臨床婦人科産科 59巻4号 (2005年4月)

今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識

Ⅰ.総論

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1 はじめに

 妊娠中において薬物療法を考慮する際に必要なことは,母体および胎児に特有な生理的変化を理解しておくことである.もう1つは,その薬剤使用の対象が妊婦なのか,胎児なのかということも重要である.そのうえで,母体および胎児双方の作用,副作用を予測し,それらを評価することである.

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1 奇形の発生機序と催奇形性の因子

 奇形,すなわち出生時に存在する形態的異常の発生機序には次の3つの機序が考えられている1)

 (1)器官発生の異常

 器官形成期にだけ起こる異常

 例 : サリドマイドによる奇形

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1 はじめに

 妊娠とは気付かずに薬を服用した妊婦,あるいは慢性疾患のため服薬しながら妊娠を希望する婦人の奇形児出産に対する不安を解消するため,厚生労働省は2005年度に「妊婦とクスリ情報センター」(仮称)を新設する方針が報じられた(asahi.com : 健康 : 医療・病気,2004/08/18).「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には薬を投与しないこと」の情報提供に,行政がメスを入れる姿勢は大いに称賛されるものである.しかしながら,海外ではThe European Network of Teratology Information Services(ENTIS),Teratogenic Effects of Drugs a Resource for Clinicians(TERIS : J.M. Friedman, Janine E. Polifka),Prescribing Medicines in Pregnancy by The Australian Drug Evaluation Committee, Drugs in Pregnancy and Lactation(Gerald G. Briggs, B. Pharm, Roger K. Freeman, Sumner J. Yaffe)などにみられるように,催奇形性に関する情報の収集ならびに薬剤評価システムがすでに構築され,稼働している状況である.

 現在,新生児に認められる重篤な先天性異常は,2~3%1)あるいは3.5~5%(Brent and Beckman, 1990 : 精神的発達の遅延や重要な器官の欠損などを含む)であると考えられている.先天性異常の原因は,単一遺伝子,多因子性遺伝,染色体異常および環境要因などに分けられ,環境要因としての感染症および薬剤による先天性異常は,それぞれ全体の3%および1%程度と考えられている.なお,先天性異常の60~70%は原因不明である2, 3).薬剤が胎児に及ぼす影響は少ないと考えられるが,妊婦あるいは妊娠の可能性のある婦人にとって,それは深刻な問題である.妊娠における種々の相談を受ける場として,新潟大学医歯学総合病院(旧 新潟大学医学部附属病院)では,産科婦人科遺伝外来がある.遺伝外来は1973年に開設され,毎週水曜日の午後に診療を行ってきた.遺伝外来を受診するクライアント(妊婦および妊娠前の婦人)は年間90~100例程度であり,そのカウンセリング内容は,(1)妊娠に対する薬剤の影響(26.7%),(2)高齢妊娠(20.8%),(3)前回染色体異常児を主とする先天異常児の出産ならびにその再発に関するもの(13.6%)などである4, 5).薬物に関する相談が多いことから,薬剤師による客観的なカウンセリング実施形態をとるため,1995年3月22日より「妊娠時における服薬による胎児への影響(催奇形性)」に関する情報提供6~8)を,医師と同席して開始した.当時よりこの分野の先発である虎の門病院に教えを請うて以来,現在200例を超えるに至るが,経験例数の少なさを補うのは豊富な経験を持つ産科婦人科遺伝外来の歴史であることは論を俟たない.「妊婦への服薬カウンセリング」に関して後発ではあるが,創意工夫を重ねて,つつがなく現在に至っている.

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1 はじめに

 妊婦を対象とした臨床試験は倫理的問題から実施困難である.したがって,薬物の催奇形性を評価するためには,催奇形の発現機序に関する基礎実験,動物を用いた生殖試験,薬物の胎盤通過性などの基礎情報と,臨床で得られる薬物曝露症例の出産結果,催奇形に関する疫学調査などの臨床情報を総合し有益性を判断して使用する.

 妊娠中の薬の危険度を具体的に評価したものとして,①添付文書,②Food and drug Administration(FDA)薬剤胎児危険度分類基準(FDA Pregnancy Category),③オーストラリア基準などがあり本稿で概説する.

Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療 1.日常的な突発疾患の治療と注意点

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1 診療の概要

1. 外耳炎

 外耳道軟骨部(外側1/3)には皮膚付属器(毛嚢,皮脂腺,耳垢腺)があり,細菌感染で急性化膿性限局性外耳炎(耳せつ)となり,限局した発赤・腫張,化膿が進めば頂点に膿がみられる.外耳道骨部(深部2/3)は薄い皮膚が骨に接していて皮膚付属器はなく,皮膚の傷からの細菌感染はびまん性外耳炎を起こす.いずれも自発痛のほかに開口時や耳介の牽引,耳珠部の圧迫で痛みが増強する.膿瘍や膿汁,浸軟した耳垢が外耳道を塞ぐと耳閉感が出現する.ときに耳前後部のリンパ節炎を起こす.真菌性外耳炎は耳かきでいじるなどがきっかけで少量の滲出液が出て真菌が繁殖し,その刺激でさらに耳漏が出る悪循環となる.一般に痛みは強くないが,しつこい痒みを訴える.びまん性外耳道炎と区別しにくいことがあるが,湿潤型では外耳道に灰白色の厚い落屑物があり,表面に黒い点や胞子が見えることもある.乾燥型では多量の痂皮が鼓膜まで鋳型状・靴下状につまり,耳閉感を訴える.

2. 中耳炎

 急性中耳炎は,ほとんどが上気道感染に引き続いて耳管経由で起こる,中耳腔から乳突蜂巣に広がる粘膜の炎症である.鼓膜には発赤,混濁,膨隆がみられ,ときに鼓膜穿孔を残し7~10日の経過で炎症は消退していく.しかし滲出性中耳炎に移行する場合があり,少なくとも3週間は経過に注意する.症状は耳痛,耳漏,難聴で,ときに悪寒,発熱,食欲不振など全身症状を伴う.先行する上気道感染のためにすでに鎮痛薬の投薬を受けていると耳痛を訴えないことがある.耳漏は粘膿性(ときに血性,漿液性).軽~中程度の伝音性難聴がみられる.好発年齢は小児(特に2歳以下)である.妊娠可能な年齢での罹患頻度は高くない.しかし,この年齢でもみられるムコイド型肺炎球菌による急性中耳炎(ムコーズス中耳炎)は一側性で非常に激しい痛みで発症し,骨導値の低下を伴うことが多い.

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1 診療の概要

 「突発性難聴」は突然に起きる原因不明の高度な感音難聴である.診断基準を表1に示す.「突発難聴」は症状名で,原因が明らかになった時点で,たとえば外リンパ瘻による突発難聴として「突発性難聴」からは除く.突発性難聴の病因は内耳のウイルス(ヘルペスの再活性,ムンプスなど)や内耳血流の循環不全,内耳の代謝障害などが考えられている.主訴は難聴であるが,耳閉塞感,音が響くなどの訴えもある.通常一側性であるが,約7%が両側性に発症する.約9割が耳鳴りを訴え,約3割でめまいを伴う.

 急性高度感音難聴をきたす疾患としては頭部外傷,音響外傷,脳血管障害,髄膜炎,聴器毒薬剤,白血病などや心因性難聴があるが,妊婦で特に鑑別が必要な疾患を以下に挙げる.

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1 診療の概要

 季節性の鼻アレルギーであり,反復性くしゃみ,水性鼻漏,鼻閉の3主徴に加え掻痒などの眼症状を併発する.原因はスギ花粉,ブタクサ,ヒノキなどの花粉である.遺伝的素因を有する場合,抗原の曝露によりIgE抗体が産生される.その結果,抗原に曝露されるとIgE抗体が結合した肥満細胞に吸着することにより,ヒスタミンなどのケミカルメディエイターが放出される.これらが三叉神経末端を刺激して,中枢性反応によりくしゃみ,水性鼻漏が生じる.鼻粘膜は腫脹し,水性鼻汁の貯留を認める.

 鼻汁中の細胞診により好中球の浸潤を認める.原因抗原診断のためには,妊娠中は特異的IgE抗体検査が有用である.妊娠中はホルモン変化により体液貯留や鼻粘膜が過敏となるため,花粉症は増悪すると考えられている.

[耳・鼻疾患] 副鼻腔炎 加藤 賢朗
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1 診療の概要

 副鼻腔の感染症である.副鼻腔は顔面,前頭部に4つある.すなわち上顎洞,篩骨洞,前頭洞,蝶形骨洞であるが,最も炎症を起こしやすいのは上顎洞であり,ついで篩骨洞である.また,急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎に分類される.

 急性副鼻腔炎は急性上気道炎に続発することが多い.感染経路は鼻腔からの逆行性感染が多いが,急性上顎洞炎の場合には虫歯に続発し,歯牙から感染することもある..

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1 診療の概要

 気道感染症の一種であり,咽頭粘膜の発赤,咽頭の疼痛が主な症状である.原因は種々の風邪症状を引き起こすマイコプラズマ,ウイルスである.風邪症状の全身症状,鼻症状,喉頭症状,気管支症状を伴うことが多い.細菌の二次感染を伴うことがある.

 2 治療方針

 症状に合わせて対症療法を行う.

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1 診療の概要

 かぜ症候群とは急性の上気道感染症であり,急性上気道炎と呼ばれることもある.

 いわゆるかぜ症状とは,くしゃみ,鼻水,鼻閉,咽頭痛,嗄声,咳嗽,喀痰,発熱,頭痛,腰痛,関節痛,食欲不振,全身倦怠感などが単独あるいは複合して出現した状態である.

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1 診療の概要

 風邪症候群のうちでも,インフルエンザはその病原がインフルエンザウイルスであり,また特有な臨床症状を示すので,インフルエンザとして別に区別されている.

 インフルエンザにはA型,B型,C型の3つの型があり,このうちA型が最も重症で,大流行の原因となる.

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1 診療の概要

 呼吸器感染症は,大きく気道感染症と肺実質感染症に分けられ,気道感染症には感冒,急性気管支炎,慢性気道性疾患などが含まれ,肺実質感染症には肺炎,肺化膿症などが含まれる.

1. 急性気管支炎

 急性気管支炎は感冒ウイルス,インフルエンザウイルス,アデノウイルス,肺炎マイコプラズマなどの感染による気管・気管支の炎症である.急性気管支炎を繰り返すことにより気管支は不可逆的な変化をたどり,慢性気管支炎や慢性閉塞性肺疾患の原因となる.

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1 診療の概要

 つわりは,妊娠によって起こる悪心,嘔吐,食欲不振などの軽度の消化器症状であり,症状が重症で全身症状が冒されれば悪阻という.

 本症の原因についてはhCG過剰説,心因説などがあるが,その病因は解明されていない.古くからは精神的要因(心因)が重要と考えられており,(1)一般的に依存的な性格,(2)精神的に未熟な人,(3)妊娠,出産に対する不安が強い場合,(4)夫や家族などの不仲,(5)家庭内の問題などの背景がある場合に発症しやすいといわれている.しかし一方では,修飾因子に過ぎないとの考えもある.

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1 診療の概要

 口腔粘膜に発生する炎症はすべて口内炎と呼ばれており,その原因にはきわめて多くのものが含まれている.口腔は食物を咀嚼し,消化する器官であると同時に,気道の一部を形成しているので,大気中の病原微生物などが侵入し,口腔内にさまざまな感染症が発生する機会にさらされている.また口腔内にはすでに多くの細菌が常在しており,全身の免疫力の低下などにより病原菌となり,口腔内感染症を引き起こすことがある.さらに口腔だけに発生する病変以外にも,全身の病気の一部として口腔内に発生する病変や皮膚の病気と関連する口腔疾患などがあり,状態によりこれらを鑑別して治療することが必要となる.

 原因はさまざまで,(1)ウイルス性口内炎 : ウイルスの感染によって引き起こされるもので,単純ヘルペスによるものが多い,(2)カンジダ性 : 真菌感染(カンジダ)の感染により発生するもの,(3)性行為感染症によるもの : 梅毒,淋菌,クラミジアなどの感染が口腔に発生した場合,(4)そのほか(糖尿病,帯状疱疹,アレルギーなど全身疾患に伴うもの),(5)化学物質,薬剤によるもの,などにより発症する.

[消化器系疾患] 食道炎 池内 正憲
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1 診療の概要

 各種食道炎のうち妊婦にとって問題となるの胃液や胆汁などの消化液が食道内に逆流し,食道粘膜を傷害する逆流性食道炎である.その病態は多面的であり,下部食道括約筋などによる逆流防止機能機能の低下,胃内容物の量や性状の異常,食道の酸排出能の異常,食道粘膜の抵抗性と修復能の異常などが複雑に絡んで発症すると考えられている.胃食道逆流(gastroesophageal reflux : GER)によって発症する病態を胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease : GERD)と呼び,内視鏡検査にて食道粘膜障害のあるものを逆流性食道炎,内視鏡で異常を認めないものを機能性GERDと呼んでいる.GERDの自覚症状は「胸焼け」と「呑酸症状」であるが,自覚症状の強さと内視鏡所見が必ずしも相関しないことから,粘膜障害のない機能的GERDであっても症状が強ければ患者のQOL向上を考慮して治療すべきであるとされている.治療対象とすべき重症度の程度は,胸焼けの自覚症状に関しては週2回以上出現する場合とされている.

 GERDは妊娠時に起こりやすいといわれる.その理由は妊娠時に大量分泌される黄体ホルモンが下部食道括約筋の緊張を低下させること,胎児の成長により増大する子宮が消化管,特に胃を圧迫する結果,胃内圧が高まってGERが起きやすくなるからである.特に妊娠後期,末期に悪化しやすく,分娩終了とともに速やかに軽快,消失する1, 2).妊婦が食後に臥床したときや体を曲げたときに強い「胸焼け」を訴える場合にGERDと診断して間違いない.食べ物がスムーズに胃に収まらず食道や口内に胃内容が戻り,再飲み込みが必要な場合はさらに確実である.胃内視鏡検査による確定診断を対象妊婦すべてに行う必要はなく,GERDとして治療しても症状が治まらない場合や食道炎による合併症が強く疑われる場合などに行えばよい3)

[消化器系疾患] 胃炎 池内 正憲
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1 診療の概要

 本来,胃炎とは胃生検組織や手術での切除胃組織の病理組織学的診断名であるが,現在は胃内視鏡の導入と進歩によって内視鏡所見を基本にした胃炎分類が日常診療に用いられるようになっている.わが国では胃炎という概念が日常診療でかなり頻繁に用いられる病名でありながら,それを用いる医師によってその概念や診断基準が非常に異なっていた.1983年にHelicobacter pyloriが胃粘膜組織より分離培養されて以来H. pyloriと組織学的胃炎との関連性について多くのことが明かにされるにしたがって,胃炎の概念,病名,言葉などがより詳細に整理されてきた.教科書的に胃炎は「急性胃炎」,「慢性胃炎」,「そのほかの胃炎(特殊な胃炎,特異性胃炎)」に分類され,それぞれ胃粘膜などの胃組織における内視鏡所見や組織学的所見を基礎に定義されている1, 2)

 妊娠によって胃腸の分泌能や吸収能はほとんど影響を受けず,また胃の排出能は変化しないとされているが,妊娠時に大量分泌されるホルモンが胃腸の運動能に影響し,胃腸全体に対しては抑制的に働く結果,胃腸の運動能は低下するといわれる.さらに,妊娠経過とともに容積が増大する子宮による物理的な影響も加わって,胃の内容物の滞留時間が延長することは明らかで,このことが妊娠時の胃炎に微妙な影響を与える.

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1 診療の概要

 便秘は便通の回数または量が異常に減少し,便が硬くなり,排便が順調に行われず,3日以上排便を欠く状態をいう.通常は便通異常に伴う症状(腹痛,排便困難,腹部膨満感など)が不快で日常生活に支障をきたす場合に便秘としている.

 便秘は発症様式より急性と慢性に,原因からは機能性と器質性とに分類される.妊娠中にみられる便秘は慢性機能性便秘であり,発症する病態としては以下のようなことが考えられている.妊娠初期は胎盤から分泌されるプロゲステロンが胃・腸管平滑筋に作用して,緊張低下と蠕動運動の抑制を引き起こす.また妊娠中~後期では肥大した妊娠子宮により上方の腸管は圧排され,下方のS状結腸,直腸は持続的な機械的圧迫を受け,腸運動も低下する結果となる.また妊娠中に発症しやすい痔疾のため,排便をこらえることも誘因の1つである.以上をまとめると,以下のようになる.

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1 診療の概要1)

 一般に下痢とは,糞便内の水分量が多くなり,糞便が本来の固形状の形を失って,水様ないし粥状となった状態をいい,通常,排便回数の増加を伴う.下痢は急性の経過をとる急性下痢と,長期にわたって持続する慢性下痢に分けられ,感染性下痢,中毒性下痢や心因性下痢は急性下痢に含まれる.一方,慢性下痢とは水分含有量の多い便が1日に3回以上排泄される状態が持続的または間欠的に少なくとも3か月以上認められる状態を指す.

 下痢の発生にかかわる因子として,(1)腸管内腔の浸透圧の上昇(浸透圧性下痢),(2)消化管分泌の亢進(分泌性下痢),(3)消化管運動の異常などが挙げられるが,妊婦に特異的な下痢の好発因子は特にない.しかし,下痢が頻回の子宮収縮に随伴していることも多く,下痢を主症状として来院した妊婦でも,切迫流早産や常位胎盤早期剥離も鑑別診断として念頭に置く必要がある.

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1 診療の概要

 痔疾とは,直腸や肛門付近の疾患をすべて含めた総称で,頻度の高いものから順に,(1)痔核(いぼ痔),(2)裂肛(きれ痔),(3)痔瘻(うみ痔)に分類される.妊娠中は,便秘になりやすいことや循環血液量の増加,増大した子宮の圧迫による直腸肛門静脈内圧の亢進などによって痔疾に罹患しやすい.妊娠中の痔疾では出血や痛みによるQOLの低下が主な問題点であるが,ときには持続する出血のために高度の貧血に陥ることもある.

1. 痔 核

 直腸・肛門管領域の静脈叢に発生する静脈瘤をいう.3時・7時・11時の方向に好発する.内痔核と外痔核に分類される.

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1 診療の概要

 頻尿は妊娠中よくみられる現象で,これは妊娠中の排尿パターンの変化によると考えられる.プロゲステロンの作用により膀胱平滑筋は弛緩し,妊娠16週ごろには排尿間隔と尿意切迫感が遠のくことが多い.一方,妊娠週数が進むと,増大した子宮により膀胱が圧迫されて逆に頻尿となる.また,膀胱炎,腟炎により頻尿がみられることがある.

 尿中細菌数が105/ml以上存在するにもかかわらず症状の認めないものは,無症候性細菌尿と定義されており,健常婦人の0.5~1.0%にみられるが,妊婦では3.5~4.9%に認められる.妊娠した場合は,それまで無症状であった細菌尿が,尿路の刺激症状を出すことが多いといわれる.急激な膀胱炎症状(排尿時痛,頻尿,尿混濁)を呈した場合は診断が容易であるが,膿尿・血尿などを伴わない軽度の頻尿,尿失禁,排尿違和感がみられた場合は,無症候性細菌尿が顕在化したことを念頭に置き,治療することが必要である.この場合,治療の基本は十分な水分摂取と抗菌薬の投与である.抗菌薬は,胎児への影響が少ないペニシリン系やセフェム系などのβ─ラクタム剤を7~10日間,経口投与する.

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1 診療の概要

 急性膀胱炎は,排尿時痛,頻尿,尿混濁が3大症状であり,そのほか残尿感,下腹部痛,肉眼的血尿など多彩な症状を呈する.妊娠時には尿路感染症の発症頻度が高くなり,妊婦の約1~2%に合併するとされる.通常,発熱などの全身症状はみられず,採血検査でCRP,WBCの上昇もみられないが,腎盂腎炎に発展し菌血症を合併すれば,母児に悪影響を及ぼすため早期治療が必要である.

 妊娠時に尿路感染症が発症しやすい原因としては次のように考えられている.子宮が骨盤腔を越える14週以降になると,尿管が圧迫され,尿管,腎盂,腎杯の拡張が出現しやすくなる.また,プロゲステロンが膀胱の平滑筋に作用し,膀胱が弛緩する.加えて子宮による圧迫が加わり,機械的にも膀胱は低緊張状態を呈する.これらによって,膀胱容量は約2倍に増加し,残尿がみられるようになり,尿路感染症の頻度が上昇する1).また,妊娠中の尿のpH上昇や糖の増加なども増殖に適した環境を細菌に与えている.

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1 診療の概要

 妊娠時には,増大した子宮による圧迫で,腎盂尿管の拡張がみられやすい.また胎盤より多量に分泌されるプロゲステロンの作用で膀胱の平滑筋が弛緩し,残尿がみられるようになるため,尿路感染症の頻度が上昇する.妊婦の5~10%に無症候性細菌尿がみられ,妊婦の約1~2%では上行性感染を起こし腎盂腎炎に進行する1).右側に多いが,両側性の場合もある.右側に多い理由としては,妊娠子宮が右旋,右傾すること,左側尿管はS状結腸により圧迫が軽減されること,直接,下大静脈へ還流する右卵巣静脈が妊娠中に拡張するため右尿管が圧迫される,などが挙げられる2).起因菌は膀胱炎と同様にグラム陰性桿菌が主で,特にEscherichia coliが主で約80%を占め,Klebsiella pneumoniaeやProteus mirabilisがこれに続く3)

 症状は発熱,悪寒,全身倦怠感,罹患側の腰痛,残尿や排尿時痛などの膀胱炎症状,さらには悪心,嘔吐などの消化器症状を呈することもある.これらの症状に加え,肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛を認めれば,本疾患を強く疑う.尿沈査で多数の白血球と細菌がみられ,血液検査で白血球増多,CRP上昇などの炎症所見を認めることで診断される.尿培養はもちろん,急性腎盂腎炎の約15%に菌血症を合併することから,血液培養の検査も必須である.重症例では,母体はエンドトキシン血症~ショック,呼吸窮迫症候群(ARDS),溶血性貧血などを併発し4),胎児の子宮内発育遅延,胎児死亡の原因となりうる.治療の時期を逸しなければ母体予後はおおむね良好であるが,妊娠中は尿の停滞が起きやすいため重症かつ治療抵抗性となり,腎機能低下をきたすこともある.全身の合併症として,糖尿病がある場合は重症化,再発に注意し,治療抵抗性の場合は尿管結石などによる尿路閉塞の存在を念頭に起き検査を進める.

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1 診療の概要

 妊娠線は妊娠による結合織の生理的変化である.妊娠中は母体の脳下垂体,甲状腺,副腎などのホルモン活性の上昇をはじめ,代謝・自律神経系の経時的な動的変化や,胎児胎盤を通じての種々のホルモンの産生により,母体は妊娠期に特徴的な生理的変化を生ずる.

 母体の機能変化は皮膚にもさまざまな変化をもたらすが,以下の3つに分けられる.すなわち,(1)生理的な皮膚変化(表1),(2)妊娠に特異的な皮膚疾患,(3)妊娠により悪化または軽快する皮膚疾患,である.妊娠線は(1)に含まれ,妊娠中の皮膚の美容的なトラブルでは最も多いものの1つである.妊娠線は,早くは妊娠6か月より,一般的には妊娠8か月頃より生じ,腹部,臀部,大腿部,乳房などにみられる.90%近くの妊婦に出現するともいわれる.

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1 診療の概要

 妊娠時の皮膚そう痒症は以下に分けられる.すなわち,(1)妊娠に特異的な妊娠性そう痒症,(2)妊娠に特異的な疾患によるそう痒〔pruritic urticarial papules and plaques (PUPPP),妊娠性痒疹,妊娠性疱疹など〕,(3)合併している皮膚疾患によるそう痒,である.ここでは,(1)と(2)に関して述べる.

 (1)妊娠に特異的な妊娠性そう痒症は,妊娠後期に多く,頻度は0.02~2.4%とされている1).妊娠中の肝内胆汁うっ滞が基礎にあると考えられている.全身性の強い痒みで皮疹はなく,出産により速やかに消失する.肝機能検査異常を認めることも少なくない.そう痒は血中胆汁酸の濃度に比例するとされ,エストロゲンの上昇が関与していると考えられている.次回妊娠に40~50%が再発するといわれる1)

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1 診療の概要

1. 蕁麻疹1)

 痒みを伴う膨疹と紅斑が出没する疾患で,皮膚の一過性限局性の浮腫である.皮疹は数時間から1日以内に完全消退し,外来受診時に皮疹を認めないことも多い.病態はアレルギー性または非アレルギー性に肥満細胞が活性化され,脱顆粒により放出されたヒスタミンなどの化学伝達物質により真皮浅層の血管透過性が亢進され生じる.眼囲や口唇では皮膚深部で反応が起こり境界不明瞭な浮腫(血管性浮腫とも呼ばれる)を生じ,消退までに1日以上かかることも多い.発症から4週間以内に症状が消失するものを急性蕁麻疹,それ以降も出没を繰り返すものを慢性蕁麻疹として臨床の便宜上大別している.原因不明のものが多いが,現在ではおおよそ表1のように分類されている2)

 急性蕁麻疹では食事,薬剤,感染症などによるものが多く,重篤な場合は呼吸困難,血圧低下,意識障害などのアナフィラキシー症状も伴う.食物依存性運動誘発性アナフィラキシーでは小麦,エビなどの特定食物を摂取後,運動負荷が加わることでアナフィラキシーを引き起こし近年増加傾向がみられる.また,ラテックスアレルギーがある者ではキウイやバナナなどの果物を摂取直後から数分以内に口唇,舌の腫脹を生じ,悪心,血圧低下に進展する口腔アレルギー症候群の存在も報告されている.

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1 診療の概要1)

 増悪と寛解を繰り返すそう痒が高度な湿疹で,患者はアトピー素因を持つ.アトピー素因とはアトピー疾患の家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎,結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)を有すること,またはIgE抗体を産生しやすい素因をいう.病態として,(1)80%に高IgE血症を認め,ダニ,ハウスダストに対する特異的IgE抗体陽性であるというアレルギー的側面と,(2)角質細胞間脂質セラミドの減少などの乾燥肌に伴う皮膚バリアー機能低下に代表される非アレルギー的側面の2つがある.また(1)と関連した免疫学的反応のTh1/Th2バランス理論では,通常の湿疹・皮膚炎と異なりTh2優位と考えられている.

 一般的には小学校高学年までに軽快することが多いが,近年,成人まで続いたり,思春期・成人期にはじめて出現したりする成人型アトピー性皮膚炎が増加している.成人型では20歳台が好発年齢で,全身の湿疹病変のほかに顔面の潮紅・落屑を呈する場合が少なくない.精神的ストレスから掻くことが嗜癖行動となり,皮疹の悪化因子となっていることも多い.精神的不安定になりやすい妊婦のアトピー性皮膚炎の管理はメンタル面での配慮が必要と思われる.

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1 診療の概要

 皮膚糸状菌による感染症を白癬という.病型は罹患部位により頭部,体部,股部,手,足,爪白癬に分類される.最も多い水虫は足白癬の俗称である.起因菌の大部分がTrichophyton rubrumかT. mentagrophytesである.足白癬は,(1)小水疱型,(2)趾間型,(3)角質増殖型の3型に分類され,(1)と(2)が多い.(1)はかゆみが高度,(2)は細菌感染の侵入門戸となりやすく,(3)は地下足袋や長靴を履く職業の男性に好発する.また,水虫は爪水虫(爪白癬)の併発が少なくない.確定診断は鏡検で菌要素を確認することである.

 足白癬(特に趾間型)のコントロールが悪いと,夏季に細菌感染の侵入門戸となり蜂窩織炎を併発しやすい.また市販の水虫薬で接触皮膚炎を起こすこともある.これらのトラブルを避けるために,妊婦は早期診断および治療が望ましい.

[皮膚疾患,感染症] 風疹 干場 勉
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1 診療の概要

 風疹は,本来,小児期の軽症発疹症だったが,妊婦に初感染すると胎児奇形を発生することから胎内感染症の代表的な存在となった.わが国では1977年からの風疹ワクチン接種によって全国的流行はなくなったが,いまだに局所的流行と先天性風疹が報告されている.また,女性の抗体保有率は出生年代が1964年頃以後では約95%だが,1982~1987年では50~90%と低く要注意である.

 風疹は飛沫感染で生ずる.風疹の潜伏期は2~3週間で,まず上気道に感染し,所属リンパ節で増殖後のウイルス血症で発症する.三大臨床症状は発疹,発熱,リンパ節腫脹である.

[皮膚疾患,感染症] 麻疹 干場 勉
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1 診療の概要

 麻疹(はしか)は幼小児期の感染症だが,本邦では年間数千例の発症と数十例の死亡がある.抗体保有率は妊婦では約80%だが,ワクチン接種率低下のため若い年代では65%と低い.麻疹では成人,特に妊婦が罹患すると重症化しやすく,分娩前後の麻疹妊婦から出生した新生児では先天性麻疹や新生児麻疹が生じる.

 感染は,麻疹患者の気道分泌物などからの飛沫感染や直接接触により鼻咽頭粘膜に感染することで引き起こされる.伝染力は非常に強く,家族内発症は90%もの高率である.潜伏期間はカタル期までは11日間,発疹期までは14日間で,免疫グロブリン(IG)投与時では17~21日間までに延長する可能性がある.

[皮膚疾患,感染症] 水痘 干場 勉
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1 診療の概要

 水痘(みずぼうそう)は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella─zoster virus : VZV)の初感染により起こる小児期の代表的疾患である.成人の抗体保有率は95%以上だが,成人,特に妊婦が罹患すると重症化しやすいとされる.また,分娩前後の水痘妊婦から出生した新生児では重症となる.

 感染は,水痘患者の気道分泌物や痂皮形成前までの皮疹からの接触,飛沫感染により生じる.潜伏期間は10~21日(ほとんどは13~17日 : 平均14日)間である.症状は発熱,倦怠感,食欲不振などの約1日間の前駆症状のあとに発疹が生じ,軀幹から四肢へと広がる.皮疹は紅斑から数時間で丘疹,水疱に移行し,3~4日で痂皮を生じる.発疹の進行が速いため,最盛期には種々の皮疹が混在するのが特徴である.水痘患者が感染源となり得る期間は,発疹出現2日前から全水泡の痂皮化までの約1週間である.

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1 診療の概要

 結膜炎は眼瞼および眼球結膜に起きた炎症である.自覚症状には,充血,眼脂,流涙,眼瞼腫脹感,熱感,痒みなどがある.他覚所見には充血,眼分泌,濾胞,偽膜,乳頭増殖,浮腫,眼瞼腫脹,結膜下出血,上皮性角膜炎,耳前リンパ節炎などがある.原因別に,アレルギー性結膜炎,春季カタル,ウイルス性結膜炎,細菌性結膜炎,フリクテンなどに分類される.結膜炎は結膜に濾胞性,乳頭性,偽膜性,カタル性,化膿性などのさまざまな症候を呈する.

 アレルギー性結膜炎(I型)は,通常,花粉症に代表されるいわゆるアレルギー性結膜炎を指す.臨床的にはアレルゲンの種類,性質や症状発現の時期から季節性アレルギー性結膜炎(結膜花粉症),通年性アレルギー性結膜炎,急性(偶発性)アレルギー性結膜炎の3つに分類される.季節性アレルギー性結膜炎は花粉症に伴うもので,季節性,地域性がある.アレルゲンとしてスギ,ブタクサ,カモガヤなど多数報告されている.通年性アレルギー性結膜炎は,常在性抗原によるものでハウスダスト,ダニ,真菌類,ペットの毛などが原因となる.

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1 診療の概要

 本症の臨床経過は,基本的には軽症と考えられている.2~3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て,唾液腺の腫脹・圧痛,嚥下痛,発熱を主症状として発症し,通常1~2週間で軽快する.

 RNAパラミクソウイルス科に属するウイルスが原因である.成人の80~90%が抗体を保有するため,成人には稀なウイルス感染症である.報告患者の年齢は3~6歳で約60%を占めている.妊婦が非妊婦と比較して流行性耳下腺炎が重症化しやすいということはない.また,胎児に奇形を起こしやすいとのエビデンスもない.

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1 診療の概要

帯状疱疹は,水痘と同じvaricella─zoster virus(水痘─帯状疱疹ウイルス)が原因で発症する.初感染として水痘を発症したのち,三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏する.その後,宿主の免疫状態により再活性化し帯状疱疹を発症する.

 症状は,通常,最初に痛みを伴って皮疹が出現する.この時期には表皮内にわずかに水疱が認められるだけである.その後4日目ごろには,水疱が目立ち,真皮まで病変が進んで潰瘍を形成する.6日目ごろには血管炎を起こしてくる.10日目ごろには明らかに潰瘍が形成され,14日目ごろには深い潰瘍がみられる.このころには,末端の神経が破壊され,それが強い疼痛を起こしてくる.好発部位は,胸髄領域,三叉神経第一枝領域である1)

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1 診療の概要

 妊婦貧血,特に妊娠中期から後期にかけてみられるものは,循環血漿量の増加および胎児胎盤での鉄需要の増加に伴う鉄欠乏性貧血である.現代女性は,やせ願望よる食生活の変化から,妊娠前より慢性的な鉄摂取不足状態であることが多く,妊婦貧血の頻度は高くなってきている1).鉄欠乏性貧血は小球性低色素性貧血(ヘモグロビン濃度9.0 g/dl程度の中程度貧血では小球性低色素性を示さないこともある),および血清鉄減少,総鉄結合能増加により診断できるが,ほかの原因疾患による貧血の除外診断はなされなければならない.本稿では,鉄欠乏性貧血の治療につき概説する.

 WHOでは,妊婦の貧血をヘモグロビン濃度11.0 g/dl以下としている.しかし本邦において,この基準値を治療開始の値として採用するかは,データ不足もあり賛否両論がある2).ヘモグロビン(Hb)濃度11.0 g/dl以下を基準とすると半数近い妊婦が治療の対象となる.ではヘモグロビン濃度がいくつ以下で,治療を開始するのが適当か.ヘモグロビン濃度11.0 g/dl以下の鉄欠乏性貧血に対して鉄剤投与は,貧血改善には有効だが,母児の予後とは関連がないという報告がある(125例に対するRCT)3)

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1 診療の概要

 浮腫は妊婦に多くみられる症状の1つであり,浮腫の客観的診断は皮膚の圧痕および数日以内の急速な体重増加の確認によって行われる.妊婦における浮腫の原因としては,妊娠による病的意義のない生理的浮腫,妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)に随伴する浮腫,そのほかの病的浮腫(腎疾患,心疾患,肝疾患,深部静脈血栓症など)に分類される.浮腫の治療方針はその原因によって異なるため,まずは原因を診断することが先決である.

 2 治療方針

 浮腫は以前,妊娠中毒症の診断基準に含まれていたが,2004年,日本産科婦人科学会は妊娠中毒症の名称を妊娠高血圧症候群に改め,新しい定義・分類においては浮腫の除外を提案した.これによって定義・分類の改定がされれば,浮腫単独では妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)とは診断されなくなる.日本産科婦人科学会会誌の解説1)によれば,浮腫のみを発症した妊婦の母児の予後は正常妊婦と同等であり,低出生体重児の頻度周産期死亡率も正常妊婦よりわずかであるが低いとしている.したがって,妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)およびそのほかの浮腫をきたす疾患の合併が認められない場合は,妊娠による病的意義のない生理的浮腫と診断し,治療の必要性はないと考える.生理的浮腫の成因は,妊娠による循環血漿量の増加,増大した子宮による下大静脈の圧迫による静脈還流の低下,静脈の拡大,膠質浸透圧の低下などである2)

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1 診療の概要

 古来,女性は子供の数だけ歯を失うといわれてきた.胎児の成長に伴う母体のカルシウム不足が齲蝕の一因と考えられた.実際,超音波骨密度測定装置を用いた多数の同一症例の研究では,妊娠中に母体の骨密度は低下することが示唆されている1).しかし,すでに形成が完成している母体の歯からカルシウム塩が再吸収されることはほとんどない.

 妊娠という現象は口腔内の環境を変化させ,歯や歯の周囲組織に影響を及ぼす.原因は妊娠による内分泌環境やビタミン代謝の変化,唾液の影響(pHや量,粘稠度の変化)などが挙げられる2).しかし,最大の原因はつわりや不規則な食事などにより口腔内の清掃が不十分となり,口腔内細菌が繁殖し,歯垢も沈着しやすくなることによる口腔衛生上の不注意といわれている.

[そのほか] 頭痛 秋山 敏夫
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1 診療の概要

 腹痛,不正出血とともに,頭痛は産婦人科の診療上よく遭遇する主訴である.受診する診療科も内科,脳神経外科,眼科,耳鼻科,整形外科,産婦人科などさまざまである.頭痛の原因は多岐にわたり,治療法も経過観察から緊急手術まで多彩である.特に女性は男性の3倍も訴えるといわれる.このことから年齢,性周期,妊娠・分娩・産褥など,ホルモンの関与が考えられる.その内訳は,緊張型頭痛が30~78%,片頭痛が30%を占めるとされる.

 2 分 類

 大別して,器質的疾患によるものと機能的頭痛とがある.国際分類は,1987年に提唱されたものが2003年ローマでの国際頭痛学会で改訂され,新たなものになった(表1).

[そのほか] 肩こり 今西 由紀夫
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1 診療の概要

 人類は二本足で起立し,手を使うという点において,ほかの動物と一線を画したものになった.そのために,腰痛と肩こりは人類であるがゆえの必然的かつ運命的な症状ともいえる.整形外科学的にはさまざまな分類があるようであるが,ここでは,(1)器質的原因によるもの,(2)それ以外の原因によるもの,に分けて考えることにする(表1).

 器質的原因としては,整形外科,眼科,耳鼻咽喉科,脳外科,内科,口腔外科の各科領域における疾患を挙げた.いずれも何らかの基礎疾患が存在し,その1つの症状の現われとして「肩こり」が生じたものである.一方,器質的原因以外によるものとして,不良姿勢,筋力低下・筋肉疲労,更年期障害を含む年齢的要素,精神的緊張などを挙げた.「妊娠」もこの項に入るかもしれない.

[そのほか] 乳房痛 今西 由紀夫
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1 診療の概要

 産褥期の乳房に関するトラブルは数多く,乳房痛,乳房腫瘍,乳汁分泌などについての解説はかなり詳しく論じられているが,妊娠中の同様のトラブルも実は少なくない.

 乳房痛と乳房腫瘤感は,妊娠中の乳房に関する二大症状といえる.このどちらも生理的な変化として捉えられることが多く,乳癌を代表とする重大な疾患の見逃しにつながりやすい.

[そのほか] 腰痛 今西 由紀夫
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1 診療の概要

 妊婦の半数以上は程度の差こそあれ腰痛を訴える.その数は妊娠週数の増加とともに増え,多くは分娩後に軽快する.したがって,その大部分は妊娠による生理的な身体変化によるものと考えられるが,そうでない場合もありうるので,慎重な鑑別診断が求められる.

 一般の腰痛をきたす疾患を表11)に挙げた.整形外科的疾患(脊柱・腰部運動器疾患),神経疾患,内臓(消化器,生殖器,泌尿器関係)疾患,脈管疾患,心因性疾患などが挙げられるが,このようなさまざまな病態が,たまたま妊娠中に偶発的に起こるとは考えにくいものを除外し,筆者なりにより重要と思われるものをまとめ新しい分類を試みたので,それを表2に示す.これは出現頻度が高いもの,あるいは早期の診断・治療が必要なものを中心に取り上げた.

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1 診療の概要

 静脈は壁が薄く,平滑筋も少ないので伸展しやすい.また下肢では壁にかかる圧が増加する.下肢には表在および深部静脈があり,貫通静脈によってつながっており,静脈弁により重力に逆らって静脈血が心臓に還流される.下肢筋肉が収縮と弛緩を交互に繰り返すことと,関節の動きが深部静脈からの静脈還流に必要である.貫通静脈の弁は,筋肉弛緩時には表在静脈から深部静脈への血流を確保し,筋肉収縮時には逆流を防いでいる1).静脈の伸展性が増加する遺伝素因,長期間に及ぶ立位,坐位の仕事や運動不足,加齢により表在静脈と貫通静脈の弁機能不全による逆流が起こり表在静脈の蛇行をきたす(一次性静脈瘤).これに対し,二次性静脈瘤の多くは深部静脈血栓後などにみられる.

 静脈瘤の男女比は1 : 4.4と女性に多く,妊娠により悪化しやく,女性患者の約10~15%が妊娠中に下肢静脈瘤が出現するといわれる2).静脈炎は静脈瘤に炎症が波及したもので,静脈壁の炎症は血栓を伴うことが多く血栓性静脈炎ともいう.血栓性静脈炎は,表在性血栓性静脈炎(superficial thrombophlebitis)と深部静脈血栓症(deep venous thrombosis : 以下,DVT)に分けられ,Virchowは血栓性静脈炎の3要因として静脈瘤,血液濃縮,長期臥床を挙げている.

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1 診療の概要

 妊娠・分娩は女性にとってこの上ない大きなイベントであるが,大きなストレスにもなる.妊娠は女性の身体やホルモン環境,心理構造に重大な影響を及ぼし,そのため睡眠も大きく変化する.生命現象の基本に生体リズムがあり,約24時間の周期で繰り返し生じる現象をサーカディアンリズムという.メラトニン,コルチゾールなどのホルモン分泌や深部体温,心拍数などのリズムが挙げられ,睡眠・覚醒リズムもその1つで,仕事などの社会規制や精神的な影響を受ける.妊娠中はホルモンや心身の変化により睡眠・覚醒リズムも乱れやすく,睡眠障害を引き起こす.

 睡眠障害国際分類によると,妊娠中に生じる不眠あるいは過眠を妊娠随伴睡眠障害と定義されている.一般に二相性の経過をたどり,過眠で始まり,重度の不眠へ進展する.稀に悪夢,夜驚症,産後精神病を呈することがある.妊娠初期(first trimester)は眠気および倦怠感を訴え,総睡眠時間は延長するが,プロゲストーゲンの作用が考えられている.しかしながらこの時期には,妊娠悪阻症状により睡眠障害をきたすこともある.中期(second trimester)に入ると睡眠は正常化するが,後半には中途覚醒が増大する.末期(third trimester)には睡眠潜時(就床から睡眠開始までの時間)が延長し,中途覚醒頻度が明らかに増大する.これらの睡眠障害の原因は,妊娠子宮の増大に伴い心地よい睡眠体位がとれないことや,背部痛,膀胱圧迫による頻尿の出現,胎動および子宮収縮,サーカディアンリズム異常などが考えられる.終夜睡眠ポリグラフの所見は特に妊娠末期において総睡眠時間の減少,頻回の覚醒と睡眠効率(総睡眠時間/総就床時間)の減少が報告されている1)

Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療 2.妊娠合併症の治療と注意点

[糖尿病] 糖尿病 杉山 隆
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1 診療の概要

 糖尿病の診断がついている女性が妊娠した場合,糖尿病合併妊娠である.これに対し,妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus : GDM)とは妊娠中に発生したか,または初めて認識された耐糖能低下と定義されている.したがって,この定義によると,従来の概念によるGDM,すなわち妊娠時にのみ出現する耐糖能異常のみならず,妊娠前より糖代謝異常があり妊娠時にはじめて発見された糖尿病,妊娠時に発症した糖尿病も含むことになる.

 妊娠糖尿病はその臨床的意義として,周産期合併症の増加と母体の将来の2型糖尿病発症や児の将来の肥満や糖尿病発症の危険性の増加が挙げられる.これら諸合併症の発症を下げる必要条件は母体の厳格な血糖管理である.

[循環器疾患] 心不全 根木 玲子
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1 診断の概要

 心疾患の診断は,可能であれば妊娠前からその病態が評価されていることが望ましいが,予期せず妊娠した,あるいは妊娠が判明してから心疾患の存在が明らかになった場合など,状況はさまざまである.いずれの場合においても,受診後できるだけ“早期”に診断と心機能の評価を行うことが重要である.心電図(病状に応じて負荷心電図,Holter心電図),胸部X線写真,また“専門医”による心エコーによりかなり正確な診断と心機能評価が可能である.

 母体の,(1)低酸素血症の進行,(2)自覚症状の悪化,(3)心エコー所見の悪化,(4)うっ血性心不全徴候があれば,入院安静のうえジギタリス剤か利尿薬投与を行う.心不全が改善しなかったり,逆にこれらの治療により胎児仮死が進行するようなら,人工妊娠中絶,人工早産,急速遂娩が必要となる.

[循環器疾患] 不整脈 根木 玲子
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1 診断の概要

 不整脈合併妊娠においては,不整脈そのものより,原因となる器質的心疾患の存在が問題となるため,必ず心エコーにより基礎疾患の有無の検索を行う.例えば,僧帽弁狭窄に伴う心房細動,心筋症における心室頻拍などである.また,甲状腺機能亢進に伴う心房細動も見逃してはならない.

 不整脈は,直ちに治療を要する急性心不全,甲状腺クリーゼ,頻拍発作から,単なる機能的な洞性頻脈まで多種多様である.発作が長期化すると子宮胎児循環にも影響を与える可能性があり,すみやかな発作停止が求められる.

[循環器疾患] 高血圧 根木 玲子
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1 診断の概要

 妊娠中の高血圧には,妊娠前より腎炎や高血圧が存在し,妊娠により高血圧が発現・顕在化,増悪するものと,妊娠によってはじめて高血圧が出現するものとがある.前者を高血圧症(chronic hypertension),後者が妊娠高血圧である.

 従来の日本産婦人科学会の妊娠中毒症の病型分類には,前者は混合型妊娠中毒症として,後者は純粋型妊娠中毒症として分類されていた.しかし今春より,従来の「妊娠中毒症の定義分類」から「妊娠高血圧症候群の定義・分類」と改定されることとなる.それによると,妊娠高血圧症候群の定義は,「妊娠20週以降,分娩後12週までに高血圧がみられる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいう」とされている.詳細は,本誌「妊娠高血圧症候群」の項を参照されたい.

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1 診療の概要

 喘息とは好酸球,T細胞,肥満細胞,気道上皮などの細胞や,さまざまな活性化因子が関与する気道の慢性炎症性疾患であり,気道過敏性・気流障害があり,その特徴的症状(主に喘鳴,呼吸苦,咳など)を伴う疾患と定義されている1).病型としては特異的IgE抗体を証明できるアトピー型と,証明できない非アトピー型が存在するが,ともに気道炎症像や気道過敏性は存在する.診断は上記症状の反復性や可逆性気流制限(1秒量・ピークフローの20%以上の変動),(可能なら気道過敏性)などの存在(ほかの呼吸器・循環器疾患などは除外)によりつける.喘息の有病率は1996年度厚生省調査で成人3.2%であるが,15~30歳では6.2%とかなり高く1),当然妊婦でも頻度は高い.妊娠中の喘息の変化は改善,不変,悪化がそれぞれ1/3とされ1),この傾向は経産婦では2回目以降,前回と同様のパターンとなることが多い(70%以上)2, 3).喘息の妊娠への影響は喘息のコントロールがよくなり減少したと考えられるが,カナダの大規模な研究報告4)は喘息患者に早産児,子癇前症,前置胎盤,帝王切開が多いことを未だに指摘している.より安全な妊娠と出産のためには喘息をより安定化させる必要がある.

 2 治療の方針

 喘息の治療ガイドラインとしては国内の「喘息予防・管理ガイドライン2003」1),国際保健機構(WHO)などが1995年以降のEBMに基づき改訂したGINA 2002(Global Intiative for Asthma 2002 : 日本語版あり,英文はhttp : //www.ginasthma.com/index.htmlよりダウンロード可能)5)などがある.妊娠と喘息に関しては「妊娠中の喘息管理ガイドライン」6)(要約日本語版7))があるが古くなり,The American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)とThe American College of Allergy, Asthma and Immunology(ACAAI)の合同委員会は,新薬のEBMに基づき2000年に「ACAAI─ACOG position statement(以下,A─A statement)8)」を発表した.その後さらに2005年1月に新しいEBMに基づいた「妊娠喘息GL」の改訂版であるManaging Asthma During Pregnancy : Recommendations for Pharmacologic Treatment─Update 2004(以下[妊娠喘息GL 2004]9),ダウンロード可能 ; http : //www.nhlbi.nih.gov/health/prof/lung/asthma/astpreg.htm)が発表された.いずれのガイドラインも吸入ステロイド(以下,ICS)を中心とした積極的治療を奨励しており,妊娠中といえどもこのことが治療の基本である.GINA 2002 5)は「妊娠中の安全性が明確に証明されていない薬剤でさえも,喘息の最善のコントロールを目的とする使用は妥当と考えられる」とまで述べている.しかし,妊娠時に使用する喘息薬には考慮すべき点もあり,その点については後述する.

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1 診療の概要

 結核はヒト型結核菌により起こる肉芽腫性炎症であるが,人から人へ空気中に放出され,浮遊する飛沫核を吸入することで感染伝播する.感染力はおおむね30%,潜伏期は不定で,発病率10~20%の慢性感染症である.気道末梢の肺胞・肺胞道レベルで感染が成立すると,多くの場合,菌は死滅することなく静止菌として長期間(おそらく一生)体内にとどまり,細胞性免疫との均衡が破れると発症・進展し,気道に破れ,感染源となるサイクルを繰り返している.

 現在世界では約1/3の人が感染しており,800万人が発病し,感染症の死因の第1位である.結核患者の多くは発展途上国に遍在するが,日本は年間発病が人口10万対24.8で,欧米先進国10以下と比べると中進国レベルである.結核は人口密度が高い大都市に集中しやすい.

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1 診療の概要

 甲状腺機能異常症合併妊娠の頻度は0.2~0.4%といわれ,その約60%が機能亢進症(多くはバセドウ病)である.生殖可能年齢である20~40歳代の女性に好発する疾患の1つであり,その合併妊娠の周産期管理を行う機会は決して少なくないため,その病態,妊娠時の変化およびその薬物療法に関する十分な知識を持ち,内科専門医とともに的確な管理に努め,それらの母児への影響を最小限にくい止めるようにすべきである.

 甲状腺機能に異常がない婦人であっても,妊娠するとエストロゲンの増加によってサイロキシン結合グロブリン(TBG)が増加するため,血中T4,T3は1.5~2倍に上昇するが,遊離型T4(FT4)・遊離型T3(FT3)は妊娠による変動が少なく,いずれも初期に軽度低下するが非妊時の正常範囲内であることが知られている.また,TSHは,妊娠初期に増加するhCGがTSH受容体への結合能・刺激能を持っているため,その増加と反比例するように一過性の低下を示すがその後はあまり変化せず,非妊時の正常範囲内で推移する1, 2).したがって妊娠中の甲状腺機能の評価は,FT4,FT3,TSHによってなされるべきであるといわれている.

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1 診療の概要

 妊娠に合併する甲状腺機能低下症の原因としては,慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多く,次いで甲状腺機能亢進症に対する甲状腺亜全摘後の機能低下症が多い1).TSHの増加,FT4,FT3の低下がみられ,橋本病では多くの場合,抗サイログロブリン抗体や抗マイクロゾーム抗体などの甲状腺自己抗体が陽性を示す.

 甲状腺機能低下症合併妊娠の頻度は0.1~0.15%で(臨床症状がなくTSH高値のみで,FT4,FT3が正常範囲の潜在性甲状腺機能低下を含めるともっと多いといわれている),機能亢進症合併妊娠よりは少ない1, 2).特に重症例では排卵障害から不妊症となりやすく,妊娠が成立しても流産に至ることが多いことが知られているが,一方で,妊娠前から甲状腺機能を的確にコントロールすれば,流産の頻度は高くならないとも報告されているため3),バセドウ病と同様に,妊娠前に十分なコントロールを行ったうえで計画的に妊娠することが望ましい.

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はじめに

 神経症,心身症合併の妊婦を産婦人科医が自身で管理することはめったになく,通常,専門医に併診をお願いすることがほとんどであるが,疾患の理解と薬物療法の注意点について概説する.

[精神系疾患] うつ病 赤松 達也
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1 妊娠中のうつ病

 妊娠・分娩および産褥早期の育児期間は,女性の人生において最も精神障害をきたしやすい時期であることはよく知られている.妊娠中のうつ病(DSM─IVによる大うつ病および軽症うつ病)には,妊娠後に発症するうつ病(妊娠うつ病)と,うつ病患者が妊娠する場合がある.

 妊娠うつ病の発症率は16%で,その7割が妊娠初期の発症である.妊娠中のうつ病の危険因子は低年齢,社会的支援の脆弱性,ひとり暮らし,子供が多いなどである1).そのため分娩前のケアの不十分さから,低栄養状態,早産,低出生体重児の危険性をはらんでおり,産後うつ病,自殺とも関連が深い2, 3).うつ病患者が妊娠した場合には,抗うつ薬による治療を中断する女性は多いと推測される.しかしその半数が妊娠後期までに再発・再燃するという報告がある4).したがって症状に応じて適切な薬物療法と薬物指導が必要である.流産や死産を経験した女性では,しばしば妄想や不穏状態も含む重い抑うつ症状を経験する.この場合,少量の抗精神病薬の投与も加えた薬物療法が必要なこともある.

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1 疾患の概要

 統合失調症は,陽性症状(幻覚や妄想,精神運動興奮)と陰性症状(感情鈍麻,引きこもり,自発性の低下)を示す精神障害であり,人口の0.8%~1%にみられ,15歳から30歳頃までに発症するといわれている.遺伝的要素を多く持った疾患で,両親のいずれかが有病の場合は10.1%の確率という1).したがって,産科側では妊娠の可否や中絶の適応など興味あるところだが,人権問題などを含むため明確な基準はない.妊娠中は初発より再発・再燃が多いといわれているが,その場合,診療拒否や医療者への衝動行動,徘徊など管理に難渋することが多い.そして統合失調症に対する投薬は,疾患の完治というよりも,症状を軽減し生活に必要な記憶力,理解力,問題解決能力などの機能を回復させることを目的としている.そのため,催奇形性を心配することによる自己判断での服薬中断には注意が必要であり,家族・精神科との連携も重要となる.

 2 産科的概要

 統合失調症の妊婦は肥満が多い.そのため妊娠中毒症,妊娠糖尿病の発症予防に注意する必要がある.早産などの予防も含めて十分な保健指導を必要とする2).分娩時には産科手術(帝王切開,吸引など)が必要となることが多いが,これは患者の分娩に対する理解,協力が得られないことが一因といわれているので,患者,家族,精神科医と十分に調整しておくことが必要となる.

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1 疾患の概要

 従来,不安神経症,心臓神経症などと呼ばれ,日常診療のなかで比較的よく遭遇するもので,1980年,アメリカの精神科診断基準(DSM─III)1)に採用されて以来,パニック障害という語彙が使用されるようになった.強迫性障害,社会不安障害,全般性不安障害,外傷後ストレス障害とともに,不安障害の1つとされている.

 何の前ぶれもなく突然,心臓が激しくドキドキしたり,呼吸が苦しくなったり,めまいや身体が震えるなどの症状(パニック発作)と,激しい不安感(予期不安)が発作的に起こる疾患である.詳しくはDSM─IVをご覧いただきたい(表1)2)

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1 診療の概要

 妊娠に関連した脳出血の頻度はおおよそ1/15,000~22,000で,非妊時に比較して相対危険率は妊娠中では2.5,産褥期では28.3という報告がある1).脳出血の主なものは高血圧性脳出血とくも膜下出血であり,くも膜下出血の原因の多くが脳動静脈奇形と脳動脈瘤である.生殖年齢に合併しやすいものは,むしろ前者であるが,脳動静脈奇形については別項に譲り,本稿では脳動脈瘤について述べる.

 2 治療方針

 速やかな診断ののち,手術が優先される.CT,MRIや十分に被曝を防御したうえでの最小限の血管撮影は,胎児に対する悪影響は少なく,むしろ正確な病型および部位診断を行い,それに対して最善の策を講ずることができるため,胎児の安全を確保するために有用と考えられている.

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1 診療の概要

 脳動静脈奇形(arteriovenous malformation : 以下,AVM)は先天性の血管形成異常である.その破裂の好発年齢は,脳動脈瘤が50~60歳といわれるのに対し,20~25歳と報告されている.

 妊娠に関連して破裂の頻度は非妊時に比較し増加する1, 2)との報告がある一方,以前に破裂の既往がなければ妊娠は出血のリスクにはならない3, 4)という意見もある.ただし,AVMからの出血の既往歴がある妊婦では再出血の危険性は増加し,特に初回破裂直後の1年間に再出血する危険性は高い3)

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1 診療の概要

 両側内頸動脈終末部からWillis動脈輪,さらに脳主幹動脈基部にかけて血管が閉塞をきたす原因不明の疾患である.閉塞性病変の進行に伴い,脳底部などを中心とする異常血管網が出現してくるため,別名“もやもや病”とも呼ばれる.

 本疾患は本邦に多発し,年間有病者数は2,000~3,000人前後とされており,男女比は1 : 1.83で女性に多い.発症年齢は5歳前後と30~40歳台の2つのピークを有し,前者を「若年型」,後者を「成人型」と呼ぶ.若年型では脳虚血発作で発症するのに対し,成人型では脳虚血のみならず頭蓋内出血で発症することが多い.その理由には,本症の自然史が関与するとされる.すなわち,初期には脳主幹動脈閉塞により脳虚血症状が出現するが,やがて側副血行路の形成により代償され一時的な症状の改善がみられる.しかし,晩期には脆弱な側副血行路が破綻して頭蓋内出血を生じる1)

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1 診療の概要

 1980年以前は,Shayによるバランス説により胃潰瘍の成因が理解されてきた.すなわち,攻撃因子(胃酸やペプシン)と防御因子(粘液や重炭酸)のバランスが崩れることにより潰瘍が発生するという考えである.十二指腸潰瘍に関しては,過酸との関連が深いことが知られていた.1983年にオーストラリアの病理学者ワレンと内科医マーシャルによって,ヘリコバクターピロリ〔Helicobacter pylori(H. pylori)〕が胃炎患者から発見されて以来,胃炎や胃・十二指腸潰瘍にH. pyloriが深くかかわっていることがわかってきた.

 消化性潰瘍の成因のうち,H. pylori由来とされるものは,十二指腸潰瘍で95%,胃潰瘍で75%前後とされている.H. pyloriが粘膜障害を起こすメカニズムとして,(1)H. pyloriの持つウレアーゼ活性により胃液の尿素が分解されてNH3が産生され,このNH3による直接的な胃粘膜の細胞障害が引き起こされる.また,(2)H. pyloriが胃粘膜に感染することにより好中球が誘導され,好中球により産生されたスーパーオキシドアニオンを介して次亜塩素酸が産生される.この次亜塩素酸とNH3が反応することにより生成されるモノクロラミンはきわめて強い細胞毒性を有する.これらに加え,(3)NH3により胃内のpHが上昇し,このpHの上昇を補おうとして起こる胃酸の分泌増加などが考えられている.このためH. pyloriがいる限りは胃・十二指腸潰瘍はなかなか改善しない.ストレスなどによる急性潰瘍もH. pyloriが存在すると発症しやすく,治癒し難い.H. pylori以外の重要な成因としては,非ステロイド性消炎鎮痛薬(non─steroidal anti─inflammatory drugs : NSAIDs)がある.

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1 診療の概要

 潰瘍性大腸炎は,直腸から結腸の粘膜と粘膜下層が,びまん性に侵される慢性炎症性疾患である.直腸から連続的に病変の進展がみられ,大腸全般を侵す場合もある.原因は不明で,免疫病理学的機序や心理学的要因の関与が考えられている.通常,粘血便,下痢や腹痛などの症状を示し,寛解,再燃を繰り返す.全大腸炎型で,10年以上の長期にわたり炎症を繰り返す例では大腸癌の危険がある.

 潰瘍性大腸炎の発症時年齢のピークは20~30歳台(男性では20~24歳,女性は25~29歳)であるが,10~70歳台まで幅広く発症する.わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は77,073人(平成14年度特定疾患医療受給者証交付件数より)と報告されており,毎年おおよそ5,000人増加している.有病率(人口10万人当たり : 2002年)は61.2で,男女比は1 : 1である.診断時の病型分類は,直腸型226例(29%),左側大腸炎型248例(31.9%),全大腸炎型295例(37.9%)となっており,欧米と比較すると全大腸炎型の割合が高い.また,重症度別の症例数の割合は,軽症46.4%,中等症35.5%,重症14.8%で,欧米はわが国より重症例の割合が多い(厚生省研究班 : 1992年集計).

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1 診療の概要

 特異性炎症性疾患で,多くは急性虫垂炎である.生涯を通じて6~20%の人が罹患するといわれ,外科的急性腹症として最も頻度が高い疾患である.急性虫垂炎の好発年齢は7~15歳の小児期であるが,20~30歳代の罹患者も多い.病変の進行度でカタル性(滲出性),蜂窩織炎性,壊疽性に分類され,壊疽性で穿孔をきたすと汎発性腹膜炎を起こすことがある.

 1,000~2,000分娩に1例の割合1)で,急性虫垂炎は妊娠に合併する.子宮の増大により虫垂が上方に移動し,また大網も上方に押し上げられるため,虫垂が破裂した際に限局化されにくく,広範な腹膜炎になりやすい.半数以上が穿孔性虫垂炎であり,妊娠後期ほど予後が悪い.実際,妊娠後期の場合の母体死亡率は5%以上と報告されている2).また,妊娠23週以後で虫垂切除後の胎児死亡は22%であったとも報告されている1)

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1 診療の概要

 妊娠とウイルス性肝炎との関連で薬物治療が問題になるのは,(1)妊娠中に肝炎ウイルスに感染し,急性肝炎を発症した場合の治療,(2)慢性肝炎合併妊婦の治療,(3)キャリア妊婦からの母子感染(垂直感染)の防止の3点である.

1. A型肝炎

 A型肝炎ウイルス(HAV)による急性肝炎で,主な感染経路は,糞便や食物を介する経口感染である.潜伏期間は2~7週間で,大半のケースは発症後約1か月程度で治癒し,稀に劇症化することもあるが,慢性化することはない.母子感染は通常認められない.

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1 診療の概要

 1940年にSheehanは,妊婦・褥婦剖検例の中で,組織学的に肝臓の炎症像,壊死像を欠き,肝細胞に小葉中心性,び慢性の著明な脂肪滴の沈着,すなわち脂肪肝の状態を認めた6症例を報告した1).これが,今日でいう急性妊娠脂肪肝(acute fatty liver of pregnancy)である.

 急性妊娠脂肪肝は,初回妊娠に多く,妊娠30~40週の妊娠後期,特に妊娠末期に発症することが多い.急激な肝不全の進行に加え,DIC,腎不全の合併を認めるため,診断が遅れた場合は母児ともに死亡率が高く,予後のきわめて不良とされた疾患であるが,近年は急性妊娠脂肪肝という疾患概念が浸透し,早期に診断されるようになったことや,肝不全,DIC,腎不全などに対する管理の進歩により,予後の改善がみられている.

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1 診療の概要

 急性胆嚢炎は,慢性胆嚢炎の経過中に生じる胆嚢壁の急性炎症で,主に胆石による胆嚢管の閉塞に,細菌感染などが加わって起こる炎症性疾患である.急性胆嚢炎の場合,95%以上の症例に胆嚢胆石の合併が認められ,胆嚢管閉塞の原因となっている.胆石の存在しない無石性胆嚢炎も稀ながらあるが,重篤な疾患を有する成人や小児に発症する傾向にある.また,胆嚢胆石のある患者がすべて胆嚢炎を起こすわけではなく,生涯無症状のことも多い.

 妊娠中に急性胆嚢炎を合併する頻度は,文献的に0.8/1,000との報告があり,比較的稀な疾患である.

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1 診療の概要

 尿路結石(urinary calculi,urolithiasis)とは尿路にできた固形物の総称で,部位により腎結石,尿管結石,膀胱結石,尿道結石などに分けられる.これらの結石は多くの結晶と少量の有機物から成り,主成分によりカルシウム結石〔シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウム(アパタイト)〕,尿酸結石,シスチン結石などと呼び,これらを代謝結石とも呼ぶ.また,リン酸マグネシウムアンモニウムやカーボネートアパタイトは感染と密接な関係があり,感染結石と呼ばれる1).尿路結石は上部尿路(腎,尿管)に多くみられ(下部尿路の約20倍),男性に多く,青壮年層を中心に幅広くみられる.

 一般的な結石形成の要因としては尿路停滞,尿濃縮などが挙げられるが,結晶成分ごとにそれぞれ異なる成因が存在する.尿路結石の診断は疼痛と血尿の症状で尿路結石を疑い,検尿,画像診断にて確定する.尿管結石が嵌頓するときわめて激しい疝痛発作,鈍痛がみられる.

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1 診療の概要

 臨床的にさまざまな程度の蛋白尿,血尿,腎機能障害をきたす腎糸球体疾患を糸球体腎炎といい,WHO症候分類では臨床像を基に,急性腎炎症候群,急速進行性腎炎症候群,反復または持続性血尿症候群,慢性腎炎症候群,ネフローゼ症候群の5型に分類されている.わが国では,急性腎炎の発症から異常尿所見または高血圧が1年以上続く,あるいは急性腎炎の先行なく異常尿所見が1年以上続くものを慢性腎炎と定義している1)ため,本稿で述べる慢性腎炎とは慢性腎炎症候群と持続性血尿症候群を合わせたものを指していると考えられる.

 持続性血尿症候群は肉眼的または顕微鏡的血尿が潜在的あるいは急激に出現し,蛋白尿はみられないかあるいは軽微であり,高血圧,浮腫などの腎炎症状はみられない症候群であり,IgA腎症,びまん性メサンギウム増殖性糸球体腎炎,thin basement membrane syndromeなどが含まれる2).慢性腎炎症候群は蛋白尿,血尿,高血圧を認め,次第に腎不全に陥る症候群であり,進行性のIgA腎症が特徴的な疾患で最も頻度が高いが,膜性増殖性糸球体腎炎,びまん性膜性腎症,巣状糸球体硬化症の一次性の腎炎が含まれる2).なお,わが国の慢性腎炎の定義では糖尿病腎症,ループス腎炎あるいは腎アミロイドーシスなどの全身性疾患によるものは慢性腎炎に含めないことになっている1)

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1 診療の概要

 ネフローゼ症候群とは大量の蛋白尿により,低蛋白血症,高脂血症,浮腫をきたす疾患である(表1)1).ネフローゼ症候群は種々の原因による多彩な基礎疾患から発症し,原発性糸球体疾患に由来する一次性ネフローゼ症候群と,そのほかの原因疾患に由来する二次性ネフローゼ症候群に大別することができる2).一次性には,微小変化型,膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,巣状糸球体硬化症などがあり,二次性には,糖尿病性腎症,ループス腎炎,腎アミロイドーシスなどがある2)

 2 治療方針

 その治療計画は正確な臨床像の把握と腎組織診断に基づいて個々に立案する.病歴,身体所見(高血圧,浮腫など)とともに,1日尿中蛋白量,クレアチニンクリアランスなどを測定する.予後判定や治療奏効率の予測のためには腎生検が欠かせないが,妊娠初期,中期は相比較的禁忌,妊娠末期は絶対的禁忌とする考えもある2)ため,慎重に適応を判断する必要がある.病期,および病理学的診断により治療方針を策定する2)

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1 診療の概要

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura : ITP)は,明らかな原因や基礎疾患がなく,血小板の破壊が亢進して,血小板減少と出血傾向を示す疾患である.急性ITPと慢性ITPに分けられる.急性ITPは小児に多く,男女比は1 : 1で,大部分はウイルス性の上気道炎,胃腸炎が先行する.ほとんどが6か月以内に自然に寛解し予後良好である.一方慢性ITPは成人に起こり,男女比は1 : 4で女性に多く,自然寛解はない.妊娠中に問題になるのは慢性ITPである.ITPは妊娠に合併する血液疾患としては最も多い.血小板に対する自己抗体(PA IgGなど)が産生がされ,抗血小板抗体が結合した血小板が脾臓などの網内系で破壊される.血小板が減少し母体に出血傾向をもたらす.また抗血小板抗体は,ときに胎盤を経由して胎児に移行し,胎児の血小板減少を招き,経腟分娩をすると児に頭蓋内出血などの重大な出血が起こることもある.

 2 治療方針

 ITPが妊娠前にすでに発症している場合,妊娠許可の基準としては,ITPが寛解していることが望ましい.すなわち,治療を中止しても血小板数が5万/mm3以上に維持できることが理想的である.若い女性で妊娠を希望するが,(1)副腎皮質ホルモンが無効である,(2)副腎皮質ホルモンが有効であるが維持量が多い,(3)副腎皮質ホルモンが有効であるが骨粗鬆症や糖尿病などの副作用でその継続が困難である,などの場合は,早めに積極的に摘脾を考慮するべきである.

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1 診療の概要

 再生不良性貧血は妊娠に合併することは稀であるが,重症である場合は母体の生命予後も悪くする重篤な疾患である.貧血,白血球減少,血小板減少という汎血球減少があり,骨髄穿刺で骨髄の低形成が証明されることで診断できる.表に重症度分類を示す.

 伴性劣性遺伝するFanconi貧血のような先天性のものも一部あるが,ほとんどは後天性である.さらに,後天性のものは薬物,化学物質,感染,放射線などに続発するものもあるが,大部分は特発性である.特発性のものでは,造血幹細胞の質的異常や免疫学的機序による造血幹細胞の障害が骨髄低形成の原因と考えられている.

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1 診療の概要

 先天性の血液凝固系の異常にはさまざまな疾患が知られている.大きくは,先天性に出血傾向を示すものと血栓傾向を示すものに分けられる.出血傾向を示すものでは,凝固因子が先天性に低下,欠損しており,妊娠中および分娩時の多量出血が重大な問題となる.

 一方,先天性に血栓傾向を示すものでは,凝固を阻害する調整蛋白が欠損しているものが多い.妊娠中は,これに生理的な過凝固傾向が加わり,しばしば深部静脈血栓症を起こす.特に分娩時には血栓症から続発する肺塞栓症など重要臓器の塞栓症が致命的となることもある.Antithrombin III(AT III)欠損症,protein C欠損症,protein S欠損症などが知られている.妊娠中の治療はヘパリン療法が中心となり,ATIII欠損症ではATIII製剤も投与される.またハイリスク例では,肺塞栓症の予防のため分娩時に下大静脈フィルターが一時的に留置されることもある.詳細は本特集の他稿に譲る.

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1 診療の概要

 全身性エリテマトーデス(SLE)は20~30歳代に好発する自己免疫疾患である.特徴的な皮膚症状に加えて関節,腎臓,中枢神経系,血球系など広汎な臓器に炎症を伴って発症する.近年ではステロイドや免疫抑制薬などの治療法の進歩によって生命予後は著明に改善し,妊娠,出産を経験する症例も増加の傾向にある.しかしながら,SLE合併妊娠は母児にとってきわめてハイリスクであることに変わりはなく,母体にとっては妊娠の継続が困難となる可能性ばかりでなく,妊娠終了後にも長期にわたって後遺障害を残す可能性があり,胎児にとっては流産や早産,あるいは子宮内胎児死亡(IUFD),IUGR(intrauterine growth restriction),胎児低酸素症などの重篤な合併症を発症する可能性を認識しておく必要がある.

 2 治療方針

 SLE患者にはSLEの活動性が低く,臓器障害を伴わないことを妊娠の条件としているが,妊娠確定時にはSLEの活動性と臓器機能を再度評価しておく必要がある.妊娠継続が可能と判断される症例では,妊娠中のSLEの再燃など妊娠がSLEに与える影響と,妊娠経過,胎児発育など妊娠に対してSLEが及ぼす影響の両者を考え,患者にも十分に説明したうえで経過を観察する.

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1 診療の概要

 慢性関節リウマチ(RA)は末梢関節の滑膜炎を主体とする自己免疫疾患である.小関節が対称性に腫脹し,徐々に関節の破壊,変形が進行する.全身の結合組織に炎症が及ぶと皮下結節,間質性肺炎,胸膜炎,上強膜炎を引き起こし,稀に全身の血管炎を呈する.妊娠中には症状が軽快するが,逆に産褥期には悪化することが多い.

 2 治療方針

 RAによる炎症が妊娠に与える影響は少なく,流早産や胎児発育障害のリスクは通常問題とならない.ただし,リウマチを合併し,初回妊娠時に妊娠中毒症や早産,低出生体重児の出産などを経験した妊婦では,次回の妊娠時にもこれらの異常を合併する頻度が有意に高いと報告されており1),慎重な妊娠経過の観察が必要である.一方,RAに対する治療については,治療薬の増量を必要とすることは少ないが,治療薬の催奇形性などが問題となる.出産後には症状の増悪を認めることがあり,ステロイド増量や抗リウマチ薬,免疫抑制薬の使用が必要となることもある.

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1 診療の概要

 1980年代中頃に,細胞膜の重要な構成成分としてのリン脂質に対する自己抗体の存在とその測定法の原理が発見された.1986年,この抗リン脂質抗体陽性例における一連の臨床特徴が注目され,これらの疾患群を「抗リン脂質抗体(aPL)症候群」と呼ぶことが提唱された.現在,世界的に認知されている.aPL症候群の主な臨床所見は,血栓症と不育症である.産婦人科領域におけるaPL症候群としては,不育症以外に原因不明不妊症,子宮内胎児発育遅延,早期発症重症妊娠中毒症,胎盤早期剥離などが報告されている.SLEなどの自己免疫疾患を合併したaPL症候群を続発性aPL症候群として,それ以外の原発性aPL症候群と区別されている.

 2 抗リン脂質抗体陽性の診断検査

 現在までに,数多く(10種類以上)のaPLの存在が報告されているが,現時点で臨床的にaPL検査をするならば,表1に示したように,まずレベル1として,希釈ラッセル蛇毒時間法(dRVVT)によるループスアンチコアグラント(LAC)と抗カルジオリピン抗体(aCL)の検査を提案する.その理由として,この2つの抗体は世界的にみて最も基本的な抗体であり,最も多くの研究報告がなされており,疾患感受性が高く,保険の適用になっているからである.

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1 診療の概要

 細菌性腟症という用語は,今から約20年前の1984年1月,ストックホルムにおけるBacterial Vaginosis Symposiumより使用された1).それ以前の名称は非特異性腟炎であった.非特異性腟炎は,腟炎のなかでカンジタやトリコモナスなどの原因が明らかである腟炎以外の腟炎の総称であった.しかし1980年にSpiegelら2)は,非特異性腟炎においてはLactobacillusが減少し,Gardnerella vaginalisや嫌気性菌であるBacteroides属,Peptococcus属が増加し,これらの細菌が琥珀酸,酢酸,酪酸,プロピオン酸を産生し悪臭の原因になっていることが非特異性腟炎の病態であると報告し,細菌性腟症の実態が明らかにされた.実際,細菌性腟症の患者の腟内細菌は,正常妊婦に存在する乳酸桿菌の数に比べ1,000倍以上も増殖した状態となっている(図1,2).

 この細菌性腟症と流早産の関係を明確にしたのは,1986年,Gravettら3)である.それは,BVと性器クラミジア罹患妊婦においては有意に早産率が高くなるという現象で,そののち同様の報告がなされた.しかし,妊娠時BVの治療により早産が減少するという二重盲検法による検討は,2003年になりやっとUgwumaduら4)により報告されたのである.今後,妊娠時BVの治療は,腟から子宮内への上行性の細菌感染による流早産防止のために,本邦でも積極的に行われることになると期待される.

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1 診療の概要

 成人T細胞性白血病(adult T─cell leukemia : ATL)は1976年に高月らによって発見された予後不良のリンパ系腫瘍で,九州,沖縄,四国などの限定された地域で多発し,家族内発生が多く,主な感染経路は夫婦間,母児間である.

 病型は急性型,慢性型,くすぶり型,リンパ腫型の4つに分類される.ATLの症状はほかの白血病に比べ貧血や出血傾向は少なく,リンパ節腫脹,肝脾腫,皮膚浸潤,高カルシウム血症が出現し,細胞性免疫が低下するため日和見感染(カリニ肺炎,真菌性肺炎など)などの合併症が死因となることが多い.治療は多剤併用化学療法であるが,完全寛解率は30~40%と低く,生存期間の中央値は約8か月である.疫学的には,本邦では約120万人以上のキャリアが存在し,そのうちで年間約1,000~2,000人に1人の率でATLが発症する.キャリアの生涯累積発症危険率は男性が4.5%,女性が2.6%と報告され,50歳代が多いとされる.

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1 診療の概要

 連鎖球菌(Streptococcus sp.)は溶血性連鎖球菌という名のごとく,発育した培地上に示される溶血の有無により病原性が判断され分類されてきたが,Lancefieldにより菌が持つC多糖体の抗原性からA群,B群,C群などに分けられるようになった.

 連鎖球菌,ことにStreptococcus pyogenes(化膿連鎖球菌)はA群連鎖球菌あるいはA群溶血性連鎖球菌とも呼ばれ,扁桃炎,猩紅熱を起こしたり,続発症として急性糸球体腎炎,リウマチ熱を惹起する菌として重視されている.

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1 診療の概要

 B群連鎖球菌(GBS)はStreptococcus agalactiaeとも呼ばれるグラム陽性球菌で,Lancefieldが細胞壁に存在する群特異的多糖体により群別分類したことより生まれた.現在,血清学的に10種(Ia, Ib, II, III, ほか)に型別されているが,抗体価は一部の血清型にしか測定できない.本菌は腟の常在菌の1つで産褥熱患者からも分離されるが,その頻度は低い.そのほか尿,咽頭からも検出される.また,腟培養陽性者のパートナーの尿道から同じ血清型のものが検出されるため,一部STD的な側面を有している1, 2)

 2 妊婦におけるGBS検出率と児への感染様式

 本菌は健常なヒトの腸管にも存在し,会陰部を介して腟内に定着しており,妊婦の10~20%から検出され,発症率は低いが産道感染により新生児GBS感染症を引き起こす.GBS保菌妊婦から出生した児の30~60%に主として体表よりGBSが分離されるが,これは産道による表在性汚染というべきもので,必ずしも感染を意味するものではない.実際に新生児GBS感染症を発症する児は保菌妊婦の1%程度とされ,本邦での発症頻度は全分娩の0.1%以下(約2,000例に1例)である.GBSの感染様式は,図1に示すような分類から,母体からの経産道感染(垂直感染)と出生後の水平感染の二様式がある.産道感染は妊婦の保菌しているGBSが上行性に,あるいは産道通過中に児に感染するものである.

[感染症] MRSA 松田 静治
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1 診療の概要

 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)はmethicillin─resistant staphylococcus aureusの頭文字を取った名称で,現在,院内感染を起こす代表菌種である.通常,臨床材料から分離された黄色ブドウ球菌の多くはペニシリナーゼという酵素を産生するが,ペニシリナーゼを産生する黄色ブドウ球菌はペニシリン系薬を不活化することによりこれらの抗菌薬に耐性となる.メチシリン(DMPPC)やイソキサゾリル系のペニシリン系薬はペニシリナーゼに安定で加水分解されず,抗黄色ブドウ球菌用のペニシリン系薬として使用されてきた.しかし,1961年にβ─ラクタム薬の作用点であるペニシリン結合蛋白(PBPs)のなかにメチシリンをはじめ多くのβ─ラクタム薬が結合しにくいPBP2′が新生したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌,つまりMRSAが報告され,以後,世界各国で分離されるようになった.

 このMRSAは,Mec遺伝子を有し,多くのペニシリン系やセフェム系薬およびアミノ配糖体系などに多剤耐性を示す.また,かなりの株がtoxic shock syndrome toxin─1(TSST─1)やエンテロトキシン(A─D型)を産生し,予後に大きく影響する1)

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1 診療の概要

 血栓症はこれまで本邦では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している.表在静脈ではなく深部静脈(下大静脈,腸骨静脈,大腿静脈および下腿静脈など)に血栓が形成されるものを深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)というが,DVTで問題となるのは,肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)の合併である.

 妊娠中は以下の理由でDVT,さらにはPTEが生じやすくなっている1).(1)血液凝固能の亢進,線溶能の低下,血小板の活性化,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管(特に内皮)障害,および術後の臥床による血液うっ滞,などである.欧米,特に白人では凝固因子の遺伝的構造異常による血栓症が多く,それに環境因子が負荷されて血栓症の頻度が高率であるが,わが国では人種的に凝固因子の構造異常は比較的少なく,環境因子,妊娠・分娩,手術侵襲による血栓症が主体である.したがって,ハイリスク妊婦と考えられるのは,血栓症の家族歴・既往歴(thrombophilia),抗リン脂質抗体陽性,肥満,高齢妊娠,長期ベッド上安静,常位胎盤早期剥離(早剥)の既往,帝王切開術後,著明な下肢静脈瘤などとされている.特に最近の調査では,妊娠初期の重症妊娠悪阻による脱水・安静,妊娠後期の多胎妊娠による長期安静臥床が発症リスクとして高いことが明らかにされた2)

Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療 3.STDの治療と注意点

ケジラミ 関 博之
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1 診療の概要

 ケジラミは性感染症の1つであるが,産婦人科領域の性感染症とは十分には認識されていないようである.通常,産婦人科領域の性感染症としては,クラミジア頸管炎,梅毒,淋病,HIV感染症,尖圭コンジローマ,腟トリコモナス症などが挙げられ,ケジラミを挙げている論文や教科書は少ない.産婦人科外来へ来院するケジラミの患者数は前述した代表的な性感染症の患者数より少なく,その予後も悪くないことなどが論文や教科書に記述されることが少ない原因と推測される.ケジラミの疫学に関する報告は少なく,本邦での頻度は不明であるが,オーストラリアでは性感染症の1~2%と報告されている1)

 ケジラミ(pediculosis pubis)が陰毛に寄生し,陰毛が接触することにより感染し,ケジラミが吸血することにより掻痒感や湿疹が出現する.陰部以外の毛にも寄生することがあるが,幼小児にしばしば散見されるアタマジラミとは種類が異なる.ヒトに寄生するしらみにはケジラミ(Phthirus pubis, Linne 1758)とヒトジラミ(Pediculus humanus, Linne 1758)の2種があり,ヒトジラミには頭髪につくもの(アタマジラミ)と衣類につくもの(コロモジラミ)がある.ケジラミとヒトジラミの鑑別は40倍で虫体や卵を検鏡すると比較的容易である(表1)2)

カンジダ腟・外陰炎 関 博之
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1 診療の概要

 腟・外陰炎は,産婦人科領域の感染症のなかでしばしば遭遇する疾患であり,そのなかで最も頻度の高いものがカンジダ腟・外陰炎である.本来,真菌は腟内の常在菌叢の1つで,真菌が存在するからといって必ずしも病的とはいえない.実際にカンジダは非妊婦の約10%,妊婦の約20%に検出される1).もともとその病原性は低く,宿主側の抵抗力の減弱(重症疾患,悪性腫瘍,術後など)や薬物使用時(抗生物質,副腎皮質ホルモン,卵胞ホルモンなど),妊娠時にしばしば発症する日和見感染の性格が強い.その臨床症状は特徴的な帯下と掻痒感で(表1),問診,視診,腟鏡診,鏡検法,培養法,細胞診などにより診断される(表2).腟・外陰カンジダ症を起こす真菌には,Candida albicans(80~90%),Candida glabrata(10%),Candida tropicalisがあるが,Candida albicansが代表的である.これら菌種間に感染性や病原性の相違はほとんどないと考えられている.Candida glabrataは非適合環境に対する適応性や耐久性が強いため,ほかの2種と比べ近年増加傾向にある.

 2 治療方針

 治療の原則は抗真菌薬の投与と発症因子の除去である(表3)2).抗真菌薬にはpolyene系とimidazole系があり(表4),polyene系腟坐薬は12~14日間,imidazole系腟坐薬は6~7日間の投与を1クールとする.両者における1次効果には差がないが,長期的にみるとimidazole系のほうが有効であるとの報告がある3)

トリコモナス 関 博之
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1 診療の概要

 腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)は5~30 mmの楕円形の虫体で,3~5本の鞭毛を有する鞭毛虫である.腟トリコモナスは腟内に寄生,繁殖してトリコモナス腟炎(trichomonal vaginitis)を起こすが,腟内だけでなく,バルトリン腺,子宮頸管,腟前庭,尿路,さらに男性の性器(前立腺,精路),泌尿器(尿道,膀胱)でも発見される.これらの間の相互移行が考えられるので,腟トリコモナス症(vaginal trichomoniasis)と呼ばれる.腟トリコモナスは代表的な性感染症(STD)の1つではあるが,女性の場合はこれ以外に便器,浴場,タオル,婦人科診療機器などからの感染もありうる.集団検診で得た細胞診標本におけるトリコモナスの感染率は0.4%前後1),腟炎症状で来院した患者におけるトリコモナス陽性率も0.4%2)であり,トリコモナスの感染率は0.4%前後とする報告が多い.

 トリコモナス感染の特徴は,ほかのSTDより罹患年齢が高いこと,ほかのSTDの重複感染率が高いことが挙げられる3).自覚症状は臭気を伴う帯下の増量(しばしば泡沫を伴う)と外陰掻痒感,灼熱感である.他覚的には腟入口部,腟壁,子宮腟部の強い発赤を認める.さらに,性交痛,性交後の腟壁出血,尿道炎,膀胱炎症状を伴うこともある.腟トリコモナスを検出すれば診断は確定する.診断法には鏡検法と培養法がある(表1).

クラミジア 宮内 彰人
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1 診療の概要

 クラミジア(Chlamydia trachomatis : CT)感染症は最近の発生動向調査によれば,最も発生頻度が高い性感染症(STD)で,若年女性に多く,さらに増加傾向にある.CTは子宮頸部円柱上皮に親和性を有し,子宮頸管炎として発症するが,妊婦の場合は妊娠子宮に感染が波及し絨毛膜羊膜炎へと進展し,それが原因で流早産が起こることもある.Algerら1)は前期破水症例についての検索により,対照と比べ有意に高率にCTが陽性であることを報告し,早産,前期破水のリスク因子としての重要性を指摘している.また,分娩時に垂直感染を起こし,新生児の結膜炎,肺炎の原因にもなることが知られている2)

 2 治療方針

 クラミジア頸管炎は一般には無症状のことが多いとされており,気づかずに放置されると流早産の誘因となる.したがって,妊婦においてはスクリーニング検査によりCTを検出することが重要である.CT陽性の妊婦にはマクロライド系の抗菌薬を投与する.パートナーの同時治療も必須である.耐性菌は未知であり,治療が的確に行われればほぼ100%完治する.

尖圭コンジローム 宮内 彰人
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1 診療の概要

 尖圭コンジローム(condyloma acuminatum)はヒトパピローマウイルス(human papillomavirus : HPV)の良性型(6,11)の感染による良性腫瘍であり,外陰肛門周囲,腟,子宮頸部に多発する鶏冠状の淡紅色の乳頭状腫瘍を形成する.接触感染であるためSTDとしての要素が強く,性行為のパートナーの60~70%に発症し,生殖の年齢に多い疾患である.一般に自覚症状は乏しいが,掻痒感や違和感を訴えることがある.

 吉川1)によれば,日本における妊婦の尖圭コンジローム合併率は0.21%と米国に比べて低く,かつ妊娠中に発症しても,尖圭コンジロームが流・早産の原因になることはないと考えられている.分娩後には自然消失することが多いが,分娩時に産道感染を起こし,児に高率に喉頭乳頭腫を発症することが報告されている2).さらに重症化すると反復性呼吸器乳頭腫によって,嗄声や気道閉塞を起こすこともある.

性器ヘルペス 宮内 彰人
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1 診療の概要

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)はヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスで,1型と2型とがある.両型ともに皮膚や粘膜に感染し,限局性の水疱性病変を形成するが,初感染でも不顕性感染の形をとる場合もある.

 感染局所で増殖したウイルスは末梢神経の軸索を伝わり,神経後根細胞に運ばれて宿主の生涯にわたり潜伏する.紫外線,発熱,外傷,免疫抑制,担癌などでウイルスが再活性化されると,神経の末梢に到達して増殖し神経支配域の皮膚・粘膜に病変を形成する.

梅毒 加納 武夫
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1 診療の概要

 梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum : T.p.)の感染によって起こる慢性の全身性の性感染症である.感染経路は主に性行為または類似の行為により,皮膚や粘膜の弱いところや小さな傷からT.p. が侵入する.症状のある顕性梅毒と無症候性梅毒に分かれるが,実際の臨床の現場では,妊婦検診,術前検査,献血時,風俗嬢などの性病検査などで行われる血液検査で偶然発見されることが多い.梅毒に感染した母体から経胎盤的に児が感染したものを先天梅毒と呼び,それ以外を後天梅毒と呼ぶ.

 梅毒血清反応には,カルジオリピン(リン脂質)を抗原とするSTS法(serologic test for syphilis)としてガラス板法,RPR法などがある.STSは感染後3~4週間で陽性となるが,検出に用いる抗体はT.p. に特異的でなく,妊娠,種々の感染症,膠原病などで陽性となることがある.これを生物学的偽陽性(biological false positive : BFP)と呼ぶ.

淋菌 加納 武夫
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1 診療の概要

 淋菌感染症は,若い女性の性感染症のなかではクラミジアに次いで多い疾患である.女性の淋菌感染症は,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)感染者との性行為により,まず子宮頸管に感染病巣が発生し,子宮頸管炎となる.頸管炎の主症状は膿性帯下(3~4人に1人が自覚)であるが,無症候性の場合が多い.無治療で放置されると子宮内膜,卵管,骨盤腹膜へと感染が拡大(上行感染)していき,長期に及べば不妊症や子宮外妊娠の原因となりうる.

 感染後間もない保菌者(頸管炎)が妊娠した場合,通常は妊娠中に淋菌検査がされることはないため,無治療のまま妊娠が経過していく.この際,稀に絨毛膜羊膜炎による流早産,IUGRなどを起こすことがある.無治療の母体より新生児が産道感染を受けると,生後2~4日目に結膜炎を発症する.その特徴は多量の黄色膿性眼脂と結膜の充血である.

AIDS(HIV感染症) 加納 武夫
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1 診療の概要

 HIV(human immunodeficiency virus)は主としてCD4陽性Tリンパ球やマクロファージ系細胞に感染するレトロウイルスである.HIVは血液,体液などを介して感染するが,現在,日本では異性間および男性同性間の性的接触が主な感染経路である.

 HIV感染症は大きく3つの病期(急性感染期,無症候期,AIDS期)に分けることができる.感染したHIVは,主としてリンパ節のなかで急速に増殖し,感染後2~3週の間に1×106 copy/mlを超えるウイルス血症を呈する.約半数の患者はこの時期に発熱,発疹,リンパ腺腫脹などの急性感染症状を呈するが,数週間で消失する.やがて患者の免疫機構が活動を始めるとウイルスは排除されていくが,一方でウイルス自身も活発に増殖しようとするため,両者が拮抗する状態へと移行する.この時期には血漿中のHIV─RNA(ウイルス)量は総量として減少しながらほぼ安定した値に保たれ,これをセットポイントと呼ぶ.この間はほとんど症状なく経過し(無症候期),これが約5~10年くらい持続する.このバランスが崩れ,HIV─RNA量が増殖し,標的細胞であるCD4陽性リンパ球数が徐々に減少してくると細胞性免疫不全の状態を呈し,AIDSに特徴的症状(指標疾患 : 日和見感染,腫瘍,カンジダなどの真菌症,ウイルス感染症,細菌感染症,原虫症,カポジ肉腫,リンパ腫などの腫瘍)が発症する.この状態が後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome : AIDS)である.

Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療 4.妊娠・出産にかかわる疾患の治療と注意点

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1 診療の概要

 不育症とは,流産や死産,早期新生児死亡を繰り返して健児が得られない病態ないし疾患群である.習慣流産は,連続した3回以上の自然流産既往があり,連続2回の場合は反復流産と呼ぶ.健児がない場合は原発性で,健児を得たあとに自然流産を繰り返した場合は続発性と呼ぶ.実際に外来に訪れる患者のうち半数は反復流産である.

 健児を得ることができないかもしれないという不安を取り除くために,精査・治療開始前に以下に示す初期カウンセリングが行うことが最も重要である.不育症の一般疫学,検査内容,費用,大まかな治療内容についても説明を加える.

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1 診療の概要

 切迫早産の概念について本邦と諸外国では相違がある.すなわち本邦では,妊娠37週未満で周期的に子宮収縮が認められ,子宮頸管の短縮と熟化のみられるものを切迫早産と考えるのに対し,米国産婦人科学会(ACOG)では,(1)子宮収縮が20分に4回もしくは60分に8回以上あり,子宮頸管の開大が進行していくこと,(2)子宮頸管が1 cm以上開大していること,(3)展退が80%以上であること,の3点を満たすものと定義している1).そのため,米国では肺成熟促進目的のステロイド療法の効果が出るまでの妊娠延長が論議されるのに対し,本邦では長期の妊娠延長の効果が論議される.

 切迫早産症状には頸管熟化と子宮収縮という2つの要素があり,感染などによるサイトカインの産生が重要であるが,種々の要素が絡み合って発生する2).特に妊娠28週以前では感染症が関係していることが多いといわれる.一方,前期破水は陣痛開始前に破水するものをいい,早産の原因の1つである.種々の原因が考えられるが,最近,感染の関与が注目されている.

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1 診療の概要

 妊娠中毒症は,さまざまな病因・病態論が提起され,その本質を見極めようとする努力が盛んに行われてきた.その結果,本邦においてもその概念が大きく変わろうとしている.すなわち,三主徴を同等に扱うのではなく,本病態の本質は高血圧症にあるという考えから,浮腫単独はもちろん,蛋白尿が存在しても高血圧が発症しない限り本病態から切り離して考えることとなった.詳しくは,日本産科婦人科学会の会告を参照されたいが,本稿ではこの決定に基づいて妊娠高血圧症もしくは妊娠高血圧症候群の治療という観点から論じることとする.

 2 治療方針

 今回の疾患名を含む定義の改訂によるわけではないが,以前より妊娠中毒症の薬物療法としては,三主徴のうち高血圧のみが対象と考えられていた.確かに,かつて用いられていた利尿降圧薬については浮腫の存在をも考慮していたと考えられるが,特殊な病態を除いて循環血漿量を減じるとされる本剤の妊娠中の投与はむしろ禁忌とする考え方が強まっている.

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1 診療の概要

 陣痛に関しては,日本産科婦人科学会の陣痛の強さの表現法小委員会において議論された経緯があり,陣痛の強さは子宮内圧によって表現すると結論付けられている.一方,破水後でなければ測定できない子宮内圧を臨床的に用いるのは必ずしも適当とはいえないことも多く,同小委員会では,陣痛の強さを陣痛周期と陣痛発作持続時間とをもって表現することを臨床的に認めるとしており,これを用いた定義を示している(表1,2,3).しかし,この定義は,正常と思われる陣痛の推計学的処理によって定められたものであり,微弱あるいは過強陣痛がどのような障害を起こすかについての検討は臨床的に困難であったと付記されている.したがって,微弱陣痛とは,これらの要素の減弱を持って診断されるが,前述のような経緯を考えると,狭骨盤や回旋異常などがないにもかかわらず,分娩進行障害が生じている場合において,臨床的に診断されるべきものであると考えられよう.

 微弱陣痛は,原発性と続発性に分類されることが多い.前者は,多胎妊娠や巨大児,羊水過多などによる子宮筋の過伸展のほか,子宮筋腫なども原因と考えられている.一方,続発性微弱陣痛には,産道の異常や回旋異常などによる分娩進行障害によって疲労性に生じるものが多い.

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1 診療の概要

 過強陣痛については,別項で述べた微弱陣痛と同様に子宮内圧と陣痛周期による定義があるものの,これを数値として絶対的に利用することには,この定義の付記に記されたように問題があることはいうまでもない.一般的には,陣痛が強大となったりその間欠が異常に短縮することによって胎児の低酸素症が出現したり,あるいは切迫子宮破裂や頸管裂傷など重大な母体損傷が生じ得るような状態と考えるべきである.

 一般的に,その原因としては陣痛誘発・促進時における薬剤性のものが問題となることが多い.しかし,妊娠末期にもかかわらず比較的未熟な時期にcardiotocogramを施行した場合(いわゆるnon─stress testとして)に,5~7分以上も持続するような異常に持続の長い子宮収縮がみられることがあり,late deceleration様に胎児心拍数の低下がみられ,取り扱いに苦慮することがある.これも一種の過強陣痛と考えることができよう.

[妊娠・分娩] 弛緩出血 末原 則幸
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1 診療の概要

 わが国の妊産婦死亡の死因分析において出血性ショックは約37%を占め,最も重要な死因である.その出血性ショックの原因として弛緩出血は子宮破裂に次いで多い.このように,弛緩出血の適切な対処は妊産婦死亡を減らすために重要である.

 分娩時,胎盤が剥離すると胎盤剥離面に無数の断裂血管が露出する.しかし,その断裂血管は子宮筋の収縮によって狭小化し,血流が遮断される.これを生物学的結紮(biological ligature)という.そこに血栓ができ一時止血が起こる.この子宮筋の収縮が十分でないと,胎盤剥離断面からの出血が持続する.子宮のマーサージなどによって一時的に子宮筋の収縮が起こっても,しばらくすると子宮が弛緩して出血をするということを繰り返して,波状的に暗赤色の出血をみることがある.

[妊娠・分娩] 産科DIC 末原 則幸
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1 診療の概要

 妊娠中は凝固因子の増加と,凝固抑制因子の減少,線溶を抑制する因子の増加など,凝固亢進,線溶抑制の状態にある.このことは妊娠・分娩に際しての出血量を少なくするという合目的的ではあるが,血栓を生じやすく,DICに陥りやすい状態にある.

 弛緩出血や子宮破裂,頸管裂傷などである程度の出血があっても,子宮内に蓄えられていた血液が体循環に戻るため,ある程度の出血には産婦は耐えるが,出血量が多くなり,循環血液量が減少すると交感神経系が緊張し,カテコラミンの分泌亢進により心拍数が増加し,末梢血管抵抗が増す.また赤血球の減少も相俟って末梢での低酸素状態が続き,嫌気性代謝が進み,代謝性アシドーシスとなる.さらに循環不全が続くと,血管内水分は細胞間質へ漏出し,循環血液量がさらに減少する.このような循環障害が改善されないと,多臓器不全へ移行し不可逆性ショックに陥るとともに,血管内の凝固因子が消費されDICをきたす.

[妊娠・分娩] 無痛分娩 照井 克生
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1 診療の概要

 分娩・出産に伴う子宮収縮や会陰部の伸展に伴う痛みを和らげるに方法には,(1)薬物によらない方法と,(2)薬物を用いた方法がある.前者の代表としてラマーズ法による呼吸訓練があり,精神予防法,アロマやマッサージ,イメジェリーに加えて,鍼や経皮的電気刺激法(TENS)もある程度の効果がある.

 これらの方法を用いても鎮痛効果が不十分な場合,薬物を用いた方法が必要となる.薬物を用いた無痛分娩法は,(a)全身投与法(いわゆるバランス麻酔が含まれる),(b)区域麻酔法に分けられる.

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1 診療の概要

 分娩終了後,増大した妊娠子宮が非妊娠時の状態に復する現象が子宮復古で,3~4週間で非妊娠時の大きさとなり,胎盤が剥離した子宮内膜面が機能的に修復するには6~8週を要する.子宮復古不全は,産褥の子宮復古が障害された状態で,子宮は大きく,軟らかで,出血が持続する.胎盤片や卵膜遺残,子宮内感染,筋腫合併,多産婦などが原因となり,子宮壁の過伸展,産褥の不摂生,非授乳,膀胱直腸の充満,内分泌異常,創傷治癒機転障害などが復古不全を助長する.

 診断は,子宮が産褥日数に比べ大きく柔軟で,悪露は持続し,比較的多量の出血をみるといった臨床所見による.胎盤片が長期間子宮内に残存すると組織化し胎盤ポリープが形成され,長期にわたる出血の原因となり,ときに大出血をきたす.子宮腔内の凝血塊や胎盤,卵膜遺残の確認に超音波断層法が有用であり,胎盤ポリープの診断にはsonohysterographyが有用である.

[産褥] 産褥熱 鴨下 詠美 , 天野 完
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1 診療の概要

 産褥熱とは,分娩終了24時間以降,産褥10日以内に,2日以上,38℃以上の発熱が持続する場合と定義されている(日産婦用語集).感染が分娩により生じた損傷部位に限局した限局性産褥熱と,敗血症のように感染が拡大した重篤な全身性産褥熱に大別される.産褥期の乳腺炎,腎盂腎炎などの偶発疾患による感染,発熱との鑑別が不可能なことも多い.

 敗血症をきたすと,エンドトキシン,エキソトキシンなどの毒素はショックやDICを引き起こし,多量のサイトカインが産生,放出され,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome : SIRS)から多臓器不全に陥り高率に死の転帰をとる(図1).

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1 診療の概要

 産褥期の乳汁分泌の維持にはプロラクチン(PRL)が重要な役割を担う.産褥婦の血中PRL値は非妊時に比べ有意に高値であり,また分娩後に血中PRL基礎値は徐々に低下し,授乳を行わない産褥婦では分娩後2~3週間で,授乳産褥婦では3~4か月後頃に非妊時レベルになるが,哺乳刺激により一過性の血中PRL値の上昇が起こり,産褥期の乳汁分泌の維持に寄与する1).一方,オキシトシンは射乳に関与するホルモンで,哺乳刺激以外に哺乳を予感したときにも分泌が促進され,ストレスや恐怖により分泌が抑制されることから,乳汁分泌は心理的要因に大きく影響される.また,成長ホルモンも乳汁分泌に関与していると考えられる2)

 母乳と人工乳を比較すると,母乳は各栄養素の質とバランスがよく,消化・吸収がよいため,胃腸・肝臓・腎臓への負担が小さく,また感染防御物質が含まれ,アレルゲンも少ない.したがって,母乳育児は新生児の下痢の頻度および重症化を減少させ,呼吸器感染症や菌血症,細菌性髄膜炎,尿路感染症,壊死性腸炎などを明らかに減少させ,乳幼児突然死症候群やインスリン依存性糖尿病,クローン病,潰瘍性大腸炎,リンパ腫,アレルギー疾患などに対し予防効果がある可能性が示唆されている3).また,母乳育児により乳房を介した母子のスキンシップにより五感を通じて母児相互の愛着が形成され,母児双方に安定した情緒を形成するうえでも重要な役割を果たしている4).さらに,母乳栄養を受けていた乳児が学童期・思春期に過体重のリスクが低いこと,母乳育児期間と児の知能には正の相関があることが示されている5, 6)

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1 診療の概要

 乳頭裂溝は産褥初期の乳汁分泌がまだ不十分な時期に,不慣れな授乳方法や新生児の不慣れな吸啜などにより発生し,乳頭潰瘍に発展する場合があり,さらに乳腺炎の誘引になる.Cernadasら1)は,産褥6か月間の完全母乳育児に影響を与える因子を検討し,母親の母乳育児に対する前向きな態度,適切な家族の支援,良好な母児の絆,適切な吸啜技術,そして乳頭のトラブルがないことを挙げており,母乳育児を実施するうえで乳頭裂溝,乳頭潰瘍の予防および管理は重要である.

 乳汁分泌は分娩後3~4日以降に亢進してくるが,乳頭裂溝や湿疹などによる乳管開口部の閉鎖,血管・リンパ管のうっ滞による乳管の圧迫,乳汁分解産物や脱落上皮による乳管の閉鎖などにより乳汁の排出障害が起こると乳汁のうっ滞が発生する2).産褥初期に乳管の開口が不十分な場合に乳汁がうっ滞し,乳房の発赤や腫脹,疼痛などを訴えるのが乳汁うっ滞性乳腺炎(非化膿性乳腺炎)で,産褥1週間前後に片側性に発生することが多く,また初産婦に多い.一方,化膿性乳腺炎には乳汁のうっ滞などが誘引となって乳管口から上行性に乳管や乳腺実質に感染する実質性乳腺炎と,乳頭裂溝などからリンパ行性・血行性に乳腺間質に感染する間質性乳腺炎があり,実質性乳腺炎が最も多い.化膿性乳腺炎では乳房症状が強く,悪寒・戦慄を伴う38℃以上の発熱をきたす.病原菌は産褥婦自身の手,指,乳房表面などや新生児の口・鼻腔粘膜などの常在菌で,メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む黄色ブドウ球菌や連鎖球菌,大腸菌,肺炎球菌,真菌などが関与する.また,化膿性乳腺炎を放置すると約10%に膿瘍を形成する.

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はじめに

 女性のライフサイクルのなかで妊娠・出産および育児期は,内分泌的均衡の変動など生理学的変化と心理社会的状況の変化とが同時に起こり,うつ病の発症をはじめとして,メンタルヘルスに不調をきたしやすい時期である.その状態像は,軽症で一過性の場合から重症までと幅広い.身体的疾患のみならず,妊産婦の精神障害を見逃さないこともまた,われわれ産婦人科医の重要な責務である.

連載 Estrogen Series 63

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WHI(Women's Health Initiative)によるエストロゲン療法(estrogen therapy : ETと略す),およびエストロゲン+プロゲステロン療法(hormone therapy : HTと略す)に伴う血栓症などの合併症の軽度な増加は,すでに女性ホルモンを使用している女性たちにどのような影響与えたであろうか.

 ここに紹介する研究者たちは,WHI発表の2年前から発表の5か月後までの期間(これは暦のうえでは1999年9月1日より2002年の6月31日に至る期間に当たる)における女性ホルモンの使用状況を調べた.対象は40~80歳までの169,586人で,女性ホルモンを使用しているものと使用していないものとの混合の人口である.HTおよびETの使用状況は薬局における処方箋により追跡した.これらの患者はすべて5か所のHMOに属しており,追跡は実質的に100%可能であった.

連載 病院めぐり

中部労災病院 津田 弘之
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中部労災病院は伊勢湾を臨む港湾地帯に位置し,昭和30年3月の開院以来,名古屋市南部地域のセンター病院として,勤労者や地域住民の医療需要に応じた高度な医療を提供しています.当院は病床数621床,21診療科から成り立っており,とりわけ東海地区で最初の設置となる糖尿病センター,東海地区随一の規模を誇るリハビリテーション施設といった設備があり,労災医療の充実にも努めています.また,女性特有の健康相談に応じるべく設けられた女性専門外来も特徴の1つです.

 現在,新病院が建設中で,平成19年度に竣工予定です.新病院は,医療の高度化,疾病構造の多様化,高年齢化などに対する21世紀の医療に十分対応できるよう設計されており,われわれスタッフもこれからの患者様のニーズに対応できるよう努力しています.

富山赤十字病院 桑間 直志
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富山赤十字病院は,JR富山駅北口から徒歩約15分のところに位置し,「とやま都市MIRAI計画」地域内にあり,神通川・呉羽山の四季に恵まれ,遙かに立山連峰の絶景を望む快適な自然環境のなかにあります.当院は,地域の中核的医療機関として活躍し,赤十字が担う使命と性格を踏まえ,患者さんに優しく心のこもった温かい医療の提供を目指しています.その歴史は古く,明治40年5月に全国で5番目の赤十字病院として開設されました.現病院へは,平成8年8月に新築移転し,平成13年3月に臨床研修病院に指定され,同年8月には日本医療機能評価機構認定病院となりました.平成16年3月には電子カルテシステムが導入され,クリニカルパスなども積極的に導入・活用し,医療の効率化を目指しています.診療科は21科で,病床数は520床,常勤医は全体で63名です.産婦人科は4名の常勤医で診療全般を行っており,病床数は産科15床,婦人科20床を擁しています.

 産科は,地域周産期医療の第二次救急施設として位置づけられています.妊娠中は,超音波検査での出生前診断も含めた胎児管理・母体管理を行い,早産予防などに努めています.必要があれば,小児循環器医による胎児心エコーも行っています.NICU設備がないので妊娠中期の早産,前期破水には対応できませんが,妊娠後期の切迫早産や合併症妊娠の母体搬送には対応しています.合併症妊娠では,他科と併診しながら総合的管理を行っています.平成15年の分娩数は760件(うち帝王切開は47件 : 帝切率6.2%)でした.帝切後経腟分娩や骨盤位分娩も症例を検討しながら行っています.過去10年間の帝切後経腟分娩の成功率は139/149症例で,93.3%でした.また,助産師を中心にユニセフ・WHOの「母乳育児を成功させるための10か条」の実践を目標に,母乳育児に対しても積極的に取り組んでいます.

連載 OBSTETRIC NEWS

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インドメサシンは,北米では産科領域では羊水過多症の治療と陣痛抑制剤として使われる薬剤である.欧米では多くの施設が早発陣痛の際に硫酸マグネシウム投与で不成功のときに第二選択の薬剤として採用している(Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 77 : 41, 1998).

 2004年の米国周産期医学会の卒後教育講義でも「早産 :(切迫早産妊婦に)陣痛抑制剤を投与すべきか?」というテーマが取り上げられ,講師Mercerは対照5研究(Gamissans 1978/Spearing 1979/Niebyl 1980/Katz 1983/Zuckerman 1984)とCochrane Libraryを引用しインドメサシンに関する有効性を取り上げ,インドメサシン投与により周産期死亡や新生児罹患は減少しないが,分娩時期延長(48時間,7~10日間)と早産率減少のうえでは有意に改善がみられることを紹介している(in syllabus of Obstetric Controversies : What to do when experts disagree, February 3, 2004).

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はじめに

 更年期女性では,低エストロゲン状態により自律神経系が不安定となり多彩な愁訴を認め,同時に血圧の変動も激しい.多くは,ホルモン補充療法(以下,HRT)によりその治療を行っているが,子宮筋腫などのエストロゲン依存性疾患を合併している場合,その増悪が懸念される.また,更年期女性でHRTにより乳癌,虚血性心疾患,脳卒中,肺塞栓などの発症リスクがむしろ高くなることが米国の大規模試験により明らかにされ,有害性が有益性を上回ることが発表された1).その結果が日本女性に当てはまるか否かについては疑問の余地も残されているが2),HRTを行う場合には慎重に管理する必要がある.一方,持続性アンジオテンシンII受容体拮抗薬(以下,ARB)であるカンデサルタンシレキセチルは,降圧効果のほかに心拍数や交感神経系の反応性を低下させることが報告されているが3, 4),今までのところカンデサルタンシレキセチルを更年期障害の治療目的に使用した報告はない.

 今回われわれは,子宮筋腫および高血圧症を合併した更年期障害患者において,カンデサルタンシレキセチルを投与し更年期症状の改善が認められた2例を経験したので報告する.

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はじめに

 外陰部に発生する悪性腫瘍は,婦人科性器癌の1.8~5%といわれている.外陰癌の90%以上は表皮由来であり,バルトリン腺由来は稀で2~7%と報告されている1,2).今回われわれは,バルトリン腺原発と考えられる腺癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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臨床婦人科産科
59巻4号 (2005年4月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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