今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識
Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療
4.妊娠・出産にかかわる疾患の治療と注意点
[産褥] 乳汁分泌不全,乳汁分泌抑制
安藤 一道
1
,
杉本 充弘
1
1日本赤十字社医療センター産婦人科
pp.655-657
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100307
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1 診療の概要
産褥期の乳汁分泌の維持にはプロラクチン(PRL)が重要な役割を担う.産褥婦の血中PRL値は非妊時に比べ有意に高値であり,また分娩後に血中PRL基礎値は徐々に低下し,授乳を行わない産褥婦では分娩後2~3週間で,授乳産褥婦では3~4か月後頃に非妊時レベルになるが,哺乳刺激により一過性の血中PRL値の上昇が起こり,産褥期の乳汁分泌の維持に寄与する1).一方,オキシトシンは射乳に関与するホルモンで,哺乳刺激以外に哺乳を予感したときにも分泌が促進され,ストレスや恐怖により分泌が抑制されることから,乳汁分泌は心理的要因に大きく影響される.また,成長ホルモンも乳汁分泌に関与していると考えられる2).
母乳と人工乳を比較すると,母乳は各栄養素の質とバランスがよく,消化・吸収がよいため,胃腸・肝臓・腎臓への負担が小さく,また感染防御物質が含まれ,アレルゲンも少ない.したがって,母乳育児は新生児の下痢の頻度および重症化を減少させ,呼吸器感染症や菌血症,細菌性髄膜炎,尿路感染症,壊死性腸炎などを明らかに減少させ,乳幼児突然死症候群やインスリン依存性糖尿病,クローン病,潰瘍性大腸炎,リンパ腫,アレルギー疾患などに対し予防効果がある可能性が示唆されている3).また,母乳育児により乳房を介した母子のスキンシップにより五感を通じて母児相互の愛着が形成され,母児双方に安定した情緒を形成するうえでも重要な役割を果たしている4).さらに,母乳栄養を受けていた乳児が学童期・思春期に過体重のリスクが低いこと,母乳育児期間と児の知能には正の相関があることが示されている5, 6).
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