今月の臨床 妊産婦と薬物治療─EBM時代に対応した必須知識
Ⅱ.妊娠中の各種疾患と薬物治療
2.妊娠合併症の治療と注意点
[血栓症] 深部静脈血栓症
小林 隆夫
1
1信州大学医学部保健学科
pp.602-603
発行日 2005年4月10日
Published Date 2005/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100287
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1 診療の概要
血栓症はこれまで本邦では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している.表在静脈ではなく深部静脈(下大静脈,腸骨静脈,大腿静脈および下腿静脈など)に血栓が形成されるものを深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)というが,DVTで問題となるのは,肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)の合併である.
妊娠中は以下の理由でDVT,さらにはPTEが生じやすくなっている1).(1)血液凝固能の亢進,線溶能の低下,血小板の活性化,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管(特に内皮)障害,および術後の臥床による血液うっ滞,などである.欧米,特に白人では凝固因子の遺伝的構造異常による血栓症が多く,それに環境因子が負荷されて血栓症の頻度が高率であるが,わが国では人種的に凝固因子の構造異常は比較的少なく,環境因子,妊娠・分娩,手術侵襲による血栓症が主体である.したがって,ハイリスク妊婦と考えられるのは,血栓症の家族歴・既往歴(thrombophilia),抗リン脂質抗体陽性,肥満,高齢妊娠,長期ベッド上安静,常位胎盤早期剥離(早剥)の既往,帝王切開術後,著明な下肢静脈瘤などとされている.特に最近の調査では,妊娠初期の重症妊娠悪阻による脱水・安静,妊娠後期の多胎妊娠による長期安静臥床が発症リスクとして高いことが明らかにされた2).
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