特集 術前・術後管理 '91
H.術後合併症の対策
d.開腹術後の合併症
開腹術後の腹腔内リンパ液漏出(乳糜腹水を含めて)
望月 英隆
1
,
玉熊 正悦
1
1防衛医科大学校第1外科
pp.236-238
発行日 1991年10月30日
Published Date 1991/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407900632
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■臨床的意義■
悪性腫瘍に対するリンパ節郭清術や後腹膜臓器の術後に,リンパ液が大量に腹腔内に漏出することはときに経験する.リンパ液が大量に失われると,水分・電解質のほか,蛋白質や脂肪,さらにはリンパ球も大量に喪失し,脱水,循環障害,著明な栄養障害を来すのみならず,オプソニン蛋白やリンパ球の減少による感染防御機能の低下を来し,術後の創傷治癒や経過に多大な影響を及ぼす.また,腹腔内に大量に貯留した場合には種々の成分の喪失のほか,消化管圧迫に起因する経口摂取量減少,横隔膜挙上による両側の無気肺などが生じ,術後経過に及ぼす影響はすこぶる大きい.
経口摂取下には,小腸領域から腹腔内へ漏出するリンパ液は小腸から吸収された脂肪を含んで乳白色の乳糜状となっており,乳糜腹水(chylousascites)と呼ばれる.一方,経口摂取下でも肝臓や骨盤内臓器手術に伴うリンパ液漏出が乳糜状となることはほとんどなく,漏出リンパ液が経口摂取下で乳糜状であるか否かにより漏出部位の大別が可能である.しかし,小腸リンパ流の漏出であっても,開腹手術直後は経口摂取が禁じられていて,漏出するリンパ液は血漿と同様にやや黄色を帯びた透明である.術後に認められる漏出リンパ液が乳糜状であるか否かによってその病態にほとんど差はないため,本稿では広く開腹術後に認められるリンパ液漏出について述べることとする.
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