胃と腸 31巻4号 (1996年3月)

今月の主題 新しいCrohn病診断基準(案)

序説

Crohn病診断基準(案) 武藤 徹一郎
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 Crohn病診断基準(案)が日消誌に発表されてから20年! この度ようやくその改訂案が出された.改訂案というよりは全く内容を新たにしたCrohn病診断基準(案)が誕生したのである.心からその誕生を喜びたい.20年前にCrohn病診断基準(案)の作成が企画されたころには,まだわが国に本物のCrohn病はわずかしか発見されていなかった.それも臨床的な術前診断例は少なく,切除標本の組織学的診断によってかろうじてCrohn病と診断された例が多かった。今とは異なり,Crohn病を見つけると多くの臨床家は喜び勇んで学会に発表したものである.

 とにかく,典型的なCrohn病を多数例診た人がほとんどいないために,その画像がどんなものかもよくわかっていなかったのもやむを得ないことであった.組織診断についても同様で,類上皮肉芽腫や全層性炎症が認められればCrohn病という診断がつけられることもまれではなかった.このため,いわゆる単純性潰瘍がCrohn病と診断されることもあった.

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要旨 Crohn病診断基準(案)の全文を示し,Crohn病確診の基準となる所見について実際の症例を呈示しつつ詳述した。その要点は以下のごとくである.1.主要所見:A.縦走潰瘍;腸管の長軸方向に4~5cm以上の長さを有するもの.X線写真上正面像として描出されたものだけでなく,偏側性変形や“縦の要素”から縦走潰瘍の存在を読み取る必要がある.潰瘍性大腸炎や虚血性腸炎でもみられることがあるが,縦走潰瘍周辺および肛門側の粘膜の状態や,病歴から鑑別される.B.敷石像;区域性に病変部粘膜を覆いつくすように密在した多発隆起を示す.上記した縦走潰瘍や敷石像を内視鏡のみで診断する場合は,ほんの1~3cmの縦走傾向を有する潰瘍の一部を縦走潰瘍としたり,ごく小範囲の炎症性ポリポーシスを敷石像と見誤ることがあるので注意が必要である.C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫;腸結核やYersinia腸炎などにもみられるので,この所見だけからはCrohn病とは確診できない.上部消化管正常粘膜からの肉芽腫の検出が本症診断の有力な手がかりとなる.2.副所見:a.縦走する不整形潰瘍またはアフタ;Crohn病を強く疑わせる所見であるが,確診の所見とするには今後の症例の積み重ねが必要であろう.b.上部消化管と下部消化管の両者に認められる不整形潰瘍またはアフタ;急性腸炎やいわゆるアフタ様腸炎を除くために,3か月以上恒存して上部・下部消化管の両者にみられるもののみが取り上げられる.診断基準(案)は上記所見とその組み合わせによるが,今後の検討と改善が必要であろう.

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要旨 Crohn病(以下CDと略)の新しい診断基準に,問題点があるかどうかを検討した.縦走潰瘍は,CDのほかに,閉塞性大腸炎,虚血性小腸炎,腸型Behçet病や単純性腸潰瘍にみられた.小腸では,腸間隔上の縦走潰瘍ないし炎症性ポリープを伴う縦走潰瘍はCDの確診所見となった.大腸の縦走潰瘍は,炎症活動期にあっては,粘膜色調と炎症性ポリープの有無でCDと虚血性(閉塞性)大腸炎は区別でき,粘膜の色調と平滑さとでCDとUCは区別できた.炎症が治癒しても,炎症性ポリープの有無でCDと虚血性大腸炎は鑑別でき,炎症性ポリープの丸みの有無や表面の平滑さ,および平坦粘膜の表面模様からCDとUCは鑑別できた.しかし,二次感染を伴ったCDや,完治し平滑粘膜となったUCの場合,肉芽腫の有無や粘膜筋板の肥厚など組織学的所見を重視する必要があった.敷石像は虚血性大腸炎,閉塞性大腸炎,Yersinia腸炎,回腸結核でもみられた.CDやYersinia腸炎は主に浮腫,リンパ管拡張,集簇性リンパ球浸潤から成り,黄白色調が強かったが,虚血性大腸炎と閉塞性大腸炎はうっ血や出血で赤色調が強く,これに浮腫による黄白色調も加わっていた.Yersinia腸炎ではびらんや浅い潰瘍が孤立リンパ濾胞やバイエル板に発生し,びらんや小潰瘍が縦走性を示さず,敷石像が明瞭でない点,漿膜下層や脂肪織に炎症が強く,肉芽腫内に好中球浸潤やapoptosisがみられる点がCDと鑑別の参考となった.回腸結核は赤い敷石像を呈し,乾酪壊死を伴っていた.CDとUCの炎症性ポリポーシスは,色調や粘膜模様が異なり,また癌に合併する炎症性ポリポーシスが肉芽腫を伴う場合は,ポリポーシスの周辺に浮腫はなく,縦走潰瘍を合併することもなかった.CDの新しい診断基準はCDの自然史からみて妥当なものであったが,CD以外の炎症性腸疾患をいかに除外してゆくかが大きな課題である,と考えられた.

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要旨 1976年にクローン病診断基準(案)が発表されて以来,わが国のCrohn病の報告例が増加してきたが,逆にこの診断基準(案)では不都合な点も次第に明らかになってきた.そこで,われわれはCrohn病診断のための主要所見と副所見の1つとして,縦走潰瘍および縦軸要素の病変を取り上げてそのX線診断について検討した,(1) Crohn病の潰瘍性病変を形態・分布・方向により7つの型に分け,しかも縦走潰瘍領域と非連続領域に大別した.(2) 小腸の縦走潰瘍は充満像ではloopの内側辺縁に伸展不良として,二重造影像では正面像あるいはこれに近い像として描写されることが多い.充満像あるいは二重造影像で良好な像が得られないときは圧迫を上手に用いるべきである.(3) また,縦走潰瘍領域には種々の変形や辺縁の異常がみられるが,変形の診断学的意義は①小病変のチェック,②病変の性状診断,特にその方向性の診断である.

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要旨 Crohn病でみられる敷石像のX線・内視鏡所見の特徴を,他疾患との鑑別を含め検討した.対象は,大腸に潰瘍性病変(縦走潰瘍,不整形小潰瘍)とそれに随伴した敷石像・炎症性ポリープを有するCrohn病41例に加え,潰瘍性大腸炎33例と腸結核8例である.①敷石像のX線学的所見として,密集する小隆起と開放性潰瘍(裂溝,縦走潰瘍,小潰瘍)の存在が重要であった,②敷石像類似の密集性小隆起は一部の潰瘍性大腸炎でもみられたが,縦走性変化はなく,縦走性変化を有する敷石像はCrohn病の診断に特異度の高い所見と考えられた.③敷石像は入院治療により改善し,多くは縦走潰瘍に炎症性ポリープが随伴するタイプに変化したが,潰瘍が消失しても密集性小隆起が残るタイプは長期経過中に狭窄が進行する例が多かった.以上から,敷石像はCrohn病の診断と予後推定に重要な所見と考えられた.

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要旨 1995年に提案された新しいCrohn病診断基準改訂案における非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(肉芽腫)の取り扱いや運用上の留意点について,症例を呈示しながら考察した.この新基準により,肉芽腫を証明できなくとも,典型的な主病変(敷石像,縦走潰瘍)が存在すれば確診となり,また,主病変がなくとも特徴的な所見があり,肉芽腫を証明できれば確診となる.これにより,より早期の症例も確診に至ることが可能となった.副所見のみの症例では,上部消化管も含めて多数個の生検標本採取と連続切片を作製し,肉芽腫を検索することが必要である.また,主病変がなく肉芽腫が認められた症例では,特に粘膜内の肉芽腫では腸結核との鑑別が困難であるので,臨床および内視鏡・X線所見による診断が重要である.

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要旨 Crohn病における類上皮肉芽腫と潰瘍の関係およびその腸管壁における深さの分布を検討した.その結果,粘膜内に類上皮肉芽腫が存在する頻度は少なく,そのほとんどは粘膜下層,特に粘膜筋板に接してみられ,そのほかでは固有筋層あるいは漿膜下に存在していた.また潰瘍との関係ではその周囲約20mm以内に分布する頻度が高かった.以上のことから,Crohn病の生検での診断には,粘膜筋板直下までの組織を得ることが大事である.また組織学的に類上皮肉芽腫のみからCrohn病の診断は不可能で,その分布あるいは肉眼像の所見を参考にして,初めて病理学的にもその診断が可能となる.

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要旨 1990年4月から1995年10月までに当科で診断,治療したCrohn病63例の各種画像所見を分析し,新しいCrohn病の診断基準案の中のアフタ,不整形潰瘍について解説した.大腸内視鏡検査では,アフタは74.6%,不整形潰瘍は54%に出現し,同時期に施行した注腸X線検査における出現率60%,51.4%に比較して高率に認められ,Crohn病の大腸の微細所見の検出に内視鏡は有用であった.一方,領域を有し,診断に変形が重要となる典型病変の縦走潰瘍,敷石像の出現率は,注腸X線検査でそれぞれ45.7%,31.4%と,内視鏡検査での23.8%,19%に比較して高く,変形の指摘と概観撮影法として優れていた.小腸においては空腸から上部回腸,骨盤内回腸と肛門側の小腸で微細病変,典型病変ともに所見の出現率は高かった.所見の多い骨盤内回腸においては,有管法による小腸造影に比べて内視鏡的逆行性回腸造影ですべての所見の出現率は高く,骨盤内回腸の詳細な所見の拾い上げに有用であった.内視鏡的生検標本425個におけるルーチン生検標本の検討からgranulomaの検出率は症例数では39.6%であり,個数では11.8%であった.所見別では不整形潰瘍からのgranuloma検出率は8.6%と低かったが,アフタからのgranuloma検出率は15.1%と高く,特に直腸,盲腸のアフタからのgranuloma検出率が高く,Crohn病の早期診断にアフタの発見,生検は有用と考えられた.

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〔患者〕23歳,女性.現病歴:1991年7月(19歳時),下痢,体重減少で発症した.小腸型Crohn病の診断で当科加療されていた.1995年7月ごろから心窩部痛,嘔気が出現したため同年9月受診した.現症では心窩部に軽度の圧痛を有し,血液生化学でCRP(1+),赤沈値37mm/hrと軽度の炎症所見が認められた.同時に上部消化管検査を施行した.

〔胃X線所見〕食道胃接合部を中心として,体部に放射状に拡がるやや腫大した皺襞を,比較的かつ規則的に横切る浅い陥凹を認める.陥凹は小彎側でより明瞭であるが,前後壁,更に穹窿部にも拡がり“クモの巣状”を呈していた(Fig.1a, b).

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要旨 患者は68歳の男性で,28年前に胃潰瘍で幽門側胃切除術を受けた.数年前から食欲低下があり,受診時には全身倦怠感と体重減少および貧血を認めた.胃X線検査では,残胃の小彎後壁側に太い茎部があり,巨大な脳回状の頭部は体位によって残胃から十二指腸へ逸脱した.内視鏡検査では巨大な茸状の有茎性ポリープがみられ,頭部には光沢のある粗大顆粒状の粘膜と,数か所に小潰瘍を認めた.開腹術を行い,腫瘤(頭部7×6cm,茎部幅3.5cm)を摘出した.組織学的には,大小の腺管が粘膜下層において増殖し,嚢胞状拡張が随所に観察された.腺管の主体は腺窩類似の上皮細胞であったが,一部に異型腺管も認められた.問質には線維性結合織の増生と平滑筋束がみられた.本病変は一種のheterotopiaであるが,病変の大きさと形態を考慮して,有茎性に発育したhamartomatous inverted polypと診断した.

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要旨 右下腹痛を主訴とする76歳の男性に対し,注腸造影および大腸内視鏡検査を施行し,虫垂開口部周辺の粘膜下腫瘍様隆起と虫垂開口部に小さな隆起性病変を認めた.生検所見は,中等度異型を有す腺管絨毛腺腫であったが,癌の存在を否定できず回盲部切除を行った.切除標本の病理組織は,高分化腺癌で同じ病変内に腺管絨毛腺腫を伴っていた.癌の壁深達度は粘膜固有層にとどまるm癌で,リンパ節転移を認めず,大腸癌取扱い規約ではstage 0,早期癌に相当するものであった.

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要旨 患者は57歳,女性.左下腹部痛で来院し,左下腹部に手拳大の腫瘤を触知した.注腸X線検査では,下行結腸からS状結腸にかけて拇指圧痕像と偏側性の鋸歯状の不整像を認め,内視鏡検査では著明な浮腫状隆起のため,狭窄が直腸から高度であった.CTではS状結腸から下行結腸にかけて腸管の浮腫とその周囲の腸間膜が低吸収領域を示した.以上から大腸腸間膜脂肪織炎と診断した.手術で脾彎曲から直腸の腹膜翻転部まで腸間膜は硬結し,腸管壁の浮腫硬化も著明であった.腸管粘膜は広範な出血性壊死とともに,明らかな線状潰瘍も認められた.病理組織所見は活動(急性)期虚血性腸炎を併発した大腸腸間膜脂肪織炎に相当した.

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欧文目次

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 わが国の医療経済分野におけるパイオニア的教科書「医療経済学―臨床医の視角から」からちょうど10年の節目に,著者が再度世に問うたのが本書である.前著を読んで医療経済に開眼した人は数えきれず,最近のわが国の医療経済研究の目覚ましい発展は10年前とは隔世の観さえある.もはや“医療経済学とは何か”など議論する段階ではなく,医療経済学の手法を医療政策決定にどう生かしてゆくか,を議論すべき段階に入りつつある.

 その意味で本書は,今後10年くらいのわが国の医療経済研究の方向を示す金字塔と言える.内容も,MRI,透析,高度先進医療,薬剤,リハビリテーションといったミクロ経済分析から,人口高齢化の医療費への影響といったマクロ経済分析まで広範囲にわたっており,新鮮で意外な発見が随所にちりばめられている.

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 二重造影法など上腹部消化管X線検査の進歩,特に胃集検の普及,消化器内視鏡検査の発達により消化管の診断法は長足の進歩を遂げ,更に超音波診断,特に超音波内視鏡,X線CT,MRIなどの画像診断法の進歩とその応用が消化器疾患診断法を完全に一新したと言って過言でない.

 消化管疾患のうちで最も重要な癌の診断がほぼ完成の域に達した現在,同じように消化管に発生する腫瘍のうちで大きな比重を占める粘膜下腫瘍の診断の重要性が急速にクローズアップされつつある.

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 近年コンピュータの進歩は目覚ましく世の中はますます情報化社会となっている.医用画像の面でもコンピュータが果たした役割は大きく,1970年台にCTスキャンが開発され,更にMRI,US,RI,DSAと多くのデジタル画像が出現し,臨床診断に寄与したところが大きい.一方,単純X線写真はレントゲンがX線を発見して以来行われてきた手法であり,昨年はX線発見100周年の記念すべき年であった.一世紀を経た現在でも単純X線診断はいまだ重要な画像診断の1つであり,胸部,骨X線写真など画像検査に占める割合は少なくない.単純X線写真は長らくフィルムによる撮影が主流であったが,近年デジタル化の流れはこの領域にも及んでいる.デジタルX線撮影の1つであるComputed Radiography(CR)は1981年ベルギーのブリュッセルで開催された国際放射線学会(ICR)で初めて発表され,わが国において開発,発展した放射線機器である.デジタルX線診断システムとして最近では画像の電子保管などとの関連からも多くの施設が積極的にCRを導入している.

編集後記 八尾 恒良
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 本号では消化管形態系の専門家が,Crohn病を中心とした華麗な写真を呈示して読者の目を楽しませてくれている.

 不遜な言い方かもしれないが,これくらいの写真があれば診断基準(案)などどうでもよいと感じるのは筆者のみであろうか?

基本情報

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胃と腸
31巻4号 (1996年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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