今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識
Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療
4.妊娠・出産にかかわる疾患の治療と注意点
[産褥] 乳頭裂溝,乳頭潰瘍,乳腺炎
安藤 一道
1
,
杉本 充弘
1
1日本赤十字社医療センター産婦人科
pp.658-659
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100308
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
1 診療の概要
乳頭裂溝は産褥初期の乳汁分泌がまだ不十分な時期に,不慣れな授乳方法や新生児の不慣れな吸啜などにより発生し,乳頭潰瘍に発展する場合があり,さらに乳腺炎の誘引になる.Cernadasら1)は,産褥6か月間の完全母乳育児に影響を与える因子を検討し,母親の母乳育児に対する前向きな態度,適切な家族の支援,良好な母児の絆,適切な吸啜技術,そして乳頭のトラブルがないことを挙げており,母乳育児を実施するうえで乳頭裂溝,乳頭潰瘍の予防および管理は重要である.
乳汁分泌は分娩後3~4日以降に亢進してくるが,乳頭裂溝や湿疹などによる乳管開口部の閉鎖,血管・リンパ管のうっ滞による乳管の圧迫,乳汁分解産物や脱落上皮による乳管の閉鎖などにより乳汁の排出障害が起こると乳汁のうっ滞が発生する2).産褥初期に乳管の開口が不十分な場合に乳汁がうっ滞し,乳房の発赤や腫脹,疼痛などを訴えるのが乳汁うっ滞性乳腺炎(非化膿性乳腺炎)で,産褥1週間前後に片側性に発生することが多く,また初産婦に多い.一方,化膿性乳腺炎には乳汁のうっ滞などが誘引となって乳管口から上行性に乳管や乳腺実質に感染する実質性乳腺炎と,乳頭裂溝などからリンパ行性・血行性に乳腺間質に感染する間質性乳腺炎があり,実質性乳腺炎が最も多い.化膿性乳腺炎では乳房症状が強く,悪寒・戦慄を伴う38℃以上の発熱をきたす.病原菌は産褥婦自身の手,指,乳房表面などや新生児の口・鼻腔粘膜などの常在菌で,メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む黄色ブドウ球菌や連鎖球菌,大腸菌,肺炎球菌,真菌などが関与する.また,化膿性乳腺炎を放置すると約10%に膿瘍を形成する.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.