雑誌文献を検索します。書籍を検索する際には「書籍検索」を選択してください。
すべて タイトル 著者 特集名 キーワード 検索
書誌情報 このジャーナル すべてのジャーナル 詳細検索 by 医中誌
Clinical Engineering CLINICAL CALCIUM 細胞工学(一部の論文のみ) 臨床栄養 化学療法の領域 薬局 Medical Technology 検査と技術 臨床検査 CANCER BOARD of the BREAST Cancer Board Square 胆膵Oncology Forum Pharma Medica 医学のあゆみ 医薬ジャーナル 診断と治療 生体の科学 総合診療 JIM 感染制御と予防衛生 感染対策ICTジャーナル 公衆衛生 BeyondER medicina 臨床雑誌内科 治療 J. of Clinical Rehabilitation The Japanese Journal ofRehabilitation Medicine 作業療法 作業療法ジャーナル 総合リハビリテーション 地域リハビリテーション 理学療法ジャーナル 理学療法と作業療法 感染と抗菌薬 アレルギー・免疫 JSES 内視鏡外科 関節外科 基礎と臨床 整形・災害外科 臨床雑誌整形外科 臨床整形外科 呼吸器ジャーナル Heart View 循環器ジャーナル 呼吸と循環 血液フロンティア INTESTINE THE GI FOREFRONT 胃と腸 消化器内視鏡 臨牀消化器内科 臨床泌尿器科 腎と骨代謝 腎と透析 臨牀透析 HORMONE FRONTIER IN GYNECOLOGY 糖尿病診療マスター Brain and Nerve 脳と神経 神経研究の進歩 BRAIN and NERVE MD Frontier 脊椎脊髄ジャーナル Neurological Surgery 脳神経外科 言語聴覚研究 精神医学 Frontiers in Alcoholism 臨床放射線 画像診断 肝胆膵画像 消化器画像 臨床画像 JOHNS 形成外科 胸部外科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 手術 小児外科 日本内視鏡外科学会雑誌 臨床外科 臨床雑誌外科 LiSA LiSA別冊 麻酔 別冊整形外科 Fetal & Neonatal Medicine 産科と婦人科 産婦人科の実際 臨床婦人科産科 周産期医学 皮膚科の臨床 皮膚病診療 臨床皮膚科 臨床皮膚泌尿器科 チャイルドヘルス 小児科 小児科診療 小児内科 耳鼻咽喉科 Frontiers in Dry Eye Frontiers in Glaucoma 眼科 臨床眼科 Hospitalist 病院 INTENSIVIST エキスパートナース がん看護 コミュニティケア 看護学雑誌 看護管理 看護教育 看護研究 助産雑誌 助産婦雑誌 精神看護 日本看護協会機関誌「看護」 保健師ジャーナル 保健婦雑誌 訪問看護と介護 社会保険旬報 --------------------- 日本がん看護学会誌 日本看護医療学会雑誌 日本看護科学会誌 日本看護診断学会誌(看護診断) 日本看護倫理学会誌 日本災害看護学会誌 日本腎不全看護学会誌 日本糖尿病教育・看護学会誌 日本母子看護学会誌 日本老年看護学会誌(老年看護学) 検索
フリーワード 詳細検索 by 医中誌
病歴採取(医療面接)について
従来から初診の第一歩は病歴採取というかたちでスタートすると見なされてきた.最近では単に詳細な病歴を聞き取ることに終わらず,良好な医師・患者間の信頼関係の構築の始まりという意味合いから,医療面接という言葉が初診全体を表現するものとなっている.まったくの診断未確定(unknown diagnosis)あるいは紹介状なしの初診患者が外科に来る頻度は低く,大部分は紹介医によって何らかの診断が確定または疑われての受診であることが多い.
したがって,内科外来ほどの長時間を問診にかける必要はないし,外来処置をはじめ,より多忙なほかの仕事が待ちかまえているはずである.要は限られた時間を上手に,しかも有効に使って初診面接を終えることである.かつて事実のみの把握(science:科学的側面)であった問診が今日ではさらに技術(art:医術的側面)を加味したものとみなされる所以である1).
カルテの記載と保存の心構え
カルテは医師法によって記載と保存が義務づけられている.万一,医療訴訟が発生した場合にはカルテを中心として原告および被告の論述がやりとりされることから,記載が不正確や不十分である場合は医師自身の立場を危うくすることとなる.すなわち,その記載内容で正しい医療がなされたかどうかが判断されることから,医療従事者を守る最大の武器として認識しておくことが望ましい1).
また,カルテは法的に5年間の保存義務が課せられており,これの紛失は重大なミスとみなされる.もし若い医師の間に院外持ち出しなど私物のような感覚でカルテを扱う雰囲気があれば厳に戒められねばならない.
処方箋(prescription)とは医師が患者の病気に応じて,投与する医薬品の種類(薬品名),量,調合や服用法について案出した処方(formula)を,薬剤師に指示するために一定の書式(prescription slip)に記載したものを指し,医師と薬剤師とのコミュニケーションの手段になる.本稿で扱うこの狭義の用い方に対して,米国ではprescriptionという用語は患者が従うべき養生法などにも適用される.なお,prescriptionはラテン語praescriptus(prae, before+scribere, to write)に由来し,養生法や薬物療法の準備・投与前に書きつけるべきものの意である.
Prescriptionという用語は米国では,患者が従うべき養生法などにも適用されるが,本稿では狭義の用い方に従うこととして,処方箋に関する基本的事項,頻用される省略形・略号とそれらの留意点,および患者安全管理についての解説を中心にするが,わが国における慣用的な処方箋記載法の問題点,および米国式記載例との相違点にも触れることにする.
はじめに
専門医育成が中心の教育が行われてきた日本の医学教育のうえで,手探りながらも研修医制度が開始されたことは歓迎されることである.
問診や諸器官に対する所見の取り方は他頁に譲ることとし,本稿では研修の場において基本とも言うべき身体所見の取り方について総論的なアドバイスを述べる.
病気は基本的には個人の問題であり,個人のことについてできるだけ多くのことを知ることが大切である.外来の診療では通常,問診と診察を十分に行い,得られた情報から可能性のある病気をできるだけ絞り込む.しかしながら,医師といえども五感だけでは確定診断の根拠に至るまでのデータを得ることはできない.そこを手助けするのが臨床検査である.検査を行うにあたっては,まずその検査の必要性を十分に考慮したうえでオーダーするように心がける.そうすると,自然とそのデーターの成立機序ならびに読み方がわかってくる1).
CTと被曝と発癌
「がん3.2%,診断被ばく原因,CT普及,背景」とは2004年2月10日の讀賣新聞朝刊の見出しである.Lancetからの引用で,(1)日本で癌にかかる人の3.2%が医療機関での放射線診断による被曝が原因の発癌と推定される,(2)日本の医療機関での年間検査回数は調査15か国の1.8倍,発癌率は平均の2.7倍で,1回の検査の被曝量が他国より高い,との記事である1).解説では,癌の早期発見には貢献しているが,撮影するほど医療機関の収入になることから過剰検査の可能性もあるとしている.一方,1999年7月に綿あめの割りばしをのどに突き刺して幼児が死亡するという事故があった.搬入先の病院では口腔内の創の処置をして帰宅させたが,その10数時間後に患児は死亡した.初診時にCTを行っていれば助かったのではないかとされた.CTを撮影しなかった「不作為」が子供の死亡に結びついたとして,医師は在宅起訴となった2).
外科外来における画像診断は術後の経過観察の目的に加え,初診時の診断や治療に直結した画像検査の面も併せ持っている.外来での適切な画像診断とはどのようなものであろうか.本稿では,われわれの日常の外科外来における初診時の画像診断の経験や考えを中心に述べる.
疾患の概念
頭部軟部組織の外傷性損傷は,頭皮から骨膜までの頭蓋骨外の組織損傷を示す.しかし,実際には頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷,さらに多発外傷を伴うことも多い.いずれの場合も,頭部軟部組織の損傷は外力の種類や強さ,方向さらに受傷機転などを知るうえでの参考となる1).
頭痛患者の見極め
現在,頭痛の分類は国際頭痛分類によって行われる1).しかし,実践的には頭痛は表1のように分けて考えるのがよい.まず,頭痛を一次性頭痛と二次性頭痛に分ける.一次性頭痛は頭痛持ちの頭痛ないし慢性頭痛であり,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛から成る.二次性頭痛は患者の予後に重大な影響を及ぼす頭痛であり,外科的治療の必要なものとそうでないものとに分けられる.まずこれらを大別することが大切である.
日常診療において顔面外傷はきわめて遭遇する機会の多いものであるが,初期治療における顔面骨骨折,顔面神経損傷,耳下腺損傷,涙道損傷などの見落し,あるいは軟部組織損傷の不適切な縫合処置によって生じた醜形が患者のquality of life(QOL)を著しく低下させている例が見受けられる.顔面外傷の治療にあたっては眼球,眼瞼,涙道,口唇,口腔,顔面神経,耳下腺,顔面骨などの多岐にわたる知識が必要であり,さらに機能的問題以外に整容的な面での配慮も必要となる.
にきび(尋常性ざ瘡)
尋常性ざ瘡は多くの人が罹患する,思春期に始まる慢性の毛包の炎症性疾患である.臨床的にざ瘡は面皰という毛包に角質や皮脂が詰まった皮疹から始まる.面皰には(1)毛孔(毛穴)が開いている開放(黒色)面皰(黒にきび)と(2)毛孔が閉鎖している閉鎖(白色)面皰(白にきび)の2種類があり,これらの面皰に炎症が加わると炎症性皮疹である赤色丘疹や膿疱へと移行する(図1).
閉鎖面皰から皮脂や角質の貯留が起き,毛包壁の拡大が生じると囊腫へ移行する.また,囊腫壁が破裂すると皮下膿瘍や硬結となる.その後,線維化が起きると肥厚性瘢痕やケロイドを生じる1).
思春期には皮脂腺で男性ホルモンの感受性の亢進が起こり,皮脂分泌亢進を認める.ところが,毛包漏斗部の角化異常によって皮脂が毛包漏斗部で貯留し,皮膚の常在菌であるざ瘡桿菌(Propionibacterium acnes)などの細菌の増殖が起こり,リパーゼやヒアルロニダーゼなどの菌体外酵素が産生され,好中球走化性因子や活性酸素産生などによって,炎症が惹起されると考えられている2).毛包壁が破壊され,角質や毛などが真皮に流出すると慢性期には異物肉芽腫を形成する.
顔面神経麻痺は,わが国では人口10万人当たり約30人の発生と推定されており,日常臨床でよく経験する疾患で,性差はなくほとんどが成人症例である1).顔面表情筋の動きに異常が生じると,患者自身が容易に気づくため,比較的早期に病院を受診して治療が開始されることが多い(表).
三叉神経痛はこれまでは原因不明で,本態性三叉神経痛と呼ばれていた.しかし近年,この疾患に対する概念は一変し,器質的疾患であることがわかってきた.ここでは三叉神経痛の原因と治療について解説する.
口腔は口唇と口峡の間にある腔で,ヒトの消化管の入り口となっており,歯列の前方を口唇と頬からなる口腔前庭と呼び,歯列の後方を口蓋,舌,口腔底,口峡から成る固有口腔と呼ぶ(図1)1).歯列以外は毛細血管が豊富な軟らかい粘膜で覆われており,粘膜下は疎な組織から成る.さらに口腔内には常在細菌叢やそのほかの細菌が存在し,強い外力あるいは熱や酸,アルカリ,腐食剤などが加わることによって容易に損傷を受け,容易に出血し,創感染やさらに重篤な蜂窩織炎を惹起する可能性もある.
口腔外傷は,その受傷原因から,交通による外傷,スポーツによる外傷,偶発的あるいは自殺企図による咬傷,異物による外傷,熱傷,化学物質による損傷などに分けられ,受傷部位から,口唇外傷,頬粘膜外傷,歯肉外傷,硬口蓋外傷,軟口蓋外傷,舌外傷,口腔底外傷に分けることができる2).舌外傷は他項に譲り,本稿では舌外傷以外の口腔外傷について述べる.
口腔痛や咽頭痛を起こす疾患のなかには,嚥下痛や開口障害から食事摂取困難や気道への圧迫による呼吸困難を招くものがある.したがって,速やかに外科的処置を行い,症状の改善をはかることが必要になる.外科的処置が必要な口腔・咽頭痛を起こす疾患について述べる.
魚骨異物症の診断・治療はプライマリケアとして欠かすことのできない医療行為である.
本稿では,口腔・咽頭魚骨異物の診断・処置について述べる.
2000年の国民衛生の動向によれば,わが国における不慮の事故による死亡のうち,気道・食道異物症による窒息事故死は交通事故についで第2位の7,794人である.さらに,1999年度の自治省消防庁委託研究報告書によると,気道異物事故の推定発生頻度は6.9件/人口10万人/年で,そのうち31%が死亡しており,米国の死亡発生頻度の約1.8倍と報告されている.成人では餅(18.5%),米飯(10.1%),肉類(5.1%),乳幼児では食物以外におもちゃによる窒息が約10%認められたと報告されている.
舌は口蓋,口腔底,口峡とともに固有口腔に存在する1).舌前方は舌尖,舌中央の大部分を占める部分は舌体,後方は舌根と呼ぶ.舌の表面を舌背と呼び,正中部には縦走する舌正中溝があり,舌背の後方はV字型の舌分界溝がある.舌背表面には味覚の受容器である味蕾を持つ舌乳頭と呼ばれる小隆起が多数存在し,舌全体は分厚い筋肉から成り舌骨と下顎に固定されている(図1).舌筋は横紋筋の交錯する線維束から成り,多数の血管,神経が分布している.よって,舌に何らかの損傷が加わると,その種類によっては,出血,味覚異常,知覚異常,創感染や,さらには重篤な蜂窩織炎を惹起する可能性がある.
舌外傷は口腔外傷の一部であり,その受傷原因から,最も多いものは偶発的あるいは自殺企図による咬傷であり,そのほか,交通による外傷,スポーツによる外傷,異物による外傷,熱傷,化学物質による損傷などに分けられる2).
疾患の概念と原因
味覚障害患者は近年,明らかに増加している.味覚障害を訴える患者は加齢とともに増加する傾向があり,50~60歳台が最も多い.
味覚受容器のある味蕾から中枢までのどの部位に障害があっても味覚異常が生じる.味覚障害を部位別に(1)伝導性,(2)感覚性,(3)神経性,(4)中枢性と大別する.伝導性障害は味物質の味蕾での接触障害により起こる.口内乾燥状態,感染症,厚い舌苔などが原因となる.感覚性障害は味細胞の異常によるもので,放射線照射,変性疾患,ウイルス感染,薬物性などが重要である.神経性障害は求心路の障害で,外傷や手術副損傷,顔面神経麻痺などによる.中枢性障害は頭蓋内腫瘍や血管障害などによるが,頻度は低い.
味覚障害の原因の頻度は薬物性,亜鉛欠乏症,全身疾患,特発性,心因性の順に多い.
主な唾液腺炎の疾患概念について簡単に述べる.
1.急性化膿性唾液腺炎
高齢者や衰弱した人,術後患者に多い.ほとんどが唾液の減少による口腔からの逆行性感染である.
2.流行性耳下腺炎
ムンプスウイルスによる.ときに顎下腺も侵される.
3.反復性耳下腺炎
5~6歳未満の小児に多い.耳下腺炎を反復する.病因は明らかでないが,本態は唾液腺管の狭窄などによる唾液のうっ滞に起因する末端の拡張による1).成長によって症状は消失する.
4.シェーグレン症候群
自己免疫性疾患であり,唾液腺を含めた全身の外分泌腺の慢性炎症をきたす(図1).40歳以上の中年女性に多い.主症状は,腺組織からの分泌量低下による口腔と眼の乾燥である.しばしば慢性関節リウマチなどの膠原病を合併する.
5.唾石症
唾液腺管内に生じた結石による.発生部位は圧倒的に顎下腺に多い.摂食時の痛み(唾疝痛)と唾液腺の腫脹による腫瘤が典型的な症状である.唾液のうっ滞によって,しばしば急性唾液腺炎を合併する.
眼外傷の緊急度
眼科救急外来を訪れる患者のうちの大半を占めるのは外傷性疾患であるが,実際にはコンタクトレンズによる角膜上皮障害などの軽微なものがほとんどである.しかし,一部の症例は初期治療が視力予後を左右するような緊急性が高いものもあるので,疾患の緊急度に応じた対応が必要である(一部は外傷以外の疾患を含む)1).
1.数分以内に治療が必要な疾患
眼化学傷,網膜中心動脈閉塞症
2.数時間以内に治療が必要疾患
穿孔性眼外傷,眼球破裂,眼内異物,角結膜異物,眼瞼裂傷,急性閉塞隅角緑内障
3.数日以内に治療が必要な疾患
涙小管断裂,眼窩底骨折,裂孔原性網膜剥離
医療高次レベルへの患者搬送の判断
つぎの場合は,医療高次レベルの二次,三次の救急医療施設への転医・搬送を検討する必要がある.高度の眼瞼裂傷,眼球破裂,眼球あるいは眼窩内異物,化膿性眼内炎など.また,一次救急処置で創を縫合した場合でも,二次的に網膜硝子体手術が必要な場合なども検討する.搬送上の注意としては,眼球破裂がある場合には眼球保護帯を用いて眼球が圧迫されないようにする必要がある.眼瞼裂傷の場合は出血を伴うことが多いため,ガーゼで圧迫して止血する.
眼内異物とは,異物が角膜または結膜と強膜を穿孔して眼内にとどまった状態である.金属が飛入する場合が多く,草刈機の操作中に金属の刃が石などにあたったときや金属のハンマーでコンクリートなどの堅いものを叩いているときに金属が小さな破片となって高速で眼球に穿孔することが多い.金属のほかに,植物のとげや木片,睫毛,ガラス片などが異物となることがある.
眼痛と言ってもその原因はさまざまであり,疾患によっては緊急の対応が必要となる場合もある.本稿では,「眼が痛い」と訴えて受診した患者に,眼科以外の医師がどのように対応するべきかを解説する.
眼瞼は,外側より皮膚,瞼板,筋肉,粘膜から成る.眼瞼腫脹は眼瞼以外の眼組織や全身疾患からの波及によることもあり,その原因は多岐にわたる(表).視診では,(1)眼瞼腫脹の部位(両眼性か片眼,眼瞼全体か限局など),(2)痛みの有無,(3)発赤の有無,(4)眼瞼皮疹の有無と種類(湿疹,水疱など),を観察する.発症が急性か慢性か,再発性かを聞いておく.また,肝疾患,腎疾患,心疾患,膠原病などの全身疾患や薬剤や食物アレルギーの有無,アトピー性疾患の既往も尋ねる.片眼性で有痛性の場合は感染症が原因となる場合が多く,迅速な診断および治療が必要となる.
結膜炎は日常診療で遭遇する機会の多い疾患である.原因として,細菌やウイルスなどの感染症,花粉症をはじめとするアレルギーがあるが,また,ドライアイも乾燥による結膜炎を起こす.結膜炎は的確な診断がつけば,点眼による治療が可能なものが多く,迅速診断が有用である.しかし,なかにはアデノウイルス結膜炎のように感染力が非常に強く,院内感染の危険を伴うものもあるため,対処の仕方を知っておくことが必要である.
外来診察および処置の対象となる程度の鼻骨骨折はスポーツや喧嘩で起きることが多いため,患者は10~20歳代の男性が圧倒的に多い1).交通事故や労働災害では,ほかの顔面骨骨折を合併していることが多いため,外来処置の対象となることは少ない2).鼻骨の単独骨折は受傷から2週間以内であれば,外来で局所麻酔下に非観血的整復術が可能である3).整復術の目的は審美的なことだけでなく正常な鼻呼吸機能の回復にもあるので,処置は正確な鼻内所見が観察できる能力を有する医師によらなければならない.
鼻出血の原因,病態
鼻出血は頻度の高い耳鼻咽喉科の救急疾患である.鼻出血の好発年齢は鼻いじりの多い小児に多く,鼻中隔軟骨部前下部のいわゆるキーゼルバッハ部位からの前出血が70~90%であり,予後もよい.一方,高齢者では中鼻道後部や鼻中隔後端などの蝶口蓋動脈からの後鼻出血や前・後篩骨動脈からの上鼻出血もあり,止血に難渋する厄介な疾患である.また,受診時には止血していることも多く出血点不明のことも多い.
鼻腔異物発症原因は,幼小児がいたずらをして異物を鼻のなかに挿入してしまうことがほとんどである.成人でも精神障害者や老人性痴呆の異常行動の1つとしてみられることがある.そのほか,鼻内手術後のガーゼの取り残しや,交通外傷でフロントガラス片が鼻腔内に入り込むこともある.
耳痛には,(1)原因が耳にある耳性耳痛,(2)耳以外の部位に原因のある放散性耳痛,(3)末梢器官に病変がなく,感覚神経の支配領域に発作性の痛みを呈する神経性耳痛,がある.
耳痛に関連する神経には,三叉神経第三枝,舌咽神経,迷走神経,頸神経叢(C2,C3)などがある.三叉神経は耳珠,耳介前上部,外耳道前上壁,鼓膜外側面のほか,舌,下歯槽の知覚を支配する.舌咽神経は中耳内のほか扁桃付近に,迷走神経は耳介後面の一部と外耳道後壁および鼓膜外側面後方のほか,喉頭に分布する.頸神経叢から分枝した大耳介神経と小後頭神経は耳介後面に分布している.
外耳や鼓膜の外傷は,交通事故などによる外的な圧力が加わるだけではなく,自分で耳かきなどの際に創をつけてしまうこともある.したがって,外耳道の外傷には,外耳道の外,すなわち側頭骨からの創と外耳道内からの創の2つがある.成人の外耳道は外耳孔から前下方に向かっている.一方,幼児では前上方にある.外耳道は3.5cmである.このような解剖学的知識がないと,耳内に思いもかけない損傷をきたすこととなる(図1).
耳垢は本来,生理的なものである.外耳道入口部から半分は軟骨部外耳道と言い,耳垢線が存在する.耳垢は個人によってその性状が異なる.乾燥した耳垢は顎の運動と耳毛の働きで自然に外に出てくる.しかし,粘性の耳垢であったり,みずから耳掃除をすると奥の骨部外耳道に耳垢を押し込んで耳閉感が出現する(図1).外耳道異物は骨部外耳道に異物がはまり込むことが多い.特に外耳道は軟骨部外耳道と骨部外耳道が“く”の字に曲がっているので,一度,骨部外耳道に耳垢や異物が入ると,外に出すのは難しい.
主たる外耳瘻の原因は先天性耳瘻孔による.本疾患の成因は耳介の形成不全による先天性奇形である.この瘻孔の存在する頻度は,最近の報告でも2~3%と稀ではない1).無症状なら放置してよい.しかし,いったん感染による炎症を生じたものは反復する傾向にあるので,摘出術の適応となる.
耳介軟骨膜炎
耳介に生ずる炎症は耳介軟骨膜炎となりやすい(図1).解剖学的に耳介を覆う皮膚は薄い皮下組織の層を介して,軟骨膜および耳介軟骨と近接している.したがって,耳介への鈍的あるいは鋭的外傷は容易に軟骨膜および軟骨へと波及する.さらに,外耳道など周囲からの連続的な波及や,反復性多発性軟骨炎のような自己免疫疾患によって耳介に炎症をきたす場合もある.耳介皮下への炎症波及によって耳介軟骨と軟骨膜は分離・剥離するので,炎症が長引くと軟骨膜から栄養補給されている耳介軟骨は壊死に陥り,炎症は消退しても将来の耳介変形の原因となる.
治療で肝要なことは,耳介軟骨の栄養障害を最小限にくいとめるため,早期に治癒に導くことである.遷延化すればするだけ栄養障害は重篤になり,治癒後の耳介の変形が強くなる可能性がある.ゆえに,初期から抗生剤の点滴静注を強力に行う.いったん膿瘍が形成された場合はただちに切開排膿し洗浄する.不良肉芽や軟骨に壊死が生じたら,鋭匙などによってある程度取り除く.反復性多発性軟骨炎ではステロイド投与が有効であるが,しばしば反復,増悪を繰り返すので完全離脱は容易でなく,長期にわたって維持量を投与することもある.
耳介は前面が皮膚と軟骨が密に付着しており,後面は脂肪や結合織などで疎に結合している1).このため,外傷あるいは継続した刺激が加わることによって耳介の皮膚と軟骨との間にずれが生じ,耳介軟骨を穿通している多数の血管の断裂が起こって皮膚と軟骨との間に出血をきたす1).その原因としては,相撲や柔道,レスリング,ボクシングなどの格闘技やラグビーなどによる耳介に反復する刺激や打撲が加わったことによる.耳介を触る習慣や,同じ耳を下にして寝るなどの長期にわたる刺激によっても起こり得る.一方,原因の明らかでない特発性耳介軟骨膜炎の場合もある.
外耳道に慢性的に冷水刺激を受ける潜水夫や水泳泳者,海女などの外耳道には,しばしば外骨腫(exostosis)と呼ばれる骨性の隆起がみられることが報告されてきた.1977年にSeftel1)はサーファーにこの外骨腫が増加してきたことを指摘し,サーファーズイヤーと名づけた.外骨腫の本態は骨部外耳道の骨の増殖であり,成因は外耳道への冷水刺激やそのほかの物理的刺激である.
はじめに―疾患の特徴
顎関節脱臼とは,顎関節突起が通常の可動範囲を逸脱して偏位したものであり,一般に,顎関節突起が関節結節の前方に逸脱する前方脱臼がほとんどである.多くの場合,大開口で生じ,あくび,嘔吐,哄笑のほか消化器内視鏡検査,歯科治療など医療行為の際にも発生する.
頻回に脱臼を繰り返すものは習慣性脱臼と呼ばれ,次第に通常の開口運動でも生じるようになり,高齢者に多い.習慣性の場合,自己整復できる,もしくは比較的容易に整復できることが多いが,近年,老人性痴呆症患者に生じた習慣性脱臼患者が増えており,その治療に苦慮する.また,脱臼時に脱臼したとの自覚がない,もしくは整復できず3~4週間以上放置された症例は陳旧性脱臼と言われ,通常の整復は難しく,観血的整復術を要する場合が多い.
そのほか,側方(内側,外側)および後方脱臼は顎関節部の骨折の際にみられ,側方脱臼では,顎関節突起部の骨折で外側翼突筋によって内前方へ牽引される.後方脱臼は関節窩後方の外耳道や乳様突起などに陥入・骨折・脱臼したもので,稀である.本稿では,前方脱臼を中心に述べる.
下顎骨に骨折が生じると,下顎骨に付着した咀嚼筋などの張力のバランスが崩れ,骨折の生じた部位によって特徴的に骨片が偏位する.そのため,咬合の変化(噛めない,噛み合わせが変わった)が生じる.自覚的・他覚的に咬合のズレが認められれば,顎骨,特に下顎骨骨折の可能性は高い.治療上も,咬合の回復をはかることが最重要点となる.また,開閉口障害があり,外耳孔前方の顎関節部に疼痛を認める場合,顎関節部での損傷(打撲や骨折)を疑うべきである.同部損傷を伴う下顎骨骨折では,適切な処置を怠ると咬合不全に加え,運動障害(開閉口障害)をきたすことがあり,診断および治療には注意を要する.
外科系診療科の外来で多い頸部表層における疾患は,擦過傷,挫創,裂創といった皮膚外傷である.顔面と同様に頸部は露出しており,人目につきやすく,整容的にも問題となる.また,頸部は可動性が広く瘢痕拘縮やケロイドを生じやすい.擦過傷や挫創の治療の基本は湿潤環境を保つ閉鎖療法であるが,裂創では形成外科的配慮をもって処置することが必要である.
頸部腫瘤を主訴とする患者を診察するとき,甲状腺,唾液腺,咽頭,喉頭,食道などの疾患はもとより,リンパ節腫大の鑑別が重要となる.臨床的に容易に診断できる疾患も多いが,頸部リンパ節腫大の原因疾患は多岐にわたり,画像診断と穿刺吸引細胞診(以下,ABC)の技術が発達した現在でも診断困難な症例も多い.
日常の外科外来診療において遭遇する頸部に発生する腫瘤性病変は多彩で,耳鼻科領域の診療とオーバーラップするものが少なくない.解剖学的由来については一通り知っておく必要があるが,喉頭,下咽頭,甲状腺,気管,および所属するリンパ節,神経,血管などがある.また,発生学的に甲状腺や上皮小体などの遺残から発生する疾患も存在する(表1).
外来診療で遭遇する多くは頸部の腫大を主訴として来院するため,触診と外来体表エコー検査で発生部位の確認および質的診断はある程度可能である.また,外来診察の範囲内で簡単に穿刺吸引細胞診で鑑別できる場合が多い.しかし,ときに内科領域での全身検査や頸動脈病変のスクリーニングを目的として行われる頸部エコー検査や,整形外科領域疾患の精査目的で施行されたCT検査やMRI検査などの際に偶然に発見された腫瘤は比較的深部に存在するものが多く,厳密な意味での鑑別診断には全身麻酔による組織採取が必要となる場合もある.
本稿では,外科外来での小外科手術を必要とするものに関して述べる.急性化膿性甲状腺炎の原因となる梨状咽頭窩瘻の切除,正中頸嚢胞や小さな甲状腺腫瘍などは,ときに局所麻酔手術の対象となり得るが,術後の血腫の発生に留意すべきで,できればオーバーナイトでの経過観察が望ましい.現状では1泊2日程度の入院手術の対象となるため,ここでは割愛する.外来での小外科手術(生検や摘出手術など)の対象となる頸部腫瘤は,頸部脂肪腫や粉瘤などのごく表層に発生した疾患に限られる.
50歳前後に発症し,肩の疼痛と運動制限を生じる疾患である.肩関節周囲組織の退行変性を基盤として発症するとされる.同様の症状を示すもの全体を古くから広い意味で五十肩と呼んできた.現在では肩関節周囲炎のなかの1つで,原因不明なものとして捉えることが多い.上腕二頭筋腱【鞘】炎や肩峰下滑液包炎,石灰沈着性腱板炎,腱板不全断裂などの明らかな原因が除外された場合に,いわゆる五十肩と診断する1).海外ではfrozen shoulderやadhesive capsulitisなどがこれに相当する.
はじめに―疾患の概念
頸部から上腕部へかけての慢性的疼痛,不快感,緊張感などを訴えて来院する患者で,原因が日常生活動作に起因すると思われる場合で明確な疾患が見いだせない場合に,頸腕症候群や肩こりの診断をつけることとなる.
用語と分類
「鞭打ち損傷」は,自動車の追突や衝突事故を原因とすることが最も多い.追突事故時の頭部頸椎は,後方への過伸展とそれに続く前方への過屈曲の状態となるが,これが“鞭打ち(whiplash)”にたとえられたものである.頸椎の過伸展・過屈曲・回旋強制外力によって頸椎椎間板や椎間関節,関節包,周囲の靱帯,筋肉,神経などの軟部組織の損傷が引き起こされ,項頸部痛を主症状とする病態である.
(1)1995年のケベック鞭打ち症関連障害(whiplash associated disorders:WAD)特別調査団による研究1)によって提唱されている分類はつぎのとおりである.
Grade 0:頸部痛なし.
GradeⅠ:頸部痛のみ.
GradeⅡ:頸部痛+頸椎運動制限・圧痛あり.
GradeⅢ:頸部痛+神経学的所見(筋力低下・知覚障害・腱反射低下消失)あり.
GradeⅣ:頸部痛+骨折・脱臼あり.
この分類では,後述のBarré-Liéou症候群は記載されておらず,めまいや耳鳴,頭痛などはどのgradeにも表れ得るとするとしている.
(2)「鞭打ち損傷」は日本では診断名としては不適当であるとされており,代わりに「頸椎捻挫」または「外傷性頸部症候群」が用いられている.このうち,外傷性頸部症候群を頸椎捻挫と同義とするものと,後述のBarreé-Lieéou症候群と同義に扱うものとに分かれているのが現状である.
(3)項頸部痛のほかに,頭痛,吐き気,めまい,耳鳴り,眼精疲労などを伴う症例に対しては,頸椎捻挫と区別してBarré-Liéou症候群を診断名とすることが多い.
(4)筆者は,頸椎捻挫と外傷性頸部症候群を同義とし,かつ総称として用い,症状の程度を表すケベックWAD分類のGrade数値とBarreé-Lieéou症候群(+または-)を併記することを提唱したい.これは,後述のようにケベックWAD分類のGrade数値とBarreé-Lieéou症候群の有無が予後に関連しているからである.
肩関節は,四肢の関節のなかで最も大きな可動域を有するball and socket jointである.解剖学的には上腕骨頭の大きさに比べて肩甲骨関節窩が小さく浅いため,その安定性は腱板や関節唇などの軟部組織に依存している.したがって,肩関節は自由度が大きい反面,脱臼しやすい関節と言える.その割合は全身の外傷性関節脱臼の約50%を占める.若年男性のスポーツ外傷に伴うものが多く,高齢者がそれにつぐ.
肩関節脱臼は脱臼した上腕骨頭の方向によって前方,後方,下方に分けられるが,95%が前方脱臼で,そのほかは非常に稀である.したがって,本稿では前方脱臼に関して述べる.
鎖骨骨折は全骨折の約10%を占め,最も頻度の高い骨折である.鎖骨は緩いS字状を呈し,(1)体部(中央部・中1/3部)骨折,(2)外側端骨折,(3)内側端骨折に分類できる.体部骨折が75%と多く,外側端骨折が20%,内側端骨折は5%程度である.受傷機転としては,転倒や転落などで肩の外側を強打し,介達外力によって生じることが多い.
体部骨折では近位骨片は胸鎖乳突筋に引かれて上方に転位し,遠位骨片は上肢の重力で下方に引かれて,さらに大胸筋により内側に転位する(図1).鎖骨骨折では多少転位していても骨癒合が得られれば問題ないが,骨片同士が大きくオーバーライディングし,鎖骨が著明に短縮すると肩幅が狭くなって,整容的にも機能的にも障害が残る.
病態ならびに診断
肩鎖関節は肩鎖靱帯(肩峰~鎖骨間),烏口鎖骨靱帯(烏口突起~鎖骨間),三角筋・僧帽筋(鎖骨遠位部に付着)の各靱帯および筋肉によってその安定性が維持されている.柔道やバイク事故など,肩を下にして転倒し肩峰を強打したとき,肩峰が衝撃的に下方へ引き下げられる直達外力によって,鎖骨遠位端に付着する靱帯・筋肉が損傷し肩鎖関節脱臼が生じる.肩鎖関節脱臼の分類法は種々報告されているが,各靱帯・筋肉の損傷程度,脱臼の方向を考慮したRockwoodの分類1)を紹介する.
胸壁外傷は鋭的外傷(穿通性外傷)と鈍的外傷(非穿通性外傷)に大別される.銃社会の諸外国では,鋭的外傷と鈍的外傷の比率は1対1である1~3).わが国での比率は1対2~3である.
胸郭は,呼吸循環に重要な臓器を保護する形で存在するため,胸壁外傷は単に胸郭の損傷にとどまらず,致命的な重要臓器の合併損傷を伴っていることが多い.胸壁外傷患者の病態は時々刻々と変化する.したがって,迅速な診断と治療が重要である.
胸背部痛は,胸腔内臓器の組織障害の結果,組織の緊張や化学的因子などが痛覚神経末端を刺激するために発生する(表1).疾患によって特徴があるため,問診では要領よく病歴を取ることが重要で,診察と検査を進めながら同時に救急処置を始めなければならないことがある1~4).
帯状疱疹は水痘罹患後に神経節に潜伏感染していた水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が加齢や疲労,ストレス,免疫抑制状態などの種々の誘因によって再活性化し,その神経支配領域に小水疱を形成する疾患である.
鈍的胸壁外傷
鈍的胸壁外傷(blunt trauma to the chest wall)の原因の約80%は交通事故で,続いて高所からの転落が多く,肋骨骨折,胸骨骨折,鎖骨骨折,flail chestなどが生じる.鈍的胸壁外傷の単独受傷は16%のみで,重症の胸部外傷や腹部外傷を伴うことが多い1).
気胸とは,何らかの原因で胸腔内に空気が侵入して肺が虚脱した状態を言い,血液が貯留した状態は血胸と呼ぶ.気胸は,発生機序によって種々に分類され,(1)ブラやブレブの破綻による自然気胸,(2)基礎に何らかの肺疾患(結核,悪性腫瘍,感染症)や外傷,医原性(鎖骨下静脈穿刺,胸腔穿刺,経気管支生検,人工呼吸器使用中などに合併)によって起こる続発性気胸がある.血胸も同様の原因で肺実質や胸壁動静脈の破綻によって起こるが,通常は気胸を伴うことが多い1).
乳房の炎症性疾患の診断に際しては,まず第一に妊娠と産褥に伴った授乳性変化が起因しているか否かを検討することが重要である.さらに,発症様式から急性あるいは慢性に経過しているかを判断する必要がある.急性炎症の多くは授乳期,ことに産褥期に発生する産褥性乳腺炎(puerperal mastitis)であり,うっ滞性乳腺炎(stagnation mastitis)と急性化膿性乳腺炎(acute purulent mastitis)に分類される.一方,慢性乳腺炎は結核,梅毒などの特異的炎症は別にして,乳輪下膿瘍(subareolar abscess)という特殊な形式で発症する.
乳腺,胸壁およびリンパ節などの表在性腫瘤は,患者自身がしこりに気づいて受診のきっかけとなることが多い.また,エコー検査や細胞診,(針)生検などの診断手技がベッドサイドで比較的容易に行えるため,初診時にこれらの処置を行うことも多く,適切な診断の手順と,主な検査手技や処置方法を日頃から習得しておく必要がある.
本稿では特に,乳腺腫瘤を中心に正しい診断に至るまでのアプローチについて述べる.
非産褥期に乳頭から分泌のみられる異常乳頭分泌は乳腺外来受診者の5~10%を占め,腫瘤や疼痛についで多い症状である.原因疾患のなかには,乳頭分泌を唯一の症状とする早期乳癌も含まれるため,見過ごすことのできない重要な症状の1つとなっている.
本稿では,このうち特に一般の乳腺疾患とは異なる診断法が必要となる無腫瘤性異常乳頭分泌症例に対する診断手順と,特殊な検査法および手術手技について述べる.
女性化乳房とは,男性の乳腺が一側性もしくは両側性に女性乳房のように発育,肥大したものを言う.乳頭を中心とした限局性のものから,成熟女性の乳房のように半円状に膨隆するものまで様々である.成因は一般にエストロゲンの相対的過剰状態によるとされており,思春期や老年期にみられる生理的乳腺肥大や内分泌によるもの,肝疾患に伴うもの,薬剤に起因するもの,さらに以上の成因の認められない原因不明の特発性乳腺肥大に分類される.
本症の老年期発症年齢と男性乳癌の好発年齢は重なるため,日常臨床上,留意すべき疾患である.
気道内異物の特徴
気道内異物は健康な成人(青壮年)に起こることは少なく,主に(1)小児(特に乳幼児),(2)高齢者,(3)泥酔・薬物乱用などによって意識の低下した成人,(4)神経・筋疾患などの既往例,にみられる.また,食物(豆類,飴,餅など)やコイン,玩具,義歯などの誤嚥が原因となることが多い.
咽頭・喉頭および気管内の異物は,しばしば気道閉塞をきたして呼吸困難や窒息の原因となるが,気管支より末梢側の気道閉塞では,ある程度の換気が維持される.気道閉塞によって窒息もしくは切迫窒息をきたした場合,数分のうちに心停止に陥る可能性があるので,迅速な対応が必要である.また,窒息をきたすと死亡率は高く,意識消失あるいは心肺停止状態で医療機関へ搬送されてくることも少なくない.
疾患の概念と分類
種々の鋭的および鈍的外力によって発生し,腹壁の構成臓器の単純な外傷と腹腔内臓器の損傷を伴う疾患である.その成因および受傷の機転によって以下に分類される1).
1.直達外力よる損傷
1)穿通性損傷
刺創,銃創など
2)鈍的損傷
挫創,圧挫創など
2.介達外力による損傷
1)皮下出血,皮下血腫,腹筋断裂・血腫,腹直筋血腫など
2)外傷性腹壁ヘルニア
また,外傷の形態から,開放性損傷と非開放性損傷とに分けられる.鋭的外傷はすべて開放性損傷となるが,鈍的外傷では,皮膚の挫創のような開放性損傷を伴う場合と,腹部打撲のように非開放性損傷となるものがある.腹部の非開放性損傷の半分以上が来院時に出血性ショックを伴うとされる2).
いずれの損傷においても腹壁外傷を診療するうえで最も重要な点は腹腔内臓器損傷を伴っているか否かの判断である.
日常の診療で,体表に腫瘤を触知して外来を訪れる患者は多いが,腫瘤の発生部位や質的診断はしばしば容易ではない.肉眼所見や画像検査のみでは正確な診断ができないことがあり,その場合,悪性変化の有無を含めて組織学的検索(外科的生検)を要する.ここで言う腹壁とは皮膚,皮下脂肪,筋膜,腱膜,筋,腹膜前脂肪織,腹膜からなり,腹壁腫瘤はこれらの組織から発生するものを指すが,本稿では,皮膚由来と腹膜を除いた腹壁から発生した腫瘤について述べる.
腹壁の腫瘤性病変には以下に挙げられるものがある.
(1)尿膜管囊腫
(2)腹壁ヘルニア
(3)腹直筋血腫
(4)炎症性腫瘤
(5)腹壁良性腫瘤
(6)腹壁悪性腫瘤
(7)デスモイド
消化器疾患の症候のうち,腹痛は最も多い主要症状である.腹腔内には多数の科にまたがる様々な臓器が存在するため,そのなかから腹痛の原因診断を行わなければならない.なかでも,突然の激烈な腹痛と,重篤な全身症状を呈し,外科的処置あるいは内科的治療を早急に必要とする疾患群を急性腹症と呼び,緊急手術および保存的治療の適否を的確に判断することが非常に重要である.一般に体性痛を伴う急性腹症は手術適応であることが多く,内臓痛では周期的痛みで悪心・嘔吐を伴うことが多く,手術適応になることは少ない.また,肺炎や心筋梗塞からの関連痛があることも忘れてはならない.
疾患の概念および病態
胃内異物には,本来,食物でないものが胃外から胃に入った異物と,植物性食物や毛髪などから胃内で形成される胃石とが含まれるが,狭義には胃外から入った異物を指す1,2).異物の胃内への侵入経路はほとんどが嚥下によるものであり,食道の生理的狭窄部位と食道胃接合部を通過して胃内に停留しているものである.
食道内異物は食道潰瘍,穿孔を起こしやすいので速やかな摘出が必要であるが,胃内に落ちたもののほとんどは便とともに肛門から排出される.しかし,危険な異物や幽門を通過せずに停滞する異物に対しては摘出が必要である1).
一般に消化管異物は幼小児や高齢者,精神障害者に好発するが,通常の成人にもみられる.異物の種類としては,幼小児では硬貨や玩具,ボタン型電池など,成人では義歯やPTP(press through package),魚骨,針,ピン,釘,楊枝などが代表的である1~4).
縫合糸膿瘍とは,深部縫合糸を中心に生じる細菌感染である.特に腹壁では筋膜縫合に用いられた縫合糸を中心に生じて創感染となり,一般的に皮下組織や皮膚創瘢痕部に膿瘍を形成する.ときに瘻孔も形成し,排膿することもある.術後1~2週間の早期で発症することが多いが,それ以降で数か月後の晩期に発生する遅発性のものもある.異物の感染であり,原因異物の糸を除去しない限りは根治は難しく,治療の原則は感染縫合糸の除去である.皮膚創瘢痕部の難治性膿瘍,瘻孔,難治性肉芽創,炎症性肉芽腫は本症を疑う.慢性に経過すると縫合糸の周囲に炎症性肉芽腫を形成し,Schloffer腫瘍と呼ばれる有痛性腫瘤となる1).
ヘルニアは,臓器または組織が先天性あるいは後天性の裂孔を通じて,その本来の存在する部位から脱出する状態である.ヘルニアは,ヘルニア脱出の出口である「門」と,脱出する「内容」,およびこの内容を包む「【嚢】」から構成されている.本稿では,成人鼠径ヘルニアについて述べる.
鼠径ヘルニアは,鼠径部にヘルニア門を有するヘルニアであり,一般に大腿ヘルニアを含めて鼠径部ヘルニアと総称される.ヘルニア門によって,(1)外鼠径ヘルニア(間接ヘルニア),(2)内鼠径ヘルニア(直接ヘルニア),(3)大腿ヘルニアに分類される.外鼠径ヘルニアは,内鼠径輪(下腹壁動脈の外側)をヘルニア門とし,内鼠径ヘルニアは,鼠径管後壁のHesselbach三角(下腹壁動脈の内側)から脱出し,大腿ヘルニアは大腿輪をヘルニア門とする(図).
腰痛および坐骨神経痛は外来診療で最もよく遭遇する症状の1つであり,専門性のいかんにかかわらず診察を求められることが多い.治療上,緊急性を要するケースが少ないため,とりあえず安静の指示と消炎鎮痛剤の投与を行って帰宅させ,翌日以降に専門家への受診を勧めることですまされているのが実際であろう.しかしながら,本症状を呈する病態のなかには診断の遅れや間違いが致命的な結果を引き起こすものも含まれており,診療にあたっては慎重な対応が望まれる.
腰痛および坐骨神経痛の原因となり得る脊椎疾患についての基本的な診断や診察方法については成書を参照してもらうこととし,本稿では,トラブルになりやすい,見落としてはいけない,あるいは見落としやすいと思われるケースを列記し,そのなかから導き出される診察上の留意点や考え方を明らかにする.
体重によって骨突出部とベッドとの間で皮膚および皮下軟部組織が圧迫され,血行障害によって生じる細胞の代謝障害および壊死である.皮膚の毛細管圧は32mmHgとされ,これ以上の圧が長時間加わったときや,毛細管圧より低圧であってもくり返し加わることによって起こる.
また,そのほかの因子として,ADLの低下,皮膚の過剰な湿潤環境(尿,便失禁など),摩擦,低栄養,加齢による組織耐久性の低下が関与している.
直腸・肛門周囲膿瘍の多くは,解剖学的な直腸と肛門の境にある肛門陰窩から細菌が侵入して内外括約筋間に存在する肛門腺に感染が生じ,これが水平,垂直方向に進展して膿瘍が形成される肛門陰窩~肛門腺感染(crypt glandular infection)による.そのほか,クローン病や結核などに起因する膿瘍もある.
痔瘻は直腸および肛門と交通する瘻管であり,多くは歯状線にある肛門陰窩から細菌が侵入して内外括約筋間に存在する肛門腺に感染が生じ,これが水平・垂直方向に進展して生じた膿瘍が切開されるか自壊するかして形成される.
痔瘻は,(1)細菌の侵入口である肛門陰窩(原発口),(2)内外括約筋間の肛門腺の感染部(原発巣),(3)その枝である瘻管,(4)出口である二次口から構成される.
裂肛とは,肛門上皮に発生した亀裂,びらん,潰瘍の総称である.
裂肛の初期は単に肛門上皮の浅い裂創がみられ,その底部には縦に走る縦走筋線維の走行が認められる(図1).特徴的な症状は,排便時にトイレットペーパーにつく鮮血と,排便時およびそのあともしばらく続く疼痛である.診断は,患者を左側臥位もしくはシムス位にし,両手で臀裂を左右に拡げ,肛門部の裂創を確認することで確定する.
裂肛が慢性化してくると,肛門上皮に深い難治性の潰瘍が形成され,潰瘍底には横走する内括約筋線維が認められるようになる.また,肛門ポリープやskin tagが形成され,肛門狭窄をきたすようになる.
痔核は内痔核および外痔核に大別されるが,このうち外来治療の対象となるのは血栓性外痔核と内痔核である.
肛門掻痒症(prurutis ani)とは肛門部の掻痒感を主訴とする疾患の総称で,原因は多様である.最近は肛門症状を主訴として来院する患者にも,痔核,痔瘻,裂肛といった三大肛門疾患のほかに,炎症性腸疾患に伴う肛門疾患や悪性腫瘍,ポリープ,機能的疾患として直腸脱や便秘の疾患がある.また,本稿で扱う肛門掻痒症といった疾患も増加してきている.さらに肛門部性行為感染症の増加も問題で,肛門の診察だけではなく大腸全体,さらには他疾患の存在の確認が必要となってきている.
毛巣洞(pilonidal sinus)は肛門の後方から仙骨部の皮下に難治性の瘻孔や膿瘍をつくる化膿性肉芽腫性疾患で,皮下に埋没した毛髪が膿胞を形成し感染することによって起こる後天説と胎生期の脊髄管の遺残とする先天説がある1).毛深い肥満男性や白人に多いとされている.治療は病巣部の完全切除が必要であるが,切除後の死腔が大きい場合は皮膚移植やZ plasty法が必要な場合がある.
化膿性汗腺炎(hidradenitis suppurativa)はアポクリン汗腺の導管が閉塞されることによって引き起こされる.まず,有痛性の膿瘍および滲出を伴う瘻孔が形成され,寛解と増悪を繰り返しながら皮下組織に瘢痕を形成する.治療後もしばしば再発を繰り返し,徐々に周囲の健常な皮膚に拡がっていくやっかいな疾患である1~3).
臨床的に問題になる症例の大部分は,性的快楽を求めて経肛門的に挿入した異物が回収不能となり来院する患者である.自験の19例においても,経口摂取された異物が直腸内異物として問題になったのは,魚の釣り針と缶キャップを誤摂取した各1例に過ぎない.
まず,経肛門的に挿入された異物による腸管穿孔の有無を確認することが重要である1,2).回収不能となった異物は,大きさ,材質,形態など多種多様であり,異物の除去にあたっては,異物の位置,形状,材質に適した方法ならびに用いる道具を個々の症例ごとに工夫する必要がある.さらに,異物を除去したのち,内視鏡で直腸内の損傷の有無および程度を確認することが重要である.
直腸脱は完全直腸脱と不完全直腸脱に分けられ,単に直腸脱というときは完全直腸脱を指すのが一般である.完全直腸脱とは直腸の全層が翻転して肛門の外に脱出する病態で,性別では女性に多く,年齢別では幼児から80歳以上まで広く発症するが,高齢者に多い傾向にある.
その成因については諸説が報告されているが,すべてを説明し得る説はない.主な成因としては,(1)ダグラス窩をヘルニア囊とする滑脱ヘルニア説,(2)上部直腸の全周性重積に続発する形態学的変化とする説,(3)骨盤底筋群および肛門括約筋の弱体化による説,(4)排便反射に関する肛門挙筋および肛門括約筋の機能失調説,がある.先天的因子に便秘や過度のいきみ,長時間の排便動作などの後天的誘因が加わって発症するものと考えられている1).
尖圭コンジロームはウイルス性性感染症の一種で,ヒトパピローマウイルス6型および11型が原因となる.患者の大部分は性活動の盛んな年齢層であるが,稀に成人を介して幼児に発症することもある.わが国では年間10万人あたり約30件の発症がみられるが,1999年以降はほかの性感染症と同様に増加傾向にあり,女性の占める割合が高くなってきている1).性交またはその類似行為によって感染し,世界中に分布している.
小さいうちは一般に自覚症状に乏しく,疣状隆起物を触知することで偶然発見されたり,増大すると違和感,帯下の増加,掻痒感,痛み,二次感染による悪臭,が初発症状となる.疣状隆起物は表面が乳頭状,顆粒状で淡紅色~褐色を呈し,鶏冠状あるいはカリフラワー状に集簇的に増殖する.好発部位は,男性では陰茎の亀頭部,冠状溝(図1),包皮,陰囊で,女性では腟前庭,大・小陰唇,会陰部,また,男女の肛門および周辺部(図2),尿道口である.肛門管内にも病変が及ぶが歯状線をこえて直腸粘膜を侵すことは稀であると言われるが2),筆者は同性愛者で直腸粘膜まで病巣が進展した症例を経験している.ほかの性病の合併例も少なくないことに注意すべきである.一般的には角化傾向は少なく,弾力性・軟であるが,角化傾向が強く巨大化するものもある.
一般的に尿路が単独で受ける外傷は少なく,通常,腹部外傷や骨盤外傷に伴って上部尿路(腎,尿管)と下部尿路(膀胱,尿道)の損傷が発生する.これらのうちバイタルサインに注意して,失血に対して輸血が必要になり,また,開腹手術に備えなければならないのは腎外傷と骨盤骨折に伴う膀胱外傷である.
交通事故が多発する今日,腹部臓器の損傷に際しての開腹時には必ず後腹膜腔の腎の状態を観察することが大切である.また,側腹部からの刺傷や銃創時には腎単独の損傷が起こる機会が生まれる.
尿道内異物
尿路異物としては下部尿路(膀胱,尿道)の異物が圧倒的に多い.自慰および性的行為中に外尿道口から挿入される.尿道内にとどまれば尿道内異物となり,膀胱に達すると膀胱異物となる.男性に圧倒的に多く,思春期から30歳代に,女性では20~40歳代にみられることが多い.異物としては体温計,鉛筆,針,ヘアピン,ろうそく,ビニール製品,マッチ棒などがある(図1).医原性の場合,留置カテーテルの断片や,最近では以前に前立腺肥大症に対して挿入された尿道ステントが年余にわたって放置され,異物となることもある(図2).
診断は尿道膀胱部の単純撮影やCTで異物の種類が同定される.
治療は後部尿道にある場合,いったん膀胱に戻して膀胱異物として種々の鉗子で摘出する.異物が尿道腔内で尿道に沿って存在する時,尿道異物鉗子で摘出できることもある.前部尿道異物の場合,外側から尿道側に触知できるので,異物の形状に合わせて外尿道口へもみ出したり,異物鉗子にて摘出する.
腎・尿管結石を代表とする尿路結石症はしばしば激しい疼痛や血尿の原因となり,救急を扱う医療現場では重要な疾患の1つである.尿路結石症の治療法は過去20数年間に大きな変革を遂げ,従来の開放手術から体外衝撃波砕石術(ESWL)と尿路内視鏡を用いた低侵襲的手術に変遷した.治療法が多岐にわたることや再発予防の重要性が再認識され,2002年12月に尿路結石症診療ガイドライン1)が刊行された.本稿では,尿路結石症診療ガイドラインを踏まえながら,主に腎・尿管結石の存在診断と初期治療について解説したい.
陰囊水腫の成因
陰囊水腫とは精巣固有【鞘】膜腔に漿液が貯留する状態を示すもので,この漿液貯留が精索内に囊腫状に限局しているものは精索水腫と呼ぶ.成因別に先天性と後天性に大別される.精巣は胎生後期に腹膜しょう状突起に包まれて鼠径管内へ嵌入し,そしてこの腹膜しょう状突起は閉鎖の過程をたどる.しかし,この閉鎖は比較的遅い時期に起こり,生下時にも大多数が開存していると言われている.したがって,腹膜しょう状突起の閉鎖不全による腹腔液の貯留すなわち先天性交通性陰囊水腫は乳幼児では発生頻度も高く,また閉鎖孔が大きく開通していれば,鼠径ヘルニアの合併も当然あるわけである.
後天性陰囊水腫は成人に多くみられ,炎症,外傷,腫瘍などに伴う症候性水腫が多くを占め,原因不明のしょう腔の漿液貯留による特発性のものもある.
包茎の状態で無理に包皮を冠状溝より近位まで翻転させたため,狭い包皮輪により亀頭と包皮先端が絞扼されて,亀頭,包皮がともに腫脹し,元に戻らなくなった状態をいう.時間の経過とともに腫脹が増悪して包皮輪が締め付けられ,悪循環でますます腫脹が進行し,ついにはその部分が壊死に至る.完全に亀頭が露出している状態や包皮輪に余裕のある仮性包茎ではこのようなことは生じない.自慰目的や包茎を矯正しようとして無理に包皮を翻転し,そのままの状態にして生ずることが多い.また診察や尿道カテーテル留置などの際,包皮を翻転し,元の状態に戻さないで生じた医原性の場合もある.
亀頭部の炎症,包皮部の炎症は単独にも生ずるが,多くは合併して,亀頭包皮炎となる.亀頭が完全に露出している状態ではほとんど起こらない.すなわち,幼小児や包茎の人に生ずる.包皮と冠状溝の間に少量の尿や分泌物が停滞して癒着を生じ,恥垢がたまり,包皮内が不潔となり,これに感染が加わり発症する.また包皮に小さなキズがつき,それに感染することもある.老人では炎症を繰り返すようなら糖尿病が合併していることがあるので,その点のチェックが必要である.成人ではコンジロームなど腫瘍が隠れていないか確認する.
陰囊腫脹をきたす疾患の鑑別診断
精巣上体炎,精巣炎はいずれも陰囊の腫脹をきたす疾患である.本題に入る前に,まず陰囊の腫脹を主訴に来院した患者への外来での対応法について,簡単な鑑別診断のフローチャートを使って概説する(図1).
精巣捻転症とは精管,精巣動静脈からなる精索が捻れ,精巣循環障害をきたす急性陰囊症(急性陰囊疼痛をきたし,陰囊が腫脹する疾患の総称:精巣捻転症,精巣付属器捻転症,精巣上体炎,精巣炎,特発性陰囊浮腫,Henoch-Schoenlein紫斑病,腫瘍,リンパ管腫,血腫など)の1つである.虚血性疾患であり,迅速な診断と整復(できれば6時間以内)が必要である.
本邦での発症頻度は男性10万人に0.56人と報告がある1).好発年齢は新生児期と学童期の2峰性で,12~18歳で全体の2/3を占める1).36歳での発症もある.患側は2:1で左側に多い.新生児期と学童期では捻転機序が異なる.新生児期ではしょう膜外捻転,学童期ではしょう膜内捻転を起こす.精巣は胎児期にしょう状突起とともに陰囊内に下降する.しょう膜外捻転とはこのしょう状突起が陰囊内に固定されるまでに精巣とともに回転する病態である.新生児期しょう膜外捻転の70%は出生前に発症していると考えられている.新生児期しょう膜外捻転は稀であり,診断時壊死状態となっていることが多い.精巣捻転症の90%はしょう膜内捻転であり,本稿では学童期にみられるしょう膜内精巣捻転の診断と治療を述べる1).
精管結紮術は一般的に外来手術として行われる手技である.適応は男性避妊,精巣上体炎の頻回罹患例(例:長期尿道バルン留置)が適応となる.未成年者を適応としてはならない.既婚者においては妻の同意を得ることを基本とする.
前立腺炎は成人男性に発症する比較的頻度の高い泌尿器科疾患である.従来,その病型は急性細菌性,慢性細菌性,慢性非細菌性に加え,前立腺局所に明らかな炎症所見を伴わない前立腺痛(prostatodynia)の4型に分類されてきた.急性細菌性前立腺炎は細菌感染による急性炎症性疾患で,泌尿器科医であればその診断は比較的容易であり,治療(抗菌化学療法)に対する反応性も良好である.一方,慢性前立腺炎は多彩な臨床症状を呈し,しばしば治療に難渋する.慢性前立腺炎は基礎的にも臨床的にも未解決な点が多く,複数の病態が混在する症候群であり,そのため治療方法も確立されていない.多くは長期の臨床経過をとり,患者のQOLは著しく障害される.
バルトリン腺囊腫は外来診療でしばしば遭遇する外陰疾患のひとつで,通常は片側腟前庭部下方を中心とした軟らかい腫瘤を形成し,診断に迷うことは少ない.バルトリン腺囊腫には慢性の炎症で腺導管の開口部が癒着・閉塞した結果,分泌液が徐々に貯留して生じる囊胞(cyst)と,細菌感染による急性炎症の結果生じる膿瘍(abscess)とがある.膿瘍の起炎菌としてブドウ球菌,大腸菌,嫌気性菌など多種多様な細菌が複合感染を起こしていることが多い1,2).
性感染症(sexually transmitted disease:STD)は性行為によってパートナーからパートナーへ感染する疾患すべてをいう.
その病原体は寄生虫,原虫など比較的大きなものからウイルスまで数十種類に及ぶというが,日常的に遭遇するものは20種類程度である.
また,1999年に制定された感染症新法には,性感染症として表記されたものは全数把握の梅毒と定点把握の性器クラミジア感染症,淋菌感染症,性器ヘルペス,尖圭コンジローマの4種を合わせて5種類が挙げられている.誌面の都合でこの5種について概述する.
社会生活の変化とともに外傷も高エネルギーによるものが多くなってきた.ここでは四肢損傷の治療について述べるが,出血などしている場合四肢にばかり目が行き過ぎて頭部,腹部損傷を見逃すことのないようにしなければならない.まず,生命予後を考え,次に機能予後について検討するのが妥当である.
足関節の捻挫は日常よく遭遇する外傷であり,ややもすると安易に治療され,捻挫を繰り返すことになり,将来,変形性関節症に発展することがある.足関節の捻挫の中で外側靱帯損傷はその解剖学的脆弱性のため生じやすく,足関節の捻挫の90%以上を占める.受傷機転は段差を踏み外したりスポーツ活動時に人の足の上に着地したりして,足関節を内側にひねる,すなわち内がえし(内反・内転・尖足位)を強制されることである.外側靱帯の中でまず前距腓靱帯が断裂し,外力が大きいと踵腓靱帯が断裂する(図1).後距腓靱帯が断裂することは少ない.重症度は損傷の程度により,靱帯線維の小損傷(Ⅰ度),靱帯の部分断裂(Ⅱ度),靱帯の完全断裂(Ⅲ度)に分類される.合併症としては裂離骨折,軟骨損傷がある.臨床症状としては腫脹,疼痛,圧痛,皮下出血,動揺性,立位障害,歩行障害などがあり,重症度に応じてその程度は強くなる.
アキレス腱皮下断裂はスポーツなどで瞬時に強大な筋収縮が作用することにより生じる.他に慢性炎症の結果として起こる病的断裂がある.
膝関節は荷重関節であり,靱帯や半月などの関節内軟部組織が発達している.これら組織はスポーツによる損傷,また加齢による変性損傷を生じやすく,適切な治療が行われない場合機能障害の残存,変形性関節症を惹起するので,十分に留意して診断・治療をすべきである1)膝関節靱帯には主に前十字靱帯,後十字靱帯,内側側副靱帯,外側側副靱帯の4つがある.本稿ではこれら靱帯の診断・治療について述べる.
下肢静脈瘤は軽症も含めると成人の約30~50%に発症するといわれ,よく見られる疾患のひとつである.主に妊娠,出産や長時間の立ち仕事が誘因となる.女性に多いが,男性にも少なからず認められるので注意が必要である.
本疾患の成因は静脈弁不全による逆流防止機構の破綻により,その末梢側の静脈が拡張し,静脈瘤を形成することである.このように表在静脈である伏在静脈の弁不全が原因により生じたものを伏在型という.その大部分は大伏在静脈由来で,小伏在静脈由来は少ない.この他に側枝型や網目状,クモの巣状といった形態的な分類がある.これらの肉眼的鑑別は比較的容易であるが,瘤形成が小さいと伏在型と側枝型の区別がつきにくい場合があり,注意が必要である.
下腿潰瘍は患者自身の苦悩も多く,病態は多彩であり,治療法を簡単に決定することが困難である.日頃遭遇する下腿潰瘍の大半は血管障害性皮膚潰瘍で,そのほとんどは静脈うっ滞性で,虚血性潰瘍の割合は少ないとされている.長期間自己管理され,感染を伴っている場合もある.下腿潰瘍は静脈圧上昇,あるいは虚血障害などによる皮膚組織の循環不全が主体となり,壊死組織の脱落した状態である.末梢に好発し,趾尖・踵・外果・腓腹部などに多い.したがって,局所の循環不全を改善することが治療となる.最近,高齢者や糖尿病患者の増加に伴い,外来での下腿浮腫,色素沈着など潰瘍予備状態の症例も多く,潰瘍出現以前に治療が開始されることが望ましい.
頻度
肘関節周辺の骨折は小児骨折のなかでも頻度が高い骨折の1つである.発生頻度では上腕骨顆上骨折の発生が最も多く,ついで上腕骨外顆骨折,尺骨近位部骨折,橈骨頭・頸部骨折,上腕骨内上顆骨折,肘関節脱臼・脱臼骨折などである.過去25年間に当科で治療を行った14歳以下の肘関節周辺骨折626例の内訳では,上腕骨顆上骨折53.4%,上腕骨外顆骨折20.1%で,両者が全体の約3/4を占めていた.以下尺骨近位部骨折8.9%,橈骨頭・頸部骨折4.8%,肘関節脱臼・脱臼骨折4.5%で,上腕骨遠位骨端離開,上腕骨内顆骨折はきわめて稀な発生であった(図1).
肘関節において上腕骨の外上顆・内上顆からはそれぞれ手関節・手指の回外伸筋群,回内屈筋群が起始している.上腕骨外上顆炎・内上顆炎はこれらの腱の付着部炎(enthesopathy)と考えられている.加齢的変化が関与し,多くは中年以降に発症し,若年者における発症は珍しい.テニスにおける発症との関連からテニス肘と呼称されているが,必ずしもテニスに特有の疾患ではない.テニス以外のスポーツ従事者,労働者のほか,家庭の主婦にも多く発症するきわめて一般的な疾患である.頻度的には外上顆炎が圧倒的に多く,内上顆炎は比較的稀である.
以下,外上顆炎を中心に述べる.外上顆炎の病態はなお不明な点が多いが,難治例の手術において短橈側手根伸筋腱の付着部に変性や断裂が認められる1~3)ことと,grip動作時に手関節伸筋・総指伸筋が手関節のstabilizerとして作動することが確かめられており4),繰り返す強いgrip動作によって手関節伸筋・手指伸筋腱起始部に強い牽引力が加わって生じる変化が本症を引き起こすものと考えられる.
手指の切創や挫創などは日常診療にて非常に多くみられる外傷であるが,時に神経や腱の損傷を伴うことがあり,見過ごすと後に機能障害を残すこととなる.初診時に適切な診断と処置を行うのが重要である.
突き指は指の先端を物にぶつける,あるいは物が指の先端にぶつかることにより生じる外傷の総称である.指の先端から基部に向かう長軸方向の圧迫力と,同時に加わる側方偏位,過伸展や過屈曲の強制により腱損傷,靱帯損傷,掌側板損傷や骨折が単独あるいは各種の組み合わせで起こる.DIP関節では槌指(伸筋腱損傷と骨折),PIP関節では背側脱臼骨折と側副靱帯損傷,母指MP関節では側副靱帯損傷の頻度が高い.軽微な外傷と考えられがちであるが,放置した場合あるは不適切な治療を受けた場合に生じる障害は必ずしも軽微ではない.その治療にあたっては指の機能解剖を熟知している必要があり,整形外科(手の外科)に治療を委ねるべきである.
ドケルバン病は日常診療でよく診る腱しょう炎の1つである.腱しょうは腱の滑動機構を構成するもので,その炎症は腱の正常な滑動を障害し,疼痛や可動制限をきたす.
40~50歳代を中心とした女性に多い.原因は明らかでないが,繰り返される機械的刺激以外にホルモンなど代謝内分泌系の異常が関与している可能性もある.
ドケルバン病は伸筋腱第一区画の狭窄性腱しょう炎であり,通常長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の2腱が走行しているが,前者は破格が多く,2~3本の副腱が走行していることがあるので注意を要する(図1).
病態
手指掌側の屈筋腱腱しょうは指の屈曲・伸展運動の際に屈筋腱を骨から浮き上がらせないようにし,かつその効率をよくする働きをしている.構造上の特徴からその靱帯性腱しょうは滑車(pulley)とも呼ばれる.手指の繰り返し動作や機械的な摩擦刺激による炎症により最も近位にある靱帯性腱しょう(A1 pulley)(図1)に浮腫や線維化が惹起されて狭窄し,屈筋腱の疲労現象として滑走障害が生じる.
その基盤にはホルモンを含む体質的な素因や,局所の退行変性があると考えられているが明らかではない.通常は1指または2指に出現するが,多数指に及ぶ場合は慢性関節リウマチ,痛風や糖尿病が素因として関与していることがある.
手指は労働災害やスポーツ活動などで外傷に遭う機会が多く,指骨骨折は日常診療において遭遇する頻度の高い疾患である.その受傷程度は開放骨折や爪の損傷を伴うものなど多岐にわたるが,初期の治療において適切な診断・治療を行い,手指の機能に重大な影響を残さないようにすることが必要である.
安全対策の向上により労働災害による切断指症例は減少している.しかし指末節切断を含む指尖部損傷は労働災害のみならず日常でも発生し,必ずしも減少傾向にはない.
その原因のいかんにかかわらず,凝血塊や血液が皮下に溜まった状態を皮下血腫という.
通常言われている皮下血腫は打撲など外傷により鈍的外力が加えられ,皮下の軟部組織損傷と血管の破綻により出血し生じたものを言う.
しかし外傷以外,外科医にとって問題となる皮下血腫は,
1 術後皮下血腫
2 穿刺などの処置後
3 血友病などの血液疾患が基礎疾患にある場合
4 ヘパリン投与などの抗凝固療法が行われている場合
などである.
疾患の定義
鈍的外傷により爪床部損傷が起こり,生じた血液が爪,末節骨,厚い皮膚で囲まれた爪甲と爪床間の閉鎖腔(爪下腔)に貯留した状態をいう.
疾患の概要
指尖部の化膿性炎症がひよう疽で,爪周囲炎とは異なる疾患である.指尖部は刺創や切創などの外傷を受けやすく,細菌感染が起こるとその解剖学的特殊性から独特な経過をとり,治療法の選択を誤ると重篤な状態に進行することがあり,注意を要する.
指尖部掌側は皮膚は厚く,かつ未節骨から皮膚面には縦に張る強靱な結合織が存在し,これにより脂肪組織を含む多数の小囊が形成される.その間には微細な血管網および知覚神経が密集している(図1).このため指先は知覚が鋭敏でかつ皮膚移動が少なく,つまみ動作などの細かな動作が可能となっている.
指尖部の炎症が小囊内脂肪組織に広がると小囊内圧は上昇し,密集した知覚神経を刺激するため,他の部位の炎症と比べ疼痛が激烈となる.
疾患の概念と診断
爪周囲の化膿性炎症であり,深爪や嵌入爪による爪溝(図1)の感染や,棘や針,ささくれなどによる爪郭(図1)の小外傷,皮膚炎,靴ずれなどによって起こる.ひょう疽(felon)も爪囲炎(paronychia)とほぼ同義に用いられることがあるが,厳密に言えば爪囲炎は炎症が爪周囲に限局し,掌側にまで及んでいないものをいう.診断は爪囲の発赤,腫脹,圧痛,自発痛,過剰肉芽,爪の浮動性などより容易である.
陥入爪の概念
陥入爪は日常外来でよく遭遇する疾患で,不適切な処置や手術により治癒が遷延し,患者のQOLを著しく低下させている.陥入爪の病因は,1)不適合な靴の着用,2)不適切な爪切り・抜爪,3)遺伝性,4)白癬菌などの感染症,5)薬剤性(エトレチナートなど),6)末梢循環障害,7)栄養不良状態などが指摘されてきている1).陥入爪は側爪郭の組織を接地面から押し上げ,爪甲が側爪郭の組織に食い込み発生する.
ガングリオンは日常の外来診療で遭遇する比較的頻度の高い四肢軟部腫瘍の1つである.関節包,靱帯,腱しょう,骨膜などから発生する囊腫性腫瘍であり,囊腫内は透明で淡黄色を呈するゼリー様の粘度の高い内容物で満たされている.手関節周囲に好発するが,指屈筋腱腱しょう,肘関節や膝関節周囲,足趾などからも発生する.肘部尺骨神経管周囲,Guyon管内,腓骨小頭周囲などに発生した場合は末梢神経を圧迫して麻痺症状を示す,いわゆるentrapment neuropathyを呈する.稀ではあるが,骨内や神経内に発生する症例もみられる.
本稿では,日常経験することが多い手周囲のカングリオンについて述べる.
指輪をはめている指が指の損傷(骨折,裂傷,挫創,咬傷)により腫脹すると指輪が皮膚にくい込んだ状態となり,静脈系やリンパ系を圧迫することで腫脹がさらに増悪され,指輪が一層抜去できなくなる.放置しておくと動脈系まで圧迫され,最悪の場合には指の壊死にもなりかねない状態となるため,早期の抜去が必要となる.
爪の下に生じる骨腫瘍で,組織学的には良性の腫瘍である1,2).10歳から20歳代の若年者に好発し,女性に多い.手足の末節骨,特に第1趾末節骨背側に生じやすく,単発例が大多数である.発生部位が特異なため,爪の変形や歩行時の疼痛を主訴として来院することが多い.なお腫瘤の大きさと症状の強さとは必ずしも一致せず,足趾末端では小さな腫瘤でも強い圧痛を訴える例がある.
外反母趾とは母趾のMTP関節部で第1基節骨が外転・内旋することによりMTP関節周囲に疼痛を生じる疾患である.これと同時に第1中足骨が脛側屈して第1・2中足骨の開角が増大しており,母趾は足の軸に対して内転しているが,体軸に対しては外反していることになる.第1中足骨頭は突き出し,滑液包(bunion)を作り,靴などによる機械的・慢性的圧迫のため炎症を起こし,疼痛をきたす.女性に多く,家族歴を証明する例が多い.近年著しく増加しており,特に若い女性と履物との関係が注目されている.また関節リウマチや進行性骨化性筋炎などの合併症としての本症もよく知られている.
皮膚科では通常疣贅(ゆうぜい,いぼ)というとヒトパピローマウイルスによるウイルス性疣贅(尋常性疣贅)を指す.しかし“いぼ”という用語は皮膚から隆起した小腫瘍という意味で用いられることも多いため,実際には様々な疾患が“いぼ”と呼ばれている.本稿ではそのような様々な“いぼ”の鑑別と治療法について概説する.
立位で歩行すると足には荷重負荷が加わる.地面との接点となる皮膚に繰り返し機械的刺激が加わると,防御反応として皮膚は肥厚,つまり角質の増殖をきたす.限局した角質増殖をきたす疾患として胼胝腫,鶏眼があげられる.
胼胝腫,鶏眼は足底に発生することがほとんどであるが,履物や歩行姿勢,骨の変形の影響を受け,足側縁,足趾にも生じうる.また足背には俗に「座りだこ」といわれる正座位での機械的刺激による角質増殖をきたす.「ペンだこ」「勉強だこ」は筆記具で長時間手指に力が加わることにより生じる角質増殖である.職業,趣味,習慣などによっては手掌,肘頭,膝蓋,口唇にも生じうる.
伏針(retained needles)とは縫い針などの鋭利な物が体表から皮下組織,筋肉,関節内などに迷入した状態をいう.
皮下異物は日常の診察でしばしば遭遇する外傷で,簡単に摘出できることが多い.しかし,刺入した異物の深さや刺入した異物の種類によっては処置が難渋することもある.特に釣り針は返しの部分があるために抜去法がやや特殊であり,その処置について知っておく必要があると思われる.
咬傷の治療は咬まれる対象によって2つに分かれる.犬,ネコなどの動物咬傷は口腔内細菌の感染治療と,昆虫・爬虫類などの咬傷は毒によるアレルギー症状の治療に区別される.咬傷の90%は犬とネコによる咬傷で,犬は3~18%,ネコは28~80%感染を起こす1).
虫刺されのうち,わが国で問題となるものにはハチ,蚊,ムカデ,クモ,イエダニなどがある.ハチではハチ毒による局所の炎症を起こすが,眼を刺された場合を除けば後遺症を残すことは稀である.アレルギーのあるヒトではアナフィラキシー症状を起こす.蚊アレルギーでは発熱,局所の壊死を起こす.ムカデ咬症は激痛を伴うが,全身症状を伴うことは稀である.有毒クモ咬症は局所潰瘍のほかに頭痛,嘔吐などの全身症状を20%程みる.イエダニは局所そう痒が強いが全身症状は少ない.ハチ刺症を中心に述べる.
重症度
熱傷の重症度は熱傷面積,熱傷深度,合併損傷などを総合して判断する.Artzの重症度基準(表1)1)が広く認められている.
本稿は新鮮熱傷に対する外来治療について述べたものであり,Artzの基準のうちの軽症熱傷,すなわち合併損傷や気道熱傷がなく,Ⅱ度熱傷では体表面積の15%以下,Ⅲ度熱傷では2%以下を対象とした.いずれも外来通院治療で可と思われるものである.
凍傷の発生機序
冷気に接した部分の組織に変性や壊死をきたしたものが凍傷である.その発生には下記の機序が原因となる1).
1 末梢血管の収縮
2 毛細血管壁の変性による血管内水分の血管外漏出と血液粘性の亢進
3 末梢での血栓形成
これらにより末梢循環不全が生じ組織の壊死をきたす.なお全身的に寒冷環境にあって遇発性低体温症になれば全身的な様々な重篤症状が出現することになる.局所的に高度の低体温になれば組織間水分が氷結し,組織間脱水や細胞内脱水を生じ,これも凍傷を重篤化させる原因になる.
毛囊炎,外傷,手術,熱傷などを契機とした隆起性皮膚腫瘤を見ると“ケロイド”と称されることが多い.しかし,このほとんどは誤った認識である.創部の多くは1,2か月で赤く隆起し,いわゆるミミズばれの状態になる.そして,半年から1年が経過すると放置しておいても平坦で白くなっていく.この病変は受傷範囲を越えて増殖することはなく,約99%は肥厚性瘢痕であると言われている.一方,ケロイドは,1 損傷範囲を越えて周囲の健常部に浸潤,増殖する,2 病変が拡大するとともに中心部には治癒傾向を認める,3 数か月や1年が経過しても消退傾向が認められない,4 前胸部,肩部,背部,下腹部,耳介などに好発し,体質が関与する1),などが特徴である.
ケロイドと肥厚性瘢痕は真皮結合織の過剰増生で,創傷治癒機序で再生増殖する血管内皮細胞や線維芽細胞から産生されるTGF-β1やPDGFなどのサイトカインが増加し,結合織の過剰増生の悪循環に陥った状態と考えられている2)が,組織学的に鑑別することは困難である.しかし,治療方針については大きな違いがあるため,慎重な鑑別診断と適切な治療が求められる.
靴まめは比較的軽度な長時間の機械的刺激を繰り返すことにより皮膚表皮と真皮の接合が破綻し,部分的に間隙を形成することで生じる.初期には発赤と疼痛を認めるが,さらに刺激が加わるとその間隙に漿液が溜り,水疱を形成する.
乳幼児の鼠径ヘルニアは小児外科のなかで最も高頻度に見られる疾患であり,小児の1~4%1)に認められる.ほとんどが外鼠径ヘルニアである.
男児の場合胎児期に精巣が後腹膜から陰囊部へ下降する際に同時にこれに沿って腹膜の突起(腹膜しょう状突起)が形成される.女児では同様の現象が卵巣から陰唇へと伸びる円靱帯に沿ってみられる.出生後,しょう状突起が自然閉鎖せずに開存したままであると腹部内臓器が脱出し,鼠径ヘルニアとして症状が発現される.
臍帯の処置
臍帯は出生後約1週間で乾燥脱落し,その断端は生後2週までには上皮で覆われる.まず,臍帯の処置について述べる.出生時に血液などの付着物をアルコールでぬぐいさり,臍皮膚から数cmの部位にプラスチッククランプをかけ,臍帯を切断する.多くの施設では12時間後に残存臍帯のさらに皮膚寄りの部位を絹糸で結紮している.付着した臍帯はアルコール,フラセチンパウダーやサリチル酸亜鉛化澱粉などを塗布して清潔を保ち乾燥脱落せしめる.当院では退院後も70%アルコールによる消毒を臍帯が乾燥脱落するまで続けるように指導している.出生後の処置が徹底されてからは入院中の臍炎の発症率は1%以下まで激減した.
概念
出生後臍帯が脱落する際に臍輪筋膜の閉鎖が不十分であると腸管が脱出し,臍ヘルニアとなる.いわゆる,“でべそ”である.腹膜と皮膚は異常がなく,臍帯ヘルニアとは別の疾患である.臍静脈,臍動脈,尿膜管が閉鎖,退縮する時に通常は横筋筋膜により閉鎖される腹壁に小さな開口部が残ることにより生ずる1,2).生後,数週以内で出現する新生時期によく見られる疾患の1つである.
疾患概念
腸重積症は乳児期に緊急処置を要する頻度の高い代表的疾患である.タイムリーに治療すれば全く問題なく経過するが,診断が遅れると敗血症から致死的になることもあり,決して見逃してはいけない.発生頻度は1,000人に2~4人,男女比は男:女=3:2で,生後5~10か月の離乳期前後に発症することが多い.風邪症状に引き続いて発症し,腸管のリンパ組織であるパイエル板が肥厚して先進部となり,重積により循環障害を生じる.約5%はその他の器質的疾患(メッケル憩室,ポリープ,腸管重複症)が先進部になる.3歳以上の腸重積では小腸の悪性リンパ腫を含め,これらの器質的疾患を考慮する必要がある.
消化管異物とは食物ではないものを飲み込み,それが消化管内に存在している状態で,小児医療の現場では頻繁に遭遇する.好発年齢は6か月から4歳前後1)で,多くは誤飲を主訴として来院するが,腸閉塞や消化管穿孔によって発見されることもある.
ほとんどの消化管異物は自然排泄されるが,異物が存在する部位や誤飲したものによっては早期の対応を必要とすることもあり,注意が必要である.
胃幽門部輪状筋の過形成様肥厚による幽門部の狭窄である.幽門筋肥厚の原因は不明であるが,弱い家族性が認められる.男児に多い.筋層肥厚は出生時には認められず,出生後に肥厚が起こり,その後数か月で自然に軽快する.頻度は比較的高い(約2,000人に1人).
肛門周囲膿瘍・痔瘻の疾患概念
肛門部の急性化膿性炎症により膿瘍が貯留した状態が肛門周囲膿瘍,自潰排膿し,瘻孔が形成されたものが痔瘻である.肛門周囲膿瘍の約20~50%が痔瘻になるとされる1,2).外来を受診する乳児の肛門疾患として最も頻度が高い.そのほとんどが男児で生後6か月までの発症が多い.膿瘍の貯留や瘻孔の開口部は肛門の側方に多く,数個が同時に発生することもある.膿瘍の貯留部位を圧迫すると肛門内の肛門小窩(anal crypt)から排膿されることから肛門小窩に形成された膿瘍から発生すると考えられている3).原発口と思われる肛門小窩は周囲のものより深いことが多いので先天的な要因が原因とする報告がある2).またほとんどが男児であるためホルモン関与を指摘する論文もある4).女児での発生は男児に比べると極端に少ないが,男児が側方に多く発生するのに比べ12時方向,特に腟前庭部や陰唇に開口し,先天性のperineal canalとの鑑別が困難である.
正常児での排便回数は生後1週間以内では1日平均4回,4歳までは平均1日1回で全体の96%は週3回以上といわれている.便秘症の定義は難しいが,一般的には排便活動が週に2回以下の場合やそれ以上の排便があっても排便に伴う腹痛,著明な便の貯留とそれによる便汚染がみられる場合は慢性便秘と考えて良い.便秘症は小児科外来受診者の0.3~8%を占めており,このうち器質的疾患によるものは約5%で,残り95%は機能的なものと考えられている.
小児のリンパ節とリンパ節膿瘍の概念
リンパ節は免疫系の一部であり,侵入してきた病原体に反応して腫大し,抗体を産生して感染を防御する.小児では新たな病原体に常に曝されているため,常に腫脹しうる.腫大したリンパ節は2,3週で縮小するとされるが,1cm未満のものが数か月にわたって触れることもある.2,3cm以上に腫脹し続けるのは異常であり,鑑別を要する.感染の結果リンパ節内に膿瘍腔を形成したものがリンパ節膿瘍である.化膿性リンパ節炎,Mycobacteriumリンパ節炎,猫ひっかき病などが膿瘍をきたす.
停留精巣(undescended testis),潜伏精巣(cryptorchidism)とは精巣が陰囊内に下降していない状態をいう.胎生期の精巣下降はさまざまな機械的因子とホルモン因子との相互作用によると考えられるが,詳細なメカニズムはまだ明らかにされていない.
急性中毒とは化学物質が吸入経皮的曝露などによって体内に入って生じる病態である.医薬品などの常用量以下での異常反応や細菌性食中毒,薬物依存は含まない.中毒を起こす可能性のある化学物質は6万種類あると言われ,これらを用いた商品は数十万種類にのぼる.起因物質により症状,治療は異なるが,基本的な診断,治療に対する考え方は共通している1).ここでは経口摂取による急性中毒を中心に述べる.
わが国における細菌性赤痢や腸チフス・パラチフスといった消化器系の感染症は患者・保菌者に対する感染源対策の徹底,上下水道の整備など衛生環境の改善などに伴い近年激減した.しかし,食品衛生上のいわゆる食中毒の発生状況には一向に改善の兆しが見られない.また,ボツリヌス症が危機的感染症という意味で,バイオテロリズムとしての生物兵器として用いられることが危惧されており,食中毒一般の疫学的知識,情報の重要性を認識することが臨床の場でさらに必要となってきている.
妊婦の性器出血の原因は表1に示すような様々なものがあり,妊娠週数によって異なるが,妊娠週数と関係なく出血の原因となるものもある.妊婦が性器出血を主訴に受診した場合,妊娠週数,外出血の程度,腹痛,腹部緊満感の有無を問診し,バイタルサインをチェックする.診断は内診,超音波断層法,尿中hCG検査などによる.
目的と機能
ストーマ外来とはストーマ保有者のストーマおよびストーマ関連疾患の診断と治療を行い,ストーマ保有患者の局所管理,合併症,日常生活上の問題点,精神的サポートなどの援助を継続的・長期的にサポートする専門外来である(図).
対象は消化器ストーマ,尿路ストーマを有する患者が基本であるが,皮膚潰瘍,創傷,褥瘡を有する患者に対するスキンケアや指導を多く行うようになっている.ストーマ専門医師,WOC看護師,ET看護師が配置されていることが望ましく,褥瘡対策チームの中核的位置にもあたる.
1型糖尿病のみならず,2型糖尿病の患者においても良好な血糖コントロールの実現にインスリン注射療法を要する患者が多数存在する(表1).良好な血糖コントロールは創傷治癒の促進や感染予防だけでなく,手術成績・予後の改善にも関係するので,退院後も自己管理を継続していくことは重要である.
CAPD(continuous ambulatory peritoneal dia-lysis)療法は腹膜という生体膜を用いて行う透析療法で,患者が家庭などにおいて1.5~2lの腹膜透析液を腹腔内に注・排液するバッグ交換を4~6回/日行う.CAPDの指導は患者が自己管理できるようにすることが肝要である.
在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)は本邦では1984年の健康保険適用以来,現在約12万人の患者に実施されていると推計される(米国では100万人超).本法の医学的根拠は1980年代の英米での2研究1,2)により,低酸素血症(PaO2≦55mmHg)をきたした慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の生存期間を延長したことに始まる.その後,様々な疾患による慢性呼吸不全症例に広く臨床応用されているが,有用性のエビデンスは必ずしもすべて確立しているわけではない.最近の知見では安静時低酸素血症がない(PaO2>55 torr)患者3)や,労作時4),睡眠時5)のみの低酸素血症を示す患者への長期の生命予後を改善する証拠は今のところ乏しい.よって,在宅酸素療法の実施にあたってはその意義と限界を十分念頭においた適応患者の選択が必要となる.