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1 診療の概要
1980年以前は,Shayによるバランス説により胃潰瘍の成因が理解されてきた.すなわち,攻撃因子(胃酸やペプシン)と防御因子(粘液や重炭酸)のバランスが崩れることにより潰瘍が発生するという考えである.十二指腸潰瘍に関しては,過酸との関連が深いことが知られていた.1983年にオーストラリアの病理学者ワレンと内科医マーシャルによって,ヘリコバクターピロリ〔Helicobacter pylori(H. pylori)〕が胃炎患者から発見されて以来,胃炎や胃・十二指腸潰瘍にH. pyloriが深くかかわっていることがわかってきた.
消化性潰瘍の成因のうち,H. pylori由来とされるものは,十二指腸潰瘍で95%,胃潰瘍で75%前後とされている.H. pyloriが粘膜障害を起こすメカニズムとして,(1)H. pyloriの持つウレアーゼ活性により胃液の尿素が分解されてNH3が産生され,このNH3による直接的な胃粘膜の細胞障害が引き起こされる.また,(2)H. pyloriが胃粘膜に感染することにより好中球が誘導され,好中球により産生されたスーパーオキシドアニオンを介して次亜塩素酸が産生される.この次亜塩素酸とNH3が反応することにより生成されるモノクロラミンはきわめて強い細胞毒性を有する.これらに加え,(3)NH3により胃内のpHが上昇し,このpHの上昇を補おうとして起こる胃酸の分泌増加などが考えられている.このためH. pyloriがいる限りは胃・十二指腸潰瘍はなかなか改善しない.ストレスなどによる急性潰瘍もH. pyloriが存在すると発症しやすく,治癒し難い.H. pylori以外の重要な成因としては,非ステロイド性消炎鎮痛薬(non─steroidal anti─inflammatory drugs : NSAIDs)がある.
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