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胃の固有粘膜は,口側より噴門腺,胃底腺,幽門腺の3つの固有腺から成る.言葉のうえではこれらの固有腺の境界が線分として捉えられ,その境界線が腺境界と言えるが,組織学的には胃底腺と他の2つの固有腺はそれぞれ混在してみられ,幅のある境界領域となる.そのために,腺の混在する幅のある領域を中間帯と呼び,中間帯とそれぞれ固有腺領域との境界にできる線分を腺境界とする研究者が一般的である.しかし,胃粘膜においては加齢現象とされる腸上皮化生や,萎縮の1つとされる偽幽門腺の変化が加わることなどから,実際には腺境界の決定は複雑である.様々な腺組織が混在するためにいくつかの線分が引かれることになるが,それらの中で比較的明瞭に引くことのできるものは,腸上皮化生ならびに萎縮性変化のみられない胃底腺領域を分ける境界線,すなわち中村の言うF-lineである(Fig. 1,2).
微小胃癌の組織型を背景粘膜の性状から検討すると,腸上皮化生のない胃固有腺から成る粘膜からは印環細胞癌を主とする未分化型癌が発生し,腸上皮化生のみられる粘膜からは高分化型腺癌を主とする分化型癌が発生する傾向にある.腺境界によって,いくつかの胃粘膜領域に分けられるが,そのほとんどの領域では腸上皮化生がみられるが,F-lineによって囲まれる胃底腺粘膜領域だけは腸上皮化生がないことから,そこから組織発生する癌の大部分が未分化型癌ということになる.未分化型癌の肉眼形態のほとんどは陥凹型であり,胃底腺領域は癌組織像,肉眼形態,背景粘膜の3者が相関するところと言える.そのような癌の中に早期に発見することの難しいlinitis plastica型癌が含まれることからは,腺境界の中ではF-lineが臨床病理学的には重要な境界線ということになる.
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