今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識
Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療
1.日常的な突発疾患の治療と注意点
[消化器系疾患] 胃炎
池内 正憲
1
1日本赤十字社和歌山医療センター産婦人科
pp.435-437
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100225
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1 診療の概要
本来,胃炎とは胃生検組織や手術での切除胃組織の病理組織学的診断名であるが,現在は胃内視鏡の導入と進歩によって内視鏡所見を基本にした胃炎分類が日常診療に用いられるようになっている.わが国では胃炎という概念が日常診療でかなり頻繁に用いられる病名でありながら,それを用いる医師によってその概念や診断基準が非常に異なっていた.1983年にHelicobacter pyloriが胃粘膜組織より分離培養されて以来H. pyloriと組織学的胃炎との関連性について多くのことが明かにされるにしたがって,胃炎の概念,病名,言葉などがより詳細に整理されてきた.教科書的に胃炎は「急性胃炎」,「慢性胃炎」,「そのほかの胃炎(特殊な胃炎,特異性胃炎)」に分類され,それぞれ胃粘膜などの胃組織における内視鏡所見や組織学的所見を基礎に定義されている1, 2).
妊娠によって胃腸の分泌能や吸収能はほとんど影響を受けず,また胃の排出能は変化しないとされているが,妊娠時に大量分泌されるホルモンが胃腸の運動能に影響し,胃腸全体に対しては抑制的に働く結果,胃腸の運動能は低下するといわれる.さらに,妊娠経過とともに容積が増大する子宮による物理的な影響も加わって,胃の内容物の滞留時間が延長することは明らかで,このことが妊娠時の胃炎に微妙な影響を与える.
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