臨床外科 46巻11号 (1991年10月)

特集 術前・術後管理 '91

A.術前評価・準備・処置

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 ■問題点の解説■

 現代の医療は各方面で細分化や専門化がすすみ,医師に対する社会の見方も“かかりつけの医者”よりも,学会などの認める“専門医”を重視する考え方に変わってきている.一方で,医事訴訟がふえるとともに,医療を医師と患者の契約関係としてみるほうが適切であるかのような見解が広まりつつある.こうして最近,インフォームド・コンセントという言葉がとりあげられることが多くなってきた.「説明と同意」と訳されることが多いこの言葉は,医療を事務的なものとして割り切ってしまう印象を与える危険がある.しかし,手術を前提とする外科治療においては,術前術後の管理において最も大切な基本的事項である.外科医は,患者との真心をこめた対話によって信頼関係をつくる努力をしなければならない.本項では,われわれが実際に行っているインフォームド・コンセントを得るための患者との接触と,手術承諾書について具体的に述べることとする.

輸血のトピツクス 関口 定美
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 ■輸血における問題点とその解説■

 輸血は現在の医療,特に手術に際しては欠くことのできない重要な治療手段の1つであるが,血液という多様な抗原性を有する他人の生体組織の一部を輸注することは,いわば臓器移植ともいうべきであり,輸血後の感作,ウイルス感染症は避け得ない副作用である.したがって,適正で安全な輸血を行うことは,いかにしてこれらの副作用をなくするかにかかっている.

 表1は,輸血副作用の一覧であるが,輸血の実技そのものによる以外での重要な副作用は輸血感作,感染症に関するものであり,輸血される血液そのものに起因することが多いといえる.このことは逆の面からみれば,安全な輸血を行うためには,輸血を可能な限り避けるか,必要最小限の適応にとどめるべきであり,また一方では,輸血血液に対し,これら輸血感作,感染症を予防するなんらかの処置を行うことである.

術前呼吸訓練法 山崎 史朗
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 ■目的と意義■

 最近の社会の高齢化と麻酔・外科手術の進歩発達により,以前では考えられなかった年齢の人でも,かなり安全に手術を受けられるようになってきた.また,高齢になってから各臓器の悪性腫瘍,循環器疾患などに罹患した場合,ある程度のリスクを承知のうえで外科手術に踏み切らざるを得ない場面に日常臨床上しばしば遭遇する.たとえ術中の麻酔,外科手技には問題がなくても,手術侵襲そのものが種々のかたちで術後における全身への負荷となり,各種の術後合併症を発生させる.なかでも,術後肺合併症は最も頻度が高く重要なものとされている.

 術前呼吸訓練法は,この術後肺合併症を術前から予防することを目的としたものである.高齢になると,もともと人は加齢現象によって肺気腫の傾向を持つようになり,それに長年月の喫煙習慣とか汚染大気への曝露が重なると,肺組織の変性,破壊はますます加速されることになる.高齢者は言うに及ばず,重喫煙者,慢性気管支炎患者などが手術を受ける場合にも,術前準備として呼吸訓練は特に必要である.また,一般外科領域においても,以前から特に上腹部手術後に肺合併症が発生しやすいとされており,その頻度は6〜76%と報告されている1).そして,術前の肺機能にまったく問題のない患者でも,かかる手術を受けようとする場合に,術前呼吸訓練の意義は大いにあるとされている.

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 ■問題点の解説■

 手術を受けた患者の術後管理は,患者を手術侵襲より速やかに回復させ,手術的治療の効果を高めるための重要な作業である.これは,狭義には文字どおり術後に始まるのであるが,実際には術前より始まるというべきである.

 術後の臥床状態に起因する術後合併症(表)を減少させるために,術前に患者に理解してもらい,指導しておくべきこととして,排尿訓練(床上排泄),含嗽練習,静脈血栓予防用ストッキング着用,咳嗽(痰の喀出)・深呼吸の方法,体位変換と早期離床の重要性などがある.

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 ■剃毛の問題点■

 剃毛は,近代消毒法の生みの親であるListerの時代(1850年前後)以前から,感染予防の目的で行われ,最近までルーチンの術前処置の1つとみなされてきた.本邦でも,大多数の施設で,手術前日に術野を広範囲に剃毛することが,なかば常識として医師や看護婦に受け継がれてきているようである.

 しかし,1971年,SeropianとReynolds1)が初めてその科学的合理性に疑問を呈し,剃毛,特にカミソリによる剃毛が,術後創感染率を増加させると報告して以来,同様の観察が次々と発表されるに及んで,従来の剃毛の妥当性が改めて問われることになった2).しかし欧米に比べ,残念ながら本邦での剃毛に対する認識は,現在のところ立ち後れの感をまぬがれない.今回の特集「術前・術後管理’91」で「剃毛の意義と功罪」が取り上げられたのもこのためと考えられる.

抗生物質の予防的投与 中山 一誠
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 ■感染予防について■

 感染予防Chemoprophylaxisの定義について書かれた文献あるいは書物はない.DorlandのMedical DictionaryによるとPrimaryとSecon-daryに分類される.すなわち,一次的感染予防とは「個体が感染する以前に感染を防御するための手段として化学療法剤を使用する」と説明されており,二次的感染予防とは「すでに感染症が発症している患者に対して,他の感染症の合併を予防するために使用する」とある.このような説明からすると,外科手術における予防投与は,無菌手術,準無菌手術は一次的感染予防の範疇に入り,汚染手術に関しては,治療と同時に既存の感染病巣より波及する合併症を予防する意味により二次的感染予防ということになる.したがって,感染予防に関しては,予防であるか,あるいは治療と予防の両者であるのか,よく理解して化学療法を行う必要がある.

 しかし,実際面においては,感染予防の問題点として,どの時期に,どの系統の薬剤をどのくらい,何日間投与すればよいか,などの方法論が未だ確立されていない.言い換えれば,感染予防学が学問的体系をなしていない点に,今日のごときMRSAや多剤耐性緑膿菌の問題が生じた一因がある(表1,2).

全麻緊急手術の術前 猪口 貞樹
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 ■問題点の解説■

 一般に,緊急手術はそれ自体が手術危険度を増大することが知られている.近年,診断技術,全身管理,非手術的治療などが進歩し,保存治療では進行性に状態が悪化して生命もしくは機能予後が極めて不良と考えられる症例のみが,緊急手術の対象となってきている.

 したがって,緊急手術患者はしばしば全身状態が不良で手術危険度が高いが,多くの場合手術が唯一の根本治療である.これらの患者の予後向上には,術前の評価および救急処置を的確に行うと同時に,術前に無駄な時間を費やさず,速やかに手術を開始することが重要である.

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 ■術前管理方針■

 小児外科の対象となる患者のうち,特に新生児や乳児の低年齢層における腹部救急疾患ではその72〜75%が手術を要し,術前から厳重な管理を要することが多い.すなわち,幼少児ほど愁訴が不明確で状態の変化が急速であるため,常にすばやく全身状態を把握することに努め,状態の悪化に先んじて適切な処置を開始し,同時に正確な診断をつけていくことが必要となる1).新生児期〜幼児期にみられる代表的な小児外科疾患を表1に示したが,その診断方法などの詳細については成書を参照されたい.

 幼少児の場合,類似の所見を呈していてもその原因となる病態はさまざまであり,また逆に同一の病態であっても,その症状や所見には症例によってかなりの差がみられる.それゆえ公式化された治療方法というものはないのであって,全身状態の評価,および病歴や検査所見から得られた情報を総合して,その時点で考えうる最善のten-tative programに従って術前管理を進め,患者の反応を十分feed-backさせて,こまめに軌道修正を行いながらその後の管理につなげるというダイナミックな治療方針2)が妥当である.

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 ■月経時の手術の問題点■

 月経時には30〜80%の婦人に,症状の軽重はあるが疼痛(下腹痛,腰痛など),血管神経症状(頭痛,めまい,動悸など),精神神経症状(無気力,精神不安定,イライラ感など),消化器症状(悪心,嘔吐,胃痛など)などが発現する.また,血管透過性や脆弱性の亢進に加えて,プロトロンビンの低下や線溶亢進などの血液凝固・線溶系の変化により1,2),手術時の止血に対しては不利な点が多い.特に,子宮・卵巣動静脈を中心とした骨盤内血管の怒張のため,骨盤臓器の手術では明らかに出血量は増加する.

 以上の諸点より,月経時の手術は術中のみならず術後管理の面でも問題が多く,避けるべきであり,原則として性成熟婦人に対する手術は,月経終了後7〜10日以内の卵胞期に行うべきである.これにより,予期せぬ妊娠中の手術も回避できるが,場合により次項で述べる月経時期の人工的変更を行う.

栄養状態の術前評価 田中 潔
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 ■問題点の解説■

 手術をひかえた患者に,貧血,脱水,電解質異常,低蛋白血症,低アルブミン血症,免疫能低下などの低栄養状態があると,手術侵襲に対する有効な生体反応や感染に対する免疫応答が障害され,ショック,肺合併症,腎機能不全,感染症などの術後合併症に陥りやすく,創傷治癒の遅延から縫合不全を来しやすく,術後の制癌剤療法・放射線療法も困難となる.最近,中心静脈栄養法を主体とした栄養改善法が飛躍的に進歩普及したため,低栄養状態を術前に改善することが可能になった.患者の栄養状態をさまざまな視点から客観的に評価判定することが重要となる.

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 ■手術と凝固・線溶■

 止血機能が正常に働くことが手術療法に不可欠であることは言を待たないが,この正常な止血は幾つかの生理的反応系が同時に働いて得られる結果であり,凝固も線溶もそれらの反応系の1つである.この止血機能系を1枚のマップに表すとすれば,その中から血小板系,凝固系,線溶系,キニン—カリクレイン系,補体系,カルシウムイオンといったkey wordsを拾うことができるし,またその周辺にはカテコールアミン,プロスタグランディンなど,さまざまな系が活性化の誘因として存在する.したがって,手術侵襲,出血,疼痛,感染性合併症など周術期の激動する病態生理のなかにあっては,それぞれが極めて大きく変動して異常な検査値が得られる.ただし,それら個々の異常値のすべてが必ずしも止血機能の面からのみ考えなければならないというわけではない.

 血液凝固(内因系および外因系)すなわちfibrin形成,さらに安定化fibrin polymerをつくるまでの過程と,線溶(fibrinolysis)は,損傷した血管や組織を修復して元通りにしようとする生体の合目的的な営みの1つである.

免疫機能の術前評価 上尾 裕昭
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 ■意義■

 近年の手術適応の拡大に伴い,高齢や併存疾患により免疫能の低下したcompromised hostを手術する機会も増加しており,術前の免疫能の異常を正確に把握することは患者管理を安全に行う上で重要である.

 ■手術侵襲が免疫能に及ぼす影響■

 手術患者の術前の免疫能を評価するためには,まず第一に,手術自体が患者の免疫システムに及ぼす影響を念頭に置いておく必要があろう.

B.ハイリスク患者の手術

精神障害患者 山城 守也
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 ■問題点の解説■

 手術にあたって問題となる精神障害には,発生時点で分けると,術前からすでに存在する精神分裂病,うつ病,痴呆,精神薄弱などの精神障害と,術中・術後に発生する脳卒中や代謝性障害,あるいは心因反応が関連した急性の精神障害とに分けられる.もちろん,術前からの精神障害の増悪や薬剤性のものも稀ではない.手術にあたっては,これらのすべての時期にわたって適正な評価と処置が求められる(表1).

虚血性心疾患患者 嶋田 一郎
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 ■問題点の解説■

 近年,心筋梗塞の既往患者や狭心症患者に対して,非心臓手術を行う機会は増加している.このような虚血性心疾患(IHD)患者の手術に際しては,まず手術患者がIHDであるか否かの正しい診断を行うことが大切である.そして,IHDと診断し,非心臓手術を優先させる場合には,周術期の適切な管理が重要となる.

低肺機能患者 山崎 史朗
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 ■術前患者にみられる肺機能障害■

 肺機能障害は次の4つに大きく分類できる.①閉塞性肺疾患,②拘束性肺疾患,③肺血管疾患,④換気調節障害である.このうち,一般的な手術を受けようとする患者のリスクとしてよく問題とされる機能障害は,閉塞性肺疾患と拘束性肺疾患の2つである.

 閉塞性肺疾患は肺気腫,気管支喘息,慢性気管支炎などで気道の狭窄による気流障害のあるものである.このなかに末梢気道の閉塞を示すいわゆるsmall airway diseaseが含まれる.機能的には1秒量(FEV1.0)と最大換気量(MBC)の減少が共通してみられ,肺気腫,気管支喘息では機能的残気量(FRC)の増加がある.慢性気管支炎と肺気腫の発生には喫煙が重要な要因とされるが,肺気腫は肺の老化とも関係し,ごく一部の肺気腫には遺伝的要素が関与しているとされている.外科手術を受ける患者で肺機能上問題となるのは,多くの場合この閉塞性肺疾患の合併例である.

喘息患者 岩崎 寛 , 並木 昭義
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 ■問題点の解説■

 気管支喘息とは,「種々の刺激に対して気管,気管支の反応性が高まり,気道系に広範な狭窄が存在する疾患で,その狭窄が自然にまたは治療により可逆的に改善されるもの」と定義される.つまり,気管支喘息は,気道過敏性を有する個体に起こる広範な気道狭窄による可逆性の病態であり,肺・心臓血管系の疾患によらないものである.気管支喘息の既往のある患者での手術中に発生する呼吸・循環系の合併症の頻度は,気管支喘息を有さない患者の数十倍であることが知られている1).これらの患者が手術を受ける機会は少なくなく,時として致命的な気管支痙攣に移行する症例もあり,手術前後の患者の評価・管理が重要となる.

重症肥満者 田代 亜彦
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 ■問題点の解説■

 肥満は,身体構成成分の脂肪組織の占める割合が正常以上に増加した状態とされ,健康や寿命に及ぼす有害性が明らかにされている.特に外科領域では,手術そのものが技術的に困難となることに対する留意のほかに,肥満がその背景に持つ種々のrisk factorを念頭に置いた術前・術後管理が必要である.

抗癌化学療法中の患者 徳田 裕
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 ■はじめに■

 近年,癌に対する集学的治療が行われるようになり,腫瘍外科学の担当する範囲は拡大しつつある.neoadjuvant chemothrapy後,surgical debul-kingを目的として,あるいはsecond-look opera-tionとして抗癌化学療法中の患者に外科的処置を加える機会が増加している.また,oncologicemergencyとして対処しなくてはならない場合も少なくない.そこで,抗癌剤を使用中の患者を手術する際の注意点についてまとめた.

C.特殊病態患者の術前準備

低栄養患者の術前準備 田中 潔
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 ■問題点の解説■

 低栄養患者の栄養改善法には,中心静脈高カロリー輸液(Total Parenteral Nutrition;TPN,またはIntravenous Hyperalimentation;IVH)と経腸栄養とがある.表1は,両者の特徴を比較したものである.各々一長一短があり状況に応じて使い分けるべきであるが,低栄養を来す疾患・病態(表2)の中には,経腸栄養法の採用できない病態(表3)が多数みられ,一般外科,特に消化器外科領域においては,TPNがより広く用いられている.

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 ■問題点■

1.水・電解質異常の成因

 術前準備の対象となる水・電解質異常の多くは,胃癌など消耗性疾患による慢性的経口水分摂取障害と,嘔吐・下痢・イレウスなど大量の急性体液喪失によるものに分けられる.

 前者は初めから高張性脱水症となり,後者は等張性脱水症に始まるが,経口摂取ができないため,やがて不感蒸泄によって高張性脱水症となる.

 例外的に,長期間の降圧利尿剤服用や外胆汁瘻・小腸瘻など電解質喪失に起因する低張性脱水症がある.

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 ■定義■

 胃幽門前庭部から十二指腸球部にかけて発育した癌,またはこの部の胃・十二指腸潰瘍の瘢痕化によって消化管径が細くなり,胃内容が円滑に十二指腸に通過しなくなった状態を幽門狭窄症といい,古くから外科手術の絶対適応とされてきた.

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 ■問題点の解説■

 癒着イレウスとは,既往の開腹術による癒着が原因で腸管内容の肛門側への輸送が障害されることによって生ずる病態をいい,単純性と絞扼性とに分類される.単純性イレウスは内容の貯留によって拡張した口側腸管と虚脱した肛側腸管とに起因し(図1),絞扼性イレウスではさらに血行障害を伴った絞扼腸管による影響が加わる(図2).

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 ■疾患の概念■

 大腸癌による狭窄は徐々に進行するため,どの時点で大腸癌イレウスと診断するのかを厳密に決定することは困難である.今のところ統一した定義は確立していないが,英国の主要病院が参加したLarge Bowel Cancer Project(LBCP)では,“大腸閉塞の定義”を「便秘や腹痛,嘔吐などの症状を伴い腹部膨満を示し,X線写真にて腸管がガスで拡張し,開腹所見では口側腸管の拡張と浮腫を伴う状態」としている.

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 ■問題点の解説■

 人工肛門造設予定患者の術前準備には,全身的な術前評価と病変の適正な診断に基づく一般的な身体の術前準備,および患者と家族に手術と人工肛門について説明し,装具のスキンテスト,ストーマの位置決めなどの準備が必要である.かつては精神的負担を配慮して,手術の説明に加えて人工肛門という新しい状況になることについて術前に十分説明されなかった.近年はストーマケア,特に装具の進歩などによって人工肛門の管理についての考えも変わり,新しい身体的条件をより早く理解し慣れてもらうために,術前に患者と家族に説明しておくことが望ましいと考えられている.

 人工肛門造設を必要とする疾患として,直腸癌をはじめとする大腸の悪性腫瘍,潰瘍性大腸炎,Crohn病を含む炎症性腸疾患,憩室炎の穿孔や特発性穿孔,痔瘻や外傷などさまざまの原因で生じた肛門括約筋不全などがある.

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 ■問題点の解説■

 汎発性腹膜炎は腹膜全体に炎症の広がった状態で,その原因の多くは消化管穿孔や術後縫合不全などによる消化管内容の腹腔内への貯留である.したがって,早急な外科的治療を行わなければ,敗血症性ショックから多臓器不全(MOF)へと進行し得る重篤な病態である.

 消化管内容による腹膜の刺激では,多核白血球を中心とした炎症性細胞の集積と活性化,特に腹腔マクロファージの活性化により,各種のchemi-cal mediatorが産生され炎症反応が進行する.これらのchemical mediatorには,インターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF)をはじめとして,アラキドン酸代謝産物,血小板活性化因子(PAF),活性化酸素,およびエラスターゼなどが含まれる.初期には,これらのchemical mediatorは腹膜局所に作用し,炎症性細胞のさらなる集積と活性化,血管内皮細胞の障害と血管透過性の亢進をもたらし,腹腔内への炎症性浸出液の貯留を引き起こす.そして,細菌由来の毒素あるいは菌体成分が血管内に入り,これらのchemical medi-atorがさらに産生され全身性の炎症反応が進行する.この全身性の炎症反応が敗血症性ショックの本体であり1),さらにmediatorの産生が続けば病態はMOFへと発展する.

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 ■問題点の解説■

 閉塞性黄疸は種々の原因・機序によって胆道が閉塞されることによって生ずる.胆汁のうっ滞により,肝ミトコンドリア呼吸能の低下,ライソゾーム膜の脆弱化などのさまざまな肝細胞障害,出血傾向,耐糖能の低下を惹き起こすのに加え,肝不全・腎不全・DICなどの重大な合併症の危険を伴っている1)

 このような病態を改善するには,入院後すみやかに胆汁うっ滞を解除するとともに,全身状態の改善につとめ,効率良く検査をすすめて,悪性疾患の場合は時期を失することなく手術にもっていくことが肝要である.

D.特殊病態患者の周術期管理

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 ■問題点の解説■

 本邦における慢性肝炎の患者数は100万人以上といわれており,その大部分はウイルス性である.この肝炎ウイルスは,現在A型,B型,C型,D型,E型の5種類が発見されている(表1).このうちA型とE型は経口感染により急性肝炎として発症し慢性化しない.したがって,急性肝炎から慢性肝炎となり,やがて肝硬変,肝癌に進展するものは,B型,C型,D型の3種類である.ただし,D型肝炎ウイルスは単独では肝細胞内で増殖できず,B型肝炎ウイルス(HBV)の感染がある時にのみ増殖できる.すなわち,HBVと同時感染するかまたはHBVキャリアに重感染するかどちらかであり,臨床的には重症型,劇症型の肝炎となることが報告されている.したがって,外科手術の対象患者となり得るウイルス性肝炎としては,B型とC型ということになる.

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 ■問題点の解説■

 梅毒はTreponema Pallidumの感染によって起こる感染症である.皮膚や粘膜の損傷部に菌が直接接触した場合に感染が成立するので,感染経路は胎盤を除くと,ほとんど性的交渉に限られる.

 病期の第1期(2〜6週)は局所の病変が主体で,陰部の暗赤色の硬結(初期硬結)に続いて,無痛性の潰瘍(硬性下疳)や鼠径部のリンパ節腫大(無痛性横痃)が出現する.第2期(2週〜数ヵ月)は全身に症状が及ぶもので,全身の皮膚や粘膜の発疹,リンパ節腫大などがあらわれる.その後,症状のない潜伏期となり,未治療の場合,数年〜数十年後に,神経病変,血管病変など晩期病変が出現する.

AIDS患者の周術期管理 松木 一雅
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 ■問題点の解説■

 AIDS(後天的免疫不全症候群,acquired im-munodeficiency syndrome)はhuman immuno-decficiency virus(HIV)ウイルスの感染により後天的に細胞性免疫低下を来す病態である.現時点で完全な治療法がないため,感染の予防と蔓延の防止が医学・疫学上,重要な課題である.

 最近では,米国フロリダ州でAIDSで死亡した歯科医師の患者で同一日に外来を受診した3名が,いずれも歯科医師と酷似したタイプのHIVウイルスに感染していたことが判明しており,感染ルートをめぐって論議がかわされている.

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 ■抗凝固療法と一般外科手術■

 開心術後,特に人工弁置換術後,各種動脈バイパスなどの術後,脳あるいは冠動脈血栓症の治療や悪化予防,血液透析のシャント形成患者などに長期抗凝固療法は行われる.使われる薬剤としては,ヘパリン(注射),coumarin系およびindan-dione系(内服)などの薬物がある.これらの患者にも,ときに一般外科的処置ないし手術が必要になることがある.その場合,2つの方面から配慮が必要になる.

 1つは,当然のことながら凝固反応が抑えられているわけだから,術中出血が多くなるであろうし,術後出血などのトラブルも予想されるため,それに対して,抗凝固作用を一定期間弱めたりあるいは中止しようという場合であり,他方は,短期間でも抗凝固療法を中止するための血栓形成などの危険への配慮である1)

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 ■血友病患者の術前チェック■

 血友病A(Ⅷ因子欠乏症),および血友病B(Ⅸ因子欠乏症,Christmas disease)は伴性劣性遺伝病で,原則的には男性のみにあらわれる病気であるが,突然変異があり,女性にも存在する.頻度はAが2万5千人に1人,Bが10万人に1人ほど,ということになっているが1),その他の先天異常の,V因子欠乏症(パラ血友病,あるいは血友病C,本邦で30人くらいといわれている),XI因子欠乏症(Rosenthal症候群,ユダヤ人に多いという),Ⅶ因子欠乏症,Ⅹ因子欠乏症,遺伝性低プロトロンビン症,遺伝性フィブリノーゲン異常症,von Willebrand病(偽血友病),ⅩⅢ因子欠乏症,α2—Pl欠乏症などとともに関係諸施設,研究者の努力によってどんどん発見され,実状はもっと患者数が増えている可能性がある.

 血友病A,Bについては,臨床的にはほとんど区別がつかない2).以下,この2つについて主に述べる.

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 ■問題点の解説■

 副腎皮質ステロイド剤の適応は広く,長期連用している患者が手術を受けることは決して稀ではない.このような患者は一般の社会生活では破綻を来さないが,潜在性に副腎皮質不全に陥っている症例があり,手術などのストレスをきっかけに急性副腎不全を招き死の転帰に至ることもある.

 また,副腎皮質ステロイド剤による副作用として,感染症,消化性潰瘍,耐糖能異常,精神障害があり,これらを常に念頭に入れて周術期管理をすることが必要である.

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 ■問題点の解説■

 膵内分泌腫瘍は膵腫瘍の1〜3%の頻度でみられ,そのなかでインスリノーマは最も多く,症候性腫瘍の60〜80%を占める.インスリノーマは10%腫瘍(多発・悪性とも約10%)といわれているように,多くは単発良性で,他の膵内分泌腫瘍に比べて手術的根治が容易な腫瘍である.しかし,径1〜2cm以下の小腫瘍が多く,安易に手術に臨むと,術中腫瘍の同定不能,あるいは多発腫瘍に遭遇するなどのために,不適切あるいは過大な手術を余儀なくされる可能性もあるので,慎重な診断・治療方針の設定と,術前・術後管理が必要となる.

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 ■問題点の解説■

 透析患者は単に尿が出ないだけではなく,慢性腎不全に伴うさまざまの病態が存在する.すなわち,水・電解質のアンバランス,酸塩基平衡の異常,uremic toxinの蓄積,アミノ酸・糖および脂質代謝異常,薬物代謝異常,貧血などがみられ,これにより,出血傾向,創傷治癒の遅延,易感染性,動脈硬化,循環動態の不全,消化管機能不全などの問題が生じてくる.

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 ■問題点の解説■

 本稿では,腎移植を受けた患者の手術(移植手術以外)に際して注意すべき点を主に述べる.腎移植術後の患者がよく受ける手術としては,ブラッドアクセス,大腿骨頭置換術,副甲状腺摘出術などがあるが,これ以外にもすべての種類の手術を受ける可能性があることはいうまでもない.これら手術の詳細については成書にゆずり,本論文では腎移植患者の手術に際しての一般的な注意点について述べる.

 まず,腎移植後にみられる特殊な病態の理解が必要となる.その問題点を次に列挙する.①免疫抑制下にある,②腎機能が悪いものがある,③移植後の時期による病態の変化を考える必要がある,④特殊な移植手術に伴う問題がある,などとなる.以下,これら特異な病態を考慮しつつ述べることとする.

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 ■問題点の解説■

 甲状腺機能亢進症では,全身組織の代謝が亢進しadrenergic overactivityの状態にあり,体温上昇,発汗などによる脱水傾向が認められ,組織の酸素消費量も増加している.このような状態で手術を行うと,たとえ手術侵襲が小さくとも,低酸素血症,循環不全,代謝性アシドーシスなどを来しやすく,甲状腺クリーゼに陥ることもあるので適切な前処置が必要である.

 術前に抗甲状腺剤でeuthyroidに保たれていれば,手術に対する問題はほとんどなく,抗甲状腺剤の中止による甲状腺中毒症の増悪を予防すればよい.問題となるのは,甲状腺機能亢進症に対して十分なコントロールがされていない患者に対して手術を行うときや,術中あるいは術後にその存在が気づかれた場合である.

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 ■問題点の解説■

 甲状腺機能低下症(以下,低下症)を理由として直接甲状腺を手術の対象にすることはなく,甲状腺腫大による気管狭窄の時や美容的な問題などがある時,症例を選んで行われるにすぎない.しかし,低下症を有する患者が甲状腺以外の疾患で手術適応となることは多く,慢性甲状腺炎(橋本病)による低下症が中年から高齢者にかけて多くみられることより(表1参照),高齢者社会を迎える今後その頻度は増加すると考えられる.

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 ■重症筋無力症とは■

 重症筋無力症(MG)は自己抗体であるアセチルコリン受容体抗体の存在による神経—筋接合部,終末筋板のアセチルコリン受容体の異常により眼筋,嚥下筋などの一部の筋力,あるいは全身の筋力低下を来す疾患である.この筋力低下は運動を繰り返すことにより増強し,休息により回復傾向を示す.胸腺との関連が示唆され,胸腺摘除術が全身型のMGの治療手段として施行される.

褐色細胞腫の周術期管理 小原 孝男
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 ■問題点の解説■

 褐色細胞腫は,カテコールアミンを産生・分泌する腫瘍である.多くの場合,持続性または発作性の高血圧をきっかけとして本症患者が発見される.ただ,中には,糖尿病だけがその症状である患者,あるいは特別な症状がなく他疾患のための腹部画像検査で偶然みつかる患者がある.

 本症の患者では,診断までにかなり長い間,高濃度の血中カテコールアミンの影響を受けてきている.高血圧のほかに不整脈,狭心症,糖尿病などを合併していることがしばしばあり,ときには心筋梗塞を起こしている.カテコールアミンの過剰により末梢血管の収縮が起こる代償として循環血液量は減少している.また,その臨床症状のあらわれ方に関係なく,術前・術中に大量のカテコールアミンを放出する危険を常に含んでいる.

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 ■病態と問題点■

 原発性アルドステロン症は,副腎皮質腫瘍からアルドステロンが過剰に産生・分泌され,Na貯留による高血圧とK喪失による低K血症を起こす疾患である.副腎皮質過形成でも同じ病態が生じるので,診断にあたっては腫瘍か過形成かの鑑別が重要である.過形成の場合には,原則として手術適応がない.

 ほとんど大部分のアルドステロン産生副腎腫瘍は良性腺腫であり,大きさは直径で1〜3cmくらいである.アルドステロンを単独に産生・分泌する副腎皮質癌があるとしても極めて稀で,副腎癌によるアルドステロン過剰症はCushing症候群,副腎性器症候群の部分症であることが多い.

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 ■病態と周術期の問題点■

 Cushing症候群は,副腎からのコルチゾール過剰分泌による疾患である.その病因は大きく,下垂体性,副腎性,異所性に分けることができる.Cushing症候群の約6割は,下垂体または視床下部からのACTH過剰分泌で起こり,Cushing病と呼ぶ.残りの狭義のCushing症候群は,わが国ではほとんどが副腎腫瘍に原因があり,異所性ACTH産生によるものは少ない.副腎腫瘍のほとんど大部分が腺腫であり,稀に癌腫や結節性異形成・結節性過形成の場合がある.

 一般・内分泌外科医が手術対象とするCushing症候群は主として副腎腫瘍である.Cushing病の原因は多くが下垂体腺腫にあり,その治療は脳神経外科医の専門分野である.今日では,例外的な症例が副腎皮質の過形成に対しての手術適応になる.手術方法として,腺腫・癌腫には患側の副腎摘除,過形成・異形成には両側副腎全摘が基本である.腺腫に副腎部分切除を行い,また過形成に亜全摘または全摘・一部皮質の自家移植を行う方針の施設がある.

E.術後全身的管理

持続的硬膜外除痛法 田中 経一
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 ■特徴■

 硬膜外麻酔法は頸部以下のどの部位の手術にも応用できる極めて応用範囲が広い局所麻酔法であり,特に術後持続的な無痛が得られる特徴がある.従来からの局所麻酔薬に加え,脊髄における麻薬受容体の存在が明らかになり,Beharらのヒトでの硬膜外モルヒネの鎮痛作用の報告1)以降,この方法は術後の疼痛管理法を一変させた.

術直後の高血圧 嶋田 一郎
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 ■問題点の解説■

 術前より血圧の高い症例はもとより,術前血圧が正常の症例でもしばしば術直後,血圧の上昇を認める.この血圧の上昇には,術直後特有の血圧上昇の要因が関与しており,術前高血圧がなければ,多くはこれらの要因を取り除くことにより降圧剤を使用することなく血圧を至適にコントロール可能である.また,高血圧患者でも,高度の高血圧が持続すると重篤な合併症を来す可能性があり,緊急の降圧を要することもあるが,通常,一般的な治療に加えてそれなりの降圧治療を行えば十分対応できる.ここでは,術直後の高血圧に対してその評価および治療の基本的な考え方について述べる.

心臓ペーシング 嶋田 一郎
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 ■問題点の解説■

 近年,心疾患の急増につれて,術後に心臓ペーシングを行う機会も多くなってきている.術後心臓ペーシングを要する患者には,術前あるいは術中よりペースメーカー(PM)を使用している場合と,術後に心臓ペーシングが必要となる場合とがある.後者は通常体外式PMを使用したtem-porary pacingとなる.これに対し,前者はtem-Porary pacingの場合と既にpermanent PMを植え込んでいる場合とがある.

術後肺水腫 長井 千輔 , 嶋田 晃一郎
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 ■治療上の問題点■

 肺水腫は水分と漿液性成分が血管外に過度に貯留した病的状態を示す.臨床的には軽度から致命的病態まで様々で,様相が急変することもある.

術後ARDS 山崎 史朗
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 ■ARDSとは■

 ARDSは日本名で成人型呼吸窮迫症候群と称される一連の症候名で,1967年にAshbaughら1)が,呼吸困難,肺コンプライアンスの低下と胸部X線写真上肺水腫様のびまん性肺胞性浸潤影を伴ったもので,過去に肺疾患とか心不全のない12例をまとめてそのように命名したのが始まりである.その肺の病理組織は無気肺,肺充血と出血,強度の肺水腫とヒアリン膜が特徴とされた.

 その後,この概念はほとんどの研究者によって受け継がれてきたが,実際にはこの本当の定義はいまだ確立されておらず,その原因についても人によって考え方がまちまちである.しかし,表に示すcriteria2)を満足すればARDSとするというのがごく一般的であろう.その死亡率は高く60%以上といわれているが2),その本当の頻度と実態については不明である.

人工呼吸器 千保 純一郎 , 山崎 史朗
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 ■使用目的■

 人工呼吸器は開心術,食道癌など侵襲が大きな術後の呼吸管理の重要手段であるが,多くは術後呼吸不全に対する呼吸管理の目的で使用される1).ここでは,成人の場合を中心として人工呼吸器の使用について述べる.

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 ■病態生理と問題点■

 静脈血栓の形成にはVirchowの古典的3要素,すなわち,血液凝固能の亢進,血管内皮の傷害,血流うっ滞があげられている.手術後は,通常ベッド上で安静臥床が必要なことが多いが,そのために血流うっ滞が起こりやすくなる.また,血流うっ滞によって,血管内皮に低酸素性の傷害を生じる機序も示唆されており,手術侵襲に伴う血液凝固能の亢進も加わって,静脈血栓症が起こりやすい状況にある.

 下肢では,静脈循環の大部分は深部静脈系によって行われている.深部静脈に広範の血栓性閉塞が起こると,静脈血のうっ滞により,罹患肢は緊満・腫脹し,疼痛を伴い,皮膚の色調はチアノーゼとなるのでわかりやすい.下腿に限局する静脈血栓の場合は診断が難しいことがある.術後に腓腹部に腫脹を認めたり重圧感などを訴える場合には,深部静脈血栓症を念頭に置く.静脈血栓症が起こると罹患静脈に沿って圧痛を生じるのが普通で,大腿膝窩静脈領域の触診で圧痛が証明されることが多い.

術後抗生物質療法 中山 一誠
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 ■術後感染症の定義■

 手術侵襲とその解剖学的・機能的結果,ならびに必要な補助療法に基づく感染症を術後感染症という.創感染と創外臓器感染に大別することができよう.

MRSA 齋藤 英昭 , 黒岩 厚二郎
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 ■定義と外科臨床上の問題点■

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-re-sistant Staphylococcus aureus, MRSA)はメチシリン(DMPPC)のみでなく,β-ラクタル系抗生剤などに耐性を示す多剤耐性の黄色ブドウ球菌である.MRSAは第3世代セフェム系抗生剤が頻用,また乱用されるようになって急増してきた.そして,MRSA術後感染症は抵抗力の減弱した患者に発症することが多く,肺炎や創感染など難治性感染症の起因菌となる.また,若い元気な手術患者でも術後早期から激烈な腸炎を引き起こし,さらに黄色ブドウ球菌はMRSAに限らず,致死率の高い毒素性ショック症候群(toxic shocksyndrome;TSS)を惹起する.しかもMRSA感染症は,医療従事者を介して病棟,病院全体に拡がる危険性をはらんでいる.

血漿交換法 今岡 真義
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 ■血漿交換法とは■

 血漿交換(plasmapheresis;PE)は,重篤な主要臓器障害を起こしている患者に,その原因となる物質の除去ならびに生体にとって不可欠である物質の補給を同時に行うものである.交換に用いられる血漿は新鮮凍結血漿で,1回の交換が約400 mlであれば,11回行うことにより約94%が交換される(表1).

 PEが行われる対象患者の多くは肝不全例であるが,敗血症,免疫疾患,移植後の拒否反応などを起こしている患者にも施行される.

脊椎麻酔後の頭痛 田中 経一
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 ■問題点の解説■

 脊椎麻酔法は最も古くからある,最も役に立つ局所麻酔法の一つであるが,合併症として頭痛が問題とされる1).脊椎麻酔後の頭痛は,脊椎穿刺の際に脊椎麻酔針によってできた硬膜とくも膜の穿刺孔からの脳脊髄液の漏出に起因する脳脊髄圧の低下が原因とされている.これは,一過性の低血圧とともに,脊椎麻酔では最も頻度の高い合併症である.

ICU症候群 山城 守也
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 ■問題点の解説■

 急性に発生した重篤な状態に対して,24時間,昼夜を問わず集中的に患者管理を行う場として,ICU, CCUが発達してきた.そして,術後の集中管理(intensive care)を要する心臓手術,食道手術など侵襲の大きな手術が増えるにつれて,いわゆる術後せん妄の頻度もふえ,また,CCUでの急性心筋梗塞の治療中にもせん妄状態の発生がみられ,これらICU, CCUでの管理中に発生する一連の精神障害をICU症候群と総称するようになった.

 しかし,急性の錯乱状態(confusional state)は必ずしも手術後ばかりとは限らず,またICU内で発生すると決まっているわけでもない.CCU内に収容された急性心筋梗塞患者や,整形外科での大腿骨頸部骨折などでもせん妄状態を呈することが稀ではない.また,一見せん妄状態のようにみえても,適切な医療スタッフのアプローチで鎮静化し得る高度の心因性反応である例もみられるが,このような状態は,患者本人の性格,社会的地位,現在の環境などに誘因を求め得るもので,器質的要因よりも心因性反応ととらえたほうが適当と考えられる.

F.術後ドレーン・チューブ類の管理

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 ■はじめに■

 体内や創に貯留する血液,浸出液,分泌液,膿を体外に排出することを排液法drainageといい,そのための器具をドレーンという.

 本稿では乳癌や甲状腺癌術後などに用いる体表の浅い部位からの排液法について述べる.

気管チューブ 渡辺 洋宇
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 ■留置の目的と適応■

 ①レスピレータ使用のため:低肺機能例,長時間手術例,麻酔覚醒不良例,開心術後例など術後低換気のある場合.

 ②術後の気道吸引のため:閉塞性肺疾患など既存の肺疾患のため自発では喀出不能の多量の気道分泌のみられる場合,あるいは炎症性肺疾患などの手術に際して,膿性喀痰を残存肺に吸い込んだ場合.

胸腔ドレーン 渡辺 洋宇
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 ■留置の目的と適応■

 胸膜腔を開いて行う手術(肺,縦隔,食道手術など)では,何らかの胸腔ドレーンの挿入が必要である.その目的は胸膜腔内に貯留する空気と液体を排除することにあり,これにより残存肺を完全に再膨張させ,緊張性気胸,血胸,広範囲の無気肺,膿胸などの合併症の予防を図ることができる.したがって,胸腔ドレーンを適切に挿入し,その機能が完全に発揮されるように管理することは,術後合併症発生の予防のためにも極めて重要である.一方,胸腔ドレーンは術後疼痛発生の大きな要因となるため,その挿入部位,本数ならびに挿入期間は必要最小限に止めるべきである.

血管内カテーテル 前田 肇
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 ■動脈ライン■

1.目的と適応

 動脈圧の変動を時々刻々に監視すると共に,動脈血ガス分析用の採血をする目的で用いられる.したがって,大出血が予測される手術や,血圧の変動や血液ガスの悪化が著しい手術に適応される.心臓・大血管手術,開胸術,脳手術,褐色細胞腫の手術,肝切除術などが適応となる.また,心疾患や呼吸器疾患を有する患者の管理に用いられる.

2.管理上の要点

 動脈瘤や動脈硬化のない表在動脈に留置針を挿入する.末梢の血流が保たれていることをAllen試験などで確かめておくことが大切である.留置針の動きは動脈の内膜を損傷したり,刺入部からの感染の原因になるので,留置針をテープで皮膚にしっかりと固定しておく.留置針と延長チューブなどの接合部は,緩まないようにしっかりと接続する必要がある.延長チューブが引っ張られても留置針が抜けないように固定すると共に,刺入部や接続部は常に監視できる状態にしておくことが大切である.血栓形成や留置針のつまりを防ぐために,フラッシュ弁がついた持続加圧注入装置でヘパリン加生理的食塩水を常に注入しておく.動脈内に空気や気泡を押し込まないような注意が必要である.

経鼻胃管 藤田 哲二
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 ■留置の目的と適応■

 消化器外科手術後の胃内容の吸引,胃,腸内の減圧を目的として用いられることが多い.

 胃部分切除などの上部消化管の切除,イレウスの手術後などに留置することには大方の異論はないと思うが,胆嚢摘除,下部消化管切除,胃全摘後などに留置する必要があるかどうかは,考えてみる必要がある.

術後腹腔ドレーン 加賀美 尚
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 ■腹腔内ドレーンの目的と適応■

1.目的

 腹腔内ドレナージの目的は,腹腔内に貯留する膿汁,血液,滲出液,場合によっては胆汁や膵液,消化管の内容を体外に排出して,腹腔内の炎症の波及拡大を防ぎ,治癒への条件を整えることにある.

2.適応

 腹腔内の膿瘍,汎発性腹膜炎に対する開腹術で,腹腔内にドレーンを挿入・留置することに異論を唱える外科医は少ないであろう.しかし,予防的な安全のためのドレーンあるいはインフォメーションドレーンの挿人・留置には反対の意見を持つ外科医もいる.実際,そのようなドレーンを入れておいたおかげで重大な合併症に至らずにすんだと胸をなでおろしたり,逆に,ドレーンを入れておきさえすれば,あるいはドレーンが効いてくれればこんな事態を招きはしなかったであろうにと臍を?んだという経験談を聞くことがある.いずれにせよ腹腔内ドレナージの適応は,外科医それぞれの臨床経験によってかなりの差異がある.

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 ■管腔内ドレーン■

 胆管・膵管の再建,修復において,縫合不全や吻合部狭窄の予防を目的とした予防的ドレーン(prophylactic drain)である.

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 ■留置の目的と適応■

 膀胱留置カテーテルは,術中・術後を通じて持続的に尿を排除するとともに,尿量の経時的な測定と尿の性状を検査することを目的として行われる.適応に関しては,原則として全身麻酔による手術症例に対して行われるが,尿路系や会陰部などの手術では創感染防止のためにも行われる.

G.術式別の術後管理

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 ■はじめに■

 内視鏡的硬化療法(以下,EIS)は食道静脈瘤の治療法として近年広く普及しているが,注入薬剤,手技ともに各施設間でかなり異なっており,したがって術後管理も各々特徴があると思われる.本稿では,われわれが日常行っている術後管理の実際および合併症とその対策について述べる.

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 ■はじめに■

 内視鏡的消化管手術の種類は大別すると,①腫瘍除去,②狭窄解除,③止血,④乳頭括約筋切開,⑤食道静脈瘤硬化療法,⑥胃瘻造設などがある.それぞれが安全で侵襲の軽微な治療法として施行されているが,外科的手術と同様に緻密な術後管理が必要である.内視鏡的手術の施行に際しては,入院を原則にする.

腹腔鏡下胆嚢摘出術 下村 一之
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 ■問題点の解説■

 腹腔鏡下胆嚢摘出術はトラカール挿入部数ヵ所のみの小切開で行われるために,腹壁への侵襲が少なく,術後の回復が早い.そのため,患者や,時には担当医までがこの術式の術後管理を軽くみる傾向が生じ得る.しかし,この術式の腹腔内操作手順はほとんどが従来の胆摘術と同一であるため,この術式の術後管理にあたっては,基本的に従来の胆摘術に対する場合と同様の心構えが必要と考えられる.

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 ■特徴■

 体外衝撃波胆石破砕療法は,1986年に西ドイツのミュンヘン大学グループによる胆嚢結石治療の報告1)が嚆矢であり,本邦においては1988年より臨床治験が始まり,またたく間に全国に広まった治療法である.胆石を破砕して細片化し,これらを溶解または腸管へ排出させて結石消失を図るため,術後に胆石疝痛などが高頻度に発生する.しかし,非観血的であり,かつ機能を有する胆嚢を温存できる利点がある治療法である.

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 ■問題点の解説■

 肝切除術そのものは近年比較的安全な手術になってきたが,肝硬変を合併する肝切除は非硬変肝と比較して合併症も多く,危険度も高い.

 硬変肝を持つ患者は,①肝予備力の著明な低下,②門脈圧亢進を伴う食道・胃静脈瘤,③胃潰瘍や胃びらん形成,④血小板減少・凝固因子低下による出血傾向,⑤アルブミン減少に伴う循環不全など数多くの合併症を有している.したがって,これらの合併症を持つ患者の肝切除は,術後も複数の合併症に見舞われることも多く,ときには死に至ることもある.

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 ■問題点■

 生体部分肝移植の術後管理の問題点は非常に多岐にわたるため,ここでは肝移植あるいは生体肝移植の術後に特に必要な基本的管理・留意点のみにつき概説する.

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 ■問題点の解説■

 膵頭十二指腸切除術(以下PD)は,癌をはじめとする膵頭部領域の外科的疾患に対して広く実施されている術式である.対象となる患者は高齢者が多く,また術前から閉塞性黄疸を伴う場合が多い.さらに,手術操作によりいくつかの消化吸収の中枢臓器が切除された後,少なくとも3ヵ所(胆管・膵・胃空腸)の再建吻合術が必要なため,消化器手術の中では最も術後合併症発生率の高い手術の1つである.

 PDに伴う合併症を表に示したが,上腹部手術一般に共通する合併症は他稿に譲り,本稿では閉塞性黄疸に起因する合併症とPDに特徴的な合併症を中心に,その病態と治療について述べる.

膵全摘術 竜 崇正
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 ■管理の一般的要点■

 膵全摘術後は,終生にわたって膵内分泌と外分泌機能が欠落するので,糖尿病患者よりもきめの細かい管理が必要である.この術式を施行したら,一生患者とつき合っていく覚悟が必要である.

腸管広範切除術 斎藤 幸夫
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 ■問題点の解説■

 腸管広範切除術では,術後早期の水分,電解質の喪失時期における管理と,消化吸収障害に対する長期にわたる栄養管理の2点がポイントとなる.

 切除される腸管の範囲,部位により術後に引き起こされる障害の程度は異なる.また,同程度の腸管切除の場合でも,症例により術後の障害の程度が異なることが経験される.個々の症例により治療に対する反応も当然異なる.したがって,腸管の広範な切除後の障害に対しては,上記の2点のポイントを原則に,症例に応じた適切な管理,治療が要求される.

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 ■問題点の解説■

 骨盤内臓器全摘術は直腸癌が膀胱や前立腺に浸潤した症例,あるいは骨盤内局所再発を来した症例などに主に行われる.この手術では骨盤内臓器とともにリンパ節や内腸骨血管が一塊として切除されるため,以下のような特徴が認められる.すなわち,①骨盤腔に大きな死腔ができ,②尿路再建を必要とし,③比較的多量の出血がみられることなどである.これらを考慮した術後管理が重要となるが,さらに患者にしばしば大きな精神的負担を与えるので,術前から術式の説明やstomasite markingなど,術後のquality of lifeに対する配慮も必要である.

人工肛門造設術 上谷 潤二郎
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 ■術後第1週目■

1.補液

 左側結腸人工肛門造設の場合は,通常他の消化器手術患者と同様2,000〜2,500 mlの維持液の輸液を行い,1,000〜2,000 mlの尿量を得るようにする.回腸瘻造設の場合は,大腸が摘除または空置され水分,電解質の吸収能が低下するので,排泄された腸液にみあった量の水分と電解質を補う.

 2.経口摂取

 Kock式回腸瘻やcovering ileostomy, colos-tomyを除いて腹腔内に腸管吻合がない人工肛門造設術後は,排ガスを認めた後流動食から開始する.2日ごとに五分粥,全粥と進める.腸吻合を伴う手術の場合は,術後3日目以後,下熱,白血球数の正常化傾向,腹部症状を診察し流動食から開始,1〜2日に三分粥,五分粥,全粥と進める.Kock式回腸瘻では低残渣食とする.

痔核・痔瘻手術 藤吉 学
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 ■問題点の解説■

 肛門疾患手術の生体に与える侵襲は,どちらかといえば小さく,厳重な術後管理は必要ないように思われがちである.しかし,手術部位が疼痛に対し敏感な部位であり,排便のため安静が保たれ難く,さらに汚染にさらされる場所であるため独特の術後管理が必要である.

 最近では,痔核に対しては半閉鎖術式,痔瘻に対しては括約筋温存術式が多く行われ,手術手技の進歩に伴い合併症も軽減しているように思われがちである.しかし,手術に際し合併症を来さないように手術手技に注意する1)ことはいうまでもなく,術後疼痛をできるだけ少なくし,順調に創の治癒が進むように排便と創の管理をうまく行うことが重要である2)

末梢動脈再建手術 小出 司郎策
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 ■術直後管理の要点■

1.手術室での管理

 末梢動脈再建術では,普通血行再建前には末梢動脈拍動は触知しないが,バイパス完成と同時に拍動を開始し,術中はこれを確認できる.

 手術創を閉鎖した術直後にバイパス血流を確認する方法として,①グラフト直上の皮膚面からドップラー血流計で拍動を確認する,②足首血圧を測定する,③動脈—グラフト造影(手術室)をする,などを行っている.

下肢静脈瘤手術 矢野 孝
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 ■術直後の管理の要点■

 静脈瘤の手術は侵襲も少なく,全身管理では特に問題となることはない.局所管理では,静脈抜去の際に離断された静脈からの出血や,下肢の浮腫・腫脹などが問題となる.また,静脈性下腿潰瘍に対して筋膜下貫通静脈結紮や植皮を追加されたものでは,創治癒の遷延・不良が問題となる.局所療法として最も重要なことは,手術肢の高挙と弾性包帯(または弾力性ストッキング)による圧迫である(図).

皮膚移植術 山田 敦
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 ■植皮術の分類■

 皮膚移植術は,大きく有茎植皮術(pedicled skingrafting,皮弁)と遊離植皮術(free skin grafting)とに分けられる.皮弁の特殊な利用法として遊離皮弁(free skin flap)があり,マイクロサージャリーの進歩により近年は多用されている.

H.術後合併症の対策 a.頭頸部術後の合併症

顔面神経麻痺 山田 敦
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 ■原因■

 顔面神経麻痺の原因としては,ベル麻痺・ハント症候群・頭部外傷性・手術損傷性・中耳炎性・先天性・聴神経腫瘍・顔面神経鞘腫・中枢性・側頭骨内外腫瘍などがある.術前より既に顔面神経麻痺が発生している場合,術中誤って切断された場合,あるいは耳下腺悪性腫瘍や聴神経腫瘍などでやむをえず顔面神経が切除される場合に術後合併症として顔面神経麻痺が生じる.術中,顔面神経が切断された場合には,術中に神経縫合あるいは神経移植などにより対処することが原則であるが,このような処置ができない場合に術後の機能再建術が必要となる.

頸部術後出血 武市 宣雄 , 土肥 雪彦
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 ■病態・病因■

 頸部の術後合併症のなかで最も注意を要するものは,術後出血による気道狭窄の出現である.頸部は細く,その中に主に脳に血液を供給する頸動脈,椎骨動脈とその環流路となる内頸静脈,外頸静脈,椎骨静脈がある.甲状腺は血流豊富で,重要な血液環流路の1つである.これらの頸部の大動脈,大静脈およびそれらの分枝や甲状腺を術中に損傷した場合,その出血量が約150 mlに達すると,頸部静脈が圧迫されて声帯浮腫が起こる.これが気道狭窄,呼吸困難の主な病因である.勿論,頸部でも大量の急性出血が起こると出血性ショックをきたす.

テタニー 舟橋 啓臣 , 田中 勇治
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 ■問題点の解説■

 近年,カルシウム代謝に関する研究の進歩により,外科治療の面でも診断および治療において総合的な知識が必要とされるようになった.本稿においては術後のテタニーについてカルシウム代謝に関係するホルモンの面から述べてみたいと思う.術後に経験するテタニーは,対象となる手術により様相が異なり,テタニーが出現する時期,対処の仕方も異なる.そこで,特にわれわれが注意しなければならない甲状腺癌,バセドウ病,原発性上皮小体機能亢進症でのテタニーについて以下に述べる.

甲状腺クリーゼ 片桐 誠
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 ■病態■

 甲状腺クリーゼ(thyroid crisis, thyroid storm)とは,甲状腺中毒症の存在下でなんらかの誘因により急激に発症する甲状腺中毒症状の極端な増悪で,循環系の非代償性症状が現れたものと定義されている.抗甲状腺剤の使用や医療の向上により最近では稀であるが,ひとたび発症すれば死亡率が高いので早期発見治療が必要である.甲状腺中毒症の存在がわかっていればよいが,高齢者では典型的な臨床症状を示さないことがあるので注意を要する.

 早期発見のためには,臨床症状を十分に把握する必要があり,本症を疑ったら直ちに集中治療を開始しなければならない.治療の遅れは患者の死につながり,剖検しても特異的な病理所見は認められないといわれている.

一側・両側反回神経麻痺 藤田 博正
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 ■病態・病因■

 いわゆる反回神経麻痺とは,喉頭(声帯)の運動麻痺を来す神経原性疾患の総称である.声帯運動麻痺は臨床的に“術後性麻痺”と“手術に無関係なもの”に分類されるが,術後性麻痺はこの遠心性ニューロン,とりわけ反回神経が頸部あるいは胸部において手術時に損傷されて発症する.

 廣瀬1)は,文献上集めた4,500例の声帯運動麻痺(以下,反回神経麻痺)のうち,術後性麻痺は30%で,甲状腺手術後に発症したものがその2/3を占めていたが,胸部外科手術後の反回神経麻痺も次第に増加しつつあると報告している.過去10年間の当科における胸部食道癌手術後の反回神経麻痺の頻度は47%(149/316)であったが,前半5年間では44%,後半5年間では51%と頸部上縦隔リンパ節郭清の徹底化に伴い増加傾向にある.

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 ■病態・病因■

 頸部の手術では甲状腺,上皮小体,血管,神経などは無菌手術であり比較的安全である.しかし気管,喉頭,食道,咽頭,唾液腺管,先天性頸瘻などは内腔に常在菌が存在し,これにメスが加えられると準無菌手術になると考えるべきである.さらに頸部の特殊事情として,反回神経を損傷すると声帯麻痺による誤嚥,喀出困難などから気管支炎,肺炎を合併しやすくなるので注意を要する.術後の頸部創感染の病因としては,創の局所的要因と患者の全身的要因が考えられる(表1).

H.術後合併症の対策 b.乳腺手術後の合併症

乳腺腫瘤生検後の血腫 西尾 剛毅
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 ■問題点■

 近年,乳腺腫瘤に対する種々な理学的検査の進歩や,ABC(穿刺細胞診:Aspiration biopsycytology)の普及で,容易に腫瘤の診断がつくようになり,従来の切開生検の重要性はかなり減少している.特に悪性が疑われる時の切除生検(in-cisional biopsy)は,細胞を散らす可能性もあり,直ちに完全切除を行う時以外は行うべきでない.しかし,小さな腫瘤に対する摘出生検(excisionalbiopsy)は相変わらず必要であるが,乳房という特殊な部位のため,美容的配慮を払いすぎ,止血が不十分になり,後出血(血腫)が起こることも少なくない(図).

乳房切断術後の皮弁壊死 西尾 剛毅
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 ■問題点■

 乳房切断術後の皮弁壊死は,日常よく遭遇するが,大部分は皮膚の切除が大きすぎ,皮弁閉鎖時その緊張が強過ぎて皮弁端への血行が悪くなり,皮弁端の壊死を来すもので,少し皮弁端を切除すれば治ることが多い.稀に貯留液や皮弁への感染からの二次的皮弁壊死や広範囲の皮弁壊死を生じることもある.

 皮弁壊死は感染を併発したり,創の治癒を大幅に遅れさせたり,せっかく美容的にきれいにと配慮して閉じた手術創を醜くするし,リンパ浮腫や肩関節拘縮の原因にもなる.

H.術後合併症の対策 c.開胸術後の合併症

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 ■はじめに■

 呼吸器外科領域での術後出血の予防は,閉胸時の十分な止血であることはいうまでもないが,以下に術後出血の原因,再開胸の目安,およびその治療時のポイントにつき述べる1)

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 ■はじめに■

 肺切除の術後に胸腔ドレーンからのエア・リークがみられることはしばしばあり,多くは自然に止まることから,特別な治療を要しないが,なかには注意すべき病態がある.

術後乳糜胸 藤田 秀春
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 ■病因■

 胸管の損傷によって,術後胸腔内に乳糜の漏出する病態を術後乳糜胸という.

 胸管は乳糜槽cisterna chyliに始まり,大動脈裂孔から胸腔内に入る.下部では,食道の後方で大動脈と奇静脈の間を上行し,Th4-5の高さから左に偏位する.その後,食道,大動脈弓の後方から鎖骨下動脈の後ろを経て頸部に至り,反転して左静脈角に注ぐ(図).

気管支瘻 諸星 隆夫
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 ■問題点の解説■

 肺切除術後の気管支瘻は,最近では縫合材料の改善,抗生物質の進歩,術前・術後管理の向上などにより減少の傾向にあり,他の術後合併症に比し頻度は必ずしも高くない.

 しかし,一旦発生すると難治性で,吸引性肺炎や膿胸などの合併症を併発し,致命的となる確率も高く,その治療対策に苦慮することが多い.したがって,気管支瘻を来した場合には,迅速で,かつ適切な対応が必要である.

術後膿胸 小泉 博義
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 ■病因・病態■

 膿胸は胸腔内に膿が貯留した状態であり,手術に起因する本症を術後膿胸という.

 膿の貯留範囲によって,全膿胸と部分的膿胸,気道系と膿胸腔との交通の有無により,有瘻性膿胸と閉鎖性膿胸などと呼称される.また,以前本症の多くを占めた結核性の場合は,発症から3ヵ月以上経過したものを慢性膿胸としたが,非結核性の場合には4〜6週間以上経過例を慢性膿胸としている.

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 ■問題点の解説■

 胸骨を切開する手術到達法は従来,主として心臓外科に用いられてきた.消化管手術の到達法として利用されるようになったのは比較的最近のことである.骨が細菌感染に対する抵抗力が弱いことが外科医の心理に抑制的な働きを及ぼしたのであろう.消化管内細菌に対し有効性の高い抗生物質の開発が骨への侵襲を可能にしたと考えられる.

 胸骨切開創の感染の対策とは,言い換えると胸骨感染の予防と治療ということになろう.

H.術後合併症の対策 d.開腹術後の合併症

開腹術後の吃逆 望月 英隆 , 玉熊 正悦
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 ■臨床的意義■

 吃逆とは横隔膜の不随意な間代性痙攣で,最初に呼吸運動が起こり,その途中で急に声門が閉じる病的な呼吸反射であって,通常異様な音の発生を伴う.横隔膜の間代性痙攣は一側性のみならず両側性のこともある.

 吃逆自体は危険なものではないが,これが長期にわたると経口摂取はもとより呼吸・睡眠が妨げられるのみならず,エネルギー消費量が増加し,精神的ストレスが募って疲労困憊する.

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 ■問題点の解説■

 開腹術後早期に発症する機械的イレウスは,開腹術後という特殊な状態にあるため診断および治療上問題となる点が多い.この際,“早期”の意味する期間は報告によって2週間から1ヵ月とまちまちである.

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 ■問題点の解説■

 開腹手術後には,消化管の蠕動運動が一時的に減弱ないし消失し,腸管内にガスや腸内容が貯留する.このため,腹部は軽度に膨隆し排ガスや排便が停止する.このような状態は,“生理的イレウス(physiologic ileus)”と呼ばれ,開腹手術後には必ずみられるものである.通常,このような開腹術後の腸管麻痺は48〜72時間続いたのち軽快する.すなわち,やがて腸管の蠕動音が聴取されて腸管麻痺は次第に改善され,軽い腹痛を伴った後に排ガスが認められる.このような通常の術後の経過とは異なり,腸管麻痺の状態が遷延して麻痺性イレウスとなることがある.いったん麻痺性イレウスに陥ると難治性であることが少なからずある.このような場合には,麻痺性イレウスを来している原因を検索し,適切な処置をとる必要がある.

肝硬変患者の術後腹水 山崎 晋
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 ■病因■

 腹水の原因の一次的要因は門脈圧亢進と低アルブミン血症であり,二次的要因として間接的高アルドステロン血症による水分の体内貯留である.術後ではさらに手術操作の影響が加わる.

 肝の線維化のために肝内門脈床は狭小化しており,これが肝硬変における門脈圧亢進の原因であり,肝合成能の低下による低アルブミン血症が併存しやすい.Starlingの法則により説明されるように,高圧で低浸透圧の門脈血の血漿成分は門脈壁から腹腔内へ漏出する.肝内門脈床の狭小化は門脈圧だけでなく肝リンパ系の内圧をも亢進させるので,リンパ液の腹腔への漏出が腹水の一因となる.

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 ■臨床的意義■

 悪性腫瘍に対するリンパ節郭清術や後腹膜臓器の術後に,リンパ液が大量に腹腔内に漏出することはときに経験する.リンパ液が大量に失われると,水分・電解質のほか,蛋白質や脂肪,さらにはリンパ球も大量に喪失し,脱水,循環障害,著明な栄養障害を来すのみならず,オプソニン蛋白やリンパ球の減少による感染防御機能の低下を来し,術後の創傷治癒や経過に多大な影響を及ぼす.また,腹腔内に大量に貯留した場合には種々の成分の喪失のほか,消化管圧迫に起因する経口摂取量減少,横隔膜挙上による両側の無気肺などが生じ,術後経過に及ぼす影響はすこぶる大きい.

 経口摂取下には,小腸領域から腹腔内へ漏出するリンパ液は小腸から吸収された脂肪を含んで乳白色の乳糜状となっており,乳糜腹水(chylousascites)と呼ばれる.一方,経口摂取下でも肝臓や骨盤内臓器手術に伴うリンパ液漏出が乳糜状となることはほとんどなく,漏出リンパ液が経口摂取下で乳糜状であるか否かにより漏出部位の大別が可能である.しかし,小腸リンパ流の漏出であっても,開腹手術直後は経口摂取が禁じられていて,漏出するリンパ液は血漿と同様にやや黄色を帯びた透明である.術後に認められる漏出リンパ液が乳糜状であるか否かによってその病態にほとんど差はないため,本稿では広く開腹術後に認められるリンパ液漏出について述べることとする.

開腹術後の創哆開 小西 富夫
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 ■病態・病因■

 腹壁切開創縫合部が生理的癒合に至らず,その一部または全部が離開した状態をいう.筋層および筋膜が哆開し,皮膚は哆開していない状態が不完全哆開で,後に腹壁ヘルニアを生ずる.皮膚も哆開すれば完全哆開で,この場合,内臓の露出ないし脱出がみられる.

 発生頻度は開腹手術症例の0.3〜3%で,0.5%前後の報告例が多い.平均年齢は55〜65歳で中高年齢層に多く,性別では3:1〜10:1の割合で男性に多い.哆開日は術後7日目頃に多く,特に抜糸当日が過半数を占める.

開腹術後の創感染 渡邉 千之 , 石山 賢
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 ■問題点■

 創感染は,18世紀末に患者を病院に収容して治療するようになって以来,外科医にとって大きな問題で,優秀な抗生物質が使えるようになった現在においても手術成績や患者回復に与えるマイナスは依然として大きい.特に開腹術例では腸内細菌による汚染の機会が多いため,その頻度が高く,術後合併症のかなりの部分を占めている.

 ■病態と病因■

 清潔な手術創は一次的治癒過程をたどり,5〜7日で完治する.創感染の成立には図に示すように,①細菌側の因子,②創の状態③生体の感染防御機能が複雑に関与している.

開腹術後の壊死性筋膜炎 小西 富夫
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 ■病態・病因■

 壊死性筋膜炎は皮下を這って広がる広汎な浅筋膜とその周囲組織の壊死を特徴とし,重篤な全身性変化を示す比較的稀な感染症で,四肢に好発するが,その他,腹部,会陰部などにも発症する.人種差,性差はなく,あらゆる年齢層に起こるが,中年層に多い疾患である.

 本症の多数例の詳細な報告がなされたのは1924年のMeleneyl)が最初で,全例にhemolyticstreptococcusが検出されたことより,病因論的観点からhemolytic streptococcus gangreneの名称が用いられた.しかしながら,その後本症の起炎菌が必ずしも溶連菌だけではないことが判明してきたことから,Wilson2)は,この疾患に特徴的で普遍的な所見である浅筋膜の壊死を重視してnecrotizing fasciitisと呼ぶことを提唱し,現在ではこの疾患名が一般に採用されている.

腹壁縫合糸膿瘍 渡邉 千之 , 石山 賢
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 ■病態と病因■

 縫合糸膿瘍は創感染の一形態であるが,創感染が術後2〜3日から10日前後に発症し,処置が速やかであれば入院中に治癒してしまうことが多いのに対し,縫合糸膿瘍は早い時は術後数日内に発症する例もあるが,退院後に発症することも多く,遅い時は術後数年を経過して発症する場合もある.生命予後にかかわる程の重篤な合併症ではないが,病悩期間が長期にわたるため,患者ばかりでなく外科医にとっても気の重い術後合併症である.

 原因は非吸収性の縫合糸が創内の異物として作用し,これを核として膿瘍を形成したものである.腹部手術に優秀な非吸収性縫合糸が使えるようになったメリットとして創哆開や腹壁瘢痕ヘルニアが減少した反面,縫合糸膿瘍はそのデメリットである.

横隔膜下膿瘍 加賀美 尚
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 ■原因■

 術後にみられる横隔膜下膿瘍の原因には,次のようなものがある.①消化管の縫合不全,②腹腔内の汚染,③そのほか腹腔内の異物の残存などである.このように列挙してみると,術後の横隔膜下膿瘍はいずれの原因によるものであれ,手術時の注意深い操作や配慮によってある程度避けることのできる合併症であるともいえよう.ちなみに,最も多いのは縫合不全である.

 極めて稀な異物による場合は別にして,縫合不全や汚染による症例のなかには,適切なドレーンが挿入・留置されていれば,横隔膜下膿瘍を形成するまでには至らない症例も少なくないように思われる.

 横隔膜下膿瘍は,時期を失わず適切な処置が行われなければ,敗血症,ショック,DIC,多臓器不全へと進展する危険が高い重大な合併症である.

ダグラス窩膿瘍 加賀美 尚
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 ■定義■

 最初から余談めくが,一言,ダグラス窩の定義に触れておきたい.James Douglas(スコットランドの解剖学者で産科医,1675〜1742)が,女性における直腸子宮窩,すなわち子宮の後方で直腸との間の腹膜の深い下方への凹みとなった部位に名づけた名称である.その底部は後腔円蓋にまで達していて,腔の内腔と腹膜腔とは薄い壁で隔てられているだけである.この解剖学的な特徴が,後述するように臨床的に大きな意義をもっている.そのため臨床の日常では,男性における膀胱の後方の直腸との間にある直腸膀胱窩もダグラス窩と呼ぶことが多い.定義にこだわるときにはPelvic abscessと呼ぶこともある.

腹腔内遺残膿瘍 加賀美 尚
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 ■定義■

 術後の合併症としての腹腔内膿瘍については,別項の横隔膜下膿瘍とダグラス窩膿瘍も広い意味では遺残膿瘍に入る.しかし,頻度と解剖学的な特徴から,診断と処置に一定の概念,方法がほぼ確立されているので,便宜上独立して扱われることが多い.この項では横隔膜下膿瘍とダグラス窩膿瘍以外の膿瘍について総括的に述べる.

 原因については,「横隔膜下膿瘍」と「ダグラス窩膿瘍」の項を参照されたい.

H.術後合併症の対策 e.消化管術後の合併症

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 ■問題点の解説■

 食道手術における吻合部縫合不全は肺合併症,循環不全とならび重篤な術後合併症にあげられ,近年の術後管理の進歩にもかかわらず,その発生率も30%前後と依然高率である.

 本稿では,最も広く行われている胃を用いた食道再建術式を中心に,頸部吻合部の縫合不全について述べる.

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 ■問題点■

 食道癌切除再建術後の晩期合併症として,吻合部狭窄がまずあげられる.食道再建法,特に吻合の高さ,狭窄の程度によって症状が異なるが,術後長期にわたる経口摂取障害やしばしば併発する誤嚥性肺炎は,社会復帰を遅らせる主因となっている.

 本稿では,頸部食道・胃吻合部の狭窄を中心に,その病像について述べる.

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 ■分類■

 胃切除術後の出血は,①術直後から24時間以内にみられる早期出血と,②リークなどの他の合併症に付随して術後1〜3週間の問にみられる晩期出血に分けられる.また,①胃腸管内出血と,②腹腔内出血とに分類することができる.

 主題の「胃術後の経鼻胃管からの出血」は早期の胃腸管内出血に相当する.

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 ■病態・病因■

 胃壁内,特に粘膜下層には血管網がよく発達しているので,devascularizationによって血行障害を起こすことがない(図1).そして,胃亜全摘を行った後の残胃の血行は,脾門部からの短胃動静脈によって大部分供給される.

 脾を温存して脾門リンパ節を郭清する手技として,陣内はいわゆる“すだれ郭清”を提唱した1).これは,膵脾を脱転したのち,脾門の脂肪性結合組織中に生食水を注射して血管を遊離し,この短胃動静脈のみを温存して,その他の組織をすべて切除する方法である.温存された細い4〜6本の短胃動静脈がちょうど“すだれ”のように脾門部から残胃の大彎に残り,脾門リンパ節と脾動静脈幹リンパ節は完全に郭清されるわけである.

胃切除術後の縫合不全 新本 稔
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 ■原因・病態■

 縫合不全の全身的な要因として,年齢,創傷治癒力としての栄養状態が重要である.さらに併存疾患として,糖尿病,動脈硬化などが縫合不全の要因となる.

 局所的な要因としては,吻合部の血行,感染があげられる.十二指腸断端あるいはBillroth I法における縫合不全では,吻合部にかかる内外からの緊張が主な原因と考えられる.

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 ■問題点■

 近年,手術手技や栄養管理の進歩により消化管吻合の安全性は高まっている.しかし一旦縫合不全が発生すると,その治療に難渋することが多く,外科医として大きな敗北感を味わうことになる.

 本稿では,胃全摘術後の食道空腸縫合不全について,まず自験例の実態を分析し,ついでその症状,診断,治療について述べ,更に予防についても触れたい.

胃切除術後の吻合部通過障害 関根 毅
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 ■病態・病因■

 胃切除後の吻合部通過障害の病態像は,胃全摘後の食道・空腸吻合と,胃切除後の胃・十二指腸ないし空腸吻合とではそれぞれ異なっている.すなわち,前者ではRoux-Y吻合,β吻合,空腸間置術などがあるが,端々吻合と端側吻合ではまた異なる.後者ではB-I法とB-II法がある.

 胃切除術後の吻合部通過障害は,器質的原因としての吻合部狭窄に起因するものである.吻合部狭窄の病因としては,表1に示すごとく,術後早期吻合部狭窄と術後後期吻合部狭窄に分けられる.

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 ■病因と発生頻度■

 胃切除後の急性膵炎は,その発生機序はなお明らかでないが,比較的早期に発生する死亡率の高い重篤な合併症のひとつである.Whiteら1)は各種術後に発生する膵炎の頻度は0.03%であるのに対し,胃切除後の膵炎発生頻度は0.8%と高率で,膵炎全体の約6%を占め,Billroth I法よりBillroth II法での発生頻度が高いと述べている.

 その発生要因を表1に示したが,術中の膵損傷では切創や挫滅のみならず,膵の移動,牽引によっても発生しえ,胃癌手術で膵被膜を剥離する際や,リンパ節郭清時の損傷および膵合併切除に由来するもの,さらに術後の十二指腸内圧亢進による胆汁・十二指腸内容の膵管内逆流や乳頭部浮腫などによっても間接的に起こり得る.

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 ■定義■

 術後急性胆嚢炎は「胆道系以外の臓器の手術後1ヵ月以内に発症する術後早期の胆嚢炎」と定義される(日本胆道外科研究会)1).手術後1ヵ月以上経過しても,手術と関連の考えられるものはもちろん含まれる.また,胆嚢結石を有するものも含まれるが,この病態の特徴とするところは,無石性の術後早期の胆嚢炎である.

 胃癌手術後の急性胆嚢炎ではAppleby手術のように胆嚢動脈の血行に問題を生じ,壊死性胆嚢炎を引き起こすものと,それ以外の胃切除術に伴う胆嚢炎に分けられる.

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 ■問題点■

 迷走神経切離術(以下,迷切),特に選迷切(SV)および幹迷切(TV)後には胃内容停滞stasisによる胃内容排出遅延を来すことが知られている.

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 ■原因■

①口側腸管の術前減圧不十分②吻合部腸管の浮腫,循環障害③吻合部の過緊張④術中腸内溶液による吻合部汚染⑤栄養状態の低下⑥合併症の存在(糖尿病,肝硬変など)⑦放射線障害によるイレウス

 縫合不全の主原因に吻合部の浮腫,循環不全の残存が考えられる.術中肉眼的に浮腫がないと判断される場合でも,口側断端は時間経過とともに浮腫がみられる.吻合後の減圧チューブが有効に作用しないと,吻合部内圧が上昇し縫合不全の原因となる.全身的因子では,血清総蛋白,アルブミンの低下がその原因となる.放射線障害によるイレウスでは,腸管壁の線維化が高度で,吻合しても創傷治癒機転が進まないことが多い.

小腸瘻と消化管内瘻 関川 敬義
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 ■病因■

 ①縫合不全 ②ドレーンなどによる腸管の圧迫壊死,術中 の腸管損傷 ③人工的腸瘻 ④局所の循環障害 ⑤炎症性腸疾患 ⑥悪性疾患の他臓器への浸潤による内瘻 ⑦全身疾患の合併 ⑧放射線治療後など

 腸瘻の原因としては,手術によるものが最も多い.消化管吻合部の縫合不全,癒着剥離などにおける副損傷,固いドレーンによる腸管壁の圧迫壊死による穿孔などが原因となる.時には,吻合部の縫合不全が危惧される時は,意図的に人工的腸瘻を造設する.これらは外腸瘻で腸管皮膚瘻を形成する.一方,悪性腫瘍やCrohn病などの炎症性腸疾患では,近接する臓器に内腸瘻を形成することが多い.

直腸切断術後の出血 杉原 健一
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 ■頻度■

 直腸切断術後の出血は比較的稀な合併症である.国立がんセンターにおいて,1979年1月から1990年12月までの12年間に直腸切断術は228例に施行され,そのうちの100例(43.9%)になんらかの合併症を認めた(表1).術後出血は6例(2.6%)であり,それらの症例の経過を表2に示す.

結腸切除術後の縫合不全 貞広 荘太郎
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 ■問題点の解説■

 結腸切除後に縫合不全が発生する率は4〜40%と報告されている.報告者により発生率に大きな差があるのは,対象にした疾患,手術術式,縫合不全の検査方法が異なるためと考えられる.縫合不全は結腸切除手術後の死亡原因の約1/3を占め,縫合不全を併発するとそのうちの11〜39%が死亡すると報告されている.

 腸管の縫合の3大原則は,縫合する腸管に十分な血流があること,縫合部に緊張がかからないこと,water-tightに縫合することであるが,手術時に以上の条件を満たしていてもなお縫合不全は発生しえる.表に腸管縫合に不利な条件を示す.

結腸の吻合部狭窄 原 宏介
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 ■問題点の解説■

 結腸における吻合部狭窄は,食道・胃などの上部消化管手術後に起こる吻合部狭窄に比べ,全身的影響は比較的少なく,たとえ発生しても治療に難渋することは稀である.しかし近年,大腸癌患者の増加とともに,低位前方切除術や経肛門的結腸肛門吻合術などの括約筋温存術式が採用される機会が増えるにつれ,その術後合併症の1つとしての吻合部狭窄も無視できない.

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 ■問題点の解説■

 造設人工肛門(以下,ストーマ)の術後早期合併症には手術手技と関連のある出血,壊死,陥凹,狭窄や,手術終了後のストーマ管理に関連する皮膚炎がある.早期合併症の頻度は30〜40%と報告があり,合併症の中では皮膚炎が80〜90%を占め,他の合併症の頻度は少ない.

 手術を契機としてストーマ造設患者は術前とは全く異なる排便様式に慣れなければならず,ストーマの自己管理の円滑な習得は患者の社会復帰に重要であり,合併症の予防と対策に留意が必要である.以下,各々の合併症について述べる.

糞瘻 原 宏介
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 ■病態・病因■

 一般的には,何らかの原因で腸管内腔と皮膚を連絡する瘻管が生じ,そこから排出される内容物が糞便性の場合,すなわち外腸瘻の一種を糞瘻と呼んでいる.ただし,内腸瘻の一種である結腸直腸と他の臓器(胃,腸管,膀胱,尿管,胆道,生殖器など)との間に瘻孔を生じたものも含めて,広義に用いる場合もある.また,糞瘻を原因別に偶発的に生じたもの,人工的に造設したもの(結腸瘻,人工肛門)に分類することもある.内腸瘻および人工肛門については,他の項で取り扱われるので,本項では外腸瘻の一種である狭義の糞瘻に重点を置いた.次に糞瘻の病因として臨床上重要なものを列挙する.

H.術後合併症の対策 f.肝・胆・膵・脾術後の合併症

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 ■原因■

 胆管胆嚢の病的穿孔や外傷あるいは手術時の胆道損傷によって胆汁が腹腔内に漏出し発症する胆汁性腹膜炎は,他の急性化膿性腹膜炎に比し重篤化する例が多く,死亡率も高い.その原因として,腹膜炎の発生に際し,胆汁中の細菌性因子に加え,腹腔内に漏出した活性化胆汁の化学的毒性因子が関与していることがあげられる1)

 近年,胆道系の診断,治療に行われるPTCD(Percutaneous transhepatic choledochographyand drainage)やPTCCD(Percutaneous trans-hepatic cholecystography and drainage)の操作中に発生する胆嚢胆管穿孔や留置したカテーテルの逸脱抜去によっても胆汁性腹膜炎を生じうる.特にT-tube抜去後に発生する胆汁性腹膜炎は,術後の合併症としてその対策を考える必要がある.

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 ■はじめに■

 膵頭部領域癌や総胆管良性狭窄,肝内結石など器質的胆汁排出障害に対して,うっ滞した胆汁を消化管に誘導する胆道再建には,肝内胆管を利用する場合と肝外胆管を利用する場合に大別することができる.後者のうちで総胆管ないしは総肝管と消化管とを吻合する術式は最も基本的な胆道再建術であって日常の臨床にしばしば用いられる.

 従来,肝内結石や根治手術不能な膵頭部領域癌では,総胆管と切離挙上した空腸とを側々吻合する総胆管空腸側々吻合が広く用いられてきた.しかし,この方法では胆汁流出路が2経路となることから,末端部の狭窄の強い場合は下部胆管がblind sacとなってsump syndrome,結石形成,胆管炎のもととなるところから,最近では,胆管を吻合予定部で切除離断し,空腸と端側あるいは端々吻合する方法が多く用いられている1,2)

術後胆道狭窄 松代 隆
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 ■問題点の解説■

 術後胆道狭窄は主として手術の過誤によるものであるが,Maingotら1)によれば原因となった手術の90%は胆摘術で,胆摘術400〜500回に1回の割合で発生している.第20回日本胆道外科研究会2)(1991年5月,京都)で良性胆道狭窄の治療が主題の1つに取り上げられ,類似の集計がなされた.この集計によると,術中胆道損傷は423例で,原疾患は胆石症が278例(66%),ついで胃手術49例(12%),十二指腸手術12例(3%)となっている.初回手術時に胆管損傷に気づき,術中に修復がなされた症例は276例(65%)であるが,うち33例は術中造影で発見されている.

 術中胆道損傷の予後は,初回手術時に発見され修復されればきわめて良好であるが,修復までの病悩期間の長いもの,修復手術回数の多いもの,胆管損傷による狭窄部位が上部胆管ほど手術が困難となり,予後不良例も多くなる1)

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 ■分類■

 胆汁瘻(biliary fistula)は外胆汁瘻と内胆汁瘻に分けられる.外胆汁瘻の報告は1670年になされたThilesus1)の報告が最初とされ,結石の嵌頓から膿瘍を形成した胆嚢が腹壁に癒着し,これが穿通して,自発性外胆汁瘻を形成した症例である.

 最近ではこのような自発性の外胆汁瘻の症例は極めて少なく,多くは緊急手術や減黄を目的に手術的に造設された外胆汁瘻か,胆道系手術後に合併症として発生する難治性の外胆汁瘻である.

 本稿では,急性胆嚢炎に対し緊急に行う外胆汁瘻の二期的処置と合併症として発生した難治性外胆汁瘻について述べる.

化膿性肝膿瘍 松代 隆 , 小笠原 鉄郎
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 ■問題点の解説■

 肝臓は門脈,胆道などを通じてたえず消化管からの細菌感染の機会にさらされているが,通常は血流が豊富なことや細網内皮細胞系の貪食作用により感染から防禦されている.したがって,健常肝に肝膿瘍が発生することはきわめて稀である.しかし,なんらかの原因により肝の抵抗力が減弱したり,細菌感染が高度になると本症発生の危険性が増大するが,実際の臨床上はきわめて稀な疾患である.

 本症の感染経路として,①経門脈性,②経肝動脈性,③経胆道性(上行感染),④隣接臓器よりの直接感染,⑤外傷性,⑥原因不明が考えられる.抗生物質が開発される以前は化膿性肝膿瘍の半数は経門脈性で,とくに虫垂炎に由来するものが代表的疾患とされていた.しかし,最近では胆道系疾患に由来するものと原因不明例がその大半を占めている.前者は多発性,後者は単発性のことが多い.

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 ■病因・病態■

 高カロリー輸液などの全身管理により上部消化管手術時の死亡率は減少したが,膵頭十二指腸切除術時にみられる膵空腸吻合部の縫合不全は,現在でもなお致命的となり得る合併症である.膵液中の各種膵酵素はトリプシンによって活性化されるが,これに先立つトリプシノーゲンの活性化は膵液と十二指腸または上部空腸の粘膜より分泌されるエンテロキナーゼの混和により引き起こされるため,膵空腸吻合部では各種膵酵素が活性化された状態であり,いったん縫合不全が発生すると自己消化により重篤な合併症となる.この点で,膵液が活性化されていない単純膵瘻とは予後,対処法において大きく異なる.

 膵空腸吻合部の縫合不全は造影検査などで証明されることは少なく,多くはドレーンなどからの排液により診断されることになる.この際,区別すべきものが膵液漏出であり,膵炎を併発したために,あるいは吻合部針穴などから漏出すると考えられるものである.この場合の膵液は非活性型であるものと考えられ,感染などを併発しない限り大事には至らない.アミラーゼは失活しにくく安定で,排液の濃度測定は容易にでき,純粋膵液では10万IU/lと高値であるため微量の混入でも検出でき,臨床上縫合不全の診断に実用できる検査である.

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 ■病態・病因■

 膵液瘻とは非生理的な交通路への膵液の漏出である.腹腔外へ漏出するものは外膵液瘻であるが,仮性嚢胞が消化管に穿破したり,手術により仮性嚢胞消化管吻合術を作成する場合に生ずるものは内膵液瘻と呼ばれる.また,膵性腹水や膵性胸水の形で新たな交通路が形成される場合もある.

 原因としては,佐藤1)によると膵外傷によるものが最も多く,ついで膵切除,外瘻造設後,急性膵炎となっている.しかし,頻度に関しては,それぞれの施設の特徴によると考えられる.表1に国立仙台病院外科における1986年5月〜1991年4月の5年間における外膵液瘻の頻度を示した.膵手術の83例中8例に,ついで脾摘術での57例中2例,計140例中10例(7.1%)に認められた.このうち上部胃癌,膵癌,膵嚢胞などに対して行われた膵体尾部切除術39例中3例に発生している.膵頭十二指腸切除術後の縫合不全と合併して発生したものは3例である.実際には術後のドレーンからやや高アミラーゼ値を示す少量の膵液の排出がある際には,minor leakageによるものかどうか診断困難な場合が稀ではない.このような場合でも厳密な意味では非生理的な膵液の漏出が疑われるものの,膵瘻に含めるかどうかは諸家により異なる.部分切除の2例は膵頭部におけるインスリノーマと悪性膵島腫の2例に周囲組織を含めて切除した際に発生した.

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 ■問題点の解説■

 脾摘後には血小板数は2〜10日目におよそ30%以上の増加を示し,数週間以内に正常域に回復するとされている.血小板数が40万/mm3以上になると血小板増多症thrombocytosisと呼び,80万/mm3以上となると血栓性静脈炎や肺梗塞,そして門脈血栓症などさまざまな血栓症が発生する危険性が増すとされてきた.このように,血小板増多症は脾摘後の最も多い合併症の1つである.しかしまた一方で,肝硬変合併肝癌や食道静脈瘤症例では,脾機能亢進症における血小板減少による出血傾向に対する治療の目的で脾摘が併施されてもいる.本稿では,自験例をもとに脾摘後の血小板の増多の問題について検討したい.

脾摘後の発熱 後藤 明彦
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 ■問題点の解説■

 脾摘術は門脈圧亢進症,脾損傷,胃癌などの悪性腫瘍,血小板減少性紫斑病,溶血性貧血などの際に,しばしば実施される術式であるが,術後に発熱を来す合併症として,感染,敗血症,血栓塞栓症,膵炎,横隔膜下膿瘍などがある.このほかに,いわゆる「摘脾熱」があり,発熱の原因として明らかに感染症を思わせるものがないのに,38℃前後の弛張熱の続くことをさしている.これらの脾摘術後の発熱について述べる1〜3)

基本情報

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臨床外科
46巻11号 (1991年10月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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