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1 診療の概要
各種食道炎のうち妊婦にとって問題となるの胃液や胆汁などの消化液が食道内に逆流し,食道粘膜を傷害する逆流性食道炎である.その病態は多面的であり,下部食道括約筋などによる逆流防止機能機能の低下,胃内容物の量や性状の異常,食道の酸排出能の異常,食道粘膜の抵抗性と修復能の異常などが複雑に絡んで発症すると考えられている.胃食道逆流(gastroesophageal reflux : GER)によって発症する病態を胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease : GERD)と呼び,内視鏡検査にて食道粘膜障害のあるものを逆流性食道炎,内視鏡で異常を認めないものを機能性GERDと呼んでいる.GERDの自覚症状は「胸焼け」と「呑酸症状」であるが,自覚症状の強さと内視鏡所見が必ずしも相関しないことから,粘膜障害のない機能的GERDであっても症状が強ければ患者のQOL向上を考慮して治療すべきであるとされている.治療対象とすべき重症度の程度は,胸焼けの自覚症状に関しては週2回以上出現する場合とされている.
GERDは妊娠時に起こりやすいといわれる.その理由は妊娠時に大量分泌される黄体ホルモンが下部食道括約筋の緊張を低下させること,胎児の成長により増大する子宮が消化管,特に胃を圧迫する結果,胃内圧が高まってGERが起きやすくなるからである.特に妊娠後期,末期に悪化しやすく,分娩終了とともに速やかに軽快,消失する1, 2).妊婦が食後に臥床したときや体を曲げたときに強い「胸焼け」を訴える場合にGERDと診断して間違いない.食べ物がスムーズに胃に収まらず食道や口内に胃内容が戻り,再飲み込みが必要な場合はさらに確実である.胃内視鏡検査による確定診断を対象妊婦すべてに行う必要はなく,GERDとして治療しても症状が治まらない場合や食道炎による合併症が強く疑われる場合などに行えばよい3).
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