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はじめに
2019年末の慢性透析療法を受けている患者数は34万人を超え,わが国では,透析はすでに特殊な治療ではなくなっている感がある。しかし,今日の透析医療に至るまでには,多くの先人達の英知とたゆまぬ努力により発展してきた長い歴史が存在する。
1976年4月にサンフランシスコで開催された米国人工臓器学会(American Society for Artificial Internal Organs:ASAIO)の抄録集に「The definition of novel portable/wearable equilibrium peritoneal dialysis technique」という演題が,Popovich,Moncriefら1)により発表された。その抄録の内容は,2Lの透析液を1日5回交換することで尿素窒素やクレアチニンなどの除去が可能であったとし,equilibrium peritoneal dialysisと称したが,これが連続携行式腹膜灌流(continuous ambulatory peritoneal dialysis:CAPD)の最初の考案とされている。その後も,今日まで数多くの革新的な技術開発により,腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)療法は,血液透析(hemodialysis:HD)療法,腎移植とともに末期腎不全医療の3本柱の1つとされて,多くの患者に貢献してきた。しかし,PDの透析液やデバイスなどの改良,基礎的研究ならびに臨床研究の多さに比較して,わが国におけるPDの普及率は3%未満と低迷している。
腎移植は透析療法と並んで末期腎不全の有効な治療手段であり,車の両輪にたとえられ,お互いの進歩には欠かせない治療である。
人工腎臓,腎臓移植とも腎代替療法は高額な治療である。しかし,わが国では現在,患者が医療費の自己負担をあまり気にせずこれら高額な医療を享受することができる。現行,腎代替療法に関する医療費の患者自己負担の補助はさまざまな医療費助成制度が複雑に関連し運用がなされている。具体的には,健康保険,自立支援医療(更生医療),障害者医療費助成制度である。本稿ではこれら諸制度を概説したのち,制度がつくられてきた歴史に触れる。
透析導入の基準として,平成3(1991)年度厚生科学研究腎不全医療研究事業研究により作成された慢性維持透析療法の導入基準(厚生科研基準)1)が,わが国では長年にわたり使用されてきた。表11)に示す通り,血清クレアチニンまたはクレアチニンクリアランスを用いて腎機能の指標とし,腎不全に伴う症状や日常生活への障害度などを評価してこれらを点数化することで透析導入を判定したものである。腎不全の状態を総合的に評価した透析導入は,その後の海外の基準が主に糸球体濾過量(GFR)を基準にするなか,非常に先進的な指標であった。しかし,高齢化の進展により,透析導入患者の平均年齢が上昇し,クレアチニンの値が必ずしも透析導入の基準に適さない患者が増えてきた。また,糖尿病性腎症や腎硬化症を原疾患とするような全身性血管合併症を伴うCKD患者の増加もみられる。こうした背景をもとに,日本透析医学会より2013年にガイドライン2)が発表された。ここでは,現行の2013年版のガイドラインの内容について解説を行う。
腹膜透析ガイドライン20191)に導入の章があり,これに沿った腹膜透析の導入をまずは考えるべきである。本稿ではガイドラインに沿って成人を対象にしてまとめる。
日本の透析患者は年々増加し,2019年末に約34万人になった1)。これは国民の約360人に1人が透析療法を受けている計算になり,世界的には台湾についで第2位である。日本の腎代替療法の選択は約90%が透析療法で,残りの約10%のみが腎移植を選択していることとなり他の先進国と比べて少ない。このようなアンバランスの理由は,献腎移植が少ないこと,腎代替療法の選択に当たり腎移植の選択肢が提示されていないことなどが考えられる。後者は早急に解決すべき問題であり,本稿がその手助けになればと願い,以下,腎移植の特徴,適応について記載した。
腎代替療法の選択についての医師およびコメディカル向けのわかりやすい解説書として,2020年4月に「腎代替療法選択ガイド2020」1)が,日本の腎不全治療にかかわる日本腎臓学会,日本透析医学会,日本腹膜透析医学会,日本臨床腎移植学会,日本小児腎臓病学会の5学会共同で作成されている。同ガイドでは,血液透析のみならず腹膜透析と腎移植について,Q & A形式で幅広い内容が含まれるとともに,随所に小児に関する事項が漏れなく記載されており,小児腎不全にかかわるすべての医療者に有用である。
短期間に腎機能が可逆的不可逆的に低下していく過程で,血清クレアチニン値を1つの指標として数日の経過でクレアチニンクリアランスおよび糸球体濾過量が10mL/min未満となると想定される場合に急性腎障害(acute kidney injury:AKI)に対する腎代替療法が必要となる。そのトレンドをKDIGO分類により早期よりリスクとして捉えやすい(表)1)。さらに図12)でみるとそれがよくわかる。図では腎機能が90%低下した場合の血清クレアチニン値の推移をシミュレーションしている。経時的に血清クレアチニン値が上昇することがわかり,約1週間で血清クレアチニン値は6.8mg/dLになる。読者の皆さんが腎代替療法開始を決定するのは,どの時点だろうか? ここで重要なのは,前提条件として述べたとおり,腎機能はすでに当初よりほぼゼロであることである。このように,ゴールドスタンダードとして治療判断に用いている血清クレアチニン値は遅れて上昇するため,治療が後追いになることがわかるだろう。腎臓は水や電解質のバランス,小分子のみならずサイトカインをはじめとした比較的サイズの大きい分子量のクリアランスも担当している。そのため,例えば水バランスが大きくプラスになってしまう場合には血清クレアチニン値の変化で読み取ることはできないが,腎臓の薬物への反応が早々に期待できないと考えられると腎代替療法を開始することとなる。また,敗血症のようにクレアチニン産生速度が減じることが知られている病態もあり,急性の肝不全や膵炎にAKIが合併していることもある。つまり,腎代替療法を考えるときに血清クレアチニン値による場合と,よらない場合の2つのアプローチをはじめとしてクリニカルシナリオによる判断がある。次に急性血液浄化では,AKIの病因への直接的なアプローチを行う場合がある。つまり,自己免疫疾患や血液疾患などに伴う病的な免疫グロブリンに対する治療やグラム陰性桿菌などによる敗血症性ショックに対する治療がこれに該当している。このようにAKIに対する急性血液浄化療法には,腎代替療法としての持続療法と間欠療法のみならず,アフェレシス療法や免疫吸着療法も入るため簡単に触れることとする。
1991年,米国全州で終末期患者の意思を尊重した延命治療の差し控え・継続中止に関する法律が規定された。1994年には,Hirshらが透析非導入に関する基準を提示し,2000年には,Renal Physicians Association(RPA)とAmerican Society of Nephrologyが「Clinical Practice Guideline Shared Decision-Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis」を公表し,RPAがその診療ガイドラインを2010年に改訂した。
前稿の岡田先生らの「わが国における透析見合わせの考え方と課題」では,わが国の透析非導入の現況が述べられているが,本稿では海外における透析非導入の現状について述べる。まず,conservative kidney management(CKM)の世界の現況について,またその意味合いがそれぞれの国で異なることがあることについて,さらに世界におけるCKMの内容や知見について述べ,その知見の現状において診療指針にどのようなものがあるのかを述べる。
腎代替療法には腎移植と透析療法(血液透析(hemodialysis:HD)と腹膜透析(peritoneal dialysis:PD))がある。年間約40,000例の患者が腎代替療法導入となっているが,わが国の腎移植は年間約1,700例であり,多くの末期腎不全患者は透析療法を継続する必要がある。わが国では,糖尿病や高血圧などの生活習慣病患者の増加,高齢化により,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者数は増加していると推定される。最近では年間約4万人の患者が新規に慢性維持透析療法を導入されており,血液透析が主体となっている。また,わが国では透析療法の進歩により生命予後も向上しており,長期透析歴の患者も増加している。そのため,現在では透析患者の高齢化が進行しており,フレイル対策など新たな課題も指摘されている。
現在,わが国では尿素標準化透析量Kt/Vの下限値を1.2(目標値1.4)として,1回4~5時間・週3回の治療を行う標準透析システムが確立している。これは費用対効果,許容可能な質調整生存年(quality-adjusted life year:QALY値),スタッフの労務負担,廃棄物処理などの環境保全,受療者の病態管理や忍耐可能な治療時間など,さまざまな方面の利害関係において均衡している。つまり現段階では標準透析は実績を伴った持続可能性のある治療形態と考えられる。長時間・頻回透析は特定の患者においてニーズがあり理想的となるが,すべての環境で可能というわけではない。このような制約のある標準透析スケジュールにおいて,尿毒素をいかに効率的に除去し病態を改善するかを追求して,現在のオンライン血液透析濾過(on-line hemodiafiltration:OL-HDF)に到達したといえる。
わが国に1980年初頭に導入された腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は,社会復帰を支援する在宅型の腎代替療法として急速に普及していったが,1990年代半ばころよりPD関連合併症の被囊性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)が多発し,その後の普及は大きく停滞した。しかし,今世紀になり,透析液の改善などの包括的対策によりEPS問題には一定の臨床的解決がもたらされた。一方でこの時期,高齢末期腎不全患者に対するPDのもつ在宅医療の利点が注目されるようになった。かかる状況のなかで,最近の患者中心医療の潮流を背景にPDに再び関心が向けられるようになっている。本稿ではわが国のPD治療の最近の状況と諸課題,それに対するイノベーションについて述べる。
医療の進歩とともに腎移植の成績は年々向上し,その適応も広がり,増加の一途を辿っている。世界でもトップクラスのわが国の透析医療ではあるが,さまざまな要因から腎提供さえあれば腎移植を腎代替療法として選択する患者は年々増加している。特に透析医療を経ないで腎移植を選択する先行的腎移植(preemptive kidney transplantation:PEKT)は移植全体の40%を超えている。その一方で,時代的背景から糖尿病性腎症の腎移植希望患者や,高齢化も進み,ハイリスクな高齢者間の腎移植も増加傾向にある。特に高齢者レシピエントのみならず,高齢者ドナーの管理とフォローも問題となっている。本稿では日本の腎移植にスポットを当て,現状と問題点について今一度整理する。
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の原因は多岐にわたるが,AKIにて急性血液浄化を考慮・必要とする場面の多くは集中治療領域である。集中治療室でのAKI発症率は30~40%で,その多くは敗血症,心臓外科手術後,心不全が原因であると報告されている1)。このAKIという症候群は多臓器不全症候群(detall of reference example:MODS)の1つの徴候であり,AKIの重症度が高度になるにつれ死亡率が上昇する2),特に腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)を行ったAKI患者の予後は不良である3)。RRTにて無事に生還することができても,入院中に生じたAKIは慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)に移行し,その後の予後にも影響が生ずる4)。このようなことから,AKIは重要な予後規定因子であると認知されるようになった。
患者報告型アウトカム(patient-reported outcome:PRO)とは,狭い範囲で説明するならば,患者自身によって直接評価された,あらゆる健康状態のことを指す1)。透析患者にみられるPROの例として,かゆみ・痛み・倦怠感などの日々の症状や,抑うつのように週から月単位で捉えられる精神的傾向,500メートル歩けるかなどの生活機能,全般的な健康感などが挙げられる。当然,PROは主観的である。しかし,患者に代わって医療者がPROの程度を量で把握したり,適切に比較したりするために,PROは自己記入式のアンケートによって評価されることが多い。PROを測定するツールを,患者報告型アウトカム指標(patient-reported outcome measure:PROM)と呼ぶ2)。
人工腎臓の臨床使用はWilliam Kolffの開発による。彼は1930年代にオランダで最初のKolff式ロタリードラム人工腎臓を開発していたが第二次世界大戦のため米国に移住し1943年から1944年にかけて15例の尿毒症患者を治療し,急性腎不全の1例の救命を得たのが始まりである。その後,1960年代にシアトルWashington大学のBelding Scribnerらが外シャントを開発し安定した慢性血液透析が開始された。
現在,世界では300万人余りの患者が血液透析療法(血液透析濾過療法(hemodiafiltration:HDF),血液濾過療法(hemofiltration:HF)を含む)および腹膜透析療法の腎代替療法を受けていると報告されている。そのうち,HD療法(HDF,HFを含む)により治療されている患者の割合は89%にのぼると報告されている1)。また,わが国においてもHD療法(HDF,HFを含む)治療モードにて管理されている患者の割合は97%以上となっている2)。このようにHD療法が慢性腎不全患者の腎代替療法の大部分を占めることは,まぎれもない現実である。HDF療法はHD療法をmodifyしたものと考えられ,一部の研究者らはHD療法の進化形と表現している場合もあるが1),本療法を中心に現状と問題点について概説させていただく。
2020年に開始されたKidney360 Global Dialysis Perspectiveシリーズは,世界中のさまざまな国で透析がどのように実施され,提供され,資金提供されているかを報告している。そこでは現在の世界各地での透析状況が詳細に示されている1)。その報告によれば,世界的に,人口100万人当たりの末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)の有病率(人口100万人当たりの患者数)は,2003年から2016年にかけて着実に増加しており2),最も増加率の高い国々は特に中低所得国である3)。透析医療費は高額であるため,現在なお低所得国では透析への医療費使用が制限されている。具体的に2010年の各国の透析の有病率は,高所得国では100万人当たり1,176人,高中所得国で100万人当たり688人,一方,中低所得国で100万人当たり170人,低所得国で100万人当たり16人であった3)。世界的に腎代替療法の最も一般的に行われているのは透析療法(78%)であり,透析を受けている患者のうち,腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)を受けているのはわずか11%であった4)。これまでにも国民総所得とPDの使用の程度との間には相関関係認められないことが報告されている(図1)1)。1人当たりの国民総所得(GNI)が40,000ドル以上の国(高所得国)のなかで,PDを受けている患者の割合は,カナダ5)とオーストラリア6)で最高の25%から日本7)の最低3%までの範囲であった。同様に,ほとんどの低所得国(1人当たりGNI,10,000ドル以下)ではPDの利用率が10%程度であるが,この低所得カテゴリのなかで3カ国(メキシコ,グアテマラ,タイ)ではPDを28~59%使用している。一方,他の低所得の国でPDの使用が少ない理由の1つは,腎臓内科の研修生に対するPDのトレーニングが継続的に不足していることが報告されている。一方,PD比率の高い国々では,多くは国の政策によることが報告されている。
腎移植は透析療法と比較して生命予後,生活の質が良好であること,また,医療費削減効果が高いことから最も理想的な腎代替療法であると考えられている。しかしながら,腎移植を取り巻く環境は各国で異なり,献腎移植,生体腎移植の割合はさまざまである。また,2019年12月の初めに中国,武漢市にて新型コロナウイルス(SARS-CoV2)感染症(COVID-19)が報告され,2021年3月11日には世界保健機関(WHO)よりCOVID-19はパンデミックの状態にあると表明された。COVID-19パンデミックによって世界的に固形臓器移植件数が減少し,臓器移植待機患者には多大なる負の影響をもたらし,特に,世界的に移植件数の最も多い腎移植が多大な影響を受けたと推察される。本稿ではCOVID-19前の世界における腎移植の現状を報告し,COVID-19パンデミックが起こってからの世界における臓器移植の状況について腎移植を中心に詳述する。
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)はICU管理を必要とするなどの重症患者に発生することが多く,その基礎疾患にかかわらずAKIの有無が独立した予後規定因子となる。また,2019年に発生したCOVID-19は,AKIを始めとした多様な合併症を引き起こし重症化することが報告されている。AKIが発生した場合に腎代替療法としての血液浄化療法(kidney replacement therapy:KRT)を要することも少なくないが,わが国でのKRT施行の実際と海外での方法は異なるところも多い。
緩和ケアは癌患者をおもな対象として進展してきたが,現代では腎臓病を含めた慢性臓器不全や神経難病など,癌か非癌かを問わず,その重要性が認識されている。
超高齢社会の到来を迎え老年人口の増加は今後も継続し,2025年には高齢化率は30%を超えると予想されている。平均寿命と日常生活に制限のない健康寿命との差(不健康期間)は男性で9年以上,女性で12年以上あり,その差は今も拡大傾向にある。健康寿命の延伸により個人における生活の質低下防止とともに社会保障負担の軽減も期待できる。腎不全診療においても,高齢化は顕著であり,末期腎不全に至った際の腎不全治療法選択にあたって,従来の血液透析,腹膜透析,腎移植という選択に加えて,透析非導入という,保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)が注目されるようになった。本稿では,CKMにおいて,いかなる腎保護療法を実施するか,どのような食事療法を実践すべきかについて記す。具体的には,人生の最終段階に至った患者において,腎代替療法は選択しないで,それ以外の治療・ケアを勧める際の診療を対象としている。その内容としては,通常の保存期腎不全治療と大きく異なるところはなく,末期腎不全への進展,重症合併症阻止,QOLの維持・向上のための指針提示を目標としている。しかしながら,人生の最終段階に至った患者を対象とした臨床研究(特にQOLを指標としたもの)が限定的であるだけでなく,そもそも個々人の多様性がより大きいことから,個別化医療(personalized medicine)実践を重視した柔軟かつ細やかな対応が求められる。
増加の一途をたどる慢性透析患者は,国民全体と同様に高齢化してきている。透析を行いながら人生の最終段階を迎える患者だけでなく,透析への非導入や透析の中止を選択する患者も,米国のように,今後増加する可能性が考えられる。
わが国では透析患者の高齢化が進み,現在65歳以上の患者が69.1%を占め,75歳以上が36.9%いる状態である。また,透析導入患者が増加している割合が最も高い年齢層は男性が70~74歳で,女性は80~84歳である1)。高齢者が多くなると,腎不全以外の病気をもつ患者が増加し,透析で尿毒症を改善するだけでは不十分であり,平均余命も短くなる。透析患者の平均余命は,2005年末に発表された日本透析医学会報告では表12)のように,一般人口の平均余命の約半分とされている3)が,今日ではより透析技術も向上しており,平均余命はよくなっていると推測される。2011年のDOPPSの報告では75歳以上の平均余命は5.4歳であった。また,高齢者では透析治療自体が患者の負担となっている症例もあると考えられる。そこで透析を行わずに亡くなった患者と透析を行った患者で比較すると,生存した期間は透析を行った患者のほうが2年近く長生きしたが,通院にかかった時間や入院した時間を除き患者自身が自由に使える時間を比較するとほぼ同様であったとの報告4)があった。また,米国ナーシングホームに入居者中の75歳以上の患者の日常生活動作(ADL)は透析導入3カ月前から低下して,1年後に同等のADLを維持できたのは13%で,58%が死亡していたとの報告5)もある。高齢者にとって大事なことは,長く生きることよりも自立性を保てることと現在維持している生活の質(QOL)を保つことだとされる。このような事実から今後高齢患者は必ずしも透析療法を選択しない可能性がでてくる6)。しかしながら腎不全患者に透析をしないことは死期に近づくこととなり,緩和ケアが必要となる。
「緩和ケア」を考えるに当たり,外来語「ケア」の含意を確認しておきたい。careの語源は,「心配,悲しみ」を意味する古英語caru,cearuから,「心配」という意味のゲルマン祖語karo-,さらには「叫ぶ,悲しみ叫ぶ」という意味の印欧祖語gar-まで遡る1)。
血液透析などの血液浄化療法では,患者血液を体外に取り出し膜分離(透析,濾過)や吸着といった分離技術を利用して体内不要物質(病因物質)の除去や体液の調整を図る。ここでは,これら分離に利用されている原理(拡散,濾過,吸着)を中心に述べる。
血液透析(hemodialysis:HD)の臨床が始まった20世紀前半1),透析膜には治療を無事に終えるために必要な機械的強度が第一に求められた。1971年には中分子量物質の除去の必要性が指摘されたが2),この時代の透析膜は溶質透過性が低く,小分子物質でさえ十分に除去することができなかった。その後,さまざまな素材,構造の膜が設計できるようになったことで,薄膜化や大孔径化による透水性および溶質透過性の改良が行われた。現在では,ハイパフォーマンスメンブレンを用いた血液透析や血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF)によって,かつては中分子や大分子とされていた分子量数千から一万以上の溶質でさえ,高効率での除去が可能となった。本稿では,血液浄化膜の物理化学的構造と透過特性について概説する。
透析療法が始められた当初の透析器の形状はコイル型が主流であり,その後に積層(平板)型となり,現在では中空糸型が主流となっている。透析療法も血液透析(hemodialysis:HD),血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF),血液濾過(hemofiltration:HF)があり,使用される血液浄化器も透析器,透析濾過器,濾過器となっている。これらの透析療法と血液浄化器の特徴を理解し,各患者の病態に合わせて選択使用することが重要である。本稿においては,透析器・透析濾過器・濾過器の構造,種類と特徴,分類について簡潔に解説する。
血液透析,血液透析濾過においては個人用透析装置を用いた個人用透析液によるテーラーメイド透析が理想である。しかしわが国の血液透析は中央透析液供給システム(Central Dialysis fluid Delivery System:CDDS)が大部分を占めており,このシステムこそが,わが国の血液透析の普及や患者の生命予後の改善に大きく寄与してきた。そのため市販の透析液組成はCDDSに対応するために,テーラーメイドとはほど遠い透析患者の最大公約数のニーズに合うように設定されている。つまり各施設は限られた市販透析液のなかから1~2種類の透析液をあらかじめ選択し,その組成に合わせた治療戦術をとらざるを得ない。例えば,透析液カルシウム(Ca)濃度の違いにより施設ごとのCKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)治療のコンセプトが異なっているのが現状である。透析液の組成は,その時々の透析医療のニーズに合わせながら柔軟に変化してきた。本稿では,これからの時代のニーズに合った透析液組成について考察する。
血液浄化療法は,血液透析療法(hemodialysis:HD)に代表される治療法で,わが国では増加の一途をたどっている1)。本治療法を体外循環法にて実施する場合,血液が血液循環回路やダイアライザなどの人工的異物と接触するため,血液の凝固作用が亢進する。そのため,治療を行う際には血液に対する抗凝固処置が必要不可欠となる。
血液透析(hemodialysis:HD),血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF)に限らず安定した加療を行うには脱返血の良好な血管アクセス(vascular access:VA)が重要となる。わが国においては自己血管を用いた内シャント(arteriovenous fistula:AVF)が主流である。
透析患者の高齢化,長期透析者の増加,糖尿病性腎症を基礎疾患とする透析患者の増加に伴い,バスキュラーアクセス(vascular access:VA)作製時にグラフトを使用する機会が増えている。本稿では,グラフト移植についての詳細と手術手技について解説する。
上腕動脈表在化とは,透析の際に上腕動脈からの血液採取を安全容易かつ反復施行可能となるよう,観血的手術で動脈の走行位置を変更した心負荷を伴わないバスキュラーアクセス(vascular access:VA)である。
近年患者の高齢化や糖尿病患者の増加,透析期間の長期化などによりカテーテルでの血液透析は増加傾向にある。わが国の慢性透析療法の現況によると,バスキュラーアクセス(vascular access:VA)がカテーテルの患者は2008年末899人であったが1),2017年末には3,734人2)と約4倍の増加がみられている。
バスキュラーアクセス(vascular access:VA)は血液透析や血液透析濾過治療においては生命線であり,VAが十分に管理されていないと,テーラーメイド治療はもちろん,治療そのものが成立しないため,その管理は透析療法において非常に重要な位置を占める。
設定したドライウェイト(dry weight:DW)が適正かどうかは,透析治療の重要事項の1つである。DWは「体液量が適正で,透析中に過度の血圧低下を生じることなく,かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と日本透析医学会ガイドラインで定義されている1)。理想的には降圧薬を使用せずに血圧が正常範囲に管理できる体重であるが,週当たり12~15時間という限られた時間内での除水という条件があるため,実際には過剰な体液の大部分が除去された時点での透析後体重となる。DW設定には,血圧値や理学所見に加えて,以下に述べる検査が有用となる。
近年,米国における適正透析の概念は従来の小分子量溶質除去効率に基づく基準から脱却しようとしている。しかしながら,小分子量物質の溶質除去効率は他の評価軸を考慮したとしても重要であることは変わらない1)。本稿では,2013年の日本透析医学会によるガイドライン2)と以下に記す米国のガイドラインおよびその関連資料に基づいて,主に血液透析における小分子量溶質の透析効率評価について記した。「米国のガイドライン及びその関連資料」とは,米国腎臓財団(National Kidney Foundation:NKF)のKidney Disease Outcomes Quality Initiative(KDOQI)による血液透析ガイドラインの2006年updateと2015年update,そして2019年のChanらによるconference reportである1,3,4)。Chanらのreportはガイドラインではないが,米国ガイドライン改訂の方向性を示唆する資料であるため,これら3つの資料をまとめて「米国ガイドライン」と総称することとした。個々の記述におけるこの3つの参照資料の別については,それぞれに付された引用文献番号を参照いただきたい。2013年の日本透析医学会ガイドライン2)については「わが国のガイドライン」とした。
水処理装置は逆浸透(reverse osmosis:RO)の原理を利用し,原水(水道水・地下水など)から透析用水を精製するための装置で,透析液の希釈をはじめ透析治療のあらゆる工程で使用される非常に重要な装置である。本稿では,セントラル透析液供給システム(CDDS)で使用される水処理装置の基本的な装置構成や管理方法を含め水処理装置全般に関して概説する。
本稿では,透析機器・透析液供給装置の管理と経過について記述をする。日本の透析治療は時間経過とともに患者数も増加してきた。その背景には,慢性透析治療の保険が1968年(昭和42年)・更生医療が1972年(昭和47年)に適用になり,患者の経済的負担が軽減されたことにより,わが国で透析患者数が大幅に増加し,その後2020年度末で347,671人になった(図1)。透析を行うための機器は,それぞれの透析装置に透析液製造装置を備えたいわゆる個人機といわれるものが世界各国の主流である。しかし,日本では個人機が発展するよりも,透析液供給装置で製造された透析液を配管を通してベッドサイドの透析装置に流すセントラル透析液送液システム(central dialysate delivery system:CDDS)が主流となった。2020年日本透析医学会統計調査報告書によると,報告施設数4,437において透析装置数143,772台で,つまり,平均装置台数が32台(1施設の平均患者数78名)であり,1施設当たりの装置台数が年々多くなっている傾向にある。患者,装置台数ともに多くを管理する必要があるため,装置の管理を簡便にするシステムの導入が進んだ=CDDSがわが国で広く普及した結果ともいえよう。ここではわが国において独自に進化したCDDSについて考えてみたい。
透析装置には,多人数用透析液供給装置からの透析液の供給を受けてベッドサイドで治療を施行するための機能を備えた装置と,独立して透析液の作製からベッドサイドでの治療の施行までが可能な個人用透析装置がある。また,血液透析(hemodialysis:HD)の他に血液濾過(hemofiltration:HF)や血液濾過透析(hemodiafiltration:HDF)などの治療も行える多用途透析装置もある。本稿では特別に区別する必要があるときを除いて,これらすべての装置を透析装置と表記する。
透析液清浄化の基準として日本透析医学会より提示されている「2016年版 透析液水質基準」1)がある。また基準を達成するため臨床現場でわかりやすい手順を示した「2016年版 透析液水質基準達成のための手順書」Ver 1.012)が日本臨床工学技士会より公開されている。このなかで透析配管に関する内容のものは以下の部分となる
透析膜の進歩,改良や透析医療の進歩に伴い,透析液は清浄化技術が次々に生み出され,今日では,透析液を置換液に使用するオンライン血液透析濾過が日常的に実施され,大きな成果が得られていることは周知の事実である。しかしながら透析液と比較して透析排水に関しては,これまであまり議論や対策がなされていなかった。透析排水を下水道法などの関連法規に従って環境に安全な排水へ処理することが必須となっている。
透析機器に内蔵されるモニタリングは透析液濃度管理に電極を用いた電導度測定から始まり,物理的なブルドン管を用いた圧力計が半導体圧力センサーへ,バイメタル温度計からサーミスター温度計へと,また血液回路の気泡検知器も光センサーから超音波を用いマイクロバブルまでも検出できる機構へと進歩してきた。
急性血液浄化療法を必要とする患者は腎不全以外の臓器不全状態であることが多く,治療の実施に当たっては,主たる診療科と血液浄化を行う診療科およびこれを支援するための看護師および臨床工学技士などの多職種からなる医療チームを患者ごとに構築することから始まる。このチームのなかで,患者の病状および診療内容などの情報を共有することにより,治療方向性とゴールを決定していくが,急性血液浄化療法を行うに当たっては,施行予定場所での水回りや給排水口の有無,人工呼吸器などの他の医療機器の存在,夜間も含めた連続治療の必要性と人的資源の検討を行ったうえで,持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)あるいは間欠的腎代替療法(intermittent renal replacement therapy:IRRT)などの治療方法を選択し実施に踏み切ることとなる。
急性血液浄化療法における治療はいくつかあるが,それらのいずれも長時間の治療になる点や,治療条件の変更が治療の都度,または治療中にたびたび行われる点から,装置の特性をよく理解し治療にかかわることが重要である。また,治療条件変更に伴い,患者状態のみならず装置の回路圧変化などにも注意しなければならないため,より密な観察が必要である。ここでは治療機器の特徴や治療における注意点について解説を行う。
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)や慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の急性増悪時には血液浄化療法が必要となることが少なくない。その際に選択される血液浄化療法には,持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)または間欠的腎代替療法(intermittent renal replacement therapy:IRRT)がある。CRRTとIRRTを比較したRCT(ランダム化比較試験)やメタ解析からは死亡率に差があることを示したものは存在しない。「AKIに対して血液浄化療法は持続,間欠のどちらを選択すべきか?」という問いに対して,AKI診療ガイドライン20161),日本版敗血症診療ガイドライン2020,KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)ガイドライン2012のいずれにおいても「どちらを選択しても構わない」としている。一方で,循環動態が不安定な症例に対しては,エビデンスに乏しいながらも「CRRTが望ましい」としている。しかし,CRRTは長時間の拘束による患者の負担,24時間監視体制による医療スタッフの負担,施設整備の必要性,長時間の抗凝固薬使用による出血リスクなどデメリットも多い。本稿では急性血液浄化療法におけるCRRTに焦点を絞り,透析器・濾過器および抗凝固薬について解説する。
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は48時間あるいは1週間以内での血清クレアチニン値の上昇あるいは6~24時間での尿量減少で定義される。ICUなどで多臓器不全の一環としての腎障害をみる機会が多い現在,明確なエビデンスのあるAKI治療薬は臨床応用に至っておらず,急性血液浄化療法,特に持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT)が果たす役割は非常に大きい。
本稿では,小児急性血液浄化を「小児ICU(pediatric ICU:PICU)における血液浄化」と規定する。PICUにおける急性血液浄化としては,体外循環式血液浄化(extracorporeal blood purification:EBP)や腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)が行われる。体重30kg以上(9歳程度)であれば,成人と同様なシステムで血液浄化施行可能であるため,本稿では,体重30kg未満を対象とした小児EBPについて解説を加える。
週3回の維持透析患者に対する適切な間欠的血液透析(intermittent hemodialysis:IHD)の評価と処方については,2013年に提示された日本透析医学会の「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」1)では,single pool Kt/V(spKt/V)での透析量の評価が推奨され,血液流量200mL/分以上,最低4時間以上の治療時間,限外濾過量15mL/kg/時間未満とし,最低spKt/V 1.2以上,目標1.4が推奨されている。その後,β2-ミクログロブリン(b2M)を効率的な除去が可能となった血液透析濾過(hemodiafiltration:HDF)が普及し,spKt/V 1.2を達成した患者数は増加し,限外濾過量も減少している2)。本稿では透析量としてのKt/V,管理目標としてのb2M値と透析処方で調整できるパラメーターについて解説する。
在宅血液透析(home hemodialysis:HHD)は,医師の管理のもと,患者が自宅で人工透析を行う治療法であり,自宅に血液透析を行うための機器を設置し,患者自らが,回路組立・穿刺・透析中の状態管理・返血などのすべての手技を行い,血液透析を実施する。
2014年発行の腎と透析vol. 76増刊号では,前田憲徳先生が「短時間頻回透析」のタイトで記述されているので,小著はその後の進展について記載する形で進めていく1)。2015年にKDOQIガイドラインで,用語の整理がされ,従来透析は週3~4回,頻回透析は週5~7回でとされ,さらに治療時間によって,3時間未満が短時間,3~5時間が標準,5時間以上が長時間と定義された2)。わが国では2013年に「維持透析ガイドライン:血液透析処方」において「頻回透析」とは「週当たり5回以上の血液透析をいう」と定義されており3),2019年日本透析医学会の委員会報告として出された「頻回・長時間透析の現状と展望」においても同様の定義となっている4)。2019年のわが国の透析療法の現況においては,週透析回数記載のある全透析患者300,756人の内,週3回透析289,629人(96.3%),週2回以下7,036人(2.3%),3.5回以上4,091人(1.4%)であった。週透析回数と治療方法詳細で検索してみると,施設透析では週3.5回以上1.2%,週3回96.9%,週3回未満1.9%,在宅透析では週3.5回以上83.1%,週3回13.1%,週3回未満3.7%,腹膜透析併用では週3.5回以上0%,週3回0.3%,週3回未満99.7%で,治療方法により透析回数は著しく異なっている。同様の検索で頻回透析の定義通りの週5回以上の透析を行っているのは346人で,そのうちの施設透析は55人(15.9%),在宅透析は291人(84.1%)であった。定義通りの頻回透析を施設で受けている患者はきわめて少なく,大部分は在宅透析で行われている現状である5)。喜田は「いくつかの制約のため,施設で頻回透析を行うには難しい。施設で行えるのは,一日おきの隔日透析または週4回透析までが現実的である」6)と述べている。本特集の前項(p. 270)で,「在宅血液透析」は論じられているので,小著では施設透析にしぼり,「頻回透析」を従来型の「週3回透析より回数の多い透析処方」に拡大して,隔日,週4回透析についても論じることとする。
現状の血液透析治療は,間欠的治療であり,多くの症例は週当たり12時間しか治療されていないため腎機能の代行は不完全である。この標準血液透析は生命を維持する最低限の治療であり,そのため透析関連合併症が発生し生命予後が不十分となる。日本透析医学会は(「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」2013年)1)にてこれを解決する最もよい方法は,週当たりの透析時間の増加であり,長時間血液透析や頻回血液透析が有用であると述べた。さらに,診療報酬で長時間加算が再開されたことで徐々にではあるが長時間透析が広がり始めているのは確かである。ここでは長時間透析の効果,利点,欠点について解説する。
国連の世界保健機関(WHO)の定義では,65歳以上の人のことを「高齢者」としている。厚生労働省の定義においても「高齢者」は長年65歳以上とし,65~74歳を前期高齢者,75歳以上を後期高齢者としている。また,2017年1月には日本老年学会・日本老年医学会より75歳以上を「高齢者」,65~74歳を「准高齢者」とする提言がなされている1)。
血液浄化療法が必要となる病態は小児も成人とほぼ同様である。しかし,小児は成人に比して体格が小さいことなど,さまざまな留意点を理解し,治療方法の選択に大きな配慮が必要である。小児において血液浄化療法を考慮する際には,何を目的で血液浄化を行うのか,安全に施行できるのかを見極める必要がある。病態的に体外循環血液浄化療法が第一選択の治療であっても,体格的に,また機器的に安全に施行することができないと判断すればその治療方法を断念し,次の治療方法を選択することも必要であり,たとえ急を要する場合でも慎重に検討しなければならない。さらに,小児は単に体格が小さいだけではなく,常に成長,発達段階にあるということが最も大きな特徴である。成長のためには十分な栄養摂取が必要であり,それに対応した年齢ごとの適切な透析処方が求められる。また,小児の場合は透析療法の選択,処方ばかりでなく,患児自身の心理,社会面での発達も考慮する必要があり,患児に大きくかかわる両親や同胞などの家族,特に母親の存在は重要である。この家族内のキーパーソンに対する配慮も非常に重要であり,母親の過保護,心理的不安が患児の成長発達に影響するとされ,適切な親子関係さらには患児をとりまく家族関係をも指導しなければならない。通常,まず腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)で対応可能かどうかを検討し,PDで対応困難な場合や対応不可能な病態であれば,体外循環による血液浄化療法を選択する。本稿では体外循環血液浄化療法を中心に解説する。
急性血液浄化療法とは,何らかの原因により急激に患者体内に病因物質または毒性物質が蓄積することにより患者体液の恒常性が破綻し,生命の維持に影響が生じた場合に,主に体外循環的手法により,血液を通して対象物質を除去し,体液の恒常性と生命予後の改善を目指す治療法を称する。一般に,緊急性を要する重篤な病態に実施され,治療期間が短く約2週間以内である場合が多いのも特徴である。急性血液浄化療法は日進月歩で多様化してきたが,表1に示すように大きくアフェレーシス療法と透析療法とに分類される。アフェレーシスとは,体外循環によって血液中から血漿成分と細胞成分を分離し,分離した血漿成分から病因に関連した液性因子を分離除去し,細胞成分のうち細胞障害性の細胞分画を分離除去することで治療することをいう。一方,腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)とは,腎不全によって体内に蓄積した老廃物(尿毒素)や水分を除去する方法の総称です。本稿では,重症急性腎障害をはじめ,全身性炎症反応症候群,多臓器不全に伴う急性腎障害(acute kidney injury:AKI)における透析療法である持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:CRRT),血液濾過透析について,病態の是正・恒常性の維持のために,どのように行うかを概説する。
透析患者は易感染性であることが知られており,透析の医療環境の特殊性(外的要因)と栄養状態や免疫能低下などの特性(内的要因)によって説明されている。また,血液透析実施時に血液が飛散しやすいといった特殊性も踏まえ,標準予防策に加えて感染経路別の予防策を徹底することなど,透析施設に特有の感染予防策の徹底が重要である。透析患者および透析施設における感染症対策は,透析患者の死亡原因の第2位に感染症が挙がるほど重要である1)。本稿では,透析施設における,感染対策として消毒・除菌や環境整備について述べていく。
透析液供給システムは,透析用水をつくる逆浸透(reverse osmosis:RO)膜や複数のエンドトキシンリテンティブフィルター(ETRF)濾過膜などで仕切られている。透析液の微生物汚染は各区画の装置や配管の壁に由来するバイオフィルムから剝離・出芽したもので,この制御で透析者の炎症反応は改善する(図1)1)。透析液の汚染を管理するなら,オンライン補充液の測定(日本透析医学会,透析液水質基準)だけでは足りない。流路の開放で汚染が生じ,作業者の手や装置の部品が感染源や栄養源となってこれらのバイオフィルムを形成・維持している。ここではISO23500-2019(透析液の品質管理ガイドライン)の微生物制御戦略;① 適切なシステムの設計,日常的な ② 洗浄・消毒,③ 適切な運用,を汚染管理の三原則,「持ち込まない・増やさない・抑え込む」に当てはめ,その効果を主に濾過を含む滅菌工程の細菌捕捉性能を示すときに用いられる対数減少値(LRV)で数値化し,経験則で語られることの多い透析液清浄化に尺度を付けた。99.9%除去:LRV3は “消毒” 相当に,99.9999%除去:LRV6は “滅菌” 相当になるが残念ながら完全には駆逐されない。
スタンダードプリコーション=標準予防策は,米国疾病予防管理センター(CDC)から発表された1996年版の『隔離予防策のためのCDCガイドライン』で確立され,2007年版へと受け継がれている医療における基本的な感染対策で,「あらゆる患者に,なんらかの感染症がある可能性がある」として,感染症の有無にかかわらずすべての患者のケアに際して普遍的に適用する予防策である1,2)。
透析患者は一般に免疫低下状態にあると考えられ,感染症に罹患しやすく,また,罹患した場合重症化しやすい。罹患・重症化しないための予防策として,ワクチン対策は重要である。一般的なワクチンとして,透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン1)に準拠してB型肝炎,肺炎球菌,インフルエンザ,麻疹などの透析患者に対する考え方を列挙し,その後は新型コロナウイルスワクチンについて概説する。
わが国の各透析施設では,「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン」1)に準拠した厳格な感染対策がすでに行われている。それゆえ,透析室内にて同時に大人数での透析治療を行うにもかかわらず,各種感染は抑えられている。わが国では2020年1月に検出された新型コロナウイルスについて,感染対策に加え,国内のワクチン接種の普及・拡大と併せて,透析患者のCOVID-19患者数の増加は抑えられてきたが,2021年12月23日時点では2,676人,死亡者は423人まで増加している2)。透析患者は健常人と比べて,ワクチンによる抗体陽性化率は同程度ではあるが抗体価は有意に低く3),ワクチンの効果を過信することはできないゆえ,感染予防対策は重要である。本稿では,新型コロナウイルス,インフルエンザ,結核について透析室における感染予防対策・治療について各論を述べていく。
2019年12月から流行し始めた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はパンデミックとなり,デルタ株やオミクロン株といった新しい株に変異しながら,いまだに終息する気配はなく,世界ではすでに累積で590万人以上の患者が死亡した(2022年2月のWHO発表)。国内に限っても,2年あまりで約3万人の人が亡くなっている(2022年4月末現在)。COVID-19によって,国際交流はほとんど途絶え,各国とも経済の低迷や活動の自粛に喘いでいるわけだから,COVID-19は人類の歴史に残る大惨事であることは間違いない。しかし,仮にCOVID-19に対する優れたワクチンが早期に開発され,確実に効果を発揮する内服薬が2020年の時点であったとすれば,これほどまで悩ましい問題とはならなかったはずである。
末期腎不全患者の腎代替療法の1つである腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は残存腎機能が重要であることは周知の事実であるが,経年変化により残存腎機能は低下してくる。残存腎機能低下・消失した際には腹膜による溶質除去・除水効率がPD患者の予後を左右する。本稿では,PDを透析膜として活用するうえで理解しておくべき腹膜の解剖,拡散・浸透圧に関連する病態生理について概説する。
1976年に,MoncriefとPopovichが2,000mLの透析液を1日5回腹腔内に貯留することで維持透析療法が可能であることを報告した。1977年にNolphとMoncriefが臨床応用に展開し,翌年Oreopoulosがプラスチックバッグを用いた持続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis:CAPD)を実用化したことで腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)の1つの選択肢となった。1980年にはわが国に導入され,その後,腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は感染を起こしにくくユニバーサルデザインのデバイス,生体適合性に優れた透析液,患者目線での関連機器などが開発された。腎代替療法の選択では,患者の生活リズムを保持し,残存腎機能(residual renal function:RRF)を維持しながら自然な形で維持透析療法を開始できるPDの特徴を伝えていただきたい。
自動腹膜透析(automated peritoneal dialysis:APD)とは自動腹膜透析装置(サイクラーとも呼ばれる)を用い透析液交換を行う透析方法である。サイクラーは腹膜透析液を自動的に加温し,設定した時間に設定した液量を腹腔へ注液・貯液・排液する機械である。2014年の報告1)では,わが国では腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)患者の45.2%が使用している。欧州,米国,カナダ,オーストラリアやニュージーランドにおいても40~60%の使用率であり2),世界的に使用率は増加している。主には夜間就寝中に使用〔夜間腹膜透析(nightly peritoneal dialysis:NPD)〕されることが多いが,寝たきりの患者などでは日中に使用することもある。
末期腎不全治療における腎代替療法(renal replacement therapy:RRT)には,血液透析(hemodialysis:HD),腹膜透析(peritoneal dialysis:PD),そして腎移植がある。2019年末の時点で慢性透析患者数は344,640人に上り,年々増加傾向にある。そのうちPD患者は2.9%の9,920人であり,PD+HD併用療法を行っている患者がPD全体の19.2%(1,903人)を占める1)。
わが国は世界にまれにみる超高齢化社会を迎え,透析療法にも高齢化の波が押し寄せている。循環動態に及ぼす影響が少ないなど腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)のもつ長所は,高齢の腎不全患者には受け入れやすいと思われるが,PDの普及は実際には進んでいない。一方,高齢者の在宅での生き方をサポートするシステムとして地域包括という概念が提唱され,介護制度とともに,広がっており,自分で十分にPDをできない高齢者をサポートする “アシストPD” も多職種連携の名のもと,少しずつ広がりをみせている。本稿では,高齢者PDのもつ問題点とこれからの展望を明らかにしたい。
小児末期腎不全患者に対する腎代替療法の第一選択は腎移植が推奨されている1)。腎移植は生命予後改善効果に加え,腎不全に伴う成長・発達の改善効果,健常児と同等の社会生活が送れることなどメリットが多い。さらに,移植腎生着の観点から先行的腎移植も推奨されており2),小児末期腎不全患者に腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)を行う機会が減っている。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)液には浸透圧物質と電解質,アルカリ化剤が含まれる。これらの組成によって,PD液はいくつかの選択肢があり(表)1),患者の状況によって使い分ける必要がある。
国際腹膜透析医学会(ISPD)は,2006年に腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)に関するガイドラインを発行し,透析のadequacy(適正)を達成するには,小分子溶質除去が必要であることが示唆されていた。しかし,PDモダリティ(様式や治療手段とでも訳されるであろう)を語るうえで,現状における透析患者の健康指標は特定の毒素の除去だけでなく,多種多様な因子によることが一般に受け入れられている。2020年にISPDより診療勧告ガイドラインが発行され,透析治療は目標指向型の必要性を提案している。透析の治療目標を設定するために,PD患者とケアチームの話し合い(shared decision making:共同意思決定)が含まれ,その目的は,PD患者が自らの人生の目標を達成できるようにすることや,透析チームが質の高い透析ケアを提供できるようにすることにあるとされている。つまり,PDケアの焦点が「適正透析」の達成から「質の高い目標指向型の透析治療」の提供となり,患者の人生目標(life goals)を達成できるために個別化された質の高い透析ケアを実践するよう求められている。本稿では,2019年日本透析医学会腹膜透析ガイドラインと2020年ISPD診療勧告ガイドラインに沿って,PDモダリティについて解説する。
アシストPDとは,自立して腹膜透析(peritonel dialysis:PD)を行うことが難しい患者が,看護師や家族などのサポートにより,(主に)在宅でのPDを継続するものである。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)成功の鍵はカテーテル挿入術にかかっている1)。挿入術の技術と手術合併症の知識も然りである1)。日本は,PDカテーテル挿入術の47.6%を腎臓内科医が実施する世界有数のインターベンショナルネフロロジー先進国といえる2)。手術方法として開腹,経皮,腹腔鏡下1)があるが,本稿ではわが国の腎臓内科医によるカテーテル挿入術のなかで一般的と考えられる直視下小開腹術によるPDカテーテル挿入術について述べる3)。開腹術の利点は腹腔鏡よりも簡便で,切開直下の腹壁癒着を観察しやすく,腹膜や腹直筋鞘の縫合によりリークを予防しやすい点である1)。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)療法継続に当たり,PDカテーテル関連感染症はPD療法脱落原因の多くの割合を占めている1)。PDカテーテル関連感染症の原因は,細菌の出口部から皮下への侵入と,バイオフィルムの形成にあるとの報告2)がなされており,感染予防の見地から考案されたPDカテーテルの挿入方法として段階的PD導入法,通称SMAP(Stepwise initiation of PD using Moncrief and Popovich technique)法がある。SMAP法は1991年にMoncriefとPopovichが報告した,PDカテーテルの留置時に出口部をつくらず,腹腔にPDカテーテル挿入のうえ,皮下に埋没させて,数週間後にカテーテルの出口部を作製してPDを開始する方法であり3),皮下へのカテーテル埋没を行うことで無菌的に皮下トンネルが形成されるため,カテーテル感染症の予防が期待できるとされた2)。わが国では,1999年に窪田らによって紹介され4),現在ではPD導入患者の約25%でSMAP法が用いられていると考えられている5)。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)カテーテル関連感染症(出口部感染・トンネル感染)は,カテーテルロスにつながるPD腹膜炎の主要原因であり,PDカテーテル関連感染症の予防や治療の主な目的は腹膜炎を予防することである。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)において,腹膜機能を的確に評価し理解することは,適正な腹膜透析の処方(貯留時間,交換回数,PD液濃度・量の決定など)を行ううえで非常に重要である。
被囊性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)とは,びまん性に肥厚した腹膜の広範な癒着や被膜により腸閉塞症状を継続的,断続的,または反復的に呈する症候群1)である。腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)のまれな合併症だが,死亡率が高く,畏怖されてきた。low-GDP透析液の開発以降,EPSの発症率,死亡率は著しく低下したが,いまだにPD普及の妨げになっている。本稿においてはEPSの発症,病理,予防と治療のこれまでと現状について概説する。
2019年の報告では,腎移植の総件数は2,057件で,その内訳は生体腎移植1,827件,献腎移植230件となっており,初めて2,000件を超えた1)。この増加は,主に生体腎移植の増加によるものである。
血液透析患者の栄養管理はここ十年ほどでまったく様相が変わったといっても過言ではない。患者の高齢化に伴う低栄養が日常的な問題として表面化し,その危険性や対策が大きく取り上げられている。すなわち「いかに制限するか」から「いかに必要な栄養を摂取するか」に変容してきたと考えられる。いまだに制限を課さなければいけない患者もおり,そうした患者のほうが日常臨床では目立ってしまうが,むしろいわゆる「手のかからない患者」に潜む低栄養をどのように見つけ出して対応するかが問われている。
腹膜透析患者の導入は依然と少なく透析導入患者の3%に満たない。食事面では,血液透析療法(hemodialysis:HD)に比して腹膜透析療法(peritoneal dialysis:PD)のほうが緩やかであるとご指導されている医療者の方が多いのではないでしょうか。果たして,そうでしょうか。医療者はHD患者とは1日おきに対面して常に細やかな変化に対応しているのに対し,PD患者には,月に1~2回程度の対面での診療となっている。この差は,大きく気づかないことも多々あるのではないかと感じている。本稿では,栄養を中心としたPD患者のケアについて述べる。
腎移植は末期腎不全患者のQOLの向上だけでなく,生命予後も改善する医療である。腎移植によって,心身ともに健やかに過ごす時間が増えるだけでなく,透析療法のときには諦めていたことができるようになる場合もある。腎移植を受けることによって,末期腎不全からの脱却,すなわち厳しい食事制限や水分制限から解放されることを期待する声を耳にする。しかし,腎移植とは新しい腎臓とともに新たな慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)生活が始まるということであり,規則正しくバランスの取れた食事を継続することは移植腎機能の保持,生命予後の改善に必要不可欠である。また腎臓を提供したドナーが健康を維持するには健康的な食生活が必要不可欠である。本稿では腎移植と栄養療法について,腎移植前,周術期,維持期に分けて言及する。
はじめに:小児透析患者における栄養管理の目標
小児は成人と異なり成長過程にあるため,小児透析患者の栄養管理における最も重要なアウトカムは,良好な栄養状態を保ち,適切な成長と発達を獲得することである1)。
近年,透析技術の進歩により生活の質の向上が重視されてきている。しかし,透析患者の妊娠は流産・早産になる可能性が高く母体や胎児へのリスクが高いため,妊娠可能な透析患者にとって,妊娠出産は大きな課題の1つであることに変わりはない。
臓器移植後の妊娠出産において腎移植は最も長い歴史をもち,1963年に腎移植後の世界初の妊娠出産例が米国から報告されている。日本においては1997年に初の症例が報告され,その後多くの腎移植患者が妊娠出産を経験している。日本は諸外国と比較し腎移植件数が少ないものの徐々に増加傾向にあり,今後妊娠・出産を希望する腎移植患者の増加が見込まれる。本稿では腎移植患者の妊娠管理について述べる。
透析症例の周術期管理は,一般症例を比較すると,既存の腎不全の存在のみならず,合併症ならびに併存症が多く,また高齢化による生命予備能力の低さから,不安定な循環動態による術中トラブル,また免疫能の低下による易感染性,凝固・出血傾向,組織の脆弱性,そして創傷治癒の遅延などの術後トラブルと,種々の問題が頻発することも多い。さらにトラブル化した場合,感染症の併発が契機となり,重症化や遷延化をきたし,食事摂取不良やリハビリが思わしくないことが多く,ときには寝たきりになり,結果,退院が困難な症例を認めることもある。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)施行中の患者が手術や侵襲的処置を受ける際には,一時的なPDの休止や周術期管理においていくつか注意すべき点がある。本稿ではPD患者の周術期管理について解説する。
腎移植は末期腎不全患者のQOLだけでなく,生命予後を改善する可能性のある治療であるといわれている1)。わが国の腎移植手術件数は2019年には2,000件を超え2),腎代替療法の一般的な選択肢となってきている。本稿では腎移植における大きな流れを理解するのに必要な注意点やポイントを紹介していく。
Ⅰ.概念および疫学
心不全とは,構造的,機能的な駆出機能(収縮機能)の低下または心室の拡張機能の低下の病態であり,複合的な臨床症候群である。2021年の日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドラインでは,心不全を次のように定義した。「心臓に器質的および/あるいは機能的障害が生じ,心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現して,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」1)。透析患者では,非透析例と比べると心不全の原因となる構造的・機能的な心疾患を高率に合併し,死因の第1位は心不全であり,全体のおよそ25%を占めている2)。腎機能の低下が心血管疾患の発症,冠動脈疾患,心筋梗塞,心房細動のリスクを高めると報告されており,体液調整障害および腎機能低下に関連する血管内皮障害が心疾患発症の重要な因子である。
慢性腎臓病患者は糖尿病,高血圧などの冠危険因子を複数もつことが多い。また,慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)が冠動脈の石灰化に関与する。これらの背景から,透析患者は虚血性心疾患の罹患率が高いため,予後改善の観点から,虚血性心疾患の予防および早期発見・治療が重要である。
透析患者では,種類を問わず不整脈の合併頻度が健常人に比し高率である。本来であれば,すべての不整脈への対応について記載すべきであるが,限られた誌面の都合上,血液透析医療の現場で問題となる2つの不整脈に限って記載することとする。1つは心房細動である。透析中の血圧低下により安全な透析の継続が困難となることや,血栓塞栓症の予防法をいかに行うかという問題を含んでいる。もう1つは,致死性不整脈による心臓突然死である。本稿では,特にこの2つに焦点を当てて概説することとするが,腎臓内科医,透析医が知り得るべきことに特化して概説する。
高血圧は,脳心血管病死亡の最も強いリスク因子である。EPOCH-JAPAN研究において,40歳以上65歳未満の中壮年者では120/80mmHg未満の群と比較して,それを超える血圧群では有意に脳心血管病死亡が増えることが示されている1)。同年代における集団寄与危険割合(集団すべてが120/80mmHg未満であった場合の予防できたと推定される死亡者の割合)は60.3%であり,脳心血管病死亡の6割が血圧によって決まるという驚くべきデータも示されている。このように一般集団においては,高血圧は脳心血管病と深く関連していることが証明されている。また,高血圧を厳格に降圧することは,この脳心血管病発症を抑制し,患者の予後を改善させることもメタ解析で示されており,高血圧を適切に管理することの重要性が明らかとなっている。
透析関連低血圧は透析患者に高頻度に認められ,透析低血圧(透析中の急激な血圧低下,intradialytic hypotension:IDH),起立性低血圧,常時低血圧に分けられる。特に,臨床の現場で遭遇することが多いIDHは8~40%の頻度とされ,透析関連低血圧は安全かつ安定した透析の実施に支障をきたし,患者のQOLを下げるだけではなく予後不良因子であることから,その予防や対策が求められている1,2)。
透析不均衡症候群(dialysis disequilibrium syndrome:DDS)は,血液透析で物質除去を行う際に体内に生じる濃度勾配により水分移動が起こり,脳浮腫・頭蓋内圧亢進が生じ多彩な神経症状を呈する疾患である1,2)。末期腎不全症例に新規血液透析を導入した際の透析中あるいは透析後に生じやすい。まれながら急性腎不全症例や持続緩徐式血液濾過透析施行時などでの発症報告もある一方で,腹膜透析時の発症報告はない2)。
近年,脳血管障害に対する診断・予防・治療の進歩はめざましく,発症率や死亡率は低下傾向にある。透析患者でも死因に占める脳血管障害の割合は低下傾向にあるが,予防や治療法において非透析患者と異なる選択が推奨される場合が少なくない。
Ⅰ.うつ病とは
WHOはうつ病について以下のように説明している1)。
「① うつ病という病気では,悲しい気持ちがずっと続いたり,普段は楽しめることへの興味がなくなったりして,普段どおりの生活が送れない状態が,2週間以上続きます
② それに加えて,うつ病には,一般的に次のような症状がみられます。元気が出ない,食欲不振あるいは過食,不眠あるいは過眠,漠然とした不安,集中力と注意力の低下,決断ができなくなる,落ち着きがなくなる,自己評価が低くなり自信がなくなる,罪の意識を感じる,将来に対して希望がもてなくなる,自傷や自殺について考えてしまう」
不眠・睡眠障害は末期腎不全(end-stage kidney disease:ESKD)患者に多くみられる合併症である。本稿では,まず睡眠時間と末期腎不全発症リスクに関する知見を概説する。次に,末期腎不全患者における不眠・睡眠障害について,その疫学および特異的治療について解説する。
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)の分類としては,呼吸が完全に停止する無呼吸と,換気量が低下する低呼吸に分けられる。無呼吸・低呼吸ともに呼吸努力の認められる閉塞性(混合性を含む)と呼吸努力の認められない中枢性に分けられている。
末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)は,動脈硬化性疾患として冠動脈疾患,脳血管障害に次いで3番目に頻度が高く,PAD罹患患者数は世界で236万人以上と推計されている1)。PADは単独あるいは他の動脈硬化性疾患と複合して(polyvascular disease)2),患者の生命予後を悪化させる。
慢性腎臓病(chronic kedney disease:CKD)の進行した状態(特に透析期)では,カルシウム(Ca),リン,副甲状腺ホルモンなどのミネラルに関する生化学的検査値の異常,骨代謝異常,さらには軟部組織の石灰化(特に血管石灰化)が併存することが多く,これらが緊密に連関することが明らかになってきた。そこで,これらの3要素からなるシンドロームについて,2006年に新たな疾患概念がKidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)により提唱され1,2),慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder:CKD-MBD)と呼ばれるようになった。腎性骨症は,病理所見にもとづくCKDに伴う骨病変のみの概念であるのに対し,CKD-MBDは全身疾患であるという点に大きな違いがある。
透析患者は,保存期腎不全のときからさまざまな神経障害を発症している可能性が高く透析患者においても末梢神経障害を疑うような症状はよく聞くものでもある。透析療法を開始した患者の少なくとも60%が末梢神経障害を合併していたとの報告もあり1),症状による睡眠不足・QOLの低下,脱力感や運動の減少によるフレイルの進行も危惧されるため,患者の症状をよく聞き少しでも診断や治療に結びつけたい。本稿では腎不全による末梢神経障害について,その鑑別や代表的な疾患などについて述べることとする。
Ⅰ.味覚障害の概要
1.味覚障害の分類と原因
味覚異常は,大きく量的味覚障害と質的味覚障害に分けられる。量的味覚障害には味覚消失(味がまったくわからない),味覚低下(味が薄く感じる),解離性味覚障害(ある特定の味だけがわからない)がある。質的味覚障害には自発性異常味覚(口腔内に何もないのに特定の味がする),異味症(本来の味と異なって感じる),悪味症(嫌に感じる),錯味症(特定の味を誤って感じる),味覚過敏(特定の味や全体の味を強く感じる)がある。味覚障害の原因は多様であり,頻度は薬物性味覚障害が最も多く,特発性,亜鉛欠乏性,心因性味覚障害が続く(表1)1)。
高齢者に特徴的なサルコペニア・フレイルは,保存期の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)から高率に合併する。さらに,透析導入を契機として急速に進展し,日常生活動作(activities of daily living:ADL)や生活の質(quality of life:QOL),ひいては生命予後に悪影響する。そのため,高齢CKD患者に安寧で自立した透析ライフを送ってもらうためには,保存期からの継続的なサルコペニア・フレイル対策が必要である。
排便は人間にとって重要な心理的意義や社会的意義をもつ日常生活行動である。透析患者では下痢や便秘などの消化器症状を訴える頻度は高い。
日本透析医学会の統計調査によると,消化管出血による死亡は全透析患者の死因の2~3%を占めている。エリスロポエチン(erythropoietin:EPO)をはじめとする赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)治療により,平均Hb値は10.8g/dLまで上昇したものの消化管出血による死亡率が,現状以上に改善することを期待するのは難しい。その大きな理由として,① 低栄養状態による組織修復力の低下,② 動脈硬化による消化管の虚血性障害,③ 併発する心血管障害に対する抗血小板薬,抗凝固薬の使用,④ 骨・関節・骨格筋障害に対する鎮痛薬の使用,⑤ リン吸着薬,イオン交換樹脂による特に下部消化管に対する負荷,などにより本来出血を伴わない,あるいは伴っても少量で止血し修復されるような病変であっても,多量出血につながる可能性が大きいためである。さらに定期的体外循環に使用される抗凝固薬が出血を助長するため,毎透析時の問診により早期に診断することが重要となる。
透析患者の多くは貧血を伴うことがよく知られている。その主な原因は腎からのエリスロポエチン(erythropoietin:EPO)の相対的欠乏であるが,最近の報告では,さまざまな原因により透析患者は貧血に至っている可能性が指摘されている。これら透析患者の貧血管理に関しては,目標とするHb値は明らかになりつつあるものの,Hb値の変動,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)低反応,鉄利用障害などまだまだ残された課題も多い。本稿では,① 透析患者における貧血の原因とその病態,② 透析患者における貧血管理の実際,③ 透析患者の貧血管理における課題について述べたい。
鉄は造血に必須の金属元素である。鉄欠乏は慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者の貧血の発症に影響し,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)の造血反応性の低下(ESA低反応性)と機能的鉄欠乏は密接に関係している。機能的鉄欠乏を合併した貧血の病態には内因性エリスロポエチン(EPO)誘導を促すHIF-PH(hypoxia-inducible factor:HIF-プロリン水酸化酵素)阻害薬が有効である。これはHIFの持続的な発現維持により,鉄代謝調節因子の発現誘導が亢進することで得られる効果である。鉄利用率の低下を伴う貧血では造血と鉄代謝を連動させた治療が必要となる。
末期腎不全にて慢性透析療法を受けている患者数は2020年末の統計で347,671人である。透析患者の合併症として,感染症は死亡原因の21.5%を占め,心不全に続いて死亡原因の第2位である1)。透析患者は好中球,単球,マクロファージなどの食細胞機能低下,Tリンパ球やBリンパ球などの異常により免疫不全の状態となり,食事制限による低栄養状態,貧血,代謝性アシドーシス,原疾患としての糖尿病,免疫抑制薬の使用,皮膚バリアの障害,透析膜による白血球や補体の機能低下などの要因により,感染をきたし,重症化しやすい2)。透析患者における感染症は罹患率も高く,死亡率も高いため,早期の診断と治療に結びつけられるように,細菌感染症および真菌感染症にわけ,概説したい。
わが国における慢性透析患者は2020年末に347,671人を数えるまでに至った。性別の内訳は男性222,510人,女性114,249人で,男性が2/3を占めている。平均年齢は69.40歳であった。平均年齢は年々増加傾向を示しており,最も割合が高い年齢層は男女とも70~74歳である。2012年から65歳未満の患者数は減少が始まっており,2017年からは70歳未満の患者数が減少するようになった。いい換えると,現在,わが国では70歳以上の患者数の増加によって全体の慢性透析患者数が増加している。2020年末時点の慢性透析患者の原疾患で最も多いのは糖尿病性腎症の39.5%であった。次いで多いのが,慢性糸球体腎炎の25.3%,腎硬化症の12.1%であった1)。以上のことから,高齢男性に多い下部尿路感染に関する理解と,糖尿病患者の易感染性および重症化しやすい点への配慮の2つが透析患者の尿路感染症を扱ううえでのポイントとなるといえよう。
わが国における透析患者は,日本透析医学会統計調査によると2020年12月末1)で347,671人と昨年までに引き続き増加傾向である。透析患者における死因は心不全(22.4%)が最も多く,感染症(21.5%)が次に続き,悪性腫瘍が占める割合は9.0%となっており,厚生労働省によるわが国の死因2)の1位が悪性腫瘍であることに大きく異なる(表)1,2)。また,一般人口における悪性腫瘍の発症が増加傾向であるが,透析患者では1987年の5.8%を底に少しずつ増加していたが,2004年以降は9.0%前後の横ばいで経過している。悪性腫瘍での死亡割合は,男性10.1%,女性6.8%と男性の割合が高い結果であった。
多囊胞化萎縮腎(acquired cystic disease of kidney:ACDK)についてはIshikawaが取りまとめた総説が有用である1)。
糖尿病性腎症は,わが国の新規透析導入および全透析患者のなかで最も多い原疾患であり,2020年末には全体の39.5%に当たる133,103人まで増加している(日本透析医学会,わが国の慢性透析療法の現況。2020年12月31日現在)。糖尿病透析患者では,血糖管理をはじめ,起立性低血圧への対応,増殖網膜症合併患者における凝固薬の選択など,非糖尿病患者と比較し対処すべき多くの問題が存在する。本稿では,糖尿病透析患者における問題点・注意点について概説する。
腎代替療法を必要とする慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者では,心血管疾患で死亡するリスクが高く,その危険因子として脂質異常症の意義について議論されてきた。本稿では,CKD,特に血液透析患者で認められる脂質異常症として,リポ蛋白で語れる脂質異常症と,リポ蛋白では語れない脂質異常症について筆者の考え方を交えて概説する。
性機能障害(sexual dysfunction:SD)とは性交渉による満足感を得られない,勃起障害(erectile dysfunction:ED),射精障害,性的興奮やオーガズムを得られないなどさまざまな症状を指す。慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)ではSDを合併する割合が多く,末期腎不全である男性透析患者の75%がEDを,また女性患者の30~80%が性機能に関連した症状を呈するとの報告がある1)。わが国での2020年慢性透析患者約34万人の男女比は約2:1であり2),本稿では透析患者とEDを中心にその原因や対処法などについて解説する。
透析シャントの狭窄・閉塞など,シャントにまつわるトラブルはバスキュラーアクセストラブルと総称され,適切なタイミングで治療介入を行わなければ透析の継続が困難となる可能性がある合併症であり,透析に携わる医師はその対策に関し習熟しておく必要がある。閉塞の場合はもちろん透析が困難となり,緊急治療を要するが,狭窄に関しても,脱血不良,穿刺困難,止血不良,再循環率上昇などのさまざまなトラブルを引き起こし,治療介入を要することが少なくない。
透析患者にとってバスキュラーアクセス(vascular access:VA)は必要不可欠である。しかしながらVAには,狭窄・閉塞・瘤形成・静脈高血圧症・高血流シャント・感染などの合併症がみられる。VAを維持するためにはこれらの合併症に的確に対処する必要がある。本稿では,VAの感染について述べる。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)において,PDカテーテル閉塞は,PD患者のQOLを大きく損ない,PDの継続を左右する重要な合併症で,完全閉塞の場合は緊急での対応が必要となる。PDカテーテル閉塞には,完全閉塞,不完全閉塞や注液は可能であるが排液が困難な場合などがある。本稿では,これらに伴う注排液不良の原因とその対処法について概説する。
腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)腹膜炎は,腹膜機能を障害し,除水能低下,透析継続に影響を与えると同時に,患者の死因に直接的に関与する重篤な合併症の1つである1)。近年,デバイスの改良に伴い検出される起因菌にも変化がみられる。また,国内,外のガイドラインが整備されたことで治療も含め腹膜炎の管理に関して一定の見解が得られている。
成人と同様に,小児透析患者においても心血管疾患(cardiovascular disease:CVD),感染症,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-Mineral and Bone Disorder:CKD-MBD),腎性貧血などの合併症が問題となる。国内外の報告では,小児透析患者の主な死因はCVD,感染症,悪性腫瘍であり1~4),CVDにはうっ血性心不全,高血圧,CKD-MBDに伴う血管石灰化が関与する。また,小児特有の事項として,成長障害が大きな問題となる。本稿では小児の透析患者における合併症について概説する。
腎移植は優れた腎代替療法であるが,ドナーの存在なしには成り立たない医療である。全世界的にドナー不足が深刻であるが,わが国においては献腎ドナーが極端に少なく,生体ドナーが約90%を占めている。本稿では生体腎と献腎ドナーの倫理的,医学的条件について述べる。
生体腎移植ドナーとしての医学的な適格性について検討を要する事項として,① 両腎機能が正常であること,② 摘出手術に耐容性があること,③ 伝播する疾患として感染症と悪性疾患がないことがある。生体腎ドナー保護のため「生体腎ドナーのケアに関する国際基準」として作成された「アムステルダム会議レポート1)」に記載された検査項目を表1)に示す。わが国での検査項目として全項目を必要とはしないが,ドナー保護の観点から非常に示唆に富むものとして参照してほしい。「ドナーの条件(倫理面,腎機能,年齢,合併症)」(p.598)に検査結果によるドナーの条件が記載されているので,本稿では具体的な「術前検査」項目を記載する。
献腎移植ドナーとしての医学的な適格性について検討を要する事項として,① 腎機能が正常であること,② 伝播する疾患として感染症と悪性疾患がないこと,がある。「ドナーの条件(倫理面,腎機能,年齢,合併症)」(p.598)に検査結果によるドナーの条件は記載されているので,本稿では具体的な検査項目を記載する。
生体ドナー腎採取術は,健康人に対してメスを加える行為である。最近,低侵襲な鏡視下手術の普及に伴い,生体腎移植の症例数は増加しているが,安全性を最優先に考慮して実施しなければならない。本稿では,生体腎採取術の現状と代表的な術式をいくつか紹介する。
2020年1月のダイヤモンド・プリンセス号に端を発した新型コロナウイルスCOVID-19感染,いわゆるコロナ禍は未曽有の被害をもたらした。わが国の死体臓器提供の現状を顧みると,2019年は脳死下提供97件,心停止下提供28件,総数121件の過去最高を記録したが,2020年は総数77件に減少した(図1)1)。救急救命センターの多くは,コロナ重症患者の診療に当たる必要があったからであろう。
2010年の改正臓器移植法施行以降,脳死ドナー数は徐々にではあるが堅調に増加した一方,心停止ドナー数は年間30件前後を維持していた。しかしながら,2020年はCOVID-19感染症の流行により,心停止ドナー数は9件と激減している1)。心停止ドナーからの腎採取は,長時間の待機を要する場合が多く,心停止後は阻血時間を考慮しながらの腎採取手技を要するため,脳死下腎採取術と比べ難易度が高い。腎採取術の習得にはもちろん実地での経験が最も大切であるが,心停止後腎採取術実施数が減少している現状では座学による基礎的な知識の習得が,少しでも実地での経験不足を補うと考えられる。
2010年の改正臓器移植法全面施行後もわが国の献腎提供は依然として少なく,生体腎移植に大きく依存している状態が続いている。献腎移植はもちろん,生体腎移植においても高齢ドナーや糖尿病・高血圧などを有するマージナルドナーが増加している。腎移植ドナーの医学的な適応は日本移植学会が作成したガイドライン(表)1)が,倫理的な条件については同学会の倫理規定が移植医療の現場で広く用いられている。医学的な適応基準は原則として除外項目で成り立っているため,生活習慣病,感染症,悪性腫瘍のスクリーニング方法や異常がみつかった場合の対応と適応決定のほとんどは移植施設の判断に委ねられている。これらの詳細は他稿に解説を譲り,本稿においては,医学的・倫理的に適応と判断された腎移植ドナー候補に内容を絞り,入院待機中の生体腎移植ドナー候補における注意点や,献腎・生体腎移植ドナー候補の腎提供手術直前に行う検査や処置,および生体腎移植ドナーの手術直後の管理について述べる。
免疫抑制療法の新規導入や改良,移植後管理技術改善による移植成績向上,ABO式血液型不適合移植および抗ドナー特異的抗体(donor specific antibody:DSA)陽性症例移植,夫婦間移植や高齢者移植,先行的腎移植(preemptive kidney transplantation:PEKT)の普及などにより,腎移植全体の症例数は年々増加している1,2)。その反面で,免疫学的高感作症例のみならず,高齢患者や長期透析歴を有する患者2),心血管疾患や悪性腫瘍などの合併症や既往をもつ高リスク症例を取り扱う機会が近年では増えてきており,適切な腎移植レシピエントの術前検査および適応評価が求められる3~6)。
膵臓移植は1966年に世界で初めて実施され1),これまでに50,000例以上が施行されている。日本でも2020年末までに465例(脳死・心停止膵移植:438例,生体膵移植:27例)の膵臓移植が行われている。脳死・心停止膵臓移植438例のうち,368例(84%)は膵腎同時移植であり,51例(12%)が腎移植後膵移植,19例(4%)が膵単独移植である(図1)。日本では海外に比較し,高齢,脳血管障害が死因,心停止エピソードがあるなど,ドナー条件が悪いにもかかわらず,移植後の5年患者生存率は95%,5年移植膵生着率はや80%と良好である。膵臓移植後の合併症としては,移植膵の静脈血栓症が重要で6~7%が移植膵廃絶に至っている。また,移植膵5年生着率をみると,膵腎同時移植では82.8%と良好であるが,腎移植後膵臓移植で53.2%,膵単独移植で33.9%と不良であった2)。
腎移植レシピエントは,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者であり,手術に際して動脈硬化や心機能障害,糖尿病などの合併症をもっていることも少なくない。よって腎移植手術は,ドナーおよびレシピエントの術前評価により症例に応じた腎移植を行うことが重要である。腎移植術は主に,① 移植床の作製,② バックテーブル(移植腎灌流・血管形成),③ 腸骨動静脈への血管吻合,④ 移植尿管膀胱新吻合の4つの手順で行う。ドナーおよびレシピエントともに良好な移植条件であれば手術的な困難は少ないが,時にドナー腎に複数腎動脈が存在し,レシピエント移植床の動脈硬化が著しい場合などの腎移植では,術前より移植時にどのように血管形成し吻合するかを綿密にシミュレーションすることによって術中術後合併症の発生を抑えることにつながる。また,尿管膀胱新吻合術は,膀胱外アプローチによるLich-Gregoir法で行っている施設が多く,本稿ではこれら術式について概説する。
膵臓移植は1型糖尿病に対する根治療法として1966年にミネソタ大学で第1例目が実施された1)。当初は,他の臓器移植に比較して,グラフト静脈血栓症,膵液瘻,イレウスなどの手術手技による膵グラフト廃絶(technical failure)の頻度が高く,成績が不良であった。しかし,その後,手技の改善,免疫抑制薬の進歩に伴い,現在は腎,肝と同等の成績が得られている。日本でも,2000年4月~2020年末までに,438例の脳死・心停止膵移植が実施されているが,うち368例(84%)は膵腎同時移植である。日本では海外に比べて高齢,脳血管障害が死因,心肺蘇生例を有する,循環動態が不安定なドナーが多く,いわゆるマージナルドナーが70%を占めているにもかかわらず,5年患者生存率93%,膵グラフト5年生着率76.5%と海外に遜色ない良好な成績を示している2)。
腎移植の成否には,移植手術とともにその周術期管理が,その後の移植腎予後のみならず,患者の生命予後など長期的にも影響を及ぼし得るので重要である。腎移植における周術期管理は,免疫抑制療法下での管理となるため,拒絶反応および感染症に対しての集学的な知識や細心の加療が要求される点で,通常の外科手術の周術期管理とは異なる。すなわち,通常の外科手術の周術期管理に加えて,腎移植独特の管理が必要になるといえる。近年は,移植前に免疫学的なリスクを評価し,強力な免疫抑制療法に加え,脱感作療法を行うことで急性拒絶反応の発生率も大幅に減少してきている。感染症はスクリーニングと予防を行い対応する。本稿では腎移植周術期における管理を中心に概説する。
膵臓移植は当初は,他の臓器移植に比較して,グラフト静脈血栓症,膵液瘻,イレウスなどの手術手技による膵グラフト廃絶(technical failure)の頻度が高く,成績が不良であった1,2)。その後,手術手技の改善に加え,免疫抑制法を含む周術期管理の進歩に伴い,その成績は向上しているが,今なお膵臓移植後にはグラフト静脈血栓症,膵グラフト十二指腸穿孔,後出血,膵液瘻,イレウスなどの多くの手術合併症がみられる。
腎移植後レシピエントは移植後慢性腎臓病(chronic kidney disease-transplant:CKD-T)患者であり,多くの生活習慣病を合併している。また,服用するステロイド薬や免疫抑制薬により生活習慣病が悪化する危険に晒されている。CKD-T患者の生活習慣病は介入次第では適切に管理でき,生活習慣病に起因する心血管系疾患の発症を抑制できる。近年各種生活習慣病に対する新規薬剤が登場し,これら新規薬剤のCKD-T患者での有用性も報告されている。