特集 図説 形態用語の使い方・使われ方
第Ⅱ部 検査手技・所見等の用語
c.病理・病変用語
偽浸潤(pseudoinvasion)
武藤 徹一郎
1
1東京大学第1外科
pp.419
発行日 1996年2月26日
Published Date 1996/2/26
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403104091
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粘膜下層に種々の異型度を示す腺腫腺管が侵入していることがあり,これをpseudoinvasionあるいはmisplacementと呼ぶ.その組織学的特徴は,①腺腫組織が粘膜固有層を伴って粘膜下層に侵入している(Fig. 1),②侵入した腺腫組織を取り囲むように線維増生が認められる,③腺腫組織の間あるいは周囲には出血またはヘモジデリン沈着が認められることが多い,④侵入した腺腫組織はしばしば囊胞状である(Fig. 2).pseudoinvasionを呈する腺腫は左側結腸,特にS状結腸に多く,1~2cmの有茎性腺腫に多いことが特徴であり,ポリペクトミー例の1~3%にこの所見がみられると推定されている.mechanical forceによって粘膜筋板の間隙から腺腫組織が粘膜下に侵入することが,この病態の本態であると考えられており,蠕動運動の強いS状結腸の大きな有茎性腺腫に多く,病変内に出血が認められることなどが,この成因を支持する所見である.粘膜筋板に間隙があれば,正常腺管でも粘膜下層に侵人することがある.
粘膜下層の腺腫腺管の異型度が低い場合(mild atypia)には問題はないが,中等度,高度異型腺腫の場合には真の浸潤すなわちsm癌との鑑別が重要である,粘膜固有層に囲まれている限り高度異型であっても転移のリスクはないので,sm癌として取り扱う必要はないと考えられる.ポリペクトミーの対象となる病変が最も多い左側結腸がpseudoinvasionの好発部位でもあるので,sm癌との鑑別の重要性を特に強調しておかなければならない.
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