが多い.そして,これらの部位では,種々の炎症性病変や腫瘍性病変か好発するので,その解剖的な理解は大切である.

膵・胆の解剖用語 小越 和栄
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 膵の構造

 1.膵の位置と構造

 膵は後腹膜に位置し,膵頭部(head),頸部(neck),体部(body),尾部(tail),鉤状剖(鉤状突起,uncinate process)に分けられる.臨床的に体部と尾部との区別が困難な場合が多く,一括して体尾部と呼ばれることが多い.

 膵の位置は膵頭部は第1~第2腰椎の右側に位置し,膵管の開口部は十二指腸下行脚後壁に接している.膵の走行は頭部でやや上行し,頭部から体部の移行部からやや平行となり,尾部は脾門部まて達し第12胸椎の周辺に至る.膵の位置は加齢によってやや下垂の傾向があり,特に頭部は高齢者では第2腰椎と第3腰椎の間に位置することがある.

第Ⅱ部 検査手技・所見等の用語 a.検査・治療手技用語

大腸検査体位 小平 進
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 患者に対する診察,検査,処置に際してはその目的に応じてそれぞれ最適な体位をとる必要があり,その数は非常に多い.

 基本的な体位としては,通常の診察時や胸・腹部X線撮影時によく用いられる立位(standing position),仰臥位(背位;supine or dorsal position),腹臥位(prone position),側臥位(lateral position),坐位(sitting position)などがあるが,ここではこれらの基本的体位の説明は省略し,いくつかの特殊な体位について解説する.

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 検査前日の夜にヒマシ油を服用してもらい,検査当日は微温湯による浣腸を繰り返して大腸を洗浄する方法が,わが国で方向転換し始めるのは,1969年,Brownが東京で開催されたⅩⅡ International Congress of RadiologyでBrown法を発表して間もなくのことである.

 Brown法は前処置と検査法から成る.前処置の特徴は,食事制限を前提にして,塩類下剤と刺激性下剤を組み合わせ,腸洗浄のための浣腸を行わないで検査を行うところにある.Brown法の前処置は検査前日の昼食から制限食になる.しかし,これは欧米的な献立からなるために,わが国では食生活の実情に合った和食指向の献立が間もなく考案され,更に制限食の期間も検査2日前の夜から開始する方法が普及した.

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 スウェーデンのWelinが発表した方法なのでこの名がある.文献上,どれをもって最初の発表とするかについてはよくわからないが,ここでは,Br J Rad(16巻:1958年)に発表されたものを挙げた.Welin法は検査の前処置と検査法から成るが,ここでは前処置についての記載は省略する.

 造影剤は比重1.5(胃の造影剤よりも少し薄め)のものを用いる.また,粘膜刺激剤としてclysodrast novumを添加する.検査の30分前にはアトロピンを1.Omg内服させる.

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 polyethylene glycol-electrolyte lavage solutionの頭文字を取ったものである.この電解質溶液はDavisら1)により発表され,彼らはこの溶液をGolytelyと名付けた.

 Golytelyの前に,Levyら2)は塩類による腸管洗浄を報告している.この洗浄液はX線検査を目的に作製された.その組成は塩化ナトリウム13g,重炭酸水素ナトリウム5g,塩化カリウム1.5gを水2,000mlに溶解する.1,000mlを40分間の目安で服用させ,十分な量を服用できた被検者では良好な検査結果を得た.しかし,十分な洗浄液量を服用するのが困難なこと,ナトリウムのバランスが崩れ心脈管系の機能に影響を及ぼす可能性があった.

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 留置スネアは有茎性または亜有茎性の隆起性病変の基部を内視鏡下に非通電性のループで緊縛して,内視鏡的切除術後の出血を予防する装置である.本スネアは1989年,蜂巣ら1)により開発され,直径2.5mm,有効長2,300mmのテフロン製チューブシース,直径1.9mmのステンレス製コイルシース,フックワイヤーおよびハンドルから成る.径2.8mm以上の鉗子孔を有する内視鏡に使用できる.使用するループはナイロン糸を加熱処理して紡錘形としたものに,緊縛状態を維持するためにシリコンラバー製ストッパーを装着されている.ループは最大径4cmの病変に使用する大型ループと最大径2.5cm以下の病変に使用する小型ループがある.

 留置スネアの使用方法は,まずループをフックワイヤーに引っかけて充塡する.病変部の近傍でチューブシースを引いてループを押し出し,押し出されて開いたループを隆起性病変の基部に掛けてから,ハンドルをゆっくり引き絞り,基部を十分に緊縛する.隆起性病変の血流が遮断されて色調が変化するのを確認した後,ハンドルを一杯に押し出して,ループをフックから取り外し留置する.内視鏡的切除では,隆起性病変の基部をループで緊縛した後,緊縛部位よりやや末梢側を高周波電流で切除する.亜有茎性病変では,緊縛部に近接して切除するとループが抜ける可能性があるため,注意を要する.机上実験では隆起性病変の基部を5mm以内に緊縛すれば,隆起性病変の血流を完全に遮断できる.

生検(biopsy) 藤野 雅之
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 以前は主として剖検(autopsy)によって病理学的検索が行われたが,第二次世界大戦ごろから米国を中心に起こった,いわゆるsurgical pathologyの発展に伴って生体から組織を採取する新しい手法として,生検(biopsy)が登場した.以前は消化管粘膜の生検にも吸引生検(suction biopsy)が行われたが,現在消化管の分野では内視鏡観察下に生検鉗子(Fig.1,2)を用いて狙撃生検をするのが通常の方法である.肝腫瘍の生検(Fig.3)には超音波ガイド下に経皮的ルートで吸引生検が行われている.

 生検は通常光顕レベルの組織学的検査を目的として行われるが,このほか電子顕微鏡による観察や細菌培養,組織内の物質の定量,更にはDNA解析まで種々の目的に生検組織が用いられるようになっており,それぞれ目的に応じて適切な検体の取り扱いや処理,保存の方法が必要である.光顕レベルの組織検査にしても染色方法によっては検体の急速凍結が必要な場合がある.生検にあたってその目的をはっきり認識して十分な準備をしてから始めるべきである.

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 消化管内視鏡検査における点墨法は,病変をマーキングする手技の1つである.すなわち,局注針で胃や大腸の粘膜内ないし粘膜下層に墨汁を注入することで,病変の近傍に黒色斑として目印をつける方法である.

 文献上では,1970年に氏家ら1)が胃癌の内視鏡所見と切除標本所見を対比するために点墨法を用いたのが最初の記載で,この方法の有用性は他の検討でも確認されている。渋木ら2)の報告によると,内視鏡用の局注針を用いて消毒滅菌した墨汁原液を0.01ml局注することで,粘膜面に黒点として長期間残存し,肉眼的ないし病理学的検索における指標として有用であったとされている.更に粘膜下層に0.1~0.5ml程度の墨汁を局注することで漿膜面まで染色されるので,本法は術中の切除範囲決定にも有用である.

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 高周波とは,一般家庭用の電流の周波数が50~60Hzであるのに対し,数百kHz以上のものを言い,医学的には300kHz~5MHzの高周波電流が用いられている.高周波を初めて医学に応用したのはRussian Cusel(1847)で,電気乾燥を皮膚病変の治療に用いた.Doyen(1909)は減衰波が凝固壊死を起こすことを発見し,Weyth(1924)は非減衰波が切開能を有することを報告した.これらを受けてCushing(1928)がBovieの協力のもとに電気メスを開発し,今日まで広く用いられている.

 電気メスは,高周波電流を細いメス先から生体の狭い部分に流すことにより電流密度を高め,発生するジュール熱を利用して切開・凝固を行うものである.生体に0.1msec以下の短時間内に電気刺激を連続的に加えると,2回目以降の刺激は絶対不応期内の刺激となり興奮を起こさなくなる.この原理を利用することにより生体に数百Wの出力の電流が使用できる.また,心筋では200kHz以上の場合,高周波電流に対する感度は極めて低く,その影響は無視できるので,安全に使用できるとされている.

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 内視鏡的止血法には様々な方法があり,それぞれ異なった止血機序,短所,長所がある.今回は,一般に広く普及している薬剤局注法,クリップ法,ヒータープローブ法,高周波止血法,レーザー止血法について述べる.

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 内視鏡的ポリペクトミー(endoscopic polypectomy)は,1968年にワイヤーループを用いた絞扼的切除法を常岡,内田らが,同年に高周波電流を用いた方法を丹羽らが行い,現在の手技に至っている.

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 胃粘膜の軽度の隆起および陥凹性病変に対し,内視鏡を用いて粘膜固有層を含めて切除する方法として始まっている.もちろん,平坦な場合も可能である.主として治療に用いるが,診断にも応用できる.

 手技には幾つかあるが,多田らのstrip biopsyが多用されている,この方法は病巣部または目的とする部位の粘膜下層に,生理的食塩水を注入し隆起させ,隆起の起始部にスネアーを掛け,高周波で切離する.隆起が十分にできない場合は,病巣を鉗子で持ち上げてスネアーを掛ける.もともとこの手技は,慢性胃炎の研究のためのjummbo biopsyとして考案され,粘膜層を剝ぎ取ると言う意味からstrip biopsyと名付けている.直後から,早期胃癌の切除に応用され,さらに,食道の粘膜癌,大腸の小さな早期癌および扁平腫瘍を中心に,治療に用いられるようになった.

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 1939年Crafoordにより“New surgical treatment of varicous vein”(Acta Otolaryngol 27:422,1939)として始められた食道静脈瘤硬化療法は,MoerschがThe treatment of esophageal varices by injection of a sclerosing solution(Ann Otol Rhin Laryn 50:1233,1941)と,PattersonがThe sclerosing therapy of esophageal varices(Gastroenterol 17:391,1947)と称していた.

 Johnstonがsclerotherapy(Br J Surg 60:797,1973)と呼称し,Terblancheがinjection sclerotherapyと,Celloがendoscopic sclerotherapy(N Engl J Med 311:1589,1984)という言葉を用いている.わが国では1978年,高瀬が導入した.

食道静脈瘤結紮術 幕内 博康
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 コロラド大学のGV Stiegmannが開発した“機械的”に静脈瘤を結紮して壊死,脱落させる方法である.わが国へは鈴木,山本が導入した(消化器内視鏡2:269,1990).

 用語についてはStiegmann自身でも最初はendoscopic esophageal varix ligation(Am Surg 54:105,1988)と述べ,続いて,endoscopic ligation of esophageal varices(Am J Surg 159:21,1990)とし,最近ではendoscopic variceal ligation;EVL(Endoscopy 36:188,1990)が一般的に広く用いられている.

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 内視鏡的狭窄拡張術は食道の良性・悪性狭窄に対する内腔確保の手技である.良性狭窄に対しては通常ブジーが使用され,悪性腫瘍による狭窄にはプロステーゼが留置される.それぞれ様々な材質のものが市販されている.ブジーの手技に関してはダイレーター内にガイドワイヤーが挿入できるものが開発されてからと,生検鉗子口を通せる注入耐圧の高いバルーンが開発されてから,容易,安全に施行されるようになった.それ以前は高周波切開を行い,ダイレーターを挿入していた.Fig.1はポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた逆流性食道炎による狭窄拡張の様子を示す.通常1回の施行で内視鏡が狭窄部を通過するようになる.プロステーゼにはFig.2のように種々の材質および長径のものがあるが,最下段のものはモノフィラメント・ワイヤーの材質でフレキンブルであり,上段のものに比して上部食道にかかる病巣でも違和感は少ない.Fig.3aは挿人前の狭窄の程度を示し,Fig.3bは挿入後であり,常食摂取が可能な内腔が保たれている.プロステーゼの選択はX線透視下に病菓の長さに応じたものを使用する.

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 脳梗塞などの神経疾患により意識障害や嚥下障害となり経口摂取不能あるいは不十分に陥った患者に対して,従来,経鼻的胃留置チューブによる経腸栄養管理が行われてきた.1980年,Ponskyら1)により内視鏡を用いた経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy; PEG)が考案され,近年,器具が整備され,簡便に行われるようになり,経鼻胃管に代わって普及してきている.PEGの利点をTable 1に示した.PEGの適応は脳梗塞後の意識障害や中枢神経障害のための嚥下障害があり,経口摂取が不能でかつ長期間の栄養管理が必要と判断できる症例である.造設方法にはPush式(Sacks-Vine),Pull式(Ponsky)およびIntroducer法(上野)がある.

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 小腸内視鏡検査として,今日までにpush式,ropeway式,そしてsonde式の3方式の挿人手技が考案されてきた.1970年ごろから各方式のファイバースコープが独自に開発され,1971年ごろから順次,電子スコープに改良され,今日に至っている.

 push式に用いる小腸鏡は上部消化管直視型スコープの有効長をそのまま長くしたような器種であり,検査方法も上部消化管内視鏡検査に準じる.検査の約12時間前から絶食として,咽頭部の局所麻酔,腸管蠕動を抑制するための抗コリン剤の注射を行うだけの簡単な前処置である.スライディングチューブを用いて,胃や十二指腸のループ形成を防止することによって,十二指腸空腸曲(duodeno-jejunal junction; DJJ)より約100~140cmの上部空腸の観察を短時間のうちに行うことができる(Fig.1).検査手技が簡単である反面,観察範囲が上部空腸に限られることが本方式の欠点である.内視鏡直視下の生検も容易に行うことができるため,上部空腸に発生した病変やびまん性疾患に対する生検の目的に本方式の適応がある.

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 腸捻転症の好発部位はS状結腸であるが,早急に治療を加えなければならないイレウスの一種である.S状結腸捻転症に対する非観血的治療法として,古典的には高圧浣腸や肛門ブジーなどが行われたが,Bruusgaard(1947)1)が直腸鏡による内視鏡的整復術を報告して以来,緊急手術を行う以前に,まず内視鏡による整復術を試みるべきとされている。最近では軟性鏡であるcolonoscopeを用いて,整復術が行われる機会が多い2)

 S状結腸捻転症にも解剖学的に種々の程度があるが,180°以内の捻転であれば内視鏡治療が期待できる.しかし捻転が高度であったり,発症後時間を経過した場合では腸管壊死に陥っている危険性があり,内視鏡操作そのものによって腸管穿孔を誘発する危険性がある.したがって内視鏡的整復術の適応として,腹膜刺激症状がないこと,麻痺性イレウスに陥っていないこと,などの条件が挙げられる.

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 内視鏡超音波による消化管壁エコーパターン

 体表からの超音波断層法でも被検者の条件さえ整えば消化管の層構造が確認できることもまれではない.しかし,既知の限局性病変の場合さえ,その病変部と層構造を同時に描出することは困難なことが多い.そこで病変の深達度を明らかにするために内視鏡超音波検査が行われる.

 内視鏡超音波(7.5~12.5MHz)では正常胃壁は粘膜面から高低の5層のエコーレベルに分離描出される(Fig.1)1).すなわち,粘膜面より高エコーの第1層(脱気水と粘膜表面の境界から発生するエコー),低エコーの第2層(粘膜筋板を含む粘膜層),高エコーの第3層(粘膜下層),低エコーの第4層(固有筋層)と高エコーの第5層(漿膜と境界エコー)の5層である.

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 エコーレベルとは,一般にはBモード画面上に表示される輝度として理解されている.周囲の組織と比較して,画像を構成する最小単位であるピクセルの輝度が高い部分を高エコー(hyperechoic,echogenic)部,低い部分を低エコー(hypoechoic)部と表現する.また,周囲組織と輝度に差を認めない場合は等エコー(isoechoic),信号を認めない場合は無エコー(anechoic)と表現する.

 ピクセルの輝度を決定するのは,ピクセル1個あたりの電気的信号の量である.電気的信号の量は超音波プローブのセンサーに検出される超音波信号の量に比例する.したがって超音波は縦波であり,その振幅が大きなものなどは,ピクセルあたりの電気的信号の量が増加し高輝度となる.

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 スライディングチューブは大腸ファイバースコープの深部挿入時に生じる腸管のループを直線化するため,牧石ら1)により考案された補助用具である.主に大腸内視鏡検査時のS状結腸に生じるループの直線化に用いられるが,プッシュ式小腸内視鏡検査時の胃内のループ形成防止にも使用される(Fig.1).

 従来は2人操作法による有効長の長い大腸ファイバースコープ(170cm)を使用することが多かったため,スライディングチューブも有効長の長いもの(40cm前後;olympus ST-C3,C6)が使用されていたが,近年では1人操作法による中間尺のファイバースコープ(130cm)の普及に伴い.短いもの(30cm前後;olympus ST-C7,C3S)が用いられてきている.また,1人操作やスコープの有効長に適するよう独自に改良を加えた多田らの分割式チューブ,組立式チューブ,丹羽らの着脱式チューブ,岡本らのミニチューブ(25cm前後)などの試作品も考案されている2)

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 本法はKawaiら1),相馬ら2),Classenら3),によって始められた方法で,ERCPの手技から発展し,内視鏡的に十二指腸乳頭開口部を切開する方法である.主に胆管結石の除去を目的とするが,最近では内視鏡胆道ドレナージや膵炎などの治療,更に良性乳頭狭窄の解除などの目的で行われる場合もある.

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 胆管狭窄に対する内視鏡的処置には,胆道ドレナージ,バルーン拡張術などがあり,対象の良悪性の違いにより目的を異にする.悪性疾患の場合は,拡張自体を目的とするよりも減黄の効果が期待される.内視鏡的ドレナージは,切除予定例に対しては術前の減黄,また,切除不能例に対しては精神的,肉体的負担の少ない,quality of lifeの向上が目的となる.1976年,NagaiらはERCPを応用して,胆管内にカニューレを持続的に留置する方法を報告し,現在の胆管内洗浄を考慮した外瘻術(ENBD; endoscopic nasobiliary drainage)に発展した.また,1979年にSoehendraらはチューブステントの留置による内瘻術を開発し,現在ではEBD(endoscopic biliary drainage)として広く普及している(Fig.1).経乳頭的アプローチは更に応用が進み,複数本のチューブステントの留置や,材料的にはメタリックステント(Neuhaus H,et al,1989),抗菌加工のチューブステント(Hoffman BJ,et al,1994)が開発されている.一方,経皮経肝的アプローチからはPTCS(percutaneus transhepatic cholangioscopy)による観察と共に,胆管内の温熱療法,腔内照射療法,レーザー治療が期待されている.

 良性胆管狭窄に対する内視鏡的処置は,経乳頭的アプローチによる拡張用バルーンの使用(Fig.2)や太径ステントの留置が施行される.また,拡張が不十分であるときは経皮経肝的アプローチによる拡張用バルーン(Burhenne HJ,1975)やダイレーターを順次使用し,PTCSチューブの挿入による拡張が施行される.良性疾患に対するメタリックステントの留置や,胆管結紮例に対する処置は今後の課題となっている.

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 1.腹腔鏡的(下)胆囊摘出術(Fig.1)(laparoscopic cholecystectomy,laparoscopic laser cholecystectomy)

 1987年ごろから,仏,米で開始された本手技は1990年にはわが国でも開始され,今や開腹胆摘を凌駕する勢いである.基本的には胆囊管,胆囊動脈を処理し,胆囊を摘出するということは従来の開腹術と同様である.視野はスコープの2次元画像なこと,また,鉗子類の操作が手の動きと逆方向に動くことなどが従来の手術と異なり,若十の慣れが必要である.利点としては早期離床,早期職場復帰,術後柊痛の少なさなどで,適応は手技的に安定すれば開腹術とほぼ変わらない.偶発症は開腹術に比して,やや胆道損傷が増加している.

第Ⅱ部 検査手技・所見等の用語 b.X線・内視鏡所見用語

cobblestone appearance 牛尾 恭輔
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 Crohn病の診断基準として挙げられている6項目のうちの1つに入っている.X線,内視鏡,切除標本の肉眼像を表現する用語として使用される.

 “外観”と表現されるように,Crohn病で5~10mm大の半球状の隆起の集合した状態が,丸味を帯びた石を敷き詰めた外観に類似していることから,使われている用語である.したがって,1個1個の隆起の外観を示すものではなく,あくまで隆起の集合が敷石状に見える場合に使用されるべきであろう.

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 1898年,フランスの内科医Dieulafoyにより報告された.自験例の2例を含めた7例について検討しているが,救命されたのは出血性病変を手術によって縫縮した1例のみであったという.

 その特徴は,病理形態学的所見であり,①限局する極めて表在性の潰瘍性病変,②噴門部や胃体部に単発し,最大径2~3cm程度の円形ないし類円形の潰瘍性病変,③潰瘍性病変の中に血管の断裂や側壁破綻がみられるとしている.更に潰瘍性病変の病理組織所見として,①粘膜筋を含むが主として粘膜層の欠損,②粘膜筋板の消失部に細動脈の断裂や破綻がみられる,③病変部以外の粘膜は正常,と述べている.

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 Henning signは現在のアングル機構の優れた胃内視鏡が出現する以前に多用されていた内視鏡所見の記載用語である.

 Schindler著の「Gastroscopy」(Hafner Publication Co,1950)では“胃潰瘍が胃角の直上かまたはその直下に存在するとき,その放物線状の輪郭がGothic arch状の特有の変形を示す.Henningが最初にこのサインを記載したため,“Henning's sign”と呼ばれている.また,この所見はangulusのscarの場合もみられる"と記載されており,本邦では1966年発行の,田坂定孝ら監修「胃カメラとその臨床」にも同様な記載がみられる.昔,胃鏡やアングル機構の乏しい胃カメラなどでは胃角を正面視することが困難で,胃角は体部から見下ろす形で観察されることが多く,したがってこのHenning signは胃角部に存在する潰瘍の重要な内視鏡所見であった.しかし,現在はスコープの改良で胃角病変は直接視できるようになり,胃角を体部から眺めて診断する必要がなくなった.更に抗潰瘍薬の進歩で潰瘍部分の線維化も少なくなり,典型的なHenning's signが見られる例は少なくなっている.したがってHenning's signの重要性は薄れており,現在では歴史的な用語となった感がある.

Kammrötung 小越 和栄
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 Kammrötung(カムレートゥング)はドイツ語で,消化器内視鏡用語集には“胃の長軸に平行に走る発赤で,一般にひだの頂上にみられる"と記載されている.従来これは“櫛状発赤”とか“線状発赤”と呼ばれていたが,Kammは“櫛”と訳するよりも,ここで使用される意味はうねや波の背または山の稜線などの意味であるため,“うね状発赤”または“稜線状発赤”とでも訳したほうがより妥当である.

 Kammrötungは1936年Schindlerによって胃の内視鏡所見として記述されたのが最初と言われている.

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 元来,linitis plasticaという名称はBrinton(The Disease of the Stomach,1859)が名付けた病変で,胃全域の主として粘膜下組織に均等状の強い結合織・増生を生じ,胃がleather bottle状に硬化する病変に名付けたものであった.当時は原因不明の炎症性のものであろうとされたが,その後の研究で,スキルス胃癌の一型であることがわかった。すなわち粘膜面の原発癌巣は小さく,主として胃壁全層に広範に浸潤した癌細胞が強い結合織・増生を惹起した状態,これがlinitis plastica型癌の特徴である.したがってlinitis plastica型癌は厳密にはスキルスの一亜型であるが,4型,びまん浸潤性胃癌などと同義語に使われることが多く,用語上若干の混乱を生じているのも事実である.

 中村(恭)は,胃底腺領域に発生した癌が粘膜下層以下の胃壁全層へびまん性に深部浸潤を起こした結果,肉眼的には胃壁全体に硬化性の肥厚を来し,管状あるいはleather bottle状を示す胃癌をlinitis plastica胃癌と命名し,この考え方が一般に受け人れられている.磨伊らはこのlinitis plastica型胃癌には2つのタイプが存在すること,すなわち,①巨大皺襞型,②粘膜萎縮型(胃炎型)が存在することに注目している.前者は若年者,女性に好発し,胃炎性変化の少ない胃に発生しているのに対し(Fig.1),後者は圧倒的に高齢者,男性に多く,腸上皮化生の伴う萎縮性変化の高度な胃に発生しており(Fig.2),それぞれの生物学的態度を異にしている.

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 表面型大腸腫瘍に対して最近,内視鏡的粘膜切除術(EMR)が主として行われている.腺腫や粘膜内癌の場合は生理食塩水(生食水)を注入すると病変が周囲正常粘膜と共に持ち上げられ,切除が容易となるが,進行癌や粘膜下層大量浸潤癌(sm massive)の場合は,周囲正常粘膜のみが持ち上がり,病変は浮き上がらないことが多い.後者のような場合を,non-lifting sign陽性と言う.これは癌が筋層に浸潤したり,粘膜下層に,いわゆるdesmoplastic reactionを来すために病変が固定され,また,生食水が浸透しないことによるとされている.病変が持ち上がらなければEMRが困難になるばかりでなく,このような場合は断端陽性になる可能性が高いので,内視鏡的治療の適応とはならない.したがって,このサインは早期大腸癌の深達度診断および治療方針決定のうえで重要である.ただし,最初から進行癌やsm massiveを疑うときは,わざわざ生食水を注入することはない.一方,粘膜内病変でも,比較的大きい場合は1か所からの生食水注入では全体が持ち上がらないことがあり,また,過去に生検や生食水注入の既往があると,線維化のためにnon-lifting signが偽陽性に出ることがあるので慎重に判断することが必要である.この用語の使用上の注意点としては,生食水注入により病変が持ち上がる場合,原著どおりに記載するならば,negative non-lifting signと言い,lifting sign(+)とは言わないことである.

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 1953年,SchatzkiがGaryと共に下部食道に輪状の狭窄を伴った嚥下障害症候群を記載したことから一般にSchatzki syndromeまたはSchatzki ringと呼ばれている.このSchatzki輪は通常,食道裂孔から3~5cm口側の下部食道にほぼ対称的な切れ込みを形成する輪状の薄い隔膜で,厚さは大体4mm以下である.この所見はヘルニアを伴う下部食道の食道粘膜と胃粘膜の接合部に認められることからesophagogastric ringあるいはlower esophageal ringとも言われる.

 出現頻度に関してはKramer(1956)は食道症状のない患者100人のうち6人に認められたと報告している.しかし食道裂孔ヘルニアが少ないわが国ではごくまれにしか遭遇することはない.SchatzkiとGaryの報告によると,この輪は50歳以上の患者に好発し,性差は認められなかったという.

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 shaggy appearanceはfinger-like projectionとともにvillous tumorの古典的かつ典型的肉眼所見とされているが,その文献的な起源は,Jackman&Beahrsが“Tumors of the Large Bowel”の中で“Villous Tumor”の語義説明として“a neoplasm which may be benign or malignant.The term ‘villous'…means ‘shaggy' or ‘covered with small projections'.”と記載したあたりに遡る1).本来shaggyとは,毛むくじゃらの,もじゃもじゃと枝を出した,の意味の形容詞であるが,あくまで肉眼レベルの用語として使用されており,その文脈においてはvillous(絨毛状)という形容詞とほぼ同義と考えてよい.本来shaggy appearance=villous appearanceであり,villous tumorの内視鏡所見において重要なものである.

 しかし,最近では“villous”という用語が肉眼レベルあるいは組織レベルいずれの記述なのか紛らわしいことが多くなっている.“villous tumor”を例に取ると,その定義は報告者によって各人各様である.古典的概念はshaggy appearanceとfinger-like projectionを主体とした肉眼的診断名であるのに対し2)3),最近の考え方は肉眼的要素と病理組織学的なvillous成分の量の両方を加味したものに変わりつつあり4)~6),“villous.”という用語の使用には組織学的な,あるいは表面構造による裏付けが必要とされてきているのが現状である.“shaggy”という用語にはそういった制約はなく,病理組織診断にとらわれず肉眼所見をありのままに表現できる利点がある.

skip lesion 西俣 嘉人
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 日本消化器病学会クローン病検討委員会によるクローン病診断基準(案)で挙げられている項目の1つに,非連続性または区域性病変がある.また,この病変の診断に役だつ手段としてX線検査,内視鏡検査,生検,切除標本が挙げられている.skip lesionは上述した非連続性または区域性病変と同義語である.一般には病変が正常粘膜像(X線・内視鏡あるいは肉眼的に)を介して離れて存在する場合にskip lesionと表現されることが多い.この用語で問題になるのは,①X線像あるいは内視鏡像で病変間に介在している正常粘膜と読影した領域からgranulomaが証明された場合,②切除標本で正常粘膜と思われる領域を詳細に組織学的に検索すると,granulomaの他に微小びらんあるいは浅い瘢痕などが証明された場合であり,これらの領域を正常粘膜と理解してよいか,あるいはskip lesionという概念が用いられてよいのか,はっきりしていないのが現状である.また,skip lesionは腸結核にもよくみられるし,まれではあるが潰瘍性大腸炎でも経験することがある.

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 Zenker憩室とは,1769年に英国の外科医であるAbraham Ludlowが嚥下障害を来した咽頭の囊状拡張の症例報告をして以来,1874年にZenkerとvon Ziemssenが自験例を含め,27例の報告を行ってから付けられた名称である.咽頭食道部の筋束の粗な部分(Lannier-Hackerm an sparse)からの下咽頭粘膜の突出を言う.広義には頸部食道のものも指して呼ばれている圧出性憩室である.その成因は咽頭機能と上部食道括約筋の不協調運動の結果などと説明されている.憩室が小さいうちは無症状であるが,大きくなるにつれ嚥下障害,逆流などの症状が出てくる.大きいものでは縦隔内まで下がり,食道を圧迫するほどになる症例もある.憩室内の内容物が逆流し,嚥下性肺炎を起こす危険性があり,その頻度は10%以下と報告されている.また,憩室内の扁平上皮癌の出現頻度は0.3~0.4%と報告されている.そのほかの合併症として出血や気管との瘻孔もまれにあると言われている.

 Fig.1は典型的なZenker憩室の食道造影像であり,バリウムの貯溜した囊状の突出像を認める.その入口はほぼ第6頸椎の高さであり,食道入口部に一致している.Fig.2の内視鏡写真では食道入口部直下に左後壁寄りに食物残渣の充満した内腔を認める.Fig.3は内視鏡下に洗浄用チューブを使い,内腔の中の食物残渣を排出して,内腔を覗き込んでいる状態である.その後,内腔用にヨード染色を行い不染部のないことを確認している.

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 apple-core sign(アップルコアサイン)は大腸の進行癌のX線的特徴としてあまりにも有名である.このような変化は,2型の進行大腸癌にみられるとされている.

 このサインは,注腸造影で認められる異常のうち,両側性狭窄像の1つに分類される.具体的には,全周性の狭窄が存在し,その狭窄部の粘膜像は,上皮性変化を反映して辺縁の不整・けばだちなどを認める(Fig.2).大腸が管腔臓器であり撮影方向による変化,体位変換によるバリウムの流出などで,狭窄部の中のクレーターがはっきり描出されないことも多い.もう1つの特徴は,健常粘膜との境界が明瞭で,立ち上がりがゴツゴツとして急峻なことであり,スパスムスや炎症性疾患による狭窄との鑑別に屯要である.また,急峻な立ち上がりを示す部分が一方向のみの場合には,umbrella sign(アンブレラサイン)と称される.

アフタ(aphtha) 多田 正大
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 アフタとは円形ないし卵円形の白苔を有する潰瘍で,その周囲を紅暈が取り囲む病変を指す(Dorland's Illustrated Medical Dictionary)が,消化器科領域のみならず,皮膚科,耳鼻科,婦人科など,様々な領域で用いられている用語である.消化器科では消化管粘膜に口腔内アフタに類似した紅暈を伴う小潰瘍,小びらんを形成した病変を指すが,その定義は明確ではない.

 アフタと同義語であるaphthoid ulcer(アフタ様潰瘍)はCrohn病の初期病変として古くから注目されてきた病変であるが,いつの間にか拡大解釈されてしまったようである.今日でこそ潰瘍性大腸炎やBehçet病,各種感染性腸炎でも同様の病変がみられることが確認されている1)が,このような病態が明確ではなかった時期に,吉川ら2)は原因不明の腸管の炎症性疾患を“アフタ様大腸炎”として,系統的に報告したのが,今日で言うアフタの語源である.ここでは小びらんが“アフタ様”であるとされており,潰瘍だけでなく,びらんも含まれるようになった経緯がある(Fig.1).

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 慢性胃潰瘍の癌化については古くから議論があり,Hauser(1926)の潰瘍癌化説は有名である.しかし,1960年代から胃診断学,特に内視鏡診断学が進歩し,この潰瘍癌化説は衰退しはじめた.すなわち,癌の悪性サイクル理論が導人され,癌自身は二次的に潰瘍化しやすく,更にその潰瘍性変化が縮小しうることが判明した.臨床的に悪性サイクルとは,陥凹型早期胃癌の癌巣内にみられる潰瘍が,漸次縮小して瘢痕となり,再び潰瘍が発生する現象を指している.このmalignant cycleは早期胃癌に多くみられるが,進行胃癌でも陥凹型早期胃癌類似進行癌症例にみられる.Fig.1はその1例で,初回の内視鏡所見では胃角小彎の深い穿通性潰瘍で胃生検でGroupⅤが証明されたが,患者が手術拒否したため,保存的治療で経過をみた。Fig.2は4か月後の内視鏡像であるが,胃角部の悪性潰瘍は著明に縮小し,Ⅱc型早期胃癌の像を呈している.

 また,1966年,村上は潰瘍癌においても良性潰瘍と同様に治癒再発を繰り返すであろうことを指摘し,地層型(潰瘍瘢痕部の再生粘膜表層およびその周辺の粘膜に癌の拡っているもの)→Hauser型(開放性潰瘍の辺縁に癌を認めるもの)→聖域型(潰瘍底が主として非癌性再生粘膜で覆われ癌は,その辺縁に認められるもの)→Hauser型→聖域型なる回路を繰り返すと考え,これを悪性サイクルと呼んだ(治療 42: 261,1960).

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 胃外の臓器などによる圧迫を原因とする変形を広義的に胃外性圧排と言う.compressionという言葉は圧縮,加圧,与圧,圧迫などと翻訳され,圧排という直訳は見あたらない.圧排とは,何らかの圧迫すなわち臓器に限らず,腫瘍,出血,浮腫などいろいろなものが原因となり,正常部を限局的に押し出し排除する,または排除されている状態を表現した形態学用語であり,日本語的な独特のニュアンスが含まれた言葉であろう.

“イクラ状胃炎” 塚田 芳久
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 慢性肝疾患,特に門脈圧亢進症患者の胃体部に認められる斑状発赤の内視鏡所見が,発赤を取り巻く白色網状の胃小区境界(いわゆるsnake skin)と合わせ,日本で食用にされるサケの卵を単離したイクラに似ているところから塚田らによって呼称された.第71回日本消化器病学会総会(1985年5月)の一般講演,第30回日本消化器

内視鏡学会総会のシンポジウム“肝疾患と消化管病変”(1985年10月)に報告された.世界的にはMacCormackらの報告(1985年11月)によるうっ血性胃症(congestive gastropathy)と,その指導者であるTriger教授が第9回世界消化器病学会(1990年9月)の教育講演名としたportal hypertensive gastropathyが同じ病態を示し,その特徴的胃体部所見を指すものと考えられる.

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 胃角に限らず,“変形”と称する異常所見は,病変の存在を示す間接所見であるか,ないしは,病変の一部を表すものと定義できる.胃角そのものに病変が存在するときには,その病変の性状によって胃角は変形する.また,病変が胃角の近傍に存在するときには,その病変の線維化と収縮によって影響を受け,胃角は変形を来す.

 胃角の変形が重要視されたのは,二重造影法がその方法論を確立する以前であったことは確かであり,現在,胃角の評価は異常所見をより広角的に描出できる二重造影像に依存する傾向がある.しかし,一方では,胃角は二重造影の盲点であることも覚えておくことが必要である.

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 1.胃小区とは

 胃粘膜の表面にみられる粘膜模様の最小単位を胃小区(areae gastricae,area)と言い,1953年,W.Frikが診断したのが初めで,臨床では細網状影(fine reticular appearance)としてX線写真上に写し出されるので,X線学的用語として使われている.また,胃小区と胃小区との間のバリウムの溜まっている細い溝を胃小区間溝と呼ぶ.

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 胃の線状潰瘍を肉眼的および病理組織学的に明らかにしたのは村上,鈴木ら(1954)であるが,それをX線写真上に二重造影像で表し,“線状溝”あるいは“線状ニッシェ”と名づけたのは白壁,熊倉ら(1955)である.

 胃の線状潰瘍は,原則的には小彎に対し直角方向に走る線状の溝であるが,その溝を組織学的に検索してみると,どこかに開放性の潰瘍がみられることから,一般に線状潰瘍と言われている.線状潰瘍は通常3mm以上の長さのものを言うが,線状溝が長いほど潰瘍の発生からの歴史の古さを示すもので,Ul-Ⅳの潰瘍を伴うことが多いことと合わせて,難治性潰瘍の1つに挙げられている.また,線状溝が長くなるに従って小彎が短縮し,次第に囊状胃を示すようになる.再燃すると,しばしば線状溝上に円形潰瘍を伴う.

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 胃の内腔に隆起した病変を,その起始部の形態から分けた分類である.1965年,山田,福富らは胃隆起性早期癌のX線診断において,ポリープとは何か,を厳密に定義することは極めて困難であることから,新しい試みとして胃の腫瘍や,炎症性病変を含めて,上皮性,非上皮性,または良性,悪性の区別なく胃内腔に突出する病変を,胃隆起性病変(polypoid lesion)として一括し,隆起の起始部の形からFig.1のような4つの型に分類した.Ⅰ型はFig.2で示すように,隆起の起始部はなだらかで,明確な境界を形成しない.Ⅱ型は起始部は明確な境界線を形成するが,くびれを認めない隆起である(Fig.3).Ⅲ型は起始部に明らかなくびれを形成しているが,茎が認められないものである(Fig.4).Ⅱ型との差として,バリウムを起始部に移動させた場合に,隆起の頭部の線を越えて,バリウムがくびれの部分に流れ込む所見がみられる(Fig.4b),Fig.4cは,それをシェーマとして示したものである.Ⅳ型は,明らかな茎があるもので,体位の変換や圧迫で隆起の頭部の方向が各方向に変わる(Fig.5).

 この分類を使用すると,組織学的診断が判明する前におよその隆起の様子を表現して討論することができる.更に大きさの要素を組み合わせることにより,胃隆起性病変の良悪性の診断の1つの手がかりになる.すなわち,5~9mmではⅡ型に早期癌がみられ,10~19mmでは,Ⅱ型とⅢ型に早期癌が含まれる.20mmを超すと,Ⅳ型に早期癌がみられ,Ⅱ型,Ⅲ型に進行癌が認められるようになると報告している.

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 この用語の語源は,本誌12巻12号「大腸結核のX線診断」(白壁ら,1977)にあると思われる.白壁,中村(恭),そして筆者の3人がこの論文に着手する際に検討会を重ねる中で,自然発生的に使用していたものを,この論文中に用いた.ただしそのときには,“潰瘍瘢痕を伴う萎縮帯”と表現し,英語の訳語としては,“scarred area with discoloration”と意訳した.

 おそらく,この表現では長すぎるので,その後,これも自然の成り行きで,“萎縮瘢痕帯”という表現が慣用的に用いられ,現在では,この用語が1人歩きしているのである.

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 陰影欠損とは消化管のX線充盈像で,本来あるべき辺縁部分の陰影が局所で欠損している像を言う.典型的な陰影欠損は境界が明瞭で,欠損部に不整があり,進行した隆起性の癌の側面像を表し,2型癌ではSchattenplus im Schattenminus像を示す(Fig.1).Ⅱc型早期胃癌が辺縁に存在したときにも突出像としてではなく陰影欠損として現れる(Fig.2↓).この所見のより軽度のものは陥凹ニッシェ(Niche encastrée)や陥凹像(Aspect encastrée,Fig.3↓)と呼ばれる.陰影欠損の輪郭が平滑かどうかで癌と非上皮性腫瘍との鑑別診断がなされる.また,陰影欠損の形,程度で癌の深達度診断が行われる.一二重造影像にみられる陰影欠損部の所見は回転の要素が加わり,恒常性に乏しく陰影欠損と呼ばないことが多い.注腸二重造影像では陰影欠損部を変形と称し,変形の形,程度で癌の深達度の診断を行う.

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 消化管に多発性潰瘍が発生するとき,潰瘍と潰瘍の間に残存した粘膜が再生過程でポリープ様に隆起するが,この状態を炎症性ポリープと呼称する.消化管のあらゆる炎症性疾患で発生し,特に小腸や大腸に好発する.活動期よりも,炎症が消腿傾向に向かった時期のほうがポリープの形態は明瞭になる(Fig.1).

 その形態は炎症の程度によって左右されるが,通常は小さく細長いポリープや円形ポリープである(Fig.2).粘膜橋(mucosal bridge)や粘膜垂(mucosal tag)を形成することもある.ポリープの数も様々で,多発すると炎症性ポリポーシスと呼ばれる.単発性に比較的大きいポリープが発生することもあり,腺腫や若年性ポリープとの鑑別を要することもある.

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 潰瘍性大腸炎の活動期にみられる下掘れ状の潰瘍が,注腸造影で側面ニッシェとして描出された場合に広く使用されている用語である.したがって,二重造影像よりも充満像のほうが描出されやすい.側面ニッシェの起始部は狭く,頂部のほうが幅広いという特徴を有する(Fig.1).組織学的には潰瘍の深さはUl-Ⅱであり,粘膜筋板を破った潰瘍性変化が粘膜下層で水平方向に進展するため下掘れ状となる1)

 カラーボタン様潰瘍は潰瘍性大腸炎にpathognomonicな所見ではない.腸型Behçet病,Crohn病,感染性大腸炎(結核,サルモネラ腸炎,細菌性赤痢,アメーバ赤痢)など他の炎症性大腸疾患でも,下掘れ傾向の潰瘍が側面像としてX線上描出されればこの用語は使われる.その際,潰瘍の配列は疾患によって若干異なる.すなわち,潰瘍性大腸炎では両側性かつ対称性に分布するのに対し,Crohn病や腸型Behçet病では非対称性の配列を示す(Fig.2).

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 隆起周囲から隆起表面に向かい橋が架かるようになだらかに途絶せずに移行するひだのことを言う.上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍との大きな鑑別点となる所見で,この所見が認められた場合はまず非上皮性腫瘍,粘膜下腫瘍(以下SMT)と考えてよい.ただし,まれであるが,癌が粘膜表層でなく粘膜下層以深に浸潤し腫瘍塊を形成した場合,または浸潤に伴い粘膜下にリンパ球の増生,線維化,または粘液産生などを伴った場合にはSMT様の外観を呈し架橋ひだを伴うことがある.このような場合には,両者の鑑別に迷う場合もあるが,その多くは潰瘍面などの,そのほかの所見を組み合わせれば鑑別は困難ではない1).いずれにしても,架橋ひだは組織構築上sm以深に腫瘍塊または炎症による限局性の肥厚が存在する場合に,それで形成された粘膜下に主座を置く隆起が周囲粘膜を引っ張り上げて形成される.

 平滑筋肉腫の1例を呈示する.X線所見(Fig.1)では,体上部後壁に立ち上がり明瞭な結節状の中心陥凹を有する隆起が認められるが,口側から隆起に向かう1条の架橋ひだが存在する.内視鏡所見(Fig.2),切除標本(Fig.3)でも隆起表面は粗大結節状で基部にくびれを有し,架橋ひだがなければ上皮性腫瘍との鑑別は難しい.

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 胃腺腫の肉眼型のほとんどは隆起型でかつ特定の病変に限局して命名される傾向にある.しかし,異型上皮として取り扱われるものの中に,平坦ならびに陥凹の病変もまれながら経験され,その病態はいまだ明らかではない.この陥凹型胃腺腫は肉眼型には陥凹形態をとりながら組織学的には隆起型腺腫と全く同様の異型を示す病変である.

 一方,この陥凹型腺腫は臨床的にその肉眼形態がⅡc型早期胃癌と酷似しており,生検でもGroupⅢ,ときにⅣの所見が得られ,臨床的対応に苦慮することがある.Nakamuraら(Cancer 62: 2197,1988)は,胃腺腫357病変中40病変(11%)に陥凹型腺腫を報告し,これらの病変は肉眼的にⅡC型早期胃癌との鑑別が困難であったとしている.組織学的にも種々の異型を示す腺管腺腫(tubular adenoma)を呈し,隣接する粘膜とは鮮明に境界されていた.病変は基本的には陥凹部粘膜表層が異型腺管に覆われていたが,約1/3の症例は全層性に異型腺管に置換されていたという.Fig.1はその1例で,胃角部後壁大彎寄りに粘膜集中を伴う浅い陥凹性の病変がみられる.粘膜ひだの中断,虫食い所見を呈し,Ⅱc型早期胃癌と酷似している。組織学的には陥凹部の粘膜表層が異型腺管に置換され,隣接する粘膜とは鮮明に境界されている(Fig.2).

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 管状狭小は正常の部分に比べて病変部で腸管径の減少した領域が一様の太さに管状にみられる所見である.通常,狭小の所見がみられる範囲の腸管辺縁は比較的平滑なことが多い.

 内視鏡所見では狭小の程度が軽度であれば,内視鏡が病変部を通過できる.しかし,狭小の程度が中等度以上になると,内視鏡が病変部を通過できないため,多くはX線所見として使うことが多い.管状狭小のX線所見は充満像で最も明瞭となる.二重造影像では周辺粘膜と病変部とバリウムの付着に差が生じ,狭小部では粘膜ひだが消失することが多い.

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 偽憩室形成(pseudodiverticular formation)は初め十二指腸球部の変形に使われたX線所見で,憩室様膨隆とも言われる.現在では内視鏡所見でも使用される.

 この所見は全消化管でみられるが,特に胃の大彎,十二指腸球部,小腸,大腸に多くみられる.この所見は多発または線状の潰瘍性病変によって形成される.治癒または陳旧化した潰瘍性病変による病変部の線維化のために潰瘍対側の健常粘膜はひきつれ,潰瘍の対側に偽憩室を形成し膨隆状変化をみる.この所見は炎症性疾患でみられ,腫瘍性疾患ではほとんどみられない.腫瘍性疾患との鑑別点の1つとして挙げることができる.

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 浸出性炎症において線維素を多量に含んだ浸出物が粘稠な膜様物となって粘膜面に付着したものを正常粘膜に対して偽膜と言う.組織では偽膜は好酸性浸出物・フィブリン・核片炎症性細胞などからなる.消化管では,偽膜を伴った炎症は,食道,小腸,大腸で報告されているが,最もしばしば遭遇するのは,偽膜性大腸炎である.

 偽膜性大腸炎では,内視鏡的に直径数mm前後の円形ないし類円形のやや隆起した乳白色ないし黄白色のビロード状の偽膜が広い範囲に多発している.介在粘膜は浮腫状で血管透見は消失している.重症例では偽膜は地図状に融合し,厚く苔状となって粘膜面を覆い,介在粘膜はほとんど消失してしまう.偽膜性大腸炎は形態学的な診断名であり,病因論的な診断名である抗生物質関連大腸炎,Clostridium difficile(CD)大腸炎とはオーバーラップした概念だが同一ではない.

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 1.牛角胃

 牛角胃の名は,胃の形がウシの角のような形態を呈するものに対して用いられ,横胃とも呼ばれる(Fig.1).

 比較的緊張度の高い胃の状態でみられ,太った体形や筋肉質の男性などに多い.胃全体が持ち上がった形態となっており,管腔は定形胃に比べ狭い.しかも小彎,大彎とも短く見える.この形は高緊張が原因で生じるほかに,定形胃が噴門と幽門を結んだ軸を中心に大彎部が前方に回転移動することによって(胃角部の腹壁側への捻転)も起こり,多くはこれら2つの要素が同時に働いている.

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 悪性腫瘍が脈管性(多くは血行性)に,消化管の壁に転移して粘膜面に隆起を形成し,その中央部に陥凹を伴った場合,ちょうどウシの眼(Fig.1)に似た像を呈することから牛眼像と名付けられている.ドイツの成書「Handbuch der Medizinischen Radiologie Bd.11,Teil Ⅰ」(1969)をみると,Bullaugen Symptomとは,周囲より明らかに隆起した限局性のこぶ状の腫瘤で,しばしば中央部にデレや潰瘍形成を伴うと記載されている.

 牛眼像の表現は,最初に悪性黒色腫で使われたごとく,黒色腫が消化管に転移した例で典型的に認められる.Fig.2は悪性黒色腫が小腸に転移したもので,牛眼像を呈している.しかし,他の悪性腫瘍が脈管性に転移した場合でも,この像を呈する.Fig.3は卵巣癌が大腸に転移した例である.また,Fig.4は耳下腺癌が胃に転移した例で,多発性に牛眼像が認められる.

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 鋸歯像は通常,大腸,小腸の炎症性疾患の急性期にみられるX線所見で,腸管の辺縁が鋸歯状に不整像を呈する場合に用いられる.粘膜下層の浮腫と痙攣性収縮を反映した所見と解釈され,短期間の経過観察によって消失する.

 大腸では薬剤性大腸炎,虚血性大腸炎,感染性大腸炎,憩室炎,大腸放線菌症などで,小腸ではアニサキス症,虚血性小腸炎などでしばしば認められる.また,潰瘍性大腸炎,Crohn病,腸結核など慢性の炎症性腸疾患でも,多発する小潰瘍が側面像として捉えられ鋸歯状の辺縁不整像を呈する場合には,この用語が使われる.更に,大腸癌など悪性腫瘍による粘膜破壊像が辺縁の微細な突出像として描出される場合にも鋸歯像と呼ぶことがある1)

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 巨大ひだとは,粘膜または粘膜下の要因により,幅広く屈曲蛇行した大脳回転様の外観を呈するひだのことを言う.このひだは病的な用語として使用されることが多く,幽門部では悪性病変が多いと言われている1)

 巨大ひだは,X線的には1cm以上の幅を持つ皺襞2),内視鏡的には胃内圧を15mmHg,送気量1,700ml以上によっても皺襞が全く伸展しないものと言われているが3),一般的には十分な空気量を入れても伸展しない皺襞と考えてよい.

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 cushion sign(pillow sign)は1975年De BeerとShinyaによって初めて用いられた1)

 内視鏡検査において,脂肪腫(lipoma)は表面平滑で,正常粘膜に覆われた柔らかなポリープ(腫瘤)として認められる.形態はゼリー状で変化するものから短有茎性のものまであり,色調は頂部は発赤を伴い,基部に行くに従って黄色調を呈する(Fig.1,2).

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 区域性大腸炎とは,炎症部の肛側・口側両端に,正常粘膜のみられる大腸の炎症性疾患の総称であり,独立した疾患名ではない.いかなる炎症においても小腸を含めれば口側には必ず正常部があるので具体的には肛門側に正常部の存在するものを指す.区域性大腸炎の鑑別診断には肛門側に正常部があることがわかればよく,肛門側に正常部がなく直腸下端から連続性に炎症のある潰瘍性大腸炎(以下UC)以外の大部分の大腸炎がこれに含まれる.1か所のみに区域性に炎症のある急性の腸炎(虚血性腸炎など)と,スキップして複数部位に病変の存在するCrohn病(以下CD)とに大別される.急性区域性大腸炎の大半は原因が存在し,それを取り除き適切な治療を行うことで軽快する.しかし慢性の腸炎では原因がいまだ不明で完全な治癒に至らず再燃緩解を繰り返す.

 UCは区域性でないことを大きな特徴とするが,一見区域性に見えるものも少なからず経験する.真の区域性UCの有無については意見が分かれている.すなわち区域性イコールUCではないという立場と,病変部を除いて他の点では全くUCと同じ病変が確かにあり,そういうものはUCとするという立場がある.一見,区域性に見えるUCは単に病期が区域別に異なるにすぎないのでUCとすることには何の問題もない.生検を行って,腺管の配列異常や分岐,Paneth細胞出現など再生粘膜所見を得ることや,組織学的に粘膜炎症の残存を認めることなどで正常粘膜と見える部に治った,もしくはごく軽症の病変の有無を証明する.病変が存在した場合は区域性腸炎ではなく,直腸は緩解しているものの,それより口側結腸にのみ炎症が残っているものである.区域型は全経過において区域性のままとは限らない.また,再燃,緩解を繰り返すことから,CDと鑑別が難しいものがまれならずあり,経過を観察しないと診断がつかない.

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 vascular ectagiaは消化管出血の原因として重要な疾患の1つであり,従来,下部消化管出血の原因になる病変とされてきたが,近年,diffuse antral vascular ectagia(DAVE)などの報告もみられ上部消化管出血の原因としても重要になってきた.

 消化器内視鏡用語集には,vascular ectagia,angiectasia,telangiectagiaなどの用語が挙げられ,そのほかangiodysplasia,arteriovenous malformation(AVM),A-V fistulaなどを同義語とする成書もあり用語の使用に混乱がみられる.これはこの用語が1つの疾患名として使用される以外に,病変の所見として用いられる場合があり,明確な区別がされていないためと考えられる.いずれにせよ本症の概念は,粘膜および粘膜下の血管異常と認識される.

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 大腸ポリープのうち,腸管の水平方向に向かって発育し,背が高くならず扁平であり,表面が結節様ないし粗大顆粒様の凹凸を呈し,まるで絨毯を敷いたような形態を呈する病変が存在する(Fig.1).病変の背丈は表面型大腸腫瘍よりやや高く,色調は白色を呈し,境界は不明瞭であり,色素撤布によって初めてその形状が正確に把握できることが多い.病変の一部に癌が共存していることもあるが,多くは病理組織学的にtubulovillous adenomaないしtubular adenomaであり,典型的なvillous tumorとは肉眼的にも組織学的にも異なる.

 このような病変の名称として顆粒集簇様病変とかⅡa集簇様病変,花壇様隆起,creeping tumor,LST(laterally spreading tumor)などの表現が用いられてきた.いずれの表現も甲乙つけがたいが,名称の不一致は好ましくないため,「胃と腸」第27巻4号(1992年)において,これらの名称を統一して“結節集簇様大腸病変”としたのがこの用語の語源である.本症は第43回大腸癌研究会(浜松,1995年7月)でも主題テーマに取り上げられ,その臨床的・病理学的実態が討論されたが,まだ報告者の間で定義は一定でない節もみられる.また,表面が結節状ではなく滑らかな病変も存在すること,結節と顆粒の違いはどうか,表面型大腸腫瘍との鑑別は明確か,などの問題点も残されている.

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 内視鏡検査の際に,十二指腸球部で観察される小白苔を言う.小白苔が集籏する形で見られることが多く,その状態が霜降り肉に似ていることから,この病変名が付けられた.

 小白苔の部分は,当初,組織標本でUl-Ⅱ程度の浅い病変が認められたとされたが,その後の検討では小びらんの白苔または炎症による線維滲出などによる白苔であろうとされている.

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 表面陥凹型(ⅡC型)の早期胃癌で,しばしば浅い陥凹面に認められる.浅い陥凹面の内部に,周囲の非癌部と同じ高さで,粘膜がちょうど,島状に取り残された形態を示すことから,わが国で生まれた用語である.通常は5mm内外の大きさで,数個から十数個認められる.その1つ1つの形は不整で,辺縁も不整である.表面に癌組織が認められる場合も,認められない場合もある.陥凹の形や辺縁,ひだの性状とともに,浅い陥凹性病変における良・悪性の鑑別で,重要な所見とみなされている.領域性をもった浅い陥凹性病変内に,この島状粘膜残存が多発して認められる場合は,悪性とみなしうる.

 この所見について,欧米でははっきりした記述はなく,早期胃癌の診断学を完成させたわが国で生まれた用語である.同義語の島状隆起とすると,非癌部の周囲粘膜よりも背が高いという印象を受けるので,隆起という言葉は使わず,島状粘膜残存と呼称されることが多い.日本消化器内視鏡学会の用語委員会では島状粘膜残存という用語を用いている.胃のX線像(Fig.1)や内視鏡像(Fig.2),切除標本の肉眼所見(Fig.3)で使われている.

周堤隆起(Randwall) 西俣 寛人
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 輪郭の不整な潰瘍を取り囲むように不整な隆起が存在することを言う.上皮性腫瘍で病理組織上sm以深に腫瘍塊が存在し,中心部に癌性潰瘍を形成したときにみられ,特に2型,3型の癌にみられる所見である.例外的には,粘膜下腫瘍に深い潰瘍を伴ったときにRandwallを形成することもある.

 良性潰瘍の周囲にみられる隆起は“ulcer mound”と表現され,軟らかく,Randwallとは区別される.

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 1.収縮

 生理的,機能的な内径の減少で,筋層の運動である蠕動運動(peristalsis)やあるいは括約筋が閉じるために生じ,筋収縮と関連している.送気や圧力をかけることにより解除される.特に鎮痙剤を用いない(不十分な投与の)検査時に出現しやすい(Fig.1).大腸ではいくつかの生理的収縮輪が知られている.

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 腸管の走行に沿った長軸方向の潰瘍を指す.縦走潰瘍に伴う所見として,長い潰瘍がすべて同じ深さではないため,健常部の粘膜が潰瘍によって引きつれて偽憩室形成をみる.また,直接所見として細長い白苔またはニッシェをみる.

 食道では縦走性のびらんを数条認めるが,通常縦走潰瘍とは呼ばない.小腸・大腸病変で縦走潰瘍はみられる.縦走潰瘍病変のみられる疾患はCrohn病,虚血性疾患,薬剤性腸炎などである.

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 十二指腸内視鏡検査を行う際に,十二指腸の下行脚以下に(ときに上部空腸にまで及ぶ)粘膜表面びまん性の小さな均一な小白点(白斑)が見られることがある.

 この白点は近接で観察すると十二指腸粘膜の絨毛に一致しており,特に絨毛の頂上部の白色が強い.この所見に対して内視鏡学会用語集では十二指腸白点または白斑との名称が付けられている.

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 日常比較的よくみられる所見の1つに小彎短縮が挙げられる.これは潰瘍性病変のために胃の縦走筋が短縮して生ずる所見で,良・悪性を含む潰瘍性病変の存在を示す重要な間接所見である.小彎短縮を3つの場合に分けて考えると,胃角を中心にして幽門側の短縮,噴門側の短縮と小彎全体の短縮が考えられるが,小彎短縮が著しくなると,囊状胃,蝸牛殻内飜,砂時計胃,ハイヒール型変形などと呼ばれる著しい胃の変形を来す(Fig.1).このような著明な小彎短縮は線状潰瘍,対称性潰瘍,鞍状潰瘍にみられることが多いが,胃癌のびまん性浸潤に伴うことも多い.この短縮した小彎は一般に正常な蠕動波を欠き,しばしば胃角の変形,胃壁の硬化,不整を伴う.小彎短縮の有無は立位充盈像で判定されるが,撮影時バリウムを十分に服用させると器質的変化のない大彎側はよく伸展し,小彎短縮が明瞭となる.Fig.2は胃角部小彎に発生した多発潰瘍の瘢痕化に伴い,胃の縦走筋が短縮して生じた所見で,幽門部が左方に引き寄せられ,軽度の小彎短縮がみられる.Fig.3は胃角部の前後壁に主座を有した3型胃癌が化学療法に奏効し,徐々に潰瘍瘢痕化した結果として著明な小彎短縮を来している.

食道web(esophageal web) 吉田 操
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 食道の狭窄のうち,膜様の構造物で発生するものを言う.狭窄部は食道粘膜と粘膜下層で構成されていて,境界明瞭である.webは食道の上部,中部,下部にみられるが,この膜様狭窄の口側面と肛門側面ともに扁平上皮で構成されている.組織学的には炎症所見を伴うことは少ないとされているが,生検組織診断では炎症所見を伴うこともある.下部食道に発生する膜様の狭窄には,webとlower esophageal ring(Schatzki ring)の2つがあるが,lower esophageal ringの肛門側面は円柱上皮で覆われている点が異なっている.上部食道のwebのうち,食道の通過障害に鉄欠乏性貧血を伴うものは,Plummer-Vinson症候群あるいはPatterson-Kelly症候群と呼ばれている.

 病因としては,先天性のもの,逆流性食道炎およびその他の食道炎が考えられる.類天庖瘡,潰瘍性大腸炎,hereditary epidermolysis bullosaなどの疾患と合併することが知られている.また,頻度は低いが類似の所見を呈する疾患として,平滑筋腫,神経腫,過誤腫,異常血管による圧排,悪性腫瘍などの報告があるので鑑別診断の際は考慮しなければならない.診断はX線あるいは内視鏡検査で特徴ある所見から明らかである.膜様の狭窄は,必ずしも全周性である必要はない.後天性のものでは偏側性である場合が少なくない.食道webの治療は,webの切開あるいは,機械的に破壊することで症状の改善が期待できる.

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 カーリング(curling)は巻き毛状あるいは渦巻き状と翻訳され,X線造影における特徴的な食道形態を表す言葉である.バリウムを投与しX線下に食道の生理的運動を観察すると,正常ではバリウムが嚥下されると咽頭の部分から下方へ向かう第1蠕動波が認められる.この第1蠕動波によってバリウムが十分流れない場合,嚥下運動なしに中部食道から下方に向かう第2蠕動波によって残りのバリウムが胃内へ押し流される.これに対して高齢者や後述する症候性びまん性食道痙攣の患者では,第3蠕動もしくは第3攣縮と呼ばれる異常蠕動波が,ときにみられる.バリウムが下部食道に達した際に多数の輪状の収縮として認められ,この特徴的なX線所見を食道カーリング(curhng of the esophagus,Krauselung)と言う(Fig.1).

 1993年,Schatzkiはその食道造影の形態からKrauselungすなわちcurlingという表現を初めて提唱した.ほぼ同じ時期に,Moershらは食道運動機能異常を来す疾患であり,アカラシアと鑑別が必要であることを記載している.以来,1950年代まで食道カーリングは1つの疾患概念として受け入れられていた.しかし,1958年にCreamerらが初めて食道内圧測定を行い,非蠕動性同期性高振幅収縮を見いだしたことから,症候性のびまん性食道痙攣(diffuse esophageal spasm; DES)という新たな疾患概念が生まれた.1967年以後は,食道カーリングという言葉は食道造影における特徴的な食道の形態を表す表現として用いられても,疾患名として用いられることはなくなった.

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 食道の小白斑は従来,広範な種類の病変を含んでいた.最近の臨床診断の精密化と共に,多くの疾患が分離され,基本的には良性の粘膜上皮の肥厚性変化に対して使用されているが,一部に肉眼所見上も,組織学的にも鑑別し難しいものが存在する.

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 食道裂孔ヘルニアは,横隔膜ヘルニアの中で最も頻度の高いもので,そのほかにBockdalek孔ヘルニア,Morgagni孔ヘルニア,Larrey孔ヘルニアがある.外傷性横隔膜ヘルニアを除き生理的に存在する開口部に生ずるものと,形成異常による先天性のものがあり,食道裂孔ヘルニアは前者に属する.

 食道裂孔ヘルニアには滑脱型(sliding type),傍食道型(paraesophageal type),混合型(mixed type)に分類するのが一般的である(Zaino C, et al. The lower vestibular complex. Thomas, Springfield,1963).いずれも食道裂孔をヘルニア門とし,腹膜,食道横隔膜靱帯(phreno esophageal membrane),胸膜をヘルニア囊と,胃の一部をヘルニア内容とする内ヘルニアの一種である.

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 現在,臨床的な膵管像はERCPで得られる.ERCPによって得られる正常な膵管はFig.1のように主膵管では頭部から尾部まで滑らかに造影され,膵尾部で馬尾状になるか,または自然に細くなって消失する.

 主膵管の太さは頭部の太い部分で3.5mm以内であり,それ以上の口径を示す膵管は拡張と診断される.

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 膵の偽囊胞(仮性囊胞)は真性の膵囊胞に対する用語で,急性膵炎の結果として膵実質が壊死に陥り,空洞化したものである.偽囊胞の内容物は壊死物質と膵液であり,真性の膵囊胞とは異なって囊胞の壁細胞が欠落している.通常は主膵管との交通があり,ERCPで造影剤が偽囊胞内に注入されることが多い.

 この偽囊胞にはその大きさにより膵内囊胞と膵外囊胞とに分けられる.このように内外に変化がみられる場合は症状も強く,また膵管の他の部分にも慢性膵炎の所見がみられる.特に膵外囊胞の場合には少なくとも限局性腹膜炎を起こしており,ときには横隔膜下まで達すると血性胸膜炎を併発することもある.

腺境界 大倉 康男
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 胃の固有粘膜は,口側より噴門腺,胃底腺,幽門腺の3つの固有腺から成る.言葉のうえではこれらの固有腺の境界が線分として捉えられ,その境界線が腺境界と言えるが,組織学的には胃底腺と他の2つの固有腺はそれぞれ混在してみられ,幅のある境界領域となる.そのために,腺の混在する幅のある領域を中間帯と呼び,中間帯とそれぞれ固有腺領域との境界にできる線分を腺境界とする研究者が一般的である.しかし,胃粘膜においては加齢現象とされる腸上皮化生や,萎縮の1つとされる偽幽門腺の変化が加わることなどから,実際には腺境界の決定は複雑である.様々な腺組織が混在するためにいくつかの線分が引かれることになるが,それらの中で比較的明瞭に引くことのできるものは,腸上皮化生ならびに萎縮性変化のみられない胃底腺領域を分ける境界線,すなわち中村の言うF-lineである(Fig.1,2).

 微小胃癌の組織型を背景粘膜の性状から検討すると,腸上皮化生のない胃固有腺から成る粘膜からは印環細胞癌を主とする未分化型癌が発生し,腸上皮化生のみられる粘膜からは高分化型腺癌を主とする分化型癌が発生する傾向にある.腺境界によって,いくつかの胃粘膜領域に分けられるが,そのほとんどの領域では腸上皮化生がみられるが,F-lineによって囲まれる胃底腺粘膜領域だけは腸上皮化生がないことから,そこから組織発生する癌の大部分が未分化型癌ということになる.未分化型癌の肉眼形態のほとんどは陥凹型であり,胃底腺領域は癌組織像,肉眼形態,背景粘膜の3者が相関するところと言える.そのような癌の中に早期に発見することの難しいlinitis plastica型癌が含まれることからは,腺境界の中ではF-lineが臨床病理学的には重要な境界線ということになる.

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 腺筋腫症(adenomyomatosis)は胆囊の粘膜上皮の過形成・筋層の肥厚・Rokitansky-Aschoff sinusの増大による胆嚢壁内の多発憩室を特徴とする胆嚢の異常に対してJutrasが命名したものであって1),その本態に関しては不明であるが,炎症でも腫瘍でもないことは確かである.病変の分布範囲から,①generalized(diffuse)type(Fig.1,2),②segmental(annular)type,③localized fundal type(Fig.3,4)に分類する.

 胆囊の異常と症状の因果関係は不明で,本疾患の臨床的な重要性は本疾患が胆囊壁の肥厚を呈し,あるいは胆囊の隆起性病変として胆囊癌との鑑別の対象となる点にある.

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 ERCPの造影時に見られる所見で,acinar fillingは実際には2とおりの所見があり,臨床上やや異なった像を示す.

 acinar fillingを最初に記載したのは,1950年代に開腹下膵管造影の報告を多く行ったDoubiletが記載しており,膵炎の回復が不十分な時期に膵管内に造影剤を注入した場合に,膵実質内に造影剤が人り,スリガラス状に膵が見えてくると報告している1).その機序として,Doubiletは膵炎により膵管上皮の造影剤に対する透過性の亢進によると述べている.これが,Doubiletの言う膵炎後のacinar fillingで,膵実質が均一に造影されることが特徴的である.

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 胃前庭部や胃体部に,円形の山田Ⅱ型の立ち上がりを主とし,頂上部にびらんを伴い臍窩状に見える隆起を言う.前庭部に多い.

 最初に用いた青山は,タコの吸盤に似ていることから,“タコイボ”と記している(日本臨牀22: 1925,1964).この隆起が皺襞上に連なって観察される所見が,タコの足の吸盤の連なり(Fig.3)のように見えることから,この名称が付されたという説もあるが,明確な記載はない.日常の検査では,内視鏡検査での送気,X線二重造影での送気や発泡剤の使用のため,皺襞が伸展され,散在性に観察されることが多い(Fig.1).空気を少量にすると,皺襞上に存在するのがわかる(Fig.2).

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 pit patternとは大腸の上皮腺管開口部(pit)の集合体を,その形態の特徴によりパターン化したものである.いわば組織を輪切りにしたのと同じように表面構造を観察したものである.実際には,生体内ではインジゴカルミン,メチレンブルー,クレシールバイオレットなどの色素を用い拡大内視鏡で,また,固定標本ではカラチヘマトキシリン,メチレンブルー,クレシールバイオレットなどで染色し実体顕微鏡で観察できる.

 大腸病変のpit patternの解析は小坂1)が277病変の実体顕微鏡観察を行い4型に分類した報告に始まり,多田ら2),西澤ら3)がそれぞれの時点で補足していたが,現在一般的かつ標準的に用いられているものは工藤ら4)~6)の分類である.これは腫瘍性病変1,676病変の実体顕微鏡観察を行い,小坂,多田らの分類を基にして,更に従来のものに加えて陥凹型のpit patternを加味して現在の6型に分類したものである(Fig.1).

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 大腸のX線検査,殊に経口造影に際しては,大腸の一定部位に限局性の収縮輪,あるいは分節性収縮(segmental contraction),または幅の狭い部分がみられ,炎症性あるいは腫瘍性の狭窄との鑑別が問題となることがある.このような収縮輪として,Fig.1のように7か所が記載されている(Temleton,1960).これらは生理的括約筋とも呼ばれているが,一部で筋線維の軽度肥厚がみられても,解剖学的に証明される明らかな括約筋はないとされる.これらは生理的状態でみられるが,死体の大腸および切除摘出した大腸にはみられない.まず,臨床上器質的狭窄が除外されてはじめて収縮輪と判定されるべきものである.現在,経ロバリウム投与による検査の機会は少なく,したがって臨床的意義は以前より低いと言えるが,横行結腸のCannon-Boehm点(Fig.2)は出現頻度が一番高く,二重造影像でも出現することが少なくない.Fig.3は回盲弁の口側のBusiの収縮輪である.

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 本来この用語が使われるようになったのは,食道粘膜癌の深達度診断の細かい読影からである.ただ内視鏡観察時にみられる場合(Fig.1)と切除標本の引き伸し固定が悪い場合にみられるひだ(Fig.2,3)と混同されている.本来は前者の場合を言う.両者ともFig.4のような畳目の近接模様に似ているところからニックネーム的に使われている.

 内視鏡観察時にはヨード染色前にも出現することがあるが,ヨード染色後に出現することが多い.その際,意識的に出現を狙ってもなかなか出ないが,吸引を行いながらじっと待つとよい.そして出現しているときにタイミングよく病巣を撮影する.

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 中毒性巨大結腸は,重症の腸炎により腸管が弛緩性に拡張した状態で,通常,横行結腸に認められる.多くは重症の潰瘍性大腸炎に合併したもので,頻脈,発熱,低蛋白血症,電解質異常を伴っている.しばしば穿孔を来し,その場合,死亡率が高率で約50%に及ぶとも言われている.当初,Bockusら1)が“toxic aganglionic megacolon”という名称で記載したが,本症の発生機序として腸筋神経叢の障害以外にも,筋層の広範な破壊や抗コリン薬の使用などが関与する2)ことから,現在では“toxic megacolon”と呼んでいる.なお,原疾患は潰瘍性大腸炎に限定されず,Crohn病,偽膜性腸炎,感染性腸炎(サルモネラ,キャンピロバクター,Clostridium dtfficile,サイトメガロウイルス)でも起こりうる.

 X線学的には,背臥位での腹部単純写真が診断に有用であり,横行結腸の拡張(直径7~10cm以上)2)3)が特徴的である(Fig.1).拡張した腸管はhaustraが消失し,また潰瘍と炎症性ポリープのため,辺縁のぼけ像を伴う結節状の凹凸像として認められる.

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 小腸,または結腸の漿膜下あるいは粘膜下にガスが貯溜し,囊胞状の形態を呈した所見をいう.しばしば多発性で,この場合,腸管囊腫性気腫(pneumatosis cystoides intestinalis)と称される.

 腹部単純X線写真では,蜂窩状,ブドウの房状と表現される特有のガス像を示すので,他の検査の前にある程度疾患が推測できる(Fig.1).立位で横隔膜下に腹腔内遊離ガス像を認めることもある.

デレ(Delle) 八尾 恒良
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 ドイツ語で“くぼみ”あるいは“へこみ”のことである.Teschendorf W(1964)のX線診断学の教科書1)には“Gastritis erosivaはX線所見上,へそ状の透亮像として描出され,Dellengastritisと呼ばれる”と記載され,たこいぼびらんの頂上のわずかな凹みを表現するのに用いられている.

 Fig.1aはCrohn病の胃病変であるが,このような多発する透亮像の上の浅いバリウム斑,あるいはFig.1bの内視鏡所見上の色素を溜めた浅いくぼみがDelleと呼ばれよう.

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 特発性食道破裂の記載はオランダのHerman Boerhaave(ヘルマン・ブールハーヴェイ)(Atrocis nec descripti prius, morbi historia. Secundum mediciae arties leges conscripta. Lugd Bat Boutesteniana Leyeden: 113, 1724)に始まる.Boerhaave's syndromeなる用語を用いたのはCurci JJ & Horman MJ (Ann Surg 183: 401-408, 1976)である.わが国では吉田(海軍医会誌24: 97-98, 1935)が初例を報告し,貴島の集計60例(日胸外会誌26: 172-187, 1978),笠原の集計123例(近大医誌6: 335-358, 1981)がある.

 定義としてはMackler(Surg Gynecol Obstet 95: 345-356, 1952)の直接的間接的外傷,異物,器具挿入,腫瘍,炎症,化膿によるものを除いた食道穿孔を言う.

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 S状結腸軸捻症は,S状結腸が腸間膜の長軸を中心として腸間膜根部で捻転したもので,360°以上捻転すると,S状結腸内腔は口側,肛門側ともに閉塞し,馬蹄型に拡張する(Fig.1).腹部単純X線像では,腹部左側を占居する馬蹄型に拡張した腸管ガス像が特徴的であり,立位像では輸入・輸出両脚にそれぞれ鏡面像をみることもある(Fig.2).

 注腸造影検査を行うと,注入したバリウムにより直腸は拡張するが,捻転を起こしている部より口側へはバリウムは進まない.内腔はこの盲腸部に向かって徐々に細くなっていき,特有の形を呈する.その形があたかも鳥の嘴にように見えるため,bird's beak sign(鳥の嘴像)と言われる(Fig.3).別名,corkscrew twist signとも言う.直腸膨大部は拡張しており,この部が鳥の体のように見え,先細りの先端が嘴状に見える.これを内視鏡で見ると,粘膜面は渦巻き様に捻れながら狭くなっていき,閉塞部(捻転部)に達するのがわかる(Fig.4).

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 畳んだテーブルナプキンを整えて,テーブルに置くための小さい円筒形の輪のことである(Fig.1).ナプキンを通してテーブルに置いたときの形状がナプキンの中央を締めつけた形をしているので,通常は消化管が環状の全周性狭窄を起こしたときの形態の表現に用いられる.

 手もとの10冊ぐらいの欧米の消化管X線診断の教科書の中にはS状結腸のいわゆるapple-core状変形を“napkin ring”constructionと表現したもの(Golden R 19641),Lightdale CJ&Hornsby-Lewis L,19952)),小腸癌の環状狭窄を表現したもの(Lissner,1988,Herlinger H&Maglinte DDT,19893))などがみられる.

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ニッシェは英語でniche,ドイッ語でNischeの言葉で表現され,日本語では壁龕(へきがん)と訳されている.壁龕とは彫像,花瓶などを置く壁の引っ込みの場所のことを言う.X線上造影剤が潰瘍の陥凹部に溜まって胃壁から突出した陰影として描出される像が,これに似ていることから命名された。現在,わが国では一般にニッシェが用いられている.

 ニッシェという言葉は,1910年Haudekにより,潰瘍のX線所見として命名された.1906年にHemmeterは動物実験で胃潰瘍をX線的に描出できる可能性を記載し,1909年にReicheはX線の突出像が剖検所見と対比して,より大きいことを指摘した.当初,Reiche,Haudekらはニッシェを穿通性潰瘍の特徴所見として用いていたが,その後,ニッシェの形態や性状について多くの報告がなされ,一般に潰瘍のX線形態所見として広く普及した.

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 胆管内に空気が人った状態がニューモビリア(pneumobilia;胆道気腫)である.空気により描出された胆管像をpneumocholangiogramと言う.

 腹部単純X線写真によって胆管のガス像として観察される.胆汁は肝臓の末梢から肝門部に向かって流れているため,胆管内ガスは肝門部に集まる傾向がある.したがって,pneumobiliaは腹部単純X線写真では大きな木の枝状,棍棒状のガス像を呈する(Fig.1).肝陰影内にガス像を呈するものはほかに門脈内のガス像がある.これは門脈の流れに沿って肝末梢に達するため,細かい分枝を持った樹枝状陰影を示すため鑑別が可能である.一方,腹部超音波検査でも本症の所見を捉えることができる.腹部超音波検査の所見は肝内門脈分枝に沿った肝内胆管に直線上,階段状,粒状の高エコー像として描出される(Fig.2).これらは,ときにやや弱い音響陰影を伴う.この弱い音響陰影は空気によるためであるが,腸管内のガス像より更に明瞭に描出されることが多い.また,体位変換によって,変化消失することもpneumobiliaの超音波像の特徴の1つである.鑑別診断として,肝内結石症でも肝内に点状高エコーを呈するが,結石の場合は多重様のエコーがなく,明瞭なより強い音響陰影となる.

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 潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患において,炎症により生じたポリープが,引き伸ばされ長くなり,一端でちぎれ,長い茎,ほぼ同じ幅を有するようになったものを粘膜紐(mucosal tag,Fig.1)と言い,これらの先端が周囲の粘膜に付着したり,あるいは相互に癒合し,あたかも橋を形成しているように見えるようになったものを粘膜橋(mucosal bridge,Fig.2)と言う.

 また,これらが集中して生じると海藻状(sea wrack appearance)と呼ばれる特異な形態を示すことがある.このsea wrack appearanceは他の腸疾患では認められず,潰瘍性大腸炎に特徴的な所見と言われている.粘膜橋や粘膜紐はしばしばCrohn病やアメーバ赤痢などでもみられる.

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 粘膜ひだの融合像が全周性に及んだ結果,環状の隆起像を形成し,周堤隆起のように見える所見を言う.

 粘膜ひだの融合像は,潰瘍あるいは潰瘍瘢痕を伴う病変の周囲に部分的に見られるが,この融合像が全周性に及ぶと粘膜ひだの集中像を伴った環状の隆起像を形成する.したがって,その発現機序は粘膜ひだの融合像の場合と全く同様であり,炎症に伴う間質反応や腫瘍の深部浸潤によって引き起こされる.

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 1966年,Marstonら1)は虚血性大腸炎を壊疽型,狭窄型,一過性型の3型に分類し,狭窄型の慢性期の特徴的な注腸X線所見の1つとしてsacculation(囊形成)という用語を用いた.sacculationとは,潰瘍の瘢痕収縮によって生じた腸管の変形を表す用語であり,比較的大きな囊状の変形もしくは偽憩室(pseudodiverticulum)様変形を示す.

 虚血性大腸炎においては,結腸紐に沿って縦走潰瘍が形成されるため,sacculationはその対側に形成される.潰瘍が治癒する際の粘膜下における線維性組織の不均一な沈着により,このような変形が生じると考えられる.

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 線状潰瘍が嚢状胃の原因であることを明確にしたのは村上,鈴木ら(1954)1)である.Fig.1は嚢状胃を示すX線像で,著明な小彎の短縮によりできたものである.胃角部に小ニッシェ様突出が見られるが,これは小彎をまたがる線状溝の一部で,充満像だけでも囊状胃であれば線状潰瘍と言ってほぼ間違いなく,小彎にニッシェあるいは小ニッシェ様突出を認めれば,診断はより確実となる.

 その成り立ちは,Fig.2に見られるように,線状潰瘍が再燃・再発を繰り返し,長くなればなるほど小彎は短縮を来し,蝸牛角状内飜(Schneckenförmige Einrollung)から囊状胃(Beutelmagen)を示すようになる.多発潰瘍や胃癌により一見囊状胃に見えることがあるが,二重造影像や内視鏡で線状潰瘍を認めることにより鑑別することができる.

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 Barrett食道,Barrett上皮は食道腺癌の発生母地として注目されている病巣である.1950年にBarrettが“Chronic peptic ulcer of the esophagus and esophagitis”を報告してから,3年後AllisonとJohnstoneがBarrett ulcerの言葉を使って以来,“Barrett”の,言葉が使用されるようになった.

 Barrett食道は本来の食道胃粘膜接合部から3cm以上の長さ,あるいはLESも超えて全周性の食道の円柱上皮化と強調する学派もあるが,病理切除標本で粘膜下層の固有食道腺の存在範囲内にみられる食道腺癌は,本来の食道胃粘膜接合部から1~2cmの距離でもBarrett食道癌と呼ぶ傾向がある.Barrett上皮とは全周性ではなく局所的に食道粘膜の円柱上皮化がみられる場合を指す.

白苔(Belag) 中野 浩
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 胃・十二指腸潰瘍の潰瘍底を覆う白色の付着物質で,通常“ベラーク”と呼び慣れている(Fig.1).胃・十二指腸のみならず食道・小腸・大腸の潰瘍底にも認められる.また,潰瘍底のみならずびらん面にも認められ,良性の潰瘍,びらん面だけではなくⅡC型早期癌の陥凹面,また汚いという修飾語が付くが進行癌のクラーテルの底部にも認められる.そして,悪性リンパ腫の潰瘍,びらん面にはクリーム状と言われる滲み出るような黄色を帯びた白苔がみられる.

 典型的な白苔は胃・十二指腸潰瘍の底に,それも少し治癒過程に入った時点でみられる純白の付着物である.この白さは体内で内視鏡を通じて見たもので,手術材料では黄色で混濁している.そして,この白苔は胃・十二指腸潰瘍の治癒とともに底の部分を覆いながら縮小し,白苔の消失は潰瘍の治癒を意味する(Fig.2).病理組織学に白苔はAskanazyの潰瘍底の4層構造中の滲出層,壊死層に由来するものと思われるが詳しくは検討されていない.

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 棍棒は,そもそも浄化を表す剣とは対照的に,懲罰に使われた道具で,攻撃的な力や勇猛さの象徴である.オリーブの木で作った棍棒を手にした,ギリシア神話のヘラクレスの像を思い浮かべる人も少なくないだろう.

 古くから,X線診断上,集中ひだの先端が太まっている所見は,棍棒状の肥大,肥厚と表現され,癌診断の有力な手がかりとされてきた.これは単に,形の類似から連想されただけでなく,この言葉の持つ荒々しいイメージも強く働いて名付けられたのかもしれない.

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 陥凹型早期胃癌のうち粘膜ひだ集中を伴う病変では,粘膜ひだ上に特徴的な悪性所見を認める場合が多い.従来,①中断像(太まりもやせもせず中断しているもの),②先細り(やせ像;ひだの先端が急に細くなるもの),③腫大(ひだ先端部が腫大膨隆するもの),④段差(ひだの途中で段差がみられるもの),⑤蚕食像,が悪性診断指標とされてきた.このうち中断,蚕食像が出現率も高く,また,癌の浸潤境界と一致する率が高いと報告されている.ひだ集中を伴う病変においては古くから,潰瘍が先か,癌が先かの議論が行われてきた.その結果,現在では“潰瘍の癌化はないか,あったとしても極めてまれ”とされている.したがってひだ集中は,ひだ集中を伴わない浅い陥凹型癌巣中に消化性潰瘍が生じ,粘膜筋板が破壊され,粘膜下層に線維化が起こり,その結果,ひだ集中が起こると考えられる.すなわち,ひだ先端の中断像やひだが急に細くなる(先細り)部は陥凹型胃癌における癌細胞側方浸潤の先進部に一致する.したがって蚕食像の場合と同様に,癌が表面に露出すると容易にびらんが発生し,正常の粘膜より浅い陥凹を示すようになるが,これらの変化がひだの先端に生じたものが,ひだの中断,ひだの先細り(やせ像)である.

 ひだの中断像,先細り(やせ像)と癌の浸潤範囲との一致率は特に未分化型腺癌に高い.分化型腺癌では背景粘膜の腸上皮化生による修飾のため不明瞭であることもある.

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 ひだの蚕食像(虫食い像)はⅡC型早期胃癌を中心とした陥凹型胃癌に認められる所見で,悪性診断指標の最も重要な所見の1つである.集中するひだの先端にも認められるし,ひだ集中を伴わない場合にも癌の辺縁に認められる.

 蚕食像(虫食い像)とは字のごとく,蚕が桑の葉を食べているとき,その桑の葉の形態が似ていることに由来した名称と思われる(虫食い像はネズミにかじられたような感じを表現した名称で“mouse-eate”と訳されている.蚕食像と虫食い像は同じ所見である).Fig.1に実際に蚕が桑の葉を食べているところを示す.桑の葉の辺縁は微細な不整を示す.

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 ひだの集中像はわが国では粘膜集中像とも訳されているが,潰瘍あるいは潰瘍瘢痕に向かって周囲から粘膜ひだが集中する現象を指す.これを初めて記載したのはEisler-Lenk(1921)である.成因については一般に粘膜筋板のAutoplastik(Forssell,1913)と潰瘍底の瘢痕収縮によると考えられている.Hauser(1926)は大きさが1cm以上で筋層深くまで達していて,粘膜筋板と固有筋層との融合を伴う潰瘍に著明なひだ集中像を認めており,潰瘍が大きくて深いほどひだ集中像は著明に現れると述べている.

 ひだ集中像は潰瘍の新旧や治癒傾向の判定,更に良・悪性の鑑別にも利用される.熊倉は粘膜集中を3種類に分類し,その臨床的意義を次のように述べている.①粘膜集中がないか,はっきりしない潰瘍は一般に比較的新しい潰瘍で著明に縮小しうる.②中断した粘膜集中は比較的新しい潰瘍の症状で,適当な治療によって急速に縮小し得る.③潰瘍の全周にわたる中断しない粘膜集中は比較的古い潰瘍の症状で,縮小しにくい.通常Ul-Ⅳ(少なくともUl-Ⅲ)にみられる.④特殊な粘膜集中は比較的古い潰瘍の症状で,Ul-Ⅳ(少なくともUl-Ⅲ)にみられる.⑤潰瘍周囲に部分的に,中断しない粘膜集中のある潰瘍はまだ縮小しうることを示唆しており,再発ないし再然の症状とも考えられると.集中する粘膜ひだは良性潰瘍では潰瘍縁ないしその周辺でなだらかに中断するが(Fig.1),陥凹型早期胃癌では陥凹縁で階段状の急激な中断像を(Fig.2),また,陥凹型の進行癌では隣接するひだ同士が陥凹縁で融合を示す(Fig.3)ことが指摘されており,陥凹性病変の良・悪性のみならず深達度の重要な診断指標として診断に役立っている.

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 胃癌,特に陥凹型早期癌では,しばしば癌巣に向かってひだ(皺襞)が集中する例がみられる.この集中するひだの先端は,癌浸潤の程度などにより様々な形態を呈する.ひだの中断あるいは断裂とはその1つで,ひだの先端が陥凹の辺縁で急に凹凸不整に途切れることを示す.すなわち,ひだの中断は中断した部位まで癌浸潤が及んでいるために生じ,この位置が粘膜層における癌浸潤の境界である.

 また,癌浸潤の程度や組織型によってひだの先端の形態は異なることが明らかにされている.ひだの中断は癌浸潤が粘膜層内にとどまる例に多く認められ,組織型では未分化型癌に多く認められる所見である.

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 粘膜ひだの集中像において,隣接する粘膜ひだの先端部が融合して1つのひだのように見える所見を言う.融合しているか否かは,本来であれば存在するはずのひだの境界,すなわち溝状の構造が読み取れるか否かで判定される.

 潰瘍あるいは潰瘍瘢痕を伴う病変では,潰瘍部分に一致して線維化組織を伴っている,このため,多くの場合は潰瘍部分に収縮機転が働き,粘膜ひだの集中像を伴う.このとき,ひだの粘膜下に浮腫などの強い炎症反応や癌の深部浸潤などの組織変化が加わると,粘膜ひだは膨隆し,先端部に融合像と呼ばれる所見が出現する.

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 標的とは,矢などを打つ目印や的を意味するもので,消化管のX線写真で,同心円状の所見がみられた場合,標的徴候と呼ばれる.この徴候は,胃・大腸の有茎性ポリープの所見として主に使われてきたが,そのほか無茎性ポリープ,あるいは胃の転移性悪性腫瘍の所見として標的徴候も,しばしば使われている.

 胃・大腸の有茎性ポリープは,X線の照射方向によって種々の像を示す.特に有茎性ポリープを長軸方向に平行に真正面から見た場合,同心円上に二重の輪状影として認められることが多く,これを標的徴候(target sign)と呼ばれる.この場合,中心の小さいほうの輪状影は茎の,外側の大きいほうの輪状影はポリープの輪郭を示している.Fig.1は大腸の有茎性ポリープの側面像(a)と正面像(b,c:標的徴候)を示したものである.このX線における有茎性ポリープの標的徴候は,Youker JEらが1971年の「Radiology」に紹介している.

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 表面型大腸腫瘍とは大腸の上皮性新生物(腺腫・癌)のうち,次の2つの条件を満たすものを言う.①形態学的に平坦である.②組織学的に水平発育型腫瘍腺管から成る.平坦とは,隆起の頂部,陥凹の底部が周囲の正常粘膜表面と平行であることを指す.水平発育型とは腫瘍腺管が正常大腸上皮と同じように,水平方向に並び,各腫瘍腺管は粘膜筋板から表層まで一直線に伸び,長さは同じ(全層性)のものを言う(Fig.1)が,類全層性のものも含む.

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 食道の粘膜病変の診断には,色素内視鏡検査が有効である.特に永い間困難とされていた食道の上皮内癌,粘膜癌の拾い上げ診断を容易・確実にしたことが評価されて,食道癌の早期診断には欠くことのできない補助診断法となった.

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 吻合部潰瘍とは,胃部分切除後または胃空腸吻合術後に,吻合部近傍の小腸側に発生した潰瘍を言う.吻合線上にみられる潰瘍,いわゆるsuture line ulcerは,主に吻合糸の遺残によって起こるもので,吻合糸の内視鏡下での抜去により治癒する潰瘍であり,消化性潰瘍の1つと考えられている吻合部潰瘍とは分けて考えることが必要であろう.

 吻合部潰瘍は,H2ブロッカーやプロトンポンプインヒビター(PPI)が出現するまでは,再燃・再発を繰り返す難治性の潰瘍で再手術される症例もみられた.

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 直線化とはX線造影において一定の曲線で描かれるはずの臓器の辺縁が直線的に現れる所見である.観察手段や方向,単なるねじれ,あるいは他の臓器による圧迫などによって偶然直線的に現れる正常像から,壁の硬化を伴う異常像までが広義的に含まれている.

 癌の浸潤や線維化などにより胃壁に器質的変化が起こると弾性が失われ,壁が質的に硬くなることを壁の硬化または壁の硬直と言う.X線形態用語としての壁の硬化像にはこのような病理組織学的な要素が含まれ,直線化に比べると,質的に硬いという意味合いが強い.関連用語としては壁の肥厚があり,炎症性浮腫や癌の塊状浸潤などにより胃壁の厚みが増した状態を言う.壁の硬化には壁の肥厚を伴うものと伴わないものがあり,X線的にも異なった所見を呈する.

縫合線(suture line) 小越 和栄
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 縫合線は内視鏡用語として,消化管を全層切開をし,縫合した際にみられる粘膜部分の線状の瘢痕に対する用語であり,一般的には特定の部位と状態を示す言葉ではない。しかし,この用語が重要となる場合は,切除胃の小彎側の縫合部であり,それは残胃の切除線の一部を示している.

 この部の縫合線が重要な理由としては,①内視鏡的に残胃小彎側に線状潰瘍瘢痕様に観察され,ときにはその部がⅡC陥凹に類似した粘膜状態を呈すること,②ときにはこの部が隆起として観察されたり,肉芽腫がポリープ状に観察されること,③また,この部分が残胃の切除線に当たり,胃癌,特に早期胃癌の場合には吻合口と同様に癌の残存(OW+)の有無の判定,更に局所再発の有無の観察に重要な部位であること,などである.

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 拇指圧痕像(thumbprinting; Boley et al,1963)は,中等度の充満注腸X線像で,Fig.1の粘土の模型像のごとく,あたかも指で圧したような卵円形,または円形の丸味を帯びた隆起が連なるような像として見られる.Fig.2は頻回の大量血便直後,無前処置のまま注腸造影を行った悪条件下の充満X線像で,典型像が描出されている.内視鏡で見ると凝血塊状のものが存在し,わずかに観察できる粘膜は浮腫状で潰瘍を伴っていた.二重造影像(Fig.3)では空気量の多少で像が変わり,また,バリウムの溜まった条件のときに描出されやすい(Marston et al,1966).

 粘膜下層に浮腫を生じ,新鮮な肥厚を来すための所見とされ,更に病変のある腸管はspasticになったり,伸展不良を伴い,この所見がより強調されるが,壁は軟らかさを保っている.主として虚血性大腸炎の初期にみられる所見であり,小腸でも同様な病変により現れる.このほか,薬剤性大腸炎の発症時をはじめ,共通の条件を来す病変でも出現する.同義語にpseudopolyposis(Thomas,1972),scalloping(Fig.4)(Thomas,1972),pseudotumors(Schwarts,1964)などがある.

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 1929年,病理医Malloryと内科医Weissにより,長年の飲酒歴のある患者で,多量の飲酒後,吐気,嘔吐に続き大量の吐血を来した症例には,胃噴門部付近の裂創を認める,として報告された.

 彼らは4例の剖検例を含む15例の臨床について検討し,長期のアルコール摂取により,粘膜の脆弱性の進行後,嘔吐反射により粘膜に裂創ができると考えていた.しかし,その後,成因としてはアルコール,嘔気,嘔吐と続く経路だけでなく,くしゃみや腹部打撲など,急激な腹圧の上昇で発生することが明らかになっている.この裂創は,Mallory-Weiss tearと呼ばれている.

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 Jackman1)によれば癌を有する大腸に共存してみられるポリープを見張りポリープと呼ぶ.同義語として斥候ポリープ,共存ポリープがある.その意義はポリープを有する大腸には癌が共存する頻度が高く,直腸鏡による検査でポリープを見つけたときには,大腸癌がその深部に共存する可能性を考慮した全大腸の検索が必要であるということである.

 見張りポリープあるいは共存ポリープの頻度について,1994年1月からの1年間に当院で外科的または内視鏡的に切除された大腸癌についてみると,腺腫性ポリープの合併例は126例中61例(48.4%)であり,共存ポリープの総数は123病変であった.癌の部位別にみた共存率は直腸癌54例中21例(38.9%),S状結腸癌34例中17例(50.0%),下行結腸癌11例中7例(63.6%),横行結腸13例中6例(46.2%),上行結腸・盲腸癌17例中12例(70.6%)に腺腫性ポリープの合併をみた.直腸癌での合併が少ない傾向があったが統計的有意差はなかった.

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 胃腺増殖による広範な胃粘膜の良性の巨大皺襞は,1888年MénétrierがPolyadénomesen nappeの名称で発表して以来,数多くの症例が報告されている.しかしその組織発生,低蛋白血症の発生機序,癌化などの関連性について多くの未解決の問題を残している.更にこのメネトリエ肥厚を呈する疾患としては上記のgiant hypertrophic gastritis(Ménétrier病)のほかにZollinger-Ellison症候群,スキルス胃癌,悪性リンパ腫,吻合部ポリープ状肥厚性胃炎などが挙げられる.

 Ménetrier肥厚の病理組織学的特徴について佐野は(胃疾患の臨床病理,医学書院,1974)胃体部腺粘膜の単純肥大(simple hypertrophy)を来す病変と理解し,Schindlerのhypertrophic glandular gastritisに相当するものであるとしている.多賀須(胃と腸15:531,1980)も佐野の立場を支持し,胃底腺領域でも幽門腺領域でも腺底部には本来の胃底腺が残ったまま腺性肥厚を来しており,通常の萎縮過形成胃炎とは著しく異なることを強調している.筆者らの切除材料の検索でもほとんどすべての症例が,組織学的に腺窩上皮と固有胃腺が本来の比率を保ったまま増生した腺性肥厚性胃炎の所見を呈していることから,本症のほとんどは胃底腺粘膜の腺性肥厚を来す病変と理解している.

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 胃の狭小化とは胃の内腔が器質性疾患により狭くなった状態で,胃中下部に発生した多発潰瘍や癌により引き起こされることが多いが,内腔は確保されている.幽門狭窄とは文字どおり,幽門前庭部が狭くなる病変で,しばしば通過障害がみられる状態を言う.胃病変に伴う胃内腔の狭小化,狭窄は,良性疾患では経過の長い反復性の潰瘍や線状潰瘍,多発潰瘍に著明であり,悪性病変ではlinitis plastica型癌や幽門前庭部にみられる進行癌に多い.特に悪性腫瘍に伴う狭小化の場合は,他の胃X線所見と総合すると診断に苦慮することはほとんどない(Fig.1).良性疾患に対する狭小化に対しては胃の再発性潰瘍および線状潰瘍が多く,これらの患者は臨床経過も長く,愁訴も多いのが通常であり,その形状からその患者の自然史を窺い知ることができる.一方,幽門狭窄は幽門部に発生した癌病変によって引き起こされる悪性の狭窄と,胃幽門部や十二指腸球部の消化性潰瘍による良性の狭窄に分類される.

 X線撮影上の注意として,狭窄部位の辺縁が観察できるように充盈像,二重造影像のほか圧迫撮影は必須である.幽門部癌による悪性狭窄の場合は狭窄部の辺縁の不整,硬化が著明で,しばしば陰影欠損がみられる(Fig.2).十二指腸球部潰瘍による狭窄では直接所見は把握しにくいが,手術症例の検討からほとんどの幽門狭窄の例において活動性潰瘍が同時に認められている(Fig.3).瘢痕のみによる閉塞はほとんどみられないことから,幽門狭窄を伴う球部潰瘍では活動期の潰瘍の存在を考慮し,即手術ではなく,抗潰瘍薬による保存的治療による経過観察により改善することが多い.

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 腸管の走行に対して垂直な面で切ったような全周性輪状の潰瘍を指す.輪状潰瘍の幅については規定はないが,幅が広くなると通常,帯状潰瘍と呼ぶ.

 下部食道で逆流性食道炎による輪状のびらんをみる.通常,このびらんから口側に伸展する数条のびらんをみる.潰瘍の治癒過程で管腔に輪状の狭小化がみられる.

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 輪状膵とは疾患名であり,膵頭部組織の一部が十二指腸下行脚を輪状に取り巻く先天性発生異常である.1818年にTiedemanが剖検例を初めて報告した.

 annular pancreasなる名称は1862年にEckerによって提唱された.わが国における最初の報告は1922年の黒沢の剖検例であり,当初,環状膵なる用語が使用されていたが,南山堂医学辞典では第16版(1978年)より,環状膵の用語が削除され輪状膵が採録されている.内科学会用語集,消化器内視鏡用語集では輪状膵の用語のみ採録されており,現在では輪状膵が一般的に使用されている.輪状膵の発生に関しては多くの説が提唱されているが,腹側膵原基右葉の先端が十二指腸壁に癒着し,そのため十二指腸の時計方向回転の際に腹側膵原基が十二指腸の周りに引き伸ばされて輪を形成するとしたLeccoの説が最も有力である.

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 裂溝は,X線学的にはcobblestone像,縦走潰瘍,非連続性病変などとともに,Crohn病において認められる特徴的な所見の1つである.Fig.1は小腸の縦走潰瘍部にみられた裂溝である(矢印).充盈像では粘膜のひだの間に入り込んだ造影剤により似た像が得られることがあるので,管腔を拡げた写真による判定がよい.

 病理組織学的には,裂溝はサルコイド様非乾酪性肉芽腫に次いでCrohn病に特徴的な所見である.特に肉芽腫が認められない場合には,裂溝の存在が診断に有用である.筋層深くにまで達し膿瘍を形成したり,穿通すれば瘻孔を形成する.

彎入(indentation) 磨伊 正義
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 潰瘍や癌性変化により胃壁内に細胞浸潤,結合織増生があると,この部位の胃壁は尋常な弾力性を失い,攣縮性切痕を形成する.これを彎入という.

 多くは小彎側に存在する潰瘍性病変により固有筋層に限局性のspasmが生じ,大彎側に向かい,刺すように切痕を形成する.この彎入は平滑で深く,しばしば1cm以上に及ぶこともあり,その所見は恒常性で圧迫や鎮痙剤投与によっても消失しない.多くは小彎側に潰瘍性病変が存在した場合に大彎側の攣縮性彎入としてみられ,部位的には,胃穹窿部,胃体部や幽門前庭部にしばしば認められる所見である.消化性潰瘍が治療すればこの彎入は消失することが多いが,多発潰瘍の治癒期には,胃の変形を来すことが多い.一方,癌性潰瘍に伴って出現する彎入は拇指圧痕像を示すことが多く,その辺縁は不整,硬化,不調和な辺縁像として描出され,癌の浸潤に伴って彎入は増悪する.

第Ⅱ部 検査手技・所見等の用語 c.病理・病変用語

adenoma-carcinoma sequence 武藤 徹一郎
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 腺腫の一部に癌が認められることはまれではない.この所見は腺腫内癌(carcinoma in adenoma)と呼ばれ,癌の一部に腺腫が混在している所見(carcinoma with adenoma)とともに腺腫が癌化する最も確実な証拠と考えられている(Fig.1,2).すなわち,腺腫の一部に発生した癌は粘膜内で既存の腺管を破壊・置換しながら増殖し,粘膜下浸潤癌(sm癌)を経て,通常みられる潰瘍型癌に発育すると考えられている.retrospectiveな研究からもこの経過が支持されており,大腸癌発生に関するこの概念をadenoma-carcinoma sequence(ACS)と言う.最近の知見では広基性,扁平性は腺腫からの癌化が最も多いと推定されている.

 初めは大きな腺腫に癌が発生するのがACSの典型であると考えられていたが,内視鏡的ポリペクトミーが登場するに至って,1cm前後の腺腫にも腺腫内癌が認められ,ACSが成立することが明らかになってきた.小さな腺腫に癌が発生して増殖した場合には,腺腫の遺残が認められる頻度が低くなるので,いわゆるde novo癌との鑑別が難しくなる.更にflat adenomaにもACSが成り立つと考えられる組織所見が認められることがあり,やはりいわゆるde novo癌との鑑別が問題になる.

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 大腸癌の組織発生において,adenoma-carcinoma sequenceの癌,つまり腺腫の癌化による癌に対して,直接大腸粘膜から発生した癌をcarcinoma de novoと呼んでいる.“de novo”とはラテン語で“初めから,あらたに”を意味する.現在,世界では一般的に大腸癌の組織発生“大腸癌のほとんどすべて(95~100%)は腺腫(=dysplasia)の癌化による癌である”が受容されている.更には,近年その学説に遺伝子変化が付加されて,大腸の癌化機序“mucosa→dysplasia(=adenoma)→carcinoma→metastasis”となっている.

 しかし,adenoma-carcinoma sequence説は,癌組織診断基準“異型度著明なdysplasia腺管の粘膜下組織浸潤をもって癌と定義する”ということを前提として導かれたものである.そして,粘膜内に限局しているdysplasia病変(=腺腫)を,その異型度をもってmild,moderate,severeの3段階に区分し,たとえ異型度が明らかに癌であってもそれを粘膜内癌とはせずにsevere dysplasiaとしている.

flat adenoma 武藤 徹一郎
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 表面の平坦なわずかな隆起はflat elevationと呼ばれるが,この中には腺腫,m癌,過形成性ポリープなどが含まれており,腺腫はflat adenomaと呼ばれる.赤色調の小さな(大多数は1cm以下)表面平坦な隆起で空気量によって形態が変わる(平坦⇔扁平).ときに中心陥凹を伴う,などが内視鏡的な特徴である(Fig.1).組織学的には,側方への増殖傾向の強い腺管腺腫で,腺腫の高さは周囲の正常粘膜の2倍を超えない,粘膜筋板が薄い,1cm以下でも腺腫内癌の頻度が高い,などの特徴がある(Fig.2).小さいにもかかわらず癌化率が高いために,大腸癌の母地としての重要性が指摘されてきたが,症例数の増加に伴い,良性病変が多くなり癌化率は低下してきた.

 本症の頻度はポリペクトミー例中の5~10%を占め左側に多いが,通常腺腫の分布に比して右側の頻度が高い.家族内に癌を合併している例が多く,その傾向はflat adenomaの多発例に特に著しい.大腸腺腫症に合併する例も報告されている.HNPCCとの合併もみられるので,今後は遺伝予学的検討もなさなければならない.

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 MALTリンパ腫は,Isaacsonらの系統的研究で,その独立疾患としての地位が確立されてきた1).International Lymphoma Study Groupから1994年に提唱されたリンパ組織腫瘍のRevised European-American分類では2),MALTリンパ腫は節外性(extranodal)の“marginal zone B-cell lymphoma”と同義に取り扱われている.

 同リンパ腫は,消化管では胃に最も多く,十二指腸,その他の小腸や大腸(特に,直腸)にもみられる.消化管以外では,唾液腺,肺,甲状腺,涙腺,結腺,膀胱,腎,皮膚,軟部組織にも発生する.MALTリンパ腫の発生母地病変として,Sjögren症候群(唾液腺,涙腺など),橋本甲状腺炎,Helicobactey pyloriに起因する慢性胃炎や十二指腸炎が挙げられている.

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 1.PCR法(polymerase chain reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)

 特定のDNA領域を挟んだ2種類のプライマーと基質ヌクレオチドおよび耐熱性DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)を用いて試験管内でDNAの合成反応を繰り返し行うことにより,微量の試料からその特定のDNA領域を増幅して取り出す方法.増幅したいDNA領域の両端に相補的なオリゴヌクレオチドを合成してプライマーとする.鋳型DNAは通常2本鎖であり,これを熱変性して1本鎖化し,プライマーを結合させた後DNAポリメラーゼにより相補的なDNA鎖の合成を行う.この1サイクルによりDNA領域のコピー数が原理的に2倍になり,これを繰り返すことにより目的のDNA領域を数十万倍に増幅し取り出すことが可能となる.

 PCR法は1985年にSaikiらにより開発され,その原法ではKlenow酵素が用いられたが,その後,高度好熱菌から分離された耐熱性DNA合成酵素Taqポリメラーゼの導入と,1987年にはPCR自動化装置サーマルサイクラーの開発が進み,飛躍的にその利用が広まった.

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 Peutz-Jeghers(P-J)症候群に発生する大腸ポリープは特徴的な組織所見を呈している.粘膜筋板が樹枝状に分岐しており,それに伴う過形成性腺管の増生によってポリープが構成されている(Fig.1).通常は腺管には異型が認められないが,まれに異型腺管が併存することがあり,本症の大腸ポリープの癌化はこの異型腺管を母地にして発生することが多いと考えられている.

 一方,P-J症候群とは関係のない通常の人に,上述したP-J症候群の大腸ポリープの組織像と類似した所見を示すポリープが発生することがあり,これはPeutz-Jeghers型ポリープと呼ばれる(Fig.2).ポリペクトミーの症例の1~2%を占めており,切除標本の組織学的検索によってはじめて診断がつけられる.

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 腫瘍は良性から悪性まで様々な態度を示す.良性腫瘍とは局所で,多くは境界明瞭な発育を示し,浸潤あるいは転移を来すことはない.また発育速度も遅い.これに対し悪性腫瘍は浸潤性発育と転移形成を来すことが特徴で,一般的に発育は速い.これらの特徴の違い,悪性度を,まだ浸潤あるいは転移を来していない時期に,病理学的に判定することは極めて重要である.

 悪性度の判定には組織ならびに細胞分化度(組織異型度),浸潤の程度,リンパ管あるいは静脈内侵襲度などが指標として用いられている.消化管の腫瘍では粘膜内に存在した癌の診断をめぐって,日本と欧米とで大きな相違が生じているが,これは粘膜内癌が浸潤癌でないことに起因している.この粘膜内癌の判定は構造ならびに細胞異型を指標とする組織異型度によって判定される.構造異型は腫瘍発生母地の構造とのかけ離れの程度で,消化管では腺管構造の異常として表現される.代表的なものは腺管内腺管(gland in gland,cribriform pattern,back to back),分岐異常,あるいは腺管吻合などである.細胞異型としては核/細胞質比(N/C ratio),核異型,核の大小不同,核の軸性の消失などが用いられる.それらの程度によって腫瘍は高分化,中分化,低分化に分けられ,一般的に分化の程度が低くなるにしたがって悪性度は高くなる.しかし消化管の癌では原発である粘膜内が高分化型腺癌であっても,浸潤部では低分化腺癌に変化することは,まれならず経験される.したがって悪性度判定には壁浸潤度,脈管侵襲などが重要な要素となる.

異形成(dysplasia) 大倉 康男
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 “dysplasia”のdys-は英語でabnormal,difficultを,-plasiaはto formを意味し,形成異常を示す言葉である.異形成と訳されるが,dysplasiaとそのままに用いられることのほうが一般的である.ほぼ同様な意味に用いられる言葉として“atypia”(異型性)があるが,それはただ非定型であることを表すものであり,“dysplasia”が非定型な発育(atypical development)を表すことと違いがある.すなわち,正常なものと異なるものを経験した場合,異型性があると認識し,そのようなものができることを異形成という.

 dysplasiaは食道,胃,大腸などの消化管,子宮頸部などで癌と診断するには異型度が十分でない病変を示すが,組織異型度を表す言葉としても用いられている.疾患と異型度という次元の違うものを同じ表現で行うことから混乱がある.dysplasiaという言葉の持つ本来の意味からすれば,癌とは言えない異型度の疾患概念として捉えられるべきである.組織所見の異型性を示す表現としてはatypiaが適当である.したがって,これまでmoderate dysplasiaとしていた病変は,adenoma with moderate dysplasiaではなく,dysplasia with moderate atypiaと表されるべきである.言葉は使用者の間で共通の理解が得られるのであれば,どのような言葉を用いようとも問題はないのであるが,パターン認識される組織所見の異型度を単に表現する意味においては,様々な推測を含み,誤解を招きかねない用語は不適切と言える.そのことから,日本では消化管においては異型度を示す表現としてatypiaが用いられるように変わりつつあるが,世界的な認識との間に混乱がある.

異型性(atypia) 大倉 康男
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 異型とは,あるものに関してそれが示す一般的な形態とは異なっていることであり,異型性とは,異型の性質ないし性格を示す言葉である.一方,atypiaとは,“atypia”すなわち“not-type”であることから,非定型を表す言葉であり,異型性と訳されている.病理組織学的には,腫瘍細胞ないし腫瘍組織の形態が由来した正常細胞ないし組織のそれと比較して異なることを表すが,消化管においてはTable 1のような所見が挙げられている.それらの異型所見の正常組織からのかけ離れの程度,すなわち異型性の強さの程度が異型度である.異型度は正常からのかけ離れの程度を長さで置き換えることにより,無数の異型度を実数線分上並べることができることから,連続体である(Fig.1).

 組織標本には様々な異型所見が種々の異型度で組み合わされて認められるが,組織診断はそれらの所見を認識し,既に経験的に体得され,診断づけられている異型性の物差しを用いて判定することである.すなわち,その過程は異型の認識であり,広い意味でのパターン認識である.その認識の方法は個々の研究者によって異なることから,物差しの目盛に差がみられることになる.パターン認識が共通の領域では問題がないが,異なる場合には臨床病理学的に大きな問題となる.パターン認識能の限界である.そのような問題を避ける意図から,癌組織診断基準を異型組織の浸潤所見におく傾向が世界的にはある.しかし,腫瘍は浸潤によって初めて癌となるのではなく,粘膜内から発生するものである.診断を兼ねた内視鏡的治療が多くなりつつあるが,生検検査を含め採取される標本の主体は粘膜部分である.早期診断・発見を行うためには粘膜内組織の異型度を判定するための共通した基準の確立が必要である.

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 1907年Oberndorferによってカルチノイド腫瘍が初めて報告された.本腫瘍は幹細胞の分裂で生じた娘細胞が内分泌細胞への分化を獲得した“幼若内分泌細胞”から発生し,アミンやペプチドを有する分化型内分泌細胞から構成される腫瘍である2)

 その特徴は,①細胞学的に,異型度の低い細胞から成る(好酸性微細顆粒状の,比較的広い細胞質と円~卵円形の均一小型核を有する細胞で構成され,核分裂像はないか,またはごくまれ.Ki-67標識率は1%以下),②構造的に,索状,吻合索状(リボン状),小さい充実結節状,ロゼット様構築をとる,③間質は毛細血管に富む,④発育は緩徐で,予後の良い腫瘍である.

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 便宜的に良性腫瘍として扱われることがあるが,真の新生物ではなく,組織異常ないし組織奇形と言われる軽度の組織構成の異常により腫瘍状を呈するものを意味する.過誤腫は組織構成の量的配合異常で,構成する個々の要素は正常組織を構成する成分と全く同一であるが,各成分の割合が正常とは異なり,腫瘍状を呈するものである.これに対し,胎生期に細胞群ないし組織の一部が正常組織から離断して異常な部位に出現し,かつ腫瘍状を呈するものを分離腫と称する.組織奇形と腫瘍発生との関係が論じられ,この両者を基盤として明らかな腫瘍性増殖を示すようになると過誤芽腫(hamartoblastoma),分離芽腫(choristoblastoma)と呼ばれる.消化管に発生する過誤腫・分離腫は種々あるが,最も代表的なものはPeutz-Jeghers症候群で皮膚・粘膜の色素沈着と胃・小腸・大腸にわたるポリープ形成を特徴とし,常染色体優性遺伝をする.消化管の種々の場所に起こる異所膵は粘膜下腫瘍として認識され分離腫に相当する.25%前後は胃に発生する.

 近年注目を集めているものにCowden病(multiple hartoma syndrome)がある.常染色体優性遺伝を示し,内,中,外胚葉の過誤腫性病変が多発する.一般に10歳代~20歳代で発症し,皮膚・粘膜に多発性病変を持つ,皮膚では顔面のTrichilemmoma,acral keratosis,口腔粘膜の乳頭腫,女性では甲状腺腺腫,両側性乳腺腫瘍などをしばしば合併する.甲状腺では癌化の傾向が強く,乳癌は90%に発生するとされ,家族集積性を示す.近年消化管の多発性ポリープが注目され,現在ではCowden病の徴候の1つと考えられている.食道では上皮の肥厚による小さな隆起が,胃では腺窩上皮の局所的過形成,体部腺の軽度囊状の拡張,Peutz-Jeghers型のポリープなどが報告されている.大腸ではS~Rに多発し,内視鏡的には過形成性ポリープに類似した像を呈する.ポリープの形態は様々であるが,粘膜固有層間質の拡大と腺窩の軽度の過形成性変化が中心で間質に種々の炎症性細胞浸潤の存在がある.粘膜筋板からの平滑筋線維が中心を形成しているとの報告もある.

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 組織の壊死に基づく粘膜や皮膚の一定の深さに達する組織欠損を潰瘍という.消化管は粘膜筋板を有し,粘膜筋板を越えない浅い粘膜の組織欠損をびらんと称する.すなわちびらんは潰瘍の浅い変化である.

 潰瘍は組織欠損の深達度により,Ul-Ⅰ~Ul-Ⅳに亜分類される(Fig.1).Ul-Ⅰは組織欠損が粘膜のみにとどまるもので,すなわちびらんに相当する.Ul-Ⅱは組織欠損が粘膜下層にまで及ぶもの,Ul-Ⅲは組織欠損が固有筋層に及び,Ul-Ⅳでは固有筋層全層を破壊し,漿膜下層以上に及ぶ組織欠損である.

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 1.癌遺伝子(oncogene)

 癌遺伝子とは細胞を癌化し,その状態を維持する蛋白質を産生する遺伝子のことである.本来染色体に存在する細胞遺伝子(癌原遺伝子)が量的,質的に変化して発癌性を獲得したものを示すが,広義には細胞遺伝子由来でないものを含む.例えばSV40ウイルスのT抗原や,アデノウイルスのE1Aなどの腫瘍ウイルス由来の遺伝

子を含んでいる.

 癌遺伝子は,1969年レトロウイルスの1つであるRous sarcoma virusの細胞癌化に関する変異株が単離され,その株から癌遺伝子の存在が推定された.その後,1982年にヒト膀胱癌の培養細胞からH-ras遺伝子が単離されて以来,50種類を超える癌遺伝子が単離されている.癌遺伝子は動物種には限定されず,多くの脊椎動物,更にある種の癌遺伝子では酵母に至るまで広く保存されており,細胞の増殖や分化に重要な役割を果たしていると考えられている.Table1に現在までに知られている代表的な癌遺伝子を示す.多くの癌遺伝子はその遺伝子配列の共通性,また,その機能に基づいて,①細胞増殖因子群,②受容体型チロシンキナーゼ群,③非受容体型チロシンキナーゼ群,④核蛋白質群,⑤低分子G蛋白質群(ras群),⑥セリンスレオニンキナーゼ群,などに分類されている.これらの癌遺伝子は,染色体の点座,点突然変異および遺伝子増幅といった機構により活性化されることが報告されている.

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 歴史的には同一腫瘍内に癌腫と肉腫が混在するcomposite tumorを癌肉腫と呼んできた.しかし癌肉腫の定義は臓器によって異なり,共通の定義はないのが現状である.すなわち子宮体部のmüllerian mixed tumorはhomologusな成分から成る癌肉腫とheterologusな成分から成る中胚葉混合性腫瘍(mixed mesodermal tumor)に分けられている.

 一方,癌腫が肉腫様に変化することは,まれならず経験されるが,これは偽肉腫(pseudosarcoma)あるいは肉腫様の癌(carcinoma with sarcomatous change)と呼ばれ真の癌肉腫とは区別されてきた.この現象は特に扁平上皮癌で多くみられる現象で,組織学的には腫瘍細胞が紡錘形に変化することが特徴であり,squmous cell carcinoma with spindle cell variantsと呼ばれることが多い(Fig.1).また,腺上皮系の腫瘍でも低分化型腺癌では,ときに腫瘍細胞が肉腫様に変化し,更に巨細胞(特に破骨型,osteoclast type)を伴う頻度が高い.これらはいずれもhomologus tumorで基本的には上皮性腫瘍であるとの観点から,“いわゆる”癌肉腫(so-called carcinosarecoma)と呼ばれてきた.

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 粘膜下層に種々の異型度を示す腺腫腺管が侵入していることがあり,これをpseudoinvasionあるいはmisplacementと呼ぶ.その組織学的特徴は,①腺腫組織が粘膜固有層を伴って粘膜下層に侵入している(Fig.1),②侵入した腺腫組織を取り囲むように線維増生が認められる,③腺腫組織の間あるいは周囲には出血またはヘモジデリン沈着が認められることが多い,④侵入した腺腫組織はしばしば囊胞状である(Fig.2).pseudoinvasionを呈する腺腫は左側結腸,特にS状結腸に多く,1~2cmの有茎性腺腫に多いことが特徴であり,ポリペクトミー例の1~3%にこの所見がみられると推定されている.mechanical forceによって粘膜筋板の間隙から腺腫組織が粘膜下に侵入することが,この病態の本態であると考えられており,蠕動運動の強いS状結腸の大きな有茎性腺腫に多く,病変内に出血が認められることなどが,この成因を支持する所見である.粘膜筋板に間隙があれば,正常腺管でも粘膜下層に侵人することがある.

 粘膜下層の腺腫腺管の異型度が低い場合(mild atypia)には問題はないが,中等度,高度異型腺腫の場合には真の浸潤すなわちsm癌との鑑別が重要である,粘膜固有層に囲まれている限り高度異型であっても転移のリスクはないので,sm癌として取り扱う必要はないと考えられる.ポリペクトミーの対象となる病変が最も多い左側結腸がpseudoinvasionの好発部位でもあるので,sm癌との鑑別の重要性を特に強調しておかなければならない.

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 1.コドン(codon)

 蛋白質のアミノ酸配列を規定する核酸中の連続した3塩基を示す.1961年に,MW NirenbergとJH Matthaeiにより大腸菌の無細胞系を用いて突き止められたのをはじめとして,DNAからアミノ酸への翻訳という遺伝子暗号が次々と解明された.蛋白質を構成しているアミノ酸は20種類であるが,4種類の塩基から作られるコドンは43=64種類であることから,メチオニンとトリプトファンを除く大部分のアミノ酸は複数のコドンで規定されている.すべての蛋白質の開始コドンはAUGのメチオニンで始まり,UAA,UAG,およびUGAの終止コドンにより規定されている.この終止コドンはアミノ酸を規定していない.