臨床泌尿器科 62巻4号 (2008年4月)

特集 泌尿器科外来ベストナビゲーション

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 従来,医師の臨床研修において,病棟での患者さんへの医学的対応ができるレベルの能力が備われば,それで十分であり,外来診療に関しても問題なく行えるものと考えられてきており,わが国の多くの病院や大学で行われている臨床研修の大部分の時間は病棟を中心に費やされているのが現状です。したがって,大多数の医師は外来診療についての系統的な研修を受けずに臨床研修を終了し,その後,外来診療の現場で自己流の診療スタイルを身につけていると思われます。しかし,入院患者は,すでに入院の対応・目的が決定されており,病棟での研修のみでは,初診の患者さんの診断や治療の仕方を学ぶことはできません。とは言え,すべて臨床医は,多様な訴えを持った患者さんに,限られた時間内で対応する基本的診断能力を身に付けることが必須であるという現実に直面します。したがって,研修医は,病棟研修に加え研修病院外来診療,さらには中・小規模病院および診療所などでの臨床研修が必要となってきますが,そのような研修を受けることが難しいのが現状です。

 本増刊号は,2005年第59巻増刊号「ここが聞きたい 泌尿器科外来における対処と処方」を全面改訂した新たな企画であり,若い読者・研修医の皆様にとっては,先に述べた不十分な外来臨床研修を補塡できる可能性のある特集でもあると思われます。本増刊号の記述スタイルは,多くの疾患診療ガイドラインで採用されている臨床的疑問に回答する形式,すなわち,一般泌尿器科医が日常外来診療において遭遇している疑問・問題点に関して,各々の領域において幅広い経験を持つ精通者に直接相談し,難題の解答を導きだすことができるような実用的なスタイルとしました。大項目は,1.尿路・性器の炎症性疾患,2.神経因性膀胱障害と尿失禁,3.前立腺肥大症,4.尿路結石,5.腫瘍(外来化学療法),6.内分泌疾患,7.腎不全,8.そのほか,と前回と同様の分類ですが,小項目およびその質問内容に関しては,泌尿器科診療領域の現状に配慮して,大幅な見直し・改訂によるブラッシュアップを行いました。それらおのおのの質問事項に対する回答の執筆は,現在,第一線の医療機関において活躍されている新進気鋭の先生方に新たにお願いしました。各質問の構成は「1.診療の概要」「2.診療方針」「3.対処の実際」「4.処方の実際」「5.ここがポイント」です。

1.尿路・性器の炎症性疾患

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1 診療の概要

 膿尿とは尿沈渣法で,白血球数≧5WBC/HPF,または非遠心尿を用いる計算盤法(chamber method)で,白血球数≧10WBC/mm3と定義されている1)。女性および包茎の男性は,外陰部の分泌液などによる尿汚染が生じる場合があるので,採尿前に陰部を清拭綿等でよく清拭する必要がある。簡易的には中間尿採取法で行う。設問の患者では,カテーテルで尿を採取したほうがよいと思われる。

 また,患者は車椅子生活を強いられている高齢者であるので,何らかの基礎疾患を考慮しなければならない。脳血管障害,脊髄疾患,糖尿病などによる神経因性膀胱や尿路結石,前立腺肥大症,尿道狭窄,尿路悪性腫瘍,尿路系カテーテル留置などの合併も考えられる。これらの場合,細菌はバイオフィルム2)を形成し,難治性の膿尿,細菌尿の原因となる。

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1 診療の概要

 頻尿,残尿感は,泌尿器科医が遭遇する最も一般的な症状の1つである。このような患者は,多くの医師が精神的要素の強い病態(尿路不定愁訴)として取り扱う傾向があるが,ときに患者にとってはQOLを損なう深刻な問題でもある。

 設問の症例には男女の区別がないが,性別に分けて考える。

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1 診療の概要

 間質性膀胱炎とは,『間質性膀胱炎診療ガイドライン』1)によれば,「膀胱の非特異的な慢性炎症を伴い,頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・膀胱痛などの症状を呈する疾患」とされる。上記の症状は,排尿後には軽減・消失することが多く,膀胱の知覚が亢進した状態を反映していると考えられる。症状の中で最も特徴的なものは膀胱痛であるが,膀胱痛を認めない症例も少なくないことに注意が必要である。わが国における各症状の頻度は,頻尿90.7%,尿意切迫感が61.6%と高頻度であるのに対して,膀胱痛は46%と半数以下であった1)

 症状は一定せずに寛解と増悪を繰り返し,自然に改善する場合もある。尿検査は多くの場合に異常を認めない。尿沈渣で赤血球や白血球を認める場合は,尿路上皮癌や感染との鑑別のために尿細胞診や細菌培養を行う。排尿記録では,排尿回数の増加,1回排尿量の低下(200ml以下など)を認める。客観的な診断基準としては,膀胱鏡検査が最も信頼性が高い。血管増生,ハンナー潰瘍,瘢痕,水圧拡張後の出血などの所見を認めることが多い。膀胱生検で上皮内癌を否定することは意義があるが,間質性膀胱炎に特異的な所見はなく必須ではない。現在,間質性膀胱炎について確立した診断基準はないが,臨床的な診断基準は,表1のとおりである。

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1 診療の概要

 高齢男性が血膿尿を呈する可能性がある疾患としては,(1)尿路結石,(2)尿路感染症,(3)尿路上皮癌(腎盂尿管癌あるいは膀胱癌),(4)前立腺肥大症,(5)前立腺癌などが考えられる。鑑別診断をする際に症状として大切なのは,発熱,排尿時痛,腰背部痛,排尿症状の有無である。発熱があれば,腎盂腎炎や前立腺炎が疑われる。排尿時痛では,膀胱炎,前立腺炎,尿道炎,あるいは膀胱癌(上皮内癌)を疑う。腰背部痛があれば,尿路結石や水腎症を併発した尿路上皮癌を疑うべきである。排尿症状がある場合は,前立腺肥大症や前立腺癌を考えるべきである。

 また,最初に行うべき検査としては,非侵襲的検査である経腹式超音波断層検査(エコー検査)が挙げられる。腎結石や尿管結石,尿管癌による水腎症の有無,膀胱腫瘍あるいは膀胱結石を示唆する所見がないかどうかがわかる。さらに,前立腺の肥大や癌を疑わせる所見(低エコー病変)の有無を知ることができる。以上のように,症状とエコー検査所見を併せて,考えられる疾患を絞り込む。そして上部尿路結石が疑われた場合は,排泄性腎盂尿管造影を行い,確定診断を得る。尿路感染が考えられる場合は,血算やCRPを測定し,炎症反応の有無と程度を評価する。また尿培養で原因菌を明らかにして抗菌剤治療を行う。

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1 診療の概要

 腎盂腎炎は細菌の逆行性感染により,腎盂および腎実質の炎症が惹起された状態である。臨床経過により急性あるいは慢性に,基礎疾患の有無により単純性あるいは複雑性に大別される。急性腎盂腎炎は迅速な治療を要する。

 臨床症状として,悪寒・戦慄を伴う発熱,腰痛,腹痛などが認められる。他覚的所見としては,患側の肋骨・脊柱角部の叩打痛がある。検査所見としては尿検査が重要で,尿沈渣上,白血球10個以上/hpfの膿尿を認め,細菌尿は105/ml以上で起炎菌と診断される。血液検査ではWBC増多,CRP上昇が重症度の推定に用いられる。

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1 診療の概要

 妊娠すると,解剖学的変化とホルモンの影響で,非妊娠時に比べ尿路感染症に罹患しやすい。解剖学的変化としては,妊娠の進行に伴って増大した子宮により,骨盤上峽部の縁で尿管が圧迫され,腎盂,腎杯の拡張が出現しやすくなる。ホルモンの影響は,妊娠中に増加するプロゲステロンによるもので,尿管の平滑筋が弛緩し,蠕動運動が低下する。また,膀胱平滑筋にも作用し,残尿の増加,VURが起こりやすくなる。

 妊娠中の急性腎盂腎炎は妊娠女性の約1~2%に発症し,また中期以降に多いと報告されている1)。半数以上は右に出現する。その理由としては,妊娠子宮が右旋・右傾すること,左側尿管はS状結腸によって圧迫が緩衝されること,さらに直接下大静脈に還流する右側卵巣静脈は妊娠中に拡張し右尿管を圧迫すること,が挙げられる。

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1 診療の概要

 男性の尿道炎は,起炎微生物により淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類される。淋菌性尿道炎は淋菌感染によるもので,強い排尿痛,外尿道口からの膿性分泌物,亀頭部の発赤などの症状が特徴的で,非淋菌性尿道炎と比較して症状の程度が強い1)。非淋菌性尿道炎は,Chlamydia trachomatis, Mycoplasma genitalium などの感染による。これら以外にもウレアプラズマの関与も疑われているが,確立されてはいない。軽度の排尿痛,外尿道口からの漿液性分泌物などの症状が特徴的であるが,無症候性の場合も少なからずある。淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎は,症状から判断して大まかに鑑別することも可能であるが(表1),M. genitaliumによる尿道炎では,症状の程度が強い場合もあり,念頭に置く必要がある。

 淋菌性尿道炎に対する治療としては,経口抗菌薬に対する淋菌の耐性化が著しいことから,注射用抗菌薬により治療すべきである2)。非淋菌性尿道炎に対する治療としては,テトラサイクリン系,マクロライド系,ニューキノロン系抗菌薬が有効であり,治療に難渋することは稀である。

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 男性の尿道炎は,比較的若い年代では性感染症として淋菌やクラミジア・トラコマティスが起炎微生物となり発症する。中高年の男性は,明らかな性感染症の感染の機会がない限りは,グラム陰性菌などによる細菌感染が原因となる。非淋菌性尿道炎の一部を除いて,尿道炎の症状としては,排尿痛,頻尿,尿道分泌物があり,検査所見としては,膿尿を認める。つまり,症状があるために,泌尿器科などを受診し,治療を受けることになる。起炎微生物の推測を誤らなければ,抗菌薬による治療で症状は改善する。したがって,例外を除いて,尿道炎が重症化するのは,尿道周囲というよりは急性精巣上体炎などへの進展である。もちろん,無症候性感染の頻度が高いクラミジア・トラコマティス感染では,尿道周囲までの炎症の波及は極めて稀と考えられる。

 尿道周囲に炎症を生じるような疾患としては,陰茎海綿体膿瘍や化膿性陰茎海綿体炎が挙げられる。陰茎海綿体膿瘍は,プロステーシスなど異物の挿入1,2),外傷,薬物(注射)など原因がはっきりしているものもあるが,原因が不明とされているものが多い3~6)(表1)。発症時の年齢別では,比較的若年者では外傷やプロステーシスなど明らかな誘因があるものが多く,中高年者では原因が明らかでないものが多い3)。尿道炎の関与については明らかではない。

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1 診療の概要

 38℃以上の急激な発熱とともに膀胱刺激症状と尿混濁を認め,前立腺の腫大・圧痛があれば,急性前立腺炎診断1~4)は比較的容易である(表1)4~6)。しかし,他の発熱性疾患や基礎疾患の合併7,8)を適切に評価し,確実な治療法を選択することが重要である。

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1 診療の概要

 慢性前立腺炎1~9)は診断・治療の最も難しい病態の1つであり,診断そのものが誤っている可能性6)も念頭に置く必要がある。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【精囊炎】

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1 診療の概要

 血精液症とは,文字どおり精液に血液が混入する状態で,患者にとっては衝撃的な症状である。泌尿器科外来診療における症状としては決して稀なものではなく,当科での男性初診患者の主訴としての頻度は1.3%である。年齢は20~60歳代の各年代に一様に分布し,40歳代に最も多い1)。約6割で随伴症状を認めないが,年齢が上昇するにつれて,頻尿,排尿困難,肉眼的血尿,下腹部痛などの症状を伴う症例が増加する1)。血精液症の原因疾患を表12)にまとめる。

 炎症と感染は前立腺・精囊炎,前立腺・精囊結石,結核などが,精路の閉塞や囊胞は精囊囊胞,射精管囊胞,ミュラー管囊胞などが,腫瘍は前立腺・精囊悪性腫瘍などが,血管系の異常は尿道血管腫,精囊静脈瘻などが,全身疾患は高血圧,アミロイドーシス,アレルギーなどが,医原性としては前立腺生検などが報告されている。その頻度は炎症と感染が42~67%3~7)と最多である。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【精索炎】

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1 診療の概要

 鼠径部の異常を主訴として受診する患者が病院の総合案内受付などで病状を説明する際の「鼠径部」の表現は,「足のつけね」「陰部」「お腹の下のほう」などさまざまである。その表現を基に,泌尿器科もしくは消化器科などの診療科へ振り分けているのが現状であろう。泌尿器科医が鼠径部の腫脹を訴える患者の診療に際してまず行うべきことは,鼠径ヘルニアの除外である。鼠径ヘルニアと診断された場合は,消化器科へ依頼する。鼠径部に腫脹・腫瘤を認める原因疾患を表1に示す。検査は原因疾患の鑑別を念頭に置いて構築する。原因疾患が同定されたら,それに準じた適切な治療を行う。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【亀頭包皮炎】

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 亀頭包皮炎は,亀頭の包皮内板・外板に挟まれたスペースに起こる限局性の感染症である。このスペースには幼児期に恥垢がよく貯まるので,それが原因と思われがちであるが,これは誤りである。恥垢は閉鎖スペースに皮膚が脱落して発生するものであって,外部からの感染は防護されている状態といえる。恥垢そのものは表皮角化の脱落によるケラチン質の集塊であって,これ自体が感染の基になることはない(図1)。ときには恥垢が小豆大になって外から透見できることがあり,小児科医から脂肪腫の疑いとして紹介されてくることもある。年長になるに従って包皮外板と内板の癒着が取れてスペースが外界と通じるようになると,雑菌の繁殖を許すようになる。また排尿後に尿が流入して尿中成分が沈着するようにもなる。

 このようなときにバルーニングがあると(図2),増悪因子とされて小児科医から包茎手術の要請をしばしば受けるが,後述するように重大に取る必要はない。また包皮を無理にめくったりすると内外板の癒着が外力によってはがされ,発赤,浮腫をきたし感染を受けやすくなる。いずれにしても外界と接するような状態になったとき,包皮内外の衛生状態が悪く清潔が保たれなかったり抵抗力が弱まっていると,容易に炎症の母地となり菌が繁殖し,包皮,亀頭のびらんをきたし,膿を排出するようになる。このとき恥垢は液状化し,膿の一部となって排出される。炎症が強い場合は陰茎全体が赤く腫れ,ソーセージ様になることもあるが,これはあくまでも反応性の皮膚発赤であって病巣は先端部のみである。

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 閉塞性乾燥性(硬化性)亀頭炎(balanitis xerotica obliterans:以下BXO)は包皮,包皮口,亀頭,外尿道口にみられる皮膚の蠟様白色,硬化性病変である(図1)。高度となると独特な閉塞病変を示し,包皮口,外尿道口に狭窄をきたし排尿障害を起こすので問題となる。病態は慢性炎症性角化症である硬化性苔癬(lichen sclerosus)である。組織学的には表皮の角質増殖と萎縮化,真皮基底層の液状変性,さらに真皮上層の浮腫と均質化がみられる。初期には亀頭や包皮に白色斑が出現し,かゆみや灼熱感を伴う。次第に包皮,外尿道口に及んで白色硬化の変化が起こり,光沢を有する平滑菲薄な皮膚となり,亀頭と包皮は癒着し翻転できなくなる。さらに病変は前部尿道,陰囊にまで及ぶこともある。

 原因としては,(1)遺伝的要因,(2)自己免疫の関与,(3)ホルモンの影響,(4)感染症,などが挙げられている。(3)のホルモンに関しては,小児例で思春期に改善がみられることから,男性ホルモンの作用低下が原因ではないかと考えられている。(4)についてはライム病の原因であるボレリアによる慢性炎症の関与が疑われている。いずれにしても,今のところ原因は不明である。

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 ムンプスウイルスによって発症する流行性耳下腺炎の好初年齢は3~5歳で,約85%が15歳以下の小児にみられるといわれている。ムンプスウイルスは飛沫感染によって伝搬される。潜伏期間は約2~3週間であり,症状はその名のとおり発熱を伴う耳下腺の腫脹を特徴とし,発熱は1~4日,耳下腺腫脹は7~10日続き,その後,自然治癒する。膵炎,卵巣炎,精巣炎,心筋炎,関節炎,甲状腺炎,乳腺炎,腎炎などの合併症を併発することもあり,さらに脳髄膜炎,内耳感染による聴力障害などを引き起こすこともある1~3)

 ムンプス精巣炎は,耳下腺で増殖したムンプスウイルスが血行性に精巣に達して発症すると考えられており,通常,耳下腺炎の4~8日後に発症する。思春期以前にはほとんどみられないが,思春期以降に流行性耳下腺炎に罹患すると約14~35%にムンプス精巣炎が発生し,17~30%は両側性であるといわれている。ムンプス精巣炎に罹患した精巣の約30~50%に萎縮性変化をきたすとの報告もあり1),男性不妊症の原因として重要な疾患の1つである。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【フルニエ壊疽】

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 フルニエ壊疽(Fournier's gangrene)は1800年代後半にFournier1)によって提唱された疾患概念であり,元来,男性に突然発症し,急速に進展する性器の壊死として報告された。その後,1900年代の前半にMeleney2)は,類似疾患をまとめて報告した際に全例に溶血連鎖球菌を検出したことから,hemolytic streptococcal gangreneと名付けた。1952年には,Wilson3)が原因菌は多岐にわたることを報告し,会陰,性器,肛門周囲に発症する筋膜壊死を主体とした皮膚軟部組織感染症を壊死性筋膜炎(necrotizing fasciitis)として,一般的な概念を提唱した。Eke4)の1,726例の集計では,抗生剤や外科的処置が発達した現在においても,致死率は16%に達すると報告されている。フルニエ壊疽の40~60%に糖尿病が合併しており,その他アルコール常用,免疫力低下状態,ステロイド長期内服,末しょう血管障害なども危険因子と考えられている5,6)

 感染経路として,皮膚外傷(手術操作を含む)からの進展,尿路感染(尿道周囲腺)からの進展,肛門周囲の感染からの進展,などが考えられている4)。いずれの場合においても,皮下に侵入した菌によって引き起こされた感染が皮下脂肪組織と浅筋膜の壊死として深在性に水平に広がり,局所の壊死や血管閉塞のために抗菌薬が患部に有効に移行しないため,診断とともにすみやかな外科的処置が不可欠である。石黒ら7)は,発症12時間以内に手術を施行した場合の死亡率が10%であるのに対し,手術までに12時間以上経過した場合の死亡率は50%に達するとして,迅速な手術による対応の重要性を強調している。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【精巣上体炎】

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 精巣上体炎は,陰囊内炎症性疾患の中で最も頻度が高く,泌尿器科疾患の約1~2%を占めるとされている。感染経路としては上行性,血行性,リンパ行性が考えられているが,大部分は後部尿道,前立腺,精囊腺などの病巣からの経精管的上行性感染によるもので,血行性,リンパ行性感染は稀である。また,発症様式から急性型と慢性型とに分類される1)。以下,急性精巣上体炎について述べる。

 急性精巣上体炎の多くは,一般細菌のほかクラミジア,淋菌などが原因菌となるが,稀に結核菌,ブルセラ,クリプトコッカスなど全身性感染症を起こす病原微生物が原因菌となることもある2)。尿道狭窄,前立腺肥大症などの下部尿路通過障害,尿道留置カテーテル,経尿道的内視鏡操作,前立腺炎などが誘因となる。

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 精子侵襲症は,報告例も少なく一般的には発症頻度の低い疾患と思われるが,剖検例における頻度は1.4~4%とも報告されている。日常の診療においては,同様の症状を呈する慢性精巣上体炎のような疾患と診断されて治療されることも多いのではないかと推察される。精子侵襲症は,精子肉芽腫症(spermatic granuroma)と同義であり,精子が精巣,精巣上体あるいは精管周囲の間質に逸脱し,炎症性細胞の浸潤により肉芽腫を形成したものである1)。1921年にWeglin2)が外傷性精巣上体炎および淋菌性精巣上体炎に合併した症例について報告したのが最初である。本邦では鈴木3)が1959年に83例をまとめているが,以降の報告例は少なく,2002年までに15例の報告があるのみである。約30%の症例で,外傷,性感染症,精巣・精巣上体炎,結核,または精管結紮の既往がある。近年の化学療法の普及によって,炎症性疾患の診断で精巣上体摘出を行う機会が減少したことも,精子侵襲症の報告数が減少した一因ともされる4)

 発生部位は,精巣上体尾部が60~70%と最も多く,左右差はないとされる。腫瘤の大きさは比較的小さなものが多いものの,なかには稀であるが6cm程度の大きいものも報告されている。発症年齢は20~72歳で平均40歳であり,性活動の活発な年齢に発症が多い。実際は,術後の病理組織学的所見により確定診断されることが多いとされる。慢性精巣上体炎などの診断で内服治療を開始するも,治療に抵抗性であれば,精巣上体腫瘍との鑑別という意味も含めて,外科的切除(精巣上体摘除術)を考慮する。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■非特異性感染症 【ペロニー病(形成性陰茎硬化症)】

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 形成性陰茎硬化症(ペロニー病)は,フランスのFrançois Gigot la Peyronieが1743年に最初に報告した疾患である。発音は,ペイロニーではなくペロニーである。ペロニー病は,陰茎海綿体白膜に線維性硬結が形成される良性の疾患であり,勃起時疼痛,硬結の触知,陰茎彎曲,勃起不全などになり,性交障害の原因となる。

 発生頻度は,2000年ドイツ人男性8,000人の一般人調査(回収率55.4%,4,432人,平均年齢57歳)で,発生頻度(硬結の触知)3.2%,年齢別では,30歳代1.5%,40歳代3.0%,50歳代3.0%,60歳代4.0%,70歳以上6.5%であり,頻度の高い疾患である。訴えとしては,陰茎彎曲84%,勃起時疼痛46.5%,勃起障害40.8%,その他1.04%である1)。本邦での統計報告はないが,発生頻度は,3.2%より低いと思われる。また,手足の拘縮(Dupuitren's contracture)を併発することがある。

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 尿道憩室は,尿道と交通を有する囊状腔を形成する憩室で,尿道腟中隔に存在する。発生頻度は,1~5%1,2)で,腹圧性尿失禁の女性では1.4%に認められる。

 原因は,先天性ではGartner管の遺残,原始尿生殖洞の癒合不全,ミュラー細胞の遺残,拡張した傍尿道囊腫,尿管の盲端と関連したものなどが考えられる3)。後天性では,分娩による尿道損傷,膀胱鏡などによる機械的損傷,尿道結石による損傷,尿道腺の感染などが考えられる。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■特異性感染症 【尿路性器結核】

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 結核はグラム陽性桿菌であり,このうちヒトへ結核を引き起こす代表的な菌群がMycobacterium tuberculosisである。

 戦後,現行の結核予防法が制定され,さらに患者管理制度の強化がはかられた。その結果,全結核症の罹患率・死亡率は低下を続け,2005年で,罹患率(人口10万対)は22.2,死亡率(人口10万対)は1.8となっている1)。尿路結核は,2006年の結核総数26,384件のうち152件(0.57%)であった。しかし,先進諸国の中ではまだ高い状況であり,「中蔓延国」にランク付けされているのが現状である2)

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 尿路真菌症は深在性真菌感染症であり,代表的な日和見感染症の1つでもある。複雑性尿路感染症のうち約10%から真菌が分離されるといわれている1,2)。特に,カンジダは腟前庭部・陰茎などの陰部や消化管内に定着しており,なかでも口腔粘膜・結腸に最も高密度に存在している3)。カンジダ感染の起炎菌は,Candida albicansC. glabrataC. parapsilosisC. tropicalisが大部分を占めており,そのうちC. albicansが半数以上を占めている。そのため尿路真菌症の大半は尿路カンジダ症といえる。

 そこで,本稿では尿路カンジダ症について述べていきたいと思う。

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1 診療の概要

 HIV感染症はhuman immunodeficiency virusによって生じる。HIV感染症の進行した状態がAIDS(acquired immunodeficiency syndrome)である。免疫不全を生じ,日和見感染症,腫瘍および臓器障害を生じる。診断はHIV抗体検査で,感染後2週間から数か月すると陽性となる1)。その時期に一致して半数の感染者は伝染性単核症類似の症状を呈し,急性感染期と呼ばれる。この時期は血液中のHIVウイルス量が多く,患者によっては抗体産生が起こっていない場合もあり,HIV-RNA測定が有用である。また,HIV抗体検査では偽陽性も多いので,確認検査が必須である。

 国内では2006年末現在,HIV感染者8,344例,AIDS患者4,050例が報告されている。特に,日本人男性に関しては2006年1,122例と,増加傾向に歯止めがかからない状態になっている。したがって,開腹手術の際にHIV感染症が判明する例も増加傾向にある。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■性感染症 【尖圭コンジローマ】

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1 診療の概要

 尖圭コンジローマは,human papilloma virus(HPV)感染による良性腫瘍である。HPVは性的接触によって感染するが,健常皮膚に侵入することは稀で,ヘルペスや亀頭包皮炎など皮膚が損傷する場合に発症しやすい。したがって,性行為の際に外的刺激を受けやすい包皮反転部や亀頭環状溝に好発する。近年,コンドーム使用率の低下に伴い亀頭部や外尿道口の病変が増加している(図1a)。これらの部位は皮膚が薄く直下に血流が豊富なことから,陰茎軸部に発生した腫瘍とは比べものにならないほど治療が難しい1,2)。口腔粘膜や肛門周囲など,陰茎以外の部位に発生することも稀ではないので注意が必要である(図1b)。

 腫瘍が小さい場合は皮膚のしわに隠れて見逃しやすいので,強い光のもとで皮膚のしわを伸ばして光の当たる角度を変えながら観察する3)。筆者は診察ベッド近くの壁にシャウカステンを掛けて観察している。色調は周辺皮膚とほぼ同じだが,どんなに小さな腫瘍でも肉眼で見えるものはさらに小さな腫瘍の集簇なので,表面が顆粒状で泡立つようなイメージがある。皮下に局麻剤などを注入すると上記の特徴がさらにはっきりする。指先で軽く触れると,こりこりとした硬さを感じる。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■性感染症 【性器ヘルペス】

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1 診療の概要

 性器ヘルペスは,herpes simplex virus 1型(HSV 1),同2型(HSV 2)によって引き起こされる皮膚粘膜の炎症性疾患である。ウイルスが排菌している皮膚・粘膜に接触することによって感染する。性的接触は外性器同士に限らず,口腔や肛門にも及ぶので注意が必要である。旧来,口唇ヘルペスはHSV 1が,性器ヘルペスはHSV 2が原因とされてきたが,性行動の多様化によって口唇,性器のいずれからもHSV 1とHSV 2が同程度検出されるようになっている。HSV 2はHSV 1に比べて症状が重く再発傾向が強いものの,血清抗体の存在が発病と予後を推し量る因子にはならず,HSV 2抗体検査が陽性であるからといって臨床症状が伴わなければ性器ヘルペスの診断はできない。その代わり,再発性性器ヘルペスへの移行,ウイルスの体外排菌,human immunodeficiency virus(HIV)やhuman papilloma virus(HPV)など他のウイルス性STDとの合併のしやすさが,現在の臨床的な関心事になっている。

 性器ヘルペス初感染時には,全身倦怠や発熱,リンパ節腫脹などの全身症状を伴うことがある。局所には水疱,潰瘍びらん,疼痛,発赤,搔痒などの症状を呈する。皮膚粘膜に感染したHSVは末しょう神経をさかのぼり,脊髄近くの神経節にたどり着き,そこで潜伏する。通常は休眠状態となっているが,加齢,疲労,睡眠不足,飲酒などによって免疫力が低下したときに活性化して増殖し,末しょう神経を伝って局所に再発する。再発症状はおおむね軽く,本人が気づかないままウイルスが排菌している1)。そのときに性的接触があると,他人へ移すばかりか,本人もHIVやHPVに感染するリスクが上がる。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■性感染症 【淋菌性尿道炎】

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 本稿では紙面の都合もあり,淋菌性尿道炎,クラミジア性尿道炎について述べていきたい。

 淋菌性尿道炎は,淋菌(Neisseria gonorrhoeae)によって引き起こされる性感染症である。淋菌は低温・高温に弱く,炭酸ガス要求性のため,通常の環境下では生存ができない。最近の性の多様化から,咽頭,直腸感染例が増加している。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■性感染症 【非淋菌性尿道炎】

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1 診療の概要

 男性の尿道炎の多くは性感染症(sexually transmitted disease:STD)であり,淋菌の有無により淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類される。非淋菌性尿道炎の起炎菌としてはChlamydia trachomatisが最も知られており,これは非淋菌性尿道炎の約50%を占める。それ以外の起炎菌として,近年Mycoplasma genitaliumが認知されるようになった1)。しかしM. genitaliumも非クラミジア性非淋菌性尿道炎の約20~30%で検出されるのみである。それ以外の起炎菌については,表1に示す細菌について検討されてはいるが,いまだ結論は出ていない。

 クラミジア性尿道炎を含めた非淋菌性尿道炎は,男子の性感染症の中でも頻度が高い。岐阜県では1985年より県内全医療機関を対象とした性感染症全数調査を行っている。性感染症全体としては, 2002~2004年をピークに減少しているが,1990年代よりは,多く発生している(図1)。男性の主要性感染症別の年次推移を見ると,2002年をピークに淋菌性尿道炎は減少してきているが,クラミジア性尿道炎,非淋菌性尿道炎は減少しているものの,淋菌性尿道炎と比べるとその減少幅は小さい。また,全体の発生数と同様に,1990年代と比べるとまだ高い発生率である。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■性感染症 【トリコモナス】

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 トリコモナス腟炎は,腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)の寄生により発症する。T. vaginalisは単細胞の原生動物であり,鞭毛虫類,トリコモナス目に属する。トリコモナス目は通常4~6本の鞭毛を持ち寄生性である。動物の消化管に寄生することが多いが,泌尿生殖器に寄生することもある。

 T. vaginalisはヒトにのみ寄生し,男子の尿道,包皮,前立腺,精囊腺,精巣上体などに,女子では腟,子宮頸管,Bartholin腺,尿道などに寄生する。

1.尿路・性器の炎症性疾患 ■前立腺痛 【前立腺痛】

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1 診療の概要

 前立腺痛を伴う疾患としては,前立腺炎症候群が代表的である。前立腺炎症候群は,一般に前立腺痛のほかに,頻尿,残尿感,会陰部痛,腰痛,下腹部痛などのさまざまな自覚症状を伴うことが多く,痛みの程度も不快感から疼痛まで多種多様である。前立腺炎症候群の分類としては,Drachら1)の分類が用いられてきた。これは,前立腺炎を急性細菌性前立腺炎(acute bacterial prostatitis),慢性細菌性前立腺炎(chronic bacterial prostatitis),非細菌性前立腺炎(non-bacterial prostatitis)および前立腺痛または前立腺症(prostatodynia)の4つに分類するものである。

 現在は,NIHの分類が用いられることが多い(表1)2)。NIHの分類では,Drachらの分類での非細菌性前立腺炎と前立腺痛をcategory Ⅲ〔chronic abacterial prostatitis(chronic pelvic pain syndrome)〕にまとめ,subgroupとしてcategory Ⅲ A(inflammatory)とcategory Ⅲ B(noninflammatory)に細分化した。さらに,前立腺炎の症状や所見がなく,前立腺生検,前立腺手術などの病理組織学的検査にて前立腺に炎症を認めたものをcategory Ⅳ(asymptomatic inflammatory prostatitis)として新設した。

2.神経因性膀胱障害と尿失禁

2.神経因性膀胱障害と尿失禁 ■神経因性膀胱障害 【蓄尿障害】

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 2002年に国際禁制学会(International Continence Society:ICS)から報告された用語基準1)で,下部尿路機能に関する用語が大幅に改定された。下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)は,関連する症状を含めて大きく7種類に分類された。そのうち,従来から下部尿路症状として扱われていたのは,「蓄尿症状(storage symptoms)」,「排尿症状(voiding symptoms)」,および新たに定義された「排尿後症状(post micturition symptoms)」の3つである。従来,残尿感は排尿症状に含まれることが多かったが,排尿後尿滴下とともに新たに「排尿後症状」として分類された。

 下部尿路症状は,患者の自覚的な疾患影響度あるいはQOLと密接に関係しており,疾患重症度評価,治療選択,治療効果判定における重要な評価項目である。しかしながら,下部尿路症状には疾患特異性はなく,鑑別診断に使うことはできない。例えば,下部尿路症状を有する高齢男性の1/2~1/3には膀胱出口閉塞は存在しないし,前立腺容積,最大尿流率,残尿量,膀胱出口閉塞(bladder outlet obstruction:BOO)の程度と下部尿路症状との相関は,弱いかほとんどない。蓄尿症状と排尿症状の区分も,下部尿路機能障害(蓄尿障害・排尿障害)のタイプを必ずしも反映しない。実際,排尿障害が強くとも,患者の主訴は蓄尿症状であるといったことはよく経験することで,排尿症状=排尿障害,蓄尿症状=蓄尿障害といった単純な図式は必ずしも当てはまらない。下部尿路症状を単純に受け止めて対応するだけでは,重大な合併症を招きかねない。

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 蓄尿障害をきたす病態は多様である。神経因性膀胱(排尿筋過活動:[33],低コンプライアンス膀胱),過活動膀胱([44]),多尿・睡眠障害・心因性などによる頻尿・夜間頻尿([46]),間質性膀胱炎(膀胱痛症候群:[3]),腹圧性尿失禁([37])などが原因となる。原因疾患(病態)によって,おのずから治療方法は異なり,適正な治療のためには正確な病態把握が前提となる。また,排尿障害が合併している場合も少なくないので,ウロダイナミクス検査(尿流測定,残尿測定,pressure-flow検査など)により,下部尿路機能障害の評価が必要となることもある([30]参照)。

 蓄尿障害の原因が排尿筋過活動あるいは過活動膀胱である場合には,内服治療以外の治療方法として行動療法,電気(磁気)刺激療法(干渉低周波療法),膀胱内薬液注入療法,手術療法などがある。

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 外傷性脊髄麻痺(脊髄損傷)は,麻痺の部位(頸髄損傷四肢麻痺か脊髄損傷対麻痺か)と程度(完全麻痺か不全麻痺か,および痙性麻痺か弛緩性麻痺か)に応じた適切な排尿管理法があり,膀胱機能(蓄尿・排尿能力)と排尿関連動作能力の両者をみて決めるべきである。

 膀胱機能障害はどの脊髄損傷レベルでも起こり得るので,骨盤内臓(膀胱・直腸・性器)と括約筋・陰部の支配神経(前者は骨盤自律神経,後者は陰部神経)に麻痺があるか否か,膀胱機能検査(排尿日誌や膀胱内圧測定)で確定でき,仙髄領域の麻痺の状態でも推測できる。排尿関連動作能力については,身体の麻痺レベルで判断できる。第8胸髄レベルの脊髄損傷者は鳩尾以下に知覚障害を示す下半身痙性麻痺で,膀胱(排尿筋)は痙攣性麻痺(排尿筋過反射)のため不随意に排尿が起きやすい。しかし,上半身機能は正常なので車椅子での生活自立ができる。胸髄レベルの外傷は完全麻痺になりやすく,尿意がなく突然の排尿反射で尿失禁する。男性はコンドームタイプの収尿器,女性はオムツか留置カテーテルされることが多い。

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 高位胸髄レベルの脊髄損傷者で生じる強い膀胱収縮は,排尿筋反射(反射性収縮)で無抑制収縮とは呼ばない。残尿がないのは,尿路感染が起きにくいバランス膀胱状態といい,排尿訓練がうまくいった結果である。しかし,反射性尿失禁となるために,コンドームタイプの集尿器をつけて社会復帰するのが常であった。なかには,第6胸髄レベル以上の高位であれば,自律神経過緊張反射という不愉快で苦痛な症状を伴うことがあり,尿がたまると,顔面紅潮,全身のゾクゾク感や発汗,割れるような頭痛など,発作性高血圧症状のために苦しむことも少なくない。自律神経過緊張症状が強くて,抗コリン薬内服でも膀胱容量が100ml未満なら実用的な自己導尿はできないので1),古典的対応としてコンドームタイプ集尿器を用いるのもよい。どうしても失禁のない自己導尿が望みなら,1.オキシブチニン膀胱内注入,2.ボツリヌス菌毒素製剤膀胱壁内注射療法(BTX-A療法)も考えられる。

2.神経因性膀胱障害と尿失禁 ■神経因性膀胱障害 【排尿障害】

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 尿閉とは多量の尿が膀胱に貯留しているが,排尿ができない状態である。尿閉の原因は,下部尿路の器質的または機能的通過障害であり,前立腺肥大症や神経因性膀胱が原因として挙げられる。尿閉の状態が持続すると上部尿路に影響を及ぼし,腎後性腎不全から急性腎不全を発症することが予想される。そのため,何らかの方法で尿を対外へドレナージすることが必要である。代表的な方法として,尿道留置カテーテルがある。

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 糖尿病の神経障害(neuropathy)は,網膜症(retinopathy),腎障害(nephropathy)とともに,triopathyといわれ,糖尿病によるADLを低下させる重大な合併症である。糖尿病では,末しょう神経の代謝異常や微小血管障害が原因で,末しょう神経障害が生じる。その主要な病型は糖尿病性ポリニューロパチーであり,軸索の障害が主体である。この糖尿病性ポリニューロパチーは,自律神経・感覚(特に細径神経線維)が障害されることが多い1)

 初期は多尿であるため頻尿となり,中・後期から排尿困難が出現し,徐々に尿意も低下する。膀胱知覚の欠如が潜在性に起こる。排尿間隔が徐々に延び,尿意切迫感を訴えることなく,一日1~2回の排尿回数となる2)。残尿が増え,尿閉や溢流性尿失禁を呈するようになる。腎後性腎不全による急性腎不全を認めることもある。尿意が低下し尿閉となることで膀胱は過伸展を繰り返し,低コンプライアンス膀胱から萎縮膀胱へ変化する。糖尿病末期で,膀胱排尿筋の収縮能は障害されている2)

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1 診療の概要

 糖尿病,前立腺肥大,膀胱憩室は,いずれも下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の原因となる。このような複数の病態が混在している場合には,対処を考慮するにあたって,それぞれの病態の評価が必要である。膀胱憩室は,何らかの理由により膀胱壁が限局性に脆弱化し,この部分がヘルニアのように突出したものである。前立腺が大きく,尿道閉塞の原因になっている場合には,このことが膀胱憩室を形成した可能性がある。また,設問[35]で述べたように,糖尿病により神経因性膀胱をきたしているとすれば,膀胱収縮力が障害されており,尿道閉塞を治療しても排尿状態の改善が得られない。このように,それぞれの病態を評価して,排尿障害を治療することが重要である。

2.神経因性膀胱障害と尿失禁 ■尿失禁 【腹圧性尿失禁】

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1 診療の概要

 腹圧性尿失禁は,重い物を持ったり,運動,咳やくしゃみなどで急に腹圧が上昇したときに尿が漏れるタイプの失禁で,通常,腹圧が加わったときのみにみられる。出産歴のある中高年の女性で罹患率が高く,多くは骨盤底支持組織の脆弱化に起因する。女性にみられる腹圧性尿失禁は,チェーン膀胱造影検査による膀胱頸部の位置と形態により,Type ⅠからType Ⅲに分類される1)(図1)。

 Type Ⅱは解剖学的腹圧性尿失禁に相当し,特徴的な所見は腹圧負荷による膀胱頸部の下垂である。2cm以上の下垂または恥骨結合下縁以下への下降は,有意な所見とみなされる。Type Ⅱには安静時の膀胱頸部の位置が恥骨結合の下縁より上方にあり,怒責時に膀胱尿道脱を伴うもの(Type ⅡA)と,安静時の膀胱頸部の位置が恥骨結合の下縁より下方にあるもの(Type ⅡB)がある。正常な状態では膀胱頸部と近位部尿道は恥骨尿道靱帯によって支持されているが,尿道過可動(urethral hypermobility)を有する患者では尿道後面の支持が不十分なため,膀胱内に尿が貯留した状態で腹圧が加わると尿道が大きく移動し,尿道が押し広げられる形となり,尿失禁が発生する。このタイプの尿失禁は分娩歴の多い,中年以降の女性に多くみられる。

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1 診療の概要

 女性腹圧性尿失禁の手術法として,テープ状のメッシュを用いて中部尿道をtensionをかけずに固定するTVT(tension-free vaginal tape)手術が最近の主流になってきている。わが国でも,ほとんどの施設で腹圧性尿失禁の第一選択として行われている。長期成績も7年でcured 81.3%,improved 16.3%と良好であり,すでに安全性と有効性が確立されたものであるが,稀に重大な合併症を引き起こすことがあり,注意が必要である。Kuuva & Nilssonによる多施設での合併症調査報告を表1,表2に示した1)。その中で術後完全尿閉は2.3%とされている。ほとんどがテープの過挙上によるもので,テープによる尿道の過挙上をきたさないために,尿道ブジーを用いてテープの引き下げを術中に行うなどの対策が有効である(図1)。このような操作により,尿道~膀胱頸部を下方へ押し下げることができ,咳テストの陽性率を上昇させ,テープ長の調整が容易になるなどの利点がある。また,高位の砕石位による体位のために,術中の尿道の角度がテープの面と合わず,閉塞機転となることも考えられる。

 また,テープカバーの除去操作がTVT手術の出来を左右する大きなポイントである。テープとテープカバーはある程度癒着していることが多く,引き抜く際の抵抗によってテープが延びる。したがって,はじめにテープを大きく下方へ押し下げ,完全に緊張がかからないようにしておく。咳テストなどにより最適のポイントがわかったら,この位置でメッチェンバウムをテープと尿道の間に入れ,テープを下方に牽引しつつ慎重にテープカバーを外す。テープカバー除去操作終了後は,自然の位置で尿道とテープの間にわずかの隙間があるくらいが最適である。テープが緩すぎるのではないかと心配になるが,手術終了後,テープは自然の復元力でわずかに締まっていく。さらに手術は仰臥位で行っており,日常生活での立位の状態では位置が異なるので大丈夫である。念のため,最後にブジーを静かにゆっくり尿道へ入れ,抵抗の有無を確認する。この際,多少でも抵抗が感じられたりテープの位置で尿道が曲がっているようであれば,術後に排尿困難を引き起こす可能性が高い。

2.神経因性膀胱障害と尿失禁 ■尿失禁 【切迫性尿失禁】

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1 診療の概要

 「トイレに行くまでに尿が漏れてしまう」という訴えからは,急に起きる我慢のきかない強い病的な尿意(尿意切迫感)を伴った尿失禁,すなわち切迫性尿失禁(urge urinary incontinence)が最も考えられる。周知のように,2002年に国際禁制学会(International Continence Sosiety:ICS)は,過活動膀胱の定義を尿流動態検査に基づくものから,「尿意切迫感を必須症状とする症候群で,通常は昼間頻尿,夜間頻尿を伴い,切迫性尿失禁は伴うことも伴わないこともある」という自覚症状による定義に変更した1,2)。したがって,切迫性尿失禁は過活動膀胱で必須ではないが,中核的な症状と位置づけられる(図1)。

 近年,過活動膀胱が頻繁に話題となったのは,新規治療薬の開発に伴うところが大きかった。過活動膀胱の治療の中心は今のところ抗コリン薬であるが,多飲多尿3),心因性頻尿および習慣性頻尿などの要素を分析し,行動療法を志向することを忘れてはならない。

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1 診療の概要

 溢流性尿失禁(overflow urinary incontinence)は,高度の尿排出障害の結果,残尿で膀胱が緊満し,ついには尿道抵抗を越え,ダムから溢れるような形で漏れるものである。尿排出障害が本態であるのに,表面的に尿失禁を呈することから,奇異性尿失禁(paradoxical urinary incontinence)とも呼ばれる。

 常時たらたら漏れることが特徴とされるが,腹圧が加わったときに,尿道抵抗を越えて漏れると,特に女性では,腹圧性尿失禁と見間違うような症状になることがある。また,残尿で有効膀胱容量が減少し,頻尿でトイレに行く間に漏れると,切迫性尿失禁と紛らわしい。

2.神経因性膀胱障害と尿失禁 ■尿失禁 【機能性尿失禁】

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1 診療の概要

 高齢社会の進展により,高齢者の排泄ケアは,本人のQOL(生活の質)からも,介護者の心身の負担,経済面からも,ますます重要な問題になっている。高齢者の尿失禁には,①ADL(日常生活動作)の低下や認知症に伴う機能性尿失禁の要素,②加齢,脳血管障害に関連した過活動膀胱の増加,③尿失禁と尿排出障害の合併の増加といった特徴がある1)

 機能性尿失禁(functional urinary incontinence)は,下部尿路機能以外の身体運動機能の低下や認知障害のため,通常の排泄場所(トイレ)への到達,通常の排尿動作の施行に問題が生じて起きる尿失禁である。下部尿路機能の異常がないとの要件が記載されることがあるが,実際は両者が重なる多因子的(multifactorial)状況が大半である。

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1 診療の概要

 夜尿症は種々の原因による症候群とされており,その原因には,①膀胱容量の減少,すなわち膀胱機能が未熟なために十分尿がためられないこと,②夜間多尿,すなわち抗利尿ホルモン(ADH)分泌のcircadian rhythmの異常(夜間にADHの分泌が増加しないために夜間尿量が減少しない),③覚醒障害,すなわち睡眠時に尿が充満していても目が覚めないこと,の3つがある1~3)。そのおのおのに対して治療法があるので,患児の夜尿がどの原因によるものかを診断する必要がある。ただし,覚醒障害はどの夜尿児でも認められる。すなわち,他にどのような原因があるにしろ,目が覚めてトイレに行けば夜尿はなくなる(しかし,他の原因が治癒しない場合には夜間頻尿になる)。

 夜尿症には,昼間の過活動膀胱症状(頻尿,尿意切迫感,尿失禁)を伴わないmonosymptomatic enuresisと,それを伴うnon-monosymptomatic enuresisがある。また,生来夜尿の続く一次性夜尿症と,数か月以上排尿のコントロールが可能であった後に起こる獲得型,あるいは二次性夜尿症とに分けられる。

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1 診療の概要

 夜尿症の原因の1つとして,膀胱容量が小さいことが挙げられる。特に,頻尿,尿意切迫感,昼間の尿失禁を伴うタイプ(non-monosymptomatic)の夜尿症は,成人の過活動膀胱と同様に排尿筋過活動が原因と考えられ,抗コリン薬が有効であると報告されている1)。抗コリン薬の副作用として唾液腺分泌の低下による口内乾燥があるが,そのために虫歯や口腔内びらんをきたすことがある。前述のように,夜尿症の治療に際し抗コリン薬が有効であるのは,通常,昼間の尿失禁を伴う場合が多い。

 膀胱容量が正常,特に夜尿症のみ(monosymptomatic)の場合は,前項([42]参照)で述べた治療法を行い,無効であった場合に“試してみる”程度の価値しかないので,副作用が認められれば中止をして,他の治療法を選択すべきである2,3)。また小児における抗コリン薬の安全性は確立されておらず,中枢移行の可能性のある抗コリン薬は注意が必要である。最近発売された抗コリン薬(トルテロジリン®やソリフェナシン®)は長時間作用型なので副作用は軽減されているが,昼夜薬効が続く。オキシブチニン®やイミダフェナシン®は短時間作用型なので,夜間のみ効果を期待する症例にはよいように思われるが,オキシブチニン®は中枢への移行が報告されているので,薬物の選択にも注意する必要がある。

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1 診療の概要

 2002年の国際禁制学会において,下部尿路機能に関する用語が改訂された。それによると,尿意切迫感を主症状とし,しばしば頻尿および夜間頻尿を,時に切迫性尿失禁を伴う症候群は過活動膀胱(overactive bladder:OAB)と診断される。

 従来の過活動膀胱は,主に尿流動態検査により排尿筋の不随意収縮(無抑制収縮:uninhibited contraction:UIC)をもって診断され,以前は神経因性膀胱と不安定膀胱(神経障害を伴わない排尿筋過活動)に分類されていた。しかし,現在は不安定膀胱という用語は存在せず,特発性(非神経因性)排尿筋過活動(idiopathic detrusor overactivity:IDO)ということになる。

3.前立腺肥大症

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1 診療の概要

 尿閉とは膀胱内にたまっている尿を排出できない状態である。

 症状の発現の仕方により,急性尿閉と慢性尿閉に分けられる。さらに,尿閉の原因は,脳血管障害,脊髄損傷,骨盤腔内手術後(子宮癌,直腸癌術後),神経変性疾患および糖尿病などの末梢神経障害による神経学的な疾患によって膀胱の収縮力が低下したためのものと,前立腺肥大症,尿道嵌頓結石など尿道の機械的閉塞により尿道抵抗が高くなるためのものの2つに分けられる。

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1 診療の概要

 夜間頻尿を主訴に泌尿器科を受診する患者の中で,高齢の男性患者の割合は多い。この中には,前立腺肥大症に伴う膀胱刺激症状としての頻尿と,前立腺肥大を伴わない夜間頻尿ならびに夜間多尿,さらに前立腺肥大を伴う夜間多尿も存在する。夜間頻尿に対しては,これらの病態を鑑別したうえで治療することが重要である。

 80歳以上の高齢者においては,その半数以上に夜間2回以上の排尿頻度があるとの報告1)がある。高齢者の夜間頻尿については,前立腺肥大症による膀胱刺激症状が関与していることも多いが,夜間多尿であることも多く,その原因は,加齢による尿濃縮力低下のほか,糖尿病や多飲によるものなどが挙げられる。

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1 排尿後尿滴下とは

 以前は排尿に関する症状を広義にまとめて“排尿障害”と呼んでいたが,近年泌尿器科医はこれを下部尿路症状(lower urinary tract symptom:LUTS)と呼ぶようになってきた。国際尿禁制学会(ICS)の用語委員会は,このLUTSを表1のように3つに分類している1)。すなわち,蓄尿症状(storage symptom),排尿症状(voiding symptom),排尿後症状(post micturition symptom)の3つである。

 この中で,排尿後症状とは,残尿感と排尿後尿滴下(post micturition dribble:PMD)を指す。PMDとは,排尿が終わってもまだ尿道内に残っている尿(尿道内残尿)が滴下するものを指しており,これは排尿症状(voiding symptoms)に含まれる排尿終末時尿滴下(terminal dribble)とは異なるもので,厳密に区別すべきである。Terminal dribbleは明らかな排出困難を認める症例でしばしば認め,主な尿流の後で,数秒から場合によっては数分にわたり,ぽたぽたと尿が滴下するものである。つまり,一連の排尿の後半部分に含まれる排尿の一症状である。これに対しPMDは,あくまでも排尿終了後に起こる尿の滴下である。

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1 診療の概要

 前立腺肥大症(BPH)では,肥大腺腫の圧迫による尿道閉塞(機械的閉塞)のほか,前立腺平滑筋の交感神経α1アドレナリン受容体を介した収縮による尿道閉塞(機能的または動的閉塞)のあることはよく知られており,α1ブロッカーは臨床の現場で広く用いられている。α1ブロッカーの下部尿路症状(LUTS)に対する有効性や安全性については,すでに多くの報告があり,BPH治療の第一選択薬となっている1)

 BPHに伴う排尿障害に対して最初に保険適用が認められたα1ブロッカーはプラゾシン(ミニプレス®)であり,その後,より前立腺選択性を高めたα1ブロッカーが次々と開発され,現在わが国では6種類のα1ブロッカーが使用可能である(表1)2)。これらの薬剤はα1受容体サブタイプへの親和性が異なるため,それぞれの特徴を有すると考えられる。一方,BPHに伴うLUTSも排尿症状が強かったり,逆に蓄尿症状が主症状であったりと,症例により異なる。また長いBPH治療の過程では,LUTSの内容が変化していくこともある。したがって,個々の症例に応じた,また症状の変化に応じたα1ブロッカーの選択が臨床上必要となる。

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1 診療の概要

 一般に60歳以上の男性の下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の原因としては,前立腺肥大症(BPH)が最もポピュラーで,かつ,このBPHには排尿筋過活動を伴うことが多いのはよく知られている1)。また,長期の下部尿路閉塞(bladder outlet obstruction:BOO)が,排尿筋過活動を引き起こすこともわかっている。そして,排尿筋過活動は過活動膀胱(over active bladder:OAB)症状を呈する(図1)。ところが,理解を複雑にしているのは,BOOのあるBPH患者の50~75%がOAB症状を呈するものの,BOOがなくてもOAB症状を有する患者がいること,またOAB症状があっても排尿筋過活動のない患者がいるという事実である。BPHがあってBOOを伴い,これにより排尿筋過活動を生じ,頻尿などのOAB症状を起こしている典型例は病態が考えやすいが,そのほかにも,さまざまな原因からOAB症状をきたしているBPH患者がいるわけである。この原因としては,尿路感染症,脳血管障害による神経因性膀胱,多尿,服用薬の副作用などが挙げられる。したがって,BPHにOAB症状を伴う場合は,その原因を評価し適切な診断・治療を行うことが必要である。ここでは,前立腺肥大症と診断して,BPH治療の第一選択薬であり,OAB症状をも改善するとされるα1ブロッカーを投与したが,頻尿の改善が得られないケースの対処法について,薬物療法を主体として解説する。

4.尿路結石

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1 診療の概要

 再発性(あるいは多発性)腎結石患者の原因疾患として,高カルシウム尿症は重要な病態の1つである。高カルシウム尿症は,一般に男性で300mg/day,女性で250mg/day以上と定義されている。一方,わが国では,これよりやや低く,一般的に150~288mg/dayとされている1)。高カルシウム尿症はさまざまな病態で起こり得るが,特に特発性高カルシウム尿症,腎尿細管性アシドーシス,原発性上皮小体機能亢進症,海綿腎,クッシング症候群などが重要である。

 特発性高カルシウム尿症は代謝異常の中で最も頻度の高い疾患で,腸管吸収型(カルシウムの過剰摂取もしくはビタミンD過剰によるカルシウム吸収亢進による),腎漏出型(腎尿細管におけるカルシウムの再吸収障害),骨吸収型(骨からのカルシウム動員の増加により血清カルシウム濃度が上昇,腎からのカルシウム濾過量が増加)の3型に分類される2)

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1 診療の概要

 X線透過性腎結石の代表となるものは,尿酸結石とキサンチン結石,2,8-ジヒドロアデニン結石(DHA)である。尿酸時結石は,痛風に代表される高尿酸血症などによる高尿酸尿症と,それに伴う持続的な酸性尿が主たる原因と考えられる。尿酸塩の溶解度は尿pHに依存しており1),尿のアルカリ化によってその溶解度を増加させることにより,再発を予防し得るのみならず,結石の溶解も可能である。一般には食事療法として,尿酸塩の前駆物質であるプリン体を多く含む食事(肉,魚類,アルコールなど)の摂取を制限し,薬物療法として尿アルカリ化剤(重曹,クエン酸製剤)や尿酸生成抑制剤(アロプリノール)の投与を行う。尿のアルカリ化に関しては,pH6.5~7.0になるよう調節する。ただし,尿pHが7.0を超えるような過度のアルカリ化は,リン酸カルシウム結石の誘発につながるため注意が必要である。

 キサンチン結石,2,8-ジヒドロアデニン結石の発生頻度は低く,遺伝性疾患である。

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1 診療の概要

 下部尿管結石が膀胱近傍に下降してくると,膀胱刺激症状が排石までの間,断続的に出現する。患者は尿が膀胱に貯留していないのに尿意を感じてトイレに行くが,一回排尿量が少ないため,「急に尿が出なくなった」,あるいは「数日前から排尿困難が続いており,尿道に結石が嵌まり込んだのではないか?」と訴えて救急受診することが,たびたびある。「尿が出ない」と報告を受けた当直医は,反対側に腎結石がある患者の場合,両側尿管結石になって乏尿または無尿になった可能性をも心配しなければいけない。

 KUBを撮影し,結石が膀胱近傍に下降していることを確認して,患者も当直医もほっとすることが日常診療で起こり得る。このような事態を避けるためには,尿管結石と最初に診断したときに,自然排石の過程で起こり得るさまざまな自覚的症状について十分に説明し,膀胱刺激症状は排石直前のサインであることを理解させておけば,患者も慌てることはなく,無用な受診もしなくて済むであろう。

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1 診療の概要

 尿管結石を疑う妊婦の診察を行う場合,産婦人科から水腎症の精査依頼で紹介されることが多い。その際に,水腎症が通常の妊娠経過でみられる生理的な水腎症なのか,尿管結石などの病的な原因によるものかを診断しなければいけないが,X線検査等の制約があるため確定診断は意外と難しい。正常妊娠経過中において,約70%に生理的な水腎症が発現するが1),妊娠子宮による尿管の機械的圧迫やプロゲステロンの作用による尿路系平滑筋弛緩作用が成因といわれている2)。水腎症の頻度は妊娠月数とともに増加し,妊娠30か月頃まで増大する。発生は右側に多く,これは増大子宮の生理的な右捻転やS状結腸による左尿管の圧迫保護によるものと考えられている3)

 診断は,被曝を避けるため超音波が主体となる。上部尿管や尿管膀胱移行部では結石の描出も容易であるが,中部尿管以下では難しい。妊娠水腎症では血管交差部まで水尿管であるが,交差部以下の尿管は描出されない。したがって,交差部の尿管結石との鑑別が必要となる。

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1 診療の概要

 下部尿路とは,解剖学的には膀胱から外尿道口までのことである。下部尿路機能は尿をためる蓄尿機能と尿を出す排尿機能に分けられ,よって下部尿路機能障害は蓄尿機能障害と排尿機能障害に分けられる。今回の症例は,下部尿路閉塞があり膀胱結石摘出後ということで,下部尿路機能障害の排尿機能障害に当てはまる。

 下部尿路閉塞を起こす疾患としては,男性の場合前立腺肥大症が代表的であり,他に尿道狭窄,膀胱頸部硬化症,慢性前立腺炎などがある。前立腺肥大症は,下部尿路症状(LUTS:lower urinary symptom),良性前立腺肥大(BPE:benign prostatic enlargement),膀胱排出路閉塞(BOO:bladder outlet obstruction)の3つの要因が互いに関連している。前立腺が大きく肥大していても自覚症状に乏しく排尿状態がよい人がいる一方,前立腺肥大が軽度でも自覚症状が強く排尿状態が悪い人がいるのは,これら3つの要因によるものである。また,前立腺肥大症の症状を増悪させる因子として,下部尿路閉塞に加えて,無抑制収縮と排尿筋の収縮力低下が挙げられる。今回のように下部尿路閉塞が軽度であっても膀胱結石を合併した症例では,下部尿路閉塞のほかに排尿筋の収縮力低下が関連しているものと考えられる。

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1 診療の概要

 尿道結石は尿路結石の中で最も頻度が低く,下部尿路結石の10%以下とされ,全尿路結石症の1%以下と報告されている1)。なぜなら,大部分の結石は自然に排石されてしまうからである。ほとんどが男性の疾患で,尿道結石の男女比は95:5であったと報告されている2)。尿道結石の成因は,膀胱結石もしくは上部尿路結石が下降して尿道に嵌頓したmigrant stoneが最も多い。尿道留置カテーテルが原因で膀胱結石が発症し,抜去後に尿道に嵌頓するようなケースもある。特に寝たきり高齢者の排尿管理には注意を必要とする。寝たきりの高齢者に対しては,オムツまたは尿道カテーテルにより排尿管理されているが,慢性尿路感染症から膀胱結石を引き起こす場合が多いと考えられる。また,ごく稀ではあるがnative stone(尿道内で発育した結石)としては,尿道憩室,尿道狭窄,尿道異物などに伴って発生するものもある。

 尿道結石の症状は,排尿困難や尿線の中断,尿の滴下状失禁などの排尿障害,排尿に際しての尿道出血あるいは血尿,そして疼痛である。疼痛は,結石の存在する部位のみならず,後部尿道では会陰部や直腸に,前部尿道では陰茎,亀頭部へ放散する。また排尿後に増強するのが特徴であり,結石が前部尿道に存在すると硬い結石を触知できる。

5.腫瘍(外来化学療法)

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1 診療の概要

 検診や人間ドックにおける腹部超音波検査の普及,さらに他科疾患などに対し腹部CT検査がとられる機会が増加し,腎腫瘍を指摘される患者が増加してきており,年間約1万人が発症している。腎細胞癌のほとんどの症例は,転移がなく腎部分切除術あるいは根治的腎摘出術の適応となるが,他の癌と異なり,手術後5~10年以上経過して転移が出現する場合がある。また,初診時,すでに転移を有している症例は20~30%存在する1)。これらの転移に対する治療法としては,手術療法,放射線療法,化学療法,免疫療法(通常はサイトカイン療法)などが行われているが,日本では,いまだ確立されたものはない。一方,海外では分子標的薬(sorafenib, sunitinib, bevacizumab)の高い有効性が報告されている。日本でも,これらの薬剤の治験が進んでおり,近く認可される予定である。今後は,分子標的薬剤とインターフェロン,インターロイキン2等のサイトカインの併用療法など,症例によって,幾つかの治療選択の幅が広がってくるものと思われる。

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1 診療の概要

 膀胱癌は,診断時において,約40%が臨床病期Ta(非浸潤癌)で,約20%がT1(粘膜固有層あるいは茎部間質に癌浸潤が及んだもの),約2~5%が上皮内癌(carcinoma in situ:CIS)と,約70%が膀胱筋層にまでは癌浸潤を認めない,いわゆる表在性である1)。表在性癌(Ta,T1)に対する治療として,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor:TURBT)が第一選択とされ,膀胱温存が可能なばかりでなく,生命予後も90%以上と良好である。しかし,TURBT後の膀胱内再発は,5年再発率で約50%と高率であり,5~20%は浸潤性癌への悪性進展も認める2)

 この膀胱内再発には,新たな癌の発生ばかりではなく,すでに存在していた前癌病変の成長(多中心性発生),膀胱腔内播種などの要因に加え,手術時に内視鏡的に視認し得ない微細病変,平坦病変の残存が大きく関与するとされる。

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1 診療の概要

 膀胱腫瘍は,その診断時,約30%が浸潤癌(局所進行性膀胱癌)で,また約5%には転移(転移性膀胱癌)を認める1)。これら進行性膀胱癌はsystemic diseaseであることより,その治療には全身抗癌化学療法が必要となる。

 2005年,英国のmeta-analysisグループによって,根治的膀胱全摘除術をコントロールとした術前後の補助化学療法の有用性に関する臨床試験のmeta-analysis〔術前補助化学療法11試験(2,890症例)2),術後補助化学療法6試験(491症例)3)〕が行われた。その結果,Cox比例ハザードモデルを用いた解析により,CDDPを主体とする術前後の補助化学療法は,再発や生命予後に対して独立した予後改善因子であると報告された。同年,日本でもMatsuiら4)が,局所進行性膀胱癌において,CDDPを主体とする術前後の補助化学療法の生命予後に対する有用性を示した。このような切除可能な局所進行性癌に対する術前後の補助化学療法としてばかりでなく,転移性癌や切除不可能な進行性癌に対しても,治療の主体として全身抗癌化学療法が行われる。

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1 診療の概要

 膀胱全摘術を行った結果,局所の浸潤度が高かった場合(pT 3以上),リンパ節転移があった場合など,手術療法のみでは根治性に疑問が残る場合,adjuvant chemotherapyが行われる。一連の多剤併用化学療法でCRとなった後は,無治療で厳重経過観察をするという選択肢もあると思われるが,一般的に外来で維持化学療法を行う場合,どのような手段が選択できるだろうか。

 進行尿路上皮癌への化学療法としては,M-VACを筆頭に,変法であるhigh dose-MVAC,CMV,CISCA,MEC,GC療法などの多剤併用化学療法が一定の評価を得ていることは,改めて述べるまでもない。しかし,こうした化学療法で効果が得られた場合でも,奏効期間は決して長くなく,M-VACでも1年以内に再発することがほとんどである。また,その間も副作用の管理のため長期入院を強いられたり,ようやく副作用がおさまる頃には腫瘍も再び増大するというジレンマを抱えている。患者のQOLは,ときに極めて劣悪なものとなり,有効性を示す「癌の縮小」も医療者側の自己満足で終わっている危険性も否定できない。

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 BCG膀胱内注入療法中の膀胱炎(尿道炎),発熱,関節炎などの症状は,ライター症候群と呼ばれる副作用である。以下に,ライター症候群を含めたBCG膀胱内注入療法(以下,膀注療法)の副作用について述べる。

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1 診療の概要

 早期前立腺癌に対しては種々の治療方法が登場してきたが,転移を有する進行期の前立腺癌に対しては,今なお内分泌療法が治療の中心的役割を担っている。以前の内分泌療法は,外科的去勢術あるいはホンバン®などの,基本的にはアンドロゲン除去療法単独が中心であり,治療中に排尿障害や血尿,骨痛など臨床的に「再燃」した場合には,ほぼホルモン療法不応性前立腺癌(hormone refractory prostate cancer:HRPC)と考えられていた。すなわち当時(1980年代後半)は,去勢術などの一次ホルモン療法の効果が十分でなくなる「再燃」はアンドロゲン非依存性ホルモン非感受性癌に分類され,再燃とHRPCがほとんど同義であったわけである(図1)1)

 しかし今日では,オダイン®やカソデックス®といった非ステロイド性抗アンドロゲン剤が登場することで,一次maximum androgen blockade(MAB)療法後の再燃に対して,抗アンドロゲン剤除去症候群(antiandrogen withdrawal syndrome:AWS)や抗アンドロゲン剤交替療法(以下,交替療法)といった,二次,三次のホルモン療法が少なからず効果を示すことが明らかとなった。すなわち,その間は「アンドロゲン非依存性ホルモン感受性癌」という分類にあって(図1),そのつど再燃を繰り返すことになったのである。

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1 診療の概要

 今や,PSAの基準値が4.0ng/mlとなった経緯を遡って検証することはともかく,絶対値で4.0~10.0ng/mlはグレイゾーンという「定義」は今後も変わることはないと思われる。何が「グレイ」かは「癌か癌でないか」ということになり,これまでにそれを区別できる可能性を求めて,種々のPSA関連マーカーが提唱されてきた。その中に「年齢階層別PSA基準値」というものがある。その考え方の1つに,加齢を重ねるごとに前立腺肥大症はもとより「PSA上昇の要因が増加」することが挙げられる。また,比較的自然史の長い前立腺癌において,PSA値が前立腺癌の大きさ(腫瘍体積)に相関があるとした場合に,寿命に影響するような癌(臨床的に重要な癌)は,平均余命の長い若年者では早く(PSAが低い値で)発見されたほうが利益は大きく,余命の短い高齢者では遅く(PSAが高く)発見されても不利益は少ないという考え方もある1,2)

 一方で,高齢者における早期前立腺癌に対して,「どのような治療を行うか」は,かなり難しい問題である。高齢の患者では余命との関係から,一律に経過観察を支持する意見もあるが,体力や健康状態には個人差が大きく,一概に暦年齢で判断すべきでないとの考えもある。また,早期前立腺癌に対する治療オプションは非常に多岐にわたり,腫瘍側の因子,患者側の因子,QOLや医療経済などの他の要因も複雑に絡みあってくる。したがって,現時点では高齢者に対するPSAスクリーニング(検診)については議論のあるところではあるものの,高齢であればあるほど,その時点で「癌」を発見することによる利益と不利益については十分に考えておく必要がある。

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1 診療の概要

 前立腺癌の根治療法に対するアジュバントホルモン療法には,治療前に行う場合(ネオアジュバント)と,治療後に行うアジュバントの場合とがある。いずれの場合も,併用することによって根治率(ひいては全生存率)が向上するかどうかがポイントとなるが,以下に手術療法(根治的前立腺全摘術)と放射線療法に分けて概説する。

5.腫瘍(外来化学療法) 【術後排尿障害】

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1 診療の概要

 早期前立腺癌に対する前立腺全摘除術は,根治療法として広く行われている。手術関連の合併症は性機能障害と尿失禁が代表であるが,性機能障害に対する関心度は欧米ほどには高くないといわれており,QOLの観点から尿失禁が術後の最大の問題である。

 前立腺全摘術後の尿失禁の2/3以上は外尿道括約筋不全が原因であるが,排尿筋過活動や低コンプライアンス膀胱などが関与する尿失禁も30~40%にみられる。術後尿失禁の頻度は,尿禁制をどう定義して評価するかによって異なってくる。尿禁制の定義を「まったく尿が漏れない」とするならば,術後12か月の時点でも40~80%程度の尿禁制率である。しかし,「1日のパッド使用が1枚以下」と定義すると,12か月目で90%以上の尿禁制率を達成することとなる。また,「パッドを使用しない」との定義は必ずしも尿がまったく漏れないことを意味するわけではなく,1/3程度の患者は何かの拍子に少量の尿失禁を自覚している1)。「パッドを使用しない」ことが定義である場合は,12か月目の尿禁制率は70~90%である。

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1 診療の概要

1.頻 度

 リンパ浮腫は,リンパ管,リンパ節の発育が悪いなどの理由で生じると考えられる一次性リンパ浮腫と,主として癌手術や放射線治療によるリンパ節の切除や破壊に伴って生じる二次性リンパ浮腫に分類される。リンパ浮腫に関する統計や医学的データは少ないのが実情であるが,90%以上が二次性リンパ浮腫とされ,そのうち下肢浮腫が全体の約2/3で,子宮癌・卵巣癌の術後症例が大部分を占め,乳癌術後の上肢浮腫が全体の約1/3である。泌尿器科癌に伴う発症率に関しても,統計的報告はほとんど認められないが,骨盤内リンパ節郭清を伴う前立腺癌,膀胱癌の術後発症率は約10%程度と考えられている。しかし,術後に放射線治療を行った場合には,20~40%とその発症率は高くなるとされている。

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1 診療の概要

 癌治療において緩和医療は,いまや必須で重要な治療であることは周知のとおりで,その治療は終末期に限定されることなく,癌治療と並行して行われなければならない。現在,多くの施設に緩和医療チームが結成されていると思われるが,癌治療を行うものは,その基本的治療を理解しておかなければならない。治療を行うにあたり,まず患者の疼痛の状態を把握することから始まる。痛みの性状,部位,強さのほか,痛みの誘因となること,痛みが日常生活や精神的な面にどのように影響しているかも把握する。

 癌性疼痛は体性痛,内臓痛,神経因性疼痛の3つのタイプに分類される。体性痛は,骨転移による痛みが代表的で,痛みは限局し,体動により痛みが増強する。内臓痛は腫瘍が臓器へ浸潤したために起こり,痛みの局在は不明瞭で,鈍い痛みを広範囲に自覚する。嘔気,発汗など自律神経症状を伴うことも多く,また腫瘍とかけ離れた部位で表在性の痛み(関連痛)を訴えることもある。神経因性疼痛は腫瘍が中枢・末鞘神経に直接浸潤して起こる痛みで,“刺すような痛み”,“電気が走るような痛み”,“しびれるような痛み”などと,患者は表現することが多い。

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1 診療の概要

 前立腺癌では,癌の進行に伴って骨転移をきたすことが多く,癌の根治は望めないことからも,骨転移に対する疼痛緩和と可動性の確保,身体機能維持は,患者のQOLにおいて最も重要となる。前立腺癌未治療での骨転移合併例では,初回内分泌療法で疼痛コントロールも比較的うまくいくが,再燃癌での場合は,前立腺癌に対する治療と骨転移に対する種々の治療を積極的に行うこととなる。ここでは,再燃前立腺癌の骨転移を想定して記述する。

 骨転移が疑われた場合,造骨性のため骨単純X線写真でも診断は容易かもしれないが,多発していることも多く,骨シンチグラフィにより骨転移の局在を診断する。また,腰椎など脊椎への転移であれば,MRIにより脊髄への浸潤,脊髄圧迫の危険性なども評価する。脊髄圧迫による神経症状の出現がみられた場合,ステロイドの使用開始と手術療法や放射線療法の開始をすみやかに行う1)

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1 診療の概要

 1986年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)から,『Cancer Pain Relief(癌の痛みからの解放)第1版』が公表された。さらに翌年の1987年には日本語訳が出版され1),わが国においても癌患者における痛みの実態,鎮痛薬の適正使用などについて理解が深まり,「WHO方式がん疼痛治療法」が普及してきた。また,癌疼痛治療の主軸をなす医療用モルヒネの年間消費量も年々増加しているが2),末期癌患者における除痛率は約60%と報告され,十分とはいえない3)。除痛率が低い原因としてさまざまな要因が挙げられるが,モルヒネ投与に伴う副作用のコントロール不良がモルヒネの増量を妨げている因子の1つになっている可能性がある。

 モルヒネは嘔気・嘔吐,便秘,眠気などの副作用を有することが知られているが,動物実験におけるモルヒネの各種薬理作用の50%有効用量(50% effective dose:ED50)をまとめた結果では,モルヒネによる鎮痛作用のED50を1とすると,消化管輸送能抑制作用(便秘作用)および嘔気・嘔吐作用のED50は,それぞれ0.02および0.1との報告がある4)。すなわち,これらの副作用はいずれも鎮痛用量より低用量で発現するために,副作用の発現は通常避けることはできない。

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1 診療の概要

 癌性疼痛は,WHO 3段階除痛ラダーに基づいたモルヒネを中心とするオピオイド鎮痛薬や非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の適切な使用により,その80~90%は改善するといわれている。しかし,10~20%の患者では,オピオイド鎮痛薬を十分投与しても緩和されない痛みが残存する1)

 この,オピオイド鎮痛薬に反応しにくい難治性の疼痛の多くが,癌による末梢神経や中枢神経の圧迫や障害が原因とされる神経因性疼痛(neuropathic pain)である。このような痛みに対し,オピオイドの増量のみで対処すると疼痛の緩和が得られないばかりか,眠気などの副作用のみが増悪し患者のQOLを著しく損なう要因となる。よって,オピオイド鎮痛薬の効きにくい痛みの治療の際は,神経因性疼痛の可能性を念頭において疼痛対策を行う必要がある。

6.内分泌疾患

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1 診療の概要

 原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)は,副腎での自律的なアルドステロンの過剰分泌により二次性高血圧や低カリウム血症を呈する症候群であり,40~50歳代の女性に多く,手術適応であるアルドステロン産生腺腫は比較的小型であるとされる。ここ数年の内分泌内科医の調査・研究では,高血圧の成因として原発性アルドステロン症の頻度が,従来考えられていたよりもはるかに高いことが推定され,少なくとも6%を占めているという見解に至っている。

 原発性アルドステロン症の病型の中で最も多いのは,片側性のアルドステロン産生腫瘍APAで,次いで両側性副腎皮質(球状層)過形成(特発性アルドステロン症)IHAが知られている(表1)1)。厚生労働省「副腎ホルモン産生異常症」調査研究班による1997年の全国調査においては,APAが84.4%,IHAは8.3%であった2)。その他の原発性アルドステロン症に分類されるアルドステロン産生副腎癌,糖質コルチコイド反応性アルドステロン症,片側性過形成,異所性アルドステロン腫瘍は,極めて稀に認められるのみである。

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1 診療の概要

 クッシング症候群とは,糖質コルチコイド過剰による満月様顔貌,中心性肥満,伸展性皮膚線条などの,いわゆる“クッシング徴候”と,耐糖能異常などの特徴的な臨床像を呈する疾患群である。広義のクッシング症候群の分類と副腎組織学的相違を表1に示す1)。泌尿器科領域で片側の副腎摘除の手術適応となるのは,ACTH非依存性の原発性副腎皮質腺腫,副腎癌などである。一般的に,原発性アルドステロン症と違い,機能性副腎腺腫によるクッシング症候群の副腎摘除手術前後の症状の改善は著明である。血中コルチゾルは急激に低下し,血圧,電解質異常などの臨床症状は急激に改善することが知られている。多くの場合,術後のグルココルチコイドの補充が必須となり,補充なしでは血圧,循環系を維持できない2~4)。したがって,片側の副腎摘除術後にもかかわらず症状が改善しない場合には,通常の片側性の機能性副腎腺腫による一般的なクッシング症候群だけではなく,そのほかに特殊な病態が存在することが考えられる。

6.内分泌疾患 ■副腎・後腹膜の疾患 【副腎性器症候群】

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1 診療の概要

 副腎性器症候群とは,副腎のさまざまな疾患により過剰な性ホルモンが分泌され,主に外性器系に何らかの異常を生じる病態である。ほとんどの症例は先天性副腎過形成で,ごく一部が性ホルモン産生腫瘍である。先天性副腎過形成は主に新生児の疾患であるが,性ホルモン産生腫瘍は,ほとんど成人に生じる疾患である。

 前者と後者の臨床像は著しく異なるため,これをまとめて論議することは無理がある。そのため,現在では,副腎性器症候群という呼称は臨床では使用されずに,具体的な病名が提示されることが多い。

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1 診療の概要

 尿道下裂とは,尿道口が亀頭の先端の正常な位置まで形成されない先天異常であり,胎生期の尿道ひだ(urethral fold)の癒合が不完全なために発生すると考えられる。尿道口の位置(術中陰茎の屈曲が是正された状態で判定)により,亀頭部型,冠状溝型,陰茎型(遠位,中間位,近位),陰茎陰囊部型,陰囊部型,会陰部型と分類される(図1)。欧米では男児300人に1人程度の発生頻度といわれているが,本邦ではそれよりも低く,1,000~1,200人に1人程度とされている。最近の疫学的調査にて,発生頻度が増加してきているという報告もあり1,2),環境ホルモンの関与が推察されている。最近,尿道下裂の発生に関連する遺伝子CXorf6が同定されたが3),今後さらに発生原因に関しての分子生物学的研究が進むことが期待される。

 尿道下裂は尿道口の位置が異常であるだけでなく,多くは陰茎の腹側への屈曲が認められる。従来は,尿道索(chordee)によるものと一元的に考えられていたが,これは形成不全の尿道板あるいは尿道海綿体であり,索切除(chordectomy)を必ずしも要さない場合もあることが判明した。屈曲は陰茎皮膚(skin chordee),Buck筋膜や肉様膜の形成不全,あるいは陰茎白膜の形成不全によるものとされている。また,陰茎の包皮は背側に余剰に存在するが,腹側の包皮は過小であり,亀頭が露出していることが多い。軽度の尿道下裂では包皮の状態も正常に近く,年長になってから初めて気がつかれる場合もある。また,特殊型としてはmegameatus intact prepuce(MIP)や(図1),尿道口が正常位置に開口していて陰茎の屈曲を認めるchordee without hypospadiasがある。高度の尿道下裂の場合には,性分化異常症(disorders of sex development:DSD)の合併を考慮しなくてはならない。特に,非触知精巣を伴う場合にはDSDが高率に合併するという報告もあるため,染色体検査や腹腔鏡による検索も必要となる(図2)4,5)

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1 診療の概要

 性分化異常には性染色体異常,性腺発生異常,内性器発生異常,外性器発生異常が含まれる。性染色体の構成は,基本的には男性がXY,女性がXXであり,男性型への性分化には精巣が形成されることが必須である。1990年に,GoodfellowらによりY染色体上から精巣決定遺伝子としての条件を満たすSRY(sex determining region of Y)がクローニングされ1),さらにSRYをXXマウスに導入することにより精巣が形成され,雄型への性の発達がみられると報告されたこと2)は,当時衝撃的なニュースであった。しかし,その後の分子生物学的アプローチを中心とした研究により,WT-1,SOX9,SF-1,DAX-1などの遺伝子が性の決定・分化にかかわることが明らかとなり,SRYが性の決定の絶対的な遺伝子ではないということも明らかになってきた3)

 このような研究成果は,臨床症状からだけでは困難な性分化異常症の確定診断に極めて有用である。しかし,このような研究成果が明らかになる一方,直接臨床の場でprimaryに性別の鑑別が困難な新生児をみた場合,基本的には患児に対して綿密に視診・触診を行うことから始まる。さらに,論理的に必要な諸検査(染色体検査,血液尿生化学,ホルモン負荷試験,画像検査,性腺生検など)を進めていくが,中には生命にかかわる先天性副腎過形成があるため,診断治療が手遅れにならぬよう注意が必要である。

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1 診療の概要

 両側精巣萎縮をきたす疾患には,さまざまなものが挙げられるが,ここでは主に先天性の疾患を対象に概説する。原因は,主として中枢性(視床下部・下垂体の障害)と,精巣性(精巣障害)に分けられる(表1)。中枢性には,視床下部の異常によるPrader-Willi症候群,Laurence-Moon-Biedl症候群,Kallmann症候群,および種々の下垂体の異常があり,いずれもゴナドトロピンは低値を示す。診断については,思春期年齢を過ぎても二次性徴が発来しないことが契機になるが,出生時から矮小陰茎や,矮小精巣,停留精巣を呈する場合もあり,小児期に発見されることも多い。精巣性には性分化異常(disorders of sex development:DSD),Klinefelter症候群,Noonan症候群,停留精巣などがあり,テストステロン低値~正常値,およびゴナドトロピン高値を示す。

 正常の二次性徴の出現年齢は,精巣容積増大が9.5~14歳,陰毛出現が10.5~15歳,変声・ひげ・腋毛の出現が12~16歳といわれる。外陰部身体所見の評価に関しては,人種による正常対照基準値との比較が必須となる。日本人の年齢別の精巣容積については,Matsuoら1),Fujiedaら2)の調査結果があり,生後9歳頃までは容積はほとんど増加せず1~2ml程度で経過するが,9.3歳の時点で90パーセンタイルのラインが3mlに達し,14歳には90パーセンタイルのラインが20ml以上に達する。16歳にて10パーセンタイルを下回るラインは,およそ13mlのところである。精巣容積はorchidometerにより計測するが,超音波断層装置による測定も可能である(図1)。陰茎長についてはFujiedaら3)の既報を参考にする。理学的所見として,外陰部の成熟の程度(精巣,陰茎,恥毛)の評価も重要であるが,これについてはTannerの分類4)(Stage 1~5)がある。

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1 診療の概要

 男性不妊症は不妊原因の約半数であるが,その過半数を占める特発性精子形成障害の病因,病態がほとんど不明であることにもより,これまでの男性不妊症の治療成績は決してよいといえるものではなかった。このような状況の中で,近年の補助生殖技術(assisted reproductive technology:ART)の飛躍的な進歩が男性不妊症の治療に大きな変革をもたらした。例えば,前述の特発性精子形成障害症例においても,精巣内精子採取術(testicular sperm extraction:TESE)により精子を少数でも採取できれば,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)を用いることで,受精,ひいては挙児が可能となった。

 このように,男性不妊症の診療は大きく様変わりしたが,理想は自然妊娠であり,治療可能か否かを診断し,十分に情報を提供しながら適切な診療を行うことが肝要である。乏精子症の原因が明らかで,それに対する根本的治療法があるものでは,あくまでその適応,効果を検討した後でARTを考えるべきである。

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1 診療の概要

 精液に白血球が多く混じっている病態,いわゆる膿精液症の原因として,精路感染症や特発性のものがある。これら膿精液症は妊孕性に影響しないことも少なくないが,精子運動率が50%未満の,いわゆる無力精子症の原因となることがある。この場合,抗生剤治療によっても精液所見の改善がなければ,配偶者間人工受精(artificial insemination with hasband:AIH)や補助生殖技術(assisted reproductive technology:ART)の適応となる。

 精路感染症としては,慢性前立腺炎,精囊炎があるが,細菌感染が証明されるものは10%以下であり,多くは原因が特定できないのが現状である。

6.内分泌疾患 ■性分化異常 【性機能障害】

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1 診療の概要

 ほとんどの向精神薬は神経内分泌制御機構に影響し,直接に,あるいはプロラクチン増加,テストステロン減少などを介して性機能障害を引き起こす。

 向精神薬の中で,抗うつ薬と抗精神病薬は性機能障害を引き起こしやすいとされる1)。セロトニン作動薬による最も一般的な性機能障害のタイプは,オーガズム遅延,射精遅延,および無オーガズム症から成るオーガズム障害と考えられている。一方,ドーパミン拮抗性の抗精神病薬による最も一般的な性機能障害のタイプは性欲低下である。

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1 診療の概要

 射精障害には,早漏(premature ejaculation:PE),射精遅延,無射精症,逆行性射精,無オーガズム症がある。

 PEは次の3つの基準によって定義される1)

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1 診療の概要

 精巣腫瘍において,化学療法を施行した後の残存腫瘍に対しては後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)が行われてきたが,多くの症例で術後に射精障害を認め,患者のQOL低下がしばしば問題となる。術後の射精障害を予防するために,われわれは射精神経温存後腹膜リンパ節郭清術(NS-RPLND)を積極的に施行している。標準的な後腹膜リンパ節郭清術の範囲を図1に示す。

 臨床病期Ⅱ・Ⅲ期の化学療法後の残存腫瘍に対して行われることが一般的であるが,切除範囲としては,上縁は腎門部,下縁は内外腸骨静脈分岐部,左右は尿管で,この部分に囲まれた後腹膜の腫瘍・脂肪・リンパ組織塊を摘除する。癒着が強固であることが多く,射精神経(腰内臓神経)を温存できない場合もあるが,若年者に多いことを考慮して,術後の射精障害を防ぐため,可能な限り射精神経を温存する。射精機能を温存するためには,腰内臓神経の左右の少なくともどちらか1本を温存し,上下腹神経叢を温存する(図2)。当科でNS-RPLNDを施行した症例では,術後の射精機能を高率(82.8%)に温存することが可能であった。過去の報告では,NS-RPLNDによる射精機能の温存率は76.5~94.6%であり1~3),当科における治療成績もこれらとほぼ同等の結果を示した。

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1 診療の概要

 糖尿病は,勃起障害(erectile dysfunction:ED)発症の重大かつ独立したリスク因子の1つである。1998年の白井1)による疫学調査では,日本におけるED患者数は約1,000万人と推定されており,そのうち糖尿病性ED患者は約100万人ほどと考えられている。糖尿病によるEDの頻度は,健常人男性の2~3倍,糖尿病男性の30~60%とされており2),これは糖尿病の代表的な3大合併症である網膜症,腎症,神経障害の頻度と比較しても同程度の数字である。

 米国においては,約1,600万人が糖尿病に罹患し,糖尿病男性における勃起障害の有病率は,30~70%と推定されている3)。また糖尿病患者は,非糖尿病男性に比較してED罹患率が3倍に増加するとする報告もある4)。このように糖尿病がEDの最大のリスク因子の1つであることを考えると,EDがさまざまな糖尿病合併症の中で,最初に起こり得る可能性の高い症状とみなすことができるであろう。

7.腎不全

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1 診療の概要

 急性腎不全(ARF)とは,急激な腎機能の著しい低下により体液の恒常性が維持できなくなった状態であり,急速な高窒素血症の進行,尿毒症症状,電解質異常,代謝性アシドーシスを呈する症候群である。

 ARFの明確な診断基準はないが,一般に,血清クレアチニン(Cr)が一日0.5mg/dl以上に上昇,あるいは急激に2.0mg/dl以上に上昇した場合にARFと診断する。尿量が減少する乏尿性ARFと,尿量の減少がない非乏尿性ARFがあり,尿量だけでは判断できない。

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1 診療の概要

 維持血液透析患者で,肝硬変になる原因の多くはC型肝炎(HCV)である。2003年末の統計からみると,全国の透析患者数が237,710人で,このうちHCV抗体陽性率は12.1%であり,健常成人と考えられる献血者におけるHCV陽性率0.56%に比べ,著しく高率である1~3)。また,HCV新規感染率は2001年で2.2%であった4)。HCV抗体陽性率は,輸血歴がある群がない群より高率であることから,長期血液透析患者の高いHCV抗体陽性率は輸血が原因と考えられた3)。しかし,1990年よりエリスロポエチン製剤が保険適用となり,輸血機会が減少しているが,透析歴の短い患者でのHCV陽性率は一般人より高率であることから,輸血以外の感染の可能性が示唆されている3)

 Nakayamaら5)はHCV抗体陽性維持透析患者276人とHCV抗体陰性維持透析患者1,194人を6年間追跡調査し,肝硬変による死亡率はHCV抗体陽性者で8.8%であるのに対し,陰性者では0.4%であったと報告している。

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1 診療の概要

 血液透析(HD)と腹膜透析(CAPD)を対比したそれぞれの特徴を表11)に示すが,必ずしも表に示したとおりの特徴を有しているわけではない。医学的にどちらの透析法が優れているかを論ずるのは意味がなく,患者個々の病態と実行力,自己管理能力の優劣,患者・家族背景などによって,いずれかの透析療法を選択すべきである。

 以下,機材と操作,日常生活,透析効果,合併症,透析の継続性について,診療方針を述べる。

8.そのほか

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1 診療の概要

 近年,健康への関心の高まりとともに,健康診断で「尿潜血陽性」と指摘され,精査のために泌尿器科の専門機関を受診する人は増加していると思われる。試験紙法で尿潜血反応(1+)以上と判定される受診者は,男性で3.5%,女性では12.3%にのぼるといわれ1),しかも,その中で治療すべき疾患は,ごくわずかである。日本泌尿器科学会から発表された血尿診断ガイドライン1)によれば,顕微鏡的血尿を指摘された者の中で,腎・尿路疾患は2.3%,尿路悪性腫瘍は約0.5%にすぎない。海外の報告でも,serious urological diseaseが5~22%,悪性疾患は0.5~5%とされている2,3)。膨大な尿潜血陽性受診者から,いかに適切な精密検査を行って,治療すべき疾患を有する患者をすくいあげるかは,医療の効率およびコスト面から考えても非常に重要な問題である。

 実際,どこまで精密検査をすべきかは,担当医師の判断,および患者の希望による部分も大きいと思うが,ここでは,2006年に発表された日本泌尿器科学会の血尿診断ガイドライン1)(以下,血尿診断ガイドライン),および,2001年に発表された無症候性顕微鏡的血尿に対するAUAのbest practice policy recommendations2)(以下,AUA recommendation)を主に参考として,私見を交えながら,筆者が普段行っている方針を提示したいと思う。少しでも参考になれば幸いである。

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1 診療の概要

 運動後の血尿は,わりとよくみられるものである。運動後の赤色尿は,赤血球によるいわゆる狭義の血尿だけでなく,ヘモグロビン尿やミオグロビン尿も含まれる。これらは主に激しい運動の後にみられ,報告によれば,21~90kmの距離のマラソン後に20~25%の頻度で血尿がみられた1),とある。しかし,これをどうマネジメントすべきかについては,決まったガイドラインなどはない。肝心なことは,一過性の良性の血尿を,本当に精密検査が必要な病的な血尿から鑑別することだと思われる。

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1 診療の概要

 病院で検査する場合は,基本的に随時尿となるが,正しいスクリーニングのためにも,採尿方法や採尿時間に留意することは重要である。また,女性の場合は腟からのコンタミネーションを防ぐこと,小児の場合は効率的な採取が問題となる。

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1 診療の概要

 腎梗塞は本幹,分枝などの場所に関係なく,腎動脈のいずれかの部位の血流が塞栓や血栓,あるいは外傷などにより途絶し,その末しょう支配領域の腎実質が虚血状態となり,さらには壊死した状態である。成因として,他臓器で形成された血栓が原因となる塞栓症と,腎動脈で直接形成された血栓が原因となる血栓症に分類されるが,塞栓症の頻度が腎梗塞全体の70~80%を占める1)。前者の原因疾患として心臓の弁膜症や心房細動などが,後者の原因疾患として粥状硬化や動脈瘤などが挙げられる(表1)。

 腎梗塞の病態は,腎動脈の血流が急速に低下,もしくは遮断されるために起こる腎実質の虚血性変化であり,通常の体温下では60~90分で不可逆的な障害が生じ始める。被膜や周囲組織,腰椎,尿管の血管から,わずかながらも側副血行を受けてはいるものの,腎動脈本幹が完全閉塞をきたすと,3時間以内に血流が再開されれば腎機能が回復するが,3時間を超えると重篤な機能障害を残す2)。発症から診断,治療までをいかに短時間に行えるかが,治療の成否を決めると言える。その一方で,発症頻度が低いことや症状が非特異的であるため,剖検例で腎梗塞は1.4%に認められるにもかかわらず,生存中に腎梗塞と診断されたのは,わずか0.014%にすぎない2)。また初診時の正診率は30%と低く,診断までに48時間以上経過している症例は48%にのぼるなど3),治療効果のある急性期には発見されにくい疾患である。

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1 診療の概要

 腎臓に囊胞を多発する疾患の中で,多発性囊胞腎は常染色体優性遺伝型多発性囊胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)と常染色体劣性遺伝型多発性囊胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease:ARPKD)に分類される。ARPKDは20,000人に1人発症し,原因遺伝子が第6番染色体短腕に存在するPKHD1である。主に呼吸不全,腎不全により死亡し,10歳まで生存する可能性が51%と極めて予後不良な疾患である1~3)。一方,ADPKDは遺伝性腎疾患の中で最も頻度が高く,約1,000~4,000人に1人の頻度で発症する1~3)。原因遺伝子は第16番染色体に存在するPKD1と第4番染色体のPKD2があり,前者が約85%を占める1~3)。加齢とともに囊胞が両腎で増加し,進行性に腎機能が障害され,70歳までに約50%が腎不全に至る1)。囊胞の巨大化により腎の容積が増加するが,腎容積の増加速度が早い症例は腎不全に移行しやすい4,5)。腎囊胞が巨大化する理由は不明であるが,腎臓内の動脈の平滑筋の肥厚により血管内腔を圧迫し,腎の虚血を招き,そのため血管新生が誘導され囊胞の巨大化を促進するとの仮説もある6)

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1 診療の概要

 水腎症とは,尿が腎盂に停滞し,その結果,腎盂や腎杯に拡張をきたした状態をいう。腎盂からの尿排泄を障害する機転としては,尿路の閉塞による通過障害と,尿を能動的に下部尿路へ輸送するために必要な腎盂・尿管壁の運動障害が挙げられる。尿路閉塞の原因には,尿管腫瘍や尿路結石,尿管狭窄,尿管結核など尿管そのものに起因するものと,腎囊胞や交差血管,後腹膜線維症,後腹膜の腫瘍性病変などによる尿管外からの圧迫に起因するものがある。また,腎盂・尿管壁の運動障害は,壁内の平滑筋組織の異常により壁の緊張低下や蠕動運動が障害されて惹き起こされる。

 水腎症の臨床症状は,無症状なものから仙痛発作や消化器症状を伴い急性腹症を呈するものまで多彩である。水腎症に伴う疼痛は腎盂内圧の上昇に起因するが,一般的に痛みの程度は内圧の高さとその上昇速度に比例しており,内圧が高いほど,また上昇速度が速いほど強い。すなわち,尿の排泄障害が高度かつ急激に惹起されたものであるほど重篤な疼痛を呈する。しかし,腎盂内圧の上昇速度が極めて緩徐な症例では,腎盂内圧の高さにかかわらず無症状,あるいは軽微な疼痛のみで経過することがあり,注意が必要となる。片側腎の腎盂内圧上昇が長期に及ぶとvasodonstrictorであるthromboxian B2の分泌促進やvasodilatorであるprostaglandin E2の分泌低下をきたし,糸球体輸入細動脈の血流低下により腎機能の低下を招くことが知られている1)。さらに尿細管やボウマン腔の拡張や腎乳頭の壊死,間質の線維化が進行すると,腎機能障害は不可逆性となる。

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1 診療方針

 妊娠39週で経過良好であれば,分娩予定まで妊娠継続が困難な状況は想定し難い。しかし,羊水過少症など胎児が危険な状況であり,妊娠子宮が十分分娩可能である場合は,分娩の誘発を考えるが,非常に稀である。さらに,子宮内胎児治療という選択枝もないであろう。妊娠を分娩予定日まで継続した場合について述べる。

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1 診療の概要

 遊走腎(腎下垂)は,腎の支持組織が脆弱なために,立位の際に腎が自重で1.5椎体以上,または5cm以上下降する状態をいう。腎周囲脂肪織が菲薄な瘦せた女性の右側に多くみられ,ほとんどは無症候性であるが20~30%に側腹部痛や背部痛を認め,時に嘔気や嘔吐などの消化器症状を伴う。また,無症候性であっても顕微鏡的血尿や蛋白尿など尿所見に異常を認めることもある。遊走腎に伴う臨床症状は腎の下垂で腎動静脈が過度に牽引されることによる血流不全や,尿管の屈曲による一過性の腎盂内圧亢進が原因と考えられ,立位歩行や荷重で増悪し臥位で消失することが特徴である。

 診断には排泄性尿路造影を行い,立位での腎の位置が臥位に比較して1.5椎体,あるいは5cm以上下降していることを確認する。しかし,単に腎の下垂を確認するだけでは臨床症状が遊走腎に由来するとする根拠には乏しく,診断には体位による血尿や蛋白尿,腎血流動態の変化を客観的に証明することが重要である。

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1 診療の概要

 ナットクラッカー現象とは,腹部大動脈と上腸間膜動脈(SMA)の間を走行する左腎静脈(LRV)が両動脈に強く挟まれることで血流のうっ滞を生じ,左腎出血や左側腹部痛をはじめとした諸症状を呈する病態をいう。LRVへの圧迫は,しばしば体位で増強,軽減するため,これらの症状は間欠的であることも多い。

 思春期から20代,30代の,瘦せて背の高い人によくみられる1)。これは後腹膜脂肪が少ないことと関連している可能性がある。男女比は報告によりまちまちである。

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1 診療の概要

 回腸導管では,導管から常に尿が流れ出ている状態であるため,採尿用のストーマ装具が必要となる。優れたストーマ装具の開発によって,ストーマ周囲皮膚障害は減少したとされているが,管理困難な症例や誤った装具使用により,ストーマ周囲皮膚障害を患うオストメイトは後を絶たない。

 ストーマ周囲皮膚障害の原因の主なものとして,排泄物の付着,皮膚保護材・粘着材の刺激,機械的刺激,感染,基礎疾患に由来するものなどが挙げられる。ストーマ周囲皮膚障害を改善させるためには,その原因に応じた対策が必要となる。原因によって皮膚障害が発生しやすい部位や障害の状態が異なるため,皮膚障害がどの場所にどのように起こっているのか,装具交換時にストーマ周囲皮膚をよく観察することが重要となる。

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1 診療の概要

 急性陰囊症(acute scrotum)は,陰囊部または陰囊内容の急激な有痛性腫脹をきたす疾患群の総称である。精巣捻転症は緊急手術の対象となるため,可能な限り迅速な対応が要求される1,2)。急性陰囊症は多くの疾患が原因となるが(表1),実際には精巣捻転症,精巣付属器捻転症,急性精巣上体炎の三疾患で約80%を占め,これらの鑑別が重要である3,4)

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1 診療の概要

 エキノコックス症(echinococcosisまたはhydatidosis)は紀元前4世紀頃,ヒポクラテスの時代から人に致死的な疾患として知られていた1)。ヒトエキノコックス症の原因は世界的に分布する単包条虫(Echinococcus granulosus)と北方圏諸国を中心に分布する多包条虫(E. multilocularis)が特に重要である。世界的にみるとエキノコックス症の大部分はE. granulosusによる単包虫症であるが,本邦では土着しておらず,輸入症例が稀に問題になる。一方,E. multilocularisによる多包虫症(alveolar hydatid disease)は,本邦では北海道で問題となっている。泌尿器科領域で多包虫症が問題となることは稀であるが,今後,北海道住民だけでなく道外への移住者の発症増加が懸念されており,北海道以外の医療従事者も最低限の知識を持っておくことが肝要である。

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編集後記

基本情報

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臨床泌尿器科
62巻4号 (2008年4月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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