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1 診療の概要
今や,PSAの基準値が4.0ng/mlとなった経緯を遡って検証することはともかく,絶対値で4.0~10.0ng/mlはグレイゾーンという「定義」は今後も変わることはないと思われる。何が「グレイ」かは「癌か癌でないか」ということになり,これまでにそれを区別できる可能性を求めて,種々のPSA関連マーカーが提唱されてきた。その中に「年齢階層別PSA基準値」というものがある。その考え方の1つに,加齢を重ねるごとに前立腺肥大症はもとより「PSA上昇の要因が増加」することが挙げられる。また,比較的自然史の長い前立腺癌において,PSA値が前立腺癌の大きさ(腫瘍体積)に相関があるとした場合に,寿命に影響するような癌(臨床的に重要な癌)は,平均余命の長い若年者では早く(PSAが低い値で)発見されたほうが利益は大きく,余命の短い高齢者では遅く(PSAが高く)発見されても不利益は少ないという考え方もある1,2)。
一方で,高齢者における早期前立腺癌に対して,「どのような治療を行うか」は,かなり難しい問題である。高齢の患者では余命との関係から,一律に経過観察を支持する意見もあるが,体力や健康状態には個人差が大きく,一概に暦年齢で判断すべきでないとの考えもある。また,早期前立腺癌に対する治療オプションは非常に多岐にわたり,腫瘍側の因子,患者側の因子,QOLや医療経済などの他の要因も複雑に絡みあってくる。したがって,現時点では高齢者に対するPSAスクリーニング(検診)については議論のあるところではあるものの,高齢であればあるほど,その時点で「癌」を発見することによる利益と不利益については十分に考えておく必要がある。
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