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異常値を示す疾患
尿量の異常をきたす疾患を表1に示す.正常人の尿量は600〜1,600ml/日であり,1日量500ml以下および3,000ml以上は異常とみなされる.尿量は腎の濃縮力,腎から排泄されるべき溶質量(電解質,尿素,そのほか)および血中抗利尿ホルモンADHレベルにより決定される.したがって,正常の濃縮力とADH分泌能力がある人については腎から排泄される溶質量が強く尿量に影響する.尿量の異常を考えるときには同時に尿比重または尿浸透圧を測定することにより,腎の濃縮力と排泄されている溶質量を考慮する必要がある.
表1において急性に尿量を減少される疾患のうち腎性のもので最も重要なものは急性糸球体腎炎である.急性腎盂腎炎は両側性におかされなければ尿量の異常はみられない.この型で一番強いものは乳頭部壊死を伴う(急性壊死性乳頭炎)もので,糖尿病あるいは衰弱した老人の腎盂腎炎にみられることがある.急性尿細管壊死はこれを中毒性と虚血性に大別することができる.腎に有害な物質としては水銀,砒素,鉛,亜鉛,四塩化炭素,塩素酸カリ,プロピレングリコール,スルフォナマイドなどが知られている.ポルフィリンおよびビリルビンも過量に血中に存在すると腎に対して有害に作用し,尿細管壊死の原因となる,虚血性のものは普通ショックや重症の脱水などにより腎の虚血が数時間以上にわたったときに発生する.
はじめに
尿比重は,尿にどれだけの溶質が含まれるか,いい換えると,尿の濃縮度を示すパラメーターの一つである.
比重とは「ある温度で,ある体積を占める物質の質量と,それと同体積のある標準物質の質量との比」と定義される,尿比重では標準物質は15℃の純水である.測定は比重計(浮き秤)による.
異常を示す原因物質と疾患
尿色調異常を主訴として外来を訪れる患者の数はかなり多い.健康人尿色調は淡黄色むぎわら色と表現され,水利尿,濃縮などによって水様透明〜黄褐色までの変化を示すが,それほど激しいものではない.そして,尿色の異常を訴えた場合,ほとんどが淡黄色を基調とする色彩の変化を示すもので強調された変化に限るようである.
表に尿色調の変化をきたす原因物質と対応する病名をあげた.変色は尿中物質の変化をきわめて端的に証明するものであり,診断の重要な情報源となり得る."Keine Diagnose ohne Harnuntersuchung"といわれてきたそのまた第一歩が尿色の観察であり,決して省略できない診断作法のひとつといえよう.尿色の観察は同時に透明か混濁尿かの診断もつき,ひと目でスクリーニングの網を絞ることができる.たとえば最も頻度の高いのは赤色尿であり,当然血尿,血色素尿,薬尿,ポルフィリン尿の順に考えられる疾患をあげ鑑別を進めることになる.したがって,尿路系の疾患,出血性素因,アレルギー疾患,服用薬剤,食用色素などを鑑別の対象にあげ,最後に稀な疾患であるが,ポルフィリン尿症,血色素尿症などを考えるのが一般的であろう.もちろん,臨床症状がポルフィリン尿症,発作性寒冷(または夜間)血色素尿症を疑うほど明瞭な場合,この順序は無視されてよい.
健康人の尿pHは4.5〜8.0の間で変動し,新鮮尿ではだいたいpH5〜6の弱酸性である.このような大きな変動幅をもつ尿pHの異常値はどこかというと,他の検査所見のように健康人でみられる範囲をはずれたら異常値という考え方はできない.健康人でも睡眠中は肺換気量減少のため呼吸性アシドーシスの状態となり,尿は酸性となり,起床とともに低下したpHはもとにもどる(morning alkaline tide).また食後尿は,食物にもよるが,だいたいアルカリ性に傾き(post parandial alkaline tide),1〜2時間後にふたたび酸性となる.一般に動物性タンパク摂取後は酸性に,植物性食品ではアルカリ性に傾き,はげしい運動後は血漿中乳酸が増加し,一過性のlactic acidosisとなり,尿は酸性を示すといわれている.したがって,尿pH5あるいは8という成績がかえってきても,果たしてこの値が生理的なものか,異常状態のためにあらわれたものなのかを区別するのは困難である.もちろん尿pHが4以下,8以上であれば異常値といえるが,病的状態における変動でもこのようなことはまず起こらない.したがって,尿pH検査のデーターのみをみた場合,疾病診断としての有用性に乏しい.
尿pHが酸性(アルカリ性)を示す疾患を表に示した.
異常を示す疾患
尿混濁は,混濁を起こす混合物によって血尿,膿尿,血膿尿,塩類尿,細菌尿,乳糜尿,乳糜血尿,精液尿,糞尿,雲翳および淋糸などに区別される.尿混濁をきたす疾患について表1に示した.
まず,はじあに血尿をきたす疾患としては,成人では膀胱腫瘍,腎,腎盂,尿管腫瘍などが重要である.また,成人男子では前立腺癌,前立腺肥大症なども考慮しなければならない.成人女子の場合は,出血性膀胱炎,尿道カルンクラ,稀に尿道悪性腫瘍,膀胱エンドメトリオージスなどがある.小児では,急性腎炎,出血性膀胱炎,ウィルムス腫瘍などが考えられる.
尿に蛋白が証明されることが,腎尿路系疾患および腎尿路系に影響を及ぼす疾患の手がかりになることはいうまでもない.尿に蛋白が出現する機序として考えられることは,低分子量の蛋白が血中に増加した場合(Bence Jones蛋白など),糸球体基底膜の透過性亢進がある場合(糸球体性蛋白尿),尿細管における再吸収障害などがある場合(尿細管性蛋白尿),組織蛋白の破壊などがある場合である.では,蛋白尿がどのような状態および疾患のときに出現するかというと,表のごとくになる.
健康な成人でも3〜12mg/dlの尿中蛋白の排出がみられる.1日尿中10〜100mgぐらいの蛋白の排出が正常人でもみられるが,しかしその量は微量で,最も敏感なスルフォサリチル酸法で定性して証明されるかどうかの限界である.
尿糖が陽性になるのは,糖尿病である場合が多いが,糖尿病以外の原因で尿糖の排泄が起こる場合も非常に多い一方,尿糖が陰性であるからといって糖尿病を否定できない.また,尿糖の結果を参考にする場合,その尿が食前のものか,食後のものかを考慮しなげれば意義が少ない.
ブドウ糖以外の尿糖を認める疾患
健康人にはガラクトース,果糖,五炭糖,乳糖,蔗糖など,ブドウ糖以外の尿糖は認められないか,認めても普通痕跡程度である.
ブドウ糖以外の尿糖を認ある生理的状態および疾患を表に示した.ガラクトース,果糖,乳糖は未熟児および新生児の尿中に,正常な場合でも証明できるといわれる.しかし,果糖については認められないとする報告もある.健康者でも,多量の果物を食べたあと,l-アラビノースあるいはl-キシロースなどの五炭糖尿を認めるし,蔗糖を多量摂取後に蔗糖尿を認めるという.
陽性を示す場合
ケトン体(別名アセトン体)とはアセト酢酸,アセトン,βオキシ酪酸の総称で,これらのうち生体内で一次的に生成されるのはアセト酢酸である.アセト酢酸が組織内で脱水素酵素で還元されてβ-オキシ酪酸になり,アセト酢酸が非酵素的に脱炭酸されるとアセトンに変わる.一般にケトン尿中ではアセト酢酸の3倍以上のβ-オキシ酪酸が存在するが,両者はほぼ平行して変動するので,検出容易なアセト酢酸が臨床的には対象となる.ケトン体は強酸で,血中で予備アルカリと強く結合することから,過去においてはケトン体というとアチドージスや代謝異常の元凶と考えられていた.しかし,もともとアセト酢酸は脂肪酸の生体内酸化の正常中間産物で,常時体内,とくに肝において脂肪酸からアセトアセチルCoAを経て生合成され,筋肉その他の組織に運ばれてエネルギー源の一部として役立っている.たとえば心筋はエネルギーの50%を脂肪酸,つまりアセト酢酸にあおいでいる.ところが,表のごとく,なんらかの機転で糖質の供給が不足,または糖質の酸化に故障が生じ(利用障害),TCA回路の回転が流れなくなると,生体はエネルギー供給源を脂肪に求めるようになり,肝でのアセト酢酸の合成は亢進し,一方,末梢組織での利用障害が展開すると,つまり分解の速度が肝における生成の速度に劣るようになるとケトン体は血中に異常増量し,腎排泄閾は低いことから尿中にすぐ排泄されるようになる.
尿中ビリルビン陽性をきたしうる疾患の主なものを表に示した.血中直接ビリルビンの増加する疾患がほとんどである.尿ビリルビン陽性を示す疾患は原因のいかんをとわず血中ビリルビン増加をきたすと考えてよく,肝・胆道に病変のない疾患ではみられない.尿定性検査のうちでは疾患群特異性の最も高い検査である.ただ,閉塞性肝・胆道疾患のみでなく,実質障害においても程度の差はあるが陽性となり,疾患特異性は低い.
クレアチンは,腎でglycineから合成されたglycociamineが肝によってmethyl化を受けて生合成される.血行によりその98%が骨格筋に運ばれ,約1/2がクレアチン燐酸として活性化され筋収縮力源となる.筋肉では常に一定ペースでクレアチンは非可逆的に脱水されてクレアチニンが生成され,ただちに血中に放出,まったくの老廃物として腎糸球体から排泄され,尿細管での再吸収・分泌はみられない。一方,クレアチンもその腎排泄閾値は低く,容易に排泄され,産生に対してもfeedback機構が働くといわれ,血中濃度は高くなりにくい.
臨床でみられる疾患時の尿中クレアチン,クレアチニンの排泄量の異常は表のごとく,通常3つのタイプに分けられる(I,II,III).これらの異常の大部分は神経・筋疾患であり,また代謝異常が筋に及んだ場合である.腎障害,肝障害では主に尿クレアチニンが減少する.筋異常の反映としては,血中および尿中クレアチン上昇,クレアチニン減少のパターンを示し,しかも上記排泄動態よりして,腎障害が高度でない限り,その増減は血中レベルとしてより1日尿排泄量として増幅される,したがって,クレアチン,クレアチニンの日常検査では,腎障害時を除いては尿中排泄量の測定の意義が大きい.
正しい方法で採取した尿を新鮮なうちに検査して,尿沈渣の400倍1視野に数個以上の膿球(白血球)が存在すれば,肉眼的に清澄であっても厳密には膿尿である.しかし,普通は肉眼的な尿混濁があり,それが膿球による場合を膿尿と称する傾向がある.顕微鏡的な膿尿であっても,その臨床的意義は肉眼的膿尿とほとんど同じである.
尿沈渣所見は,通常,鏡検上何視野に何個という表現がとられるので,定量的な印象を与えるが,原則的には,定性的なものと考えておくべきであり,かつ他の一般的定性的臨床検査に比し,再現性の困難なことも多い.
尿沈渣検査は,一般には,尿10mlをスピッツにとり,1,500rpm,5分遠心し,上清を一気に捨て,管底に残る約0.1〜0.2mlを軽く攪伴し,その一部をのせガラスにとり,400倍で鏡検し,10視野以上を平均して,何視野に何個という表現をする.
血尿とは尿に血液を種々の程度に混じた状態を指し,一見して血尿とわかる状態を肉眼的血尿という.そして尿路系疾患の重要な症候の一つである.肉眼的血尿をきたす疾患を表に示した.
肉眼的血尿をきたす疾患には,膀胱腫瘍をはじめ,腎,腎盂,尿管腫瘍など重大な疾患もあり,また,しばしば見られる特発性腎出血,尿路結石,稀に見られるものとしては尿路外傷,尿路結核あるいは全身性の出血性素因,たとえば血友病,白血病,紫斑病,抗凝固剤などの薬物投与に起因するものなど種々雑多である.
ヘモグロビン尿の出現機序
正常状態ではヘモグロビンは赤血球内に存在し,血漿中には極微量(3mg/dl)しかない.120日の寿命を終えた赤血球は網内系組織内で崩壊し,遊離したヘモグロビンはα2-グロブリン分画に属するハプトグロビン(血漿中に100mg/dl存在する)と速やかに結合し,ヘモグロビン・ハプトグロビン複合体がつくられる.このものは高分子のため腎糸球体から濾過されず,網内系で処理され,ヘムは鉄と間接ビリルビンに,グロビンはアミノ酸に代謝される.
血管内溶血が急激大量か持続性に起こる病的状態では血漿ヘモグロビン濃度が増加し,ハプトグロビン結合能(ハプトグロビン100mg当たりヘモグロビン140mgと結合する)を凌駕する量になると,遊離ヘモグロビンが血漿中に増加してヘモグロビン血症を呈するようになる.血漿ヘモグロビン濃度が70mg/dl以上になるとヘモグロビンは糸球体から漏出してくる.
検査対象と方法
マス・スクリーニングの検査の対象とされている疾患としては,フェニールケトン尿症,メープルシロップ尿症,ホモシスチン尿症,ヒスチジン血症,ガラクトース血症の5種目がとりあげられている,そして,昭和54年度中にクレチン症のマス・スクリーニングが開始される予定である.これらの疾患がマス・スクリーニングの対象としてとりあげられた理由は,信頼度の高いマス・スクリーニングと治療が可能なためである.その検査法としては,現時点ではアミノ酸代謝異常症に対しては,ガスリー法が最適である.また,ガラクトース血症に対しては,ボイトラー法とペイゲン・ガスリー法を併用するのがよい.クレチン症に対してはラジオイムノアッセイ法が使用されている(表).
尿中に排泄されているアミノ酸量が,正常よりも著しく増量している場合をアミノ酸尿という.一般にアミノ酸尿はその成因によって,臨床的にover-flow型,non-threshold型,specific-renal型,non-specific renal型の4型に分類されているが,その成因を明らかにするためには,血清アミノ酸と尿アミノ酸を同時に分析する必要がある.
妊娠反応は胎盤の絨毛組織より分泌される絨毛性性腺刺激ホルモン(Human Chorionic Gonadotropin:HCG)を生物学的または免疫学的方法により妊婦尿を用いて検出する方法である.従来より主に妊娠の早期診断および絨毛上皮腫患者の術後管理および追跡調査などに利用されている.
最近HCGに関する化学的・生理学的研究が進歩し,HCGはその分子量が約40,000とされる糖蛋白ホルモンの一つであり,非共有結合を有したαおよびβの2種類のsubunitから構成されている.HCGのα-subunitはTSH,LH,FSHなどのそれと共通性・互換性を持っており,β-subunitはHCGに特異的であり,かつHCG由来の生物学的ホルモン活性をあらわすために必要とされている.一方,HCGの生理学的役割には①妊娠初期の黄体賦活作用,②胎盤のステロイドホルモン生合成能への関与,③妊卵の免疫学的防禦機構への関与,④胎児睾丸の機能分化への作用などがあるとされている.これらのHCGの研究に伴って最近血中・尿中HCGの動態についても再検討され,いっそう詳細にされている.
尿ポルフィリン体は前駆物質であるδ-アミノレブリン酸(ALA)とポルフォビリノーゲン(PBG)およびウロポルフィリン(UP)とコプロポルフィリン(CP)の4種が主なものである.ALAとPBGは無色であり,原則として増加しても尿は着色しないが,PBGは放置すると酸化されて褐色のポルフォビリンとなるため尿の褐色調が増す.UPとCPは紫赤色であり,増加すると尿は特有のブドウ酒色を呈する.
尿ポルフィリン体は健常者では微量であり,増加した場合はすべて病的と考えてよい.尿ポルフィリン体の増加する疾患を表に示したが,著増を示すものはポルフィリン症と鉛中毒に限られ,他の疾患は軽増にとどまる.
表1は潜血反応陽性を示す疾患をまとめたものである.部位別に検討すると,
1)食道疾患では静脈瘤が最も多いが,潰瘍および食道炎,癌,良性腫瘍,Mallory-Weiss症候群などがある.
糞便に関した定量検査のうち現在最も実用的で基本的な値は,1日の糞便排出量とその脂肪含量である.これが異常高値を呈する疾患が表1である.吸収不良症候群の中には,消化か吸収の不良のいずれかに偏った病態がありうるが,一応これらを総称している,これらの疾患は,あたかも燃料を不完全に燃焼させたときに残渣が多い状況と似ている.つまり消化にしろ吸収にしろ,不全のある際には大量の糞便が排泄され,その中の脂肪含量が高い(脂肪便steatorrhea).
圧の異常(表1) 頭蓋内圧測定の方法には,脳室内,硬膜外,硬膜下,後頭下大槽および腰椎穿刺などがある.一般的に補助診断に利用されるのは腰椎穿刺法であるので,それについて述べる.頭蓋内圧とは,頭蓋および脊椎腔内の容積(脳,脊髄,血液,髄液,そして病的な状態での腫瘍や血腫など)の変化に対する容器(頭蓋や脊椎)からの等しい強さの反作用の力を,髄液を介して測定しているのである.したがって,圧の異常は単に髄液の問題のみでなく,脳実質,脳循環の変化も総合した所見として捉えなくてはならない.
Queckemstedt test 両側頸静脈を圧迫すると,正常例では100mmH2O以上の速やかな圧の上昇があり,圧迫を除くと圧は急速に下降し初圧に戻る.この圧の変動が速やかでないものを異常(Queckenstedt test陽性)という.異常を示すときは,くも膜下腔の閉塞(ブロック)を意味しており,その程度により完全ブロック,不完全ブロックという.このくも膜下腔の狭窄ないしは閉塞を呈する疾患は,脊髄腫瘍,脊髄外傷,椎間板障害,くも膜癒着などがあり,頭蓋内静脈洞血栓症にもブロック所見の得られることがある.
髄液検査は神経疾患の補助診断法として今日最も広く行われ,かつ重要な位置を占めているが,とくに髄液蛋白に関しては近年電気泳動法および免疫電気泳動法の応用,また免疫化学的定量法の進歩により,さらに詳細な検討がなされつつある.髄液蛋白の増加は表1に示すように多くの神経疾患に認められるが,50〜150mg/dl程度にとどまる場合が多く,200mg/dlをこえるものは化膿性,結核性および真菌性髄膜炎,脳室内出血,クモ膜下出血,Guillain-Barre症候群などに限られる.また,脊髄腫瘍,クモ膜癒着などにより脊髄腔が遮断された場合には,ときに6g/dlにも及ぶ蛋白増加をみることがある(Froin徴候).
グロブリンの検査については従来よりPandy反応,Nonne-Apelt反応などが用いられてきたが,すでに本特集の第1集に詳述したように,Pandy反応は少量のアルブミンにも鋭敏に反応するためグロブリンに特異的とはいえず,γグロブリン増加のスクリーニング・テストとしてはNonne-Apelt反応を用いるべきである.また,4〜5mlの髄液を用い比較的容易に髄液蛋白分画を施行しうる現在では,むしろ蛋白分画測定をルチン検査とすることが望ましい.
髄液糖のほとんどはブドウ糖で,この値は正常の状態では血糖値と平行しており,血糖の1/2〜1/3の値を示す.髄液糖の正常値は報告者によって多少の差があり,また採取部位によっても異なるが,ここでは正常値を40〜75mg/dlとする.
髄膜炎などで中枢神経系が病的状態になると,脈絡叢やクモ膜下腔における毛細血管の通過異常が生じ,また髄液中に浸出した細胞や病原菌によって糖分解作用が行われ,髄液糖が変化するため,中枢神経系感染症などの診断には大切な検査である.しかし,髄液糖だけで診断がつけられるわけではなく,髄液圧や外観,細胞,蛋白,病原体の検索などの髄液検査や諸検査と併せて,はじめて診断価値があるといえる.
正常な髄液中には極めてわずかなリンパ球と内皮細胞がみられるだけである.そのリンパ球の数も1mm3中2〜3個であるから,髄液中の細胞を算定して1mm3中5個以上の細胞が存在すれば異常で,細胞増多症という.細胞増多症では細胞の種類と細胞数が問題となる.細胞の種類には多核白血球,リンパ球など白血球が主であるが,白血病細胞などの腫瘍細胞や真菌類などのこともある.一般には白血球の種類を多核白血球と単核白血球(そのほとんどはリンパ球)に区分してその比と細胞数が記載される.細胞数の算定には赤血球は除外され,それ以外の細胞を数える.
細胞増多の程度は細胞数が5〜20個は軽度,20〜50個は中等度,50個以上は強度と区分する.しかし,中枢神経系の炎症の場合は50個以上に増多することが多いので,この区分はあまり実用的でない.細胞増多をきたす主な疾患と細胞の概数およびその種類を表に示す.表のほかにも腰椎穿刺後,造影剤や薬剤など異物の髄腔内注入,脳血管障害,硬膜下血腫,日本住血吸虫症,トキソプラズマ,ブルセラ症,伝染性単核症などで軽〜中等度の細胞増多がみられる.脳脊髄寄生虫症では髄液中に好酸球をみることも多い.なお,髄膜症では細胞の増多はない.
腔水症をきたす病態
胸腔内や腹腔内,あるいは心のう内などの漿膜腔内に体液が病的に貯留する病態を腔水症というが,腔水症はきわあて多彩な病態に際して出現するものであるから,その病因を究明し,診断・治療に役立てるべく,これらの貯留液を穿刺し,種種の検査が実施されている.
体腔液は血漿が漿膜の毛細管壁より限外濾過されたものであり,正常ではごく微量の体腔液しか存在せず,胸腔内には漿膜面を湿潤させる程度のごく微量が,腹腔内には100ml以下,心のう内には20ml内外の体腔液が存在するにすぎず,その病的な貯留はそれ自身病的であり,表2のような病態に際してしばしば出現する.
胃液検査は胃分泌機能を知る方法として,胃疾患,とくに胃・十二指腸潰瘍の病態生理の上できわめて重要である.しかしながら,内視鏡検査や胃生検などの診断法の進歩により一時等閑視されていたが,最近,再び胃液検査の意義が各種の消化管ホルモンとの関連を含めて検討されてきている.
胃液検査はすべての疾患の診断ないし鑑別の上で絶対的な意義は有さないが,とくに胃・十二指腸潰瘍において内科的観点からは胃酸分泌の推移を検討することにより,治療効果,予後の判定,さらに再発,再燃の予知,予防の上で意義がある.また,外科的観点からは酸分泌反応を知るだけでなく,分泌機序における各分泌相を体液性ないし神経性分泌相との関連において把握することにより手術術式の適応ないし選択が検討されている.さらに,術後の潰瘍再発につながる至適酸度や迷切術における迷切の完全性を検討する上でも意義がある.
異常所見を示す疾患
胆汁の検査は通常十二指腸ゾンデ法(Meltzer-Lyon法)によって行われている.本法によって得た胆汁は,胆管から十二指腸へ流出したものであり,胆のうや胆管から直接得たものではないので,消化液の混入など,他の条件が加味されたものであることを念頭におく必要がある.また胆汁排出刺激は一般に硫酸マグネシウム液の十二指腸内注入によって行われているが,オリーブ油やペプトン水を注入することもあるし,またピツイトリンやコレチストキニン・セルレインの注射によることもあるので,用いた胆汁排出促進剤もチェックしておく.
十二指腸ゾンデ法により分画採取した胆汁については,外観・採取液量・Meulengracht値・沈渣鏡検・細菌学的検査・化学的検査などを行うので,つぎにこれらの異常所見を示す主な疾患を列記する.
膵液は最も高濃度に重炭酸塩を含んでおり,アルカリ性を呈し,pH7.5〜8.8になっている.secretin刺激後,膵管から直接に採取した純粋膵液では,最高pH9.4,最高重炭酸塩濃度140mEq/lを示す(自験例).
膵は1日に約1,500mlの膵液を分泌し(Bodansky),この中に含まれる蛋白量から概算すると,1日に合成し,分泌する蛋白は10〜20gまたはそれ以上にもなると考えられる.
血液を一定量とり,その中のヘモグロビン(Hb)量を比色定量し,血中濃度g/dlに換算する.以前はSahli-小宮法を使っていたが,光電光度計によるシアンメトヘモグロビン法が一般的になった.大きな検査室では多項目自動血球計数器によっているが,原理的にはこれに類した方法による.
Hbは後述のヘマトクリット値や赤血球数とほぼ平行して増減するが,病的状態ではチグバグになることがあり,後述の赤血球恒数でそれがわかる.ゆえに異常値のときはヘマトクリット値や赤血球数も測って,病態の種類を推定するようにすべきである.
ヘマトクリット値(Ht)の測定には高速遠心器によるミクロヘマトクリット法が最も広く使われている.多項目自動血球計数器では血球によるパルスの大きさの総和を血球数で割って出す形式のものが多く,遠心法によるものもある.Wintrobe法はあまり使われなくなった.電子ミクロヘマトクリット法は間接測定によるもので,血漿の電気伝導度により結果が左右されるから,病的状態では信頼性に乏しい.
赤血球数(R)は視算法で測っていたが,近ごろの検査室では自動血球計数器を使っているところが多い.視算法は再現性に乏しく大きな誤差につながる可能性がある反面,赤血球そのものを数える点が有利で,捨てがたい面をもっている.自動血球計数器による再現性はよいけれども,粒子数を測っているだけのことであり,正しく調整されていないと正確な値はえられない.
恒数という表現は不適当であるが,慣習に従って使うことにする.Wintrobeの赤血球恒数は,赤血球数(R)・ヘモグロビン濃度(Hb)・ヘマトクリット(Ht)の3測定値から次式によって算出する.
平均赤血球容積(MCV)=(Ht(%)×10/R(白万単位/μg))(fl)
網赤血球は図に示したように新しく産生された赤血球である.ブリリアントクレシルブルーまたはニューメチレンブルーで超生体染色を行うと同定される.正常人では赤血球の寿命が約120日であるので,その喪失に見合う赤血球の産生が行われている.したがって,末梢血中には全赤血球の0.5〜1.0%にあたる網赤血球が認められる.しかし,生体から異常な量の赤血球の喪失(貧血)が起こり,それによる低酸素血症が起こると,図に示したような経路が正常に働いていれば,その喪失に見合うだけの赤血球産生の増加が起こり,網赤血球数は異常に増加する.その典型的な例が表のIに示した各種溶血性貧血と急性失血性貧血である.そのほか,新生児期には生理的に網赤血球数は2〜6%と増加する.また,髄外造血がある場合や摘脾後にも増加が認められるが,これらは赤血球産生の増加によるというより,むしろ前者では造血部位からの網赤血球の放出の程度の変化,後者では網赤血球のクリアランスの程度の変化によるものと思われる.また,ビタミンB12,葉酸や鉄欠乏の治療期には網赤血球の急激な増加が起こり,これによって逆に診断が確認される.
図に示すような経路が良く働いていないような貧血では,貧血相応の赤血球産生の増加は起こらず,ひいては網赤血球の増加はみられない.
白血球という名で顆粒球,単球,リンパ球を総称し,顆粒球は好中球,好酸球,好塩基球から成り立っている.したがって,それら各種血球の増減は白血球数に直結しているわけであるが,好酸球,単球,好塩基球は絶対数が少ないため,減少時には白血球数の異常としてとらえにくい.白血球数の異常は主として好中球,あるいはリンパ球の数の異常によることが多いが,例外的に好酸球,単球,好塩基球のいずれかが著しく増加して白血球増多を起こすこともある.表1は各種血球ごとに増多の原因を列挙してあるが,なかには単独で白血球数をかえることの少ないもの,あるいは単独では起こりにくいものも含まれている.
表を一覧すればわかるように,白血球増多の原因ははなはだ多いし,実際に白血球増多は複数の原因によって起こることが多い.
血小板数の測定には算定方法により,また検者により値が非常に変動しやすく,健康人での3〜4万の変化は日常みられ,正常値も15〜35万と大きな幅がある.しかし,10万以下は減少と考えてよい.
近年,自動計数器による算定が普及しつつあるが,血小板の増加または減少の高度な場合や,巨大血小板(giant platelet)の多く出現している例では正しい値が得られないおそれがある.したがって,血小板数に異常のある例では,直接法のBrecher-Cronkite法とEDTA-2Kを用いた血液塗抹標本上の血小板を算定する間接法を同時に行い,両方法の値から判断することが最も望ましい.間接法のFonio法を用いる必要はない.
近年,免疫学の著しい進歩に伴い,好酸球の局所組織への遊出機序ならびにその有する機能面についてかなり明らかにされてきている.この点,好酸球増多をきたす疾患の分類を好酸球増多の機序から整理するのが好ましいが,今日なお解明されていない面も多く,したがって臨床的側面からの分類にとどまる.
好酸球増多を示す患者をみたらhypersensitive diseaseの存在を考えることが一つの常識となっており,まず気管支喘息,蕁麻疹,アレルギー性鼻炎などのmajor allergic diseaseがある.いずれも即時型アレルギーによって生ずる疾患であり,IgE抗体の関与する抗原抗体反応が好塩基球や肥胖細胞の細胞膜面で生ずる結果,これら細胞が脱顆粒現象を起こし,ヒスタミン,セロトニン,ヘパリンなどが遊離され種々の症状が発現する.それと同時に好酸球遊走因子(ECF-A)が放出され,好酸球が局所に集まりchemical mediatorを不活化する方向に働き炎症の火消し役を果たす.
末梢血液中の正常赤血球は直径7.5〜8.3μmの扁平円形の血球で,中心部がうすくなっている.その形態の異常は多くの貧血症の患者で認められ,鑑別診断上重要な役割を果たしている.しかしながら,一部の楕円赤血球症のごとく,明らかな形態異常があるにもかかわらず貧血のない症例があり,また逆に再生不良性貧血のように高度の貧血症があるにもかかわらず赤血球の形態にほとんど異常を認めない症例もあるので診断上注意を要する.図および表は赤血球形態異常の種類と特徴的な変化,特有な変化を起こす主要な疾患をまとめたものである.
血液像検査は赤血球,血小板,白血球の質的・量的情報を提供するものとして広くスクリーニング検査の意味で実施されているが,血液疾患では診断確定に不可欠のものである.中でも白血球に関しては総数の増加,減少というだけでなく,特定白血球の増減が問題になる.この場合,血液像の%よりも絶対数に換算して判断する習慣をつけておくと便利である.白血球の量的情報に関しては白血球数の項を参照していただくこととし,ここには日本人正常者の白血球百分比表(表1)を示すにとどめたい.
次に観点を変えて,白血球の質的変化,形態学的変化と疾7患という形でまとめると表2のようになる.
赤血球酵素活性の異常値を示す疾患は大別して,①遺伝性溶血性貧血,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③血液疾患以外の疾患で赤血球酵素活性測定が診断上役立つもの,④後天性疾患の診断に役立つもの,に分けられる.その大要を表に示した.ほとんどの場合,活性低値を示す場合が問題になるが,例外はアデノシンデアミナーゼ活性上昇(40〜70倍)による溶血性貧血である.
赤血球酵素活性の測定を必要とする場合は,①遺伝性溶血性貧血で遺伝性球状赤血球症・遺伝性楕円赤血球症・不安定ヘモグロビン症・サラセミァに属さない症例,②遺伝性メトヘモグロビン血症,③表にあげたように無カタラーゼ血症,ガラクトース血症・重症複合免疫不全,infantile renaltubular acidosis,Lesch-Nyhan症候群などが疑われた場合,④発作性夜間ヘモグロビン尿症が疑われる場合などについて,原因究明ないしは診断確定のために行うものである.
毛細管抵抗試験は細血管外に赤血球が漏れやすいかどうかを検査する方法であるが,血管組織,血管透過性,血小板,凝固因子,線溶因子,キニン・カリクレイン系などの関与があり,それらの乱れによる細血管の脆弱性の検査といえる.
日常用いられる方法は陽圧法(Rumpel-Leede)と陰圧法(Borbély限界圧法と定圧法)であり,両者は必ずしも平行せず,病態により差があり,前者は皮膚面のやや深部の毛細管や細小静脈より,後者は表在細血管より出血しやすいので通常両者を併用してテストする.なお陽・陰圧を併用した複合法もある.
血餅収縮は止血機構における大切な現象であり,血小板がその主役を演じていることは周知のとおりである.しかし,血餅収縮のさらに詳細な機序については今日でもなお解明されていない点が多々存在しているようである.それでも近年に至り,血餅収縮現象は血小板のアクトミオシン様収縮性蛋白複合体であるthrombostheninが関与していることが明らかにされ,このthrombostheninに関しても,ATPの存在,Ca++の関与2),さらにアクトミオシンとの関係などにつき次第に明らかにされてきている.
血餅収縮試験はこうした血小板機能の一検査法であり,したがって血小板の性状が大きく影響することはもちろんであるが,血小板の量的影響もまた大である.しかし,今日主に用いられている血餅収縮試験検査法は,こうした血小板の質的,量的条件のほかに,①血液成分の影響:赤血球数,血液凝固因子(内因系凝固因子,第XIII因子,フィブリノゲンおよびプラスミンなど),②物理的因子の影響:測定時温度,試験管の性状(ガラス製,プラスチック製,壁の汚れやキズなど),測定時の震動,などが大きく関与するので,血餅収縮試験の検査成績判定に際しては,これらの因子についても十分考慮する必要がある.
血小板の粘着と凝集はよく似た現象で,その異常はおおむね平行するが,ときには解離することもある.出血傾向や血栓傾向の診断にはきわめて重要な意義をもつもので,ルチン検査としても次第に普及しつつある.
出血時間の異常はその延長である,出血時間は,皮膚毛細血管を穿刺して,傷口から湧出してくる血液が自然に止まるまでの時間をいうが,これは損傷血管の傷口に血小板が粘着して,これに流血中の血小板が互いに凝集して,血小板凝集塊をつくる.これが血管の傷口をふさぐと出血が止まる.実際には,血管の傷口から出た血液は,血管周囲組織の穿刺孔を通り,皮膚面に達し,外気に曝されるわけであって,血管の収縮能,血管周囲組織の弾力性,また傷害組織からの組織液の混入にれは流出してきた血液に混入して,トロンビンをつくり,フィプリンを析出させる)などが出血時間への影響因子となる.しかし,一般には血管とその周囲組織の性状と,血小板の凝集塊形成能が主な因子である.したがって,出血時間の異常はその延長であるが,それは血管壁の異常と,血小板数の減少,あるいは機能的低下の存在を示している.
したがって,血小板数算定を行い,血小板数が減少していない場合は,血小板機能異常か,血管異常である.血管異常として出血時間延長をきたすのは,遺伝性出血性血管拡張症(Osler病)であり,特異な皮膚・粘膜の毛細血管拡張像その他の症状で,診断は容易である,このほか,出血時間のみが延長し,他の止血に関する検査成績はすべて正常なものに血管性仮性血友病といわれるものがある.しかし,これらは日常そう多くみられる病気ではない.その他の血管性紫斑病では,通常出血時間正常である.
止血機序が正常に働くためには①血管,②血小板,③血液凝固能,さらには④線溶能が互いに協同して正常な相互作用を示すことが必要である.加えて最近,凝固線溶系に対してキニン,補体系が関与することが明らかにされてきている.現在まで血液凝固因子として13の因子(Ⅳは欠番)が承認されているほか,Fletcher因子(プレカリクレイン)およびFitzgerald因子(高分子キニノゲン)が確認されている.凝固因子の大部分は血液中に非活性型の酵素原として存在しているが,血液が血管外に出ると,血管内皮面以外の異物面との接触および組織液の混入により活性化されて,プロテアーゼとして次の因子を限定分解して活性化する一連の酵素反応を示し,最終的にフィブリノゲンをフィブリンに転化する.血液を採取してこのトロンビンーフィブリノゲン反応までを総括的に全血を用いて試験管内で観察するのが全血凝固時間(CT)測定法である。CTの大部分は内因性凝固因子が活性化されて血液トロンボプラスチン生成に要する時間に消費される.トロンビンがフィブリノゲンに作用するとただちにフィブリノペプタイドが遊離され,可溶性のフィブリンモノマーが産生される.一方,Ca升の存在下にトロンビンは非活性な第XIII因子を活性化し,活性第XIII因子はフィブリン分子のα・γ鎖間に—CO-NH—結合による架橋形式を促進し,フィブリンモノマーを強固な不溶性フィブリンとする.
プロトロンビン時間(PT)はQuick(1935)により創案されたもので,血液凝固の外因性凝固系の異常の診断に用いられる.PTの測定はクエン酸ナトリウム溶液1容と血液9容の割合で採血し,3000回転15分間遠心して得た血漿0.1mlを小試験管にとり,37℃に加温し,あらかじめ37℃に加温した組織トロンボプラスチン-カルシウム混液0.2mlを加えて凝固時間を測定するものである.
PTT(Partial thromboplastin tirne)はLangdell(1953)によって血友病のスクリーニングテストとして考案され,軽度の凝血因子の欠乏をも鋭敏に反応し,その異常を検出するので,全血凝固時間に代わるべき方法として日常広く実施されている.これは被検血漿に血小板因子としてのリン脂質を十分に補って,内因系の血漿凝固因子の欠乏を測定する方法である.またPTTにおいて,さらに接触因子を十分に活性化させて安定性のある成績を得るためにKaolin,Celite,およびEllagic acidなどを添加して測定する活性化部分トロンボプラスチン時間(activated PTT;APTT)もある.
トロンビン時間(以下TT),正確にいえばトロンビン凝固時間はトロンビンによる血漿の凝固時間を測定する方法であり,血漿中のフィブリノゲンが一定量のトロンビンにより,フィブリンに転換する反応速度を観察するものである.この場合,トロンビンは外より加えるわけで,検体それ自体のトロンビン生成能はこの検査には関与しない.したがって,TTに影響を与える因子としては,フィブリノゲンの質と量,フィブリノゲン・フィブリン転換を規制する血漿内部環境因子および阻害する因子,すなわち血漿のpH,血漿蛋白の変化,ヘパリン,ヘパリン様物質,フィブリン分解産物(FDP)の存在などがある.TTの延長は必ずしもPT,PTTの延長を伴わない.
Fibrinogenは血液凝固第Ⅰ因子といわれ,その確実なる生理的機能は血液凝固作用である.その質的異常としては,遺伝性の分子構造異常によるcongenital dysfibrinogenemiaと,肝障害などにおいて後天性に出現するacquired dysfibrinogenemiaが知られているが,これらは―とくに前者は―稀な疾患であり,一般にはfibrinogenの量的減少による出血性素因が臨床上重視されている.これにも先天性と後天性とがあり,後者は種々の疾患に起因するが,最近は血管内凝固線溶症候群におけるdefibrinationやfibrino-(fibrinogeno-)lysis,ひいてはその結果生ずるFDPによって惹起される凝固障害が問題視されている.fibrinogenの量的増加であるhyperfibrinogenemiaは,血管内凝固症候群の一要因でもありうる.さらにfibrinogenの変動は炎症,腫瘍などに関して,生体の防衛反応に重要な意義を有することが認められてきている.
Paracoagulationとは
従来,血液が凝固することはトロンビンによってフィブリノゲンがフィブリンに転化することであって,トロンビンの酵素作用と基質としてのフィブリノゲンのあいだでのみ成立するものとされていたが,基質がフィブリノゲンそのものでなくとも,また反応を惹起させる物質がトロンビンでなくてもフィブリン様の凝塊あるいは沈殿物を形成する現象のあることが認められた.
Paracoagulationの反応を大別すると,enzymaticなものと,non-enzymaticなものに分けることができる.Enzymatic paracoagulationを惹起させるものはトロンビンであり,その基質としてはフィブリノゲン由来のX分画,つまりXfpのほか,フィブリノペプチドAのみを遊離したいわゆるdes A fibrinがフィブリンモノマー(FM)としてフィブリノゲン,FDPあるいはcold insoluble globulin(Clg)と結合したsoluble fibrin monomer complex(SFMC)などがあげられる.またnon-enzymatic paracoagulationを惹起する物質の代表的なものは硫酸プロタミンで,基質としては,やはりSFMCのほか,X,Y分画などのFDPがあげられる.
線溶現象の測定には多くの方法があるが,まだこれだけで十分だというものはなく,実際にはいくつかの方法による測定値を組み合わせて線溶活性を判断している.現在一般には①フィブリン平板(従来からの標準平板と加熱平板のほかに,最近は基質フィブリノゲンからまじっているプラスミノゲンを除き,アガローズまたはアガールとともに固めて,加熱平板と同じ目的に用いる平板がある)の上に,検体である血漿,血清あるいはそれらのユーグロブリン分画をそのままか,またはこれにストレプトキナーゼ(SK)かウロキナーゼ(UK)を加えてのせ溶解面積を測る方法と,②検体である血漿のユーグロブリン分画の溶解時間を測る方法と,③測定目標に応じて特異的な合成ペプチド基質を選び,その一定量に検体を加えて,基質の分解により生じた呈色物質の量を計測する方法と,④線溶関係因子の抗体を用意し,その一定量に検体を加えて,検体中の抗原量を赤血球やラテックス粒子の凝集状況から計測する方法と,⑤ラジオイムノアッセイにより過剰に加えた成分の残高を計算し,検体中の因子を計測する方法と,⑥線溶によりフィブリン体が分解されてできた分解産物(FDP)を測る方法などが行われている.うち④は次項で述べられるので,ここでは初めの方法を頭において異常値の得られる場合を考えてみる.
FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)は,プラスミンによって生じたフィブリノゲン,またはフィプリンの分解産物を指している.フィブリノゲンはプラスミンの作用により,順次分解して4種のFDP(fragments X,Y,D,E)を生ずる.フィブリンの分解によりFDPを生ずる場合にも,フィブリノゲンの分解の場合とほとんど同様の過程をとる.
これらのFDPはフィブリノゲンとは異なり,トロンビンによる凝固性が極めて悪い(fragment X)か,またはまったく凝固しない(fragments Y,D,E)が,免疫学的にはフィブリノゲンと同様の抗原性を有するので,血液よりフィブリノゲンを除去した血清または脱線維素血漿を用いて免疫学的な測定が行われている.
西独のHartert1)により1948年に考案されたトロンボエラストグラフは,血液凝固の全過程を動的・経時的に自動記録する装置である.30年を経た今日でもなお極めて優れた測定器であることは,われわれの凝固検査室では,4台のトロンボエラストグラフが毎日フル回転していることからもご推察いただきたい.
赤沈の異常は「促進」と「遅延」に大別される.表1は赤沈の正常値を示したものである.数値の検討より「促進」の判定は容易であるが,「遅延」の意味する内容の理解は必ずしも容易ではない.異常値としての「遅延」は赤沈抑制的に作用する要因の介在を考慮する必要がある.従来臨床的に関心が持たれてきたのはいうまでもなく「促進」を示す赤沈であったが,今後,異常値としての「遅延」についても注目すべきであることを強調したい.
正常者で赤沈1〜2mmをみることは少なくない.しかし,問題なのは種々の症状を有し,体温・白血球数およびCRPなどが明らかに異常を示すにもかかわらず,赤沈が「遅延」ないし正常域にとどまるときである.たとえば,血管内凝固症候群を伴ってくると,血漿フィブリノゲンは低値をとり,フィブリン分解産物(FDP)は増加をみるが,赤沈抑制的に作用し「遅延」をみる.いいかえれば全体的臨床像との釣合いで赤沈促進の予想される病態で,実際には意外に赤沈がすすまなかったり,見かけの正常値にとどまったり,「遅延」を示す場合に遭遇することが決して少なくないのである.このような一見奇異に思われる赤沈の動きは,赤沈抑制機構の発動が考えられ,広義の「遅延」のカテゴリーに属さしめてよい.この場合,数値のみで「遅延」を判断することはできず,赤沈の経過と臨床像との解離を見出すことが重要となる.
溶血亢進の有無に関する検査として,広く行われている赤血球浸透圧抵抗(脆弱性)試験は低張食塩水に対する抵抗をみる方法であり,そのほかにサポニン抵抗,酸抵抗,機械的抵抗をみる方法もあるが一般的でない.低張食塩水に対する赤血球抵抗が減弱する(脆弱性が亢進している)疾患,増強する(脆弱性が低下している)疾患,正常を示す疾患を表1に示した,溶血性貧血では一般に抵抗が減弱するが,その種類によって多少異なり,遺伝性球状赤血球症では著しく減弱する.しかし,これは本症に特異的なものでなく,球状赤血球は低張食塩水中で水が浸透し容積が増大し,極限に達して溶血するまでの余裕が乏しいためであると考えられる.自己免疫性溶血性貧血では溶血が盛んなときは減弱する.同種免疫性溶血性貧血の場合,抗Rhでは正常であるが,抗A,Bでは減弱する.中毒性溶血性貧血では軽度減弱を示し,悪性貧血では多くは正常を示すが,減弱や増強を示す例もある.急性出血後の血液など新鮮な赤血球は抵抗が強く,溶血性貧血以外の黄疸でも抵抗が増強している.
ヘモグロビンは,HbA(主要ヘモグロビンでα2β2),HbF(胎児ヘモグロビンでα2γ2)およびHbA2(生後産生されるヘモグロビンでα2δ2)に分けられる.
ヘモグロビンのグロビンを構成するポリペプチド鎖の産生は他の蛋白の合成と同様に遺伝的に支配されている.それゆえ,遺伝の過程で異常が生ずると(突然変異など)1個以上のアミノ酸の置換,欠如および増加がポリペプチド鎖のアミノ酸配列に起こり,正常とは異なったアミノ酸の配列をもったヘモグロビンが産生される.これを異常ヘモグロビンという,また非α鎖のβ鎖とδ鎖が融合してできるヘモグロビン・レポア(Hb Lepore)も異常ヘモグロビンである.
CRP(C-reactive protein,C反応性蛋白)がしばしば陽性となる代表的疾患を表にまとめた.
歴史的には,肺炎双球菌感染症の特異的診断に有用な病的蛋白として発見されたCRPではあるが,現在では各種炎症性疾患あるいは組織崩壊性疾患でも出現する非特異的な,いわゆる急性相反応性血漿蛋白成分の一種であると理解されている.
リウマトイド因子とその検出法
慢性関節リウマチ(RA)の血清中にはリウマトイド因子がある.最初血清蛋白質のIgM分画に属し,同種または異種のIgGと結合する能力のあることが見出された.その後の研究により,リウマトイド因子は自己抗体の一種であることが証明された.最近ではさらにIgG,IgMに属するリウマトイド因子も見出され,この腫の蛋白質は広く抗γグロブリン因子と総称されている.
検査法として日常広く応用されているのは感作粒子凝集反応である.すなわちリウマトイド因子が同種または異種のIgGと結合する性質を応用し,粒子の表面にIgGを吸着させ,これを用いて血清との間に凝集反応を行うのである.その粒子の種類により種々のテストがあるが,臨床検査に用いられているのは次の2種類である.
甲状腺に対する自己抗体測定に関して,現在わが国では日常検査としてタンニン酸処理赤血球凝集反応を用いてサイログロブリン抗体とマイクロゾーム抗体が測定されている.とくに後者はわが国で開発された方法であり,自己免疫性甲状腺疾患の診断に極めて有用である.従来よりタンニン酸処理赤血球により測定される抗サイログロブリン抗体はtanned red cellの略からTRC抗体として親しまれてきたが,マイクロゾームテストもTRC法であり,筆者らは前者をTGHA,後者をMCHAと略しており1),最近欧米でもこの略号が使用されつつある.
ASO,ASK値測定の意義
ストレプトリヂンO(SO)およびストレプトキナーゼ(SK)はいずれも溶連菌の抗原物質で,その感染をうけたものは抗体産生がみられる,したがって,それらに対する抗体であるASO,ASK抗体価を測定することによって溶連菌感染を間接的に証明することができる.溶連菌の抗原物質は菌体外物質と菌体表存性成分がある,菌体外物質としては,①ストレプトリヂンO,②ストレプトリヂンS,③ストレプトキナーゼ,④ヒァルロニダーゼ,⑤ディフォスフォリヂンヌクレオチダーゼ,⑥デスオキシリボヌクレアーゼ,⑦プロテアーゼ,⑧アミラーゼ,⑨エラスターゼなどがある.菌体表在物質としては,①ピアルロン酸,②M蛋白,③多糖類,④ペプチドグリカンなどがある.
それら菌体外物質,菌体表在性成分のなかにはストレプトリヂンS,エラスターゼなど抗原性のないものも含まれているが,溶連菌に感染し,抗原物質が出ると,平均9日目頃から抗体産生が始まり,通常14日目で最高となる.その後抗体価は次第に下降してくる.しかし,M蛋白など菌体表在性成分に対する抗体産生は感染後徐々に始まり,長期間,ときに年単位にわたって高い抗体価を維持する.
クームス試験陽性を示すとき
クームス試験には直接クームス試験と間接クームス試験がある.直接クームス試験は赤血球に吸着されている抗体を検出する方法であり,間接クームス試験は血清中にある赤血球抗体を検出する方法である.
血液を寒冷にさらすと血球が凝集することを1903年にLandsteinerが発表したが,その後この反応の主体をなす寒冷凝集素が,肺炎,マラリアなどで高値を示すことが臨床的に知られるようになった.1943年にPetersonらが原発性非定型(異型)肺炎において本凝集素価が高率に出現し,陽性の場合は他の型の肺炎との鑑別に役立つとした.本凝集素はIgMに属するが,単一のものと考えられておらず,その種類,出現機構,生理的意義は不明の点が多い.本凝集素はABO式血液型とは無関係に,低温でヒトの赤血球,ある種の動物の赤血球を凝集するのみか,自己の赤血球とも反応する.その作用は低温(0〜5℃)で最も強く,20℃では活性がほとんど失われ,37℃で凝集は解離する.
今から14〜15年前(昭和40年頃)に,それまではまったく姿を消していたTreponema Pallidum(TP)が再び日本に持ち込まれ,新鮮な早期顕症梅毒患者が発生するという事態,いわば梅毒の小流行があった.その小流行もじきにおさまり,現在はそれほど梅毒患者の新発生はみられないようである,しかし,まったく姿を消したというわけではなく,散発的に新鮮な梅毒患者の発生が報じられている.やはり,いつまでたっても,梅毒は忘れ去られそうにもない疾患である.
ところで,梅毒を診断するのに欠かすことができない検査に血清学的反応がある.その血清学的反応にも2つの系統があり,ひとつはふるくより実施されているCardiolipinを抗原にする反応(通常STSと略記--serologic tests for syphilisの略),もうひとつはTPを抗原に使う反応である.それぞれの系統の反応には臨床的な意義の違いがあるので,両者をうまく組み合わせて利用する必要がある.現在わが国で実施されている血清反応は,次のようなものがある.
伝染性単核症(Infectious Mononucleosis;IM)は,E-Bウイルス(Epstein and Barr,1965)が成人または年長児になってから初感染したときに,生体の免疫応答によって生ずる病像の一つで,発熱・全身リンパ節腫脹・血液像の変化(多数の異型リンパ球を伴うリンパ球増多症)を3大主徴(Trias)とするが,患者血清には特有な異好性抗体(Heterophile antibody)が一定期間多量に出現していることが多い.ヒツジやウマの赤血球凝集反応またはウシ赤血球の溶血反応などによりこれを検出することが可能である.最初に報告したのがヒツジ赤血球を用いてのPaulとBunnellであるためPaul-Bunnell反応とも呼ばれるが,正常血清に含まれ,他の種々の疾患の際増加するForssman抗体や血清病患者の血清病抗体と鑑別するにはDavidsohn吸収試験を併用する必要がある.これらを含めて一般に異好性抗体試験(Heterophile antibody tests)という.定型的な伝染性単核症の診断規準の一つとされている.
ビダール反応はもっぱら腸チフス,パラチフスA,パラチフスBの3つのチフス性疾患の血清学的診断法として古い歴史を有する.かつては菌陰性例における診断のよりどころとして偉力を発揮したが,クロラムフェニコール(CP)療法導入と相前後して,凝集素価の上昇が菌陽性例でもそれ以前のように良好でないことがひろく報告されるようになった.また,チフス性疾患の国内発生が急速に減少するにつれて検査項目として選択されることも少なくなり,その診断法としての重要性は著しく低下した感がある1〜3).
しかし,最近,東南アジア地方からの帰国者で不明の発熱の続くことを主訴として来診する例が増加し,血液塗抹標本でマラリア原虫を認めないときは,必ず血液培養とともにビダール反応を検査することを忘れないように心がけたい.
輸血のための血液型検査はABO式とRh式の2つが不可欠である.ABO式血液型は最も重要で,血清中に正常抗体(抗-A,抗-B)をもつ唯一の血液型である.Landsteinerの法則に従い,血球のもつ凝集原を調べる"おもて検査"と血清(漿)中の凝集素を調べる"うら検査"の判定は一致するはずである.ここでは異常値としてABO式のおもて判定とうら判定が不一致の場合,Rh式の対照が凝集を示す場合をとりあげる.
一般にANFといわれるものは細胞核の種々の抗原に対する抗体の総称である.現在までに判明しているANFの種類は,nativeまたdenatured DNA,DNA-histone,saline extractable nuclear antigenおよび核小体成分などに対する抗体である.これら抗原さえあれば,ほぼあらゆる免疫学的抗体検出手技を用いて各々の核抗原に対するANFを検出しうるが,日常検査として広く使用されているのは螢光抗体法によるtotalでのANF(いわゆるANF)の検出法,LE細胞検出法,抗DNA抗体検出法である.本稿での要求は第一のいわゆるANFの検出法と解されるので,以下,本検出法についてのみ述べる.
免疫グロブリンには現在IgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5つのクラスが知られており,それぞれのクラスはL鎖の違いからκ型とλ型からなっている.血清免疫グロブリンの異常という場合には,各免疫グロブリンの増減のほかに病的にM-蛋白(単一クローン性免疫グロブリン)が出現する場合があるので,表1に示すように異常値を示す疾患は3群に大別される.また,M-蛋白をきたす疾患のうち,本態性M-蛋白血症といわれるものは表2に示すように,原疾患に続発性に出現してくると考えられるものであり,多発性骨髄腫などにみられる,いわゆる悪性M-蛋白血症とは区別されねばならない.
免疫グロブリン似下Igs;IgD,IgEを除く)の血清濃度に異常をきたす疾患は表1のごとくである.血清Igs値上昇の多くはpolyclonalである.polyclonalな増加は一般にIgG,IgAおよびIgMのすべてのクラスの増加として観察されるが,ときに1つのクラスのみが優先して増加する場合もある.たとえば,急性肝炎ではIgMの増加が主で,IgGやIgAの増加は軽度のことが多い.ところが肝炎が遷延し,慢性肝炎(とくに活動型),肝硬変症に移行するとIgGやIgAの幅広い増加が起こる.このIgAの増加はセ・ア膜電気泳動像でみられるβ-γ bridgingの原因である.アルコール性肝障害,消化管や呼吸器の慢性感染症ではIgAの増加,新生児の子宮内感染症,trypanosomiasis,胆汁性肝硬変症などではIgMの増加,SLEなどではIgGの増加が著明である.polyclonal Igsの増加の証明は疾患の診断に直接結びつくとはかぎらないが,病態の解析に有用な手がかりを与える.一方,monoclonal Igs(M蛋白)の出現,増加の証明はかなりの診断的な意味をもつ.しかし,増加しているIgsがmonoclonalであるかどうかは定量するだけでは決定しがたく,後述するごとき各種の検索をまたなければならない.悪性のM蛋白は2g/dl以上の場合が多く,またM蛋白以外のIgsは著明に低下している.
RIST IgEの異常値を示す疾患を表にまとめた.まずIgEの正常範囲を示す.正常人IgEの値を対数に変換し,度数分布曲線を作ると正規分布を示すので,IgEの平均値はすべて幾何学的平均値で示すことを原則とする.IgEは臍帯血清中にも微量ある.その値の平均は2.1U/ml(BAC法,Bazaral),3.9U/ml(RIST,Johansson),0.39U/ml(PRIST,Johansson),2.45U/ml(RIST改良法,蒲生)である.母親がアトピーでも非アトピーの場合と変わりなくIgEが胎盤を通過しないことを示す.年齢とともに徐々に上昇し,3〜5歳で成人の60%に達し,11〜15歳で成人値に等しくなる.筆者の成績では10代では150U/mlで20歳をすぎるとやや低下して120U/mlとなる.男女差はない.RISTで調べた日本人の成人のIgE平均値は報告者により違うが、筆者の100例の成績では122U/mlで±1σは40〜360U/ml,±2σは14〜1000U/mlであった.他の報告者の成績もこれに近い.
IgEレベルは,あくまで免疫グロブリンとしてのIgEをみているのであって,特異抗体ではないから,IgEの異常値が特異疾患に結びつくわけではない.その点は他の免疫グロブリンにおけると同様であるが,IgEの上昇する疾患は比較的限られている.
補体は単一な物質ではなく,いくつかの補体成分から構成されている.これらの成分は抗原抗体複合物と反応(classical pathway)する順序によりC1,C4,C2,C3,C5,C6,C7,C8およびC9と名づけられている.さらにC1はC1q,C1r,C1sの3つの成分に分かれる.これら以外にも,C1,C4,C2を介さずにC3から補体系を活性化するalternative pathwayに関与するproperdin,B,Dや,補体系のregulatorであるC1inactivator,C3b-C4b inactivator,C4 b-binding protein,βIHグロブリン,C567 inhibitorやS-proteinも補体系の蛋白である.したがって,血清補体価はこれら20種類の蛋白の量と活性によって左右される.
B型肝炎ウイルス(HBV)感染において出現するHB抗原・抗体系にはHB surface(HBs)抗原,HB core(HBc)抗原およびHBe抗原とそれぞれに対する抗体が知られ,検査法には表1に示す方法が用いられている.検査法の違いにより成績がかなり左右される.
α-フェトプロテインの異常を示す疾患は表に示すごときものがあげられる.健康成人の血中α-フェトプロテイン値はラジオ・イムノアッセイ(RIA)法で10ng/ml以下であるが,病的状態では10ng/ml以下から数百万ng/ml(数百mg/dl)にもわたって広く分布する.便宜上,二重拡散法ないし一元免疫拡散法により陽性となるものを著しく高い例,二重拡散法および一元免疫拡散法陰性だが,RIA法で陽性のものを軽度ないし中等度増加を示す例と分けて考えてみる.前者のおよその血中レベルは5,000〜10,000ng/ml以上である.
著しい高値を示すものとしては,原発性肝癌のうちの肝細胞癌および悪性奇形腫のなかのヨークザック(卵黄嚢)腫瘍があげられる.後者は,従来胎児性癌なる名称でよばれていたものであるが,胎生期ヨークザックの組織に類似した組織像を呈するため,最近はヨークザック腫瘍なる名称でよばれている.
CEAはcarcinoernbryonic antigen(Gold)の略である.この物質は当初考えられたような大腸癌特異性はなく,他の多くの癌にも陽性化し,さらに種々の良性疾患や健常人の一部にさえも陽性化することが明らかにされている.しかしながら,その血中濃度の著明増加は癌患者のみにみられる特異的現象といっても過言ではなく,ここにCEAが臨床に重用されている理由がある.
ただしCEAには未解決の問題がある.それはこの物質が化学的,免疫学的に単一の組成ではないことである.CEAは分子量約200,000で糖を40ないし80%含む糖蛋白であるが,現在の測定法(後述)によって血中で検出されているCEAはNCA,NCA-2などいくつかのCEA様物質―CEA family―を包含した不均一な物質集団である.しかも,その不均一性は各臓器の癌ごとに異なっており,さらには個々の症例によっても相違していると推定される.WHOがCEAの標準化を試みながら未だ結論を得ていないのが現状である.
リンパ球は骨髄にある幹細胞から分化し,一部は胸腺に達し,そこで分化成熟してTリンパ球となり,主として細胞性免疫に関与する.他の幹細胞は胸腺を経由せずにBリンパ球に分化し,体液性免疫に主役を演ずる.末梢血中のリンパ球を分類するには表1に示すような表面マーカーを利用する.
臨床検査レベルから実験室レベルにわたって,通常なされているトキソプラズマ血清反応には表に示したような方法がある.この中でも色素試験はすべての抗体検出法の基本となる信頼度の高い重要なものであるが,生きた原虫を使う危険性があるほか,反応の段階で特殊なaccessory factorが必要なこともあり,ルチンの臨床検査手技として,どこでもなされるものではない.臨床検査として通常用いられている手技は赤血球凝集反応,ラテックス凝集反応,螢光抗体法などで表の 2)-e,3)-a,3)-b,4)はそれぞれキットとして市販されている.
Mycoplasma pneumoniaeに対する血清中の特異的抗体を証明する方法には,表題である間接(感作)赤血球凝集反応のほかにも多くのものがある.たとえば補体結合反応,発育阻止試験,代謝阻止試験,ラテックス凝集反応,間接免疫螢光法,counterimmunoelectrophoresis,complement-mediated mycoplasmacidal test(マイコプラズマ殺菌試験),radioimmunoprecipitation testである(表).それぞれに長所短所があるが,なかでも後2者(8,9)はきわめて鋭敏とされている.今回はマイコプラズマ血球凝集反応(間接赤血球凝集反応)について記述する.
ウイルス性疾患においては,ウイルスの種類,抗体価測定方法によっても異なるが,抗体価の高低よりは,その変動あるいは特異性が重要で,他の検査にみられるような異常値は定めにくい.抗体価と疾患の関係についても,もし有意義な値あるいは変動潮認められれば,それに対するウイルス感染を予想することになる.
ウイルス性疾患では,一つのウイルスが,各種疾患の原因になり,逆に,一つの疾患が多くのウイルスによって起こる例も多い.たとえば,ウイルス性髄膜炎の原因には,コクサッキー,エコーなどエンテロウイルス,単純ヘルペス,ムンプスその他のウイルスが考えられ,一方,コクサッキーウイルスは型も多いが,それぞれ無菌性髄膜炎,麻痺症,脳炎,発疹症,ヘルプァンギーナ,心筋炎,心嚢炎,手足口病その他気道疾患を起こすなど多彩である.ウイルス性疾患の診断には,血清抗体価も重要であるが,可能なものについては,ウイルス分離または形態学的検査法などをあわせて行うことが必要である.
屈折計によるデータの意味
現在,広く利用されている血清蛋白濃度の測定は屈折計法によるものである.この方法はわずか1滴の血清と屈折計(ふつう蛋白計と呼ばれている)さえあれば,瞬間的に,誰にでもできるために,今日ではごくルチンの検査法として広く普及してきた.このこと自体は結構なことであるが,血清の屈折率を測定していることを忘れて,血清蛋白濃度そのものを測定していると錯覚している向きがないではない.
屈折率から蛋白濃度を算定する場合の大事な条件として,屈折率に影響を与える非蛋白成分の量に著変のないことが前提である.したがって,高脂血症のために血清が白濁している場合とか,血清電解質に異常がみられる場合などは屈折率がそのまま蛋白濃度を示さないことを銘記すべきである.測定しているのはあくまで屈折率で,蛋白濃度ではないのである.
健康者では,全体の膠質安定性を高める保護膠質に属する分画が十分量存在することにより,血清中に溶存する各種の蛋白質やその多糖類複合体,脂質複合体などが,その組み合わせの上で,きわめて高い安定性を保っている.一方,各種の疾患時には,A/G比の低下にもみられるように,その構成成分の濃度や量比に多様な変化が起きて,ある場合にはその膠質安定性が著しく低下して,沈殿や混濁が生じやすくなったり,またある場合には,逆に病的に安定性が上昇することがある.この膠質安定性の上昇や低下の度合いを情報として得るために工夫された反応が血清膠質反応である.
現在,最も多く用いられているのはチモール混濁反応(TTT)と,硫酸亜鉛混濁反応(ZTT)であろうと思われるが,そのほかにも,各種疾患に対する情報として,別のものを提供してくれる点や,スクリーニングに便利である点などで,いろいろな反応が使われていると思われるので,主なものを表1に示した.
血清蛋白は80種類以上の成分からなっている.したがって,個々の蛋白について量的および質的異常が検索できれば理想的である.しかし現実にはそのような詳細な分析はほとんど不可能なため,ふだんは蛋白成分の有する物理化学的性質あるいは生物学的性質を利用して,適当に血清蛋白を分画している.なかでも日常最も広く用いられている分画法はセア電気泳動法で,本法によれば血清蛋白は易動度の早いものから,アルブミン,α1,α2,βおよびγの5分画に分かれる.
血清蛋白異常は血清総蛋白濃度および各分画の異常から,表のような基本型に分類されている.このような変化は定型的な病変が存在する場合にみられるものであって,病変が非定型的である場合,たとえば病気が未だ定型的な状態まで進行していない時期,回復期,あるいは他の疾患を合併しているときなどでは,このような分画像にあてはまらないことがしばしばある.以下に各異常像を示す代表的な原因疾患を示す.
高血糖を示す疾患と状況1) 高血糖をきたす疾患をすべて糖尿病と呼ぶ時代が比較的長く,現在でも,糖尿病を一つの疾患群と考える人は多いが,それは真の糖尿病かそうでない糖代謝異常かの区別が困難な場合が多いための,便宜的なものに過ぎない.しかし,患者の治療,指導方針をたてるには,両者をできるだけ区別する必要がある.こうして糖尿病と鑑別を要する疾患は表1のように種々の場合があり,生体にストレスを加える原因はすべて糖代謝の異常をきたし得ると考えるほうがよい.
ただし,その高血糖の程度は,糖尿病でない場合,比較的軽度で,糖代謝異常を示すもののうち,糖尿病型血糖曲線を示すものは比較的少なく,日常最も糖尿病と紛らわしい血糖曲線を示すのは,肥満,高脂血症,肝疾患,膵疾患,などであり,甲状腺機能亢進症,胃切除後などでは糖負荷後3時間値上昇を欠く場合が多い.
全血(静脈血)を用い,酸素曲定量法で空腹時正常人の乳酸を測定すると,3〜15mg/dl(0.33〜1.67mmol/l)であり,一方,ピルビン酸は0.3〜0.9mg/dl(0.034〜0.102mmol/l)である.動脈血を用いてもほぼ同じであるが(ただし,乳酸はやや低い),血清を使用すると全血よりも平均7%(乳酸のとき),あるいは21%(ピルビン酸のとき)の高値を示す.これは,おそらく血液凝固の過程で嫌気的解糖系が作動して乳酸やピルビン酸め変化をきたすためで,したがって,検査材料としては全血を使用し,採血後ただちに測定(除蛋白操作)することになっている.
血中乳酸,あるいはピルビン酸が以上の正常値を越えて異常増加してくる疾患には表のようにいろいろある.一般にはこの両者が平行して増加するが,しかし,一方がとくに著明に増加する場合もある.周知のように,乳酸やピルビン酸は嫌気的解糖系の最終代謝産物であり,とくに乳酸は組織の酸素欠乏状態を示す指標としての意義が大きい.そこで,乳酸とピルビン酸の両者の関連性を示すパラメーターとして乳酸過剰(lactate excess,XL)という概念が導入された.
血清コレステロール値の変動は脂質代謝異常のほか,非特異的に種々の疾患において現れる(表).高コレステロール値を示す疾患のうち日常よく遭遇するものとしては,糖尿病,動脈硬化症,ネフローゼ症候群,肝胆道疾患,悪性腫瘍などである.これらは軽度(230mg/dl以上)〜高度(400mg/dl以上)の上昇までさまざまであるが,上昇可能なおよその程度を表に記している.低コレステロールの場合,肝硬変症など肝実質障害を伴う疾患が代表的である.
血清トリグリセリド(TG)値の異常をきたす疾患を表にまとめた.日常認められる異常値のほとんどは続発性の脂質代謝異常によるものである.血清TGは,エネルギー源としての脂質の吸収,貯蔵,消費,合成のバランズを示すものであり,諸疾患によって脂質代謝に影響があった場合,異常値をとることは当然考えられる.ただし,これら続発性TG異常を示す糖尿病,ネフローゼ症候群,肝疾患などの診断はその臨床所見,検査データなどから総括的に行われるものであり,TG値が診断のきめ手になるようなことは考えられない.
なお鑑別診断上,食餌性高脂血症,肥満症,動脈硬化症などにおけるTG値を含む脂質検査の諸データの解釈は他の続発性高脂血症に比較し,臨床検査データが必ずしも特異的所見を示さないため困難なことが多い.忘れてならないのは薬剤の影響によるTG異常値の出現で,このような場合,原疾患による影響か否かの判断はかなりむずかしいものとなる.薬剤と食餌性TG異常値の場合には特定臓器疾患としての症候,所見が不明瞭なことが多い.
血漿中のFFAの濃度は非常に不安定なもので,わずかの刺激に対して敏感に変化する.とくに,栄養および神経内分泌性の影響を敏感にうける.血漿中の量はほかの脂質に比べて非常に少ないが,turn overが非常に早く,エネルギー源として重要な役割を果たしている.
ほかの脂質と異なり,ただ1回の測定のみで疾患の診断的意義を有する場合が少ない.むしろある刺激を加えてFFAの変化をみて,それらの刺激の生体内代謝におよぼす影響をみる場合が多い.生体がエネルギーを必要とするとき,図にみられるように,ホルモン感受性リパーゼが働き,脂肪組織のTGはFFAとグリセロールに分解され,血中に放出される.血中に放出されたFFAは心筋,骨格筋,腎臓などの主要臓器のエネルギー源となる.あまったものは肝に行ってTGとなり,ふたたび血中に放出され脂肪組織に摂取され,たくわえられる.ホルモン感受性リパーゼはいろいろのホルモンや神経系の影響をうけることが大きく,cyclic 3',5'-AMPを介して調節されている.cyclic 3',5'-AMPはATPからadenyl cyclaseによってつくられる.
リポ蛋白の種類と役割
リポ蛋白には表1にあげてあるような種類のものがあり,各種の臨床状態でそれぞれのリポ蛋白の増減が起こる.
分析手段によってやや名称を異にしているが,だいたい相互に関連を示すものである.
まず,簡単にβ-リポ蛋白(β-Lp)の定義についてふれておきたい.それは,測定方法によって,意味するものが若干異なるからである.厳密にβ-Lp(狭義)という場合には,超遠心法でSf 0〜20分画(低比重リポ蛋白)を指す.電気泳動法で,β-グロプリンに椙当した部分のリポ蛋白分画に相当するものである.しかし,沈殿を利用した方法(Dextran sulfate,Heparin-Ca,および免疫沈降を用いたβ-リポテストなど)では,表1に示すとおり,超遠心法によるSf 20〜400(超低比重リポ蛋白),あるいは電気泳動法によるα2-グロブリン相当のpre-βリポ蛋白をも,ともに測定しており,両リポ蛋白をあわせて,β-Lp(広義)と呼んでいる.それぞれに含まれる脂質成分が,やや異なるので,狭義のβ-Lpではコレステロールが,広義のβ-Lpではコレステロールと,中性脂肪がともに多く含まれることになる.
現在,簡易法として最も普及している多くのKitは,ほとんど沈殿を利用したものであり,したがって,広義のβ-Lpを指しているので,ここでは,それを中心に述べてみたい.表2にβ-Lp(広義)の異常値を示す疾患を示してある.
HDLコレステロール値の意義は低値の場合に問題となることが多く,高値の際では,時にむしろ望ましい状態として治療の対象とはならない.
表にHDLコレステロールの低値を認めやすい病態をあげてあり,さらに一応は,高値となることの多い状態を列記してある.多くの場合には相対的な意味で,HDLコレステロールの変動をみることが多い.たとえば喫煙は,確かに非喫煙者と比較してHDLコレステロール値を低下させるが,必ずしも喫煙できわめて異常低値といえるまで低下することは少ない.
血清尿素窒素の上昇(低下)する疾患を表に示した.高齢者の腎動脈硬化症による高窒素血症は正常値上限(20mg/dl)をわずかに越える程度(20〜35mg/dlのまま変動していることが多い.逆に乳幼児,ことに10歳以下の腎炎では尿素窒素の上昇は頻度が低い.小児科領域での急性腎炎は尿素窒素より尿所見の推移が経過観察の目的には適しているといえる.この年齢により尿素窒素の上昇頻度が同じ腎障害であっても異なる点は注意する.尿素窒素の上昇は基本的に機能するネフロンの数と,体内合成尿素量とのバランスであり,ネフロンの機能が低下しても生成尿素量が比較的少なければ血中停滞は起こらない.この状態が小児であり,成人の場合はこの逆であると考えることができよう.したがって,成人,ことに高齢者ではわずかな腎障害でも上昇する頻度は高い.また,大手術後はしばしば尿素窒素の上昇をきたすが,上腹部臓器の手術後にみられる高窒素血症は単なる腎機能低下のみではなく,蛋白異化の亢進もかなり大きな原因となっている.膵壊死や上腹部膿瘍,縫合不全などにみられる高窒素血症は腎機能不全と考えられる他の所見がなくとも100mg/dl前後の値を示し得るのである.逆に蛋白同化の亢進は異常低値を示すことになる.表に腎炎またはネフローゼ症候群と同じく扱うべきものを示したが,中毒による腎障害も忘れてはならない.
クレアチン,クレアチニンの生合成は,まずアルギニンのグアニジル基がトランスアミナーゼの酵素作用によりグリシンに転移され,グリコシラミンが作られる.次に主に肝臓でメチル・トランスフェラーゼによりクレアチンが合成される.肝臓で合成され血中に分泌されたクレアチンは筋細胞に取り込まれ,クレアチン・フォスフォキナーゼ(CPK)と呼ばれる酵素の関与で可逆的に反応し,クレアチン・リン酸として存在している(60〜80%).この反応は,Lohmann反応で主に糖質を好気的に分解することにより生ずるATPの化学的エネルギーをクレアチン・リン酸の形で保存し,筋活動に際し必要なATPを生ずるために,速やかに利用できるエネルギーの貯蔵を行っている.一方,20〜40%のクレアチン・リン酸は非酵素的に一定の割合で脱リン酸されクレアチニンとなる.
クレアチン,クレアチニンはいずれも腎臓より排泄される.クレアチンは前述のように,生体にとって重要な物質であるので,腎糸球体より濾過されても近位尿細管で再吸収される.したがって,正常男子では尿中にクレアチンは通常認められない.
肝性昏睡の起因因子の一つとしてアンモニアが関係していることは今日常識となっている.血中アンモニアの起源としては腸管,胃,腎,筋肉,白血球,皮膚などがあげられる,腸管内では細菌によるアミノ酸の分解によりアンモニアが生じる.また,体内で合成された尿素の1/4は腸肝循環を行っており,この腸管経路で腸管ウレアーゼによる分解で生ずるアンモニアは1日4gといわれている.これら生じたアンモニアの処理機構は肝の尿素サイクルが第一であるが,筋肉でもグルタミンの合成経路などでアンモニアが処理される.
猪瀬型肝脳疾患,Eck瘻術後などの短絡型肝脳疾患では,腸管より吸収されたアンモニアが肝で代謝されず大循環中に入り,海馬などの大脳辺縁系に働いて興奮,情動行動の異常,健忘,羽ばたき振戦,唾液分泌の亢進などの症状を起こし昏睡に陥る.しかし,劇症肝炎では血中アンモニアは中等度の上昇しか示さないこと1)や,昏睡の発現と血中アンモニア濃度との相関がそれほど高くないことなど,肝性昏睡のすべてを高アンモニア血症で説明することはむずかしい.この点について低級脂酸2)やメルカプタンがアンモニアの毒性を増幅させるためであるという考え方もある.
黄疽とは 黄疸とは血清ビリルビン値が過剰(1mg/dl以上)になった状態と定義されている.したがって,黄疸の程度は血清ビリルビン値の定量により決定されるのであるが,皮膚・粘膜の黄染はビリルビンの増量による場合が一般であるために,簡便法として血清の黄色調を比色定量する黄疸指数(Meulengracht法)が用いられてきた.すなわち,血清を生食水で希釈して標準液(重クロム酸カリ0.01g/dl)の濃度と一致するまでに要した希釈倍数で表され,ビリルビン1mg/dlが黄疸指数10にほぼ対応する.健康人血清の黄疸指数は4〜6単位,血清総ビリルビン値は0.2〜0.8mg/dlである.血清総ビリルビン値が2mg/dl以上になると黄疸として認識できるので顕性黄疸,それ以下の場合には潜在性黄疸と呼ぶことがある.
血清鉄濃度は腸管からの吸収,網内系,骨髄への移行,組織⇄血漿間の移動などのバランスによってほぼ一定の値を保持している.吸収される際は食餌中の含量,摂取量,小腸から同時に吸収される物質による促進(グルタミン酸,アスパラギン酸,VC),競合(メチオニン,プロリン,セリン,リン酸化合物)作用をうける.体内総血清鉄量は4,000mgであるが,前述した諸臓器間のturn overは大で,総量30mg分が1日間で体内を移動する.腸管から吸収された鉄は第一鉄イオン(Fe++)として血流に入り,細胞内で酸化されてFe+++となり,アポフェリチンと結合してフェリチンとなる.さらに体内循環をするときはβ1グロブリン分画中のトランスフェリンと結合(キレート結合?)して鉄蛋白として血中を担送される.
鉄は体内では細胞(チトクロームなど),RES(貯蔵),骨髄(Hb),筋肉(ミオグロビン)として利用される.したがって,血清鉄はこの間にあってこれらの諸臓器の機能,吸収,排泄のバランス,人間の成長,日内変動,トランスフェリン量,性差,疾病など多面的に影響されている.
生体内の鉄代謝のメルクマールとして鉄結合能が測定される.血漿鉄はβ1グロブリン中のトランスフェリン(分子量約90,000,ムコ蛋白質,鉄結合蛋白質,ジデロフィリンなどと呼ばれる)とキレート結合して血中を担送される.正常血漿トランスフェリンは平均260mg/dlといわれるが,その1mgは1.3μgのFeと結合する.それゆえ,正常人血清1dlは260×1.3μg=338μgのFeと結合しうる力を持つ.これを総鉄結合能(TIBC)と呼び,この中で実際に血清鉄と結合している割合を飽和度,フリーの部分を不飽和鉄結合能(UIBC)と呼ぶ.鉄結合能はTIBC,UIBCを一応区別し,かつ血清鉄値と関連づけて考えるべきである.
血清銅値の異常を表に示した.血清銅を上昇させる疾患はバラエティに富んでいるが,次のようにわけて考えたい.
体内電解質のなかでも,Naは主として細胞外液中に存在し,体液量(とくに細胞外液量)の維持,浸透圧の保持に重要な役割を果たしている.通常,血清Na濃度が150mEq/l以上で高Na血症,135mEq/l以下で低Na血症と呼ばれているが,血清Na濃度の変化は細胞外液におけるNaと水のバランスによって決められるのであり,決して体内全Na量を反映しているのではないことに留意すべきである.いいかえれば,高Na血症とはNaに対して水が少ない場合,すなわちhypertonicityの状態であり,逆に低Na血症はNaに対して水が多い場合,hypotonicityの状態を示していると考えられる.
図1,2はSchrierの総説から引用した高Na血症,低Na血症の分類であるが,図のごとく高Na血症でも体内Na量の減少している場合,また低Na血症でも体内Na量はむしろ増加している場合があることに注意せねばならない.とくに後者の場合には低Na血症があるからといってNaを投与すると,かえって病状は悪化することになり,単にNa濃度だけで判断するのではなく,水バランスの状態を把握した上で治療に当たる必要がある.
生体の総K量は成人でだいたい3,000mEqで,主として細胞内に分布し,細胞外には約2%が含まれているに過ぎない.その濃度についても血清K値が3.6〜5.5mEq/lであるのに対し,細胞内Kは110〜150mEq/lとはるかに高値である.したがって,血清Kのいかんが必ずしも体内のKバランスを示しているのではなく,表に示したごとく,血清K値と体内総K量とが必ずしも平行していない.
食物から摂取されるK量は1日に約50〜100mEqで,正常ではその85〜90%が腎から排泄される.それゆえ,腎に異常があると血清K値の異常をきたしやすい.とくに慢性腎不全末期や急性腎不全乏尿期などでは,腎のK排泄が著しく低下し高K血症が生じる.そして,異化作用や代謝性アシドーシスがあるとこれが一層著しくなる.一方,急性腎不全の利尿期,慢性腎盂腎炎や尿細管性アシドーシスなどでは腎のK保持能が失われて低K血症をきたしやすい.また,Na負荷時やアルカローシスでKの排泄が増加し,副腎皮質ステロイドの使用,アルドステロン症あるいはサイアザイド剤など利尿剤を長期使用した場合にもKが失われ,低K血症をきたす.これに反し,抗アルドステロン剤であるスピロノラクトンの使用ではKの排泄が減少して高K血症をきたすに至る.
Clは血漿の陰イオンの中でHCO3-とともに主要な部分を占め,神経・筋機能,酵素活性,その他に重要な役割を果たしている.また,腸管や腎尿細管などにおいてCl自体の調節機構が見出され,これらの異常による血清Cl値の変動も報告されている.
しかし,一般に血清Cl値の異常は,NaやHCO3-濃度の変化をきたす病態により二次的に惹起されることが多い.この意味でClは陰イオンの総和を調節する,いわゆる"balancing ion"と考えるのが便利である.とくにClとHCO3-は互いに補い合う関係にあり,HCO3-が増加するとClが減少し,HCO3-が減少するとClが増加し,クロール・重炭酸塩移動(chloride-bicarbonate shift)と呼ばれている.
日常検査では血清(あるいは血漿)の総Caを測定するわけであるが,それが正常値以下,あるいは以上をきたす疾患を列挙すると表1,2のごとくなる,血清CaはCa++(カルシウム・イオン),蛋白結合Ca,蛋白以外の陰イオンと結合したCaよりなり,それぞれ血清総Caの48%,46%,6%をなす.血清Caの中でもCa++がCaとしての生物学的活性の主体であり,その濃度は非常に狭い範囲でホメオスターシスが保たれている.これが副甲状腺ホルモン,ビタミンDおよびカルチトニンの作用によることはいうまでもない.蛋白結合Caの濃度はCaが結合する血清蛋白,それも主としてアルブミンの濃度によって変動する.血清総Ca濃度測定の際に見出された異常がCa++濃度の変化を伴うものか,ただ単に血清蛋白濃度の変動を反映するにすぎないものかを区別することは,その後の鑑別診断にとって重要である.血清蛋白濃度変動による血清総Caの変化は次の式による補正により除去できる.
血清Ca補正値(mg/100ni)
血清あるいは血漿無機リン酸濃度の異常をきたす疾患を表に示す.血清あるいは血漿中のリン酸は,無機リン酸のほか,エステル型リン酸,リン脂質などの形で存在し,血漿中の総リンは12mg/100mlに達する.しかし,通常は無機リン酸の元素リンの量を血清リン(P)として表現している.高P血症をきたすもっとも多い疾患は腎不全である.甲状腺中毒症,先端肥大症の活動期にも高P血症となる.ビタミンD中毒症でも高P血症となることがある.ビタミンDそれ自体は血清Pを上昇させるように作用するが,同時にみられる高Ca血症は血清Pを低下の,一方高Ca血症に由来する腎障害は上昇の影響を示すので,これら病態のバランスにより,血清P値はいろいろの値をとる.抗腫瘍剤などにより白血病,とくに慢性白血病を治療する際に大量の白血病細胞の崩壊が起こると,細胞内から大量のPが遊離し,高P血症となり,その二次的結果として低Ca血症が起こってくる.副甲状腺ホルモンの作用の低下によっては低Ca血症とともに高P血症が起こってくる.
血清Ca濃度に上昇がみられず,しかも低P血症が長期間つづくと,くる病あるいは骨軟化症が起こる.逆にくる病あるいは骨軟化症においては,一部の病態(hypophosphatasiaなど)を除いて,いずれも著しい低P血症がみられる.
生体内Mg 成人の総Mg含有量は21〜28g,平均24g(2,000mEq)である.この約55%は骨組織内にあり,骨湿性重量の約0.2%,灰化状態では0.5〜0.7%に相当する.骨Mgの約30%はexchangeable typeで生体内Mg Poolの恒常性維持に関与している.総Mgの約45%は軟部組織内に分布し,300〜450mg/kg,wet weightの含有量である.約半分量は筋肉組織内にあり,残りは心筋,肝臓,腎臓,その他の臓器に存在する.各組織の単位重量当たりのMg量には大きな差はみられない.
一方,細胞外液中にはNa,K,Caに次いで多く含まれているが,総Mg量の1%以下の微量でしかない.組織間液Mgは約170mg(14mEq),約1.7mg/dl(1.4mEq/l)である,血漿中には約60mg(5mEq)とわずかで,正常腎機能例での測定では1.62±0.15mEq/lで狭い範囲内に調節されている.男性が女性より高値を示すが,加齢による変動は認められない.
血液ガス分析は文字どおりの意味では,酸素,炭酸ガス,窒素などの血中組成を分析することであるが,現在通常の意味では,「動脈血で,pH,PO2,PCO2を,電極法により,分析すること」を指すようになった.
時に混合静脈血(肺動脈血)や中心静脈血,各臓器の流出静脈血(内頸静脈や冠状静脈洞),四肢の静脈血などを分析することもあるが,これらはそれぞれの意味がある(後述).
HCO3-は体内で最も重要な緩衝塩基で,血漿HCO3-濃度〔HCO3-〕pの正常値は22〜28mEq/lである.〔HCO3-〕pは主として腎臓によってコントロールされ,代謝性アシドーシスでは低下し,代謝性アルカローシスでは増加する.
PaC02は呼吸により調節され,正常値は35〜45mmHgで,呼吸性アシドーシスで増加し,呼吸性アルカローシスで低下する.
pH=6.1+log〔HCO3-〕p/0.03PaCO2であり,動脈血pHは血漿HCO3-濃度〔HCO3-〕pとPaCO2との二つの値によって決定される.正常値は7.35〜7.45である.〔HCO3-〕pあるいはPaCO2が急激に変化すると,腎臓あるいは呼吸による代謝機能が十分に働かないために,〔HCO3-〕p/PaCO2比が正常に維持されなくてpHは異常値を示す.慢性化すると代償されるためにpHは正常化する.
PACO2(肺胞気O2分圧)は次式で示されるように,炭酸ガス排泄量(VCO2)と肺胞換気(VA)の比によって決まる.
PACO2=VCO2/VA×0.863(吸入気CO2を0とした場合)
PaCO2は肺胞換気によって規定されるが,PaO2の場合には,さらにその他の因子が加味される.図に従って,異常を起こす原因について説明する.①大気中の酸素は換気によって肺胞内に送られ,PAO2(肺胞気酸素分圧)を上昇させる(PAO2≒PIO2-PaCO2/R).このPAO2と肺を灌流するPVO2(混合静脈血酸素分圧,約40mmHg)の酸素分圧の較差によって酸素は血中に入り,混合静脈血を動脈血化する.したがってPAO2が低下している場合(肺胞低換気:PaCO2上昇の項参照)には当然低酸素血症を起こす,②PAO2は正常であるが,膜の酸素透過性が悪い場合(拡散障害),③換気・血流比の不均等分布,④混合静脈血が動脈血に混入する場合(シャント),などが低酸素血症の原因となる.また組織での酸素供給を考えるときには,酸素を運搬するHbの量や異常Hb,血流にも注意しなければならない.
血液中に存在する酸素には,Hb(ヘモグロビン)に結合した結合酸素と,血漿に溶解した溶解酸素の2種類がある.溶解酸素量はPO2(酸素分圧)に比例して上昇し,PO21mmHgの上昇で溶解酸素量は0.003ml/dlの増加となる.PaO2100mmHgの健常者でも,その量は,0.3ml/dlとわずかである.一方,Hb結合酸素については,通常1gのHbに最大で1.34ml(*1.39ml)の酸素が結合し,Hb15g/dlの健常者で約20mlの結合酸素を有することになる.Hbと酸素の結合度は酸素分圧によって決まるが,その関係は溶解酸素と異なり,特殊なS字状を呈し,これを酸素解離曲線という(図1).
図の縦軸には結合酸素量(Hb15g/dlとした場合)とSaO2を,横軸に酸素分圧を示している.この縦軸の結合酸素量とSaO2の関係から知れるように,SaO2とは全血(Hb15g/dlとする)を37℃,水蒸気で飽和された空気(PO2≒150mmHg)に接触させたとき(HbがすべてO2と結合できる条件)のHb結合酸素量(酸素容量)に対する,実際に動脈血中に存在するHb結合酸素量を百分率であらわした数値であり,Hbの何%が酸素と結合しているかを示す指標である.PaO2とSaO2との間には酸素解離曲線を介して相互に変換できるので,両者は同様の意味をもつといえる.近年呼吸不全の診断ならびに酸素療法の指標としてPaO2が使用されているが,PaO2の高,低を知ることは即血液中の酸素含量が多いか少ないかを考えているのであり,この意味からSaO2は重要な指標である.そのほか心迫出量は現在Thermodilution法があるが,Fick法による計算にはSaO2を必要とする.
血清アミラーゼの意義
血清アミラーゼ値の上昇する疾患は表に示すように多種にわたっているが,主なものは膵疾患,耳下腺疾患,アミラーゼ産生腫瘍である.正常において血液中にアミラーゼは放出されており,生体では何かの作用を行っているものと考えられるが不明である.血清中アミラーゼは個人ではほぼ一定であり,加齢による変動は少ない.正常値は60より160単位(caraway)とかなりの変動があり幅は広いが,血清アミラーゼ値が上昇する場合も低値を示す場合も異常と考えられる.
正常人では血清アミラーゼの分泌される臓器は膵臓と耳下腺であり,膵臓では消化管ホルモンであるパンクレオザイミンにより膵外分泌腺が刺激され他の酵素とともに膵管に分泌され,膵管よりリンパを経て血中に出現する.耳下腺では迷走神経の興奮によって分泌が起こり,リンパを経て血中に出現する.また胸水内,腹水内のアミラーゼも胸膜,腹膜から吸収され,血中に出現する.正常人の血清アミラーゼは耳下腺アミラーゼ,膵アミラーゼの総量で測定される.これを臓器別に区分するためにはアイソアミラーゼをアクリールアミドゲル法,セルローズアセテート膜法などを用い電気泳動を行って検討する。臨床的にはセルローズアセテート膜上で耳下腺分画と膵分画の比はおよそ65:35である.
アミラーゼアイソザイムの異常を示す場合を,表1にまとめた.以下,筆者らの経験1)を中心に略述する.
膵疾患 血清の膵アミラーゼ分画(P-A)の増加が,急性膵炎,膵のう腫,膵仮性のう腫,膵癌などの膵に病変を伴うものでみられる.とくに急性膵炎で尿の膵アミラーゼ増加が著明である.慢性膵炎では再燃時にP-Aの増加がみられるが,広汎に侵され膵石を伴うと,逆に減弱消失する.ERCP(逆行性胆膵管造影)施行時も一過性に,胆道疾患で時にP-Aの増加を認める.
血清アルカリフォスファターゼ(ALP)の異常を示す疾患を表1に示した.血清ALPの上昇は他の多くの血中遊出酵素(GOT,GPT,LDHなど)と異なり,臓器でのALPの生成亢進を反映したものである.肝・胆道疾患では胆汁より腸管への排泄障害とともに肝細胞での生成亢進が関与している.また,骨疾患では骨性ALPの生成亢進を反映しており,癌患者の一部の症例では癌組織における胎盤性ALPの生成を反映して血中に増加する.
黄疸がある場合には肝細胞黄疸であるか,胆汁うっ滞性黄疸であるかの鑑別が問題となる,肝細胞性黄疸では30K.A.単位以下であることが多く,胆汁うっ滞性黄疸では30K.A.単位以上のことが多い.
血清アルカリフォスファターゼ(ALP)のアイソザイムは寒天ゲル,セルロゲルを支持体とした場合と,殿粉ゲルおよびポリアクリルアマイドゲルのDisc電気泳動法の場合とで泳動像が異なる(図).相違点は寒天ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALP1が,殿粉ゲルでは原点にとどまりALPⅦとなり,殿粉ゲルで最も陽極寄りに泳動されるALPⅠは,寒天ゲルではALP1と重なるため検出できない.その他のALPアイソザイムの移動度はほぼ同じである.なお寒天ゲルではPVPを加えるとその量によりALP1の移動度が低下し,ALP2の陰極寄りに泳動されることがある.
血清ALPアイソザイムのなかには臓器ALPと同じ性質を有するものがある.肝ALPはALP2(ALPⅡ),骨ALPはALP3(ALPⅢ),胎盤ALPはALP4(ALPⅣ),小腸ALPはALP5(ALPv)に一致する.なお,ALP1(ALPⅦ)はALP2が高分子化したもので,n-ブタノール処理を行うとALP2(ALPⅡ)と一致する.
γ-グルタミールトランスペプチダーゼ(γ-GTP,GGTP)は,γ-グルタミールペプチドを加水分解するとともに,γ-グルタミール基を他のペプチドやL-アミノ酸に転移する酵素(2.3.2.1)であり,健常成人では腎に活性分布が最も高く,膵がこれにつぎ,肝の活性はきわめて低く,これら臓器の活性比は100:8:4である.しかし,胎児期には肝活性は腎に匹敵する分布を示し,成長分化の過程で肝活性は漸減し,成人肝は胎児肝の1/30の活性を示すにすぎない.逆に腎活性は漸増して胎生腎の10倍に達する.この酵素の生理的意義については未だ定説はないが,膜系酵素として細胞内グルタチオンの分解と再合成に共範しながら,アミノ酸の転入と利用にあずかると考えられている1).肝組織では肝細胞のミクロゾーム分画で生成され,胆道系を経て排泄され,組織化学的には胆毛細管から門脈域の胆管上皮内に活性が分布する.膵組織ではacinusと膵管系に分布し,成人心筋にはほとんど活性を認めないが,胎児の心筋,心外膜の毛細血管内皮には活性を認める.
酸フォスファターゼの値は上昇する疾患のみが臨床的に問題とされる.最も高値を示すものは前立腺癌であるが,Stage AおよびB(前立腺被膜内のみに存在し,外部への浸潤および転移を示さないもの)では高値とはならず,また未分化癌も分化腺癌のようには上昇しないか,正常値にとどまる.前立腺癌以外の疾患で,軽度上昇を示すものは少なくないが,そのいずれも診断的価値は少なく,常に前立腺癌の疑いを持たせるものとして留意されるに過ぎない.また,これらのうち,泌尿器科医を受診する必要のある疾患,前立腺炎・前立腺肥大症などでは,前立腺の経直腸触診および前立腺マッサージ(前立腺分泌液を採取するために前立腺を経直腸的に圧迫する法)が行われ,これによって軽度上昇がみられることもある.
トランスアミナーゼ(一般名:Aminotransferase)は生体内のほとんどすべての細胞に存在しているが,量的には肝,心筋,骨格筋,脂肪組織,脳,腎などに多い.GOT(一般名:Aspartate Aminotransferase,AsAT)は心筋や肝に高濃度に存在し,次いで骨格筋,腎,膵などに認められ,GPT(一般名:Alanine Aminotransferase,AIAT)は肝に最も多く,次いで腎,心筋,骨格筋,膵,脾などに存在する.
GOT,GPTは,細胞内で糸粒体(m)と上清(s)に分布しており,2つの異性酵素は,陰イオン交換樹脂に対する親和性が異なる点から容易に分離定量することができる.一般に組織中のGOT,GPT濃度は,血清濃度の103〜4程度であるので,細胞の代謝回転により血清中に遊離するが,細胞膜の障害で血清濃度は急速に上昇する.
乳酸脱水素酵素(L-Lactate:NAD+oxidoreductase,LDH)は補酵素NAD+(あるいはNADH)の共軛下に下記の式(1)にみられる乳酸とピルビン酸の相互転換を触媒する.α-ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(α-hydroxybutyric acid dehydrogenase,HBD)もLDHと同様にNAD+の共軛下に下記の式(2)にみられるα-ヒドロキシ酪酸とα-ケト酪酸の相互転換反応を触媒する.
(1)乳酸+NAD+⇄ピルビン酸+NADH+H+
(2)α-ヒドロキシ酪酸+NADH+H+
LDHアイソザイムパターンは各組織により異なっており,病変時にこのパターンがある程度血中に反映されてくる.そのため血清LDHアイソザイムパターンの分析により,病変組織や病変の程度・種類を診断ないし鑑別する上で総LDH値測定よりはるかに多くの情報が得られる.
血清中のLAP活性が上昇する機序は胆道系の機械的閉塞ないし狭窄であって,以前に考えられていたように膵癌に特異的なものではない。したがって,LAPの上昇をきたす疾患は表に示したように,肝,胆道および膵疾患である.このうち胆石,胆道系の炎症性疾患および腫瘍による閉塞性黄疸では400単位をこえる場合が多く(正常値200単位以下),急性および慢性肝炎や肝硬変あるいは脂肪肝では軽度の上昇を示し,400単位以上になることは稀なため,黄疸を呈する患者のLAP値は両者の鑑別の手助けになる.しかし胆汁うっ滞性の肝炎では著しい高値を示すこともある.肝癌では原発性および転移性のいずれでも,また黄疸の有無にかかわらず,とくに高値を示す.膵癌では黄疸を合併した場合にはLAPの著明な上昇がみられるが,胆道系を圧迫せず,肝に転移のない場合には通常異常をきたさない.急性膵炎では軽度ないし中等度の上昇が一過性にみられるが,慢性膵炎ではほとんど正常範囲にある.
肝,胆道,膵以外の疾患では異常を示すことはきわめて少なく,全身各所の悪性腫瘍でも肝転位を起こさない限り正常である.なお,妊娠によって上昇し,妊娠末期には正常値の3ないし4倍に達する.妊娠2カ月後になってもLAPの上昇がみられないときには,胞状奇胎や絨毛上皮腫を疑う必要がある.また心筋梗塞で,発作後2ないし6週の間に上昇することもある.
CAPは元来は胎盤から産生されるoxytocinaseとして注目されてきたが,Tuppyら(1961)によって一種のアミノペプチダーゼであることが明らかにされた.その後,BabunaとYenen(1966)および筆者ら(1967)によって,本酵素活性が胎盤機能の指標となることが明らかにされてから,世界的にも同様な見解が普及しつつある.しかしながら,本酵素の生理的意義,産生ならびに血中逸出の機序など不明の点が多いので,検査法としての意義には問題も少なくない.
また,本酵素はLAPときわめて近縁関係にあり,胎盤から産生されるLAPは同時にCAP活性を有することが明らかにされている.そこで,S-benzyl-p-nitroanilideを基質として測定した場合に,男子および非妊婦にもわずかながら活性が認められ,また,肝障害の一部では活性の微小な上昇も認められている(及川ら,1978).
CPK(Creatine phosphokinase)とaldolaseはともに筋小胞体に多量に含まれている酵素であるが,CPKはATPおよびADPを補酵素としてLohman反応を触媒する酵素で,血球中には存在せず,筋肉内に大部分が存在している.そのほか脳にわずかに存在するのみで,他の実質臓器内にはまったく認められない.これに対しaldolaseは嫌気性解糖系のうち6炭糖である果糖2燐酸を3炭糖に分解する酵素で,筋肉に多量存在するが,血球中にも他の実質臓器でも,嫌気性解糖を行う細胞には含まれている.
両酵素とも筋細胞内に多いので,骨格筋または心筋細胞膜の破壊や膜透過性亢進を示す疾患では血清の活性値が著しく上昇するために,筋疾患ないし筋障害の補助診断法として広く用いられている.しかし,aldolaseは筋以外の臓器,肝,血球などにも含まれているために,必ずしも筋疾患のみでなく,肝疾患や悪性腫瘍でも増加してくるので,診断的特異性はCPKより低く,最近あまり用いられなくなった.CPK,aldolaseはともに種々の測定方法があり,正常値はそれぞれ異なるために,それを考慮に入れて結果を判定する必要がある.
CPKアイソザイムの臨床的意義
血清CPKの測定は筋疾患,とくにDuchenne型筋ジストロフィー症の早期発見に多大な貢献をした.しかし,当初考えられていたように血清に検出されたCPKは筋肉のみに由来するのではなく,他臓器からのアイソザイムが混入していることが明らかになった.CPKはこの臓器特異性のほかに血球には存在しないため,CPKの血清への漏出が,それが局在する筋肉,脳,心筋細胞の破壊を意味し,その異種(アイソザイム)型の検索によって障害個所の推定や,予知に役立つと考えられている.
正常骨格筋のCPKはすべて筋型(MM型)である.しかし,3カ月までの胎児ではBB型(脳型)をとり,以後MM型があらわれる.心筋ではMM型のほかに中間型(MB型)を持つことが特徴で約30%がこれである.血清にみられるMB型は主として心筋由来であると考えられる.平滑筋はこれらとは違いBB型を含むのが特徴である.一方,脳や神経においては大多数がBB型であるが,少量のMB型やMM型を含むことが知られている.とくに大脳灰白質はすべてBB型であるが,白質には数パーセントのMM型とMB型が存在し,小脳では異常MM型(電気泳動でMM型と一致した移動度を示すが,抗ヒトMM抗体とは交叉しない)が15%ほど存在すると言われている.正常な血清CPKはMM型のみであり,すべて骨格筋由来である.
BSP負荷試験は,肝実質障害,胆道系に異常があった場合に鋭敏に反応する優れた肝機能検査法である.これは本法が肝・胆道系の障害に対して特異性が高く,また定量的表現が容易であることなどのためである.
慢性肝炎,脂肪肝,アミロイド肝などで,他の検査法が異常を示さない場合にBSP検査のみ異常を呈することがあり,この意味でスクリーニングテストとしても優れた方法であるが,逆に発熱,感染症,ショック,手術後や貧血,リウマチ様関節炎,糖尿病,甲状腺機能低下症などでも一過性に異常値を示すことがあるので,鋭敏すぎるきらいがある.
ICG試験に異常をきたす疾患は一括して,「BSP」の項に示した.ICGはBSPと比べて種々の生物学的特性を有することから,肝色素排泄機能検査法としてその有用性が高く評価されている.現在臨床的には血漿消失率(KICG)と15分停滞率(R15ICG)が広く使用されているが,さらに血液と肝の2つのコンパートメントを想定して,これによりその間の移行率を算定したり,色素の最大排泄能を測定し,肝の機能量を推定するために最大除去率(Rmax)の算定も行われている,これらは色素移送動態を明らかにし,あるいは肝の予備力を知る手段としてきわめて有用である.
正常人のKICGは0.187±0.019(m±SD)で,R15ICGは7.7±1.7%であり,加齢にしたがって低下する.図1,2はKICGとR15ICGをそれぞれ3等級に分け,それに分布する慢性肝疾患135例を百分率で示した.すなわち,R15ICGが21%以上を示すときは半数以上が肝硬変であり,KICGが0.06以下を示す場合はまず肝硬変と考えて間違いない.これはKICGと肝の組織学的所見とを対比検討した結果でも,KICGは小葉改築やグ鞘の線維化の程度と相関していることからも,肝硬変の診断にとくに有用であることがうなずける.
消化吸収試験とよばれる検査は単一のものではなく,栄養素の消化吸収機能障害をみる検査の総称である.栄養素の種類により,またRIの使用の有無により,さらに測定試料の別によって種々の試験がある.多くの試験の中で,131I-トリオレイン脂肪消化吸収試験(131I-トリオレイン試験)が信頼性が高いので,最も多く行われている.
空腹時の膵液(臨床的にはゾンデで採取した十二指腸液をあてる)中の膵酵素量を測定して膵外分泌機能の程度を判定しようとする試みはかなり以前からなされていた.しかし,膵酵素量の変動幅が大きすぎて臨床応用には難があり,一般化しなかった,膵外分泌刺激剤による一種の負荷試験も試みられ,エーテル,オリーブ油,塩酸などが用いられた時代もあった.しかし,薬剤を消化管に直接注入する方法は膵液検査には必ずしも適当ではないし,膵液の採取そのものも決して簡単ではない.膵刺激剤を注射し,血中膵酵素の変動をみて判定するprostigmin testが考案されたのも上述の理由からである.日本ではワゴスチグミン試験として,一時期には慢性膵炎の唯一の診断法として重視されたものである.しかし,ワゴスチグミンの膵刺激作用は個人差が大きく,種々の副作用も頻発し,さらに膵の組織変化とはかなりの解離がみられることなどが知られるようになり,その後は後述のパンクレオザイミン・セクレチン試験にとって代わられるに至った.この方法は刺激剤こそ静注法であるが,膵液採取という手段に頼らねばならないので,まだまだ手数のかかる診断法である.パンクレオザイミンやセクレチンのような生理的に生体に存在する消化管ホルモンを膵刺激剤として用いる方法は薬剤の市販とともに急速に普及し,セクレチン試験あるいはパンクレオザイミン・セクレチン試験(P-Sテスト)として繁用されるようになった.
膵疾患の診断には,近年になって,いろいろな方法が用いられるようになり,数年前に比較すると格段の進歩がみられる.とくに形態の異常を捕捉するたあの方法,たとえば逆行性膵管造影法,エコーグラム,CTなどの応用は日常の臨床に広く取り入れられ,主として膵の悪性腫瘍の診断に貢献している.しかし,膵の機能面からの診断法は今日でもなお膵外分泌液の検査が最も信頼され,慢性膵炎の診断には欠くことのできない方法となっている.
膵外分泌刺激剤としてはセクレチンを単独で使用する方法,パンクレオザイミンとセクレチンの両方を用いる方法の2法が行われる.各薬剤の投与量,投与順序などに相違があるが,両薬剤とも1U/1kg体重の割合での静注が一般的である.異常判定の基準についても必ずしも一定しない.それぞれの施設で決めているようであるが,表1に中野ら1)の基準を示した.
下垂体-副腎皮質系機能の異常を正確に把握するためには血漿ACTH値の測定が必要である.現在,血漿ACTHはradioimmunoassayにより測定されており,ACTH測定用キット(RCC社-科研化学,CIS社-ミドリ十字)も市販されている.一方,市中の検査センターでも血漿ACTHの測定を行っているところも多く,血漿ACTH値の成績が下垂体-副腎皮質系疾患の診断,治療に利用されることも多くなった.
従来,ACTH負荷による副腎皮質機能検査法としては,主としてブタ,ウシの下垂体から抽出精製された臓器製剤のACTHを用い,尿中17-OHCSを指標として実施されてきた.近年,血中cortisol定量法としてRudd(1966)の硫酸螢光法,次いでMurphyら(1967)によるcompetitive protein binding assayやWest(1973)によるradioimmunoassay(RIA)およびOgiharaら(1977)によるenzymeimmunoassay(EIA)の開発によって操作が簡便で迅速に再現性の高い微量定量法(血清試料はRudd法で1〜2ml,Murphy法,RIA法およびEIA法では0.01〜0.1mlを使用)が完成された.一方,スイスCibaのSchwyzerら(1963)によるβ1-24ACTHの合成AC-TH製剤(cortrosyn 第一製薬)が開発され,本邦でも大塚ら(1970)により天然ACTH活性を完全に具備した最小のACTH製剤として〔Gly1〕-ACTH(1-18)-octadecapeptide(acthormon,以下α1-18ACTH amide)が臨床応用されるにいたった.
尿中17-OHCS,血中11-OHCS,尿中17-KSの異常値を示す疾患を表にまとめた.現在血中の11-OHCSや17-OHCSのルチン検査はコルチゾール測定(RIA法)をもって代表することが多く,尿中の17-OHCS,17-KSとともに下垂体副腎皮質系の異常の把握に日常用いられる1).
血中17-OHCS,17-KSはほぼ尿中値と平行するが,肝硬変では肝のステロイド代謝異常から尿17-OHCS,17-KSは低値を示す(ただし遊離17-OHCSは高目)にもかかわらず血中はやや高目の値を示す.また甲状腺機能亢進症では代謝亢進があるから内因性コルチゾール分泌は亢進しているが,分泌と代謝が平衡を保つため尿17-OHCSが増加を示す一方,血中17-OHCS,11-OHCSは正常である.11-OH lase欠損症では血中11-OHCSは低値を示すが尿17-OHCSは正常である.
GH測定検査の内容1〜3)
GHはラジオイムノアッセイで測定されるが,血清を用い,空腹時の値と各種負荷試験のときの値とが参考とされる.空腹時の値は空腹時安静にして少なくとも30分後の採血によることを原則とする,それは血中GHの値が運動,ストレスなどによって増加するからである.負荷試験には刺激試験と抑制試験とがあるが,主として前者である.刺激試験は各種刺激によって視床下部下垂体前葉を刺激し,下垂体前葉のGH分泌能をみる目的で用いられるもので多くの方法が考案されているが,もっとも広く臨床的に用いられているものはインスリン負荷試験とアルギニン負荷試験である.インスリン負荷試験は前採血後標準インスリン0.1U/kgを静注,30分ごとに採血し2時間までの各血清につきGH測定を行う.低血糖を起こすのが目的であるので下垂体前葉機能低下などが強く疑われる症例では危険があるので,0.05U/kgの投与によりまず検査を行う.アルギニン負荷試験は前採血後10%l-アルギニン溶液を用い,アルギニンとして0.5g/kgの量を30分間に点滴静注し,その後2〜3時間,30分ごとに採血し各血清についてGH測定を行う.インスリン負荷試験では普通60分をピークとして,アルギニン負荷試験では60〜90分をピークとしてGHは上昇反応を示すのが正常反応で,ピークの値は10〜40ng/ml程度である.ピーク値が5ng/ml以下のものを明らかな低反応とみなしている.
血中TSHの測定については最近種々のラジオイムノアッセイキットが市販され,各種甲状腺疾患および下垂体疾患の診断,治療効果の判定の基本的な検査法として普及している.これらキットの中で現時点で二抗体法によるラジオイムノアッセイキットが最もよく使用されており,信頼度も高いようである.
安静時TSHレベル,TRHによるTSH反応のいずれにおいても,その異常を示す条件として次のものを考慮する必要がある.
甲状腺ホルモンにはT3とT4の2種類があり,血中ではほとんどが血清蛋白と結合して存在し,遊離型のものはわずかである.T4の血中濃度はT3に比べはるかに大であるため,永らく血中甲状腺ホルモン濃度の指標とされてきた.しかし,最近,ラジオイムノアッセイにより血中T3やT4濃度を直接測定することが容易となり,広く臨床検査法として応用されている.これに伴い,血漿蛋白結合ヨード(PBI)の量や,T4・Iの値を血中甲状腺ホルモン量の指標としなければならない時代は終わったといえる.
トリオソルブテスト(T3-RU)は血清試料に一定量の125I-T3を加え,測定試料中の甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)と甲状腺ホルモンとの結合を飽和状態としておき,そこへ外からレジンを添加することによりTBPと結合しなかった残りの125I-T3を吸着させ,その放射能を測定することによりその割合を算出する.血清試料中に甲状腺ホルモンが多いと添加125I-T3のレジンへの吸着の割合も増加し,また甲状腺ホルモンが少ないと,その逆となる.本法は間接的に血中甲状腺ホルモン量を知る方法であるが,よく甲状腺機能を反映するため今日広く臨床検査法として用いられている.同一原理に基づく多くの方法があるが,本法は血中甲状腺ホルモン量の変化以外に,TBP量やTBPの結合能の影響をうける.
血中インスリン値は,空腹時と種々の物質を負荷した場合とでは異なる.また同じ物質でも負荷量や投与方法により,血中インスリンの値は異なる.現在,臨床的に最もひろく用いられているのは,グルコースを経口負荷して,その後のインスリンをラジオイムノアッセイで測定する方法である.
C-ペプタイドは,インスリンの生合成の過程でプロインスリンが分解されるときにインスリンとともに生じるペプタイドであり,1モルのプロインスリンから,それぞれ1モルのインスリンとC-ペプタイドが生じることになるので,C-ペプタイドを測定することによって膵B細胞機能をうかがい知ることができる.
耐糖試験の異常の大部分は糖質負荷後の血糖曲線が高血糖曲線を示す場合である.これには大きく分けて負荷後急速に高血糖を起こすが,その後速やか(2時間以内)に正常の空腹時血糖値に戻るoxyhyperglycemia型と,高血糖が長く持続し,負荷後2時間以上たっても正常の空腹時血糖値に戻らない糖尿病型の2つの型がある.負荷後の血糖曲線が極端に平坦な場合も異常によることがある.負荷後,高血糖曲線や正常な血糖曲線を描いたあとで血糖が低下を続け低血糖に至るもの,空腹時に低血糖で,負荷後も低い平坦な血糖曲線を示す場合も異常である.これらの諸型の間には明確な境界はなく,互いに連続的に移行する.上記の異常を示す疾患および状態を表に示す.
トルブタマイド試験の異常はトルブタマイド負荷後の血糖の下降が弱い場合と強い場合とに大別される.前者はトルブタマイド負荷後,血糖の下降が正常に較べて緩やかで,最低値に達する時間が遅れ60分,あるいはそれ以上を要し,かつ血糖下降の程度が弱い場合であり,後者はトルブタマイド負荷後,血糖の下降が正常に較べてより速やかで著明な低値を示し,その後回復が遅れ3時間以上も正常値に復さない場合である.これらの異常を表に示した.
グルカゴンが結晶として取り出され,その作用が明らかにされるに従って,グルカゴンを種々の検査に用いる試みがなされている.グルカゴンの生理作用は広い範囲にみられるので,このグルカゴン試験は多くの臨床面に応用されている(表).
各試験によって投与方法が多少異なるが,通常はグルカゴン0.5〜1.0mgを静注または筋注する.その際,測定すべきパラメーターは,表に示したように血糖,血圧,血漿インスリンや成長ホルモン,血清カルシウムなどである.また,特殊な場合には,インスリンの分泌能を検査するのにトルブタマイドを併用したり,成長ホルモンの分泌試験に際しプロプラノロールを前処置するものもある.また,高脂血症の鑑別診断に用いる可能性も示されている.
ガストリンは胃幽門の粘膜と十二指腸粘膜に存在する胃液分泌刺激ホルモンであり,生理的な胃液分泌機構において,いわゆる胃相(gastric phase)における主役的な役割をなす化学物質である.神経刺激,化学的刺激(アルコール,アミノ酸,pHの変化)および機械的刺激などによって分泌する.ガストリンは17個のアミノ酸残基よりなるポリペプタイドとして最初に純化・合成され,radioimmunoassay(RIA)も最初に可能になった消化管ホルモンである.その測定が一般に普及され,本法で測定された空腹時血中ガストリン値の正常値がだいたい一致するようになったのは,ガストリンのRIAキットが市販されるようになった1973年以後のことである.