- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.食道の走行
食道は咽頭から食物を受け取り,胃噴門部まで移送することを主たる役割とする管腔臓器である.食道入口部は第6頸椎の高さにあり,切歯から約15cmの位置である.椎骨のほぼ前面に沿って走り,後縦隔に入り,更に横隔膜食道裂孔を通過,腹腔に入ると同時に胃噴門(胸椎10~11:切歯から約40cm)に続く.
食道の本体は大部分胸部にある.食道上部の筋層は横紋筋から成り,輪状咽頭筋と連続しており,食道を固定する役割を果たしている.食道には確固とした固定装置はない.縦隔内にあっては,気管の膜様部との間に結合織を介して比較的密に固定されている.栄養血管も一種の固定装置と言えるが,腸間膜の血管のように系統だったものがない.主として,鎖骨下動静脈,気管支動脈ならびに大動脈からの分枝にすぎず,強固なものとは言えない.食道の大部分は周囲臓器との間に粗な結合織で緩く結ばれており相対的な位置関係を保っている.このほかに,食道裂孔周囲には食道と横隔膜との間にphrenoesophageal ligamentがあり,食道と裂孔との位置関係を保っている.胃の支持固定装置も噴門を介して食道の固定装置として働いている.食道は呼吸,嚥下,体位や腹圧の変化に伴って,容易に他臓器との相対的位置関係を変動することが可能で,長軸方向には1椎体程度の移動が生じる.胸郭や椎骨,横隔膜の偏位,変形あるいは肺や気道の変形に伴って食道の固定は不良となり,噴門部の形状の異常を生じる.この結果,発生する食道や噴門の機能不全が,逆流性食道炎,食道潰瘍,バレット食道,食道狭窄などの病因となる.加齢に伴って発生する食道の固定不良についても同様なことが言える.食道の疾患の診断をするときには,胸郭や胸腔ならびに腹腔内の病態にも注意を払うべきである.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.